JP2003090252A - エンジンの空燃比制御装置 - Google Patents

エンジンの空燃比制御装置

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JP2003090252A
JP2003090252A JP2002110508A JP2002110508A JP2003090252A JP 2003090252 A JP2003090252 A JP 2003090252A JP 2002110508 A JP2002110508 A JP 2002110508A JP 2002110508 A JP2002110508 A JP 2002110508A JP 2003090252 A JP2003090252 A JP 2003090252A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 スライディングモード制御を用いた空燃比の
フィードバック制御において無駄時間を有するプラント
を制御対象としてフィードバックゲインを大きくとって
も振動的にならないようにする。 【解決手段】 排気の空燃比を検出する空燃比検出手段
(16)と、燃料供給により定まる空燃比が前記空燃比
検出手段により検出されるまでの無駄時間を、スミス法
に外乱補償器を加えることにより補償する無駄時間補償
手段(35)と、この無駄時間補償手段により無駄時間
の補償された空燃比が目標空燃比と一致するようにスラ
イディングモード制御を用いた空燃比のフィードバック
制御を燃料供給量の増減で行う空燃比フィードバック制
御手段(22)とを備える。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はエンジンの空燃比制
御装置、特にスライディングモード制御を空燃比のフィ
ードバック制御に応用するものに関する。
【0002】
【従来の技術】エンジンの排気通路に設けた空燃比セン
サにより検出される検出空燃比が目標空燃比と一致する
ように空燃比のフィードバック制御を行う場合、古典制
御のうち代表的なPID制御が広く用いられている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】ところで、上記の古典
制御であるPID制御ではエンジンコントローラの入力
に実際に観測される値を用いるため制御応答性及びロバ
スト性に限界があることから、最近になって現代制御の
一手法であるスライディングモード制御をフィードバッ
ク制御に用いる方法が脚光を浴びている。
【0004】これを簡単に説明すると、これは図5に示
したようにシステム(系)の誤差の状態量を非線形入力
を与えてまず切換関数上に落ち着かせ、その後に線形入
力により切換関数上を滑らせながら(スライディング状
態)位相平面の原点へと収束させようとするものであ
る。誤差の状態量が原点に収束したとき状態変数が目標
値に収束する。スライディングモード制御の特徴として
誤差の状態量が切換関数上にのってしまえばPID制御
を用いる場合よりもロバスト性が非常にあることが知ら
れている。
【0005】しかしながら、スライディングモード制御
についての公知文献(例えば野波健蔵他著『スライディ
ングモード制御』コロナ社発行参照)をみても理論的な
説明が主であり、空燃比のフィードバック制御に適用し
た具体例を記載してはいない。
【0006】従ってスライディングモード制御を空燃比
フィードバック制御に適用できれば、PID制御を用い
る場合よりもロバスト性を向上できることになる。
【0007】そこで本願の発明者はこの文献を参考にし
て空燃比フィードバック制御への適用を試みたわけであ
るが、この場合に本願の発明者は先にエンジンの排気系
及び前記空燃比センサの動特性を離散系2次の伝達関数
で記述できることを提案している(特開2000−29
1484号公報参照)。
【0008】そこで本発明はこの離散系2次の伝達関数
に基づいて離散系2次の状態方程式を作成し、この離散
系2次の状態方程式に基づいてスライディングモード制
御を行い空燃比操作量を演算することにより、スライデ
ィングモード制御を空燃比フィードバック制御に適用す
ることを可能としてPID制御を用いる場合よりも応答
性とロバスト性をともに向上することを目的とする。
【0009】なお、スライディングモード制御を空燃比
フィードバック制御に適用した先行技術として特開平8
−232713号公報がある。この先行技術では制御対
象となるプラント(エンジン)を連続系の物理モデルで
表し、その連続系の物理モデルから出発してより離散化
した状態方程式を求めている。これはいわば物理モデル
に従って最初は連続系の方程式を立て、その連続系の方
程式を離散系の方程式へと変更するものであり、最初か
ら離散系で考えている本願発明とは技術的思想が異なっ
ている。このため、この先行技術のように連続系の物理
モデルより離散化した状態方程式を用いるのでは、物理
モデルの精度によってはプラントを正確にモデル化する
のが難しい。特にエンジンのような非線形性の強いもの
に対しては運転の各領域において正確に物理モデルを記
述することは非常に困難である。具体的には先行技術で
はプラントの遅れを連続系の二次遅れで近似するものに
過ぎない。
【0010】また、目標空燃比が一定でなく変化する場
合には目標値追従型であるサーボ系となるが、この目標
値追従型であるサーボ系においては目標値への収束性を
よくするため及び定常偏差を吸収するために入力を積分
する機能が必要である。一般的なサーボ系問題では積分
器を含んだ状態変数を追加し切換関数を設計する。この
場合に切換関数によって算出される非線形入力も積分要
素を含んでしまうため、応答性が悪化することが考えら
れる。しかしながら、目標空燃比が変化する場合を扱っ
ている先行技術にはどの部分にも積分器が設けられてい
ない。
【0011】
【課題を解決するための手段】第1の発明は、排気の空
燃比を検出する空燃比検出手段と、エンジンの排気系及
び前記空燃比検出手段の動特性を離散系2次の伝達関数
で近似しシリンダ吸入空燃比のステップ応答より同定す
ることによりこの離散系2次の伝達関数を設定する伝達
関数設定手段と、この離散系2次の伝達関数を離散系2
次の状態方程式に変換する手段と、この離散系2次の状
態方程式に基づいて前記空燃比検出手段により検出され
る排気の空燃比が目標空燃比と一致するようにスライデ
ィングモード制御を用いた空燃比のフィードバック制御
を行う空燃比フィードバック制御手段とを備える。
【0012】第2の発明は、第1の発明おいて前記同定
を最小2乗法を用いて行う。
【0013】第3の発明は、第1の発明おいて前記同定
をARXモデルを用いて行う。
【0014】第4の発明は、第1から第3までのいずれ
か一つの発明において前記空燃比のフィードバック制御
が燃料供給量のフィードバック制御である。
【0015】第5の発明は、第4の発明において前記空
燃比フィードバック制御手段が、前記離散系2次の状態
方程式の状態変数matx(n)と目標値の状態量matθ(n)
の差を誤差の状態量mate(n)として演算する手段と、
この誤差の状態量mate(n)に切換関数ゲインmatSを乗
算して状態量σ(n)を演算する手段と、この切換関数ゲ
インの乗算された状態量σ(n)に基づいて非線形入力u
nl(n)を演算する手段と、同じくこの切換関数ゲインの
乗算された状態量σ(n)に基づいて線形入力ueq(n)を
演算する手段と、これら非線形入力と線形入力の和を総
制御入力usl(n)として算出する手段と、この総制御入
力に基づいて前記燃料供給量のフィードバック制御値A
LPHAを演算する手段とからなる。
【0016】第6の発明では、第5の発明において目標
空燃比が変化する場合に前記線形入力ueq(n)に代えて
これを積分した値を用いる。
【0017】第7の発明では、第6の発明において排気
通路に酸素ストレージ機能を有する触媒と、この触媒の
前後にあって排気中の酸素濃度を検出する一対のセンサ
(例えば触媒上流側が広域空燃比センサ、触媒下流側が
2センサ)とを備える場合に、この一対のセンサの出
力に基づいて前記触媒の酸素ストレージ量を最適化する
空燃比を目標空燃比として演算する。
【0018】第8の発明では、第6の発明において前記
積分する際の積分ゲインμと前記切換関数ゲインmatS
との関係を前記線形入力の式から求め、前記目標空燃比
への応答の時定数が最適となるように前記積分ゲインμ
を決定し、この決定した積分ゲインμより前記関係を用
いて切換関数ゲインmatSを算出する。
【0019】第9の発明では、第8の発明おいて前記積
分ゲインμを回転速度に応じて定める(例えば回転速度
が高くなるほど積分ゲインを大きくする)。
【0020】第10の発明では、第5の発明において前
記離散系2次の状態方程式が matx(n+1)=matAmatx(n)+matBu(n) maty(n)=matCmatx(n) ただし、matx(n+1):時刻n+1の状態変数、 matx(n):時刻nの状態変数、 maty(n) :時刻nの出力、 u(n) :時刻nの入力、 matA :システム行列、 matB :入力行列、 matC :出力行列、 である。
【0021】第11の発明では、第10の発明において
前記システム行列matAの状態(例えば要素a0の符号)
により前記切換関数ゲインmatS(例えば要素S2)の符
号を変化させる。
【0022】第12の発明では、第10の発明において
前記離散系2次の伝達関数が Geng(q)=(b1q+b0)/(q2+a1q+a0) (無駄時間の項を除く) ただし、Geng(q):プラントの伝達関数、 q :離散系シフトオペレータ、 a1、a0 :微分係数、 b1、b0 :微分係数、 である場合に、前記システム行列matA、入力行列mat
B、出力行列matCが前記数1式により定義される値で
ある。
【0023】第13の発明では、第10の発明において
前記離散系2次の伝達関数が Geng(q)=(b1q+b0)/(q2+a1q+a0) (無駄時間の項を除く) ただし、Geng(q):プラントの伝達関数、 q :離散系シフトオペレータ、 a1、a0 :微分係数、 b1、b0 :微分係数、 である場合に、前記システム行列matA、入力行列mat
B、出力行列matCが前記数2式により定義される値で
ある。
【0024】第14の発明では、第13の発明において
前記切換関数ゲインの乗算された状態量σ(n)が σ(n)=S(x1(n)−θ1(n) )+(x1(n)−x
2(n) ) ただし、x1(n)、x2(n) :状態変数matx(n) の要
素、 θ1(n) :x1(n)の目標値、 である。
【0025】
【発明の効果】第1、第2、第3、第4、第5、第1
0、第12の発明によれば、非線形性の強いエンジンの
ようなプラントであっても運転領域毎に空燃比ステップ
応答を測定することにより運転領域毎の伝達関数を同定
することが可能であり、この離散系2次の伝達関数を離
散系2次の状態方程式に変換し、この離散系2次の状態
方程式に基づいてスライディングモード制御を用いた空
燃比のフィードバック制御を行うので、上記の先行技術
のように連続系の物理モデルからスライディングモード
制御に用いる状態方程式を算出する場合よりも精度良く
プラントモデルを構築することができるとともに、PI
D制御を用いる場合より応答性とロバスト性が共に向上
する。かつステップ応答測定より伝達関数が一意的に決
まるのでスライディングモード制御の切換関数及び線形
入力の設計が容易となる。
【0026】変化する目標値への追従性を良くし及び定
常偏差を吸収するため目標値追従問題であるサーボ系で
は状態方程式に積分項を追加した拡大系を用いるのが一
般的であるのでスライディングモード制御においても拡
大系を用いたサーボ系としたとき、切換関数及び非線形
入力に積分項を持つことになり応答性が低下するのであ
るが、第6、第7の発明によれば応答性を確保しつつ定
常偏差の吸収が可能となる。
【0027】目標空燃比への収束を早めようと過大な空
燃比操作量を与えたのでは運転性能や排気性能が悪化す
る可能性があるため各運転領域毎に最適な切換関数ゲイ
ン及び積分ゲインを決定する必要がありこの双方を最適
化するのは非常に工数がかかるのであるが、第8の発明
によれば積分ゲインを決定しさえすれば、この積分ゲイ
ンより一定の関係式を用いて切換関数ゲインを算出する
ことができるので、切換関数の設計が容易となる。
【0028】フィードバック制御を固定時間間隔で演算
する場合に回転速度が上昇すると単位時間当たりの燃料
噴射イベントが増加し見かけ上フィードバックゲインが
落ちてしまい高回転速度域での目標値への追従性が悪化
するのであるが、第9の発明によればフィードバック制
御を固定周期で行った場合でも見かけ上のゲインの低下
を防ぐことが可能となり、全運転領域で最適な積分ゲイ
ンを得ることができる。
【0029】第11の発明によればシステム行列の状態
によって切換関数ゲインの符号を切換えることでシステ
ム行列の状態が変化しても空燃比操作量を正しい方向に
付加することが可能となる。
【0030】第13の発明によれば、状態量x1(n)、
2(n)が x2(n)=x1(n−1) の関係を満たすことから、状態量x2(n)についても物
理的な意味が明確となった。すなわち、第13の発明に
よれば、状態量x2(n)は状態量x1(n)の前回値を表
す。
【0031】第14の発明によれば、状態量x1(n)の
目標値θ1(n)との差分及び状態量x 1(n)の変化量がゼ
ロとなるような切換関数を設定できるので、目標値θ
1(n)の変化に対しても応答良く空燃比操作量を変化さ
せることができる。
【0032】
【発明の実施の形態】以下、添付図面に基づき本発明の
実施の形態について説明する。
【0033】図1はガソリンエンジンのシステム構成図
である。同図において1はエンジン本体、2は吸気通
路、3は排気通路、4はスロットル弁、5は燃料噴射
弁、6は点火プラグである。
【0034】前記燃料噴射弁5からの燃料噴射量、燃料
噴射時期、点火プラグ6による火花点火の時期を運転条
件に応じて制御するためエンジンコントローラ11を備
える。エンジンコントローラ11にはクランク角センサ
(ポジションセンサ12と位相センサ13からなる)か
らの信号、エアフローメータ14からの吸入空気流量の
信号が、水温センサ15からの信号などと共に入力し、
これら信号に基づいて燃料噴射弁5からの燃料噴射量、
噴射時期を制御し、また点火プラグ6による火花点火の
時期を制御する。
【0035】エンジンの排気通路3には酸素ストレージ
機能を有し触媒雰囲気が理論空燃比付近のときにNO
x、HC、COを同時に浄化する三元触媒7を備える。
この三元触媒7の酸素ストレージ量が飽和量に達したり
酸素を全く保持しない状態となったりしてしまうとH
C、CO、NOxを効率よく浄化できなくなるため、エ
ンジンコントローラ11では触媒7の酸素ストレージ量
を演算し、触媒7の転換効率を最大に保つべく触媒7の
酸素ストレージ量が一定となるように触媒7の上流側に
設けた広域空燃比センサ16の出力と触媒7の下流側に
設けたO2センサ17の出力とに基づいてエンジンの空
燃比制御を行う。
【0036】この制御は概略次のようなものである(詳
細は特願2000−38688号参照)。すなわちエン
ジンコントローラ11は触媒7に流入する排気の空燃比
とエンジンの吸入空気量に基づき触媒7の酸素ストレー
ジ量を推定演算するが 、このとき酸素ストレージ量の
演算を高速成分HO2と低速成分LO2とで分けて行
う。具体的には酸素吸収時は高速成分HO2が優先して
吸収し、高速成分HO2が吸収しきれない状態となった
ら低速成分LO2が吸収し始めるとして演算を行い、ま
た酸素放出時は低速成分LO2と高速成分HO2の比
(LO2/HO2)が一定割合AR以下の場合は高速成
分HO2から優先して酸素が放出されるとし、比LO2
/HO2が一定割合になったらその比LO2/HO2を
保つように低速成分LO2と高速成分HO2の両方から
酸素が放出されるとして酸素ストレージ量の演算を行
う。
【0037】そして、演算された酸素ストレージ量の高
速成分HO2が目標値よりも多いときは、エンジンの空
燃比をリッチ側に制御して高速成分HO2を減少させ、
目標値よりも少ないときは空燃比をリーン側に制御して
高速成分HO2を増大させる。
【0038】この結果、酸素ストレージ量の高速成分H
O2が目標とする値に保たれるので、触媒7に流入する
排気の空燃比が理論空燃比からずれたとしても、応答性
の高い高速成分HO2から直ちに酸素が吸収あるいは放
出されて触媒雰囲気が理論空燃比方向に修正され、触媒
7の転換効率が最大に保たれる。
【0039】さらに、演算誤差が累積すると演算される
酸素ストレージ量が実際の酸素ストレージ量とずれてく
るが、触媒7下流がリッチあるいはリーンになったタイ
ミングで酸素ストレージ量(高速成分HO2及び低速成
分LO2)のリセットを行うことで演算値と実際の酸素
ストレージ量とのずれを修正している。
【0040】このように酸素ストレージ量に応じて目標
空燃比を変化させ、こうして変化する目標空燃比が得ら
れるように空燃比のフィードバック制御を行うのである
が、本発明ではこの空燃比フィードバック制御にスライ
ディングモード制御を適用する。
【0041】これを図2により説明すると、同図はエン
ジンコントローラ11の制御ブロック図である。同図に
おいて目標空燃比演算部21では広域空燃比センサ16
及びO2センサ17の出力に基づいて前述のように触媒
7の酸素ストレージ量を最適化する空燃比を目標空燃比
TGABFとして演算する。
【0042】理論空燃比の運転時にこの目標空燃比が得
られるように従来はPID制御により空燃比フィードバ
ック補正値ALPHAを演算していたが、これに代えて
スライディングモードコントローラ(スライディングモ
ード制御部)22を設けている。このスライディングモ
ードコントローラ22が後述するようにして空燃比フィ
ードバック補正値ALPHAを演算する。そして燃料噴
射量演算部31では基本噴射パルス幅TP0から得られ
るシリンダ吸気量パルス幅TPに対してこの空燃比フィ
ードバック補正値ALPHAとこれ以外の各種補正を行
って次の式により燃料噴射パルス幅CTIを演算する。
そしてこの燃料噴射パルス幅CTIを用いて燃料噴射弁
5を間欠的に駆動する。
【0043】 CTI=(TP×TFBYA+KATOHOS) ×(ALPHA+KBLRC−1)+TS+CHOS …(補1) ただし、TFBYA :目標当量比、 KATOHOS:燃料フィードフォワード補正値、 ALPHA :空燃比フィードバック補正値、 KBLRC :空燃比学習値、 TS :無効噴射パルス幅、 CHOS :気筒別燃料フィードフォワード補正
値、 スライディングモードコントローラ22は切換関数演算
部23、非線形入力演算部24、線形入力演算部25、
積分器26、加算器27、換算部28及び補正制限部2
9からなっている。スライディングモードコントローラ
22により実行されるこれらの制御内容は後述するフロ
ーチャート(図7参照)によりまとめて説明する。従っ
てここでは図2に示す個々のブロック23〜29の働き
の説明は省略する。
【0044】次にスライディングモード制御を用いた空
燃比フィードバック制御の考え方を詳述する。これは本
願の発明者が新たに創作したものである。
【0045】図3はプラント(エンジン)の物理モデル
である。シリンダ内の空燃比は燃料量のフィードフォワ
ード制御により(例えば上記(補1)式のKATOHO
S、CHOSによる)目標空燃比となることが補償され
ているため排気のダイナミクス(ガス混合ダイナミクス
を含む)及び空燃比センサ16のダイナミクスを統合し
離散系2次で記述する。プラント(エンジン)の入力を
シリンダ内空燃比、出力を検出空燃比とすると、エンジ
ンの排気系及びセンサ16の動特性は次のように離散系
2次の伝達関数Geng(q)で表すことができる。
【0046】 Geng(q)=(b1q+b0)/(q2+a1q+a0) …(1) (無駄時間の項を除く) ただし、Geng(q):プラントの伝達関数、 q :離散系シフトオペレータ、 a1、a0 :微分係数、 b1、b0 :微分係数、 (1)式の伝達関数Geng(q)は前記プラントの図4の
ような入出力信号ステップ応答よりARXモデル(或い
は最小2乗法)を用いて同定することができる。ARX
モデルによる同定手法は一般的に知られており(例えば
特開2000−291484号公報参照)、ここでは説
明を省略する。なお、非線形性の強いエンジンのような
プラントにあっても運転領域毎に空燃比ステップ応答を
測定することにより運転領域毎の伝達関数を同定するこ
とが可能である。
【0047】離散系2次の伝達関数Geng(q)を次のよ
うに離散系2次の状態空間表現(状態方程式)で記述す
る。
【0048】
【数3】
【0049】ここで、入力u(n)は燃料噴射パルス幅よ
り算出したシリンダ吸入空燃比、出力y(n)は広域空燃
比センサ16により検出される空燃比である。
【0050】なお、(2a)、(2b)の状態方程式に
使われる状態変数などは行列であるため記号を太字で記
載するのが一般的である。このため例えばx(n)が行列
(matrix)であるときは「matx(n)」のように「mat」
を記号の前に付けて行列であることを表現している。ま
たnは現時刻を、n+1は次の制御周期の時刻を表して
いる。
【0051】一般的なシステムの状態方程式は入力の数
をm、出力の数をl(m、lは任意の正の整数)として
記載されるが、ここでは物理量として把握しやすいよう
(2a)、(2b)のように入力を2つ(m=2)、出
力を2つ(l=2)として状態方程式を記述している。
このとき状態変数matx(n)はx1(n)、x2(n)を2要
素とする列ベクトル、また出力maty(n)はy1(n)、y
2(n)を2要素とする列ベクトルでもある。実質的には
1出力となるように出力行列matCを定めている。すな
わち(2b)式よりy1(n)=x1(n)であるのに対して
2(n)=0である。ここでy1(n)には検出空燃比AF
SAFを採用する。従って、まとめると次のようにな
る。
【0052】 y1(n)=x1(n)=AFSAF …(補2) y2(n)=0 …(補3) また、(2a)式においてシステム行列matAの要素で
あるa1、a0、入力行列matBの要素であるb1、b0
(1)式の伝達関数を決定する際に定まっている。 さ
て、離散系で同定されたシステムに対して、スライディ
ングモード制御を用いて状態変数matx(n)を状態空間
内のある軌道に追従させるサーボ系問題を考える。この
離散系モデルの誤差の状態量mate(n)を次のように状
態変数matx(n)と軌道である目標値の状態量matθ(n)
の差で与える。
【0053】
【数4】
【0054】ここで(3)式の目標値θ1(n)はx1(n)
(=AFSAF)に対する目標値であるから、θ1(n)
は目標空燃比TGABFである。
【0055】また同離散系モデルの切換関数を次式で定
義する。
【0056】
【数5】
【0057】図5はスライディングモード制御における
誤差の状態量mate(n)の変化を位相平面上に示したも
のである。誤差の状態量mate(n)は、図中の切換関数
までの距離に応じた非線形入力の分で切換関数上に拘束
された後、線形入力である等価制御入力により切換関数
上を滑る(スライディング状態)ようにして位相平面の
原点へと収束する。これにより状態変数matx(n)を目
標値の状態量matθ(n)へと収束させることができる。
なお、S2が固定の場合、切換関数ゲインmatSの要素で
あるS1を大きくすれば直線の傾きが急になる(制御ゲ
インが大きくなる)。
【0058】なお、状態変数matx(n)の要素が2つで
あるため切換関数が位相平面上で直線として表され物理
的に把握しやすいものとなっているが、状態変数matx
(n)の要素が3つになると切換関数は位相空間上で平面
となり、さらに要素の数が増すと切換関数は超平面とい
う概念になる。
【0059】次に線形入力及び非線形入力の具体的な操
作量の演算方法を説明する。
【0060】システムがスライディングモードにある条
件(連続系ではσ=0、σドット=0、ただし「σドッ
ト」はσの微分値である。)は離散系の場合、 σ(n)=0 …(5a) Δσ(n+1)=σ(n+1)−σ(n)=0 …(5b) の条件を満たす。すると(5b)式は次のようになる。
【0061】 Δσ(n+1) =σ(n+1)−σ(n) =matS{matx(n+1)−matθ(n+1)}−σ(n) =matS{matAmatx(n)+matBueq(n)−matθ(n+1)} −σ(n) …(6) 従ってこの(6)式においてdet(matSmatB)-1≠0で
あれば線形入力(等価制御入力)は次の式となる。
【0062】 matueq(n)=−(matSmatB)-1matS ×{matAmatx(n)−matθ(n+1)}−σ(n) …(7) (2a)式、(4)式よりスカラーで記述すると、この
システムの線形入力は次のようになる。
【0063】 ueq(n)=(S11+S20-1(a11+a02+S1 2/S2) ×{x1(n)−θ1(n)} …(8) 次に非線形入力は任意に与えることができるので、ここ
では次のように定義する。すなわち外乱に対する分もま
とめて1つの関数とすることもできるのであるが、ここ
では外乱に対する分をα(n)とは別にβ(n)として導入
している。
【0064】 unl(n)={α(n)+β(n)}sgn[σ(n)] …(9) ただし、β(n)≧Hmax、 α(n)、β(n):正のスカラー値関数、 Hmax :外乱の最大推定値、 ここで(9)式の符号関数sgn[σ(n)]は状態量σ
(n)>0のときsgn[σ(n)]=1、σ(n)<0のときs
gn[σ(n)]=−1となる関数である。この符号関数は
例えば誤差の状態量が図5において切換関数を横切って
下側にきたとき次回の制御時に切換関数の上側へと誤差
の状態量を戻すために必要となるものである。
【0065】ここでチャタリングを防止するための非線
形入力の条件は次のようになる。
【0066】 (i)σ(n)>0のとき: 0≦σ(n+1)≦σ(n) …(10a) (ii)σ(n)<0のとき: σ(n)≦σ(n+1)≦0 …(10b) これは(10a)の条件式についていえば現時刻nのと
きよりその次の時刻であるn+1でのほうが誤差の状態
量が収束点である0に近い位置にあることを表したもの
である。
【0067】(10a)の条件を満足するスカラー値関
数α(n)を次にようにして算出する。(4)式から、 σ(n+1)=matSmate(n+1) …(11) とする。(2a)、(2b)の状態方程式で表されたシ
ステムに対して、状態量σ(n)=matSmate(n)とす
るとき、σ(n)=σ(n+1)=σ(n+2)…を満たす
入力は(8)式の線形入力であり、このとき(11)式
は次のようになる。
【0068】 σ(n+1) =matS{matx(n+1)−matθ(n+1)} =matS{matAmatx(n)+matB{unl(n)+ueq(n)} −matAmatθ(n)} … =σ(n)+matSmatBunl(n) …(12) (12)式より(10a)式を満たす条件は次のように
なる。
【0069】 ‖matSmatB‖α(n)≦‖σ(n)‖ …(13) これより(10a)式を満たすスカラー値関数α(n)
は、 α(n)=η‖matSmatB‖-1‖σ(n)‖ …(14) ただし、η:非線形ゲイン(0<η<1)、 σ(n+1)σ(n)>0、 よって非線形入力unl(n)は、 unl(n) ={η‖matSmatB‖-1‖σ(n)‖+β(n)}sgn[σ(n)] ={η|S11+S20-1|σ(n)|+β(n)}sgn[σ(n)] …(15) ただし、0<η<1、σ(n+1)σ(n)>0、 となり、この(15)式によればチャタリングを防止し
かつ外乱に対してもロバストとなる。
【0070】このようにして(8)式により線形入力u
eq(n)を、また(15)式により非線形入力unl(n)
が演算したので総制御入力である空燃比操作量usl(n)
を次式により算出する。
【0071】 usl(n)=κ∫ueq(n)dt+unl(n) …(16) ただし、κ:積分ゲイン、 (16)式右辺第1項では線形入力ueq(n)を積分して
おり、そのための積分器26を備えるが(図2参照)、
これは可変値としての目標空燃比への収束性の向上及び
定常偏差の吸収のため導入したものである。
【0072】図6のフローチャートはスライディングモ
ード制御を設計するためのもので、これは開発段階で行
う。
【0073】ステップ1でシリンダ内空燃比のステップ
応答を測定し(図4参照)、ステップ2では離散系2次
の伝達関数Geng(q)をARXモデル(あるいは最小2
乗法)を用いて同定する。ステップ3ではこの伝達関数
Geng(q)を(2a)、(2b)式で示した離散系2次
の状態方程式に変換する。ステップ4では切換関数σ
(n)=0を設計する。ステップ5、6、7では線形入力
ueq(n)の演算式である(8)式、非線形入力unl(n)
の演算式である(15)式、空燃比操作量usl(n)の演
算式である(16)式をそれぞれ設計する。
【0074】次に一般的なスライディングモード制御の
サーボ系問題を記述する。
【0075】仮に
【0076】
【数6】
【0077】のような正準系のシステムの場合、(1
7)式の状態変数に目標値θrと出力θyの差を積分した
値であるzを付加した次の拡大系を用いる。
【0078】
【数7】
【0079】拡大系では切換関数を次式で定義する。
【0080】 σ(n)=matSmatx=S1z+S21+x2=0 …(19) 拡大系を用いた場合、(19)式中に積分項zがあるた
め、状態が変化した場合に本来応答性を確保するための
非線形入力((15)式)の操作が遅くなり、外乱ロバ
スト性も低下する。しかしながら、(16)式のように
積分項を線形入力に持たせることで、拡大系を用いた場
合であっても応答性を低下させることなく目標空燃比へ
と収束させることができる。
【0081】図7のフローチャートは空燃比フィードバ
ック補正値ALPHAを演算するためのもので、理論空
燃比での運転中に一定時間毎またはクランク角の基準位
置信号(Ref)の入力毎に実行する。これは図2のス
ライディングモードコントローラ22の各ブロック23
〜29をフローチャートで再構成したものである。
【0082】ステップ11、12では目標空燃比TGA
BF、実空燃比AFSAFを読み込み、ステップ13で
状態変数matxの要素である状態量x1、x2を算出す
る。すなわち(2b)式よりy1=x1、y2=0であ
る。ここでy1は検出空燃比AFSAFであるからx1
AFSAFである。また(17)式は変数が2つ
(x1、x 2)の連立2元方程式であるから、これを
1、x2について解けばx2がx1の関数として得られる
ので、これにx1=AFSAFを代入してやればx2が得
られる。
【0083】ステップ14では状態変数matx(n)、目
標値の状態量matθ及び切換関数ゲインmatSを用いて現
時刻nにおける切換関数σ(n)=0を算出する。ステッ
プ14は図2の切換関数演算部23に相当する。
【0084】ステップ15では状態量σ(n)、非線形ゲ
インη、切換関数ゲインmatS、入力行列matB、スカラ
ー値関数β(n)、符号関数sgn[σ(n)]を用いて(1
5)式により現時刻nにおける非線形入力unl(n)を算
出する。ステップ5は図2の非線形入力演算部24に相
当する。
【0085】ステップ16では状態量x1(n)、その目
標値θ1(n)、切換関数ゲインmatS、入力行列matB、
システム行列matAを用いて(8)式により現時刻nに
おける線形入力ueq(n)を算出する。ステップ6は図2
の線形入力演算部25に相当する。
【0086】ステップ17ではこの線形入力ueq(n)を
積分した後、ステップ18で非線形入力unl(n)とこの
積分した線形入力とを加算して現時刻nにおける空燃比
操作量usl(n)を算出する。ステップ17、18は図2
の積分器26、加算器27に相当する。
【0087】ステップ19では空燃比操作量usl(n)を ALPHA=CYLAF/(CYLAF+usl(n))×100 …(補4) ただし、CYLAF:シリンダ吸入空燃比、 の式により空燃比フィードバック補正値ALPHAに換
算し(単位が空燃比から%に変換される)、ステップ2
0でリミッタ処理を実行する。ステップ19、20は図
2の換算部28、補正制限部29に相当する。
【0088】なお、(補4)式のシリンダ吸入空燃比C
YLAFは次の式により演算される値である。
【0089】 CYLAF=14.7×TP /{TP×TFBYA×(ALPHA+KBLRC−1)} …(補5) 次にフィードバックを行う場合の最適な切換関数ゲイン
matSの要素S1を算出するための積分ゲインの設定方法
を説明する。なお、切換関数ゲインのもう一つの要素S
2については後述する考察によりS2=1または−1とな
るので、一方の要素S1についてだけ考えておけばよい
ことになる。
【0090】空燃比フィードバック制御の場合、シリン
ダ内の空燃比が急変すると運転性や排気性能に悪い影響
を及ぼすので空燃比操作量が大きくなりすぎないように
限界値で制限する必要がある。その一方で空燃比操作量
を小さくすると目標空燃比への収束性が悪くなる。従っ
て目標値への収束性と排気、運転性能とはトレードオフ
の関係を有する。そこで目標値への応答の時定数が所望
の値となるときの積分ゲインをμとすると線形入力の
(8)式及び空燃比操作量の(16)式右辺の積分項か
らμは次のように置くことができる。
【0091】 μ=κ(S11+S20-1(a11+a02+S1 2/S2) …(20) ここで、線形入力の積分ゲインκを1とすると図5にお
いて切換関数である直線の傾きを表すS1は次式とな
り、所望の応答を実現するS1を演算できる。
【0092】 S1 = {−S2(a1−μb1)±S2{(a1−μb12−(a0−μb0)}1/2} /2 …(21) なお、(21)式のS1は2値を採りうるので安定性判
別を行って安定性のよいほうを選択する。
【0093】図8のフローチャートは最適な切換関数ゲ
イン(S1)を設定するためのものである。なおこれは
図6のスライディングモード制御設計フローチャートに
おけるステップ4の内容の一部をなすものである。
【0094】ステップ21で所望の応答が得られる空燃
比操作量となる積分ゲインμを設定し(μは経験により
適当な値がわかっている)、ステップ22ではこの積分
ゲインμに基づき上記の(21)式より切換関数ゲイン
matSの要素S1を算出する。なお、(21)式によりS
1を算出する際にS2が定まっている必要があるが、これ
は後述するようにa0>0のとき1に、またa0<0のと
き−1になる値である。
【0095】次に積分ゲインμを一定として空燃比のフ
ィードバック制御を行った場合のALPHAの変化を図
9、図10に示すと、図9は低回転速度時の、これに対
して図10は高回転速度時のものである。ALPHAを
固定時間間隔(例えば10ms毎のジョブ)で演算する
場合、回転速度の上昇に伴い単位時間当たりの噴射回数
が増加するため1噴射当りのALPHAの変化代が例え
ば5%から2%へと減少する。これにより低回転速度に
おいてマッチングした積分ゲインμを高回転速度域にお
いてもそのまま使用すると、ALPHAの変化代が減少
して応答性が悪化する。これを回避するためには積分ゲ
インμを回転速度に応じて変化させることが必要であ
り、このとき図11のように高回転速度域でも低回転速
度時と同じ応答性を確保することが可能となる(1噴射
当りのALPHAの変化代が5%へと回復している)。
【0096】図12のフローチャートは積分ゲインμを
演算するためのものである。
【0097】ステップ31では回転速度を読み込み、ス
テップ32でこの回転速度に応じて積分ゲインの回転速
度補正係数KNEを算出する。ステップ33では積分ゲ
イン基本値μ0にこの補正係数KNEを乗算した値を積
分ゲインμとして算出する。ここで積分ゲイン基本値μ
0は最低の回転速度時にマッチングした値である。この
ようにして演算された積分ゲインμを用いて上記の(2
1)式によりS1が演算され、このS1が図7の空燃比フ
ィードバック補正値演算フローチャートにおけるステッ
プ15、16で非線形入力、線形入力の算出に用いられ
る。
【0098】次に(4)式の状態量σ(n)を(3)式に
よって変形する。
【0099】 σ(n)=matSmate(n) =S1(x1(n)−θ1)+S2(x2(n)−θ2) =S1(x1(n)−θ1)−S20(x1(n−1)−θ1) …(22) 誤差の状態量mate(n)が切換関数をよぎる前に誤差の
状態量の符号が変化するためには(22)式右辺の第1
項と第2項の符号は逆である必要があるので次の条件を
仮定する。
【0100】 (i)a0>0のとき :S1=S>0、S2=1 …(補6) (ii)a0<0のとき:S1=S>0、S2=−1 …(補7) このときの状態量σ(n)を成分で記述すると次のように
なる。
【0101】 (i)α0>0のとき: σ(n)=S{x1(n)−θ1}+{x2(n)−θ2} …(23) (ii)α0<0のとき: σ(n)=S{x1(n)−θ1}−{x2(n)−θ2} …(24) また(補6)、(補7)式を用いると、(8)式の線形
入力、(15)式の非線形入力及び(16)式の総制御
入力(空燃比操作量)は次の(25)式〜(30)式の
ように書き直される。 〈1〉線形入力(等価制御入力): (i)a0>0のとき: ueq(n)=(Sb1+b0-1(a1S+a0+1) ×{x1(n)−θ1(n)}…(25) (ii)a0<0のとき: ueq(n)=(Sb1−b0-1(a1S−a0−1) ×{x1(n)−θ1(n)}…(26) 〈2〉非線形入力: (i)a0>0のとき: unl(n)={η|Sb1+b0-1|σ(n)|+β(n)} ×sgn[σ(n)]…(27) (ii)a0<0のとき: unl(n)={η|Sb1−b0-1|σ(n)|+β(n)} ×sgn[σ(n)]…(28) ただし、0<η<1、σ(n+1)σ(n)>0、 〈2〉総制御入力(空燃比操作量): (i)a0>0のとき: usl(n)=κ∫{(Sb1+b0-1(a1S+a0+1) ×(x1(n)−θ1(n))}dt +{η|Sb1+b0-1|σ(n)|+β(n)} ×sgn[σ(n)] …(29) (ii)a0<0のとき: usl(n)=κ∫{(Sb1−b0-1(a1S−a0−1) ×(x1(n)−θ1(n))}dt +{η|Sb1−b0-1|σ(n)|+β(n)} ×sgn[σ(n)] …(30) 図13のフローチャートはシステム行列の要素a0の値
に応じた総制御入力を演算するためのものである。これ
は図7の空燃比フィードバック補正値演算フローチャー
トにおけるステップ14からステップ18の具体例をな
すものである。
【0102】ステップ41ではシステム行列matAの要
素a0の符号をみる。a0>0となったときにはステップ
42〜45で切換関数、線形入力、非線形入力、総制御
入力の各演算を行う。ステップ1でa0<0となったと
きにはステップ46〜49で同様の演算を行う。
【0103】ここで、本実施形態(第1実施形態)の作
用を説明する。
【0104】本実施形態によれば非線形性の強いエンジ
ンのようなプラントであっても運転領域毎に空燃比ステ
ップ応答を測定することにより運転領域毎の伝達関数G
eng(q)を同定することが可能である。従ってこの離散
系2次の伝達関数Geng(q)を(2a)、(2b)式に
示す離散系2次の状態方程式に変換し、この離散系2次
の状態方程式に基づいて空燃比センサ16により検出さ
れる排気の空燃比AFSAFが目標空燃比TGABFと
一致するようにスライディングモード制御を用いた空燃
比のフィードバック制御を行うことで、連続系の物理モ
デルからスライディングモード制御に用いる状態方程式
を算出する先行技術の場合よりも精度良くプラントモデ
ルを構築することができると共にPID制御のような古
典制御を用いる場合より応答性とロバスト性が向上す
る。かつステップ応答測定より一意的に切換関数が決ま
るのでスライディングモード制御の切換関数及び線形入
力の設計が容易となる。
【0105】また、変化する目標値(目標空燃比)への
追従性を良くし及び定常偏差を吸収するため目標値追従
問題であるサーボ系では状態方程式に積分項を追加した
拡大系を用いるのが一般的であるのでスライディングモ
ード制御においても拡大系を用いたサーボ系としたと
き、切換関数及び非線形入力に積分項を持つことになり
応答性が低下するのであるが、本実施形態によれば積分
器26を追加して設け線形入力ueq(n)に代えてこれを
積分した値を用いるようにしたので、応答性を確保しつ
つ定常偏差の吸収が可能となる。
【0106】また、目標空燃比への収束を早めようと過
大な空燃比操作量を与えたのでは運転性能や排気性能が
悪化する可能性があるため各領域毎に最適な切換関数ゲ
インmatS及び積分ゲインμを決定する必要がありこの
双方を最適化するのは非常に工数がかかるのであるが、
本実施形態によれば積分ゲインμを決定しさえすれば、
この積分ゲインμより(21)に示した一定の関係式を
用いて切換関数ゲインmatSを算出することができるの
で、切換関数の設計が容易となる。
【0107】また、フィードバック制御を固定時間間隔
で演算する場合に回転速度が上昇すると単位時間当たり
の燃料噴射イベントが増加し見かけ上フィードバックゲ
インが落ちてしまい高回転速度域での目標値への追従性
が悪化するのであるが、本実施形態によれば積分ゲイン
μを回転速度に応じて演算するので、フィードバック制
御を固定周期で行った場合でも見かけ上のゲインの低下
を防ぐことが可能となり、全運転領域で最適な積分ゲイ
ンを得ることができる。
【0108】また、本実施形態によればシステム行列ma
tAの要素であるa0の符号(システム行列の状態)によ
って切換関数ゲインmatSの要素であるS2の符号を切換
えることでシステム行列の状態が変化しても空燃比操作
量を正しい方向に付加することが可能となっている。
【0109】次に本願の第2実施形態を説明する。
【0110】ここで、第2実施形態と第1実施形態とで
は創作した時期にずれがあり、本願の第2実施形態は、
本願の基礎出願(特願2001−211571号)とほ
ぼ同時期に提案したもう一つの先願装置(特願2001
−224162号)にもヒントを得てなされているの
で、次にはそのもう一つの先願装置(このもう一つの先
願装置を、以下「先願装置2」という。)の実施形態を
説明し、その後に本願の第2実施形態を説明する。
【0111】本願の基礎出願ではプラントに無駄時間が
ないシンプルなシステムで考えた。しかしながら実際の
プラントでは無駄時間を無視できないので、次には無駄
時間を有するプラントについて考える。
【0112】図14は無駄時間を有するプラントを対象
とするシステムである場合のエンジンコントローラ11
の制御ブロック図で、図2に対して状態予測部31を追
加している。この状態予測部31はシリンダ吸入空燃比
演算部32、モデルスケジュール部33、プラントモデ
ル状態変数演算部34、予測状態変数演算部35からな
る。状態予測部31により実行される制御内容は後述す
るフローチャート(図17参照)によりまとめて説明す
る。従ってここでは図14に示す個々のブロック32〜
35の働きの説明は省略する。
【0113】次に無駄時間を有するプラントを対象とす
るシステムについての考え方を詳述する。
【0114】制御対象である無駄時間を有するプラント
(以下「制御対象プラント」という)は次のように記述
できる。
【0115】 matx(n+1)=matAmatx(n)+matBu(n−d) …(31a) maty(n)=matCmatx(n) …(31b) ただし、matx(n) :制御対象プラントの状態変数、 maty(n) :制御対象プラントの出力、 u(n−d):制御対象プラントの入力、 matA :制御対象プラントのシステム行列、 matB :制御対象プラントの入力行列、 matC :制御対象プラントの出力行列、 d :制御対象プラントの無駄時間、 これを上記の(2a)、(2b)式と比較すれば(31
a)のu(n−d)が違うだけである。
【0116】また上記の(2a)、(2b)式は無駄時
間の無いプラント(以下「プラントモデル」という。)
を対象とするシステムの状態方程式であり、これを制御
対象プラントの場合と区別して扱うためxの後に「M」
の添え字を付け改めて次のように記載する。
【0117】 matxM(n+1)=matAmatxM(n)+matBu(n) …(32a) matyM(n)=matCmatxM(n) …(32b) ただし、matxM(n) :プラントモデルの状態変数、 matyM(n) :プラントモデルの出力、 u(n) :プラントモデルの入力、 matA :プラントモデルのシステム行列、 matB :プラントモデルの入力行列、 matC :プラントモデルの出力行列、 ここで、プラントモデルの伝達関数は上記の(1)式で
あるが、制御対象プラントの伝達関数は次の通りであ
る。
【0118】 Geng(z)=(b1-1+b0-2)/{1+(z-1−d)a1+(z-1−d) 20} …(補8) ただし、Geng(q):制御対象プラントの伝達関数、 a1、a0 :微分係数、 b1、b0 :微分係数、 d :無駄時間、 さて制御対象プラントの有する無駄時間が空燃比に与え
る影響を排除するために図15に示すようなスミス法を
用いて補償する手法が知られている。このスミス法によ
ればモデル無駄時間dM経過後の制御対象プラントの状
態変数(この状態変数を以下「予測状態変数」とい
う。)は一般に
【0119】
【数8】
【0120】のように表される。ここで(33)式左辺
のmatxに付けた山型(ハット)の印は予測値を表すの
で、この表示を以下「matxhat」とも表記する。
【0121】(33)式を(32a)、(32b)式を
用いて変形すると次式が得られる。
【0122】 matxhat(n) =matx(n+dM) =matAdmatx(n)+matxM(n)−matAdmatxM(n−dM) …(34) なお(34)式右辺のmatxM(n−dM)はモデル無駄時
間dM経過後のプラントモデルの状態変数である。
【0123】しかしながらスミス法は目標値入力に対し
てはよい応答を与えることができるが、外乱に対する過
渡応答は必ずしも良くないことも知られている。そのた
めに図16に示すような外乱補償器を追加する手法が提
案されている。外乱補償器の設計手法には様々なものが
提案されているが(『むだ時間システムの制御』コロナ
社発行参照)、本願発明では図16のブロック図から実
際の動特性に基づいた検討を行い、その検討結果に基づ
いて外乱補償器の伝達関数M(z)の設計を行った。この
検討結果を結論から先に述べると、状態変数matx(n)
が可観測であることを考慮して予測状態変数matx
hat(n)を次のように表す。
【0124】 matxhat(n) =matx(n+dM) =matM(n){matx(n)−matxM(n−dM)}+matxM(n) …(35a) matM(n)=1 …(35b) または matxhat(n) =matx(n+dM) =matx(n)−matxM(n−dM)+matxM(n) …(36) ただし、matxhat(n) :モデル無駄時間dM後の
制御対象プラントの状態変数、 matx(n) :制御対象プラントの状態変数、 matxM(n) :プラントモデルの状態変数、 matxM(n−dM) :モデル無駄時間dM経過後のプラン
トモデルの状態変数、 matM(n) :外乱補償器のシステム行列、 なお、(36)式をスカラー表示で表すと予測状態変数
matxhat(n)の状態量(この状態量を以下「予測状態
量」という。)x1hat(n)、x2hat(n)は次のようにな
る。
【0125】 x1hat(n)=x1(n+dM)=x1(n)−x1M(n−dM)+x1M(n) …(37a) x2hat(n)=x2(n+dM)=x2(n)−x2M(n−dM)+x2M(n) …(37b) 上記(36)式の意味するところを外乱がない場合と外
乱がある場合について分けて述べる。 〈1〉外乱がない場合:(36)式右辺の第2項以降の
部分に着目すると、外乱が無くプラントモデルが正確に
制御対象プラントを記述しているとすればモデル無駄時
間dM経過後のプラントモデルの状態変数matxM(n−d
M)は実際に観測される状態変数matx(n)と等しくなる
ため(matxM(n−dM)=matx(n))(36)式右辺は
プラントモデルの状態変数matxM(n)のみが残る。後に
残ったこのプラントモデルの状態変数matxM(n)は実際
の無駄時間d経過後の制御対象プラントで検出される状
態変数matx(n)を予測しており、従ってこれを予測状
態変数matxhat(n)とすることができる。この場合には
フィードバックコントローラは予測状態変数matx
hat(n)をパラメータにフィードバック制御する形とな
る。 〈2〉外乱がある場合:一方、外乱gが付加される場合
またはプラントモデルが制御対象プラントを正確に記述
できない場合にはモデル無駄時間dM経過後のプラント
モデルの状態変数matxM(n−dM)は実際に観測される
制御対象プラントの状態変数matx(n)と異なる結果と
なるため、このままでは(36)式右辺第2項以降のい
ずれも消去することができない。
【0126】ここで外乱gがステップ入力であるかまた
は制御対象プラントの状態変数matx(n)の変化がステ
ップ応答であると仮定すると、ステップ変化からモデル
無駄時間dM経過後にプラントモデルの状態変数matx
M(n)とプラント無駄時間dM経過後のプラントモデルの
状態変数matxM(n−dM)とが等しい値となる(matx
M(n−dM)=matxM(n) )。そこで外乱補償器のシス
テム行列matM(n)=1とすると、(35)式右辺は実
際に観測される制御対象プラントの状態変数matx(n)
のみとなる。この場合、フィードバックコントローラは
制御対象プラントの状態変数matx(n)をパラメータに
フィードバックする形となり、状態予測フィードバック
ではないものの外乱の影響を受けずにフィードバックす
ることが可能となる。
【0127】このように図16において外乱補償器の伝
達関数M(z)=1とすることでスミス法に対して外乱補
償器を用いた無駄時間を補償する式が得られている。
【0128】図17のフローチャートは制御対象プラン
トの予測状態変数matxhat(n)を演算するためのもので
ある。
【0129】ステップ51では制御対象プラントの状態
量x1(n)、x2(n)を算出する。ここでx1(n)=AF
SAFである。x2(n)は後述するようにして求める。
これら2つの状態量x1(n)とx2(n)から制御対象プラ
ントの状態変数matx(n)が定まる。
【0130】ステップ52ではシリンダ吸入空気量Qc
を算出する。このシリンダ吸入空気量Qcは例えば次式
のようにシリンダ吸気量パルス幅TP[ms/cycl
e]より逆算して算出している。
【0131】 Qc[kg/cycle] =TP[ms/cycle]/KCONST#[ms/kg] …(補9) ステップ53ではこのシリンダ吸入空気量Qcよりプラ
ントモデルのシステム行列matA、入力行列matB、モデ
ル無駄時間dMを算出する。これらの算出については図
18のフローにより説明する。図18のフローチャート
は図17のステップ53のサブルーチンである。
【0132】ステップ61ではシリンダ吸入空気量Qc
を読み込む。ステップ62ではこのシリンダ吸入空気量
Qcに応じてシステム行列matAの要素a1、a0と入力
行列matBの要素b1、b0を選択する。これは、エンジ
ンの空燃比の動特性が運転領域に対して強い非線形を有
し一つだけの動特性モデルで全運転領域を表すことが不
可能であることから(運転領域毎にシステム行列mat
A、入力行列matBが変化しプラントモデルの離散系2
次の状態方程式が違ったものになる)、シリンダ吸入空
気量Qcにより運転領域を例えば8つに分けて各運転領
域毎に異なる値の要素a1、a0、b1、b0を入れておく
ことにより運転領域毎にプラントモデルの離散系2次の
状態方程式を切換えるようにするためのものである。従
ってシリンダ吸入空気量Qcが今Qc1とQc2の間に
あればモデル#2に格納されている要素a1、a0
1、b0を取り出す。なお、各運転領域毎の要素a1
0、b1、b0は各運転領域毎の伝達関数を求めること
により得られる。
【0133】ステップ63ではシリンダ吸入空気量Qc
より所定のテーブルを検索することによりモデル無駄時
間dMを演算する。この値はシリンダ吸入空気量Qcが
大きくなるほど小さくなる値である。これは燃料噴射か
ら空燃比センサ16が実際の空燃比を検出するまでの無
駄時間がシリンダ吸入空気の流速に依存し低流速域で無
駄時間が大きくなるため、全運転領域を単一の無駄時間
モデルで記述することはできない。そこでモデルシリン
ダ吸入空気量Qcに対応して変化する実際の無駄時間に
対応させて無駄時間dMを算出するようにしたものであ
る。
【0134】図17に戻りステップ54ではシリンダ吸
入空燃比CYLAFを算出する。すなわちシリンダ内燃
料噴射パルス幅(壁流補正なし)TIPSCYLを TIPSCYL=TP×TFBYA×(ALPHA+KBLRC−1) …(補10) の式により算出し、これから上記の(補9)式と同様に
してシリンダ吸入燃料量Fcを次のように算出する。
【0135】 Fc[kg/cycle] =TIPSCYL[ms/cycle]/KCONST#[ms/kg] …(補11) ここで(補10)式のようにシリンダ内燃料噴射パルス
幅TIPSCYLを空燃比フィードバック補正値ALP
HAと空燃比学習値KBLRCにより修正した値に基づ
いて算出するようにしたのは次の理由による。制御対象
プラントの空燃比センサ16や燃料噴射弁5には個体差
があるので、空燃比フィードバック補正値ALPHAと
空燃比学習値KBLRCにより修正する前の値に基づい
てシリンダ内燃料噴射パルス幅を算出したのでは、空燃
比センサ16や燃料噴射弁5の個体差によってプラント
モデルの状態方程式に誤差が生じてしまう。そこで空燃
比センサ16や燃料噴射弁5に個体差にがあってもプラ
ントモデルの状態方程式に誤差が生じないように空燃比
フィードバック補正値ALPHAと空燃比学習値KBL
RCにより修正した値に基づいてシリンダ内燃料噴射パ
ルス幅TIPSCYLを算出するようにしたものであ
る。
【0136】(補9)、(補11)式より空気過剰率λ
cylはλcyl=Qc/Fcであるから、シリンダ吸
入空燃比CYLAFは CYLAF=λcyl×14.7 …(補12) の式により求めることができる。(補9)、(補11)
式を(補12)式に代入すると、上記の(補5)式が得
られる。
【0137】ステップ55ではこのシリンダ吸入空燃比
CYLAFを入力u(n)とする。
【0138】ステップ56では入力u(n)、システム行
列matA、入力行列matBを用いて上記(32a)式の漸
化式を用いてプラントモデルの状態量x1M(n)とx
2M(n)を算出する。これら2つの状態量x1M(n)とx2M
(n)からプラントモデルの状態変数matxM(n)が定ま
る。
【0139】ステップ57ではこのようにして求めた制
御対象プラントの状態変数matx(n)、プラントモデル
の状態変数matxM(n)、モデル無駄時間dMから予測状
態量x 1hat(n)とx2hat(n)を上記の(37a)、(3
7b)式を用いて算出する。これら2つの予測状態量x
1hat(n)とx2hat(n)から予測状態変数matxhat(n)が
定まる。
【0140】図17は図14の状態予測部31をフロー
チャートで構成したものでもある。両者を対応づける
と、図17のステップ53が図14のモデルスケジュー
ル部33に、ステップ54が図14のシリンダ吸入空燃
比演算部32に、ステップ56が図14のプラントモデ
ル状態変数演算部34に、ステップ57が図14の予測
状態変数演算部35に相当する。
【0141】ここで図14の状態予測部31で行われる
ところを物理的な実体に即した状態量に基づいて再度述
べると次のようになる。プラントモデル状態変数演算部
34では現時刻nでのプラント入力u(n)であるシリン
ダ吸入空燃比CYLAFに基づいてそのときの運転領域
におけるプラントモデルの現時刻nでの空燃比(モデル
空燃比)を演算し、予測状態変数演算部35では図16
に示した外乱補償型スミス法を用いて現時刻nでのモデ
ル空燃比と実際に検出される現時刻nでの空燃比とから
制御対象プラントの現時刻nよりモデル無駄時間dM
ちの触媒7上流の空燃比を予測(推定)する。
【0142】このようにして演算される予測空燃比がス
ライディングモードコントローラ22に渡されると、切
換関数演算部23では予測空燃比及び目標空燃比TGA
BFに基づいて現時刻nにおける切換関数を上記(4)
式に代え次の式により演算する。
【0143】 σ(n)=S1(x1hat(n)−θ1(n))+S2(x2hat(n)−θ2(n))=0 …(38) ただし、σ(n):状態量、 また線形入力演算部25では線形入力を上記(7)式に
代えて次式により演算する。
【0144】 ueq(n)=−(matSmatB)-1matS ×{matAmatxhat(n)−matθ(n+1)}−σ(n) …(39) (36)式、(38)式よりスカラーで記述すると、
(39)式は次のようになる。
【0145】 ueq(n)=(S11+S20-1(a11+a02+S1 2/S2) ×{x1hat(n)−θ1(n)} …(40) ところで、モデル無駄時間dMが小の運転領域から大の
運転領域へと切換えられる場合に小領域で噴射した燃料
による検出空燃比が大領域で過剰に無駄時間分遅らされ
(切換時の予測状態量x2hat(n)の誤差が大きくな
る)、これに起因して空燃比が変動することが実験によ
り判明している。これについて図19を用いて具体的に
説明すると、制御対象プラントの状態量x2(n)に対す
る目標値θ2(n)、状態量x2(n)、プラントモデルの状
態量x2M(n)、予測状態量x2hat(n)の演算式は次の通
りである。
【0146】 θ2(n)=−a0×θ1(n)+b0×u(n−dM−1) …(41) x2(n)=−a0×x1(n−1)+b0×u(n−dM−1) …(42) x2M(n)=−a0×x1M(n−1)+b0×u(n−1) …(43) x2hat(n)=x2(n+dM) =x2(n)−x2M(n−dM)+x2M(n) …(44) ここで(41)、(42)、(43)式は次のようにし
て得られるものである。まず(31a)式よりy(n)=
1(n)であるので、出力目標値θ1はそのままx1(n)
の目標値となる。(31a)式を展開すると次のように
なる。
【0147】 x1(n+1)=−a11(n)+x2(n)+b1u(n−d) …(補13) x2(n+1)=−a01(n)+b0u(n−d) …(補14) (補14)式においてn+1に代えてnをおくと x2(n)=−a01(n−1)+b0u(n−1−d) …(補15) となり(42)式が得られる。x2(n)とx2M(n)の間
にはx2(n)に無駄時間がありx2M(n)に無駄時間がな
いとの違いがあるだけなので、(補15)式のu(n−
1−d) よりdを除くとx2M(n)の式となる。すなわち x2M(n)=−a01(n−1)+b0u(n−1) …(補16) となり(43)式が得られる。
【0148】状態量x2(n)の目標値は(補14)式よ
り θ2(n+1)=−a0θ1(n)+b0u(n−d) …(補17) である。これより θ2(n)=−a0θ1(n−1)+b0u(n−d−1) …(補18) となる。θ1(n)=θ1(n−1)であるから、 θ2(n)=−a0θ1(n)+b0u(n−d−1) …(補19) となり(41)式が得られる。
【0149】さて図19に示したようにシリンダ吸入空
気量Qcの減少で(モデル入力u(n)は変わらないと仮
定する)モデル無駄時間dMが2から3へと変化しこれ
に対して目標値θ2(n)が減少すると仮定したとき、こ
の目標値θ2(n)を追っかけるように状態量x2(n)、x
2M(n)がいずれも減少する。予測状態量x2hat(n)はモ
デル無駄時間dMが3になったとき x2hat(n)=x2(n)−x2M(n−3)+x2M(n) …(補20) となり、この値は時刻nにおいてn+3での状態量x
2(n)を予測するものである。値を簡単にするため状態
量x2(n)、x2M(n)がいずれも3から1へと減少した
とすると、時刻nでの状態量x2(n)、x2M(n)はとも
に1であり、x2M(n−3)はn−3でのx2M(n)の値で
あるから3である。故に時刻nでの(補20)式は x2hat(n)=1−3+1=−1 となりこれはx2(n)の値より小さい。そして状態量x
2hat(n)が−1となる状態はn+3の直前まで(切換タ
イミングより切換後の領域でのモデル無駄時間が経過す
る直前まで)続き、n+3のタイミングでx2(n)と同
じ1になる(図19の実線参照)。しかしながら、予測
値としてのx2hat(n)の値は制御上は同図においてnか
らn+3の直前までの間も一点鎖線で示したように1で
あることが望ましい。従ってnからn+3の直前までの
間も上記の(44)式により演算するx2hat(n)の値に
基づくのではモデル誤差が生じる。
【0150】そこでモデル無駄時間dMが大きくなる側
への切換時には切換直後より切換後の領域に対するモデ
ル無駄時間が経過するまでx2hat(n+dM)を上記の
(44)式により演算するのではなくx2(n)の値を用
いる。つまりnからn+3の直前までの間は x2hat(n)=x2(n) …(補21) として外乱補償形スミス法による予測を停止する。
【0151】図20のフローチャートは図17のステッ
プ57の内容をなすものである。
【0152】ステップ71でシリンダ吸入空気量Qcを
読み込み、ステップ72でそのQcに基づいてモデル無
駄時間dMが大きくなる側に運転領域が切換わったかど
うかをみる。モデル無駄時間dMが大きくなる側へと切
換わったタイミングにあれば図16に示した外乱補償形
スミス法による予測を停止するためステップ73に進み
予測状態変数matxhat(n)=matx(n)とする。そうで
ないときにはステップ72よりステップ74に進みモデ
ル無駄時間dMが大きくなる側への切換タイミングより
切換後の運転領域に対応する無駄時間dMが経過したか
どうかをみる。モデル無駄時間dMが大きくなる側への
切換タイミングより切換後の運転領域に対応する無駄時
間dMが経過していなければステップ73の処理を実行
し、モデル無駄時間dMが大きくなる側へのモデル切換
タイミングより切換後の運転領域に対応する無駄時間d
Mが経過したときステップ75に進み図16に示した外
乱補償形スミス法による予測を行う。
【0153】次に、無駄時間を有するプラントを対象と
するシステムである場合の先願装置2の実施形態の作用
を説明する。
【0154】先願装置2の実施形態では燃料噴射(燃料
供給)により定まる空燃比が空燃比センサ16(空燃比
検出手段)により検出されるまでの無駄時間を、スミス
法に外乱補償器を加えることにより補償する無駄時間補
償手段を設け、この無駄時間補償手段により無駄時間の
補償された空燃比が目標空燃比と一致するようにスライ
ディングモード制御を用いた空燃比のフィードバック制
御を燃料供給量の増減で行う。詳細には状態予測部31
が、制御対象プラント(実際のエンジン)の排気系及び
空燃比センサ16の動特性を無駄時間を有する離散系2
次の伝達関数で近似しシリンダ吸入空燃比のステップ応
答よりARXモデルで同定することによりこの無駄時間
を有する離散系2次の伝達関数を設定し、この無駄時間
を有する離散系2次の伝達関数を制御対象プラントにつ
いての無駄時間を有する離散系2次の状態程式に変換
し、プラントモデル(無駄時間のない仮想のエンジン)
の排気系及び空燃比センサ16の動特性を無駄時間のな
い離散系2次の伝達関数で近似しシリンダ吸入空燃比の
ステップ応答よりARXモデルで同定することによりこ
の無駄時間のない離散系2次の伝達関数を設定し、この
無駄時間のない離散系2次の伝達関数をプラントモデル
についての無駄時間のない離散系2次の状態方程式に変
換し、スミス法に外乱補償器を加えて無駄時間補償を行
った状態方程式を制御対象プラントについての無駄時間
を有する離散系2次の状態方程式の状態変数matx(n)
とプラントモデルについての無駄時間のない離散系2次
の状態方程式の状態変数matxM(n)とモデル無駄時間d
Mとに基づいて演算する。そしてスライディングコント
ローラ22が、このスミス法に外乱補償器を加えて無駄
時間補償を行った状態方程式の状態変数matxhat(n)と
目標値の状態量matθ(n)の差を誤差の状態量mate(n)
として演算し、この誤差の状態量mate(n)に切換関数
ゲインmatSを乗算して状態量σ(n)を演算し、この切
換関数ゲインの乗算された状態量σ(n)に基づいて非線
形入力unl(n)を演算し、同じくこの切換関数ゲインの
乗算された状態量σ(n)に基づいて線形入力ueq(n)を
演算し、これら非線形入力と線形入力の和を総制御入力
usl(n)として算出し、この総制御入力に基づいて燃料
供給量のフィードバック制御を行っている。
【0155】このように構成することで、無駄時間を有
するプラントを制御対象としてフィードバックゲインを
大きくとっても空燃比が振動的になることがなく、かつ
無駄時間の影響が特に大きいアイドル状態付近の低空気
流量域においても先行技術と相違してフィードバックゲ
インを大きくできる。
【0156】また、制御対象プラントには空燃比センサ
16や燃料噴射弁5(燃料供給手段)の個体差により誤
差が生じるが、こうした個体差による誤差はシリンダ吸
気量パルス幅TP(燃料供給量)を空燃比フィードバッ
ク補正値ALPHAや空燃比学習値KBLRCで修正す
る手段により解消される。従って空燃比フィードバック
補正値ALPHAまたは空燃比学習値KBLRCで修正
された燃料噴射パルス幅であるシリンダ内燃料噴射パル
ス幅TIPSCYL(燃料供給量)に基づいてシリンダ
吸入空燃比CYLAFを演算するようにした先願装置2
の実施形態によれば制御対象エンジンの個体差による誤
差をなくすことができる。
【0157】また、制御対象プラント(実際のエンジ
ン)の有する空燃比の動特性はエンジン負荷及びエンジ
ン回転速度によって変化するため1つの状態方程式だと
全ての運転領域に最適とならないのであるが、プラント
モデルについての無駄時間のない離散系2次の状態方程
式を負荷と回転速度によって定まるシリンダ吸入空気量
Qcにより多段階に切換えるようにした先願装置2の実
施形態によれば、負荷及び回転速度から定まるどのよう
な運転条件でもプラントモデルについての無駄時間のな
い離散系2次の状態方程式を最適に与えることができ
る。またこれにより空燃比フィードバック制御を固定時
間間隔で実行した場合でも、単位時間当たりの燃焼回数
の影響を排除できる。
【0158】また、先願装置2の実施形態ではモデル無
駄時間dMをシリンダ吸入空気量Qcに応じて演算する
ので制御対象プラントの実際の無駄時間dに近い値を推
定できる。
【0159】また、モデル無駄時間dMが大きくなる側
へと切換わる場合にもスミス法に外乱補償器を加えての
無駄時間補償を継続するとフィードバックの過補正によ
る空燃比変動が生じるのであるが、先願装置2の実施形
態によればモデル無駄時間d Mが大きくなる側へと切換
わったタイミングより切換後の運転領域に対応する無駄
時間dMが経過する直前まで過補正の原因となるスミス
法に外乱補償器を加えての無駄時間補償を行わないこと
にしたので、モデル無駄時間dMが大きくなる側へと切
換わる場合に発生していたフィードバックの過補正によ
る空燃比変動を抑えることができる。
【0160】これで、先願装置2の実施形態の説明を終
える。
【0161】さて、本願の基礎出願後の実験により本願
の上記第1実施形態には次の問題があり、なお改良の余
地があることがわかった。
【0162】問題点1:上記(補14)式によれば、状
態量x1(n)とx2(n)の関係が複雑であり、入力u(n)
が決まらないと、状態量x2(n)を計算できない。この
ため切換関数の構成を上記(4)式のようにせざるを得
ず、状態変数x2(n)の物理的な意味が不明確になって
いた。
【0163】問題点2:上記(4)式の状態量σ(n)は
次式のようにも記載できる。
【0164】 σ(n)=S1(x1(n)−θ1(n))−(x1(n−1)−θ1(n−1)) …(51) この(51)式は次のようにして導いたものである。す
なわち、上記の(補15)式、(補18)式を上記
(4)式に代入する。
【0165】 σ(n)=S1(x1(n)−θ1(n))+S2(x2(n)−θ2(n)) =S1(x1(n)−θ1(n)) +S2(−a01(n−1)+b0u(n−d−1) +a0θ1(n−1)−b0u(n−d−1) ) =S1(x1(n)−θ1(n))−a02(x1(n−1)−θ1(n−1)) =(S1/a02)(x1(n)−θ1(n)) −(x1(n−1)−θ1(n−1)) …(52) ここで、(52)式のS1/a02を改めてS1と定義す
れば、(51)式が得られる。
【0166】(51)式により状態量σ(n)を定義した
場合、目標値θ1(n)の変化時には(51)式右辺第1
項、第2項とも実値と目標値に偏差を生じさせるために
σ(n)の値が変化するが、目標値θ1(n)への到達以前
に状態量σ(n)の符号を変化させるために、(51)式
右辺は差分式になっており、結果的にσ(n)の値は偏差
量に対して小さなものとなる。一方、(51)式の切換
関数のゲインS1は応答性能によって決定されるため必
要以上に大きな値とすることはできない。このため小さ
な値にしかならないσ(n)の値に応じて空燃比操作量u
sl(n)が決定されるとなると、目標値θ1(n)の変化当
初の空燃比フィードバック補正値ALPHAの変化が図
21のように小さなものとなる場合がある(図21下段
の実線参照)。言い換えると、本願の第1実施形態は出
力maty(n)と状態量x1(n)が一致するように構成した
ため((補2)式、(補3)式参照)、状態量x2(n)
に対しては物理的な意味を持たすことができず、従って
状態量x2(n)の動作を物理的に説明するのが難しい構
成であった。このため、切換関数の設計が最適な形とな
っておらず、目標値θ1(n)への追従性が十分でなかっ
たのである(図21上段の実線参照)。
【0167】そこで、第2実施形態では、 x2(n)=x1(n−1)…(53) の式が成立するように無駄時間を有する制御プラント
と、無駄時間のないプラントモデルとについて、システ
ム行列、入力行列、出力行列の要素(a1、a0、b 1
2、1、0)を組み換えてみたところ、無駄時間を有
する制御プラントについての離散系2次の状態空間表現
(状態方程式)を、上記(31a)式、(31b)式に
代えて、次の(54a)式、(54b)式で、また無駄
時間のないプラントモデルとについての離散系2次の状
態空間表現(状態方程式)を、上記(32a)式、(3
2b)式に代えて、次の(55a)式、(55b)の式
で記述すれば、(53)式が成立することを見出した。
【0168】ア)無駄時間を有する制御プラントについ
ての状態方程式: matx(n+1)=matDmatx(n)+matEu(n−d) …(54a) maty(n)=matFmatx(n) …(54b) ただし、matx(n) :制御対象プラントの状態変数、 maty(n) :制御対象プラントの出力、 u(n−d):制御対象プラントの入力、 matD :制御対象プラントのシステム行列、 matE :制御対象プラントの入力行列、 matF :制御対象プラントの出力行列、 d :制御対象プラントの無駄時間、 イ)プラントモデルについての状態方程式: matxM(n+1)=matDmatxM(n)+matEu(n) …(55a) matyM(n)=matFmatxM(n) …(55b) ただし、matxM(n) :プラントモデルの状態変数、 matyM(n) :プラントモデルの出力、 u(n) :プラントモデルの入力、 matD :プラントモデルのシステム行列、 matE :プラントモデルの入力行列、 matF :プラントモデルの出力行列、 ここで、(54a)、(54b)、(55a)、(55
b)の各式においてシステム行列matD、入力行列mat
E、出力行列matFは、次の式で定義される値である。
【0169】
【数9】
【0170】また、切換関数を、上記(4)式に代えて
次式で定義する。
【0171】 σ(n)=matSmate(n) =[S 1]mate(n) =S(x1(n)−θ1(n))+(x1(n)−x2(n))=0 …(59) ただし、σ(n) :状態量、 matS :切換関数ゲイン、 S、1 :切換関数ゲインmatSの要素、 θ1(n) :x1(n)の目標値、 このときのスライディングモード制御における誤差の状
態量の変化を、図5に対応させて図22に示す。
【0172】上記の(53)式をこの(59)式右辺の
2(n)に代入してみると、次式が得られる。
【0173】 σ(n)=S(x1(n)−θ1(n))+(x1(n)−x1(n−1))…(60) ここで、(60)式右辺の第1項は状態量x1(n)とそ
の目標値θ1(n)との差分を、第2項は状態量x1(n)の
微分値(制御周期当たりの変化量)を表す。従って、σ
(n)=0とすることは、差分をゼロ、微分値をゼロする
ことであり、差分をゼロにすることは目標値に到達させ
ることを、しかも微分値をゼロにすることはその目標値
の位置に静止させることを意味する。すなわち、(5
9)式によれば、切換関数を、状態量x1(n)を目標値
θ1(n)へと収束させるという所望の動作特性が得られ
るために必要な構成とすることができている。言い換え
ると切換関数は、本来、状態を最適な形に持っていくた
めに設計するのであるが、上記(53)式により状態量
2(n)についても物理的な意味が明確になったため、
状態量x1(n)の目標値θ1(n)との差分及び状態量x
1(n)の微分値がゼロとなるような切換関数を設定でき
た。
【0174】また、上記(6)式に代えて本願の第2実
施形態では次のようになる。
【0175】
【数10】
【0176】従って、この(61)式においてdet(mat
SmatE)-1≠0であればこのシステムの線形入力(等価
制御入力)はスカラーで記述すると、次のようになる。
【0177】 ueq(n)=(b1+b0){a11(n)+a02(n) −(a0+a1)θ1(n)+(S+1)-1(x1(n)−θ1(n)))} …(62) 次に、非線形入力unl(n)は状態量を切換線に向けて移
動することを目的としており、チャタリングを最小に抑
えることが要求される。切換関数σ(n)=matSmate
(n)=0と状態量との距離がチャタリングに密接に関係
して影響を及ぼすため、図23のような平滑化関数(縦
軸の値)を導入する。すなわち、1入力の場合の非線形
入力は、 unl(n)=−η・sgn[σ(n)]=−η・σ(n)/|σ(n)|…(63) の式で定義されることから、チャタリングを除去するた
め平滑化関数を導入すると、非線形入力は(63)式に
代えて次のようになる。
【0178】 unl(n)=−η・σ(n)/(|σ(n)|+δ)…(64) ただし、η:非線形ゲイン、 δ(>0):平滑化定数、 ここで、本願の第1実施形態の上記(15)式の非線形
入力unl(n)は、周知の到達則を用いて与えたものであ
ったが、この(15)式の非線形入力unl(n)によれ
ば、チャタリングは出ないものの応答性が悪いという特
性がある。一方、上記(63)式によれば応答性はよい
がチャタリングが出る。これに対して上記(64)式に
よれば応答性がよい上にチャタリングも出ないのであ
る。
【0179】また、(64)式によれば単純な正負で補
正する量を与えるため、本願の第1実施形態の上記(1
5)式よりも式そのものがシンプルとなった。
【0180】このように、本願の第2実施形態によれ
ば、状態量x1(n)、x2(n)が(53)式の関係を満た
すように、上記(54a)、(54b)、(55a)、
(55b)の各式で示した状態方程式のシステム行列ma
tD、入力行列matE、出力行列matFを見直し、それら
の行列を上記(56)式、(57)式、(58)式によ
り定義される値としたので、状態量x2(n)についても
物理的な意味が明確となった。すなわち、本願の第2実
施形態によれば、上記(53)式で示したように状態量
2(n)は、状態量x1(n)の前回値を表すこととなる。
【0181】また、切換関数についても、上記(59)
式に示したように切換関数を、状態量x1(n)について
所望の動作特性が得られるために必要な構成としたの
で、目標値θ1(n)の変化に対しても十分な空燃比補正
値を得ることができる。
【0182】例えば、目標値θ1(n)が理論空燃比(ほ
ぼ14.7)からリーン空燃比(例えば16)へとステ
ップ変化した場合の空燃比応答を図21に示すと、本願
の第2実施形態では状態量x1(n)の応答が本願の第1
実施形態より良くなるため(図21上段の破線参照)、
空燃比フィードバック補正値ALPHAの応答も本願の
第1実施形態より良くなり(図21下段の破線参照)、
空燃比制御性能が向上している。
【0183】実施形態では2入力、2出力の状態方程式
の場合で説明したが、これに限られるものでない。
【0184】実施形態では目標空燃比が変化する場合で
説明したが、目標空燃比が一定の場合にも適用がある。
例えば理論空燃比を目標とする空燃比フィードバック制
御にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ガソリンエンジンのシステム構成図。
【図2】スライディングモードコントローラの制御ブロ
ック図。
【図3】無駄時間のない離散系2次のプラントモデル。
【図4】プラントモデルを同定するのに用いるシリンダ
内空燃比のステップ応答を示す波形図。
【図5】スライディングモード制御における誤差の状態
量の変化を位相平面上に示した図。
【図6】スライディングモード制御設計を説明するため
のフローチャート。
【図7】空燃比フィードバック補正値の演算を説明する
ためのフローチャート。
【図8】切換関数ゲインの設定を説明するためのフロー
チャート。
【図9】固定積分ゲインを用いたときの低回転速度時の
ALPHAの変化波形図。
【図10】固定積分ゲインを用いたときの高回転速度時
のALPHAの変化波形図。
【図11】可変積分ゲインを用いたときの高回転速度時
のALPHAの変化波形図。
【図12】積分ゲインの演算を説明するためのフローチ
ャート。
【図13】システム行列の要素a0に応じた総制御入力
の演算を説明するためのフローチャート。
【図14】先願装置2の実施形態のスライディングモー
ドコントローラの制御ブロック図。
【図15】スミス法を伝達関数で表示したブロック図。
【図16】外乱補償形スミス法を伝達関数で表示したブ
ロック図。
【図17】先願装置2の実施形態の予測状態変数の演算
を説明するためのフローチャート。
【図18】先願装置2の実施形態のシステム行列、入力
行列、モデル無駄時間の演算を説明するためのフローチ
ャート。
【図19】先願装置2の実施形態のモデル無駄時間の切
換時の解析を示すための波形図。
【図20】先願装置2の実施形態のモデル無駄時間切換
時の予測状態変数の演算を説明するためのフローチャー
ト。
【図21】本願の第2実施形態の作用を説明するための
波形図。
【図22】本願の第2実施形態のスライディングモード
制御における誤差の状態量の変化を位相平面上に示した
図。
【図23】本願の第2実施形態の平滑化関数の特性図。
【符号の説明】
5 燃料噴射弁 7 三元触媒 11 エンジンコントローラ 16 上流側広域空燃比センサ(空燃比検出手段) 21 目標空燃比演算部 22 スライディングモードコントローラ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) G05B 13/00 G05B 13/00 A Fターム(参考) 3G084 BA09 BA13 DA00 DA04 DA05 EB08 EB13 EB14 EB15 EB17 EC04 FA07 FA10 FA20 FA30 FA33 FA38 3G301 HA01 JA03 JA08 JA18 LA03 LB02 MA01 MA12 NA03 NA04 NA05 NA09 NC02 ND05 ND18 ND25 ND42 ND45 PA01Z PA11Z PD09Z PE01Z PE08Z 5H004 GA17 GB12 HA13 KA74 LA02 LA12

Claims (14)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】排気の空燃比を検出する空燃比検出手段
    と、 エンジンの排気系及び前記空燃比検出手段の動特性を離
    散系2次の伝達関数で近似しシリンダ吸入空燃比のステ
    ップ応答より同定することによりこの離散系2次の伝達
    関数を設定する伝達関数設定手段と、 この離散系2次の伝達関数を離散系2次の状態方程式に
    変換する手段と、 この離散系2次の状態方程式に基づいて前記空燃比検出
    手段により検出される排気の空燃比が目標空燃比と一致
    するようにスライディングモード制御を用いた空燃比の
    フィードバック制御を行う空燃比フィードバック制御手
    段とを備えることを特徴とするエンジンの空燃比制御装
    置。
  2. 【請求項2】前記同定を最小2乗法を用いて行うことを
    特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装
    置。
  3. 【請求項3】前記同定をARXモデルを用いて行うこと
    を特徴とする請求項1に記載のエンジンの空燃比制御装
    置。
  4. 【請求項4】前記空燃比のフィードバック制御は燃料供
    給量のフィードバック制御であることを特徴とする請求
    項1から3までのいずれか一つに記載のエンジンの空燃
    比制御装置。
  5. 【請求項5】前記空燃比フィードバック制御手段は、前
    記離散系2次の状態方程式の状態変数と目標値の状態量
    との差を誤差の状態量として演算する手段と、この誤差
    の状態量に切換関数ゲインを乗算して状態量を演算する
    手段と、この切換関数ゲインの乗算された状態量に基づ
    いて非線形入力を演算する手段と、同じくこの切換関数
    ゲインの乗算された状態量に基づいて線形入力を演算す
    る手段と、これら非線形入力と線形入力の和を総制御入
    力として算出する手段と、この総制御入力に基づいて前
    記燃料供給量のフィードバック制御値を演算する手段と
    からなることを特徴とする請求項4に記載のエンジンの
    空燃比制御装置。
  6. 【請求項6】目標空燃比が変化する場合に前記線形入力
    に代えてこれを積分した値を用いることを特徴とする請
    求項5に記載のエンジンの空燃比制御装置。
  7. 【請求項7】排気通路に酸素ストレージ機能を有する触
    媒と、この触媒の前後にあって排気中の酸素濃度を検出
    する一対のセンサとを備える場合に、この一対のセンサ
    の出力に基づいて前記触媒の酸素ストレージ量を最適化
    する空燃比を目標空燃比として演算することを特徴とす
    る請求項6に記載のエンジンの空燃比制御装置。
  8. 【請求項8】前記積分する際の積分ゲインと前記切換関
    数ゲインとの関係を前記線形入力の式から求め、前記目
    標空燃比への応答の時定数が最適となるように前記積分
    ゲインを決定し、この決定した積分ゲインより前記関係
    を用いて切換関数ゲインを算出することを特徴とする請
    求項6に記載のエンジンの空燃比制御装置。
  9. 【請求項9】前記積分ゲインを回転速度に応じて定める
    ことを特徴とする請求項8に記載のエンジンの空燃比制
    御装置。
  10. 【請求項10】前記離散系2次の状態方程式は、 matx(n+1)=matAmatx(n)+matBu(n) maty(n)=matCmatx(n) ただし、matx(n+1):時刻n+1の状態変数、 matx(n):時刻nの状態変数、 maty(n) :時刻nの出力、 u(n) :時刻nの入力、 matA :システム行列、 matB :入力行列、 matC :出力行列、 であることを特徴とする請求項5に記載のエンジンの空
    燃比制御装置。
  11. 【請求項11】前記システム行列matAの状態により前
    記切換関数ゲインmatSの符号を変化させることを特徴
    とする請求項10に記載のエンジンの空燃比制御装置。
  12. 【請求項12】前記離散系2次の伝達関数が Geng(q)=(b1q+b0)/(q2+a1q+a0) (無駄時間の項を除く) ただし、Geng(q):プラントの伝達関数、 q :離散系シフトオペレータ、 a1、a0 :微分係数、 b1、b0 :微分係数、 である場合に、前記システム行列matA、入力行列mat
    B、出力行列matCは次式により定義される値であるこ
    とを特徴とする請求項10に記載のエンジンの空燃比制
    御装置。 【数1】
  13. 【請求項13】前記離散系2次の伝達関数が Geng(q)=(b1q+b0)/(q2+a1q+a0) (無駄時間の項を除く) ただし、Geng(q):プラントの伝達関数、 q :離散系シフトオペレータ、 a1、a0 :微分係数、 b1、b0 :微分係数、 である場合に、前記システム行列matA、入力行列mat
    B、出力行列matCは次式により定義される値であるこ
    とを特徴とする請求項10に記載のエンジンの空燃比制
    御装置。 【数2】
  14. 【請求項14】前記切換関数ゲインの乗算された状態量
    σ(n)は、 σ(n)=S(x1(n)−θ1(n) )+(x1(n)−x
    2(n) ) ただし、x1(n)、x2(n) :状態変数matx(n) の要
    素、 θ1(n) :x1(n)の目標値、 であることを特徴とする請求項13に記載のエンジンの
    空燃比制御装置。
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