JP2003045372A - イオン蓄積装置におけるイオン選別の方法 - Google Patents

イオン蓄積装置におけるイオン選別の方法

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    • H01J49/42Stability-of-path spectrometers, e.g. monopole, quadrupole, multipole, farvitrons
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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】イオン蓄積装置において、イオンを短時間に高
分解能で選別し、また選別直後のイオンの振動を小さく
する方法を提供する。 【解決手段】イオン蓄積装置でイオン蓄積空間にイオン
選別用電界を印加することによって特定の質量/電荷比
の範囲のイオンを選別する方法において、前記イオン選
別用電界が基本的に周波数をスキャンする波形をもとに
して合成され、前記イオン蓄積空間に残したい前記質量
/電荷比の範囲のイオンの固有振動数において、前記基
本的に周波数をスキャンする波形を前記固有振動数の前
後で、符号が反転する重み係数を掛け合わせたり、ある
いは波形の位相項にπの奇数倍の位相項を付加したりす
ることなどによって、反対称な波形とすることを特徴と
する前記イオン選別の方法を用いる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、イオン蓄積装置に
おいて、イオンを短時間に高分解能で選別し、また選別
直後のイオンの振動を小さくする方法に関する。
【0002】
【従来の技術】イオンを蓄積して分析する装置におい
て、例えばフーリエ変換イオンサイクロトロン共鳴(FT
ICR)装置やイオントラップ型質量分析装置において、
イオンが蓄積された状態を保ちながら、イオン蓄積空間
に特別な電界を与えることにより、任意の質量/電荷
(m/e)比のイオンを選択的に排除することにより、
イオンを分離/選別する手法が用いられている。このイ
オンを蓄積した状態で選別する手法により、MS/MS
と呼ばれる質量分析方法が可能となる特徴がある。すな
わち、イオン発生器からイオン蓄積装置へと導入された
様々なm/e比を持つイオンに、イオン選別用電界を作
用させることによって、特定のm/e比を持つイオンの
みがイオン蓄積空間に残され、他のイオンはすべて排除
される。次に別の特別な電界を加えることにより、この
選別されたイオン(プリカーサイオン)を分解して断片
化し、断片イオン(フラグメントイオン)を生成する。
その後、装置パラメータを変化させることによって、イ
オン蓄積空間に生成された断片イオンをイオン検出器に
放出して質量スペクトルを収集する。この断片イオンの
スペクトルにはプリカーサイオンの構造情報が反映され
るため、単にm/e比の分析だけではわからなかったプ
リカーサイオンの構造を決定することが可能になる。複
雑な構造を持つイオンに対しては、イオン蓄積装置内部
での選別と断片化を繰り返すことによって、より詳しい
構造情報を得ることも可能である(MSn分析)。
【0003】イオンを選別する特別な電界は、通常、イ
オン蓄積空間を形成している対向する電極に正負の極性
の電圧波形を印加することにより、イオン蓄積の条件を
変化させることなく形成される。特に、イオントラップ
型質量分析装置においては、二つのエンドキャップ電極
に極性が反転した電圧波形が与えられており、一方イオ
ン蓄積の条件はリング電極に与えられる高周波(RF)
電圧により独立に決定されている。
【0004】イオン蓄積装置に蓄積されているイオン
は、そのイオンのm/e比に応じた固有の周波数で、イ
オン蓄積空間の中を振動運動している。そこにイオンを
選別する特別な電界が印加されると、イオンはこの電界
により揺さぶられる。この電界の周波数成分の中にイオ
ンの固有振動数に近い周波数が含まれていると、イオン
の振動がこの電界の周波数成分に共鳴し、振幅は次第に
大きくなる。しばらくすると、イオンはイオン蓄積装置
を構成する電極に衝突したり、電極の開口部から放出さ
れたりして、イオン蓄積空間から失われる。イオントラ
ップ型質量分析装置の場合には、イオンの固有振動数は
径方向と軸方向とで異なるが、通常は軸方向の固有振動
数を利用することで、イオンを軸方向に排除している。
【0005】イオン選別の波形には、Stored Waveform
Inverse Fourier Transform(SWIFT;米国特許4,761,54
5)やFiltered Noise Field(FNF;米国特許5,134,826)な
どが用いられている。これらの波形は、多数の周波数の
正弦波を加え合わせることにより合成されているが、適
当な周波数成分だけを含まない(ノッチ)ように合成さ
れている。これら波形によって生成されるイオン選別用
電界の強度は、波形に含まれている周波数成分に共鳴す
る固有振動数を持ったイオンがすべてイオン蓄積空間か
ら排除されるように決められている。しかし、波形に含
まれていない周波数(ノッチ周波数)成分に近い固有振
動数を持つイオンは、電界と共鳴しないため、小さな振
幅で振動させられることはあっても、振幅が時間ととも
に増加することはなく、イオン蓄積空間から排除される
こともない。したがって、これらの特定の固有振動数を
持つイオンだけが選択的にイオン蓄積空間に残ることに
なり、イオンの選別が行われる。
【0006】しかし、励起電界の周波数がイオンの固有
振動数から多少ずれている場合でもイオンの振動は励起
されて振幅が増加するため、実際のイオンの選別は単に
周波数成分が含まれているかどうかだけでは決定できな
い。このため、ノッチ周波数には一定の周波数幅が持た
せてある。そして、ノッチ周波数の境界部分の固有振動
数を持つイオンの振動は不安定である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】SWIFTやFNFに代表され
る従来のイオン選別用波形においては、イオン蓄積空間
に残すイオンの固有振動数が、選別波形の周波数成分に
含まれるかどうかだけに着眼されていた。実際の質量分
析においては、イオン選別の後には様々な処理(プロセ
ス)が行われる。例えば、フラグメントイオンを生成す
るために、プリカーサイオンの運動を電界により励起し
たりする。このときには、プリカーサイオンがイオン蓄
積空間から排除されないように、励起用電界の強度を調
整する必要があるが、電界の強度を小さくしすぎるとフ
ラグメントイオン生成の効率が下がってしまう。このた
め、電界の強度は精密に制御される必要があるが、励起
用電界を与える前のイオン振動の初期振幅が大きい場合
には小さな電界強度においてもイオンが排除されてしま
う。イオントラップ型質量分析装置においては、フラグ
メントイオンを生成する前に、RF電圧を下げて、生成
されたフラグメントイオンが蓄積可能となる条件を整え
る必要があるが、このときにもプリカーサイオンの振動
の初期振幅が大きい場合には運動が不安定になり、イオ
ンが排除されてしまう場合がある。したがって、フラグ
メントイオン生成の前には、イオンの振動が小さくなる
のを待つためのクーリングプロセスが必要となる。この
ようなプロセスの追加によって全プロセスの実行に必要
な時間が延びるため、システムのスループットが低下す
るという問題がある。
【0008】また、イオントラップ型質量分析装置にお
いては、イオン蓄積空間におけるRF電界強度がイオン
のm/e比に応じて固有振動数を決めているが、実際の
装置におけるRF電界は理論的な四重極電場からずれて
おり、したがって固有振動数も一定値ではなくイオンの
振幅に応じて変化する。特に、エンドキャップ電極に
は、イオンの導入や排出に用いられる開口部が存在し、
イオンの振幅がこの付近に近づいたときの固有振動数
は、イオン蓄積空間の中央部での固有振動数よりも小さ
くなる。このため、イオン蓄積空間の中央部でノッチ周
波数より少し高い固有振動数を持つイオンは、中央部で
は励起電界によって振幅を増大させるが、振幅の増大に
伴って固有振動数が小さくなりノッチ周波数に近づくた
め、イオンの励起は弱まり、ある一定の振幅のところで
振幅は減少に転じる。
【0009】一方、イオン蓄積空間の中央部でノッチ周
波数から少し低い固有振動数を持つイオンは、振動が励
起されることにより振幅が大きくなると、固有振動数が
次第にノッチ周波数からずれてゆくため、励起の効率が
一層高まりイオン蓄積空間から排除される。このよう
に、ノッチ周波数を決めても、このノッチ周波数とイオ
ンの固有振動数を比較するだけではイオンが排除される
かどうかが決まらず、励起電界の強度や固有振動数の振
幅依存性などによって大きな影響を受けることになる。
このため、ノッチ周波数の周波数幅を十分に小さくする
事ができず、イオン選別の分解能を大きくすることがで
きないという問題がある。
【0010】従来の技術においては、励起用電界を与え
た際のイオンの運動状態について理論的に詳細に記述さ
れたことはなく、経験的・実験的手法によりノッチ周波
数幅を変えたり、励起用電圧の大きさを決定したりして
いた。上記の問題を解決するには、単に周波数成分の有
無を議論するだけではなく、イオンの運動の時間変化を
正確に記述する必要がある。そのため、ここでは多少複
雑な数式を用いることになるが、まずこれら従来技術を
用いた場合のイオンの振る舞いを示しておく。
【0011】最初にイオンの運動方程式を記述する。イ
オントラップ型質量分析装置の場合には、装置回転軸方
向にz軸をとる。イオン蓄積空間におけるイオンの運動
は、よく知られたMathieu方程式で表されるが、ここで
は取り扱いを簡単にするために、RF電圧の周波数に対
応したイオンの運動については平均化し、その中心位置
をで表すことにすると、イオンに働く平均的な力は、イ
オン蓄積空間の中心からの距離にほぼ比例することにな
り(pseudo-potential well モデル;例えば、"Practic
al Aspects of Ion Trap Mass Spectrometry, Volume
1", CRC Press 1995, p.43)、以下の運動方程式で表さ
れる。
【数式1】 ここで、mとeとωzはそれぞれイオンの質量と電荷と
固有角振動数、fs(t)は外力、VとΩはRF電圧の振幅
と角周波数、z0はイオントラップ中心からエンドキャ
ップ先端までの距離を表す。また、FTICR装置において
も、zを旋回運動面内でイオンの振動励起を行なう方向
の振幅と見なすことで、同様の取り扱いが可能となる。
【0012】外力fs(t)が単一周波数の励起電界である
場合には、
【数式2】 と表される。ここで、Fs(=eEs)は外力の振幅値、
sはそれによってイオン蓄積空間に生成される電界強
度、ωsは外力の角周波数、jは虚数単位を表す。実際
のイオントラップ質量分析装置等においては、対向する
エンドキャップ電極に反対の極性の電圧±vsを印加し
ても、イオン蓄積空間内部の電界強度は完全に一様には
ならないが、これを一定値Es=vs/z0で近似してい
る。また、振幅を複素数表示しているが、得られた解の
(例えば)実数部をとれば、実数値の実際の振幅が得ら
れる。また、任意位相項を省略しているが、結果に大き
な違いを与えないので、以降の取り扱いにおいても定数
位相項をたびたび省略している。
【0013】このfs(t)の式を運動方程式に代入すれ
ば、定常解として、
【数式3】 が得られる。但し、Δω=ωz−ωsは、励起電界の周波
数vとイオンの固有振動数ωzとのずれを表している。
また、運動方程式の一般解については、たとえば初期位
置がz=0で初速度がdz/dt=0の場合にはこの定常解の
2倍の振幅まで達する振動を繰り返すことになり、イオ
ンの初期条件に応じて振動の状態は大きく異なる。イオ
ンの固有振動数ωzが励起電界の振動数ωsに近い場合に
は、すなわちΔωが小さい場合には、イオンの振動振幅
zが大きくなって、イオンを排除することができる。
【0014】FNFのように励起電界を多数の周波数の正
弦波を加え合わせることにより合成する場合、励起電界
の周波数の間隔を十分に細かくし、また励起電界の周波
数の間に位置する角振動数を持ったイオンでも排除でき
るようにするために適当な強度の励起電界を与えれば、
すべてのイオンを排除することができる。特定のm/e
を持つイオンを残すためには、励起電界からこのイオン
の角振動数に近い周波数の成分を除去することになる。
しかし、このイオンの運動は、ノッチ周辺の周波数成分
の位相により大きな影響を受ける。例えば、イオンの角
振動数がωzでノッチの中央に位置し、ノッチの幅が2
Δωとする時、ノッチのすぐ外側の周波数はωz±Δω
となる。それぞれの周波数成分の位相をΦ1、Φ2とする
と、合成された波形は(わかりやすくするために三角関
数を使って表示すると)
【数式4】 となり、ちょうどイオンの固有角振動数ωzに一致する
励起周波数が現れる。このため、イオンの角振動数ωz
がノッチの中央に位置していても、このイオンは励起を
受けることになる。また、二つの周波数の差2Δωに依
存するコサイン関数のエンベロープにしたがって、励起
電圧の初期振幅が大きく変化することになり、イオンの
振動もこのエンベロープ関数の位相の影響を強く受け
る。ノッチの外側にはさらに多くの励起電界の周波数成
分が存在し、それらの位相が相互に関連し合うため、イ
オンの挙動を正確にコントロールすることは非常に困難
である。
【0015】このことは、励起用波形の周波数成分ある
いはフーリエ変換の係数に特定の周波数が含まれている
かどうかだけでは、イオンの実際の運動を記述すること
ができないということを示唆している。したがって、FN
Fのように励起電界の各周波数成分の位相がランダムで
ある場合には、ノッチ周辺における各周波数成分の位相
の相互関係を十分に制御できず、高い分解能でイオン選
別を行うことが困難である。このような問題を回避する
には、SWIFTのように各位相に関連を持たせた波形を使
用することも考えられる。ある時刻にイオンを励起する
電界の周波数成分が複数存在すると、それら周波数成分
間の相互位相の取り扱いが複雑になる。したがって、最
も単純な波形は周波数を時間と共に変化させることであ
り、しかも周波数の変化率が一定である場合が最も解析
に都合が良い。そこで、周波数を一定速度でスキャンす
る場合のイオンの運動状態を、数式を用いて記述するこ
とにする。
【0016】イオン選別の波形が時間に依存する位相Φ
(t)を用いて
【数式5】 で表されるとし、時刻における位相と角周波数をそれぞ
れΦ0、ω0、角周波数の変化率をaとする。時刻tにお
いて実際にイオンに作用している実効角周波数ω e(t)
は、Φ(t)の時間変化率に等しいので、
【数式6】 と表される。このように位相Φ(t)は時間tの二次式で
表される。
【0017】次に、この外力にどのような周波数成分が
含まれているかを調べるために、これをフーリエ変換す
ると、
【数式7】 が得られる。したがって、角周波数をスキャンする波形
のフーリエ係数F(ω)の位相は、角周波数ωの二次関数
の形となっている。
【0018】ここでフーリエ係数F(ω)の位相を、δω
間隔のとびとびの周波数ωk=kδω(但し、kは整
数)で離散化すると、fs(t)をSWIFTの場合と同様の形
【数式8】 と表すことができる。このように、周波数をスキャンす
る波形を離散化した場合の各周波数成分の定数位相項Φ
I(k)は、kの二次式で表現される。仮に隣り合う二つの
周波数成分、ωkとωk+1の位相が時刻tkにおいて等し
くなったとする。すなわち、
【数式9】 であるから
【数式10】 が導かれる。これは隣接する周波数成分の位相が一致し
て強め合っている場合には、その周波数が合成波形f
I(t)のその時刻tkにおける実効的な周波数となってい
ることを意味する。したがって、離散化の周波数の間隔
δωが十分に小さければ、fI(t)は周波数スキャン波形
s(t)の良い近似になっている。したがって、これから
展開する連続波形fs(t)についての議論は、周波数が離
散化された波形fI(t)を用いる場合にも全て適用可能で
ある。
【0019】以後、簡単のためにω0=0、Φ0=0とす
るが、これはt=0でωe(t)=0となるように時間軸を
シフトし、定数位相をFsに含めてしまえば良いので、
一般性を失わない。fs(t)が大きすぎることがなければ
イオンは角振動数ωzの単振動を行なうので、振幅zを
単振動にゆっくり変化するエンベロープ関数Z(t)を掛
け合わせた式で表現すると、運動方程式を次のように近
似することができる。
【数式11】 一方、外力の項は
【数式12】 と表されるので、これを運動方程式に代入することによ
り、
【数式13】 が得られる。ここで外力の係数Fsが時間に依らず一定
の値F0をとるとし、また初期振幅値をZ(-∞)=0と
すると、エンベロープ関数Z(t)は
【数式14】 と求まる。但し、C(u)とS(u)はフレネル積分を表し、
角括弧内の値は図2において(−1/2,−1/2)の点と
(C(u)、S(u))の点とを複素平面上の点とみなして結
んだ時の長さを表している。
【0020】励起波形の実効角周波数ωe(t)がちょうど
イオンの固有振動数ωzと一致した時には、変数値はu
=0となり、図2の原点を表すことになる。周波数スキ
ャンの波形をかけ終わった後では、(C(u)、S(u))が
(+1/2、+1/2)に移動するので角括弧内の値は(1+
j)になり、イオン振動の残留振幅Z(+∞)は
【数式15】 となる。この計算では、励起波形の振幅係数を常に一定
値F0としていたので、ノッチ無しの励起波形を与えた
場合に相当している。mとωzはほぼ反比例するので、
残留振幅Z(+∞)=Zmaxは質量mに依らずほぼ一定で
ある。このエンベロープ関数の大きさ|Zmax|が、イ
オン蓄積空間の大きさz0よりも大きくなるようにF0
選択すると、全ての質量/電荷(m/e)比のイオンが
イオン蓄積空間から排除されることになる。但し、イオ
ントラップ型質量分析装置の場合では、イオンの実際の
振動はpseudo-potential wellモデルによる中心位置の
周りをおよそ(qz/2)zの振幅でRF周波数Ωの振動運動
を行なっている。ここで、q zはイオンの蓄積条件を表
すパラメータであり、
【数式16】 と表される。このため、最大振幅はおよそ|Z(+∞)|
(1+qz/2)であり、低質量数のイオンでqzが大きくなる
ほど増加することに留意する必要がある。
【0021】イオン励起用の波形にノッチがある場合に
は、励起波形の振幅係数Fsは時間tの関数、あるいは
実効周波数ωe(t)=atの関数として記述される。ただ
し、従来の技術においては、単にノッチ内の周波数成分
の振幅をゼロにする方法がとられている。すなわち、F
s
【数式17】 と表される(図3)。時刻tが、t1<t<t2の間は外
力が加わらないので、励起用波形が与えられた後でのエ
ンベロープ関数、すなわち残留振幅Z(+∞)は、先程と
良く似た式で表され、
【数式18】 で与えられる。ここでu1、u2は時刻t1、t2における
フレネル関数の変数値である。ノッチ無しの励起波形の
場合と同様に、最後の角括弧内の値は図2において(-1
/2,-1/2)の点から(C(u1)、S(u1))の点までと、
(C(u2)、S(u2))の点から(+1/2、+1/2)の点までの
長さをベクトル的に加えた長さを表す。あるいは(-1/2、
-1/2)の点から(+1/2、+1/2)の点までの長さから(C
(u1)、S(u1))の点から(C(u2)、S(u2))の点までの
長さをベクトル的に引いた長さを表す。u1とu2が原点
をはさんで対称に配置されている時、すなわちu2=-u
1>0の時、残留振幅|Z(+∞)|はノッチ無しの場合の
maxよりも小さくなる。u2(=-u1)の値が大きくな
るほど|Z(+∞)|は小さくなっていくが、u2(=-
1)が1を超えるとその減り方は緩やかになる。
【0022】イオンを分離する場合には、選択的に残し
たいイオンの固有振動数ωzが、ノッチの周波数範囲ωe
(t1)とωe(t2)の中央にくるようにt1、t2が選
ばれる。すなわち、時刻tc≡(t1+t2)/2での周
波数ωc≡ωe(tc)=(ωe(t1)+ωe(t2))/2と
ωzが等しくなるようにする。この時、このイオンの残
留振幅|Z(+∞)|は小さくなりイオン蓄積空間の大き
さを超えないので、このイオンはイオン蓄積空間に蓄積
された状態に保たれる。ノッチの間隔、すなわちωe(t
1)とωe(t2)の間隔を広げると、より広い質量範囲の
イオンがイオン蓄積空間に残されることになり、イオン
選別の分解能が低下することになる。そこでノッチの間
隔はできるだけ狭く設定されるが、残したいイオンの残
留振幅|Z(+∞)|は増加して、ノッチのない時の残留
振幅の値へと近づく。さらに、ノッチの間隔を狭くして
いくと、他の排除したいイオンと一緒に、残したいイオ
ンもイオン蓄積空間から放出されてしまうことになる。
したがって高いイオン選別の分解能を得るためには、周
波数差|ωe(t)−ωz|を小さく保ったまま|u|を大
きくするために、角周波数のスキャン速度aを小さくし
て√(aπ)を小さくする必要がある。しかしそのため
には周波数範囲をスキャンするのに必要な時間が延びる
ことになり、一連のプロセスを処理する時間が延びて装
置のスループットが低下するという問題がある。
【0023】また、仮にu1=-1、u2=+1とした場
合、角括弧内の値の絶対値(長さ)は0.57程度となり、
ノッチから外れたイオンの場合の角括弧内の値の絶対値
の1.41に比べて十分に小さいとは言えない。例えば、ノ
ッチから外れた不要なイオンについては、選別波形をか
けた後での残留振幅Zmaxが1.41z0となるように励起電
圧を調整して、イオン蓄積空間から排除する。この時、
ノッチ中央の周波数ωcと等しい固有振動数を持つ残し
ておきたいイオンの残留振幅は0.57z0となるので、イ
オンは蓄積状態には保たれるがその運動は比較的不安定
である。選別波形をかけている途中での最大振幅は0.75
0程度にまで増大し、エンドキャップ電極の穴の影響
を受けてイオンの固有振動数が変化する領域に達してお
り、初期条件によってはイオン蓄積空間から排除されて
しまうこともある。
【0024】仮に、角周波数のスキャン速度を4倍に増
やしてu1=-0.5、u2=+0.5にすると、周波数スキャン
に要する時間を1/4に短縮することができる。しか
し、ノッチ中央の周波数ωcと等しい固有振動数を持つ
残しておきたいイオンの残留振幅は0.87z0となり、選
別波形を与えている途中でほとんど全てのイオンが排除
されてしまうことになる。
【0025】このように、従来の技術を用いた場合に
は、実用的なイオン選別の時間においてイオン選別の分
解能を十分に高めることが困難であるという問題があ
る。言いかえると、イオン選別の分解能を高めようとす
ると、分解能の2乗に比例してイオン選別の時間が伸び
てしまうという問題がある。さらに、イオン選別波形を
かけた直後のイオンは大きな残留振幅で振動しており、
イオン蓄積空間内部のガスと衝突して分解したりするの
で、非常に不安定な状態にある。また、次のプロセスに
移る前にイオンの振動を静めるために十分なクーリング
の時間を必要とする、などの問題がある。さらに、FNF
のように励起電界の各周波数成分の位相がランダムであ
る場合には、ノッチ周辺の周波数成分の位相の相互関係
を十分に制御できず、高い分解能でイオン選別を行うこ
とが困難である、という問題がある。
【0026】本発明は、このような課題を解決するため
になされたものであり。その目的とするところは、イオ
ン蓄積装置において、イオンを短時間に高分解能で選別
し、また選別した直後のイオンの振動を小さくする方法
を提供することにある。
【0027】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
に、本発明は、イオン蓄積装置でイオン蓄積空間にイオ
ン選別用電界を印加することによって特定の質量/電荷
比の範囲のイオンを選別する方法において、前記イオン
選別用電界が基本的に周波数をスキャンする波形をもと
にして合成され、前記イオン蓄積空間に残しておきたい
前記質量/電荷比の範囲のイオンの固有振動数の前後で
前記基本的に周波数をスキャンする波形を反対称な波形
とすることを特徴とする。本発明に係るイオン蓄積装置
においてイオンを短時間に高分解能で選別し、また選別
した直後のイオンの振動を小さくする方法では、基本的
に周波数をスキャンする選別用波形を用い、そのノッチ
の前後において符号の反転する重み係数を掛け合わせ
る。あるいは別の表現をすると、ノッチの前後において
イオン選別用波形の位相項に(2k+1)π(但しkは
任意の整数)の位相変化を与える。また、特に高分解能
用の選別波形においては、スキャンの方向を周波数が減
少する向きに設定する。さらに、異なるスキャン速度を
持つ複数の選別用波形を用いることによって選別に要す
る時間を短縮することができる。
【0028】スキャンする周波数範囲の境界において
は、振幅の重み係数を時間に比例してゆっくりと変化さ
せることで、選別用波形をかけた後で選択的にイオン蓄
積空間に残されているイオンの残留振幅を小さくするこ
とができる。また、ノッチの形状も、ノッチの周波数の
前後で重み係数が反対称になるようにすれば、任意に設
定することができる。
【0029】図1に、本発明に係るイオン選別の波形f
(t)と、この波形を合成するために用いる重み係数Fs
(t)とを模式的に表した図を示す。また、本発明に係る
波形においては、ノッチ周波数の幅をゼロにした場合に
おいてもイオンの選別が行なえるという特徴がある。前
記基本的に周波数をスキャンする選別用波形には、離散
化された周波数成分の正弦波を加え合わせることによっ
て合成される波形で、周波数成分の定数位相項がその周
波数の二次関数の形あるいはその周波数と一次式の関係
にある変数の二次関数の形で与えられる場合も含まれて
いる。
【0030】
【発明の実施の形態】ここでは、前記課題を解決するた
めの手段を、数式を用いて詳細に解説する。従来の技術
においては、励起波形を周波数成分で記述する際、その
複素振幅を極座標表示することにより、大きさと位相を
用いて表していた。したがって振幅の大きさは常にゼロ
又は正(非負)の実数値であり、ノッチ周波数において
はゼロ、ノッチ以外のところでは正の一定値をとるよう
に与えられていた。したがって、従来技術ではノッチ周
波数の前後で励起電圧を反転するための特別な工夫は与
えられていなかった。
【0031】本発明においては、励起電圧の符号を反転
するために、ノッチ前後において、位相項に(2k+1)
πの位相変化を与える。これをより簡単な形で表現する
ために、振幅には重み係数Fs(t)を掛け合わせ、この重
み係数の符号がノッチの前後で正負の反転した値をとる
ことができるようにすることで実現される。例えば、前
記Fs(t)を以下の式で与えることにする(図4)。
【数式19】 但し、t1、t2はノッチ周波数ωe(t1)=at1、ωe(t2)
=at2に対応する時刻である。先程と同様にして、励起
用波形が加えられた後でのエンベロープ関数、すなわち
残留振幅Z(+∞)を求めると、
【数式20】 となる。C(u)、S(u)はuの奇関数なので、u2=-u
1>0の時、すなわちイオンの固有角振動数ωzがノッチ
の中心周波数ωcに等しい場合には、残留振幅をゼロ
に、すなわちZ(+∞)=0とすることができる。また、
イオンの固有角振動数ωzがノッチの中心周波数ωcから
わずかにずれた場合には、|u|<1におけるフレネル関
数C(u)、S(u)の近似式、C(u)+jS(u)=uを用い
ると、残留振幅は
【数式21】 で表されることになり、イオンの固有角振動数ωzとノ
ッチの中心周波数ωcとのズレに比例する。但し、イオ
ンの固有角振動数ωzがノッチの中心周波数ωcからずれ
る時、u1とu2は同時に正あるいは負の方向にずれてゆ
くので、残留振幅Z(+∞)はノッチの周波数幅には依存
しない。イオンの固有角振動数ωzがノッチの中心周波
数ωcからさらにずれて、u1やu2の絶対値が1よりも
十分に大きくなると、Z(+∞)はノッチ無しの場合や従
来法でノッチ周波数からずれている場合の残留振幅Z
maxとほぼ同じ値になる。
【0032】イオンの振幅は励起電圧波形をかけている
途中で変化しているので、イオンの固有角振動数ωz
ノッチの中心周波数ωcに等しい場合には、ノッチ内部
で、すなわちt=t1からt=t2の間で振幅が最大とな
り、
【数式22】 で表される。一方、イオンの固有角振動数ωzがノッチ
の中心周波数ωcからずれている場合には、励起電圧波
形をかけている途中での振幅の最大値は、ノッチ無しの
残留振幅Zmaxへと近づいてゆく。従来技術の説明の時
と同様に、イオンの固有角振動数ωzがノッチの中心周
波数ωcから充分に外れている場合の残留振幅Zmaxを1.
41z0となるように励起波形の電圧を調節すると、u1=-
1、u2=1の場合での励起途中の最大振幅はおよそ0.29
0となり、従来技術の場合の0.75z0よりはるかに小さ
くなるのでイオンの選別は容易に行なわれる。さらにu
1=-0.5、u2=0.5とした場合においても約0.44z0であ
るので、充分なイオン選別能力がある。したがって、ノ
ッチの幅u2−u1が小さくてもイオンの最大振幅を従来
技術に比べて小さくできるので、同じノッチ周波数幅ω
e(t2)−ωe(t1)でイオンを選別する場合でも、角
周波数のスキャン速度aを大きくすることができ、イオ
ンの選別に要する時間を短縮することができる。
【0033】イオンの選別に充分な時間が与えられてい
る場合には、スキャン速度を遅くすることで与えられた
ノッチ周波数幅ωe(t2)−ωe(t1)に比べて√(a
π)を小さくする。するとu2−u1が大きくなるので、
固有角振動数ωzがノッチ内部に含まれているイオンの
最大振幅は小さくなり、イオン蓄積空間でのガスとの衝
突のエネルギーが減って分離の質が向上する。しかし、
実際にはイオンの選別に充分な時間がとれないために、
スキャン時間の条件からスキャン速度が決められるの
で、ωe(t2)−ωe(t1)を小さくすることでu2
1を小さくし、イオン選別の分解能を高める。u2−u
1を小さくすると励起途中の最大振幅が大きくなるの
で、現実的には先程の例で示したu1=-0.5、u2=-0.5
のあたりが適当と考えられる。
【0034】ここまでは、説明の都合上、積分の範囲を
(-∞、+∞)としていたが、実際には有限の周波数範囲
をスキャンすることになる。積分範囲が(-∞、+∞)の
場合には残留振幅がZ(+∞)=0であったのに対し、時
刻t3からt4まで励起波形を与える場合には(図5)、
すなわち重み係数が
【数式23】 で表される時には、残留振幅は
【数式24】 となって、Zにはならず、時刻t3、t4での周波数ズ
レat3−ωz、at4−ωzに反比例する項が残ってしまう。
但し、最後の式では時刻t3、t4での周波数ズレの大き
さが√(aπ)より大きいと仮定して近似している。
【0035】一般に、高分解能の選別を行なう際には、
スキャン速度を小さくすると同時にスキャンする周波数
範囲も狭くして、スキャンに要する時間を短縮しようと
するが、スキャンする周波数範囲を狭くするにつれて残
留振幅が大きくなってしまうという問題が生じる。そこ
で、本発明においては、周波数範囲の境界においては重
み係数を時間に比例して変化させることにする。時刻t
5からt3まで、重み係数Fs(t)をゼロからF0まで直線
的に増加させると(図6)、この部分からの積分値への
寄与は、
【数式25】 となって、先程の残留振幅Z(+∞)の式での第2項と打
ち消し合う。同様にして、時刻t4からt6まで、重み係
数F(t)を−F0からゼロまで直線的に増加させると
(図6)、この部分からの積分値への寄与は、先程のZ
(+∞)の式での第3項と打ち消し合う。よって、この
ようにスキャンする角周波数範囲の境界において重み係
数F(t)を時間に比例させて直線的に変化させること
により、有限の角周波数範囲をスキャンした場合にも残
留振幅はZ(+∞)=Zとなり、イオンの固有角振動数
ωzがノッチの中心周波数ωcに一致した場合の残留振幅
をゼロにすることができる。
【0036】スキャン範囲の境界の場合と同様に、ノッ
チ周波数の境界部分にも時間に比例した直線的な変化を
導入することができる。ただし、ノッチ形状の選択の任
意性は高いので、ノッチの中心周波数ωcの前後で反対
称になるような重み係数を選べば、同様の性能を得るこ
とができる。すなわち、ノッチの内部t1<t<t2にお
いて、Fs(t)がt=tcを中心にして奇関数になる条件
【数式26】 が成立すれば良い。この時、ノッチ内部からの残留振幅
への寄与は、
【数式27】 となる。イオンの固有角振動数ωzがノッチの中心周波
数ωcに一致する時、被積分関数はt=tcを中心にした
奇関数になっているので、この積分は常にゼロになる。
ノッチ内部で励起電圧がゼロになる波形では残留振幅が
ゼロであったので、ノッチ内部に反対称の重み関数を入
れた場合でもやはり残留振幅はゼロになる。
【0037】例えば、t1からt2まで直線的なスロープ
でつないだ重み係数もこの条件にあてはまる(図7)。
スキャン範囲の境界のスロープも合わせて重み係数F
s(t)を記述すると
【数式28】 となる。この時の残留振幅は
【数式29】 となり、ノッチ内部で励起電圧がゼロになる波形での残
留振幅と全く同じ式になる。ノッチ内部での振幅につい
ても、同様の計算を行うと、
【数式30】 となる。t=t1あるいはt=t2では、最後の括弧内の
第3項がゼロになり、ノッチ内部で励起電圧がゼロにな
る波形での最大振幅に一致する。また、t=(t1
2)/2では振幅が最大値に達する。イオンの固有角
振動数ωzがノッチの中心周波数ωcに等しい場合には、
t=0で振幅は最大となり、
【数式31】 となる。したがって、ノッチ内部で励起電圧がゼロにな
る波形と比べると、同じスキャン速度で2倍広いノッチ
周波数幅にした場合と同じ最大振幅になる。ノッチ内部
で励起電圧がゼロになる波形の場合の最適なノッチ幅が
1=-0.5、u2=0.5あたりであったので、この例で示
した、ノッチ内部を直線的なスロープでつないだ重み係
数を使用する波形の場合には、最適なノッチ幅がu1=-
1.0、u2=1.0あたりとなる。
【0038】これらのスロープを利用した重み係数を利
用すれば、特定の時刻において急激に電圧値をゼロに切
り替えることがないため、現実の電気回路を用いて波形
を出力する際に、波形が歪んでしまったり、応答が遅れ
るために二次的な問題が発生したりすることがなくな
る。実際の測定においては、ノッチの周波数幅を広げた
い場合が生じる。例えば、選別したいイオンには、組成
・構造が同じでも質量の異なる同位体が存在する場合が
ある。この同位体イオンから生成されるフラグメントイ
オンが共通しているなら、全ての同位体イオンを使って
構造情報を得れば、感度を向上することができる。ま
た、多価イオンの場合には同位体イオン間のm/e間隔
が小さくなるので、最高分解能の設定でもこれらの同位
体イオンを個別に分離することが不可能な場合には、全
ての同位体イオンを同時に測定してしまった方が、かえ
って測定時間の短縮にもなり都合が良い。また、元のイ
オンから一部が取れたイオン、例えば脱水イオンや、元
のイオンとは反応基の異なるもの、例えば水素イオンの
代わりにナトリウムイオンが付加されたもの、等を元の
イオンと同時に選別して分析を行なった場合でも、これ
らのイオンが元のイオンと共通の構造情報を持っている
ので感度を向上することができる、などの利点がある。
【0039】ノッチ内部で重み係数がゼロになる波形
(図6)を用いる場合は、単にノッチ周波数をm/eの
広がりに対応する周波数の分だけ広げることで実現され
る。ノッチにスロープを持った重み関数を適用する波形
(図7)の場合、単にスロープの両端の周波数をずらし
てその間をスロープでつなぐだけでは、ノッチ内部のイ
オンの残留振幅が大きくて分離の性能が向上しない。こ
のような場合には、スロープの傾きは一定に保ったまま
重み係数がゼロの部分にゼロが持続する領域を挿入し、
この周波数幅をm/eの広がりに対応する周波数の分だ
け広げることにより実現する(図8)。これは、ノッチ
内部で重み係数がゼロになる波形(図6)のノッチの周
波数幅を広げて対応した波形において、ノッチの両端の
部分にそれぞれゼロになるまでのスロープを設けた波形
になっている。したがって、ノッチ境界部で急激に電圧
値をゼロに切り替えることによる問題を生じることがな
く、ノッチの内部では残留振幅をほとんどゼロにして高
性能の分離が行なえるイオン選別波形を実現することが
できる。
【0040】イオントラップ型質量分析装置において
は、特にエンドキャップ電極の開口部の周辺でRF電界
が理論的な四重極電場からずれているために、イオンの
振幅に応じて固有振動数が変化する。高分解能のイオン
選別においては、小さな励起電圧でゆっくりとスキャン
して分離が行なわれるため、イオンの振幅が大きくなっ
た時に周波数がずれて励起が充分に行なわれなくなり、
イオンの排除ができなくなってしまう。これまでは、角
周波数のスキャンを、周波数が増加する向きにして説明
してきたが、励起によってイオンの振幅が増大し、イオ
ンの振動周波数が小さくなった場合には、スキャンに伴
って周波数のズレはさらに拡大し、再び励起されること
はなくなってしまう。周波数が多少ずれても一気にイオ
ンを排出してしまうように励起電圧を増大すると、ノッ
チ中央のイオンが排出されてしまわないようにノッチ周
波数幅を広げることになり、イオン選別の分解能が低下
してしまう。よって、本発明に係るイオン選別の波形に
おいて、特に高分解能のイオン選別においては、角周波
数スキャンの方向を周波数が減少する向きに設定する。
【0041】イオントラップの電極の形状を適当に設計
することによって、イオン蓄積空間の中央部のある程度
広い範囲にわたって、理想的な四重極電場のRF電界を
発生することができる。例えば、米国特許6,087,658に
記載のエンドキャップ電極の形状を決定する方法によ
り、z0=7mmのエンドキャップ電極位置に対してz0<5
mmの範囲で理想的な四重極電場のRF電界を発生するこ
とができる。ノッチ周波数内部の固有角振動数を持つイ
オンの最大振幅が励起途中で5mmを超えないように設定
することで、このイオンは排出されずにイオン蓄積空間
内部に保持される。ノッチ周波数からはずれた固有角振
動数を持つイオンは、励起途中で最大振幅が5mmを超え
ると固有角振動数が低下しはじめる。イオン励起電界も
スキャンに伴って次第に周波数が下がってくるので、固
有振動数と共鳴してイオンの振幅はさらに増大する。こ
の振幅の増大と固有周波数の減少が継続して進行し、イ
オンをイオン蓄積空間から排除する。このように、イオ
ンが排除されるかどうかは、イオンの振幅がエンドキャ
ップの距離z0に達するかどうかではなく、RF電界が
理想的な四重極電場からずれ始める位置に達するかどう
かで決定されることになる。理想的な四重極電場の範囲
で有効な選別基準を設けられるので、エンドキャップ電
極の穴などによる影響を受けることなく高分解能の選別
が可能になる。
【0042】角周波数のスキャン方向が、周波数が減少
する向きになっている時にも、これまでの計算結果がほ
ぼそのまま利用できる。角周波数のスキャン速度をa≡
-b<0とすると、実効角周波数は ωe(t)=-bt となって、負の時刻において正の角周波数を与える。し
たがって、エンベロープ関数は、
【数式32】 となる。角振動数が増加する向きのスキャンでの結果と
見比べると、エンベロープ関数が複素共役の関数形にな
っているだけであり、これまでの議論は全てそのまま当
てはまることになる。但し、重み係数の値は符号を反転
している(図9)。実際の装置でのイオン選別分離にお
いては、高分解能を得るためにはスキャン速度を遅くす
る必要がある。しかし、イオン蓄積装置に蓄積可能な全
ての質量範囲のイオンを排除するためには、広い角周波
数範囲をスキャンする必要があるため、実用的な時間で
スキャンを実行することは困難である。したがって、全
角周波数範囲を大きなスキャン速度でスキャンし、選択
的に残しておきたいイオンに比較的近い固有角周波数を
持ったイオンの範囲をあらかじめ低い分解能で選別して
おく。そして、それらのイオン範囲の固有角振動数を含
んだ狭い角周波数の範囲を、より高分解能の波形を用い
てゆっくりスキャンして選別する方法を用いる。これに
より、選別に要するトータルの時間を短縮することがで
きる。目的の分解能を達成するためには、このようにス
キャン速度の異なる選別波形を数種類用いることにより
選別が行なわれる。
【0043】高分解能のスキャンにおいては、すでに説
明したように、角周波数スキャンの方向が周波数が減少
する向きに設定される。一方で、低い分解能での高速の
スキャンにおいても同様に、角周波数スキャンの方向を
周波数が減少する向きに設定するのは有効である。
【0044】イオントラップ型質量分析装置では、イオ
ンに働く蓄積ポテンシャルは、同じRF電圧を与えた場合
でもm/eに反比例の質量依存性を持つ。このため、軽
いイオンがイオントラップの中心に集まり、重いイオン
ほど中心から外側へと追いやられる。イオントラップの
中心に蓄積されている軽いイオンは、その空間電荷の作
用によって選択的に残しておきたいイオンの固有角振動
数を低周波数側にシフトさせている。大きな空間電荷の
作用を与えている軽いイオンの固有角振動数は選択的に
残しておきたいイオンの固有角振動数よりも大きいの
で、高い周波数から低い周波数へと周波数が減少する向
きに角周波数スキャンの方向を設定することで、より早
い段階で軽いイオンを除去することによって空間電荷の
影響を除去し、選択的に残しておきたいイオンの固有角
振動数を本来の周波数に戻すのに有効である。このよう
に、余計なイオンを排除することによって、選別したい
イオンがイオン蓄積空間の中心に集まってくるようにす
る。あらかじめイオンの初期振幅を小さくしておかない
と、励起途中の最大振幅が初期振幅の影響を受けるた
め、特に高分解能のスキャンで目標の分解能を達成でき
ない。スキャン速度の異なる選別波形を数種類用いて選
別を行なうのは、あらかじめ余計なイオンを排除し、ま
た選別したいイオンがイオン蓄積空間の中心に集まる時
間を確保できるので、この目的のためにも有効である。
【0045】イオントラップ型質量分析装置における実
際のイオンの振動は、pseudo-potential wellモデルで
の中心位置の周りをおよそ(q/2)zの振幅でRF周波数
Ωの振動運動を行なっている。このため、最大振幅はお
よそ|Z(+∞)|(1+q/2)であり、低質量数イオンほ
どqが大きくなり最大振幅が増加する。したがって、
低質量数イオンの最大振幅を減少させてこれを補正する
には、低質量数イオンの固有振動数での励起電圧を小さ
くするために、重み係数の補正式1/(1+q/2)をか
ければ良い。qとイオンの固有振動数ωzの関係は、
例えばQuadrupoleStorage Mass Spectrmetry, John Wil
ey & Sons 1989, p.200に示される。例えば、q≦0.4
で使える最も簡単な近似式に、
【数式33】 がある。ここで、βは0から1の値をとるイオンの固有
振動数を表すパラメータである。これを先程の重み係数
の補正式に代入しても、pseudo-potential wellモデル
の適用範囲の問題もあって、qの大きな所では実際に
はそれほど良く一致しない。そこで、重み係数の補正式
として経験的に求めた、
【数式34】 または
【数式35】 を用いるのが適当である。但し、これらの式の中に現れ
る定数値2.0や0.9には、実際に用いられるイオントラッ
プ電極の形状などによって若干の違いが生じる。また、
このようなゆっくりと変化する重み係数の補正を加えて
も、これまでのエンベロープ関数の計算結果には大きな
影響はない。特に、狭い周波数範囲をスキャンする高分
解能の選別波形においては、重み係数の補正値を用いな
くても何ら影響を与えない。
【0046】これまでの角振動数をスキャンする連続波
形についての議論は、実際の装置においてこれらの波形
を出力する際、有限の時間間隔δtで離散化された時刻
i=iδtにおいて波形の値を計算して出力する場合に
もあてはまる(図10)。また、SWIFTなどのように、
離散化した周波数成分の合成によって作られている波形
においても、ノッチの前後において位相をπの奇数倍の
値だけシフトさせたり、符号の反転する重み係数をかけ
たりすることによって、実質的に同様の機能を実現して
いる場合にも当てはまる。
【0047】
【実施例】以下に、本発明に係るイオン蓄積装置におい
てイオンを高分解能で選別し、また選別直後のイオンの
振動を小さくする方法の一実施例を示す。図11は、本
発明の一実施例に係るイオン選別用波形を適用するため
のイオントラップ型質量分析装置の構成図である。イオ
ントラップ型質量分析装置は、イオントラップ1と、イ
オンを生成し適当なタイミングで適当な量のイオンをイ
オントラップに導入するために形成されたイオン発生器
10と、イオントラップから放出されたイオンを検出あ
るいは分析するためのイオン検出器11により構成され
ている。
【0048】イオン発生器10には、ガスクロマトグラ
フ分析器から導入される試料ガスを電子衝撃イオン化す
るものや、液体クロマトグラフ分析器から導入される試
料液をESIやAPCIなどのイオン源によってイオンを生成
するものや、サンプルプレート上に堆積させた固体状試
料をMALDIなどの手法でイオン化するものがあり、これ
らによって生成されたイオンを、イオントラップの動作
方法に応じて連続的あるいはパルス的に、イオントラッ
プ内部へと入射し、イオンを蓄積する。一方、イオント
ラップ内部で分析処理の完了したイオンは、イオントラ
ップの動作方法に応じて連続的あるいはパルス的に、イ
オン検出器11に送られて検出される。イオン検出器1
1には、イオントラップの蓄積条件をスキャンすること
により二次電子増倍管やマイクロチャンネルプレート
(MCP)とコンバージョンダイノードを併用して直接検
出し質量スペクトルを収集するものや、飛行時間(TO
F)分析器等へと導いて質量分析を行なうものなどがあ
る。
【0049】イオントラップ1は、リング電極3とイオ
ン入射側エンドキャップ電極4とイオン検出側エンドキ
ャップ電極5によって構成されている。リング電極3に
は高周波(RF)電圧発生部6からイオンを蓄積するため
の高周波(RF)電圧が与えられており、三つの電極に囲
まれた領域にイオン蓄積空間2を形成している。二つの
エンドキャップ電極4、5には、イオン入射側補助電圧
発生部7とイオン検出側補助電圧発生部8によりイオン
の導入、分析、放出を補助するための電圧波形が与えら
れている。イオン発生器10、イオン検出器11、およ
びこれらの電圧発生部6,7,8は、電圧制御およびイ
オン信号測定部9により制御され、イオン検出器11に
よって検出されたイオンの信号が記録される。制御用コ
ンピュータ12は、電圧制御およびイオン信号測定部9
の設定を行なうと同時に、測定されたイオンの信号を取
り込んで分析試料の質量スペクトルを表示したり、試料
の構造情報を分析したりするなどの各種の処理が行なわ
れる。
【0050】MS/MSと呼ばれる質量分析方法を実行する
にあたっては、イオン入射側補助電圧発生部7とイオン
検出側補助電圧発生部8を用いて、極性が反転したイオ
ン選別用電圧波形±vsをそれぞれのエンドキャップ電
極4、5に出力することにより、イオン蓄積空間2にイ
オン選別用の電界Esを発生させている。MS/MSと呼ば
れる質量分析方法を実行するプロセスは、イオン発生器
10からイオン蓄積空間2へと導入された様々なm/e
比を持つイオンにイオン選別用電界を作用させることに
よって、特定のm/e比を持つイオンのみをイオン蓄積
空間に残し、他のイオンはすべて排除する。次に別の特
別な電界を加えることによりこの選別されたイオン(プ
リカーサイオン)を分解して断片化し、断片イオン(フ
ラグメントイオン)を生成する。その後、イオン蓄積空
間2に生成された断片イオンの質量スペクトルをイオン
検出器11を用いて収集する。
【0051】本発明の実施例においては、RF電圧の周波
数Ωを500kHz、ノッチ中央の周波数ωcを177.41kHzとし
ている。したがってβzはおよそ0.71である。例えば、
質量数1000uの一価イオンを選別する場合には、このイ
オンの固有角振動数をノッチ中央の周波数ωcに合わせ
るために、2.08kV(0-p)のRF電圧を与える。さまざまな
質量数のイオンがイオン蓄積空間に導入された時には、
それぞれのイオンはそのm/zの応じて0〜250kHzの固
有振動数を持つ。目的のイオンを選別するにはまずこの
周波数範囲を高速にスキャンする必要がある。この最初
のスキャンに要する時間を1msとすると、角周波数のス
キャン速度aは、
【数式36】 となる。したがって、u=1に相当する角周波数は、
【数式37】 となり、この周波数範囲をスキャンするのに要する時間
はおよそ44.72μsになる。また、177.41kHzをスキャン
するのに要する時間はおよそ709.64μsである。周波数
範囲の境界部分、すなわち0kHzと250kHzにおけるスロー
プに対応する角周波数を11.18kHzとし、またノッチ周波
数におけるスロープに対応する角周波数も±11.18kHzと
する。角周波数が減少する向きに周波数をスキャンする
場合の重み関数として図9を用いることにすると、励起
電圧波形が変化する時刻は、図9に対応して-t6=-1m
s、-t4=-955.28μs、-t2=-754.36μs、-t1=-664.
92μs、-t3=-44.72μs、-t5=0μsとなる。励起電
圧の大きさをvs=18Vとして、コンピューターシミュレ
ーションによりイオンの振動状態を調べると、この波形
をかけた後でイオン蓄積空間に残っているイオンの質量
数の範囲はおよそ1000±6uになった。この場合質量数10
00uのイオンの残留振幅はおよそ0.03mmとなり、本発明
に係るイオン選別の波形によって選別されたイオンの振
幅は、予想した通りに極めて小さな振幅値に押さえられ
ていることが確認された。
【0052】次に、イオンの選別の分解能を高めるため
に、ノッチ中央の周波数ωcの前後の±10kHzの範囲を1m
sでスキャンする。この時のスキャン速度等のパラメー
タは、
【数式38】 となる。先と同様にvs=5Vとして、コンピューターシミ
ュレーションによってイオンの振動状態を調べると、こ
の波形をかけた後でイオン蓄積空間に残っているイオン
の質量数はおよそ1000±2uになった。また、この波形に
より質量数範囲1000±30uのイオンを排除することがで
きた。
【0053】イオンの選別をさらに精密に行なうために
は、スキャンに要する時間を4msに増やす。スキャン範
囲を±2kHzとすると、パラメータは
【数式39】 となる。vs=1.1Vとして、コンピューターシミュレーシ
ョンによりイオンの振動状態を調べると、この波形をか
けた後でイオン蓄積空間に残っているイオンの質量数は
およそ1000±0.2uになった。しかし、質量数1000uのイ
オンの残留振幅はおよそ1.01mmとなり、ゆっくりとした
スキャンで長時間イオンの振動が励起された状態に保た
れるので、理想的な四重極電界からのズレのために振動
の位相に狂いが生じ、残留振幅が大きくなる結果とな
る。また、励起波形の電圧をvs=1.0Vに下げると、波形
をかけた後でイオン蓄積空間に残っているイオンの質量
数はおよそ1000±0.4uになり分解能が低下する。また、
励起波形の電圧をvs=1.2Vに上げると、全てのイオンが
イオン蓄積空間から除去されてしまった。したがって、
高分解能のイオン選別においては、励起波形の電圧値を
精密にコントロールする必要がある。
【0054】要求する分解能が上記の実施例の場合より
も低い場合には、図8に示されているように、ノッチの
中央部に電圧ゼロの領域を設けることで、ノッチ中心部
のイオンの残留振幅はもっと小さくなり、イオン選別の
質を向上することができる。上記実施例で示したよう
に、スキャン速度の異なる3種類の波形を順次与えるこ
とによって、およそ1000±0.2uの精度で質量数1000uの
イオンの選別を行なうことが可能であり、このイオン分
離に要する時間は全体で6msである。但し、実施例で行
なったコンピュータシミュレーションにおいては、イオ
ン蓄積空間におけるイオンと残留ガス分子との衝突によ
る振動状態の変化は考慮されていないため、実際の装置
において残留ガスとの衝突が頻繁に起こる状況下におい
ては、分解能はここで計算された値よりも多少悪くなる
ことが予想される。このように、本発明に係る一実施例
に依れば、従来技術よりも高い分解能を短い時間で達成
することができる。また、選別用波形をかけ終わった後
での残留振幅を小さくできるため、選別波形によってイ
オン量を損なうことがなく、またクーリング時間を短縮
することができるという効果がある。
【0055】上記実施例は、イオントラップ型質量分析
装置を用いて、本発明に係るイオン選別の方法を説明し
たものであるが、その他のイオン蓄積装置においても、
同様の手法でイオンを高分解能で選別し、また選別直後
のイオンの振動を小さくすることが可能であり、本発明
に係るイオン選別の手法が適用可能であることは自明で
ある。
【0056】
【発明の効果】本発明に係るイオン蓄積装置においてイ
オンを短時間に高分解能で選別し、また選別直後のイオ
ンの振動を小さくする方法を使用すれば、基本的に周波
数をスキャンする選別用波形を用い、ノッチ周波数の前
後においては振幅の重み係数の符号を反転させることに
より分解能を高めたり、イオン選別に要する時間を短縮
したりすることが可能になる。また、スキャンの方向を
周波数が減少する向きに設定することで、イオン選別の
分解能を高めることが可能になる。また、ノッチ周波数
の前後で重み係数を反対称にすることや、スキャンする
周波数範囲の境界においては振幅の重み係数を時間に比
例してゆっくりと変化させることで、選別用波形をかけ
た後に選択的にイオン蓄積空間に残されているイオンの
残留振幅を小さくすることができため、クーリングプロ
セスに必要な時間を短縮することが可能になる。さら
に、異なるスキャン速度を持つ複数の選別用波形を用い
ることによってイオンの選別に要する時間を短縮するこ
とができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】時間と共に周波数が減少する周波数スキャンの
波形に、ノッチ周波数において符号が反転し反対称であ
る重み関数をかけて求めたイオン選別用の励起電圧波形
を模式的に表す図。
【図2】uをパラメータとして、フレネル関数C(u)と
S(u)とをそれぞれ横軸と縦軸としてプロットした点の
軌跡を表す図。
【図3】従来技術に係るノッチ形状を表す重み係数を説
明のための図。
【図4】本発明に係る、ノッチの前後で符号が反転する
重み関数を説明するための図。
【図5】本発明に係るノッチの前後で符号が反転する重
み関数で、有限の周波数スキャン範囲を導入した場合の
重み関数を説明するための図。
【図6】本発明に係る有限の周波数スキャン範囲を有す
るノッチの前後で符号が反転する重み関数で、スキャン
範囲の境界においてスロープを持たせた重み関数を説明
するための図。
【図7】本発明に係る有限の周波数スキャン範囲を有す
るノッチの前後で符号が反転する重み関数で、スキャン
範囲の境界とノッチ周波数においてスロープを持たせた
重み関数を説明するための図。
【図8】本発明に係る有限の周波数スキャン範囲を有す
るノッチの前後で符号が反転する重み関数で、スキャン
範囲の境界とノッチ周波数においてスロープを持たせた
重み関数において、ノッチの中央に重み関数がゼロとな
る部分を導入した場合を説明するための図。
【図9】本発明に係るイオン選別用波形において、角周
波数が減少する向きに周波数をスキャンす場合の重み関
数を説明するための図。
【図10】周波数が離散化されているイオン選別用波形
において、本発明を適用した場合の各周波数成分の振幅
係数を説明するための図。
【図11】本発明の一実施例に係るイオン選別用波形を
適用するためのイオントラップ型質量分析装置の構成
図。
【符号の説明】
1…イオントラップ、2…イオン蓄積空間、3…リング
電極、4…イオン入射側エンドキャップ電極、5…イオ
ン検出側エンドキャップ電極、6…高周波(RF)電圧発
生部、7…イオン入射側補助電圧発生部、8…イオン検
出側補助電圧発生部、9…電圧制御およびイオン信号測
定部、10…イオン発生器、11…イオン検出器、12
…制御用コンピュータ。
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成13年8月20日(2001.8.2
0)
【手続補正1】
【補正対象書類名】図面
【補正対象項目名】図1
【補正方法】変更
【補正内容】
【図1】

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】イオン蓄積装置でイオン蓄積空間にイオン
    選別用電界を印加することによって特定の質量/電荷比
    の範囲のイオンを選別する方法において、前記イオン選
    別用電界が基本的に周波数をスキャンする波形をもとに
    して合成され、前記イオン蓄積空間に残しておきたい前
    記質量/電荷比の範囲のイオンの固有振動数の前後で前
    記基本的に周波数をスキャンする波形を反対称な波形と
    することを特徴とするイオン蓄積装置におけるイオン選
    別の方法。
  2. 【請求項2】前記基本的に周波数をスキャンする波形に
    前記固有振動数の前後で符号が反転する重み係数を掛け
    合わせたり、あるいは前記基本的に周波数をスキャンす
    る波形の位相項にπの奇数倍の位相項を付加することに
    よって、前記基本的に周波数をスキャンする波形を前記
    固有振動数の前後で反対称な波形とすることを特徴とす
    る請求項1記載のイオン選別の方法。
  3. 【請求項3】前記基本的に周波数をスキャンする波形が
    周波数の減少する方向にスキャンする波形であることを
    特徴とする請求項1乃至2に記載のイオン選別の方法。
  4. 【請求項4】周波数をスキャンする範囲の境界で前記重
    み係数が直線的に変化することを特徴とする請求項1乃
    至3記載のイオン選別の方法。
  5. 【請求項5】前記基本的に周波数をスキャンする波形
    が、離散化された周波数成分の正弦波を加え合わせるこ
    とによって合成される波形であり、前記周波数成分の定
    数位相項がその周波数の二次関数の形あるいはその周波
    数と一次式の関係にある変数の二次関数の形で与えられ
    ることを特徴とする請求項1乃至4記載のイオン選別の
    方法。
  6. 【請求項6】周波数をスキャンする速度が異なる複数の
    前記イオン選別用電界を用いることによって、高分解能
    のイオン選別を短時間で実行することを特徴とする請求
    項1乃至5記載のイオン選別の方法。
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