【発明の詳細な説明】
光学活性な2-アミノテトラリン、その製法および該化合物を含有する敗血症性
ショックを予防または治療するための医薬組成物
本発明は、S(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メトキシテトラリン、その調製
方法および該化合物を活性成分として含有する医薬組成物に関する。
S(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メトキシテトラリンの遊離塩基およびその
薬学上許容される塩には、敗血症性ショックの治療活性を有する可能性がある。
敗血症性ショックは、グラム陰性およびグラム陽性の両方の細菌、原生動物、
ウイルスによる重篤な感染の結果として生じる臨床的な症候群であり、白血球増
加、発熱、頻脈、低血圧および腎臓、呼吸、心臓および肝臓不全に特徴付けられ
る。しかしながら、敗血症性ショックの重篤性は、その原因となる微生物の種類
に関係が無く(パリロ(Parillo,J.E.)、敗血症性ショックの病因メカニズム、ニ
ューイングランドジャーナルオブメディシン328:1471-1477、1993)むしろ毒性の
発作の原因となる剤に対する個々の炎症性応答の大きさに関与することは、特筆
すべきことである。
過去数年にわたっての、抗生物質による療法および集中治療室における治療プ
ロトコルの顕著な進歩にもかかわらず、敗血症性ショックは、入院患者の発病お
よび致死への主要な要因の一つである。実際に米国では、年間100,000人以上が
敗血症性ショックにより死亡していると推定されている(グラウザー,M.D.、ザ
ネッティ,C.G.、バウムガートナー,J.D.およびコーヘン,J.、敗血症性ショッ
ク:病因:ランセット338:732-736、1991)。
敗血症性ショックにおいて決定的で、そして最も影響のある要因は、溶菌物ま
たは微生物の代謝物から誘導される物質に対する生体の反応である。
かかる物質のなかで、最初に同定され、試験に非常によく用いられているのは
、リポポリサッカライド(LPS)であり、これは、グラム陰性菌の細胞壁に存在し
、化学的には細菌の種により異なるポリサッカライド部分と不変的な脂質部分(
リピドA)から成り、敗血症に罹患している主体の血液中にミセル体として検出さ
れ
る。実験動物にLPSを投与すれば、その動物にショックを引き起こす全ての心臓
および神経性症状を生じさせることができる(オルソン、N.C.、サルツァーW.L.
マッコールC.E.内毒素症における生化学、生理学および臨床上の問題、モレキュ
ラー・アスペクツ・メディシン10:511-629、1988)。従って、LPSは血液凝固の外
因性および内因性経路の活性化およびTNF、IL-1及びg-INFなどのサイトカインの
分泌を介して(ボーンRC、敗血症治療のための新薬の臨床評価、ジェイ・アム
・メド・アス(J.Am.Med.Ass266:1686-1691,1991)、臨床上認められる症候群を
生じさせる連鎖の反応の「原動力」とみなすことができる。
敗血症性ショック症候群の重要性が増加していること、その重篤性および現在
のところ適当な治療方法がないことから、この疾患の進行を有効に抑えることの
できる治療剤の早急なる開発が非常に望まれている。
前臨床段階において候補物質の敗血症ショックに対する保護作用を調べるため
に最も広く用いられている方法は、毒性物質(内毒素または外毒素)を実験動物に
直接接種するかまたは、感染細胞を動物に接種して、これにより大量に毒性物質
を放出させることによる中毒化を含む実験モデルである。
2-アミノテトラリンが敗血症ショックの治療に活性を有することは公知であ
る。EP-A-0 730861(引用形態にて本明細書の一部を成す)は本願発明と同一出願
人により出願されたものであるが、これは6,7-置換-2-アミノテトラリン類、特
にラセミ体化合物(R,S)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メトキシテトラリン(ST
626)を開示する。
現在、敗血症ショックに対してエナンチオマーS(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-
メトキシテトラリンはラセミ体である(R,S)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メト
キシテトラリン(ST626)と比して非常に強い活性を示すことがわかっている。
S(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メトキシテトラリンは、
構造;
を有する遊離塩基としても、
構造;
(式中、X-は薬理学上許容される酸の一価の陰イオンである)
を有する塩としても存在し得る。
S(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メトキシテトラリンの薬理学上許容できる
塩が意味するものは、好ましくない副作用を起こさない酸とのいずれかの塩であ
る。そのような酸は薬理学者や、調剤業および医薬技術における専門家によりよ
く知られている。
そのような塩の限定のない例は、クロライド、ブロマイド、オロテート、酸ア
スパルテート、酸シトレート、酸ホスフェート、フマレートおよび酸フマレート
、ラクテート、マレエートおよび酸マレエート、酸オキサレート、酸ソルフェー
ト、グルコースホスフェート、タートレートおよび酸タートレートである。
遊離塩基としての、または薬理学上許容できる塩としてのS(-)-2-アミノ-6
-フルオロ-7-メトキシテトラリンを調製する方法は、以下の反応スキームに例
証されている。式中X-は薬理学上許容できる塩の一価の陰イオンである。
方法は以下の段階を含む;
(a)L(+)-アスパラギン酸をCF3COOH中に懸濁し、冷トリフルオロ酢酸無
水物を(例えば-20℃で)加え、次いでその結果生じた混合物を反応が完結する
まで還流温度まで加熱することにより無水物1を調製する;次いでそれを乾燥状
態にし、残存物を溶解しない有機溶媒と共に撹拌することにより、残存物を繰り
返し洗浄する;
(b)加熱(40-60℃)しながら40-50時間AlCl3の存在下で激しく攪拌
しながら無水物1を過剰量の2-フルオロアニソール(1.5-3モル)と縮合させ
、酸2を得る。攪拌しやすいよう、溶媒(例えばCH2Cl2)を加えてもよい。こ
うして得られた固体をろ過除去し、冷却しながら(0℃-8℃)濃塩酸(例えば6M
)で処理し、酸の水相を溶媒(例えばエチルエーテル)で抽出し、有機相を乾燥状
態にし、化合物2を結晶化により精製する;
(c)CF3COOHで溶解し、得られた溶液を0-8℃に冷却し、過剰量のトリエ
チルシラン(例えば6M)を加え、反応が完結するまで(約4時間)注意深く混合物
を還流温度まで加熱することにより酸2を還元する。反応混合物を乾燥状態にし
、油性残存物をアルカリ性水溶液(pH10)で溶解し、不溶残存物をろ過除去し
、ろ過物を酸性化(pH3)し、生成物を沈殿溶媒(例えばCH2Cl2)で抽出
する;生成物を乾燥状態にし、結晶化により精製し、次いで化合物3を得る;
(d)不活性の無水有機溶媒中でフリーデル‐クラフト反応を経て、PCl5およ
びAlCl3と縮合させることにより、化合物3からテトラロン4を調製する;
(e)エーテル化ホウ素三フッ化物に懸濁し、0-8℃で過剰量のトリエチルシラ
ン(モル比:3-6)を加え、反応が完結するまで(60-90時間)室温で反応を進
行させることによりテトラロン4を還元する;アルカリ性水溶液(pH9)を加え
、溶媒で水相を抽出し、乾燥状態にし、結晶化により精製し、こうして化合物5
を得る;
(f)化合物5をアルカリ性水溶液で加水分解し、溶媒(例えばエチルエーテル)で
抽出し、乾燥状態にし、こうして得られたS(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メ
トキシテトラリン6を結晶化により精製する;
(g)所望によりテトラリンの塩(例えば塩酸塩)を得るために、有機溶媒(例えば
CH3OH、エチルエーテル)中で化合物6を可溶化し、所望のH+X-酸で酸性化
し、乾燥状態にし、任意に結晶化により化合物を精製する。
前記の反応スキームに関連して、本発明の化合物(塩酸塩として)の調製法を以
下に記述する。
実施例 S(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メトキシテトラリン塩酸塩(ST1214) の調製
a)S(-)トリフルオロアセチルアスパラギン酸無水物1の調製
L(+)-アスパラギン酸(100g;0.75モル)をトリフルオロ酢酸(300m
L)中に懸濁した;生じた懸濁液を攪拌し、氷/塩浴で-20℃に冷却した。トリ
フルオロ酢酸無水物(300mL;2.16モル)を攪拌しながらゆっくりと加えた
。次いで混合液を45℃で一晩注意深く還流した。
反応が終了したとき、混合物をエバポレーター中で完全に乾燥させ、固体の残
存物をヘキサンとともに攪拌しながら3回、各回でヘキサンをデカンデーション
により除去しながら洗浄した;残存物を再び完全に乾燥させた。最終的にヘキサ
ン-エチルエーテルと共に攪拌することにより残存物を摩砕し、生じた混合物を
ろ過し、残存物を真空下で乾燥させた。150gの化合物1を得た(95%収量)
。
M.P=140-142℃
[α]D=-40.7°(C=1%MetOH);分析:一致
b)S(+)-4-(3-フルオロ-4-メトキシフェニル)-4-オキソ-2(N-トリフル
オロアセチル)アミノ酪酸2の調製
S(-)-トリフルオロアセチルアスパラギン酸無水物(150g;0.712モル)
を2-フルオロアニソール(300mL;2.67モル)に懸濁し、生じた混合物を
激しく攪拌し、次いでそこへ無水塩化アルミニウム(240g;1.57モル)をゆ
っくりと少しずつ添加した。添加完了後、混合液を40-45℃で24時間激し
く攪拌し続けた。無水CH2Cl2およびさらに60gのAlCl3を添加し、反
応混合物をさらに48時間攪拌し続けた。
次いで固体の残存物を11のCH2Cl2と共に攪拌しながらすりつぶすことに
より処理した。過剰量のフルオロアニソールを含む塩化メチレンを分離した。固
体の残存物をろ過除去し、21の6MのHClを激しく攪拌しながら少しずつ添
加した。添加終了時に、混合物を30分間攪拌し続けた。次いで酸の相を繰り返
しエチルエーテルで抽出した。エーテル相を集め、水で洗浄し、無水Na2SO4
により乾燥させ、次いで乾燥状態にした。1:1AcOEt/ヘキサンから結晶
化された未処理の固体残存物を得た。188gの化合物2を得た(78.3%収量
)。
M.P=113-115℃
[α]D=+27.5℃(C=1%MetOH);分析:一致
c)S(+)-4-(3-フルオロ-4-メトキシフェニル)-2-(N-トリフルオロアセチ
ル)アミノ酪酸3の調製
化合物2(100g;0.297モル)をトリフルオロ酢酸(500mL)に溶解し
た。生じた溶液を0℃に冷却し、トリエチルシラン(300mL;1.89モル)を
そこへゆっくりと添加した。添加が完了した時、混合物をゆっくりとその沸点ま
で温め、沸点温度を4時間保った。次いで混合物をエバポレーター中で完全に乾
燥状態にし、残存物を2回エチルエーテルで洗浄した。各回で、混合物を乾燥状
態にし、完全にトリフルオロ酢酸を除去した。こうして得られた油性の残存物を
氷/塩浴で−20℃に冷却し、次いで4NNaOHでpHを10に調整したNa
HCO3飽和溶液と共に攪拌することにより処理した。最終アルカリ相を注意深
く0℃で、6NHClでpH3に酸性化した。繰り返しCH2Cl2で抽出した沈
殿を得た。有機体の抽出物を集め、少量の水で洗浄し、無水Na2SO4にて乾燥
させ、乾燥状態にした。油性の残存物を少量のエチル酢酸に溶解し、攪拌しなが
らヘキサンで沈殿させた。混合物を一晩攪拌し続け、ろ過し、残存物を乾燥させ
た。
72gの化合物3を得た(収量75%)。
M.P.=113-115℃
[α]D=+11.3°(c=1%MetOH);分析:一致
d)S(-)(N-トリフルオロアセチル)アミノ-6-フルオロ-7-メトキシ-1-テト
ラロン4の調製
化合物3(70g;0.217モル)を無水塩化メチレン(1400mL)に溶解し
た。生じた混合物を氷浴で0℃に冷却し、次いでPCl5(70g;0.336モル)
をゆっくりとそこへ添加した。添加終了時、混合物を0℃で2時間攪拌し続け、
-20℃に冷却した。混合物にAlCl3(56g;0.42モル)を少しずつ添加し
た。添加の後、混合物を2時間室温に置き、次いで注意深く沸点まで加熱し、沸
点温度を約6時間保った。混合物を次いで0℃に冷却し、破砕した氷(約300
mL)をそこへ少しずつ加え、過剰の反応物を無効にした。混合物を3回CH2C
l2で抽出した。有機相を集め、無水Na2SO4にて乾燥させ、乾燥状態にした;
少量のエチル酢酸に溶解させ、ヘキサンで抽出した黄色固体を得た。
40gの化合物1を得た(収量:60.4%)。
M.P.=184-185℃
[α]D=-55.4°(c=1%MetOH);分析:一致
e)S(-)-2-(N-トリフルオロアセチル)アミノ-6-フルオロ-7-メトキシテト
ラリン5の調製
化合物4(40g;0.131モル)を0℃でエーテル化ホウ素三フッ化物(34
0mL)に懸濁した。トリエチルシラン(90mL;0.567モル)を0℃で懸濁液
に添加し、生じた混合物を4日間室温に置いた。反応終了時にNaHCO3飽和
溶液(pH8-9)を反応混合液に添加し、水相を4回CH2Cl2で抽出した。
集めた有機相を水で洗浄し、無水Na2SO4にて乾燥させ、乾燥状態にした。
こうして得られた未処理の化合物をイソプロピルエーテルから再結晶化した。3
0gの化合物5を得た(収量:78.63%)。
M.P.=45-47℃
[α]D=-80°(c=1%MetOH);NMR:一致
f)S(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メトキシテトラリン塩酸塩(ST1214)
の調製
化合物5(30g;0.103モル)をK2CO3(54g;0.391モル)を含むメ
タノール(225mL)および水(225mL)に溶解した。生じた溶液を3時間攪
拌しながら還流した。メタノールを真空下で除去し、100mLの水を溶液に追
加した。有機相を集め、無水Na2SO4にて乾燥させ、ろ過し、乾燥状態にした
。こうして得られた油性の残存物をエチルエーテルに溶解し、HCl(エタノー
ル中15%溶液)で酸性化し、沈殿をろ過除去し、メタノール中に再溶解し、活
性チヤーコールで脱色し、ろ過し、真空下で濃縮させ、最終的にn-プロパノー
ルから結晶化した。
結晶化を2回繰り返し、12.6gの化合物7を得た。
(X-=Cl)(収量52.80%)
M.P.=263-265℃
[α]D=−52.5°(c=1%H2O)
本発明は、敗血症ショックの治療に効果的な薬剤を調製するための、遊離塩基
および薬理学上許容できる塩としてのS(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メトキ
シテトラリンの使用に関する。
本薬剤は、活性成分がS(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メトキシテトラリン
遊離塩基または薬理学上許容できるその塩であり、賦形剤の選択が薬剤業および
医薬技術のいかなる専門家にも明らかな薬理学上許容できる好適な賦形剤と混和
した、、経口または非経口投与のための医薬組成物として得る。経口投与型が、
敗血症ショックを防止するのに適する一方で、非経口投与組成物、特に静脈経路
を経て投与される組成物は、敗血症ショックの患者に対する投与のための選りす
ぐりの組成物である。
以下の薬理学テストは、敗血症ショックの実験モデルにおいて、本発明の組成
物S(-)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メトキシテトラリン塩酸塩(ST1214)
に関して得られた結果を、参考組成物(R,S)-2-アミノ-6-フルオロ-7-メト
キシテトラリン塩酸塩(ST626)と比較して示す。
これらの比較テストは、公知化合物ST626との比較において発明ST12
14の化合物の高い予防および治療活性を示し、また、化合物の好ましい薬理学
的側面にかかわると考えられる作用機構に関する解明をも提供する:血中および
組織TNFレベルの劇的な低下および抗炎症性のIL-10サイトカインのレベ
ルの懸著な増加を伴う血清NOの放出の劇的な低下。
BALB/cマウスにおけるリポポリサッカライドによる致死誘導に対するST626およ
びST1214の効果の評価(LPSは大腸菌O26:B6由来、またはS.typhosa(サルモネ
ラ・チホサ)由来)
動物
BALB/c近交系マウス(イッファ・クレド(Iffa Credo))、およそ7週令、を用い
た(1実験群にあたり20から40匹)。
実験方法
内毒素(LPS)チャレンジの30分前およびチャレンジの5分後に、ST626およびST1
214化合物をそれぞれ滅菌生理的食塩水に溶解し、6mg/kgの用量(LD50値の1/10)
を静脈内(i.v.)に投与した。使用の前に、LPS(大腸菌セロタイプ026:B6または.
S.typhosaいずれかの由来)を最初に滅菌生食に溶解し、次いで腹腔内(i.p.)へ
、用量10mg/kg(大腸菌LPS)及び23mg/kg(S.typhosa LPS)を、マウス体重(b.w.)1
0グラムあたり0.1mlの体積となる量として投与した。生存はLPSのチャレンジか
ら10日間、毎日観察し、各動物が死亡した日を記録した。
結果
二つの内毒素性ショックのモデルにおいてST626およびST1214について得られ
た結果を表1および2に示した。
化合物ST626は大腸菌またはS.typhosa LPSによる致死誘導を幾分抑制し、そ
れぞれ14%及び40%生存率を増加した。ST1214の効力は大腸菌由来のLPS誘導シ
ョックおよびS.typhosa由来のLPSショックに対してそれぞれ37%(p<0.002)およ
び65%(p<0.001)生存率が増加し、ST626より有効であった。
表1
大腸菌LPS(セロタイプ026:B6)によるマウスa致死誘導に対するST626及びST1214
のi.v.投与の効果
a=BALB/cマウス
b=LPSチャレンジに対する化合物の投与時間。
c=各実験群における、死亡マウス数/総マウス数
d=LPSコントロールからみた各治療群の、生存増加率(%)
e=統計的有意性、フィッシャーの片側確からしさ試験
表2
S.typhosa LPSによるマウスa致死誘導に対するST626及びST1214のi.v.投与の効
果
a=BALB/cマウス
b=LPSチャレンジに対する化合物の投与時間
c=各実験群における、死亡マウス数/総マウス数
d=LPSコントロールからみた各治療群の、生存増加率(%)
e=統計的有意性、フィッシャーの片側確からしさ試験
D-ガラクトースアミンで感作したBALB/cマウスにおけるリポポリサッカライドに
よる致死誘導に対するST626およびST1214の効果の評価(LPSは大腸菌セロタイプ
O26:B6、またはS.typhosa由来)
動物
近交系オスマウス(イッファ・クレド)、約7週令、を用いた(1実験群につき28-
30匹)。
実験方法
動物はD-ガラクトースアミン(100m/kg,i.p.)にて感作させ、同時に大腸菌のL
PS(0.05mg/kg,i.p.)を投与した、全投与量は200μlとした。この用量のLPSはD-
ガラクトースアミンで感作した動物におけるDL80にほぼ匹敵する。
ST626とST1214化合物は200μlの量の滅菌生食溶液として、6mg/kgの用量、即
ちLD50のほぼ1/10量、をチャレンジの30分前にi.v.投与した。2度目のi.v.投与
は内毒素の投与から5分後に行った。
LPSチャレンジ後、生存を10日間毎日観察し、それぞれの動物が死亡した日を
記録した。
結果
ST1214で処置したマウスの生存率増加は、ST626処置マウスの増加と比べてか
なり高かった(26%に対して11%)(表3)。
従って、毒性致死投与に対する生存という観点において、またD-ガラクトー
スアミン感作動物における内毒素により誘導されるショックのモデルにおいて、
ST1214投与はS626投与より明らかに有効である。
表3
大腸菌LPS(セロタイプ026:B6)によるD-ガラクトースアミン感作マウスa致死誘
導に対するST626及びST1214のi.v.投与の効果
a=BALB/cマウス
b=LPSチャレンジに対する化合物の投与時間
c=各実験群における、死亡マウス数/総マウス数
d=LPSコントロールからみた各治療群の、生存増加率(%)
e=統計的有意性、フィッシャーの片側確からしさ試験
BALB/cマウスに大腸菌由来LPSを投与した後の酸化窒素の血清レベルに及ぼすST6
26およびST1214の効果
動物
BALB/c近交系マウス(イッファ・クレド(Iffa Credo))、6-7週令、を用いた(l
実験群にあたり5から9匹)。
実験方法
実験に使用する前に、大腸菌内毒素(大腸菌セロタイプ026:B6由来LPS)を最初
に滅菌生食に溶解し、次いで腹腔内ルートにて、5mg/kgの用量を投与した。
ST626およびST1214は、8mg/kgの量を、LPSチャレンジ(0時)の5分後および30分
後にi.v.投与した。参考化合物であるアミノグアニジン(20mg/kg)による処置は
、ST626およびST1214と同一の手順にて、i.p.投与によって行った。
血液採取
ST626およびST1214の効果を評価するための試験においては、血液試料をLPSチ
ャレンジから20時間後、循環NOx(NOの安定な末端生成物である硝酸塩およ
び亜硝酸塩)量のピークが認められる時間に採取した。血液はエーテル麻酔下、
眼窩後腔(retro-orbitalsinus)から採取し、ヘパリン化した試験管に回収した。
試料を2000×gにて10分間遠心分離し、血漿をNOxアッセイに供するまで-80
℃で保存した。
NOxアッセイ
アッセイの前に、試料をに蒸留水にて1:3に希釈し、次いで限外濾過(ミリポ
アウルトラフリ-MC10,OOONMWLフィルター、カタログ番号UFC3LGC00)を、4700
×gにて90分間行った。濾液のNOx濃度はカブルー(Cabru)からの市販のキッ
ト(硝酸塩/亜硝酸塩アッセイキット、カタログ番号780001)を用いて測定した。
統計分析
データは両側スチューデントt試験を用いて解析した。
結果
ST1214をLPSチャレンジの5分および30分後に投与した群では顕著な(38%)そし
て有意な(p<0.01)血漿NOxレベルの減少が生じた(表4)。しかしながら、ST626
投与後の循環NOxの減少は、わずかであった(表4)。
表4
BALB/Cマウスにおける、大腸菌LPS投与後の血漿NOxレベル(μM)に及ぼすST6
26およびST1214の影響。化合物はi.v.投与(8mg/kg)にて、LPSチャレンジ(5mg/kg
,i.p.)の後5分、そして30分に投与した。アミノグアニジン(AG,参考化合物)
は腹膜内へ、ST626およびST1214と同じプロトコルにて投与した。aコントロール群に対する処置群の血漿NOxレベルの減少%
BALB/cマウスにおけるSalmonella typhosa由来LPSを投与により誘導された血漿I
L-10(インターロイキン10)レベルに及ぼすST626およびST1214の効果の評価動物
BALB/c近交系マウス(イッファ・クレド(Iffa Credo))、6週令、を用いた(1実
験群にあたり6から7匹)。
実験方法
サルモネラ・チホサ内毒素(LPS)は滅菌生食へ溶解し、次いで腹腔内ルートで
、15mg/kgの用量を投与した。化合物ST626およびST1214は、同様に滅菌生食に溶
解し、8mg/kgの用量を、LPSチャレンジの30分前および5分後にi.v.投与した。
血液採取
循環血中のIL-10の出現の時間経過を調べる目的の試験において、血液試料はL
PS投与後、各時間に採取した。ある物質を投与した際の効果を評価する試験にお
いては、血液試料をLPSチャレンジ後45分及び90分に採取した。血液はエーテル
麻酔下で眼窩後洞(retro-orbital inus)から採取した。血液試料は2時間室温に
おいて凝血させて血清と分離し、血清を2000×gにて20分間遠心分離した。血清
試料を-80℃にて保存し、IL-10アッセイに供した。
IL-10アッセイ
血清中のIL-10の濃度はネズミIL-10に対するELISAキット(ジェンザイム、マサ
チューセッツ州ボストン)を用い、製造元の指示に基づいて測定した。
統計分析
データは片側スチューデントt試験を用いて解析した。
結果
最初の試験は循環血中のIL-10遊離のカイネティクスを測定するために行った
。
実験データによれば、検出可能なIL-10レベルはS.thyhosa由来LPS投与の1時間
後という早い時期に発現した。今回の実験条件においては、IL-10のレベルは15m
g/kgのLPSチャレンジ後1.5時間でピーク値となった(図1)。
次の実験は、ST626とST1214を、毒物チャレンジ(時間0)の30分前および5分後
に投与した場合に、IL-10レベルの調節能を有するか否かを評価するために行っ
た。データによれば、LPS投与後90分における、LPS誘導性IL-10レベルが、ST121
4投与によりおよそ3倍増加した。反対に、ST626はLPS誘導性IL-10レベルに対し
、いかなる有意な影響も及ぼさなかった(図2)。LPSチャレンジ後45分におけるI
L-10レベルは全く影響を受けなかった、この点に対しては、45分の値が検出下限
ぎりぎりであったことを考慮にいれなくてはならない。興味深いことに、ST1214
単独では血清のIL-10レベルに対する直接の調節効果は無い。従って、ST1214処
置の後に認められる効果は、LPS惹起する通常シグナル伝達を妨害するST1214の
能力に基づくものであると考えられる。
S.typhosa由来LPSを投与したBALB/cマウスにおける血清TNF(腫瘍壊死因子)レベ
に及ぼすST626およびST1214の効果の評価
動物
BALB/c近交系マウス(イッファ・クレド(Iffa Credo))、およそ5-6週令、を用
いた(1実験群にあたり4から7匹)。
実験方法
内毒素(サルモネラ・チホサ由来LPS)は滅菌生食へ溶解し、次いで腹腔内ルー
トで、用量10mg/kgの用量を投与したが、この用量はDL80に匹敵する濃度である
。
化合物ST626およびST1214は、同様に生食に溶解し、8mg/kgの用量を、LPSチャ
レンジの30分前および5分後にi.v.投与した。
血液採取
チャレンジ後、45及び90分(すなわちTNFがピークレベルに達する時間)に血液
試料を採取した。血液は、エーテル麻酔下で眼窩後洞(retro-orbitalsinus)から
採取した。血液試料は2時間室温において凝血させて血清を分離し、次いで
血清を2000×gにて20分間遠心分離した。血清試料を-80℃にて保存し、サイト
カイン(TNF)活性を調べるアッセイに供した。
TNFアッセイ
TNFの生物活性をL929腫瘍セルライン(ネズミ繊維芽肉腫)、TNFの細胞傷害性
活性に対して非常に感受性の高いセルライン(V.ルジーオ、C.チアッパリノ、
S.マンガネーロ、L.パチェロ、F.フォレスタおよびE.アリゴーニ・マー
テリ、マウスにおける内毒素誘導性ショックに対する新規血小板活性因子受容体
アンタゴニストST899の効果(ショック、2,4:275-280、1994)、を用いて調べた
。詳しくは、L929細胞を、3.2×105細胞/mlの細胞密度にて10%ウシ胎児血
清含有RPMI-1640培地に分散し、平底96穴マイクロタイタープレートに播いた(10
0μl/ウエル)。37℃、5%CO2の条件下で18時間インキュベートした後、培養培
地を除き、血清試料の連続的希釈物(1%FCS添加RPMI1640培地にて希釈
)を添加した。最後に、アクチノマイシン-Dをウエルに最終濃度が1μg/mlとな
るように添加した(100μl/ウエル)添加した。このRNA転写の阻害剤はL929セルラ
インのTNF細胞毒性作用に対しての感受性を向上させる。さらに18から24時間イ
ンキュベートした後、細胞を新たに調製したImg/ml XTT(3'-[1-[(フェニルアミ
ノ)-カルボニル]-3,4-テトラゾリウム]-ビス(4-メトキシ-6-ニトロ)ベンゼン-ス
ルホン酸ナトリウム水和物)および125μMのPMS(フェナジンメソスルフェート)
の溶液にて染色した(N.W.ローム、G.H.ロジャース、S.M.ハットフィールドおよ
びA.L.グラサーブルック、「XTTテトラゾリウム塩を用いる、細胞増殖および生
存を調べるための改良染色アッセイ」ジャーナル・オブ・イムノロジカル・メソ
ッズ、142、257-265、1991)。細胞は、50μ/ウエルのXTT/PMS染色溶液を添加し
、2〜2.5時間インキュベートして染色した。染色後、各試料の450nm及び620nm(
参考吸光度)における吸光度を測定し、得られた値より、50%細胞毒性を誘導す
るのに必要な希釈の逆数であるTNFユニットを計算した。
統計分析
データは片側スチューデントt試験を用いて解析した。
結果
図3に示したように、ST1214はLPSチャレンジ後、45分の循環TNFレベルを有意
に減少させ(p<0.01)、そして90分後のレベル(即ち、TNF量がピークとなる時間
)をほとんど消失させた(p<0.001)。ST626もまた、LPS投与マウスにおける血清T
NFレベルを減少させたが、その減少率はST1214より少なかった(80%に対して99
%の減少)。さらに、ST1214もST626も単独ではLPS未処置マウスのTNFレベルを変
化させなかった。
LPS投与マウスから採取した異なる臓器におけるTNF-αmRNAレベルに及ぼすST626
およびST1214の効果
動物
BALB/c近交系マウス(イッファ・クレド(Iffa Credo))、およそ5週令、を用い
た(1実験群にあたり4匹)。
処置および臓器採取
ST626およびST1214は、LPSチャレンジの-30分および+5分にダブルi.v.投与(8m
g/kg)を行った。内毒素(S.typhosa由来LPS)は、23mg/kgの用量をi.p.投与した
、これはDL80に該当する量である。試験に供する臓器(肺、脾臓、肝臓および腎
臓)を即座に採取し、液体窒素中で凍結させ、RNA抽出まで-80℃にて保存した。
RNA抽出
RNAはセシウムクロライド密度勾配遠心分離による精製法(J.サムブルック、E.
F.フリッシュ、T.マニアティス、モレキュラークローニング:ア・ラボラトリー
・マニュアル第二版コールド・スプリング・ハーバー・ラボラトリー・プレス7.
3-7.79、1989)により単離した。簡単に述べると、臓器を9.5mlのグアニジンイソ
チオシアネート溶液(4M)中でホモジネートした。ライセートを4mlのセシウム
クロライド溶液(5.7M)上に積層し、174000×gの遠心分離に24時間かけた。こう
してRNAのペレットを得、得られたペレットを300μlの酢酸ナトリウム(0.3M、pH
6.0)に溶解し、次いで-80℃にて24時間、700μlの無水エタノールによって沈殿
させた。翌日、RNAを遠心分離し、乾燥させ、適当な量のジエチル-ピロカルボネ
ート-処置水に再懸濁させた。試料の純度を上げるため、抽出を等量の1:1フェノ
ール/クロロホルム溶液にて行い、次いで第二の抽出を等量のクロロホルムに
て行った。RNA濃度をスペクトル分光分析によつて調べ、その完全性をアガロー
スゲル電気泳動によって評価した。
逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)
一本鎖cDNAをベーリンガー・マンハイムより購入した市販のキットを用いて、
販売元の指示書に従って調製した。簡単に述べると、各全RNA試料(1μg)に20
ユニットの鳥類骨髄芽球症ウイルス逆転写酵素および1.6μgのオリゴ-dTプライ
マーを、最終体積が20μlとなるように添加した。試料を10分間、25℃にてイン
キュベートして、プライマーのアニーリングを開始させた。ポリメライゼーショ
ン反応を42℃にて2時間行わせ、100℃、5分間で酵素を変性させて反応を止めた
。各試料に80μlのH2Oを添加し、増幅させるまで-20℃に保った。こうして(上述
の方法により)得られたcDNA試料を、クローンテックのTNF-α特異的プライマー
を用いて製造元の説明書に基づいて増幅させた。簡単に説明すると、4μlの各試
料にTaqポリメラーゼ(2.5ユニット)、TNF-α特異的プライマー(0.4M)およびデ
オキシリボヌクレオチド類(0.2mM)を添加した。各サイクルが以下のステップか
らなる増幅反応を30サイクル行った。:
ステップ1:94℃にて45秒(変性)
ステップ2:60℃にて45秒(アニーリング)
ステップ3:72℃にて2分(ポリメライゼーション)
30サイクルを終了した後、試料を72℃にて7分間(伸長反応)保持した。
増幅した生成物を2.0%アガロースゲル上での電気泳動にて分離させ、デンシ
トメーターにて各バンド強度を分析した。全ての試料は構造遺伝子(β-アクチン
)に対しても増幅し、cDNA増幅生成物が異なる試料中でも、真に同一であること
を確認した。
各反応において、コントロールとして以下も同時に試験した:陽性コントロー
ル、陰性コントロール(反応バッファー単独)、及び逆転写酵素を含まない反応
によって得られたcDNA生成物。最後のコントロールは出発RNA試料内に存在する
ゲノムDNAを除外するために用いられる。cDNAの合成および増幅反応はジェネア
ンプPCRシステム(GENEAMP PCR SYSTEM)2400サーマルサイクラー(パーキンエル
マー)を用いて行った。
結果と結論
図4は異なる試料から得られたcDNAをTNF-αに対して増幅して得たバンドの濃
度分析データを示す。本図よりわかるように、ST1214処置動物における全ての臓
器(腎臓、脾臓、肺、肝臓)において、LPS単独投与群と比してmRNAレベルでのTNF
-α量の顕著な低下が認められた。デキサメサゾンは陽性コントロールとして用
い、その投与群におけるTNFαのmRNAの減少は明かにST626より高いものであると
示された。バンドの強度は、不定ユニットとして示し、構造遺伝子(β-アクチン
)の発現に基づいて基準化した。各実験において、反応バッファー単独の陰性コ
ントロール(Neg)および逆転写酵素を欠くコントロール(-AMV)を置い
た。従って、ST1214は各種臓器においてTNF-αのmRNA発現を阻止し、そして血清
中のTNFレベルを減少させると結論付けられる。ST626は同様にTNF-αのmRNA発現
を下方調節するが、この減少もST1214より低かった。