JP2008050248A - イネ科植物由来の有機発酵肥料及びその製造方法 - Google Patents

イネ科植物由来の有機発酵肥料及びその製造方法 Download PDF

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Abstract

【課題】イネ科植物由来の有機発酵肥料を工業的に生産する方法を開発する。
【解決手段】ケイ素化合物、セルロースやリグニン等繊維質を構成成分として多く含むイネ科植物(籾殻、わら、竹チップなど)を、下水浄化過程における最終沈殿槽以降の全く無臭の処理水を用いて発酵、分解することによって、1ヶ月程度という短期間でイネ科植物由来の有機発酵肥料を製造する方法。
【選択図】なし

Description

本発明は、イネ科植物由来の有機発酵肥料に関する。詳しくは、本発明は、イネ科植物を下水浄化施設から排出される処理水により発酵分解したイネ科植物由来の有機発酵肥料及びその製造方法に関する。
イネ科植物には、植物生長の三要素である窒素、燐酸、カリ成分が比較的多く含まれている。しかし、イネ科植物は土壌中の微生物によって分解され難く、特に、籾殻は、表面がケイ素化合物を主成分とするガラス体とリグニンを多量に含むクチクラ層(以下、ガラス様物質と略称する)で覆われているため、水分を反発してしまい土壌中の微生物によってもその分解に7〜8年を要する。イネは世界で最も多く生産されている穀物であり、日本における年間の米の生産量は約1000万トンであり、それから排出される籾殻の量は約200万トン(2割)で、そのうち35%、約70万トンが未利用のまま焼却処分されているとされている(平成16年:農林水産省生産局農産振興課提供)。なお、全世界の2001年における米の生産高は中国を筆頭に5億9283万トン(米Web)とされ、その2割、約1億1千800万トンの籾殻が排出されることになる。籾殻の焼却は、煤煙による周囲環境への影響のほか、炭酸ガスの発生による地球温暖化などの観点から、環境に影響を与えない方法によって籾殻を有効に利用する方法の開発が世界的に望まれているところである。
籾殻の利用についての特許は、多くなく、籾殻を好気性の雰囲気下で発酵させて肥料とする幾つかの方法が提案されてきている。その一例は、糞尿排泄物(鶏糞、牛糞、豚糞等)に、粉砕した籾殻(平均35メッシュ)を混合して培地を調製し、この混合培地を1日一回攪拌しながら好気性条件下での発酵および熟成を経て有機発酵肥料とする方法である(例えば、特許文献1参照)。この方法によると、11日目以後臭気が消失し、ほぼ一カ月程度で無臭化された有機発酵肥料となり、これを配合肥料として施肥すると、通常の肥料で栽培したものに比べて3倍の大きさの胡瓜が収穫されたと報告されている。
また、加水しながら粉砕した籾殻を加熱膨軟化したものに、雑草あるいは雑木を混合したものを高温発酵菌によって1次発酵し、これに、セルロースとアミロースを分解する放線菌、リグニン等を分解する白色腐朽菌等によって2次発酵を行った後、熟成及び土壌中で植物に有効な作用をするVA菌根菌と根粒菌を加えた籾殻堆肥が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
しかしながら、上記、特許文献1および特許文献2に記載された有機発酵肥料(籾殻堆肥)は、いずれも細かく粉砕した籾殻を使用しているが、籾殻はその表面がガラス様物質で覆われ、柔軟性も有していることからその粉砕は容易ではない。また、特許文献1の製造法では、糞尿排泄物を使用していることから、籾殻の発酵分解は比較的早く進んでいるものと推測されるが、7日程度で無臭になるとはいうものの臭気の発生は避けられない。また、特許文献2の籾殻堆肥は、糞尿排泄物等を用いない方法ではあるが、籾殻の粉砕が容易でないことに加えて、発酵が充分行われるためには、加熱後膨軟化処理という手間のかかる前処理を必要としており、さらに、1次発酵から3次発酵、そして、これに石灰乳、栄養剤あるいは、AV菌根菌及び根粒菌を混合するという複雑な工程によっていることから、経済性の点で実用化には問題がある。このような問題を有していることから、前記特許文献1および特許文献2に記載の技術は実用化されるまでには至っていない。
上記の如き状況にあって、本発明者は、先に、水になじまず、その分解に長い期間を要する籾殻を粉砕することなく、曝気した屎尿に浸漬することによって極めて短時間で籾殻の表面を覆っているガラス様物質が分解されるとの知見を得て、これを発酵分解することによって、有機発酵肥料として商品化(商品名「もみがら物語」)することに成功した(非特許文献1参照)。この方法は、空気を一昼夜屎尿中に送り込み曝気処理した屎尿を浸漬槽に移し、この屎尿処理液に攪拌ないし循環させながら袋詰した籾殻を漬け込んだ後、籾殻を取り出し、酵母菌及び米糠を加えて1次発酵、さらに、牛糞等を加えて2次発酵を行って、ほぼ一ヶ月程度で有機発酵肥料とするものである。
上記籾殻の発酵分解によって得られる有機発酵肥料中の三要素(窒素、燐酸、カリ)の含量(乾燥物として)は、窒素全量1.5%、燐酸全量1.9%、カリ全量2.7%であった(財団法人日本肥糧検定協会)。また当該有機発酵肥料を10アール当たり100kg施肥し、その2週間後に土壌の分析を行ったところ(千葉県袖ヶ浦市農業センター分析)、施肥前の土壌に比べて、カルシウム(CaO)が約7.4倍、マグネシウム(MgO)が約1.6倍、カリウム(K2O)が約1.8倍にそれぞれ増加していることが認められた。また野菜、果物等に施肥した場合、糖分含量が増加し、その収穫量も増えることが確認され注目されている。
特開昭60−137888号公報 特開平9−268088号公報 現代農業 84巻 11月号, p.96〜103(2005)
本発明者が開発した上記有機発酵肥料の製造方法は、屎尿を密閉状態で曝気処理を行っているので、少量の生産には絶えられる程度にまで臭気が少なくなっているものの、完全に脱臭された状態でないため、大量生産を行うには、作業者あるいは生産工場周辺に対し影響の少ない臭気が除かれた製造方法の開発が強く望まれていた。
本発明者は、上記臭気が周囲に与える影響の問題を解消するためさらに開発を進めた結果、下水浄化過程において生物反応層を経て、最終沈殿池以降に排出されるほとんど臭気のない処理水によっても、籾殻の表面を覆っているガラス様物質が溶解されて、籾殻の発酵分解が行われて先に開発した有機発酵肥料(前掲非特許文献)と実質的に同じ割合で三要素(窒素、リン酸、カリ)を成分として含有し、且つ、同等の肥料効果を有する有機発酵肥料が得られることを見出した。本発明はかかる知見に基づいてなされたものである。
すなわち、本発明は、下記(1)〜(6)に記載のイネ科植物由来の有機発酵肥料およびその製造方法を提供するものである。
(1)イネ科植物を下水浄化過程において最終沈殿池以降に排出される処理水を用いて発酵分解することを特徴とするイネ科植物由来の有機発酵肥料の製造方法。
(2)イネ科植物、通性嫌気性菌及び当該菌の栄養源を含有する混合物に、下水浄化過程において最終沈殿池以降に排出される処理水を加えて1次発酵し、さらに、この1次発酵物を交互に逆回転する発酵機により2次発酵を行った後、熟成することを特徴とするイネ科植物由来の有機発酵肥料の製造方法。
(3)イネ科植物、通性嫌気性菌及び当該菌の栄養源を含有する混合物に、下水浄化過程において最終沈殿池以降に排出される処理水を加えて1次発酵し、さらに、この1次発酵物に畜糞、汚泥及び生ゴミから選択された少なくとも1種を加えて2次発酵を行った後、熟成することを特徴とするイネ科植物由来の有機発酵肥料の製造方法。
(4)前記イネ科植物が、籾殻である上記(1)〜(3)のいずれかに記載のイネ科植物由来の有機発酵肥料の製造方法。
(5)前記通性嫌気性細菌が、酵母菌である上記(2)又は(3)に記載のイネ科植物由来の有機発酵肥料の製造方法。
(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載の製造方法により得られたイネ科植物由来の有機発酵肥料。
下水浄水施設(集合屎尿処理場)で浄化された最終沈殿池から排出されるほとんど無臭の処理水を使用することによって、作業環境が改善され、生産工場周辺の環境にも悪影響を与えることなく、イネ科植物から有機発酵肥料を短期間で大量に生産することが可能になった。これにより、大量に発生する籾殻を焼却処分する必要がなくなり、加えて畜糞、生ゴミ、汚泥も有効に利用され、環境問題の解消のみならず、農業生産に寄与する効果は極めて大である。
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明において、最終沈殿池以降に排出される処理水とは、下水浄化過程における生物反応槽を経て、最終沈殿池から排出される処理水のほか、この処理水からゴミなどの固形物を除くために急速濾過した濾過水、そして、この濾過水を最終的に塩素殺菌処理して放流される放流水も意味する。本発明者は、先に籾殻を屎尿により発酵分解させて有機発酵肥料を生産する方法を開発したが(前掲非特許文献)、下水浄水施設(集合屎尿処理場)において浄化された最終沈殿池以降に排出される全く臭気のない処理水によって、屎尿と同様に籾殻が発酵分解されて同等の肥料効果を有する有機発酵肥料を生産しうるということは全く予想し得なかったことである。
本発明において処理の対象となるイネ科植物は、セルロースあるいはリグニン等を構成成分としている籾殻、わら、あるいは竹チップなどである。
特に、籾殻は、既述のとおり、ガラス様物質で覆われているため容易に分解されずに多くが焼却処分されていたが、本発明者により短時間で分解する方法が見出され、それを予め粉砕することなく、有機発酵肥料として工業的に生産する方法が開発されたことにより、各地で注目を集めている(前掲非特許文献)。
また、本発明の製造方法において使用する通性嫌気性細菌は、酸素があってもなくても生育できる菌で、酵母菌、乳酸菌、大腸菌等であり、特に、酵母菌が発酵効率上、また取り扱い易さ、入手し易いこと等から好ましい。その添加量は籾殻100重量部に対して、1〜5重量部程度である。また、菌の栄養源としては、米糠、廃糖蜜等が挙げられるが、米糠が入手し易いことから好ましい。その添加量は同様に5〜20重量部である。
また、本発明の有機発酵肥料には、1次発酵を行った籾殻に、畜糞、汚泥又は生ゴミの一種以上を添加してさらに発酵を行うのが好ましい。畜糞等の添加は、肥料効果の向上が期待されるだけでなく、ゴミの減量化にも寄与する。畜糞は、牛糞、馬糞、鶏糞などであり、生ゴミは、家庭や食品事業者などから出される残飯などである。その添加量は、籾殻100重量部に対して、100〜300重量部程度が適当である。
畜糞等を添加しない場合は、その混合工程が省略されるので、1次発酵を行った後、2次発酵機での発酵を行う。この2次発酵を終えた籾殻は、畜糞等を添加した場合より長い時間、通常3〜4週間熟成するのが好ましい。
なお、畜糞等を加えて発酵を熟成させた籾殻を有機発酵肥料として使用することは可能であるが、この段階における籾殻は、容易に潰れる状態にまで発酵が進んでいるものの、籾殻の原型を保っているため、さらに、2次発酵を行った方が、完全に発酵したものとなること、また施肥し易い大きさのものが得られることから好ましい。
また、本発明の製造方法における特長の一つは、2次発酵において交互に逆回転する羽根を備えた発酵機を用いることである。この発酵機は、本発明者により考案されたもので(特願2006−214876号)、かかる発酵機を用いることにより籾殻がもれなく掻き揚げられて、上部から粒状ないし粉状として落下される過程において、その機構は明らかでないが、均一で極めて効率よく発酵が行われる。この2次発酵は、6時間を越えて長時間行うと籾殻(発酵生産物)が空気中に飛び散るほどの微紛状態にまでなる。肥料としては、2次発酵を1〜6時間、好ましくは1〜3時間以内として粒状の状態で発酵を止めるのが施肥する上で取り扱い易いので好ましい。なお、この2次発酵の処理時間は、1次発酵された籾殻の状態あるいは2次発酵機の性能などにもよるので、ロットごとに粒子の大きさを見ながら発酵時間を適宜調整するのが望ましい。
次に、籾殻を用いた実施例をあげて、本発明を詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例よって限定されるものではない。
[実施例1](乾式法:図1参照)
籾殻100重量部、処理水50重量部、米糠8重量部及び酵母菌3重量部を混合機(2)に投入し、5〜10分間攪拌して混合する。なお、この際、別途調製した1次発酵籾殻を貯蔵タンク内の処理水に対して3〜5重量%加えた処理水を使用すると以降の発酵分解がスムーズに進むので好ましい。籾殻を混合機(2)から取り出し、1次発酵槽(3)にいれオープン状態で約1週間1次発酵を行う。1次発酵を終えた籾殻は押しつぶすことによって容易に粉状になるが相当の量が籾殻の形状を保っている。次に1次発酵槽(3)から発酵を終えた籾殻を取り出し、これに牛糞100〜300重量部を加えて攪拌機(4)で混合し発酵を熟成させた後、交互に逆回転する羽根を備えた2次発酵機(5)に同機の50〜70容量部まで投入してさらに1〜3時間2次発酵を行う。
2次発酵機(5)は、図示のように、籾殻が交互に逆回転する羽根によって順次押し上げられ、上部に設けられている傘状の部材から、粉状ないし粒状となって落下するため、均一に、且つ、効率的に発酵が行われる。2次発酵は6時間を越えて長時間行うと籾殻が微紛状となって飛び散るようになり取扱い難くなるので、ロットごとに発酵の進行程度を見ながら適宜時間を調整して行うのが望ましい。2次発酵を終えた籾殻は、熟成槽(6)に移され1週間熟成させた後、袋詰(7)して出荷される。
なお、籾殻及び一次発酵2時間後の籾殻の組織を示す顕微鏡写真を図2及び図3として示した。
[実施例2]
1次発酵処理までは、実施例1の記載に準じて行う。1次発酵を終えた籾殻に畜糞等を添加せずに、さらに2次発酵機(5)に入れて1〜4時間、籾殻が粉状ないし粒状になるまで発酵を行った籾殻を熟成槽(6)に移し、3〜4週間熟成させる。熟成を終えた籾殻は袋詰して出荷される(商品名:大地の有機)。
[実施例3](湿式法)
麻袋に籾殻50kgを詰めた10袋を処理水5000Lを入れた浸漬槽に入れ、処理水を循環あるいは攪拌の下で一昼夜浸漬した後、麻袋を取り出し水切りした以降は、実施例1に記載した処理方法に準じて、1次発酵、2次発酵、熟成を順次行って有機発酵肥料を得る。なお、この湿式法においても、籾殻の浸漬工程において、別に調製した1次発酵籾殻を浸漬槽内の処理水100に対して3〜5%程度を別の麻袋に入れて同時に浸漬しておくと、籾殻の発酵分解に好影響与え、均質な有機発酵肥料が得られるので好ましい。
以上説明したように、籾殻、わら、あるいは竹のチップ等、主としてセルロースやリグニン等を構成成分としているイネ科植物、特に、分解され難い籾殻が下水浄化処理場(集合屎尿処理場)から浄化されて排出される無臭の処理水によって粉砕可能な状態に発酵分解されるということは意外な発見であった。籾殻の発酵物が肥料として極めて優れていることは既に確認されており、本発明によって、作業者に不快感を与えず、環境に対しても影響を与えない生産方法が開発されたことは、イネ科植物、特に籾殻から有機発酵肥料を大量生産する道を開いたものでありその利用価値は極めて高い。
本発明の乾式法(実施例1)の概略図である。 籾殻表皮の組織を示す顕微鏡写真(×140)である。 発酵2日後の籾殻の組織を示す顕微鏡写真(×25)である。
符号の説明
1.浄水貯蔵タンク
2.混合機
3.1次発酵槽
4.攪拌機
5.2次発酵機
6.熟成槽
7.袋詰製品

Claims (6)

  1. イネ科植物を下水浄化過程において最終沈殿池以降に排出される処理水を用いて発酵分解することを特徴とするイネ科植物由来の有機発酵肥料の製造方法。
  2. イネ科植物、通性嫌気性菌及び当該菌の栄養源を含有する混合物に、下水浄化過程において最終沈殿池以降に排出される処理水を加えて1次発酵し、さらに、この1次発酵物を交互に逆回転する発酵機により2次発酵を行った後、熟成することを特徴とするイネ科植物由来の有機発酵肥料の製造方法。
  3. イネ科植物、通性嫌気性菌及び当該菌の栄養源を含有する混合物に、下水浄化過程において最終沈殿池以降に排出される処理水を加えて1次発酵し、さらに、この1次発酵物に畜糞、汚泥及び生ゴミから選択された少なくとも1種を加えて2次発酵を行った後、熟成することを特徴とするイネ科植物由来の有機発酵肥料の製造方法。
  4. 前記イネ科植物が、籾殻である請求項1〜請求項3のいずれかに記載のイネ科植物由来の有機発酵肥料の製造方法。
  5. 前記通性嫌気性細菌が、酵母菌である請求項2又は請求項3に記載のイネ科植物由来の有機発酵肥料の製造方法。
  6. 前記請求項1〜請求項5のいずれかに記載の製造方法により得られたイネ科植物由来の有機発酵肥料。
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