JP2002253212A - 有用酵母の栄養要求性変異株とその育種方法 - Google Patents

有用酵母の栄養要求性変異株とその育種方法

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JP2002253212A
JP2002253212A JP2001058056A JP2001058056A JP2002253212A JP 2002253212 A JP2002253212 A JP 2002253212A JP 2001058056 A JP2001058056 A JP 2001058056A JP 2001058056 A JP2001058056 A JP 2001058056A JP 2002253212 A JP2002253212 A JP 2002253212A
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JP2001058056A
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Tomoharu Akata
倫治 赤田
Nobutsugu Hashimoto
信嗣 橋本
Yoshinori Nishizawa
義矩 西澤
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 産業上の有用性の高い醸造用酵母は、通常、
二倍体以上の倍数体であるので、これまでは栄養要求性
変異のような劣性変異株は得られないと考えられてきた
が、紫外線照射などの変異処理条件を改良することによ
り、二倍体以上の有用酵母において、栄養要求性変異株
の育種方法を確立すると共に、産業上有用な栄養要求性
変異株を提供し、また、得られた栄養要求性変異株を遺
伝子操作系の開発のための宿主細胞として利用し、栄養
要求性を選択マーカーとして新規な形質転換系を提供す
ることを目的とする。 【解決手段】 紫外線照射などの変異処理の最適条件を
検討することにより、二倍体以上の有用酵母の栄養要求
性変異株を得ることに成功し、発明を完成させた。すな
わち本発明は、酒類、食酢、醤油、パンなどの発酵食品
の製造に用い得る、二倍体以上の有用酵母の栄養要求性
変異株、二倍体以上の有用酵母の栄養要求性変異株を変
異処理によって得る育種方法および二倍体以上の有用酵
母の栄養要求性変異株を用いる形質転換株を提供するも
のである。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、有用酵母の栄養要
求性変異株とその育種方法に関し、酒類、食酢、醤油、
パンなどの発酵食品の製造に用い得る、二倍体以上の有
用酵母(Saccharomyces cerevisiae)の栄養要求性変異
株、二倍体以上の有用酵母の栄養要求性変異株を変異処
理によって得る育種方法、栄養要求性変異株の利用法、
および二倍体以上の有用酵母の栄養要求性変異株を用い
る形質転換株に係わるものである。
【0002】
【従来の技術】主に研究用に用いられている一倍体の酵
母に関しては、紫外線照射、薬剤処理または放射線照射
などの変異処理によって、あるいは遺伝子工学的な手法
によって、比較的容易に栄養要求性変異株が得られてお
り、既にURA3、LYS2、ADE2、HIS3、T
RP1、LEU2などの遺伝子マーカーが報告されてい
る。
【0003】一方、醸造等に用いられる有用酵母は二倍
体以上の倍数体が多いため、栄養要求性株に関する報告
は少ない。栄養要求性変異株取得の報告はあるものの、
いずれもナイスタチンやベノミルなどの薬剤を利用し
て、栄養要求性変異株を濃縮して得る方法である。これ
らの薬剤は増殖分裂中の細胞を殺すが、分裂停止中の細
胞は生存できる。この薬剤下で変異処理株を培養する
と、その培地で増殖分裂しない細胞のみが生存し、増殖
する細胞が死ぬので、その培地での栄養要求性変異株が
濃縮され分離できるというものである(Bilinski et a
l., Appl. Environ.Microbiol. , 48, 813, 1984; Sho
w et al., Nature, 211, 206, 1966; 大内ら,醗酵工
学,61,349,1983)。
【0004】一方、栄養要求性関連変異株の中には、醸
造食品の工業的生産に用い得る、有用な菌株が知られて
いる。ロイシンのアナログに耐性を示す変異酵母を用い
た、香気の豊かなアルコール飲料等の製造法(特開昭6
2−6669号公報)が知られている。また、遺伝子操
作により、ロイシンアナログ耐性株に由来するLEU4
遺伝子を用いた形質転換体を得て、イソアミルアルコー
ルおよび/または酢酸イソアミルを高生産させることに
より、香気豊かな発酵飲食品等を製造する方法(特許公
報 第2954663号)も知られている。これらは、
主として、イソアミルアルコールの産生量を高くするこ
とに特徴がある。また、同じ目的で、遺伝子破壊株を利
用すると香気成分の変化が観察されているが、倍数性の
ウイスキー酵母から1倍体を取得後に遺伝子操作で栄養
要求性変異株を作成する方法であり、実用化には問題が
残っている(福重智行,醸造協会誌 93,37,1998)。
【0005】さらに、酵母の遺伝子操作における形質転
換系の開発には、目的の酵母に利用できる形質転換マー
カーの開発が必要である。形質転換マーカーには、薬剤
耐性型マーカーと栄養要求性相補型のマーカーがある
が、栄養要求性マーカーは、操作の簡便さ、高い形質転
換効率、低いバックグラウンドおよび利用する遺伝子が
酵母由来であるので、遺伝子食品開発に都合が良いなど
の多くの利点がある。しかし、醸造酵母などの二倍体以
上の倍数性を持つ実用酵母においては、栄養要求性変異
が取得できないと考えられており、有用な形質転換系が
開発されていない。形質転換系としては薬剤耐性マーカ
ーを用いる方法が知られている。薬剤耐性マーカーとし
ては、CUP1、SMR1−410、DHFR、PGK
p::YAP1(特開2000−224988)および
AUR1(特開平8−322578)などの遺伝子マー
カーが報告されている。しかしながら、醸造食品の工業
的生産に用いる場合には、薬剤耐性マーカーは、安全性
の点で大きな問題がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】産業上の有用性の高い
醸造用酵母は、通常、二倍体以上の倍数体であるので、
これまでは栄養要求性変異のような劣性変異株は得られ
ないと考えられてきた。また、得られた場合でも、ナイ
スタチンやベノミルを使用し、栄養要求性変異株を濃縮
する必要があると考えられている。この場合は、増殖が
遅い株や栄養要求性以外の原因により生育の悪い株を選
ぶという問題がある。また、ナイスタチンやベノミルを
利用しない方法としては、5-フルオロオロチン酸やアミ
ノアヂピン酸を含む培地を利用して、それぞれウラシル
要求性株やリジン要求性株を取得する方法もあるが、U
RA3またはLYS2遺伝子の変異に限定される(小田
ら,醸造協会誌,83,614,1988;小田ら,醗酵工学,6
8,399,1980)。そこで、紫外線照射などの変異処理条
件を改良することにより、二倍体以上の有用酵母におい
て、各種の栄養要求性変異株の育種方法を確立し、産業
上有用な栄養要求性変異株を得ることが、第一の課題で
ある。
【0007】また、得られた栄養要求性変異株を、遺伝
子操作系の開発のための宿主細胞として利用し、栄養要
求性を選択マーカーとして新規な形質転換系を確立する
ことが、第二の課題である。この形質転換系ができれ
ば、薬剤耐性マーカーの問題である、低い形質転換効
率、バックグラウンドの出現、低い染色体への遺伝子導
入効率、形質転換体が薬剤耐性形質をもつ、遺伝子組換
え体が薬剤耐性遺伝子を持つ、などの問題点をすべて解
決できる。栄養要求性変異株とその選択マーカーによる
形質転換は効率が高く、バックグラウンドがない。ま
た、形質転換された株は、異種遺伝子を持たず余計な形
質を持たず野性株と同じに戻る。このことは食品に利用
する遺伝子組換え酵母を作成する点で大きな利点とな
る。
【0008】また、得られた栄養要求性変異株を細胞融
合や接合による遺伝的な融合株を得るための選択方法と
しても利用できる。プロトプラスト融合による清酒酵母
とワイン酵母の融合が清酒酵母の育種に利用されている
(岩瀬ら,醸造協会誌,90,137,1995)。また、異な
る薬剤耐性マーカーを形質転換した酵母を用いて接合体
を選択し、融合株を得ることも行われている(Nakazawa
et al., J. Biosci.Bioeng., 88, 468, 1999)。よい
融合株を得ることは有用酵母育種において重要な手段で
あるが、融合株の選択に薬剤耐性マーカーを用いたり、
限定的な選択によるウラシルまたはリジンの栄養要求性
株しか用いられておらず、より有効な選択方法が望まれ
ている。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記課題を解決するため
本発明者らは鋭意研究を重ね、紫外線照射などの変異処
理の最適条件を検討することにより、二倍体以上の有用
酵母の栄養要求性変異株を得ることに成功し、発明を完
成させた。すなわち本発明は、酒類、食酢、醤油、パン
などの発酵食品の製造に用い得る、二倍体以上の有用酵
母の栄養要求性変異株、二倍体以上の有用酵母の栄養要
求性変異株を変異処理によって得る育種方法、二倍体以
上の有用酵母の栄養要求性変異株を用いる形質転換株、
および栄養要求性変異株同士を混合し、細胞融合株を得
る方法を提供するものである。
【0010】
【発明の実施の形態】本発明に用いられる酵母は、酒
類、食酢、醤油、パンなどの発酵食品の製造に有用な出
芽酵母、特にサッカロミセス・セレビジエ(Saccharomy
ces cerevisiae)であって、二倍体以上の有用酵母であ
る。
【0011】酵母の変異株を得る目的で利用される変異
処理法としては、酵母に公知の変異誘導法、例えば紫外
線や放射線等を照射する方法、またはエチルメタンスル
ホネート(EMS)、N−メチル−N’−ニトロ−N−
ニトロソグアニジン等の薬剤で処理する方法等を用いる
ことができる。ただし、主に研究用に用いられている一
倍体の酵母に対して最適化された条件は、本発明の二倍
体以上の有用酵母に対しては有効ではなく、変異処理条
件の改良が必要である。
【0012】本発明者らは、紫外線照射時間、紫外線ラ
ンプから菌までの距離、培養プレートの状態、EMS処理
の時間、EMSの濃度、使用菌の培養条件などの変異処理
条件について、種々の検討を行って最適条件を探索した
結果、二倍体以上の有用酵母では取得できないと考えら
れていた栄養要求性変異株を、非常に高い効率で得られ
る方法を見出した。例えば,過去のナイスタチンを用い
た栄養要求性変異取得の結果では、紫外線照射による生
菌数が0.06-2.6%という致死率が高い強力な変異処理を
行い、その後、濃縮率を22000-30000倍にして選択した
ところ、協会7号株で0.00005%、協会9号株で0.00017
%、協会10号株で0.000036%の率で栄養要求性変異株が
得られている(大内ら,醗酵工学,61,349,1983)。
一方、本発明の方法によれば、全く濃縮を行わなくと
も、さらに、生菌率を通常の変異のレベルである8-22%
にしても、0.05-0.2%という高い効率で変異株が取得で
きる。例えばイソアミルアルコール低生産性の変異株R
AK1763(FERM P−18206)に代表され
るように、約2000個のコロニー中より目的の変異株3株
を得ており、約800-3900倍の変異選択率向上が得られて
いる。
【0013】改良された変異処理を、日本醸造協会から
分譲された協会 7号、9号、10号、701号、90
1号及び協会7号のヒスチジン要求性株に適用した結
果、15株の栄養要求性変異株が得られている。得られ
た変異株の栄養要求性の同定は、Method in Yeast Gene
tics 1997(Cold Spring Harbar Laboratory Course Man
ual)に従って栄養成分のプールを作り、それらの栄養プ
ールを含む培地での増殖を調べることにより、栄養要求
性を決定できる。さらに、栄養要求性を示すアミノ酸ま
たは塩基のみを加えた最小培地での増殖を観察すること
により、栄養要求性が単一成分であることを確認でき
る。このようにして、ロイシン、 ヒスチジン、メチオ
ニン、アルギニン、トリプトファン、ヒスチジンおよび
リジン、ウラシル要求性の7種類の栄養要求性変異株
が得られている。
【0014】本発明で得られた協会701号由来のロイ
シン要求性株RAK1763を用いて、コーンを原料と
してアルコール発酵させたところ、イソアミルアルコー
ルの産生量が、親株の協会701号に比べて、顕著に減
少していた。
【0015】イソアミルアルコールの産生量を上げてや
ると、酒類の香気は強くなることが知られている。香り
の強い酒類は好ましい製品と考えられるが、嗜好の多様
化によって、香りの淡白な酒類を好む傾向もある。ま
た、食酢の場合は、イソアミルアルコールの産生量が高
すぎると、イソ吉草酸臭が強くなって異臭を感じるとい
う問題がある。従って、本発明によって得られた、イソ
アミルアルコール産生量が抑制されていることを特徴と
するロイシン要求性変異株RAK1763は、新規な発
酵食品の製造に有用である。
【0016】本発明の栄養要求性変異株は、二倍体以上
の有用酵母の遺伝子操作系を開発する目的にも有用であ
る。遺伝子操作による形質転換系の開発には、目的の酵
母に利用できる形質転換マーカーが必要である。本発明
により得られた協会7号由来のヒスチジン要求性変異株
RAK1536において、常法に従ってヒスチジン要求
性変異を相補できる遺伝子を同定したところ、HIS3
遺伝子であることが判明した。また、RAK1922株
の変異相補遺伝子を同定したところ、TRP3遺伝子で
あることが判明した。このように栄養要求性変異を相補
できる遺伝子を同定することにより、有用酵母の新しい
形質転換系が確立できる。
【0017】さらに、本発明による栄養要求性変異株
と、接合型αまたは接合型aの一倍体細胞とを交配さ
せ,栄養要求性を相補した細胞融合株を選択したところ
栄養要求性の相補が見られ、細胞融合株が得られた。こ
の方法で、それぞれの栄養要求性変異株同士を混ぜ合わ
せ、栄養要求性相補株を取得したところ、各種の組み合
わせにおいて栄養要求性を相補した細胞融合株が得られ
た。
【0018】以下に、本発明の実施例を示すが、本発明
はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0019】
【実施例1】W303-1A株(一倍体酵母)の培養液から一
定量を抜き出し、EMS濃度が3%(v/v)となるようにEM
S溶液を添加した後、28 ℃で培養を行った。並行して、
同様にW303株(二倍体酵母)の培養液から一定量を抜き
出し、EMS濃度が3%(v/v)となるようにEMS溶液を添
加した後、28 ℃で培養を行った。生存率を求めるため
のコントロール群として、EMSを添加しないことだけを
除いては、まったく同一条件下にW303-1A株およびW303
株の培養を並行して行った。4種類の培養液中から一定
時間毎に一定量の培養液を抜き出して、YPDプレート
上に塗布し、28℃、2〜3日間培養後に生育した酵母コ
ロニー数をカウントした。生存率(%)は、100×
(EMS添加時のコロニー数)÷(コントロール群のコロ
ニー数)として計算し、EMS処理による生存率の経時変
化を図1に示した。同一条件下でのEMS処理において生
存率に大きな差が見られ、二倍体のW303株の方が、一倍
体のW303-1A株よりも変異体を得難いことが、明白に示
された。
【0020】
【実施例2】実施例1のEMS処理の結果を参考にして、W
303-1A株(一倍体酵母)とW303株(二倍体酵母)に対
し、紫外線を用いた変異誘導の条件検討を行った。YP
Dプレート上に塗布した一定量の酵母菌に対し、50 cm
の距離から一定時間の紫外線を照射した後、28 ℃、2
〜3日間培養後に生育した酵母コロニー数をカウントし
た。紫外線を照射しないことだけを除いては、まったく
同一条件下にW303-1A株およびW303株の培養も並行して
行い、コントロール群のデータとしてコロニー数をカウ
ントした。実施例1と同様にして生存率を計算し、その
経時変化を図2に示した。その結果、二倍体のW303株に
おいても、一倍体のW303-1A株と同等の変異率を達成で
きる条件を見出すことができた。
【0021】
【実施例3】実施例2の結果を参考に、二倍体の有用酵
母の紫外線処理条件を、照射時間20秒に設定した。二倍
体の有用酵母としては、日本醸造協会から分譲された協
会7号、9号、10号、701号、901号及び協会7
号のヒスチジン要求性株を用いた。紫外線照射で生き残
った酵母のコロニーを、最小培地プレートにレプリカ
し、増殖しないコロニーをマスタプレートよりピックア
ップした。得られた変異株の数と変異誘発率を、表1に
示した。本発明の変異法により、非常に高い効率で変異
株を得られることが示された。
【0022】
【表1】
【0023】
【実施例4】得られた変異株の栄養要求性の同定は、Me
thod in Yeast Genetics 1997(ColdSpring Harbar Labo
ratory Course Manual)に従って栄養成分のプールを作
り、それらの栄養プールを含む培地での増殖を調べるこ
とにより、栄養要求性を決定した。さらに、栄養要求性
を示すアミノ酸または塩基のみを加えた最小培地での増
殖を観察し、栄養要求性が単一成分であることを確認し
た。用いた栄養プールを表2に、得られた栄養要求性変
異株を表3に示した。
【0024】
【表2】
【0025】
【表3】
【0026】
【実施例5】RAK1763株、協会701号、パン酵
母の3種類の酵母を用いてアルコール発酵を行い、発酵
後のイソアミルアルコールおよびエタノール産生量を比
較した。粉砕したコーンを原料とし、蒸留水を加えて攪
拌後、pH4.5 に調整した。60 ℃で殺菌して 40 ℃まで
冷却後、アミラーゼ、ペクチナーゼを添加し、さらに30
℃まで冷却してから酵母を添加し発酵を開始した。イ
ソアミルアルコールおよびエタノールの産生量は、ガス
クロマトグラフィーにより測定した。それぞれ3回の発
酵を繰り返した時の結果を、表4に示した。ロイシン要
求性のRAK1763株は、親株の協会701号と比較
して、イソアミルアルコールの産生量が顕著に減少し
た。一方、エタノールの産生量に関しては、両者の差は
小さかった。RAK1763株は、工業技術院 生命工
学工業技術研究所内にある特許微生物寄託センターに、
FERM P−18206として寄託されている。
【0027】
【表4】
【0028】
【実施例6】RAK1763株、協会701号、パン酵
母の3種類の酵母を用いてアルコール発酵を行い、それ
ぞれ酢酸発酵させたコーン酢の香り、味、酸味につい
て、8名のパネラー(A〜H)による官能評価を行っ
た。サンプルは、すべて酸度4.5%に調整したものを
用い、香り、味の好み、酸味の感じ方を5段階評価して
もらった。パン酵母使用サンプルを対照品とし、このサ
ンプルの香り嗜好、味嗜好、酸味強さを3と評価して、
RAK1763株使用サンプルと協会701号使用サン
プルを相対評価してもらった(表 5)。
【0029】香り嗜好に関しては、協会701号使用サ
ンプルの3.4に比べて、RAK1763株使用サンプ
ルは4.5と高かった。従って、RAK1763株使用
サンプルは、協会701号使用サンプルよりも香りが好
まれたと言える。また、味嗜好に関しても、RAK17
63株使用サンプルの方が平均点は高かった。さらにR
AK1763株使用サンプルは、対照品のパン酵母使用
サンプルに比べて臭みが少ないというコメントが、多く
のパネラーから得られた。
【0030】
【表5】
【0031】
【実施例7】二倍体の有用酵母の栄養要求性変異株が得
られたので、この変異を相補する遺伝子を取得すれば、
栄養要求性マーカーとして利用できる。そこで一例とし
て、ヒスチジン要求性変異株RAK1536の形質転換
を試みた。酵母染色体DNAプラスミドライブラリーで
RAK1536株を形質転換し、最小培地で増殖可能と
なった形質転換酵母株から、形質転換されたプラスミド
DNAを回収した。このプラスミドの挿入DNA断片の
塩基配列を調べた結果、その断片には、ヒスチジンに関
係するHIS3遺伝子が含まれていることが判明した。
酵母染色体DNAプラスミドライブラリーには、HIS
3遺伝子以外の遺伝子も含まれているため、より厳密に
確認するため、栄養要求性遺伝子としてHIS3遺伝子
だけを含むベクタープラスミドpRS313により形質
転換したところ、やはり形質転換体が生育することが判
明した。同様にRAK1922株を調べた結果,遺伝子
としてTRP3を含むことがわかった。以上の結果よ
り、本発明により得られた栄養要求性変異株を用いて、
二倍体有用酵母の新しい形質転換系の確立が可能である
ことを証明できた。
【0032】
【実施例8】栄養要求性を示す協会酵母株と、研究室酵
母株の一倍体である接合型a株(N435-1AとW303-1A)お
よび接合型α株(N435-2AとW303-1B)をYPD培地上で
掛け合わせ、培養後、最少培地にレプリカし、互いの栄
養要求性を相補して、最少培地でも増殖可能となる株を
選択したところ選択できることがわかった(図 3)。
これは、倍数体である協会酵母株の細胞の中には、接合
できうる細胞が自然に低頻度で含まれていることを示し
ている。従って、野生由来の有用酵母はヘテロタリック
株ではなく、自然に接合型変換を起こすホモタリック株
となっており、今まで栄養要求性変異株が高頻度でとれ
なかったために、この現象を発見できなかったと考えら
れる。
【0033】次に、本発明の栄養要求性株を混合し、Y
PD培地に生育させた後、最少培地にレプリカして生育
させた結果、栄養要求性の相補株を得ることができた
(表6)。
【0034】
【表6】
【0035】
【発明の効果】本発明によれば、紫外線照射などの変異
処理法の最適化により、二倍体以上の酵母の栄養要求性
変異株を、高い効率で得ることができる。得られた栄養
要求性変異株のうち、ロイシン要求性株RAK1763
はイソアミルアルコールの産生量が低く、香りが改良さ
れた発酵食品の製造に用い得る。また、本発明の栄養要
求性変異株は、遺伝子操作による形質転換系の確立に有
用である。さらに、細胞融合株が容易に取得できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】EMS処理による一倍体酵母(W303-1A)と二倍体
酵母(W303)の生存率の経時変化を示す図である。
【図2】紫外線照射による一倍体酵母(W303-1A)と二
倍体酵母(W303)の生存率の経時変化を示す図である。
【図3】栄養要求性変異株と一倍体酵母との接合(白い
コロニーが接合体を示す)を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) C12J 1/04 102 C12J 1/04 102 C12N 1/19 C12N 1/19 15/02 (C12N 1/16 G 15/09 C12R 1:865) 15/01 (C12N 1/19 //(C12N 1/16 C12R 1:865) C12R 1:865) ) (C12N 1/19 C12N 15/00 B C12R 1:865) A (C12N 15/09 X C12R 1:865) C12R 1:865) (72)発明者 西澤 義矩 山口県宇部市常盤台2丁目16番1号 山口 大学工学部 Fターム(参考) 4B024 AA05 CA03 DA12 EA04 GA07 GA11 GA19 4B028 BC03 BC04 BL05 BL22 BL38 4B035 LC01 LG48 LG50 LP42 4B039 LB01 LC06 LG20 4B065 AA80X AA80Y AB01 AC14 AC20 BA17 BA18 CA05 CA42

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 ナイスタチンやベノミルなどの薬剤によ
    る変異濃縮法を用いない方法による、二倍体以上の有用
    酵母を変異処理することによって得られる有用酵母の栄
    養要求性変異株。
  2. 【請求項2】 変異株の栄養要求性がロイシン、ヒスチ
    ジン、リジン、メチオニン、アルギニン、トリプトファ
    ン、ウラシルにかかわる請求項1に記載の有用酵母の栄
    養要求性変異株。
  3. 【請求項3】 請求項1または請求項2に記載の変異体
    であって、イソアミルアルコールの産生量が抑制されて
    いることを特徴とするRAK1763株。
  4. 【請求項4】 紫外線照射または薬剤処理によって得ら
    れる変異株を、ナイスタチンやベノミルなどの変異濃縮
    法を用いることなく、栄養要求性の違いによって選別し
    て、請求項1〜3に記載の有用酵母の栄養要求性変異株
    を得ることを特徴とする有用酵母の栄養要求性変異株の
    育種方法。
  5. 【請求項5】 イソアミルアルコールの産生量が抑制さ
    れていることを特徴とするRAK1763株を用いる発
    酵食品の製造方法。
  6. 【請求項6】 請求項1〜3に記載の有用酵母の栄養要
    求性変異株を宿主細胞とし、栄養要求性変異を相補でき
    る遺伝子を宿主細胞内に導入することによって得られる
    形質転換株。
  7. 【請求項7】 栄養要求性変異がHIS3遺伝子または
    TRP3遺伝子に起因する、請求項6に記載の形質転換
    株。
  8. 【請求項8】 請求項1〜3に記載の有用酵母の栄養要
    求性変異株同士を、交配または細胞融合させ、栄養要求
    性の相補性により細胞融合または接合した酵母株を得る
    ことを特徴とする育種方法。
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