【発明の詳細な説明】
オーディオ信号処理回路を有するオーディオシステム
技術分野
本発明は、オーディオ信号を処理する回路を有するオーディオシステムに係り
、該回路が上記オーディオ信号を入力する入力端子と、出力信号を出力する出力
端子と、上記入力端子に結合されて上記オーディオ信号の高調波を発生する高調
波発生器と、上記入力端子及び高調波発生器に結合されて上記オーディオ信号と
発生された高調波との和を上記出力端子に供給する加算手段とを有するようなオ
ーディオシステムに関する。
また、本発明はオーディオ信号を処理する回路、高調波発生器及びオーディオ
信号を処理する方法にも関する。
背景技術
冒頭にのべたオーディオシステムは、ヨーロッパ特許出願第EP-A546619号から
既知である。ダイナミックスピーカの発明以来、特に低い周波数におけるより大
きな音響出力に対する要求が存在している。しかしながら、しばしば、例えばテ
レビジョン装置又はポータブルオーディオ装置においては、このようなオーディ
オ出力がスピーカの小寸法により大きく制限されている。このジレンマは、しば
しば仮想音高(virtual pitch)又は無基本波(missing fundamental)と呼ばれ
る音響心理学的現象により解決することができることが知られており、該現象は
、スピーカが低い周波数においてより大きな出力を放出していない際にも大きな
低音応答の錯覚を引き起こすというものである。この錯覚は、当該オーディオ信
号内には存在するが小さなスピーカによっては再生することができないような低
周波音を、これら音の高調波により置換することにより生じさせることができる
。この場合、これら高調波が上記低周波音を表すことになる。
上記既知のオーディオシステムにおいては、オーディオ信号の低周波帯域が選
択されると共に、該選択された信号の高調波を発生するために高調波発生器に供
給される。発生された高調波は、その後、当該オーディオ信号に加算される。こ
のようにして、当該オーディオ信号の低周波の知覚が改善される。該既知のオー
ディオシステムにおいては、全波整流器が上記高調波発生器として使用されるが
、該発生器は偶数高調波のみを発生する。該既知のオーディオシステムにより再
生される幾つかの低周波音は、人間により、当該オーディオ信号内に存在する対
応する低周波音の音の大きさよりも一層大きな音の大きさを有していると知覚さ
れてしまう。
発明の開示
本発明の目的は、知覚される低周波音の音の大きさが元のオーディオ信号中の
対応する低周波音の入力された音の大きさに略等しくなるようなオーディオシス
テムを提供することにある。この目的は、前記高調波発生器が発生される高調波
の振幅を制限するように構成されているような本発明によるオーディオシステム
において達成される。実験は、このような対策により、低周波音の知覚される音
の大きさを正確に制御することができ、これにより該知覚される音の大きさを、
元のオーディオ信号における対応する低周波音の入力された音の大きさと略等し
くすることができることを示した。
本発明によるオーディオシステムの一実施例は、前記高調波発生器が、前記振
幅が敷居値と交差した場合に上記の発生された高調波の振幅を固定するように構
成されていることを特徴とする。このようにして、この実施例は、発生された高
調波の振幅の所望の制限を簡単且つ有利に実現する。
本発明によるオーディオシステムの他の実施例は、前記高調波発生器が前記オ
ーディオ信号を整流する整流器を有することを特徴とする。この対策は、上記高
調波が簡単且つ効果的な方法で発生されるのを可能にする。
図面の簡単な説明
本発明の上記目的及び特徴は、添付図面を参照してなされる好ましい実施例の
下記の説明からより一層明確になるであろう。添付図面において、
第1図は、本発明によるオーディオシステムのブロック図を示す、
第2図は、本発明によるオーディオ信号を処理する回路のブロック図を示す、
第3図は、本発明に使用する高調波発生器のブロック図を示す、
第4図は、本発明に使用することができる積分器の第1実施例を示す、
第5図は、本発明に使用される回路を示し、該回路においては積分器とリセッ
ト手段とが組み合わされている、
第6図及び第7図は、本発明に使用する積分器の第2及び第3実施例を各々示
す、
第8図及び第9図は、本発明に使用することができるリミタの第1及び第2実
施例を各々示す、
第10図は、本発明に使用する高調波発生器に供給されるサイン状入力信号に
応答して発生される種々の波形a〜gの図を示す、
第11図は、本発明による高調波発生器に使用する整流器の一実施例を示す、
第12図は、本発明に使用するリミタの第3実施例を示す、
第13図は、本発明による高調波発生器に供給されるサイン状入力信号に応答
して発生される種々の波形b〜dの図を示す。
尚、各図において、同一の部分には同一の符号を付してある。
発明を実施するための最良の形態
第1図は、本発明によるオーディオシステムのブロック図を示す。該オーディ
オシステムは信号源10を有し、該信号源は回路12及び増幅器14を介してス
ピーカ16に結合されている。信号源10は、その信号をCD、カセット若しく
は受信した信号又は他のオーディオ源から導出することができる。回路12は信
号源10から供給された信号を、当該オーディオ信号中には存在するがスピーカ
16の限られた大きさのために該スピーカ16によっては再生することができな
いような低周波音が、これら音の高調波により置換されるように、処理する。ス
ピーカ16により再生することができる、これらの高調波は、大きな低音応答の
錯覚を引き起こす。この音響心理学的現象は、しばしば、仮想音高又は無基本波
と呼ばれている。回路12により処理されたオーディオ信号は、その後、増幅器
14により増幅される。この増幅された信号は、次いで、スピーカ16により再
生される。
第2図は、本発明によるオーディオ信号を処理する回路12のブロック図を示
す。該回路12は、オーディオ信号を入力する入力端子20と、出力信号を出力
する出力端子26とを有している。該回路12は、更に、入力端子20に結合さ
れた高調波発生器22と、入力端子20及び高調波発生器22に結合されて上記
オーディオ信号と高調波発生器22の出力信号との和を出力端子26に供給する
加算手段24とを有している。
オーディオ信号を処理する回路12においては、入力端子20と高調波発生器
22との間に第1のフィルタを挿入することができる。好ましくは、この第1の
フィルタは当該オーディオ信号中のスピーカ16によっては再生することができ
ないような低周波成分は通過させるが、同時に当該オーディオ信号中のスプリア
ス直流成分は阻止するように構成されるものとする。また、回路12には高調波
発生器22と加算手段24との間に第2のフィルタを挿入することもできる。こ
の第2のフィルタにより、スピーカ16により再生される高調波の数を制御する
ことができる。更に、回路12には入力端子20と加算手段24との間に第3の
フィルタを挿入することができる。好ましくは、この第3のフィルタは当該オー
ディオ信号中の上記スピーカによっては再生することができないような低周波成
分を阻止し、これによりスピーカ16の過負荷を防止するために使用される。
第3図は、本発明に使用するための高調波発生器22のブロック図を示してい
る。該高調波発生器22は、オーディオ信号を入力する入力端子30と出力信号
を出力する出力端子38とを有している。該高調波発生器22は、更に、積分器
34と、該積分器に結合されたリセット手段36とを有している。積分器34は
、入力端子30により入力された上記オーディオ信号を積分し、該積分された信
号を出力端子38に供給する。リセット手段36は、積分器34をリセット時に
リセットするように構成される。このようにして、上記出力信号は奇数及び偶数
の両方の高調波を有し、これら高調波の振幅は互いに略等しくなる。更に、発生
される上記高調波の振幅は当該オーディオ信号の振幅に比例するので、該高調波
発生器22によってはいやな歪みが導入されることはない。
上記リセット時は、リセット手段36により多数の異なる方法で決定すること
ができる。リセット手段36は、リセット時を当該オーディオ信号の幾つかの特
性、例えば周期、振幅又は零交差等に依存して決定することができる。リセット
手段36は、前記出力信号の同様の特性に依存してリセット時を決定することも
可能である。更に、リセット手段36は、リセット時を、上記オーディオ信号と
出力信号との両方に依存して決定することもできる。本発明による高調波発生器
22の特別な実施例においては、接続部35及び37の一方のみ又は両方が存在
することが明らかであろう。
該高調波発生器22は、更に、整流器32を有することができ、該整流器は入
力端子30により入力されるオーディオ信号を整流する。整流された信号は、次
いで、積分器34により積分される。高調波発生器22の他の実施例では、該高
調波発生器22は整流器32のみを有する、即ち、この場合は積分器34及びリ
セット手段36は削除される。
第4図は、本発明に使用することができる積分器34の第1実施例を示してい
る。該積分器34は、入力信号を入力する入力端子40と、出力信号を出力する
出力端子52とを有している。該積分器34は、更に、正側入力端子が接地され
た演算増幅器50を有している。抵抗48、コンデンサ46及びスイッチ44は
、互いに並列に配置されると共に、演算増幅器50の負側入力端子を該増幅器の
出力端子に結合している。該演算増幅器50の負側入力端子は抵抗42を介して
前記入力端子40にも結合されている。また、該演算増幅器50の出力端子は当
該積分器34の出力端子52に結合されている。スイッチ44はリセット信号R
STにより制御され、該リセット信号は前記リセット手段36により、リセット
時に該スイッチ44が閉成されるように、発生される。
当業者とっては、上記入力端子40に供給された入力信号が該実施例の積分器
34により積分され、これにより積分された信号が出力端子52に供給されるこ
とは明らかであろう。上記スイッチ44が閉成されると、該積分器はリセットさ
れる、即ち、コンデンサ46が放電され、出力信号が零にリセットされる。
第5図は、本発明に使用するための回路を示し、該回路においては積分器34
とリセット手段36とが組み合わされている。該回路は入力信号を入力する入力
端子64と出力信号を出力する出力端子66とを有している。該回路は、更に、
上記入力信号を積分するために必要な第4図の各構成要素、即ち、抵抗42及び
48、演算増幅器50並びにコンデンサ46を有している。スイッチ44はトラ
ンジスタ62を用いて構成されている。このトランジスタ62のベースはインバ
ータ60を介して前記入力端子64に結合されているので、該トランジスタ62
は前記入力信号が負の場合に導通する(即ち、スイッチ44が閉成され、該積分
器がリセットされる)。一方、上記入力信号が正の場合は、トランジスタ62は
導通しない、即ち、スイッチ44は開成される。
本発明による当該オーディオシステムにより再生される幾つかの低周波音は、
人間により、当該オーディオ信号中に存在する対応する低周波音の音の大きさよ
りも一層大きな音の大きさを持っているように知覚される。この不所望なアーチ
ファクトを補償するために、積分器34は積分された信号の振幅を制限するよう
に構成することができる。このようにして、低周波音の知覚される音の大きさを
、好ましくは、該知覚される音の大きさが元の音の大きさと略等しくなるように
、制御することができる。
第8図及び第9図は、例えば第4図及び第5図に示すような積分器34の出力
信号の範囲を制限するために使用することができるリミタの第1及び第2実施例
を、各々、示している。第8図及び第9図において、当該リミタは反転増幅器を
有し、該反転増幅器は入力端子90、出力端子102、演算増幅器100並びに
2つの抵抗92及び98からなっている。この反転増幅器の電圧利得の絶対値は
、抵抗98の抵抗値を抵抗92の抵抗値で除算したものに等しい。第8図のリミ
タにおいては、抵抗98に並列に配置された2つのダイオード94及び96が、
当該反転増幅器の出力信号が或る電圧限界を超えるのを防止する。演算増幅器1
00の正側入力端子は接地されているので、上記負側入力端子における電圧も零
である(仮想接地点)。このように、ダイオード94は上記出力信号が負の場合、
即ち入力端子90により入力される入力信号が正の場合に、導通する。同様にし
て、ダイオード96は上記出力信号が正の場合、即ち、上記入力信号が負の場合
に導通する。このようにして、シリコンダイオードを使用する場合は、上記出力
信号の範囲は約−0.6ボルトと+0.6ボルトとの間に制限される。
第9図のリミタにおいては、当該反転増幅器の出力信号が或る電圧限界を超え
るのを防止する役割が2つのツェナーダイオード110及び112により果たさ
れる。ここで、ツェナーダイオード110は上記出力信号が正の場合に導通し、
ツェナーダイオード112には該出力信号が負の場合に導通する。このようにし
て、上記出力信号の範囲は、略、ツェナーダイオード110の反転されたツェナ
ー電圧とツェナーダイオード112のツェナー電圧との間に制限される。
第8図及び第9図に示すリミタは、例えば、第4図に示すような積分器34に
結合することができる。この結合は、例えば、積分器34の出力端子52が当該
リミタの入力端子90に接続され、これにより積分器34の出力信号を制限する
ように、実施することができる。また、当該リミタの出力端子102を積分器3
4の入力端子40に結合して、積分器34の入力信号を制限するようにすること
も可能である。更に、当該リミタの機能を積分器34の機能と組み合わせること
も可能である。このような組合せの2つの例が第6図及び第7図に示されている
。第6図は、第8図のリミタと、第4図に示す積分器34との組合せを示す。ま
た、第9図のリミタと第4図に示す積分器34との組合せが、第7図に図示され
ている。
例えば第4図に示す積分器34は、積分時定数を積分される信号の振幅に依存
して適応化させるように構成することもできる。この対策により、積分される信
号の振幅は徐々に制限され、これにより低周波音の知覚される音の大きさの滑ら
かな制御が可能となる。この積分時定数の適応化は、抵抗42の抵抗値及び/又
はコンデンサ46の容量を変化させることにより達成することができる。抵抗4
2の実効抵抗値は、例えば、該抵抗42に1以上の抵抗を直列に又は並列に切換
接続することにより変化させることができる。また、コンデンサ46の実効容量
は、例えば、該コンデンサ46に1以上のコンデンサを直列に又は並列に切換接
続することにより変化させることができる。
第10図は、本発明による高調波発生器22に供給されるサイン状入力信号に
応答して発生される種々の波形a〜gの体裁が整えられた図を示している。これ
らの図において、上記入力信号は実線で示され、発生された波形は点線により示
されている。第10図の波形aは、本発明による高調波発生器22であって、上
記入力信号が積分される前に整流され、これにより積分器34が該入力信号の各
周期の終了時点でリセット手段36によりリセットされるような高調波発生器に
より発生することができる。波形b及びCも同様なやり方で高調波発生器22に
より発生することができ、ここで、波形bの場合は積分器34が上記入力信号の
各第2周期の終了時点でリセットされ、波形Cの場合は積分器34が上記入力信
号の各零交差時点でリセットされる。波形dも高調波発生器22により発生する
ことができるもので、該高調波発生器22は第5図に示すような積分器34とリ
セット手段36との組合せを有している。この場合、高調波発生器22は整流器
32を有していない。
第10図の波形e、f及びgは、本発明による高調波発生器22により、波形
aについて上述したのと同様のやり方で発生することができる。波形eは、積分
される信号の振幅に依存して積分が停止されるように構成された高調波発生器2
2により発生される。ここで、該高調波発生器22は第6図及び第7図に示すよ
うな積分器34、又は第4図に示す積分器34と例えば第8図及び第9図に示す
ようなリミタ回路との組合せを有することができる。
波形f及びgは、積分器34による積分時定数の適応化を示している。波形f
を発生するには、積分器34の積分定数は入力信号の各周期の間に1回適応化さ
れ、該適応化は例えば積分される信号の振幅又は周波数に依存するようにする。
波形gも同様のやり方で発生することができ、その場合、積分器34は入力信号
の各周期の間に2回適応化される。勿論、積分器34は積分時定数の3回以上の
適応化がサポートされるように構成することもできる。
第11図は、本発明による高調波発生器に使用するための全波整流器の一実施
例を示している。既知の該実施例は、入力信号を入力する入力端子200と出力
信号を出力する出力端子220とを有している。該実施例は、更に、5つの抵抗
202、204、208、214及び216と、2つのダイオード210及び2
12と、2つの演算増幅器206及び218とを有している。入力信号が正の場
合は、ダイオード210が導通する一方、ダイオード212は導通せず、結果と
して正の出力信号が得られる。入力信号が負の場合は、ダイオード210は導通
しないが、ダイオード212が導通し、結果として正の出力信号が得られる。如
何なる入力信号に対しても、上記出力信号は入力信号の絶対値に比例する。
第12図は、本発明に使用するためのリミタの第3実施例を示す。既知であり
、しばしばダイオードクランプと呼ばれる該回路は、入力信号を入力する入力端
子230と、出力信号を出力する出力端子246と、基準電圧Vrefを供給する
ための基準接続点244と、抵抗240と、ダイオード242とを有している。
この回路において、ダイオード242は上記出力信号の振幅が、Vref+0.6ボ
ルトに略等しい電圧限界を超えるのを防止する。当業者にとっては、この実施例
のリミタが本発明による高調波発生器22に種々の異なる態様で使用することが
できることが明らかであろう。例えば、当該ダイオードクランプの入力端子23
0は整流器32の出力端子220又は積分器34の出力端子52に接続すること
ができ、これにより出力信号を制限するようにする。また、該ダイオードクラン
プの出力端子246を整流器32の入力端子200又は積分器34の入力端子4
0に結合し、これにより入力信号を制限するようにすることもできる。
第12図に示すリミタは、例えば第4図に示す積分器34に結合することがで
きる。この結合は、例えば、積分器43の出力端子52が該リミタの入力端子2
30に接続され、これにより積分器34の出力信号を制限するように、実施する
ことができる。また、当該リミタの出力端子246を積分器34の入力端子40
に結合して、積分器34の入力信号を制限するようにすることも可能である。
第13図は、本発明による高調波発生器に供給されるサイン状入力信号に応答
して発生される種々の波形b〜dの図を示している。第13図の図aには、該入
力信号が図示されている。第13図の波形bは本発明による高調波発生器22に
より発生することができるもので、発生される波形bの振幅が制限されている。
波形cは、整流器32を有する高調波発生器22により発生することができる。
第13図の波形dは、本発明による高調波発生器22により発生することができ
るもので、入力信号は積分される前に整流され、高調波発生器22は発生される
波形dの振幅を制限している。
当業者にとっては、上述した発明に対して該発明の基本原理から逸脱すること
なく種々の変更をなすことができることは自明であろう。例えば、本発明による
主体において実施される信号処理は、専用の集積回路により又はプログラム可能
なプロセッサ上で動作するソフトウェアにおいて実施することもできる。更に、
例えば第4図に示す積分器34において、抵抗48は削除することができる。ま
た、高調波発生器22の出力信号の振幅の所望の制限は入力信号又は出力信号の
或る乗算係数による乗算によっても達成することができる。