JP2001242009A - 歯車動的性能の評価システム及び評価方法 - Google Patents

歯車動的性能の評価システム及び評価方法

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JP2001242009A JP2000054298A JP2000054298A JP2001242009A JP 2001242009 A JP2001242009 A JP 2001242009A JP 2000054298 A JP2000054298 A JP 2000054298A JP 2000054298 A JP2000054298 A JP 2000054298A JP 2001242009 A JP2001242009 A JP 2001242009A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 連続ならびに離散ウェーブレット変換を用い
て、動的性能の時間・周波数解析を行い、得られた時間
的変化を統計的手法ならびに時系列的データ処理手法等
により総合して評価する。 【解決手段】 試験歯車対1及び動力伝達用歯車対2に
は、一方のねじり軸4にはトルク負荷用カップリング5
が取り付けられ、負荷を加える。コップ式無段変速機6
を介して三相誘導電動機7の動力が動力伝達用歯車対2
を駆動し、入力動力は歯車列内を循環する。歯車箱振動
加速度は圧電型振動加速度ピックアップ8により、歯車
近傍音圧はコンデンサ型マイクロフォン9により、歯元
ひずみはひずみゲージにより、フォトセンサ12、13
により、歯車の歯の位置及び回転数を、測定した。各測
定値はデータレコーダ17に記録され、コンピュータ1
8で離散的ウェーブレット変換を用いて解析した。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、歯車動的性能の評
価システム及び評価方法に係り、特に、離散ウェーブレ
ット変換を用いた歯車動的性能の評価システム及び評価
方法に関する。
【0002】
【従来の技術】道路を行き交う多くの自動車や自動二輪
車、オフィス革命をもたらしたOA機器、産業用ロボッ
トなど、あらゆる分野に歯車が利用されているが、歯車
は装置の中に組み込まれており、その姿を直接見ること
はほとんどない。歯車は、2軸の間に動力を伝えたいと
き、また速度を変えたいとき、大きなトルクを得たいと
きなどに用いられている重要な機械要素の一つである。
歯車工学には、歯形形状および歯形の機構学的問題に関
する分野、動力伝達用として必要な強さを有するように
設計する設計分野、さらに運転や振動・騒音などに関す
る分野などがある。歯車における最近の課題は、歯車装
置の大きさに対して従来よりも小型で負荷能力の大きい
ものを安価に作ることと、振動・騒音を低減することで
ある。
【0003】ここで歯車の動的性能の評価が重要とな
る。一般に、歯車の動的性能とは、歯車装置の振動、騒
音、歯元ひずみ等に関するものである。近年、歯車が高
速・高負荷条件下で運転されるようになり、それに伴っ
て歯車装置の振動・騒音への関心が高まっている。従来
から歯車の材料としては鋼材が広く用いられているが、
近年ではコスト的な面から焼結材の利用も広まってい
る。焼結歯車はその製造工程上、内部に気孔を有するた
め強度的には鋼製歯車に劣るが、制振性については優れ
ているといわれている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】歯車の損傷は歯の折損
だけではなく、歯面の接触の繰り返しによる疲労が原因
で歯面がはく離するピッチングやスポーリング損傷があ
る。また、歯車材料自体の疲労ではないが長期の運転に
より潤滑油が劣化することが原因で十分な油膜が歯面間
に形成されず、歯面間が金属接触することで焼付き(S
cuffing、Scoring)が発生する場合があ
る。歯車の疲労に伴う故障診断を行う際に、歯の折損を
対象とする場合には式からわかるように歯の剛性の値が
大きく変化するので、歯車運転性能も大きく変化する。
しかし、歯面の損傷の場合には、多少の歯面はく離が生
じても歯の剛性に及ぼす影響は、歯の折損に比べ非常に
小さい。そのため、ピッチングやスポーリングなどの歯
面はく離の損傷を早期に診断するには、劣化状態をモニ
ターする検出器や歯車運転性能波形の解析方法を工夫し
なければならない。
【0005】従来より、歯車や軸受などの故障診断を時
間・周波数解析を用いて行っている研究は国内外に存在
する。しかしながら、歯車に関しては、歯の折損に関す
る故障診断を行っている研究はあるものの、歯面の損傷
に関する研究はあまりなされていない。また、従来、歯
車動的性能の評価方法としては、高速フーリエ変換など
を用いての周波数解析によっていたが、動的性能の時間
的周波数変化を捉えることができないため、歯車装置の
故障の初期発見や歯車制振特性などを評価し難い状況に
あった。
【0006】本発明は、以上の点に鑑み、連続ならびに
離散ウェーブレット変換を用いて、動的性能の時間・周
波数解析を行い、得られた時間的変化を統計的手法なら
びに時系列的データ処理手法等により総合して評価する
ことを目的とする。また、本発明では、焼結歯車と鋼製
歯車の運転時の歯元ひずみ、歯車箱振動加速度、歯車箱
近傍音圧等の各種パラメータについて、ウェーブレット
変換を用いて時間・周波数解析し、歯車の制振特性を評
価することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】本発明において、具体的
には、例えば、連続ならびに離散ウェーブレット変換に
より、歯車の歯元ひずみの時間的変化の波形を任意の周
波数ごとに分解し、これからの歯車材料による歯元ひず
みの周波数特性の差を明確化した。これにより焼結歯車
が鋼製歯車より制振特性に優れていることがわかった。
本発明は、歯車材料による制振特性の差の把握、歯車装
置の故障の初期発見、故障診断、歯車の損傷・析れの把
握等に有用である。
【0008】本発明の第1の解決手段によると、少なく
とも1組の歯車がトルクの負荷を与えられた状態でかみ
あわされた被測定歯車と、前記被測定歯車を駆動する駆
動部と、前記被測定歯車の所定の測定値を測定する測定
部と、前記測定部により測定された測定値を解析する解
析部とを備え、前記解析部は、特定の時間の測定値に基
づき、離散ウェーブレット変換により、特定の時間及び
特定の振動周波数を変数として計算し、ウェーブレット
成分を低周波成分及び高周波成分に分解して求め、前記
歯車対の動的性能を評価するようにした歯車動的性能の
評価システム装置を提供する。
【0009】また、本発明の第2の解決手段によると、
少なくとも1組の歯車がトルクの負荷を与えられた状態
でかみあわされた被測定歯車の歯車動的性能の評価方法
であって、前記被測定歯車を駆動し、測定された前記被
測定歯車の所定の測定値を入力する入力ステップと、入
力された測定値を解析する解析ステップとを含み、前記
解析ステップは、特定の時間の測定値に基づき、離散ウ
ェーブレット変換により、特定の時間及び特定の振動周
波数を変数として計算し、ウェーブレット成分を低周波
成分及び高周波成分に分解して求め、被測定歯車の動的
性能を評価するようにした歯車動的性能の評価方法を提
供する。
【0010】
【発明の実施の形態】(1)歯車のかみあい 図1に、歯車のかみあいの模式図を示す。歯車は、歯が
かみあって動力を伝える機械要素である。歯車のかみあ
い歯数の状態を表す指標としてかみあい率εがある。
かみあい率が1.xxxの場合には、歯bに着目する
と、かみあい始めには歯aとbの2対の歯がかみあう。
かみあいが進むと歯bのみでかみあい、かみあい終わり
には歯bとcの2対の歯でかみあう。かみあい率が2.
xxxの場合には3対と2対の歯のかみあいが繰り返さ
れることとなる。このような歯のかみあいを繰り返すこ
とにより歯車は動力を伝えることができ、歯数zの歯車
が一定の回転速度n(rpm)で回転する場合には、次
式で示すかみあい周波数fあるいはかみあい周期T
で歯がかみあう。 f=1/T=zn/60
【0011】図2に、一般化した歯車対の振動モデルの
説明図を示す。歯車の軸のねじり剛性が歯の剛性に比べ
て充分に大きいときには、軸のねじり剛性を無視するこ
とができ、トルクTQiを伝える一対の歯車の回転方向
の運動方程式は、歯をばねとして歯車本体の慣性質量を
作用線方向に換算した等価慣性質量とする1自由度の非
線形運動方程式として表すことができる。その運動方程
式を式に示す。 Mx”+Dx’+ΣK(t,x)x=W+ΣK(t,
x)e(t,x)
【0012】ここで、xは作用線上の相対変位、Mは等
価慣性質量、Dは減衰係数、ΣK(t,x)はかみあっ
ている歯の対の剛性、Wは歯面法線に働く静荷重、e
(t,x)は歯形誤差である。この式の強制外力はΣK
(t,x)e(t,x)である。歯の対の剛性と強制外
力はかみあい周期で周期的に変化することとなる。
【0013】図3に、歯車の運転性能測定についての説
明図を示す。実際に歯車の運転性能を測定する場合、図
に示すように歯車箱4の振動や騒音、歯42の歯元にひ
ずみゲージ43を貼り付けて歯元ひずみ(歯元応力)が
測定されている。歯元ひずみは、歯車軸を含む歯車の軸
系のねじり振動の挙動を間接的に表している。また、歯
車箱の振動は歯車のねじり振動が軸、軸受を伝ぱして歯
車に伝わり起こるものであり、その歯車箱の振動が空気
を振動させることにより騒音が発生する。
【0014】以上のことから歯のかみあいによって起こ
る歯車の運転性能波形は、かみあい周波数あるいはかみ
あい周期に大きく依存していることがわかる。
【0015】(2)評価システム 図4に、本発明に係る歯車動的性能の評価システムの構
成図を示す。試験に用いた評価システムは、動力循環式
歯車試験機で歯数比と軸間距離を等しくする2組の歯車
対(即ち、試験歯車対1、動力伝達用歯車対2)のそれ
ぞれをねじり軸で結んでいる。一方の歯車側のねじり軸
4にはトルク負荷用カップリング5が取り付けられてお
り、重錘式レバーを用いてトルクを負荷した状態でカッ
プリングを締結することにより歯車に負荷を加えること
ができる。コップ式無段変速機6を介して三相誘導電動
機7の動力が動力伝達用歯車対2のやまば歯車を駆動
し、入力動力は歯車列内を循環する。
【0016】この例では、大歯車を被動側、小歯車を駆
動側として、単位歯幅当たり歯面法線荷重P/b=1
42N/mm(小歯車の負荷トルク30Nm)を歯車対
に負荷し、大歯車回転速度nを1600rpmから1
0000rpmの範囲で200rpm毎に変化させて、
歯車の動的性能を測定した。小歯車の歯車軸に取り付け
たトルク負荷用カップリング5を用いて、重錘式レバー
によりトルクを負荷することで歯車対に負荷を加えるこ
とができる。潤滑油はEP3090ギヤ油で、油温を3
13±5Kに制御した。
【0017】歯車箱振動加速度については、試験歯車対
1の歯車箱側面中央に取り付けた圧電型振動加速度ピッ
クアップ8(例えば、応答周波数1Hz〜25kHz)
によりチャージアンプ16を介して測定した。歯車近傍
音圧については歯車箱側面より法線方向に300mm離
れた位置にコンデンサ型マイクロフォン9(例えば、応
答周波数5Hz〜12.5kHz)を固定し、騒音計1
4及びペンレコーダ15により測定した。大歯車の歯の
圧縮側歯元の最弱断面位置付近にひずみゲージ(例え
ば、ゲージ抵抗120Ω、ゲージ長0.3mm)を貼付
し(図3参照)、一組のブリッジを組み、スリップリン
グ10、ストレインアンプ11(例えば、応答周波数D
C〜100kHz)を介して歯元ひずみを測定した。両
歯車軸に取り付けたスリット板とフォトセンサ12、1
3により、歯車の歯の位置及び回転数を測定した。これ
らの測定結果は、このフォトセンサ12、13の同期信
号とともに、データレコーダ17(例えば、4ch)に
記録され、信号解析には特定の歯がかみ合うときのデー
タを、一例として、8回加算平均したものを利用した。
さらに、データレコーダ17の出力をコンピュータ18
で解析した。
【0018】ここで、試験歯車対1について説明する。
図5は、試験歯車対の諸元を示す説明図である。試験歯
車対は、小歯車(ピニオン)と大歯車(ギヤ)を含み、
試験歯車は大歯車である。ここでは、一例として、試験
歯車には焼結歯車と鋼製歯車を用いた。相手側小歯車に
は鋼製浸炭硬化歯車を用いた。ヤング率およびポアソン
比は焼結歯車で152GPa、0.25、鋼製歯車で2
06GPa、0.30である。焼結歯車には、127〜
175μmの粉末粒子径を有する合金鋼粉を用い、その
鋼粉に黒鉛とステアリン酸亜鉛を混合した後、圧粉成形
した。そして、窒素ガス雰囲気中で焼結し、ホブによる
歯切りと歯面研削の後、イオン窒化を施した。鋼製歯車
の素材にはSCM440鋼を用い、ホブによる歯切りの
後、高周波焼入れし、歯面研削を行った。
【0019】図では、小歯車(ピニオン)及び大歯車
(ギヤ)に関して、それぞれ、以下のパラメータが示さ
れる。すなわち、モジュール、基準圧力角、歯数、転位
係数、歯先円直径、中心間距離、歯幅、かみあい率、精
度、歯面仕上げ、研削である。
【0020】(3)ウェーブレット変換による時間・周
波数解析 (3−1)連続ウェーブレット変換 ウェーブレット変換(WT:Wavelet Tran
sform)は、時間的にも周波数的にも局在したアナ
ライジングウェーブレットと呼ばれる関数ψ(t)の相
似変形と平行移動を利用した時間・周波数2次元解析で
あり、入力信号f(t)のWTは(1)式で定義され
る。このf(t)が時間的変化する(時刻t)各種セン
サによる測定値を表す。ここで、ψ(t)はψ(t)
の複素共役で、a、bはそれぞれ周波数と時間に関する
パラメータである。パラメータaは、例えば、周波数0
から、測定に使用される各種センサの最高応答周波数ま
で適宜変化させることができる。パラメータbは、測定
する時間の長さ分変化させることができる。また、ウェ
ーブレット逆変換は(2)式で表される。ただし、ψ
(t)は、(3)式のアドミッシブル条件を満たされな
ければならない。ここで、ωは角周波数、ψ(ω)の^
(ハット)はフーリエ変換である。
【0021】
【数2】
【0022】(1)式の計算には台形公式を利用し、そ
の結果はエネルギー強度について次式で示す方法で表し
た。ここで、ReとImは、それぞれ実数部と虚数部で
あるウェーブレットマップを表示する際には、マップ中
のウェーブレットの最大強度を100として表示した。
【0023】
【数3】 (3−2)離散ウェーブレット変換
【0024】(1)式の値を平面上の点(b、1/a)
にプロットしたウェーブレットマップは、信号の性質を
知るのに便利であるが、演算を行うには(1)式の右辺
の積分がそれほど簡単ではないこと、さらに(Wψf)
(b,a)には多くの情報が重複していることなどのた
め、必ずしも効率的ではない。このことから、(1)式
で示した連続ウェーブレット変換の座標を2つの整数j
とkによって(2−jk、2−j)として離散化するこ
とにより、ある関数f(t)に関する離散ウェーブレッ
ト変換は(1)、(2)式より(Wψf)(b,a)を
(j)とおくと(6)式で与えられる。ここで、j
はレベルと呼ばれ、周波数に関するパラメータである。
また、kは時間に関するパラメータである。これらパラ
メータはa、bと同様に変化させる。上述で示したよう
な(b、a)の値を任意にとり、変換を行う方法を連続
ウェーブレット変換、後半で示したように(b、a)を
(2−jk、2−j)に置き換えて、離散化させて変換
を行う方法を離散ウェーブレット変換という。
【0025】また、離散ウェーブレット逆変換は(7)
式で定義される。ここで、g(t)は、(8)式のよ
うに定義した。また、f(t)の任意のレベルでの関数
をf (t)とすると、(9)式と表すことができる。
【0026】
【数4】
【0027】ここで、{c (j)}は任意の数列であ
り、φ(t)はスケーリング関数と呼ばれ、マザーウェ
ーブレット関数ψ(t)とともに(10)、(11)式
のトゥースケール関係を満たす。ここで、{p}と
{q}はトゥースケール数列である。ウェーブレット
変換を用いて関数f(t)を分解するアルゴリズムと再
構成するアルゴリズムは、(12)式と(13)式でそ
れぞれ与えられる。ここで、{a}と{b}は分解
アルゴリズムで使用される数列である。あるレベルでの
関数g(t)とf(t)は(8)、(9)式から計
算することができ、それら関数の間には(14)式の関
係が成り立つ。
【0028】
【数5】
【0029】与えられた離散データを分解するために、
レベル0における数列{c (0)}は(16)、(1
7)式から求めた。数列{β}は|k|>7のとき、
0として近似した。
【0030】
【数6】
【0031】本発明では、アナライジングウェーブレッ
トとして、一例として、連続変換にはGabor関数
を、離散変換にはHaar関数を用いた。以下に、Ga
bor関数とHaar関数について示す。Gabor関
数は次式で与えられる。
【0032】
【数7】
【0033】ここでωは中心周波数、rは周波数領域
での局在の幅を決めるパラメータである。図6には、G
abor関数の時間波形図と周波数特性図を示す。Ga
bor関数は時間的にも周波数的にも局在性の良い関数
であることがわかる。つぎに、Haar関数は次のよう
に定義される。
【0034】
【数8】
【0035】図7に、Haar関数の時間波形図を示
す。ここではψ(2t−k)の一例を示す。この関数
ではレベルjでの矩形波の波長が1/2でk(k=
0、1、…2−1)によって位置が決まる。周波数パ
ラメータaは2−j、時間パラメータbは2−jkと置
くため、aとbとの間にはb=akという関係が成り立
つ。このため時間bと周波数1/aとは反比例の関係に
なり、同時に細かくとることはできない。つまり、周波
数を細かくとると時間の分解能が悪くなり、逆に、時間
を細かくとると周波数の分解能が悪くなる。
【0036】この他に、スケーリング関数に4階のカー
ディナルBスプライン関数N(t)を用いることがで
きる。m階のカーディナルBスプライン関数N(t)
は次式で与えられる。
【0037】
【数9】
【0038】図8は、4階(=4)のスプライン関数N
(t)を用いたφ(t)とψ(t)を示す図である。
スプライン関数N(t)が、スケーリング関数φ
(t)自身である。N(t)を用いたマザーウェーブ
レット関数ψ(t)は、滑らかで対称性を有しているこ
とがわかる。なお、与えらた関数をN(t)に基づい
て分解・再構成する際に必要な(12)、(13)式
中の数列{p}、{q}、{a} 、{b}の
値は、一例として、文献、「榊原進, ウェーヴレットビ
キナーズガイド, (1998), 東京電機大学出版局」、及
び、「C. K. Chui著,桜井・新井訳, ウェーブレット入
門, (1994), 東京電機大学出版局」を参照した。
【0039】つぎに、図9に、離散ウェーブレット変換
による評価方法のフローチャートを示す。図示のよう
に、処理が開始されるとまず測定値f(t)を入力する
(S10)。測定値f(t)は、上述のように、振動加
速度ピックアップ8、マイクロフォン9、ひずみゲージ
43、フォトセンサ12、13等の各種センサからの信
号の時間的変化量である。つぎに、上述した式に従いd
(j)とc (j)を計算する(S13)。つぎにf
(t)、g(t)を計算する(S15)。つぎに、
計算されたf(t)、g(t)を表示して(S1
7)、処理を完了する。表示方法としては、表やグラフ
等の適宜の手段をとることができる。
【0040】(4)ウェーブレット変換による解析例 図10は、WTによる解析例を示す図である。解析した
信号は以下のように表され、その信号波形は図(a)に
示すとおりである。
【0041】
【数10】
【0042】f(t)は振幅が時間的に変化する周期1
28μs(周波数7.81kHz)の正弦波形であり、
t=1024μsからはその正弦波形に周期32μs
(周波数31.25kHz)の余弦波が加わったもので
ある。図(b)はf(t)の信号に対して、Gabor
関数を用いたウェーブレットマップを示す。図のスケー
ルがエネルギー強度を示し、濃い部分が強いことを示
す。この図より、f(t)には時間的に強度が変化する
周波数7.81kHzの成分に加え、t=1024μs
からは周波数31.25kHzの成分の強度が現われて
いることがわかる。
【0043】次に、上述の信号に対してHaar関数を
用いて離散ウェーブレット変換を行う。ここでサンプリ
ング時間をt、サンプリング点数をNとすると、レ
ベルjでの解析周波数fはf=2/(N
)で近似できる。図(c)(d)には、f(t)を
周波数15.63kHzを境に高周波領域と低周波領域
に分割・再構成した波形をそれぞれ示す。周波数15.
63kHz以下では、時間的に振幅の変化する周波数
7.81kHzの波形が近似的に再構成されており、ま
た高周波領域にはt=1024μsから周波数31.2
5kHzの波形が再構成されている。以上の結果から、
WTにより信号の時間に対する周波数成分の変化を捉え
ることができ、任意の周波数で波形を分解・再構成でき
ることが確認できた。
【0044】(5) 制振特性の評価 つぎに、制振特性の評価について述べる。
【0045】(5−1) 従来の評価法 まず、従来の歯車動荷重評価について説明する。図11
は、大歯車回転速度nに伴う動荷重比σdmax/σ
smaxの変化を示す図である。σdmaxは各回転速
度での動的歯元応力の最大値であり、σ smaxは静的
歯元応力の最大値である。ここでσsmaxはn=6
rpmでの歯元応力である。fはかみあい周波数で、
は歯車対のねじり振動の固有振動数であり、その値
は約2.56kHzであった。焼結歯車および鋼製歯車
ともにnの増加に伴い動荷重比は変動しており、n
=4200rpm(f=1.12kHz)、6000
rpm(f=1.60kHz)、9000rpm(f
=2.40kHz)で極大となっている。n=90
00rpm、4200rpmではかみあい周波数がf
あるいはその1/2に近い周波数であったため、歯車対
が共振し動荷重比が高くなったものと考えられる。ま
た、歯車箱の固有振動数は約5kHzであったため、n
=9000rpm、6000rpm、4200rpm
のかみあい周波数が歯車箱の固有振動数のほぼ1/2、
1/3、1/4に対応して、歯車箱全体が共振し動荷重
比が高くなったものと考えられる。同じ大歯車回転速度
に対して、焼結歯車の動荷重比のほうが、鋼製歯車より
も概して小さい傾向にある。
【0046】(5−2)連続ウェーブレット変換による
評価法 つぎに、連続ウェーブレット変換による評価について述
べる。図12は、ウェーブレットマップの図である。図
(a)は鋼製歯車、図(b)は焼結歯車についての図で
ある。この図は、動荷重比が最大となったn=900
0rpmでの歯元ひずみ波形のウェーブレットマップを
示す。このマップでは、解析した時間・周波数領域での
強度の最大値を100として正規化してある。n=9
000rpmにおける1対の歯のかみあう時間は約0.
52msであり、この時間を半周期とする波形の周波数
は約0.96kHzである。そのため、低周波領域での
強度が高いところは歯のかみあいの進行に伴う荷重移動
に起因し、高周波領域の強度が高いところは歯車軸を含
む歯のねじり振動に起因していると考えられる。両歯車
ともに、ピークになる時間はピッチ点付近であるが、焼
結歯車の方が非常に小さい強度を示している。
【0047】(5−3)離散ウェーブレット変換による
評価 つぎに、離散ウェーブレット変換による評価について述
べる。連続ウェーブレット変換により得られたウェーブ
レットマップでは、各周波数における波形の形について
は直感的にわかりづらい。すなわち、連続ウェーブレッ
ト変換では、エネルギーの大きさが得られるものの、波
形の時間的変化が得られない。そこで離散ウェーブレッ
ト変換を用いて、歯元ひずみ波形を特定の周波数で分解
して考察する。
【0048】図13に、歯元ひずみの分解波形図を示
す。この図は、n=9000rpmの歯元ひずみ波形
を離散ウェーブレット変換し、レベルjごとに再構成し
た波形g(t)と、そのレベルj未満で再構成した次
式で表される波形f(t)を示す。
【0049】ここで、f(t)は、低周波数成分であ
り、図中上側の波形を示す。g(t)は、レベルjの
周波数における振動を表す高周波数成分であり、図中下
側の波形を示す。g(t)は分解されたウェーブレッ
ト成分である。これら離散値は、次式の関係にあり、上
述のようにコンピュータにより高速に計算することがで
きる。 f(t)=fj−1(t)+gj−1(t)
【0050】例えば、この図のf(t)はほぼ荷重移
動による成分のみの歯元ひずみ変動を表していると考え
られるが、両歯車ともに大差はない。しかし、レベル
5、6、7の高周波成分になると、鋼製歯車の方が大き
な振幅を示している。
【0051】次に高周波領域全体を考察するために、特
定の周波数を境に分解・再構成する。図14に、大歯車
回転速度と周波数推移についての図を示す。この図は、
各大歯車回転速度における鋼製歯車のウェーブレットマ
ップにおいて、最大の強度(ピーク値)における周波数
と、その次に高い強度における周波数を示す。図中の黒
色の曲線はfまたはfの整数倍を表し、灰色の曲線
は1/(2εT)の周波数を表す。ここでT(=1
/f)はかみあい周期で、εはかみあい率である。歯
元ひずみ波形の荷重移動に起因する成分と歯車のねじり
振動に起因する成分を分離するためには、付近で歯元ひ
ずみを分解するのが妥当であると考えられる。
【0052】図15に、n=9000rpmにおける
歯元ひずみのf以上での再構成波形およびε−ε
n=6の波形図を示す。この図は、f=9000rp
mにおける歯元ひずみについて、fより高い周波数領
域で再構成した波形と、n=9000rpmの波形か
らn=6rpmで測定した静的歯元ひずみ波形を引算
した波形ε−εn=6を示す。εとεn=6では波
形自体の時間のオーダは異なるが、Tで各波形を正規
化してε−εn=6を求めた。静的な歯元ひずみ変化
を差し引いたε−εn=6の波形は近似的に歯車のね
じり振動を表していると考えられる。各歯車において2
つの波形は類似していることがわかる。つまり、離散ウ
ェーブレット変換を用いてfより高い周波数成分を取
り出すことで、歯元ひずみ波形に含まれるねじり振動に
起因する成分を取り出すことができるといえる。両歯車
について比較すると、焼結歯車ではかみあい中の振幅の
変化が少ないが、鋼製歯車では振幅が大きく変化し、ピ
ッチ点付近で大きな振幅を示している。
【0053】図16は、大歯車回転速度に伴う歯元ひず
みの変化を示す図である。この図は、fを境に歯元ひ
ずみの波形を高周波領域と低周波領域に分解・再構成し
た波形の最大値と最小値との差を回転速度毎に示す。低
周波領域については、両歯車ともに大きな変動はなく、
ほぼ一定の値であり、概して、焼結歯車のほうがひずみ
の値が大きい。これはヤング率とポアソン比が鋼に比べ
小さいことに由来すると考えられる。回転数の増加に伴
う高周波領域の変動については、図11の動荷重比に見
られた周期的な変動と定性的に同じである。その変動の
振幅については、概して焼結歯車のほうが小さい。
【0054】図17(a)は、大歯車回転速度に伴う歯
車箱振動加速度の変化を示す図である。図17(b)
は、大歯車回転速度に伴う歯車箱近傍音圧の変化の図を
示す図である。これらの図は、同様に、歯車箱振動加速
度と歯車箱近傍音圧についても、離散ウェーブレット変
換を用いてf付近を境に各波形を分解・再構成し、そ
の最大値と最小値との差を各回転数毎に示す。f以下
の低周波領域では両歯車ともに大差はないが、高周波領
域では鋼製歯車のほうが大きな値を示している。歯車の
かみあいによって生じるねじり振動が、軸と軸受を伝ぱ
して歯車箱を振動させ、その歯車箱の振動が空気中に放
射され騒音となる。このため、歯車のねじり振動を抑え
ている焼結歯車のほうが、歯車箱振動加速度と歯車箱音
圧においても、f以上の高周波領域でともに低い値を
示しているといえる。
【0055】(6)歯車運転性能評価 つぎに、歯車運転性能評価について説明する。WTを用
いた歯車の運転性能評価を行うために、異なる歯車材質
を用いてそれら歯車の性能を測定する。歯車材質とし
て、鋼の原料粉(クロム・モリブデン鋼に相当)から作
られた焼結材と一般的に歯車に使用されている鋼材(J
IS:SCM440)を用いた。焼結材は、その内部に
気孔を有しているために、鋼に比べ制振性があといわれ
る材料である。歯車諸元は上述の図に示したとおりで、
大歯車の材質を焼結材と鋼材とし、相手小歯車には鋼材
を用いた。歯車運転性能の測定方法は、上述のように、
大歯車回転速度を1600rpmから10000rpm
まで200rpm毎に変化させ、歯元ひずみ、歯車箱振
動加速度、歯車箱近傍音圧を測定した。また、動荷重を
求める際に動的な歯元応力の最大値σdmaxと静的な
歯元応力の最大値σ maxが必要となる。そこで、n
=6rpmで測定した歯元ひずみから静的歯元応力を
求めた。
【0056】(6―1) 従来の性能評価法 大歯車回転速度nの増加に伴う動荷重比σdmax
σsmaxの変化は上述と同様である。図18は、
(a)大歯車回転速度nの増加に伴う歯車箱振動加速
度レベルVALと、(b)歯車箱近傍音圧レベルSPL
の変化を示す図である。振動加速度レベルVALおよび
音圧レベルSPLは、次の式で定義した。 VAL=20log arms/a SPL=20log prms/p ここで、armsは大歯車1回転中の振動加速度波形の
実効値であり、aは1x10−2m/sとした。ま
た、prmsは大歯車1回転中の音圧波形の実効値であ
り、pは2x10−5Paとした。焼結歯車と鋼製歯
車ともに、VALとSPLはnの増加とともに変動し
ながら増加する傾向にある。動荷重比が極大となるn
=4200rpm、6000rpm、9000rpmに
おいて、VALとSPLは極大値を示す傾向にある。ま
た、鋼製歯車よりも焼結歯車のほうがVALとSPLの
レベルの値は概して小さい。したがって、焼結歯車のほ
うが歯車のねじり振動に関する制振特性が優れている。
すなわち、歯車対の回転方向振動を強制振動の運動方程
式で表したときの減衰係数は焼結歯車のほうが小さいた
めに、歯車箱の振動と音も焼結歯車のほうが鋼製歯車よ
りも低下したといえる。
【0057】(5−2) 連続ウェーブレット変換によ
る性能評価法 図19は、n=1800rpmにおける歯元ひずみ波
形ε、そのWTマップとFFTによる周波数分析結果を
焼結歯車および鋼製歯車について示す図である。連続ウ
ェーブレット変換には、ガボール関数をマザーウェーブ
レットとして用いた。WTマップとFFTの結果は、最
大値を100として正規化されている。両歯車ともに、
=1800rpmにおける1対の歯のかみあう時間
は、2.6msであり、その時間を半周期とする波形の
周波数は192Hzである。そのため、WTマップにお
いてかみあい周波数f=480Hzより低周波の領域
で強度が高いところは歯のかみあいの進行に伴う荷重移
動に起因しており、fより高周波の領域で強度が高い
ところは歯車軸を含む歯車全体のねじり振動に起因して
いると考えられる。鋼製歯車に比べ、焼結歯車ではf
より高周波の領域での強度は相対的に低い。この傾向
は、ほかの回転速度においても定性的に同じであった。
上記のことから、図11に示した動荷重比に関して焼結
歯車のほうが鋼製歯車に比べ低い理由は、歯車材に由来
する歯車軸を含む歯車のねじり振動が小さかったことが
考えられる。
【0058】次ぎに、各大歯車回転速度におけるWTマ
ップにおいて強度が最大となる周波数とその次に大きい
強度となる周波数を調べた。図20は、鋼製歯車におけ
る大歯車回転速度n増加に伴う各領域でのWTマップ
中の周波数変化を示す図である。fを境にして、それ
よりも高い周波数と低い周波数でWTの強度は極大値を
示していることがわかる。特に、fより低い周波数f
lowは、次式で示すようにnの増加に伴って増す傾
向にある。 flow=(1/2ε)(z/60)=f
(2ε) ここで、εはかみあい率で、本歯車対の場合1.24
6である。zは大歯車の歯数で、16枚である。した
がって、flow=0.4fとなる。図に示した大歯
車回転速度に対する周波数の変化は焼結歯車においても
同様であり、fより低い周波数flowは0.4 f
で増加していた。このような結果から、歯元ひずみ
は、かみあい周波数fより低い周波成分(荷重移動に
依存)と高い周波数成分(歯車のねじり振動に依存)で
構成されていることがわかる。
【0059】(5−3) 離散ウェーブレット変換によ
る性能評価法 そこで、離散ウェーブレット変換を用いて歯元ひずみ波
形を分解し、fを境にして再構成することで、歯元ひ
ずみを利用して歯車材の違いによる歯車制振特性の詳細
な検討を行う。離散ウェーブレット変換に用いたスケー
リング関数とマザーウェーブレット関数は、4階のBス
プライン関数に基づいている。
【0060】図21は、焼結歯車と鋼製歯車について、
大歯車回転速度n=1800rpmにおける歯元ひず
みを離散ウェーブレット変換により分解した結果を示す
図である。焼結歯車と鋼製歯車の各レベルにおけるg
を比べると、特にレベル−3とレベル−4では振幅の値
が焼結歯車のほうが明らかに小さい。また、かみあい周
波数f以下の周波数成分の波形にほぼ相当するf−6
の波形を比べると、その波形の最大値は焼結歯車のほう
が大きい。焼結材のヤング率とポアソン比は152GP
aと0.25であり、鋼のそれらは206GPaと0.
3であるので、同じ荷重が歯に加わった場合、大きいひ
ずみが生じるのは焼結材である。したがって、荷重の移
動に依存するf以下の周波数成分の歯元ひずみ波形は
焼結歯車のほうが大きくなることが理解できる。
【0061】図22は、n=1800rpmにおける
焼結歯車の歯元ひずみ波形をfを境にして再構成した
波形と、n=1800rpmの歯元ひずみ波形からn
=6rpmで測定した静的歯元ひずみ波形を引算した
波形εn2−ε6rpmを示す図である。1800rp
mと6rpmでは、歯元ひずみ波形の時間のオーダは異
なるが、かみあい周期Tで各ひずみ波形の時間を正規
化してεn2−ε6r pmを求めた。静的な歯元ひずみ
を差し引いたεn2−ε6rpmの波形は近似的に歯車
のねじり振動に起因する波形変化を表していると考えら
れる。f以上の波形とεn2−ε6rpmの波形を比
べると、実際に歯がかみあっている時間範囲では両者の
波形の変動の様子は類似していることがわかる。したが
って、離散ウェーブレット変換を用いて再構成したf
以上の波形は、歯車のねじり振動に起因する歯元ひずみ
波形を精度よく表しているといえる。
【0062】離散ウェーブレット変換を用いて解析した
結果から、歯車のねじり振動が支配的であるf以上の
周波数成分の歯元ひずみ波形は、歯車材の減衰係数に依
存しており、f以下の荷重移動に伴う歯元ひずみ波形
は歯車材のヤング率に依存していることがわかる。
【0063】(7)新しい運転性能評価 図23は、従来の動荷重比、f以下で再構成した歯元
ひずみ波形の最大値、f以上で再構成した歯元ひずみ
波形の振幅とWTを用いて求めた動荷重比のそれぞれの
変化を大歯車回転速度の増加に対して示す図である。f
以上で再構成した各回転速度における歯元ひずみ波形
の振幅は、回転速度の増加とともに変動しており、その
変動の様子は従来の動荷重比の変動と似ている。なお、
当然のことであるがn=6rpmでの値はほぼ0に近
い。f以下で再構成した各回転速度における歯元ひず
み波形の最大値は、n=6rpmでの値よりもわずか
に小さい傾向にあるが、回転速度に関わらずほぼ一定の
値であるといえる。このことは、fを境にして再構成
したf以下の歯元ひずみ波形の最大値は、静的な歯元
ひずみの最大値にほぼ相当すると考えられる。そこで、
各回転速度毎に元の歯元ひずみ波形の最大値を再構成し
たf以下の歯元ひずみの最大値で除して動荷重比を求
めた。回転速度に対するWTによる新しい動荷重比の変
動の傾向と従来の動荷重比の傾向は概して同じであるこ
とがわかる。しかし、従来の動荷重比に比べWTによる
動荷重比の値のほうが高い。歯のかみあいにおいて、2
対かみあいから1対かみあいへ移行するときの歯元ひず
み波形の変化は急激で、非常に高周波の成分に相当す
る。したがって、再構成したf以下の歯元ひずみ波形
に急激な変化は含まれないことが原因であると考えられ
る。しかしながら、多くの歯車装置は非常に低速で回転
させることが困難である。そのため、設計段階で設定し
た安全率(動荷重比)が実際に製作された歯車装置に対
し妥当であるかを判断する基準にここで提案したWTに
よる新しい動荷重比評価法を利用することができると考
えられる。
【0064】図24は、焼結歯車に関するn=180
0rpmにおける歯車箱振動加速度波形の離散ウェーブ
レット変換解析結果を示す図である。大歯車1回転(3
0ms)中の振動波形は低周波成分と高周波成分から構
成されていることが理解できる。また、図25は、歯元
ひずみ波形と同様に、(a)振動加速度波形と(b)歯
車箱近傍音圧波形を、fを境に再構成し、回転速度の
増加に対する各波形の実効値の変化を示す図である。焼
結歯車ならびに鋼製歯車に関する振動加速度波形と音圧
波形ともにf以下で再構成された波形の実行値は回転
速度nの2乗に比例して増加している。すなわち、両
歯車ともに同じトルクが負荷されているので、荷重移動
に依存するf以下の振動と音圧波形は歯車回転エネル
ギーで決まるといえる。したがって、材質が異なる焼結
歯車と鋼製歯車ともにほぼ同じ値を示している。歯車の
ねじり振動に起因するf以上の振動と音圧の実効値は
4200rpm、6000rpm、9000rpmで極
大を示しており、元の振動と音圧の実効値の変化の様子
と同じである。このことは、各波形の実効値の変動は歯
車のねじり振動に依存してことを明確に示している。歯
車箱振動加速度は、歯のかみあいによって生じるねじり
振動が軸と軸受を伝ぱして歯車箱を振動させることによ
り起こる。そして、歯車箱振動が空気中に放射され音圧
(騒音)が発生する。そのために、歯車のねじり振動が
抑えられている焼結歯車のほうが、歯車箱振動と音圧に
関しても鋼製歯車より低い値を示していることが理解で
きる。
【0065】
【発明の効果】1)本発明の評価システムによると、歯
元ひずみ波形において、歯車のねじり振動に起因する歯
元ひずみは、かみあい周波数fよりも高い周波数成分
で構成されていたということを評価することができる。
また、その歯元ひずみの高周波成分は、焼結歯車のほう
が鋼製歯車よりも小さな値を示していることから、焼結
歯車は制振特性において優れているといえ、歯車運転時
の振動・騒音の原因となる歯車のねじり振動を低く抑え
ていることがわかった。 2)本発明によると、焼結歯車は鋼製歯車に比べ制振特
性に優れるため、歯車装置に焼結歯車を適用することは
振動・騒音を低減するという点で有効であることが評価
することができる。 3)本発明によると、歯元ひずみのウェーブレット変換
を行うことで、従来の歯元ひずみを用いた歯車動荷重評
価では得ることができない歯車動的性能評価を行うこと
ができた。
【0066】さらに、本発明の歯車運転性能評価システ
ム及び評価方法については、歯車装置の検査に応用でき
ると考えられる。また、本発明によると、かみあい周波
数f を境に歯車装置の性能波形を再構成し、歯車荷重
伝達に関する波形と歯車ねじり振動に関する波形から、
装置の設計段階で設定した安全率が妥当であるかを、新
しい動荷重評価法を用いて判定することが可能である。
また、本発明によると、材質の違いによる減衰係数の違
いは、主にかみあい周波数f以上の周波数成分の波形
に反映され、相対的な減衰係数の差も判別することがで
きる。
【図面の簡単な説明】
【図1】歯車のかみあいの模式図。
【図2】一般化した歯車対の振動モデルの説明図。
【図3】歯車の運転性能測定についての説明図。
【図4】本発明に係る歯車動的性能の評価システムの構
成図。
【図5】試験歯車対の諸元を示す説明図。
【図6】Gabor関数の時間波形図と周波数特性図。
【図7】Haar関数の時間波形図。
【図8】4階のスプライン関数N(t)を用いたφ
(t)とψ(t)を示す図。
【図9】離散ウェーブレット変換による評価方法のフロ
ーチャートを示す図。
【図10】WTによる解析例を示す図。
【図11】大歯車回転速度nに伴う動荷重比σ
dmax/σsmaxの変化を示す図。
【図12】ウェーブレットマップを示す図。図(a)は
鋼製歯車、図(b)は焼結歯車についての図。
【図13】歯元ひずみの分解波形図。
【図14】大歯車回転速度と周波数推移についての図。
【図15】n=9000rpmにおける歯元ひずみの
以上での再構成波形およびε −εn=6の波形
図。
【図16】大歯車回転速度に伴う歯元ひずみの変化を示
す図。
【図17】(a)は、大歯車回転速度に伴う歯車箱振動
加速度の変化を示す図、及び(b)は、大歯車回転速度
に伴う歯車箱近傍音圧の変化の図を示す図。
【図18】(a)は、大歯車回転速度nの増加に伴う
歯車箱振動加速度レベルVALと、(b)歯車箱近傍音
圧レベルSPLの変化を示す図。
【図19】n=1800rpmにおける歯元ひずみ波
形ε、そのWTマップとFFTによる周波数分析結果を
焼結歯車および鋼製歯車について示す図。
【図20】鋼製歯車における大歯車回転速度n増加に
伴う各領域でのWTマップ中の周波数変化を示す図。
【図21】焼結歯車と鋼製歯車について、大歯車回転速
度n=1800rpmにおける歯元ひずみを離散ウェ
ーブレット変換により分解した結果を示す図。
【図22】n=1800rpmにおける焼結歯車の歯
元ひずみ波形をfを境にして再構成した波形と、n
=1800rpmの歯元ひずみ波形からn=6rpm
で測定した静的歯元ひずみ波形を引算した波形εn2
ε6rpmを示す図。
【図23】従来の動荷重比、f以下で再構成した歯元
ひずみ波形の最大値、f以上で再構成した歯元ひずみ
波形の振幅とWTを用いて求めた動荷重比のそれぞれの
変化を大歯車回転速度の増加に対して示す図。
【図24】焼結歯車に関するn=1800rpmにお
ける歯車箱振動加速度波形の離散ウェーブレット変換解
析結果を示す図。
【図25】歯元ひずみ波形と同様に、(a)振動加速度
波形と(b)歯車箱近傍音圧波形を、fを境に再構成
し、回転速度の増加に対する各波形の実効値の変化を示
す図。
【符号の説明】
1 試験歯車対 2 動力伝達用歯車対 3、4 ねじり軸 5 トルク負荷用カップリング 6 コップ式無段変速機 7 三相誘導電動機 8 圧電型振動加速度ピックアップ 9 マイクロフォン 10 スリップリング 11 ストレインアンプ 12,13 フォトセンサ 14 騒音計 15 ペンレコーダ 17 データレコーダ 18 コンピュータ
─────────────────────────────────────────────────────
【手続補正書】
【提出日】平成12年8月1日(2000.8.1)
【手続補正1】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0004
【補正方法】変更
【補正内容】
【0004】
【発明が解決しようとする課題】歯車の損傷は歯の折損
だけではなく、歯面の接触の繰り返しによる疲労が原因
で歯面がはく離するピッチングやスポーリング損傷があ
る。また、歯車材料自体の疲労ではないが長期の運転に
より潤滑油が劣化することが原因で十分な油膜が歯面間
に形成されず、歯面間が金属接触することで焼付き(S
cuffing、Scoring)が発生する場合があ
る。歯車の疲労に伴う故障診断を行う際に、歯の折損を
対象とする場合には歯元曲げき裂が生じると歯の剛性の
値が大きく変化するので、歯車運転性能も大きく変化す
る。しかし、歯面の損傷の場合には、多少の歯面はく離
が生じても歯の剛性に及ぼす影響は、歯の折損に比べ非
常に小さい。そのため、ピッチングやスポーリングなど
の歯面はく離の損傷を早期に診断するには、劣化状態を
モニターする検出器や歯車運転性能波形の解析方法を工
夫しなければならない。
【手続補正2】
【補正対象書類名】明細書
【補正対象項目名】0013
【補正方法】変更
【補正内容】
【0013】図3に、歯車の運転性能測定についての説
明図を示す。実際に歯車の運転性能を測定する場合、図
に示すように歯車箱4の振動や騒音、歯42の歯元にひ
ずみゲージ43を貼り付けて歯元ひずみ(歯元応力)が
測定されている。歯元ひずみは、歯車軸を含む歯車の軸
系のねじり振動の挙動を間接的に表している。また、歯
車箱の振動は歯車のねじり振動が軸、軸受を伝ぱして起
こるものであり、その歯車箱の振動が空気を振動させる
ことにより騒音が発生する。
フロントページの続き Fターム(参考) 2G024 AB02 BA15 BA22 BA27 CA13 DA05 EA01 EA02 FA04 FA06 2G064 AA11 AB07 AB08 AB15 AB22 BD04 BD05 BD18 CC29 CC41 CC42

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】少なくとも1組の歯車がトルクの負荷を与
    えられた状態でかみあわされた被測定歯車と、 前記被測定歯車を駆動する駆動部と、 前記被測定歯車の所定の測定値を測定する測定部と、 前記測定部により測定された測定値を解析する解析部と
    を備え、 前記解析部は、 特定の時間の測定値に基づき、離散ウェーブレット変換
    により、特定の時間及び特定の振動周波数を変数として
    計算し、ウェーブレット成分を低周波成分及び高周波成
    分に分解して求め、前記歯車対の動的性能を評価するよ
    うにした歯車動的性能の評価システム。
  2. 【請求項2】前記測定部で測定する所定測定値は、騒音
    に関するデータ、回転数、歯の位置、振動加速度及び歯
    元ひずみのいずれかひとつ又は複数であることを特徴と
    する請求項1に記載の歯車動的性能の評価システム。
  3. 【請求項3】前記測定部で測定する所定測定値は、歯元
    ひずみであり、 前記解析部は、振動特性の評価、運転性能の評価又は故
    障・損傷診断を行うことを特徴とする請求項1又は2に
    記載の歯車動的性能の評価システム。
  4. 【請求項4】時間tにおける計測値f(t)に関する離
    散的ウェーブレット変換が、整数jを周波数に相当する
    パラメータ、整数kが時間に相当するパラメータ、ψは
    マザーウェーブレット関数としたとき、(Wψf)(2
    −jk,2−j)=d (j とおくと、次式で与えら
    れることを特徴とする請求項1乃至3いずれかに記載の
    歯車動的性能の評価システム。 【数1】
  5. 【請求項5】マザーウェーブレット関数又はスケーリン
    グ関数として、Haar関数又はGabor関数又はm
    階カーディナルBスプライン関数を用いてウェーブレッ
    ト変換を行うことを特徴とする請求項4に記載の歯車動
    的性能の評価システム。
  6. 【請求項6】f(t)=fj−1(t)+g
    j−1(t) の関係となる低周波成分f(t)、高
    周波成分g(t)を求めることを特徴とする4又は5
    に記載の歯車動的性能の評価システム。
  7. 【請求項7】少なくとも1組の歯車がトルクの負荷を与
    えられた状態でかみあわされた被測定歯車の歯車動的性
    能の評価方法であって、 前記被測定歯車を駆動し、測定された前記被測定歯車の
    所定の測定値を入力する入力ステップと、 入力された測定値を解析する解析ステップとを含み、 前記解析ステップは、 特定の時間の測定値に基づき、離散ウェーブレット変換
    により、特定の時間及び特定の振動周波数を変数として
    計算し、ウェーブレット成分を低周波成分及び高周波成
    分に分解して求め、歯車対の動的性能を評価するように
    した歯車動的性能の評価方法。
  8. 【請求項8】前記測定部で測定する所定測定値は、騒音
    に関するデータ、回転数、歯の位置、振動加速度及び歯
    元ひずみのいずれかひとつ又は複数であることを特徴と
    する請求項7に記載の歯車動的性能の評価方法。
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