【発明の詳細な説明】
合成多価sLex含有ポリラクトサミン
とその使用法
発明の分野
本発明は、新規組成物と、それらを炎症反応の治療に使用することに関する。
具体的には本発明は、新規合成オリゴ糖構築物、とりわけsLexで多重に修飾
されたポリ−N−アセチルラクトサミンと、内皮表面上の対応するオリゴ糖への
リンパ球結合を阻止し、それによって望ましくない炎症反応およびリンパ球結合
を特徴とするそのほかの疾患状態を軽減もしくは改善する前記ポリ−N−アセチ
ルラクトサミンの使用法に向けられる。さらに本発明は、この新規糖類を使用し
て内皮に対する細菌接着を阻止し、それによって細菌性感染を予防および/また
は治療することに向けられる。本発明のさらなる使用は、sLex陽性腫瘍細胞
の転移をこれらのグリカンによって阻害する癌治療の分野にある。
発明の背景
セレクチン媒介性細胞接着
血液から体内の病原提示している領域への白血球の遊走は炎症カスケードと呼
ばれている。細胞接着は、その炎症性傷害に隣接する血管内皮と白血球との特異
的結合を可能にし、そのような接着により、白血球循環を維持して必要とされる
部位に白血球を導くのを助けるのに役立つ高い血管ずり応力と高い血流速度が妨
害される。
炎症反応中の白血球の遊走には、4種類の血管接着分子ファミリー、すなわち
(1)インテグリンファミリー、(2)インテグリンファミリーのカウンターレ
セプターである免疫グロブリンスーパーファミリー、(3)セレクチンファミリ
ー、および(4)セレクチンファミリーのカウンターレセプター、すなわちシア
ロムチン接着ファミリーが提示する特殊な炭水化物、が関与する。
セレクチンは「レクチン細胞接着分子」(LEC−CAM)としても知られて
いる。セレクチンは3つのグループに分類される。L−セレクチン(LECAM
−1、LAM−1、gp90MEL、Leu−8、TQ−1、CD62LおよびD
REG)は種々の白血球上に発現し、リンパ球、単球、好中球および好酸球上に
構成的に発現する。E−セレクチン(LECAM−2、CD62EおよびELA
M−1)は炎症メディエーターによって活性化された内皮上に発現する。P−セ
レクチン(GMP−140、PADGEM、LECAM−3およびCD62P)
は血小板のアルファ顆粒と内皮細胞のワイベル−パラデ(Weibel−Pal
ade)小体中に貯蔵され、炎症性刺激によって活性化された内皮上にも発現す
る。セレクチンファミリーの要素はすべて、炭水化物の認識によって細胞接着を
媒介するようである。
白血球の浸潤に関する現在の理論は、白血球と内皮の表面に位置する数個の接
着分子の連続的な作用に基づいている。リンパ球の浸潤は、セレクチンファミリ
ーのメンバーとそれらのオリゴ糖含有カウンターレセプターとの相互作用によっ
て開始される。リンパ球接着に関する現在の知見の概説については、たとえばSp
ringer,T.A.,
Annu Rev.Physiol 57:827-872(1995)を参照のこと。
セレクチンはすべて、シアリルルイス(Lewis)x(NeuNAcα2−
3Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAc)(sLexまたはsLex
)とシアリルルイスa(NeuNAcα2−3Galβ1−3(Fucα1−4
)GlcNAc)(sLeaまたはsLea)およびこれらに関連する炭水化物
配列物に結合する(Bertozzi,C.,Chemistry and Biology,2:703-708(1995))。
L−セレクチン依存性認識は、末梢リンパ節(Gallatin,W.M.ら,Nature 303:30-3
4(1983))と炎症部位(Ley,K.ら,Blood 77:2553-2555(1991))への正常なリンパ
球浸潤に先立って起こり、L−セレクチン欠損マウスではこれらがどちらも損な
われる(Arbones,M.L.ら,Immunity 1:247-260(1994))。
現在、L−セレクチンに対する糖タンパク質リガンドは、GlyCAM−1、
CD34およびMAdCAM−1の3種類が知られている。L−セレクチンの生
物学的リガンドの正確な構造はまだわかっていないが、おもな炭水化物エピトー
プ(epitope)は、いくつかの共通した構造上の特徴を持つ。これらはN−アセ
チルラクトサミン骨格を持つO−グリコシド結合ムチン型オリゴ糖であり、その
末端のN−アセチルラクトサミン末端は3N−シアリル化または3N−硫酸化、
3−フコシル化されており、6−硫酸化または6N−硫酸化されているばあいも
ある。
糖リガンドの多価性はセレクチン結合を増大させる。過去の研究では、内皮に
対するL−セレクチン媒介性白血球接着を阻害するオリゴ糖の能力は、シアリル
Lex
基の数が増大するにつれて増大すること(Turunen,J.P.ら,J.Exp.Med.182(4):1
133-1141(1995))、また多価シアリルLeX構造はE−セレクチン阻害剤として
とりわけ強力であること(DeFrees,S.Λ.ら,J.Am.Chem.Soc.115:7549-7550(199
3);Welply,J.K.ら,Glycobiology 4:259-265(1994);DeFrees,S.A.ら,J.Am.Chem.S
oc.117:66-79(1995))が示されている。P−セレクチンリガンドPSGL−1
のポリラクトサミン骨格は分枝状で、数個のフコースを含有しており(Wilkins,
P.P.ら,J.Biol.Chem.271:18732-18742(1996))、多重にフコシル化され多重に硫
酸化されたグリカンがGlyCAM−1中に存在すること(Hemmerich,S.ら,J.B
iol.Chem.270:12035-12047(1995))から、セレクチンに対する1つの天然炭水
化物リガンドもまた多価でありうることが示されている。
末梢リンパ節の高内皮細胞は、L−セレクチンカウンターレセプターの一部で
あるシアリルルイスaおよびシアリルルイスx(sLeaおよびsLex)エピ
トープを発現する(PaavonenおよびRenkonen,Am J.Pathol.141:1259-1264(1992
);Munro,J.M.ら,Am.J.Pathol.141:1397-1408(1992);Sawada,M.ら,Biochem.Bio
phys.Res.Comm.193:337-347(1993))。ほかのいくつかの部位にある内皮細胞は
sLeaおよびsLex陰性であるが、炎症性刺激により、元来陰性であった内
皮がこれらのオリゴ糖構造を新規に(de nove)発現するように誘導することが
できる(Turunen,J.ら,Eur.J.Immunol.24:1130-1136(1994))。培養内皮細胞は
いくつかの機能的なα2,3シアリルトランスフェラーゼとα1,3フコシルト
ランスフェラーゼ((ポリ)ラクトサミンからのsLex産
生に関与する酵素)を持つので、これらの細胞は少なくともsLexを産生する
機構を持っている(Majuri,M.ら,Eur.J.Immunol.24:3205-3210(1994))。
多くの研究により、セレクチンは多くの組織で様々な急性および慢性炎症状態
に関与すると提言されている。多くの異常な炎症状態で組織を損傷する白血球の
有害な遊走を妨害するように薬物を設計できるかもしれないと提言されている。
しかし、きわめて高濃度(mMの範囲)の荷電単糖類でしか、接着は阻止されな
かった。フコイジン(fucoidin)(フコース−4−硫酸のポリマー)および酵母
細胞壁ポリホスホマンナンエステル(PPME)などの多価陰イオン性糖類の特
定のサブセットは、nMの範囲の濃度でこの接着を阻止することが示されている
(Stoolman,L.M.ら,J.Cell Biol.99:1535-1540(1984))。また、sLex構造か
ら誘導されるオリゴ糖は抗炎症活性を持つことも報告されている。このオリゴ糖
のシアル酸含有(sLex)型と硫酸エステル(スルホ−Lex)型はどちらもin
vivoで抗炎症活性を持つことが報告されている(Lasky,L.A.,Annu.Rev.Biochem
.64:113-139(1995);Mulligan,M.S.ら,Nature 364:149-151(1993);Mulligan,M.S
.ら,J.Exp.Med.178:623-631(1993);Buerke,M.ら,J.Clin.Invest.91:1140-1148
(1994);およびNelson,R.M.ら,J.Clin.Invest.91:1157-1166(1993))。
リンパ球浸潤は急性器官移植片拒絶反応には不可欠であるから(Renkonen,R.
ら,Cell.Immunol.77:188-195(1983))、移植片へのリンパ球移行の調節の分
析は重要である。腎臓移植片中の尿細管周辺毛細管内皮(peritubular capillar
y endothelium)(PTCE)は、拒絶反
応中にsLexを新規に発現し、数が増大したリンパ球と結合し始めることが示
されている(Turunen,J.ら,Eur.J.Immunol.24:1130-1136(1994)) 。
Venotらの米国特許第5,352,670号明細書には、シアリルトランスフェラーゼと
シアル酸供与体としてのCMP−シアル酸類似体、および非還元末端にβGal
(1−3)βGlcNAc二糖またはβGal(1−4)βGlcNAc二糖を
持つオリゴ糖グリコシド受容体分子を用いる、α−シアリル化オリゴ糖グリコシ
ドの酵素的合成法が開示されている。
国際特許公開番号WO 95/03059号パンプレット(Gaetaら)には、細胞接着の阻
止、とくにE−セレクチン結合を阻害することによる細胞接着の阻止に有用な、
2つのグリコシド結合したsLex部分を含有する合成糖類が開示されている。
これらのsLex含有オリゴ糖は、ガラクトース骨格上に合成される。
発明の概要
細胞表面L−セレクチンのその炭水化物リガンドによる認識は、リンパ球を炎
症部位の毛細管内皮上で回転させる。この1次的な接触は組織に対する白血球の
浸潤のための先行条件であるので、天然のL−セレクチンリガンドと競合するこ
とができる遊離オリゴ糖類によるその阻害は、魅力的な治療上の選択肢である。
本発明者らは、異常な炎症状態を制御することの重要性を認識し、またそれを
媒介する薬物の必要性を認識して、セレクチン媒介性反応を阻害することができ
るオリゴ糖を合成した。これらの研究の結果、リンパ球L−セ
レクチンが内皮表面上の対応するオリゴ糖に結合するのを阻止する新規オリゴ糖
を同定し、炎症の軽減治療を必要とする患者に当該オリゴ糖を投与した結果、そ
の炎症が軽減される臨床的治療を完成するに至った。
したがって本発明は、まず合成オリゴ糖、具体的には2価sLexオリゴ糖、
4価sLexオリゴ糖、および多価性の増大したそのほかのsLex含有オリゴ
糖であって、本質的に天然の汚染物質を含まないもの、ならびにそれを含有する
組成物に向けられる。本発明の合成オリゴ糖類は、NeuNacα2−3Gal
β1−4(Fuc1−3)GlcNac(sLex)エピトープがβ1−3’結合
および/またはβ1−6’結合で結合している直鎖状または分枝状のポリラクト
サミン骨格(LacNac)n(ただし、n>1、残基間結合はβ1−3’およ
び/またはβ1−6’である)からなる(式中、NeuNac:シアル酸、Ga
l:ガラクトース、Fuc:フコース、GlcNac:N−アセチルグルコサミ
ン)。このようなオリゴ糖類は、リンパ球の外表面上にあるセレクチン分子、と
くにL−セレクチンと結合し、それによって内皮表面上のセレクチン対応オリゴ
糖に対してリンパ球が結合するのを阻止できる、ということが示されている。
さらに本発明は、分枝状ポリラクトサミン骨格の4価sLexグリカンに向け
られる。これは1価sLex4糖と比較して、ラットの心臓および腎臓移植片を
拒絶する際に内皮に対するL−セレクチン媒介性リンパ球接着の阻害剤として1
00倍効力があることがわかった。
さらに本発明は、直鎖状ポリラクトサミン骨格上に
sLex残基を持つ4価sLexグリカンに向けられる。3つのLacNac残
基からなる直鎖状骨格を持つ4価sLexグリカンは、L−セレクチン媒介性細
胞接着の強力な阻害剤である。
さらに本発明は、L−セレクチンリガンドに特有のいくつかの特徴を満たすオ
リゴ糖、具体的には、末端のα2,3’でシアリル化され、α1,3でフコシル
化されている2つのN−アセチルラクトサミン基(シアリルルイスx、シアリル
Lex)を担持する分枝状ポリラクトサミン骨格を持つ12量体O−グリコシド
コア2型オリゴ糖アルジトールに向けられる。この実施態様では、NeuNac
α2−3Galβ1−4(Fuc1−3)GlcNac(sLex)エピトープ
を、二糖アルジトールにβ1−3’、β1−6’またはβ1−6結合によって結
合させることができる。モノフコシル化アルジトール(すなわち1価シアリルL
ex)はL−セレクチン依存性リンパ球結合を有意に阻害し、ジフコシル化12
糖アルジトール(すなわち2価シアリルLex)はきわめて効力のある阻害剤(
IC50(結合の50%を阻害する阻害濃度)=0.15μM)であった。
また本発明は、前述のオリゴ糖およびアルジトール類を酵素的に合成する方法
にも向けられる。
さらに本発明は、本発明のオリゴ糖組成物(前述の酵素的に合成されたアルジ
トール類を含む)の投与により、内皮表面へのリンパ球のセレクチン媒介性結合
、とくにL−セレクチン媒介性結合を阻害する(ただし、E−およびP−セレク
チン結合をも阻害する)方法であって、とりわけそのリンパ球−内皮細胞接着反
応が移植拒絶、
関節炎、慢性関節リウマチ、感染、皮膚病、炎症性腸疾患および自己免疫疾患の
結果である慢性または急性の炎症と関係するものに向けられる。
さらに本発明は、本発明のオリゴ糖組成物の投与により、細菌性感染を予防お
よび/または治療する方法にも向けられる。
さらに本発明は、本発明のオリゴ糖組成物の投与により、癌を治療する方法に
向けられる。
さらに本発明は、どんな炎症状態においても病原を提示している部位に対する
白血球の有害な遊走を阻止または妨害する方法に向けられる。
図面の簡単な説明
図1(パネルa〜l)。スタンパー−ウッドラッフ(Stamper-Woodruff)アッ
セイにおける正常な心臓組織および移植された心臓組織中の内皮構造に対するリ
ンパ球の結合。顕微鏡写真は、リンパ球(丸くて黒色)に焦点が合い、下の(灰
色)組織はわずかに焦点がずれるように撮影した。結合したリンパ球を小さな黒
い矢印で示す。パネル(a)は、正常な心臓の心内膜にはきわめて少数のリンパ
球しか結合していないことを示している。同種移植片(c)と同様に同系移植片
(b)でも、結合したリンパ球の数もきわめて低レベルである。同じ観察を細動
脈でも行なった。正常な心臓(d)中のこれらの構造は事実上リンパ球を全く接
着せず、同系移植片(e)と同種移植片(f)における結合はきわめて低レベル
であった。正常な心臓(g)と同系移植片(h)の細静脈(破線でしるした部分
)はわずかなリンパ球を接着する
に過ぎなかったが、これとは対照的に、同種移植片(I)中の細静脈は多数のリ
ンパ球を接着した。筋間毛細管は、正常な組織(j)と同系移植片(k)におい
て、いくらかのリンパ球を接着した。パネル(l)は同種移植片中の筋間毛細管
へのリンパ球接着に明らかな増大があったことを示している。このパネルには、
筋間毛細管の横断面と縦断面が多数認められ、これらの構造に接着した少数のリ
ンパ球にのみ、矢印でしるしを付けてある。いずれのパネルでも、心筋の上に直
接接着したリンパ球もいくらかあり、内皮構造の上にはないことに注意せよ(パ
ネルaとlに白い矢印で示す)。
図2。酵素的に合成した種々の分枝状オリゴ糖構築物の、同種移植片内皮への
リンパ球接着に対する効果。sLexファミリーに属するオリゴ糖はいずれもリ
ンパ球結合を減少させたが、4価sLexの阻害能はほかのsLex−オリゴ糖
類より有意に優れていた。フコースを欠くsLN類はいずれも効果がなかった。
3回の実験のうち典型的な1実験の平均αSEMを示す。
図3(パネルa〜d)。ジアンテナグリカン(diantennary glycan)の500
MHZ 1H−NMRスペクトルの展開図。A)グリカン2。B)グリカン3。
C)グリカン4。D)グリカン5と6の混合物。左側の展開図の強度は右側の展
開図の強度の2倍である。HODとssbはそれぞれ、残存水シグナルとそのス
ピニングサイドバンドを示す。アステリスクを付したシグナルは重水中に存在す
る不純物から生じるものである。図中の指示線は、表記のシグナル多重線の化学
シフト値に置かれている。正確な化学シフト値については表3を参照のこと。
図4(パネルa〜c)。グリカン3のフコシルトランスフェラーゼ生成物のク
ロマトグラフィー分析。A)完全な反応でえた生成物のHPAE−PADクロマ
トグラフィー。横棒はどのようにしてグリカン4を集めたかを示している。PA
D反応を実線で示し、酢酸ナトリウム勾配を破線で示す。B)部分的な反応から
のHPAE−PADクロマトグラフィー。D1、D2およびD3と記したピーク
は、それぞれ糖4、糖5と6の混合物および糖3に相当した。C)脱シアリル化
した糖5と6の混合物の同時β−ガラクトシダーゼおよびβ−N−アセチルヘキ
ソサミニダーゼ消化物のペーパークロマトグラフィー。クロマトグラフィーは、
(Niemela,R.ら,Glycoconjugate J.12:36-44(1995))に記述されているように、
n−ブタノール−酢酸−水(4:1:5)の上相を用いてワットマン(Whatman
)IIIChrペーパーで行なった。矢印AおよびBは、それぞれGalβ1−4
(Fucα1−3)GlcNAcβ1−6Galβ−4GlcNAcおよびGa
lβ1−4(Fucα1−3)GlcNAcβ1−3Galβ−4GlcNAc
の溶出位置を示す。
図5(パネルa〜b)。グリカン9の合成における中間体と最終生成物のクロ
マトグラフィー分析。A)7のα2,3−シアリルトランスフェラーゼ反応から
えた糖類のモノキュー(Mono)Q5/5HRカラムによるイオン交換クロマトグ
ラフィー。ゼロ、モノ、ジおよびトリと記した矢印は、それぞれGlcNAc、
3’−シアリルラクトース、ジシアリル化オリゴ糖およびトリシアリル化オリゴ
糖マーカーの溶出位置を示す。214nmにおけるUV吸光度を太い線で表わし
、NaCl勾配を破
線で示す。横棒はテトラシアロ糖8に合わせた物質を示す。B)糖8のフコシル
トランスフェラーゼ生成物のHPAE−PADクロマトグラフィー。T1、T2
およびT3と記したピークは、それぞれ8のテトラ、トリおよびジ−フコシル生
成物に相当した。ピークのテーリングは、糖類の還元末端GlcNAcの塩基触
媒2−エピマー化によるものと考えられる。PAD反応を実線で示し、酢酸ナト
リウム勾配を破線で示す。
図6(パネルa〜c)。テトラアンテナグリカンの500MHZ 1H−NM
Rスペクトルの展開図。A)糖7のスペクトル。B)糖8のスペクトル。C)糖
9のスペクトル。アステリスクを付したシグナルは重水中に存在する不純物から
生じるものである。左側の展開図の強度は右側の展開図の強度の2倍である。図
中の線はシグナル多重線の化学シフトを示す。正確な化学シフト値については表
4を参照のこと。
図7(パネルa〜b)。脱シアリル化テトラアンテナオリゴ糖の質量スペクト
ル(MALDI−MS)。A)図5BピークT1からえた脱シアリル化糖の質量
スペクトル。B)図5BピークT2からえた脱シアリル化糖の質量スペクトル。
図8。酵素的に合成したsLexオリゴ糖(白抜き記号)とsLNオリゴ糖(
黒塗り記号)の、腎臓移植片内皮へのリンパ球接着に対する効果。白抜きの円(
○)モノSLex(グリカン1)、黒塗りの円(●)モノsLN、白抜きの正方
形(□)ジSLex(グリカン4)、黒塗りの正方形(■)ジsLN(グリカン
5)、白抜きの三角形(△)テトラsLex(グリカン9)、黒塗
りの三角形(▲)テトラsLN(グリカン8)。4価sLexのリンパ球阻止能
は、ほかのsLexオリゴ糖類より明らかに優れていた。3回の実験の平均を示
す。SEMが10%を超えることはなかった。明解にするため、記号は付してい
ない。
図9。グリカン12から、直鎖状骨格の4価シアリルルイスx糖17への、さ
らにはルイスx糖18への本発明の合成経路の概略。
図10。A.グリカン16の陰イオン交換(モノキュー)クロマトグラフィー
。B.合成混合物からゲル濾過によって単離したグリカン17のHPAE−PA
Dクロマトグラフィー。8分で溶出する主ピークはグリカン17に相当し、一方
、12分でのピークはその還元末端−ManNAc類似体を含有すると考えられ
る。後者はおそらく、グリカン17および/またはその前駆体の還元末端−Gl
cNAcのC2における塩基触媒エピマー化によって生成したのだろう。グリカ
ン17のトリフコシル類似体類の溶出領域と予想される、15〜17分で溶出す
るオリゴ糖は観測されなかった。
図11。グリカン16の1H−NMRスペクトルの展開図。パネルB.グリカ
ン17の1H−NMRスペクトル。アステリスク(*)を付した共鳴は未知の不
純物から生じるものである。
図12。合成オリゴ糖類の存在下、ラットの心臓移植片を拒絶する内皮に対す
るリンパ球のL−セレクチン依存性結合。3つの実験のうち代表的な1実験の平
均±SEMを表わす。4価シリアルルイスグリカン9および17はリンパ球接着
を強く阻害し、およそ1nMのIC50
値を示した。非フコシル化類似体8および16は阻害特性を示さなかった。
図13。アルジトール系の糖類の構造と単糖残基の表示。
図14(パネルA〜C)。グリコシルトランスフェラーゼ反応後の糖類のクロ
マトグラフィー分析。ピークの番号は表6の糖類を示す。A.60mM NaO
Hを溶離剤とするHPAECによる、糖24のガラクトシルトランスフェラーゼ
反応の生成物の分析。非ガラクトシル化、モノガラクトシル化およびジガラクト
シル化生成物の計算位置を示す。B.モノキューカラムでの陰イオン交換クロマ
トグラフィーによる、糖25のシアリルトランスフェラーゼ反応後の反応混合物
の分析。ジシアリル10糖26が主生成物としてえられた。荷電オリゴ糖類の領
域にあるほかの2つのピークはCMP(a)とNeuAc(b)である。C.2
6のフコシルトランスフェラーゼ反応でえられるモノフコシル化糖とジフコシル
化糖(それぞれ27と28)のHPAECによる分離。NaAcの直線勾配を、
0分の100mM NaOH、25mM NaAcから20分の100mM N
aOH、100mM NaAcまで適用した。
図15(パネルA〜D)。糖25(パネルA)、糖26(B)、糖27(C)
および糖28(D)の1H−NMRスペクトルの展開図。アステリスクで示した
共鳴は非炭水化物起源のものである。
図16。O−グリコシド2価sLexアルジトール28のTOCSYスペクト
ルの一部分(スピンロックタイム80ms)。GlcNAc残基のアノマープロ
トンと
非アノマープロトンの間の相関ピークを示すこの展開図から、GlcNAc残基
5および6については、残基のフコシル化によりプロトンのほとんどがダウンフ
ィールド(低磁場)シフトしていることが明らかであるが、残基3についてはそ
うではない。
図17。一部重複した1H−NMR共鳴の割り当てに使用した2価sLex
O−グリカンアルジトール28のDQFCOSYスペクトル。
図18。酵素的に合成したオリゴ糖構築物の、腎臓同種移植片を拒絶する尿細
管周辺毛細管内皮へのリンパ球接着に対する効果。使用した記号は次の通りであ
る:白抜きの四角形(□)2つのシアリルLacNAc単位を持つO−グリカン
26、白抜きの三角形(△)1価シアリルLex O−グリカン27、白抜きの
円(○)2価シアリルLex O−グリカン28、黒塗りの三角形(▲)1価シ
アリルLex4糖1、黒塗りの円(●)2価シアリルLexグリカン4。O−グリ
コシド型2価12糖アルジトール28が、6−結合側鎖にフコース残基を持たな
い1価類似体27より強力な阻害剤であることは明らかだった。同時に、フコー
スを持たないグリカン26はリンパ球結合を全く阻害しなかった。28の還元さ
れたO−グリコシドコア配列を欠く糖4は28よりわずかに弱い阻害剤であった
。このことは、このO−グリコシドコア配列も結合に重要でありうることを示し
た。3回の独立した実験のうち代表的な1実験の平均αSEMを示す。
好ましい実施態様の詳細な説明
本発明は、新規合成オリゴ糖とそれを含有する薬学的に許容しうる組成物、な
らびに急性または慢性の炎症状態を治療するための治療法におけるそれらの使用
に関する。本発明の合成オリゴ糖は、NeuNacα2−3Galβ1−4(F
uc1−3)GlcNac(sLex)エピトープがβ1−3’結合および/ま
たはβ1−6’結合によって結合している直鎖状または分枝状のポリラクトサミ
ン骨格(LacNac)n(ただし、ここにn>1、残基間結合はβ1−3’お
よび/またはβ1−6’である)からなる(ここでNeuNac:シアル酸、G
al:ガラクトース、Fuc:フコース、GlcNac:N−アセチルグルコサ
ミン)。このようなオリゴ糖は、1価sLexの多量体(multimer)であること
が好ましく、とくに表2ならびに図9および図13に図示するようにsLexの
2価および4価多量体であることが好ましい。好ましい実施態様において合成オ
リゴ糖は、表2および図9に示すように22糖4価sLex構築物である。
このような多量体型sLexの合成は化学的方法および/または酵素的手段に
よって達成される。たとえば、1価sLex4糖、2価sLex10糖および分
枝状ポリラクトサミン骨格を持つ4価sLex22糖の構築は、N−アセチルラ
クトサミン、6糖Galβ1−4GlcNAcβ1−6(Galβ1−4Glc
NAcβ1−3)Galβ1−4GalNAc(Wilkman,A.ら,Carbohydrate Re
s.226:155-174(1993))および14糖Galβ1−3GlcNAcβ1−6(G
alβ1−4GlcNAcβ1−3)Galβ1−4GlcNAcβ1−6[G
alβ1−4GlcNAcβ1−6(Galβ1−4GlcNAcβ1−3)G
alβ1−4GlcNAcβ1−3]Galβ1−4GlcNAc(Seppo,A.ら
,Bioch.34:4655-4661(1995))をそれぞれ1価、2価および4価sLex糖類の
受容体として使用することにより達成できる(実施例2も参照のこと)。まず、
これらの受容体をCMP−NeuNAcおよびヒト胎盤由来のα2,3シアリル
トランスフェラーゼとともに充分にインキュベートすることにより、それらをα
2,3シアリル化する。つぎに、単離した全シアリル化糖類を、Natunen,J.ら,G
lycobiol.4,577-583(1994)(これは参考文献として本明細書の一部を構成する)
に記述されているように、GDP−フコースとヒト乳汁α1,3フコシルトラン
スフェラーゼ(類)の部分精製品で、完全にα1,3フコシル化する。その試料
サイズを外部N−アセチルグルコサミンに対してUV吸収によって見積もる。構
築物の特徴づけは、イオン交換クロマトグラフィーと500MHzにおけるID
1H−NMR分光法によって行なった。直鎖状ポリラクトサミン骨格を持つ4
価sLex22糖は、8量体ポリラクトサミンLacNAcβ1−3’(Glc
NAcβ1−6’)LacNAcβ1−3’(GlcNAcβ1−6’)Lac
NAc(ここでLacNAcは2糖Galβ1−4GlcNAcである)から出
発して、まずそれをβ1,3−GlcNacトランスフェラーゼ反応で伸長する
ことにより、5段階合成で達成することができる。単離した糖混合物をブタ胃粘
膜由来のβ1,6−GlcNacトランスフェラーゼによって触媒される反応に
付す。つぎに、えられたオリゴ糖
をβ1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ反応で7つのLacNac単位か
らなる分枝配列(array)に変換し、それをさらにシアリル化およびフコシル化
して4価sLex糖にする(実施例6も参照のこと)。
本発明はさらに、L−セレクチンリガンドに特有ないくつかの特徴を持ち、L
−セレクチンリガンド結合の強力な阻害剤として作用することができるオリゴ糖
アルジトールの酵素的合成にも関する。この実施態様では、NeuNacα2−
3Galβ1−4(Fuc1−3)GlcNac(sLex)エピトープをβ1
−3’結合、β1−6’結合またはβ1−6結合で二糖アルジトールに結合させ
ることができる。このようなアルジトール類は1価sLexの多量体であること
が好ましく、とくに図13に図示するようにsLexの2価多量体であることが
好ましい。きわめて好ましい実施態様では、当該アルジトールは、図13に図示
するように、2つの末端α2,3Nシアリル化およびα1,3フコシル化N−ア
セチルラクトサミン基(シアリルルイスx、シアリルLex)を担持する分枝状
ポリラクトサミン骨格を持つ12量体O−グリコシドコア2型オリゴ糖アルジト
ールである。2糖Galβ1−3GalNAcからこの12糖アルジトールに至
る合成経路上の各糖の構造は、1次元および2次元1H−NMR分光法を含む数
種類の方法で確認した。この合成の最終段階である6−結合側鎖のα1,3フコ
シル化は進行が遅く、分枝担持N−アセチルラクトサミン単位のGlcNAc残
基のH−1共鳴に顕著なシフトを伴った。
セレクチンリガンドの構造上のいくつかの特徴を分析
した後、0、1または2個のα1,3結合フコース残基でシアリル化N−アセチ
ルラクトサミン残基が修飾されたシアリル化O−グリコシドポリラクトサミンア
ルジトールを合成することに決めた。本発明者らはここに、適当な10〜12糖
類の酵素的合成、クロマトグラフィーと1次元および2次元1H−NMRによる
それらの構造的な特徴づけ、および詳細に記録されたラット腎臓移植片拒絶モデ
ル(Renkonen,R.ら,Am.J.Pathol 137:643-651(1990);Turunen,J.P.ら,Eur.J.Imm
unol.24:1130-1136(1994))中の内皮に対するリンパ球のL−セレクチン媒介性
結合の阻害剤としてのそれらの使用を開示する。
最終的な合成生成物と、フコース残基の一方または両方を欠くそれらの類似体
を、ラット腎臓移植片を拒絶する際のin vitroでのL−セレクチン媒介性リンパ
球−内皮相互作用の阻害剤として試験した。非フコシル化O−グリコシドオリゴ
糖アルジトールは阻害活性を持たなかったが、モノフコシル化アルジトール(す
なわち1価シアリルLex)は結合を有意に阻止し、ジフコシル化12糖アルジ
トール(すなわち2価シアリルLex)はきわめて強力な阻害剤(IC50、(結
合の50%を阻止する阻害濃度)=0.15μM)であった。
多価性に加えて、O−グリコシドコアのGalβ1−3GalNAc−オール
(Galβ1−3GalNAc−ol)配列もL−セレクチンに対するグリカン
の親和力を増大させるようである。このことは並行して行なった阻害実験によっ
て示された。すなわち、この並行実験では、2価12糖アルジトールに似ている
が還元されたO−グリコシドコアを欠くジシアリル化およびジフコシ
ル化分枝状ポリラクトサミン10糖がO−グリコシド12糖アルジトールより有
効性の低い阻害剤(IC50=0.5μM)であることが明らかになった。したが
って、本発明のとりわけ好ましい実施態様として、当該アルジトールはそのO−
グリコシドコア中にGalβ1−3GalNAc−オール配列を含有する。
非フコシル化O−グリコシド構築物26(糖番号については図13を参照のこ
と)は阻害活性を持たなかったが、モノフコシル化したもの(27)はL−セレ
クチン依存性リンパ球結合を0.5μMで37%阻止した。ジフコシル化された
分子(28)はきわめて強力な阻害剤(IC50=0.15μM)だった。したが
って、末端末端に多重のシアリルLexエピトープが存在すると、L−セレクチ
ンに対するその糖の親和力が増大する。また、過去に合成された、化合物28の
近位Galβ1−3GalNAc−オール配列を欠く2価シアリルLexグリカ
ン(4)は、並行実験で、アルジトール28よりも低い阻害能を示した。
本発明の炎症治療方法では、そのような治療を必要とする患者(動物およびと
くにヒト)に、有効なレベルの本発明の合成炭水化物を、一般的には薬学的に許
容しうる組成物として、投与する。その患者には、多価の形態の混合物、とくに
表2ならびに図9および図13に示す2価および4価sLex化合物の有効な混
合物を含有する組成物を投与してもよい。このような医薬組成物はさらに、本発
明の合成炭水化物の有効な能力と協奏的に作用しそれを増進させるために、ほか
の望ましい成分、たとえば、白血球L−セレクチンを認識しそれに結合する
抗体またはその複合体などを含有してもよい。
「炎症状態」とは、炎症反応を伴う生理学的または病理学的状態を意味する。
このような状態には、種々の器官/組織移植、たとえば皮膚移植片、腎臓、心臓
、肺、肝臓、骨髄、角膜、膵臓、小腸、器官/組織拒絶、関節炎、感染、皮膚病
、炎症性腸疾患および自己免疫疾患が含まれるが、これらに限るわけではない。
炎症状態は慢性であっても急性であってもよく、L−セレクチンカウンターレ
セプターを構成的または誘導的に発現させる組織に集中していてもよい。本明細
書に示すように、L−セレクチンカウンターレセプターを発現させない組織は、
一定の生理状態でそれを発現させるように誘導されうる。たとえば、本明細書に
示すように、sLex発現は急性に拒絶された器官移植片の毛細管内皮上に誘導
され、この新規sLex発現はリンパ球を循環系からその移植片に引き寄せ、し
たがって炎症と拒絶を生じさせる。しかし、本発明の方法は、リンパ球L−セレ
クチンが内皮表面上の対応するオリゴ糖に結合するのを阻止する。
「本質的に汚染物質を含まない」とは、その多価sLexが、その生成物が当
該多価sLexのin vitro合成またはin vivo合成中には存在した望ましくない
物質または不必要な物質を含まないか、もしくはそれらを許容できるレベルでし
か含まない程度にまで精製されていることを意味する。
「治療(treatment)」または「治療する(treating)」という用語は、本発明の
合成オリゴ糖を、セレクチン接着事象、とくにL−セレクチン媒介性接着事象に
よって
媒介される傷害の予防、改善、防御または治療を含む目的で、対象(subject)
に投与することを包含するものとする。このような治療は、必ずしも炎症反応を
完全に改善する必要はない。また、このような治療は、当業者に知られているほ
かの伝統的な炎症状態軽減治療と併用してもよい。
本発明の方法は、たとえば炎症状態の検出前に、その危険が高い患者(たとえ
ば移植患者など)内でそれが発現するのを防止するために、「予防的」治療とし
て施してもよい。
ヒトまたは動物の患者に投与する場合、本発明の組成物は、それを経口投与、
非経口投与(静脈内、筋肉内または皮下投与を含む)、槽内(intracisternal)
投与、膣内投与、腹腔内投与、局部(local)投与(散剤、軟膏または滴剤を含
む)、経鼻投与(噴霧剤を含む)、局所(topical)投与、腸投与または直腸投
与に適合させるような任意の方法で製剤化することができる。したがってこの薬
剤は、たとえば注射剤、エアゾール製剤、懸濁剤、溶液剤、分散剤、乳剤、滅菌
散剤、浣腸剤などの形態をとることができる。この薬剤は、従来の製薬上の慣行
に従って、薬学的に許容しうる補形薬(excipient)、担体、溶媒またはビヒク
ル(vehicle)、たとえば等張食塩水、エタノール、ポリオール、ポリエチレン
グリコール、グリセロールなどを用いて製剤化することができる。本薬剤の投薬
レベルは、その患者におけるセレクチン、とくにL−セレクチン媒介性接着事象
の阻止によって抗炎症効果を与えるに足りるだろう。
経口投与用の固体投与形態としては、カプセル剤、錠
剤、丸剤、散剤および顆粒剤が含まれる。このような固体投与形態では、活性化
合物を少なくとも1つの不活性な従来の補形剤、充填剤または増量剤、結合剤、
保湿剤、崩壊剤、溶解遅緩剤、湿潤剤、吸着剤、滑沢剤および/または緩衝剤と
混合することができる。錠剤、糖衣錠、カプセル剤、丸剤および顆粒剤などの固
体投与形態は、コーティング剤や殻(shell)を用いて調製することができる。
活性化合物を1つまたはそれ以上の補形剤とともにマイクロカプセル封入型にす
ることもできる。
経口投与用の液体投与形態には、薬学的に許容しうる乳剤、溶液剤、懸濁剤、
シロップ剤およびエリキシル剤が含まれる。液体投与形態には活性化合物に加え
て、当該分野で一般に使用される水やそのほかの溶媒などの不活性な希釈剤、溶
解剤および乳化剤を含めることができる。
このような不活性希釈剤のほかに、本発明の組成物は、湿潤剤、乳化剤および
懸濁化剤などの添加剤、甘味料、着香料および芳香剤を含んでもよい。
懸濁剤は活性化合物に加えて懸濁化剤を含んでもよい。
本発明の組成物はリポソームの形態で投与することもできる。当該分野では知
られているように、リポソームは一般にリン脂質やほかの脂質物質からえられる
。リポソームは、水性媒質中に分散した単層状または多層状の水和した液晶によ
って形成される。非毒性の生理学的に許容しうる代謝可能な脂質であって、リポ
ソームを形成できるものはいずれも使用できる。リポソームの形態の本発明の組
成物は、本発明の合成多価sLex含有ポリラクトサミンに加えて、安定化剤、
保存剤、補形剤など
を含有することができる。好ましい脂質はリン脂質、ホスファチジルコリン類(
レシチン類)、天然および合成のbPothである。リポソームを形成させる方
法は当該分野ではよく知られている。
本発明の組成物と方法は、セレクチン、とくにL−セレクチン媒介性接着が増
大した炎症反応を伴う任意の状態の治療に適している。したがって、本薬剤は敗
血症性ショック、乾癬や慢性関節リウマチのような慢性炎症疾患および心臓発作
、卒中および器官移植後に起こる再潅流損傷、外傷性ショック、多臓器不全、自
己免疫疾患、喘息、炎症性腸疾患、組織拒絶、関節炎、感染(とくに局所感染)
、皮膚病など(ただしこれらに限らない)を含む症状の治療に有用である。それ
ぞれの場合に、本発明化合物の有効量を単独で、もしくは薬学的に許容しうる組
成物の一部として、そのような治療を必要とする患者に投与する。本発明の化合
物を組み合わせてそのような投与を必要とする患者に投与してもよいと考えられ
る。
sLexとsLeaが関与する細胞接着は一定の癌の転移に、ある役割を果た
すことが示されている。したがって、本発明のさらなる用途は癌治療にあり、こ
れらのグリカンによってsLex陽性腫瘍細胞の転移を阻害することができる。
もう1つの実施態様として、有効なレベルの本発明組成物を、炎症の2次的で
有害な炎症効果に対して治療効果がえられるように投与する。「有効なレベル」
の本発明組成物とは、その治療を受ける患者に何らかの改善を与えるようなレベ
ルを意味する。「異常な」宿主炎症状態とは、その対象のある部位における炎症
のレベルが、
その対象の健康な医学的状態に関する規範を越えていること、または望ましいレ
ベルを越えていることを意味する。「2次的な」組織損傷または毒性効果とは、
過剰なセレクチン(とくにL−セレクチン)接着事象(身体のどこかほかの場所
での「1次」刺激の結果であるものを含む)が存在するために、そのほかの点で
は健康な組織、器官およびその中の細胞に起こる組織損傷または毒性効果を意味
する。
本発明の方法では、患者への本発明化合物の注入が、セレクチン発現白血球の
「回転」能力の低下、したがって内皮に対する結合能力の低下をもたらし、それ
ゆえにそのような細胞の炎症部位に対する接着および内皮に対する集中的な損傷
が予防または阻害され、したがって冒された組織または細胞への望ましくない白
血球の移行または流入が防御される。
したがって本発明の医薬組成物は、患者の天然セレクチン(とくにL−セレク
チン)がその患者内の当該セレクチンの生物学的標的(とくに内皮細胞)に結合
するのを(完全にまたは部分的に)中和するに足る量で、本発明の合成炭水化物
およびアルジトールを含有する組成物を提供する。
本発明のオリゴ糖類は、化学的にまたは遺伝子工学によって、それらセレクチ
ン結合化合物を所望の作用部位に誘導するほかの薬剤の断片に結合させることが
できる。また、本発明のオリゴ糖類またはそれらを含有する組成物に付加的な特
性、とくに接着媒介性毒性効果の軽減を促進するというその化合物の能力を増進
する特性またはその化合物の血流からの浄化を促進する特性あるいはそ
のほかの有利な特性が付与または増進されるように、ほかの化合物を化学的に、
または遺伝子工学によって、本発明のオリゴ糖類に結合させてもよい。
本発明のセレクチン結合性オリゴ糖類とそのオリゴ糖類を含有する組成物の投
与量と投与法は、関節炎、組織損傷および組織拒絶などの炎症関連傷害を治療す
る臨床分野の当業者によって容易に決定されうる。一般的には、本発明組成物の
投与量は、使用する合成炭水化物のタイプ、年齢、健康状態、治療される医学的
状態、併用治療があればその種類、治療の頻度、望まれる効果の性質、組織損傷
の程度、性別、症状の持続時間、もしあれば反適応症、および個々の医師が調節
すべきそのほかの可変的要因などといった点に依存して変動するだろう。所望の
結果をえるために、望ましい投与量を1回でまたは複数回で投与することができ
る。4価sLex 22糖またはジフコシル化12糖アルジトールのような本発
明のオリゴ糖類を含有する医薬組成物は、単回投与形態で提供することができる
。
本発明の合成オリゴ糖を含有する医薬組成物は、任意の適当な投与用薬学的担
体に入れて投与することができる。これらは、ヒトおよび動物内でセレクチン(
とくにL−セレクチン)が媒介する事象の予防、軽減、防御または治療をもたら
す任意の形態で投与することができる。定義として、疾患の「治療方法」などの
表現は、本明細書と請求の範囲において常に、それら疾患の予防方法を包含する
と解釈されるものとする。
本発明の方法は、任意のタイプの移植組織または移植器官(たとえば心臓、肺
、腎臓、肝臓、皮膚移植片、組
織移植片など)の拒絶または炎症の予防に有用である。
とくに非経口投与を行なう場合は、本発明の組成物として、滅菌水性溶媒また
は非水性溶媒、懸濁液および乳液を挙げることができる。非水性溶媒の例はプロ
ピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、魚油、注射可能な有機エ
ステル類である。水性担体には水、水−アルコール溶液、乳液または懸濁液があ
り、食塩水や医薬用緩衝非経口賦形剤(塩化ナトリウム溶液、リンゲルデキスト
ロース溶液、デキストロース+塩化ナトリウム溶液、固定油または乳糖を含むリ
ンゲル溶液など)が含まれる。静脈内用賦形剤には、体液および栄養補給剤、電
解質補給剤、たとえばリンゲルデキストロースにもとづくものなどがある。
とくに1次損傷がどちらかといえば急性ではなく長期間持続したり、遅発性で
ある場合は、本発明の組成物を、ポンプを使用して投与したり、徐放剤として投
与してもよい。1次損傷が急性ではなくむしろしばしば長期間持続したり遅発性
になる例は、感染や捻挫であり、この場合は、組織または筋肉に対する損傷が1
次感染または1次損傷の数日後まで現われない(または持続する)。本発明のセ
レクチン結合分子は、適当に挿入されたカテーテルを使用することにより、もし
くは特定の器官を目指すように設計されたキメラ分子(または錯体)の一部とし
てその分子を提供することにより、高濃度で特定の器官に送達することもできる
。
長期間にわたって注射を繰り返す必要がある場合には、徐放剤としての投与が
患者にとっては、より好都合である。たとえば、セレクチン媒介性傷害にもとづ
く遺伝的
炎症疾患または慢性炎症疾患の治療に本発明の方法を使用する場合には、患者の
快適性を最大限にするべく、本発明の組成物を徐放剤として投与することが望ま
しい。
本発明の組成物は、その活性多量体炭水化物の生理活性が消化過程で破壊され
ず、またその化合物の特徴が腸組織を横切って吸収されうるものであるならば、
経口投与用の錠剤、カプセル剤、散剤小包、または液体溶液などの投与形態で使
用することができる。
本発明の薬学的組成物は、それ自体は既知の方法で、たとえば従来の混合、造
粒、糖衣形成、溶解、凍結乾燥などの方法を用いて製造される。本発明の組成物
は、炎症が媒介する(慢性または急性の)生理学的損傷の制御に有用である。本
発明の組成物は、セレクチン媒介性接着をその能力の最大限まで認識するための
身体自身の機構をうまく回避する。
静脈内投与形態では、本発明の組成物は、潜在的組織損傷の急性の管理に有効
でありうるほど充分な即効性を持つ。
また、低効力剤も軽度または慢性のセレクチン媒介性炎症障害の管理に有用で
ある。
急性器官移植片拒絶は大量のリンパ球浸潤を特徴とする。移植内皮の変化が、
その移植片中に移行するリンパ球の増大をもたらすことは既に示されている。本
明細書の実施例は、そのような移植の結果としてセレクチン(とくにL−セレク
チン)が、元来はそのようなセレクチンを発現させない組織に誘導されることを
立証するばかりでなく、リンパ球が心臓移植を拒絶する内皮には接着するが、in
vitroスタンパー−ウッドラッフ結合アッ
セイで分析した同系移植片または正常な心臓の内皮には接着しないことをも立証
する。上記sLexファミリーのいくつかの要素を酵素的に合成し、心臓内皮に
対するリンパ球接着を阻止するそれらの能力について分析した。1価sLex(
4量体)、2価sLex(10量体)および4価sLex(22量体)はすべて
リンパ球結合を有意に減少させたが、4価sLex構築物による阻害は明らかに
ほかのsLexファミリー要素より優れている。決定的な対照オリゴ糖、すなわ
ち、フコースを欠くがsLexファミリーの要素と同程度に荷電しているシアリ
ルラクトサミン類(sLN)は、リンパ球結合に対して何の効果も持たない。
さらに、L−セレクチン媒介性リンパ球−内皮結合の強力な阻害剤であるシア
リル化O−グリコシドポリラクトサミンアルジトール類を合成する方法も、本明
細書に開示する。とくにジフコシル化された12糖アルジトール(2価sLex
)は、0.15μMの濃度で結合の50%を阻害した。この2価sLexアルジ
トールはそのO−グルコシドコアにGalβ1−3GalNAc−オール配列を
含有し、これがL−セレクチンに対するこのグリカンの親和力を増大させている
と思われる。
以下の実施例は、本願に記述するタイプの実験を機械的に行なうことができる
ほど大量の複合型オリゴ糖の初めての合成を表わすものである。本発明は、これ
に関する従来の問題点を克服する。
以下の実施例は単に本発明の例示を意図するものであって、決してその範囲を
限定しようとするものではない。実施例
実施例1
L−セレクチン媒介性移植片拒絶の動物モデルと接着阻害のアッセイ
移植片拒絶は白血球浸潤を特徴とする炎症過程である。初期の観察結果により
、尿細管周辺毛細管内皮(PTCE)が腎臓同種移植片を拒絶するリンパ球侵入
部位であることが示されている。拒絶中は、PTCEがシアリルルイスxを新規
に発現し始め、L−セレクチンに大きく依存する機構によってリンパ球を結合す
る。したがって、リンパ球−内皮相互作用をL−セレクチンのオリゴ糖リガンド
で阻害することは、炎症と拒絶を防止する魅力的な代替法となる。移植片浸潤性
リンパ球の数が急性拒絶中に5−106のバックグラウンドレベルから30×1
06をこえるレベルにまで劇的に増大することは、既に明らかにされている。
心臓移植片拒絶および腎臓移植片拒絶用動物モデルには、同系交配のWF(R
T1v)ラット系統とDA(RT1a)ラット系統を使用し、これらを集団で維持
して、移植の系統内容認と、系統内混合リンパ球培養の不在について定期的に調
べた。WF受容個体へのDA移植を同種移植片とした。WFへのWF移植片と、
DAへのDA移植片を同系対照とする。これらの動物モデルについては、(Renk
onen,R.ら,Transplantation 47:577-579(1989);Renkonen,R.ら,Am.J.Pathol.1
37:643-651(1990);Turunen J.P.ら,Transplantation 54:1053-1058(1992);Turu
nen,J.P.ら,Eur.J.Immunol.24:1130-1136(1994);Turunen,J.P.ら,J.Exp.Me
d.,182:1133-1142(1995))
に、より詳細に記述されている。
スタンパー−ウッドラッフ結合アッセイ
摘出した同系(DAからDAおよびWFからWF)移植と同種(DAからWF
)移植の小さな切片をティシュー・テック(Tissue Tek)培地(ラブ
−テック・プロダクションズ(Lab-Tek Productions),ネーパーヴィル(Nepervill
e)、イリノイ州)に載せ、液体窒素で急速冷凍した。8μm厚の凍結切片を、そ
の切片をリンパ球−内皮結合アッセイに使用する前1時間以内に調製した(Renk
onen,R.ら,Transplantation 47:577-579(1989);Renkonen,R.ら,Am.J.Pathol.
137:643-651(1990);Turunen J.P.ら,Transplantation 54:1053-1058(1992):Tur
unen,J.P.ら,Eur.J.Immunol.24:1130-1136(1994);Turunen,J.P.ら,J.Exp.M
ed.,182:1133-1142(1995))。
腸間膜リンパ節リンパ球の単一細胞懸濁液を、ヘペス(Hepes)(25m
M)と0.5%ウシ胎児血清を補足したRPMI1640培地(ギブコ(Gibco)
、グランドアイランド、ニューヨーク州)中での機械的崩壊によって作製し、そ
れらの細胞を孔径50μmのメッシュに通した。細胞の99%以上がリンパ球で
あり、細胞遠心調製物の免疫ペルオキシダーゼ染色とフローサイトメトリーでの
分析によって分析したところ、そのリンパ球集団は80〜90%がCD3陽性T
細胞、50〜60%がCD4陽性T細胞、25〜35%がCD8陽性T細胞およ
び10〜20%がCD19陽性B細胞からなっていた。
前記の培地100μl中の3×106個の細胞を、液体が漏れないようにワッ
クスペンの環を用いて組織切片の上に接種した。その切片を振とう器上で水平に
、60rpm、+4℃で、30分間回転させた。培養後、吸収性の紙で培地を静
かに除去し、そのスライドを1.5%冷グルタルアルデヒド中で一晩固定した。
そのスライドをチオニンで30分間染色した。過剰のチオニンをPBS中でスラ
イドから洗い流し、そのスライドをPBS−グリセロール(1:1)またはアク
アマウント・マウンタント(Aquamount Mountant)(ビーエ
イチディー・リミテッド(BHD Limited)、プール、英国)で固定した。これら
の調製物から、種々の構造に結合したリンパ球の数を決定した。各試料から少な
くとも10〜20個の高倍率視野を分析し、各群に3〜4匹の動物を含めた。
心臓移植の拒絶中の白血球浸潤
同種移植片から調製した組織切片中の内皮は、正常な心臓の同系移植片から調
製した切片中の内皮と比べて、有意に多くのリンパ球と結合した(表1、図1)
。
解剖学上の位置をより詳細に分析する場合は、内皮をその血管構造のサイズに
従って数種類のカテゴリーに分類した:(i)心内膜、(ii)細動脈、(iii)細静脈お
よび(iv)筋間毛細管。リンパ球接着をこれらの様々な区画でアッセイしたところ
、拒絶中は筋間毛細管と細静脈上に増大していることがわかった(表1、図1)
。全ての心臓切片中の心筋層に対して、一定で低いリンパ球のバックグラウンド
結合があった。
リンパ球−内皮接着の特異性はいくつかの方法で立証された:i)これは、同系
移植片と正常な無治療の心臓には事実上存在しなかった(表1)、ii)これは接
着性白血球の起源によって左右されなかった(すなわちDA細胞とWF細胞はい
ずれもDAからWFへの移植片に等しく接着した(非掲載データ)、iii)これは
、リンパ球を添加する前に組織切片をシアリダーゼで処理することに
よって阻害された。
腎臓同種移植片の内皮に対して結合したリンパ球の増大
in vitroスタンパー−ウッドラッフアッセイでは、同種移植片の内皮に対して
結合したリンパ球が、同系移植片または対照腎臓の内皮と比べて、4倍増大した
。同種移植片中の結合したリンパ球の大半は、尿細管周辺毛細管内皮(PTCE
)に位置し、一方、同種移植片中の主要血管および糸球体の内皮は、同系移植片
または正常な腎臓中の同じ構造より有意に多いリンパ球を接着しなかった。腎臓
移植片拒絶中のPTCEに対するリンパ球接着は、その大半がL−セレクチン依
存性であることが明らかにされている。同時に、拒絶性腎臓のPTCEは、リン
パ節高内皮と類似する形態上の特徴を示し、抗sLex mAbおよびL−セレ
クチン−IgG融合タンパク質と新規に(de novo)反応し始めた(Renkonen,R.
ら,Am.J.Pathol.137:643-651(1990);Turunen,J.ら,Eur.J.Immunol.24:1130-
1136(1994))。
新規接着阻害分子の試験
本発明による全ての新規オリゴ糖構築物類を、急性拒絶を起しているラット心
臓および腎臓移植の内皮に対するリンパ球の接着(これらはL−セレクチンが本
質的な役割を果たすモデルに相当する)を阻害するそれらの能力について試験し
た。オリゴ糖類を結合緩衝液に溶解し、リンパ球をこれらの溶液中、+4℃で3
0分間インキュベートした。その後、その糖溶液中のリンパ球をさらに洗浄する
ことなくスタンパー−ウッドラッフ結合アッセ
イに加え、そのアッセイを上述のように行なった。
実施例2
分枝状ポリラクトサミン骨格を持つ合成グリカンの合成と特徴づけ
(太字の番号は表2のグリカン構造に対応する)
材料と方法
受容体糖類
N−アセチルラクトサミン(Galβ1−4GlcNAc)はシグマ(Sigma
)から購入した。グリカン2と7は、既述のごとく (Renkonen,O.ら,Biochem
.Cell Biol.68:1032-1036(1990);Seppo,A.ら,Biochemistry 34:4655-4662(199
5))、酵素を利用するin vitroでの合成法によって合成した。
酵素調製物
α2,3−シアリルトランスフェラーゼ活性を含有するヒト胎盤ミクロソーム
(van den EijndenおよびSchiphorst,J.Biol.Chem.256:3159-3162(1981))はつ
ぎのように調製した:新鮮なヒト胎盤100gを500mlの冷0.1M トリ
ス−マレイン酸pH6.7中、+4℃でホモジナイズした。そのホモジネートを
3400g、+4℃で30分間遠心分離し、その上清をさらに200,000g
、+4℃で60分間遠心分離した。そのミクロソームペレットを10mlの0.
1M トリス−マレイン酸pH6.7に懸濁して、80mg/mlのタンパク質
(Bradford,M.M.,Anal.Biochem.72:248-254(1976))
を含有する懸濁液をえた。
α1,3/4−フコシルトランスフェラーゼは、エスピー−セファデックス(
SP−Sephadex)C−50を使用して、既述のごとく(Eppenberger-Ca
stori,S.ら,Glycoconjugate J.6:101-114(1989))、ヒト乳汁から抽出した。1
Lの解凍乳から出発して、100mlのフコシルトランスフェラーゼ液をえた。
その溶液を、30kDカットオフ膜カートリッジを装着したアミコン(Amicon)
限外濾過装置を使用して5mlに濃縮した。この調製物は8mU/mlの総フコ
シルトランスフェラーゼと0.79mg/mlのタンパク質を含有した。
トランスフェラーゼ反応
α2,3−シアリルトランスフェラーゼ反応は、受容部位(すなわち非還元末
端ガラクトース残基)100〜200nmolに相当するオリゴ糖受容体、10
倍モル過剰のCMP−NeuNAcおよびα2,3シアリルトランスフェラーゼ
活性を含有するヒト胎盤ミクロソーム25μlを含んだ0.1Mトリス−マレイ
ン酸(pH6.7)100μl中で行なった。この反応混合物を37℃で12〜
18時間インキュベートし、100μlの水を添加して、沸騰水浴中で2分間加
熱することにより、反応を停止した。沈澱したタンパク質を遠心分離によって除
去し、その上清と洗浄液を凍結乾燥し、その混合物からスーパーデックス(Su
perdex)75 HRカラムでのゲル濾過によってオリゴ糖を精製した。α
1,3/4−フコシルトランスフェラーゼ反応は、既述のごとく行い(Palcic,M
.M.ら,Carbohydr.Res.190:1-11(19
89))、スーパーデックス 75 HRカラムでのゲル濾過によって停止した。
グリコシダーゼ消化
シアリダーゼ反応については、1〜4nmolのオリゴ糖を16μlの0.1
M酢酸ナトリウム(soldium acetate)緩衝液pH5.0に溶解した。アースロ
バクター・ウレアファシエンス(Arthrobacter ureafaciens)由来のシアリダー
ゼ(ベーリンガー(Boehringer))40mU(4μl)を加えることによって反
応を開始し、その反応混合物を37℃で16時間インキュベートし、スーパーデ
ックス 75カラムでのゲル濾過によって停止した。
β−N−アセチルヘキソサミニダーゼおよびβ−ガラクトシダーゼの同時反応
用に、1〜20nmolのオリゴ糖を30μlのクエン酸ナトリウム緩衝液pH
4.0に溶解した。150mU(2.4μl)のタチナタマメ(jack be
an)β−N−アセチルヘキソサミニダーゼ(シグマ)と100mU(15μl
)のタチナタマメβ−ガラクトシダーゼ(シグマ)をその反応混合物に加えるこ
とによって、反応を開始した。インキュベート(37℃で16時間)した後、沸
騰水浴中で3分間加熱することにより反応を停止した。
クロマトグラフィー法
パルス電流検出による高pH陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC−
PAD)をジオネックス・カルボパック(Dionex CarboPac)P
A−1
カラム(4×250mm)で、既述のごとく行なった(Helin,J.ら,Carbohydr.
Res.266:191-209(1995))。このカラムは1ml/分の速度で溶出し、試料注入
前に出発緩衝液で平衡化した。ピークを手動で集め、0.5倍容量の冷0.4酢
酸を加えることによって直ちに中和し、減圧遠心機で乾燥した。乾燥した物質を
、スーパーデックス 75カラムでの高速液体クロマトグラフィー(HPLC)
ゲル濾過によって脱塩した。
モノQ(5/5)カラム(ファルマシア(Pharmacia))での陰イオン交換クロ
マトグラフィーは、LKB 2150 HPLCポンプと低圧混合システムを装
着したLKB 2152 HPLCコントローラーを用いて行なった。水で平衡
化したそのカラムを、図5に示すように、1ml/分の速度で最初は水で無勾配
的に溶出し、つぎにNaClの直線的勾配で溶出した。流出液をクラトス・スペ
クトロフロー(Kratos Spectroflow)757 UVモニター
を用いて214nmまたは205nmで監視した。図5に示すモノ−、ジ−およ
びトリ−シアリル化マーカーは、それぞれNeuNAcα2−3Galβ1−4
GlcNAc(オックスフォード・グリコシステムズ(Oxford Glycosystems))
、NeuNAα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−2Manα1−6(N
euNAα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−2Manα1−3)Man
β1−4GlcNAcおよびNeuNAcα2−6Galβ1−4GlcNAc
β1−2Manα1−6(NeuNAcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ
1−4[NeuNAcα2−6Galβ1−4GlcNAcβ1−2]Ma
nα1−3)Manβ1−4GlcNAcである。後者の2つのマーカーはジェ
ラルド・ストレッカー(Gerard Strecker)博士(フランス・リ
ール大学)の厚意により贈られたものである。
スーパーデックス 75 HR(10/30)カラム(ファルマシア、スウェー
デン)でのHPLCゲル濾過クロマトグラフィーは、LKB 2150 HPL
Cポンプを用いて行なった。このカラムは、カラムのイオン交換作用を抑制する
ために50mM NH4HCO3を用いて1ml/分の速度で溶出した。流出液を
スペクトラ−フィジックス(Spectra−Physics)8450 UV
モニターを用いて214nmまたは205nmで監視した。各ピーク中の糖類の
量は、外部標準(GlcNAcまたはNeuNAc)を参照し、各ピーク中のカ
ルボニル基数を考慮して、ピーク面積から見積もった。定量の精度は±20%よ
り良いと判断される。
NMR分光法
NMR分析に先立って、オリゴ糖試料を99.96%D2O(シーアイエル(C.
I.L.)、マサチューセッツ州、米国)に繰返し溶解し、凍結乾燥した。最後に試
料を99.996%D2Oに溶解し、ナイロン膜フィルターに通した。1H−NM
Rスペクトルは、バリアン・ユニティー(Varian Unity)−500
分光計を500MHzのプロトン周波数で操作することにより記録した。プロー
ブ温度はサーモスタットで23℃また27℃に調節した。キャリア−周波数を残
存H2O/HDO
シグナル上に置き、溶媒抑制は修正WEFTシークエンスを用いて達成した。化
学シフト値は、2.225ppmに設定した内部アセトンシグナルを参照してp
pmの目盛りで表わす。オリゴ糖中の個々の単糖残基は、その単糖からそのグリ
カンの還元末端へのグリコシド結合を最も簡略で明白な方法で示す上付き文字に
よって表わす。
質量分析
誘導体化されていないオリゴ糖のマトリックス補助レーザー脱離イオン化質量
分析(MALDI−MS)は、LASERMAT装置(フィニガン・マット・リ
ミテッド(Finnigan MAT Ltd.)、英国)を用いて行なった。操作条件と操作法は
Karasらの研究(Karasおよび旧llenkamp,Anal.Chem.60:2299-2301(1988)
)にならった。試料を50mM2,5−ジヒドロキシ安息香酸(容量比70:3
0のアセトニトリル/水中)に溶解し、10〜30pmolのオリゴ糖を含有す
るその混合物1μlを標準的なステンレス鋼ターゲットにのせた。その小滴を微
晶質の形態に乾燥させた後、装置に挿入した。オックスフォード・グリコシステ
ムズ(英国)から入手したオリゴマンノース9(Man9GlcNAc2;Mw=
1884;起源:ブタチログロブリン)を外部標準として使用した。
表2
本研究の合成中間体および生成物の構造 オリゴ糖の酵素的合成
1価およびオリゴ価(oligovalent)シアリルルイスxグリカン(
sLex)とそれらのフコース非含有類似体(シアリルLN)を代表する細胞接
着実験用のオリゴ糖を酵素的に合成した。この合成には、既に生成されているポ
リ−N−アセチルラクトサミン骨格(Renkonen,O.ら,Biochem.Cell Biol.68:1
032-1036(1990);Seppo,A.ら,Biochemistry 34:4655-4662(1995))を使用し、そ
れらを酵素的なα2,3−シアリル化およびα1,3−フコシル化反応で1価、
2価および4価のsLexグリカン1、4および9(構造については表2を参照
のこと)に変換した。グリカン9は、実際に単糖プライマーから出発してこれま
でに構築されたなかで、最も大きい純粋なオリゴ糖に相当する。ほかの合成生成
物と同様に、NMR分光法と質量分光法を含むいくつかの技術を用いて、これを
詳細に特徴づけた。すべてのフコース残基は、予想通り(Niemela,R.ら,Glycoc
onjugate J.12:36-44(1995))、グリカン3および8の近位および「内部」のG
alβ1−4GlcNAc残基にではなく、シアリル化されたGalβ1−4G
lcNAc残基に転移したが、グリカン8の4つのシアリル化Galβ1−4G
lcNAc単位のうちの1つは、そのほかのものよりはるかにゆっくりと反応し
、予想外に純粋な形態のトリフコシル中間体(グリカン10または11)が生成
した。
1価sLexグリカン1の合成
グリカン1は、本質的に既述のごとく(de Vriesら,
FEBS Lett.,330:243-248(1993))、Galβ1−4GlcNAcから酵素的なα
2,3−シアリル化と、それに続く酵素的なα1,3−フコシル化によって製造
した。その精製物を500MHzにおける1H−核磁気共鳴(NMR)分光法に
よって特徴づけたところ、過去に記述されているものと同じスペクトルが観測さ
れた(非掲載データ)(Ballら,J.Am.Chem.Soc.114:5449-5451(1992);de Vrie
sら,FEBS Lett.,330:243-248(1993))。
グリカン3の合成
ビアンテナグリカン2の酵素的生成は既に記述されている(Renkonen O.ら,B
iochem.Cell Biol.68:1032-1036(1990))。ここでは、その未満Galβ1−4
GlcNAc単位を末端α2,3結合シアル酸で修飾した。グリカン2(100
nmol)をCMP−NeuNAcおよびヒト胎盤ミクロソーム中に存在するα
2,3シアリルトランスフェラーゼとともにインキュベートし、えられた混合物
を陰イオン交換HPLCによって分画した。ジシアリル化したオリゴ糖マーカー
と同様に溶出する画分(85nmol)を合わせ、凍結乾燥し、ゲル濾過によっ
て脱塩し、NMR分析に供した。
そのジシアリル化生成物の1H−NMRスペクトル(図3B、化学シフト値に
ついては表3を参照のこと)は、それがグリカン3に相当することを示している
。グリカン2のスペクトル(図3A、表3)と比較すると、2つのNeuNAc
の付加が、それぞれ2.757ppmと1.799ppmにNeuNAc H−
3axとH−3eqの2当量のシグナルが出現することによって示
される(図3B)。受容体残基3Galと6GalのH−1シグナルはそれぞれ+
0.081ppmと+0.079ppm低磁場にシフトし、2当量の新しいシグ
ナルが4.117ppmに現われる。これはα2,3−シアリル化ガラクトース
のH−3に割り当てられる。これらのリポーター基シグナルは遠位ガラクトース
のα2,3シアリル化に特有である(Vliegenthart,J.F.Gら,Adv.Carbohydr.Che
m.Biochem.41:209-374(1983);KamerlingおよびVliegenthart,Biol.Magn.Res.1
0:1-287(1992);Machytka,D.ら,Carbohydr.Res.254:289-294(1994))。
グリカン4の合成
グリカン3の試料(75nmol)をGDP−Fucおよびヒト乳汁α1,3
−フコシルトランスフェラーゼとともにインキュベートした。その反応混合物を
モノQイオン交換クロマトグラフィーにかけると、ジシアリル化マーカーオリゴ
糖と同様に溶出するピークがえられた(非掲載)。この物質をHPAEクロマト
グラフィーにかけて、単一の主ピーク(74nmol、図4A)をえた。この物
質は出発物質または部分反応でえたモノフコシル化生成物(下記参照)よりも早
く溶出し、それがジフコシル化生成物に相当することを示した(Hardy,M.R.およ
びTownsend,R.R.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:3289-3293(1988))。
ジフコシル化生成物の1H−NMRスペクトル(図3C、表3)は、2つのフ
コースが受容体に転移して、グリカン4がえられたことを示した。これらのフコ
ースのH−1シグナルは、5.117ppmと4.078(α)
/5.091(β)ppmで共鳴した(それぞれ3FucH−1と6FucH−1
)。グリカン4でも、3Galと6GalのH−1シグナルがグリカン3の対応す
るシグナルと比較するとシフトしていた(それぞれ−0.027ppmと−0.
028ppm)。これに対し、分枝しているガラクトースのH−1シグナルは事
実上影響を受けず、還元末端のGlcNAcがフコシル化されなかったことを示
した。これは、ポリラクトサミンの分枝形成Galβ1−4GlcNAc残基が
、使用した条件ではフコシル化されないことを示す我々の過去のデータ
jugate J.12:36-44(1995))。
グリカン5および6の合成
反応時間とGDP−[14C]Fuc供与体の量を制限することにより、グリカ
ン3を用いて部分的フコシルトランスフェラーゼ反応も行なった。その反応混合
物のHPAEクロマトグラフィー(図4B)では、それぞれジフコシル化生成物
4および未反応の受容体3と同様に溶出するピークD1とD3を示した。中間ピ
ークD2はモノフコシル化生成物5と6の混合物に相当する。その組成を明らか
にするために、D2混合物を脱シアリル化した後、β−N−アセチルグルコサミ
ニダーゼおよびβ−ガラクトシダーゼとともにインキュベートした。これは非フ
コシル化分枝を侵食したが(Kobata,A.,Anal.Biochem.100:1-14(1979))、フコ
シル化されている側鎖は無傷のまま残った(すなわち脱シアリル化した5の上側
の分枝と、脱シアリル化した6の下側の分枝を無傷のまま
残った)。えられた異性体5糖類の混合物をペーパークロマトグラフィーによっ
て最終的に分離した(図4C)(Niemela,R.ら,Glycoconjugate J.12:36-44(1
995))。そのデータは、ピークD2が5と6の1:3混合物に相当することを明
らかにした。ピークD2のNMRスペクトルは、5.117ppmに強いFuc
H−1シグナルと5.078/5.091ppmに弱いシグナルを示し、グリカ
ン4中の対応するシグナルの明白な割り当てを可能にした(表3)。本発明者ら
は過去に、3だけでなくビアンテナグリカン2も、使用した条件下に、部分反応
において、1,3−結合分枝が優先的にα1,3フコシル化されることを示して
いる(Niemela,R.ら,Glycoconjugate J.12:36-44(1995))。
表3:合成グリカン2〜4および6の構造レポーター基シグナルの
1H−NMR化学シフトa a)化学シフトは2.225ppmにセットした内部アセトンシグナルを
参照することにより、ppm尺度で示した。スラッシュにより分
離されている2つの値が共鳴するばあいは、それらの値は当該
分子のα/βアノマーに関する。
b)単糖残基の位置を正確に示すことについては、材料および方法
の項を参照のこと。
N.D.測定不能
グリカン8の合成
テトラアンテナグリカン7の酵素的生成は既に記述されている(Seppo,A.ら,
Biochemistry 34:4655-4662(1995))。ここでは、その末端Galβ1−4Gl
cNAc単位を末端α2,3−NeuNAcで修飾した。7の試料(75nmo
l)をCMP−NeuNAcおよびα2,3シアリルトランスフェラーゼととも
にインキュベートした後、上述のように処理した。モノQカラムでのイオン交換
クロマトグラフィー(図5A)では、トリシアロオリゴ糖マーカーと同様に溶出
する副生成物がえられ、主生成物(59nmol)はそれより遅く溶出した。
主生成物の1H−NMRスペクトルから、それが化合物8であることが確認さ
れる(図6B、表4)。受容体グリカン7のスペクトル(図6A)と比較すると
、8のスペクトルは、4当量のNeuNAcがα2,3結合で転移したことを明
らかに示している。1.803ppmのNeuNAc H−3axシグナルと2
.756ppmのH−3eqシグナル(ともに4当量)が出現することは、新た
に付加されたNeuNAc残基が実際にα2,3結合していることを示している
(Vliegenthart,J.F.G.ら,Adv.Carbohydr.Chem.Biochem.41:209-374(1983);Ka
merlingおよびVliegenthart,Biol.Magn.Res.10:1-287(1992);Machytka,D.ら,C
arbohydr.Res.254:289-294(1994))。この考えは、末端から2番目のガラクト
ースのH−3に割り当てることができる4ピークパターンが4.119ppmに
出現することによって裏付けられる。末端から2番目のガラクトースのH−1シ
グナルも、3の
場合と同様に、特徴的に+0.080ppm低磁場シフトし、この分子中の受容
部位を正確に示している。
表4:合成グリカン7〜9の構造レポーター基シグナルの
1H−NMR化学シフトa a)化学シフトは2.225ppmにセットした内部アセトンシグナルを
参照することにより、ppm尺度で示した。共鳴に2つの値があ
るばあいは、それらは各々当該分子のα/βアノマーに関する。
b)単糖残基の位置を正確に示すことについては、材料および方法
の項を参照のこと。
c)(27)からのデータ
d,e)割りあてを交換しなければならないのかもしれない。
f)6,6FucH−1および6,3FucH−1シグナルを別々に示すことが
できなかった。
N.D.測定不能
グリカン9の合成
グリカン8をGDP−Fucおよびヒト乳汁由来のα1,3フコシルトランス
フェラーゼとともにインキュベートした。その反応混合物をHPAEクロマトグ
ラフィー(図5B)によって分画したところ、出発物質より早く溶出する2つの
主ピークがえられた。ピークT1はテトラシアローテトラフコ−グリカン9であ
ることがわかった。一方、ピークT2はテトラシアロ−トリフコーグリカンのほ
とんど純粋な単一の異性体に相当した。微量ピークT3はテトラシアロ−ジフコ
−グリカンの混合物であると考えられる。
T1グリカンをA.ウレアファシエンス(A.ureafaciens)由来のシアリダー
ゼで脱シアリル化した後、β−ガラクトシダーゼおよびβ−N−アセチルヘキソ
サミニダーゼの同時処理に供した。その後、ゲル濾過を行い、それに続いてHP
AEクロマトグラフィーを行なったところ、脱シアリル化されたT1が無傷のま
まであることが明らかになった(非掲載データ)。このデータから、4つのフコ
ースがT1中に存在し、それらが受容体グリカン8の非還元末端にあるシアリル
化されたGalβ1−4GlcNAc単位に結合していることが確認された。し
たがってT1糖類は、グリカン9に相当した。
T1糖類の1H−NMRスペクトル(図6C;表4)により、4つのα結合フ
コースが存在することが確認される。これは、それぞれ5.119pm(2当量
)、5.084ppmおよび5.076ppm(各1当量)にある4つのFuc
H−1シグナルと、1.668ppm(12当量)のFuc H−6シグナル
として認めるこ
とができる。4.81ppm付近のFuc H−5シグナルは残存HDOピーク
と著しく重複しているので、正確にその位置を特定し、測定することができない
。8中のガラクトースのH−1シグナルのうち、末端から2番目のシアリル化さ
れた残基のものだけが、フコシル化したときにシフトした。これらのシフト(3, 3
Gal+3,6Galについては−0.025ppm、3,3Gal+3,6Galにつ
いては−0.027ppm)により、フコシル化とシアリル化は7の末端Gal
β1−4GlcNAc単位でのみ起こったことが確認される。本発明者らは、8
または9中にα2,6結合したNeuNacの信号を一切検出しなかった。たと
え8中の少量のα2,6−NeuNAcが本発明者らのNMR分析を免れたとし
ても、それらはフコシル化されえないから、テトラフコシルグリカン9からは排
除されているだろう(Paulson,J.C.ら,J.Biol.Chem.253:5617-5624(1978))。
10または11に相当する合成グリカンの特徴づけ
T2物質(図6C、表4)のほとんどは、一つの末端分枝にはFucがないが
、ほかの3つの分枝にはFucが存在する、単一の異性体に相当した。グリカン
9のスペクトルと比較すると、5.084ppmのFuc H−1シグナルがT
2糖類ではきわめて著しく減少していた。グリカン9では、このシグナルが6,6
GlcNAcまたは6,3GlcNAcに結合したフコースのH−1に割り当てら
れる。したがって、T2糖類はほとんど純粋な形態のグリカン10またはグリカ
ン11に相当する。
脱シアリル化したT1およびT2糖類中のFuc残基
数をマトリックス補助レーザーディソープション質量分析法(MALDI−MS
)によって確認した。脱シアリル化したT1糖類(図7A)は、m/z=318
3Da([Fuc4Hex7HexNAc7+NA+]に関する計算値3183Da
)の単一ピークを示し、脱シアリル化したT2糖類(図7B)はm/z=303
5Da([Fuc3Hex7HexNAc7+Na+]に関する計算値3035Da)
の単一ピークを示した。
実施例3
酵素的合成シアリルルイスx型オリゴ糖類はいずれも心臓移植片を拒絶する内皮
に対するリンパ球接着を阻害する
心臓移植片拒絶は移植片へのリンパ球の大量の浸潤を特徴とする(Renkonen,R
.ら,Cell.Immunol.77:188-19
Turunen,J.P.ら,Transplantation 54:1053-1058(1992))。本願は、正常な動物
ではsLeaとsLexを発現させない心臓内皮が、移植片拒絶エピソード(e
pisode)中に、これらのオリゴ糖エピトープを発現するように誘導されう
ることを示す。シアリル化ルイスオリゴ糖類のこの新規発現は、sLea−、s
Lex−およびL−セレクチン−依存的に、内皮に対するリンパ球接着を増大さ
せる。拒絶された心臓移植片の内皮は、L−セレクチン−IgG融合タンパク質
で直接染色されるが、正常な心臓または同系移植片の内皮ではこれが起こらない
。
オリゴ糖による、急性拒絶エピソード中の心臓内皮に
対するリンパ球接着の阻害を、酵素利用合成法によって実施例2で合成したオリ
ゴ糖のファミリー、すなわち1価sLex4糖類(1)、2価sLex10糖類
(4)および4価sLex22量体オリゴ糖(9)ならびにそれらの非フコシル
化シアリルラクトサミン類似体(3、8)を用いて調べた。リンパ球を様々な濃
度のオリゴ糖と共に30分間、プレインキュベートした後、さらに洗浄すること
なくスタンパー−ウッドラッフ結合アッセイに入れた。これらのオリゴ糖は、正
常な心臓組織に対する結合よりわずかに高いに過ぎない同系移植片へのリンパ球
結合を有意に変化させることはなかった(表1と非掲載データ)。一方、上記s
Lexファミリーの要素はいずれも、心臓内皮に対するリンパ球接着の阻害に有
効であったが、4価sLexはほかのsLexオリゴ糖と比べて明らかに優れて
いた(図2)。同時に、非フコシル化シアリルラクトサミングリカンは効果がな
かった。
これらの結果は、4価sLex(22量体オリゴ糖)が、心臓内皮に対するL
−セレクチン依存性リンパ球接着の阻害に関して、2価または1価sLexオリ
ゴ糖(それぞれ10量体および4量体)より優れていることを示している。対照
的に、sLNオリゴ糖類はリンパ球接着に対してなにも効果がなかった。総合す
るとこれらのデータは、心臓同種移植片を拒絶する際におけるL−セレクチン依
存性リンパ球炎症の発生には、sLeaとsLexの内皮発現の上方調節がきわ
めて重要であることおよびオリゴ糖がこの過程を阻害できることを示している。
実施例4
多価sLexオリゴ糖はリンパ球接着の高親和性阻害剤である
(太字の番号は表2のグリカン構造に対応する)
実施例1に記載の動物モデルを用いて、腎臓移植片が急性拒絶を受けている移
植後3日目に、腎臓移植片を摘出した。リンパ球を様々なオリゴ糖構築物ととも
に30分間プレインキュベーションし、もしくはこのプレインキュベーションを
行なわずに、スタンパー−ウッドラッフ結合アッセイに加えた。30分間の結合
アッセイ後、遊離した細胞を洗い流し、結合した細胞の数を決定した。図8から
わかるように、α2,3−シアル酸−およびα1,3−フコース含有ポリラクト
サミン類(すなわち1価、2価および4価sLex、それぞれ構造1、4および
9)はすべて、PTCEに対するリンパ球の結合を有意に阻害することができた
。リンパ球接着は、0.5μMの1価sLex(1)で39%減少し、2価およ
び4価sLex(4および9)のIC50値はそれぞれ1.0μMおよび<0.0
5μMだった。使用したなかで最も有効な濃度において、グリカン9はリンパ球
接着を73%まで阻害し、これは、これと同じ検定法で機能的に活性な抗L−セ
レクチン抗体HRL−1(Turunen,J.ら,Eur.J.Immunol.24:1130-1136(1994)
)を用いてえられる60%阻害よりもわずかに良い。
フコース非含有構造、すなわちシアリルラクトサミンならびにグリカン3およ
び8と、非機能的抗L−セレクチン抗体はいずれも、リンパ球接着を阻害せず、
このアッセイにおけるフコースの決定的な役割を示した。4価
グリカン9は明らかに最も強力な阻害剤であり、このことは、それがリンパ球表
面上の数個のL−セレクチン分子に結合しうることを示唆している。
このアッセイで主としてL−セレクチン依存性接着が測定されることは既に明
らかにされている。α1,3結合したフコシル残基は、この結合アッセイにおけ
る阻害性糖類の必須の構造的特徴を表わす。これは、L−セレクチン結合能を持
つオリゴ糖類の特徴でもある(Foxall,C.ら,J.CellBiol.117:895-902(1992);I
mai,Y.ら,Glycobiology 2:373-381(1992))。このアッセイにおけるE−セレク
チンおよびP−セレクチン依存性接着の役割を排除することはできないが、使用
したリンパ球はsLex陰性であるから、前記接着が起こる可能性は少ない。
合成sLexグリカンのうち、4価の9は明らかにもっとも強力なリンパ球接
着阻害剤であった(IC50<50nM)。この実験で使用したsLex−グリカ
ンの用量範囲は、マイクロタイタープレート(microtiter plat
e)上に固定した組換えセレクチンおよび1価sLexについて文献に報告され
ているもの(Foxall,C.ら,J.Cell Biol.117:895-902(1992))より1000倍
低かった。結合力があまりに異なるので(Varki,A.,Proc.Natl.Acad.Sci.91:73
90-7397(1994))、使用された2つのアッセイ(スタンパー−ウッドラッフおよ
びプレート上の固定組換えセレクチン)を直接比較することはおそらくできない
だろう。
L−セレクチンに対するグリカン9の高い親和性は、結合性sLexエピトー
プの多価性によって生じている可能性がきわめて高い。このことから、1分子の
9が、
スタンパー−ウッドラッフアッセイにおいて、リンパ球表面上のL−セレクチン
の炭水化物認識ドメイン(CRD)数個に結合するという可能性が生じる。細胞
表面におけるL−セレクチンCDRの架橋は、そのタンパク質のモノマー−オリ
ゴマー状態とは無関係に起こりうる。ほかの表面構成要素との相互作用によって
固定化されているモノマー型レセプターでさえ、2価のシアロシド(sialo
side)により、無傷のインフルエンザウイルス中の個々の血球凝集素トリマ
ーで、細胞表面上で架橋型になりうる(Glick,G.D.ら,J.Biol.Chem.266:23660
-23669(1991))。
グリカン9中でsLex決定基同士を連結している糖鎖の長さも潜在的に重要
である。9中のsLexエピトープは、5つの単糖単位程度からなる鎖によって
相互に連結されている。また、これらの鎖はすべて、少なくとも1つのGlcN
Acβ1−6Gal結合を含有し、それによってその長さと柔軟性がさらに増し
ている。結合性エピトープと結合する長くて柔軟な糖鎖スペーサーは、L−セレ
クチンのレクチンドメインの架橋につながる9の多座結合の確率を増大させると
考えられる。
5μMの一次溶液を希釈すると、9の阻害効率の増大が一貫して観測された(
図2および8)。このことは、5μMでは豊富な4価リガンドが主として1価の
形式でL−セレクチン分子に結合している可能性があり、これに対して、このリ
ガンドを希釈すると9の多座結合の可能性が増大したことを示唆している。真の
オリゴマーであれ、「機能上の」オリゴマー(たとえばほかの細胞表面構成要素
によって相互連結されたモノマー)であれ、
いずれにせよL−セレクチンは、1価として結合したリガンドよりも多価として
結合した阻害剤を伴う状態の方が、PTCE結合に利用されにくいようである。
適当な膜結合レクチンに対してとりわけ高い親和性を持つ多価糖リガンドの例は
いくつかある。Leeらの古典的な研究(Lee,R.T.ら,Biochemistry 23:4255-4
261(1981);Lee,R.T.ら,Biochemistry 28:8351-8358(1989))は、オリゴマー型
レクチンが多価糖リガンドをとりわけ高い親和性で結合することを示した。また
ほかにも、4つの末端Galα1−3Gal残基を含有する4価オリゴ糖はマウ
ス精子の卵子に対する接着を効率よく阻害するが、類似の1価5糖Galα1−
3Galβ1−4GlcNAcβ1−3Galβ1−4GlcNAcは前記接着
を阻害しないことも示されている(Litscher,E.ら,Biochemistry 34:4662-(199
5))。さらに、E−セレクチンのオリゴ価sLexリガンドは1価sLexより
も良好な接着阻害剤であることも観測されている(DeFrees,S.A.ら,J.Am.Chem.
Soc.115:7549-7550(1993);Welply,J.K.ら,Glycobiol.4:259-265(1994))が、
これまでのところ、L−セレクチン依存性モデル系におけるリンパ球接着の阻害
に多価リガンドが増大した効力を持つことは、本研究によって初めて立証された
のである。
合成グリカン9は、この実験のスタンパー−ウッドラッフ結合アッセイにおけ
るL−セレクチン媒介性細胞接着を、きわめて低濃度で阻害した。ラットとネコ
を用いたin vivo注射実験からえられたデータも、短期P−セレクチン媒介性炎
症の阻害に関する低濃度sLexの重要性を立証している(Mulligan,M.S.ら,J
.Exp.Med.17
8:623-631(1993);Mulligan,M.S.ら,Nature 364:149-151(1993);Buerke,M.ら,J
.Clin.Invest.93:1140-1148(1994))。長期(48時間)炎症反応でさえ、抗L
−セレクチンmAbを動物に連続的に注入することによって阻害することができ
る。興味深いことに、これらの動物は末梢血白血球の百分率数に変動を生じなか
った(Arbones,M.L.ら,Immunity 1:247-260(1994);PizcuetaおよびLuscinskas,
Am.J.Pathol.145:461-469(1994))。
それぞれ実施例2および6に記述したオリゴ糖(グリカン9とグリカン17)
の酵素的合成は、現在までに単糖類から出発して合成されたもののなかで最も大
きい純粋なグリカンである。さらに、4価のテトラアンテナsLexであるグリ
カン9は、大部分がL−セレクチン依存性であるモデルにおいて、内皮に対する
リンパ球接着の優れた阻害剤であり、このことは、L−セレクチンがリンパ球表
面で「機能的オリゴマー」としてふるまう可能性を示唆している。
この研究で使用した1価sLex−グリカンの用量範囲は、可溶性組換えL−
セレクチンと固定化sLex糖脂質の間の結合の阻害について報告されたもの(
Foxall,C.ら,J.Cell Biol.117:895-902(1992))より1000倍低かった。明
らかに、これら2つの検定データを直接比較することはできない(Varki,A.,Pro
c.Natl.Acad.Sci.91:7390-7397(1994))。興味深いことに、糖類1、4および
9と共にリンパ球と拒絶性ラット心臓内皮を用いて行なった結合実験でえられた
スタンパー−ウッドラッフデータ(Turunen,J.P.ら,J.Exp.Med.182(4):1133-1
141(1995))は、本研究のデータときわめて類似して
いた。この類似性はおそらく、両実験群におけるリンパ球表面のL−セレクチン
と糖類の間の決定的な相互作用を反映しているのだろう。
ラットとネコを用いるin vivo注射実験でえられたデータも、短期P−セレク
チン媒介性炎症の阻害に関する低濃度の1価sLexの重要性を立証している(
Buerke,M.ら,J.Clin.Inv.93:1140-1148(1994);Mulligan,M.S.ら,J.Exp.Med.
178:623-631(1993);Mulligan M.S.ら,Nature 364:149-151(1993))。長期(4
8時間)炎症反応でさえ、抗L−セレクチンmAbを動物に連続的に注入するこ
とによって阻害することができる。興味深いことに、これらの動物とL−セレク
チンノックアウトマウスはいずれも、末梢血白血球の百分率数に変動を生じなか
った(Arbones,M.L.ら,Immunity,1:247-260(1994);PizcuetaおよびLuscinskas
,Am.J.Pathol.,145:461-469(1994))。
実施例5
sLEXによる患者の治療
炎症状態と診断された患者を、多価sLex(たとえば4価sLex22糖類
)を含む組成物で治療する。この組成物は、リンパ球が内皮細胞表面上の対応す
るオリゴ糖に結合するのを阻止するに足る用量で、薬学的に許容しうる賦形剤中
に含まれる。この組成物は、その状態が充分に改善されるまで、血清濃度がほぼ
ナノモル濃度〜マイクロモル濃度の範囲になるような方法で与えられる。
患者に投与する場合、その組成物は、それを経口投与、
非経口投与、経鼻投与、腸または直腸投与に適合させるような任意の方法で、従
来の製薬上の慣行に従い、薬学的に許容しうる賦形剤またはビヒクル(たとえば
等張食塩水など)を使って製剤化される。この薬剤の投薬レベルは、セレクチン
を阻止することによって、とくにその患者におけるL−セレクチン媒介性接着事
象を阻止することによって、抗炎症作用を与えるに足りるだろう。
本発明の組成物および方法は、セレクチン、とくにL−セレクチン媒介性接着
が増大した炎症反応を伴う任意の状態の治療に適している。したがってこの薬剤
は、組織拒絶、関節炎、感染(とくに局所感染)、皮膚炎、炎症性腸疾患、自己
免疫疾患などの状態の治療に有用である。
本発明組成物の「有効なレベル」とは、その治療を受ける患者に何らかの改善
が与えられるようなレベルを意味する。「異常な」宿主炎症状態とは、その対象
のある部位における炎症のレベルが、その対象の健康な医学的状態に関する規範
を超えていること、または望ましいレベルを超えていることを意味する。「2次
的な」組織損傷または毒性効果とは、過剰なセレクチン(とくにL−セレクチン
)接着事象(身体のどこかほかの場所での「1次」刺激の結果であるものを含む
)が存在するために、そのほかの点では健康な組織、器官およびその中の細胞に
起こる組織損傷または毒性効果を意味する。
本発明の組成物を患者に注入すると、セレクチン発現白血球の「回転」能力、
したがって内皮に対する結合能力が低下し、それゆえにそのような細胞の炎症部
位に対する接着および内皮に対する集中的な損傷が予防または
阻害され、したがって冒された組織または細胞への望ましくない白血球の移行ま
たは流入が予防されると考えられる。
したがって本発明の薬学的組成物は、患者の天然セレクチン(とくにL−セレ
クチン)がその患者内の当該セレクチンの生物学的標的(具体的には内皮細胞)
に結合するのを(完全にまたは部分的に)中和するに足る量で投与される。
本発明のセレクチン結合性炭水化物および組成物の投与量と投与法は、関節炎
、組織損傷および組織拒絶などの炎症関連傷害を治療する臨床分野の通常の当業
者によって容易に決定されうる。一般的には、本発明組成物の投与量は、使用す
る合成炭水化物のタイプ、年齢、健康状態、治療される医学的状態、併用治療が
あればその種類、治療の頻度、望まれる効果の性質、組織損傷の程度、性別、症
状の持続時間、もしあれば反適応症、および個々の医師が調節すべきそのほかの
可変的要因などといった点に依存して変動するだろう。所望の結果をうるために
、所望の投与量を1回でまたは複数回で投与することができる。
実施例6
直鎖状ポリラクトサミン骨格を持つ4価sLexグリカンの合成と特徴づけ
(本実施例で使用する合成経路の概略を図9に示す。また太字の番号は図9中の
グリカン構造に対応する)
材料と方法
8糖グリカン12の合成
6糖LacNAcβ1−3’LacNAcβ1−3’LacNAcをUDP−
GlcNAcおよびラット血清中に存在する中心作用性のβ1,6−GlcNA
cトランスフェラーゼ(GlcNacからGalへ)(Guら,.Biol.Chem.,267
:2994-2999(1992))とともにインキュベートすることにより、その6糖を2つの
β1,6結合GlcNAc分枝で修飾した。えられたグリカン12をクロマトグ
ラフィーによって精製し、分解実験と1H−NMRおよびMALDI−TOF質
量分析法によって詳細に特徴づけた。1
H−NMR分光法
NMR実験に先立って、糖類を2H2Oから2回凍結乾燥した後、600mlの2
H2O(99.996%、ケンブリッジ・アイソトープ・ラボラトリーズ(Camb
ridge Isotope Laboratories)、マサチューセッツ州ウォーバーン(Wourn
)、米国)に溶解した。このNMR実験はバリアン・ユニティー 500分光計
を用いて23℃で行なった。プロトンスペクトルの記録には、WEFTシーケン
スの変法(Hardら,Eur.J.Biochem.,209:895-915(1992))を使用した。1H化学
シフトはアセトン2.225ppmを基準にした。
マトリックス補助レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析法
MALDI−TOF質量分析は、加速電圧5kV、検出器での後段加速4kV
で作動するフィニガン・ビジョ
ン(Finnigan Vision)2000飛行時間型装置(サーモ・バイ
オアナリシス・リミテッド(Thermo BioAnalysis,Ltd.
)、ヘメル・ヘムステッド(Hemel Hemstead)、英国)で、窒素
レーザー(337nm)からの照射と、マトリックスとしての2,5−ジヒドロ
キシ安息香酸とを用いて、陽イオン反射モードで行なった。外部標準を使用した
。質量の割り当ては、とくに明記しない限り平均質量値として報告する。
トランスフェラーゼ反応
ブタ胃β1,6−GlcNAcトランスフェラーゼ(Pillerら,J.Biol.Chem
.259:13385-13390(1984))、ウシ乳汁β1,4−ガラクトシルトランスフェラ
ーゼ(Brewら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,59:491-497(1968))、ヒト血清β1,
3−GlcNAcトランスフェラーゼ(YatesおよびWatkins,Carbohydr.Res.12
0:251-268(1983))、ヒト胎盤α2,3−シアリルトランスフェラーゼ(Nemansk
yおよびvan den Eijnden,Glycoconjugate J.,10:99-108(1993))およびヒト乳
汁α1,3−フコシルトランスフェラーゼ(Eppenberger-Castoriら,Glycoconju
gate J.,6:101-114(1989);Natunenら,Glycobiology,4:577-83(1994))を用い
る反応は、本質的に既述のごとく行なった(Maaheimoら,Eur.J.Biochem.,234:
616-625(1995))。
クロマトグラフィー法
スーパーデックス 75HR(ファルマシア、スウェ
ーデン)によるゲル浸透クロマトグラフィーは2つの連続カラム(10×300
mm)を使用し、0.5ml/分にて水(中性糖類)または0.05M NH4
HCO3(シアル酸含有糖類)で行なった。流出液を214nmで監視し、オリ
ゴ糖を外部GlcNAcおよびNeu5Acと対照して定量した。
陰イオン交換クロマトグラフィーについては、モノQ(5/5)カラム(ファ
ルマシア)を1ml/分の速度で、最初は水で無勾配的に4分間溶出し、つぎに
8分間で0Mから0.05M NaClに至る直線勾配で溶出し、最後に8分間
で0.05Mから0.5M NaClに至る直線勾配で溶出した。
パルス電流検出による高pH陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC−
PAD)は、(4×250mmの)ジオネックス・カルボパック(Dionex
CarboPak)PA−1カラムを用い、1ml/分の流速で、最初は10
0mM NaOH中の100mM酢酸ナトリウムで無勾配的に5分間行い、つぎ
に55分間で100mM NaOH中の100mM酢酸ナトリウムから200m
M酢酸ナトリウムに至る直線勾配で行なった。集めた画分を0.4M酢酸水溶液
で中和し、スーパーデックス HR75でのゲル浸透クロマトグラフィーを用い
て脱塩した。
エキソグリコシダーゼ消化
A.ウレアファシエンスシアリダーゼ(ベーリンガー、マンハイム(Mannheim
)、ドイツ)による切断については、糖試料を80mUの当該酵素とともに40
μlの1
00mM酢酸ナトリウムpH5.0中で一晩インキュベートした。タチナタマメ
β−ガラクトシダーゼとのインキュベーションは既述のごとく行なった(Renkone
nら,Glycoconjugate J.6:129-140(1989))。β−ガラクトシダーゼの並行反応
において、2糖の(3H)Galb1−4GlcNAcが完全に分解されて、(3
H)Galが遊離された。
直鎖ポリラクトサミン骨格を持つ4価sLexグリカン(グリカン17)の酵素
的合成
この5段階合成は、オクタマーポリラクトサミンLacNAcβ1−3’(G
lcNAcβ1−6’)LacNAcβ1−3’(GlcNAcβ1−6’)L
acNAc(12)から出発した。
8糖12(150nmol)をまずβ1,3−GlcNAcトランスフェラー
ゼ反応で伸長した。9糖13といくつかの未反応12をスーパーデックス 75
HRクロマトグラフィーによって混合物として単離し、それをそのまま、ブタ胃
粘膜由来のβ1,6−GlcNAcトランスフェラーゼによって触媒される反応
に供した。エられたオリゴ糖はマトリックス補助レーザー脱離/イオン化飛行時
間型(MALDI−TOF)質量分析で、GlcNAc7Gal3(48%)とG
lcNAc6Gal3(23%)からGlcNAc4Gal2(2.6%)までの範
囲にわたる5成分を示した。この複雑な(complex)混合物は、ブタ胃粘
膜の未精製のβ1,6−GlcNAcトランスフェラーゼ抽出物中に存在するこ
とが知られているβ−ガラクトシダーゼ活性とβ−N
−アセチルグルコサミニダーゼ活性によって著しく生成した(Helinら,FEBS Let
t.,335:280-284(1993))。この生成混合物のスーパーデックス 75HRクロマ
トグラフィーでは、2つの充分に分離したピークがえられた(非掲載)。MAL
DI−TOF質量分析によると、60.94分に溶出する主ピークは2つの主要
成分:GlcNAc7Gal3(計算値m/z 1949.8)に相当する(M+
Na)+ m/z 1949.5(65%)とGlcNAc6Gal3(計算値m
/z 1746.6)に相当する(M+Na)+ m/z 1746.7(30
%)を有していた。62.94分の小ピークの質量スペクトルの分子イオン領域
で最も豊富なイオンは(M+Na)+ m/z 1380.5(モノアイソトピ
ック(monoisotopic))であり、これは、それが主として(70%
)GlcNAc5Gal2(計算値モノアイソトピックm/z 1380.5)を
含有することを示した。モノアイソトピックm/z 1177.4、1542.
5および1746.0の低存在量ピークは、それぞれGlcNAc4Gal2、G
lcNAc5Gal3およびGlcNAc6Gal3種(計算値モノアイソトピック
m/z 1177.4、1542.6および1745.6)に割り当てることが
できるだろう。スーパーデックス HR75実験では、2つのGlcNAc残基
を欠くGlcNAc5Gal3とグリカン14との間隔が約2分だった。
β1,4−ガラクトシルトランスフェラーゼ反応により、14を7つのLac
NAc単位の分枝状配列(array)である15に変換した。スーパーデック
ス 7
5HRクロマトグラフィーは、受容体5より2.2分早く現われる充分形のある
オリゴ糖ピークを示した(非掲載)。バイオゲル(Biogel)P−4カラム
でも、4つの追加ガラクトース残基が、2つの追加GlcNAc残基と同じぐら
いに、オリゴ糖の移動を遅らせる(Yamashitaら,Methods Enzymol.,83:105-126(1
982))。ガラクトシル化したオリゴ糖のMALDI−TOF質量スペクトルは、
GlcNAc7Gal7(グリカン15)の(M+Na)+(計算値m/z 25
98.4)に相当するm/z 2598.1のシグナル(65%)とGlcNA
c6Gal6の(M+Na)+(計算値m/z 2233.0)に相当するm/z
2233.0のシグナル(35%)を示した。
α2,3−シアリルトランスフェラーゼ反応により、15を16に変換し、後
者の濃縮物をスーパーデックス 75HRによるゲル浸透クロマトグラフィーに
よって単離した(非掲載)。さらに精製するため、その濃縮物をモノQカラムに
よる陰イオン交換クロマトグラフィーに供した(図10A)。これらの実験では
、グリカン16が、実施例2に記載の異性体テトラシアログリカン9と同様のク
ロマトグラフを与えた。スーパーデックス75HRで脱塩した後、45nmol
の純粋なグリカン16をえた。グリカン16の1H−NMRスペクトル(図11
Aと表5)により、その構造が確認される。
少量のグリカン16試料をカルボパック(CarboPac)PA−1のジオ
ネックス(Dionex)カラムによるHPAE−PADクロマトグラフィーに
供した。これは、実施例2に記載の異性体テトラシアロ化合物8
と同等の位置である43分に現われた(非掲載)。
α1,3−フコシルトランスフェラーゼ反応により、グリカン16(38nm
ol)を4価sLex糖17に変換した。17の予備精製はスーパーデックス
75HRでのクロマトグラフィーによって行なった。続いてカルボパック PA
−1カラムでHPAEクロマトグラフィーを行うことにより、8分に現われる充
分形のあるピークとして8をえた(図10B)。4つのフコシル残基の存在は、
カルボパック PA−1に対するグリカン17の親和性を、グリカン16と比較
して劇的に減少させた。これは、フコシル化された糖類の特徴であることが知ら
れている(Hardy,M.R.およびTownsend,R.R.,Carbohydr.Res.,188:1-7(1989))。
4価sLexグリカン9(表2参照)を用いる並行実験により、グリカン9とグ
リカン17の試料各1nmolがカルボパック PA−1で9分に同時溶出する
ことがわかった。グリカン9のトリフコシル類似体(実施例2に記載のグリカン
10)はこれらの実験でははるかに遅く16分に現われた。スーパーデックス
75HRカラムで脱塩することにより、24nmolのグリカン17をえた。
表5:23℃でのグリカン16および17の構造レポーター基シグナルの
1H−NMR化学シフトa)残基の数値付けは以下のようにする:
b)2つの化学シフト値がグリカンのαピラソース型およびβピラソース型を
表わすシグナルから生じた。
グリカン17の構造的特徴づけ
グリカン17の1H−NMRスペクトル(図11Bおよび表5)により、その
構造が確認される。還元末端GlcNAcのほかに、3つのβ1,3結合Glc
NAc残基のH−1シグナルが4.684〜4.696ppmに認められ、それ
には4.603ppmの3つのβ1,6結合GlcNAc単位のH−1シグナル
が付随している。6つのGlcNAc残基は、3位と6位がGlcNAc単位で
2置換されているガラクトースのH−4に特有の化学シフト4.133ppm(
Koendermanら,Eur.J.Biochem.,166:199-208(1987))にH−4共鳴を示す3つ
のガラクトースに結合している。ガラクトースH−1領域は、4.452ppm
に3つの分枝状ガラクトースのシグナルを、4.517ppmに3つのβ1,6
結合sLex決定基のシアリル化されたガラクトースのシグナルを、そして4.
533ppmにβ1,3結合sLexのシグナルを示す。これらのガラクトース
のH−3シグナルは特徴的に(KamerlingおよびVliegenthart,Biological Magne
tic Resesonance,BerlinerおよびReuben編,第10巻,Plenum Press,ニューヨ
ークおよびロンドン(1992),1〜287頁)4.089ppmにある。それぞれ
2.762ppmと1.798ppmにあるNeu5AcのエクアトリアルH−
3共鳴とアキシアルH−3共鳴から、4当量のα2,3結合Neu5Acの存在
が確認される(KamerlingおよびVliegenthart,Biological Magnetic Resesonanc
e,BerlinerおよびReuben編,第10巻,Plenum Press,ニューヨークおよびロン
ドン(1992),1〜287頁)。2.04ppmにあるメチル
プロトンのシグナルは、11個のN−アセチル基の存在に対応した。β1,3結
合sLex決定基中のフコース残基のH−1が5.119ppmで共鳴したのに
対し、3つのβ1,6結合sLex単位のものは5.076ppmで共鳴した。
これらフコースのH−5シグナルとH−6シグナルは特徴的に(de Vriesら,FE
BS Lett.,330:243-248(1993);Vliegenthartら,Adv.Carbohydr.Chem.Biochem.
,41:209-374(1983))それぞれ4.820ppmと1.166ppmで共鳴した
。H−1プロトンとH−6プロトンの積分値は、4つのフコースの存在を示した
。
グリカン17中に4つのフコース残基が存在することは、分解実験とその後の
MALDI−TOF質量分析によって確認された。グリカン17の試料(2nm
ol)をアースロバクテリウム・ウレアファシエンスシアリダーゼで処理した。
脱塩した反応混合物をモノQクロマトグラフィーに供したところ、1nmolの
中性アシアロオリゴ糖18が生成していることが明らかになった。グリカン18
のMALDI−TOF質量スペクトルには、ポリラクトサミンシグナルの80%
に相当する主要(M+Na)+ピークがm/z 3182.8に認められた(F
uc4Gal7GlcNAc7に関する計算値3182.9)。そのスペクトル中
に認められる2つの副成分は、Fuc3Gal7GlcNAc7(12%)とFu
c3Gal6GlcNAc6(8%)のように挙動した。無傷の8を繰返しカルボ
パック PA−1でのHPAE−PADクロマトグラフィーにかけたが、Neu
5Ac4Fuc3Gal7GlcNAc7の予想位置付近
の16分に溶出する有意な量の物質は認められなかったので、これらのマイナー
シグナルは脱シアリル化中または質量分析中に生成した分解産物であろう。
グリカン18はタチナタマメβ−ガラクトシダーゼ処理に耐性を示した。MA
LDI−TOF質量スペクトルは変化せず、主成分として処理前にm/z 31
82.8に観測されたFuc4Gal7GlcNAc7(M+Na)+シグナル(計
算値m/z 3182.9)が処理後もm/z 3183.2に主成分として観
測された。β−ガラクトシダーゼ耐性は末端Galb1−4(Fucal−3)
GlcNAc配列の特徴である(Kobata,Anal.Biochem.,100:1-14(1979))。し
たがって、グリカン17中のフコース残基はすべて、末端に位置するシアリル化
されたN−アセチルラクトサミン単位に結合していた。このデータは、ヒト乳汁
由来のα1,3−フコシルトランスフェラーゼが6’位に分枝を持つLacNA
c残基とは反応しないことを示す過去の発見を追認し、
,12:36-44(1995);Maaheimo H.ら,Eur.J.Biochem.,234:616-625(1995);Seppo
A.ら,Glycobiology,6:65-71(1996))。
実施例7
内皮に対するL−セレクチン依存性リンパ球接着の阻害剤として直鎖状または分
枝状ポリラクトサミン骨格から誘導される4価sLexグリカン
移植とリンパ球接着アッセイ
同系交配のWF(RT1v)系統とDA(RT1a)
系統の10〜12週齢ラットを、実施例1に記述したように、移植とリンパ球接
着アッセイに使用した。この結合アッセイは、異なる日に行なった3つの実験か
らなる。各実験では、所定の濃度の糖類の存在下に、拒絶性心臓の6つの独立し
た切片とともにリンパ球をインキュベートした。
L−セレクチン媒介性リンパ球接着の阻害
並行実験として、4価sLexグリカン9と17およびその非フコシル化類似
体、グリカン8とグリカン16の能力を、急性拒絶中の心臓内皮に対するL−セ
レクチン依存性リンパ球接着の阻害に関して比較した。リンパ球を様々な濃度の
オリゴ糖とともに30分間プレインキュベートした後、実施例1に記載のインキ
ュベーション培地中でのスタンパー−ウッドラッフ結合アッセイに使用した。
2つのsLex担持グリカン9と17は、活性化した心臓上皮に対するリンパ
球接着の阻害に有効であり、そのIC50値はどちらのsLexグリカンについて
も1nM程度だった(図12)。同じ電荷、同じ全体的構造およびほぼ同じ大き
さを持つが、フコースを欠くきわめて重要な対照糖類8と16は、リンパ球結合
をバックグランドレベルから変化させなかった。このデータは、分枝状および直
鎖状の4価sLexグリカンがともに、きわめて効率よく内皮に対するL−セレ
クチン依存性リンパ球接着を阻害し、それによって拒絶に関係する炎症を減少さ
せることを示している。
直鎖状骨格グリカン17の生物学的特性は、その異性
体である分枝状骨格グリカン9の生物学的特性と似ていた。これらのグリカンは
どちらもスタンパー−ウッドラッフ接着実験においてきわめて強力なL−セレク
チン拮抗剤だった。グリカン17は0.5nMに及ぶ阻害作用を示し、グリカン
9も同等に強力なL−セレクチン拮抗剤だった(図12参照)。17と9がとも
にL−セレクチンに対する高親和性結合を示すことが注目される。これは、様々
な起源のムチン類の部分集合が高親和性セレクチンリガンドであることを示すの
データ(Crottetら,Glycobiology,6:191-208(1996))と類似している。明らか
に、独特な骨格配列も厳密に規定された結合決定基も、L−セレクチンによる高
親和性認識には必要でない。むしろ、ポリラクトサミンまたはポリペプチド性の
骨格上に「正しく提示された」sLex/sLea関連決定基の集団(クラスタ
ー)が重要なのである。本実施例において、グリカン17と9の活性は、結合決
定基中の完全なsLex配列の存在に完全に依存した。認識にはα1,3結合フ
コース残基の存在が必要だった。
ここに報告する多価sLexグリカンの低いnM濃度範囲は、1価sLexの
阻害範囲よりも数桁低い。従来の他のL−セレクチン高親和性阻害剤には、内皮
そのほかに由来するムチンがある(Baumhueter,S.ら,Science,262:436-438(199
3);Berg,E.L.ら,Nature 366:695-698(1993);Crottet,Pら,Glycobiology,6:19
1-208(1996);Hemmerich,S.ら,Biochemistry 33:4820-4829(1994);Hemmerich,S.
ら,J.Biol.Chem.,270:12035-12047(1995);Hemmerich,S.およびRosen,S.D.,Bio
chemistry 33:4830-4835(1994);Imai,Y.およびRosen,S.D.,Glycoconjugate
J.,10:34-39(1993);Imai Y.ら,J.Cell Biol.113:1213-1222(1991);Lasky,L.A.
ら,Cell 69:927-938(1992))。興味深いことに、ホウ水素化アルカリによって
これらのムチンから遊離されるO−結合型オリゴ糖は、アフィニティークロマト
グラフィー実験でL−セレクチンに対して検出しうる結合を示さなかった(Crot
tetら,Glycobiology,6:191-208(1996))。しかし本発明のデータは、適切な構
造のオリゴ糖がL−セレクチンによって高い親和力で認識されうることを示して
いる。
グリカン17と9の1価sLexと比べて高い生理活性は、その多価性に基づ
いている。多価sLexグリカンは、リンパ球微絨毛の先端にクラスターを形成
することが知られているL−セレクチンの2分子または数分子を架橋する(Hass
len,S.R.ら,Histochem.J.,27:547-554(1995);von Andrianら,Cell 82:989-9
99(1995))。
L−セレクチンの分節的な柔軟性は、炭水化物認識ドメインの提示に役立ち(Ro
sen,S.D.およびBertozzi,C.R.,Curr.Opin.Cell Biol.,6:663-673(1994))、そ
れゆえに、与えられたリガンド分子における個々のsLex決定基の付近でも架
橋形成が可能になる。たとえば9の2つのsLex決定基の近位末端は、そのポ
リラクトサミン骨格を最大に広げたコンフォメーションでさえ、せいぜい2nm
しか離れてない(Renouf,D.V.およびHounsell,E.F.,Int.J.Biol.Macromol.,15:37
-42(1993))。しかし、細胞表面に対する高親和性結合が、可溶性モノマー型P−
セレクチン(Ushiyama,S.ら,J.Biol.Chem.,268:15229-15237(1993))とE−セ
レクチン(Hensley,P.ら,J.Biol.Chem.,269:23949-23958(1994))で観測さ
れており、このことは、多価sLexグリカンが1つのL−セレクチンモノマー
内の2つの異なる部位と結合することによってその高親和性を獲得することを示
している。さらに、最近のデータ(Malhotra,R.ら,Biochem.J.,314:297-303(1
996))は、L−セレクチンとその内皮リガンドの相互作用には、1価であるsL
ex認識部位(CRS)と、酸性決定基を認識する別個の隣接する結合部位(A
RS)が両方とも占有される必要があることを示唆している。この配置は、シア
リル化されたオリゴ糖のすぐ近くにチロシン硫酸残基を伴い、PSGL−1にP
−セレクチン認識を生じさせる、集合パッチに似ている(Sako,D.ら,Cell,83:
323-331(1995);Wilkins,P.P.ら,J.Biol.Chem.,270:22677-22680(1995))。し
たがって、4価sLexグリカン17と9は、モノマー型L−セレクチンを2通
りの方法、すなわち1つのsLex決定基とCRSの間の特異的結合と、そのリ
ガンド中のもう1つのsLex残基のシアル酸とL−セレクチンのARSの間の
特異性の低い結合で、モノマー型L−セレクチンに結合する。これには、たとえ
ばテトラシアログリカン16の部分的にフコシル化された誘導体でさえ、とりわ
け良好な接着阻害剤であることが必要である。その結合様式がどうであれ、グリ
カン17や9を典型例とするL−セレクチンの糖類拮抗剤は、セレクチンのムチ
ンリガンドやネオ糖タンパク質リガンド(Welply,J.K.ら,Glycobiology,4:259
-265(1994))よりも抗原性がはるかに低いので、これらは有望な抗炎症剤である
。
L−セレクチン媒介過程に加えて、グリカン17と9は、ほかのセレクチンが
関与する接着現象をも阻害する。
たとえばNelsonらのデータ(Nelson,R.M.ら,Blood 82:3253-3258(1993)
)は、E−セレクチン依存性接着がsLex糖類によって、L−セレクチン媒介
過程よりもさらに効率よく阻害されうることを示している。
実施例8
オリゴ糖アルジトールの合成と特徴づけ
(太字の番号は図13中のグリカン構造に対応する)
材料と方法
酵素
ブタ胃β1,6 N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(EC 2
.4.1.148)、ウシ乳汁β1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(EC
2.4.1.90)、ヒト血清β1,3 N−アセチルグルコサミニル−トラ
ンスフェラーゼ(EC 2.4.1.149)、ヒト胎盤α2,3シアリルトラ
ンスフェラーゼおよびヒト乳汁α1,3/4−フコシルトランスフェラーゼ。
糖類および単糖ヌクレオチド
Galβ1−3GalNAc、UDP−GlcNAc、UDP−Gal、CM
P−NeuAcおよびGDP−Fucはシグマ(ミズーリ州セントルイス、米国
)から購入した。
NeuAcα2−3Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAc(シアリ
ルLeX)1とNeuAcα2−3Galβ1−4(Fucα1−3)GlcN
Acβ1
−3(NeuAcα2−3Galβ1−4(Fucα1−3)GlcNAcβ1
−6)Galβ1−4GlcNAc 4は、実施例2に記述したようにin vitro
で酵素的に合成した。
トランスフェラーゼ反応
ブタ胃β1,6 N−アセチルグルコサミニルトランスフェラーゼ(EC 2
.4.1.148)(Seppo,A.ら,Biochem.Cell Biol.68:44-53(1990))、ウ
シ乳汁β1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ(EC 2.4.1.90)(
シグマ)(Brew,K.ら,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 59:491-497(1968))およびヒト
血清β1,3 N−アセチルグルコサミニル−トランスフェラーゼ(EC 2.
4.1.149)(Seppo,A.ら,Biochem.Cell Biol.68:44-53(1990))を用い
る反応は、本質的には引用した文献に記述されているように行なった。
α2,3シアリルトランスフェラーゼ活性を含有する、使用したヒト胎盤ミク
ロソームは、実施例2に記述したように調製した。このトランスフェラーゼ反応
は、50μlの緩衝液中で、100nmolの糖類(受容部位200nmolに
相当)を2μmolのCMP−NeuAcおよび25μlのヒト胎盤ミクロソー
ムとともに37℃で17時間インキュベートすることにより行なった。沸騰水浴
中で5分間加熱することによって反応を停止した。沈澱したタンパク質を除去し
、合わせた上清と洗浄液を凍結乾燥した。
α1,3/4−フコシルトランスフエラーゼ(8mU/mlの総フコシルトラ
ンスフェラーゼ;0.79mg
/mlのタンパク質)は、実施例2に記述したようにヒト乳汁から抽出し、その
トランスフェラーゼ反応は既述のごとく行なった(Palcic,M.M.ら,Carbohydr.R
es.190:1-11(1989))。
4糖Galβ1−4GlcNAcβ1−6(Galβ1−3)GalNAc(
22)の還元は、本質的に既述のごとく(RasiloおよびRenkonen,Hoppe Seyler'
s Z.Physiol.Chem.363:89-93(1982))、NaBH4を用いて行なった。この反応
の完全性は、ホウ酸塩を含有しない糖を1H NMRにかけることによって制御
した。
クロマトグラフィー法
バイオ−ゲル P−2(バイオ−ラッド、カリフォルニア州リッチモンド、米
国)のカラム(1×144cm)またはバイオ−ゲル P−4のカラム(1×1
45cm)によるゲル浸透クロマトグラフィーは、0.02% NaN3水溶液
を用いて行なった。
スーパーデックス 75HRのカラム(10×300mm)(ファルマシア、
スウェーデン)によるゲル浸透クロマトグラフィーは、1ml/分にて水(中性
糖類)または0.05M NH4HCO3(シアル酸含有糖類)で行なった。流出
液を205nmまたは214nmで監視し、オリゴ糖を外部のGlcNAcとN
euAcと対照して定量した。
パルス電流検出による高pH陰イオン交換クロマトグラフィー(HPAEC−
PAD)は、(4×250mmの)ジオネックス・カルボパック PA−1カラ
ムを用い、1ml/分の流速で行なった。中性糖類は、既述の
ように(Maaheimo,M.ら,FEBS Lett.349:55-59(1994))クロマトグラフィーに
かけた。シアリル化された糖類は0分の100mM NaOH、25mM Na
Acから20分の最終組成100mM NaOH、100mMNaAcに至るN
aAcの直線勾配で溶出させた。集めた画分を0.4M酢酸で中和し、スーパー
デックス クロマトグラフィーで脱塩した。
モノQ(5/5)カラム(ファルマシア)での陰イオン交換クロマトグラフィ
ーはつぎのように行なった。このカラムは1ml/分の速度で、水で無勾配的に
4分間溶出し、つぎに12分時点で0.05Mの濃度に至るNaClの直線勾配
で溶出し、つぎに20分時点で0.5Mの最終濃度に至るNaClの直線勾配で
溶出した。流出液を214nmで監視した。1
H−NMR分光法
NMR実験に先立って、糖類を2H2Oから2回凍結乾燥した後、600μlの2
H2O(99.996原子%,ケンブリッジ・アイソトープ・ラボラトリーズ、
マサチューセッツ州ウォーボーン、米国)に溶解した。このNMR実験は、バリ
アン・ユニティー 500分光計を用い、300°Kで行なった。IDプロトン
スペクトルの記録には、WEFTシーケンスの変法(Hard,K.ら,Eur.J.Biochem
.209:895-915(1992))を使用した。重複する共鳴はDQFCOSY(Marionお
よびWhthrich,Biochem.Biophys.Res.Commun.117:967-974(1985))とTOCSY
(BaxおよびDavis,J.Magn.Reson.65:355-360(1985))によって割り当てた。こ
れらの実験では、通例、
4k×512ポイントの行列を集め、フーリエ変換に先立って両次元で90°シ
フトサイン−ベル重み関数を使用した。スキャン間に1秒の緩和遅延時間を使用
し、T0CSYでは80〜300msのスピンロック時間(MLEV−17)を
使用した。1H化学シフトは内部アセトン2.225ppmを基準とした。
オリゴ糖アルジトールの合成
6糖アルジトールGlcNAcβ1−3(GlcNAcβ1−6)Galβ1
−4GlcNAcβ1−6(Galβ1−3)GalNAc−オール24は、既
述のごとく合成した(Maaheimo,H.ら,FEBS Lett.349:55-59(1994))。
8糖アルジトール25
6糖アルジトール24を、ウシ乳汁β1,4ガラクトシルトランスフェラーゼ
および4倍モル過剰のUDP−Galとともにインキュベートすることにより、
ガラクトシル化した。8糖アルジトール生成物Galβ1−4GlcNAcβ1
−3(Galβ1−4GlcNAcβ1−6)Galβ1−4GlcNAcβ1
−6(Galβ1−3)GalNAc−オール25をHPAECで精製した(図
14A)。数回の反応で400nmolの25をえた。24の1H−NMRスペ
クトルと比較すると、25のスペクトルのアノマー領域は、4.480ppmと
4.465ppmに2つの新しい1プロトン二重線を示した(図15A)。本発
明者らが先に行なった部分的にガラクトシル化された24の割り当てによれば(
Maah
eimo,H.ら,FEBS Lett.349:55-59(1994))、これらはそれぞれ残基7と8に割
り当てることができる(表記規則については図13を参照のこと)。末端Glc
NAc残基5および6のH−3およびH−4共鳴も、β1,4ガラクトシル化の
特徴(Whitfield,D.M.ら,Can.J.Chem.68:942-952(1990))である劇的な低磁場
シフトを受ける(表6)。興味深いことに、GlcNAc残基3のH−1とH−
2も、末端GlcNAc残基がガラクトシル化されると、わずかな高磁場シフト
を受ける。
ジシアロ10糖アルジトール26
ジシアリル10糖アルジトール26を合成するために、25のバッチ4つ(各
100nmol)を37ECで17時間、2μmolのCMP−NeuAcおよ
びα2,3シアリルトランスフェラーゼ活性を含有する25μlのヒト胎盤ミク
ロソームとともにインキュベートした。つぎにその反応混合物をモノQ 5/5
カラムでのイオン交換クロマトグラフィー(図14B)で分画し、ジシアリルオ
リゴ糖と同様に溶出する生成物(26)をスーパーデックス 75クロマトグラ
フィーで脱塩した。この物質のNMRスペクトル(図15B)は、それぞれ2.
756ppmと1.800ppmにNeuAcのアキシアルH−3とエクアトリ
アルH−3のシグナルを示し、両シグナルの面積は2プロトンに相当した。これ
らの化学シフトはα2,3結合したNeuAcに特有であるが(Kamerlingおよ
びVliegenthart,Biological Magnetic Resesonance,BerlinerおよびReuben編
、第10巻、Plenum Press,ニューヨークおよびロンドン(1992),1〜
287頁)、2.71ppmまたは1.74ppmには何のシグナルも検出され
ず、α2,6結合したNeuAcは試料中に検出しうる量で存在しないことが示
された。ガラクトース7および8のH−3共鳴の大きな低磁場シフト(表6)か
らも、NeuAc残基が末端ガラクトースにα2,3結合していることが確認さ
れる(Ichikawa,Y.ら,J.Am.Chem.Soc.114:9283-9298(1992))。ガラクトース2
の共鳴は事実上影響を受けなかったので、コアのβ1,3結合ガラクトースはシ
アリル化されなかった(Oehrlein,R.ら,Carbohydr.Res.244:149-159(1993))
。したがってこのNMRデータによれば、この物質の構造はNeuAcα2−3
Galβ1−4GlcNAcβ1−3(NeuAcα2−3Galβ1−4Gl
cNAcβ1−6)Galβ1−4GlcNAcβ1−6(Galβ1−3)G
alNAc−オール26である。4回の反応で、357nmolの26をえた。
表6
300Kでの糖19〜28の1H化学シフト糖の番号および特記事項については図13を参照のこと。
a)n.d.測定不能
ジシアリル10糖アルジトール26のモノ−およびジ−フコシル化によるアルジ
トール27および28の合成
26の試料347nmolを、700nmolのGDP−Fucと625μU
のヒト乳汁α1,3フコシルトランスフェラーゼとを用いるトランスフェラーゼ
反応に供した。その反応混合物を37℃で64時間インキュベートし、その混合
物をスーパーデックス 75カラムに通すことによって反応を停止した。フコシ
ル化の程度をNMRで調べたところ、5.086ppmと5.117ppmの2
つの二重線(付加されたフコースのH−1共鳴)の積分値から、分枝のうちの一
方は100%フコシル化されたが、他方は約40%しかフコシル化されていない
ことがわかった(非掲載)。ジフコシル化された物質の量を最大にするため、そ
の混合物を、600nmolのGDP−Fucと540μUの上記酵素を用いる
2回目のフコシルトランスフェラーゼ反応に供した。つぎに、えられたモノ−お
よびジ−フコシル化アルジトールの混合物をHPAECで分画したところ、ジ−
およびモノ−フコシル化された生成物、それぞれ28(125nmol)と27
(60nmol)に相当する2つのピークが現われた(図14C)。
フコシル化された糖アルジトール27および28の1H−NMRによる特徴づけ
モノフコシル化された物質のスペクトル(図15C)のアノマー領域を26の
もの(図15B)と比べると、5.116ppmに新しい1プロトン二重線が現
われ、一方、ジフコシル化された物質のスペクトル(図15D
と図17)は5.117と5.086に2つの二重線を示した。これらは付加さ
れたフコースのH−1共鳴である。モノフコシル化されたグリカンの構造は、部
分的にフコシル化されたNeuAcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−
3(NeuAcα2−3Galβ1−4GlcNAcβ1−6)Galβ1−4
GlcNAcからえたNMRデータ(この場合、3−結合側鎖に結合したフコー
スのH−1は5,116ppmで共鳴するが、6−結合側鎖に結合しているもの
はより高磁場で共鳴する)と比較することによって確認された。したがって、こ
のモノフコシル化グリカン中のフコース(5.116ppm)はGlcNAc残
基5にα1−3結合していると結論した。フコースが実際に3−結合側鎖に結合
したことは、β1,3結合GlcNAc(5)のH−1共鳴がわずかに低磁場シ
フトし、β1,6結合GlcNAc(6)のH−1シグナルが変化しなかったこ
とによってもわかった。ガラクトース7とNeuAc 9の構造レポーター基シ
グナルも化学シフトに小さな変化を生じるが、残基8および10のものは変化し
ない。これらのデータは、モノフコシル化された物質の構造がグリカン27であ
ることを立証している。
ジフコシル化された物質28では、GlcNAc残基6(第2のフコースが結
合する残基)のH−1シグナルがほとんどシフトしない(4.606ppm対4
.608ppm)のに対して、コアGlcNAc(3)は4.561ppmから
4.552ppmに高磁場シフトする(表6)。しかし、2番目の付加フコース
が残基6に結合したことは、GlcNAc残基3および6のほかのプ
ロトンの割り当てによって確かめられた(図16と図17)。化学シフトを26
のものと比較すると、GlcNAc 3のH−2も多少高磁場側にシフトしてい
るのに対して、GlcNAc 6のH−2、H−3およびH−4は、α1−3フ
コシル化に特有の大きな低磁場シフト(Ichikawa,Y.ら,J.Am.Chem.Soc.114:92
83-9298(1992);Wormald,M.R.ら,Biochem.Biophys.Res.Commun.180:1214-1221(
1991))を受ける。モノフコシル化された物質中のフコースは残基5に結合した
ことがわかっているので、28の末端ガラクトース7および8のH−1共鳴を割
り当てることもできた。
実施例9
L−セレクチン媒介性リンパ球接着のアルジトール阻害(太字の番号は図13中
のグリカン構造に対応する)
0個、1個または2個の末端シアリルLeXモチーフを持つO−グリコシド分
枝状オリゴ糖(実施例8に記載のグリカン26、27および28)を、腎臓同種
移植片を拒絶する尿細管周辺毛細管内皮に対するL−セレクチン依存性リンパ球
接着の阻害剤として調べた。
同系交配のWF(RT1V)系統とDA(RT1a)4系統の10〜12週齢ラ
ットを、実施例1に記述したように、移植とリンパ球接着アッセイに使用した。
結合アッセイは、異なる日に行なった3回の実験からなる。各実験では、所定の
濃度の糖類の存在下に、拒絶性腎臓の3つの独立した切片とともにリンパ球をイ
ンキュベートし、インキュベートしたものすべてから20個の独立した視野を分
析した。
2つのシアリルLeX決定基を持つ12糖アルジトール28は、0.15μM
のIC50を持ち、拒絶性ラット腎臓の内皮に対するL−セレクチン依存性リンパ
球接着の有効な阻害剤であることがわかった(図18)。同時に、3−結合側鎖
のみがフコシル化されているグリカン27はこれよりかなり弱い阻害剤であり、
どちらのフコースも持たないグリカン26は事実上阻害活性を持たなかった。こ
れらの結果は、正味の電荷が2価シアリルLeXグリカン類のL−セレクチンに
対する増大した親和性の説明にはならないことを示しているが、それと同時に、
既に示されているように(Turunen,J.P.ら,J.Exp.Med.182(4):1133-1141(1995
);Imai,Y.ら,Glycobiology 2:373-381(1992);Mulligan,M.S.ら,Nature 364
:149-151(1993))、フコース部分がセレクチンに対するオリゴ糖の結合に重要で
あることをも強調している。E−セレクチンに対する高い親和性は、既に2価シ
アリルLeXグリカン(DeFrees,S.A.ら,J.Am.Chem.Soc.115:7549-7550(1993);
DeFrees,S.A.ら,J.Am.Chem.Soc.117:66-79(1995))と、BSAと結合したシア
リルLeX(Welply,J.K.ら,Glycobiology 4:259-265(1994))で実証されており
、またL−セレクチンについては2価および4価シアリルLeX構築物(Turunen
e,J.P.ら,J.Exp.Med.182(4):1133-1141(1995))で実証されている。
2価および多価オリゴ糖の増大した阻害力の物質的根拠はまだ明らかでない。
セレクチンはマルチマーとして出現するのではないかといわれているが(Rosen
およびBertozzi,Curr.Opin.Cell Biol.6:663-673(1994);Ushiyama,S.ら,J.Bio
l.Chem.268:15229-15237(1993))、こ
れは多価リガンドの高い親和性の説明となりうる。しかしグリカン28では、2
つのシアリルLeX決定基が1単糖部分のみで隔てられているので、マルチマー
型タンパク質が細胞表面に並んで存在するのだとすれば、それらのシアリルLeX
決定基がマルチマー型タンパク質の異なるサブユニットに独立して結合できる
可能性は低い。一方、3糖NeuAcα2−6Galβ1−4GlcNAcと特
異的に結合するB細胞シアル酸結合タンパク質CD22は、非共有結合的なオリ
ゴマーを形成し、その1価3糖よりも類似する2価グリカンに対して有意に高い
親和性を持つ(Powell,L.D.ら,J.Biol.Chem.270:7523-7532(1995))。
最近の研究では、DeFreesらが、ガラクトースによって連結された2つ
のシアリルLeX基の位置異性体によるE−セレクチン媒介性接着の阻害を研究
し、3,6−結合したシアリルLeXダイマーが最も強力な阻害剤であることを
発見した(DeFrees,S.A.ら,J.Am.Chem.Soc.117:66-79(1995))。著者らはその
結合親和性の増大を小さいと考えたが、Gravesらが指摘しているように、
E−セレクチンのx線構造はリガンドとしてのダイマー型シアリルLeXを排除
するものではない(Graves,B.J.ら,Nature 367:532-538(1994))。
3−結合側鎖にフコースを持つ1価シアリルLeXウンデカマー27の阻害能
力は、至適濃度で1価シアリルLeX4糖1(実施例2に記載)と同じだった(
図18)。このことは、グリカンのサイズが増大しても、自動的にL−セレクチ
ンに対する親和性が増大するわけではないことを示している。1価の6−結合シ
アリルLeX基
を持つ27の位置異性体の阻害能はわかっていない。原則として、2価グリカン
28では主として6−結合シアリルLeX基がセレクチンに結合し、親和性の増
大は単に2つの分枝の相違を反映しているに過ぎないのかもしれない。
E−セレクチンリガンドESL−1のN−グリカンはその結合に必要であると
最近報告されているが(Steegmaler,M.ら,Nature 373:615-620(1995))、L−
およびP−セレクチンの生物学的リガンドはほとんどがO−グリカンである(Sc
himizuおよびShaw,Nature 366:630-631(1993))。L−セレクチンの糖タンパク
質リガンドは、近接したシアリル化O−結合型オリゴ糖を多数保持しており(La
sky,L.A.ら,Cell 69:927-938(1992);Baumhueter,S.ら,Science 262:436-438(1
993);Berg,E.L.ら,Nature 366:695-698(1993);Norgard,K.E.ら,J.Biol.Chem.
268:12764-12774(1993))、これらは分枝状ポリ−N−アセチルラクトサミン骨
格と同様の方法で、セレクチンに末端シアリルLeX基を提示する。
ここでは、12糖アルジトール28の阻害能を、還元されたO−グリコシドコ
ア配列を欠くO−グリカン4(実施例2に記載)の阻害能と比較した。28は4
よりいくらか良好な阻害剤のようであったから、このコア配列はL−セレクチン
に対する親和性を増大させるのかもしれない。28では2つのシアリルLeX基
のフコース残基とガラクトース残基のNMRシグナルが異なる化学シフトを持つ
のに対して、2つのシアリルLeX基をガラクトースのエチルグリコシドに結合
した場合は、その分枝どうしの相違がきわめて小さい(DeFrees,S.Aら,J.
Am.Chem.Soc.117:66-79(1995))ということは注目に値する。これは28の近位
部分が末端シアリルLeX基の特性に影響を与えることを示している。したがっ
て28のコア構造は、L−セレクチンに対する親和性を増大させるが、その結合
に直接関与する必要はない。
完全なシアリルLeX含有O−グリカンの阻害効力がL−セレクチン依存性リ
ンパ球接着モデルで調べられたのは、これが初めてである。本発明者らは、2価
シアリルLeXO−グリカンが、一方または両方のフコースを欠くその類似体よ
りも、有意に優れた阻害剤であることを立証した。
実施例10
sLEXによるsLex陽性腫瘍転移の治療
炭水化物含有分子は、自己免疫疾患、炎症状態、消化性潰瘍、感染性疾患およ
び癌を含む多くの疾患状態に関連づけられている。実際、ヒト腫瘍細胞上の表面
炭水化物分子の変化に基づいて、黒色腫、神経膠腫、神経芽腫、乳房癌、膵臓癌
、肺癌、前立腺癌および腎臓癌を含む多くの腫瘍タイプについて、ヒト糖タンパ
ク質「癌抗原」を同定することが可能になっている。炭水化物結合タン4パク質
のレクチンファミリーのある要素は、乳房癌患者における転移と短い生存期間の
両方に強く関連づけられている。レクチンが結合するその炭水化物分子の末端糖
は、N−アセチルガラクトサミンであると同定されている。さらに、それと同じ
N−アセチルガラクトサミン糖は、前立腺癌細胞、胃癌細胞および結腸直腸癌細
胞を含むいくつかのほかの腫瘍タイプにも認められており、そ
れらはそれぞれに転移の増大または生存率の減少と関連づけられている(Hughes
,S.,Scrip,1994年4月,28〜31頁)。ほかの研究は、結腸癌腫細胞系が
一定のセレクチンにシアリルルイスxおよびシアリルルイスaオリゴ糖を介して
接着することを明らかにしている(Majuri,M.-L.ら,Int.J.Cancer 63:551-559
(1995);Majuri,M.-L.ら,Biochem.Biophys.Res.Comm.182(3):1376-1382(1992)
)。
したがって、本発明の合成多価sLex含有ポリラクトサミンを使用して、s
Lex陽性腫瘍細胞の転移を阻害することができる。簡単に述べると、そのよう
な腫瘍があると診断された患者を、多価sLex(たとえば4価sLex22糖
類)を含む組成物で治療する。この組成物は、天然のsLexに対するsLex
陽性腫瘍細胞の結合を阻止することによりsLex陽性腫瘍細胞の転移を阻害す
るに足る用量で、薬学的に許容しうる賦形剤中に含まれる。有効なレベルの本発
明の組成物を、その状態が充分に改善されるまで、血清濃度がほぼナノモル濃度
〜マイクロモル濃度の範囲になるような方法で投与する。
患者に投与する場合、本組成物は、それを経口投与、非経口投与、経鼻投与、
腸投与または直腸投与に適合させるような任意の方法で、従来の製薬上の慣行に
従い、薬学的に許容しうる賦形剤またはビヒクル(たとえば等張食塩水など)を
使って製剤化される。この薬剤の投薬レベルは、セレクチンの阻止、とくにその
患者における腫瘍細胞のL−セレクチン媒介性接着の阻止による抗転移効果を提
供するに足りるだろう。
「有効なレベル」の本発明組成物とは、その治療を受ける患者に何らかの改善
が与えられるようなレベルを意味する。
本発明の薬学的組成物は、患者の天然セレクチン(とくにL−セレクチン)が
その患者内の当該セレクチンの生物学的標的(具体的にはsLex陽性腫瘍細胞
)に結合するのを(完全にまたは部分的に)中和するに足る量で投与される。
本発明のセレクチン結合性炭水化物および組成物の投与量と投与法は、癌関連
傷害を治療する臨床分野の通常の技術を持つ者によって容易に決定されうる。一
般的には、本発明組成物の投与量は、使用する合成炭水化物のタイプ、年齢、健
康状態、治療される医学的状態、併用治療があればその種類、治療の頻度、望ま
れる効果の性質、組織損傷の程度、性別、症状の持続時間、もしあれば反適応症
、および個々の医師によって調節されるべきその他の可変的要因などといった点
に依存して変動するだろう。所望の結果をうるために、所望する投与量を1回で
または複数回で投与することができる。
実施例11
sLexによる感染の治療
抗感染薬としてのsLexの使用は、すべてのホ乳類細胞の表面にオリゴ糖が
存在し、細菌、ウイルスそのほかの感染性微生物が、それらの細胞への侵入にそ
のオリ4ゴ糖を利用するという観察結果に基づく(Hughes,S.,Scrip,1994年
4月,28〜32頁)。たとえば、ヒトシアリルルイスx抗原は、ヒトにおける
感染性心内膜炎
の原因であるストレプトコッカス・ガロリチカス(Streptococcus gallolyticus
)の細胞表面上に高度に発現する(Hirota,K.ら,Lancet 347:760(1996);Hirota
,K.ら,FEMS Immunol. & Med.Microbiol.12:159-164(1995))。したがって、特
定のタイプのオリゴ糖を体内に注入することは、特定の感染性疾患に対して考え
うる1つの治療法である(Hughes,S.,Scrip,1994年4月,28〜32頁)。
オリゴ糖が従来の抗感染薬に対して持つ利点の一つは、それが感染性疾患の治療
とともに予防にも有効だということである。これに対し、感染症予防薬としての
抗生物質の使用は、耐性の発生につながりうる。さらに、オリゴ糖は細菌を殺す
のではなく、単にそれらがヒト組織に結合するのを阻害するに過ぎないので、オ
リゴ糖は耐性生物の増殖に有利な選択圧を提供しないだろう(Hughes,S.,Scrip,
1994年4月,28〜32頁)。
本発明の合成多価sLex含有ポリラクトサミンは、感染性疾患の治療または
予防に使用できる。簡単に述べると、そのような感染であると診断された患者を
、多価sLex(たとえば4価sLex22糖)を含む組成物で治療する。この
組成物は、感染性微生物(たとえば細菌)が対応する(たとえば内皮)細胞表面
上の対応するオリゴ糖に結合するのを阻止するに足る用量で、薬学的に許容しう
る賦形剤中に含まれる。その組成物を、その状態が充分に改善されるまで、血清
濃度がほぼナノモル濃度〜マイクロモル濃度の範囲になるような方法で与える。
患者に投与する場合、本発明の組成物は、それを経口投与、非経口投与、経鼻
投与、腸投与または直腸投与に
適合させるような任意の方法で、従来の製薬上の慣行に従い、薬学的に許容しう
る賦形剤またはビヒクル(たとえば等張食塩水など)を使って製剤化される。こ
の薬剤の投薬レベルは、セレクチンの阻止、とくにその患者におけるL−セレク
チン媒介性接着事象の阻止による抗感染効果を提供するに足りるだろう。
「有効なレベル」の本発明組成物とは、その治療を受ける患者に何らかの改善
が与えられるようなレベルを意味する。
本発明の薬学的組成物は、患者の天然セレクチン(とくにL−セレクチン)が
その患者内の当該セレクチンの生物学的標的(具体的には内皮細胞)に結合する
のを(完全にまたは部分的に)中和するに足る量で投与される。
本発明のセレクチン結合性炭水化物および組成物の投与量と投与法は、感染性
疾患を治療する臨床分野の通常の技術を持つ者によって容易に決定されうる。一
般的には、本発明組成物の投与量は、使用する合成炭水化物のタイプ、年齢、健
康状態、治療される医学的状態、併用治療があればその種類、治療の頻度、望ま
れる効果の性質、組織損傷の程度、性別、症状の持続時間、もしあれば反適応症
、および個々の医師によって調節されるべきそのほかの可変的要因などといった
点に依存して変動するだろう。所望の結果を得るために、所望する投与量を1回
でまたは複数回で投与することができる。
本明細書で引用したすべての資料は参考文献として本明細書の一部を構成する
。
上述の説明は特定の好ましい実施態様に関するが、本
発明がそれらに限定されないことは理解されるだろう。当業者は、開示した実施
態様には様々な変更を施しうること、またそのような変更は本発明の範囲に包含
されると解釈されることに気づくだろう。
【手続補正書】特許法第184条の8第1項
【提出日】1997年10月2日(1997.10.2)
【補正内容】
請求の範囲
1.直鎖状ポリラクトサミン骨格(LacNac)nからなる合成オリゴ糖であっ
て、nが1以上であり、かつ残基間結合がβ1−3’および/またはβ1−6’
であり、2またはそれより多くのNeuNacα2−3Galβ1−4(Fuc
1−3)GlcNacエピトープがβ1−3’結合および/またはβ1−6’結
合により結合される合成オリゴ糖。
2.2つのNeuNacα2−3Galβ1−4(Fuc1−3)GlcNac
エピトープからなる請求の範囲第1項記載の合成オリゴ糖。
3.4つのNeuNacα2−3Galβ1−4(Fuc1−3)GlcNac
エピトープからなる請求の範囲第1項記載の合成オリゴ糖。
4.ポリラクトサミン骨格(LacNac)nからなる合成オリゴ糖であって、n
が1以上であり、かつ残基間結合がβ1−3’および/またはβ1−6’であり
、2またはそれより多くのNeuNacα2−3Galβ1−4(Fuc1−3
)GlcNacエピトープがβ1−3’合および/またはβ1−6’合により結
合され、Galβ1−3GalNAc−オール配列を含むO−グリコシドコアを
有する合成オリゴ糖。
5.2つのNeuNacα2−3Galβ1−4(Fuc1−3)GlcNac
エピトープからなる請求の範囲第4項記載の合成オリゴ糖。
6.請求の範囲第1項乃至第5項のいずれか1つに記載のオリゴ糖からなる薬学
的に許容しうる組成物。
7.ポリラクトサミン骨格(LacNac)nからなる合成オリゴ糖であって、n
が1以上であり、かつ残基間結合がβ1−3’および/またはβ1−6’であり
、2またはそれより多くのNeuNacα2−3Galβ1−4(Fuc13)
GlcNacエピトープがβ1−3’結合および/またはβ1−6’結合により
結合される合成オリゴ糖からなる薬学的組成物を患者に投与することからなる該
患者の炎症状態を予防または治療する方法。
8.前記患者が、組織の拒絶、器官の拒絶、関節炎、感染、皮膚病、炎症性腸疾
患および自己免疫疾患からなる群より選ばれた状態であると診断されたかまたは
前記状態を発現する危険を有する患者である請求の範囲第7項記載の方法。
9.前記状態が組織の拒絶または器官の拒絶である請求の範囲第7項記載の方法
。
10.前記状態が慢性関節リウマチである請求の範囲第7項記載の方法。
11.前記状態が慢性腸疾患である請求の範囲第7項記載の方法。
12.前記患者が動物である請求の範囲第7項記載の方法。
13.前記患者がヒトである請求の範囲第7項記載の方法。
14.ポリラクトサミン骨格(LacNac)nからなる合成オリゴ糖であって、
nが1以上であり、かつ残基間結合がβ1−3’および/またはβ1−6’であ
り、2またはそれより多くのNeuNacα2−3Galβ1−4(Fuc1−
3)GlcNacエピトープがβ1−3’結合および/またはβ1−6’結合に
より
結合される合成オリゴ糖からなる薬学的組成物を投与することからなる、移植さ
れる組織または器官の拒絶を防ぐ方法。
15.前記器官が、心臓、肺または腎臓からなる群より選ばれる請求の範囲第14
項記載の方法。
16.前記移植される組織が皮膚である請求の範囲第14項記載の方法。
17.前記移植される組織/器官が、骨髄、角膜、膵臓および小腸からなる群より
選ばれる請求の範囲第14項記載の方法。
18.ポリラクトサミン骨格(LacNac)nからなる合成オリゴ糖であって、
nが1以上であり、かつ残基間結合がβ1−3’および/またはβ1−6’であ
り、2またはそれより多くのNeuNacα2−3Galβ1−4(Fuc1−
3)GlcNacエピトープがβ1−3’結合および/またはβ1−6’結合に
より結合される合成オリゴ糖を含む薬学的組成物を患者に投与することからなる
該患者の異常な炎症状態における白血球の有害な遊走を阻止する方法。
19.ポリラクトサミン骨格(LacNac)nからなる合成オリゴ糖であって、
nが1以上であり、かつ残基間結合がβ1−3’および/またはβ1−6’であ
り、2またはそれより多くのNeuNacα2−3Galβ1−4(Fuc13
)GlcNacエピトープがβ1−3’結合および/またはβ1−6’結合によ
り結合される合成オリゴ糖からなる薬学的組成物を患者に投与することからなる
該患者の細菌性感染を予防または治療する方法。
20.前記細菌性感染が連鎖球菌性である請求の範囲第19項記載の方法。
21.前記患者が動物である請求の範囲第19項記載の方法。
22.前記患者がヒトである請求の範囲第19項記載の方法。
23.ポリラクトサミン骨格(LacNac)nからなる合成オリゴ糖であって、
nが1以上であり、かつ残基間結合がβ1−3’および/またはβ1−6’であ
り、2またはそれより多くのNeuNacα2−3Galβ1−4(Fuc1−
3)GlcNacエピトープがβ1−3’結合および/またはβ1−6’結合に
より結合される合成オリゴ糖からなる薬学的組成物を患者に投与することからな
る該患者の腫瘍転移を予防または治療する方法。
24.腫瘍がsLex陽性である請求の範囲第23項記載の方法。
25.腫瘍が乳房癌、前立腺癌、胃癌および結腸直腸癌からなる群より選ばれる請
求の範囲第23項または第24項記載の方法。
26.前記患者が動物である請求の範囲第23項記載の方法。
27.前記患者がヒトである請求の範囲第23項記載の方法。
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フロントページの続き
(81)指定国 EP(AT,BE,CH,DE,
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CN,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,GB,G
E,HU,IL,IS,JP,KG,KR,KZ,LT
,LU,LV,MX,NO,NZ,PL,PT,RO,
RU,SE,SG,SI,SK,TJ,TM,TR,U
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