【発明の詳細な説明】
アルミニウム合金及び製造方法
本発明は、アルミニウム協会登録(Aluminum Association Register)の500
0シリーズの新規な合金に関する。この合金のインゴットは、車両での使用(用
途)のための成形部品に成形される圧延シートにすることができる。
Al−Mg(5XXX)タイプの非熱処理合金は、白色車体構造に成形するために
、自動車構造プレス物の用途に非常に適している。軟質焼なまし条件下(O−テ
ンパー)では、これらの合金は、複雑な構造プレス物を製造することを可能にす
る高い成形能を有することができる。車両製造中の次の熱処理[例えば、塗料−
焼付けオーブン(paint-bake ovens)]は、熱的力回復により、加工したままの強
度が減少してO−テンパー性質に近づく。よって、熱処理合金と違って、これら
の性質は、車両寿命を通して安定である、すなわち、人工時効は起きない。
合金AA5754は、非熱処理5XXXシリーズ合金(2.6−3.6%wt M
g)としてよく知られている。詳細は、表1にあるが、広く、自動車産業にとっ
て、非常に広いものである。Mgレベルは、完成品シートにおいて受け入れられ
る範囲の耐力値を維持するために厳密な範囲に制御されなければならない。また
、充分に成形能のある合金にするために、バージン精錬金属を必要とする低いS
iとFe(約0.08%wt Si及び約0.2%wt Fe)に通常基づいて
いる。そのような合金は、再溶解中に、SiとFeのレベルが増加して成形能が
減退するレベルをすぐに超えてしまうので、簡単に再利用できない。再利用でき
る合金が必要とされている。これは、自動車の大量生産での使用に予定される合
金に特に当てはまることである。精錬金属を要求する合金は、明らかに再利用で
きない。
従来の5XXXシリーズ構造用合金は、減少させたMg及びMn(AA5251
やAA5754のような)のために低い強度を有するか、同等/より大きい強度
を有して、粒間腐食や応力腐食割れに感受性であるか(AA5182のような)
のどちらかである。
本発明は、応力腐食割れに非感受性であり、成形能の点からみれば高いレベル
のSi及びFeに耐えるより高い強度の5XXXシリーズ合金をもたらす合金組成
と、製造工程の開発に関する。この合金の特徴は、高いレベルのSi及びFeを
含むことができるので、より再利用可能であることである。
一実施態様において、本発明は、wt%での合金の組成を提供する。:
Si 0.10−0.25好ましくは0.10−0.20
Fe 0.18−0.30好ましくは0.20−0.30
Cu 0.5以下好ましくは0.3以下
Mn 0.4−0.7好ましくは0.4−0.5
Mg 3.0−3.5
Cr 0.2以下好ましくは0.1以下
Ti 0.1以下
その他 各々0.05以下、合計で0.15
Al 残部
これは、相対的に高強度の合金である。;2.9wt%Mgを含有する標準A
A5754合金が90−95MPaと比較して、105−110MPaの0.2
%耐力を有する。
自動車における荷重受け構造の構成要素は、引張り成形と深絞りを含んでプレ
ス成形される。深絞りはしばしば最も重要な工程であり、高r値、すなわち高い
塑性歪み比を要求し、シートの平面においては均一であることが必要である。こ
の要求は、本発明の合金によって満たされる。
Mgは、合金において重要な固溶体強化添加物である。本発明の合金のMg含
有量は、比較的高い3.0−3.5%であり、増加した強度と成形能をもたらす
。けれども、もし、Mgレベルが非常に高くなれば、粒界での析出物Al6Mg5
の形成に関連した粒間腐食や応力腐食割れ(SCC)の問題が性能を制限する。
バッチ焼なまし用材料は、Mgの上限が3.3%に設けられている。連続焼なま
し溶体化処理(CASH)用材料は、Mg含有量が3.5%の量にまで上げられ
てもよい。
Mnは、0.4−0.7%の比較的高いレベルで、好ましくは0.6%以下で
、さらに好ましくは0.5%以下で存在する。合金の均質化は、付加的なディス
パーソイド強化を向上させるα−AlMnSiFe粒子の析出を起す。非常に高
いMnレベルは、粗大な金属中間相MnAl6の形成のため有害である。高密度
のディスパーソイドの高い密度は、Oテンパーの結晶粒サイズの微細化を生じ、
その結果強度を向上させる。
Cuは0.5%以下のレベルで、好ましくは0.3%以下で、より好ましくは
0.10%以下で存在できる。さらに高いレベルでは(すなわち0.3%以下)
、Cuは、塗料焼付けサイクル後に、重要な強度保持を起す。0.3%を超える
と、付加的利点は得られない。Cuは、再利用される屑中で、当然不純物である
。0.15%を超えるCuレベルは、高r値を有する合金をもたらすが、(加工
条件がかなりしっかりと制御されていなければ)そのシート(高Δr)の平面の
非常に明白な変形によって不利益となり得る。
Siは、0.10−0.25%で、好ましくは0.20%以下で存在し、強度
を向上させる。高Si及びMnは、驚くべきことに、シートのr値を改良するこ
と、及びシート平面における均一性(低Δr)を促進することが発見されている
。しかし、0.3%と同等のSi含有量は、減少した延性と減少した成形能をお
こす。
Feは、0.18−0.30%、好ましくは0.20−0.30%に特定され
る。Feは分散強化に寄与するが、高濃度では、成形能を低下させる。
Si及びFeレベルは、合金が、再利用金属から生産できるように設定される
。再利用は、装入原料におけるSi及びFeレベルを増加させる。それは又、C
u含有量も増加させる。本発明の新規な合金は、これらの不純物を許容するもの
である。
CrはMnと似た効果を有し、Mnの一部に置換して使用が可能である。好ま
しい(Cr+Mn)含有量は、少なくとも0.4%である。なるべくならCrは
合金に意図的には添加されない、すなわち、0.05%以下での付随的不純物と
してだけ存在する。
Tiは、結晶粒組織を微細化するために加えることができる。他の合金成分は
、各0.05%以下で、合計0.15%の低濃度で存在してもよい。意図的に添
加される成分は、Zn及びBを含む。他の成分は、通常、偶然の不純物としての
み存在するであろう。合金の残部は、Alである。
別の実施態様において、本発明は、記述した合金の圧延、焼きなましシートを
提供する。(缶貯蔵のための圧延シートは、圧延のままの厳しい条件で使用され
る)。次の段落で、圧延シートを製造するために使用された処理工程を述べる。
要求された組成の溶融金属は、鋳造技術は本発明にとって重要ではないけれど
も、典型的に直接チル鋳造(direct chill casting)によって、鋳造される。合金
のインゴットは、少なくとも500℃の相対的に高い温度で、好ましくは530
−580℃の、特に好ましくは550−580℃で、1−24時間の間、均質化
される。均質化は、好ましくはα−AlMnSiFe粒子の微細ディスパーソイ
ドの形成をもたらす条件下で行われる。もし、均質化温度が低すぎると、これは
、増加した均質化時間と共に成長を示す粗い針状析出物になる可能性がある。こ
れらの針状物は、圧延中に破壊されて組織中に空隙を生じ、かなり延性が減少す
る。充分に高い温度での均質化は、圧延中に分解しないような球状の析出物が形
成される。これらのディスパーソイドは、また、16時間まで及びそれ以上での
均質化時間で粒子サイズが比較的安定である。
均質化されたインゴットは、その後、熱間圧延及び冷間圧延され、双方とも従
来の条件下で行われる。冷間圧延中、中間焼きなましが選択的に行われ、バッチ
工程では300−400℃の温度が、又は、連続工程では400−550℃が好
ましい。中間焼きなましを採用したとき、最終冷間圧処理は、好ましくは40−
60%の範囲で、例えば約50%の厚さ減少になる。最終焼きなまし段階は、バ
ッチ工程では300−400℃で0.05−5時間、又は、連続工程では400
−550℃が好ましく、バッチ工程が基本に行われ、そうでなければ連続焼きな
まし溶体化処理を行う。焼きなまし条件は、完全に再結晶された結晶組織、すな
わち、組織を一掃する傾角結晶粒界によって組織を作るようにすべきである。そ
のような合金は、良好な成形能と、破壊までの大きい伸びを有する。
得られる圧延シートは、要求された性質の先に述べた組合せを有する、すなわ
ち高強度、応力腐食割れに対する非感受性、成形能の点から高レベルのSi及び
Feへの許容度である。このシートは、例えば、接着剤接合、溶接接合、あるい
は、例えば自動車の荷重受け構造のような構造物を形成するための機械的固定等
によって、共に結合されて、部品に成形するのに有用であろう。
実施例1で使用された合金は、下の表2に述べられている。これらのうち、S
TDは典型的なAA5754規格組成であり、1、2、3及び4は本発明による
ものである。
添付している図面を参照する。:
図1は、表1に記載した合金の鋳造と処理工程を示す。
図2から14の各々は、異なる合金又は異なる製造ルート間の特性を比較して
いる棒グラフである。
表2に示した組成を有する合金は、図1に設定された計画に従って、実験室内
で、DC鋳造され処理されて1.6mm厚み規格シートとされた。中間焼きなま
し及び最終バッチ焼きなましは、2時間、330℃で行われ、次いで、空冷され
た。シートは、次の試験(テスト)に供された。
i)オリエンテーション関数としての引張り試験パラメーター
ii)エリクセン値
iii)水圧膨張高さ及び平衡二軸歪みにおける厚さ破壊歪み(対数)
iv)平面歪み引張り限界歪み
v)オリエンテーション関数としてのr値
vi)R/t曲げ試験(R=内側曲げ半径、t=材料厚さ)
基準ASTM E8引張り試片が、3方向において、強度、UTS、均一性及
び全伸びの基準引張りデータを出すために使用された。そのデータから、歪み効
果指数値(n)が得られた。
エリクセン値は、押出し機とシート材料間の潤滑剤としてポリエチレンフィル
ムを用いて、標準試験手順と幾何計算を使って得られた。
膨張高さと厚さ破壊歪みは、175mmピッチ円加工されたドロービード部を
使用して、材料のシートを堅く締める水圧膨張試験機を使って測定された。シー
ト厚さは、超音波プローブを使って、材料の膨張後に測定され、それによって破
壊歪みが決定される。
平面歪み引張り限界歪みは、ナイフエッジの使用を介して引張り試片に横方向
拘束を起す取付具を使って決定された(参考技術:Sang H.,Nishikawa Y.,平面
歪み引張り装置(A Plane Strain Tensile Apparatus)J.Metals,35(2),1983
,pp30−33)。
r値は、JIS#5引張り試片を使い(50mm規格長さ、25mm幅)、増
加した幅がより精密な幅歪みを生じ、これによりr値が決定された。
R/t曲げ試験は、ASTM指定 E290 92により材料を曲げることに
よって行われた。この装置は、サンプルを約150°に曲げるのに使用され、そ
の後、万力でサンプルは180°の曲げ圧迫された。曲げ加工物の外側表面
は、その後、試験的に用いた異なる半径でのオレンジピール/割れの形跡を調査
した。
さらに、基準ASTM E8引張り試片を、2%と5%の歪みに引張り、その
後、30分間180°の標準塗料焼付けサイクルに供し、0.15wt%までの
Cu添加物が、塗料焼付けサイクル後に重要な強度保持を起すかどうか評価した
。
応力腐食割れ(SCC)感受性は、低歪み速度試験(1×10-7/秒)によっ
て評価された。試片は20%予備的に引張され、異なる時間で、150℃で感受
性化処理を続いて行い、その後、乾燥条件と塩/過酸化物溶液(3%NaCl、
0.3%H2O2)浸漬の双方の下で試験した。それぞれの試験で破壊に至る伸び
が記録され、乾燥に対する潤れの性能の比として個々の条件についてプロットさ
れた。割合は、SCCに対する非感受性を示す。
540℃での均質化は、鋳造インゴットに針状析出物を作り、560℃のより
高い温度では球状析出物を形成した。この球状析出物は、その温度での16時間
までの均質化時間を超えて粗大化に非常に抵抗性があった。
冷間圧延後、高CuSi合金4の粒径は基準合金におけるよりも細粒化され、
より高い圧下率はより細粒な粒径になった。低温度均質化はより細かい粒径(図
2)を生じた。
合金の耐力と引張り強度を図3と4において比較する。合金1と基準合金ST
Dを比較すると、より高いレベルのMgとMnの強化の効果が表れている。また
、図5と6において、SiとFeの増加したレベルにも拘らず、成形能を最低限
の低下で成し遂げられている。
エリクセン試験データは図7に示す。水圧膨張高さデータと膨張厚さ破壊歪み
データは、それぞれ図8と9に示す。1の性質は、2、3及び4のものよりも明
らかに優れている。
図10と11で、シートのr値を比較する。1と3は、高r値と、シート平面
のほとんどない変化(Δr)との最高の組合せを有する。Cu含有合金は、より
高い平均r値を有するが、シート平面においては、非常に顕著な変化(Δr)を
有する。
図12及び13は、それぞれ縦方向にR/t曲げ試験データ、及び横方向にR
/t曲げ試験データを示す。実施例2 応力腐食割れバッチ及び連続焼きなましシート
応力腐食割れが、商業用ミルで圧延され処理された合金について測定された。
応力腐食割れは粒界上のAl6Mg5の連続フィルムの析出によって生じ、この作
用は、合金のSi含有量又はMn含有量とは実質的に別個のものである。それゆ
え、試験合金におけるこれらの元素の総量は、得られた結果と実質的に無関係で
ある。重要な元素はMgである。
合金5及び6の組成と製造工程を以下に示す。:合金
5.3.49%Mg、0.59%Mn、0.06%Si、0.22%Fe
6.3.44%Mg、0.63%Mn、0.15%Si、0.19%Fe製造ルート
次の工程により商業用ミルで圧延された合金5のバッチ焼きなましと連続焼き
なましとを比較した。:
DC鋳造 600mmインゴット
550℃、9時間の均質化
4.2mmへの熱間圧延(自己焼きなまし再圧延)
最終規格1.6mmへの冷間圧延
(1)バッチ焼きなまし(BA)、330℃まで50℃/Hrで加熱及び2時間
浸漬するか、又は、
(2)450℃最高金属温度で連続焼きなまし(CAL)と強制空冷するか、の
いずれか。
SCCに対する感受性の評価がなされた。比較した金属は4.5%Mg含有商
用AA5182合金、STDに近い組成を有する商用AA5754バッチ焼きな
まし合金及び実施例1の合金1であった。
バッチ焼きなまし後のこれらの合金の耐応力腐食割れ性を図14に示した。バ
ッチ焼きなまし3.25%Mg合金は、良好な耐応力腐食性を有するが、同様に
処理した3.49%と3.44%Mgを含有する合金5と6は、耐応力腐食割れ
性の著しい低下を示す。しかしながら、連続焼きなまし合金5は、改良された耐
応力腐食割れ性を示し、連続焼きなまし合金6でも同様であると信じられる。実施例3 別の合金
Al合金7はwt%で次の組成を有する。
Mg 3.41
Mn 0.45
Fe 0.244
Si 0.14製造ルート
インゴット 予加熱−540℃
3.5mmへの熱間圧延(再圧延厚み)
1.6mmへの冷間圧延(最終厚み)
冷間圧下率 54%
最終焼きなまし 340℃性質
0.2%降伏応力(MPa)
縦方向 114
45° 109
横方向 113
全伸び(%)
縦方向 20.1
45° 24.5
横方向 24.1
成形能(深さ/高さ、mm)
10cm引張り 32
20cm平面歪み 26
2軸 42
r/t曲げ
縦方向 0.12
横方向 0.06
エリクセンドーム高さ(mm) 9.6
精錬金属よりもむしろ、再利用金属から製作される合金にとって、これらの性
質は満足なものである。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】平成10年12月24日(1998.12.24)
【補正内容】
請求の範囲
1. wt%で、
Si 0.10−0.25好ましくは0.10−0.20
Fe 0.18−0.30好ましくは0.20−0.30
Cu 0.5以下好ましくは0.3以下
Mn 0.4−0.5
Mg 3.0−3.5
Cr 0.2以下好ましくは0.1以下
Ti 0.1以下
Zn 0.05以下
B 0.05以下
不可避的不純物 各0.05以下、合計で0.15
Al 残部
の組成の合金。
2. 請求の範囲1の合金の圧延され、焼きなましされたシート。
3. 鋳造、均質化、熱間圧延、冷間圧延、任意の中間焼きなまし、最終冷間圧
延及び最終焼きなましの工程からなる請求の範囲2のシートを製造する方法。
4. 鋳造がDC鋳造であり、均質化が500−580℃であり、任意の中間焼
きなましが、300−400℃でのバッチ操作又は400‐550℃での連続操
作のどちらかであり、最終冷間圧延が40−60%圧下率までであり、最終焼き
なましが、300−400℃でのバッチ操作又は400‐550℃での連続操作
のどちらかである請求の範囲3で請求した方法。
5. 合金が再利用金属から成る請求の範囲4で請求した方法。
6. 均質化が530−580℃で行われる請求の範囲4又は5で請求した方法
。
7. 合金が3.0−3.3%のMgを含有し、最終焼きなましがバッチベース
で行われる請求の範囲4から6のうち何れかひとつで請求した方法。
8. 合金が3.2−3.5%のMgを含有し、最終焼きなましが連続で行われ
る請求の範囲4から6のうち何れかひとつで請求した方法。
9. 請求の範囲2のシートから作成された車両構造部品。
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フロントページの続き
(51)Int.Cl.7 識別記号 FI テーマコート゛(参考)
C22F 1/00 691 C22F 1/00 691B
694 694A
(72)発明者 ゲイテンビー,ケビン・マイケル
カナダ、ケイ7ピー・1エム5、オンタリ
オ、キングストン、オールド・コロニー・
ロード1084番
(72)発明者 ブル,マイケル
アメリカ合衆国48116ミシガン州ブライト
ン、シカモア・トレイル9387番