JP2001320133A - 光半導体素子 - Google Patents

光半導体素子

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JP2001320133A
JP2001320133A JP2001141804A JP2001141804A JP2001320133A JP 2001320133 A JP2001320133 A JP 2001320133A JP 2001141804 A JP2001141804 A JP 2001141804A JP 2001141804 A JP2001141804 A JP 2001141804A JP 2001320133 A JP2001320133 A JP 2001320133A
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Nobuo Suzuki
信夫 鈴木
Yuzo Hirayama
雄三 平山
Masaaki Onomura
正明 小野村
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Toshiba Corp
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 活性層への注入効率を高めることができ、低
しきい値でかつ高速特性の優れた多重量子井戸構造の半
導体レーザを提供すること。 【解決手段】 Inx Ga1-x As(0<x≦1)を井
戸層とする多重量子井戸活性層12と、この活性層12
の上に形成されたInPに格子整合する第1のp型クラ
ッド層13と、活性層12の側面に形成された、p型ク
ラッド層13よりもアクセプタ濃度の高い第2のp型ク
ラッド層17とを備えた多重量子井戸構造の半導体レー
ザであり、第1のp型クラッド層13のアクセプタ濃度
を活性層12から0.25μmの範囲で2×1017cm
-3以下に設定し、第2のp型クラッド層17のアクセプ
タ濃度を1×1018cm-3以上に設定し、活性層12の
井戸層をInx Ga1-x As(0.53<x≦1)から
形成したことを特徴とする。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、埋め込み量子井戸
構造を有する光半導体素子に係わり、特に多重量子井戸
構造のレーザ等の特性向上をはかった光半導体素子に関
する。
【0002】
【従来の技術】近年、電子のドゥ・ブロイ波長以下の層
厚を有する井戸層を該井戸層よりも禁制帯幅が広い障壁
層で挟んだ量子井戸構造を少なくとも一つ有する、いわ
ゆる量子井戸半導体レーザが開発されている。この量子
井戸半導体レーザは、量子井戸を活性層に持たないダブ
ルヘテロ構造半導体レーザと比べて、発振しきい値を下
げられる、変調帯域を広げられる、発振スペクトル幅を
挟められる、温度特性を改善できる、高出力が得られる
など様々な利点を有する。
【0003】また最近では、量子井戸に基板と格子整合
しない材料を用いることにより、発振波長の自由度を広
げたり、更なる特性向上をはかったりできるようになっ
てきた。一般的には、活性層近傍に基板と格子整合しな
い材料があると大量の結晶欠陥が発生し、レーザの特性
や信頼性の劣化が顕著になる。しかし、基板と格子整合
しない材料を活性層に用いても、その層厚がある臨界厚
より薄い場合には活性層が弾性的に歪み、レーザの特性
や信頼性を劣化させる結晶欠陥は発生しない。この臨界
厚の一つの目安としては、Matthews and Blakesleeのモ
デルによる計算結果を使うことができる。
【0004】このような歪量子井戸構造を採用した0.
98μm帯GaAs基板上のInGaAs/AlGaA
s半導体レーザで、信頼性の高い高出力レーザや超低し
きい値のレーザなどが実現されている。半導体レーザ増
幅器,光スイッチ,光変調器など、半導体レーザ以外の
光半導体素子においても、歪光導波層の導入により、T
E/TMモード特性を変えたり、スイッチング特性や吸
収特性を変えたりすることができるなど、様々な可能性
の広がりが考えられる。
【0005】ところで、光ファイバ通信で主に用いられ
るInP基板上のInGaAs/InGaAsP系半導
体レーザの場合、低しきい値の単一横モード発振を得る
ために、一般に活性層の左右を活性層より禁制帯幅の大
きな材料で埋め込んだいわゆる埋め込み構造を用いるこ
とが多い。この場合、歪量子井戸層は側面に歪みヘテロ
界面を持つことにより、その近傍で大きな歪みと応力が
発生する。
【0006】以下、図13に示す(001)InP基板
上のIn0.7 Ga0.3 As歪量子井戸構造レーザを例に
とって具体的に説明する。この半導体レーザは、n型I
nP基板1(クラッド層を兼ねる)の上に、厚さ4.2
nmのアンドープIn0.7 Ga0.3 As井戸層2をIn
Pに格子整合するアンドープInGaAsP(1.2μ
m組成)障壁層3で挟んだ歪み量子井戸4層からなる活
性層(光導波路層)4と、厚さ1.5μmのp型InP
クラッド層5、厚さ0.8μmのp型InGaAsP
(1.2μm組成)コンタクト層6からなる積層構造を
成長し、この積層構造をFeドープ半絶縁InP層7で
埋め込んだ構造を有する。
【0007】障壁層3は、各井戸層2の間に12nmず
つ、両端の井戸層2の上下にそれぞれ20nm、合計厚
さ76nm積層されている。従って、活性層4の合計層
厚は92.8nmとなる。また、埋め込まれた活性層4
の幅は2μmである。なお、素子基板の上下には電流注
入のための電極11,12が形成されている。また、へ
き開により長さ1mmのレーザ共振器を構成している。
【0008】InP基板の格子定数は 0.58688nmである
のに対して、In0.7 Ga0.3 Asの格子定数は 0.593
81nmである。ここで、側面のない無限平面を仮定すれ
ば、井戸層2は4.2nmと薄いので弾性的に歪む。歪
みの大きさは、εxx=εyy=-0.01167、εzz=−2(C
12/C11)εxx=0.011974、εyz=εzx=εxy=0とな
る。但し、C12/C11=0.504 はIn0.7 Ga0.3 As
のポアソン比である。この結果、歪んだIn0.7 Ga
0.3 As井戸層2の格子定数は、xy面内でInPに等
しくなり、z方向の格子定数は 0.60092nmとなる。
【0009】しかし、実際には活性層4は、Feドープ
InP埋め込み層7により幅2μmのストライプに埋め
込まれている。従って、井戸層2と埋め込み層7との境
界に格子不整合が起きることになる。井戸層2は厚さ
4.2nmなので、平均して約6.99単位格子層から
なることになる。なお、面心立方系の閃亜鉛鉱構造では
〈001〉方向に格子間隔aの間に位置をずらして原子
層が4層存在するが、ここでは位置の合った4層(格子
定数a)毎に単位格子層と数えている。
【0010】一方、この厚さをInPの格子定数で割る
と7.16単位格子層からなることになる。井戸層2は
4層あるから、活性層4の側面にトータル0.68単位
格子層分の格子不整合が生じることになる。活性層4の
幅は2μmと厚いから、活性層全体が弾性的に圧縮され
ることはない。この結果、活性層4の側面近傍に転位な
どの格子欠陥が起こりやすくなる。
【0011】この上部の歪量子井戸層側面の格子不整合
は0.5単位格子層より大きいので、歪量子井戸層の格
子面は側面で埋め込み層の一つ上の格子面とつながる方
が距離的に近く、転位のできる確率が高い。このような
格子欠陥があると、不純物の偏析も起こりやすい。ま
た、このような欠陥により、発光効率の低下,発振しき
い値上昇,微分利得の低下などのレーザ特性の劣化、或
いは著しい信頼性の低下などが生じる。
【0012】半導体レーザ以外の光半導体素子において
も、埋め込み歪量子井戸光導波層側面に格子不整合によ
る欠陥が生じることにより、様々なデメリットが生じ
る。例えば、埋め込み歪量子井戸光導波路においては、
この欠陥により吸収係数の増加や光散乱の増加が生じ
る。また、埋め込み歪量子井戸光吸収層を有する光検出
素子においては、この側面の欠陥からの発生再結合暗電
流の増加,欠陥に偏析した不純物による内部電界の不均
一,欠陥での再結合による量子効率の低下,信頼性の低
下など、様々な問題が生じる。
【0013】また、光半導体素子以外の半導体素子にお
いても、例えば pseudomorphic HEMTの歪チャネル
層,歪In(Ga)Asオーミックコンタクト層など、
歪半導体層が特性改善のために使われている。この歪半
導体層を基板全面ではなく一部分に埋め込み形成する場
合には、側面の格子不整合により生じる格子欠陥や不純
物の偏析に起因して、キャリア寿命の低下、散乱中心の
増加による電子輸送特性の劣化、雑音の増加、信頼性の
低下など、種々の問題が生じる。
【0014】一方、光通信に広く利用されているInG
aAsPやInGaAsを井戸層に持つ量子井戸レーザ
では、伝導帯の井戸障壁が低く価電子帯の井戸障壁が高
いことから、電子の障壁層や光導波層へのオーバーフロ
ーが起こり易く、また正孔の井戸層への注入効率が低い
という問題があった。このため、キャリアの利用効率が
悪く、同じ発振波長のバルク型ダブルヘテロ半導体レー
ザと比べて、発振しきい値の低減や変調帯域の拡大の効
果は顕著でなかった。
【0015】また、誘導放出が大きくなりキャリアの不
足が生じたときに正孔の井戸層への注入効率が低いこと
から、井戸間での正孔密度に差が生じ、光に対する利得
飽和εも大きいという問題もあった。このことは、量子
井戸の効果による微分利得の増大にもかかわらず、ダン
ピングが大きくなり周波数帯域が伸びないということを
意味する。高出力レーザは長共振器で井戸数が多めのと
きに良好な特性が得られるが、このような問題があるた
め、井戸数をあまり増やすことができないのが現状であ
った。
【0016】一般に、量子井戸レーザではキャリアに対
する利得Gの飽和が顕著なので、発振しきいキャリア密
度が高くなると、微分利得が急激に悪化する。従って、
高速応答特性の観点からも、発振しきい値の低減が重要
である。発振条件はΓG=αで表されるから、発振しき
い値を下げるためには、光学的なトータルロスαを小さ
くして発振に必要な利得を下げてやる必要がある。
【0017】量子井戸レーザ、特に井戸層に歪を導入し
た歪量子井戸レーザでは活性層の導波損失を極めて小さ
くできるが、p−クラッド層のアクセプタ密度が高いと
損失が大きくなる。量子井戸レーザは光閉じ込め係数Γ
が小さいので、クラッド層の吸収の影響は極めて大き
い。従って、低しきい値の量子井戸レーザを得るために
は、p−クラッド層のアクセプタ密度を下げてやる必要
がある。
【0018】しかしこの場合、p−クラッド層と活性層
とのヘテロ接合部に大きなバンド障壁ができるため、正
孔の量子井戸活性層への注入効率が低くなってしまうと
いう問題があった。このことは、低しきい値でかつ高速
応答可能な量子井戸レーザを作ることは困難であること
を意味する。このヘテロ界面の障壁の問題を解決するた
めに、GRIN(graded index)構造の採用も提案され
ているが、この場合は結晶成長に精密制御が必要にな
り、工程が複雑になる問題がある。
【0019】この他、埋込み構造歪量子井戸レーザで
は、活性層の側面に格子不整合による転位欠陥が発生し
やすいという問題があった。特に、側面にFeなどの遷
移金属をドープした層がある場合、不純物である遷移金
属と転位の複合欠陥がレーザ特性を劣化させることが懸
念されていた。
【0020】
【発明が解決しようとする課題】このように従来、In
GaAs系やInGaAsP系の多重量子井戸レーザで
は、正孔の井戸層への注入効率が悪く、井戸間での正孔
密度に差が生じ易く、従って井戸数を増やすことが困難
であった。さらに、吸収損失が小さく正孔の注入効率が
高いレーザを実現することも困難であり、発振しきい値
の低減や高速応答特性の向上が思うようにはかれなかっ
た。
【0021】本発明は、上記事情を考慮してなされたも
ので、その目的とするところは、量子井戸活性層へのキ
ャリアの注入効率を高めることができ、低しきい値でか
つ高速特性の優れた光半導体素子を提供することにあ
る。
【0022】
【課題を解決するための手段】(構成)本発明(請求項
1)の骨子は、量子井戸活性層への注入効率を上げるた
めに、量子井戸活性層の側面から電流注入を行うことに
ある。
【0023】即ち本発明は、Inx Ga1-x As(0<
x≦1)を井戸層とする多重量子井戸活性層と、この活
性層の主面に形成されたInPに格子整合する第1のp
型クラッド層とを備えた半導体レーザにおいて、活性層
の側面に第1のp型クラッド層よりもアクセプタ濃度の
高い第2のp型クラッド層を形成するようにしたもので
ある。
【0024】また本発明は、より望ましくは、第1のp
型クラッド層のアクセプタ濃度を活性層から0.25μ
mの範囲で2×1017cm-3以下に設定し、第2のp型
クラッド層のアクセプタ濃度を1×1018cm-3以上に
設定し、さらに井戸層をIn x Ga1-x As(0.53<x
≦1)で形成するようにしたものである。
【0025】また本発明(請求項4,5)は、本来の格
子定数が半導体基板の格子定数より大きい(又は小さ
い)井戸層と、本来の格子定数が半導体基板の格子定数
と等しい又はそれより小さく(又は大きく)且つ井戸層
よりも禁制帯幅の広い障壁層とを、交互に積層した多重
量子井戸構造の光半導体素子において、井戸層の軽い
(又は重い)正孔帯の禁制帯端と障壁層の軽い(又は重
い)正孔帯の禁制帯端を実質一致させるようにしたもの
である。
【0026】(作用)本発明(請求項1〜3)によれ
ば、正孔の注入は主として量子井戸活性層の側面から行
われる。活性層側面の第2のp型クラッド層は各井戸層
や障壁層と直接接しているから、第2のp型クラッド層
から井戸層への直接或いは障壁層を介しての正孔注入効
率が高く、正孔密度の井戸間でのばらつきも抑制され
る。この効果は、第2のp型クラッド層の正孔濃度を1
×1018cm-3以上と高くした場合に顕著である。従っ
て、注入効率の向上による微分利得の増大,しきい値の
低下,光に対する利得飽和の抑制、ひいては高速応答の
実現が図れる。また、性能を落とさずに量子井戸数を増
やすことが可能になり、高出力化にも効果がある。
【0027】また、第1のp型クラッド層のアクセプタ
濃度を活性層から0.25μmの範囲で2×1017cm
-3以下に設定することにより、第1のp型クラッド層に
よる光吸収が抑制され、より一層のしきい値の低減が可
能になる。このしきい値の低減により利得の非線形性の
小さな領域で使用できるようになるため、微分利得の向
上も図れる。この効果は、価電子帯間の吸収が小さいI
x Ga1-x As(0.53<x≦1)歪多重量子井戸半導
体レーザにおいて著しい。
【0028】また本発明(請求項4)では、重い正孔に
対しては多重量子井戸が形成されるが、軽い正孔に対し
ては実質量子井戸が形成されず、各井戸は軽い正孔によ
りカップリングしているので、p型クラッド層から離れ
た井戸層へも効率良く正孔注入を行うことができる。こ
の結果、井戸数を増やして特性向上をはかることができ
る。
【0029】また本発明(請求項5)は、請求項4の発
明の軽い正孔と重い正孔の役割を逆にしたもので、各井
戸は重い正孔によりカップリングしているので、p型ク
ラッド層から離れた井戸層へも効率良く正孔注入を行う
ことができる。この結果、井戸数を増やして特性向上を
はかることができる。
【0030】
【発明の実施の形態】以下、本発明の詳細を図示の実施
形態によって説明する。
【0031】(第1の実施形態)図1は、本発明の第1
の実施形態に係わる多重量子井戸半導体レーザの概略構
造を示す断面図である。n−InP基板31上に、幅1
μmのストライプ状の活性層32が成長形成され、この
活性層32の上にアクセプタ濃度1×1017cm -3の第
1のp−InPクラッド層33が成長形成されている。
【0032】活性層32は、図2に示すように、In
0.7 Ga0.3 As井戸層35が8層、InPに格子整合
する波長1.3μm組成のInGaAsP障壁層36に
挟まれて形成されている。InGaAsP障壁層36の
うち、最下部の層361 は厚さ30nm、最上部の層3
9 は厚さ70nmであり、他の層362 〜368 は厚
さ10nmである。In0.7 Ga0.3 As井戸層35
は、基板31と面内の原子間隔が合うように成長するた
めに、約1.16%の圧縮歪が入っている。井戸層35
の厚さは4nmであり、転位を発生させないための臨界
膜厚より十分に薄い。
【0033】p−クラッド層33の上には、活性領域ス
トライプ34の側面も覆うように、アクセプタ濃度1×
1018cm-3の第2のp−InPクラッド層37が成長
形成され、その上にp−InGaAsPコンタクト層3
8が成長形成されている。p型ドーバンドはいずれもZ
nである。p−クラッド層37は、寄生容量を低減する
ために活性層付近でのメサ幅5μmの狭窄メサ形状に加
工されている。
【0034】また、基板31の下部にはn型オーミック
電極39が、p−コンタクト層38の上にはp型のオー
ミック電極40が形成されており、これらの電極39,
40を介して外部からレーザに電流が注入される。共振
器長は1mmである。
【0035】なお、図1に示す構造は次のようにして製
造される。まず、図3(a)に示すように、基板31上
に活性層32及びp−クラッド層33を成長し、これを
選択的にエッチングして活性領域ストライプ34を形成
する。次いで、図3(b)に示すように、p−クラッド
層37及びp−コンタクト層38を成長する。次いで、
図3(c)に示すように、p−コンタクト層38,p−
クラッド層37,p−クラッド層33及び活性層32
を、活性領域ストライプ34を含むメサ幅10μmのメ
サ形状に加工する。その後、メサの両側に露出した活性
層32aを除去することにより、図1に示す狭窄メサ構
造が得られる。
【0036】このような構成であれば、活性層32の各
井戸層35の側面はp−InPクラッド層37に接して
いるため、各井戸層35に均一かつ効率的に正孔の注入
が行える。活性層32にはp−クラッド層33からも正
孔が注入されるし、井戸層35面内でのキャリアの移動
は容易な上、活性層幅1μmと狭いので、井戸層35面
内のキャリア不均一は小さい。従って、厚さ方向にも幅
方向にも空間ホールバーニングによる利得飽和は起こり
難く、ダンピングの小さな高周波応答が可能になる。さ
らに、活性層32上部のp−クラッド層33のアクセプ
タ濃度が低いため、p−クラッド層33へしみ出した光
の吸収損失も小さい。従って、発振しきい値が低く、微
分利得の高い領域での動作が可能になる。
【0037】また、本実施形態の歪量子井戸活性層32
の側面において、アクセプタの拡散に起因して井戸層と
バリア層の混晶化が起こり易い。その結果、活性層側面
の格子不整合による応力が混晶化領域に分散し、転位の
発生を抑制できる効果も期待できる。仮に転位の発生が
あっても、転位は活性層32の内部よりもp−InPク
ラッド層37、ないしは活性層32とp−InPクラッ
ド層37の間にあるp型混晶化領域の中にあって、この
部分の電子濃度は低いから、レーザ発光への直接的な影
響は小さいものと考えられる。
【0038】この実施形態の歪多重量子井戸レーザの導
波損失は4cm-1であり、発振しきい値は8mAであっ
た。微分利得は7.5×10-123 /sであり、3d
B帯域は18GHzである。一方、活性層上部のp−ク
ラッド層33のアクセプタ濃度を1×1018cm-3とし
たレーザの導波損失は20cm-1、発振しきい値は15
mA、微分利得は5×10-12 3 /s、3dB帯域は
14GHzであった。これらのレーザの特性は満足なも
のである。活性層側面からの正孔注入効率が高いため、
GRIN構造のような成長工程の複雑な構造を使わなく
てもしきい値の低域が図れている。
【0039】なお、井戸の側面を直接Feドープ半絶縁
性InPで埋めた従来構造のGRIN歪量子井戸レーザ
では、しきい値は9mAと低いものの、微分利得は3.
8×10-12 3 /sに止まった。周波数応答特性には
活性層へ拡散してきたFeに起因すると見られる低周波
でのロールオフ構造が見られ、ダンピングも大きく、3
dB帯域は6GHzしかなかった。また、GRIN構造
を実現するための多段階に組成を変化させる結晶成長プ
ロセスも、本実施形態の半導体レーザと比べて複雑であ
る。
【0040】このように本実施形態によれば、多重量子
井戸活性層32の側面を、活性層32上のp−クラッド
層33よりもキャリア濃度の高いp−クラッド層37で
埋め込んでいるので、このp−クラッド層37から活性
層32に正孔を注入することができ、注入効率の向上、
さらに正孔密度の井戸間でのばらつきを抑制することが
できる。従って、注入効率の向上による微分利得の増
大,しきい値の低下,光に対する利得飽和の抑制、ひい
ては高速応答の実現が図れる。また、性能を落とさずに
量子井戸数を増やすことが可能になり、高出力化にも効
果がある。
【0041】なお、本発明は上述した実施形態に限定さ
れるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で、種々
変形して実施することができる。例えば、超高速光通信
用DFBレーザ,多電極波長可変レーザ,高出力レー
ザ,半導体レーザ増幅器などへの応用も考えられる。他
の材料系でも、価電子帯の障壁が高く正孔の均一な注入
が困難な場合に応用できる。この他、ファセット面に種
々のコーティングが施されていてもよいし、他の素子と
集積化されていてもよい。本発明の効果は、井戸数が大
きいときやバリア層厚が比較的厚い場合に特に有効であ
る。また、本発明は多重量子細線レーザへの応用も可能
である。細線が共振器ストライプの幅の方向と平行に形
成され、厚さ方向と長さ方向に多重形成されている場合
に、上記の実施形態と同様の効果が期待できる。
【0042】(第2の実施形態)次に、本発明の第2の
実施形態について説明する。この実施形態は、歪量子井
戸レーザに負のデチューニング(利得ピーク波長より少
しずれた波長に発振波長を設定すること)をかけて、高
速応答性の向上をはかったものである。
【0043】図4は、第2の実施形態に係わるDFB半
導体レーザの概略構造を一部切欠して示す斜視図であ
る。n−InP基板41上に、ストライプ状の活性層4
2が成長形成され、この活性層42の上に該活性層42
の側面も覆うようにp−InPクラッド層43が成長形
成され、さらにクラッド層43上にp−InGaAsP
コンタクト層44が形成されている。
【0044】活性層42は、図5に示すように、In
0.7 Ga0.3 As井戸層45が4層、InPに格子整合
する波長1.3μm組成のInGaAsP障壁層46に
挟まれている。InGaAsP障壁層46の内、最下部
の層461 は厚さ30nm、最上部の層465 は厚さ7
0nmであり、他の層462 〜464 は厚さ10nmで
ある。最上部の障壁層465 は光導波層を兼ねており、
ここに周期約245nmの一次の回折格子47が形成さ
れている。In0.7 Ga0.3 As井戸層45は、基板4
1と面内の原子間隔が一致するように成長するために、
約1.16%の圧縮歪が入っている。井戸層45の厚さ
は4nmであり、転位を発生させないための臨界膜厚よ
り十分に薄い。活性層42は故意にはドーピングされて
いないが、p−InPクラッド層を成長する際にドーパ
ントのZnが拡散するため、5×1017cm-3〜1×1
18cm-3のp型になっている。
【0045】p−クラッド層43は寄生容量を低減する
ために活性層付近でのメサ幅5μmの狭窄メサ形状に加
工されている。基板41の下部にはn型オーミック電極
51が、p−コンタクト層44の上にはp型のオーミッ
ク電極52が形成されており、これらの電極51,52
を介して外部からレーザに電流が注入される。共振器長
は300μmであり、共振器方向中央の回折格子には四
分の一波長の位相シフト領域48が形成されている。ま
た、へき開により形成されたファセット面には、反射率
1%以下の無反射コーティングが形成されている。
【0046】この半導体レーザの発振しきい値は22m
Aであり、波長1.52μmで副モード抑圧比40dB
以上の単一モード発振する。発振しきい値での利得ピー
ク波長は1.57μmであり、発振波長は50nm負に
デチューニングされている。大きな負のデチューニング
にもかかわらず、発振しきい値の上昇は小さい。狭窄メ
サ構造により、寄生容量と直列抵抗で決まる時定数は8
psであり、これはCR周波数帯域は20GHzに相当
する。
【0047】半導体レーザの注入電流Ib 、共振周波数
fr 、ダンピング係数γの間には、 fr=(1/2π)(ξA/qVa)1/2(Ib−Ith)1/2 …(1) γ=Kfr2+1/τs …(2) の関係がある。ここで、ξは光閉じ込め係数、Aは微分
利得、qは電子の電荷、Va は活性層体積、Ithは発振
しきい値、KはKファクターと呼ばれる係数、τs は微
分キャリア寿命である。Kファクターは非線形利得εと
微分利得Aの比ε/Aに比例する非線形項と、光子寿命
τp に比例する線形項の和で表される。非線形項はAに
反比例して小さくなるが、εに比例して大きくなる。K
ファクターとダンピングにより決まる理論上の最大3d
B帯域fmax の間には、 fmax =23/2 π/K …(3) の関係がある。
【0048】図6は、本実施形態の半導体レーザのfr
の(Ib −Ith)1/2 依存性である。式(1) から、微分
利得は6.8×10-12 3 /sと求められる。図7
は、この半導体レーザのγとfr 2 の関係を示す図であ
る。式(2) からKファクターは0.13nsと求められ
た。式(3) より、このレーザのfmax として68GHz
が得られる。これは、歪量子井戸構造の導入による微分
利得の増大に加えて、デチューニングとアクセプタ・ド
ーピングにより非線形利得εが小さく抑えられたために
実現されたものである。また、デチューニングに関して
言えば、歪量子井戸構造の導入によって初めて、これほ
ど大きな負のデチューニングが可能になったとも言え
る。もちろん、負のデチューニングとアクセプタ・ドー
ピングそのものも微分利得の増大に寄与している。
【0049】なお、本実施形態の場合、アクセプタ・ド
ーピングによる導波ロスの増加でτp が小さくなってい
ることも、線形項を介してKファクターの低域に寄与し
ていることを付記しておく。実際の3dB帯域はCR時
定数によるロールオフと出力パワーの飽和により17G
Hzであったが、これはレーザ構造の改良で改善できる
ので本質的な制限要因ではない。
【0050】図8は、微分利得対Kファクターの相関図
である。この実施形態のレーザのデータを従来の半導体
レーザの特性、負のデチューニングとドーピングを行っ
ていない歪量子井戸レーザの特性、及び20nm負のデ
チューニングをかけた歪量子井戸レーザの特性と比較し
てある。歪量子井戸レーザでは従来の半導体レーザと比
べて微分利得が大きくできるが、本実施形態のようなデ
チューニングやドーピングを行わない場合は非線形利得
εが大きくなるため、Kファクターがかえって大きくな
ってしまい、fmax はかえって小さくなってしまった。
これに対して本実施形態のレーザではKファクターが従
来のレーザより大きくなく、特に40nm以上のデチュ
ーニングをかけた場合は従来のレーザよりもかなり小さ
くなり、従来の半導体レーザにはない超高速の応答が得
られることが分かる。
【0051】(第3の実施形態)図9は、本発明の第3
の実施形態に係わる半導体レーザの概略構造を示す断面
図である。この半導体レーザ下記のようにして作製され
る。(001)主面を持つn型InP半導体基板1a上
に有機金属気相成長(MOCVD)法により、厚さ2μ
mのn型InPバッファ層(クラッド)1bを介して、
アンドープInGaAsP層光導波層3a、アンドープ
InAs/InGaAsP多重量子井戸活性層4、アン
ドープInGaAsP層光導波層3bを順に積層する。
活性層4は、図10に示すように、厚さ2nmのアンド
ープInAs歪量子井戸層2を12層、厚さ5nmのア
ンドープInGaAsP障壁層3を挟んで積層したもの
である。InGaAsP層光導波層3bの上に回析格子
を形成した後、上にSiO2膜を堆積し、通常のPEP
技術によりパターニングを行い、活性領域となる幅2μ
mのストライプの両サイドを幅1μmづつエッチングで
除去する。
【0052】次いで、SiO2 膜を除去した後、MOC
VD法により全体を厚さ2μmのp型InPクラッド層
5、厚さ0.8μmのp型InGaAsPコンタクト層
6で埋め込む。コンタクト層6の上にp型オーミック電
極(Ti/Pt/Au)11、基板1の下部にはn型オ
ーミック電極(Au/Ge)12を形成する。そして、
コンタクト層6とp型クラッド層5を選択エッチングに
より活性層4を含む幅10μmのメサに形成する。さら
に、SH系のエッチング液により外側の活性層を除去す
ることにより、図9に示すようなマッシュルーム型の断
面形状を持つ自己整合挟搾メサ(SACM)構造の半導
体レーザになる。このウェハは長さ1mmのバー状にへ
き開された後、幅300μmのチップに切り出され、モ
ジュールに実装される(図では省略)。
【0053】ここで、InGaAsP障壁層3の組成
は、図10に示すように、その禁制帯端が歪InAs層
2の軽い正孔に対する禁制帯端ELHとおおむね一致する
ように選ぶものとする。現状ではまだInP基板上の歪
In1-u Gau Asv 1-v (0≦x≦1,0≦y≦
1)のバンドアライメントは完全には知られていない。
しかし、InPに挟まれた歪InAs層は軽い正孔に対
してInPに挟まれたIn 0.53Ga0.47As層の場合よ
りも浅い量子井戸を形成することが分かっているので、
上記の条件を満たす無歪みのIn1-x Gax Asy
1-y 組成(0<x<0.47,0<y<1)が必ず存在す
る。
【0054】このようにすると、軽い正孔に対しては障
壁ができないため、軽い正孔は各井戸層2と障壁層3を
自由に移動することができる。しかも、軽い正孔は井戸
層内部で重い正孔と波動関数の重なり積分が0でないた
め、部分的に結合している。従って、p−クラッド層か
ら離れた井戸に対しても効率良く井戸へ正孔注入がはか
れ、また井戸間の結合も良くなる。この結果、低しきい
値で高速特性の優れた歪多重量子井戸レーザが実現され
る。
【0055】軽い正孔に対して障壁ができていないこと
は、例えばフォトルミネセンスなどの測定により、確か
めることができる。即ち、重い正孔と電子の再結合によ
る発光は井戸層に平行な偏波成分のみ許容されるのに対
して、軽い正孔と電子の再結合による発光は井戸に垂直
な成分と平行な成分の両者に対して許容されるので、そ
の区別が可能であり、軽い正孔による発光が量子化され
た準位によるものかどうか調べることで、軽い正孔に対
する価電子帯端ELHが概略一致しているかどうかの判断
を下すことができる。
【0056】なお、本発明は上記の実施形態に限らず、
種々の変形が可能である。例えば、InGaAsP障壁
層3をInPよりも格子定数の小さな材料で構成しても
よい。この場合のバンド構造の概念図を図11に示す。
このようにすると、活性層が埋め込まれた歪多重量子井
戸レーザにおいて、側面の格子不整合の影響を正負の歪
みで相殺することができるので、歪井戸層の多層化を計
る際に格子欠陥の発生を抑制することができる。
【0057】また、基板より格子定数の小さな半導体層
を井戸層とする場合には、逆に歪井戸層と障壁層の重い
正孔に対する価電子帯端EHHを概略一致させることで、
軽い正孔に対する量子井戸に関しても同様に、正孔の注
入効率向上と井戸間の結合効率の改善を計ることができ
る。この場合のバンド構造図を図12に示す。
【0058】光導波層の横方向光(および電流)閉じ込
め構造は上記のSACM構造の他、埋込みヘテロ構造、
半絶縁性InP埋込み構造など様々なタイプが可能であ
る。分布帰還型(DFB)レーザのほかに、ファブリペ
ロ(FP)レーザ、分布反射型(DBR)レーザ、複数
の電極を持つ波長可変レーザ、複合共振器レーザ、モニ
タ集積レーザ、光導波路集積レーザ、双安定レーザなど
であってもよい。もちろん、半導体レーザ光増幅器、キ
ャリア注入型光スイッチ、半導体光変調器、これらを集
積化したフォトニックICなどにも本発明を適用するこ
とができる。もちろん、材料もInAsやInGaAs
Pに限定されるものではない。
【0059】
【発明の効果】以上詳述したように本発明によれば、量
子井戸活性層へのキャリア注入効率を上げることがで
き、発振しきい値が低く、かつ高速応答可能な光半導体
素子を実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】第1の実施形態に係わる多重量子井戸半導体レ
ーザの概略構造を示す断面図
【図2】第1の実施形態の要部構成を拡大して示す断面
【図3】第1の実施形態レーザの製造工程を示す断面図
【図4】第2の実施形態に係わる半導体レーザの概略構
造を一部切欠して示す斜視図
【図5】第2の実施形態の要部構成を示す断面図
【図6】第2の実施形態のfr の(Ib −Ith)1/2
存性を示す図
【図7】第2の実施形態のダンピング係数γとfr 2
の関係を示す図
【図8】第2の実施形態におけるレーザ微分利得とKフ
ァクターとの相関を示す模式図
【図9】第3の実施形態に係わる半導体レーザの概略構
造を示す断面図
【図10】第3の実施形態レーザの活性層のバンド構造
を示す模式図
【図11】第3の実施形態における活性層のバンド構造
の他の例を示す模式図
【図12】第3の実施形態における活性層のバンド構造
の他の例を示す模式図
【図13】従来の多重量子井戸半導体レーザの概略構成
を示す断面図
【符号の説明】
1a…n型InP基板 1b…n型InPバッファ層(クラッド層) 2…InGaAs歪量子井戸層 3…InGaAsP障壁層 4…多重量子井戸活性層 5…p型InPクラッド層 6…p型InGaAsPコンタクト層 8…埋込み層 31…基板 32…歪量子井戸活性層 33…第1のp−クラッド層 34…活性領域ストライプ 35…歪量子井戸層 36…障壁層 37…第2のp−クラッド層 38…コンタクト層 39,40…電極
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 小野村 正明 神奈川県川崎市幸区小向東芝町1番地 株 式会社東芝総合研究所内 Fターム(参考) 5F073 AA22 AA64 AA74 AA83 CA07 CB17 CB22 DA05 DA23 EA14 EA23

Claims (5)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】多重量子井戸活性層と、この活性層の主面
    に形成された第1のp型クラッド層と、前記活性層の側
    面に形成された、第1のp型クラッド層よりもアクセプ
    タ濃度の高い第2のp型クラッド層とを具備してなるこ
    とを特徴とする光半導体素子。
  2. 【請求項2】第1のp型クラッド層のアクセプタ濃度
    を、前記活性層から0.25μmの範囲で2×1017
    -3以下に設定し、且つ第2のp型クラッド層のアクセ
    プタ濃度を1×1018cm-3以上に設定したことを特徴
    とする請求項1記載の光半導体素子。
  3. 【請求項3】前記井戸層は、Inx Ga1-x As(0.53
    <x≦1)からなることを特徴とする請求項1記載の光
    半導体素子。
  4. 【請求項4】本来の格子定数が半導体基板の格子定数よ
    り大きい井戸層と、本来の格子定数が半導体基板の格子
    定数と等しい又はそれより小さく且つ前記井戸層よりも
    禁制帯幅の広い障壁層とを、交互に積層した多重量子井
    戸構造の光半導体素子において、 前記井戸層の軽い正孔帯の禁制帯端と前記障壁層の軽い
    正孔帯の禁制帯端を、略一致させてなることを特徴とす
    る光半導体素子。
  5. 【請求項5】本来の格子定数が半導体基板の格子定数よ
    り小さい井戸層と、本来の格子定数が半導体基板の格子
    定数と等しい又はそれより大きく且つ前記井戸層よりも
    禁制帯幅の広い障壁層とを、交互に積層した多重量子井
    戸構造の光半導体素子において、 前記井戸層の重い正孔帯の禁制帯端と前記障壁層の重い
    正孔帯の禁制帯端を、略一致させてなることを特徴とす
    る光半導体素子。
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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JP2007227745A (ja) * 2006-02-24 2007-09-06 Sharp Corp 半導体レーザ素子とその製造方法、および光無線通信用送信装置、光ディスク装置

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