【発明の詳細な説明】
細胞増殖を阻害するペプチド及びその使用
この発明は、配列Z−Phe−X−Gly−Y(配列中、ZはN末端保護基又は水素
であり、Xは天然アミノ酸であり、そしてYはカルボキシルOH又は合成時の脱
離を条件としたC末端基又は天然アミノ酸オリゴペプチドである)を有するペプ
チドの新規な使用に関する。さらに発明は、リンパ球及び/又は単球及び/又は
顆粒球に由来する細胞の増殖を阻害するペプチドに関する。
この発明においては、次の定義を使用する。天然アミノ酸とは、天然に産出さ
れ、化学式に従った構造をもつアミノ酸であり、その立体構造との関係はない。
この点に関して、挙げた定義の範囲からみると、天然に由来する構造が知られる
が、その立体化学構造が、とくにα位の炭素に関して天然に存在しないようなア
ミノ酸でも、天然アミノ酸の概念の中に入る。その例として(D)フェニルアラ
ニンがある。Pheは、アミノ酸のフェニルアラニンを、Glyは、アミノ酸のグリシ
ンを表わす。保護基としては、合成によって得られたペプチドのN末端部を合成
試薬の化学的攻撃から保護するような化合物が挙げられる。ほぼ15〜20個の
アミノ酸からなるペプチドは、通常、化学的な合成により、例えば、よく知られ
たメリフィールド合成法によって得られる。このような保護基は、得られたペプ
チドに生理効果を与える原因にもなり(しかし、必須ではない)、又はペプチド
の生理効果を強めることもできる。この点に関し1つの保護基に、二重の機能が
あり、そしてこのような場合には、本来のペプチド合成反応が終了した後でも保
護基は脱離されない。ペプチド合成で、通常使用される保護基の1つとして、例
えば、ベン
ジルオキシカルボニル基(C6H5−CH2−O−CO−)があり、これはカルボ
ベンゾキシ基とも呼ばれる。カルボキシルOHとしては、C末端部のカルボキシ
ル基に属するOH基が挙げられる。換言すれば、YとしてカルボキシルOHを有
するペプチドは、C末端部に付くカルボキシル基を表わす。合成時の脱離を条件
としたC末端基とは、アミノ酸のC末端部に結合し、それ自体として完成してい
るペプチドの、合成マトリックスからの脱離に由来する。次にC末端部としては
、脱離の種類によるが、例えば、次の構造が挙げられる:アミド(−CO−NH2
)、ヒドラジド(−CO−NH−NH2)又はエステル(−COOR)。これら
の例で合成時の脱離を条件としたC末端基には、−NH2、−NH−NH2又は−
ORがある。よく知られるように合成法にもよるが、合成時の脱離を条件とした
他のC末端基を使用することも可能である。同様に保護基の場合でも、生理効果
を与え、あるいは生理効果を強める作用は、合成時の脱離を条件とした1つのC
末端基に限定されるものではない。この発明で定めた定義によれば、オリゴペプ
チドYには、1個からほぼ10個のアミノ酸が含まれる。
増殖と表現した意味は、分裂により細胞数が増すことである。健康な細胞の場
合には、増殖は、規則どおりに特定の、身体に適した物質が、1つの細胞に働い
て誘発される。このような物質は、マイトジェンと命名される。同様に特定な種
類の細胞の場合に、増殖は、抗原によっても誘発及び/又は共誘発される。自然
増殖とは、マイトジェン誘発及び/又は抗原誘発を伴わない細胞の増殖をいう。
自然増殖は、多くの場合、該当する細胞の欠陥機能による結果であり、例えば、
突然変異によって引き起こされる。自然増殖は、いわゆる悪性の細胞成長に対す
る症候性を示し、癌とも呼ばれ、結果的に望ましいものではない。
そしてまた望ましくない、とくに免疫系細胞の増殖は、別の理由によっても発
生することがある。ヒト又は動物に、例えば、器官が移植されると、受容組織体
の免疫反応が生じる。これは実質的に移植された器官の「異細胞」に対する一種
独特な拒絶反応であって、器官被移植体の免疫系によって起こり、このときリン
パ球は、器官の1つ又は幾つかの抗原に刺激されて増殖を起こす。マイトジェン
誘発は、この種の増殖に対しては基本的に必要とされるものではない。それゆえ
に重要なことは、抗原特有な(すなわち、「異」誘発性の)増殖である。そして
また抗原特有な望ましくない増殖は、例えば、自己免疫疾患のような移植医学と
して他の医学分野との関係ができるようになる。
発明の理解には、次の技術水準が重要である。文献:Ch.D.Richardson et a
l.,Virology,1980,105,205−222及びCh.D.Richardson et al.,Virology,
1983,131,518−532からは、とくにB−Phe−Phe−Gly−Ala−Val−Ile−Gly−
OH(B=ベンジルオキシカルボニル基、Ala=アラニン、Val=バリン、Ile=
イソロイシン)、B−Phe−Phe−Gly−OH、H−Phe−Phe−Gly−Ala−Val−Il
e−Gly−OH及びH−Phe−Phe−Gly−OHの配列をもつペプチドが知られる。
これらのペプチドは、人体細胞に種々のウイルスが融合する機構を解明するため
に製造された。その背景をなすものに、例えば、センダイウイルス又ははしかウ
イルスのような種々のウイルスが、F1膜融合タンパク質の融合ドメインにおい
て、部分配列−Phe−Phe−Gly−又は共通配列をなしていることがある。この研
究における発見に、前記のペプチド(ウイルス標的細胞の並べられた受容体への
競合的結合によると推定される)が、ウイルスとウイルス標的細胞との融合を阻
害することがある。融合は、配列B−Phe−Phe−Gly−OHを有するペ
プチドによっても阻止されたが、その効果は比較的弱かった。このペプチドは、
細胞培養を伴う試験において、ウイルスとウイルス標的細胞の融合阻害を研究す
るための試薬として使用された。これに対して、このペプチド又は他に述べたペ
プチドの1つを、治療用の医薬を製造するために利用することは、まだ知られて
いない。初めに挙げた文献の箇所においても確認されているが、CV−1−細胞
(非リンパ球又は非単球の付着細胞)は、ペプチドによって増殖が阻害されない
。
冒頭で述べた構成で一般的な配列の中に入れられる特別な配列は、基本的に別
な関係に由来する部分配列としても知られる。従って配列Phe−Phe−Glyは、配
列H−Arg−Pro−Lys−Pro−Gln−Gln−Phe−Phe−Gly−Leu−Met−NH2(Arg
=アルギニン、Pro=プロリン、Lys=リシン、Gln=グルタミン、Leu=ロイシン
、Met=メチオニン)をもつタキキニンの部分配列であり、これは神経伝達物質
/神経修飾物質として、又は免疫系細胞(リンパ球)の産出を調整する作用を有
する。ここにおいて、知られている限りの配列で、アミノ酸は、常に(L)−構
造をしていることが分かる。このタキキニンは、SP(物質P)とも表わされる
。このときSPは、例えば、T細胞の増殖を刺激するような状態にあり、しかも
マイトジェンとして作用するほかの物質を追加して加える必要がない(例えば、
Kavelaars et al.,J.Neuroimm.1993,42,61−70を参照のこと)。この限りに
おいて、SP自身は、マイトジェンと同じような働きをするものと思われる。次
に挙げる文献:I.Z.Siemion et al.,Mol.Immunol.,27,887−890の相当箇所か
ら知られるように、細胞培養実験から再び確認されたが、SPのC末端と配列が
一致する配列H−Phe−Phe−Gly−Leu−Met=NH2を有するペプチドは、(L)
−構造だけが存在するフェニルアラニ
ンに関しても一致するが、前記の文献による結果とは反対に、マイトジェン活性
を示さないB細胞(リンパ球の下位グループ)の免疫グロブリン合成を低下させ
るように働くことがある。しかしながら、増殖の挙動に対する作用については、
前記の文献からは知られていない。文献:I.Z.Siemion et al.,Archivum Immun
o-logiae et Therapiae Experimentalis,1994,42,201-203から知られるよう
に、配列H−Phe−Tyr−Gly−Leu−Met−NH2(Tyr=チロシン)、H−Phe−Va
l−Gly−Leu−Met−NH2及びH−Phe−Ile−Gly−Leu−Met−NH2を有するペ
プチドには、同様な作用があり、このときも常に(L)−アミノ酸が使用される
が、増殖に関する効果には触れられていない。
この発明の出発点となった文献に、Y.Yanagi et al.,Virology,1992,187 ,
280−289があり、細胞培養実験を行って、はしかウイルスが、T細胞(リンパ
球の下位グループ)の増殖に及ぼす効果について調べられた。ここで、はしかウ
イルスが、増殖を阻害することが証明された。さらに証明されたことに、Zが、
ベンジルオキシカルボニル基Bであり、配列Z−Phe−Phe−Gly−OHを有する
ペプチドは、このはしかウイルスが誘発するT細胞増殖の阻害を、再び相殺する
ことがあり、つまりマイトジェンで誘発される増殖は、再び事実上正常に進行す
るようになる。実験結果から得られた知識をまとめると、知られている限りペプ
チドは、一方では、はしかウイルスがもつ増殖阻害効果を相殺するが、他方では
、自身でさえ(マイトジェンに誘発される)T細胞増殖に対する(顕著な)阻害
効果を示さなかったが、いずれにしても、これは試験した濃度範囲内における結
果である。
この発明は、疾患の治療に使用し得るペプチドを提供する技術的問題の基礎を
なすものである。この発明は、とくに悪性の細胞成長
を伴う細胞の自然増殖を阻害して、又は移植に条件を付ける免疫反応を阻害する
ようなペプチドを提供する技術的問題の基礎をなしている。
この技術的問題を解決するために発明がする教示は、配列Z−Phe−X−Gly−
Yを有するペプチド又はこのようなペプチドの混合物を使用して、ヒト又は動物
の体を治療する医薬を製造することにあり、ここでZは、N末端保護基又は水素
であり;Xは、天然アミノ酸であり;そしてYは、カルボキシルOH又は合成時
の脱離を条件としたC末端基又は天然アミノ酸からなるオリゴペプチドである。
とくに技術的問題を解決するために発明がする教示は、このペプチド又はこのよ
うなペプチドの混合物を使用して、リンパ球及び/又は単球及び/又は顆粒球に
由来する細胞、とくにT細胞もしくはB細胞の悪性成長を伴う疾患を治療する医
薬を製造することにあり、又はリンパ球及び/又は単球及び/又は顆粒球に由来
する細胞の抗原特有な免疫反応を伴う疾患を治療する医薬の製造にある。この医
薬は、多くの場合に慣用されている添加剤を含むガレノス(galenisch)医薬であ
ることが理解される。添加剤の選択は、専門家が、ガレノス(galenisch)の実用
形式、そして具体的な投与乃至は薬剤提供の形態に合わせて難なく定めることが
できる。
種々の癌疾患の中で最初に挙げられるのが白血病である。特許請求されたペプ
チド又はこのようなペプチドの混合物を投与することによって、リンパ球及び/
又は単球及び/又は顆粒球に由来する悪性細胞の増殖が阻害される。従って、こ
のような細胞の自然増殖は、もはや見出されないか、又は非常に減少された範囲
にしか存在しない。活性を失った悪性細胞に関する限り、増殖阻害により、強制
しなくて確かに悪性細胞を殺せる。次に推奨されるのは、適切な(ペプチドに融
合される)細胞毒物質(毒素融合)の追加投与である
。細胞毒物質の適切な例として、メトトレキセート(標的:DNAトポイソメラ
ーゼII型)又はジフテリア毒素のようなポリペプチドが挙げられる。
2番目に指摘されることは、とくに器官移植後に、移植に条件を付ける免疫反
応、そして自己免疫疾患に関するものである。特許請求されたペプチド又はこの
ようなペプチド混合物の投与によって、リンパ球及び/又は単球及び/又は顆粒
球に由来する(健康な)細胞の抗原特有な増殖が阻害される。従って、異器官に
対する、それ自体が健康な自然免疫応答が抑圧され、その結果、異器官が拒絶さ
れることがなくなる。
発明を使用するには、N末端保護基がベンジルオキシカルボニル基であること
が好ましい。XがPhe又はAlaであるのが有利であり、Xはα位の炭素において、
N末端Pheによって種々の立体化学構造をとるPheであることが好ましい。個々の
場合について好ましいのは、ペプチドの配列が、Z−(D)Phe−(L)Phe−Gl
y−Yであり、ここでZはベンジルオキシカルボニル基Bであることが好ましく
、そして/又はYがカルボキシルOHであることが好ましい。さらにYは、合成
時の脱離を条件とした、例えば、−NH2のようなC末端基をもつオリゴペプチ
ドであることができる。Yは、とくに配列Leu−Met又はVal−Valを含み、必要な
場合には、合成時の脱離を条件としたC末端基として−NH2を有するジペプチ
ドであってもよい。
とくに配列B−(D)Phe−(L)Phe−Gly−OHを有する本発明のペプチド
は、驚くべきことには、自然増殖又は免疫特異的増殖を、強力に阻害する作用が
ある。この認識は、全く驚くべきことであり、なぜなら文献:Y.Yanagi et al.
,Virology,1992,187 ,280−289に記載されるように、知られる限りのペプチ
ドは、一
方では、はしかウイルスの増殖阻害効果を相殺し、他方においては、試験した濃
度範囲において、T細胞増殖(ここではマイトジェン誘発)に対する阻害効果さ
えも全く示さなかったからである。従って文献の該当箇所は、むしろ逆方向の記
載をなすものである。
もちろん基本的には、請求項1〜9に記載される他の修飾体についても、ペプ
チドが、自然増殖又は免疫特異的増殖に対して阻害効果を有する限り、発明のた
めに使用される。適切な修飾が、簡単な方法を用いて通常の合成によって施され
、同じく簡単にその阻害効果に関する試験が行なわれる。このような試験は、通
常、〔3H〕−チミジン又はアルマルブリュー(Almar-Blau)を使用して行なわ
れる。
〔3H〕−チミジンを使用して培養中に新しく形成した細胞の数を測定する(
放射能測定)。アルマルブリュー(BIOSOURCE Int.社の製品、アメリカ)を使用
して、細胞内の代謝性変換を測定する(比色測定又は蛍光測定)。代謝性変換量
が多いことは、多くの場合、その前の細胞分裂との相関を示している。それぞれ
の量は、比較として同じ細胞を培養したときの量と、それも阻害剤なしか、又は
阻害効果をもたないペプチドを添加したときの値と比べて示される。簡単な方法
による比較図を書き、増殖阻害を%で表示して定量化する。この際、よく知られ
た標準試験法が重要である。
次に示すペプチド修飾も、上述の技術水準からは知られていないが、自然増殖
又は免疫特異的増殖を阻害する効果を有するので、発明に基づく技術的問題も、
配列Z−Phe−X−Gly−Yを有し、リンパ球及び/又は単球及び/又は顆粒球に
由来する細胞の増殖を阻害するペプチドによって解決されるが、ここでXは、天
然アミノ酸であるが、Phe、Tyr、Val又はIleではなく、配列がZ−(D)Phe−
X−Gly−Yの場合には、XはPheではなく、そしてYはカ
ルボキシルOH又は合成時の脱離を条件としたC末端基又は天然アミノ酸からな
るオリゴペプチドである。技術的問題を、さらに解決するための方法として、リ
ンパ球及び/又は単球及び/又は顆粒球に由来する細胞の増殖を阻害するために
、配列Z−Phe−X−Gly−Yを有するペプチドを使用し、ここでZはN末端保護
基であり、Xはα位の炭素において、N末端Pheによって種々の立体化学構造を
とるPheであり、Yは、最大で10個、好ましくは最大3個のアミノ酸を含む天
然アミノ酸からなるオリゴペプチドであり、Ala−Val−Ile−Gly−ではなく、必
要な場合には、合成時の脱離を条件としたC末端基として−NH2を含むのが好
ましい。このような新規なペプチドについて具体例を挙げると、B−(D)Phe
−(L)Phe−Gly−Phe−Gly−R及びB−(D)Phe−(L)Phe−Gly−Phe−Gl
y−Phe−Gly−Rがあり、ここでRは、OH又は合成時の脱離を条件としたC末
端基であることができ、そして立体化学的に特徴づけないPheは、(L)−構造
であるのが好ましい。最初の研究において示されたように、前記の具体的構造を
有するペプチドは、免疫系細胞の増殖に対しておそらくより強力な阻害効果を有
している。さらに改良された生物学的活性については、オリゴペプチドYの核配
列に付くアミノ酸によるペプチドの安定化が起因するものと考えられる。
このような新規な修飾化合物については、すでに前に説明したように簡単な方
法で合成し、簡単な方法で自然増殖又は免疫特異的増殖を阻害する効果に関する
試験ができる。自然増殖又は免疫特異的増殖を阻害する効果の程度は、10%を
超える阻害、好ましくは50%を超える阻害、非常に好ましくは80%を超える
阻害に分けた尺度として表わされ、その測定は、ペプチドで処理した細胞培養に
ついて通常の方法で測られた増殖速度を、ペプチドを使用しないか
、又は不活性なペプチドを使用して、同じ細胞培養において得られた増殖速度と
比較して行なった。特定の細胞系については、事実上100%の阻害効果さえも
見出されている。
ペプチドは、好ましくは配列Z−(D)Phe−X−Gly−Yを含むように作られ
る。その他の場合においも、発明を使用するために前述の説明によるあらゆる修
飾及び/又は請求項2〜9に相当する修飾に基づいた処理を行なうことができる
が、ここで、Xは、Phe、Tyr、Val又はIleではなく、又は配列Z−(D)Phe−
X−Gly−Yの場合には、Xは、Pheではなく、又はオリゴペプチドYは、−Ala
−Val−Ile−Gly−でないことを条件とする。
請求項10又は11に記載した新規なペプチドと並んで、この新規なペプチド
を、ヒト又は動物の体を治療するための医薬の製造、とくにリンパ球及び/又は
単球及び/又は顆粒球に由来する細胞、例えば、T細胞もしくはB細胞の悪性成
長を伴う疾患を治療するための医薬の製造、又はリンパ球及び/又は単球及び/
又は顆粒球に由来する細胞の抗原特有な免疫反応を伴う疾患を治療するための医
薬の製造に使用することも本発明の対象である。さらにこの発明に属するが、請
求項10又は11記載のペプチドを、必要な場合には、上に説明した修飾を入れ
て製造する方法があり、このときペプチドは、通常の合成法、例えば、メリフィ
ールド合成法乃至は固相合成法によって製造される。最終的に発明は、請求項1
〜9又は13によって製造された医薬をも包含する。次に発明を、実施例を用い
て詳しく説明する。実施例1.
すべて次に示す結果は、〔3H〕チミジン法又はアラマルブリュー法により、
そのつど細胞培養において得られた増殖を定量化したものである。この場合に、
自然増殖の測定は、マイトジェンとして
作用する物質を添加しないで行なった。すべての実施例において、ペプチドB−
(D)Phe−(L)Phe−Gly−OHを、増殖阻害型ペプチドとして使用した(表
中にpepXと記した)。実験では多くの場合、自ら合成したペプチドを使用し
た。しかし、このようなペプチドは、購入することもできる(例えば、Sigma社
又はBachem社)。比較用のペプチドとして、B−Gly−(L)Phe−(L)Phe−
OHを使用した(表中にpepCと記した)。個々には細胞系乃至は細胞試料は
、96クラスター(容器)プレートとして提供されるが、その密度すなわち細胞
数/容器は、容積100μl/容器について5×104個である。次にペプチドを、表に
挙げた量だけ加えてから72時間インキュベートした。ここで〔3H〕チミジン(
0.5μCi/ml;1Ci=37GBq)又はアラマルブリューによる16時間の標識化を行なっ
た。アッセイは3回行なった。細胞を採集した後に増殖速度乃至は物質代謝上昇
度を測定したが、これは内蔵されたトリチウムのβ線検出器による定量から、又
は色濃度乃至は蛍光の測定から求めた。次に得られた値を、対応する未処理の細
胞培養の値と比較すると、自然増殖を阻害する効果が%として得られた。表2に
示した結果は、%で表わした阻害効果を、比較試料のペプチドを用いた実験に対
して求めたものである。
表1に示す結果は、種々の癌疾患をもつ患者の悪性細胞試料についての最初の
実験によるものである。表2において、種々の癌疾患をもつ患者の悪性細胞試料
について更に行なった実験結果を示す。まず表1から、pepXによる自然増殖
の阻害は、比較として多くの場合に実用されるペプチドpepCによる阻害に較
べて強力なことが分かる。さらに表1から、pepXによる阻害は、高い確率を
もって投与量に関係することが分り、これはペプチド自体がもつ阻害効果であっ
て、試験の周辺条件に支配されるものではない。増殖
の阻害は、%表示によって示される。表示aを付けた値は、〔3H〕チミジンを
使用して得られた。表示bを付けた値は、アラマルブリューを使用して得られた
。アラマルブリュー法は、〔3H〕チミジン法と比較して感度が低いことが一般
的に確かめられた。表1
患者/診断 pepX pepX pepC
(50μg/ml) (200μg/ml) (200μg/ml)
1/? 35b 44b 17b
2/? 17b 39b 8b
3/CLL 24a 40a 0a
4/RARS 24a 46a 6a
5/CLL 26a 38a 18a
6/CLL 34a 42a 2a
7/CML 64a 88a 18a
8/核細胞気管支癌 38a 50a 14a
9/AML 45a/50b 80a/85b 15a/4b
9/AML 23a/15b 39a/40b 19a/2b
9/AML 42a/36b 58a/56b 6a/6b 表2
診断 患者数 200μg 患者数 200μg
pepX/pepC pepX/pepC
CLL 11 53a±24 5 42b±5
NHL 4 83a±12 4 60b±6
HCL 1 24b
cb/cc 2 9a/95a
急性白血病 1 70b
PLZ 1 64b
CML 5 78a±16 4 56b±8
AML 4 60a±17 4 63b±20
MPS 1 42a 2 37b±7
骨髄芽球 1 80a
PCV 1 30a 1 12b
ITP 3 44b±6
IC 1 58b
ThroPE 1 55a 2 37b±16
RARS 1 46a
MAG−CA 1 29a
咽頭再発 1 8a
気管支癌 1 50a
悪性ヒストザイム 1 14a
使用した診断の略字は、次の所見によるものである:CLL:慢性リンパ性白
血病;CML:慢性骨髄白血病;AML:急性骨髄白血病;RARS:芽球過多
の不応貧血症;NHL:非ホジキンリンパ腫;HD:ホジキン症;ITP:免疫
性血小板減少症;HCL:ヘアリーセル白血病;ThroPE:血小板減少症;MP
S:骨髄増殖性症候群;PCV:真性赤血球増加症;IC:免疫細胞;PLZ:
血小板増加;cb/cc:中心芽球/中心球性リンパ腫;MAG−CA:胃癌腫
;MEG−M:巨核芽球骨髄症。
表1及び2が基にした実験で用いた細胞は、密度勾配遠心装置Ficoll/Paque(
Pharmacia製)を用いて患者のヘパリン化した血液から分離した。このように分
離された細胞を、同様に10%FCS(ウシ胎児血清)を含むPPMI 1640媒質の
中で培養した。
実施例2.
表3に挙げたヒトの細胞増殖を阻害するデータは、前記の表1と同じようにし
て得られたものである。実験は、自己PBL(PBL
:末梢血液リンパ球)、同種PBL(抗原特有な、UV不活性な「異」PBLに
より誘発される増殖の阻害)、そして種々の自然増殖型細胞系(自然増殖の阻害
)を用いて行なわれた。自己PBLの場合には、PHA(PHA:フィトヘマグ
ルチニン、T細胞及びB細胞を活性化する)の存在下において測定された。表中
で指数bの表示がない場合は、すべて〔3H〕−チミジンによる処理を行った。
同種PBLの場合においては、阻害の計算を、pepCを用いた試料に対して行
った。表3
細胞 pepX pepX pepX pepC
細胞系 (50μg/ml) (100μg/ml) (200μg/ml) (200μg/ml)
自己PBL 12±3 52±5 84±8 5±2
同種PBL 15b±2 22b±4 65b±6
42±5 70±3
U-937 10±4 39±4 74±3 6±2
U-937-X 17±5 - - 70 ±2 8±3
HL60 15±2 42±4 69±4 4±1
BJAB 21±5 28±11 79±6 6±2
ラージ細胞 22 30 94 16
ジャーカット 8±3 58±23 64±9 5±3
細胞
今回も、先ずすべての場合について認められるが、pepXによる増殖阻害の
程度は、事実上不活性なpepC、又は比較として用いた活性に乏しいpepC
による阻害に較べて強力である。さらにpepXによる阻害は、投与量に関係す
るが、この場合においても、ペプチド自体がもつ阻害効果により、試験の周辺条
件によるものではない。
U−937、U−937−X(CD46発現において欠失される
U−937サブクローン)及びHL60は、単球細胞である。BJAB(リンパ
芽球B細胞)、ラージ細胞及びジャーカット細胞(CD4+T細胞)は、ヒトの
リンパ球様細胞である。
実施例3.
この実施例に表示する結果は、実施例2と比較したときに、ヒトの非リンパ性
乃至は非単球性の細胞系について得られたものである。実験は、実施例2と同じ
条件で行なわれた。表4
細胞系 pepX pepX pepX pepC
(50μg/ml) (100μg/ml) (200μg/ml) (200μg/ml)
Hela 9±5 11 13±3 6±3
Hela S3 0 -- 2±2 4±6
293 8±3 11 12±4 4±1
NCI H460 12±5 2 15±3 4±2
U87 1 <10 1 2
非リンパ性乃至は非単球性の細胞系について試験したが、阻害効果は見られな
い。
実施例4.
表5に、種々の齧歯動物の細胞乃至は細胞系について実験した結果を示す。試
験方法は、実施例2の記載と同じにした。ラットのPBL細胞及びマウスの脾臓
細胞は、ConA(コンカナバリンA)による刺激を受けた。今回も、先ずすべ
ての場合について認められるが、マイトジェンにより剌激された増殖の阻害、又
はpepXによる自然増殖の阻害は、事実上不活性なpepC、又は比較として
用いた活性に乏しいpepCによる阻害に較べて強力である。さらにpepXに
よる阻害は、投与量に関係するが、この場合においても、ペプチド自体がもつ阻
害効果により、試験の周辺条件によるものではない。
前記の細胞系には、次のような略字を使用した。EL4:胸腺腫系;YAC1
:リンパ腫;P815:マスト細胞腫;FQK 45.5、S107Re1B、S107
NFKB及びTIB221:B細胞、S107...は、細胞間信号経路の特定
な突然変異を示す;P388D1:リンパ球マクロファージ;L929:線維芽
細胞。表5
細胞 pepX pepX pepX pepC
細胞系 (50μg/ml) (100μg/ml) (200μg/ml) (200μg/ml)
ラット:
PBL(ルイス) 64±6 97±2 93±8 12±4
マウス、脾臓:
Balb/c 68 88 98 2
C3H 75 92 96 0
C57/b16 72 96 98 0
細胞系:
EL4 26±4 57±24 87±2 9±3
YAK1 50±5 62±5 83±16 4±6
P815 11±2 55±7 81±6 10±2
P388D 40±3 39±3 82±17 21±9
FQK45.5 22±2 75±26 95±8 19±1
S107 Re1B 50±4 87±10 100±0 5±5
S107 NFkB 60±0 80±3 100±0 5±3
TiB 221 40 66±1 93 11
L929 15±4 25±8 68±4 5±1
実施例5.
この実施例が示した結果によると、pepX又はpepCで処置しても、ペプ
チドによって誘発された細胞死の信号が現れない(計画的又は外因性の刺激によ
り誘発された細胞死)。
アネキシン染色法及びチューネル染色法が使用された。アネキシン染色法の場
合には、アネキシンが強くホスファチジルセリンと結合するが、このホスファチ
ジルセリンは、通常、細胞膜内に局在化し、細胞死の初期段階の1つとして細胞
表面に転座する。従って、蛍光標識アネキシンの細胞に対する結合は、非常に早
期段階において細胞死の誘発を検出する。チューネル法(TUNEL)とは、タ
ーミナルウリジン−トランスフェラーゼヌクレオチドによる末端標識化法を意味
する。標識化されたヌクレオチドは、遊離のDNA末端に移行するが、この末端
は細胞死で誘発されたDNAの鎖断片に由来する。この反応は、細胞死の後期段
階において初めて観察することができる。両者の方法によって得られた結果は、
時間に関係する動態であり、つまり着色度は、ペプチドと接触させてからの時間
を変えて測定した。ペプチドに曝してから、そのつど6時間、12時間、24時
間及び48時間が経過した後で測定した。添加したペプチド量は、常に200μg/m
lであった。
BJAS(B細胞)、HL−60(単球)、PBL、U937((単球)、J
16(ジャーカット細胞、細胞死に対する最大感度に基づいて選択)、J 16.6
(J16のサブクローン、細胞死に対する感度は低い)及びJ17(J16のサ
ブクローン)が試験された。HL−60、PBL及びJ16については、比較と
して細胞死を誘発する条件が選ばれた(陽性比較)。
結果を要約すると次のようになる。
BJAB:細胞のアネキシン陽性部分とヨウ化プロピジウム陰性部分の推計学
的ゆらぎが2%〜16%の範囲にあり、しかもpepXともpepCとも時間の
相関関係はない。
HL−60:細胞のアネキシン陽性部分とヨウ化プロピジウム陰性部分の推計
学的偏差が1%〜8%の範囲にあり、しかもpepX
ともpepCとも時間の相関関係はない。これに対してカンプトテシン0.2μg/m
lを添加すると70%になった。
PBL:細胞のフルオレセイン−12−dUTP陽性部分の推計学的偏差が4
%〜15%の範囲にあり、しかもpepXともpepCとも時間の相関関係はな
い。これに対してαCD31μg/ml+IL2 100U/ml+αFAS 5μg/ml(
16時間後)を添加すると57%になった。
U937:細胞のアネキシン陽性部分とヨウ化プロピジウム陰性部分の推計学
的偏差が2%〜15%の範囲にあり、しかもpepXともpepCとも時間の相
関関係はない。
J16:細胞のアネキシン陽性部分とヨウ化プロピジウム陰性部分の推計学的
偏差が1%〜15%の範囲にあり、しかもpepXともpepCとも時間の相関
関係はない。これに対してαFAS 5μg/mlを添加すると45%になった。
J16.6:細胞のアネキシン陽性部分とヨウ化プロピジウム陰性部分の推計学的
偏差が2%〜8%の範囲にあり、しかもpepXともpepCとも時間の相関関
係はない。
J17.5:細胞のアネキシン陽性部分とヨウ化プロピジウム陰性部分の推計学的
偏差が7%〜18%の範囲にあり、しかもpepXともpepCとも時間の相関
関係はない。
実施例6.
この実施例で示されるように、ペプチドpepXの効果で生じた増殖阻害は、
再び逆になることがある。PHAの存在下においてPBLを3日間pepXで処
置すると増殖阻害は95%に達した。その後、さらに6乃至は12日の間、細胞
を、IL2(インターロイキン2)によって刺激した(pepX及びPHAは存
在しない)。増殖阻害は、総計9日後に78%に、総計15日後に23%まで低
下した。
実施例7.
この実施例で示されるように、実施例6による増殖阻害の逆転後に、新たにp
epXを投与すると、投与量に関係する増殖阻害が発生することが、新たに観察
された。このときPBLは、実施例6に従って扱った。引き続いて50、100又は2
00μg/mlのpepXを加えた。ここで見出された増殖阻害は、それぞれの量に対
して30%、55%、そして92%であった。ここに示されたように、細胞には
、阻害逆転後においても、pepXに対する耐性が発生しない。
実施例8.
この比較実施例で示されるように、物質P又は物質Pのフラグメント(L)Ph
e−(L)Phe−Gly−Leu−Met−NH2 は、pepXと比較して、PBLに対す
る顕著な増殖阻害効果を示さない。ここでヒトPBLの5×105個を、PHA
2.5μg/mlで刺激し、72時間、前記2ペプチドの1つとインキュベートした。
表6に結果をまとめた。表6
ペプチド (100μg/ml) (250μg/ml) (250μg/ml)
SP 8 0 19
SP7-11 4 0 0
増殖阻害は、実際に発生していない。
実施例9.
終わりにあたる実施例では、とくに種々の抗原に起因する抗原特異的増殖を、
pepXによって阻害した印象的な粗データを紹介する。3種の試みから始めた
が、このうちの2つは、抗原に関して差異がある。すべての試みにおいて、細胞
に、20時間の3H(0.5
μCi/容器)による刺激を与えてから、標識化を48時間行なった。すべての試
みにおいて、そのつど量300μg/mlのpepX又はpepCを加えた(それぞれ
の刺激ペプチドに追加する)。
先ず最初の実験として、はしかウイルスを感染させたC3Hマウスから採取し
た脾臓細胞に、はしかウイルスであるヌクレオカプシドプロテインのT細胞免疫
優性エピトープを含むペプチドを加えて、脾臓細胞を刺激して増殖させた。共刺
激が、照射によって不活性化し、ペプチドを代表する脾臓の自己細胞に生じた。
はしかウイルスであるヌクレオカプシドプロテインのT細胞免疫優性エピトープ
をもつペプチドは、はしかウイルス特有なT細胞反応に対する主要抗原である。
その結果、すべてエピトープを認識した細胞が増殖する。pepXを添加した後
で放射能を測定すると148cpmに過ぎなかった。これに対してpepC添加後にお
ける放射能測定値は17363cpmであった。実験結果によるとpepXの増殖阻害効
果は、pepCに対して99.992%の値を示している。
2番目の実験として、はしかウイルスを感染させたC3Hマウスから採取した
脾臓細胞についてT細胞培養(CD8+)を行なった。IL2と免疫優性ペプチ
ド(最初の実験参照)を、交互に用いてこれに刺激を与えた。数周期の後にT細
胞系が樹立され、IL2による刺激又は免疫優性ペプチド(抗原)による刺激を
受けたT細胞系が増殖した。pepX添加後に放射能を測定すると67cpmに過ぎ
なかった。これに対してpepC添加後における放射能測定値は74524cpmであっ
た。実験結果によるとpepXの増殖阻害効果は、pepCに対して99.999%の
値を示している。
3番目の実験として、インフルエンザウイルスを感染させたC3Hマウスから
採取した脾臓細胞についてT細胞培養(CD8+)を行なった。IL2とインフ
ルエンザウイルスの免疫優性ペプチドを
、交互に用いてこれに刺激を与えた。数周期の後にT細胞系が樹立され、IL2
による刺激又はと免疫優性ペプチド(抗原)による刺激を受けたT細胞系が増殖
した。pepX添加後に放射能を測定すると90cpmに過ぎなかった。これに対し
てpepC添加後における放射能測定値は57053cpmであった。実験結果によると
pepXによる増殖阻害効果は99.998の値を示している。
すべて前記の実施例1〜9に挙げた細胞/細胞系は、個々に、常に10%FC
S(ウシ胎児血清)を含むRPMI 1640媒質(GIBCO/BRLより入手可能)の中で培養
した。
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(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
C07K 7/06 A61K 37/02
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
DK,ES,FI,FR,GB,GR,IE,IT,L
U,MC,NL,PT,SE),OA(BF,BJ,CF
,CG,CI,CM,GA,GN,ML,MR,NE,
SN,TD,TG),AP(GH,GM,KE,LS,M
W,SD,SZ,UG,ZW),EA(AM,AZ,BY
,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),AL,AM
,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BY,
CA,CH,CN,CU,CZ,DK,EE,ES,F
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,IS,JP,KE,KG,KP,KR,KZ,LC,
LK,LR,LS,LT,LU,LV,MD,MG,M
K,MN,MW,MX,NO,NZ,PL,PT,RO
,RU,SD,SE,SG,SI,SK,SL,TJ,
TM,TR,TT,UA,UG,US,UZ,VN,Y
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