JP2001107192A - 超高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼材および製造法 - Google Patents

超高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼材および製造法

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JP2001107192A JP29156699A JP29156699A JP2001107192A JP 2001107192 A JP2001107192 A JP 2001107192A JP 29156699 A JP29156699 A JP 29156699A JP 29156699 A JP29156699 A JP 29156699A JP 2001107192 A JP2001107192 A JP 2001107192A
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 引張強さが2200N/mm2以上の超高強度ステン
レス鋼材を提供する。 【解決手段】 質量%で、C:0.10超え〜0.20%,Si:
1.0〜5.0%,Mn:3.0%以下,Ni:4.0〜10.0%,Cr:1
2.0〜18.0%,Cu:3.5%以下好ましくは1.0〜3.0%,M
o:5.0%以下好ましくは1.0〜4.5%,N:0.15%以下,
残部がFeおよび不可避的不純物であり、C+N≧0.15
%,Si+Mo≧3.5%を満たし、かつ次式Md(N)=580−520
C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Moで定義
されるMd(N)の値が50〜140となる化学組成を有し、マル
テンサイト相が80〜95体積%で残部が実質的にオーステ
ナイト相からなる加工された複相組織を呈し、かつ300
〜600℃の温度範囲で0.5〜120分の時効処理による時効
析出物が前記組織中に分布している超高強度準安定オー
ステナイト系ステンレス鋼材。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、耐食性と共に高い
強度および疲労特性が要求される部材や部品、例えば板
ばね,コイルばね,Si単結晶ウェハー作製用ブレード板
等の素材に最適なステンレス鋼材であって、特に非常に
高い引張強さを有する超高強度準安定オーステナイト系
ステンレス鋼材および製造法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】従来、ステンレス鋼を用いて上記のよう
な部材や部品を製造する場合、マルテンサイト系ステン
レス鋼、加工硬化型ステンレス鋼および析出硬化型ステ
ンレス鋼が使用されてきた。
【0003】マルテンサイト系ステンレス鋼は、高温の
オーステナイト状態から急冷してマルテンサイト変態さ
せることで硬化を図るもので、SUS410,SUS420J2等がこ
れに相当する。これらは焼入れ−焼戻しの調質処理によ
り高い強度と靱性が得られる。しかし、製品が極薄の場
合、焼入れ処理の際に熱ひずみにより変形し、目的の形
状のものを作製するのが困難である。
【0004】加工硬化型ステンレス鋼は、溶体化処理状
態でオーステナイト相を呈し、その後の冷間加工で加工
誘起マルテンサイト相を生成させて高強度を得ようとす
るものであり、SUS301,SUS304に代表される準安定オー
ステナイト系ステンレス鋼がこれに相当する。強度は冷
間加工量やマルテンサイト量に依存する。前記のような
焼入れ処理に伴う熱ひずみの問題は生じない。ただし、
冷間加工のみで強度を精度良く調整するのは非常に困難
であり、また冷間加工率をあまり大きくすると材料の異
方性が増し、靱性も低下する。
【0005】析出硬化型ステンレス鋼は、析出硬化能の
高い元素を含有させ、時効処理により硬化させるもの
で、代表的鋼種としてCuを含有させたSUS630、Alを含有
させたSUS631が挙げられる。前者は、溶体化処理後マル
テンサイト単相であり、これを時効処理して硬化させ
る。ただし引張強さはせいぜい1400N/mm2程度である。
後者は、溶体化処理後に準安定オーステナイト相を有
し、これを冷間加工などの前処理で一部マルテンサイト
相に変化させてから時効処理するものである。金属間化
合物Ni3Alを析出させて硬化を図るものであり、積極的
にマルテンサイト相を生成させることで1800N/mm2程度
まで引張強さを上昇させることが可能である。
【0006】このような時効処理を利用したものにおい
て、上記の従来鋼種よりもさらに高強度化を図ったステ
ンレス鋼が開発されている。例えば、特開昭61−296356
号公報や特開平4−202643号公報には、CuとSiを複合添
加した準安定オーステナイト系ステンレス鋼に適度の冷
間加工を施した後、時効処理する手法が開示されてお
り、引張強さ2000N/mm2程度の高強度鋼が得られてい
る。ただし、これらの手法は、高強度を得るための時効
処理温度範囲は非常に狭く、営業的な生産への適用は必
ずしも容易でない。
【0007】その後、本発明者らは特開平6−207250号
公報,特開平7−300654号公報において、MoとSiを複合
添加した準安定オーステナイト系ステンレス鋼に適度の
冷間加工を施し、その後の時効処理を高温で行うことに
より、引張強さ2000N/mm2程度でしかも靱性に優れた高
強度鋼が得られることを開示した。この手法では成分組
成の厳密なコントロールが要求されるが、今日の製鋼技
術で十分対応できる。また、時効処理温度範囲は広く、
かつ短時間の時効処理が可能なため工業的な連続生産に
も対応できる。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】上記特開平6−207250
号公報,特開平7−300654号公報に開示の技術により、
引張強さ2000N/mm2級の高強度ステンレス鋼材の製造技
術はほぼ確立されたと言うことができる。ところが昨
今、ばね材やブレード板の用途を中心に、さらに一層の
高強度化を図ったステンレス鋼素材の要求が高まりつつ
ある。この要求に応えるためには、2200N/mm2以上の引
張強さが安定して得られる素材を開発し提供することが
望まれるところである。
【0009】一方、2000〜2400N/mm2級の引張強さを有
する超高強度金属材料として、18Niマルエージ鋼が知ら
れている。例えば、18Ni−9Co−5Mo−0.7Ti系マルエー
ジ鋼で2000N/mm2級、18Ni−12.5Co−4.2Mo−1.6Ti系マ
ルエージ鋼で2400N/mm2級の引張強さが得られている。
またこれらの材料は比較的良好な靱性も有している。し
かし、Ni,Co,Moという高価な元素を多量に含むため、
素材コストが非常に高いという欠点がある。したがっ
て、この素材を安価な板ばね等の用途に適用することは
事実上不可能である。
【0010】本発明は、このような現状に鑑み、2200N/
mm2以上の引張強さを呈する超高強度金属材料を、準安
定オーステナイト系ステンレス鋼を素材として製造し、
提供することを目的とするものである。また本発明にお
いては、連続ラインで時効処理して得られる鋼帯のみな
らず、各種部品に加工した後、バッチ処理で時効処理す
る鋼材をも提供可能にする点に配慮する。
【0011】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、特開平6
−207250号公報,特開平7−300654号公報で開示した鋼
について、引張強さを2200N/mm2級に引き上げる試みを
種々行ってきた。しかし、当該鋼においてそのような高
強度を安定的に得ることはできなかった。検討の結果、
特開平6−207250号公報,特開平7−300654号公報に示し
た鋼で2000N/mm2を超える高強度を得るには合金設計上
の無理があることがわかり、これらとは別の化学組成を
有する鋼を新規開発するする必要があるとの結論に達し
た。そこでさらに検討を進め、化学組成においてはC
含有量を0.10質量%を超える量にすること、金属組織
においては冷間加工により加工誘起マルテンサイト相を
生成させ、80〜95体積%マルテンサイト+オーステナイ
トの組織を時効前に得ておくことが非常に望ましいこと
を知見した。本発明はこのような知見に基づいて完成さ
れたものである。
【0012】すなわち、上記目的を達成するために、請
求項1の発明は、質量%で、C:0.10超え〜0.20%,S
i:1.0〜5.0%,Mn:3.0%以下,Ni:4.0〜10.0%,C
r:12.0〜18.0%,Cu:3.5%以下,Mo:5.0%以下,
N:0.15%以下,残部がFeおよび不可避的不純物であ
り、C+N≧0.15%,Si+Mo≧3.5%を満たし、かつ下
記(1)式で定義されるMd(N)の値が50〜140となる化学組
成を有する超高強度準安定オーステナイト系ステンレス
鋼材を提供するものである。 Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Mo ・・(1)
【0013】請求項2の発明は、請求項1の発明におい
て、特にCu含有量が1.0〜3.0質量%、かつMo含有量が1.
0〜4.5質量%である点を規定したものである。
【0014】請求項3の発明は、請求項1または2に記
載の鋼材において、該鋼材が特に2200N/mm2以上の引張
強さを有する板材または線材である点を規定したもので
ある。
【0015】請求項4の発明は、請求項1〜3の鋼材に
おいて、マルテンサイト相が80〜95体積%で残部が実質
的にオーステナイト相からなる加工された複相組織を呈
し、かつMo系析出物が前記マルテンサイト相中に分布し
ている点を規定したものである。ここで、「実質的にオ
ーステナイト相」とは、析出物や非金属介在物、さらに
は概ね1体積%以下の少量のδフェライト相を含んでも
よいことを意味する。また、加工された組織であること
は、例えば光学顕微鏡観察によりオーステナイト結晶粒
が加工方向に延びていることなどで特定することができ
る。Mo系析出物としてはFe2Mo,Fe3Mo等を挙げることが
できる。Mo系析出物の存在は、例えば電子顕微鏡による
ミクロ的な観察手法により特定することができる。
【0016】請求項5の発明は、請求項1で規定した化
学組成を有する鋼を溶体化処理したのち冷間加工して、
80〜95体積%のマルテンサイト相を含む金属組織とした
鋼材に対し、300〜600℃の温度範囲で0.5〜120分の時効
処理を施す、引張強さが2200N/mm2以上の超高強度準安
定オーステナイト系ステンレス鋼材の製造法である。こ
こで、「80〜95体積%のマルテンサイト相」は冷間加工
で新たに生じた加工誘起マルテンサイト相が主体である
が、溶体化処理後に既に冷却マルテンサイト相が存在し
ていた場合にはそれも含まれる。マルテンサイト相以外
の部分は実質的にオーステナイト相である。
【0017】請求項6の発明は、請求項5の発明におい
て、特に鋼のCu含有量が1.0〜3.0質量%,Mo含有量が1.
0〜4.5質量%である点を規定したものである。
【0018】請求項7の発明は、請求項5または6の製
造法において、特に溶体化処理後の組織がオーステナイ
ト単相の組織または冷却マルテンサイト相を30体積%以
下含むオーステナイト相主体の組織である点、および冷
間加工により加工誘起マルテンサイト相を生成させる点
を規定したものである。
【0019】請求項8の発明は、請求項5〜7の製造法
において、特に時効処理を10〜120分のバッチ処理で行
う点を規定したものである。
【0020】
【発明の実施の形態】本発明において、引張強さが2200
N/mm2以上であるような超高強度準安定オーステナイト
系ステンレス鋼材を得るためには、鋼の成分組成を新規
な化学組成範囲に厳密に規定することが必要であり、ま
た、時効処理前の金属組織状態を適正化することが非常
に望ましい。以下、本発明を特定するための事項につい
て説明する。
【0021】化学組成において、C含有量の規定は本発
明では特に重要な意味をもつ。Cは、オーステナイト形
成元素であり、高温で生成するδフェライト相の抑制、
および冷間加工で誘発されたマルテンサイト相の強化に
極めて有効である。MoとSiを複合添加した従来の高強度
準安定オーステナイト系ステンレス鋼では、耐粒界腐食
性や靱性を確保する観点からC含有量を0.10質量%以下
に規制する設計思想を採用していた。しかし、発明者ら
の研究の結果、このようなCレベルで2200N/mm 2以上と
いった超高強度を安定して得ることは困難であること、
およびC含有量を引き上げることで、そのような超高強
度が実現可能になることがわかった。また、耐粒界腐食
性や靱性に関しても、一般的なばね用途やブレード板用
途においては、0.20質量%以下のC含有量であればほと
んど問題ないことが詳細な調査によって明らかになって
きた。むしろ、耐粒界腐食性や靱性のわずかな低下によ
るデメリットよりも、強度レベルが大幅に向上するメリ
ットの方がはるかに大きい場合がほとんどである。そこ
で本発明では、MoとSiを複合添加した鋼では従来試みら
れることのなかった、0.10超え〜0.20質量%というC含
有量範囲を規定し、超高強度化を達成するに至った。
【0022】ただし、単にC含有量を増加させるだけで
超高強度化が達成できるわけではない。それには冷間加
工後(時効処理前)のマルテンサイト量の適正化、遡れ
ば加工誘起マルテンサイト相の生成し易さを適正化する
ための組成コントロールが、C含有量の規定とともに極
めて重要となる。この点については後述する。
【0023】Siは、通常、加工硬化型ステンレス鋼など
では脱酸目的で使用され、その含有量はSUS301,SUS304
の例に見られるように1.0質量%以下である。しかし本
発明ではSi含有量をこれより多くして、冷間加工時の加
工誘起マルテンサイト相の生成を顕著に促進させる作用
を発揮させる。またSiは加工誘起マルテンサイト相を硬
くするとともに、オーステナイト相にも固溶しこれを硬
化させ、冷間加工後の強度向上に寄与する。さらに、時
効処理においては、Cuとの相互作用により時効硬化能を
増大させる。これらのSiの作用を十分に享受するには、
1.0質量%以上のSi含有量とする必要がある。ただし、
5.0質量%を超えるとコイルどうしの溶接の際に冷却速
度を制御しても高温割れを誘発し易くなり、製造上種々
の問題が生じる。したがってSi含有量は1.0〜5.0質量%
とした。なお、好ましいSi含有量は1.0超え〜4.0質量%
である。
【0024】Mnは、オーステナイト相の安定度を支配す
る元素で、その含有量は他の元素とのバランスによって
決定されるが、Mn含有量が多いと冷間加工時にマルテン
サイト相が誘発されにくくなるので3.0質量%以下とし
た。なお、好ましいMn含有量は0.2〜2.5質量%である。
【0025】Niは、高温および室温でオーステナイト相
を得るために必須の元素であるが、本発明の場合、特
に、溶体化処理後の状態で、オーステナイト単相組織ま
たは冷却マルテンサイト相を30体積%以下含むオーステ
ナイト相主体の組織が得られるようにする点を考慮しな
ければならない。Ni含有量が4.0質量%未満では高温で
多量のδフェライト相が生成し、しかも室温までの冷却
過程でマルテンサイト相が生成し易くなるので、上記組
織を得ることが困難となる。一方、10.0質量%を超える
と冷間加工でマルテンサイト相が誘起されにくくなる。
したがって、Ni含有量は4.0〜10.0質量%とした。な
お、好ましいNi含有量の下限は5.0質量%、同上限は8.5
質量%である。
【0026】Crは、耐食性を確保するうえで必須の元素
である。本発明鋼材の適用用途を考慮すると、12.0質量
%以上のCr含有量が必要である。しかし、Crはフェライ
ト形成元素でもあるので、多量に含有させると高温でδ
フェライト相が生成し易くなる。この作用を打ち消すた
めにはオーステナイト形成元素(C,N,Ni,Mn,Cu
等)を添加しなければならないが、これらの元素の過度
の添加は室温でのオーステナイト相の安定化をもたら
し、冷間加工でのマルテンサイト相の誘起を不十分にす
る。そうなると時効処理後に高強度を得ることが不可能
となる。このためCr含有量の上限は18.0質量%とした。
なお、好ましいCr含有量は12.0〜16.5質量%である。
【0027】Cuは、時効処理の際、Siとの相互作用によ
り顕著な硬化作用を発揮する。しかし、過剰のCu含有は
熱間加工性を劣化させ鋼材の割れ発生の原因となるの
で、3.5質量%以下の範囲で含有させることとした。好
ましいCu含有量の下限は1.0質量%、同上限は3.0質量%
である。
【0028】Moは、耐食性を向上させるとともに、時効
処理で炭窒化物を微細に分散させる作用を示す。また、
本発明では疲労特性に悪影響を及ぼす過度の圧延歪を低
減するために時効温度を高くするが、この高温時効での
歪の解放があまりに急激であると強度面で不利となる。
Moは高温時効での急激な歪の解放を抑制する非常に有効
な元素である。さらに、Moは時効処理時に析出物(Fe2M
o,Fe3Mo等)を形成させるが、かなりの高温域で時効を
行ってもこれらのMo系析出物は強度向上に有効な形態で
形成されるため、Mo添加によって高温時効による強度低
下を防止することができる。ただし、Mo含有量があまり
多くなると高温でδフェライト相が生成し易くなるの
で、Mo含有量は5.0質量%以下とした。なお、上記Moの
作用を十分享受するには1.0質量%以上のMo含有量を確
保することが望ましい。しかしMo含有量が多くなると高
温での変形抵抗が高くなるため、熱間加工性を重視する
場合はMo含有量の上限を4.5質量%とすることが望まし
い。したがって、本発明における好ましいMo含有量は1.
0〜4.5質量%である。
【0029】Nは、オーステナイト形成元素であるとと
もに、オーステナイト相およびマルテンサイト相を硬化
させるのに極めて有効な元素であるが、多量の添加は鋳
造時のブローホールの原因となるので0.15質量%以下と
した。
【0030】CとNは互いに同様な硬化作用を示し、そ
の効果を十分に発揮させるためにはC+Nの合計含有量
が0.15質量%以上となるようにする必要がある。
【0031】また、本発明では時効によりMo系の析出物
を形成させるが、Si添加によりその析出物の生成サイト
が増加し、それにより析出物の大きさも微細になる。Mo
系析出物の分布形態を十分に微細かつ均一にするには、
Si+Moの合計含有量を3.5質量%以上とする必要があ
り、そのとき、Mo系析出物は強度向上に顕著に寄与し得
る。
【0032】本発明では、2200N/mm2以上の引張強さを
安定して得るための手段として、前述のC含有量の増加
による強度上昇効果とともに、冷間加工によるマルテン
サイト誘起変態を積極的に利用する。そして、時効処理
前の段階において、80〜95体積%の全マルテンサイト量
が確保されていることが極めて有利となる。
【0033】そのためには、第1に、溶体化処理後の状
態で、組織の大部分がオーステナイト相になっているこ
とが必要である。発明者らの研究の結果、溶体化処理後
に、「オーステナイト単相組織」または「冷却マルテン
サイト相を30体積%以下含むオーステナイト相主体の組
織」になっていることが非常に望ましいことがわかっ
た。
【0034】第2に、常温での冷間加工によって、全マ
ルテンサイト量が80〜95体積%となるように加工誘起マ
ルテンサイト相が無理なく生成する化学組成を有してい
ることが非常に有効である。つまり、例えば冷間圧延で
あれば、実施し易い20〜60%といった圧下率によって、
特段の強加工や温度制御をすることなく、上記マルテン
サイト量を確保できることが望ましいのである。その
際、わずかな加工で急激にマルテンサイト相が誘起され
てしまうようでは、十分な加工率が確保できないため加
工硬化による強度向上作用が利用できず、超高強度化は
達成できない。
【0035】これらの要件を満足させるには、合金設計
において、オーステナイト相の加工に対する安定度を厳
密に規定することが不可欠となる。本発明では、当該安
定度の指標として下記(1)式で表されるMd(N)値を採用し
た。 Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Mo ・・(1) ここで、C,Si,・・・,Moは、それぞれ当該鋼のC含
有量,Si含有量,・・・,Mo含有量(いずれも質量%で
表される値)を意味する。
【0036】このMd(N)が50未満の鋼では、オーステナ
イト相が冷間加工に対し安定で、超高強度化に寄与する
マルテンサイト相が十分に形成されない。一方、Md(N)
が140を超える鋼では、比較的低い冷間圧延率でほぼマ
ルテンサイト単相となってしまい、冷間圧延時の靱性低
下が懸念されるとともに、冷間加工不足により超高強度
化の達成が困難となる。そこで本発明では、Md(N)の値
が50〜140となるよう、各成分元素の含有量をコントロ
ールする。なお、好ましいMd(N)値の下限は60、同上限
は135である。
【0037】以上のような化学組成を有する鋼を溶製し
て、熱間加工あるいはさらに冷間加工を行った後、溶体
化処理を施し、準安定オーステナイト相単相、または一
部冷却マルテンサイトが生成した準安定オーステナイト
相主体の金属組織を得る。ここで、前記の化学組成コン
トロールにより、冷却マルテンサイト相は概ね30体積%
以下の量に抑えられる。
【0038】本発明では、この溶体化処理された鋼材に
対して冷間加工を施し、加工歪を導入する。その際、準
安定オーステナイト相の多くはマルテンサイト相に変態
する。時効処理後に2200N/mm2以上の引張強さを得るに
は、この段階で鋼材中のマルテンサイト量を80体積%以
上(好ましくは80体積%を超える量)としておくことが
非常に有効である。これにより、時効処理時に、硬化に
寄与する有効な析出物の核生成サイトを十分に増やすこ
とができるのである。ただし、鋼材の靱性を確保するう
えで、マルテンサイト100%の組織とするのは好ましく
ない。好ましい組織は、全マルテンサイト量が80〜95体
積%で、残部が実質的にオーステナイト相からなる「複
相組織」である。Md(N)値を前述の適正範囲に調整した
鋼であれば、冷間加工率をコントロールすることで比較
的容易にこのような複相組織が得られる。
【0039】冷間加工としては、一般的には冷間圧延を
施すが、用途によっては冷間圧延材にさらにスピニング
加工その他の冷間加工を施したり、あるいは溶体化処理
後にはじめから圧延以外の冷間加工を施してもよい。線
材の場合には引抜による線引加工を施すのが一般的であ
る。いずれにしても、時効処理前の段階において、鋼材
中のマルテンサイト量が80〜95体積%になっていること
が、2200N/mm2級の超高強度鋼材を得るうえで極めて有
効である。
【0040】時効処理においては、以上のようなマルテ
ンサイト相を多量に含む冷間加工材に対して、300〜600
℃の温度範囲で均熱時間0.5〜120分の加熱を行う。時効
処理温度を300℃以上にすることで析出強化現象が十分
に現れて目的とする超高強度を得ることが可能となり、
また過剰な加工歪が除去されて靱性も確保できるように
なる。しかし600℃を超える温度で加熱すると、加工誘
起マルテンサイト相の回復・再結晶が起こったり、一部
がオーステナイト相に逆変態する場合が生じるため、材
料は軟化する。均熱時間については、0.5分未満では十
分な時効硬化が期待できず、また120分を超える長時間
の加熱では過時効による軟化や炭化物の粒界析出による
耐食性低下が生じるようになる。
【0041】本発明では、時効処理の均熱時間に関し、
0.5分から120分までの広いレンジで実施が可能である点
に特徴がある。したがって、冷延鋼帯を熱処理炉に連続
通板する方法で超高強度鋼帯を製造することが可能であ
るだけでなく、所望の部品に加工した材料に対してバッ
チ処理で時効処理を施すことも可能になる。バッチ処理
による操業現場では、均熱時間を数分程度の短時間に精
度良くコントロールすることは困難である場合が多い。
したがって、特にバッチ処理での時効処理を採用する場
合は、10〜120分の均熱時間とすることが好ましい。
【0042】
【実施例】表1に供試材の化学成分値およびMd(N)値を
示す。表中のS1〜S9は化学組成が本発明規定範囲にある
もの(本発明対象鋼)、M1〜M6はそれ以外のもの(比較
鋼)である。
【0043】
【表1】
【0044】いずれの鋼も、真空溶解炉にて溶製され、
鍛造、熱延、中間焼鈍および冷延を施した後、1050℃で
1分間保持して水冷する溶体化処理を施し、その後、種
々の圧延率で冷間圧延を行い板厚1.2〜0.8mmの冷延材を
得た。さらにこれらの冷延材に525℃×60分の時効処理
を施した。表2に、各試料の、冷延率、冷延材のマルテ
ンサイト量および引張強さ、ならびに時効材の引張強さ
を示す。なお、引張試験は、JIS Z 2201に規定される13
B号試験片を用い、JIS Z 2241に規定される試験方法で
実施した。
【0045】
【表2】
【0046】表2からわかるように、C含有量が0.10質
量%を超える量に満たないM1,M3,M6、Si含有量が1.0
質量%に満たないM4、およびMd(N)値が50に満たないM
2,M5では、いずれも時効材において2200N/mm2以上の引
張強さは得られていない。これに対し、本発明例である
S1〜S9ではいずれも時効材において2200N/mm2以上の引
張強さが得られた。
【0047】図1は、表1のS1〜S4,M1,M3について、
525℃×60分の時効材の引張強さをC含有量で整理した
ものである。C含有量0.10質量%以上において、引張強
さが2200N/mm2以上の超高強度鋼材が得れることがわか
る。
【0048】次に、表1のS3,M3について、種々の温度
で均熱30分の時効処理を施し、引張強さを調べた。その
結果を図2に示す。本発明対象鋼であるS3では、300〜6
00℃の範囲で2200N/mm2以上の引張強さが得られている
ことがわかる。
【0049】
【発明の効果】本発明により、準安定オーステナイト系
ステンレス鋼において、引張強さが2200N/mm2以上とい
う、18Niマルエージ鋼に匹敵する超高強度鋼材が実現さ
れた。すなわち本発明は、従来の高強度ステンレス鋼材
の強度を10%あるいはそれ以上も向上させることに成功
した点で、その技術的価値は大きい。
【図面の簡単な説明】
【図1】525℃×60分の時効材の引張強さに及ぼすC含
有量の影響を示すグラフである。
【図2】本発明対象鋼と比較鋼についての、時効材の引
張強さに及ぼす時効処理温度の影響を示すグラフであ
る。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 森本 憲一 山口県新南陽市野村南町4976番地 日新製 鋼株式会社内 Fターム(参考) 4K032 AA05 AA13 AA14 AA15 AA16 AA17 AA19 AA20 AA21 AA24 AA32 BA01 BA02 CG01 CG02 CH06 CK01 CK02 CL01 CL02

Claims (8)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 質量%で、C:0.10超え〜0.20%,Si:
    1.0〜5.0%,Mn:3.0%以下,Ni:4.0〜10.0%,Cr:1
    2.0〜18.0%,Cu:3.5%以下,Mo:5.0%以下,N:0.1
    5%以下,残部がFeおよび不可避的不純物であり、C+
    N≧0.15%,Si+Mo≧3.5%を満たし、かつ下記(1)式で
    定義されるMd(N)の値が50〜140となる化学組成を有する
    超高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼材。 Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Mo ・・(1)
  2. 【請求項2】 Cu含有量が1.0〜3.0質量%,Mo含有量が
    1.0〜4.5質量%である請求項1に記載の鋼材。
  3. 【請求項3】 鋼材が2200N/mm2以上の引張強さを有す
    る板材または線材である請求項1または2に記載の鋼
    材。
  4. 【請求項4】 マルテンサイト相が80〜95体積%で残部
    が実質的にオーステナイト相からなる加工された複相組
    織を呈し、かつMo系析出物が前記マルテンサイト相中に
    分布している請求項1〜3に記載の鋼材。
  5. 【請求項5】 質量%で、C:0.10超え〜0.20%,Si:
    1.0〜5.0%,Mn:3.0%以下,Ni:4.0〜10.0%,Cr:1
    2.0〜18.0%,Cu:3.5%以下,Mo:5.0%以下,N:0.1
    5%以下,残部がFeおよび不可避的不純物であり、C+
    N≧0.15%,Si+Mo≧3.5%を満たし、かつ下記(1)式で
    定義されるMd(N)の値が50〜140となる化学組成を有する
    鋼を溶体化処理したのち冷間加工して、80〜95体積%の
    マルテンサイト相を含む金属組織とした鋼材に対し、30
    0〜600℃の温度範囲で0.5〜120分の時効処理を施す、引
    張強さが2200N/mm2以上の超高強度準安定オーステナイ
    ト系ステンレス鋼材の製造法。 Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Mo ・・(1)
  6. 【請求項6】 鋼のCu含有量が1.0〜3.0質量%,Mo含有
    量が1.0〜4.5質量%である請求項5に記載の製造法。
  7. 【請求項7】 溶体化処理によりオーステナイト単相の
    組織または冷却マルテンサイト相を30体積%以下含むオ
    ーステナイト相主体の組織とし、冷間加工により加工誘
    起マルテンサイト相を生成させる、請求項5または6に
    記載の製造法。
  8. 【請求項8】 時効処理を10〜120分のバッチ処理で行
    う請求項5〜7に記載の製造法。
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