JP2003027192A - 高低圧一体型ロータ用高強度耐熱鋼及びタービンロータ - Google Patents

高低圧一体型ロータ用高強度耐熱鋼及びタービンロータ

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JP2003027192A
JP2003027192A JP2002137255A JP2002137255A JP2003027192A JP 2003027192 A JP2003027192 A JP 2003027192A JP 2002137255 A JP2002137255 A JP 2002137255A JP 2002137255 A JP2002137255 A JP 2002137255A JP 2003027192 A JP2003027192 A JP 2003027192A
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rotor
steel
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Yoshikuni Kadoya
好邦 角屋
Ryutaro Umagoe
龍太郎 馬越
Hisataka Kawai
久孝 河合
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Mitsubishi Heavy Industries Ltd
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 12%Cr系耐熱鋼において、優れた高温ク
リープ強さを維持すると同時に、優れた靱性をも兼ね備
えた12%Cr系耐熱鋼を提供し、さらに、優れた高温
クリープ強さと優れた靱性とを兼ね備えた高低圧一体型
タービンロータ及びその製造方法を提供すること。 【解決手段】 特定割合の成分組成を有し、M236
炭化物及び金属間化合物を主として結晶粒界及びマルテ
ンサイト境界に析出させ、かつMX型炭化窒化物をマル
テンサイトラス内部に析出させた金属組織を有し、0.
2%耐力が75.8kgf/mm2 以上であることを特
徴とする高低圧一体型ロータ用高強度耐熱鋼、該高強度
耐熱鋼からなる高低圧一体型タービンロータの製造方
法、及び高低圧一体型タービンロータ。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、高圧部と低圧部と
を一体化した蒸気タービンのロータに用いられる優れた
高温強度を備えた高低圧一体型ロータ用高強度耐熱鋼、
該耐熱鋼により形成された高低圧一体型タービンロータ
及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】高低圧一体型ロータとは、高圧部(中圧
部を含む)と低圧部とが一体化したロータを称し、その
特徴は高圧部には高いクリープ強度が、低圧部には引張
強度と靱性というように1本のロータで全ての材料特性
が要求される点である。図1にロータ直径とロータ温度
の関係で整理した場合のロータ材の選定基準の例を示
す。高圧ロータ用Cr−Mo−V鋼及び低圧ロータ用
3.5Ni−Cr−Mo−V鋼の使用可能範囲をそれぞ
れ斜線で示す。また、低圧ロータ用2.5Ni−Cr−
Mo−V鋼のそれは枠表示で示す。さらに、Cr−Mo
−V鋼の改良材として開発された高低圧一体型ロータ用
2.25Cr−Mo−V鋼(例えば、特公昭54−19
370号公報)の使用可能範囲をメッシュで示す。図1
のように2.25Cr−Mo−V鋼の高低圧一体型ロー
タ材の使用可能範囲は広く、従来の高圧ロータ材及び低
圧ロータ材のそれらを大部分内包している。
【0003】この2.25Cr−Mo−V鋼を用いた高
低圧一体型ロータの製造実績は、比較的最近のことであ
るが、従来の高低圧一体型ロータ材のこれまでの製造実
績は以下のとおりである。当初は小型のものが多く、ロ
ータ温度が480℃程度以下の場合には、クリープ強度
は比較的低いが靱性が良好な2.5Ni−Cr−Mo−
V鋼が使用され、480℃を越え550℃程度までの場
合には、クリープ強度の優れたCr−Mo−V鋼が使用
されていた。ただし、Cr−Mo−V鋼を使用する場合
には、靱性確保のため通常の高圧ロータの場合よりオー
ステナイト化温度を下げたり、焼入れ冷却速度を早くし
たりする処置がとられていた。その後、プラントの高温
大型化に伴い、ロータの直径も大きくなる傾向にあり、
Cr−Mo−V鋼のロータ中心部での靱性低下が問題と
なってきた。その対策として、これまで主に2.5Ni
−Cr−Mo−V鋼で検討されていた要求性能の異なる
高圧部と低圧部にそれぞれ最適な熱処理を施す傾斜熱処
理法がCr−Mo−V鋼にも適用され、高圧部の高温強
度を確保しながら低圧部の靱性改善がはかられるように
なった。しかしながら、このような対策を講じたCr−
Mo−V鋼傾斜熱処理ロータ材といえども、必要な強度
を確保しながら、ロータ中心部での必要な靱性の確保
は、ロータ直径に限界(1600mm程度まで)があり
それ以上の大型化は難しいのが現状であった。
【0004】これに対して、図1にメッシュの使用可能
範囲で示した2.25Cr−Mo−V鋼ロータ材は、高
低圧一体型蒸気タービンの高温大型化に対処するために
開発された新しいロータ材である。このロータ材は、最
大径1950mmまでの製造実績を有し、十分に大型化
に耐え得る熱処理特性を有し、中心部のFATT(Frac
ture Appearance Transition Temperature:破面遷移温
度:Vノッチシャルピー衝撃試験片の脆性破面率が50
%になる温度を指し、この温度が低いほど靱性が優れ
る、以下FATTと略称する)が20〜60℃と靱性に
優れた材料である。また、このロータ材の通常の常温の
0.2%耐力は70〜75kgf/mm2級とすること
もでき、十分大型化が可能となっている。
【0005】しかし、これらいずれの材料でも538℃
対応のCr−Mo−V鋼ロータ材のクリープ強度を超え
る十分な高温クリープ強さを得ようとした場合、高靱性
を要求される低圧部の軸芯においては、破面遷移温度
(FATT)を室温以下にすることは達成できず、しか
も、566℃の高温クリープ強さの目標値(例えば、5
66℃/105 時間におけるクリープ破断応力σ=14
kgf/mm2 )そのものを満足することが達成できて
いない。一方、従来より566℃対応の高中圧ロータ材
として広く用いられている12%Cr系耐熱鋼(例え
ば、特公昭40−4137号公報)は、高温クリープ強
さには優れているものの、靱性が不足しているため、高
圧ロータあるいは中圧ロータ用材料としてのみ使用され
てきた。したがって12%Cr系耐熱鋼では、例えば高
低圧一体型ロータ用材料として用いた場合、高圧部に必
要とされる高温クリープ強さには優れているものの、低
圧部において充分な靱性が得られない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記のよう
な従来技術の実状に鑑み、12%Cr系耐熱鋼におい
て、優れた高温クリープ強さを維持すると同時に、優れ
た靱性をも兼ね備えた12%Cr系耐熱鋼を提供し、さ
らに、優れた高温クリープ強さと優れた靱性とを兼ね備
えた高低圧一体型タービンロータ及びその製造方法を提
供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明者等は高温及び常
温でも強度を有し、かつ常温でも優れた靱性を有する化
学組成の高低圧一体型蒸気タービン用ロータ材を開発す
べく鋭意研究を重ねた。その結果、12%Cr系耐熱鋼
において、高温クリープ強さを低下させることなく靱性
を大幅に改善するために、従来の12%Cr系耐熱鋼よ
りもNi含有量を増加させ、Si、Mn及びその他の不
可避的不純物の含有量を低減させることにより、マルテ
ンサイト組織のちみつ化が可能で、高温強度を確保しな
がら靱性が改善できることを見出し本発明に至ったもの
である。
【0008】すなわち、本発明は以下の(1)〜(4)
の構成を有するものである。 (1)重量%でC:0.05〜0.2%、Ni:1〜
1.5%(1及び1.5%は含まず)、Cr:9.5〜
10.5%、Mo:0.3〜2%、V:0.1〜0.3
%、N:0.01〜0.08%及びNb:0.02〜
0.15%を含有し、さらに重量%でTa:0.02〜
0.2%、B:0.001〜0.03%、W:1〜2
%、Co:1〜4%のうちの一種又は二種以上を含有
し、残部が実質的にFeからなり、不純物として重量%
でSi:0.1%以下、Mn:0.3%以下、P:0.
015%以下、S:0.008%以下を含有した組成で
あり、M23 6 型炭化物及び金属間化合物を主として結
晶粒界及びマルテンサイト境界に析出させ、かつMX型
炭化窒化物をマルテンサイトラス内部に析出させた金属
組織を有し、0.2%耐力が75.8kgf/mm2
上であることを特徴とする高低圧一体型ロータ用高強度
耐熱鋼。
【0009】(2)溶解、精錬、造塊する工程と、該工
程により得られた鋼塊より所望形状のタービンロータ素
体に鍛造成形する工程と、前記タービンロータ素体を1
000〜1150℃に加熱して焼入れする工程と、前記
焼入れされたタービンロータ素体に、530℃〜700
℃の焼戻しを1回以上施す工程とを具備することにより
前記(1)の高強度耐熱鋼からなるタービンロータとす
ることを特徴とする高低圧一体型タービンロータの製造
方法。
【0010】(3)溶解、精錬、造塊する工程と、該工
程により得られた鋼塊より所望形状のタービンロータ素
体に鍛造成形する工程と、前記タービンロータ素体を高
中圧部は1000〜1150℃、低圧部は950℃以上
でかつ高中圧部よりも30〜80℃低い温度に加熱して
焼入れする工程と、前記焼入れされたタービンロータ素
体に、530℃〜700℃の焼戻しを1回以上施す工程
とを具備することにより前記(1)の高強度耐熱鋼から
なるタービンロータとすることを特徴とする高低圧一体
型タービンロータの製造方法。
【0011】(4)重量%でC:0.05〜0.2%、
Ni:1〜1.5%(1及び1.5%は含まず)、C
r:9.5〜10.5%、Mo:0.3〜2%、V:
0.1〜0.3%、N:0.01〜0.08%及びN
b:0.02〜0.15%を含有し、さらに重量%でT
a:0.02〜0.2%、B:0.001〜0.03
%、W:1〜2%、Co:1〜4%のうちの一種又は二
種以上を含有し、残部が実質的にFeからなり、不純物
として重量%でSi:0.1%以下、Mn:0.3%以
下、P:0.015%以下、S:0.008%以下を含
有した組成であり、M23 6 型炭化物及び金属間化合物
を主として結晶粒界及びマルテンサイト境界に析出さ
せ、かつMX型炭化窒化物をマルテンサイトラス内部に
析出させた耐熱鋼より形成されてなることを特徴とする
高低圧一体型タービンロータ。
【0012】
【発明の実施の形態】次に、本発明に係る高強度耐熱鋼
の化学成分組成及びその限定理由について説明する。な
お、以下の説明において、含有量を表す%は、重量比と
する。
【0013】C:Cは、焼入れ性を確保し、マルテンサ
イト変態を促進させるとももに、合金中のFe、Cr、
Mo、V、Wなどと結合してM236 型炭化物を結晶粒
界、マルテンサイトラス粒界上に形成するとともにN
b、Vなどと結合してMX型炭化窒化物をマルテンサイ
トラス内に形成する。これより、両者の炭化物の析出強
化により室温引張強さ及び高温クリープ強さを向上させ
る。しかし、C含有量が0.05%未満では充分な室温
引張強さ、高温クリープ強さが得られず、また、0.2
%を超えて含有させると、低温靱性が劣化し、さらに、
炭化物の粗大化が起こりやすくなり高温クリープ強さも
劣化するので、その含有量を0.05〜0.2%に限定
する。望ましくは、0.10〜0.15%の範囲であ
る。
【0014】Ni:Niは本発明鋼において、靱性を向
上させるが、高温クリープ強さを低下させる作用を有し
ている。しかし、その含有量が1%以下では高低圧一体
型ロータに必要な著しい靱性の向上が認めらられず、ま
た、1.5%以上含有させると従来材と同等の高温クリ
ープ強さを維持することをが難しくなるので、その含有
量を1〜1.5%(1及び1.5%は含まず)に限定す
る。
【0015】Cr:Crは、本発明鋼の主要構成成分で
あり、耐酸化性及び高温耐食性を高め、さらに、合金中
に固溶して、合金の強度を向上させるが、その含有量が
9.5%未満では、充分な耐酸化性や強度を得ることが
できず、10.5%を超えて含有させると有害なデルタ
フェライトを生成し、低温における延性、靱性及び高温
におけるクリープ強さを低下させるので、その含有量を
9.5〜10.5%に限定する。
【0016】Mo:Moは、合金中に固溶し、焼入性を
増大し低温及び高温における強度を高めるとともに、微
細炭化物を形成し、高温クリープ強さを向上させる。ま
た、焼戻し脆化の抑制に寄与する元素である。その含有
量が0.3%未満ではその作用効果が少なく、2%を超
えて含有させると逆にクリープ強さが低下するので、そ
の含有量を0.3〜2%に限定する。望ましくは、0.
6〜1.4%の範囲である。
【0017】V:Vは、微細炭化物、炭窒化物をマルテ
ンサイトラス内に形成、高温クリープ強さを向上させる
が、その含有量が0.1%未満ではその作用効果が不十
分であり、下限を0.1%とする。また、0.3%を超
えて含有させるとデルタフェライトを生成し、高温クリ
ープ強さが低下するとともに、靱性が低下するのでその
上限を0.3%とする。望ましくは、0.15〜0.2
5%の範囲である。
【0018】N:Nは、Nb、Vなどと結合して窒化物
を形成し、高温クリープ強さを向上させるが、その含有
量が0.01%未満では充分な強度及び高温クリープ強
さを得ることができず、0.08%を超えて含有させる
と鋼塊の製造が困難となり、かつ熱間加工性が悪くなる
ので、その含有量を0.01〜0.08%に限定する。
望ましくは、0.02〜0.04%の範囲である。
【0019】Nb:Nbは、微細炭化物、炭窒化物を形
成し、高温クリープ強さを向上させるとともに、結晶粒
の微細化を促進し、低温靱性を向上させるのに必要な元
素である。その作用効果を得るためには,少なくとも
0.02%含有させる必要がある。しかし、0.15%
を超えて含有させると、粗大な炭化物及び炭窒化物が析
出し、靱性を低下させるため、その上限を0.15%と
する。望ましくは、0.03〜0.07%の範囲であ
る。
【0020】Ta:TaはNbと同様の作用を有し、高
温クリープ強さを向上させるともに、低温靱性の向上に
寄与するので、所望により添加する。その含有量が0.
02%未満では、上記作用効果が不十分であり、0.2
%を超えて含有させると、粗大な炭化物が析出し、靱性
を低下させるため、その含有量を0.02〜0.2%に
限定する。なお、Nb+Taの合計量は0.25%以下
に抑えるのが望ましい。
【0021】B:Bは微量添加で、焼入れ性が増大し、
靱性を向上させるとともに粒界の炭化物の析出凝集を抑
え、高温クリープ強さの向上に寄与するので、所望によ
り添加される。その含有量は0.001%未満では上記
効果が不十分であり、0.03%を超えると高温クリー
プ延性が著しく低下するため、その含有量を0.001
〜0.03%の範囲に限定する。
【0022】W:Wは、Mo以上にM236 型炭化物の
凝集粗大化を抑制する効果があり、さらに固溶体強化元
素として、クリープ強度の高温強度の向上に有効な元素
であり、その効果はMoとの複合添加の場合に顕著であ
り、所望により添加される。その作用効果を得るために
は、少なくとも1%含有させる必要がある。しかし、2
%を超えて含有させると、デルタフェライトや金属間化
合物が生成しやすくなり、延性及び靱性を低下させるた
め、その上限を2%とする。望ましくは、1.3〜1.
8%の範囲である。
【0023】Co:Coは、固溶強化に寄与するととも
に、デルタフェライトの析出抑制効果があり、大型鍛造
品の製造に有用であり、所望により添加される。その作
用効果を得るためには、少なくとも1%含有させる必要
がある。しかし、4%を超えて含有させると延性が低下
し、またコストが上昇するので、その上限は4%とす
る。望ましくは、2〜3%の範囲である。
【0024】不純物であるSi、Mn、P及びSについ
ては以下のとおりである。 Siは、脱酸材として通常
使用されるが、Si含有量が高いと、鋼塊内部の偏析が
増加し、また、焼戻し脆化感受性が極めて大となり切欠
靱性が損なわれるため、極力低減することが望ましい。
現在、真空カーボン脱酸性などの適用により、Si含有
量を低減させているが、その許容含有量を工業的に可能
な精錬技術の限界を考慮して0.1%以下に制限する。
【0025】Mnは、溶解時の脱酸、脱酸剤として一般
的に使用されている。しかし、MnはSと結合して非金
属介在物を形成し、靱性を低下させ、また、Siと同様
に焼戻し脆化感受性を増大させる作用がある。現在、炉
外精錬などの精錬技術によりS量の低減が容易となり、
Mnを合金成分として添加する必要がなくなってきてい
る。本発明では、Mnを不純物とし、その許容含有量を
精錬技術の限界を考慮して0.3%以下に制限する。
【0026】Pは、焼戻し脆化感受性を増大させる元素
であり、経年劣化させ減少させ、信頼性を向上させるた
めには、極力減少させることが望ましく、その許容含有
量を精錬技術の限界を考慮して0.015%以下とす
る。Sは、大型鋼塊においてV偏析及び逆V偏析の生成
傾向を助長し、また、Mn、Nb、V、Feなどと硫化
物を形成し、靱性を劣化させるので、とりべ精錬などに
より極力低減することが望ましく、その許容含有量を現
状の精錬技術の限界を考慮して0.008%以下とす
る。
【0027】また、その他の不純物としてAs、Sn、
Sbが挙げられる。これらの不純物は、Pと同様に焼戻
し脆化感受性を増大させる元素であり、極力低減するこ
とが望ましい。しかし、これらの不純物元素は、原材料
に付随して不可避的に混入するものであり、精錬によっ
て除去することは困難である。したがって、原材料の厳
選によるところが大きく、焼戻し脆化感受性低減の見地
からAs:0.008%以下、Sn:0.01%以下、
Sb:0.005%以下とすることが望ましい。
【0028】前記組成の鋼種を用いて、本発明の製造方
法によりタービンロータを製造すれば、鋼塊は、焼入れ
時の加熱により組織がオーステナイト化され、焼入れで
マルテンサイト変態して十分な強度が得られ、さらに、
焼戻しによって靱性が向上する。
【0029】本発明に係る高強度耐熱鋼は、均一な焼戻
しマルテンサイト組織を有しており、高低圧一体型ロー
タの熱処理としては均一熱処理を標準とする。すなわ
ち、焼入れ時の加熱温度を適正範囲とすることにより、
高中圧部(高圧部と中圧部)と低圧部とで同一の加熱温
度としても、全体として均一な、高中圧部に必要な高い
高温クリープ強度と、低圧部に必要な優れた靱性を有す
る材料が得られる。なお、高低圧一体型ロータの熱処理
法として、所望により傾斜熱処理を採用することも可能
である。傾斜熱処理とは、例えば高中圧部と低圧部との
間に断熱性仕切板を設け、高中圧部と低圧部の加熱温度
及び冷却速度を変えることにより、高中圧部と低圧部と
にそれぞれ異なった材料特性が付与できる(強度、靱
性、組織等が軸方向に沿って緩やかに変化する)方法で
ある。
【0030】次に、高低圧一体型タービンロータを製造
する際の焼入れ及び焼戻し時の温度について説明する。
焼入れ加熱温度(オーステナイト化温度)は均一熱処理
の場合は1000〜1150℃とする。この温度が10
00℃未満では、十分な高温クリープ強さが得られず、
また1150℃を超えると、高温での切欠弱化、低温靱
性の低下などが認められることから上記範囲とする。
【0031】高中圧部と低圧部の加熱温度に差を設けて
傾斜熱処理とする場合には、高中圧部のオーステナイト
化温度は均一熱処理と同じ1000〜1150℃でよ
い。低圧部では高い靱性が要求される低圧部のオーステ
ナイト化温度は高中圧部よりも低い方が望ましく、95
0℃以上でかつ高中圧部の加熱温度よりも30〜80℃
低い温度とする。950℃未満では、フェライト相が生
成しやすく、低温の強度が十分に得られない。なお、低
圧部のオーステナイト化温度を、高中圧部のオーステナ
イト化温度よりも30〜80℃低い温度とするのは、傾
斜熱処理の作用効果を得るには30℃以上の温度差を付
ける必要があり、また、その温度差が80℃を超えると
製造が難しいためである。
【0032】焼戻し温度については、530℃未満では
十分な焼戻し効果が得られず、したがって、良好な靱性
が得られない。また、700℃を超えた焼戻し温度で
は、所望の強度が得られないため、焼戻し温度は530
〜700℃と限定する。
【0033】
【実施例】以下、実施例により本発明をさらに具体的に
説明する。なお、実施例において高圧部とは高圧部、中
圧部及び低圧部に分けた場合の高中圧部に相当する。 (実施例1)供試材として用いた11種類の耐熱鋼の化
学組成を表1に示す。このうちNo.1からNo.7は
本発明に係る耐熱鋼の化学組成範囲内の鋼であり、N
o.8〜No.11は本発明に係る耐熱鋼の化学組成範
囲外の比較材である。これらの比較材はいずれもMnの
添加量が本発明の範囲外であるが、さらに、No.9は
Siの添加量が、No.10はMoの添加量が本発明の
範囲に入らない鋼である。No.10は例えば特開昭6
2−103345号公報に開示れている鋼で、高中圧蒸
気タービン用ロータ材として使用されているものであ
り、No.9は従来材の12%Cr鋼成分である。
【0034】これらの耐熱鋼を実験室的規模の真空溶解
炉にて溶解し、50kg鋼塊を溶製した。これらの鋼塊
を実機のロータ材を想定して均一加熱と鍛造(据込1/
2.8U、鍛伸3.7Sの鍛練)を行って、小型鍛造材
を製作した。その後、この鍛造材を結晶粒度調整を目的
に予備熱処理(例えば、1050℃空冷及び650℃空
冷)を施した。この鍛造材を、高圧部直径1200mm
の大型高低圧一体型ロータの中心部の焼入冷却速度をシ
ミュレートした条件で熱処理した。すなわち、1070
℃で15時間加熱して完全にオーステナイト化後、ロー
タの高圧部中心部の焼入冷却速度:約100℃/hの冷
却速度で焼入れした後、550℃で15時間の1次焼戻
しと660℃〜700℃で23時間の2次焼戻しを行っ
た。
【0035】次に、低圧部直径2000mmの大型高低
圧一体型ロータの中心部の焼入冷却速度シミュレートし
た熱処理を行った。すなわち、1070℃で15時間加
熱後、ロータの低圧部中心部の焼入冷却速度:約40℃
/hの冷却速度で焼入れした後、前述の高圧部と同様に
550℃で15時間の1次焼戻しと660〜700℃で
23時間の2次焼戻しを行った。なお、焼戻し処理の条
件は、高圧部及び低圧部ともにロータ材の設計に必要な
強度、すなわち室温における0.2%耐力が70kg/
mm2 以上となるように調整されたものである。
【0036】本発明鋼No.1〜No.7及び比較鋼N
o.8〜No.11について室温(20℃)において引
張試験及び衝撃試験を行った。シャルピー衝撃試験結果
より衝撃値及び50%FATTを求め、引張性質ととも
に表2に示す。また、本発明鋼No.1〜No.7及び
比較鋼No.8〜No.11を600℃及び650℃の
各温度でクリープ破断試験を実施、その結果から565
℃の105 時間におけるクリープ破断強度を外挿により
推定した。結果を表2に合わせて示す。
【0037】表2から明らかなように、いずれの本発明
鋼の場合も室温における0.2%耐力は70kg/mm
2 以上の強度レベルとなっており、高低圧一体型蒸気タ
ービンロータ材として十分な強度を有している。また、
伸び、絞りも一般のロータ材で要求される伸び16%以
上、絞り45%以上を十分に満足している。一方、衝撃
特性であるが、高低圧一体型蒸気タービンロータ材の低
圧部50%FATTの目標値は+20℃であるが、本発
明鋼であるNo.1〜No.7はいずれの場合も目標値
以下であり、充分な靱性を有していることがわかる。こ
れに対して、比較鋼であるNo.8〜No.11の50
%FATTは25〜45℃と高く目標値を満足せず、高
低圧一体型ロータ材として靱性が不十分であることがわ
かる。
【0038】さらに、表2から本発明鋼No.1〜N
o.7の565℃×105 hrクリープ破断強度は、い
ずれも14kgf/mm2 以上あり、クリープ破断強度
が改善されており、格段にクリープ破断寿命が長いこと
がわかる。なお、比較鋼No.8及びNo.10は、上
述の通り靱性が目標値を満足しないものの、565℃×
105 hのクリープ破断強度は14kgf/mm2 以上
あり、本発明鋼のそれらと同等とみなすことができる。
これらの材料試験結果より明らかなように、本発明鋼
は、高温クリープ強さ、靱性ともに優れていた。これに
対して、比較鋼は高温クリープ強さと靱性の両方を満足
することはできなかった。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【発明の効果】以上説明したように、本発明の高強度耐
熱鋼は高温クリープ強さに優れ、靱性の著しく良好な高
強度耐熱鋼であり、かかる特性が要求される高圧部と低
圧部を一体化したタービンロータ軸材などの耐熱材料と
して適用が可能である。また、焼戻し脆化感受性に影響
を及ぼす不純物元素含有量を低減させることによって、
より一層の信頼性が得られるようになった。なお、従来
鋼よりも、優れた高温クリープ強さが得られることか
ら、本鋼種が高低圧一体型のロータ軸材のみならず、比
較的靱性を要求されない中圧、高圧、超高圧用のロータ
軸材料などに適用の範囲が広がる効果もある。また、本
発明の高強度耐熱鋼はタービンロータのみならずボルト
等のタービン部材等にも適用可能である。
【0042】本発明の方法によれば、前記高強度耐熱鋼
からなる高低圧一体型タービンロータを容易に製造する
ことができる。さらに、この方法における熱処理方法
は、均一熱処理を標準としているが、所望により傾斜熱
処理を採用することも可能であり、その場合には、焼入
れ温度を高、中圧部と低圧部とで変化させることによ
り、部位に応じて、適した機械的特性(高温クリープ強
さ、靱性)が得られる効果がある。
【0043】本発明に係る高低圧一体型ロータは高温ク
リープ強さに優れ、さらに靱性に著しく良好であるた
め、タービンの使用蒸気温度を向上させて(例えば56
6℃対応以上)の熱効率の向上やタービンロータの大容
量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ロータ直径とロータ温度の関係で整理した場合
のロータ材の選定基準の例を示す図。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) F01D 25/00 F01D 25/00 L (72)発明者 河合 久孝 兵庫県高砂市荒井町新浜2丁目1番1号 三菱重工業株式会社高砂製作所内 Fターム(参考) 3G002 AA07 AA11 AA13 AB08 EA06 4K042 AA14 BA01 BA02 CA02 CA04 CA07 CA08 CA09 CA10 CA13 DA01 DA02

Claims (4)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 重量%でC:0.05〜0.2%、N
    i:1〜1.5%(1及び1.5%は含まず)、Cr:
    9.5〜10.5%、Mo:0.3〜2%、V:0.1
    〜0.3%、N:0.01〜0.08%及びNb:0.
    02〜0.15%を含有し、さらに重量%でTa:0.
    02〜0.2%、B:0.001〜0.03%、W:1
    〜2%、Co:1〜4%のうちの一種又は二種以上を含
    有し、残部が実質的にFeからなり、不純物として重量
    %でSi:0.1%以下、Mn:0.3%以下、P:
    0.015%以下、S:0.008%以下を含有した組
    成であり、M236 型炭化物及び金属間化合物を主とし
    て結晶粒界及びマルテンサイト境界に析出させ、かつM
    X型炭化窒化物をマルテンサイトラス内部に析出させた
    金属組織を有し、0.2%耐力が75.8kgf/mm
    2 以上であることを特徴とする高低圧一体型ロータ用高
    強度耐熱鋼。
  2. 【請求項2】 溶解、精錬、造塊する工程と、該工程に
    より得られた鋼塊より所望形状のタービンロータ素体に
    鍛造成形する工程と、前記タービンロータ素体を100
    0〜1150℃に加熱して焼入れする工程と、前記焼入
    れされたタービンロータ素体に、530℃〜700℃の
    焼戻しを1回以上施す工程とを具備することにより請求
    項1に記載の高強度耐熱鋼からなるタービンロータとす
    ることを特徴とする高低圧一体型タービンロータの製造
    方法。
  3. 【請求項3】 溶解、精錬、造塊する工程と、該工程に
    より得られた鋼塊より所望形状のタービンロータ素体に
    鍛造成形する工程と、前記タービンロータ素体を高中圧
    部は1000〜1150℃、低圧部は950℃以上でか
    つ高中圧部よりも30〜80℃低い温度に加熱して焼入
    れする工程と、前記焼入れされたタービンロータ素体
    に、530℃〜700℃の焼戻しを1回以上施す工程と
    を具備することにより請求項1に記載の高強度耐熱鋼か
    らなるタービンロータとすることを特徴とする高低圧一
    体型タービンロータの製造方法。
  4. 【請求項4】 重量%でC:0.05〜0.2%、N
    i:1〜1.5%(1及び1.5%は含まず)、Cr:
    9.5〜10.5%、Mo:0.3〜2%、V:0.1
    〜0.3%、N:0.01〜0.08%及びNb:0.
    02〜0.15%を含有し、さらに重量%でTa:0.
    02〜0.2%、B:0.001〜0.03%、W:1
    〜2%、Co:1〜4%のうちの一種又は二種以上を含
    有し、残部が実質的にFeからなり、不純物として重量
    %でSi:0.1%以下、Mn:0.3%以下、P:
    0.015%以下、S:0.008%以下を含有した組
    成であり、M236 型炭化物及び金属間化合物を主とし
    て結晶粒界及びマルテンサイト境界に析出させ、かつM
    X型炭化窒化物をマルテンサイトラス内部に析出させた
    耐熱鋼より形成されてなることを特徴とする高低圧一体
    型タービンロータ。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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US7192247B2 (en) 2004-12-14 2007-03-20 Kabushiki Kaisha Toshiba Steam turbine power generation system and low-pressure turbine rotor
CN102181789A (zh) * 2011-04-27 2011-09-14 四川六合锻造股份有限公司 用于超临界汽轮机叶片的耐热钢材料及其制备方法

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