【発明の詳細な説明】
D−特異的アミノアシラーゼを使用するエナンチオマー的に純粋な
環状α−アミノ酸およびそのN−保護誘導体の製造方法
本発明は、下記一般式I
(式中、Aは−N−および−CHと一緒に、無置換または置換された4−,5−
,6−または7−員飽和複素環を形成し、R1はその時々に応じて、無置換また
は置換されたアルキル、アルコキシ、アリールまたはアリールオキシを表す)で
表される化合物の中から選択される1種類または複数種類のN−保護環状アミノ
酸誘導体を、ラセミ体または光学異性体のいずれか1つの形で、唯一の炭素源、
唯一の窒素源、または唯一の炭素源および窒素源として利用することができ、お
よび/またはこれらを加水分解することができる微生物に関する。
これらの微生物またはそれから抽出した酵素は、N−保護環状L−アミノ酸誘導
体および/または環状D−アミノ酸の新規製造方法に使用される。
たとえばD−プロリンといったD−アミノ酸は医薬製造の重要な中間物質であ
る(J.Org.Chem.,1994,59,7496-7498)。
D−アミノ酸を製造するにはいくつかの方法が知られている。JP-A 01 005 48
8は、D−アミノ酸アシラーゼの製造方法を包含しており、そのD−アミノ酸ア
シラーゼは、たとえばN−ベンゾイルカルボニルメチオニンをD−メチオニンに
加水分解し、同時にN−ベンゾイルカルボニル−L−メチオニンが沈殿する。前
記D−アミノ酸アシラーゼは、N−保護環状アミノ酸を加水分解しないし、N−
ベンジルオキシカルボニル基(Z−基)の加水分解はほとんど進行しない。
JP-A 07 289 275は、D−プロリンを得るために、ラセマーゼ活性を有する大
腸菌属の微生物によってL−プロリンを(DL)−プロリンに変換し、続いて、
保護されていないL−プロリンを利用する微生物によって(DL)−プロリンを
代謝させることからなるD−プロリンの製造方法について記載している。この方
法によるD−プロリンの収率は低い。
JP-A 07 127 354は、Proteusmitajiri種の微生物によってオルニチンからD−
プロリンを製造する方法を包含している。この方法の欠点は、原料であるオルニ
チンが高価であることおよび生成物であるD−プロリンの収率が低いことである
。
JP-A 92 183 399は、(DL)−プロリンからCandida属またはTrichospora属
の微生物によってD−プロリンを製造する方法について公開している。
本発明の課題は、N−保護環状L−アミノ酸誘導体ばかりでなく環状D−アミ
ノ酸を製造する簡単かつ技術的に実施可能な方法を提供することにあり、相当す
るエナンチオマーが良好な純度で分離されることを想定している。
この課題は、請求項1に係る微生物と請求項5に係る方法とによって解決され
る。
本発明に従う微生物は、たとえば土壌試料、汚泥または排水、とりわけ、汚染
された土壌または浄水汚泥から、通常の微生物学的な方法を用いて分離すること
が可能である。これらの微生物は、前記試料から選択することによって得られ、
とりわけ一般式Iで表されるラセミ体または光学異性体のうちのいずれか1つの
形で1種類または複数種類のN−保護環状アミノ酸誘導体を含む適当な培地で選
択培養することによって得られる。
式中、−N−および−CHと一緒に環を構成するA、およびR1は、前記の意味
を有し、
そして
・唯一の炭素源および窒素源または
・適当な炭素源を伴う唯一の窒素源または
・適当な窒素源を伴う唯一の炭素源である。
その場合、まず微生物を該当する液体培地で増菌し、つづいて、目的とするN
−保護環状アミノ酸誘導体を唯一の窒素源、唯一の炭素源または唯一の炭素源お
よび窒素源として利用することができ、および/または加水分解しうる嫌気性菌
または好気性菌を前記培地から分離するのが目的に適っている。
無置換または置換された4員環飽和複素環の例として、アゼチジン、メチルア
ゼチジン、ジアゼチジンを挙げることができる。
無置換または置換された5員環飽和複素環の例として、プロリン、ヒドロキシ
プロリン、ピラゾリジン、メチルピラゾリジン、イミダゾリジン、ピログルタマ
ート、オキサゾリジン、イソオキサゾラン、チアゾリジンおよびトリアゾリジン
を挙げることができる。
無置換または置換された6員環飽和複素環の例として、ピペリジン、3−メチ
ルピペリジン、ピペラジン、ピペコリン、3−メチルピペラジン、モルホリンを
挙げることができる。
無置換または置換された7員環飽和複素環の例として、ε−カプロラクタムお
よびアゼチジンを挙げることができる。
一般式Iで表されるN−保護環状アミノ酸誘導体中の残基R1は、アルキル、
アルコキシ、アリールまたはアリールオキシである。
ここで、アルキル基は、置換されたまたは無置換のC1-18アルキル基であり、
好ましくは、置換されたまたは無置換のC1-4アルキル基である。置換基として
は、たとえばヒドロキシル基またはハロゲン原子であるF,Cl,BrまたはI
が好適である。C1-18アルキル基は、たとえばメチル、クロロメチル、トリフル
オロメチル、ω−ヒドロキシルアルキル、エチル、プロピル、ブチル、イソブチ
ル、イソプロピルおよびステアリルである。また、ω−ヒドロキシルアルキル基
は、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシプロピル基またはヒ
ドロキシブチル基である。好ましいアルキル基はメチル基である。
アルコキシ基は、置換されたまたは無置換のC1-18アルコキシ基であり、好ま
しくは、置換されたまたは無置換のC1-4アルコキシ基である。好適な置換基は
、たとえば、前記アルキル基に対して例示した置換基である。アルコキシ
基としては、たとえばメトキシ、クロロメトキシ、トリフルオロメトキシ、エト
キシ、プロポキシ、ブトキシ、tert−ブトキシ、イソブトキシおよびステア
ロキシを挙げることができる。
アリール基としては、置換されたまたは無置換のフェニル基またはベンジル基
、たとえば4−メトキシベンジルまたは4−メトキシフェニルが使用される。ア
リールオキシとしては、置換されたまたは無置換のフェニルオキシ基またはベン
ジルオキシ基が使用される。アリールオキシ基の例としては、ベンジルオキシ、
4−メトキシベンジルオキシまたは4−ニトロベンジルオキシを挙げることがで
きる。好ましいアリールオキシはベンジルオキシである。
一般式Iで表される化合物としては、N−保護環状D−アミノ酸誘導体が好ま
しい例である。
特に好ましいN−保護環状D−アミノ酸誘導体は、N−保護D−プロリン誘導
体、たとえばN−アセチル−D−プロリンおよび/またはN−ベンジルオキシカ
ルボニル−D−プロリン(N−Z−D−プロリン)およびN−保護−D−ピペコ
リン酸誘導体である。
微生物は、好適な炭素源として、たとえば糖、糖アルコールまたはカルボン酸
を栄養源として使用することができる。糖としては、六炭糖、たとえばグルコー
スおよびフルクトース、五炭糖、たとえばリボース、あるいは二糖類、たとえば
サッカロースを使用することができる。カルボン酸としては、アミノ酸、モノ−
、ジ−またはトリカルボン酸、またはそれらの塩を使用することができる。糖ア
ルコールとしては、たとえばマンニットまたはグリセリンを使用することができ
る。アミノ酸としては、たとえばプロリン、グルタマート、リシン、グリシンま
たはそれらの塩を使用することができる。モノ−、ジ−またはトリカルボン酸と
しては、酢酸、アセタート、乳酸、ラクタート、コハク酸、スクシナート、リン
ゴ酸、マラート、クエン酸、シトラートまたはそれらの塩を使用することができ
る。
微生物は好適な窒素源として、たとえばアンモニウム塩、硝酸塩、尿素、グリ
シンまたはリシンを利用することができる。
選択培地および増殖培地として、当業者によって広く使用されている培地、た
とえば表1に記載の培地を使用することができ、好ましくは表1に記載の培地が
使用される。
増殖と選択が行われる過程で、有効な酵素が微生物によって誘導される。目的
に適った酵素誘導物質としては、式Iに従うN−保護環状アミノ誘導体、好まし
くはそのD−異性体が使用される。
増殖および選択は、一般的には温度5°ないし100℃、目的に適う温度とし
て10°ないし75℃、そして好ましくは15°ないし40℃、特に好ましくは
20°ないし35℃で、そしてpH0ないしpH12、目的に適うpHとしてp
H4ないし10、そして好ましくはpH5ないしpH9で行われる。
好ましい微生物は、MIS112、MIS125、MIS132、MIS211、MIS213、MIS221、MIS2
22、MIS231、MIS242、MIS253で呼ばれる微生物である。特に好ましい微生物は、
Arthrobacter oxydans GS121、Arthrobacter sp GS132、Arthrobacter pascens
またはramosus GS131(DSM 11637)、Arthrobacter pascensまたはramosus GS134
および、それらと機能的に等価なArthrobacter属の変異種および突然変異種であ
る。微生物GS131は、ブダペスト条約に従い、1997年6月30日に寄託
番号DSM 11637として、D-38124ブラウンシュヴァイク市、マシェローダー通り1
b番に所在するDeutschen Sammlung von Mikroorganismen und Zellkultur有限
会社に寄託された。
「機能的に等価な変異種および突然変異種」という用語は、記載されている原
種から派生し、発明上の特性および機能が本質的にこれと一致する微生物である
。
このような変異種および突然変異種は、たとえば紫外線照射によって偶発的に生
じる可能性がある。
微生物Anthrobacter oxydans GS121の特性
特徴:グラム陽性、コリネ型桿菌、厳密に嫌気性、グルコースから酸またはガス
を産生しない。
運動性:−
胞子:−
カタラーゼ:+
細胞壁内のmeso−ジアミノピメリン酸:なし
ペプチドグリカンの型:A3α,L−Lys−L−Ser−L−Thr−L−A
la
16S rDNA配列の類似性:変異性が最も大きな領域の配列決定によってAn
throbacter oxydansと100%一致することが判明した。
微生物Anthrobacter pascensまたはramosusGS131(DSM11637)の特性
特徴:グラム陽性、コリネ型桿菌、厳密に嫌気性、グルコースから酸またはガス
を産生しない。
運動性:−
胞子:−
カタラーゼ:+
デンプンの加水分解:−
細胞壁内のmeso−ジアミノピメリン酸:なし
ペプチドグリカンの型:A3α,L−Lys−L−Ala2-3
16S rDNA配列の類似性:変異性が最も大きな領域の配列決定によってAn
throbacter pascens/A.ramosusと98.3%(最大値)一致することが判明した。
Athrobacter属では、多くの場合、信頼性の高い一義的な種の同定は不可能で
ある。記述は、ほとんどの場合、基準株にのみ基づいて行われている。菌株は、
間違いなく、より密接なAnthrobacter globiformis/Anthrobacter ramosus群に
属する。16S rDNA配列は、G134株のそれと同一である。
微生物Anthrobacter oxydans GS132の特性
特徴:グラム陽性、コリネ型稈菌、厳密に嫌気性、グルコースから酸またはガス
を産生しない。
運動性:−
胞子:−
カタラーゼ:+
細胞壁内のmeso-ジアミノピメリン酸:なし
ペプチドグリカンの型:
A3α,L−Lys−L−Ser−L−Thr−L−Ala
16S rDNA配列の類似性:変異性が最も大きな領域の配列決定によってAn
throbacter nicotinovoransと97.2%(最大値)一致することが判明した。
観察されたペプチドグリカンのタイプは、これまでAnthrobacter oxvdansにつ
いてしか記述されなかった。今回得られた細胞壁および16rDNA配列データ
は、Anthrobacter属の中でもこれまで記載のない種類の株であることを示唆して
いる。
微生物Anthrobacter pascensまたはramosusGS 134の特性
特徴:グラム陽性、コリネ型桿菌、厳密に嫌気性、グルコースから酸またはガス
を産生しない。
運動性:−
胞子:−
カタラーゼ:+
細胞壁内のmeso-ジアミノピメリン酸:なし
ペプチドグリカンの型:A3α,L−Lys−L−Ala2-3
16SrDNA配列の類似性:変異性が最も大きな領域の配列決定によってAnth
robacter pascens/Anthrohacter ramosusと98.3%(最高値)一致することが判
明した。
Athrobacter属では、多くの場合、信頼性の高い一義的な種の同定は不可能で
ある。記述は、ほとんどの場合、基準株にのみ基づいて行われている。菌株は、
間違いなく、より密接なAnthrobacter globiformis/Anthrobacter ramosus群に
属する。16SrDNA配列は、G131株のそれと同一である。
本発明に従う、一般式IIで表されるN−保護環状L−アミノ酸誘導体および/
または一般式IIIで表される環状D−アミノ酸(式中、−N−および−CHと一緒に環構造を形成するA、およびR1は前記の
意味を有する)の製造方法は、一般式I
(式中、−N−および−CHと一緒に環構造を形成するA、およびR1は前記の
意味を有する)で表されるラセミ体のN−保護環状アミノ酸誘導体と既に記載さ
れている微生物および/またはそれから調製される酵素剤による環状D−アミノ
酸(式III)および/またはこの変換で析出するN−保護環状L−アミノ酸誘導
体(式Π)への変換を含み、場合によってこれらの化合物を分離することも含む
。
式Iで表されるN−保護環状アミノ酸誘導体としては、前記ラセミ化合物が使
用される。
特に好ましいN−保護環状アミノ酸誘導体は、N−Z−プロリン(R1=ベン
ジルオキシ)、N−アセチルプロリン(R1=メチル)およびN−Z−ピペコリ
ン酸である。
出発原料である、一般式Iで表されるラセミ体のN−保護環状アミノ酸誘導体
、たとえばN−Z−プロリンは市販されている。
生物変換は、N−保護環状アミノ酸誘導体を、ラセミ体またはその光学活性異
性体の形で唯一の窒素源、唯一の炭素源または唯一の窒素源および炭素源として
利用および/または加水分解する微生物であれば、原理的には可能である。また
、これらの微生物から抽出された酵素もまた適している。生物変換は、好ましく
は前述の微生物、とりわけAthrobacter pascensまたはramosus GS131(DSM 11637
)、
またはそれらの機能的に等価な変異種または突然変異種によって行われる。
生物変換は、微生物の通常の増殖法に従い、静止細胞(増殖を停止した細胞で
、もはや炭素源およびエネルギー源を必要としない)または増殖細胞を使って好
気性条件下または嫌気性条件下で行うことができる。好ましくは静止細胞を使用
し嫌気性条件下で行われる。
生物変換には、当業者にとってよく知られた培地、たとえば、低濃度のリン酸
塩緩衝液、トリス緩衝液といった低濃度緩衝液または表1に記載の培地を使用す
ることができる。この生物変換に好ましい培地は表1に記載の培地である。
生物変換を行うには、N−保護アミノ酸誘導体を50重量%濃度、そして好ま
しくは20重量%濃度を超えないように添加するのが好適である。N−保護アミ
ノ酸誘導体は一度に加えてもよいし、連続的に加えてもよい。
培地のpHは、3ないし12の範囲が可能であるが、5ないし9の範囲が好ま
しい。生物変換を行う温度は、10°ないし70℃の範囲が可能であるが、20
°ないし50℃の範囲が好ましい。
本発明による方法に従えば、N−保護環状アミノ酸誘導体は環状D−アミノ酸
に変換される。その時N−保護L−アミノ酸誘導体は沈殿する。環状D−アミノ
酸およびN−保護L−アミノ酸誘導体は良好な収率とエナンチオマー純度で分離
することができる。
このようにして得られるN−保護L−アミノ酸誘導体および/またはN−保護
D−アミノ酸は、通常の後処理法、たとえば抽出によって分離することができる
。
実施例
実施例1:
N−Z−D−プロリンを利用する微生物の選択
最初に、多くの微生物が増殖可能な条件を満たす最小培地(表1を参照)を調製
した。
表 1:
最小培地
N−保護環状D−アミノ酸を加水分解する微生物を増殖させるため、次に挙げ
る炭素源および窒素源をこの基本培地に添加した:
(A)N−アセチル−D−プロリン(5g/l),硫酸アンモニウム(2g/l
)
(B)フルクトース(10g/l),N−Z−D−プロリン(2g/l)
次に、異なる場所から採取した土壌試料をこれらの培地に接種し、目ではっき
り増殖が認められるまで保温した(30℃,120rpm)。この培養液の一定
量を取り、同体積の新しい培地に植え継いだ。そして明らかに濁りが認められる
まで再び保温した。この手順を3回くり返した。次に、増菌た微生物を固体培地
(20g/lの寒天を添加する以外は液体培地と同組成)に画線し、純化した。
このようにして
(A)N−アセチル−D−プロリンを唯一の炭素源として、または
(B)N−Z−D−プロリンを唯一の窒素源として
利用することができる約20種類のバクテリア分離株を得た。
実施例2:選択した微生物のN−保護環状アミノ酸に対する加水分解活性試験
(A)唯一の炭素源としてN−ア七チル−D−プロリンを利用する微生物を使っ
た試験
実施例1(A)に記載の方法で得られた分離株をそこに記載の培地で増殖させ
た。このようにして調製した細胞を遠心分離し、それから塩化ナトリウム溶液(
8.
5g/l)に再懸濁させて洗浄した。塩化ナトリウム溶液に再度懸濁させた後、
静止細胞を使ってN−保護環状アミノ酸に対する加水分解活性を試験した。その
ため、適当量の細胞と、緩衝液(50mMリン酸塩緩衝液,pH7.0)に溶解
した、各25mMのN−アセチル−(DL)−プロリン、N−Z−(DL)−プ
ロリンおよびN−Z−(DL)−ピペコリン酸、または12.5mMのN−アセ
チル−(DL)−ピペコリン酸溶液を振とうしながら保温(30℃)した、時間
間隔をおいて一定量の試料液を抜き取り、遊離プロリンまたはピペコリン酸を薄
層クロマトグラフィによって検査した。空気中の酸素が存在すると加水分解によ
って遊離してくるプロリンは代謝されるので、多数の実験は酸素不在下で行った
(窒素雰囲気下に気密性の小さな管で反応):
10種類の分離株(MIS112、MIS125、MIS132、MIS211、MIS213、MIS222、MIS222
、MIS231、MIS242、MIS253)が、基本的にはこれらの基質に対して加水分解活性
を示した。
その結果を表2に示す。
表2:N−保護環状アミノ酸誘導体に対する酵素活性
活性度:+++極めて強い活性,++中程度活性,+弱い活性,(+)ほとんど
活性なし,−不活性,ng試験しなかった。
菌株によって活性を示す基質が大きく違った。ほとんどの菌株がN−Z−誘導
体に対して大きな活性を示したのに対して、MIS221はN−アセチル誘導体
としか反応しなかった。巨視的(コロニーの形態および染色性)、微視的(細胞
形態学、運動性)および生理学的な分析(BioMerieux(ビオメリュー社)のAP
I試験)によってもこれらすべての株を区別することができる。すべての株が、
基本的には酸素存在下の方が高い活性を示し、ピペコリン酸誘導体よりもプロリ
ン誘導体に対して大きな活性を示した。
次に、HPLC(N−Z−プロリン、N−Z−ピペコリン酸)またはGC(ブ
ロリン、ピペコリン酸、N−アセチルプロリン)によってN−保護アミノ酸およ
び遊離アミノ酸のエナンチオマー純度を決定した、ラセミ体出発物質に対する個
々の反応率は、エナンチオマー定量データによって見積もった。ただ、この方法
では正確な定量は不可能である。いくつかの株で得ることができたee値を表3
および表4に示す。
表3:N−アセチルプロリンに対するエナンチオ選択性
−生成物なし
すべての場合に、N−アセチル−D−プロリンの加水分解にはっきりした選択
性が認められる。反応は好気性条件下の方が良く進行し、いくつかの反応例では
エナンチオマー的に純粋なN−アセチル−L−プロリンが生成する。バクテリア
細胞による遊離プロリンの利用がこの反応を促進しているように思われる。酸素
不在下ではD−プロリンも蓄積する。1つの事例(MIS231)ではエナンチオマー
的に純粋なD−プロリンが観察されたが、他の事例では少なくとも目的とするエ
ナンチオマーの濃縮が認められた、その場合、アセチル誘導体の加水分解は極め
て選択的に進行するように思われるので、多分、D−プロリンのラセミ化によっ
て起こるD−プロリンの減少が効果的に関わったものと思われる。
表4:N−Z−プロリンに対するエナンチオマー選択性
ほとんどすべての事例で、N−Z−D−プロリンの加水分解に対して非常に高
い選択性が認められた。酸素不在下の条件では、反応は完全に選択的に進行する
ため、終了時には、反応に使用した全N−Z−L−プロリンが純枠なエナンチオ
マーの形で存在した。
酵素反応の特異性はプロリン以外のアミノ酸の誘導体でも観察される。図1に
示すようにN−Z−(DL)−ピペコリン酸との反応は比較的遅いが、それでも
MIS132およびMIS222によってD−エナンチオマーが選択的に加水分
解される。
図1は、MIS132およびMIS222と、N-Z-(DL)-ピペコリン酸との反応を示す。
同様のことは、菌株M1S211およびMIS242を使った実験でも確認され、D−ピペ
コリン酸は高い光学純度(ee>95%)で生成する、ただ、これらの実験の反
応率は比較的低かった(<10%)
(B)唯一の窒素源としてN−Z−D−プロリンを利用する微生物を使った試験
実施例1(B)に記載の方法で得られた分離株を、そこに記載した培地で増殖
させた。このようにして調製した細胞を遠心分離し、それから塩化ナトリウム溶
液(8.5g/l)に再懸濁させて洗浄した、塩化ナトリウム溶液に再度懸濁さ
せた後、静止細胞を使ってN−保護環状アミノ酸に対する加水分解活性を試験し
た。そのため、適当量の細胞と、緩衝液(50mMリン酸塩緩衝液,pH7.0
)に溶解したそれぞれ100mMのN−Z−DL−プロリンまたは50mMのN
−Z−DL−ピペコリン酸溶液を振とうしながら保温(30℃)した。時間間隔
をおいて一定量の試料液を抜き取り、遊離プロリンまたはピペコリン酸を薄層ク
ロマトグラフィによって検査した:4種類の分離株(バクテリア株GS121、
GS131、GS132およびGS134)は、N−Z−プロリンばかりでなく
N−Z−ピペコリン酸に対しても加水分解活性を示した。GS131が最も高い
活性を示したのでこの分離株をより詳細に検討した。
実施例3:
バクテリア株GS131(DSM 11637)の増殖
バクテリア株GS131の特性を明らかにするため、様々な炭素源と窒素源を使
ってこの株の増殖を研究した。使用した基本培地を表1に示す。炭素源を添加す
る場合は10g/l、窒素源は最終濃度が40mMになるように添加した。それ
から培養液を30℃に保温した。ここでGS131はいくつかの炭素源および窒
素源を利用することができ、検討したほとんどの培地で良好な増殖を示した。
表5:いくつかの炭素源および窒素源によるバクテリア株GS131の増殖+++良好な増殖,++中程度の増殖,+わずかな増殖
実施例4:
バクテリア株GS131(DSM 11637)によるD−アミノアシラーゼの誘導
バクテリア株GS131は、培地成分またはその濃度を変えながら30℃で増菌
させた。このようにして調製した細胞を遠心分離し、それから塩化ナトリウム溶
液(8.5g/l)に再懸濁させて洗浄した。塩化ナトリウム溶液に再度懸濁させた
後、静止細胞を使って好気性条件下にN−Z−D−プロリンの加水分解に対する
活性を調べた。
表6:バクテリア株GS131によるD−アミノアシラーゼの誘導増殖:+++良好,++中程度,+わずか
活性:+あり,−なし,ng試験せず
その結果、N−保護環状アミノ酸が存在すると、ほとんど一貫して増殖速度は
遅くなり、その際、N−Z−D−プロリンは低濃度でも許容度が最も大きいこと
が分かった。同様に、D−アミノアシラーゼは、たとえ低濃度でも、N−Z−D
−プロリンを添加した時のみ、誘導することができた。炭素源としてはグルコー
スばかりでなくL−プロリンも可能であった。
実施例5:
バクテリア株GS131(DSM 11637)のD−アミノアシラーゼのエナンチオマ
ー選択性
バクテリア株GS131を実施例1(B)に記載の方法で増殖させた。このよ
うにして調製した細胞を遠心分離し、それから塩化ナトリウム溶液(8.5g/
l)に再懸濁させて洗浄した。塩化ナトリウム溶液に再度懸濁させた後、静止細
胞を使ってN−保護環状アミノ酸に対する加水分解活性を試験した。そのため、
適当量の細胞と、緩衝液(50mMリン酸塩緩衝液,pH7.0)に溶解した各
基質溶液(10mMのN−Z−L−プロリンまたはN−Z−D−プロリン、また
は5mMのN−Z−D−ピペコリン酸もしくはN−Z−L−ピペコリン酸)を保
温(30℃)した。時間間隔をおいて一定量の試料液を抜き取り、基質の反応を
HPLCによって追跡した。
図2にバクテリア株GS131のD−アミノアシラーゼのエナンチオマー選択
性を示す。
試験した両N−保護アミノ酸共、D−エナンチオマーは加水分解され、L−エ
ナンチオマーは未反応のままであった。従って、前記酵素は極めて優れたエナン
チオマー選択性を示す。もちろん、N−Z−D−プロリンの方がN−Z−D−ピ
ペコリン酸よりはるかに速く加水分解された。
実施例6:
バクテリア株GS131のD−アミノアシラーゼを使ったラセミ体の分割による
N−Z−L−プロリンの製造
バクテリア株GS131を実施例1(B)に記載の方法で増殖させた。このよ
うにして調製した細胞を遠心分離し、それから塩化ナトリウム溶液(8.5g/
l)に再懸濁させて洗浄した。塩化ナトリウム溶液に再度懸濁させた後、静止細
胞を使ってN−保護環状アミノ酸に対する加水分解活性を試験した。そのため、
適当量の細胞と、緩衝液(50mMリン酸塩緩衝液,pH7.0)に溶解した1
0mMのN−Z−(DL)−プロリンを保温(30℃)した。時間間隔をおいて
−定量の試料液を抜き取り、基質の反応をHPLCによって追跡した。
図3にバクテリア株GS131のD−アミノアシラーゼを使ってN−Z−L−
プロリンおよびN−Z−(DL)−プロリンを製造した結果を示す。
N−Z−D−プロリンは、3時間後には全量が完全に加水分解されたのに対し
、N−Z−L−プロリンは26時間経過しても未反応のままであった。このよう
に、N−Z−L−プロリンは実験終了時には高いエナンチオマー純度で溶液中に
溶けていた(HPLCによるee>98%)。
実施例7:
環状アミノ酸N−ベンジルオキシカルボニル誘導体の合成
(A)N−Z−(DL)−プロリンの合成
(DL)−プロリン100.0gを4N水酸化ナトリウム217mlに溶解し、
その溶液に、温度(5−10℃)およびpH(pH=10.0−11,0)を一
定に保ちながらクロロ炭酸ベンジルエステル(Z−Cl)を滴下した、全量でZ
−Cl158.1gと4N水酸化ナトリウム251.2gを加えた。それに加え
て、反応混合物を攪拌しやすくするため蒸留水150mlを加えた。次に、濃塩
酸(76ml)を加えてpH=2.4に調節し、続いてN−Z−(DL)−プロ
リンを全量584mlの酢酸ブチルで数回に分けて抽出した。有機層を合わせて
減圧濃縮し、得られたN−Z−(DL)−プロリンを酢酸エチルに溶解し、それ
からヘキサンを加えて析出させた。このようにしてN−Z−(DL)−プロリン
187.4g(対理論収率86.5%)を得た。
N−Z−D−プロリンおよびN−Z−L−プロリンも同様操作により合成した
。
(B)N−Z−L−ピペコリン酸
L−ピペコリン酸10.0gを4N水酸化ナトリウム13mlに溶解し、その
溶液に、温度(5−10℃)を一定に保ちながらクロロ炭酸ベンジルエステル(
Z−Cl)14.5gを滴下した。pHスタットを通して4N水酸化ナトリウム
を加え、pHを11.5に保った。反応終了後、後処理時に攪拌を容易にするた
め、水10mlを添加し、続いて濃塩酸(約1g)を加え、pH値を7.0にし
た。1回当たり40mlの酢酸ブチルで2回抽出し不純物を除いた。水層に濃塩
酸6.67gを加え、pH2.01にした。酢酸ブチルで3回抽出し(1回当た
り40ml)、N−Z−L−ピペコリン酸を得た、有機層を合わせ、硫酸ナトリ
ウムで乾燥後、濃縮乾固した。固体を酢酸エチル10mlに溶解し、それからヘ
キサン9mlを加え、<10℃に冷却してN−Z−L−ピペコリン酸を結晶化さ
せた。これを濾過、乾燥し、N−Z−L−ピペコリン酸13.22g(対理論収
率64.9%)を得た。
N−Z−(DL)−ピペコリン酸およびN−Z−D−ピペコリン酸も同様操作
により合成した。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】平成11年9月20日(1999.9.20)
【補正内容】
請求の範囲
1.一般式IV
(式中、Aは−N−および−CHと一緒に、無置換または置換された4−,5−
,6−または7−員飽和複素環を構成することを意味し、R1は無置換または置
換されたアルキル、アルコキシ、アソールまたはアリールオキシを意味する)で
表される化合物から選択される1種類または複数種類のN−保護環状D−アミノ
酸誘導体を唯一の炭素源、唯一の窒素源または唯一の炭素源および窒素源として
利用することができ、および/または加水分解することができることを特徴とす
る、微生物およびそれから抽出される酵素。
2.式IVの化合物は、N−保護D−プロリン誘導体であり、好ましくはN−アセ
チルまたはN−ベンジルオキシカルボニル−D−プロリンか、またはN−保護D
−ピペコリン酸誘導体である、請求項1に記載の微生物。
3.N−保護D−プロリン誘導体、好ましくはN−アセチルまたはN−ベンジル
オキシカルボニル−D−プロリンを唯一の炭素源、唯一の窒素源、または唯一の
炭素源および窒素源として利用することができ、および/またはN−保護D−プ
ロリン誘導体、好ましくはN−アセチルまたはN−ベンジルオキシカルボニル−
D−プロリンおよび/またはN−保護D−ピペコリン酸誘導体を加水分解するこ
とができる、請求項1または2に記載の微生物。
4.Arthrobacter属に属する、請求項1ないし3のいずれか1つに記載の微生物
。
5.Arthrobacter ramosus GS131(DSM 11637)およびそれと機能的に等価な変
種および突然変異種である、請求項4に記載の微生物。
6.一般式I
(式中、−N−および−CHと一緒に環を構成するA、およびR1は請求項1に
記載の意味を有する)で表されるラセミ体のN−保護環状アミノ酸誘導体を請求
項1に従う微生物および/または酵素調剤で式IIIで表される化合物および/ま
たはその反応で析出してくる一般式IIで表されるN−保護環状L−アミノ酸誘導
体に変換する反応を含み、場合によってこれらの化合物を分離することも含む、
一般式IIで表されるN−保護環状L−アミノ酸誘導体および/または一般式III
(式IIおよび式III中、−N−および−CHと一緒に環構造を形成するA、およ
びR1は請求項1に記載する意味を有する)で表されるN−環状D−アミノ酸の
製造方法。
7.微生物Arthrobacter pascensまたはramosus GS131(DSM11637)ま
たは機能的に等価な変種または突然変異種を使用して生物変換を行うことを特徴
とする、請求項6に記載の方法。
8.N−保護アミノ酸誘導体を、その濃度が50%を超えないように添加して生
物変換を行うことを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
9.10°ないし70℃の温度とpH値3ないし12において生物変換を行うこ
とを特徴とする、請求項6ないし8のいずれか1つに記載の方法。
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(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
(C12N 1/20 (C12N 1/20
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,CY,
DE,DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,I
T,LU,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ
,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GW,ML,
MR,NE,SN,TD,TG),AP(GH,GM,K
E,LS,MW,SD,SZ,UG,ZW),EA(AM
,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM)
,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,
BR,BY,CA,CH,CN,CU,CZ,DE,D
K,EE,ES,FI,GB,GE,GH,GM,HR
,HU,ID,IL,IS,JP,KE,KG,KP,
KR,KZ,LC,LK,LR,LS,LT,LU,L
V,MD,MG,MK,MN,MW,MX,NO,NZ
,PL,PT,RO,RU,SD,SE,SG,SI,
SK,SL,TJ,TM,TR,TT,UA,UG,U
S,UZ,VN,YU,ZW