JP2001335398A - 光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶およびその製造方法 - Google Patents

光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶およびその製造方法

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JP2001335398A
JP2001335398A JP2000153045A JP2000153045A JP2001335398A JP 2001335398 A JP2001335398 A JP 2001335398A JP 2000153045 A JP2000153045 A JP 2000153045A JP 2000153045 A JP2000153045 A JP 2000153045A JP 2001335398 A JP2001335398 A JP 2001335398A
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Shigeru Sakuma
繁 佐久間
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 大口径(φ300(mm)以上)であって、屈折
率均質性や複屈折等の光学特性に優れ、特に、波長20
0nm以下の光リソグラフィに使用可能な光リソグラフ
ィ用蛍石単結晶の製造方法の提供。 【解決手段】 蛍石単結晶を1020℃〜1150℃の
範囲にある第1の温度(1080℃)に所定時間保持し
た後、第1の温度(1080℃)から第2の温度(70
0℃以下)まで1.0(℃/時間)以下の冷却速度で降
温する。このような熱処理を行うことにより、光学特性
に優れた光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶を得ること
ができる。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、KrFエキシマレ
ーザ,ArFエキシマレーザおよびF2レーザ等を用い
た各種機器の光学系、特に、波長200nm以下の光リ
ソグラフィ装置における光学系に好適な、大口径で光学
特性が良好な蛍石(CaF2)単結晶、および、その製造方
法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、シリコン等のウェハ上に集積回路
の微細パターンを露光・転写する光リソグラフィ技術に
おいては、ステッパと呼ばれる縮小投影露光装置が用い
られている。近年、LSIの高集積化に伴って加工線幅
がより微細になりつつある。例えば、DRAMの場合に
は1Gと容量が増大するとともに加工線幅も0.18μ
mとなり、より波長の短いKrFエキシマレーザ、Ar
FエキシマレーザやF2レーザがステッパの光源として
用いられつつある。そのため、光リソグラフィ技術の要
であるステッパの投影レンズには、高い結像性能(解像
度、焦点深度)が要求されている。
【0003】露光波長λが同一の場合には、細かいパタ
ーンほど回折光の角度が大きくなるので、レンズのNA
が大きくなければ回折光を取り込めなくなる。また、露
光波長λが短いほど、同一パターンにおける回折光の角
度は小さくなるので、レンズのNAは小さくてよいこと
になる。この解像度と焦点深度は、露光に用いる光の波
長λとレンズのNA(開口数)によって決まり、それぞ
れ次式(2),(3)により表わされる。ここで、k
1、k2は比例定数である。
【数2】 解像度=k1×λ/NA …(2) 焦点深度=k2×λ/{1−√(1−NA2)} …(3) 上式(2)から、解像度を向上させるためには、レンズ
のNAを大きくする(レンズを大口径化する)か露光波
長λを短くすればよく、また、式(3)からλを短くす
る方が焦点深度の点で有利であることがわかる。
【0004】このようなことから、ステッパにおける露
光波長λは、より短波長になりつつあり、現在では、A
rFエキシマレーザ光(波長193nm)を光源とする
ステッパが使用されつつある。ところで、200nm以
下の短波長領域においては、光リソグラフィ用として使
用できる光学材料は非常に少なく、現在は蛍石および石
英ガラスの2種類の材料が用いられている。一方、NA
はKrFエキシマステッパにおいても0.6を越え、A
rFではそれ以上のNAになる。さらに、F2ステッパ
では、NAが0.7近く、あるいはそれ以上になること
も十分に予想される。
【0005】そのため、光学系が全屈折タイプあるいは
反射屈折夕イプかで必要口径に差があるが、直径300
(mm)以上の大口径レンズが必要とされ、場合によっ
ては直径380(mm)程度の大口径レンズが必要にな
ってくる。もちろん、単に大口径であればよいというも
のではなく、屈折率の均質性等の光学特性に優れた光学
部材(石英ガラス、蛍石単結晶)が要求される。
【0006】ところで、蛍石単結晶の場合には、従来か
らブリッジマン法(ストックバーガ法、ルツボ降下法と
も呼ばれる)による製造が知られている。上述したよう
に、紫外域または真空紫外域において使用される蛍石単
結晶の場合、原料として天然の蛍石を使用することはな
く、化学合成により作製された高純度原料を使用するの
が一般的である。原料は粉未のまま使用することも可能
であるが、その場合には溶融した時の体積滅少が激しい
ため、半溶融品やその粉砕品を用いるのが普通である。
【0007】この製造方法では、育成装置の中に原料
(半溶融品やその粉砕品)を充填したルツボを置き、育
成装置内を10-3〜10-4(Pa)の真空雰囲気に保持
する。次に、育成装置内の温度を蛍石の融点以上まで上
昇させてルツボ内の原料を溶融する。この際、育成装置
内温度の時間的変動を最小限に抑えるために、定電力出
力による制御または高精度なPID制御により温度が制
御される。
【0008】この結晶育成段階では、0.1〜5(mm
/時間)程度の速度でルツボを引き下げて、ルツボ内の
融液の下部から徐々に結晶化させる。融液最上部まで結
晶化したところで結晶育成を終了し、育成した結晶(イ
ンゴット)が割れないように急冷を避けつつ徐冷を行
う。育成装置内の温度が室温程度まで下がったところ
で、育成装置を大気開放してインゴットを取り出す。
【0009】サイズの小さい光学部品や均質性の要求さ
れない窓材などに用いられる蛍石の場合には、インゴッ
トを切断した後、丸めなどの工程を経て最終製品まで加
工される。一方、ステッパの投影レンズなどに用いら
れ、高均質が要求される蛍石単結晶の場合には、インゴ
ットのまま簡単な熱処理(アニール)が行われる。そし
て、目的の製品別に適当な大きさに切断加工された後、
さらに熱処理が行われる。
【0010】ところで、レンズに複屈折があると、複屈
折による光路差が光学系の結像性能に影響を与える。通
常、この影響は光路差が波長の何倍であるかという数値
で表され、その係数が小さいほど影響が少ないといえ
る。そのため、光路差が同一であっても、波長が短いほ
ど係数が大きくなり、複屈折の結像性能への影響が顕著
となる。なお、以下では、複屈折による単位長さ当たり
の光路差を単に複屈折と呼ぶが、この複屈折は歪みと呼
ばれることもある。これは、材料そのものに複屈折がな
くても、材料の歪みによって複屈折が発生するためであ
る。
【0011】従来、光リソグラフィー用の大口径蛍石単
結晶(φ200(mm)以上やφ230(mm)以上)の製造法
については、特開平11−240798号公報や特開平
11−240787号公報等に記載されている。それら
の製造方法では、気密化可能な容器内に蛍石単結晶を収
納して熱処理する方法が採用されており、特開平11−
240798号公報には、φ200(mm)以上の光リソグ
ラフィ用大ロ径蛍石単結晶において、屈折率差△nが2
×10-6以下のものや、光軸方向における複屈折の値が
2(nm/cm)以下のものや、光軸方向に垂直な側面
方向における複屈折の値が5(nm/cm)以下のもの
が記載されている。
【0012】一方、特開平11−240787号公報に
は、φ230(mm)以上の光リソグラフィ用大口径蛍石単
結晶において、屈折率差△nが2×10-6以下のもの
や、光軸方向における複屈折の値が2(nm/cm)以
下のものや、光軸方向に垂直な側面方向における複屈折
の値が5(nm/cm)以下のものが記載されている。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、インゴ
ットの体積が増大するほど複屈折や屈折率不均質が大き
くなるため、上述した特開平11−240798号公報
や特開平11−240787号公報等に開示されている
熱処理方法によっても、直径が300(mm)を越える
ような大きな蛍石単結晶については、十分な品質が得ら
れないという問題があった。
【0014】本発明の目的は、大口径(φ300(mm)以
上)であって、屈折率均質性や複屈折等の光学特性に優
れ、特に、波長200nm以下の光リソグラフィに使用
可能な光リソグラフィ用蛍石単結晶およびその製造方法
を提供することである。また、本発明の他の目的は、大
口径(φ300(mm)以上)で光学特性が良好な蛍石単結
晶を効率よく生産することができる光リソグラフィ用蛍
石単結晶の製造方法を提供することである。
【0015】
【課題を解決するための手段】発明の実施の形態を示す
図3に対応付けて説明する。 請求項1の発明は、蛍石単結晶を1020℃〜11
50℃の範囲にある第1の温度(1080℃)に所定時
間保持し、蛍石単結晶のサイズに応じて、700℃以下
の第2の温度まで1.0(℃/時間)以下の所定冷却速
度で熱処理することにより上述の目的を達成する。 請求項2の発明は、請求項1に記載の光リソグラフ
ィ用大口径蛍石単結晶の製造方法において、冷却速度が
蛍石単結晶の直径の2乗または厚さの2乗に反比例する
としたときの、所定の光学特性を有する蛍石単結晶の熱
処理データから、冷却速度と直径の2乗または厚さの2
乗との間の定量的関係を求め、熱処理対象蛍石単結晶の
直径または厚さに応じて定量的関係により所定冷却速度
を設定するようにしたものである。 請求項3の発明は、請求項1または請求項2に記載
の光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶の製造方法におい
て、蛍石単結晶中の複屈折が次式(1)のf(T)に比
例するものとし、これに基づいて第2の温度(700
℃)を設定する。
【数3】 f(T)=exp(−Em/kT) …(1) なお、式(1)において、T(K)は蛍石単結晶の温度
を、Emは蛍石単結晶中の点欠陥の移動の活性化エネル
ギーを、kはボルツマン定数を表す。 請求項4の発明は、気密化可能な容器内に蛍石単結
晶を収納し、前記容器内を真空排気する第1の工程と、
前記容器を加熱し前記容器内の温度を1020℃〜11
50℃の範囲内の第1の温度(1080℃)まで昇温さ
せる第2の工程と、前記容器内温度を第1の温度(10
80℃)に所定時間保持する第3の工程と、前記容器内
温度を室温まで降温する第4の工程とを含む光リソグラ
フィ用大口径蛍石単結晶の製造方法に適用され、第4の
工程に、蛍石単結晶のサイズに応じて、第1の温度(1
080℃)から700℃以下の第2の温度(700℃)
まで1.0(℃/時間)以下の冷却速度で冷却する工程
を含むことにより上述の目的を達成する。 請求項5の発明は、蛍石単結晶およびフッ素化剤を
収納した第1の容器を気密化可能な第2の容器内に収納
し、その第2容器内を真空排気する第1の工程と、第2
の容器を加熱して、前記第1の容器内の温度および/ま
たは前記第2の容器内の温度を1020℃〜1150℃
の範囲内の第1の温度(1080℃)まで昇温させる第
2の工程と、前記第1の容器内の温度および/または前
記第2の容器内の温度を、第1の温度(1080℃)に
所定時間保持する第3の工程と、前記第1の容器内の温
度および/または前記第2の容器内の温度を室温まで降
温する第4の工程とを含む光リソグラフィ用大口径蛍石
単結晶の製造方法に適用され、第4の工程に、第1の温
度(1080℃)から700℃以下の第2の温度(70
0℃)まで1.0(℃/時間)以下の冷却速度で冷却す
る工程を含むことにより上述の目的を達成する。 請求項6の発明による光リソグラフィ用大口径蛍石
単結晶は、請求項1〜請求項5のいずれかに記載の光リ
ソグラフィ用大口径蛍石単結晶の製造方法により合成さ
れたものである。
【0016】なお、本発明の構成を説明する上記課題を
解決するための手段の項では、本発明を分かり易くする
ために発明の実施の形態の図を用いたが、これにより本
発明が発明の実施の形態に限定されるものではない。
【0017】
【発明の実施の形態】以下、図1〜図4を参照して本発
明の実施の形態を説明する。蛍石単結晶の合成に用いら
れるブリッジマン法は、炉内に設定された温度勾配中を
るつぼを降下させることによって、るつぼ中の融液を結
晶化させる方法である。図1(a)はブリッジマン法に
用いられる炉の構造を示す図であり、炉1内は原料の酸
化を防ぐために真空排気される。2はるつぼであり、る
つぼ2の外側には、るつぼ2の降下方向に沿って温度勾
配形成用ヒータ3が設けられている。4は断熱材であ
る。ブリッジマン法により育成された蛍石単結晶は、時
間をかけて室温まで冷却され、その後の熱処理工程(ア
ニール工程)によって複屈折や屈折率均質性の向上が図
られている。
【0018】図1(b)は熱処理装置の概略を示す図で
あり、育成された蛍石単結晶5は、フッ素化剤とともに
カーボン製の容器6に収納される。この容器6は気密化
可能なステンレス製の容器7内に収められる。その後、
容器7内を真空排気した後、容器7の外周部に設けられ
たヒータ8により加熱して、蛍石単結晶5の熱処理を行
う。なお、フッ素化剤は、蛍石単結晶の表面や容器7の
内部に残る酸素や水分が蛍石単結晶と反応することを防
ぐために用いられるが、必ずしも用いる必要はない。
【0019】ところで、蛍石単結晶における屈折率均質
性と複屈折とは非常に相関があり、屈折率均質性の優れ
た蛍石単結晶では複屈折も小さいことが知られている。
これは、屈折率不均質も複屈折も、いずれも熱処理時に
結晶内部に発生する応力が主要因であることを示してお
り、その応力は、ある温度領域で生じている結晶内部の
温度差(または温度勾配)が原因であると考えられる。
したがって、屈折率均質性が優れ、かつ、複屈折が小さ
い蛍石単結晶を得るためには、熱処理工程の最高温度か
ら冷却する過程において、時間をかけて非常にゆっくり
と冷却し、単結晶内部に温度差(または温度勾配)を生
じさせないことが重要になる。
【0020】一方、生産性を考慮すると、全工程の期間
を短くすることが望まれるため、熱処理工程の全てにわ
たって時間をかけて非常にゆっくりと冷却するのは難し
い。そこで、特開平11−240787号公報や特開平
11−240798号公報に開示されている製造方法で
は、温度が高い領域では冷却速度を小さくして大きな温
度差が生じないようにし、高温領域と比べて温度差が生
じにくい低温度領域では冷却速度を少し大きくして生産
性の向上を図るようにしている。そのため、冷却速度
と、その冷却速度を切り換える温度(切換温度)を最適
にすることが、高品質と生産性を両立させる上で非常に
重要なポイントとなる。
【0021】特に、蛍石単結晶のサイズが大きくなる
と、同じ冷却速度でも、サイズの小さいものに比べて結
晶内部に生じる温度差(または温度勾配)が大きくな
る。例えば、放熱が時間に対して一定であれば、次式
(4)のように蛍石単結晶内に生ずる最大温度差(また
は最大温度勾配)は結晶の直径(または半径)の2乗お
よび厚さの2乗にそれぞれ比例する。
【数4】 (最大温度差)∝(直径)2×(厚さ)2 …(4) そこで、同等の屈折率均質性、複屈折の蛍石単結晶を得
ようとした場合、サイズの小さいものと同等の温度差
(または温度勾配)となるように冷却速度を調整すれば
よいことになる。
【0022】蛍石単結晶内に生ずる最大温度差(通常の
冷却では中心部と表面部の温度差)は、冷却速度に反比
例すると考えられる。したがって、直径(または半径)
の2乗または厚さの2乗にそれぞれ反比例するように冷
却速度を決定すれば、直径や厚さが大きくなっても温度
差(または温度勾配)をほぼ同程度にすることができ
る。例えば、サイズの小さな直径D(mm)、厚さt
(mm)の蛍石単結晶を冷却速度h(℃/時)で冷却し
たものと同等の品質を、サイズの大きな直径D’(m
m)、厚さt’(mm)の蛍石単結晶で得るために、冷
却速度h’(℃/時)を次式(5)で設定するようにす
ればよい。
【数5】 h’=h×min{(D/D’)2,(t/t’)2} …(5) 式(5)において、記号min{ }は、{ }内の小
さい方の数値を取るという意味である。このように冷却
速度を設定すれば、温度差(または温度勾配)がサイズ
の小さなものと同程度になり、同様の品質の蛍石単結晶
を得ることができる。
【0023】以上では、蛍石単結晶のサイズが大きな場
合にも、小さなサイズのものと同等の品質が得られるた
めの冷却速度設定方法について説明したが、次いで、熱
処理時に冷却速度を切り換える際の切換温度について説
明する。
【0024】本実施の形態では、結晶中の点欠陥の移動
速度を表わす式に着目し、この移動速度に基づいて切換
温度を設定するようにした。「結晶工学ハンドブック」
(共立出版、昭和46年初版、77頁)によれば、点欠
陥の移動の活性化エネルギーEmに対して、点欠陥の位
置交換の頻度Jは次式(6)のように表される。
【数6】 J=v×exp(Sm/k)×exp(−Em/kT)…(6) 式(6)において、vは平均の格子振動数、Smは移動
の活性化エントロピーである。温度に関係するのは、f
(T)=exp(−Em/kT)、の部分であり、蛍石
単結晶の温度Tが大きいほどf(T)が大きくなり、点
欠陥の移動速度Jが大きくなる。そこで、f(T)が大
きくなるほど、結晶内の温度差が複屈折と結びつきやす
くなると考えた。すなわち、温度差(または温度勾配)
が同じでもf(T)が大きいものほど複屈折が生じやす
いと考え、f(T)と複屈折とは比例するとして切換温
度の設定方法を導出した。
【0025】いま、結晶のサイズおよび冷却速度は同一
であるが、温度がT1,T2と異なる2つの状態を考え
る。温度T1のときの複屈折をB1、温度T2のときの複
屈折をB2とすると、それぞれ式(7),(8)のよう
な関係があり、温度T2のときの複屈折B2は式(9)の
ように表すことができる。
【数7】 B1∝f1(T1)=exp(−Em/kT1) …(7) B2∝f2(T2)=exp(−Em/kT2) …(8) B2=B1×f(T2)/f(T1) =B1×exp{(−Em/k)(1/T2−1/T1)}…(9) 式(9)からも分かるように、T1>T2のときにはB1
>B2となり、結晶の温度が高いほど複屈折が大きくな
る。言い換えると、温度が低い場合には、温度が高い場
合と比べて複屈折が小さくなるので、その分だけ冷却速
度を早くしても同等の複屈折になる。すなわち、式
(9)と上述した式(5)とに基づいて、切換温度の前
後で複屈折が同等となるように、切換温度および冷却速
度を設定すれば良い。
【0026】このように、蛍石単結晶を熱処理する際
に、上述した考え方に基づいて冷却速度と切換温度とを
設定することによって、φ300(mm)を越える大口径蛍
石単結晶に対しても所望の屈折率均質性および複屈折を
得ることが可能となる。さらに、この考え方に従えば、
冷却速度および切換温度に関して様々な組み合わせが可
能であり、その中から最短時間の熱処理スケジュールを
見出すことによって、生産性の向上を図ることができ
る。
【0027】ところで、上述したように、冷却速度およ
び切換温度の組み合わせは種々のものが可能であるが、
本発明者による実験によれば、結晶の温度が700℃以
上のときには、冷却速度を1.0(℃/時間)以下にし
ないと、十分な品質が得られないことが見出された(比
較例)。すなわち、冷却速度を1.0(℃/時間)以上
に切り換える際の切換温度は、700℃以下に設定しな
ければならない。また、切換温度を200℃と低く設定
すると全体で1000時間を越えてしまうし、700℃
までを0.2(℃/時間)とするとそれだけで約200
0時間かかることになり、生産を考えると現実的ではな
い。
【0028】
【実施例】(実施例1)蛍石単結晶のサイズは、直径3
60(mm)、厚さ70(mm)である。この単結晶を
図1(b)に示した装置により熱処理する。ここで、サ
イズのより小さな直径250(mm)、厚さ60(m
m)の蛍石単結晶を熱処理最高温度から1.0(℃/時
間)で冷却した場合、光軸方向の複屈折が2.0(nm
/cm)であったが、この値を複屈折の目標値として直
径360(mm)、厚さ70(mm)の蛍石単結晶の冷
却速度を求めた。
【0029】このとき、式(5)にD=250,D’=
370,t=60,t’=70を適用すると、冷却速度
h’は次式(10)のように0.48(℃/時間)とな
る。
【数8】 h’=h×min{(D/D’)2,(t/t’)2} =1.0×min{(250/370)2,(60/70)2} =1.0×min{0.48,0.73} =1.0×0.48 =0.48 …(10) すなわち、最高温度から0.48(℃/時間)で冷却す
る必要がある。ここでは、切換温度を750℃に設定し
て、次のようなスケジュールで熱処理を行った。 昇温:40(℃/時間)で昇温 保持:1080℃に48時間保持 降温1:1080℃〜750℃まで、冷却速度0.4
8(℃/時間)で降温 降温2:750℃〜700℃まで、冷却速度1.0
(℃/時間)で降温 降温3:700℃〜500℃まで、冷却速度3.0
(℃/時間)で降温 降温4:500℃〜室温まで、冷却速度5.0(℃/
時間)で降温 熱処理に要した合計時間は975時間であった。図2は
上記の熱処理スケジュールを図示したものであり、縦軸
は温度(℃)、横軸は時間(H)である。このような熱
処理の結果、以下のような品質の蛍石単結晶が得られ
た。この蛍石単結晶は非常に良好な光学特性を有してお
り、ステッパのレンズに十分使用することができる。 光軸方向歪:1.7(nm/cm) 側面方向歪:4.2(nm/cm) 屈折率均質性△n:2.3×10-6
【0030】(実施例2)実施例2では、切換温度につ
いても式(9)に基づいて考慮した。直径250(m
m)、厚さ60(mm)の蛍石単結晶を熱処理最高温度
から1.0(℃/時間)で冷却した場合、切換温度T1
=900℃(=1173K)のときには側面方向の複屈
折の値が10(nm/cm)であり、切換温度T2=7
50℃(=1023K)のときには5.0(nm/c
m)であった。そこで、式(9)を用いて蛍石単結晶の
m/kを推定すると、次式(11)のようになる。
【数9】 Em/k=−{1/(1/T2−1/T1)}×ln(B2/B1) =−ln0.5/{(1/(1/1023−1/1173)} =5545.1(K) …(11)
【0031】そこで、切換温度T3を700℃(=97
3K)とすると、式(9)により、
【数10】 B3=5.0×exp{−5545.1(1/973−1/1023)} =5.0×0.76 =3.8(nm/cm) となる。すなわち、切換温度を700℃とすると、直径
250(mm)、厚さ60(mm)の蛍石単結晶で切換
温度を750℃とした場合の76%の大きさの複屈折が
得られると推定される。その結果、目標とする複屈折を
5.0(nm/cm)に設定すれば、上述した3.8
(nm/cm)より値が大きいので、その分だけ冷却速
度を大きくすることができ、熱処理時間を短縮すること
ができる。
【0032】目標の複屈折を5.0(nm/cm)と設
定した場合には、蛍石単結晶内部の最大温度差(または
最大温度勾配)は1.32(=1/0.76)倍まで許
容できるので、全ての降温過程において冷却速度を約
1.3倍とすることができる。本実施例では、次のスケ
ジュールで熱処理を行った。 昇温:40(℃/時間)で昇温 保持:1080℃に48時間保持 降温1:1080℃〜700℃まで、冷却速度0.6
24(=0.48×1.3)(℃/時間)で降温 降温2:700℃〜650℃まで、冷却速度1.3
(=1.0×1.3)(℃/時間)で降温 降温3:650℃〜450℃まで、冷却速度3.9
(=3.0×1.3)(℃/時間)で降温 降温4:450℃〜室温まで、冷却速度6.5(=
5.0×1.3)(℃/時間)で降温
【0033】図3は上記の熱処理スケジュールを図示し
たものであり、熱処理に要した合計時間は840時間で
あって、実施例1より熱処理時間を短縮することができ
た。また、得られた蛍石単結晶は非常に良好な光学特性
を有しており、ステッパのレンズに十分使用することが
できる。 光軸方向歪:1.9(nm/cm) 側面方向歪:4.7(nm/cm) 屈折率均質性△n:1.8×10-6
【0034】(比較例)比較例として、冷却速度が1.
0(mm/時間)以上となる切換温度が700℃以上の
場合の熱処理結果を説明する。直径250(mm)、厚
さ60(mm)の蛍石単結晶を、次のスケジュールで熱
処理を行った。 昇温:40(℃/時間)で昇温 保持:1050℃に48時間保持 降温1:1080℃〜800℃まで、冷却速度0.5
(℃/時間)で降温 降温2:800℃〜650℃まで、冷却速度2.0
(℃/時間)で降温 降温3:650℃〜450℃まで、冷却速度3.0
(℃/時間)で降温 降温4:450℃〜室温まで、冷却速度5.0(℃/
時間)で降温 図4は上記の熱処理スケジュールを図示したものであ
り、熱処理に要した合計時間は801時間であり、実施
例2とあまり変わらない。得られた蛍石単結晶の品質は
以下のようであり、ステッパのレンズとしては不十分な
ものであった。 光軸方向歪:2.3(nm/cm) 側面方向歪:8.9(nm/cm) 屈折率均質性Δn:4.2×10-6
【0035】
【発明の効果】以上説明したように、本発明によれば、
直径300(mm)を越えるような大口径蛍石単結晶に
おいても、光学特性(屈折率均質性、複屈折)の良好な
蛍石単結晶が得られ、ステッパの投影レンズの光学材料
として十分な品質を有している。特に、大NAの投影レ
ンズの設計が可能となり、F2レーザを用いたステッパ
も対応することができる。また、本発明の製造方法によ
れば、蛍石単結晶の光学特性を所望の値に保ちつつ熱処
理時間の短縮することができるので、生産性の効率化を
図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】蛍石単結晶に用いられる製造装置の概略構成を
示す図であり、(a)は育成装置を示す図、(b)は熱
処理装置を示す図である。
【図2】実施例1における熱処理スケジュールを示す図
である。
【図3】実施例2における熱処理スケジュールを示す図
である。
【図4】比較例の熱処理スケジュールを示す図である。
【符号の説明】
5 蛍石単結晶 6,7 容器 8 ヒータ

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 蛍石単結晶を1020℃〜1150℃の
    範囲にある第1の温度に所定時間保持し、前記蛍石単結
    晶のサイズに応じて、700℃以下の第2の温度まで
    1.0(℃/時間)以下の所定冷却速度で熱処理するこ
    とを特徴とする光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶の製
    造方法。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載の光リソグラフィ用大口
    径蛍石単結晶の製造方法において、 冷却速度が蛍石単結晶の直径の2乗または厚さの2乗に
    反比例するとしたとき、所定の光学特性を有する蛍石単
    結晶の熱処理データから、冷却速度と直径の2乗または
    厚さの2乗との間の定量的関係を求め、熱処理対象蛍石
    単結晶の直径または厚さに応じて前記定量的関係により
    前記所定冷却速度を設定することを特徴とする光リソグ
    ラフィ用大口径蛍石単結晶の製造方法。
  3. 【請求項3】 請求項1または請求項2に記載の光リソ
    グラフィ用大口径蛍石単結晶の製造方法において、 蛍石単結晶中の複屈折が次式(1)のf(T)に比例す
    るものとし、これに基づいて前記第2の温度を設定する
    ことを特徴とする光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶の
    製造方法。 【数1】 f(T)=exp(−Em/kT) …(1) なお、式(1)において、T(K)は蛍石単結晶の温度
    を、Emは蛍石単結晶中の点欠陥の移動の活性化エネル
    ギーを、kはボルツマン定数を表す。
  4. 【請求項4】 気密化可能な容器内に蛍石単結晶を収納
    し、前記容器内を真空排気する第1の工程と、 前記容器を加熱して前記容器内の温度を1020℃〜1
    150℃の範囲内の第1の温度まで昇温させる第2の工
    程と、 前記容器内温度を前記第1の温度に所定時間保持する第
    3の工程と、 前記容器内温度を室温まで降温する第4の工程とを含む
    光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶の製造方法におい
    て、 前記第4の工程に、前記蛍石単結晶のサイズに応じて、
    前記第1の温度から700℃以下の第2の温度まで1.
    0(℃/時間)以下の冷却速度で冷却する工程を含むこ
    とを特徴とする光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶の製
    造方法。
  5. 【請求項5】 蛍石単結晶およびフッ素化剤を収納した
    第1の容器を気密化可能な第2の容器内に収納し、その
    第2容器内を真空排気する第1の工程と、 前記第2の容器を加熱して前記第1の容器内の温度およ
    び/または前記第2の容器内の温度を1020℃〜11
    50℃の範囲内の第1の温度まで昇温させる第2の工程
    と、 前記第1の容器内の温度および/または前記第2の容器
    内の温度を、前記第1の温度に所定時間保持する第3の
    工程と、 前記第1の容器内の温度および/または前記第2の容器
    内の温度を室温まで降温する第4の工程とを含む光リソ
    グラフィ用大口径蛍石単結晶の製造方法において、 前記第4の工程に、前記蛍石単結晶のサイズに応じて、
    前記第1の温度から700℃以下の第2の温度まで1.
    0(℃/時間)以下の冷却速度で冷却する工程を含むこ
    とを特徴とする光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶の製
    造方法。
  6. 【請求項6】 請求項1〜請求項5のいずれかに記載の
    光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶の製造方法により合
    成された光リソグラフィ用大口径蛍石単結晶。
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