JP2001000956A - 微生物利用による毛または羽毛の処理方法 - Google Patents

微生物利用による毛または羽毛の処理方法

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Abstract

(57)【要約】 【課題】 カビを利用して大量の毛や羽毛を分解・微細
化する方法およびそれより得られ微細化物の利用方法を
提供する。 【解決手段】 この方法は、毛や羽毛を分解できるカビ
を用いて酸素含有ガス流下で毛または羽毛を処理するこ
とにより毛または羽毛を分解して微細化する。これより
得られた微細化物は肥料として有用である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、カビを利用して大量の
毛や羽毛を分解・微細化する技術に関する。本発明は、
カビを利用して得られた毛や羽毛の分解・微細化産物を
肥料として利用する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】皮革産業では、材料となる皮を処理する
過程で毛を除去する必要がある。毛を除去するためのお
もな方法は、例えば、硫化物と石灰で毛を溶解するもの
であるが、処理される毛の量は世界全体では年間少なく
とも数万トンと推定されており(例えば、U.S. Leather
Industries Statistics 1995を参照)、その廃液が皮
革製造における排水の汚濁負荷の大部分を占めている。
【0003】最近この問題を解決するために、硫化物の
使用量を低減させた省硫化脱毛法が実用化された(平成
7年度通商産業省委託事業報告書「非クロム系鞣製技術
の開発研究」日本皮革技術協会 平成8年3月30日を参
照)。この方法では、排水の汚濁を低減させることがで
きるが、一方では従来可溶化されて廃棄されていた廃毛
が固形分として回収される。この廃毛は、毛が難分解性
であることから有効な処理方法が確立されていない。
【0004】また食鳥産業では大量の羽毛が発生する。
この羽毛の多くは廃棄され、また一部は餌などとして利
用されているがコストが高く、資源として十分に利用さ
れているとはいえない。
【0005】毛や羽毛は線維状で組織が強靱であるため
に、そのままで素材として利用するには限界がある。毛
や羽毛を粉末状にすることは、これらの素材を様々な用
途に有効利用するために有利である。しかしながら、乾
式で粉砕するためには、毛や羽毛が軽量で柔軟なため衝
撃力を十分に与えることができなかった。更にその組織
が強靱なために強力な外力を必要とした。一方、湿式で
粉砕するためには適当な長さに切断し、これを長時間か
けて粉砕するなどして粉末化したり、加熱、加圧条件を
与えたのちに膨化変性、粉末化するなどの方法が開発さ
れてきた(例えば、特開平2−207855号公報:発
明の名称「毛の粉末の製造方法」を参照)。しかしなが
ら、このような従来の方法で大量の毛や羽毛を処理しよ
うとすると高額な経費と大規模な施設が必要となり、大
量の廃毛や羽毛の処理には適していない。
【0006】ドイツ公開特許第1090673号明細書
は、放線菌(Streptomyces fradia
e)を使用して毛や羽毛を水溶性の蛋白分解物に分解す
る方法を開示する。しかし、この方法も皮革産業の廃液
汚濁の問題に何ら解決を与えないばかりか、この方法は
大量の毛や羽毛を処理するのには不向きである。
【0007】したがって、省硫化脱毛法で発生する大量
の廃毛や食鳥産業で発生する羽毛を、安価でかつ簡便に
処理し、さらに有効利用するための技術はこれまで確立
されていなかった。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、皮革産業に
おける大量の廃毛や食鳥産業における羽毛に対応して、
従来技術にない大規模に処理できる技術を提供すること
を目的とする。すなわち、本発明は大量の毛や羽毛を、
安価でかつ簡便に処理し、得られた分解・微細化産物を
有効利用することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】発明者らは、上記課題に
ついて鋭意研究を行った結果、ある種のカビが、毛や羽
毛を栄養源のひとつとして生育できること、またこの時
に毛や羽毛が分解され、容易に微細化されて有効利用し
やすい状態となることを見いだし、本発明を完成するに
至った。
【0010】即ち、本発明は、毛や羽毛を分解できしか
も好気性であるカビを用いて酸素含有ガス流下で毛また
は羽毛を処理することを特徴とする毛または羽毛を分解
して微細化する方法にある。
【0011】さらに本発明は、上記の分解・微細化方法
によって得られる毛または羽毛の分解・微細化産物にあ
る。また、本発明は、上記の毛または羽毛の分解・微細
化産物が肥料として有用であることを見出した。したが
って、本発明は、上記の毛または羽毛の分解・微細化産
物を含有する肥料にある。
【0012】以下、本発明を詳細に説明する。本発明で
使用されるカビの種類は毛や羽毛を十分に分解できるも
のであれば種を限定しないが、好気性のカビが好まし
い。本発明で使用できるカビは、例えば、Acremonium s
trictum, Arthroderma quadrifidum, A. curreyi, A. t
uberculatum, Arthroderm multifidum, A. cuniculi, A
phanoascus terreus, Beauveria bassiana, Cephalospo
rium acremonium, Chrysosporium asperatum, C. carmi
chaelii, C. crassitunicatum, C. europae, C. evolce
anui, C. georgii, C. inducum, C. inops, C. keratin
ophilum, C. lobatum, C. lucknowense, C. luteum,C.
merdarium, C. multifidum, C. pannicola, C. pannoru
m, C. parvum, C. pruinosum, C. pseudomerdarium, C.
queenslandicum, C. tropicum, C. xerophilum, C. zo
natrum, Ctenomyces serratus, Epidermophyton flocco
sum, Gymnoascus umbrinus, Microsporum audouinii,
M. canis, M. cookei, M. gypseum, Scopulariopsis br
evicaulis, Scopulariopsis candida, Trichophyton aj
elloi, T. mentagrophytes, T. rubrum, T. terrestre,
T. vanbreuseghemii, T. verrucosum等があるが、C. k
eratinophilumが好ましい。
【0013】原料の毛や羽毛は、上記省硫化脱毛で発生
する廃毛や食鳥産業で発生する羽毛があるが、これらに
限定されず、他の方法で発生するあらゆる毛や鳥の羽毛
が含まれる。
【0014】先ず、毛や羽毛にカビの生育を補助する成
分を含む液、例えば、酵母エキスを含むYメディウム
(表1)を含浸させ、これに本発明で使用できるカビを
加えて一定期間培養する。
【0015】
【表1】
【0016】但し、Yメディウムは生育を補助するため
のものであるので、補助できるものであれば他のもの、
例えば生活排水、工業排水などでもよい。また、カビが
このような補助培地がなくても生育できる場合には補助
培地を使用しなくてもよい。
【0017】毛や羽毛の分解が進行するのにともなっ
て、大量のアンモニアが発生する。通常の培養法では、
このアンモニアが培養系のpHを大幅に上昇させるため
にカビの成育が阻害され、結果的に毛や羽毛の分解が不
十分なままで停止する。この対処方法として水による洗
浄でpHを低下させることも可能であるが、この方法で
は多量の水と時間、経費が必要となり、工業化には適し
ていない。一方、反応系が乾燥すると、カビの生育が阻
害されて毛や羽毛の分解が停止してしまう。
【0018】種々の検討の結果、培養装置中に、乾燥を
防ぐ目的で加湿した酸素含有ガス、例えば、空気を常時
流通させるか、随時水を散布しながら酸素含有ガスを常
時流通させることによって、アンモニアがガスとして除
去され、反応系のpHをカビが生育可能な範囲内に維持
できることが明かとなった。例えば、Chrysosporiumker
atinophilumは好気性が強いために、空気を絶え間なく
流通させることによって生育が阻害されることはなく、
かえって促進される。その結果、処理後の毛は培養前の
ものと比較して十分に分解されており、極めて容易に微
細化できる。
【0019】培養は、20〜28℃、pH5〜8.5で
10日から30日程度行うことが好ましいが、所定のカ
ビを培養できればどのような条件でもよい。培養後に残
った毛や羽毛の残渣は分解が顕著に進行しているため、
通常の微細化装置は無論、薬さじ等を手で押し当てるこ
とによっても容易に微細化される。得られた微細化物
は、土壌に加えることによって土壌の団粒化を改善した
り、土壌微生物や昆虫、小動物によって分解されて肥料
となりやすい。また反応装置から除去されたアンモニア
は、希酸溶液中を通過させることによってアンモニウム
塩として回収でき、窒素肥料として利用できる。
【0020】以上より、本発明の毛や羽毛の分解・微細
化処理技術は、従来環境汚染を引き起こしていた皮革産
業や食鳥産業における大量の廃毛や羽毛を、環境を汚染
しない手法によって処理し、かつ有効利用できる技術で
あることがわかった。
【0021】
【実施例】以下、本発明を実施例によりさらに具体的に
説明する。但し、本発明は、これら実施例により限定さ
れるものではない。 (実施例1)多段充填塔容器による毛の分解 一方から空気を送り込み、他方から排出できる多段充填
塔容器内に牛の毛を保持し、省硫化脱毛法で発生した毛
1キログラムに対して4リットルのYメディウムを含浸
させた(図1参照)。これにカビChrysosporium kerati
nophilum(受託番号FERM P−17363として工
業技術院生命工学工業技術研究所に寄託)の種菌液を1
00ml添加する。カビの乾燥を防止するために加湿し
た空気を常時流通させながら、排出される空気を希酸中
に導くことによって、発生するアンモニアをガスとして
培養系から除去し希酸中に回収した。培養は、20〜2
8℃、pH5〜8.5で25〜28日行った。図2に未
処理の毛(A)と、Chrysosporium keratinophilumのカ
ビで8日間培養した毛(B)、25日間培養した毛
(C)、及び25日間培養後に薬さじで軽く押し潰した
毛(D)の写真を示す。(D)では毛が原形を留めてい
ない程度に微細化されている。培養後の毛は一般的な粉
砕機で容易に微細化され、肉眼的には毛としての形状を
留めない。顕微鏡で観察して大きさを測定すると、毛は
数十ミクロンから数百ミクロンに微細化されていた。
【0022】25日ないし28日間培養したあとに残っ
た不溶残渣の乾燥重量を表2に示す。
【0023】
【表2】
【0024】表2により、重量が培養開始時の40〜5
0%程度に減少したことが分かる。また窒素含量につい
ては表3に示す。
【0025】
【表3】
【0026】表3より、未処理の毛の60%以上が分解
されたことが分かる。 (実施例2)攪拌槽による毛の分解 図3に示すように、攪拌槽内に、省硫化脱毛法で発生し
た毛、YメディウムとChrysosporium keratinophilumを
いれ、攪拌装置によって攪拌しながら培養した。培養2
0日間から30日間程度で、毛は容易に微細化される状
態となった。培養は、20〜28℃、pH5〜8.5で
20日〜30日行った。 (実施例3)羽毛の分解 実施例1と同様に多段充填塔容器内にニワトリの羽毛、
YメディウムとChrysosporium keratinophilumの種菌液
といれ、20〜28℃、pH5〜8.5で10日日間培養
した。Chrysosporium keratinophilumは羽毛の軸部分に
も増殖し、極めてよく分解するため容易に微細化された
(図4参照)。図4中、(A)は未処理の羽毛であり、
(B)はChrysosporium keratinophilumで10日間培養
した羽毛であり、軸の部分も含めてカビがよく増殖し分
解されていることが分かる。(C)は(B)を薬さじで
一部微細化させたものであり、容易に微細化できたこと
が分かる。 (実施例4) 実施例1で得られた牛毛の微細化産物をオートクレーブ
滅菌し、1鉢あたり2.3リットルの畑土壌と6グラム
の微細化産物を加えた。微細化産物を加えない以外同じ
土壌を同量加えた鉢を対照とした。本発明の微細化産物
を添加した鉢と対照の鉢のそれぞれ2鉢にチンゲンサイ
の種を蒔き、発芽後に間引きをして各鉢3本ずつを栽培
した。41日間栽培後に根を含めて採取し重量を測定し
た。
【0027】本発明の微細化産物を添加した鉢では対照
と比較してチンゲンサイが大きく成長した(図5、6参
照)。また、その重量は対照が7.9±3.9g(平均
±標準偏差;n=6)であったのに対して、本発明の微
細化産物を添加した場合には15.5±4.3g(n=
6)と有意に増加していた(p<0.05,Stude
nt’s −test)。 (実施例5)実施例1で得られた牛毛の微細化産物をオ
ートクレーブ滅菌し、1鉢あたり2.3リットルの畑土
壌と25グラムの微細化産物を加えた。微細化産物を加
えない以外同じ土壌を同量加えた鉢を対照とした。本発
明の微細化産物を添加した鉢と対照の鉢のそれぞれ2鉢
に赤かぶの種を蒔き、発芽後に間引きをして各鉢3本ず
つを栽培した。43日間栽培後に根を含めて採取し重量
を測定した。
【0028】本発明の微細化産物を添加した鉢では対照
と比較して赤かぶが大きく成長した(図7、8参照)。
また、その重量は対照が3.5±0.8g(平均±標準
偏差;n=6)であったのに対して、本発明の微細化産
物を添加した場合には5.7±1.1g(n=6)と有
意に増加していた(p<0.05,Student’s
−test)。
【0029】実施例4および5の結果から明らかなよう
に、本発明の毛や羽毛の微細化物は植物の成長を顕著に
促進し、肥料として有用であることが分かる。
【0030】
【発明の効果】本発明により、多量の毛や羽毛を、簡便
かつ安価な方法によって分解・微細化でき、その分解・
微細化産物は、土壌改良材料や肥料としての利用に便利
であるほか、アンモニアガスから生成されるアンモニウ
ム塩を含む液は、農業の窒素肥料として利用できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】多段充填塔(棚段塔)容器を用いたカビによる
毛または羽毛の分解工程を示す模式図である。図は加湿
空気を流通させる場合を示すが、随時水を散布しながら
空気を流通させてもよい。
【図2】多段充填塔容器内での毛の分解程度を示す写真
である。(A)は未処理の毛を、(B)はChrysosporiu
m keratinophilumで8日間分解した毛を、(C)は25日
間分解した毛を、そして(D)は25日間分解後に薬さ
じで軽く押し潰した毛を示す。
【図3】攪拌槽を用いたカビによる毛または羽毛の分解
工程を示す模式図である。図は加湿空気を流通させる場
合を示すが、随時水を散布しながら空気を流通させても
よい。
【図4】多段充填塔容器内での羽毛の分解程度を示す写
真である。(A)は未処理の羽毛を(B)はChrysospor
ium keratinophilumで10日間培養した写真であり、
(C)は(B)を薬さじで一部微細化させたものを示す
写真である。
【図5】対照と比較したチンゲンサイの成長を示す写真
である。分解物添加と示してあるものが本発明の肥料に
より成長したチンゲンサイである。
【図6】対照と比較したチンゲンサイの成長を示す写真
である。分解物添加と示してあるものが本発明の肥料に
より成長したチンゲンサイである。
【図7】対照と比較した赤かぶの成長を示す写真であ
る。分解物添加と示してあるものが本発明の肥料により
成長した赤かぶである。
【図8】対照と比較した赤かぶの根部分の成長を示す写
真である。分解物添加と示してあるものが本発明の肥料
により成長した赤かぶの根部分である。
フロントページの続き (72)発明者 大形 公紀 東京都足立区千住緑町1−1−1 財団法 人日本皮革研究所内 (72)発明者 楠畑 雅 東京都足立区千住緑町1−1−1 株式会 社ニッピ内 (72)発明者 入江 伸吉 東京都足立区千住緑町1−1−1 財団法 人日本皮革研究所内 Fターム(参考) 4B065 AA58X AC20 BB01 BC31 BC33 BC41 BC50 BD50 CA55 4D004 AA50 AC05 BA04 CA04 CA19 CB04 CB05 CC02 CC07 4H061 AA01 CC31 EE66 FF22 HH16 KK02

Claims (3)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 毛や羽毛を分解できるカビを用いて酸素
    含有ガス流下で毛または羽毛を処理することを特徴とす
    る毛または羽毛を分解して微細化する方法。
  2. 【請求項2】 請求項1に記載の方法によって得られる
    毛または羽毛の微細化産物。
  3. 【請求項3】 請求項2記載の毛または羽毛の微細化産
    物を含有する肥料。
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