JP2001107192A - 超高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼材および製造法 - Google Patents
超高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼材および製造法Info
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Abstract
レス鋼材を提供する。 【解決手段】 質量%で、C:0.10超え〜0.20%,Si:
1.0〜5.0%,Mn:3.0%以下,Ni:4.0〜10.0%,Cr:1
2.0〜18.0%,Cu:3.5%以下好ましくは1.0〜3.0%,M
o:5.0%以下好ましくは1.0〜4.5%,N:0.15%以下,
残部がFeおよび不可避的不純物であり、C+N≧0.15
%,Si+Mo≧3.5%を満たし、かつ次式Md(N)=580−520
C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Moで定義
されるMd(N)の値が50〜140となる化学組成を有し、マル
テンサイト相が80〜95体積%で残部が実質的にオーステ
ナイト相からなる加工された複相組織を呈し、かつ300
〜600℃の温度範囲で0.5〜120分の時効処理による時効
析出物が前記組織中に分布している超高強度準安定オー
ステナイト系ステンレス鋼材。
Description
強度および疲労特性が要求される部材や部品、例えば板
ばね,コイルばね,Si単結晶ウェハー作製用ブレード板
等の素材に最適なステンレス鋼材であって、特に非常に
高い引張強さを有する超高強度準安定オーステナイト系
ステンレス鋼材および製造法に関するものである。
な部材や部品を製造する場合、マルテンサイト系ステン
レス鋼、加工硬化型ステンレス鋼および析出硬化型ステ
ンレス鋼が使用されてきた。
オーステナイト状態から急冷してマルテンサイト変態さ
せることで硬化を図るもので、SUS410,SUS420J2等がこ
れに相当する。これらは焼入れ−焼戻しの調質処理によ
り高い強度と靱性が得られる。しかし、製品が極薄の場
合、焼入れ処理の際に熱ひずみにより変形し、目的の形
状のものを作製するのが困難である。
態でオーステナイト相を呈し、その後の冷間加工で加工
誘起マルテンサイト相を生成させて高強度を得ようとす
るものであり、SUS301,SUS304に代表される準安定オー
ステナイト系ステンレス鋼がこれに相当する。強度は冷
間加工量やマルテンサイト量に依存する。前記のような
焼入れ処理に伴う熱ひずみの問題は生じない。ただし、
冷間加工のみで強度を精度良く調整するのは非常に困難
であり、また冷間加工率をあまり大きくすると材料の異
方性が増し、靱性も低下する。
高い元素を含有させ、時効処理により硬化させるもの
で、代表的鋼種としてCuを含有させたSUS630、Alを含有
させたSUS631が挙げられる。前者は、溶体化処理後マル
テンサイト単相であり、これを時効処理して硬化させ
る。ただし引張強さはせいぜい1400N/mm2程度である。
後者は、溶体化処理後に準安定オーステナイト相を有
し、これを冷間加工などの前処理で一部マルテンサイト
相に変化させてから時効処理するものである。金属間化
合物Ni3Alを析出させて硬化を図るものであり、積極的
にマルテンサイト相を生成させることで1800N/mm2程度
まで引張強さを上昇させることが可能である。
て、上記の従来鋼種よりもさらに高強度化を図ったステ
ンレス鋼が開発されている。例えば、特開昭61−296356
号公報や特開平4−202643号公報には、CuとSiを複合添
加した準安定オーステナイト系ステンレス鋼に適度の冷
間加工を施した後、時効処理する手法が開示されてお
り、引張強さ2000N/mm2程度の高強度鋼が得られてい
る。ただし、これらの手法は、高強度を得るための時効
処理温度範囲は非常に狭く、営業的な生産への適用は必
ずしも容易でない。
公報,特開平7−300654号公報において、MoとSiを複合
添加した準安定オーステナイト系ステンレス鋼に適度の
冷間加工を施し、その後の時効処理を高温で行うことに
より、引張強さ2000N/mm2程度でしかも靱性に優れた高
強度鋼が得られることを開示した。この手法では成分組
成の厳密なコントロールが要求されるが、今日の製鋼技
術で十分対応できる。また、時効処理温度範囲は広く、
かつ短時間の時効処理が可能なため工業的な連続生産に
も対応できる。
号公報,特開平7−300654号公報に開示の技術により、
引張強さ2000N/mm2級の高強度ステンレス鋼材の製造技
術はほぼ確立されたと言うことができる。ところが昨
今、ばね材やブレード板の用途を中心に、さらに一層の
高強度化を図ったステンレス鋼素材の要求が高まりつつ
ある。この要求に応えるためには、2200N/mm2以上の引
張強さが安定して得られる素材を開発し提供することが
望まれるところである。
する超高強度金属材料として、18Niマルエージ鋼が知ら
れている。例えば、18Ni−9Co−5Mo−0.7Ti系マルエー
ジ鋼で2000N/mm2級、18Ni−12.5Co−4.2Mo−1.6Ti系マ
ルエージ鋼で2400N/mm2級の引張強さが得られている。
またこれらの材料は比較的良好な靱性も有している。し
かし、Ni,Co,Moという高価な元素を多量に含むため、
素材コストが非常に高いという欠点がある。したがっ
て、この素材を安価な板ばね等の用途に適用することは
事実上不可能である。
mm2以上の引張強さを呈する超高強度金属材料を、準安
定オーステナイト系ステンレス鋼を素材として製造し、
提供することを目的とするものである。また本発明にお
いては、連続ラインで時効処理して得られる鋼帯のみな
らず、各種部品に加工した後、バッチ処理で時効処理す
る鋼材をも提供可能にする点に配慮する。
−207250号公報,特開平7−300654号公報で開示した鋼
について、引張強さを2200N/mm2級に引き上げる試みを
種々行ってきた。しかし、当該鋼においてそのような高
強度を安定的に得ることはできなかった。検討の結果、
特開平6−207250号公報,特開平7−300654号公報に示し
た鋼で2000N/mm2を超える高強度を得るには合金設計上
の無理があることがわかり、これらとは別の化学組成を
有する鋼を新規開発するする必要があるとの結論に達し
た。そこでさらに検討を進め、化学組成においてはC
含有量を0.10質量%を超える量にすること、金属組織
においては冷間加工により加工誘起マルテンサイト相を
生成させ、80〜95体積%マルテンサイト+オーステナイ
トの組織を時効前に得ておくことが非常に望ましいこと
を知見した。本発明はこのような知見に基づいて完成さ
れたものである。
求項1の発明は、質量%で、C:0.10超え〜0.20%,S
i:1.0〜5.0%,Mn:3.0%以下,Ni:4.0〜10.0%,C
r:12.0〜18.0%,Cu:3.5%以下,Mo:5.0%以下,
N:0.15%以下,残部がFeおよび不可避的不純物であ
り、C+N≧0.15%,Si+Mo≧3.5%を満たし、かつ下
記(1)式で定義されるMd(N)の値が50〜140となる化学組
成を有する超高強度準安定オーステナイト系ステンレス
鋼材を提供するものである。 Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Mo ・・(1)
て、特にCu含有量が1.0〜3.0質量%、かつMo含有量が1.
0〜4.5質量%である点を規定したものである。
載の鋼材において、該鋼材が特に2200N/mm2以上の引張
強さを有する板材または線材である点を規定したもので
ある。
おいて、マルテンサイト相が80〜95体積%で残部が実質
的にオーステナイト相からなる加工された複相組織を呈
し、かつMo系析出物が前記マルテンサイト相中に分布し
ている点を規定したものである。ここで、「実質的にオ
ーステナイト相」とは、析出物や非金属介在物、さらに
は概ね1体積%以下の少量のδフェライト相を含んでも
よいことを意味する。また、加工された組織であること
は、例えば光学顕微鏡観察によりオーステナイト結晶粒
が加工方向に延びていることなどで特定することができ
る。Mo系析出物としてはFe2Mo,Fe3Mo等を挙げることが
できる。Mo系析出物の存在は、例えば電子顕微鏡による
ミクロ的な観察手法により特定することができる。
学組成を有する鋼を溶体化処理したのち冷間加工して、
80〜95体積%のマルテンサイト相を含む金属組織とした
鋼材に対し、300〜600℃の温度範囲で0.5〜120分の時効
処理を施す、引張強さが2200N/mm2以上の超高強度準安
定オーステナイト系ステンレス鋼材の製造法である。こ
こで、「80〜95体積%のマルテンサイト相」は冷間加工
で新たに生じた加工誘起マルテンサイト相が主体である
が、溶体化処理後に既に冷却マルテンサイト相が存在し
ていた場合にはそれも含まれる。マルテンサイト相以外
の部分は実質的にオーステナイト相である。
て、特に鋼のCu含有量が1.0〜3.0質量%,Mo含有量が1.
0〜4.5質量%である点を規定したものである。
造法において、特に溶体化処理後の組織がオーステナイ
ト単相の組織または冷却マルテンサイト相を30体積%以
下含むオーステナイト相主体の組織である点、および冷
間加工により加工誘起マルテンサイト相を生成させる点
を規定したものである。
において、特に時効処理を10〜120分のバッチ処理で行
う点を規定したものである。
N/mm2以上であるような超高強度準安定オーステナイト
系ステンレス鋼材を得るためには、鋼の成分組成を新規
な化学組成範囲に厳密に規定することが必要であり、ま
た、時効処理前の金属組織状態を適正化することが非常
に望ましい。以下、本発明を特定するための事項につい
て説明する。
明では特に重要な意味をもつ。Cは、オーステナイト形
成元素であり、高温で生成するδフェライト相の抑制、
および冷間加工で誘発されたマルテンサイト相の強化に
極めて有効である。MoとSiを複合添加した従来の高強度
準安定オーステナイト系ステンレス鋼では、耐粒界腐食
性や靱性を確保する観点からC含有量を0.10質量%以下
に規制する設計思想を採用していた。しかし、発明者ら
の研究の結果、このようなCレベルで2200N/mm 2以上と
いった超高強度を安定して得ることは困難であること、
およびC含有量を引き上げることで、そのような超高強
度が実現可能になることがわかった。また、耐粒界腐食
性や靱性に関しても、一般的なばね用途やブレード板用
途においては、0.20質量%以下のC含有量であればほと
んど問題ないことが詳細な調査によって明らかになって
きた。むしろ、耐粒界腐食性や靱性のわずかな低下によ
るデメリットよりも、強度レベルが大幅に向上するメリ
ットの方がはるかに大きい場合がほとんどである。そこ
で本発明では、MoとSiを複合添加した鋼では従来試みら
れることのなかった、0.10超え〜0.20質量%というC含
有量範囲を規定し、超高強度化を達成するに至った。
超高強度化が達成できるわけではない。それには冷間加
工後(時効処理前)のマルテンサイト量の適正化、遡れ
ば加工誘起マルテンサイト相の生成し易さを適正化する
ための組成コントロールが、C含有量の規定とともに極
めて重要となる。この点については後述する。
では脱酸目的で使用され、その含有量はSUS301,SUS304
の例に見られるように1.0質量%以下である。しかし本
発明ではSi含有量をこれより多くして、冷間加工時の加
工誘起マルテンサイト相の生成を顕著に促進させる作用
を発揮させる。またSiは加工誘起マルテンサイト相を硬
くするとともに、オーステナイト相にも固溶しこれを硬
化させ、冷間加工後の強度向上に寄与する。さらに、時
効処理においては、Cuとの相互作用により時効硬化能を
増大させる。これらのSiの作用を十分に享受するには、
1.0質量%以上のSi含有量とする必要がある。ただし、
5.0質量%を超えるとコイルどうしの溶接の際に冷却速
度を制御しても高温割れを誘発し易くなり、製造上種々
の問題が生じる。したがってSi含有量は1.0〜5.0質量%
とした。なお、好ましいSi含有量は1.0超え〜4.0質量%
である。
る元素で、その含有量は他の元素とのバランスによって
決定されるが、Mn含有量が多いと冷間加工時にマルテン
サイト相が誘発されにくくなるので3.0質量%以下とし
た。なお、好ましいMn含有量は0.2〜2.5質量%である。
を得るために必須の元素であるが、本発明の場合、特
に、溶体化処理後の状態で、オーステナイト単相組織ま
たは冷却マルテンサイト相を30体積%以下含むオーステ
ナイト相主体の組織が得られるようにする点を考慮しな
ければならない。Ni含有量が4.0質量%未満では高温で
多量のδフェライト相が生成し、しかも室温までの冷却
過程でマルテンサイト相が生成し易くなるので、上記組
織を得ることが困難となる。一方、10.0質量%を超える
と冷間加工でマルテンサイト相が誘起されにくくなる。
したがって、Ni含有量は4.0〜10.0質量%とした。な
お、好ましいNi含有量の下限は5.0質量%、同上限は8.5
質量%である。
である。本発明鋼材の適用用途を考慮すると、12.0質量
%以上のCr含有量が必要である。しかし、Crはフェライ
ト形成元素でもあるので、多量に含有させると高温でδ
フェライト相が生成し易くなる。この作用を打ち消すた
めにはオーステナイト形成元素(C,N,Ni,Mn,Cu
等)を添加しなければならないが、これらの元素の過度
の添加は室温でのオーステナイト相の安定化をもたら
し、冷間加工でのマルテンサイト相の誘起を不十分にす
る。そうなると時効処理後に高強度を得ることが不可能
となる。このためCr含有量の上限は18.0質量%とした。
なお、好ましいCr含有量は12.0〜16.5質量%である。
り顕著な硬化作用を発揮する。しかし、過剰のCu含有は
熱間加工性を劣化させ鋼材の割れ発生の原因となるの
で、3.5質量%以下の範囲で含有させることとした。好
ましいCu含有量の下限は1.0質量%、同上限は3.0質量%
である。
処理で炭窒化物を微細に分散させる作用を示す。また、
本発明では疲労特性に悪影響を及ぼす過度の圧延歪を低
減するために時効温度を高くするが、この高温時効での
歪の解放があまりに急激であると強度面で不利となる。
Moは高温時効での急激な歪の解放を抑制する非常に有効
な元素である。さらに、Moは時効処理時に析出物(Fe2M
o,Fe3Mo等)を形成させるが、かなりの高温域で時効を
行ってもこれらのMo系析出物は強度向上に有効な形態で
形成されるため、Mo添加によって高温時効による強度低
下を防止することができる。ただし、Mo含有量があまり
多くなると高温でδフェライト相が生成し易くなるの
で、Mo含有量は5.0質量%以下とした。なお、上記Moの
作用を十分享受するには1.0質量%以上のMo含有量を確
保することが望ましい。しかしMo含有量が多くなると高
温での変形抵抗が高くなるため、熱間加工性を重視する
場合はMo含有量の上限を4.5質量%とすることが望まし
い。したがって、本発明における好ましいMo含有量は1.
0〜4.5質量%である。
もに、オーステナイト相およびマルテンサイト相を硬化
させるのに極めて有効な元素であるが、多量の添加は鋳
造時のブローホールの原因となるので0.15質量%以下と
した。
の効果を十分に発揮させるためにはC+Nの合計含有量
が0.15質量%以上となるようにする必要がある。
を形成させるが、Si添加によりその析出物の生成サイト
が増加し、それにより析出物の大きさも微細になる。Mo
系析出物の分布形態を十分に微細かつ均一にするには、
Si+Moの合計含有量を3.5質量%以上とする必要があ
り、そのとき、Mo系析出物は強度向上に顕著に寄与し得
る。
安定して得るための手段として、前述のC含有量の増加
による強度上昇効果とともに、冷間加工によるマルテン
サイト誘起変態を積極的に利用する。そして、時効処理
前の段階において、80〜95体積%の全マルテンサイト量
が確保されていることが極めて有利となる。
態で、組織の大部分がオーステナイト相になっているこ
とが必要である。発明者らの研究の結果、溶体化処理後
に、「オーステナイト単相組織」または「冷却マルテン
サイト相を30体積%以下含むオーステナイト相主体の組
織」になっていることが非常に望ましいことがわかっ
た。
ルテンサイト量が80〜95体積%となるように加工誘起マ
ルテンサイト相が無理なく生成する化学組成を有してい
ることが非常に有効である。つまり、例えば冷間圧延で
あれば、実施し易い20〜60%といった圧下率によって、
特段の強加工や温度制御をすることなく、上記マルテン
サイト量を確保できることが望ましいのである。その
際、わずかな加工で急激にマルテンサイト相が誘起され
てしまうようでは、十分な加工率が確保できないため加
工硬化による強度向上作用が利用できず、超高強度化は
達成できない。
において、オーステナイト相の加工に対する安定度を厳
密に規定することが不可欠となる。本発明では、当該安
定度の指標として下記(1)式で表されるMd(N)値を採用し
た。 Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Mo ・・(1) ここで、C,Si,・・・,Moは、それぞれ当該鋼のC含
有量,Si含有量,・・・,Mo含有量(いずれも質量%で
表される値)を意味する。
イト相が冷間加工に対し安定で、超高強度化に寄与する
マルテンサイト相が十分に形成されない。一方、Md(N)
が140を超える鋼では、比較的低い冷間圧延率でほぼマ
ルテンサイト単相となってしまい、冷間圧延時の靱性低
下が懸念されるとともに、冷間加工不足により超高強度
化の達成が困難となる。そこで本発明では、Md(N)の値
が50〜140となるよう、各成分元素の含有量をコントロ
ールする。なお、好ましいMd(N)値の下限は60、同上限
は135である。
て、熱間加工あるいはさらに冷間加工を行った後、溶体
化処理を施し、準安定オーステナイト相単相、または一
部冷却マルテンサイトが生成した準安定オーステナイト
相主体の金属組織を得る。ここで、前記の化学組成コン
トロールにより、冷却マルテンサイト相は概ね30体積%
以下の量に抑えられる。
対して冷間加工を施し、加工歪を導入する。その際、準
安定オーステナイト相の多くはマルテンサイト相に変態
する。時効処理後に2200N/mm2以上の引張強さを得るに
は、この段階で鋼材中のマルテンサイト量を80体積%以
上(好ましくは80体積%を超える量)としておくことが
非常に有効である。これにより、時効処理時に、硬化に
寄与する有効な析出物の核生成サイトを十分に増やすこ
とができるのである。ただし、鋼材の靱性を確保するう
えで、マルテンサイト100%の組織とするのは好ましく
ない。好ましい組織は、全マルテンサイト量が80〜95体
積%で、残部が実質的にオーステナイト相からなる「複
相組織」である。Md(N)値を前述の適正範囲に調整した
鋼であれば、冷間加工率をコントロールすることで比較
的容易にこのような複相組織が得られる。
施すが、用途によっては冷間圧延材にさらにスピニング
加工その他の冷間加工を施したり、あるいは溶体化処理
後にはじめから圧延以外の冷間加工を施してもよい。線
材の場合には引抜による線引加工を施すのが一般的であ
る。いずれにしても、時効処理前の段階において、鋼材
中のマルテンサイト量が80〜95体積%になっていること
が、2200N/mm2級の超高強度鋼材を得るうえで極めて有
効である。
ンサイト相を多量に含む冷間加工材に対して、300〜600
℃の温度範囲で均熱時間0.5〜120分の加熱を行う。時効
処理温度を300℃以上にすることで析出強化現象が十分
に現れて目的とする超高強度を得ることが可能となり、
また過剰な加工歪が除去されて靱性も確保できるように
なる。しかし600℃を超える温度で加熱すると、加工誘
起マルテンサイト相の回復・再結晶が起こったり、一部
がオーステナイト相に逆変態する場合が生じるため、材
料は軟化する。均熱時間については、0.5分未満では十
分な時効硬化が期待できず、また120分を超える長時間
の加熱では過時効による軟化や炭化物の粒界析出による
耐食性低下が生じるようになる。
0.5分から120分までの広いレンジで実施が可能である点
に特徴がある。したがって、冷延鋼帯を熱処理炉に連続
通板する方法で超高強度鋼帯を製造することが可能であ
るだけでなく、所望の部品に加工した材料に対してバッ
チ処理で時効処理を施すことも可能になる。バッチ処理
による操業現場では、均熱時間を数分程度の短時間に精
度良くコントロールすることは困難である場合が多い。
したがって、特にバッチ処理での時効処理を採用する場
合は、10〜120分の均熱時間とすることが好ましい。
示す。表中のS1〜S9は化学組成が本発明規定範囲にある
もの(本発明対象鋼)、M1〜M6はそれ以外のもの(比較
鋼)である。
鍛造、熱延、中間焼鈍および冷延を施した後、1050℃で
1分間保持して水冷する溶体化処理を施し、その後、種
々の圧延率で冷間圧延を行い板厚1.2〜0.8mmの冷延材を
得た。さらにこれらの冷延材に525℃×60分の時効処理
を施した。表2に、各試料の、冷延率、冷延材のマルテ
ンサイト量および引張強さ、ならびに時効材の引張強さ
を示す。なお、引張試験は、JIS Z 2201に規定される13
B号試験片を用い、JIS Z 2241に規定される試験方法で
実施した。
量%を超える量に満たないM1,M3,M6、Si含有量が1.0
質量%に満たないM4、およびMd(N)値が50に満たないM
2,M5では、いずれも時効材において2200N/mm2以上の引
張強さは得られていない。これに対し、本発明例である
S1〜S9ではいずれも時効材において2200N/mm2以上の引
張強さが得られた。
525℃×60分の時効材の引張強さをC含有量で整理した
ものである。C含有量0.10質量%以上において、引張強
さが2200N/mm2以上の超高強度鋼材が得れることがわか
る。
で均熱30分の時効処理を施し、引張強さを調べた。その
結果を図2に示す。本発明対象鋼であるS3では、300〜6
00℃の範囲で2200N/mm2以上の引張強さが得られている
ことがわかる。
ステンレス鋼において、引張強さが2200N/mm2以上とい
う、18Niマルエージ鋼に匹敵する超高強度鋼材が実現さ
れた。すなわち本発明は、従来の高強度ステンレス鋼材
の強度を10%あるいはそれ以上も向上させることに成功
した点で、その技術的価値は大きい。
有量の影響を示すグラフである。
張強さに及ぼす時効処理温度の影響を示すグラフであ
る。
Claims (8)
- 【請求項1】 質量%で、C:0.10超え〜0.20%,Si:
1.0〜5.0%,Mn:3.0%以下,Ni:4.0〜10.0%,Cr:1
2.0〜18.0%,Cu:3.5%以下,Mo:5.0%以下,N:0.1
5%以下,残部がFeおよび不可避的不純物であり、C+
N≧0.15%,Si+Mo≧3.5%を満たし、かつ下記(1)式で
定義されるMd(N)の値が50〜140となる化学組成を有する
超高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼材。 Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Mo ・・(1) - 【請求項2】 Cu含有量が1.0〜3.0質量%,Mo含有量が
1.0〜4.5質量%である請求項1に記載の鋼材。 - 【請求項3】 鋼材が2200N/mm2以上の引張強さを有す
る板材または線材である請求項1または2に記載の鋼
材。 - 【請求項4】 マルテンサイト相が80〜95体積%で残部
が実質的にオーステナイト相からなる加工された複相組
織を呈し、かつMo系析出物が前記マルテンサイト相中に
分布している請求項1〜3に記載の鋼材。 - 【請求項5】 質量%で、C:0.10超え〜0.20%,Si:
1.0〜5.0%,Mn:3.0%以下,Ni:4.0〜10.0%,Cr:1
2.0〜18.0%,Cu:3.5%以下,Mo:5.0%以下,N:0.1
5%以下,残部がFeおよび不可避的不純物であり、C+
N≧0.15%,Si+Mo≧3.5%を満たし、かつ下記(1)式で
定義されるMd(N)の値が50〜140となる化学組成を有する
鋼を溶体化処理したのち冷間加工して、80〜95体積%の
マルテンサイト相を含む金属組織とした鋼材に対し、30
0〜600℃の温度範囲で0.5〜120分の時効処理を施す、引
張強さが2200N/mm2以上の超高強度準安定オーステナイ
ト系ステンレス鋼材の製造法。 Md(N)=580−520C−2Si−16Mn−16Cr−23Ni−300N−26Cu−10Mo ・・(1) - 【請求項6】 鋼のCu含有量が1.0〜3.0質量%,Mo含有
量が1.0〜4.5質量%である請求項5に記載の製造法。 - 【請求項7】 溶体化処理によりオーステナイト単相の
組織または冷却マルテンサイト相を30体積%以下含むオ
ーステナイト相主体の組織とし、冷間加工により加工誘
起マルテンサイト相を生成させる、請求項5または6に
記載の製造法。 - 【請求項8】 時効処理を10〜120分のバッチ処理で行
う請求項5〜7に記載の製造法。
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JP29156699A JP4223161B2 (ja) | 1999-10-13 | 1999-10-13 | 超高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼材および製造法 |
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JP29156699A JP4223161B2 (ja) | 1999-10-13 | 1999-10-13 | 超高強度準安定オーステナイト系ステンレス鋼材および製造法 |
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Publication number | Priority date | Publication date | Assignee | Title |
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1999
- 1999-10-13 JP JP29156699A patent/JP4223161B2/ja not_active Expired - Fee Related
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EP3882367A4 (en) * | 2018-12-18 | 2022-03-09 | Posco | STAINLESS STEEL WITH HIGH MECHANICAL RESISTANCE |
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