JP2002125696A - 媒体中の生細胞の検出および該媒体のpH測定のための方法 - Google Patents

媒体中の生細胞の検出および該媒体のpH測定のための方法

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JP2002125696A
JP2002125696A JP2000319247A JP2000319247A JP2002125696A JP 2002125696 A JP2002125696 A JP 2002125696A JP 2000319247 A JP2000319247 A JP 2000319247A JP 2000319247 A JP2000319247 A JP 2000319247A JP 2002125696 A JP2002125696 A JP 2002125696A
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light
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fluorescence
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Yukishige Kawasaki
行繁 河崎
Takashi Tsuji
堯 辻
Ryuichiro Kurane
隆一郎 倉根
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JAPAN BIOINDUSTRY ASS
Mitsubishi Chemical Corp
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST
Japan Bioindustry Association
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JAPAN BIOINDUSTRY ASS
Mitsubishi Chemical Corp
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology AIST
Japan Bioindustry Association
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Publication date
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 媒体中の生細胞の検出と媒体のpH測定とを
同時かつ簡便に行う方法を提供すること。 【解決手段】 生細胞を含む媒体に蛍光性酵素基質を添
加し、異なる波長の2種類の励起光を上記媒体に照射
し、得られる蛍光の強度により生細胞を検出し、2種類
の励起光により発する蛍光の強度の比を算出することに
より上記媒体のpHを測定することを特徴とする、媒体
中の生細胞の検出および該媒体のpH測定のための方
法。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、媒体中の生細胞の
検出および媒体のpH測定のための方法に関する。さら
に詳しくは、本発明は、生細胞を含む媒体に蛍光性酵素
基質を添加して得られる蛍光を分析することにより、媒
体中の生細胞の検出と媒体のpHの測定を同時に行なう
方法である。本発明はまた、上記方法で使用するための
キット並びに励起光用バンドパスフィルターにも関す
る。
【0002】
【従来の技術】媒体中の生細胞の検出は、滅菌状態の確
認や細胞の生存状態の検出、あるいは土壌等の自然界よ
り得た媒体から有用な微生物を分離培養する上で非常に
重要な手段の一つである。なかでも有用微生物の分離培
養においては、土壌等の媒体中の多様性に富む微生物を
懸濁状態にしてまとめて分離する従来法とは異なり、生
細胞を可視化して検出することによって微生物を効率的
に分離することが可能になる。また、今日では、有用微
生物の分離培養は産業界のみならず、人間の生活全般に
おいて必須のものとなっており、得られた有用微生物を
特異的かつ効率的に培養する方法が必要になっている。
微生物が本来生息していた媒体中での微生物の生息状態
や周辺環境の情報を得ることは、その微生物を分離して
人工的な培養系に移す際に培養効率を上昇させるのに大
変有用である。
【0003】生細胞を特異的に検出する方法としては、
生体染色法(Darzynkiewicz, Z. etal., Experimental
Cell Research, 95, 143-153 (1995))や、蛍光性酵素
基質または色素を媒体に添加して媒体中に存在する生細
胞内で発せられる蛍光を測定する方法(Lundgren, B. e
t al., Oikos, 36, 17-22 (1981))等が知られている。
また本発明者らも、特開平10−179191号公報に
て、生細胞内で蛍光性物質に変化し得る蛍光性酵素基質
を媒体に添加して生細胞から発せられる蛍光を検出する
ことを特徴とする効率的な生細胞の検出方法を報告して
いる。しかしこれらの方法においては生細胞の検出を効
率的に行うことはできたが、その微生物の生存状態や生
息域環境の状態等を含む他の有用な情報を得ることはで
きない。
【0004】微生物の分離培養を行う際に重要な情報の
一つとして媒体のpHが挙げられる。微生物本来の生息
域のpHを測定することはその微生物を分離培養する際
に有用な情報となるだけでなく、多くの微生物がその代
謝活動に伴って周辺のpHを変化させることから微生物
の生死及び活性を知る手段ともなり得ることが知られて
いる。pH測定法としては一般に、微小ガラスpH電極
を用いる方法、光ファイバーを用いる方法、及び平板半
導体電極を用いる方法等が広く用いられている。しかし
ながら、これらの方法はいずれも空間分解能及び時間分
解能が低いため空間情報を得ることが困難であるという
問題点があり、時間変化を起こす試料のpH測定や、微
生物や生物遺骸周辺のpH変化等の微小な空間の測定に
は適していなかった。
【0005】また、B.Khodorov et al., FEBS Lett., 3
41, 125-127 (1994)には、蛍光性酵素基質フルオレセイ
ンジアセテート(FDA)による染色を行い、二波長の
蛍光を測定してその蛍光強度の比からpH測定を行う方
法が記載されている。しかし、この方法は、感度が低い
という問題があり、またFDAは細胞からの流失が早い
ので、生細胞の検出には適していない。
【0006】さらに、Thomas J.A. et al., Biochemist
ry, 18, 2210(1979)には、腹水型エールリッヒ癌細胞
(Ehrlich Ascites Tumor Cells)を5−カルボキシフ
ルオレセインジアセテートで染色し、465nmと49
0nmの二波長における吸光度を測定して、その比から
細胞内部のpH測定を行う方法が記載されている。しか
し、この方法は、細胞懸濁液をそのまま分光光度計を用
いて吸光度測定するものであり、媒体中の生細胞の検出
と該媒体のpH測定を同時に行なうものではない。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記した従
来技術の問題点を解消することを解決すべき課題とし
た。すなわち、本発明は、媒体中の生細胞の検出と媒体
のpH測定とを同時かつ簡便に行う方法を提供すること
を解決すべき課題とした。また、本発明は、従来のpH
測定法における空間分解能及び時間分解能が低く空間情
報が得にくいという問題点を克服した精度の高いpH測
定方法を提供することを解決すべき課題とした。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記課題
を達成するために鋭意検討を進めた結果、pH依存性蛍
光性酵素基質である5−カルボキシフルオレセインジア
セテートアセトキシメチルエステルを細胞を含む媒体に
添加した後に、420〜450nmと480〜495n
mの組み合わせの波長で励起光を照射することにより、
生細胞の検出及び周囲の媒体のpH測定を同時に行うこ
とができることを見いだした。本発明はこれらの知見に
基づいて完成したものである。
【0009】即ち、本発明によれば、生細胞を含む媒体
に蛍光性酵素基質を添加し、異なる波長の2種類の励起
光を上記媒体に照射し、得られる蛍光の強度により生細
胞を検出し、2種類の励起光により発する蛍光の強度の
比を算出することにより上記媒体のpHを測定すること
を特徴とする、媒体中の生細胞の検出および該媒体のp
H測定のための方法が提供される。
【0010】本発明において好ましくは、蛍光性酵素基
質が分解して生成する蛍光性物質はpHにより吸収スペ
クトルが変化する化合物であり、蛍光性酵素基質の具体
例としては、5−カルボキシフルオレセインジアセテー
トアセトキシメチルエステル、5−(6−)カルボキシ
フルオレセインジアセテート、2’,7’−ビス −
(2−カルボキシエチル)−5−(6−)カルボキシフ
ルオレセインアセトキシメチルエステルおよび5−スル
フォフルオレセインジアセテートからなる群から選ばれ
る化合物であり、特に好ましくは5−カルボキシフルオ
レセインジアセテートアセトキシメチルエステルであ
る。
【0011】本発明において好ましくは、生細胞を検出
し、当該生細胞の位置を特定し、その位置の周辺媒体の
pHを測定する。本発明において好ましくは、励起光の
波長として、媒体のpHにより変化する蛍光の強度の比
を求めることができるような2波長の組み合わせを使用
し、かつ、少なくとも一方の波長を生細胞の検出に用い
る。本発明において好ましくは、励起光の波長は420
〜450nmと480〜495nmとの組み合わせであ
る。
【0012】本発明において好ましくは、励起光を透過
し、それより長波長の光を実質的に透過しない励起光用
バンドパスフィルターを用い、より好ましくは490n
mの光を透過し、かつ500nm以上の光を実質的に透
過しない励起光用バンドパスフィルターを用い、特に好
ましくは透過率ピーク波長が490nm、490nmに
おける透過率が70%以上、ピーク半値幅が10nm、
そして500nmにおける透過率が0.1%以下である
励起光用バンドパスフィルターを用いる。
【0013】本発明の別の側面によれば、少なくとも蛍
光性酵素基質を含む、本発明による媒体中の生細胞の検
出および該媒体のpH測定のための方法に使用するため
のキットが提供される。蛍光性酵素基質は好ましくは、
5−カルボキシフルオレセインジアセテートアセトキシ
メチルエステル、5−(6−)カルボキシフルオレセイ
ンジアセテート、2’,7’−ビス −(2−カルボキ
シエチル)−5−(6−)カルボキシフルオレセインア
セトキシメチルエステルおよび5−スルフォフルオレセ
インジアセテートからなる群から選ばれる化合物であ
る。
【0014】本発明のさらに別の側面によれば、本発明
の方法で使用するための、励起光を透過し、それより長
波長の光を実質的に透過しない励起光用バンドパスフィ
ルターが提供される。本発明の励起光用バンドパスフィ
ルターは、好ましくは、490nmの光を透過し、かつ
500nm以上の光を実質的に透過しないバンドパスフ
ィルターであり、特に好ましくは、透過率ピーク波長が
490nm、490nmにおける透過率が70%以上、
ピーク半値幅が10nm、そして500nmにおける透
過率が0.1%以下であるバンドパスフィルターであ
る。
【0015】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を更に
詳細に説明する。本発明の方法は、生細胞を含む媒体に
蛍光性酵素基質を添加し、異なる波長の2種類の励起光
を上記媒体に照射し、このうち480〜495nmの励
起光によって得られた蛍光の強度により生細胞を検出
し、2種類の励起光により発する蛍光の強度の比を算出
することにより上記媒体のpHを測定することを特徴と
する。
【0016】本発明で用いる蛍光性酵素基質としては、
単独では蛍光を発しないが、生細胞内等でエステラーゼ
等の生体内酵素の作用により速やかに蛍光性物質に変化
し得る化合物であり、かつ、吸収スペクトルがpHによ
って変化する蛍光性物質(すなわち、pH依存性の蛍光
性物質)を生成する化合物であればいかなるものでもよ
い。このような特性を示す蛍光性酵素基質を、本明細書
中ではpH依存性蛍光性酵素基質と称することがある。
具体例としては、以下に示すものが挙げられるが、これ
らに限定されるわけではない。
【0017】5−カルボキシフルオレセインジアセテー
トアセトキシメチルエステル(5-carboxyfluorescein d
iacetate acetoxymethyl ester;「CFDA−AM」と
も称する);5−(6−)カルボキシフルオレセインジ
アセテート(5-(and 6-)carboxyfluorescein diacetat
e;「CFDA」とも称する);2’,7’−ビス−
(2−カルボキシエチル)−5−(6−)カルボキシフ
ルオレセインアセトキシメチルエステル(2',7'-bis-(2
-carboxyethyl)-5-(and 6-)carboxyfluorescein acetox
ymethyl ester;「BCECF−AM」とも称する);
及び5−(6−)スルフォフルオレセインジアセテート
(5-(and 6-)sulfofluorescein diacetate;「SFD
A」とも称する):
【0018】上記した蛍光性酵素基質はいずれも既知の
ものであり、市販されている。この中で、CFDA−A
Mが特に好ましく用いられる。CFDA−AMはCFD
Aのカルボキシル基をアセトキシメチル基によってブロ
ックしたものであって、親水基を有さない(この状態で
は非蛍光性である)。従ってこの誘導体はCFDAに比
べて親油性が強いため細胞膜を通過しやすく、結果的に
細胞を効率よく染色することができる。
【0019】本発明の方法で検出し、その周辺媒体のp
Hを測定できる細胞は、自然界から得た細胞でも培養細
胞でもよく、バクテリア、酵母、放線菌、カビ類等の微
生物、カイコのSf9細胞等の昆虫細胞、CHO細胞
(Proc. Natl. Acad. Sci. USA., 77, 4216 (1980))、
COS−7細胞(ATCC:CRL1651)等の哺乳動物由来の細
胞等が挙げられるが、これらに限定されるものではな
い。
【0020】生細胞を検出しようとする媒体としては、
土壌、砂等の固体、水、培養液、酒等の液体、寒天、ゲ
ル等の半固体やそれらの混合物が挙げられる。媒体が固
体の場合は液体含有量が50%以上である状態が望まし
く、得られた試料の液体含有量が50%以下であった場
合には、適当な緩衝液等に媒体を懸濁するなどして液体
含有量を調整するのが望ましい。
【0021】上記の蛍光性酵素基質は通常それ自体単独
で使用される。蛍光性酵素基質は一般的に水に難溶性で
あるので、媒体が水性である場合には、蛍光性酵素基質
を適当な溶媒に溶解したのち媒体に添加することにより
行う。媒体が固体の場合も同様に溶媒に蛍光性酵素基質
を溶解したのち添加する方法が用いられる。上記の蛍光
性酵素基質を溶解する溶媒としては、通常アセトン、ジ
メチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、水等が
挙げられる。これらの溶媒は検出しようとする生細胞中
の酵素を失活させたり、細胞自体にダメージを与えない
ものが望ましい。また、必要に応じてPluronic
F127(BASF Wyandotte社製)等の
非イオン性界面活性剤を用いて溶解してもよい。溶媒に
溶解した蛍光性酵素基質は、これをさらに水や通常生化
学的に用いられる適当な緩衝液等で適当な濃度に薄めて
使用することができる。その濃度は染色される媒体等に
よって適宜選択可能であるが、媒体中の上記溶媒の最終
濃度が1%以下となる濃度で用いることが望ましい。本
発明ではこの溶液を染色液と称することがある。
【0022】染色液として媒体に添加する蛍光性酵素基
質の添加量(添加濃度)としては、生細胞及び媒体が染
色されて検出に十分な蛍光が発せられる濃度であれば特
に制限はなく、具体的には例えば、媒体中での最終濃度
が0.1〜50μMの範囲等で用いることができる。さ
らに詳しくは、生細胞及び媒体から発せられる蛍光が十
分に強い場合には0.1〜10μMの範囲になるように
調製して添加するのが好ましく、蛍光がごく弱い場合に
は1〜50μMの範囲になるように調製して添加するの
が好ましい。添加濃度が低すぎると生細胞及び媒体から
発せられる蛍光の絶対強度が下がって検出が困難にな
り、一方、添加濃度が高すぎると蛍光性酵素基質が不溶
化して沈殿したり、細胞外部の蛍光性物質による背景光
が強く細胞内部からの蛍光が隠されて生細胞の検出効率
が低下する傾向があるため、用いられる試料に応じて適
宜決定するのが望ましい。染色液と媒体との混合比は、
特に制限されることはない。
【0023】上記染色液の媒体への添加の方法としては
特に制限はなく、媒体の形状等に応じて適宜行えばよ
い。また、媒体の調製方法としては、土壌のような固体
媒体においては、そのままか、あるいは水や緩衝液等に
懸濁することもできる。液体媒体についてはそのままで
用いることができるが、検出しようとする細胞の存在密
度が低い場合には遠心分離法等を用いて濃縮を行うこと
もできる。
【0024】本発明における生細胞の検出方法は、上記
した蛍光性酵素基質を媒体に添加し、該基質が生細胞内
のエステラーゼ等の酵素によって分解されて生成した蛍
光性物質に適当な励起光を照射し、得られた蛍光強度を
背景光と比較することによって検出するものである。具
体的には、生細胞が細胞内部にエステラーゼ等の酵素を
高濃度に有するために取り込まれた蛍光性酵素基質を速
やかに分解して蛍光性物質を生成するのに対して、死細
胞はその構造は有していても該酵素が流失しているため
に蛍光性物質を生成し得ないか、または細胞死により細
胞膜が破壊されて生成した蛍光性物質が細胞から流失す
るため、細胞が蛍光を発しないことを利用したものであ
る。すなわち、媒体に蛍光性酵素基質を添加した後、例
えば添加した該基質がCFDA−AMの場合には490
nmの励起光を照射して蛍光を測定すれば、特に強い蛍
光を発している箇所として生細胞を特異的に検出するこ
とができる。蛍光の測定は、媒体に蛍光性酵素基質を添
加してから、約20〜120分経過後に行うことが望ま
しいが、添加する該基質の種類によって適宜決定するこ
とができる。添加した蛍光性酵素基質がCFDA−AM
の場合には、約20〜90分経過後に行うのが好まし
い。
【0025】本発明における生細胞を含む媒体(特に
は、生細胞の周辺媒体)のpHの測定方法は、本来生細
胞内でのみ蛍光性物質を生成すべき蛍光性酵素基質が、
自然分解や細胞外表面に存在するエステラーゼ等による
分解等によって細胞外部でも緩やかに分解されて蛍光性
物質を生成することを利用したものであって、生成した
該蛍光性物質のpH依存性を利用することによりpHを
測定することができる。具体的には、2種類の波長の励
起光による蛍光強度を測定し、それぞれの励起光によっ
て該蛍光性物質から発せられる蛍光強度の比を算出する
ことにより測定するものである。ここで2種類の波長の
励起光とは、添加した蛍光性酵素基質より分解されて生
成した蛍光性物質の吸収スペクトルがpHによる差のあ
る組み合わせであれば、いかなる範囲であってもよい。
具体的には例えば、蛍光性酵素基質としてCFDA−A
Mのようにフルオレセインを基本骨格とするエステラー
ゼ基質を用いた場合は、420〜450nmと480〜
495nmの組み合わせが好ましく、430〜440n
mと490nmの組み合わせがより好ましい。
【0026】CFDA−AMを用いた場合には、例え
ば、該基質が分解して生成される6−カルボキシフルオ
レセイン(以下これを「CF」と称することがある。)
の吸収スペクトルは図1に示すようにpHに依存して大
きく変化し、発せられる蛍光がpHに依存して大きく変
化するため、上記の組み合わせの励起光によって発せら
れる蛍光強度の差を算出することによってpHを測定す
ることができる。CFでは、pH7.0付近を境にして
それより高いpHでは490nm付近の励起光により発
せられた蛍光強度が大きくなり、逆にそれより低いpH
では435nm付近の励起光により発せられた蛍光強度
が大きくなる。これらの蛍光強度の比を算出するとpH
に依存して一定の変化を示す値が得られるため、試料を
測定して得られた値と、適当なpH緩衝液等を用いて溶
解した標準試料を同様の方法で測定して得られた値とを
比較することによって、媒体のpH値を算出することが
できる。標準試料を測定して得られた値は、効率的にp
H値の算出を行うために適宜検量線等を作成して利用し
てもよい。
【0027】上記で用いられる標準試料としては、それ
自体が蛍光を有する物質であって、かつ、吸収スペクト
ルがpH依存性の物質を用いるのが好ましく、5−カル
ボキシフルオレセイン(以下これを「5−CF」と称す
ることがある。)等のpH依存性蛍光性物質を用いるこ
とができる。これらの蛍光性物質は、例えば、0.1〜
3μMの濃度で用いることができ、5−CFの場合には
1μM程度に調製して用いるのが好ましい。また、標準
試料を溶解するpH緩衝液としては、pH4.5〜7.
5の範囲で安定的にpHが維持されるものであれば市販
のものでも、通常生化学的に繁用される緩衝液等をHC
lやNaOH等を用いて所望のpHに調整したものでも
よい。通常生化学的に繁用される緩衝液としては、Bi
s−Tris Propane溶液、及び酢酸緩衝液等
が挙げられ、これらは本発明のpH測定の精度からpH
0.25ごとに調製されたものを用いて測定することが
望ましい。
【0028】蛍光性酵素基質を添加してから蛍光測定を
行うまでの反応時間は、添加した蛍光性酵素基質が細胞
外でも十分に分解される時間であれば特に制限はなく、
生細胞の検出と同様に、媒体に該基質を添加してから、
約20〜120分経過後に行うことが望ましいが、添加
する該基質の種類によって適宜決定することができる。
添加した蛍光性酵素基質がCFDA−AMの場合には、
約20〜90分経過後に行うのが好ましい。
【0029】本発明による媒体中の生細胞の検出および
該媒体のpH測定のための方法では、生細胞を検出し、
その位置を特定し、その位置の周辺媒体のpHを測定す
ることが好ましい。本発明において生細胞の検出と同時
にpHを測定することのできる生細胞の周辺媒体とは、
上記した方法により検出された生細胞と測定に用いる顕
微鏡において同視野に含まれる範囲をいい、特に制限は
ない。用いる顕微鏡の拡大率を下げれば広い範囲とな
り、逆に上げれば狭い範囲となる。また、本発明のpH
測定方法によれば、同一の範囲のpHを経時的に持続し
て測定することができる。測定することのできる時間
は、媒体に蛍光性酵素基質を添加してから約20分〜7
2時間が好ましいが、蛍光の検出が可能な範囲であれ
ば、特に制限はない。
【0030】本発明において媒体への蛍光性酵素基質の
添加、及び励起光の照射の操作は、媒体をスライドグラ
スとカバーグラスに挟むか、ホールスライドグラスに入
れてカバーグラスで密閉した状態で行うことができる。
また、閉鎖生体系等での経時的pH測定を行う場合等に
おいては透明プラスチック等の水槽そのものを用いるこ
ともできるし、植物を栽培しそのまま土壌中の根と微生
物の共生関係を調査したい場合などは、透明プラスチッ
ク容器等に媒体を入れて培養したものを直接用いること
もできる。但し、これらのように透明容器等を用いる場
合には、底面の厚さが1mm以下のものが望ましく、材
質はガラスやプラスチック等の透明で自家蛍光を有さな
いものが望ましい。また、該容器の上部が開閉可能なも
のを用いることもできる。なお、容器の壁厚は検出に用
いる顕微鏡に設置されたレンズの作動距離に応じて適宜
決定される。
【0031】蛍光の測定方法としては、特に制限されな
いが、例えば蛍光顕微鏡下で上記した範囲の2種類の励
起光を交互に照射し、発せられる蛍光を高感度カメラ、
例えば冷却CCDカメラ等の検出器を用いて行うことが
できる。照射される励起光源としては、蛍光顕微鏡の光
源として一般的なものを用いることができる。具体的に
は例えば、超高圧水銀灯、キセノン灯等が挙げられる。
【0032】本発明において、特に添加した蛍光性酵素
基質がCFDA−AMの場合には、励起波長のうちの1
つとして490nmを用いることが好ましいが、蛍光顕
微鏡で通常用いられている上記した光源においては、光
の波長が連続しているために励起波長を490nmまで
長波長にすると、励起光の一部が測定しようとする蛍光
波長にかぶってしまう。この場合励起光の絶対強度が検
出されるべき蛍光の絶対強度に比べて相当に大きいため
蛍光の測定が不可能となる。これを避けるために、本発
明では、励起光用のバンドパスフィルターを用いること
が好ましい。
【0033】本発明で用いるバンドパスフィルターの波
長特性としては、励起光を透過し、それより長波長の光
を実質的に透過しないものが好ましい。励起波長のうち
の1つとして490nmを用いる場合には、490nm
の光を透過し、かつ500nm以上の光を実質的に透過
しないバンドパスフィルターを使用することが好まし
い。特に好ましくは、透過率ピーク波長が490nm、
490nmにおける透過率が70%以上、ピーク半値幅
が10nm、そして500nmにおける透過率が0.1
%以下であるバンドパスフィルターである。なお、本明
細書において「実質的に透過しない」とは、透過率が一
般的には10%以下、好ましくは5%以下、より好まし
くは1%以下、さらに好ましくは0.5%以下、特に好
ましくは0.1%以下であることを言う。
【0034】本発明の方法では上記したようなバンドパ
スフィルターを用いて測定を行うことが好ましい。本発
明の別の側面によれば、本発明の方法で用いるための上
記したバンドパスフィルターも提供される。
【0035】このようなバンドパスフィルターは、一般
にガラス等の基盤の片面、あるいは両面に誘電体として
金属酸化物、金属フッ化物、シリカ等を蒸着させ、多層
薄膜を構成することによって作成される。上記誘電体の
種類に特有の屈折率を利用し、これらの材質の誘電体を
何層にも組み合わせて、フィルター自体の厚みや形状を
細かく調整することにより、干渉によって目的の波長の
光だけが得られるように作成することができる。また、
目的の波長に応じて不要な波長の光を吸収する色ガラス
フィルターを重ねてさらに精度を高めることができる。
このようなバンドパスフィルターの作成は、THE PHOTON
ICS DESIGN AND APPLICATIONS HANDBOOK2000,H-88-97,L
aunin Publishing co.等に記載の公知の方法に従って行
うことができる。
【0036】本発明のバンドパスフィルターに用いられ
る好ましい誘電体としてはSiO2、Al23、Y
23、Ta25、CeF3、ZnS、CaF2、La
3、MgF2、ZrO2等が挙げられる。さらに好まし
くは屈折率1.5を中心として、それより屈折率が高い
ものと低いものを組み合わせて用いることができる。具
体的には、SiO2/Al23、SiO2/Y23、Si
2/Ta25、CeF3/ZnS等の組み合わせが好ま
しい。
【0037】本発明の方法では、2種類の励起波長は約
0.2〜5秒ごとに交互に照射して行うことができる。
このように波長の異なる励起光を交互に照射する方法と
して励起フィルター自動変換システム(Ludl社製:
LEP)等の市販の装置を用いることができるが、これ
に限られるものではない。また、照射時間及び変換時間
は、用いる装置及び試料から発せられる蛍光強度によっ
て任意に決定することができる。すなわち、試料から発
せられる蛍光が強い場合には照射時間を短く設定するこ
とができ、弱い場合には照射時間を長く設定すればよ
い。
【0038】かくして得られた上記2種類の励起光によ
り発せられる蛍光強度の比を算出することにより、pH
値を算出することができる。蛍光強度の比の算出方法と
しては特に制限はないが、各々の励起光により発せられ
た蛍光の検出値をマイクロコンピューターを用いた画像
処理システムにより画像化し、2種類の画像上の蛍光強
度の比を上記画像処理システムにより算出することによ
れば最も効率よく行うことができる。また、上記画像処
理システムにより生細胞及びその周辺媒体のpH値を画
像によりイメージングすることもできる。画像処理シス
テムとしては、IPLab(Signal Analytics社製)等
の画像解析ソフト等を用いることができる。
【0039】本発明の別の側面によれば、少なくとも蛍
光性酵素基質を含む、上記した本発明の方法に使用する
ためのキットが提供される。本発明のキットは、それ自
体既知の通常用いられる材料及び手法で調製することが
できる。本発明のキットに含まれる蛍光性酵素基質は、
固体状態でもよく、溶媒に溶解させた状態でもよい。蛍
光性酵素基質を溶解する溶媒としては、通常アセトン、
ジメチルスルホキシド(DMSO)、エタノール、水等
を用いることができる。これらの溶媒は検出しようとす
る生細胞中の酵素を失活させたり、細胞自体にダメージ
を与えないものが望ましい。また、必要に応じて非イオ
ン性界面活性剤を用いて溶解してもよい。このような溶
媒に溶かした後、媒体を染色するのに適当な濃度に水あ
るいは通常生化学的に用いられる適当な緩衝液を用いて
調製することができるが、媒体中の上記溶媒の最終濃度
が1%以下となる濃度に調製して用いるのが望ましい。
また、更に任意の要素として、前記のような検量線作成
用の標準試料等を含むことができる。以下の実施例によ
り本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの
実施例により何ら限定されるものではない。
【0040】
【実施例】実施例:閉鎖生態系の中の微生物とそのまわ
りのpH分布 (1)試料の調製方法 相模女子大内の池の水5mlを試料として採取し、下記
の培養液245ml中に加えた。これをポリカーボネイ
ト製の容器に密閉して自然光(太陽光)照射下で1ヶ月
間培養した。培養は室温下、気相なしで、平均して14
時間の明状態(自然光を照射する状態)と10時間の暗
状態を繰り返して行い、系への入力が光と熱、出力が熱
のみとなるようにした。本試料中に含まれた微生物種の
主なものは、ラン藻(Schizothrix)、緑藻(Chlorell
a, Scenedesumus)、バクテリア、単細胞原生動物(Cycli
dium)、多細胞動物(ワムシ(Philodina, Lepadella)、
イトミミズ(Aeolosoma))であった。この中でラン藻類
及び緑藻は光合成によってCO2を消費して培養液のp
Hを上げ、逆に、これらの藻類を含めたすべての生物が
呼吸によってCO2を排出してpHを下げることが知ら
れている。
【0041】使用した培養液(mg/L): pepton 10 MgSO4 ・7H2O 24.65 KH2PO4 13.6 NaOH 2.8 CaCl2・2H2O 294 NaCl 175 FeSO4・7H20 24.9 Na2EDTA 13.6 H3BO4 1.854 ZnSO4・7H2O 0.287 MnCl2・4H20 1.980 Na2MoO4・2H20 0.024 CuSO4・5H20 0.0499 Co(NO3)・6H20 0.291
【0042】(2)染色及び蛍光強度の測定方法 試料の染色は、測定直前まで14時間明状態に保たれて
いた試料から0.5mlを分取して染色液1.5mlを
加え、振盪し均一に混合して行った。染色した試料は、
顕微鏡測定用のスライドガラスに適当量を滴下し密閉し
て測定に供した。測定は測定室を暗状態に保って底部に
沈殿した微生物凝集塊周辺を撮影した。染色液として
は、非イオン性界面活性剤Pluronic F127
(Molecular Probes社製)を最終濃度が0.05%、C
aCl2を最終濃度が20mMとなるように下記培養液
中に加えて、さらにCFDA−AM色素溶液を最終濃度
25μMとなるように混合したものを用いた。CFDA
−AM色素溶液としては、5mMになるようにジメチル
スルホキシドに溶解したものを用いた。
【0043】励起光としては430nmと490nmの
組み合わせを用い、蛍光は530nmで測定した。蛍光
画像の検出には蛍光顕微鏡(カール・ツァイス社製:Axi
overt 135M)、冷却CCD(Photometrics社製:Quante
x)、励起フィルター自動変換システム(Ludl社製:LE
P)、及びマイクロコンピュータ(Macintosh G3/400)か
らなる画像撮影システムを用い、蛍光画像の取り込み及
び得られた蛍光画像の処理は画像測定解析ソフトウエア
IPLab(Signal Analytics社製:version3.2)で行
った。光源には超高圧水銀灯を用い、490nmの励起
光用バンドパスフィルター(Omega Optical社に依頼し
て作成させた)は、波長特性が透過率ピーク波長が49
0nm、490nmにおける透過率が70%以上、ピー
ク半値幅が10nm、及び500nmにおける透過率が
0.1%以下であるものを用いた。撮影の露出時間は1
秒、励起フィルターの変換時間も1秒として計2秒ごと
に2種類の励起光を照射して測定を行い、蛍光色素が光
退色する等の励起光照射による障害を避けるため、撮影
時以外は励起光をシャッターで遮って行った。
【0044】(3)画像処理による生細胞の検出及びp
H測定方法 生きた微生物の検出は490nmの励起光で得られた蛍
光画像から、pH分布の測定は430nmと490nm
の2種類の励起光で得られた蛍光画像の比(490/4
30)から、どちらも画像測定解析ソフトウエアIPL
abを用いた画像解析によって求めた。すなわち、まず
430nmと490nmの2種類の励起光でそれぞれ蛍
光画像を取り込み、490nmの励起光で得られた蛍光
画像から生きた微生物を検出した。つぎに、IPLab
の画像間演算コマンドの除算プログラムを用いて、49
0nmの励起光で得られた画像を430nmの励起光で
得られた画像で除し、得られた比画像を新たなファイル
として保存した。一方、本試料において求めたいpH精
度を0.1とし、pH測定範囲は測定ごとに適当な範囲
に設定して、別に求めておいた比画像におけるpHと蛍
光強度の関係を示す検量線から、求めたい各pH値に対
応する蛍光強度値の幅を決定した。次にこの値を用い
て、試料の比画像からそれぞれの値の幅に含まれる画素
を抽出してpH値と対応付ける処理を行い、色づけを行
った。この処理はセグメンテーション解析といわれ、I
PLabのセグメンテーションコマンドで各pH値に対
応する蛍光強度値の幅を入力してプログラムを実行させ
ることにより行った。このセグメント処理を順次繰り返
し、対応付けられたpH値ごとに色を変えて着色して、
pH分布を示す疑似カラー画像を作成した。
【0045】(4)検量線の作成方法 検量線は、上記の(3)における試料の測定方法と同様
に標準試料溶液の測定を行い、得られた値を、縦軸を2
種類の蛍光画像の比(490/430)、横軸をpHと
してプロットすることにより作成した。測定用の標準試
料溶液としては5−CFを最終濃度が1μMになるよう
に溶解した緩衝液を用い、緩衝液としては、pH5〜
7.5の範囲では20mM Bis−Tris Pro
pane・HCl溶液を、pH4.5〜5.0の範囲で
は20mM 酢酸緩衝液を、pH0.25ごとに調製し
たものを用いた。緩衝液中には、非イオン性界面活性剤
Pluronic F127(Molecular Probes社製)
を最終濃度が0.05%、CaCl2を最終濃度が20
mMとなるように加えた。
【0046】また、検量線を作成した日時と試料を測定
した日時が異なった場合には、蛍光の安定な補正用検定
試料を測定を行うたびごとに測定し、この値を用いて試
料及び検量線の値を補正した。補正用検定試料として
は、5μM 5−CF/90%Glycerol/2.
3% 1,4−diazabicyclo−[2,2,
2]−octane/20mM Bis−Tris P
ropane・HCl(pH7.0)を用いた。
【0047】(5)小型閉鎖生態系内部のpH分布と微
生物分布 上記(1)で調製した試料の一部を顕微鏡用スライドガ
ラスにのせて密閉し、引き続き室温下で30分間、明状
態で静置した後、スライドガラスの底に沈殿した微生物
凝集塊を中心に生きた微生物及びその周辺域のpHを測
定し、図2に示した。5倍の対物レンズで測定した場合
のpH分布図を図2のAとし、40倍の対物レンズで測
定した場合のpH分布図を図2のB、490nmの励起
光を照射し40倍の対物レンズで検出した生きた微生物
の蛍光画像を図2のC、その一部のpHプロファイルを
図式化したものを図2のDとして示した。Cにおいて写
真中央から右上にかけて見られた白い塊は微生物の凝集
塊であり、この中でひも状のものはラン藻、小さな点状
のものはバクテリアであった。この図より、バクテリア
が微生物凝集塊の近傍にのみ偏在していることが解り、
微生物間の共生の様子が検出できることが確認できた。
【0048】一方、図2のAより微生物凝集塊の存在し
ている部分でpHが高いことが解り、光合成活性が盛ん
であることが確認できた。また、同視野を高倍で検出し
た図2のBからは、微生物凝集塊の近傍でも場所によっ
てpH分布にムラがあり、必ずしも凝集物が多いところ
でpHが高くなるとは限らないことが示され、このよう
な場所ではpHを低下させる呼吸活性が光合成活性より
も勝っていることが解った。図2のDからは、ラン藻が
検出された部位が最もpHが高く、視野内で右に行くに
従ってpHが低下する様子が観察できた。
【0049】(6)小型閉鎖生態系内部の光合成と呼吸
によるpH変化 上記(1)で調製した試料の一部を顕微鏡用スライドガ
ラスにのせて密閉し、暗状態に移して、直ちにpH分布
の経時変化を測定した。測定は2.5分間隔で行い、得
られた各画像を時間経過に沿って左上から右へと順に並
べて図3に示した。左上の写真のみpH測定画像ではな
く明視野顕微鏡像であり、この視野において微生物の凝
集塊が視野の左上に存在することを確認してから、pH
の経時的変化測定を行った。この結果より、暗状態では
光合成が行われず呼吸が主となるためにpHが経時的に
低下することが確認でき、また、動的な生物活性を画像
イメージとして提供できることが確認できた。
【0050】
【発明の効果】本発明の方法によれば、任意の媒体中に
おける生細胞の検出及びその周辺域のpH測定を、同時
かつ簡便に行う方法が提供される。また、従来のpH測
定法では困難であった微生物や生物遺骸周辺の微小な空
間のpH測定が可能になったことにより、微生物を分離
培養する際に有用な情報が提供され、微生物の生死及び
活性を知る手段ともなり得る。
【0051】さらに、本発明の方法は以下のような分野
で応用が可能である。 (1)発酵産業 ヨーグルト等の乳製品の製造過程で行われる乳酸発酵に
おいて、乳酸発酵が進むとpHが低下することから、本
発明を利用すれば、発酵状態のコントロールを効率的に
行うことができる。含まれる微生物数だけでなく、それ
らの活性を知ることができる。また、微生物種の特定も
可能であるので、製造中の微生物汚染等の管理も可能で
ある。
【0052】(2)醸造業 酒等の醸造において、コウジの発酵が進むとpHが低下
し、最後には酢酸が生成してしまう。コウジ菌周囲のp
Hモニタリングにより、醸造の状態をコントロールする
ことができる。また、醸造中の微生物汚染がしばしば問
題となるが、多くの有害微生物は汚染後アルコールから
酢酸を生成するため、pHを低下させる。よって、本発
明を用いれば汚染の状況を把握することができるだけで
なく、原因菌の特定も可能である。
【0053】(3)下水の浄化、堆肥製造 下水における汚水処理や堆肥製造において利用されてい
るものの一つに、微生物による硝化作用を利用したもの
が挙げられる。硝化作用とは、微生物によってアンモニ
アから亜硝酸を経て硝酸が生成されるものであり、各々
のステップで働く微生物が多く確認されている。本発明
を用いることによって、これらの微生物の硝化活性を知
ることができる。また、通常これらの処理は多くの不特
定な微生物が多種混在する状態で行われているが、本発
明を利用すれば、どのような種類の微生物が特に関与し
ているのかを知ることもでき、更に、それらの活性をモ
ニタリングすることによって、浄化のレベルや状況のチ
ェックを行うことができる。
【0054】(4)林業、農業等 土壌や河川等の水源の汚染は農業や林業において重要な
問題であるが、本発明を利用すれば、そのモニタリング
を簡便に行うことができる。また、これらの産業界で
は、しばしば酸性雨による土壌の酸化等が問題となる
が、本発明を用いれば土壌の酸化状態を調べることがで
きるだけでなく、酸化された土壌中で酸化を防御する
(中性化する)働きを示す共生菌の存在をも調べること
ができる。すなわち、土壌中や樹木の根の周りに存在す
る微生物が酸化を防御する様子の観察や共生状態の解
析、その微生物の特定を行うことができ、その微生物を
有用微生物として単離培養する際にも有用な情報を提供
できる。
【0055】従来法によるpH測定では、ただ検体の状
態を示す値の一つとしてpH値が得られるだけであっ
た。しかし、本発明によって生細胞の検出とpH測定を
同時に行うことができるようになり、たとえば微生物汚
染が起こった場合には、汚染状況のモニタリング、微生
物の特定、汚染源の特定等を簡便に行うことができ、結
果だけでなく原因や状況等を知ることができるようにな
った。また、様々な有用微生物及び有害微生物の分離培
養も、更に簡便に行うことができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】CFDA−AMの分解物CFの吸収スペクトル
を示す図である。CFの吸収スペクトルはpHに依存
し、pHが高いと490nm付近の吸収が増し、pHが
低いと435nm付近の吸収が増す。
【図2】小型閉鎖生態系(CES)内部のpH分布と微
生物分布を示した顕微鏡写真である。Aは5倍の対物レ
ンズで測定した場合のpH分布図、Bは40倍の対物レ
ンズで測定した場合のpH分布図、Cは490nmの励
起光を照射し40倍の対物レンズで検出した生きた微生
物の蛍光画像、Dはその一部のpHプロファイルを図式
化したものである。
【図3】小型閉鎖生態系(CES)内部の光合成と呼吸
によるpH変化を示した顕微鏡写真である。測定は2.
5分間隔で行い、得られた各pH測定画像を時間経過に
沿って左上から右へと順に並べて示した。左上の写真の
みpH測定画像ではなく明視野顕微鏡像である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考) G01N 33/84 G01N 33/84 A (72)発明者 河崎 行繁 東京都町田市南大谷11号 株式会社三菱化 学生命科学研究所内 (72)発明者 辻 堯 東京都町田市南大谷11号 株式会社三菱化 学生命科学研究所内 (72)発明者 倉根 隆一郎 茨城県つくば市東1丁目1番3号 通商産 業省 工業技術院 生命工学工業技術研究 所内 Fターム(参考) 2G043 AA03 BA16 CA03 DA02 EA01 FA06 GA02 GA07 GB21 GB28 JA03 KA02 KA05 LA01 NA01 NA06 2G045 AA40 DB03 FA26 FA29 FB12 GC10 GC15 2G054 AA08 CA03 EA03 JA02 4B029 AA07 BB01 FA01 FA11 FA15 4B063 QA01 QA18 QQ05 QQ08 QQ15 QQ16 QQ18 QQ19 QQ30 QR66 QS02 QS28 QS39 QX02

Claims (15)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 生細胞を含む媒体に蛍光性酵素基質を添
    加し、異なる波長の2種類の励起光を上記媒体に照射
    し、得られる蛍光の強度により生細胞を検出し、2種類
    の励起光により発する蛍光の強度の比を算出することに
    より上記媒体のpHを測定することを特徴とする、媒体
    中の生細胞の検出および該媒体のpH測定のための方
    法。
  2. 【請求項2】 蛍光性酵素基質が分解して生成する蛍光
    性物質がpHにより吸収スペクトルが変化する化合物で
    ある、請求項1に記載の方法。
  3. 【請求項3】 蛍光性酵素基質が、5−カルボキシフル
    オレセインジアセテートアセトキシメチルエステル、5
    −(6−)カルボキシフルオレセインジアセテート、
    2’,7’−ビス −(2−カルボキシエチル)−5−
    (6−)カルボキシフルオレセインアセトキシメチルエ
    ステルおよび5−スルフォフルオレセインジアセテート
    からなる群から選ばれる化合物である、請求項1又は2
    に記載の方法。
  4. 【請求項4】 蛍光性酵素基質が5−カルボキシフルオ
    レセインジアセテートアセトキシメチルエステルであ
    る、請求項1から3の何れかに記載の方法。
  5. 【請求項5】 生細胞を検出し、当該生細胞の位置を特
    定し、その位置の周辺媒体のpHを測定する、請求項1
    から4の何れかに記載の方法。
  6. 【請求項6】 励起光の波長として、媒体のpHにより
    変化する蛍光の強度の比を求めることができるような2
    波長の組み合わせを使用し、かつ、少なくとも一方の波
    長を生細胞の検出に用いる、請求項1から5の何れかに
    記載の方法。
  7. 【請求項7】 励起光の波長が420〜450nmと4
    80〜495nmとの組み合わせである、請求項1から
    6の何れかに記載の方法。
  8. 【請求項8】 励起光を透過し、それより長波長の光を
    実質的に透過しない励起光用バンドパスフィルターを用
    いる、請求項1から7の何れかに記載の方法。
  9. 【請求項9】 490nmの光を透過し、かつ500n
    m以上の光を実質的に透過しない励起光用バンドパスフ
    ィルターを用いる、請求項1から8の何れかに記載の方
    法。
  10. 【請求項10】 透過率ピーク波長が490nm、49
    0nmにおける透過率が70%以上、ピーク半値幅が1
    0nm、そして500nmにおける透過率が0.1%以
    下である励起光用バンドパスフィルターを用いる、請求
    項1から9の何れかに記載の方法。
  11. 【請求項11】 少なくとも蛍光性酵素基質を含む、請
    求項1から10の何れかに記載の方法に使用するための
    キット。
  12. 【請求項12】 蛍光性酵素基質が、5−カルボキシフ
    ルオレセインジアセテートアセトキシメチルエステル、
    5−(6−)カルボキシフルオレセインジアセテート、
    2’,7’−ビス −(2−カルボキシエチル)−5−
    (6−)カルボキシフルオレセインアセトキシメチルエ
    ステルおよび5−スルフォフルオレセインジアセテート
    からなる群から選ばれる化合物である、請求項11に記
    載のキット。
  13. 【請求項13】 請求項1から10の何れかの方法で使
    用するための、励起光を透過し、それより長波長の光を
    実質的に透過しない励起光用バンドパスフィルター。
  14. 【請求項14】 請求項1から10の何れかの方法で使
    用するための、490nmの光を透過し、かつ500n
    m以上の光を実質的に透過しない励起光用バンドパスフ
    ィルター。
  15. 【請求項15】 請求項1から10の何れかの方法で使
    用するための、透過率ピーク波長が490nm、490
    nmにおける透過率が70%以上、ピーク半値幅が10
    nm、そして500nmにおける透過率が0.1%以下
    である励起光用バンドパスフィルター。
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