JP2000512280A - ヒト甲状腺刺激ホルモンレセプター組成物およびその使用 - Google Patents

ヒト甲状腺刺激ホルモンレセプター組成物およびその使用

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Abstract

(57)【要約】 診断及び治療の目的に有用な、TSHR組成物及びその使用方法が開示されている。

Description

【発明の詳細な説明】 ヒト甲状腺刺激ホルモンレセプター組成物およびその使用 技術分野 本研究は、全体的には細胞生理学、内分泌学、および免疫学の分野に関する。 特に本研究は、ヒト甲状腺刺激ホルモン(thyrotropin)レセプター組成物と、そ れらを用いた診断および治療法とに関する。 背景技術 従って、自己免疫疾患の患者における治療処置のための方法および組成物が必 要であり、それらは、利用できるアプローチの限界を打ち破るか、または除去す るものであろう。 図面の簡単な説明 第1図:パネルA: 細胞表面上にTSHRを発現しているCHO単層細胞ヘ の125I−TSHの特異的結合。ウェル当たりのTSHRを同数にするために、 4kb TSHR細胞およびTSHR−0細胞を、それぞれ24穴および96穴の 培養皿内で培養した。細胞は、表示した濃度の125I−bTSH(24および9 6穴プレートに、ウェル当たりそれぞれ250mlおよび50ml)と共にイン キュベートした。特異的な結合は、平行ウェルにおけるトランスフェクトされて いないCHO細胞に結合したトレーサーを引き算することにより測定した。パネ ルB: それぞれ24および96穴プレートで培養した4kb TSHR細胞およ びTSHR−0細胞を用いたTBI分析。分析は、方法に記したように、同一の グレーヴズ病患者の血清を、125I−bTSH(106cpm/ml)の飽和濃度に おいて使用して行なった。両パネルに示したデータは、二重の細胞皿からのほぼ 一致した値の平均値である。 第2図: TBI分析における、放射性同位元素標識したヒトとウシのTS Hの比較。データは、96穴マイクロタイターウェル中で培養したTSHR−0 細 胞(細胞当たり〜150,000TSHR)を用いて調べた、12の血清について示さ れている。TBI分析は方法に記した通りである。125I−bTSHまたは125I −hTSH(5x104cpm/ml;106cpm/ml)50mlを、各々の ウェルに加えた。示した数値は各々のトレーサーについての三重のウェルの、ほ ぼ一致した値の平均値である。正常な血清の存在下におけるトレーサーTSHの 結合は:125I−bTSH、12,396cpm(12,044、12,323、12,821cpmの平均) ;125I−hTSH、2442cpm(2509、2362、2454cpmの平均)であった。 第3図: かき集め、ホモジナイズしたTSHR−10,000細胞は、洗浄剤で抽 出したTSHRの収量を減らす。10cmの集密的な(confluent)皿(5x108 細胞)50個から細胞をかき集め、ペレット化した。1%のTriton X-100を含ん でいる緩衝液で抽出した(方法)後、表示した細胞数より成るアリコート(50 ml)を、キットに通常使われている同量のブタTSHRに代用させた。別のプ ロトコールでは、細胞を培養皿から移さずに、1%のTriton X-100を含んでいる 緩衝液で「直接」細胞を抽出した(方法)。洗浄剤を含んでいる緩衝液3mlを 、直径10cmの培養皿(107細胞)に加えた。細胞抽出物の希釈の間、この洗 浄剤の濃度を一定に保持した。この分析においては、Triton X-100の最終濃度0. 25%は、125I−TSHの結合に影響しないことが認められた。垂直の断続線は 、100%として定義した、ブタの可溶化されたTSHR50mlと同等のTSH 結合(水平の断続線)を達成するために必要なCHO細胞数を示す。 第4図: TSH結合阻害分析における、ブタおよびヒトの可溶化されたTS HRの比較。既知のあるいは擬似の、グレーヴズ病用に臨床研究所に送付された 30の血清のTBI活性を測定した。血清は、ブタTSHRを用いた市販のキッ トで測定した。さらに、全く同じ血清を、可溶化したヒトTSHRをブタTSH Rに代用したこと以外は全く同じ試薬を用いて分析した(方法)。キットに定め られている、ポジティブであるとするためのカットオフポイント(TBI>15 %)を示す。矢印は、ヒトTSHRでは検出可能なTBI活性を有するが、ブ12 5 IタTSHRには活性を有しない二つの血清を示す。 第5図:甲状腺刺激免疫グロブリン(TSI)活性と、可溶化したヒト(パネ ルA)またはブタ(パネルB)のTSHRで測定した、TSH結合阻害(TB I)活性との相関関係。TSI活性は、第4図に描いた28の血清について、ヒ トTSHRで安定にトランスフェクトされたチャイニーズハムスター卵巣(CH O)細胞に関しての生物検定法を用いて測定した(方法)。細かい平行線を引い た区域は、正常な個体(n=20)からの血清について測定したcAMPレベル (基準の130%)の平均値±2S.D.を示す。 第6図: パネルA: TSHR−10,000細胞における、先駆体で標識したT SHレセプターの免疫沈降反応。細胞タンパク質を35S−メチオニンおよび35S −システイン(1時間のパルス;3および16時間のチェイス)で標識し、次い で、そのエピトープがTSHRのアミノ酸残基22−35(17)である、マウスm Ab A10を用いた免疫沈降を行なった(方法)。免疫沈降した物質の部分を未 処理のままにする(Con)か、またはエンドグリコシダーゼH(EndoH) またはN−グリコシダーゼF(Endo F)で処理した。産生物を、還元条件 下でポリアクリルアミドゲル電気泳動(10%)にかけた。オートラジオグラフ ィーは16時間行なった。この実験ならびに以下の実験に用いた予め染色した分子 量マーカーの大きさは、未染色マーカーに対する、先行のキャリブレーションに より測定した(方法)。パネルB: TSHRに対するmAbの特異性。TSH R−10,000細胞およびトランスフェクトされていないCHO細胞の両者を用いて 、一晩チェイスを行なった後、免疫沈降を行なった。さらに、先駆物質で標識し たTSHR−10,000細胞を、TPOに対するmAbと共にインキュベートした。 免疫沈降したタンパク質(酵素的に脱グリコシル化されていない)を7.5%のポ リアクリルアミドゲルにかけた。48kDaバンドの非特異性に注目されたい。ま たこの図面には、TSHR−10,000細胞におけるTSRの、Bサブユニットに対 するmAbT3−365との免疫沈降が、mAb A10とよりもずっと効率が悪いこ とも示されているが、これは前者が主として変性したTSHRを認識することに よるのかもしれない(21)。mAbT3−365についての48kDaの明らかな二本 のバンドは、再現不能のアーチファクトである。 第7図: TSHR−10,000細胞において過剰発現されたTSHRのイムノ ブロット。表示した場合には、これらの細胞またはトランスフェクトされていな いCHO細胞(「CHO」)の粗膜標本は、未処理のままにする(Con)か、 またはN−グリコシダーゼF(Endo F)またはエンドグリコシダーゼH( Endo H)で処理した(方法)。次いで、材料を、還元条件下でポリアタリ ルアミドゲル電気泳動(10%)にかけ、PVDF膜に移し、表示したmAbでプ ローブした。パネルA: いずれもTSHRのBサブユニット(残基604ないし7 64の範囲内のエピトープ)に対するものである、mAb T3−495およびT3− 365を用いたイムノブロット(方法)。パネルB: トランスフェクトされてい ない細胞との相互作用の欠如により決定される、T3−495およびT3−365mA bの特異性。パネルC: mAb A 10(TSHRのアミノ酸22残基ないし35を 含んでいるエピトープ)とのイムノブロッティングでの、脱グリコシル化された Aサブユニットの大きさの確認。同様のデータが、TSHRのAサブユニットに 対する別のmAbである、mAbA11を用いて得られた(データは示さず)。 パネルD: トランスフェクトされていないCHO細胞の認識の欠如、並びに無 関係な抗原(TPO)に対するmAbによるTSHRの検出の欠如により決定さ れる、TSHRに対するmAb A 10の特異性。 第8図: TSHレセプターサブユニットの概略説明図。この線図は、一定の 比率に縮小しておらず、本研究の新たな情報をもとに、発明者等の先の説明 ( 12)を修正したものである。TSHRのエクトドメインのアミノ末端の三分の二 は、各々α−ヘリックスとβ−シートとを持つ9個のロイシンに富む繰り返しを 含み、リボヌクレアーゼAインヒビターの三次元構造を基盤としている(28)。 この領域のさらに詳しいモデルは、Kajava等(29)により完成されている。Aサ ブユニットのポリペプチッド骨格の大きさは35kDaであり、従って推定される開 裂部位#1は、およそアミノ酸残基330となる(3)。グリコシル化されていな い主要なBサブユニットは〜42kDaであり、従って第二の開裂部位はおよそ残基3 80に位置する。これら二つの部位での開裂は、〜50アミノ酸残基の推定上のCペ プチドを放出する。残基317ないし366の濃い線は、他の糖タンパク質ホルモンレ セプターに比べてTSHRに対する独特の、50アミノ酸の「挿入」を表す。Aサ ブユニットの8個のシステインのうち、6個のみを示す。ジスルフィド結合に関 わることが示されているシステインは仮説的なものであるが、それらがTSHR の開裂後のAおよびBサブユニットの結合を維持することを表 している。TSHRmycは、残基338ないし349と置換されるc−mycエピト ープを含む。このエピトープに対するmAbによる検出が、単一サブユニット型 のTSHRのみであるということは、二つのサブユニットへの開裂の結果、この エピトープが消失することを意味するであろう。この場合、開裂はc−mycエ ピトープの上流か、またはその中にあってもよい。 第9図: HEK細胞において安定発現されたc−mycエピトープのタグを つけたTSHR(TSHRmyc)の免疫沈降。パネルA: 細胞タンパク質を35 S−メチオニンおよび35S−システイン(1時間パルス;一晩チェイス)で標 識した後、mAb A10(Aサブユニット)、またはmAb 9E 10(c−my cピトープ)のいずれかを用いて免疫沈降した。沈降させた検体を未処理のまま にする(Con)か、またはエンドグリコシダーゼH(Endo H)またはN −グリコシダーゼF(Endo F)で処理した(方法)。産生物を、還元条件 下において、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(10%)にかけた。グリコシル化 されたAサブユニットの位置を強調するための対照として、TSHR−10,000細 胞のmAb A10(TSHRmyc材料の約1/20の量)による免疫沈降を、 一番右のレーンに示す。グリコシル化されたAサブユニットが、〜62kDaのより 鮮明なグリコシル化されていないバンドに重なっている広がったバンドであるこ とに注意されたい。乾燥させたゲルのオートラジオグラフィーは17日間であった 。パネルB: いくつかの付加的または微細な特徴を説明している、バネルAの 実験と同様の実験。第一に、そして最も重要であるのは、 TSHR−10,000細 胞の脱グリコシル化したAサブユニットが、TSHRmyc細胞の脱グリコシル 化したAサブユニットと同一の大きさであることを示すために、同じゲルに含ま れていることである。第二には、異なるレセプター型の比例関係が、実験ごとに 変わることである。また、 TSHR−10,000細胞においては、開裂対未開裂レ セプターの、並びに単鎖レセプターの異なる型の相対的な割合が、示した二つの 実験で異なっており、このことは発明者等により、先のTSH架橋実験において 認められている(7)ことに注目されたい。オートラジオグラフィーは17日間で あった。パネルC: トランスフェクトされていないHEK細胞、並びにTPO に対する無関係なmAbを用いたTSHRmyc細胞の、免疫沈降によって 測定された、mAb A10により認識される脱グリコシル化された35kDaのAサブ ユニットバンドの特異性。48kDaバンドの非特異性に注目されたい。広がったグ リコシル化されたAサブユニットが、より鮮明なグリコシル化されていないTS HR成分(パネルA参照)の上に重ねられており、細胞内のTSHRの先駆物質 または分解産物を表しているといってよい。TSHRmyc細胞におけるc−m ycエピトープのmAb 9E 10の特異性についてのデータは、参考文献15を参 照のこと。 第10図: インタクト(intact)なTSHRmycおよびTSHR−0細胞 の表面上のTSHRに対する125I−TSHの架橋の比較。両細胞型とも、同様 の数のTSHR(細胞当たり各々、〜105および〜1.5x105)を発現する 。放射性同位元素標識したTSHの架橋、還元条件下でのPAGE(10%)、 およびオートラジオグラフィー(18時間)は、方法に記した通りであった。リ ガンド125I−TSHそれ自体がジスルフィド結合により結合した二つのサブユ ニットを含むことに注意されたい。還元条件下では、これらのサブユニットの一 つだけ(〜14kDa)が、TSHRに共有結合して残る。従って、TSHRの 大きさは、この複合体からこの大きさを減じることにより推定される。 第11図: TSHRの二つの開裂部位の存在のための付加的な証拠。TSH Rのエクトドメインは、5個の任意のドメイン(AからEまで)に分けて示して あり、それらをキメラのTSH−LH/GCレセプター分子の創造に用いた(2 4)。本研究に関連のある3個のキメラのレセプター並びに、アミノ酸残基31 7ないし366が欠損しているTSHR突然変異体を示す。これらの50のアミ ノ酸は、LH/CGレセプターには存在しない。従って、TSHRのドメインD がLH/CGレセプターの対応するセグメントで置換する場合、残基317ない し360が欠けている。TSHRmycにおけるc−mycエピトープの部位を 、他のセグメントと関連して示した。 第12図: CHO全細胞におけるTSHRの免疫沈降。細胞タンパク質を35 S−メチオニンおよび35S−システイン(表示した実験では、1時間のパルスお よび8時間のチェイス)で先駆体標識した後、TSHRに対するマウスモノクロ ーナル抗体(A9+A10;Paul Banga博士、ロンドン、英国)を用いて天然の 条件下で免疫沈降させた。以下のクローンCHO細胞系を用いた:トランスフェ クトされていないCHO細胞;5-および3-の非翻訳領域を含んでいる4kb TSHRのcDNAでトランスフェクトしたTSHR-WT-細胞(26);欠損 した非翻訳領域のある2.3kb TSHRのcDNAでトランスフェクトした TSHR-O-細胞(25);2.3kb TSHRのcDNAでトランスフェク トし、続いてそれぞれ800nMまたは10,000nMのメトトレキサート中での増殖 に適合させたTSHR−800およびTSHR−10,000細胞。免疫沈降したタンパ ク質を、還元条件下において、ポリアクリルアミドゲル電気泳動(7.5%)に かけた。オートラジオグラフィーは10日間であった。本質的に同等なデータが 、二回目の実験において得られた。矢印は、先にMisrahi等(12)により観察 され、デンシトメトリーにより定量された、100kDaのTSHRホロレセプタ ー型を示す。 第13図: インタクトな細胞の表面上のTSHRに対する125I−TSHの 架橋。用いた細胞は、第12図の説明文中に述べられている。放射性同位元素標 識したTSHの架橋、還元条件下でのPAGE(7.5%)、およびオートラジ オグラフィー(20時間)は方法に記した。等量の細胞膜タンパク質を各レーン につけた。4kbTSHRのcDNAで安定にトランスフェクトしたTSHR− WT細胞(26)におけるTSHRの視覚化には、ずっと長いオートラジオグラ フィーの時間(少なくとも10日間)が必要であった。同様なデータが、二回目 の実験において得られた。 第14図: 異なる数のTSHRを発現している安定にトランスフェクトした CHO細胞におけるサイクリックAMPレベル。方法に記したように、細胞を低 張培地(第14A図)または等張培地(第14B図)においてインキュベートし た。これらの培地は、1mU/mlのTSH(10-9M)を欠くか、または迫加 されていた。この濃度は、低張培地にさらされた細胞(34、35)においては 超最大であり、等張培地でインキュベートした細胞においてはEC50より少し 低い(49、50)。示したデータは、3ないし4回の実験で得られた値の平均 ±S.E.である。 第15図: 標識されていないTSHの濃度増加における、TSHRを発現し ているCHO細胞への125I−TSHの結合。安定にトランスフェクトした細胞 系は、第12図の説明文中に述べた。単層のintactな細胞を、TSHを含んでい る培地中で、方法に記したようにインキュベートした。括弧は、三重の細胞皿に おいて得られた値の平均±S.E.を示す。リガンドによる部分的なレセプター の飽和を達成するために、TSHR−800およびTSHR−10,000細胞を、トラ ンスフェクトされていないCHO細胞と共に1:50に希釈した。数値は、各々の 細胞系について最大結合が異なるため、標識されていないTSHの不在時におけ る、TSHの最大結合の%として表す。同様な結果は、TSHR−800およびT SHR−10,000を、CHO細胞において、1:20に希釈した場合に見られたが 、最大結合がより小さい場合は例外とする。 第16図: 標識されていないTSHがない場合の、125I−TSHによる、 TSHRを発現している細胞に対するTSHの結合。96穴プレート中の細胞を 、方法に記したように1.25x106cpm/ウェル(2.5x107cpm/ well)までの濃度の125I−TSH中でインキュベートした。示したデータ は、三重の細胞皿で得られた値の平均±S.E.である。データは、三つの別々 の実験の代表的なものである。 第17図: カルボキシル末端で開裂した三つのTSHRエクトドメイン変異 体の概略説明図。ホロレセプターの曲がりくねった膜通過および細胞質部位(シ グナルペプチドを含む76アミノ酸残基)は示していない。停止コドンがそれに 続く6個のヒスチジン残基(6H)は、表示したTSHR残基の後に挿入されて いる。残基418への停止コドンの挿入は、主として高マンノースレベルの炭水 化物を含んでいるエクトドメインを生じることが以前から示されており、それは ほとんどが細胞内に保持され、グレーヴズ病患者の血清中のTSHR自己抗体で は認識されない(34)。本研究において示されたように、TSHRエクトドメ インのカルボキシル末端の漸進的な開裂は、TSHRの自己抗体活性を完全に中 和することができる、成熟した複合炭水化物を伴う物質の、高レベルの分泌に導 く。 第18図: 培地へのTSHRエクトドメイン変異体の相対的な分泌。アミノ 酸残基261、289、および309で開裂したTSHRエクトドメイン変異体 を安定発現しているCHO細胞を、1時間先駆体標識し、16時間チェイスした (方法)。次いで、培地中の(M)および細胞の(C)TSHRを、アミノ酸残 基22ないし35に対するマウスmAb(A10)を用いて免疫沈降した(37 )。培地中のTSHRはまた、エクトドメイン変異体のC末端に挿入された6個 のヒスチジン残基に結合するNi−NTA樹脂を用いて回収した。Ni−NTA は、多数のCHO細胞タンパク質と相互作用するため、先駆体標識した細胞のT SHRの同定には効果的な方法ではない。示した実験でのオートラジオグラフィ ーは12時間であった。 第19図: グレーヴズ病患者の血清におけるTSHR自己抗体による、TS HRエクトドメイン変異体の認識。分析は、可溶化されたブタ甲状腺膜における 、自己抗体の、TSHRに対する125I−TSHの結合と競合する能力に関係す る(25)(方法)。左のパネル:CHO細胞からのコンディションドメディウ ム(ならし培地)がない条件下では、グレーヴズ病患者からの血清は、正常な個 体からの血清と異なり、125I−TSHの結合を〜60%まで減少させる。右の パネル:甲状腺ペルオキシダーゼ(TPO)を分泌している無関係な細胞培養物 からのコンディションドメディウムは、TSH結合阻害(TBI)活性に何ら影 響しない。対照的に、TSHR−261およびTSHR−289細胞培養物から のコンディションドメディウムは、(TSHR−309と違い)ほぼ完全にTB I活性をくつがえした。バーは、二重の測定値の平均±有効範囲を示す。コンデ ィションドメディウムから部分的に精製した後のTSHR−261を用いての、 18人のグレーヴズ病患者の血清についてのデータは、第25図を参照のこと。 第20図: TSHR−261エクトドメイン変異体のレクチン特異性。T SHR−261を発現しているCHO細胞からのコンディションドメディウムを 、表示したレクチンに結合したセファロースに吸着させた(方法)。非吸着性( 「フロウスルー」)およびビーズから回収した物質(「溶出物」)を、ニトロセ ルロースフィルター上に(原液のままか、または希釈した後に)スポットし、T SHRのアミノ末端に対するmAb A10でプローブした。 第21図: コンディションドメディウムからレクチンを用いて濃厚にしたT SHR−261のイムノブロット。等しい容量の同一の培地から、バンデイレア ・シンプリキフォリア(Bandeiraea simplicifolia)、コンカナバリンA、また は小麦胚芽凝集素を用いて得られた物質を、そのままにする(ー)か、エントグ リコシダーゼH(Endo H)またはエンドグリコシダーゼF(Endo F)で 消化した(方法)。標本を10%ポリアクリルアミドゲル上で電気泳動した。タ ンパク質をPVDF膜に移し、マウスmAb A10でプローブした。 第22図: TSHRエクトドメイン変異体のイムノブロット。TSHR−2 61、TSHR−289、およびTSHR−309を、コンカナバリンAを用い てコンディションドメディウムからアフィニティ濃縮した(方法)。材料をその ままにする(ー)か、エンドグリコシダーゼH(Endo H)またはエンドグ リコシダーゼF(Endo F)で消化した(方法)。標本を10%ポリアクリル アミドゲル上で電気泳動した。タンパク質をPVDF膜に移し、ECLシステム を用いて、アミノ酸残基22ないし35(37)に対するマウスmAb A10 でプローブした(方法)。 第23図: TSHR−261の直接的な視覚化および定量。左パネル:コ ンディションドメディウムからコンカナバリンAを用いて捕獲した後(最初のレ ーン)、およびそれに続くNi−キレートクロマトグラフィーの工程の後(二番 目のレーン)に回収した材料のポリアクリルアミドゲル電気泳動およびクーマシ ーブルー染色。右パネル: 酵素的に脱グリコシル化し、クーマシーブルー染色 した材料の、ポリアクリルアミドゲル電気泳動によるTSHR−261濃度の概 算。脱グリコシル化は、グリコシル化されたタンパク質よりも、より鮮明かつ強 いバンドを生じる。反応物中に存在する組み換えエンドグリコシダーゼFは、0 .7mgタンパク質の内標準を与える。TSHR−261ポリペプチドは、グリ コシル化されたタンパク質の量の約60%に相当する(第5および6図参照)。 第24図: TSHR−261によるTSHR抗体の中和の滴定。中間のT SH結合阻害(TBI)活性のあるグレーヴズ病患者からの血清を、市販の自己 抗体キットを用いて(方法)、濃度を増した、部分精製されたTSHR−261 の存在下に分析した。正常な個体からの血清は、可溶化されたブタ甲状腺TSH Rへの125I−TSHの結合を阻害しない(細かい平行せんを引いたバー)。T SHR−261がないと、TSHの結合は最大値の〜40%まで減少する。この 分 析におけるインキュベーションの体積は0.2mlである。バーは、二重の測定 値の平均±有効範囲を表す。 第25図: コンディションドメディウムから部分精製したTSHR−261 によるTSHR自己抗体の中和。18人のグレーヴズ病患者の血清中の自己抗体 のTSH結合阻害(TBI)活性を、市販のキットを用いて測定した(方法)。 これらの血清は、正常な個体からの二つの血清と異なり、ブタ甲状腺からの可溶 化された膜への125I−TSHの結合と競合する(細かい平行線を引いたバー) 。TSHR−261(試験管あたり50ng)が包含されると、18の血清にお ける自己抗体の全てあるいはほとんどが中和された。バーは、二重の測定値の平 均±有効範囲を表す。 第26図: 表面上に異なる数のTSHRを発現しているCHO細胞に対する 、IgG−クラスTSHR自己抗体の結合のフローサイトメトリーによる分析。 TSHR−WT細胞を、4kbのTSHcDNAで安定にトランスフェクトした (24)。TSHR−0細胞は、TSHcDNAの2.3kbの転写領域を含む (25)。TSHR−800およびTSHR−10,000細胞においては、トランスゲ ノム(transgenome)は増幅されており、TSHRの発現は、細胞当たり各々〜1 06および〜1.9x106に増加していた(18)。細胞を、正常な個体(白ぬ きのヒストグラム)からの、およびTSH結合阻害分析により測定される高レベ ルのTSHR自己抗体を含んでいる、グレーヴズ病患者(BB1、陰影を付した ヒストグラム)からの、血清(1:10)と共にインキュベートした。蛍光は、 方法に記したように発生させた。 第27図: TSHRに対するマウスモノクローナル抗体およびウサギポリク ローナル抗体を用いた、TSHR−10,000細胞のフローサイトメトリーによる分 析。TSHR−10,000細胞を、マウスモノクローナル抗体A9(1:100) (パネルA)およびA10(1:100)(パネルB)、並びにウサギ血清R8 (1:60)(パネルc)と共にインキュベートした(陰影を付したヒストグラ ム)。対照の血清(白ぬきのヒストグラム)は、特異的な血清に使用したものと すべて同一の希釈の、甲状腺ペルオキシダーゼに対するマウスモノクローナル抗 体、および正常なウサギ血清である。蛍光は、方法に記したように発生させた。 第28図: TSHRを発現している細胞を用いたフローサイトメトリーでの 、自己抗体蛍光シグナルの特異性に対する、トランスフェクトしていないCHO 細胞での吸着の影響。代表的な例を、それぞれ非常にTBI値の高い(各々81.7 %および100%の阻害)、7HおよびBB1の二個体からの血清(陰影を付した ヒストグラム)について示す。血清(1:10希釈)を、TSHR−10,000細胞 とのインキュベーションに先立ち、トランスフェクトしていないCHO細胞上に あらかじめ吸着させない(上のパネル)か、またはあらかじめ吸着させた(下の パネル)(方法)。ネガティブコントロールとして含まれているのは、TBI分 析により検出可能なTSHR自己抗体のない、正常な個体からの血清である(白 ぬきのヒストグラム)。 第29図: 表面上に組み換えTSHRを発現している細胞を用いての、TS HR自己抗体の吸着。TSHR−10,000細胞とのFACS分析で蛍光シグナルを 生じる血清BB1、10H、3H、および10M(表1)を、同じ細胞を用いた 分析に先立って、TSHR−10,000細胞上にあらかじめ吸着した(室温で0.5 時間、3回)、(白ぬきのヒストグラム)。トランスフェクトしていないCHO 細胞上にあらかじめ吸着させた後、同じ血清により生じる蛍光を、陰影を付した ヒストグラムで示す。TSHR自己抗体の吸着を最適化するため、TSH結合阻 害(TBI)分析において血清は、各々の力価に応じて希釈した(表2)。 第30図: 表面上にTSHRまたはTPOのいすれかを発現しているCHO 細胞についてのフローサイトメトリーによって測定した、BB1血清におけるT POおよびTSHR自己抗体の相対的な力価。TSHR−10,000細胞(18)お よび、先にC4C細胞として記載した(20)CHO−TPO細胞は、いずれも 、10,000nMのメトトレキセートに抵抗性の細胞と共にジヒドロ葉酸レダクター ゼ遺伝子を用いて増幅させた遺伝子を含む。これらの二つの細胞系は、それらの 表面上に、同様の数(〜2x106)のTSHRまたはTPOを発現する。血清 BB1(陰影を付したヒストグラム)および、臨床検査により検出可能なTSH RまたはTPO自己抗体のない正常な個体からの血清(白ぬきのヒストグラム) を、1:10と1:1000の間の希釈において検査した。 第31図: TSHRのエクトドメインは、5個の任意のドメイン(AからE まで)に分割して示されており、これをキメラのTSH−LH/CGレセプター 分子の作成に用いた(19)。本研究に関連した三つのキメラレセプターを示す 。LH/CGレセプターにはアミノ酸残基317ないし366が存在しないこと に注目されたい。従って、TSHRのドメインDをLH/CGレセプターの対応 するセグメントで置き換えると、残基317ないし360は失われる。 第32図:A. TSHRにおける推定上の開裂部位1の領域に導入されたア ミノ酸の置換。キメラレセプターTSH−LHR−5のDドメイン内に、突然変 異を生じた(第31図)。LH/CGレセプター用の断続線は、この領域がTS HRに独特であって、LH/CGレセプターには存在しないことを表す。 B. A.に記したレセプターを安定発現しているCHO細胞に対する、放射性 同位元素標識したTSHの架橋。架橋産物を、還元条件下でPAGE(7.5% )にかけ、ついでオートラジオグラフィーを行なった。リガンド、125I−TS Hが、開裂していないTSHホロレセプターかまたは開裂したTSHRのリガン ド結合性サブユニットAに結合することが、この細胞表面上に開裂および未開裂 TSHRの両者の存在を示していることに注目されたい。ホルモンリガンド複合 体のかたまりは、それ自体がジスルフィト結合で結合している二つのサブユニッ トを含むリガンドの、一つのサブユニットを含む。還元条件下では、一つのリガ ンドサブユニット(〜14kDa)だけが、TSHRに共有結合して残る。 第33図:A. TSHRにおける推定上の開裂部位2の領域に導入されたア ミノ酸置換。キメラレセプターTSH−LHR−4のEドメインに突然変異を起 こさせた(第31図)。太字で示した突然変異は、TSH架橋によって測定され るように、開裂を阻害する。E1、E2、およびE3突然変異において、「−」 は置換がないことを表すが、それはこれらのアミノ酸残基が両レセプターで同一 であるからである。E3においては、「・」はLH/CGレセプターに存在しな いアミノ酸の不在を表す。 B. Aに記したレセプターを安定発現している、インタクトなCHO細胞に対 する、放射性同位元素標識したTSHの架橋。開裂したレセプターにおけるサブ ユニットを解離するために、架橋したものを還元した。上の二つのパネルは7. 5%ゲルのオートラジオグラムを描いたものであり、下の二つのパネルは10% ゲ ルで電気泳動した材料を示す。 第34図: GQE267269NET突然変異の存在は、野性型TSHRの開裂 を妨げない。架橋した125I−TSH−TSHR産物を還元し、PAGE(10 %)およびオートラジオグラフィーを行なった。 発明を実施するための最良の形態 概括的な局面においては、本発明は、自己免疫疾患、特にグレーヴズ病の診断 および治療のための、診断および治療法に有用な、新規のヒト甲状腺刺激ホルモ ン組成物に向けて行なわれたものである。 本文に使われている技術的ならびに科学的用語は、他に定義しない限り、当業 者に一般的に理解される意味を有する。本文において参考文献は、当業者等には 周知の種々の方法論について作成されている。引用される、かかる周知の方法論 を発表している出版物その他の資料は、全て記載されているかのように、参考文 献として本文にことごとく組み入れられている。組み換えDNA技術の一般原則 を発表している標準的な参考用の研究には、Sambrook,J.等、Molecular Cloning :A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory出版、ニュー ヨーク州、プレインビュー(Plainview)(1989);Kaufman,P.B.等編、Handbook o f Molecular and Cellular Methods in Biology and Medicine、CRC出版、ボカ レイトン(Boca Raton)(1995);McPherson,M.J.編、Directed Mutagenesis:A Pra ctical Approach、IRL出版、オックスフォード(1991);Jones,J.,Amino Acid and Peptide Synthesis,Oxford Science Publications、オックスフォード(1992);A usten,B.M.およびWestwood,O.M.R.Protein Targeting and Secretion、IRL出版 、オックスフォード(1991)が含まれる。本発明を実行するに当たっては、当業者 等に周知のいかなる適切な材料および/または方法も利用することができる;し かしながら、好ましい材料および/または方法について記述する。以下の記述お よび実施例において引用している、材料および試薬等は、特にことわらない限り 市販のものから入手できる。 本発明の一つの局面によれば、現在発見されたことは、インタクトな細胞にお けるTBIアッセイでは、(i)より多くのTSHRをもつ細胞の使用は、アッ セイの感度を改良するよりも減少させることと、(ii)放射性同位元素標識した TSHの種(ウシ対ヒト)が、得られるTBI値に影響し得ることである。一方 、非常に多くのレセプターを発現している細胞は、洗浄剤で可溶化したTSHR の卓越した源ではあるが、それはその抽出法が本発明によって修正されている場 合にのみである。本発明の結果の一つは、実用的かつ費用効率のよいTBIアッ セイにおいての、ブタのTSHRよりもヒトの組み換えられたTSHRを使用す ることの、以前には知られていなかった能力である。 本発明は、概して自己免疫疾患および、特にグレーヴズ病の治療処置のための 、本文に記した治療用組成物および当業者に高く評価されるであろうそれらの変 異物の、投与に関係する方法に広く向けて行なわれたものである。従って、一つ の局面において、本発明は、グレーヴズ病の治療法に向けて行なわれたものであ り、実質的に単離された本発明のヒト甲状腺刺激ホルモン組成物か、またはそれ らの変異体を、単独または一つ以上の他の活性成分と共に含んでなる効果的な量 の組成物を、グレーヴズ病を患っている患者に投与することを含んでいる。本発 明の方法による、かかる有用な組成物は、好ましくは、本発明による使用のため に、本文に開示されたか、または当業者等に周知の一つ以上のアッセイ法により 、選択される。 本発明の方法において有用な組成物は、好ましくは、実質的に単離されたヒト 甲状腺刺激ホルモンレセプターであり、それは本発明により組み換えによって産 生されるか、または患者においてグレーヴズ病を和らげることが可能なそれらの 変異体もしくは突然変異体であって、本文に記したように適切な分析法により選 択されてよい。このようにして選択されたTSH組成物は、望ましい治療結果を 達成するために、当業者等に周知の方法により投与されてよい。 本発明の組成物においては、例えば結果として生じたペプチドの血流中または 組織中での半減期を増加または減少させるための、他の変形が望ましいかもしれ ない。従って、分解に対してペプチドを保護するためのブロック基として作用す るかもしれない合成または非伝統的なアミノ酸残基、側鎖、ペプトイドにあるよ うな非アミド結合等の使用を含んでもよい本分野で周知の変更を導入することに より、有用な組成物の変形物を本発明の方法により製造することは、本発明の予 測される範囲内にある。これらのおよび他の、組成物の修正方法は、この分野で は周知である。 本発明による有用な組成物は、天然の源から単離および精製されてよい。しか しながらこの組成物は、この分野で周知の方法により合成されることが好ましい 。固相合成法が好ましいが、いかなる適切な合成法も用いてよい。 当業者等には、甲状腺組織の細胞のような細胞の集団の処置に際しては、治療 効果は、どんな数の既知の臨床上の終了点によってでも認められてよいことがわ かるであろう。本発明の化合物はまた、今日の治療の問題点ともいえる、薬剤耐 性との戦いにも役立つものである。本態様においては、本発明の化合物は、他の 作用物質と共に用いてもよい。薬剤耐性の機構は、例えばRemingtonのPharmaceu tical Science、第18版、上記、に記載されている。 効果的な治療に必要な活性成分の量は、投与法、標的部位、患者の生理学的状 態、および投与された他の薬剤を含んでいる、多くの異なる因子に依存するであ ろう。従って処置するための薬用量は、安全性と効率とを最適化するよう滴定さ れるべきである。典型的には、生体外(in vitro)で使用される薬用量は、その 活性成分のイン・シチュー(in situ)での投与に有用な量の、有用な手引きを 提供するといってよい。特定の病気の治療に効果的な投与量についての動物実験 は、ヒトの投与量の、さらに進んだ予測的指標を提供するであろう。種々の考慮 すべき問題は、例えば、GoodmanおよびGilmanのThe Pharmacological Basis of Therapeuics、第7版、MacMillan出版社、ニューヨーク(1985)、およびRemingto nのPharmaceutical Science、第18版、Mack出版社、イーストン、ペンシルベニ ア州(1990)に記載されている。そこでは、経口、静脈内、腹腔内、筋肉内、経皮 的、鼻の、イオン導入法による投与その他を含む、投与法について議論されてい る。 本発明に従って患者の治療に用いるための投与量の選択においては、標的細胞 に所望の治療効果を得るために十分な濃度の組成物を達成するであろう治療法が 選択されるだろう。当業者等は、効果的な濃度を達成するため投与の方法および 様式に依存して変わるであろう効果的な濃度を決定することができるだろう。 本発明の組成物の投与法の一つは、この組成物を含んでいる乾燥粉末配合物の 吸入である。肺胞を通して血流中へ活性成分を吸収させるためには、粉末は非常 に微細でなければならない;1ないし5ミクロン粒子程度の大きさ。高度に分配 する粉末は、薬物のボーラスを含んでいるエアロゾルクラウトを、吸入チャンバ ーの最上部において発生させる、吸入器により送達される。 本発明の組成物は、それ自体を患者の血流中に注入しやすいものにするであろ う。このようにして投与される活性成分の半減期は、周知の薬剤技術を用いるこ とにより、最大の治療効果に向けて操作されてよい。かかる技術の一例は、DEPO FOAMリン脂質球(Depo Tech Corp.、サンディエゴ、カリフォルニア州)として 知られており、これは数日ないし数週間の期間をかけて活性成分を徐々に放出す る。これは薬物のより低い初濃度と注入頻度とを用いて、一定したレベルの全身 濃度を与えるものである。 本発明の組成物を取り込みかつ安定化させる周知の方法は、薬物送達の異なる 経路を調節するために用いられてもよい。かかる技術の一例は、TECHNOSPHERE粉 末(Pharmaceutical Discovery Corp.、エルムスフォード、ニューヨーク州)で あり、これは活性ペプチド成分の構造的および機能的な完全性を保つ条件下にお いて、直径2ミクロンの球を確実に形成する。pH感受性の球は、血液中に注入さ れると活性成分を溶解および放出し、それはすばやく吸収される。このような微 粉末は、肺、口、静脈内、および腹腔内への投与に適している。 投与の部位および細胞は、治療される個々の疾患につての理解に基づき、当業 者により選択されるであろう。さらに、投与量、投与頻度、および治療経過期間 の長さは、治療される個々の疾患に基づき、当業者により決定および最適化され 得る。個々の投与の様式は、当業者により容易に選択されることが可能であり、 例えば経口、静脈内、皮下、筋肉内、その他を含むことが可能である。薬学的投 与量および薬物送達の原理は周知であり、例えば、Ansel,H.C.およびPopovich,N .G.、Pharmaceutical Dosage Forms and Drug Delivery Systems、第5版、Lea & Febiger出版、フィラデルフィア、ペンシルベニア州(1990)に記載されている 。例えば、本発明の薬剤を特異的に送達するためにリポソームを用いることがで きる。かかるリポソームは、薬物、放射性同位元素、レクチン、および毒素のよ うな、標的部位において作用する、付加的な生物活性化合物を含有するように製 造することができる。 本発明の組成物およびそれらの有用な変異体をコードしている核酸組成物は、 一般的には、RNAまたはDNA型か、混合ポリマー型か、または核酸の相補鎖 と塩基に特異的な方式で結合することが可能な、何らかの合成ヌクレオチド構造 をとっているであろう。かかる核酸の態様は典型的にはゲノムDNAか,または 合成により調製したcDNAであるか、またはそれらの組み合わせから派生した ものである。DNA組成物は、一般的には当該組成物またはそれらのフラグメン トをコードしている完全なコード領域を含む。 「機能的等価物」の意味するるものは、本発明の組成物と実質的に同様の生物 学的活性または免疫学的特徴を有しているペプチドであり、かかる活性または特 徴を有している「フラグメント」、「変異体」、「類似体」、「同族体」、また は「化学的誘導体」を含むことを意図するものである。本発明のペプチドの機能 的等価物は、従って、同等なアミノ酸配列を共有していなくてもよく、アミノ酸 の保存的(conservative)または非保存的な、通常のまたは通常でないアミノ酸の 置換が可能である。 本文中で「保存的」なアミノ酸置換と言っているのは、同様の側鎖を有するア ミノ酸残基の互換性を意味することを意図したものである。例えば、グリシン、 アラニン、バリン、ロイシン、およびイソロイシンは、脂肪族の側鎖を有するア ミノ酸群を形成し;セリンおよびトレオニンは、脂肪族−ヒドロキシル側鎖を有 するアミノ酸であり;アスパラギンおよびグルタミンは、アミドを含んでいる側 鎖を有するアミノ酸であり;フェニルアラニン、チロシン、およびトリプトファ ンは、芳香族側鎖を有するアミノ酸であり;リジン、アルギニン、およびヒスチ ジンは、塩基性側鎖を有するアミノ酸であり;システインおよびメチオニンは、 硫黄を含んでいる側鎖を有するアミノ酸である。所与の群からの一つのアミノ酸 を、同一の群からの別のアミノ酸と交換することは、保存的置換とみなされるで あろう。好ましい保存的置換群は、アスパラギン−グルタミン、アラニン−バリ ン、リジン−アルギニン、フェニルアラニン−チロシン、およびバリン−ロイシ ン イソロイシンを含む。 「突然変異体(mutant)」は、本文中に用いたように周知のペプチドまたはタン パク質と、少なくとも一つのアミノ酸が異なっているアミノ酸配列を有するペプ チドさす。突然変異体は、周知のタンパク質と、等しい生物学的および免疫学的 活性を有してもよい。しかしながら、突然変異体の生物学的または免疫学的活性 は、異なるかまたは欠損してもよい。例えば、ある突然変異体は、本発明のTS HRを特徴づける生物学的活性を欠損してもよいが、しかしそれに対する抗体の 産生、または抗体の検出または精製のためのエピトープとしての抗原決定基とし て、あるいはアゴニスト(競合的または非競合的)、アンタゴニスト、またはそ れらの機能の部分的なアゴニストとして、有用であってもよい。 本発明の分析に使用する適切な標識物は、酵素、放射性同位体、蛍光化合物、 化学発光化合物、または生物発光化合物のような、検出可能な標識物を含む。当 業者等は、他の適切な標識物を周知であろうし、あるいは、かかる慣例的な使用 実験法を確認することができるであろう。さらに、これらの標識物のペプチドに 対する結合は、この分野で周知の標準的な技術を用いて成し遂げられる。 本発明のTSHRの、さらに進んだ単離、精製、および配列決定は、例えば、 Cantor,C.編、Protein purification:Principles and Practice,Springer Verla g、ハイデルベルク,Publisher(1982);Hancock,W.編、New Methods in Peptide Mapping for the Caracterization of Proteins,CRC出版、ボカレイトン、フロ リダ州(1996)に記載されているような、標準的な生化学的方法により、本発明の 教示に従って成し遂げられてもよい。 ペプチド模倣薬が、病気の治療処置に使用される。かかるペプチド模倣物もま た本発明により提供されており、グレーヴズ病のような自己免疫疾患の調整のた めの薬剤として作用することができる。ペプチド模倣物は、製薬産業においては 一般的に、模倣されたペプチドの特性と類似した特性を有する非ペプチド薬物を 含むと理解されている。ペプチド模倣の設計の原理および実践は、この分野では 周知であり、例えば、Fauchere J.,Adv.Drug Res.15:29(1986);およびEvans等、 J.Med.Chem.30:1229(1987)に記載されている。治療上有用なペプチドに対して構 造的な類時性のあるペプチド模倣物は、同等の治療または予防効果を引き起こす ために使用されてもよい。典型的には、かかるペプチド模倣物は、生体内(in vi vo)における化学的分解に対する抵抗性のような、所望の特性を変えてもよい結 合によって任意に交換された、一つ以上のペプチド結合を含む。かかる結合は、 −CH2NH−、−CH2S−、−CH2−CH2−、−CH=CH−、−COCH2−、−CH(OH)CH2− 、および−CH2SO−を含んでよい。ペプチド模倣物は、増強さ れた薬理学的特性(生物学的半減期、吸収速度等)、異なる特異性、増加した安 定性、生産経済性、減少した抗原性等を示すといってよく、このことは、治療法 としてのそれらの使用を特に望ましいものにする。 本発明の組成物の正確な化学構造が、いくつかの因子に依存して変わってもよ いことは、当業者等には受け入れられるであろう。例えば、所与のタンパク質は 、その分子内にイオン化可能なカルボキシル、およびアミノ基が見つかっている ため、酸性または塩基性塩、あるいは中性の形で得られてよい。従って、本発明 の目的のためには、本発明の組成物の治療用または診断用活性を保持するヒトT SHRを含んでいる、いかなる形のペプチドも、本発明の範囲内にあることが意 図されるものである。 本発明の組成物は、本技術分野で周知の組み換えDNA技術により製造されて よい。例えば、本発明のヒトTSHRをコードしているヌクレオチド配列は、プ ラスミドのような適切なDNAベクターに挿入されてよく、そのベクターを用い て適切な宿主を形質転換する。ヒト組み換えTSHRは、宿主中で発現により産 生される。形質転換した宿主は、原核または真核細胞でよい。この目的のための 、ヒトTSHRをコードしている好ましいヌクレオチド配列を本文中に開示する 。 合成ポリヌクレオチド配列は、オリゴヌクレオチドの合成のための、周知の化 学的合成法により作成されてよい。かかる合成法は、例えば、Blackburn,G.M.お よびGait,M.J.編、Nucleic Acids in Chemistry and Biology,IRL出版、オック スフォード、英国(1990)に記載されており、また市販のオリゴヌクレオチドシン セサイザーも、製造業者らの指示に従って使用してもよいことが明らかであろう 。かかる製造業者の一つは、Applied Bio Systemsである。 本文中に開示したヌクレオチド配列に基づくプライマーを用いたポリメラーゼ 連鎖反応(PCR)を、mRNAプール、cDNAクローンライブラリ、または ゲノムDNAから、DNAフラグメントを増幅するために用いてよい。PCRヌ クレオチド増幅法は、本技術分野では周知であり、例えば、Erlich,H.A.編、PCR Technology:Principles and Applications for DNA Amplification,Stockton出 版、ニューヨーク、ニューヨーク州(1989);米国特許第4,683,202号;米国特許第 4,800,159号;および米国特許第4,683,195号に記載されている。当業者等に認め られるように、 本発明のポリヌクレオチドには、種々のヌクレオチドの欠損、付加、および置換 が取り込まれてもよく、また当業者等は、ヒトTSHRをコードしているヌクエ オチド配列における変化が、例えば対立遺伝子による多型、配列決定における小 さなエラー、およびその他の結果として生じてもよいことを認めるであろう。本 発明のペプチドをコードしているポリヌクレオチドは、例えば、ハイブリダイゼ イションプローブおよびPCRプライマーとして有用な、短いオリゴヌクレオチ ドを含んでよい。本発明のポリヌクレオチド配列はまた、より大きなポリヌクレ オチドの一部を含んでもよく、それらはポリヌクレオチド結合を通して、フレー ム内で、異なるタンパク質をコードしている一つ以上のポリヌクレオチド配列と 融合してもよい。この事象においては、発現されたタンパク質は融合タンパク質 を含んでよい。もちろん、本発明のポリヌクレオチド配列は、病気の診断または 法医学的分析においての、自己抗体をコードしているmRNAの存在を検出する ためのPCR法に用いられてもよい。 タンパク質またはペプチド中のアミノ酸残基の配列は、本文中では、一般に採 用されている三文字の名称によるか、または一文字の名称によって命名した。こ れらの三文字および一文字の命名法の一覧表は、Lehninger,A.,Biochemistry第 2版、Worth Publishers、ニューヨーク、ニューヨーク州(1975)のような教科書 に見い出されるであろう。アミノ酸配列を水平に列挙する場合には、アミノ末端 を左端に向け、カルボキシル末端を右端に向けるようにする。ペプチド中のアミ ノ酸残基はハイフンで隔ててもよい。かかるハイフンは、配列の呈示を容易にす るためだけのものである。 本発明の使用に適した作用物質には、ヒトTSHRおよびその模倣物、フラグ メント、それらの機能上の等価物および/または、ハイブリッドまたは突然変異 体、並びに上記のいずれかをコードしているcDNAを含んでいるベクターが含 まれる。作用物質は、単独かまたは他の適切な薬剤および/または治療過程との 組み合わせにおいて、および/または、同時に、投与することができる。 本発明の作用物質は、不適切な細胞の死によって特徴づけられる、自己免疫疾 患の治療に適している。自己免疫疾患は、自己の抗原に向けられた免疫応答によ って引き起こされる病気である。かかる疾患は、自己抗原を含んでいる組織にお いて、免疫適格細胞または免疫複合体によって引き起こされる、炎症性の障害と 共に、循環している自己抗体か、または自己抗原に対する細胞性免疫の存在によ って特徴づけられる。かかる疾患は、全身性エリテマトーデス、リウマチ様動脈 炎、およびグレーヴズ病を含む。 免疫学の一般原則を述べている標準的な関連研究には、Sell,S.Immunology,Im munopathology & Immunity、第5版、Appleton & Lange,Publ.スタンフォード、 コネクチカット州(1996);Male,D.等、Advanced Immunology、第3版、Times Mir ror Intl Publishers Ltd.,Publ.、ロンドン(1996);Stites,D.P.およびTerr,A.I .,Basic and ClinicalImmunology、第7版、Appleton & Lange,Publ.、ノーウォ ーク、コネクチカット州(1991);およびAbbas,A.K.等、Cellular and Molecular Immunology,W.B.Saunders Co,.Publ.、フィラデルフィア、ペンシルベニア州(19 91)が含まれる。 本文中に開示した、ヒトTSHRペプチド、模倣物、作用物質、およびその他 並びに、それらを、またはそれらに対応するアンチセンス配列をコードしている ヌクレオチド配列を含んでいるベクターと、かかるベクターを含んでいる宿主細 胞とは、自己免疫疾患を含む疾患の治療のための薬剤の製造に使用されてよい。 本発明は、ある種の局面において、限定のためではなく例として提供した以下 の実施例を参考に評価されてよい。 実施例 実施例1 甲状腺刺激ホルモンレセプター自己抗体用TSH結合阻害(TBI)アッセイ におけるヒト甲状腺刺激ホルモンレセプター TSHレセプター(TSHR)に対する自己抗体はグレーヴズ病における甲状 腺免疫応答の証明である(1に概説)。殆どの場合、これらTSHR自己抗体は 該レセプターを活性化し、甲状腺機能亢進症を発症させる。極く稀には、非刺激 性TSHR自己抗体がレセプターを占拠してTSH作用を妨げ、甲状腺機能低下 症を惹起こす(2〜4)。他の甲状腺自己抗原(甲状腺ペルオキシダーゼおよび サイログロブリン)に対する自己抗体とは対照的に、TSHR自己抗体に対する 直接的な臨床的アッセイ法は現時点で存在しない。代りに、これらの自己抗体は 放射性標識したTSH結合を阻害する能力(TSH結合阻害:TBI)またはT SHR活性化のバイオアッセイ(TSHR刺激イムノグロブリンアッセイ:TS I)のいずれかにより検出する(5に概説)。最も広く用いられているアッセイ 法は甲状腺から洗浄剤により可溶化したブタTSHRを使用するTBIである( 6)。 TSHRcDNAの分子クローニングは、組換えヒトTSHRを使用するTB Iアッセイが間もなく始まるだろうとの期待を抱かせた。しかし、ヒトTSHR cDNAを安定にトランスフェクトした哺乳動物の細胞系が報告されている(7 〜12)にもかかわらず、また、大量のレセプタータンパクがバクテリア(13 〜18)および昆虫細胞(19〜21)において、あるいは無細胞系翻訳物(2 2)として産生されているにもかかわらず、TBIアッセイにおいては組換えヒ トTSHRがブタのTSHRの使用に取って代わってはいない。 哺乳動物細胞中で発現したTSHRは、未処理細胞(9,23)、細胞粒子フ ラクション(10、24、25)を用いるTBIアッセイでの、および洗浄剤可 溶化膜(25)におけるTBIアッセイでの自己抗体によりよく認識される。し かし、培養細胞を用いるアッセイは一般使用法として実用的でない。更に、哺乳 動物細胞粒子フラクション(10、25)から回収した少量の組換えTSHRは 、この材料の使用を法外に高価なものとする。 それ故、組換えヒトTSHR組成物を使用する改良実用型TSH結合阻害アッ セイ法が必要である。方 法 細胞培養 :3つの異なる安定にトランスフェクトにしたチャイニーズハムスター 卵巣(CHO)細胞系を使用した。各細胞系はその細胞表面に異なる数のヒトT SHRを発現する(表1)。「4kb」TSHR細胞中のトランスゲノムは5’ および3'非翻訳末端の両方を有する完全長cDNAを有している(7)。TS HRcDNAのコード領域のみを発現するTSHR−0細胞は、以前にはやっか いだったpTSHR−5'3'TR−NEO−ECE(26)から再命名した。ゼ ロはこれら細胞中のTSHRcDNAトランスゲノムが増幅されていないことを 暗に示している。TSHR−10,000細胞中のトランスゲノムはこれらの細 胞を10,000nMメトトレキセートに適合させることにより増幅した(27) 。この研究のために、すべての細胞系(選択培地中限界希釈によりクローン化) は10%ウシ胎児血清および標準抗生物質を添加したハム(Ham)F−12培 地中で生育した。細胞は本文記載のように、直径10cmの24穴クラスターも しくは96穴マイクロタイター培養ディッシュ中に集密培養した。 表1:ヒトTSHレセプター発現細胞系の特性 血清:血清42検体を使用した。すべての血清はリファレンス・ラボラトリーで あるコーニング・ニコルス研究所のジュアン・ターセロ(Juan Tercero)氏が好 意的に提供して下さったものであるが、該研究所はグレーヴズ病と判明したもの あるいはその疑いのあるものにつき血清が送られてくる研究所である。血清はコ ーニング・ニコルスが決めたとおりに平均化したスペクトルのTBI値(高値、 中間値、低値あるいは陰性)となるように選択した。血清は下記のように我々の 研究所で再アッセイした。未処理細胞を用いるTSH結合阻害(TBI)アッセイ :高度精製ウシTSH( N.I.H.)または組換えヒトTSH(シグマ、セントルイス、ミズーリ)(5μg )を、ボルトン−ハンター試薬(4400Ci/mmol;デュポン−ニューイ ングランド・ニュクレアー、ボストン、マサチューセッツ)により製造業者のプ ロトコールに従って比活性が〜80μCi/μgタンパクとなるように125Iで 放射性標識し、次いで、セファデックスG−100クロマトグラフィーに付した (28)。「4kb」TSHRおよびTSHR−0細胞をそれぞれ24穴および 96培養ディッシュに集密生育した。TBI活性は、ボリエチレングリコール( PEG)沈殿IgG(23)を用いる既述(23)の「2工程」アッセイ法によ り、以下のように改変して定量した。細胞をリン酸バッファー塩液(PBS)中 、0.25ml(24穴プレート)もしくは0.1ml(96穴プレート)のI gG調製物で、37℃、1.5時間予め培養した。96穴プレートを用いるアッ セイでは、必要により、洗浄および125I−TSH添加に先立って全血清 (5 0ml)中で予め培養した。2工程アッセイで我々は全血清とPEG沈殿IgG との間に差を見出さなかった。「結合バッファー」(NaClの代りに280m Mスクロースを含有し0.25%ウシ血清アルブミンを添加したハンク(Han k)バッファー)(29)で2度洗浄した後、結合バッファー中の125I−TS Hを本文記載の量(24穴および96穴プレート中それぞれ、ウエル当たり25 0mlおよび50ml)、細胞に添加した(37℃2時間)。結合した125I− TSHを以前に記載のように(23)測定した。非トランスフェクトCHO細胞 に対する非特異結合を、特異結合値を得るために差し引いた。可溶化TSHレセプター調製物 :レセプターを下記2つの手法によりTSHR− 10,000細胞から調製した。 (i)培養ディッシュから取り除いた細胞:50個の集密型10cm直径ディ ッシュの細胞(1ディッシュ当たり107細胞)をPBSで一度洗浄し、細胞を バッファーA(10mMトリス(pH7.5),フッ化フェニルメチルスルホニ ル0.1mg/ml、ロイペプチン1μg/ml、アプロチニン1μg/ml、 およびペプスタチン2μg/ml;シグマ)(3ml/ディッシュ)中に削ぎ落 とすことにより再懸濁した。ポリトロンで簡単に均一化した後(4℃、10秒x 3)、500〜20,000xg粒子フラクションをリーズ・スミス(Rees Smi th)ら(6、30)のプロトコールに従って処理した。最終抽出を5mlの10 mMトリス(pH7.5)、50mM NaClおよび1%トリトンX−100 で実施した。この材料を直接あるいは同一のバッファーに希釈した後に、本文記 載のごとくTSH結合に用いた。 (ii)単層中細胞の直接抽出:1個の集密型10cm直径細胞ディッシュの培 地を移し、5mM EDTA、5mM EGTA,5mM N−エチルマレインイ ミド、 10%グリセリン、0.5%BSAおよび0.5%ゼラチンを添加した上記1% トリトンX−100バッファー3mlで置換えた。4℃で2時間揺り動かした後 、該バッファーを回収し、遠沈し(1時間、100,000xg)、その上清を 上述のようにTBIアッセイに用いた。バッファーへの添加物はアッセイでのT SHを変化させないことが判明した。可溶化TSHRによるTSH結合阻害(TBI)アッセイ :血清はTSHR抗体 (TRAb)キット(クロナス、サンクレメンテ、カリフォルニアより購入)を 用い、アッセイした。このキットからの試薬(RSR Ltd.,カルディフ、 英国から)もまた、上記のようにして得た可溶化ヒトTSHRと組み合せて用い た。TBI値は下式により計算した。 1−(cpm血清サンプル−TSHR不存在下のcpm)x100 (cpm陰性参照血清−TSHR不存在下のcpm)甲状腺刺激イムノグロブリン(TSI)アッセイ :96穴培養プレートに集密的 に生育したTSHR−0細胞をヒト甲状腺細胞に対し、以前に記載のとおりにア ッセイした(31,32)。この手法では低張培地改変品を採用している(33 )。この研究のために、下記の追加の改変を行った:−IgGをPEGで沈殿さ せ(上記参照)、10mMヘペス(Hepes)(pH7.4)、1mM 3− イソブチル 1−メチルキサンチンおよび0.3%BSAを添加した該低張培地 に再懸濁した。この培地(0.1ml)中で細胞を37℃、2時間培養した。培 地中のサイクリックAMPを50mM酢酸Na(pH6.2)に希釈し、アセチ ル化し(32)、cAMP,2’−O−サクシニル125I−ヨードチロシン・メ チルエステル(デュポン、ボストン、マサチューセッツ)およびウサギ抗−cA MP抗体(カルビオケム、サンディエゴ、カリフォルニア)を用いるラジオイム ノアッセイにより測定した。TSI活性は、正常人からの血清と同時インキュベ ーションした後に測定したcAMPに対するテスト血清のサイクリックAMP値 の百分比で表した。結 果 実施したTBIアッセイは未処理CHO細胞または可溶化TSHRを包含する 2つの主要タイプのものであった(表2)。 表2:実施したTSH結合阻害(TBI)アッセイのタイプ 単層中細胞によるTSH結合阻害(TBI)アッセイ:以前、我々は完全長4k bヒトTSHRcDNAを安定にトランスフェクトした未処理CHO細胞を用い てのTBIアッセイに関するデータを報告した(23)。このアッセイ(7)に 用いた細胞は単位細胞当たり約16,000個のレセプターを発現したが(26 )、この細胞は例えよくはないとしても、市販の可溶化ブタTSHRアッセイ( 6)に対する感受性が等しかった。しかし、大量のTSHRを発現するCHO細 胞が利用可能であることは(26,27)、これらの細胞が更により効果的なT BIアッセイを提供するか否かを試す我々の動機付けとなった。これに対して、 予備的な実験で我々は、ブタTSHR TBIアッセイがヒトTSHRを過剰発 現する未処理CHO細胞を用いるアッセイよりも遥かに勝っていることを予期せ ず見出した。例えば、3種の有力な血清のTBI値(125I−TSH結合の%阻 害) は、市販品での79%、91%および83%であるのに対し、CHO細胞ではそ れぞれ10%、13%および57%であった。 細胞当たりの大量のTSHRのTBI感受性に対する有害な影響は、より小さ いウエル中で、より多くのレセプターをもつよりすくない細胞を培養することに より一部克服することができた。このように、マイクロタイター(0.36cm2 )ウエル中で培養したTSHR−0細胞(細胞当たり150,000TSHR )(26)は、24穴クラスタープレート(1.77cm2ウエル)中で培養し た「4kb」TSHR細胞系(細胞当たり16,000TSHR)(7,27) よりも、ウエル当たりわずか〜2倍多いレセプターを提供する。マイクロタイタ ープレートの2つの主な利点はより少ない血清とバックグランド結合の小さいよ り少量の125I−TSHとを使用することであった。この手段により、TSHR 飽和を漸進的に増加させると共にトレーサー濃度を100倍に増加させ得た(図 1A)。それにもかかわらず、TSHR−0細胞でのTBI値は、前者細胞での ウエル当たりの大量のTSHRを反映して、4kbTSHR細胞系での値より低 かった(図1B)。 結局、未処理ヒトTSHR発現CHO細胞に関する研究において、我々はマイ クロタイターウエルにTSHR−0細胞を張り付けて用いるTBIアッセイによ り、125I−ウシTSH(b)の使用を125I−ヒトTSH(h)と比較した。広 範なTBI値を示す患者12名の血清について得られたデータは、用いた放射性 標識TSHの種類に関係なく一般に類似していた(図2)。それにもかかわらず、 興味があり、潜在的に重要なことは、二三の血清(例えば、#1,3および6) がウシTSHとよりも、ヒトTSHと結合する放射リガンドをより強く阻害する ことであった。しかし、強調せねばならないことは、TBIアッセイにおけるh TSHの使用は、この種のTSHがbTSHよりも効果の低いリガンドである故 に現在制限がある(34)。事実、示された実験において、最大の125I−TS H結合はbTSHでよりもhTSHで5倍低かった(4.9%対24.8%)。洗浄剤抽出組換えヒトTSHRによるTSH結合阻害アッセイ :上述のごとく、 その表面に大量のレセプターを発現する未処理CHO細胞はTBIアッセイに使 用することはできない。しかし、我々はそのような細胞が可溶レセプターアッセ イにおける組換えTSHRの良好な源泉たり得るか否かを決めたいと思った。こ の目的のために、我々はその表面に大量のTSHR(〜1.9x106)を発現 する細胞(TSHR−10,000)を使用した(27)。細胞を削ぎ落としに より懸濁し、1%トリトンX−100を含むバッファーに均一化し、標準として 一・般に使用されている市販キット中の可溶化ブタTSHRと比較した。7x1 06細胞から抽出した組換えレセプターは、ブタTSHR標準品のものに比較し 得る125I−bTSH結合を得るために必要であった(図3)。驚くべきことに 、また予期せずに、この低い収率とは逆に、同一細胞の単層を、培養ディッシュ から細胞を引き剥がさずに洗浄剤含有バッファーで培養した場合、TSH結合可 能な遙に大量のTSHRが回収された。この場合、70倍少ない(〜105)細 胞からのTSHRはブタTSHR標準品に類似の結合を生じた。事実、単一の1 0cm直径ディッシュの細胞は、キット中のブタTSHRと置換えたとき、10 0〜200回の繰返し定量に充分なTSHRを提供した。 可溶化したヒトおよびブタTSHRの効率を、グレーヴズ病と判明した、ある いは疑いのある30名からの血清を用いTBIアッセイにより比較した。これら 血清の内の10検体は、該キットのブタTSHRを用いた場合、TSHR自己抗 体は検出されなかった(TBI<15%)。残り20検体の血清は広範なTSH R自己抗体活性を含んでいた(図4)。ヒトTSHRを該キット中で置換えたと きに得られるTBI値は、ブタTSHRで定量した値と非常によく相関した(r =0.954;p<0.001)。しかし、ブタTSHR抗原で陰性であった血 清2検体は、今やヒトTSHRで陽性であった(図4)。放射性標識ヒトTSH は125I−bTSHとは違って、トレーサーのポリエチレングリコール沈殿が個 々人の血清により強く、また多様に影響を受けるので、可溶TSHRアッセイで は使用することができなかった。 可溶化ブタTSHRで得たTBI値はヒトTSHRの活性化に関するバイオア ッセイ(TSI)において定量された甲状腺刺激活性と僅かながら相関すること が知られている(11、23、35)。それ故、我々は可溶化ヒトTSHRで得 たTBI値が同一の血清でIgGの生物活性とよく相関するか否かを決めようと した。充分量の血清が図4に示した30サンプルの内の28検体から得られ、ヒ トTSHRを安定にトランスフェクトしたCHO細胞を用い、TSI活性の定量 を可能とした。TBI活性およびTSI活性間の相関は、ウシよりもむしろヒト のTSHRをTBIアッセイに用いたときに良好でなかった(それぞれ、r=0 .732および0.709)(図5AおよびB)。検 討 本発明の一つの側面はTSHR自己抗体検出のための改良アッセイ法を目指す ことである。驚くべきことに、また予期せずに、その表面により多くのTSHR を発現する哺乳動物細胞は、TBIアッセイを単層培地にて未処理細胞で実施し たとき、このアッセイはあまり感度がよくないことが判明した。意図して特別の 理論に結びつけた訳ではないが、この現象に対する有望な理論の一つは、血清中 のTSHR自己抗体絶対濃度が非常に低いということである。以前から疑問であ ったが、つい最近では、TSHR自己抗体は一般に同一血清において甲状腺パー オキシダーゼ(TPO)自己抗体よりもより低い濃度で存在することが、フロー サイトメトリー分析により示された(36)。TBIアッセイのような占拠アッ セイの効率は抗原に対して過剰の抗体に依存する。このように、大量の抗原(T SHR)と低濃度抗体の組合わせが、抗原の低占拠に繋がる。言い換えると、抗 体により占拠されていない多くのTSHRが125I−TSH結合のために利用可 能となるために、この現象がTBIアッセイの感度を低くする。それ故、本発明 による最適TBIアッセイでは、リース−スミスが開発した手法(6、30)に おいてアフィニティ精製したウシ125I−TSHでの場合のように、少量のレセ プターと非常に効果のあるリガンドを利用すべきである。 細胞単層を用いるTBIアッセイには、可溶化TSHRを利用するアッセイに 関連して重大な実用上の不利益がある。しかし、可溶化ブタTSHR調製物は明 らかに効果的であるが、ヒトTSHRはTSHR自己抗体の研究にとって最も適 していることを示唆していた(30)。しかし、その分子クローニングから7年 後の今日まで(7、37、38)、実用上のTBIアッセイにおいて、組換えヒ トTSHRがブタの材料使用と取り代わっていないということは驚くべきことで ある。本発明の最も重要な寄与は、可溶性組換えヒトTSHRが哺乳動物細胞か ら大量に、且つ、有効なTBIアッセイにとって適切な形熊で容易に得ることが できるということを初めて証明したことである。安定にトランスフェクトしたC HO細胞系を生成せしめて間もなく(7)、我々は培養ディッシュから削ぎ落し た細胞に結合するTSHが、単層培養で細胞に結合するのと比較して大幅に減少 することを見出した。それ以来、我々はTBIアッセイで未処理細胞を使用し始 めた(23)。同様に、コスタグリオラ(Costagliola)らのデータを調べると 、削ぎ落としたJPO9細胞からの可溶化TSHRの収量が期待したよりも相当 に低いことが明らかになる(25)。安定にトランスフェクトしたマウス・ミエ ローマ細胞を醗酵槽中で高濃度に生育させ(10)、そこから可溶化TSHRを 産出したことについては報告がない。本発明は再懸濁した細胞からの有効なTS HRの回収率が低いことを証明し、細胞単層からTSHRを直接抽出することで 、この非常に難しいレセプターの明らかな壊れ易さを克服することができること を示す。しかし、本発明によると、非常に高いレベルでTSHRを発現するTS HR−10,000などの細胞系のみが、更なる精製または濃縮なしにTBIア ッセイに直接使用するのに適したTSHRを提供することができるし、その原則 に基づくのがむしろ好ましい。 TSHRの種が刺激的自己抗体に対するバイオアッセイにおいて重要であると いう証拠がある(11、35、39)。ブタよりもむしろヒトのTSHRを使用 するのがTBIアッセイにおいて有利であるのか否かはこれまでに確立されてい ない。このファクターは可溶化ブタTSHRを使用してTBIアッセイ法を最初 に開発した際に考慮したことである(30)。しかし、両種のTSHRを使用し たときの血清18検体のTBI値が大きく違わなかったために、また、ヒト甲状 腺組織よりもブタの組織がより入手し易かったために、ブタのTSHRがTBI アッセイにおける標準となった。注目する価値のあるのは、この研究での殆どの 血清が比較的高いTBI値をもち、該アッセイの非常に重要な低値終末点で差異 をはっきりさせるのが難しいことである。 本発明による可溶化組換えヒトTSHRの利用可能性がこの問題の再評価を可 能にした。非組換え材料による以前のデータ(30)と矛盾なく、血清30検体 のTBI値は一般に可溶化ブタおよびヒトTSHRと同等であった。しかし、我 々のデータではブタTSHRアッセイで陰性であった血清2〜3検体で、ヒトT SHRを使用すると陽性となる。 結局、問題は、TSHRの種に加えて、TBIアッセイに用いたリガンド(T SH)の種が重要なのか否かということになる。ヒトTSHRはウシTSHに比 べてその比活性が低い故に、ヒトTSHRと互いに影響し合うとしても、それを TBIアッセイに使用するのが非常に難しい。それにもかかわらず、未処理細胞 を用いるTBIアッセイにおいて、ヒトTSHおよびウシTSHリガンドはすべ ての血清で同一の結果を生じなかった。絶対結合が低いことと相俟って、可溶化 TSHR TBIアッセイにヒトTSHを使用しなかった多様な背景となる理由 は明確でない。実施例1で引用された参考文献 実施例2 甲状腺刺激ホルモン・ドメインは2つの開裂部位を有する 本実施例では、これまでTSHRには1個所の開裂部位があるという概念に反 して、実際には2つのそのような部位があるというGタンパク結合レ七プターに ついての驚くべき新しい発見を提供する。インシュリンのようなTSHRは分子 内で2つのサブユニットに開裂され、Cペプチドを遊離する。前置き 甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)については2つのサブユニットが 長年認知されている。かくして、放射性標識TSHを甲状腺細胞膜に共有結合で 架橋結合させると、リガンド結合糖蛋白Aサブユニットがジスルフィド結合を介 して膜にかかるBサブユニットに結合していることが判明する(1)。TSHR は単一のmRNA種(2〜5)によりコード化されているので、AおよびBサブ ユニットは分子内開裂により形成されなければならない。該レセプターの2つの サブユニット型に加えて、未開裂の単一鎖TSHRもまた培養した甲状腺細胞表 面に存在し(6)、哺乳動物細胞にトランスフェクトされる(7)。 TSHR開裂の機能的重要性は現在謎である。TSHRを発現する細胞を軽ト リプシン処理すると、レセプター活性化に付随してアミノ酸残基354〜359 でのエピトープを失うことになる(8)。一方、TSHは2つのサブユニットに 開裂しないキメラTSH−LH/CGレセプターを活性化することができる(9 )。TSHRのエクトドメインにおける開裂部位を同定することはTSHRサブ ユニットの構造−機能相関を解明するのに重要である。TSHがTSHR変異体 およびキメラTSH−LH/CGレセプターに架橋結合することの研究から推論 する(10)と、開裂部位はアミノ酸418残基エクトドメインの残基317( 番号は推定上の21残基シグナルペプチドを含む)の上流近傍であることを示唆 していた。TSHRに対するウサギ抗血清を用いて得た他のデータは、開裂部位 が更に下流の残基366近傍にあるのが好ましいとする(11)。アミノ酸残基 317の上流近傍3つの顕著なアルギニン−およびリジン−富裕クラスターを変 異誘発してもTSHRが2つのサブユニットに開裂するのを防止せず、古典的な ズブチリシン関連プロタンパク変換酵素の役割が存在しないことを示唆している (12)。極く最近、マトリックスメタロプロテイナーゼがTSHRの開裂に関 係づけられた(13)。 本研究において、我々は組換えTSHRを発現する2つの新しい哺乳動物細胞 系を用い、エクトドメインの開裂部位を更に解明した。第一の系(TSHR−1 0,000)(14)はTSHRを過剰発現し、それによって常用のTSHR発 現哺乳動物細胞系を用いる直接免疫検出法(事前のアフィニティ精製せず)で経 験した低いシグナル・ノイズ比の不利益を克服する。第二の系、TSHRmyc (15)は開裂部位領域にc−mycエピトープ標識を有する。これらの細胞系 で得たデータはGタンパク結合レセプターについて驚異的な新しい知見を提供す る。すなわち、ヒトTSHRエクトドメインには1つではなく2つの開裂部位が 存在すると思われる。この知見の必然的結果は、インシュリンのようなTSHR は分子内開裂に際してCペプチドを放出するということである。方 法 TSHR発現細胞 :(i)TSHR−10,000(14)はヒトTSHRを過 剰発現するチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系である(細胞当たり〜 2x106レセプター)。過剰発現は安定的にトランスフェクトしたTSHRc DNAトランスゲノムを増幅するためにジヒドロ葉酸レダクターゼ・ミニ遺伝子 を 用い達成した。(ii)TSHR−0は同じTSHR cDNAを発現するCHO 細胞であるが、トランスゲノムの増幅はない(細胞あたり〜1.5x106レセ プター)(14,16)。(iii)TSHRmycはエピトープ標識ヒトTSH Rに対する非増幅遺伝子を安定的に発現する293ヒト胎児性腎臓(HEK)細 胞である(15)。エピトープ標識はTSHRのアミノ酸338〜349をヒト c−mycペプチドEEQKLISEEDLLと置換えることにより達成した。細胞はハムの F−12培地(CHO細胞)またはダルベッコの改変イーグル培地(DMEM) (293HEK細胞)中で増殖させたが、培地には10%ウシ胎児血清(FCS )、ペニシリン(100U/ml)、ゲンタマイシン(50ug/ml)および アンフォテリシン(2.5μg/ml)を添加した。前駆体標識TSHRの免疫沈降 :100mm直径の培養ディッシュに略集密した 細胞をリン酸バッファー塩溶液(PBS)で洗浄し、5%熱不活化FCS含有の DME−H21メチオニン−およびシステイン−不含培地中で前培養した(0. 5時間、2度)。次いで、細胞を〜0.5mCiの35S−メチオニン/システイ ン(>1000Ci/mmole,デュポンNEN,ウイルミントンDE)添加 5ml新鮮培地中でパルス標識した(37℃、1時間)。培地を吸引除去し、細 胞をPBSで一度洗浄した後、10%FCS含有標準非選択的培地中所定時間チ ェイス(放射活性追跡)を実施した。細胞をPBSで二度洗浄し、1mlの氷冷 20mMヘペス[pH7.2;プロテアーゼ阻害剤フッ化フェニルメチルスルホ ニル(PMSF)(100μg/ml)、ロイペプチン(1μg/ml)、アプ ロチニン(1μg/ml)およびペプスタチンA(2μg/ml)(すべてシグ マ、セントルイス、ミズーリより入手]含有150mM NaCl(バッファーA) )中に削ぎ落とした。細胞をペレット化し(5分、100xg)、PBSで二度 洗浄し、1%トリトンX−100含有バッファーAに再懸濁した。時折振盪しな がら4℃で90分放置した後、混合物を100,000xgで45分間遠沈し、 その上清を免疫沈降バッファー(20mMヘペス、pH7.2,300mMNa Cl,0.1%ドデシル硫酸ナトリウム、0.5%ノニデット−P40,2mM EDTA)で1:4に希釈した。可溶化細胞タンパクを、25μlの充填・洗浄 したプロテインA−アガロース(シグマ)に予め結合した〜150μgの正 常マウス血清IgGで、4℃、1時間、予備浄化した。プロテインAをマイクロ 遠心機中で遠心(10,000xgで3分)により取り除いた。本文記載のとお り、マウスモノクローナル抗体(mAb)を次いで加えた。A10およびA11 (ポール・バンガ(Paul Banga)博士からの恵与、ロンドン、英国)は双方とも TSHRアミノ酸残基22〜35を認識し(17)、最終希釈1:1000にし て用いた。抗−mycmAb9E10(ATCCから入手)を最終希釈1:50 0で用いた。TSHR Bサブユニット(E.ミルグローム(Milgrom)およびH .ルースフェルト(Loosfelt)両博士からの恵与、ル・クレムリン−バイセトル 、フランス)に対するmAbであり、ヒト甲状腺ペルオキシダーセ(スコット・ ハッチソン(Scott Hutchison)からの恵与、ニコルス研究所、サンジュアンカ ピストラノ、カリフォルニア、米国)に対するmAbであるT3−365を1: 1000の希釈度で用いた。4℃、3時間後、25μlの充填・洗浄したプロテ インA−アガロースを加え、そのチューブを4℃で1時間転倒振盪した。プロテ インAを10,000xg(4℃)で遠心回収し、1mlの免疫沈降バッファーで 5回洗浄し、次いで、10mMトリス(pH7.4),2mM EDTAおよび 0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で1回洗浄した。最後に、ペレット を0.7Mβ−メルカプトエタノール含有レムリ(Laemmli)サンプルバッファ ー(18)に再懸濁し(50℃、30分)、7.5%または10%SDS−ポリ アクリルアミドゲル(バイオラッド、ハーキュルス、カリフォルニア)上電気泳 動した。予め着色した分子量マーカー(バイオラッド)を並行レーンに包含させ た。本文に掲げた分子量を得るために、これらのマーカーはより正確な未着色マ ーカーに対して予め校正した。放射性標識タンパクはコダックXAR−5X線フ ィルム(イーストマンコダック、ロチェスター、ニューヨーク)上オートラジオ グラフィーにより可視化した。TSHRタンパクのイムノブロット :安定的にトランスフェクトしたTSHR− 10,000細胞(2個の100mm直径ディッシュ中)を0.5mM EDT Aと共にCa++−およびMg++−不含PBS中インキュベーションすることによ り再懸濁した。細胞をペレット化し(5分間、100xg、4℃)、上記のプロ テアーゼ阻害剤含有10mMトリスHCl(pH7.4)1.5ml中に再懸濁 し、 ポリトロンホモジナイザー(ブリンタマン研究所、ウエストバリー、コネチカッ ト)で均一化した。500xg(4℃)で10分間遠心した後、上清を10,00 0xg(4℃)で20分間再遠心した。ペレットを同一バッファー0.1mlに 再懸濁し、その後、0.7Mβ−メルカプトエタノール含有レムリバッファーを 添加し(50℃、30分間)、サンプルを10%SDS−ポリアクリルアミドゲ ル上電気泳動した。予め着色した分子量マーカーについては上記のとおりである 。タンパクをプロブロット(Pro Blott)膜(アプライドバイオシステムズ、フ ォスターシティ、カリフォルニア)に移し、すでに記載のとおりに処理した(1 9)。膜をAサブユニットに対するmAb A10またはA11と共に、または Bサブユニットに対するmAbT3−495(TSH−R1;トランスバイオ、 ブーローニュ、フランス)またはT3−365(最終希釈、1:1000)と共 に一夜(4℃)培養した。洗浄後、膜をアルカリホスファターゼ結合ヒツジ抗− マウスイムノグロブリンG(1:400希釈)(カッペル、ダーラム、ノースカ ロライナ)と共に室温で1時間培養した。シグナルを、100mM NaClお よび5mM MgCl2含有100mMトリス−HClバッファー(pH9.5) 中、ニトロブルーテトラゾリウムおよび5−ブロモ、4−クロロ、3−インドリ ルリン酸で発色した。TSHRタンパクの酵素による脱グリコシル化 :蛋白A/IgG/TSHR複合 体または10,000xg粗製膜フラクション(上記)を0.5%SDS,1% β−メルカプトエタノール含有変性バッファー中培養した(100℃、10分間) 。酵素による脱グリコシル化を製造業者(N.E.バイオラボ、ビバリー、マサ チュウセッツ)のプロトコールに従って実施した。N−グリコシダーゼF消化( 100U,37℃、2時間)を50mMリン酸ナトリウム(pH7.5)1%N P−40中で実施した。エンドグリコシダーゼH消化(50U,37℃、2時間 )を50mMクエン酸ナトリウム(pH5.5)中で実施した。サンプルを次い で上記どおりにSDS−PAGEに付した。放射性標識TSHの共有結合架橋形成 :高度精製ウシTSH(5μg、30U/ mgタンパク)を製造業者のプロトコールに従ってボルトン−ハンター試薬(4 400Ci/mmol;デュポン−NEN)により125Iで比活性〜80μCi / μgタンパクとなるよう放射性標識し、次いで、セファデックスG−100クロ マトグラフィーに付した(20)。集密100mm直径ディッシュのTSHR発 現細胞を、280mMスクロースおよび0.25%BSA添加改変ハンクバッフ ァー(NaCl不含)(結合バッファー)5ml中5μCi125I−TSHで3 7℃、2時間培養した。氷冷した結合バッファーで3回細胞を洗浄し、結合しな かった125I−TSHを除去した。次いで、上記プロテアーゼ阻害剤を含む10 mMリン酸Naバッファー(pH7.4)に溶かしたジスクシンイミジル・スベ リン酸(DSS;1mM;シグマ)を室温20分間で加えた。架橋形成反応を2 0mM酢酸アンモニウム(最終濃度)の添加により停止させた。 架橋形成後、細胞をPBSで2度洗浄し、同じプロテアーゼ阻害剤を含む10 mMトリス(pH7.5)中に削ぎ落とした。細胞をポリトロンホモジナイザー により均一化し、4℃で5分間遠心した(500xg)。上清を遠心し(10, 000xg、4℃、15分間)、ペレットを10mMトリス(pH7.5)50 μlに再懸濁した。0.7Mβ−メルカプトエタノール含有レムリバッファーを 添加した後(42℃、30分間)、サンプルを上記同様10%SDS−PAGE およびオートラジオグラフィーに付した。結 果 TSHR−10,000細胞中TSHRの免疫検出 :前駆体標識TSHR−10 ,000細胞の免疫沈降研究を、Aサブユニットのアミノ末端にあるTSHRア ミノ酸残基22〜35に対するmAb A10(17)で実施した。TSHRの 多様な形態を、3時間および16時間のチェイス(追跡)期間の後、還元条件下 で観察した(図61A)。単一サブユニット(未開裂)TSHRの2つの形熊は :(i)〜115kDaの大きさのもの(エンドグリコシダーゼH抵抗性複合体 炭水化物)および(ii)〜100kDaの大きさのもの(エンドグリコシダーゼ H感受性未成熟高マンノース炭水化物)であった(図6)。N−グリコシダーゼ Fによる消化が両形態の炭水化物を除去し、〜84kDaのポリペプチド・バッ クボーンを露出した。開裂したTSHR(2サブユニット)も存在した。細胞外 Aサブユニットが複合体炭水化物を有する幅の広い〜62kDaのバンドとして 見 ることができた。このバンドは脱グリコシル化によりより集約した35kDaの バンドになった。大部分膜透過したBサブユニットは、恐らくそれが抗体結合A サブユニットから脱離し、引き続く非常に厳しい洗浄処理の間に喪失するために 、これらの免疫沈降実験では可視化できなかった(図6A)。TSHRに対する mAbの特異性は未トランスフェクトCHO細胞を用い、甲状腺ペルオキシダー ゼ(TPO)に対するmAbによるコントロール実験において明らかであった( 図6B)。 免疫沈降実験と対照的に、BサブユニットはBサブユニット特異mAbT3− 495およびT3−365を用いるTSHR−10,000細胞の免疫ブロット において明瞭に目視化された(21)(図7A,7B)。このように、TSHR の単一サブユニット型に加えて、〜42kDaの一次Bサブユニットバンドがい くつかのやや大き目のマイナーバンドと同じように明らかであった。エンドグリ コシダーゼFおよびHとインキュベーションしてもBサブユニットバンドの移動 には影響がなく、これはそれらがN−結合グリコシル化部位を欠如していること と矛盾がなかった(図7A)。mAb T3−495およびT3−365の特異 性は未トランスフェクトCHO細胞での免疫ブロッティングにより確認した(図 7B)。免疫沈降実験でのように、AサブユニットのサイズはTSHRアミノ末 端に対するmAb A10での免疫ブロッティングにより明確に決定することが できた。〜62kDaの成熟Aサブユニットは複合体炭水化物(エンドグリコシ ダーゼH抵抗)を含んでいた(図7C)。最も重要なN−グリコシダーゼFでの 脱グリコシル化では〜35kDaのサブユニットバックボーンを確認した。〜3 9kDaおよび〜42kDaのより少ないフラグメントもまた明瞭であった。再 び、Aサブユニットに対するmAb A10の特異性は未トランスフェクトCH O細胞での免疫ブロットおよびTPOに対するmAbでのTSHR−10,00 0細胞の免疫ブロッティングにより確認した(図7D)。TSHRの欠失断片の謎 :21アミノ酸残基のシグナルペプチドをもたないヒト TSHRは予測した84.5kDaのポリペプチドバックボーン(743アミノ 酸残基)を有する。しかし、上に示した免疫沈降および免疫ブロットの研究から の、酵素的に脱グリコシル化したAサブユニット(35kDa)および一次B サブユニットフラグメント(〜42kDa)の総計は高々〜77kDaであった 。TSHR Aサブユニットでの35kDaポリペプチドバックポーンは、シグ ナルペプチドを欠如していることを考慮すると、その開裂部位をアミノ酸残基3 30の領域に置いている。更に、非グリコシル化Bサブユニットの〜42kDa のサイズは残基380近辺にホロレセプター開裂部位を有することと矛盾がない 。従って、残基330〜380近傍の「Cペプチド」フラグメントは開裂したT SHRエクトドメインからなくなったものと思われた(図8)。この推定はTS HRエクトドメインの単一開裂部位について広く流布した概念と矛盾するもので ある。TSHRmyc細胞のTSHRサブユニット :TSHRの2つの開裂部位の可能 性を探究するために、我々は残基338〜349の位置に12アミノ酸のヒトc −mycエピトープをもつレセプターを発現するTSHRmyc細胞を用いた。 このエピトープはもし開裂部位が2つあるとする仮説が正しければ失われてしま うと予測されるTSHRのセグメント、すなわち、残基〜330〜380内に存 在する(図8)。開裂したAサブユニットではなく、TSHRの単なる単一サブ ユニット型についての、c−mycに対するmAbによる検出は、エクトドメイ ンの一部が分子内開裂に際して失われてしまうという概念を支持する。c−my cをエピトープ内で開裂すると、このエピトープが失われてしまう。開裂部位が 2つあるとする仮説はまた、Aサブユニットのアミノ末端に対するmAb A1 0により、あるいは放射性標識TSHによる架橋形成によりより限定的に、TS HRmyc細胞中にAサブユニットが検出されることを予言するだろう。 TSHRmyc細胞は増幅したトランスゲノムを含まず、TSHR−10,0 00細胞よりもレセプターの発現が少ない(細胞当たり〜100,000)(1 5)。それにもかかわらず、抗−myc mAb 9E10およびmAb A10 両方がこれら細胞におけるTSHRの単一鎖型を検出する際に同等の効果を示し た(図9A)。これと対照に、TSHRmyc細胞の拡散したグリコシル化TS HRAサブユニットはTAHR−10,000細胞のものよりも検出するのがよ り困難であった。しかし、N−グリコシダーゼFで脱グリコシル化した後のTS HRmyc細胞35kDaAサブユニットはより集中して、TSHRアミノ末端 に対するmAb A100での免疫沈降により明瞭に目視し得た。これと対照に 、 Aサブユニットは同一材料中に抗−mycmAb 9E10により検出されなか った。この知見は重要なので、TSHR−10,000細胞中の脱グリコシル化 Aサブユニットが関連する同様の実験を示す(図9B)。 TSHRmyc細胞およびTSHR−10,000細胞中にmAbA10によ り検出される35kDaの脱グリコシル化Aサブユニットのバンドは人為産物で はなかったが、その理由はそのようなバンドが前駆体標識未トランスフェクトH EK細胞のmAbA10による免疫沈降により検出されなかったこと、あるいは (TPOに対する)非関連mAbがこのバンドをTSHRmyc細胞中に検出し なかったからである(図9C)。 最後に、我々はTSHRmyc細胞中にTSHRAサブユニットが存在するこ とを確認するために、(我々の手中にある)最も感度の高い方法、すなわち、単 層培養中の未処理細胞の表面に放射性標識TSHの共有架橋を形成する方法を適 用した。この手段により、AサブユニットがTSHRmyc細胞中に明らかに現 われていた(図10)。更に、TSH架橋形成により検出されたAサブユニット と未開裂単一サブユニットレセプターとの間の割合が、TSHRmyc細胞にお いて、同様数の野生型TSHR(TSHR−0)を発現する細胞系におけると同 じであった(16)。検 討 TSHRエクトドメイン中の2つの開裂部位についての本証拠は、この概念を (振返って)支持するこれまでのデータとの関連で検討しなければならない。こ のように、我々は何年もの間、あるキメラTSH−LH/CGレセプターでのT SH架橋研究において我々が観察した現象に悩まされて来た。TSHR残基26 1〜360(「Dドメイン」;キメラレセプターTSH−LHR−4)あるいは 残基363〜418(「Eドメイン」;キメラレセプターTSH−LHR−5) を関連するLH/CGレセプターのものと置換えても、TSHRをAおよびBサ ブユニットへ開裂するのを妨げなかった(10)(図11)。ドメインDおよび Eの同時置換のみが開裂を押し止めた。これらの知見はDおよびEドメインがそ れぞれ開裂部位をもつことと矛盾しない。 脱グリコシル化TSHR Aサブユニットと非グリコシル化Bサブユニットの サイズの合計が期待値よりも小さいことは、TSHRが2つの開裂部位をもち、 ボリペプチド鎖の介在部分を失うという概念を支持する。サイズの予測値が絶対 的に正確であり得ないということを我々も認めるが、その値にはTSHRに対し 異なる方法論を用いた異なる研究室間で再現性があり、分子内開裂の間にTSH Rの断片が失われたことを示唆している。我々は脱グリコシル化Aサブユニット とBサブユニットがそれぞれ〜35kDaおよび〜42kDaであることを観察 した。他でも同様サイズのAおよびBを報告している(21〜23)。すべての 研究で、2つのサブユニットの合計は84kDaのホロレセプターよりも小さい 約5kDaである。我々のデータもまた両方の部位での開裂がすべてのあるいは 皆無の(all or none)現象ではないという可能性を提起している。このように、 優位なサブユニット型よりも僅かに大きなサイズの少量のAおよびBサブユニッ トを検出することで、両方の部位での僅かな程度の不完全な開裂を説明すること ができた。あるいは、これら少量のAサブユニットの組成は不完全な脱グリコシ ル化を説明することができた。 TSHRエクトドメインの2つの開裂部位を示唆する第三の証拠は、TSHR の単鎖ではない2つのサブユニット型における戦略的に位置づけられたc−my cエピトープの選択的消失についての現在の観察である。この現象に対する3つ の可能な説明がある:(i)2つの異なる部位での分子内開裂におけるc−my cエピトープを含むペプチドフラグメントの消失;(ii)c−mycエピトープ 内での単一開裂部位が開裂して抗体認識を喪失する;(iii)これら2つの事象 の組合わせ(2つの開裂部位の1つがc−mycエピトープ内にある)。これら の可能性の内、c−mycエピトープ内の単一部位での開裂は多くの理由からあ りそうにもない。すなわち、(i)アミノ酸残基338〜349(c−mycエ ピトープ)内の単一開裂では実験的に観察された実サイズ(42kDa)よりも 明らかに大きな46〜47kDaのBサブユニットを生成する(図7Aおよび7 B参照);(ii)キメラレセプターTSH−LHR−4(24)および野生型T SHR(25)の欠失変異体(残基317〜366)はc−mycエピトープが 挿入された領域を欠いている(図11)が、両レセプターはなお2つのサブユニ ット に開裂する(7、10);(iii)c−mycエピトープの配列は本質的に野生 型レセプターの配列と異なっている。従って、このように高度に変異した領域で の継続的な開裂は、TSHR開裂部位に対するアミノ酸配列の特異性を欠いてい ることを示している。このような理由のすべてによって、TSHRエクトドメイ ンには2つの開裂部位が存在する可能性があり、更にその上流にc−mycエピ トープをもつ可能性がある。 TSHRに思いもよらない2つの開裂部位が存在する可能性は、何故我々が以 前にTSHRの開裂がアミノ酸残基317の下流近傍ではなく、むしろ上流近傍 で起こったと推断するような誤りを冒したのかを説明する(7,10,12)。 我々が誤った推断をしたのは、TSHRのAおよびBサブユニットへの開裂が、 TSHの突然変異誘発によって欠失した317〜366残基をもつレセプターに 対する架橋形成により明白であったからである(7,25)。この知見がこの領 域に2つではない単一の開裂部位を排除させることになった(図11)。更に、 このTSHR変異体のAサブユニットは野生型TSHRのものにサイズが似てい た。振返って、重要な残基317の二三残基上流または下流での開裂は比較的大 型の(〜74kDa)架橋産物から識別することは困難であった。 c−mycエピトープが他の糖タンパクホルモンレセプターと比較して、TS HRに特有であると我々が観察した50個のアミノ酸セグメント(残基317〜 366)内に位置しているというのは興味深いことである(3)。この50個の アミノ酸「挿入物」の正確な境界は(レセプター間での近接領域の相同性が低い ために)定かでないが、このTSHRセグメントは集中して研究すべき対象であ った。残基317〜366が非常に親水性であったことは、それがTSHR分子 の外面に突出していて、多分リガンドの特異性に重要であると我々に憶測させる ものであった(25)。しかし、驚くべきことに、その欠失はTSH結合あるい はTSH介在のシグナル変換に何ら影響しなかった(25)。TSHR残基31 7〜366の推測される表面構造はまた、この領域をc−mycエピトープ標識 のために選択した理由でもあった。他の研究者はTSHRに対する抗血清を生成 せしめるために、この領域部分に対応する合成ペプチドを用いた。特に、1つの ペプチド(352〜367残基)は高い免疫原性を有し、大多数のグレーヴズ病 血清におけるTSHR自己抗体により認識されると報告されている(26.27 )。更に、密接に関連する合成ペプチド(352〜366残基)に対する抗血清 はFRTL−5ラット甲状腺細胞のAサブユニットを認識するが、トランスフェ クトしたCOS細胞では非常に弱い(11)。これらの知見を、開裂したTSH Rのこの領域の一部が欠如している可能性と関連付けることは興味深い。 要約すると、多様な証拠を一緒にすると、TSHRのエクトドメインには2つ の開裂部位があることを示唆している。我々の知識では、TSHRは、そのエク トドメインが複数の開裂部位を含むと思われる、Gタンパク結合レセプターファ ミリーの最初のメンバーである。推定上のTSHR Cペプチドの精製および特 性づけは2つの開裂部位仮説に対する証拠を提供する。しかし、TSHRを過剰 発現していないTSHRmyc細胞系から培地中に小さなTSHRポリペプチド フラグメントが遊離しているのを検出することは現在不可能である。それにもか かわらず、TSHRエクトドメインの2つの開裂部位についての証拠は、TSH Rサブユニットの構造−機能に関するこれからの研究に対して刺激を与える。 実施例3 哺乳動物細胞中過剰発現するヒト甲状腺刺激ホルモンレセプター間の否定的協 力関係についての証拠 この実施例では、CHO細胞でのTSHRの高レベル発現、並びにリガンド不 存在下での高い構成的TSHR活性、および単一サブユニットである未開裂TS HRに対するTSHの結合について記載する。更に、高レベルの発現は、TSH R間のリガンドに対する親和性による明らかな否定的協力関係と関連している。前置き 甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)は甲状腺の生理的機能を制御する 際の中枢的重要性を有するものであり、グレーヴズ病で自己抗体が標的としたと きの甲状腺機能亢進症の直接の原因でもある(1−3に概観)。精製TSHRが 入手可能となったことは、TSHRの構造−機能相関を理解する上での、また同 様にヒトを冒す最も普通の臓器特異自己免疫疾患の一つであるグレーヴズ病の病 因を解明する上での重要な進歩である。甲状腺組織のTSHRは極く微量である ために(1)、組換えTSHRを高レベルで発現させることは、過去6年にわた り多くの研究者が精力的に追究してきたゴールである。殆どの努力は多くのタン パクで高レベルの発現を達成し得る原核細胞システム(4〜9)および昆虫細胞 システム(8,10〜14)に向けられている。TSHまたはTSHR自己抗体 がそのような物質に結合するという報告(9、10,14,15)、同様に合成 TSHRペプチド(15〜20)および無細胞翻訳生成物(21)に結合すると いう報告があるが、他の研究者らはタンパク産生またはリガンド認識のいずれか において厳しい困難に遭遇している(5,8,13,22)。 5年前、我々がジヒドロ葉酸レダクターゼ(dhfr)ミニ遺伝子の増幅を用 いてチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞中で甲状腺ペルオキシダーゼを 過剰発現することに成功したので(23)、我々はTSHホロレセプターについ ても同じ方法を試みた。しかし、我々は高レベルの発現を達成しなかった(カウ フマン(Kaufman)ら、未刊行データ)。我々が次に行ったバクテリアおよびバ キ ュロウイルス法に手間取って幻滅したことが、dhfr−ミニ遺伝子増幅により 、CHO細胞でのTSHRエクトドメインの過剰発現を我々に再試行させること となった。しかし、このタンパクの殆どはTSHあるいは機能的TSHR自己抗 体のいずれをも認識しない未成熟の炭水化物のままで細胞内に保持されていた( 24)。 極く最近、我々はヒトTSHRの5'−および3'−未翻訳領域がCHO細胞で のTSHR発現に重要な抑制効果を示すことに気づいた(25)。dhfr−ミ ニ遺伝子法によるTSHホロレセプター増幅での当初の試みで我々は両方の未翻 訳領域を有する完全長(4kb)TSHRcDNA(26)を利用したので、2 .3kb翻訳領域のみを用いてTSHRcDNA増幅を再度繰り返した。今や我 々はCHO細胞での高レベルTSHR発現を報告し、リガンド不存在下でのTS HRの高構成的活性を確認する(27,28)。更に、我々はより高いレベルの 発現がTSHR間のリガンドに対する親和性による明らかな否定的協力関係と関 連していることを見出す。方 法 ヒトTSHR−ECD高レベル発現のためのプラスミドの構築 :コード領域と0 .4kbの3'未翻訳領域とを含む2.7kbのTSHRcDNAをpTSHR −5'TR−NEO−ECEからSalIおよびXbaIにより切除した(25 )。このフラグメントをHincIIで制限処理して2.3kbのTSHRコー ド領域を遊離させ、次いで、SalI−XbaI挿入断片を除去したpSV2− DHFR−ECE−TPO(23)のXbaI(平滑化)およびSalI部位に これを挿入した。pSV2−DHFR−ECE−TSHRと命名したこの新しい プラスミドをリン酸カルシウム沈降法(29)によりジヒドロ葉酸レダクターゼ (dhfr)−欠損CHO細胞(CHO−DG44;ロバート・シムケ(Robert Schimke)博士の恵与、スタンフォード大学、パロアルト、カリフォルニア)に トランスフェクトした。安定にトランスフェクトした細胞を、10%透析ウシ胎 児血清、ペニシリン(100U/ml),ゲンタマイシン(50μg/ml)お よびアンホテリシンB(2.5μg/ml)を添加したチミジン−、グアニン− およびヒ ポキサンチン−不含ハムF−12培地中で選択した。限界希釈の後、14種の異 なるクローンをTSHで刺激して細胞内cAMPを測定することによりTSHR の発現につき試験した(下記参照)。最大応答を示したクローンをトランスゲノ ム増幅用に選択した。メトトレキセート(MTX)を当初20nMの濃度で選択 細胞培地に加え、生存細胞を発展させた。メトトレキセートの濃度を連続的に増 大させ、最終濃度を10,000nM(10μM)とした。細胞を800nMお よび10,000nMメトトレキセート濃度で限界希釈し再クローン化した。前駆体標識TSHRの免疫沈降 :TSHRを安定的に発現するCHOクローン細 胞系を100mm直径培養ディッシュ中集密的に生育した。リン酸バッファー塩 溶液(PBS)で洗浄した後、細胞を5%熱不活性化ウシ胎児血清含有DME− H21メチオニン−およびシステイン−不含培地中で予め培養した(0.5時間 、2度)。この細胞を〜0.5mCiの35S−メチオニン/システイン(>10 00Ci/mmole,デュポンNEN,ウイルミントンDE)添加新鮮培地5 ml中でパルス標識した(37℃、1時間)。培地を吸引除去し、細胞をPBS で一度洗浄した後、10%ウシ胎児血清を含む標準非選択F12培地中でチェイ スを8時間実施した。細胞をPBSで2度洗浄し、1mlの氷冷20mMヘペス (pH7.2;プロテアーゼ阻害剤、フッ化フェニルメチルスルホニル(PMS F)(100μg/ml)、ロイペプチン(1μg/ml)、アプロチニン(1 μg/ml)およびペプスタチンA(2μg/ml)(すべてシグマ、セントル イス、ミズーリより入手)含有150mMNaCl)(バッファーA)中に削ぎ 落とした。該細胞をペレット化し(100xg、5分間)、PBSで2回洗浄し 、1%トリトンX−100を含むバッファーA中に再懸濁した。4℃で90分間 時折振盪した後、混合物を100,000xgで45分間遠心し、その上清を免 疫沈降バッファー(20mMヘペスpH7.2,300mMNaCl,0.1% ドデシル硫酸ナトリウム、0.5%ノニデット−P40および2mM EDTA )中に1:4に希釈した。可溶化した細胞タンパクを、25μlの充填・洗浄し たプロテインA−アガロース(シグマ)に予め結合した150μg正常マウス血 清IgGと4℃で1時間インキュベーションすることにより予め精製した。プロ テインAをミクロ遠心機により遠沈(10,000xgで3分間)して除去した 後、 TSHRに対するマウスモノクローナル抗体(A9とA10の混合物、ポール・ バンガ(Paul Banga)博士から恵与、ロンドン、英国;最終希釈1:1000) を添加した。A9およびA10はそれぞれアミノ酸147〜229および22〜 35の間のTSHR領域を認識する(30)。4℃、3時間後、25μlの充填 ・洗浄したプロテインA−アガロースを加え、チューブを4℃、1時間転倒振盪 した。プロテインAを10,000xg(4℃)で3分間遠心により回収し、免 疫沈降バッファー1mlで5回洗浄し、10mMトリス(pH7.4),2mM EDTAおよび0.5%ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で1回洗浄した。最 後に、ペレットを0.7Mβ−メルカプトエタノール含有レムリ・サンプルバッ ファー(31)に再懸濁し(42℃、30分間)、7.5%SDS−ポリアクリ ルアミドゲル(バイオラッド、ハーキュレス、カリフォルニア)上電気泳動した 。予め着色した分子量マーカー(バイオラッド)を並行レーンに包含させた。放 射性標識タンパクはコダックXAR−5X線フィルム(イーストマンコダック、 ロチェスター、ニューヨーク)上オートラジオグラフィーにより可視化した。デ ンシトメトリー分析をバイオラッド走査デンシトメーターにより実施した。放射性標識TSHの共有結合架橋形成 :高度精製ウシTSH(5μg/mlタン パク)をボルトン−ハンター試薬(4400Ci/mmol;デュポン−NEN )により製造業者のプロトコールに従って比活性が〜80μCi/μgタンパク となるように125Iで放射性標識し、次いで、セファデックスG−100クロマ トグラフィーに付した(32)。TSHをメトトレキセートにより異なるレベル の増幅率で安定的に発現するCHOクローン細胞系を100mm直径培養ディッ シュ中で集密的に生育した。細胞を0.25%BSA添加改変ハンクバッファー (等張性を維持するためにNaClを280mMスクロースに置換)(結合バッ ファー)5ml中5μCi 125I−TSHで37℃、2時間培養した。氷冷した 結合バッファーで3回細胞を洗浄し、結合しなかった125I−TSHを除去した 。次いで、上記プロテアーゼ阻害剤を含む10mMリン酸Naバッファー(pH 7.4)に溶かしたジスクシンイミジル・スベリン酸(DSS;1mM;シグマ )を室温20分間で加えた。架橋形成反応を20mM酢酸アンモニウム(最終濃 度)の添加により停止させた。 架橋形成後、細胞をPBSで2度洗浄し、同一のプロテアーゼ阻害剤を含む1 0mMトリス(pH7.5)中に削ぎ落とした。細胞をポリトロンホモジナイザ ー(ブリンクマン・インストルーメント、ウエストバリー、コネチカット)を用 いて均一化し、4℃で5分間遠心した(500xg)。上清を遠心し(15分間 、10,000xg、4℃)、ペレットを10mMトリス(pH7.5)50μ lに再懸濁した。タンパク濃度をブラッドフォード法(33)により定量した。 レムリバッファー(31)を添加した後、0.7Mβ−メルカプトエタノールの 存在下(42℃、30分間)、サンプルを7.5%SDS−PAGEゲルに付し 、上記のように分析した。TSH結合 :TSHRcDNAを安定にトランスフェクトしたCHO細胞を96 穴培養プレート中で集密的に生育せしめた。次いで、細胞を約50,000cp mの125I−TSH含有結合バッファー(上記参照)中で、高濃度非標識ウシT SH(シグマ)の存在下もしくは不存在下に37℃、2時間培養した。培養期間 の終末点で、細胞を結合バッファー(4℃)で3度迅速に洗浄し、0.1ml NaOHで可溶化し、放射活性をガンマカウンターにて測定した。高濃度125I −TSHを用いる実験は、非標識TSHを添加しなかったこと以外は同一条件下 で培養した細胞中で実施した。未トランスフェクトCHO細胞に対する非特異12 5 I−結合は、特異結合のカウントを与えるために総結合カウントから差し引い た。これらの値は使用した最高トレーサー濃度(2.5x107cpm/ml) の総結合カウントの<10%であった。分子内cAMPのTSH刺激 :24穴または96穴培養プレートで集密的に生育 させたトランスフェクトCHO細胞を、低張培地(34,35)中または1%ウ シ血清アルブミン、1mMイソブチルメチルキサンチン含有ハムのF−12培地 中、ウシTSH(シグマ)の添加または無添加の条件で37℃、2時間培養した 。サイクリックAMPを低張培地中で直接測定した。等張ハムのF12培地中T SHに露呈した細胞については、培地を吸収除去し、細胞内cAMPを95%エ タノールで抽出し、蒸発乾燥し、50mM酢酸ナトリウム(pH6.2)に再懸 濁した。サイクリックAMPは、cAMP,2'−O−スクシニル125I−ヨード チロシン・メチルエステル(デュポンNEN)およびウサギ抗cAMP抗体(カ ル ビオヘミ、サンジエゴ、カリフォルニア)を使用するラジオイムノアッセイによ り測定した。結 果 全CHO細胞中TSHRタンパク発現の免疫沈降による定量 :CHO細胞のゲノ ム中TSHRホロレセプター/dhfr−ミニ遺伝子複合体の安定な移入の工程 および増幅の向上には略1年を要した。この間、選択したクローン中でのTSH R発現は125I−TSH結合により断続的に確認した。増幅工程を完成させた後 、我々は全細胞内のTSHR発現レベルを前駆体35S−メチオニンおよび35S− システイン標識とTSHRに対するマウスモノクローナル抗体(A9+A10) を用いる在来条件下での免疫沈降により評価した(30)。この比較において( 図12)、我々は以下のものを安定にトランスフェクトしたクローン細胞系を用 いた:(i)5'−および3'−非翻訳領域の両方をもつ4kb TSHRcDNA (野生型TSHR)(26);(ii)欠失非翻訳領域(5'3'TR−ECE)( 25)をもつ2.3kb TSHRcDNA(この報告のためにTSHR−0と 再命名);(iii)800nMメトトレキセートで生育安定後の2.3kbTS HRcDNA(TSHR−800);および(iv)10,000nMメトトレキ セートで生育安定後の2.3kbTSHRcDNA(TSHR−10,000) 。未トランスフェクトCHO細胞は陰性コントロールとして組み入れた。 還元性条件下で免疫沈降生成物を分析すると、全細胞ホモジネートにおいてミ スラーイ(Misrahi)ら(12)が以前に報告したTSHRホロレセプター、サ ブユニットおよび前駆体のパターンと矛盾のない多数のバンドを現出させた。本 研究の展望から重要なのは、dhfr増幅工程と関連してすべてのTSHR−特 異バンドが発現において明らかに増大していたことであった。本研究では、10 0kDaのホロレセプターバンド(図12において矢印で示す)のデンシトメト リーによる定量結果は、TSHR−10,000細胞でのTSHR発現がTSH T−0細胞でよりも大きい10.3±2.0(2つの別個の実験での範囲)であ るということを示していた。細胞表面でのTSHのTSHRへの架橋形成 :安定的にトランスフェクトしたマ ウスL−細胞においては、甲状腺細胞とは違って、殆どのTSHRが通常の成熟 化を受けないと報告されている(12)。代りに、未成熟な形態のレセプターは 細胞内に蓄積し、分解する。従って、細胞溶解物の免疫沈降により観察されるT SHRの増幅が細胞表面に発現した成熟TSHRの増加とも関係あるか否かを決 めることが重要である。単層培養において未処理CHO細胞に架橋形成している 放射性標識TSHは、dhfr−ミニ遺伝子増幅と共にTSH結合部位が増大し つつあることを物語っていた(図13)。デンシトメーター分析によると、TS HR−10,000細胞に結合するTSHRはTSHR−0細胞のものよりも1 2.8±2.8倍(平均±S.E.:n=3実験)増加していた。以前に定量し たTSHR−0(以前は5'3'TR−ECE)細胞表面上のTSHR分子が〜1 50,000であったことに基づくと(25)、今回のデータはTSHR−10 ,000細胞がその表面に〜1.9x106個のTSHRを発現していることを 示唆する。 架橋形成データに関しては更に2つの特徴を指摘すべきである。その第一は、 オートラジオグラムの照射が比較的短く(16時間)、その時間ではCHO細胞 に発現した野生型TSHRcDNAでのシグナルを見ることができない。第二に 、2つのリガンド−TSHR複合体(〜130kDaおよび〜75kDa)が還 元条件下ではっきり現われる。TSHサブユニットの分子質量を差し引いた後の 上部バンドは〜115kDaの見かけの質量を有する単一鎖ホロレセプターを表 し(36,37)、下部バンドは〜60kDaの解離したAサブユニット(38 )を表す。リガンド不存在下過剰発現したTSHRの機能 :基礎cAMPレベルは異なる数 のTSHRを発現する安定的にトランスフェクトした細胞系において評価した。 TSHを含まない低張培地(34,35)中で培養した細胞では、cAMPレベ ルがTSHR−0細胞(1.10±0.21pmole/ウエル)に比較して、 TSHR−10,000細胞(20.3±1.5S.E.pmole/ウエル; n=3)では18.5倍高かった(図14A)。等張培地では(図14B),基 礎cAMPレベルがTSHR−0細胞(0.52±0.05pmole/ウエル )に比較して、TSHR−10,000細胞(3.04±0.36S.E.p mole/ウエル;n=3)ではより低い程度(6.0倍)で増加していた。こ れらのデータは非リガンドTSHRが有意な構成的活性を有することを示す。つ いでながら、低張条件下およびより多くのTSHRをもつ細胞系でのより高い基 礎cAMPレベルと関連して、TSH刺激に応答したcAMPレベルの増大がT SHR−0細胞の17倍からTSHR−800細胞での2.9倍およびTSHR −10,000細胞での1.4倍に減少していた(図14A)。細胞を等張培地 で培養したときには、同じTSH濃度に応答して、同様の、しかしそれ程ドラマ ティックではないcAMPの減少が観察された。TSHRを過剰発現する細胞表面結合性TSHの反応速度論 :当初の実験で我々 はTSHRを過剰発現するCHO細胞結合性TSHの反応速度を、非標識TSH 濃度増大下に125I−TSHを用い定量した。驚くべきことに、TSHR−O細 胞(Kd〜5x10-10M)(25)と対照的に、我々はTSHR−800細胞 (〜10-9M)およびTSHR−10,000細胞(〜2x10-9M)により漸 進的に低下したTSH結合に対する半最大阻害値を観察した(図154)。これ らの値のすべてが野生型完全長のTSHRcDNA(TSHR−WT)(2x1 0-10M)トランスフェクト細胞について観察された値よりも低い。TSH親和 性のスカッチャード分析および特にTSHR数分析は、TSHR−800および TSHR−10,000細胞についてはそれらの特異TSH結合の親和性が低く 、非トランスフェクトCHO細胞(39)への非特異TSH結合の値に近づき、 なお且つプラスティックでの値(40)(Kd〜6x10-8M)にも近かった故 に、正確に実施できなかった。事実、強調しなければならないのは、図15に示 した研究のためのリガンドでの部分的レセプター飽和を得るためには、各培養ウ エルでのTSHR数を減らす必要があったことである。それ故に、TSHR−8 00およびTSHR−10,000細胞は未トランスフェクト細胞で1:50に 希釈した。 非特異結合成分はその親和性が特異結合よりも大きさにおいて略一桁小さいが 、それを差し引くことにより生じる誤差を減ずるために、我々は非標識TSHの 不存在下、125I−TSH量を増加させる飽和分析法により、TSHRを過剰発 現するTSHR−800およびTSHR−10,000細胞に対するTSH結合 の反 応速度を決めようと試みた。トレーサーを1.25x106cpm/ウエル(5 0μl培地)にまで増やしても得られたTSHRの飽和が不十分であったために 、これらのデータをスカッチャド分析しても何も分からなかった(図16)。そ れにもかかわらず、TSHR−10,000細胞の表面に対する特異TSH結合 はTSHR−0細胞に対するよりも約10倍高いことが明らかであり、125I− TSH架橋形成データと矛盾しない(図13)。検 討 何年もの努力の結果、我々は最終的に哺乳動物細胞中でヒトTSHRを高いレ ベルで発現することに成功した。TSHR−10,000細胞表面にTSHRが 過剰発現したその限度(細胞当たり〜1.9x106レセプター)は、甲状腺細 胞では推定値が高々〜5x103TSHR(1)であることを考慮すれば極めて 注目すべきことである。このレベルの発現は以前に安定的にトランスフェクトし た哺乳動物細胞で得たものよりも10〜12倍高値であり(22,41,42) 、在来のTSHRに関する研究を容易にする故に価値がある。バクテリア(9, 14)、昆虫細胞(10,14,15)および無細胞翻訳(21)発現システム で生成させた組換えTSHRあるいはペプチド(15〜20)として産生したT SHRとTSHおよびTSHR自己抗体との相互作用についての報告はあるが、 我々が言及するのは哺乳動物細胞で産生された本来のタンパクに絞っている。バ クテリアまたは昆虫細胞で生成したTSHRは一般に不溶性であり、カオトロピ ック剤での可溶化と引き続いての再生処理が必要である(9〜11,14)。 哺乳動物細胞による高レベルTSHR発現での我々の最終目標はTSHRの三 次元構造を決めることである。しかし、過剰発現をもってしてさえ、ホロレセプ ターが巨大炭水化物組成を有する膜関連タンパクであるという観点からして、精 製したTSHRの結晶がいつかは得られるのか得られないのかさえ不確かなまま である。精製エクトドメインの結晶化はより可能性がある。しかし、我々の経験 では、エクトドメインそれ自身では哺乳動物細胞中で正しく成熟せず、過剰発現 し得ない(24)。しかし一方で、TSHR−10,000細胞により発現した ホロレセプターはサブユニットの構造、炭水化物組成物、生理的リガンドTSH との相互作用、並びに細胞内輸送の研究を容易にする。現在まで、また、マウス mAbが利用可能になってさえ(5,30,43)、哺乳動物細胞中で発現した 組換えTSHRは効率的な免疫学的検出のために予めアフィニティ精製する必要 がある(12)。 TSHR−10,000細胞はまたTSHR自己抗体研究のための抗原提供に 潜在的な価値がある。これらの用途の中には、TSHR自己抗体のための新しい アッセイ法の開発、患者血清のTSHR自己抗体のフローサイトメトリー分析、 および患者のB細胞から誘導されるイムノグロブリン遺伝子コンビナトリアルラ イブラリーからのヒトモノクローナル自己抗体の単離などがある。しかし、これ ら細胞の高基礎cAMPレベルはその感度を減じ、TSHR機能活性のバイオア ッセイにとってこれらの細胞は二次選択的なものとなる。 哺乳動物細胞での高レベルTSHR発現の実用化には長い開発期間を要すると 思われるが、その実用的観点とは別に、TSHR−10,000細胞の現在の研 究は、少なくともCHO細胞で発現したとして、TSHRの機能を洞察する。第 一に、安定的にトランスフェクトした細胞系でのデータはTSHRがリガンドの 不存在下、適度のレベルの活性を保持しているという過渡的トランスフェクショ ンデータ(28)を強く支持する。そのような自発性活性は最初にα1B−アド レナリンレセプターで観察された(44)。甲状腺の場合でのこの活性の潜在的 重要性は、以前に我々が示唆した(25)ように、甲状腺の過剰活性が、mRN Aコード領域での変異が不変数レセプターの増大した本質的活性を増大させ得る のと同じように、mRNA非翻訳領域における変異の結果として、特定個体の甲 状腺細胞上に増大発現したTSHR数から由来したということである(45,4 6)。 TSHR−10,000細胞中に過剰発現するTSHRの第二の興味ある特徴 は、細胞表面に発現した単鎖TSHRにTSHが結合し得ることである。CHO 細胞表面上の単鎖TSHRおよび2つのサブユニットTSHRの比率は、発現さ れたレセプター数に依存しない。しかし、TSHR−10,000細胞でのより 強いシグナルはこの現象を更に明瞭なものとし、AおよびBサブユニットへの開 裂がTSHの結合にとっての必要条件ではないとする、キメラTSH−LH/C Gレセプターを用いる我々の以前の証拠を支持する(37)。この証拠は単鎖T SHRが少なくとも部分的に生理的レセプターであるという可能性を提起するが 、この概念は他の研究者の論争となった(5)。 TSHRを過剰発現するCHO細胞の最も驚異的な特徴は、TSHR数が増大 するにつれて観察されるTSHに対する親和性の漸進的減少であった。振返って 見て、我々が観察はしたが評価しなかったのは、TSHRの5'−3'−非翻訳領 域の役割を試験する研究において、TSHの親和性が似てはいるがそれ程ドラマ ティックな減少ではなかったということである(25)。野生型TSHRcDN Aの親和性が、TSHRの発現が非翻訳領域の欠失後に増大したときに、2x1 0-10Mから5x10-10M Kdに低下したように見えたのは人為的なものであ ると考えた。しかし、TSHR−800とTSHR−10,000細胞とのTS H親和性の更なる減少は我々の結論を不可避なものとする。これらの細胞系にお けるTSH親和性は正確に評価することができないが、その理由は該親和性が非 特異TSH結合の親和性よりもその大きさが高々1桁高いだけだからである。T SHRの分子クローニングに先立って、この顕著に高い非特異的な結合親和性は 、プラスティックでも観察されたものであるが(40)、二次的低親和性型のT SHRであると考えた(17,47)。それにもかかわらず、半最大置換を惹起 こすTSH濃度に基づくと、TSHに対するTSHR−10,000およびTS HR−800細胞の親和性はTSHR−0細胞のものよりも明らかに低い。 我々の意見では、レセプター数と共に親和性が減少する現象に対するもっとも らしい説明はTSHR間の否定的協力関係である。TSHRは液体形質膜中、特 に高密度で凝集するかまたは「パッチ」形成することが可能である。TSHRそ れ自身のコンホメーション変化またはTSH結合に対する立体障害もまた明らか に親和性の減少につながり、ホロレセプターとTSHR Bサブユニットとの間 の結合物となり得る。過剰のBサブユニットはTSHRを発現する細胞中に以前 観察したことがある(5,48)。低親和性TSHRの親和性は、多分、もし大 部分のTSHRがGタンパクに結合すれば生じるものである。もしあるとすれば 、これらの代りとなるもののどれが基本となるメカニズムであるのかを解明する 更なる研究が必要である。我々は、高密度で発現したTSHRで観察される機能 的 変化が、構造上の情報を甲状腺細胞に存在するTSHRのこれらレセプターに外 挿推定する際に警戒を求めることを認める。それにもかかわらず、TSHRの否 定的協力関係は安定な甲状腺機能を維持することと関連して、甲状腺の特徴であ る他のタイプの自己規制を表現しているとするのがもっともらしい。 実施例4:ヒト甲状腺刺激ホルモンレセプターのエクトドメインを、分泌されな い形態から、分泌されグレーヴズ病患者の血清中の自己抗体を中和する、免疫活 性の高い糖蛋白に処理する この例では、ヒトTSHRエクトドメインにおけるC末端の切除によって、グ レーヴズ病患者の血清中の自己抗体を中和する、複合炭水化物を伴う分泌された 蛋白を生じることが示される。抗原的に活性なTSHRは、グレーヴズ病の治療 、病原論や免疫療法に有用である。前置き グレーヴズ病は、非常にありふれた(有病率1%〜)(1)、器官特異的な自 己免疫疾患であり、ヒトのみに作用する。これよりは低い割合の器官特異的な病 気である、タイプI糖尿病とは異なり、グレーヴズ病には、自然発生の動物モデ ルは存在しない。また、タイプI糖尿病とは対照的に、グレーヴズ病の病原には 、一つの特定の抗原、すなわち甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)が関 与している。したがって、TSHRに対する自己抗体はレセプターを活性化し、 これは甲状腺の過剰活性や甲状腺中毒症を引き起こす(2で再検討された)。こ の ため自己抗体とTSHRとの間の反応は、理論的、診断的及び(潜在的に)治療 的な観点から興味が持たれている。 自己抗体としてのTSHRの重要性から、バクテリア(6-11)、昆虫細胞(12-16 )、安定にトランスフェクトされた哺乳動物細胞(3,17-21)や無細胞(cell-free) 翻訳(22)などの多様な発現システム内で、及びペプチド合成(23,24)によってこ の蛋白を産生するためのcDNA(3-5)の分子クローニングが行われて以来7年 間、多大な努力が払われてきた。しかし、効果的なTSHR抗原の産生は極めて 困難であった。このように、多大な努力が行われ、これらのアプローチのうちの いくつかは有望であるように思えるが、組換えTSHR抗原を用いたTSHR自 己抗体の直接的アッセイが、20年近くにわたって使用されているブタ甲状腺抽 出物(25)を用いた間接的TSH結合阻害アッセイにとってかわることが出来てい ないのは注目に値する。その上、効果的な抗原が無いことは、自己抗体−TSH R自己抗原反応の機構的、構造的研究を妨げている。 この困難さの重要な要因は、TSHと同様にTSHR自己抗体が、不連続であ って高度に立体配座的な(conformational)エピトープ(26-28)を優れて認識する ことにある。哺乳動物細胞の表面に発現されたTSHRは立体配座的に完全(int act)であって、患者の血清(29-31)中の自己抗体によって問題なく認識される。 その上、多数のTSHR発現哺乳動物細胞が発酵槽(20)で生産でき、チャイニー ズハムスター卵巣(CHO細胞)におけるTSHRの過剰発現が、トランスゲノ ム増幅(transgenome amplification)(32)によって達成された。しかしながら、 TSHRの7つの膜にかかるセグメントのため、精製は容易ではない。予想に反 して、418アミノ酸残基、すなわち自己抗体結合TSHRエクトドメインが、 CHO細胞でその曲がった領域なしで発現された場合は、それは分泌されないが 、大部分が高度のマンノース炭水化物(34)を含む形で細胞(33,34)中に保持され る。その上、この未成熟炭水化物を含むTSHRエクトドメインは、患者の血清 (34)中の自己抗体によっては認識されない。 ここで我々は、つぎのことを報告する。すなわち、完全な(entire)TSHRエ クトドメインとは対照的に、段階的なC末端切除は、CHO細胞による成熟した 複合炭水化物を有する改変されたTSHRエクトドメインの分泌を引き起こす。 さらに我々は、この自己抗原のエピトープタグ付与(epitope-tagging)、及びC HO細胞中でトランスンスゲノムを増幅することにより、哺乳動物細胞起源のT SHRの直接的な視覚化及び定量化を初めて報告する。最も重要なことは、この 物質は患者の血清中のTSHR結合活性をすべて若しくはほとんど中和すること ができることである。抗原的に活性なTSHRは、グレーヴズ病の病原に関する 将来の研究において大きな推進力を与えることとなるであろう。方法 プラスミド構成 :我々は、哺乳類細胞において、限定されたTSHRエクトドメ イン切除を発現させるために3つのプラスミドを産生した。(Fig.17):−(i) SHR−261 :プラスミドTSHR−5’TR−NEO−ECE(35)は、 コドン260にAflIIサイトを、挿入部の3末端におけるベクターにXbaI サイトを含む。AflII−XbaIフラグメントは切り取られ、2つの終止コド ンを伴う6つのヒスチジン残基(6H)をコードするカセットに置き換えられた 。カセットは2つのオリゴヌクレオチドをアニーリングすることによって作製し た。2つのオリゴヌクレオチドとは、:−センス(Sense):5’−TTAACC ATCACCACCACCATCACTGATAAT;アンチセンス(Antisense ):5’−CTAGATTATCAGTGATGGTGGTGGTGATGG AfIIサイトにおける結紮(Ligation)は6Hの上方にAsn残基を生じ、そのた め“261”と命名される。(ii)TSHR−289:コドン260にAflIIサ イトを含み、SpeIサイトを伴いコドン289に続くcDNAフラグメントを 、PfuDNAポリメラーゼを用いたPCRによって生産した(Stratagene,San Diego,CA)。このフラグメントは、TSHR−5’TR−NEO−ECE(Sp eIサイトはコドン418にある)中のAflII−SpeIIセグメントに置き換 えられた(26)。つづいて、2つの終止コドンを伴う6Hをコードし、SpeI及 びXbaIの接着末端(Adhesive ends)を有するオリゴヌクレオチドカセットを 、中間構成の同じサイトに挿入した。センス:5’−CTAGCCATCACC ACCACCATCACTGATAAT;アンチセンス:上記TSHR−261 で示したのと同様。(iii)TSHR−309:PCRによって生産したAflII −S pe cDNAフラグメントをコドン309まで延長したことを除いては、TS HR−289の場合と同様にして構成した。 関連した領域のヌクレオチド配列を確認した後、TSHR−261、TSHR −289及びTSHR−309のcDNAはSalI及びXbaIとともに切除 され、ベクターpSV−ECE−dhfr(36)に移された。TSHRエクトドメイン変異体(Variant)の発現 :上記TSHRエクトドメイン cDNA変異体により安定してトランスフェクトされた細胞系を、先に述べた手 法(34)を用いて、CHO dhfr−細胞(CHO−DG44:スタンドフォー ド大学、Palo Alro、CAのDr.Robert schimke提供)内で確立した。トランスゲ ノム増幅は、メトトレキサート(methotrexate)(最終濃度10μM)中の成長に 対する段階的馴化(progressive adaptation)によって達成された(34)。培地及び細胞中のTSHRエクトドメイン変異体の検知 :先に記載したのと正確 に同じ方法を用いて(1時間パルス、一晩追跡)(32)、TSHRエクトドメイン 変異体発現のために試験するCHO細胞を、35S−メチオニン/システインで代 謝的に標識した。先に記載した方法(32)に以下の修正を加えて、分泌されたTS HR蛋白の免疫沈降のために培地を収穫し、細胞内TSHR蛋白の分析のために 細胞をさらに加工した。1%Triton X-100を含む緩衝液中に溶解した細胞を、マ ウスIgG及びプロテインAとともに前もって除去(pre-clearing)するに先だっ て、100,000xgで45分間遠心分離し、つづいてマウスモノクローナル抗体(m Ab)A10(37)(Dr.Paul Banga,London,U.K.提供;アミノ酸残基22− 35におけるエピトープ;最終的に1:1000に希釈)を用いて免疫沈降した。培地 は、後の実験でマウスIgGがプロテインAに前もって結合されていない(not p rebound)こと以外は同様にして前もって除去した。サンプルを、還元条件下に1 0%ポリアクリルアミドゲル電気泳動にかけた。前もって染色した分子量マーカ ー(BioRad,Hercules,CA)を、テキストで示された分子量を得るために、より正 確で未染色のマーカーに対して、前もって検定した。放射性同位元素標識された 蛋白は、Kodak XAR-5 X-rayフィルム(Eastman Kodak,Rochester,NY)上でオー トラジオグラフィーによって視覚化された。また、培地に分泌されたTSHRは 、先に報告された手法(34)により、Ni-NTA樹脂(QIAGEN,Inc,Chatsworth,CA)を 用 いた6Hタグ(tag)の手段により検知された。グレーヴズ病患者の血清中のTSHR自己抗体中和のアッセイ :TSHR自己抗 体キットは、Kronus(San Clemente,CA)から購入した。このアッセイの中心は 、自己抗体が、ブタ甲状腺由来の可溶化されたTSHRに125I−TSHが結合 するのに競合する能力である(“TSH結合阻害”又はTBIアッセイ)(25)。 要するに、可溶化されたTSHR(50ml)を、患者の血清(50ml)とともに前もって 培養する(15分)。つぎに125I−TSHを含む緩衝液を加える(室温、2時間) 。TSHと複合した可溶化TSHRをポリエチレングリコールで沈殿させる。抗 体活性は、自己抗体を有しない正常人由来の通常の血清と比較した場合の125I −TSH結合阻害を百分率(%)として測定する。我々は、このアッセイをつぎ のように修正した。すなわち、グレーヴズ病患者由来の血清(25ml)を、TSHR エクトドメイン変異体を発現する細胞由来の調整された培地(25ml)と前もって培 養した(室温、30分)。つぎに、可溶化されたTSHR(50ml)を血清/培地混 合液(50ml)に加えた。コントロールとして、我々は、正常人由来の血清及び切除 型の甲状腺パーオキシダーゼ(thyroid peroxidase)を分泌するCHO細胞由来の 調整された培地を使用した(36)。レクチン吸着 :異なるレクチンに対する調整された培地中のTSHRの結合が、 3つのセファロース結合レクチン(Sepharose-linked lectin)、すなわち小麦胚 凝集素(Wheat germ agglutinin)(WGA)、バンデイラエア シンプリフィシ フォリア(Bandeiraea simplificifolia)及びコンカナバリンA(Concanavalin A)(Con A)に対して測定された(Pharmacia,Piscataway,NJ)。培地(40ml) を、0.4mlのセファロース−レクチン(Sepharose-lectin)とともに室温で2時間 ゆっくりとかき混ぜた。つぎに、ビーズを、10mMトリス,pH7.5、15 0mMNaCl及び3mlの同じ緩衝液とともに放出された吸着物質(室温、4 5分間かき混ぜ)でバッチで荒く洗浄した。吸着物質の緩衝液にはそれぞれ、0 .25M N−アセチルグルコサミン(N acetyl-glucosamine)(WGA)、20 mMa−メチルガラクトピラノシド(a-metyl-galactopyranoside)(B.Simp lificifolia)、0.5M a−メチルマンノシド(a-methy-mannosi de)(Con A)を補った。物質(3ml)は、テキストに示すように希釈してニト ロセ ルロース膜(Schleicher and Schuell,Keene,NH)に滴下した。膜は、エアード ライの後、50mMトリス緩衝液,pH7.5及び5.0%スキムミルクパウダ ーを含む150mM NaCl(TBS)中で培養し(45分)、すすぎ、mA b A10(1:1000)及び0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)を含む TBS中で培養した(37℃、2時間)。膜をすすぎ、アルカリホスファターゼ 結合ヤギ抗マウス免疫グロブリンG及び先に述べたようにして(34)発生させたシ グナルとともに培養した(室温、1時間)。TSHRエクトドメイン変異体のイムノブロット: レクチン結合TSHR−26 1、TSHR−289及びTSHR−309を溶出し(上記)、0.7M(最終 濃度)のβ−メルカプトエタノール(β-mercaptoethanol)を含むLaemmliサンプ ル緩衝液(38)を加えた(45℃、30分)。N−グリコシダーゼF(N-glycosida se F)及びエンドグリコシダーゼH(endoglycosidase H)を用いた酵素的脱グリコ シル化は先に述べたとおりである(34)。SDS、10%ポリアクリルアミドゲル 上での電気泳動の後、蛋白は電気泳動的にPVDF膜に移された。つぎにこの蛋 白を、mAb A10中での培養が一晩かけたものである点と2番目の抗体を1 〜2時間かけて加える点を除いては、先に述べたのと同様にして加工した。いく つかの実験では(例えばFig.22)、イムノブロットは、BioMax-CDS-PROキット(E astman Kodak,Rochester,NY)を用いて製造者のプロトコルに従い行った。オー トラジオグラフィーにはHyperfilm ECL(Amersham,Arlington Heights,IL)を用い た。TSHR−261の部分的精製: 10%ウシ胎児血清、抗生物質及び5mM酪酸 ナトリウムを含む非選択的F12培地中で培養したTSHR−261を発現する CHO細胞から、調整された培地を得た(39)。培地(2リットル)を、70mlコン カナバリンAセファロースカラムに適用した。10mMトリス,pH7.5,1 50mM NaClで洗浄の後、結合した物質を、同じ緩衝液で、〜80mlの 0.15M a−メチルマンノシド(a-methyl-mannoside)とともに溶出させた。 溶出させた物質を50mMイミダゾール,pH7.2に混ぜ、2つの5ml Hi s-Trapカラムに連続して適用した(Pharmacia)。溶出には、10mMトリス,p H7.4、50mM NaCl及び100mM EDTAを含む緩衝液を用いた 。Centriprep30(Amicon,Beverly,MA)を使用して、サンプルを濃縮し、緩衝液を 10 mMトリス,pH7.5、50mM NaClに交換した。すべての段階で、T SHR−261の回収は、バイオアッセイ(TBI中和;上記参照)によりモニ ターした。PVDF膜から取り出した、脱グリコシル化したTSHR−261の N末端アミノ酸配列は、デーヴィス(Davis)にあるカルフォルニア大学の蛋白構 造研究所(Protein Structure Laboratory)によって決定された。結果 開裂TSHRエクトドメイン変異体の分泌: CHO−DG44細胞を、アミノ酸 残基261、289又は309で開裂されたTSHRエクトドメイン変異体をコ ードするプラスミドで安定にトランスフエクトした(Fig.17)。個々のクローンは 、希釈溶液を限定することにより得られ、また、トランスゲノム増幅は、メトト レキサート(最終濃度10mM)中の成長に対する段階的馴化(progressive ada ptation)によって実現された。高度のTSHR発現のために選択された、それぞ れ1つのTSHRエクトドメイン変異体のクローンを発展させ、さらなる研究に 利用した。 一晩追跡した後の免疫沈降によって検知されたように、かなりの程度C末端を 切除されたエクトドメイン変異体(TSHR−261)は、完全に培地中に分泌 され、細胞中にはレセプターは残っていなかった(Fig.18)。切除の程度の低いT SHR−289は、中間程度分泌された。細胞中に残ったレセプターは、多様な 形態で存在し、その主要なバンドは分泌された形態よりも低い分子量を有してい た。最後に、切除の最も少ないエクトドメインのTSHR−309については、 培地中への分泌は比較的不十分なものであった。すなわち、分泌されたレセプタ ーは、細胞中に残存したレセプターよりも比例的に少なく、後者は主に低い分子 量の形態であった。エクトドメイン変異体のC末端における6つのヒスチジン残 基の発現は、培養培地中に分泌された前駆体標識物質のニッケル−NTA樹脂精 製によって確認された(Fig.18)。これに対して、TSHR変異体は、細胞中で明 白には同定され得なかったが、これはニッケル−NTA樹脂が標識された細胞内 蛋白の大部分と結合したからであった(データは示されていない)。TSHRとグレーヴズ病患者の血清中の自己抗体との相互作用 :我々がTSHR エクトドメインの分泌された形態を生産する主要な目的は、グレーヴズ病患者の 血清中のTSHR自己抗体を用いた研究に適した物質を得ることであったため、 分泌されたTSHRエクトドメイン変異体を、この特性のために試験することが 重要であった。我々は、TSH結合阻害(TBI)アッセイを用いて、TSHR −261、TSHR−289及びTSHR−309を発現する培養された細胞由 来の調整された培地が、グレーヴズ病患者の血清中の自己抗体活性を中和するこ とができるかどうかを試験した。これらのうち、TSHR自己抗体による125I −TSH結合の阻害を転換するという点からは、TSHR−261及びTSHR −289は明らかに活性であった(Fig.19)。TSHRエクトドメイン変異体のレクチンへの吸着 :Ni−NTA樹脂は、CH O細胞によって組織培養培地中に分泌された、放射性標識されたTSHRの精製 には効果的であったが、この方法では、培地由来の未標識のTSHR蛋白の精製 を行うことはできなかった。Ni−NTAは、イミダゾールとの非特異的な相互 作用やより低いpHでの吸着を最小化しようという試みにもかかわらず、多くの 未標識蛋白に結合した(データは示さず)。このため我々は、レクチンを用いて 、調整された培地由来のTSHRエクトドメイン変異体の部分的な精製を試みた 。調整された培地中のTSHR−261は、小麦胚凝集素(wheat germ agglutin in)及びBandeiraea simplicifoliaにはわずかしか結合しなかった(Fig.20)。こ の物質のほとんどすべては、“フロー−スルー”(flow−through)にとどまり、 最小量のみが、特定の糖を用いた溶出によって回収された。対照的に、コンカナ バリンA(Con A)は、TSHR−261の培地からの抽出に効果的であった。 TSHR自己抗体とは相互作用しない、分泌されない全長TSHRエクトドメ インは、未成熟の多価マンノース炭水化物を含み、Con Aに強く結合したため(34 )、我々は、Con AがTSHR−261の不活性な高マンノース成分(おそらくは 、崩壊した細胞から放出されたものであろう)を抽出していたことを心配した。 幸いなことに、そうではなかった。すなわち、Con Aによって富裕化された(enri ched)TSHR−261は、調整された培地からmAb A10を用いて免疫沈 降された物質のように(Fig.18)、分泌されたレセプターがエンドグリコシダーゼ H抵抗性であり、エンドグリコシダーゼF感受性である(複合炭水化物)である こと を示した(Fig.21)。確かに、このパターンは、調整された培地から小麦胚凝集素 を用いて回収できた少量のTSHR−261と同じであった(Fig.21)。最も重要 なことに、Con-Aによって富裕化された物質は、患者の血清中での自己抗体TB I活性を中和することに関し、高度に活性であった(これらの実験についてのデ ータは示さず;多様なグレーヴズ血清を用いたより広範な研究におけるTBI活 性に関する以下のデータ参照;Fig.24)。 TSHR−261に加えて、TSHR−289及びTSHR−309も、Con Aを用いて培地から抽出された。イムノブロット(immunoblotting)から、TSH R−261と同様に、TSHR−289及びTSHR−309が成熟した複合炭 水化物だけを含むことが示された(Fig.22)。注目すべきことに、TSHR−26 1は、全体の40%が〜20kDaのN−結合によりグリコシル化したものであった 。脱グリコシル化した蛋白(TSHR−261、TSHR−289、TSHR− 309のそれぞれについて、〜30、32、34kDa)の見掛けの分子量は、そ れらの公知のアミノ酸配列(6Hタグを含む)から予想されるよりも、わずかに (-2kDa)大きかった。同様の現象が、先に、脱グリコシル化したTSHRエクト ドメイン(1-418残基)を用いて観察された(34)。部分的に精製されたTSHR−261による自己抗体の中和 :先行する研究から 、免疫沈降、イムノブロットにより、又は自己抗体中和により、分泌されたTS HR変異体が、定性的に検知されていた。しかし、患者の血清中でTSHR自己 抗体と相互作用するレセプターの量を、定量的に決定することが重要であった。 この目的のために使用できるTSHR標準品は無かった。確かに、哺乳動物細胞 由来のTSHRは、ポリアクリルアミドゲル上での直接的な視覚化のために十分 には生成されていなかった。我々は、さらなる研究のためにTSHR−261を 選んだ。これは、3つのエクトドメイン変異体の中で、TSHR−261の分泌 が最大であり(Fig.18)、また、自己抗体認識という点からのTSHR−261の “生物活性”(bioactivity)はTSHR−289のそれと等しいように見えたか らである(Fig.19)。 自己抗体の中和によりモニターされたように、Con Aクロマトグラフィーは、 〜100倍の第一の精製を与えた。つぎに、またその第一の捕集ステム(capture s tem)としての使用の場合とは異なり、Ni−キレートクロマトグラフィーは、ク マシーブルー染色による直接的な視覚化及び定量化のために充分なTSHR−2 61を産生するのにかなり効果的であった(Fig.23,左欄)。酵素的な脱グリコ シル化は、-20kDaの複合炭水化物を伴う-30kDaのポリペプチド主鎖という、イム ノブロットの証拠を確認し(Fig.23,右欄)、また、回収されたレセプターの量 を定量化するための最もよい手段を提供する。調整された培地2リットルからの 、3つの別々の調製では、TSHR−261の回収(40%グルカンに対する修 正)は、0.3-0.4mg/リットル(liter)であった。30kDaの脱グリコシル化バンドのアミ ノ酸シーケンシングによって、TSHRのアミノ末端(Met,Gly,X,Ser,Ser,Pro, Pro;XはCys残基を表す)が確認された。TSHR−261のさらなる精製(Se phacryl S−200)は、活性の多大な喪失を伴う(データは示さず) 。しかしながら、半精製TSHR−261(推定20-40%の純度)は、-80℃にお いてかなり安定であった。 一部精製されたTSHR−261は、患者の血清中におけるTSHR自己抗体 TBI活性を中和する高い能力を有する。中程度のTSH結合阻害(TBI)活 性を有するグレーヴズ病患者由来の血清についての予備的な研究では、チューブ (0.15mg/ml)当たり30ngのTSHR−261が自己抗体活性を完全に中和した(Fig .24)。したがって、我々は、さらなる血清の研究ではチューブ(0.25mg/ml)当た り50ngのTSHR−261を使用した。この濃度のTSHR−261は、試験し た18のグレーヴズ血清中で、TSH結合阻害活性のすべて若しくはほとんどを 中和した(Fig.25)。IgG(150kDa)が二価であり、アッセイに加えたTSHR−2 61分子の100%が自己抗体中和の能力があるという仮定に基づく、我々の有す る最も有力なグレーヴズ血清に関する研究で、我々は、この特定の血清中のTS HR自己抗体の最大濃度を-7mg IgG/mlと見積もる。TBI及びフローサイトメ トリーのデータからは(40)、大部分のグレーヴズ血清は、この有力な血清よりも 10-50倍低い自己抗体レベルを有している。そこで我々は、TSHR自己抗体濃 度は典型的には0.1-1mg IgG/mlであると見積もる。この値は、過大評価となりが ちである。これは、アッセイにおいて100%の抗原結合は達成しにくいものだか らであり、また、TBIアッセイの温度である室温における適当なTSHR−2 61の不安定 性によるものである。最後に、TSHR−261は、TSHR自己抗原により明 らかに認識されたが、それをTBIキットのブタホロレセプター(porcine holor eceptor)の代わりとした場合には、125I−TSHには結合しなかった(データ は示さず)。検 討 治療法の発達及びグレーヴズ病の潜在的な(potential)免疫療法は、比較的大 量の免疫活性な組換え抗原の利用性にかかっている。グレーヴズ血清と、バクテ リア、昆虫細胞又は無細胞翻訳による産生又は合成ペプチドとしてのTSHR物 質との相互作用について多くの研究がなされてきた(イントロダクション参照) 。これらの研究のほとんどは、イムノブロット、免疫沈降又はELISAによる 組換え物質の探知を含んでいたが、これらの手段は、この物質が機能的な自己抗 体と相互作用する能力を評価することはできないものである。少量の“機能的な ”TSHRエクトドメイン物質が、TSHR cDNAを含む組換えバキュロウ イルスに感染した昆虫細胞中(15)及び安定にトランスフェクトされたCHO細胞 中(33,34)に存在する。ごく最近になって、バキュロウイルス系で産生されたT SHRエクトドメインが、グレーヴズ病患者の血清中でTSH結合阻害(TBI )活性を中和することができることが確認された(16)。しかしながら、この物質 は大部分が不溶性であり、活性成分は同定されず、またその炭水化物(複合対多 価マンノース)は決定されなかった。 我々の経験では、哺乳動物細胞由来の組換えTSHRが、自己抗体との相互作 用において最も効果的である。この結論に対する最も強力な証明は、いまだに天 然のブタ甲状腺抽出物が標準的な臨床のTBIアッセイにおいて使用されている ということである。CHO細胞におけるTSHホロレセプター(holoreceptor)の 過剰発現(32)は天然の洗浄剤抽出物を産生し、これはブタ甲状腺抽出物(41)の効 能と匹敵するか又はこれを超えるものである。しかしながら、この膜を伴う物質 は、構造研究における大規模な精製には使用できず、また、将来のTSHR自己 抗体の直接的(間接的なTBIに対して)なアッセイに使用するのは困難であろ う。 現在我々は、哺乳動物細胞中で、分泌された可溶性の複合炭水化物を含む形態 のTSHRエクトドメインを産生することがこれまでできなかったという問題(3 3,34)を克服した。分泌されない、高マンノースを含んだエクトドメイン(34)と は異なり、C末端が切除されたTSHRエクトドメイン変異体は、自己抗体によ って認識される。複合炭水化物がTSHR自己抗体のエピトープの一部から構成 されているのかどうか、“高マンノース”(high mannose)エクトドメインの自己 抗体認識の欠如が不正確なポリペプチドの折りたたみ(polypeptide folding)( 及び、これによるエンドプラズム・レチキュラム(endoplasmic reticulum))(42 ,43)にとって二次的なものであるかどうかについては現在のところまだ分かって いない。TSHR変異体と類似した位置(アミノ酸残基294)における、LH /CGレセプターエクトドメインのC末端切除が、分泌されない蛋白を産生する ことは興味深いことである(又、矛盾したものである)(44)。一方、残基329 又はそれよりも下流で切除されたLH/CGレセプターは、限られた程度分泌さ れた(45,46)。交互にスプライスされた切除型のTSHR mRNAが甲状腺組 織で検知されているが(47,48)、これらの転写が実際に発現されるかどうか、ま た、もしそうであるとすれば甲状腺細胞(thyrocytes)によって分泌されるかどう かについては分かっていない。 TSHR−261のレクチン特異性は、洗浄剤で可溶化された甲状腺膜からの TSHホロレセプター活性の抽出についての先のデータと部分的に合致する。こ の先行する研究において、B.SimplificifoliaはウシTSHRには効果的であっ たが、ヒトTSHRにはそうではなかった(49)。ヒトTSHRエクトドメイン変 異体とは異なり、ウシTSHホロレセプターは、小麦胚凝集素(Wheat germ aggl utinin)によってもよく結合され、また、コンカナバリンAによって不可逆的に 結合された(49)。TSHR−261の精製にとって、それ自身によるレクチン・ クロマトグラフィーは充分なものではなかった。将来は、mAbを用いた一段階 アフィニティー・クロマトグラフィーが好ましい方法となるであろう。今のとこ ろは、ネズミIgGクラスmAbが、原核生物若しくは昆虫細胞由来のTSHR による免疫処置によって産生された(7,37,50,51)。残念なことに、たいていのm Ab(我々が2つの異なる研究室で試みた6つを含む)(7,37)は、グレーヴズ病 の免 疫学的研究にとって必要な自然発生の(native)、成熟した哺乳動物TSHRを認 識しない。将来の、複合炭水化物を含むTSHR−261による、又はMHCク ラスII分子(52)を伴うTSHRを発現する哺乳動物細胞による免疫処置は、この 問題を克服するかもしれない。 TSHR−289がTHSR−261の利点の多くを共有すること、及び、室 温の下数時間で活性を喪失するTSHR−261にくらべてより安定であり得る ことが、いま現在測定されている。このように、本発明においてはTSHR−2 89は好ましいものであり得る。但しTSHR−261は、いくらかはより効果 的に分泌される。261〜309における他の切除もまた、本発明の範囲に含ま れ、それらは、本発明の教示するところを読み、理解した当業者により不当な実 験を強いることなく利用され得る。 TSHR−261の自己抗体反応性により、30年近く前の観察が思い出され る。すなわち、凍結し、解凍した甲状腺組織が、TSHR自己抗体を中和する、 水に可溶な因子(LATS吸収活性;LAA)を放出するというものである(53, 54)。LAAは(TSHR−261と同様)、-50kDaと見積もられた(54)。より 最近になって、トリプシンにより放出されたTSHRのフラグメントが、TSH R自己抗体を中和するのが観察された(55)。しかしながら、凍結−解凍(freeze- thawing)又はトリプシンのいずれによっても、生産されたLAA活性を伴うTS HRのセグメントは分かっていない。 特定量の哺乳類抗原を使用する、グレーヴズ病患者の血清中のTSHR自己抗 体の定量的中和についての先行する研究は存在しない。自己抗体中和に必要とさ れる非常に少量(ng)のTSHR−261は、合成ペプチドでの研究で使用される よりも数桁低いものである。この定量上の情報は、バクテリア及び昆虫起原の精 製されたTSHRの能力を判定するための将来の尺度として有用となるであろう 。TSHR自己抗体中和に必要な抗原の量が微量であることの結果として、従前 のフロー・サイトメトリーデータに一致して(40)、患者の血清中の自己抗体濃度 は、きわめて低い。TSHRと甲状腺パーオキシダーゼ自己抗体の濃度における 大きな差異は、グレーヴズ病の病因を理解する上で有意なものである(56)。 TSHRエクトドメイン変異体TSHR−261は、その自己抗体中和活性能 力にもかかわらず、TSHに結合しない。TSHR上のTSH結合部位は不連続 であり、残基261の下流のセグメントを含めて(26,57)、全エクトドメインに 及ぶ複数のセグメントを含む。したがって、TSHR抗体エピトープは、TSH 結合部位よりもさらに限定されている。この見解に対する支持は、全TSHRエ クトドメインに対するTSHの結合は無視できるかまたは存在しないという、全 部ではないが(58,59)、殆どの(9,15,33,34)実験室からのデータによって与えら れている。驚くべきことに、TSHとは対照的に、hCGは、同族受容体のエク トドメインが炭水化物を欠く場合においても、その単離された同族受容体のエク トドメインに高い親和性で結合する(60で再検討された)。このように密接に関 連した受容体間の大きな差異に対する理由は不明である。TSHR−261によ る今回のデータはまた、キメラTSH−LH/CG受容体を使用して得られた、 自己抗体に対するエピトープもまた不連続であり、残基261の下流に延びる(2 6)という従来の証拠と調和させねばならない。このパラドックスに対する1つの 可能な説明は、TSHR−261は、グレーヴズ病患者の血清中の殆どのTSH R反応性を中和するのに充分な、不連続なエピトープの支配的部位を含むという ものである。 要約すると、カルボキシ末端の段階的切断は、CHO細胞による成熟、複合炭 水化物により修飾されたTSHRエクトドメインの分泌を導く。最も重要なこと は、TSHR−261はTSHR自己抗体と高度に相互作用する潜在能力がある ことである。抗原的に活性なTSHRは、グレーヴズ病の診断、病因及び免疫治 療についての将来の研究に大きな刺激を与えるであろう。 実施例5:血清中の甲状腺刺激ホルモンレセプター自己抗体は甲状腺ペルオキシ ダーゼ自己抗体よりもずっと低いレベルで存在する:フローサイトメトリーによ る分析 本実施例は、自己免疫性甲状腺疾患患者の血清中のTSHR自己抗体はTPO 自己抗体よりもずっと低いレベルで存在するという見解に対する最強の支持とな るデータを提供する。この発見は、TSHR自己抗体の診断検定とグレーヴズ病 の病因を理解する上で、重要な意味を持つ。前置き 現在では、グレーヴズ病患者の血清中の甲状腺刺激ホルモンレセプター(TS HR)に対する自己抗体は、間接的な手法、即ちそれらが放射性標識したTSH 結合を阻害する能力により、最も有効に検定される(1)。長年にわたって、T SHR自己抗体のその抗原に対する結合を直接検定する研究は困難を伴うもので あった。例えば、患者の血清を伴う甲状腺組織や細胞抽出物のイムノブロット法 や免疫沈殿法は(2、3)、現在知られているTSHRの構造と一致する抗原を 明らかにはしていない。単層培養における甲状腺細胞を用いた間接免疫蛍光検査 がわずか2種の高度に選択された血清について観察された(4)。組換えTSH R調製物を使用しても、血清自己免疫抗体とTSHR間の直接の相互作用を立証 することは困難であった。したがって、抗原(5〜7)は抗体(8)のいずれか を事前精製するか、又は細胞を含まない翻訳物の使用(9)が必要であった。こ の自己抗体での困難性は、免疫化した動物由来の抗体、特にモノクローナル抗体 (10〜13)による優れたTSHRの認識と対照をなす。 i)低いTSHR濃度、ii)抗原の立体配座上の完全性に対する要求、iii) ヒト血清中のポリクローナル抗体で観察される高いバックグランド、及びiv)低 い自己抗体力価を含む、数多くの因子が直接的手段によってTSHR自己抗体結 合を検定する際の困難性に寄与しているのであろう。甲状腺ペルオキシダーゼに 対する自己免疫は非常に高い濃度で存在し得る(14)。初期の研究は、TSH R自己抗体が血清中で非常に高い濃度(全IgGの2〜3%)で存在することを 示唆した。最近では、グレーヴズ病患者におけるTSHR自己抗体特異性B細胞 の少なさに一致して(16)、免疫蛍光データはTSHR自己抗体濃度が低いも のであろうことを示唆する(4、17)。TPOとTSHR自己抗体を検出する 異なるアッセイ法の使用は、同じ血清におけるそれらの濃度の直接の比較を妨げ てきた。 本研究において、我々はこれらの障害のうちの2つ、即ちTSHR濃度と構造 上の完全性を克服する、新規なTSHR発現哺乳類セルラインを使用した。即ち 、TSHR−10,000チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞は、生体 内でその表面で多数の成熟TSHRを発現する(18)。これらの細胞を使用し て、我々は今回、フローサイトメトリー法により、少数の患者の血清中の自己抗 体の天然型TSHRへの結合を直接検出する能力について報告する。しかしなが ら、同じ血清中の甲状腺ペルオキシダーセ(TPO)自己抗体のフローサイトメ トリー分析は、TSHR自己抗体がTPO自己抗体よりもずっと低い濃度で存在 することを示す。この発見は、TSHR自己抗体の診断検定とグレーヴズ病の病 因を理解する上で、重要な意味を持つ。方 法 フローサイトメトリーに使用された血清:ボストンのニューイングランド メ ディカル センター ホスピタルのステファニー、リー博士により提供されたB B1血清は、遮断抗体の発達に伴って甲状腺機能が低下したグレーヴズ病患者由 来のものであった。カリフォルニア州サン ジュアン カピストラノのコーニン グ・ニコルス インスティテュートのジュアン、テルセロ氏から我々に30個の 血清が提供された。これらの血清は、グレーヴズ病の疑いのもとに、臨床上の情 報なしにTSHRに対する自己抗体のアッセイに供された。30個の血清中10 個がTSHR自己抗体不存在として選択され、10個が中程度のTSHR結合阻 害(TBI)活性存在として、そしてさらに10個が高い(>50%)TBI活 性として選択された。4人の実験室の人間が明らかに自己免疫性の甲状腺疾患を 持たない人間由来の血清供給源となり、そして4個の血清は抗DNA及び/又は 抗カルジオリピン抗体を有する全身性エリテマトーデス患者由来のものであった 。 全ての血清は、我々の実験室で商業的に入手可能な試薬キット(Kronus 、サンクレメンテ、カリフォルニア)を使用してTBI活性を試験された。コー ニ ング・ニコルスから得られた30個の血清は同じアッセイ法によりあらかじめ試 験され、非常に近い結果が得られた。選択された血清のTSHR自己抗体力価は 、自己免疫性甲状腺疾患歴を持たず検出不能なTSHR自己抗体活性を有する正 常人由来の血清で、これらの血清を希釈することによって測定された。血清は12 5 I−TPO(組換え)を使用して、以前に述べたようにして(19)、TPO 自己抗体についても試験された。 TPO及びTSHR細胞発現:ヒトTSHR及びTPOの過剰発現のためのプ ラスミドの構築とチャイニーズハムスター卵巣(CHO)の安定なトランフェク ションは他所で記述されている(18、20)。これらの細胞は、トランスフェ クトされていないCHO細胞(DG44:カリフォルニア州パロ アルトのスタ ンフォード大学ロバート、シムケ博士から提供された)とともに、10%牛胎児 血清、ペニシリン(100U/ml)、ゲンタマイシン(50μg/ml)及び アムホテリシンB(2.5μg/ml)を補充したハム(Ham)のF−12培 地中で増殖された。 フローサイトメトリー分析(FACS):患者の血清を分析するために、細胞 は、改変を加えて、患者の血清とヒトモノクローナル抗体を使用しCHO細胞に おけるTPO発現で以前に記述したように(21、22)、処理された。簡単に 述べると、温和なトリプシン化による分離後に、細胞はペレット化され、上記の ように牛胎児血清と抗生物質で透析されたハムのF−12培地中に浸された(5 分間、100×g)。予備吸着のために、トランスファクトされていないCHO 細胞は0.18mlの緩衝液A(リン酸塩緩衝液、10mM Hepes、pH 7.4、0.05%ナトリウムアジド及び56℃で30分間熱不活性化した2% 牛胎児血清)に再懸濁された。血清(20μl)を添加し(最終濃度1:10、 又はテキスト中に規定したように)、緩やかに4℃で60分間混合した。遠心分 離により細胞を除去した後に、血清は2個の0.1mlの画分に分けられた。1 つの画分は、TSHR又はTPOのいずれかを発現するCHO細胞に添加され、 他の画分はトランスフェクトされていないCHO細胞に添加された。4℃で60 分間培養した後に、細胞は緩衝液A中に3回浸され、同じ緩衝液0.1ml中に 再懸濁された。アフィニティ精製したヤギ抗ヒトIgG(1.5μl)(Fc特 異性、フルオレスセイン イソチオシアネート結合体;Caltag、南サンフ ランシスコ、カリフォルニア)が4℃で45分間で細胞に添加された。緩衝液A で3回洗浄後、細胞はベクトン ディッキンソン製FACScan−CELLQ uestシステムを使用して分析された。3種のパラメーター(前方スキャッタ ー(scatter)、FSC、90°サイドスキャッター、SSC、及びFL 1ディテクター)が分析に使用された。全アッセイは第2の抗体のみと正常人由 来の血清で処理された細胞を含んでいた。全ての血清はフローサイトメトリーに より少なくとも2回分析された。 TSHRに対するマウスモノクローナル抗体(A9及びA10)(1:100 最終濃度)(13)及びウサギ抗血清(1:60最終濃度)(R8)(23)( 全て英国ロンドンのポール、バンガ博士の提供による)を使用したTSHR−1 0,000細胞上でのTSHRの検出は、ヒト血清に対して記載されたプロトコ ールに従ったが、例外として次の第2の抗体を使用した:i)アフィニティ精製 ヤギ抗マウスIgG(0.8μl)(フルオレスセイン イソチオシアネート結 合体)及びii)アフィニティ精製ヤギ抗ウサギIgG(0.5μl)(フルオ レスセイン イソチオシアネート結合体)、両者ともカリフォルニア、南サンフ ランシスコのCaltag製。結 果 TSHR発現CHO細胞のフローサイトメトリー分析:我々は以前には、グレ ーヴズ血清を使用してCHO細胞の表面上で安定に発現されたTSHRを検出す ることはできなかった。しかしながら、最近次の2つの試薬が入手可能となった 。即ち、非常に多数のTSHR(2×106に近い)をその表面で発現するCH O細胞と、間接TSH結合阻害(TBI)アッセイに特に効力のあるグレーヴズ 血清(BBI)である。この血清を使用して、ごく少量の特異的シグナル(トラ ンスフェクトされていない細胞のコントロールに関連)が、我々の細胞あたり〜 16,000TSHRを発現するオリジナルライン(24)によって検出された (図26A)。同じ血清を使用して、より強いシグナルが細胞あたり〜150, 000TSHRを発現するラインによって観察された(TSHR−0:以前5’ 3’TR−ECEと命名)(25)(図26B)。段階的に増大する特異的な蛍 光は、それぞれ細胞あたり〜106及び1.9×106のレセプターを発現するT SHR−800及びTSHR−10,000細胞で明らかであった(18)(図 26C及び26D)。以前は放射性標識されたTSH結合及びTSH−伝達シグ ナル導入によって決定された(18、24、25)、トランスフェクトされたC HO細胞の表面でのTSHR抗原の発現は、TSHRに対するウサギポリクロー ナル抗血清(R8)を使用することによって確認された(図27C)。ネズミの モノクローナル抗体(A9及びA10)(13)は、細胞表面上の天然型TSH Rの認識にはより効果が小さいものであった(図27A、27B)。したがって 、TSHR−10,000細胞が、以後の天然型抗原への直接結合により他の患 者の血清中のTSHR自己抗体の検出のための試験に使用された。 異なる血清中でのTSHR自己抗体を検出するためのTSHR−10,000 細胞の使用 :予備実験において、我々はいくつかの血清がTSHR自己抗体を含 むか否かにかかわらず、TSHR−10,000細胞によるフローサイトメトリ ーで高い蛍光を発するのを観察した。我々は、これらの血清をTSHRを発現し ないトランスフェクトされていないCHO細胞で培養した時に、同様の高い蛍光 を観察した(データは開示せず)。したがって、いくつかの血清はCHO細胞の 表面における未知の抗原に対する抗体を含んでいた。このために、我々は、予備 吸着工程を設定し、TSHR−10,000細胞に添加する前に、血清をトラン スフェクトされていないCHO細胞で予備培養した。予備吸着は、この非特異性 バックグラウンドを除去するかまたは大幅に減少させるのに有効であった。例え ば、予備吸着なしでは、高TBI値(81.7%)を有する血清(7H)は、T SHR自己抗体を有さない血清のシグナルに関連するTSHR−10,000細 胞における強いシグナルを誘発した。しかしながら、予備吸着後には、この表面 的には陽性の血清における活性は、明らかに非特異性のものであった(図28B )。対照的に、BB1のような血清では(上記参照)、予備吸着は現実にシグナ ルの特異性を高めた(図28C及び28D)。 我々は、トランスフェクトされていないCHO細胞上で予備吸着した後に、T SH−10,000細胞と39個の血清のトランスフェクトされていないCHO 細胞の相互作用を検討した(表1)。血清BB1に加えて、このパネルは、TB I活性を有さない(1〜4.2%阻害)10個の血清(1L〜10L);中程度 のTBI値を有する(17.3〜39.4%阻害)10個の血清(1M〜10M );高いTBIレベルを有する(52〜95.1%阻害)10個の血清(1H〜 10H);自己免疫性甲状腺疾患を有さない4人の正常人及び抗DNA及び/又 は抗カルジオリピン抗体を有する4人の全身性エリテマトーデス患者を含んでい た。正常人、陰性TBI値を有する人又は全身性自己免疫性患者由来の血清はい ずれもフローサイトメトリーで陽性のシグナルを生じなかった。驚いたことに、 BB1(非常に高いTBI活性として選択された)を含めてTBI陽性の21個 の血清のうち4個のみが(10M、3H及び10H)、多数のレセプターを発現 する細胞を使用したフローサイトメトリーで、明白にTSHRを認識した(表1 )。 血清BB1、10M、3H及び10Hで観察されたTSHR−10,000細 胞上でのFACSシグナルの特異性は、トランスフェクトされていない細胞にお けるよりも、TSHR−10,000細胞における予備吸着に続く信号のバック グラウンドへの返信により明らかであった(図29)。 フローサイトメトリーにおいてTSHRに対して陽性の4個の血清中のTSH R自己抗体力価は、TBIアッセイにより測定された(表2)。これらの細胞の 希釈は、BB1及び10Hは、フローサイトメトリーにおいてそれらの強い蛍光 シグナルと一致する、同様の高いTSHR自己抗体力価を有することを示した。 血清3Hの低いTBI力価は、又その相対的に低い蛍光シグナルと一致した。驚 くべきことに、最も低いTSHR自己抗体力価を有する血清10Mは、この血清 中にTSH結合を阻害しないTSHRに対する「中性の」自己抗体の存在の可能 性を示す、フローサイトメトリーにおける強いシグナルを発生した。 フローサイトメトリーにより検出されたTPO自己抗体:フローサイトメトリ ーによりTSHRを明白に認識することのできる血清の数が少ないことに鑑み、 我々はその表面でTPOを過剰発現するCHO細胞を使用する同じ手法によって 、同じ血清中のTPO自己抗体について検討した(20)。TPO自己抗体は、 一般にTSHR自己抗体と共存する。実際、20個のTBI陽性血清(1−10 M及び1−10H)のうち、19個が、正常人の血清中で検出された上限(2. 6%結合)をはるかに上回り、13%を超えて125I−TPOに結合した(表1 )。さらに、この方法によれば、TBI陰性血清(7L及び10L)のうち2個 も、またTPO自己抗体陽性であった。驚くべきことに、検出可能なTPO自己 抗体を有する20個の血清全てが、CHO−TPO細胞によるフローサイトメト リーで明らかに陽性であった。フローサイトメトリーにより、より多くの血清が TSHRに対するよりもTPOに対して陽性であっただけではなく、正味の蛍光 (トランスフェクトされていない細胞による蛍光を減じた後)は、TSHR発現 細胞よりもTPO発現細胞ではるかに高かった(表1)。TSHR−10,00 0細胞のように、TPOを過剰発現する細胞(TPO−10,000)は、その 表面で〜2×106TPO分子を有する(未発表データ)。 我々は、フローサイトメトリーによって最高のTSHR自己抗体レベルを有す る血清(BB1)が、蛍光シグナルを失う前にどの程度まで希釈できるかを測定 するための検討を行った(図29)。正常人由来の血清も同様に希釈された(白 抜きのヒストグラム)。両方の血清が、試験された全ての希釈度において、TS HR−10,000細胞で培養する前に、トランスフェクトされていないCHO 細胞上で予備吸着された。BB1の蛍光シグナル(図30:左側のパネル、陰影 を付したヒストグラム)は、希釈するにつれて段階的に消失した。1:10では 、正味のシグナル(BB1−正常血清)は276.3蛍光ユニットであった。1 :1000では、BB1はごく微小なシグナル(正味の蛍光7.3ユニット)を 発した。同じ吸着された血清をTPO−10,000細胞で培養すると、正味の 蛍光は1240.9から243.6蛍光ユニットに減少した(図30:右側パネ ル、陰影を付したヒストグラム)。それぞれ、1:1000及び1:10に希釈 したときの、TPO自己抗体及びTSHR自己抗体に対する同様の蛍光(243 .6及び276.3ユニット)が明らかでった。したがって、フローサイトメト リーによれば、BB1血清中のTPO自己抗体の力価は、同じ血清中のTSHR 自己抗体力価よりも〜100倍高いものである。 多数の血清で、TSHR−10,000又は(共通性は少ない)TPO−10 ,000細胞による蛍光は、トランスフェクトされていない対照細胞によるもの よ りも低いものであり、負の「正味の」蛍光値(表1)となったことに留意すべき である。このいくつかの対照細胞での血清によって発せられる、より大きい蛍光 は、より厳しい吸着によっても除去できなかった(データは開示せず)。 検 討 最近ヒトTSHRを過剰発現するCHO細胞が入手可能となったこと(18) によって促進された、本研究は、TSHRに対するIgGクラスの自己抗体がフ ローサイトメトリーによって直接検出できることを証明する。しかしながら、フ ローサイトメトリーによる明白なシグナルは、その高いTSHR自己抗体活性に 基づいて選択された数個を含めて、21個のTBI陽性血清中の4個についての み得られた。実際、これらの血清中11個は高いTBIレベル(>50%阻害) を有していた。TSHR自己抗体とは対照的に、125I−TPO結合によって検 出されたTPO自己抗体を有する20個の血清全てが、TPO発現CHO細胞を 使用したフローサイトメトリーで強い陽性シグナルを与えた。 数系統の証拠は、TPO自己抗体と対比して、フローサイトメトリーによるT SHR自己抗体検出の低い頻度と幅の原因となる因子は、血清中でのTSHR自 己抗体のきわめて低い濃度であることを示唆する。第1に、天然型コンフォーメ ーションで非常に多数のTSHRを発現する細胞が入手可能となったことが、適 切な検出のためには抗原が不充分という制約を排除する。その結果、TSHR− 10,000細胞とTPO過剰発現CHOセルラインの両者が、それらの表面で 同様の数(〜2×106)の特異的抗原分子を有する。第2に、TSHR自己抗体 で観察される弱いシグナルは、抗原に対する弱い親和性によるものであるとする ことはできない。したがって、それらの親和性は直接測定されてはいないとして も、それらはTSHRに対するTHS結合の高い親和性(〜10-10M)と競合 し得るものである。TPO自己抗体は、それらの抗原に対するのと同様の親和性 を有することが知られている(26で概説)。最後に、TSHR自己抗体に対し て能力のある血清を1,000倍に希釈すると、フローサイトメトリーにおける そのシグナルは殆ど除去されるが、一方同じ希釈度で、この血清中のTPO自己 抗体は非常に強いシグナルを発し続けた。 いくつかの血清で観察された、TSHR−10,000細胞に対する「正味で 負の」蛍光についての理由は不明である。この現象についての1つの可能な説明 は、TSHRまたはTPO発現の高いレベルが、これらの血清により認識される CHO細胞中のもう1つの未知の抗原の発現を消失させるというものである(2 1)。この抗原の発現は、例えば、増幅過程で生産された多数のトランスゲノム コピーの1つによるその遺伝子の開裂によって、消失させられ得る。多分、TP O自己抗体陽性血清で観察される非常に高い蛍光が、負の正味の蛍光現象を隠す のであろう。 今回の発見は、TSHRcDNAを安定に発現するCHO細胞での間接的な免 疫蛍光によって、TSHR自己抗体を検出できないことに基づいた、我々の以前 の血清中の低いTSHR自己抗体レベルの仮説(17)を確認する。我々のデー タは、2つの例外的に能力のあるグレーヴズ血清のみによって培養された甲状腺 細胞での免疫蛍光シグナルの検出(4)と一致する。面白いことに、穏やかなT BI活性のみを有する血清(10M)中でのフローサイトメトリーによるTSH R自己抗体の検出は、TSH結合サイトへの自己抗体に加えて、いくつかのTS HR自己抗体がこの領域外のエピトープを認識するという見解に対する支持を与 える。 血清中のTSHR自己抗体の非常に低い濃度は、様々な意味を持つ。第1に、 我々の発見は、イムノ・ブロット法又は免疫沈殿法によって、グレーヴズ血清を 使用してTSHRを検出する際のこれまでの困難性を説明する。第2に、データ は、TPO及びサイログロブリン自己抗体に比較して、生体外で患者のリンパ球 によるTSHR自己抗体合成や分泌を検出する、より小さい能力(27、28) をも説明する。このTSHR特異性Bリンパ球及びプラズマ細胞の低い頻度は、 またIgGクラスのTSHRに対するヒト モノクローナル自己抗体を得る際の 大きな困難性にも寄与しているようである1(29で概説)。第3に、フローサ イトメトリーは、TSHR自己抗体を検出するために現在使用されている臨床ア ッセイの代替物として使用することはできない。第4に、より重要なことは、精 製された抗原を使用したとしても、臨床に関連するTSHR自己抗体の直接的な 結合アッセイを確立することは、困難なようである。 結論として、今回のデータは、自己免疫性甲状腺疾患患者の血清中のTSHR 自己抗体は、TPO自己抗体よりもずっと低いレベルで存在するという見解に対 する最強の支持を与える。この発見は、グレーヴズ病の病因を理解するための将 来の研究に重要な意味を持つ。したがって、以前に仮説したように(17)、血 清中のTSHR自己抗体の低い濃度は、長年にわたってしばしば存在したもので はあるが、それらが自己免疫性過程の初期段階で発生することを示唆する。この 見解に対する支持は、制限されたカッパー又はラムダ軽鎖の使用(30〜32) 、及び数人の患者におけるTSHR自己抗体のIgG1サブクラスに対する相対 的な制限(33)によって与えられる。 実施例6:レセプターサブユニット構造の進化上に分岐におけるN−結合グリコ シル化の意味 甲状腺刺激ホルモンレセプター(TSHR)及びルトロピン/絨毛膜(cho rionic)ゴナドトロピンレセプター(LH/CGR)は、糖蛋白ホルモン リガンドを有するG蛋白結合レセプターファミリーの密接に関連したメンバーで ある。TSHRとLH/CGRの両者は、ロイシンに富む繰返し単位を有する、 巨大で高度にグリコシル化されたエクトドメイン1(ectodomain)を 有し、多数のエクソンによってコードされる(1−3)。それらの共通の進化背 景にもかかわらず、それらのリガンドの特異性を別にしても、これらのレセプタ ーはいくつかの明白な差異を有する。例えば、TSHRに対する病因となる自己 抗体は一般的であるが、一方LH/CGRに対する自己抗体は極端に少ない。し たがって、自己抗体によるTSHRの嵌入は、ヒトにのみ影響を与える器官特異 性自己免疫性疾患である、グレーヴズ病における甲状腺中毒の直接の原因である 。他の驚くでき差異が構造レベルで存在する。完全な細胞表面へのTSHの架橋 によって検出されるように、機能性TSHRは2つの形態、1本鎖レセプター及 び2つのサブユニットを有するレセプターとして存在する(4、5)。対照的に 、LH/CGRは1本鎖形態でのみ存在する(6で概説)。TSHRの1本鎖と 2つのサブユニット形態の種々の割合が、哺乳類の細胞抽出物の免疫沈殿又はイ ムノ・ブロット法で観察された(7〜11)。2つのサブユニットTSHRは、 リ ガンド結合性のグリコシル化されたAサブユニットとジスルフィド結合により結 合した膜関連Bサブユニットを含む(12)。TSHRは単一のmRNA種によ ってコードされているので(13〜16)、A及びBサブユニットは基質メラト プロテアーセ(matrix mellatoprotease)を含むと信じ られるプロセスである、分子内開裂によって形成されるにちがいない。 最近の証拠は、TSHRのA及びBサブユニットへの開裂は、以前に考えられ ていたように単一の部位で生じるのではなく、現在知られている7個の膜にまた がるセグメントを有するG蛋白結合レセプターのファミリーメンバーに特有の性 状である、2つの部位で生じるという(18)、驚くべき可能性を提起した。 今回の研究で、我々は選択されたキメラTSH−LH/CGレセプターの変異 誘発を含むストラテジーを使用して、各推定上の開裂部位に関連したアミノ酸残 基を同定しようとした。この手法の基本は、A及びBサブユニットへの開裂は、 TSHRエクトドメイン(アミノ酸残基261−418;任意に名づけたドメイ ン「D及びE」)のカルボキシ末端部分がLH/CGレセプターの対応する領域 で置換されたキメラレセプター(TSH−LHR−6)では起こらない(19、 20)(図31)ということであった。一方、ドメインD又はドメインE(残基 261−360及び363−418;それぞれキメラレセプターTSH−LHR −4及びTSH−LHR−5)のいずれかが個別に置換されるときには、開裂は なお生じる。これらのデータは、他の情報(18)とともに、開裂部位1及び2 は、それぞれTSHRのドメインD及びEにあることを示唆した。 単一の開裂部位の突然変異による除去は、レセプター開裂を阻害するのに不充 分であるので、我々はTSH−LHR−5のバックグラウンドの推定上の部位1 の近辺の領域を変化させた(21)。逆に、我々はTSH−LHR−4のバック グラウンドの推定上の部位2の近辺の領域を変化させた(22)。この方法によ って、我々は、完全な安定にトランスフェクトされた細胞の単層への125I−T SH架橋によって決定されたように(23)、レセプターのサブユニットへの開 裂における各変異の構造上の有意性を決定することができた。変異誘発の一般原 理として、我々はTSHR残基を、非開裂性LH/CGレセプターの相同性の残 基で置換した。両レセプターに共通の残基は変えなかった。TSHRに特有でL H/CGレセプターでは欠けている50アミノ酸領域(14)(図31)の場合 には、相同性置換を行うことができなかったので、我々は殆どのケースでアラ二 ン残基を導入した。この50アミノ酸セグメント(残基317−366間にある と考えられる)は非常に親水性であり、野生型TSHRからリガンド結合性と機 能を失わずに(24)、そしてA及びBユニットへの開裂を妨げることなく ( 5)除去することができることは、注目すべきである。 脱グリコシル化TSHR Aサブユニットは〜35kDaの大きさであり(1 8、25)、開裂部位1をほぼアミノ酸残基335(21残基のシグナルペプチ ドを含めて番号付け)の位置に配置するであろう。これに基づいて、我々は当初 残基330〜338をアラニンスキャニング変異誘発のターゲットとした。これ らの個々の置換はいずれも、ジスルフィド結合還元におけるTSH−結合Aサブ ユニットの放出によって測定されるように(図32B)、キメラレセプターTS H−LHR−5の開裂を妨げなかった。以前の完全な細胞へのTSH架橋の研究 と一致して、細胞表面のTSHRのごく一部が、TSHとともに1本のポリペプ チド鎖TSHRにも結合する、2つのユニットに開裂することに留意せよ。1個 のアミノ酸残基では開裂部位をつぶすのに不充分であるという可能性があるので 、我々は次に残基324と352間の広い範囲にわたって複数置換を行ったが、 開裂を妨げることはなかった。最後に、我々はさらに離れた領域においても(残 基317−323)、計算上の開裂部位のかなり上流及びDドメインのカルボキ シ末端迄(残基353−362)、TSH−LHR−5を変異させたが、効果は なかった(図32B)。 推定上の開裂部位2を提供すると予測される近辺でのTSH−LHR−4変異 誘発は(図33A)、残基367−375(E1サブドメイン)がTSHRサブ ユニット形成に関連することを確認した(図33B)。E1領域を2つのセグメ ントに再分割することによって、次に残基367−371(Elaセグメント) がエクトドメイン開裂に関連することを確認した。引続いて行った残基367、 368、369及び371(残基370は保護されていた)位における個々のア ラニンの置換は、開裂を妨げず、この件には複数のアミノ酸が寄与するとを示唆 した。したがって、さらに開裂関連残基を明らかにするために、我々はElaセ グメント内でオーバーラップする2個の変異体、E1a1(GQE367-369NE T)及びE1a2(ELK369-371TY)(図33A)を作成した。前者におけ る開裂の阻害は、残基367−369が推定上の部位2における開裂に含まれる ことを確認した(図33B)。 単一のアミノ酸置換が推定上の部位2での開裂を妨げることができないこと、 及びこの開裂部位では複数のアミノ酸が含まれることは、予測される領域で21 個の変異させた新規レセプターを作成したにもかかわらず、我々が推定上の開裂 部位1の位置を決められなかったことに鑑み、有用なものである。部位1を特性 づけるのに必要となるであろう、さらなる順列組合わせの数の大きさを考慮する と、これ以上の変異誘発は躊躇される。さらに、次のような多くの可能性が存在 する:(i)開裂部位1はアミノ酸残基317の上流に位置しうる。しかしなが ら、この場合には、脱グリコシル化Aサブユニットは、複数の研究者によって観 察されたものよりも小さい(11、18、25)、33kDaまたはそれ以下の ものとなるであろう;(ii)部位1における開裂の特異性は「緩められた(re laxed)」ものである、及び(iii)我々が以前に得た強い支持根拠(18 )にもかかわらず、2つの開裂部位についての我々の仮説が誤りであった。 開裂部位が唯一であるという可能性を排除するために、我々は、TSH−LH R−4の開裂を妨げることが知られた、Elal変異(GQE367-369NET) を野生型TSHRに導入した。したがって、もしこのセグメントがTSHR開裂 に関連する唯一の部位であれば、それを野生型TSHRの導入することによって 開裂が妨げられるはずである。逆に、GQE367-369NET変異を含む野生型T SHRでなお開裂が生じるならば、TSHRエクトドメインには2つの開裂部位 があるにちがいない。この新しい構築物への125I−TSHの架橋は、明白に開 裂を示し(図34)、部位1の存在を証明した。総合すると、データは上流開裂 部位(部位1)に対するアミノ酸モチーフにおける緩められた特異性を示唆する 。 驚くべきことに、部位2で開裂を妨げる変異(GQE367-369NET)は、N −結合グリコシル化部位に対するコンセンサス配列を導入する。したがって、こ の近辺での炭水化物側鎖は、例えば蛋白質分解酵素の立体障害によっって、エク トドメイン開裂を阻害し得る。上記したように、TSHRにおける開裂部位2を 調査するために使用された変異誘発ストラテジーは、TSHR中に非開裂性LH /CGレセプターの対応セグメントを置換することを含んでいた。TSHR中で のGQE367-369NET置換は、LH/CGレセプター中でグリコシル化されて いるモチーフである(27)、LH/CGレセプターからのNET291-293を転 位するものである。TSH−LHR−4中でのGQE367-369NET置換の機能 上の有意性を測定するために、我々はこのキメラレセプター中にグリコシル化部 位にはなり得ないモチーフ(AAA)を導入した(図33A)。非開裂性レセプ ターとは対照的に、TSH−LHR−4−GQE367-369AAAは開裂した(図 33B)。 2つのサブユニットに開裂するレセプターへのTSHRの進化上の分岐は、ユ ニークで不思議なものである。トロンビンとは異なり(28)、TSHはそのレ セプターを開裂させない;TSHの不存在下に培養されたトランスフェクトされ た細胞中には2つのサブユニットTSHRが存在する。TSHはTSHRの開裂 及び非開裂体の両者に結合する。さらに、TSHの行動は、開裂したレセプター を必要としない(20、29)。1つの可能性は、TSHRレセプターの開裂は 、開裂部位1及び2間の小さなペプチドの放出を含み、病因となる自己抗体のき わめて一般的な発生に関連しているかもしれないG蛋白結合レセプターファミリ ーの他のメンバーでは、仮に存在するとしても、まれにみられる現象であるとい うものである。 要約すると、CHO細胞中で安定に発現された33の新規なTSHR変異体か ら得られたデータは、(i)TSHR中に2つの開裂部位が存在することを証明 する、(ii)TSHR中の3個のアミノ酸残基は、LH/CGレセプターの相同 性残基で置換されると、第2の下流開裂部位(部位2)における開裂を阻害する ことを確認する、そして(iii)この第2の部位における開裂又は非開裂N−結 合グリコシル化に関連することを明らかにする。我々の知識では、グリコシル化 の存在又は不存在が、2つの密接に関連したレセプターがサブユニット構造にお ける差異を有するものへと進化するための新しいメカニズムを提供する。その構 造特性についてのより大きな理解が、なぜTSHRがヒトの自己免疫性疾患にお ける重要な自己抗体であるかということをさらに理解するのにも寄与するであろ う。 21.レセプターの発現レベルを増加させるため、我々は、キメラレセプターTS H−LHR−5(19)の5’及び3’非翻訳領域を、そのAflII-SpeIフラグメント (ドメインD及びE)(Fig.31)をTSHR-5'3'TR-NEO-ECE(30)の対応するフラグメ ントに置換えることにより、切除した。キメラレセプタ−TSH-LHR-5のドメイン Dにおける変異は、重複プライマーとPfu DNAポリメラーゼ(Stratagene,San Di ego,CA)を用いたPCRによって発生された。PCRフラグメントのヌクレオチ ド配列は、ジデオキシヌクレオチド終止法(31)により確認された。プラスミドは 、リポフェクチン(Gibco-BRL,Galthersburg,MD)を用いて、10%ウシ胎児血清(F CS)と標準抗生物質を補ったハム(Ham)のF-12培地で培養されたチャイニーズハム スター卵巣(CHO)に、安定にトランスフェクトされた。選択には、400μg/ml G4 18(GIBCO)を用いた。生存クローン(100mm直径培養皿に対して>100)をプールし 、さらなる研究のために繁殖させた。 22.キメラレセプタ−TSH-LHR-4のドメインEにおける我々が行った最初の変異の ために、我々は、野生型TSHR(32)において以前に構成されたE1、E2及びE3 変異(Fig.33A)を使用した。これらの変異は、TSH-LHR-4(Eco RV-Xba I フラグメント) のcDNA中に置き換えられた。これにつづくTSH-LHR-4のEドメインにおける僅か な変異が、重複プライマーを用いたPCRによって行われ、これはAflII-SpeIの 置換を伴った。ドメインD変異の場合と同様の方法で、すべてのPCR産物のヌ クレオチド配列を決定し、安定にトランスフェクトされたCHO細胞株を生産し た。 23.先に述べたのと同様にして(10)、スベリン酸ジスクシンアミド(DSS;1mM;Sig ma)を用いて、ウシ125I-TSHの、単層の手を加えていない(intact)細胞に対する 共有クロスリンクが達成された。細胞からの膜調製は、SDS-PAGE及びオートラジ オグラフィーに従う。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 マクラクラン,サンドラ アメリカ合衆国 カリフォルニア 94939, ラークスパー,クリーク ビュー サーク ル 33

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  1. 【特許請求の範囲】 1.TSHR組成物。 2.TSHR−261である請求項1の組成物。
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