JP2002102330A - 生体インプラント材料とその製造方法 - Google Patents

生体インプラント材料とその製造方法

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Abstract

(57)【要約】 (修正有) 【課題】生体骨との強い結合力を有する生体インプラン
ト材料及びその短期間での製造方法の提供。 【解決手段】チタン又はその合金からなる基材をアルカ
リ性水溶液に浸け続いて水に浸けて、その表面にアナタ
ーゼを含み非晶質チタン酸塩を実質的に含まず且つチタ
ン金属濃度が内部に向かうに連れて高くなる皮膜を形成
させ、更に皮膜の上に、アパタイトからなる第二の皮膜
を備え第一の皮膜の厚さが0.1〜5.0μmであり、
アパタイトからなる第二の皮膜の厚さが0.1〜50μ
mであることを特徴とする。 【効果】本材料は人工骨、人工歯根などに好適に利用さ
れる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は、骨と結合する性
質を有する生体インプラント材料、並びにそのような生
体インプラント材料を製造する方法に属する。この生体
インプラント材料は、人工骨、人工歯根などに好適に利
用されうる。
【0002】
【従来の技術】チタン又はその合金を水酸化ナトリウム
水溶液、水酸化カリウム水溶液、水酸化カルシウム水溶
液に浸けた後、加熱すると、その表面にアルカリチタン
酸塩又はアルカリ土類チタン酸塩の非晶質の層が形成さ
れ、この材料を生体内に埋め込むか又はアパタイトの過
飽和溶液に浸けると、その表面にアパタイト層が形成さ
れるので、同材料はそのアパタイト層を介して骨と結合
することが知られている(特許第2775523号)。
【0003】その後、Wangらは、チタンを塩化タンタル
含有過酸化水素水溶液で処理し、300〜600℃で加
熱すると、その表面にアナターゼが析出し、この材料を
擬似体液に浸けると、その表面に短期間でアパタイト層
が形成されることを発表した(1999年ワールドサイ
エンティフィック、バイオセラミックス第12巻121
〜124頁)。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】この発明の課題は、Wa
ngらの方法によって得られる材料よりもアナターゼやア
パタイトを含む表面層が強固に基材に結合した生体イン
プラント材料を提供することにある。
【0005】
【課題を解決するための手段】その課題を解決するため
に、この発明の生体インプラント材料は、チタン又はそ
の合金からなる基材と、その表面にアナターゼを含み非
晶質チタン酸塩を実質的に含まず且つチタン金属濃度が
内部に向かうに連れて高くなる皮膜とを備えることを特
徴とする。
【0006】この生体インプラント材料は、アパタイト
形成能力に優れたアナターゼを表面の皮膜に多く含むの
で、生体中で短期間で表面にアパタイト層を形成する。
しかもその皮膜は、チタン金属濃度が内部に向かうに連
れて高くなるものであるから、外表面から基材の内部に
至るまで断層が無い。そのため上記のアナターゼが強固
に基材に固定されている。
【0007】前記皮膜の好ましい厚さは、0.1〜5.
0μmである。この発明の生体インプラント材料は、生
体に埋め込む前に予め前記皮膜の上に、アパタイトから
なる第二の皮膜を備えていても良い。この第二皮膜の好
ましい厚さは、0.1〜50μmである。上記生体イン
プラント材料を製造する適切な方法は、チタン又はその
合金からなる基材をアルカリ性水溶液に浸け、続いて水
に浸けることを特徴とする。
【0008】チタン又はその合金からなる基材をアルカ
リ性水溶液に浸けると、基材の表面にチタン酸塩の非晶
質層が形成される。これを水に浸けるとチタン酸塩のア
ルカリ成分が水中のヒドロニウムイオンと交換され、チ
タン酸の非晶質層又はアナターゼ層となる。このアナタ
ーゼは、チタン酸塩やチタン酸の非晶質よりも生体中で
のアパタイト形成能力に優れている。しかも基材内部に
近い部分はチタン金属の濃度が高くてアナターゼ濃度が
低く、外に向かうほどにチタン金属の濃度が低下し逆に
アナターゼ濃度が増加するという傾斜構造を有している
と認められる。水中から取り出した段階でアナターゼの
析出が認められない場合はアナターゼの析出が認められ
る温度以上に加熱するとよい。勿論、加熱せずにアナタ
ーゼが析出している場合でも析出量を増すために加熱し
ても良い。
【0009】前記アルカリ性水溶液のアルカリ性は、ア
ルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属に基づくと好ま
しい。これらの金属イオンは、水中のヒドロニウムイオ
ンと容易に交換可能だからである。この場合、アルカリ
金属及び/又はアルカリ土類金属の濃度は、0.1M〜
20M程度、特に3M〜10Mが好ましい。水から取り
出した後又は加熱の後に、アパタイトの飽和濃度を超え
るカルシウムイオンとリン酸イオンを含有する水溶液に
浸けると、生体に埋め込む前に基材の表面にアパタイト
の結晶を予め形成しておくことができるので好ましい。
【0010】加熱前に浸ける水の温度は、通常0〜15
0℃、好ましくは40〜100℃、更に好ましくは50
〜90℃、浸ける時間は通常1秒〜10日である。また
加熱の温度は、通常200〜800℃、好ましくは40
0〜700℃、更に好ましくは500〜600℃であ
る。基材としては、純チタンの他に、Ti-6Al-4V,Ti-6Al
-2Nb-Ta,Ti-15Mo-5Zr-3Al等の合金でもよい。
【0011】
【実施例】−実施例1− 15×10×1mm3のチタン製基板を0.5M、1M
又は5M濃度の水酸化ナトリウム水溶液に60℃で24
時間浸けた後、40℃もしくは80℃の水に所定時間浸
けることにより、あるいはそれに続いて種々の温度で1
時間加熱することにより、実施例の生体インプラント材
料Nos.1〜34を製造した。得られた生体インプラ
ント材料の表面を薄膜X線回折により調べたところ、い
ずれもアナターゼを含む皮膜が形成されていた。
【0012】比較のために、水酸化ナトリウム水溶液か
ら取り出した後、水処理をしない及び/又は加熱しない
などの、皮膜中にアナターゼが析出しにくい条件を遂行
して生体インプラント材料No.R1〜R7を製造し
た。次に、得られた各生体インプラント材料を擬似体液
に1日、3日又は7日浸けて取り出し、表面のアパタイ
ト析出量を走査型電子顕微鏡で調べた。その結果を表1
に示す。
【0013】
【表1】
【0014】注*1)「水処理」及び「加熱処理」の欄
において、「〜」は当該処理をしていないことを表す。 注*2)「アナターゼの析出量」の欄において、「−」
はアナターゼを析出せず、「+」はアナターゼを少量析
出、「++」は中程度量析出、「+++」は多量析出を
それぞれ表す。 注*3)「アパタイトの析出量」の欄において、「×」
は析出せず、「△」はアパタイトが粒子状に点在して析
出、「○」はかろうじて全面に析出、「◎」は全面に厚
い層となって析出を表す。
【0015】表にみられるように、水酸化ナトリウム水
溶液の濃度は、5M、1M、0.5Mの順にアナターゼ
の析出効果が高かった。又、それらの濃度では水処理温
度は40℃よりも80℃の方がアナターゼの析出効果が
高かった。その後の加熱温度は、500℃及び600℃
が最も析出効果に優れ、700℃になると逆に析出量が
減少した。そして、擬似体液に浸けた期間が同じでもア
ナターゼの析出量の多い生体インプラント材料ほど、ア
パタイトの析出量も多かった。
【0016】−実施例2− 15×10×1mm3のチタン製基板を1M又は10M
濃度の水酸化カリウム水溶液に60℃で24時間浸けた
後、40℃もしくは80℃の水に所定時間浸けることに
より、あるいはそれに続いて600℃で1時間加熱する
ことにより、実施例の生体インプラント材料Nos.3
5〜45を製造した。得られた生体インプラント材料の
表面を薄膜X線回折により調べたところ、いずれもアナ
ターゼを含む皮膜が形成されていた。
【0017】比較のために、水酸化カリウム水溶液から
取り出した後、水処理をしない及び/又は加熱しないな
どの、皮膜中にアナターゼが析出しにくい条件を遂行し
て生体インプラント材料No.R8〜R10を製造し
た。次に、得られた各生体インプラント材料を擬似体液
に1日、3日又は7日浸けて取り出し、表面のアパタイ
ト析出量を走査型電子顕微鏡で調べた。その結果を表2
に示す。表中の記号の意味は表1における注*1)〜*
3)と同じである。
【0018】
【表2】
【0019】表2に見られるように、水酸化カリウムの
濃度は1Mより10Mの方が、水処理の温度は40℃よ
り80℃の方がいずれもアナターゼ析出量が多かった。
そして、アナターゼ析出量とアパタイト析出量とがほぼ
比例している点も実施例1と同様であった。尚、No.
R10については水処理をしていなくても加熱しただけ
でアナターゼが析出しているが、No.42が加熱せず
に水処理しただけで同程度量のアナターゼを析出してい
るうえ、擬似体液に浸けている期間が3日の場合にN
o.42の方がアパタイト析出量が多いことから、水処
理の効果があることがあきらかである。
【0020】−実施例3− 実施例1の生体インプラント材料No.R3及びNo.
13をウサギの頸骨に埋め込み、4週間又は8週間放置
したところ、生体インプラント材料は頸骨と結合した。
その後、生体インプラント材料と頸骨との結合界面に3
5ミリ/分の速度で引っ張り応力を与えて結合を破壊
し、その破壊に要した荷重をインストロン式材料試験機
で測定した。測定結果を図1に示す。図中、Aが生体イ
ンプラント材料No.R3、CがNo.13である。こ
の結果から、アナターゼを析出しなかった生体インプラ
ント材料No.R3に比べて、アナターゼを析出した生
体インプラント材料No.13は短期間に骨と強く結合
することが判った。
【0021】−実施例4− 実施例1の生体インプラント材料No.9及びNo.1
3について表面から内部に向けての組成変化をオージェ
電子分光分析法により調べた。その結果を図2に示す。
図中、(A)は生体インプラント材料No.9、(B)
は生体インプラント材料No.13の組成変化を表す。
この結果から、本発明に属する生体インプラント材料は
表面から内部に向かうに連れてチタン濃度が次第に増加
する傾斜構造を有し、その傾斜構造を有する皮膜の厚さ
が1〜1.5μmであることが判る。
【0022】−実施例5− 実施例1の生体インプラント材料No.13の表面にS
cotch(登録商標)テープを貼って剥がし、走査型
電子顕微鏡で1万倍に拡大して観察したところ、テープ
の糊が材料No.13の表面に付着した。
【0023】別途、実施例1と同形同質のチタン製基板
を3mMの塩化タンタルを含む30体積%の過酸化水素
水溶液に80℃で1時間浸けた後、600℃で1時間加
熱することによって、生体インプラント材料No.R1
1を製造した。材料No.Rを薄膜X線回折にかけたと
ころ、実施例1のNo.13の材料と同程度のピーク強
度のアナターゼが析出していた。材料No.R11にも
上記と同様にテープを貼って剥がし、走査型電子顕微鏡
で1万倍に拡大して観察したところ、アナターゼ層が剥
がれてテープに付着した。
【0024】
【発明の効果】この発明によれば、生体骨との強い結合
力を有する生体インプラント材料を短期間で得ることが
できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】生体インプラント材料No.R3及びNo.1
3をウサギの頸骨に埋め込んだ後、骨との結合を破壊す
るのに要した荷重を示すグラフである。
【図2】生体インプラント材料No.9及びNo.13
の表面から内部に向けての組成変化を示すグラフであ
る。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き Fターム(参考) 4C059 AA02 4C081 AB03 BA15 BB08 CF032 CG02 CG03 DA16 EA06

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】チタン又はその合金からなる基材と、 その表面にアナターゼを含み非晶質チタン酸塩を実質的
    に含まず且つチタン金属濃度が内部に向かうに連れて高
    くなる皮膜とを備えることを特徴とする生体インプラン
    ト材料。
  2. 【請求項2】前記皮膜が、0.1〜5.0μmの厚さを
    有する請求項1に記載の生体インプラント材料。
  3. 【請求項3】前記皮膜の上に、アパタイトからなる第二
    の皮膜を備える請求項1に記載の生体インプラント材
    料。
  4. 【請求項4】前記第二皮膜が、0.1〜50μmの厚さ
    を有する請求項3に記載の生体インプラント材料。
  5. 【請求項5】チタン又はその合金からなる基材をアルカ
    リ性水溶液に浸け、続いて水に浸けることを特徴とする
    生体インプラント材料の製造方法。
  6. 【請求項6】前記水に浸けた後、少なくともアナターゼ
    の析出が認められる温度以上に加熱する請求項5に記載
    の製造方法。
  7. 【請求項7】前記アルカリ性水溶液のアルカリ性が、ア
    ルカリ金属及び/又はアルカリ土類金属に基づく請求項
    5又は6に記載の製造方法。
  8. 【請求項8】水に浸けた後又は加熱の後に、アパタイト
    の飽和濃度を超えるカルシウムイオンとリン酸イオンを
    含有する水溶液に浸ける請求項5〜7のいずれかに記載
    の製造方法。
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