JP2000314901A - 光スイッチ、および光スイッチング方法 - Google Patents

光スイッチ、および光スイッチング方法

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JP2000314901A
JP2000314901A JP12525499A JP12525499A JP2000314901A JP 2000314901 A JP2000314901 A JP 2000314901A JP 12525499 A JP12525499 A JP 12525499A JP 12525499 A JP12525499 A JP 12525499A JP 2000314901 A JP2000314901 A JP 2000314901A
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dye
photon
optical switch
optical
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JP12525499A
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Makoto Furuki
真 古木
Satoshi Tatsuura
智 辰浦
Yasusato Sato
康郊 佐藤
Taminori Den
民権 田
Ryujun Fu
龍淳 夫
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  • Optical Modulation, Optical Deflection, Nonlinear Optics, Optical Demodulation, Optical Logic Elements (AREA)

Abstract

(57)【要約】 【課題】 極めて超高速で光スイッチングし得る、二光
子吸収過程を通して、1300nm帯および/または1
550nm帯の赤外光に直接応答する光スイッチ、およ
び光スイッチング方法を提供すること。 【解決手段】 色素会合体膜における二光子吸収による
光学特性変化を利用することを特徴とする光スイッチ、
および光スイッチング方法である。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、色素会合体薄膜か
らなる光スイッチ、および光スイッチング方法に関し、
詳しくは、制御手段として光を用いることにより極めて
超高速で光スイッチングし得る光スイッチ、および光ス
イッチング方法に関する。
【0002】
【従来の技術】色素分子は可視光領域の光を吸収する特
性があるが、パルス幅が短く電界強度の強い超短レーザ
ーパルスを照射することにより強く励起すると、基底状
態にある分子の数が減少し、光の吸収が瞬間的に弱くな
る。このことは非線形光学効果の吸収飽和として知られ
ており、また広く応用が検討されている。特に、数十〜
数百の色素分子が規則正しく配列して緩く結合し、光学
的にあたかも一つの超分子として振る舞うようになるJ
−会合体等の会合体を形成すると、光吸収効率が増大す
るだけでなく、吸収飽和に必要な光強度の閾値が低くな
り、さらに回復速度が短縮される。
【0003】発明者らは主としてとしてスクエアリリウ
ム色素J−会合体に関して研究し、フェムト秒オーダー
の優れた応答特性を有する光スイッチを提案してきた
(特願平10−181581号、特願平10−3063
36号、特願平300357号等)。これらは、テラビ
ット(1012bit/s)オーダーの光情報通信の際に
光スイッチとして使用され得るものである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、スクエ
アリリウム色素会合体を含め、ほとんど全ての色素分子
およびそれらの会合体は、可視光から近赤外光において
吸収を有している。波長に直すと400〜1000nm
の範囲になり、1000nmの波長を超えて光吸収を有
するような色素分子は少ない。これに対し、光通信にお
いて実際に使用されている光の波長は、光ファイバーの
透過および分散特性から、1300nmや1550nm
の赤外光である。すなわち、色素分子を利用した光スイ
ッチを、これらの波長域の光に対して作用させようとす
る場合には、共鳴域から著しく離れるため効率が極端に
低下してしまい、一旦波長変換して可視光にした信号を
扱う等、煩雑且つ効率を低下させる操作を介して使用せ
ざるを得ない。
【0005】一方、強い電界強度を有する光パルスが色
素分子あるいは色素会合体に入射されると、分子が2つ
の光子を同時に吸収する二光子吸収過程が観測される。
二光子吸収の確率は、入射する光の電界強度の自乗、つ
まり入射パルスエネルギーに比例して大きくなり、テラ
ビット光通信に使用されるフェムト秒パルスのように時
間幅が短く先頭値の大きな光パルス程優位に、二光子吸
収を観測することができる。
【0006】現在まで色素分子の二光子吸収は、立体的
な光記録や3次元観察(二光子顕微鏡)など集光スポッ
トでの二光子応答の増強を利用するものに関して検討さ
れている。この二光子吸収過程を動作波長の観点から捉
えると、赤外の光により可視光に遷移エネルギーを有す
る色素分子を作用させる手法と考えることができる。言
い換えると可視光領域にしか吸収帯を有しない色素分子
あるいは色素会合体を、その倍の波長の赤外光で励起で
きるということである。しかしながら二光子吸収での選
択則は一光子吸収とは相補的であり、異なる。そして現
在までその作用が明確でなかったこともあり、特に色素
会合体の二光子過程に関するエネルギー準位の詳細につ
いては明らかにされていない。
【0007】このような状況に鑑み、本発明者らは、色
素会合体の二光子過程による励起の確認とこれに伴う光
学特性変化を明確にすることにより、極めて超高速で光
スイッチングし得る光スイッチを模索した。
【0008】すなわち、本発明の目的は、極めて超高速
で光スイッチングし得る光スイッチ、および光スイッチ
ング方法を提供することにある。さらに本発明の目的
は、二光子吸収過程を通して、1300nm帯および/
または1550nm帯の赤外光に直接応答する光スイッ
チ、および光スイッチング方法を提供することにある。
【0009】
【課題を解決するための手段】上記目的は、以下の本発
明により達成される。すなわち本発明は、 <1> 色素会合体膜における二光子吸収による光学特
性変化を利用することを特徴とする光スイッチである。
【0010】<2> 二光子励起し得る波長の制御光に
より、二光子励起させることによって色素会合体膜の光
学特性を変化させて、一光子励起し得る波長の信号光を
光スイッチングし得ることを特徴とする<1>に記載の
光スイッチである。
【0011】<3> 制御光の波長が1300nm近傍
および/または1550nm近傍であり、信号光の波長
が可視光領域であることを特徴とする<2>に記載の光
スイッチである。
【0012】<4> 一光子励起し得る波長に対して、
略倍の波長の制御光により、二光子仮想励起することに
よって色素会合体膜の光学特性を変化させて、一光子励
起し得る波長の信号光を光スイッチングし得ることを特
徴とする<1>に記載の光スイッチである。
【0013】<5> 一光子励起し得る波長が1300
nm近傍または1550nm近傍の略半分であることを
特徴とする<4>に記載の光スイッチである。
【0014】<6> 二光子励起し得る波長の制御光に
より一光子分の仮の励起が成され、二光子励起し得る波
長の信号光により残りの一光子分の励起が成され、結果
として二光子励起されることにより、二光子励起し得る
波長の信号光を光スイッチングし得ることを特徴とする
<1>に記載の光スイッチである。
【0015】<7> 電界を印加することにより、二光
子励起禁制の波長を許容遷移に変えるとともに、当該許
容遷移に変わった波長の制御光により、一光子励起し得
る波長の信号光を光スイッチングし得ることを特徴とす
る<1>に記載の光スイッチである。
【0016】<8> 電界を印加することにより、二光
子励起禁制の波長を許容遷移に変えるとともに、当該許
容遷移に変わった波長の制御光により一光子分の仮の励
起が成され、前記許容遷移に変わった波長の信号光によ
り残りの一光子分の励起が成され、結果として二光子励
起されることにより、前記許容遷移に変わった波長の信
号光を光スイッチングし得ることを特徴とする<1>に
記載の光スイッチである。
【0017】<9> 許容遷移に変わった二光子励起禁
制の波長が、一光子励起し得る波長の略倍の波長である
ことを特徴とする<7>または<8>に記載の光スイッ
チである。
【0018】<10> 許容遷移に変わった二光子励起
禁制の波長が、1550nm近傍であることを特徴とす
る<7>または<8>に記載の光スイッチである。
【0019】<11> 色素会合体膜が、色素のJ−会
合体によるものであることを特徴とする<1>ないし<
10>のいずれか1記載の光スイッチである。
【0020】<12> 色素会合体膜が、スクエアリリ
ウム色素からなる会合体によるものであることを特徴と
する<1>ないし<11>のいずれか1に記載の光スイ
ッチである。
【0021】<13> スクエアリリウム色素が、下記
一般式(I)で表される化合物であることを特徴とする
<12>に記載の光スイッチである。
【0022】一般式(I)
【化3】
【0023】(R1およびR2は同じでも異なっていても
よく、それぞれアルキル基を示し、XはH、F、OH、
CH3またはOCH3を示す。)
【0024】<14> 色素会合体膜からなる光スイッ
チに、前記色素会合体膜が二光子励起し得る波長の制御
光を照射し、二光子励起させることによって色素会合体
膜の光学特性を変化させて、一光子励起し得る波長の信
号光を光スイッチングすることを特徴とする光スイッチ
ング方法である。
【0025】<15> 色素会合体膜からなる光スイッ
チに、前記色素会合体膜が一光子励起し得る波長に対し
て略倍の波長の制御光を照射し、二光子仮想励起するこ
とによって色素会合体膜の光学特性を変化させて、一光
子励起し得る波長の信号光を光スイッチングすることを
特徴とする光スイッチング方法である。
【0026】<16> 色素会合体膜からなる光スイッ
チに、二光子励起し得る波長の制御光を照射し一光子分
の仮の励起をさせ、二光子励起し得る波長の信号光によ
り残りの一光子分の励起をさせ、結果として二光子励起
させることにより、二光子励起し得る波長の信号光を光
スイッチングすることを特徴とする光スイッチング方法
である。
【0027】<17> 色素会合体膜からなる光スイッ
チに、電界を印加して、二光子励起禁制の波長を許容遷
移に変えるとともに、当該許容遷移に変わった波長の制
御光を照射して、一光子励起し得る波長の信号光を光ス
イッチングすることを特徴とする光スイッチング方法で
ある。
【0028】<18> 色素会合体膜からなる光スイッ
チに、電界を印加して、二光子励起禁制の波長を許容遷
移に変えるとともに、当該許容遷移に変わった波長の制
御光を照射し一光子分の仮の励起をさせ、前記許容遷移
に変わった波長の信号光により残りの一光子分の励起を
させ、結果として二光子励起させることにより、前記許
容遷移に変わった波長の信号光を光スイッチングするこ
とを特徴とする光スイッチング方法である。
【0029】<19> 色素会合体膜が、色素のJ−会
合体によるものであることを特徴とする<14>ないし
<18>のいずれか1に記載の光スイッチング方法であ
る。
【0030】<20> 色素会合体膜が、スクエアリリ
ウム色素からなる会合体によるものであることを特徴と
する<14>ないし<19>のいずれか1に記載の光ス
イッチング方法である。
【0031】<21> スクエアリリウム色素が、下記
一般式(I)で表される化合物であることを特徴とする
<20>に記載の光スイッチング方法である。
【0032】一般式(I)
【化4】
【0033】(R1およびR2は同じでも異なっていても
よく、それぞれアルキル基を示し、XはH、F、OH、
CH3またはOCH3を示す。)
【0034】本発明の光スイッチは、制御方法として光
を用いているため、極めて超高速で光スイッチングし得
る物となる。また、制御光として、または、信号光とし
て有用な赤外光、特に光通信の分野で使用される130
0nm近傍および1550nm近傍の波長の光を、利用
する、および/または、光スイッチングし得る光スイッ
チを提供することができる。
【0035】色素会合体薄膜の二光子吸収による光学特
性変化を利用することを特徴とする本発明の光スイッチ
は、半導体材料により形成される光スイッチに比べ、絶
対的な応答時間に優れる以外にも、以下の点で優れてい
る。
【0036】 材料、プロセスが安価、簡易なため、
極めて低コストで作製が可能である。 光スイッチの作製、動作とも常温、大気中で可能で
ある。 材料作製に要する時間が極めて短く、かつ大掛かり
な設備を必要としないため生産性に優れる。 大面積化が容易である。
【0037】このの大面積化が容易という特徴から、
本発明特有の光スイッチが形成可能である。すなわち、
これまで半導体材料では作製が不可能であるか、または
極めて困難であった大面積(数cm〜数十cmφ)の光
スイッチが容易に形成できる。また、ある程度の面積の
膜を作製し、その後、マスク形成によって膜を複数に分
割することで、極めて容易に1次元または2次元の光ス
イッチ列が形成できる。これらの特徴から、本発明の光
スイッチは、並列光情報処理などの用途にも極めて有望
である。
【0038】その他、多様な分子の利用による高機能化
や、製膜に高温を必要としないため、他種材料とのハイ
ブリッド化が容易、などの利点も有している。
【0039】
【発明の実施の形態】以下、本発明を詳しく説明する。 [色素会合体膜]まず、本発明に好ましく用いられる色
素会合体膜(以下、「色素会合体薄膜」という場合があ
る。)について説明する。
【0040】本発明に用いられる色素会合体膜の材料と
しては、二光子吸収による光学特性変化を生ずるもので
あれば、特に限定されないが、数十〜数百の色素分子が
規則正しく配列して緩く結合し、光学的にあたかも一つ
の超分子として振る舞うようになるJ−会合体を形成す
るものが好ましい。J−会合体を形成するものは、光吸
収効率が増大するだけでなく、吸収飽和に必要な光強度
の閾値が低くなり、さらに回復速度が短縮される。J−
会合体についての詳細は、M.Furuki,L.S.
Pu, F.Sasaki, S.Kobayashi
and T.Tani, Appl.Phys.Le
tt.,72,21(1998)2648等に記載があ
る。
【0041】また、本発明に用いられる色素会合体膜の
材料としては、実用上好適な吸収波長を発現し、化学
的、熱的および光学的な安定性等の観点から、スクエア
リリウム色素からなる会合体であることが好ましく、よ
り好ましくは該会合体がJ−会合体であることである。
色素会合体膜を形成する好ましいスクエアリリウム色素
としては、下記一般式(I)で表される化合物が挙げら
れる。
【0042】一般式(I)
【化5】
【0043】(R1およびR2は同じでも異なっていても
よく、それぞれアルキル基を示し、XはH、F、OH、
CH3またはOCH3を示す。)
【0044】上記一般式(I)において、R1およびR2
は、アルキル基を示すが、炭素数3〜7の低級アルキル
基が好ましく、n−プロピル基、iso−プロピル基、
n−ブチル基、iso−ブチル基、tert−ブチル基
がより好ましく、n−プロピル基またはiso−プロピ
ル基が特に好ましい。また、上記一般式(I)中、X
は、H、F、OH、CH3またはOCH3を示すが、H、
OHまたはCH3が好ましく、Hがより好ましい。色素
会合体薄膜は、これらスクエアリリウム色素等の色素を
用いて、固体基板上に有機薄膜を形成することにより得
られる。有機薄膜を固体基板上に形成する方法として、
LB法(ラングミュア・プロジェット法)の他、色素を
適当な溶媒に溶解して得られた塗布液を、固体基板上に
塗布して薄膜を形成することも可能である。塗布液によ
る場合の詳細について、以下に説明する。
【0045】色素を溶解する溶媒としては、特に限定さ
れないが、ジクロロメタン、クロロホルム、トリクロル
エタン等のハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、
キシレン等の芳香族炭化水素、メタノール、エタノー
ル、イソプロピルアルコール等のアルコール類、シクロ
ヘキサン、メチルエチルケトン等のケトン類、テトラヒ
ドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、酢酸メチル、
酢酸エチル等のエステル類、プロピルアミン、エチルア
ミン等のアミン類を用いることができる。これらの中で
も、一般式(I)で表されるスクエアリリウム色素を用
いる場合は、ジクロロエタン、エタノールが特に好まし
い。
【0046】なお、上記一般式(I)で表されるスクエ
アリリウム色素は、高分子化合物とともに溶媒中に溶解
すると、会合体の形成を促進させることができ、好まし
い。高分子化合物としては、色素の波長域で光学的に透
明なポリマーであればすべて使用可能であり、例えば、
ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸フェニル等
のメタクリル酸系ポリマー、ポリビニルアルコール、ポ
リビニルカルバゾール等のビニル系ポリマー、ポリカー
ボネート、ポリエチレングリコール、ポリスチレン、ポ
リ塩化ビニルやその誘導体、およびそれらの共重合体等
を用いることができる。これらの中でも、ポリビニルア
ルコールは特に好ましい。
【0047】上記一般式(I)で表されるスクエアリリ
ウム色素を高分子化合物とともに溶媒に溶解する場合、
スクエアリリウム色素の重量割合は、スクエアリリウム
色素と高分子化合物との合計重量に基づいて、10〜3
0重量%とすることが好ましい。混合比をかかる範囲と
することで、良質の色素会合体を形成することができ
る。
【0048】また、上記一般式(I)で表されるスクエ
アリリウム色素の溶媒中の濃度は、1〜5重量%とする
ことが好ましく、1〜3重量%とすることが特に好まし
い。濃度をかかる範囲とすることにより、色素会合体の
形成が顕著となる。
【0049】溶液の固体基板上への塗布方法としては、
従来より知られた方法を採用することができ、例えば、
スピンコート法、キャストコート法、ディップコート
法、ラングミュア・プロジェット法(LB法)等を挙げ
ることができる。
【0050】形成される色素会合体膜の厚みとしては、
0.001〜1μm程度が好ましく、0.005〜0.
05μm程度がより好ましい。色素会合体膜の厚みが厚
すぎると散乱が強くなり、また光学濃度が高くなりすぎ
て信号光が弱くなり、逆に薄すぎると安定性が低下し、
また信号強度の変化が小さくなり、それぞれ好ましくな
い。
【0051】[光スイッチの構成]本発明の光スイッチ
は、以上の如き色素会合体膜を固体基板上に形成するこ
とにより構成される。固体基板としては、ガラス、石
英、サファイア、プラスチック等の誘電体、Si、Ga
−As、InP等の半導体、あるいは、金、銀、銅、ア
ルミニウム等の金属基板を用いることができる。固体基
板の厚みには特に制限はないが、裏面からの光入射等を
考慮すると、1mm程度が望ましい。光スイッチ等の構
成によっては、基板からの反射光を利用するため、反射
率を合わせた金属、あるいは誘電体多層膜を表面にコー
ティングしたものも、必要に応じて使用される。
【0052】光スイッチの光学特性変化の利用が、光ス
イッチにおける信号光の透過特性を制御するものである
場合には、固体基板としては、ガラス、石英、サファイ
アおよびプラスチック等透明な材料を用いることが必須
となり、基本的に固体基板および色素会合体膜のみで光
スイッチ全体が構成される。勿論、色素会合体膜を固体
基板から剥がして、膜状のまま用いても構わない。
【0053】一方、光スイッチの光学特性変化の利用
が、光スイッチにおける信号光の反射特性を制御するも
のである場合には、固体基板として光を反射し得る材料
を用いるか、固体基板と色素会合体膜との間に反射層を
設けることが必須となる。反射層を形成する材料として
は、金、銀、アルミニウム、クロム等の金属膜や、フッ
化マグネシウム、フッ化カルシウム、酸化ケイ素、酸化
アルミニウム、酸化ジルコニウム、酸化チタン等の誘電
体が挙げられる。反射層は多層構成とすることが好まし
い。反射層の厚みとしては、特に制限はないが一般的
に、金属膜については50nm〜10μm程度であり、
100nm〜1μm程度が好ましい。一方、誘電体多層
膜については、一般的に、高屈折率のものと低屈折率の
ものとを、用いる光の波長に対して1/4波長の光学厚
みで交互に積層したものを用い、該積層の周期の数とし
ては、1〜20周期程度であり、5〜10周期程度が好
ましい。
【0054】なお光スイッチは、固体基板上に上記色素
会合体膜を1mm2以上、特に1cm2以上の面積に渡っ
て製膜したものであることが望ましい。また、本発明の
光スイッチは大面積化が容易であるというメリットを有
するため、数cm〜数十cmφの面積の光スイッチを作
製することもでき、その場合には勿論、上記色素会合体
膜を数cm〜数十cmφの面積に渡って製膜したもので
ある。
【0055】[光スイッチの態様]上記一般式(I)に
おいてR1およびR2がn−プロピル基で、XがHである
スクエアリリウム色素を用い、固体基板(ガラス、厚さ
1mm)上にスピンコート法により色素会合体膜(厚さ
0.1μm)を形成したもの(以下、「色素会合体膜
A」という。)を例に挙げて、本発明の光スイッチの各
態様について説明する。
【0056】まず、色素会合体膜Aの吸収スペクトルを
図1に示す。この色素会合体膜Aにおいて、分子状態の
溶液中における吸収帯は630〜640nmの範囲にあ
り、775nmの吸収帯は明確に会合体(J−会合体)
由来の励起子吸収帯であることがわかる。
【0057】(第1の実施の形態)色素会合体膜Aを1
100〜1600nmのフェムト秒(パルス幅:200
fs)の赤外光で励起すると、図2に示されるようなス
ペクトルを示す蛍光を発生する。この蛍光は色素会合体
膜Aを500〜770nmの可視および近赤外光で励起
した場合と全く一致するものである。色素会合体Aのエ
ネルギーギャップに相当する775nmの光よりもはる
かに長波長の赤外光により近赤外の蛍光を発していると
いうことは、多光子吸収過程により励起状態が形成され
ていることを示している。実際に励起光強度と蛍光強度
の関係を測定すると1パルス当たりのエネルギーが0〜
10mJ/cm2の範囲で励起強度の自乗に比例して蛍
光強度が増大することを分かり、この蛍光が二光子励起
によるものであることが確認された。
【0058】二光子励起による蛍光強度の励起波長依存
性について、励起波長と蛍光強度の測定によって調べた
結果を図3に示す。図3から、二光子により実励起する
蛍光強度は、1300nm近傍が最大であり、一光子の
吸収体である775nmの倍の波長である1550nm
ではかなり低いことが分かる。これは一光子励起と二光
子励起の選択則の違いによるものと解釈され、今回用い
たスクエアリリウム色素のJ−会合体は、775nmに
一光子許容で且つ二光子禁制の準位が存在し、650n
m近傍に一光子では禁制だが二光子許容の準位が存在す
ることを示している。さらに1300nm近傍の赤外光
で励起された二光子励起状態は、スクエアリリウム色素
のJ−会合体内でのエネルギー移動により、エネルギー
的には低い一光子励起状態に移行する。この励起状態が
発光により緩和したため、780nm近傍の蛍光が観測
されている。
【0059】以上の内容を分かりやすく図示すると、図
4のようになる。すなわち図4は、色素会合体膜Aの一
光子励起及び二光子励起による蛍光の発生を説明するエ
ネルギー準位に関する模式図である。図4から、可視お
よび近赤外領域にしか吸収帯を有しない色素会合体膜A
であっても、二光子励起過程を通じてやれば赤外光によ
り励起できることがわかる。
【0060】以上の如き、色素会合体膜における二光子
吸収による光学特性変化を利用したものが、第1の実施
の形態の光スイッチである。すなわち、第1の実施の形
態の光スイッチは、二光子励起し得る波長の制御光、こ
こでは1300nm近傍の赤外光により、二光子励起さ
せることによって色素会合体膜の光学特性を変化させ
て、一光子励起し得る波長の信号光、ここでは780n
m近傍の可視光を光スイッチングし得ることを特徴とす
る。なお、本発明において「近傍」とは、当該波長から
若干ずれる波長を含む概念とし、例えば±5%の波長領
域全体を含むものとする。
【0061】第1の実施の形態の光スイッチについて、
吸収飽和の測定をフェムト秒ポンプ・プローブ法により
測定した。波長1300nm、パルス幅200fs、1
パルス当たりのエネルギー25mJ/cm2のポンプ光
(制御光)を照射したときの過渡吸収スペクトルを図5
に示す。770nmのポンプ光(制御光)による一光子
励起の場合と同様に会合体吸収の短波長側に吸収の増大
(誘導吸収)、長波長側に吸収の減少(吸収飽和)の見
られる過渡スペクトルが観測された。これは、1300
nmのポンプ光で一旦二光子許容の準位に励起されたエ
ネルギーが、775nmの会合体の一光子の準位に移動
し、このため信号光(プローブ光)による一光子励起が
抑制され、吸収飽和として観察されていることを示して
いる。吸収飽和の回復の時定数は、実励起を伴っている
ので、一光子で励起した場合と同様に500fsであっ
た。また吸収飽和の大きさは通常の一光子の場合と異な
り、励起光パルスエネルギーの自乗に比例して大きくな
った。
【0062】(第2の実施の形態)第1の実施の形態に
おいて説明した、色素会合体膜Aにおける二光子吸収に
よる光学特性変化を利用したものとして、以下に示す第
2の実施の形態の光スイッチも挙げることができる。す
なわち、第2の実施の形態の光スイッチは、二光子励起
し得る波長の制御光、ここでは1300nm近傍の赤外
光により一光子分の仮の励起が成され、二光子励起し得
る波長の信号光、ここでは1300nm近傍の赤外光に
より残りの一光子分の励起が成され、結果として二光子
励起されることにより、二光子励起し得る波長の信号光
を光スイッチングし得ることを特徴とする。
【0063】二光子遷移確率は、励起光エネルギーがパ
ルス当たり25mJ/cm2のとき、一光子の場合の1
000分の1であるが、75mJ/cm2のときは10
0分の1に向上する。このことは今回使用した吸光度
2.5の色素会合体膜Aで75mJ/cm2のポンプ光
(制御光)で励起をした場合に、1300nm近傍の信
号光を約10%の確率で吸収する新たな仮想的吸収帯が
発生していることを示している。つまり、第2の実施の
形態の光スイッチによれば、1300nm近傍のポンプ
光(制御光)で励起することにより、1300nm近傍
の信号光(プローブ光)をも光スイッチングすることが
できる、言いかえれば、赤外光を制御光として、赤外光
の信号光を制御することができるものである。
【0064】色素会合体膜Aの二光子励起による吸収飽
和と、第2の実施の形態における新たな赤外領域におけ
る吸収の発生を説明するエネルギー準位に関して模式的
に図6に示す。
【0065】(第3の実施の形態)色素会合体膜Aを1
550nmの赤外光で照射すると、図7に示すように、
ポンプ光(制御光)とプローブ光(信号光)とが同時に
照射される時間原点付近にのみ、過渡的な吸収スペクト
ル変化が観測され、二光子仮想励起されていることがわ
かる。
【0066】このような、色素会合体膜における二光子
仮想励起による光学特性変化を利用したものが、第3の
実施の形態の光スイッチである。すなわち、第3の実施
の形態の光スイッチは、一光子励起し得る波長に対し
て、略倍の波長の制御光、ここでは1550nm近傍の
赤外光により、二光子仮想励起することによって色素会
合体膜の光学特性を変化させて、一光子励起し得る波長
の信号光、ここでは1550nmの略半分である775
nm近傍の可視光を光スイッチングし得ることを特徴と
する。なお、本発明において「略倍」あるいは「略半
分」とは、正確に2倍あるいは半分の波長のみならず、
その近傍の波長を含む概念とする。
【0067】第3の実施の形態では、先の二光子蛍光の
励起スペクトルでも明らかなように、実励起を伴わず、
仮想的な二光子の励起状態と一光子の励起状態との共鳴
的な相互作用によってのみ光学特性変化が引き起こされ
ているため、効率は多少低下するが、ポンプ光(制御
光)の存在する時間範囲、すなわち200fsの時間幅
のみの信号が現れる。仮想的な準位でのこのような応答
は、全く尾を引かないため、非常に高い繰り返しでの使
用が可能になる。また1300nmの波長の制御光を照
射したときと同様に、1500nmの波長の制御光を照
射したときも透過特性など光学特性が変化している。つ
まり二光子吸収を利用した光スイッチは、通常の一光子
励起によるものに比べて効率面では悪くなるものの応答
速度の面では優れた光スイッチが形成できることを示し
ている。また効率に関しては、制御光のエネルギーが強
くなるほどその自乗に比例して向上する、あるいはパル
ス当たりのエネルギーが等しくても、パルスの時間幅が
短くなれば、その時間幅比の自乗に逆比例して大きくな
るという性能も有している。
【0068】(第4の実施の形態)色素分子薄膜に電界
を印加して計測される電場変調スペクトルは、静電場と
いう一つの電場を利用することにより一光子の吸収スペ
クトルの変調分として二光子吸収帯を観測できることが
知られている(「Monomolecular lay
er of squarylium dye J ag
gregatesexhibiting a femt
osecond response ofdeloca
lized excitons」Applied Ph
ysics Letters,72,21,(199
8),p.2648)。前記色素会合体膜Aにこの電場
変調吸収測定を応用すると、図3で見られた吸収帯が一
光子吸収として観測される。すなわち電場印加の変調分
として650nmに吸収帯が観測される。
【0069】この電場変調を利用すると、二光子励起の
選択則を三光子励起の選択則つまり一光子励起と同様の
選択則に変えることができる。このような、電場変調を
利用して二光子励起の選択則を一光子と同様の選択則に
変えた上で、色素会合体膜における二光子吸収による光
学特性変化を利用したものが、第4の実施の形態の光ス
イッチである。すなわち、第4の実施の形態の光スイッ
チは、電界を印加することにより、二光子励起禁制の波
長、ここでは1550nm近傍を許容遷移に変えるとと
もに、当該許容遷移に変わった波長の制御光(1550
nm近傍の赤外光)により、一光子励起し得る波長の信
号光、ここでは775nm近傍の可視光を光スイッチン
グし得ることを特徴とする。
【0070】第4の実施の形態の光スイッチについて、
電場を印加した状態で、1550nmのポンプ光(制御
光)によりポンプ・プローブ測定を行うと、二光子仮想
励起した第3の実施の形態とは異なり、実励起を伴う図
5と同様な過渡吸収スペクトル変化が観測される。すな
わち静電場を介して一光子の励起子帯を二光子で共鳴実
励起することができる。第4の実施の形態による効率
は、電場変調の大きさに依存するが、仮想励起による第
3の実施の形態に比べてはるかに高効率である。これら
第3の実施の形態および第4の実施の形態の原理を図8
に模式的に示す。
【0071】第4の実施の形態において、印加すべき電
界は、少なくとも制御光の照射の瞬間に印加されていれ
ばよい。また、印加すべき電界の大きさとしては、10
4〜106V/cm程度であり、印加すべき電圧は、色素
会合体の質に大きく依存し、良質なものほど低い電圧で
大きな効果が得られる。
【0072】(第5の実施の形態)第4の実施の形態に
おいて説明した、色素会合体膜Aにおける電場変調と二
光子吸収による光学特性変化を利用したものとして、以
下に示す第5の実施の形態の光スイッチも挙げることが
できる。すなわち、第5の実施の形態の光スイッチは、
電界を印加することにより、二光子励起禁制の波長、こ
こでは1550nm近傍を許容遷移に変えるとともに、
当該許容遷移に変わった波長の制御光(1550nm近
傍の赤外光)により一光子分の仮の励起が成され、前記
許容遷移に変わった波長の信号光、ここでは1550n
m近傍の赤外光により残りの一光子分の励起が成され、
結果として二光子励起されることにより、前記許容遷移
に変わった波長の信号光(1550nm近傍の赤外光)
を光スイッチングし得ることを特徴とする。電場変調ま
での構成は、第4の実施の形態と同様である。
【0073】本実施の形態の光スイッチは、電場変調を
利用して二光子励起の選択則を一光子と同様の選択則に
変えた上で、第2の実施の形態の光スイッチ同様、制御
光(1550nm近傍の赤外光)による一光子分の仮の
励起が成され、残りの一光子分の励起を信号光(155
0nm近傍の赤外光)に担わせることにより、1550
nm近傍に新たな仮想的吸収帯が発生し、当該信号光を
光スイッチングし得るものである。第5の実施の形態に
よれば、二光子励起禁制の波長の赤外光を制御光に使用
することができ、かつ、当該波長の信号光を光スイッチ
ングすることができる。
【0074】以上、第1〜第5の実施の形態に示すよう
に、775nm近傍に色素会合体に由来する励起子吸収
帯を有する上記色素会合体膜Aは、1300nmの制御
光により780nmおよび1300nmの信号光の透過
あるいは反射・屈折強度を変化させ、これら信号光をス
イッチングすることができ、さらに1500nmの制御
光により780nmおよび1500nmの信号光をスイ
ッチングすることができる。そして電場印加により変調
の効率を高めることも可能である。以上、第1〜第5の
実施の形態では、色素会合体膜Aを用いた例により説明
したが、本発明はこれに限定されるものではなく、
【0075】[本発明の適用範囲]本発明は、一般に言
われるいわゆるオン・オフ型の光スイッチの他、光分配
器、光変調器、光スイッチ列に応用することができる。
すなわち、本発明において光スイッチとは、光で光を変
調する広い意味での光変調器全体を包含する概念であ
る。したがって、必ずしもオン・オフ型の光スイッチの
みを意味しない。光変調器は、光路変換素子、レンズ、
ミラー、方向性結合器の他、制御光により誘起された屈
折率変化により信号光を変調するデバイス全てを含む。
また、屈折率変化の要因は特に限定されず、吸収飽和現
象以外にも、色素会合体膜の示す2次または3次の非線
形光学効果の全てを利用することができる。
【0076】さらに本発明において光スイッチとは、該
光スイッチを組み合わせた光分配器等のシステムデバイ
スをも包含する概念である。また、色素会合体膜に利用
する色素分子も、一例としてスクエアリリウム色素を示
したが、可視光および近赤外光領域に吸収帯を有する色
素会合体薄膜は、全て二光子励起の可能性を有してお
り、本発明に利用することができる。特に、600nm
〜800nmに会合体由来の吸収を示す色素会合体膜を
好ましく利用することができる。
【0077】以上、本発明を実施の形態を挙げつつ説明
したが、二光子過程は必ずしも等しい波長の光を利用す
る必然性はなく、2つの光の振動数の和が実励起あるい
は仮想的共鳴励起のエネルギーギャップに一致しておれ
ば良く、その意味では非常に広い波長選択性がある。
【0078】また、以上の実施の形態では、その最も有
望な材料系であるスクエアリリウム色素のスピンコート
膜を色素会合体膜の例として説明したが、同様の現象は
他の製膜法および他の分子系でも観察されるものであ
る。したがって本発明はこれら材料に限定されるもので
はない。
【0079】
【実施例】以下、本発明を実施例を挙げてより具体的に
説明する。ただし、本発明は、以下の実施例により限定
されるものではない。
【0080】[実施例1]本発明の光スイッチを以下の
ように試作した。図9に、本実施例において作製した光
スイッチの模式断面図を示す。信号光Yの入射角、およ
び、スピンコート法で形成されるスクエアリリウム色素
のJ−会合体膜である色素会合体膜11の膜厚は、色素
会合体膜11の表面反射光の強度と、色素会合体膜11
を2回、4回、6回および8回透過した光の強度の総和
が等しくなるように選択した。構成としては、ガラス基
板(固体基板)14表面に、酸化チタンと酸化ケイ素と
を、信号光入射角に対応して1/4波長の光学膜厚で、
それぞれ交互に積層(10周期)した誘電体多層膜ミラ
ー13、色素会合体膜11に近い屈折率を有する酸化チ
タンからなるスペーサー12を順次積層し、さらにその
上にスクエアリリウム色素のJ−会合体膜である色素会
合体膜11をスピンコート法により形成し、光スイッチ
を作製した。
【0081】このとき、スペーサー12の膜厚は、制御
光Xなしの状態で、信号光Yの色素会合体膜11表面で
の反射光と誘電体多層膜ミラー13からの反射光とが、
1/2位相ずれる厚みとし、色素会合体膜11表面での
反射光と誘電体多層膜ミラー13からの反射光とが干渉
して、全体として反射光の強度がになるよう調整した。
【0082】(1)パルス幅200fs、780nmの
信号光Y(100nJ/cm2)、およびパルス幅20
0fs、1300nmの制御光X(50mJ/cm2
を照射したところ、制御光Xの照射時のみ信号光Yの反
射が観測された。このときの光スイッチの応答速度は5
00fsであった。このように、制御光Xの有無で可視
光である信号光Yのオン・オフを行うことができた。
【0083】(2)さらに誘電体多層膜ミラー13の設
計を1300nmの信号光に合わせて、信号光1300
nmの信号光Y(25mJ/cm2)および1300n
mの制御光X(25mJ/cm2)を照射したととこ
ろ、制御光Xの照射時のみ信号光Yの反射が観測され
た。このときの光スイッチの応答速度は200fsであ
った。このように、制御光Xの有無で赤外光である信号
光Yのオン・オフを行うことができた。
【0084】(3)同様にして、信号光Yを780nm
(100nJ/cm2)にし、1550nmの制御光X
(100mJ/cm2)としたところ、同様に信号光Y
のオン・オフを行うことができ、応答速度は200fs
であった。
【0085】(4)さらに同様にして、信号光Yを15
50nm(50mJ/cm2)にし、1550nmの制
御光X(50mJ/cm2)とした場合にも、同様に信
号光Yのオン・オフを行うことができ、応答速度は20
0fsであった。
【0086】[実施例2]スペーサー膜12と色素会合
体膜11との間に、図10に示す形状の櫛形電極(材
質:金、厚さ0.5μm)16a,16bを設けたこと
以外は、実施例1と同様にして、光スイッチを作製し
た。
【0087】櫛形電極16a,16b間に±10Vの交
流電界を印加しながら、実施例1と同様に、1500n
mの制御光Xを照射し、780nm(100nJ/cm
2)および1550nm(25mJ/cm2)の信号光Y
を、それぞれオン・オフしたところ、制御光Xはそれぞ
れ50mJ/cm2および25mJ/cm2のパルスエネ
ルギーで同じ信号強度を得ることができた。
【0088】[実施例3]図11は本発明の光スイッチ
を利用した光分配器を模式的に示す図である。光分配器
は、テラビット信号光をギガビット信号光に変換する本
システム全体を示すものであり、光変調器としての機能
および光スイッチ列としての機能を併せ持つ超高速空間
変調素子22を有している。実施例1および2で用いた
色素会合体膜11は、光分配器中にある超高速空間変調
素子22の材料として用いられる。超高速空間変調素子
22は光変調器として、制御光26により、信号光20
に強度変調を与えるものである。
【0089】この超高速空間変調素子22は、図11に
示すような個々の光スイッチが集合した光スイッチ列2
4により形成される。光スイッチ列24は、固体基板上
に形成された色素会合体膜11を部分的に被覆すること
により容易に形成できる。
【0090】本実施例の動作状態を断面から見た模式図
である図12を用いて、光分配器の動作を簡単に説明す
る。十分に波面の広がったテラビット信号光20を超高
速空間変調素子22に対して垂直に入射させる(便宜的
に図11においては5パルスのみ、図12においては6
パルスのみ示している。)。一方、同様に波面を広げた
制御光(フェムト秒パルス光)26を、超高速空間変調
素子22に対して傾斜した方向から入射させる(図12
(A))。
【0091】超高速空間変調素子22の傾斜による制御
光26の光路差のため、ある瞬間においては、超高速空
間変調素子22を形成する光スイッチ列24のうち、唯
一の光スイッチ24’のみを作動させることが可能であ
る(図12(B))。
【0092】超高速空間変調素子22上に到達している
テラビット信号光20は、制御光26と交差する位置で
ある光スイッチ24’のみが作動しているため、当該箇
所のみが切り出され、制御光26の超高速空間変調素子
22上への到達時間の違いから、各テラビット信号光2
0は異なる空間位置で切り出される(図12(C))。
【0093】空間的に並列に切り出された信号光28
は、受光素子アレイ30の各素子上に割り振ることが可
能となり、受光素子アレイ30により別々に読み出され
る(図12(D))。
【0094】
【発明の効果】以上の如く、本発明によれば、吸収帯が
可視光および近赤外光領域にあっても、二光子過程を利
用することにより通信波長帯である1300nm近傍お
よび1550nm近傍の光により動作させることができ
る。
【0095】色素会合体薄膜の二光子吸収を利用する本
発明の光スイッチは、フェムト秒領域での光スイッチと
して使用可能である。本発明によれば、テラビット光通
信のための高性能な超高速光スイッチを、極めて低コス
トで提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 実施の形態において用いたスクエアリリウム
色素の色素会合体膜Aの吸収スペクトルを示すグラフで
ある。
【図2】 スクエアリリウム色素の色素会合体膜Aの二
光子励起による蛍光のスペクトルを示すグラフである。
【図3】 スクエアリリウム色素の色素会合体膜Aの二
光子励起による蛍光強度の励起波長依存性を示すグラフ
である。
【図4】 スクエアリリウム色素の色素会合体膜Aの一
光子励起及び二光子励起による蛍光の発生を説明するエ
ネルギー準位に関する模式図である。
【図5】 スクエアリリウム色素の色素会合体膜Aを、
1300nmのポンプ光(制御光)により励起したとき
の、可視光および近赤外光領域における過渡吸収スペク
トルを示すグラフである。
【図6】 スクエアリリウム色素の色素会合体膜Aの二
光子励起による吸収飽和と、第2の実施の形態における
新たな赤外領域における吸収の発生を説明するエネルギ
ー準位に関する模式図である。
【図7】 スクエアリリウム色素の色素会合体膜Aを1
550nmの制御光により励起したときの、可視光およ
び近赤外光領域における過渡吸収スペクトルを示すグラ
フである。
【図8】 第3の実施の形態の原理である色素会合体膜
Aの二光子励起に伴う仮想状態による吸収飽和の機構
と、第4の実施の形態の原理である電界印加により三光
子許容になった色素会合体膜Aの吸収飽和の機構を説明
するエネルギー準位に関する模式図である。
【図9】 実施例において作製した光スイッチの模式断
面図である。
【図10】 光スイッチに用いられる電場変調用の櫛形
電極の模式平面図である。
【図11】 実施例において作製した光分配器を示す模
式図である。
【図12】 実施例において作製した光分配器の動作状
態を断面から見た模式図である。
【符号の説明】
11 色素会合体膜 12 スペーサ 13 誘電体多層膜ミラー(反射層) 14 ガラス基板(固体基板) 16a,16b 櫛形電極 20 テラビット信号光 22 超高速空間変調素子 24 光スイッチ列 26 制御光 28 空間的に並列に切り出された信号光 30 受光素子アレイ
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 佐藤 康郊 神奈川県足柄上郡中井町境430グリーンテ クなかい 富士ゼロックス株式会社内 (72)発明者 田 民権 神奈川県足柄上郡中井町境430グリーンテ クなかい 富士ゼロックス株式会社内 (72)発明者 夫 龍淳 神奈川県足柄上郡中井町境430グリーンテ クなかい 富士ゼロックス株式会社内 Fターム(参考) 2K002 AA02 AB04 BA01 BA06 CA05 CA06 HA19 HA22

Claims (21)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 色素会合体膜における二光子吸収による
    光学特性変化を利用することを特徴とする光スイッチ。
  2. 【請求項2】 二光子励起し得る波長の制御光により、
    二光子励起させることによって色素会合体膜の光学特性
    を変化させて、一光子励起し得る波長の信号光を光スイ
    ッチングし得ることを特徴とする請求項1に記載の光ス
    イッチ。
  3. 【請求項3】 制御光の波長が1300nm近傍および
    /または1550nm近傍であり、信号光の波長が可視
    光領域であることを特徴とする請求項2に記載の光スイ
    ッチ。
  4. 【請求項4】 一光子励起し得る波長に対して、略倍の
    波長の制御光により、二光子仮想励起することによって
    色素会合体膜の光学特性を変化させて、一光子励起し得
    る波長の信号光を光スイッチングし得ることを特徴とす
    る請求項1に記載の光スイッチ。
  5. 【請求項5】 一光子励起し得る波長が1300nm近
    傍または1550nm近傍の略半分であることを特徴と
    する請求項4に記載の光スイッチ。
  6. 【請求項6】 二光子励起し得る波長の制御光により一
    光子分の仮の励起が成され、二光子励起し得る波長の信
    号光により残りの一光子分の励起が成され、結果として
    二光子励起されることにより、二光子励起し得る波長の
    信号光を光スイッチングし得ることを特徴とする請求項
    1に記載の光スイッチ。
  7. 【請求項7】 電界を印加することにより、二光子励起
    禁制の波長を許容遷移に変えるとともに、当該許容遷移
    に変わった波長の制御光により、一光子励起し得る波長
    の信号光を光スイッチングし得ることを特徴とする請求
    項1に記載の光スイッチ。
  8. 【請求項8】 電界を印加することにより、二光子励起
    禁制の波長を許容遷移に変えるとともに、当該許容遷移
    に変わった波長の制御光により一光子分の仮の励起が成
    され、前記許容遷移に変わった波長の信号光により残り
    の一光子分の励起が成され、結果として二光子励起され
    ることにより、前記許容遷移に変わった波長の信号光を
    光スイッチングし得ることを特徴とする請求項1に記載
    の光スイッチ。
  9. 【請求項9】 許容遷移に変わった二光子励起禁制の波
    長が、一光子励起し得る波長の略倍の波長であることを
    特徴とする請求項7または8に記載の光スイッチ。
  10. 【請求項10】 許容遷移に変わった二光子励起禁制の
    波長が、1550nm近傍であることを特徴とする請求
    項7または8に記載の光スイッチ。
  11. 【請求項11】 色素会合体膜が、色素のJ−会合体に
    よるものであることを特徴とする請求項1ないし10の
    いずれか1記載の光スイッチ。
  12. 【請求項12】 色素会合体膜が、スクエアリリウム色
    素からなる会合体によるものであることを特徴とする請
    求項1ないし11のいずれか1に記載の光スイッチ。
  13. 【請求項13】 スクエアリリウム色素が、下記一般式
    (I)で表される化合物であることを特徴とする請求項
    12に記載の光スイッチ。 一般式(I) 【化1】 (R1およびR2は同じでも異なっていてもよく、それぞ
    れアルキル基を示し、XはH、F、OH、CH3または
    OCH3を示す。)
  14. 【請求項14】 色素会合体膜からなる光スイッチに、
    前記色素会合体膜が二光子励起し得る波長の制御光を照
    射し、二光子励起させることによって色素会合体膜の光
    学特性を変化させて、一光子励起し得る波長の信号光を
    光スイッチングすることを特徴とする光スイッチング方
    法。
  15. 【請求項15】 色素会合体膜からなる光スイッチに、
    前記色素会合体膜が一光子励起し得る波長に対して略倍
    の波長の制御光を照射し、二光子仮想励起することによ
    って色素会合体膜の光学特性を変化させて、一光子励起
    し得る波長の信号光を光スイッチングすることを特徴と
    する光スイッチング方法。
  16. 【請求項16】 色素会合体膜からなる光スイッチに、
    二光子励起し得る波長の制御光を照射し一光子分の仮の
    励起をさせ、二光子励起し得る波長の信号光により残り
    の一光子分の励起をさせ、結果として二光子励起させる
    ことにより、二光子励起し得る波長の信号光を光スイッ
    チングすることを特徴とする光スイッチング方法。
  17. 【請求項17】 色素会合体膜からなる光スイッチに、
    電界を印加して、二光子励起禁制の波長を許容遷移に変
    えるとともに、当該許容遷移に変わった波長の制御光を
    照射して、一光子励起し得る波長の信号光を光スイッチ
    ングすることを特徴とする光スイッチング方法。
  18. 【請求項18】 色素会合体膜からなる光スイッチに、
    電界を印加して、二光子励起禁制の波長を許容遷移に変
    えるとともに、当該許容遷移に変わった波長の制御光を
    照射し一光子分の仮の励起をさせ、前記許容遷移に変わ
    った波長の信号光により残りの一光子分の励起をさせ、
    結果として二光子励起させることにより、前記許容遷移
    に変わった波長の信号光を光スイッチングすることを特
    徴とする光スイッチング方法。
  19. 【請求項19】 色素会合体膜が、色素のJ−会合体に
    よるものであることを特徴とする請求項14ないし18
    のいずれか1に記載の光スイッチング方法。
  20. 【請求項20】 色素会合体膜が、スクエアリリウム色
    素からなる会合体によるものであることを特徴とする請
    求項14ないし19のいずれか1に記載の光スイッチン
    グ方法。
  21. 【請求項21】 スクエアリリウム色素が、下記一般式
    (I)で表される化合物であることを特徴とする請求項
    20に記載の光スイッチング方法。 一般式(I) 【化2】 (R1およびR2は同じでも異なっていてもよく、それぞ
    れアルキル基を示し、XはH、F、OH、CH3または
    OCH3を示す。)
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* Cited by examiner, † Cited by third party
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