JP2000080102A - O−過硫酸化グリコサミノグリカン及びそれを有効成分として含有する抗血液凝固剤 - Google Patents

O−過硫酸化グリコサミノグリカン及びそれを有効成分として含有する抗血液凝固剤

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JP2000080102A
JP2000080102A JP26724698A JP26724698A JP2000080102A JP 2000080102 A JP2000080102 A JP 2000080102A JP 26724698 A JP26724698 A JP 26724698A JP 26724698 A JP26724698 A JP 26724698A JP 2000080102 A JP2000080102 A JP 2000080102A
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glycosaminoglycan
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sulfation
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JP26724698A
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Toshio Imanari
登志男 今成
Toshihiko Toida
敏彦 戸井田
Robert J Linhardt
ジェイ リンハルト ロバート
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SHIN NIPPON YAKUGYOU KK
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Abstract

(57)【要約】 【課題】 高い抗血液凝固活性を有する、ヘパリンとは
異なる新規な化合物及びそれを有効成分として含有する
抗血液凝固剤を提供すること。 【解決手段】 デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びヒア
ルロン酸から成る群より選ばれるグリコサミノグリカン
中の水酸基が硫酸化されたO−過硫酸化グリコサミノグ
リカンであって、二糖繰り返し単位中の−OSO3 基の
数が平均3.8以上である、O−過硫酸化グリコサミノ
グリカン又は薬理学的に許容できるその塩。

Description

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、O−過硫酸化グリ
コサミノグリカン及びそれを有効成分として含有する抗
血液凝固剤に関する。
【0002】
【従来の技術】グリコサミノグリカン(GAG) は二糖の繰
り返しからなる直鎖の酸性多糖であり、基本構造の二糖
はウロン酸あるいはガラクトースとヘキソサミンから構
成される。また、GAG はウロン酸やヘキソサミンといっ
た構成単糖の違いや、硫酸基の結合数や結合位置の違い
からヒアルロン酸(HA)、コンドロイチン硫酸(ChS) 、デ
ルマタン硫酸(DS)、ケラタン硫酸(KS)、ヘパリン(HP)、
及びヘパラン硫酸(HS)の6種類に分類され、HA以外のGA
G は、自然界においてタンパク質と共有結合したプロテ
オグリカン(PG)として様々な組織中に分布していること
が知られている。PGは細胞外マトリックスの主要構成成
分という支持体としての機能だけでなく、細胞接着、移
動、増殖、分化や形態形成に至る様々な細胞の成長過程
に関与していることが期待されており、これらの機能の
大部分は GAGの構造特異性によるものと考えられてい
る。
【0003】GAG は様々な血漿タンパク質と結合し、多
くの生命現象に関与していることが知られている。特に
研究が進められている HP においてはアンチトロンビン
III(AT III) 、ヘパリンコファクターII (HC II)とい
った血液凝固阻止因子(M.J.Griffith, C.M.Noyes and
F.C. Church, J. Biol. Chem., 260, 2218-2225(1985);
T.H. Tran, B. Zbinden, B. Lammle and F. Duckert,
Semin. Thromb. Haemost.,11, 342-346 (1985)) 、繊維
芽細胞増殖因子 (FGF)などの細胞増殖因子(Y.Matuo, W.
L. Mckeehan, G.C. Yan, S. Nikolaropoulos, P.S. Ada
ms, Y. Fukabori, H. Yamanaka and J. Gaudreau, Adv.
Exp. Med. & Biol., 324, 107-114 (1992)); E.F. Rem
mers, H. Sano and R.L. Wilder, Sem. Arth. Rheum.,
21, 191-199 (1991))、LDL 等のリポタンパク質(H. Eng
elberg, Pharmacol. Rev., 36,91-110 (1984))、セレク
チン(R.M. Nelson, O. Cecconi, W.G. Roberts, A. Aru
ffo, R.J. Linhardt and M.P.Bevilacqua, Blood, 82,
3253-3258 (1993); K.E.Norgard-Sumnichit, N.M. Vark
i and A. Varki, Science, 261, 480-483 (1993))、及
び各種酵素と結合することが報告されている。
【0004】HPは血液凝固阻止因子に結合することに起
因する抗血液凝固活性が80年前に発見されて以来、60年
に渡って抗血液凝固、抗血栓を目的とした医薬品として
臨床で使用されており、現在でも汎発性血管内血液凝固
症候群 (DIC)、血栓塞栓症の治療及び予防に、また、輸
血、血液検査の際の血液凝固防止にと幅広く用いられて
いる。しかしながら、出血傾向などの深刻な副作用の報
告もあり、現在、より有効かつ安全性の高い抗血液凝固
薬剤の開発が求められている。
【0005】二糖単位当たり2ないし3個の硫酸エステ
ルをもつコンドロイチン硫酸が、抗血液凝固活性を示す
ことは既に報告されている(Bourin, M. et al., J. Bi
ol.Chem., 265, 15424-5431 (1990) )。化学的に硫酸
化されたこれらの過硫酸化コンドロイチン硫酸は、ヘパ
リンに含まれるイズロン酸とは構造的にも、コンホメー
ションも異なるグルクロン酸残基を有していることも事
実である(Qiu, G., et al., Biol. Pharm. Bull., 10
2, 721-726 (1997); Casu, B. Semin. Thromb.Haemos
t., 17S, 9-14 (1991)。
【0006】しかしながら、従来の過硫酸化コンドロイ
チン硫酸でも、抗血液凝固活性がヘパリンに比べて不十
分である。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】従って、本発明の目的
は、高い抗血液凝固活性を有する、ヘパリンとは異なる
新規な化合物及びそれを有効成分として含有する抗血液
凝固剤を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本願発明者らは、鋭意研
究の結果、特定のGAGの水酸基を実質的に完全に硫酸
化したO−過硫酸化GAGを初めて実際に提供し、その
生成を確認し、かつ、該過硫酸化GAGがヘパリンと比
較しても遜色のない、高い抗血液凝固活性を有している
ことを見出し、本発明を完成した。
【0009】すなわち、本発明は、デルマタン硫酸、ヘ
パラン硫酸及びヒアルロン酸から成る群より選ばれるグ
リコサミノグリカン中の水酸基が硫酸化されたO−過硫
酸化グリコサミノグリカンであって、二糖繰り返し単位
中の−OSO3 基の数が平均3.8以上である、O−過
硫酸化グリコサミノグリカン又は薬理学的に許容できる
その塩を提供する。また、本発明は、上記本発明のO−
過硫酸化グリコサミノグリカン又は薬理学的に許容でき
るその塩を有効成分として含有する抗血液凝固剤を提供
する。
【0010】
【発明の実施の形態】上述のように、本発明のO−過硫
酸化GAGは、デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫
酸又はヒアルロン酸の水酸基が硫酸化されたものであ
る。デルマタン硫酸、ヘパリン、ヘパラン硫酸又はヒア
ルロン酸の繰り返し単位である二糖中の水酸基が全て硫
酸化された場合、二糖単位中の−OSO3 基の数は4個
である。本発明のO−過硫酸化GAGでは、二糖構造単
位中の−OSO3 基の数が平均3.8以上、さらに好ま
しくは平均3.9以上、最も好ましくは平均4.0であ
る。なお、デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びヒアルロ
ン酸の二糖繰り返し単位の構造は周知であり、図1に示
されている。また、これらのGAGは市販されているの
で、容易に入手可能である。
【0011】本発明のO−過硫酸化GAGの分子量は特
に限定されないが、通常7千〜100万、好ましくは7
千〜20万、さらに好ましくは1万〜10万程度であ
る。
【0012】本発明のO−過硫酸化GAGは、薬理学的
に許容できる塩の形態にあってもよい。このような塩と
して、ナトリウム塩やカリウム塩のようなアルカリ金属
塩、カルシウム塩、アルミニウム塩等を挙げることがで
きるがこれらに限定されるものではない。
【0013】本発明のO−過硫酸化GAG硫酸は、GA
Gの塩と三酸化硫黄を非プロトン性溶媒中で、30℃〜
50℃の温度下で、コンドロイチン硫酸塩中の遊離水酸
基と三酸化硫黄とのモル比を1:8 ないし1:12として
反応させることにより製造することができる。
【0014】出発原料となるGAG塩としては、有機ア
ミン塩が好ましく、特にトリアルキル(特に炭素数1〜
6の低級アルキル)アミン塩、とりわけ、トリブチルア
ミン塩が好ましい。GAGの有機アミン塩は、市販のG
AGナトリウム塩を陽イオン交換樹脂にかけた後、有機
アミンを加え、凍結乾燥により濃縮することにより容易
に調製することができる。ここで用いることができる陽
イオン交換樹脂は何ら限定されるものではなく、例えば
市販品であるDowex 50W X8(ダウ・ケミカル社製)やSP
Sepharose HP (ファルマシア社製)等を用いることが
できる。また、陽イオン交換後のGAGに加えられる有
機アミンの量は、GAGに含まれる酸性基(カルボキシ
ル基又は硫酸基)1モルに対して1〜1.2モル程度が
好ましい。
【0015】次いで、得られたGAGの塩と三酸化硫黄
を非プロトン性溶媒中で、30℃〜50℃の温度下で、
GAG塩中の遊離水酸基と三酸化硫黄とのモル比を1:
8 ないし1:12として反応させる。ここで、好ましい非
プロトン性溶媒としてN,N−ジメチルホルムアミド、
ジメチルスルホキシド等を挙げることができるがこれら
に限定されるものではない。反応温度は、30〜50℃
であり、好ましくは、37〜43℃であり、最も好まし
くは約40℃である。GAG塩中の遊離水酸基と三酸化
硫黄とのモル比は1:6 ないし1:15であり、好ましく
は1:8 ないし1:12である。反応時間は約30分以
上、好ましくは30分〜8時間程度である。
【0016】なお、三酸化硫黄は、これ単独でGAG塩
と反応させてもよいが、予めピリジンのような環状アミ
ンと三酸化硫黄とを反応させて複合体を形成し、これを
GAG塩と反応させてもよい。この場合の環状アミンと
三酸化硫黄との反応条件は、例えば次の通りである。す
なわち、発煙硫酸を蒸留し、流出するSO3 ガスを冷却
する。アスベスト状を呈したSO3 に対し、冷却下、環
状アミンを滴下し、液状になった後、常温に戻し、もは
や発煙を観察しなくなるまで滴下を続ける。
【0017】上記方法により、本発明のO−過硫酸化G
AGが生成する。反応は蒸留水を加えることにより停止
させることができる。また、得られた粗生成物は、pH
を8〜10、好ましくは約9に調整した後、無水酢酸ナ
トリウムで飽和した冷エタノールで沈殿させ、遠心分離
により回収することができる。さらに、回収された生成
物を蒸留水に溶かし、水に対して透析後、凍結乾燥する
ことにより精製することができる。
【0018】本発明のO−過硫酸化GAGは、抗血液凝
固剤としてヘパリンと同様に用いることができる。用量
は、症状や使用態様に応じて適宜選択されるが、例え
ば、血液体外循環時における灌流血液の凝固防止に用い
る場合、ヘパリン国際単位として1000〜3000単
位を前投与し、開始後1時間あたり500〜1500単
位を間欠的に投与することができる。適用の際の組成と
しては例えば、生理食塩液又は注射用蒸留水を加えて1
ml当り1000単位となるように用時溶解して用いる
ことができる。
【0019】
【実施例】以下、本発明を実施例に基づきより具体的に
説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定される
ものではない。
【0020】なお、下記実施例において用いられている
略号の意味するところは次の通りである。
【0021】GlcA: グルクロン酸 IdoA: イズロン酸 GalNAc: N- アセチルガラクトサミン GlcNAc: N- アセチルグルコサミン ΔDi-0S: 2-アセタミド-2- デオキシ-3-O-(β-D- グル
コ-4- エンピラノシルウロン酸)- D- ガラクトース ΔDi-4S: 2-アセタミド-2- デオキシ-3-O-(β-D- グル
コ-4- エンピラノシルウロン酸)-4-O-スルホ-D- ガラク
トース ΔDi-6S: 2-アセタミド-2- デオキシ-3-O-(β-D- グル
コ-4- エンピラノシルウロン酸)-6-O-スルホ-D- ガラク
トース ΔDi-diSB: 2- アセタミド-2- デオキシ-3-O-(2-O-スル
ホ- β-D- グルコ-4- エンピラノシル- ウロン酸)-4-O-
スルホ-D- ガラクトース ΔDi-diSD: 2- アセタミド-2- デオキシ-3-O-(2-O-スル
ホ- β-D- グルコ-4- エンピラノシルウロン酸)-6-O-ス
ルホ-D- ガラクトース ΔDi-diSE: 2- アセタミド-2- デオキシ-3-O-(β-D- グ
ルコ-4- エンピラノシルウロン酸)-4,6-ビス-O- スルホ
-D- ガラクトース ΔDi-triS: 2- アセタミド-2- デオキシ-3-O-(2-O-スル
ホ- β-D- グルコ-4- エンピラノシルウロン酸)-4,6-ビ
ス-O- スルホ-D- ガラクトース HPLC: 高速液体クロマトグラフィー PAGE: ポリアクリルアミドゲル電気泳動 AT III: アンチトロンビン III HC II: ヘパリンコファクター II UV: 紫外部吸収スペクトル IR: 赤外線吸収スペクトル NMR: 核磁気共鳴 DQF-COSY: Double quantum filtered correlati
on spectroscopy TQF-COSY: Triple quantum filtered correlati
on spectroscopy TOCSY: Total spin correlation spectroscopy NOESY: Nuclear overhauser effect spectroscopy
【0022】1 .GAG の標準品 DS (ブタ皮膚由来) は大鵬ファインケミカル (株) から
提供された。HA (大腸菌由来) は紀文フードケミファ
(株) から購入した。HP (ブタ小腸粘膜由来) 、HS (ブ
タ小腸粘膜由来) は Celusus社 (Ohio) から購入した。
HP (ウシ小腸由来) は SIGMA社から購入した。
【0023】2 .GAG 由来の不飽和二糖 GAGs由来の不飽和二糖は生化学工業 (株) より購入し
た。
【0024】3 .酵素 コンドロイチナーゼ ABC (Proteus vulgaris 由来、EC
4.2.2.4) 、コンドロイチナーゼ AC I (Flavobacteriu
m heparinum 由来、EC 4.2.2.5) 、コンドロイチナーゼ
AC II (Arthrobacter aurescens 由来、EC 4.2.2.5) は
生化学工業 (株) より購入した。ヒアルロニダーゼ (ヒ
ツジ精巣由来、EC 3.2.1.35)は SIGMA社から購入した。
ヘパリンリアーゼ I (Flavobacterium heparinum由来、
EC 4.2.2.7) 、ヘパリン リアーゼ II (Flavobacteriu
m heparinum 由来、EC 4.2.2.7)、ヘパリンリアーゼIII
(Flavobacterium heparinum 由来、EC 4.2.2.8) は SI
GMA社から購入した。トロンビン (ヒト血漿製) は Boeh
ringer Mannheim社から購入した。
【0025】4 .その他 HPLC用カラム充填剤として TSKgel SCX を、HPLC用カラ
ムとして TSKgel IC-Anion-PW (4.6 mm i.d.( 内径) x
50 mm)を東ソー (株) から購入した。AsahipakGS-520
(4.6mm i.d. x 500 mm) 、Asahipak GS-320 (7.6 mm i.
d. x 500 mm)は旭化成工業 (株) から購入した。Pegasi
l-ODS (4.6 mm i.d. x 150 mm)は (株)センシュー科学
から購入した。Chromozym THは Boehringer Mannheim社
から購入した。アンチトロンビン III (ヒト血漿製) は
和光純薬工業 (株) から購入した。正常ヒト血漿は健常
なボランティアから採取した。他の試薬は全て市販の特
級品を使用した。水はイオン交換水を蒸留して用いた。
【0026】装置 1 .HPLC 溶離液送液ポンプは日本分光工業株式会社 (JASCO)製 I
ntelligent HPLC PumpPU-980 、日立製作所製 L-6000 p
ump、反応試薬送液ポンプは島村製作所製ダブルプラン
ジャーポンプ SPU-2.5NP型、検出器は東ソー製 Conduct
o Monitor CM-8、島津製作所製 Fluorescence Spectrom
onitor RF-530 、日立製作所製 Fluorescence Spectro
monitor F-1050、島津製作所製 UV-VIS Spectrophotome
tric detector SPD-6AV 、反応槽は Seishin Pharm. C
o., Ltd. 製 Dry Reaction Bath DB-2 、島村計器製作
所製 Dry Reaction Bath DB-5 、カラム恒温槽はヤマト
科学(株) 製 Water Bath Incubater BT-22 、記録計は
日立製作所製 Chromoto Integrator D-2500 を使用し
た。
【0027】2 .吸光光度計 島津製作所製 UV-VIS Spectrophotometer UV-1200 、電
子冷熱式恒温セルホルダーTCC-240A、Kinetics Program
Pack を使用した。
【0028】3 .旋光度計 日本分光工業株式会社 (JASCO)製 Spectropolarimeter
DIP-140を使用した。
【0029】4 .IR装置 日立製作所製 FT/IR-230を使用した。
【0030】5 .NMR 装置 日本電子株式会社 (JEOL) 製 JNM-GSX 400A 、または J
NM-GSX 500A を使用した。
【0031】6 .電気泳動 ポリアクリルアミドゲルとして ATTO ( 株) 製パジェル
NPG-520L 型 (濃度勾配 5〜20 %) 、または第一化学薬
品 (株) 製マルチゲル 4/20 ( 濃度勾配 4〜20%) を用
いた。
【0032】実験方法 1 .O- 硫酸化グリコサミノグリカンの調製部分的O- 硫酸化反応 いずれのグリコサミノグリカンに対しても図2に示した
方法で行った。硫酸化試薬であるピリジン・三酸化硫黄
は、GAG 鎖の遊離水酸基1モルに対して4 ないし8 モル
加えた。いずれの場合も反応は 0℃で 1時間行った。
【0033】完全O- 硫酸化反応 いずれのグリコサミノグリカンに対しても図2に示した
方法で行った。いずれの場合も反応は 40 ℃で行った。
【0034】2 .O- 硫酸化グリコサミノグリカンの構
造解析 1H-NMRスペクトル 重水はAldrich 社製( 純度 99.96 %) を使用した。NMR
装置は日本電子株式会社(JEOL)製 JNM-GSX 400A 、また
は JNM-GSX 500A を使用した。試料 2 mg は重水0.5 ml
に溶かし、凍結乾燥を繰り返し、交換可能なプロトンを
除いた後、陰圧で P2O5 存在下のデシケーターで 24 時
間乾燥した。完全に乾燥した試料は重水0.5 ml に溶か
し、Wilmad社製 NMR測定管 pp-528 (5.0 mm o.d.( 外
径) x 25 cm)に入れ、測定に用いた。測定は 400MHz
、または 500MHz の共鳴周波数で行った。一次元ス
ペクトルの測定条件は以下の通りである。観測幅、8 kH
z ;パルス幅、45゜(4.90 msec) ;サンプリングポイン
ト、32 K;パルス間隔、2 sec;積算回数、400 回;温
度、333 K 。また、定量及び化学シフトの基準として 3
- トリメチルシリルプロピオン酸ナトリウム (Aldrich
社製) を用いた。二次元スペクトルでは、観測幅 2000
Hzで、サンプリングポイントが 1024 得られるように 5
12回の積算を行った。タイムドメインデータはゼロフィ
リング (データマトリックスサイズ、1 K x 1 K)した
後、シフトしたサイン- ベルウィンドウ関数を使って、
二次元 DQF-COSY 、TQF-COSY、 TOCSY及び NOESYの為に
フーリエ変換した。
【0035】不飽和二糖分析 試料を図3に示す方法で酵素消化した後、生成する不飽
和二糖をHPLCで分離定量した。ポストカラムHPLCの条件
及びフローダイアグラムを図4に示す。図4に示すフロ
ーダイアグラムの条件は次の通りであった。
【0036】カラム、Pegasil-ODS(内径4.6 mm x 150 m
m); 溶離液A、8%アセトニトリル中0.8 mM TBA;溶離
液B、8%アセトニトリル中0.2 M NaCl含有0.8 mM TBA
勾配0-5.5 分、1%B;5.5-6.5分、1-12% B; 6.5-13.5
分、12%B;13.5-16.5 分、12-50%B; 16.5-18.5分、
50%B;流速、2.0 ml/ 分、カラム温度、60℃;試
薬1、1.0 M 水酸化ナトリウム(0.3 ml/分) 、試薬2、
1%2−シアノアセタミド(0.3 ml/分) ;反応温度、1
20℃、反応コイル、内径0.5 mm x 10 m;冷却コイル、
内径0.25 mm x 2 m,検出、蛍光、Ex.346 nm, Em. 410 n
m 。
【0037】硫酸化度測定 試料を図5に示す方法で酸加水分解した後、生成する硫
酸イオンを図6に示すイオンクロマトグラフィーで定量
した。
【0038】図6に示すイオンクロマトグラフィーの条
件は次の通りであった。カラム、TSK gel IC-Anion-PW
( 内径4.6 mm x 50 mm);除去カラム、Dowex 50W-X8(H+)
( 内径5.0 mm x 200 mm); カラム温度、30℃;移動
相、1.42 mM 炭酸水素ナトリウムと1.5 mM炭酸ナトリウ
ム溶液、流速1.0 ml/ 分;検出、電気伝導度。
【0039】アミノ糖の定量に用いたポストカラム HPL
C の条件を以下に示す。
【0040】カラム、TSKgel SCX (内径4.6 mm x 150 m
m);溶離液、0.35 Mホウ酸―水酸化ナトリウム緩衝液
(pH 7.6) ;流速、0.6 ml/min;カラム温度、60℃;試
薬1 、1%2- シアノアセトアミド (流速 0.25 ml/min)
;試薬2 、0.3 M 水酸化ナトリウム (流速 0.25ml/mi
n);反応コイル、( 内径0.5 mm x 10 m);反応温度、10
0 ℃;冷却コイル、( 内径0.25 mm x 2 m);検出、UV 2
80 nm 。
【0041】加水分解した試料溶液中に存在する硫酸イ
オンのモル数をアミノ糖のモル数で除し、硫酸化度とし
た。
【0042】旋光度 日本分光工業株式会社 (JASCO)製の DIP-140を用いて、
ナトリウム D線で測定した。乾燥した試料を秤量し、濃
度が 0.5 mg/ml、1 mg/ml になるように再蒸留水に溶か
して旋光度を測定した。
【0043】赤外線吸収スペクトル 日本分光工業株式会社 (JASCO)製の FT/IR-230を用いて
測定した。測定条件は以下の通りである。積算回数、64
times;分解、4 cm-1;ゲイン、16;スピード、2.0mm/
sec ;光源、standard;アポダイゼーション、Cosine;
ゼロフィリング、x 2 ;ビームスプリッター、KBr 。
【0044】3 .完全 O- 硫酸化 GAGの酵素消化O-SulDS 、O-SulHA のコンドロイチナーゼ消化 試料 (5000 ppm) 、コンドロイチナーゼ ABC (0.05 uni
ts/10 ml) 、コンドロイチナーゼ AC I (0.05 units/10
ml)、コンドロイチナーゼ AC II (0.05 units/10 ml)
、0.2 M Tris- 塩酸 buffer (pH 8.0)を 10 mlずつ混
合し、37℃で一晩インキュベートした。
【0045】酵素消化物は以下のゲル濾過クロマトグラ
フィーで、不飽和二糖の有無を確認した。
【0046】カラム、Asahipak GS-320 ( 内径7.6 mm x
500 mm);溶離液、10 mM 重炭酸アンモニウム;流速、
0.5 ml/min ;カラム温度、室温;試薬1 、0.5 % グア
ニジン及び0.5% 2- シアノアセトアミド( 流速、0.25 m
l/min);試薬2 、0.25 M水酸化ナトリウム( 流速、0.25
ml/min);反応コイル( 内径0.5 mm x 10 m);反応温
度、110 ℃;冷却コイル( 内径0.25 mm x 3 m);検出、
励起波長 346 nm 、蛍光波長 410 nm 。
【0047】ゲル濾過クロマトグラフィーで不飽和二糖
が検出された場合は、図4に示したHPLCで分離定量し
た。
【0048】O-SulDS 、O-SulHA のヒアルロニダーゼ消
試料50 mg を0.3 M NaClを含むリン酸緩衝液(pH 6.0)に
溶かし、ヒアルロニダーゼ (1.5 units/10 ml)20 ml を
加えて、37℃で一晩インキュベートした。
【0049】酵素消化物はコンドロイチナーゼ消化物と
同条件の HPLC で、飽和二糖の有無を確認した。
【0050】O-SulHP 、O-SulHS のヘパリンリアーゼ消
試料(200 ppm) 、10 mM 酢酸カルシウムを含んだ0.1 M
Tris- 酢酸緩衝液(pH7.0)、ヘパリンリアーゼI(2.0 uni
ts/ 10 ml) 、ヘパリンリアーゼII(0.2 units/10 ml)
、ヘパリンリアーゼ III(0.2 units/ 10 ml)を4 mlず
つ混合し、37℃で一晩インキュベートした後、遠心エバ
ポレートし、再蒸留水20 ml に溶かした。
【0051】酵素消化物はコンドロイチナーゼ消化物と
同条件の HPLC で、不飽和二糖の有無を確認した。
【0052】4 .抗血液凝固活性測定血漿を用いた抗IIa 因子活性測定 抗IIa 因子( トロンビン) 活性測定は図7に示す方法で
行い、405 nmにおける吸光度の変化を3分間測定した。
標準試料としてHP(172 units/mg)を用いた。測定試料は
その活性の強さに応じて濃度を変え、少なくとも3種類
の濃度で測定した。Tris buffer(pH 8.3) は、Tris 605
mg 、塩化ナトリウム1.33 gを再蒸留水に溶かし、2M
塩酸でpH 8.3とし、100 mlにメスアップした後、BSA 10
0 mg、及び保存のためのアジ化ナトリウム100 mgを加え
調製した。正常ヒト血漿は、抗凝固剤として3.8 % クエ
ン酸ナトリウムを用い、採血後速やかに1500 gで10分間
遠心し、上清を採取した。
【0053】AT IIIを用いた抗IIa 因子活性測定 抗IIa 因子( トロンビン) 活性測定は図7に示す方法で
行い、405 nmにおける吸光度の変化を 3分間測定した。
標準試料として HP (172 units/mg)を用いた。測定試料
はその活性の強さに応じて濃度を変え、少なくとも3種
類の濃度で測定した。アンチトロンビンIII(ヒト血漿
製、和光純薬工業( 株))は 0.08 units/mlになるように
再蒸留水に溶かして用いた。
【0054】結果 完全O-硫酸化DS,HAの調製と抗血液凝固活性 1. 完全O-硫酸化デルマタン硫酸 (DS) の調製 DSはウロン酸としてイズロン酸 (IdoA) あるいはグルク
ロン酸 (GlcA) 、アミノ糖として N- アセチルガラクト
サミン (GalNAc) から成る二糖の繰り返し構造を有して
いる。また、DSはヘパリンコファクター II (HC II) と
特異的に結合することが報告されており、化学修飾によ
る HC II結合部位の構造解析や構造活性相関に関する研
究が数多く行われている。ここでは天然のDSを完全O-
硫酸化することによる抗血液凝固活性の変化を調べるこ
とを目的に検討を行った。
【0055】分子量 30000の市販の DS ( コンドロイチ
ナーゼ消化による二糖組成分析の結果を表1に示す) の
トリ-n- ブチルアミン塩を調製し、ジメチルホルムアミ
ドを溶媒としてピリジン・三酸化硫黄を加え 0℃、1 時
間で部分的 O- 硫酸化反応を、40℃、3 時間で完全 O-
硫酸化反応を行った。更に、エタノール沈殿、透析、凍
結乾燥を経て部分的 O- 硫酸化DS、完全 O- 硫酸化DSを
得た( 図2参照) 。
【0056】
【表1】
【0057】部分的 O- 硫酸化DS、完全 O- 硫酸化DSの
構造を調べるために1H-NMRスペクトルを測定した (図
8、図9) 。なお、図8中、AはDSについての結果、
Bは部分的O−硫酸化DS(x4 モル) についての結果、C
は部分的O−硫酸化DS(x8 モル) についての結果、Dは
部分的O−硫酸化DS(x12モル) についての結果を示す。
また、図9中、AはDSについての結果、Bは部分的O
−硫酸化DSについての結果、Cは完全硫酸化DSにつ
いての結果を示し、「*」は不純物を示す。一次元1H-N
MRスペクトルの帰属は二次元1H-NMRスペクトルの DQF-C
OSY 、TQF-COSY、TOCSY 、NOESY により行った。完全O-
硫酸化DSの1H-NMRスペクトルは非常に単純なものにな
り、構造が均一化されていることが明らかとなった。ま
た、完全 O-硫酸化DSの硫酸化度は 3.95 を示し、DSの
全ての水酸基が硫酸化されたことが確認された。しかし
ながら、ウロン酸のコンフォメーション変化はDSにおい
ては観察されなかった。
【0058】官能基の変化を調べるためにIRスペクトル
を測定し、O ―H の伸縮運動、変角運動に由来するピー
クの減少とS =O の伸縮振動、C ―O ―S の変角振動、
及びアキシアルC ―O ―SO3 の伸縮振動に由来するピー
クの増加が観察され、DSの水酸基に硫酸基が導入された
ことが確認された。
【0059】次に測定温度を変えて完全O- 硫酸化DSの
1H-NMR スペクトルを測定した。完全O- 硫酸化DSでは
どのプロトンに由来するシグナルにおいても結合定数の
変化は観察されなかった。30℃、及び 60 ℃における各
プロトンのシグナルの化学シフト及び結合定数を表2に
示す。
【0060】
【表2】
【0061】酵素への抵抗性を調べるために完全 O- 硫
酸化DSをコンドロイチナーゼ AC I、コンドロイチナー
ゼ AC II、及びコンドロイチナーゼ ABCの混合物で徹底
的に消化した後、HPLCで不飽和二糖の定量を行った。そ
の結果、ΔDi-4S が 0.071 %、ΔDi-6S が 0.011 %、Δ
Di-diSE が 0.008 %検出されたが、回収率は天然のDSを
酵素処理して得られる不飽和二糖の0.09 %であり、コン
ドロイチナーゼに対して抵抗性を示すことが明らかとな
った。また、ヒアルロニダーゼによる徹底消化でも飽和
二糖は全く検出されず、酵素に強い抵抗性を示すことが
明らかとなった。
【0062】2 .完全O-硫酸化ヒアルロン酸 (HA) の調
製 HAはウロン酸として GlcA 、アミノ糖として N- アセチ
ルグルコサミン (GlcNAc) を持つ二糖の繰り返し構造を
有している。HAは保水性、粘弾性に富んでいるという物
理的特性を持つほかに、形態形成期にみられる活発な細
胞活動の活性化、血管内皮細胞や白血球の遊走阻害など
の様々な生理的役割を持つと示唆されている。HAは抗血
液凝固活性は示さないが、完全 O- 硫酸化による GlcA
のコンフォメーション変化、及び抗血液凝固活性の発現
を期待して O- 硫酸化反応の検討を行った。
【0063】分子量100000の市販の HA のトリ-n- ブチ
ルアミン塩を調製し、ジメチルホルムアミドを溶媒とし
てピリジン・三酸化硫黄を加え 0℃、1 時間で部分的 O
- 硫酸化反応を、40℃、3 時間で完全 O- 硫酸化反応を
行った。更に、エタノール沈殿、透析、凍結乾燥を経て
部分的 O- 硫酸化HA、完全 O- 硫酸化HAを得た( 図2参
照) 。
【0064】部分的 O- 硫酸化HA、完全 O- 硫酸化HAの
構造を知るために1H-NMRスペクトルを測定した( 図1
0、図11) 。なお、図10中、AはHAについての結
果、Bは部分的O−硫酸化HA(x4 モル) についての結
果、Cは部分的O−硫酸化HA(x8モル) についての結果
を示す。また、図11中、AはHAについての結果、Bは
部分的O−硫酸化HA(x8 モル) についての結果、Cは完
全O−硫酸化HAについての結果を示す。一次元1H-NMR
スペクトルの帰属は二次元1H-NMRスペクトルの DQF-COS
Y 、TQF-COSY、TOCSY 、NOESY により行った。完全 O-
硫酸化HAの1H-NMRスペクトルは非常に単純なものにな
り、構造が均一化されていることが明らかとなった。完
全 O- 硫酸化HAの硫酸化度は 3.97 を示し、HAの全ての
水酸基が硫酸化されたことが確認された。またIRスペク
トルにより、HAの水酸基に硫酸基が導入されたことが確
認された。
【0065】次に測定温度を変えて完全 O- 硫酸化HAの
1H-NMRスペクトルを測定した。測定温度を変えることで
GlcA のH-1 及びH-2 の結合定数 3J1、2 の変化が観察
され、GlcAが低温 (30℃) では1C4 、高温 (60℃) では
2S0 のコンフォメーションをとっていることが確認され
た。30℃、及び 60 ℃における各プロトンのシグナルの
化学シフト及び結合定数を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】酵素への抵抗性を調べるために完全 O- 硫
酸化HAをコンドロイチナーゼ AC I、コンドロイチナー
ゼ AC II、及びコンドロイチナーゼ ABCの混合物で徹底
的に消化した後、HPLCで定量したところ、不飽和二糖が
ごく微量検出され、コンドロイチナーゼに対して抵抗性
を示すことが明らかとなった。また、ヒアルロニダーゼ
による徹底消化においては飽和二糖は全く検出されず、
酵素に強い抵抗性を示すことが明らかとなった。
【0068】3.完全O-硫酸化ヘパラン硫酸の調製 HSはウロン酸としてイズロン酸 (IdoA) あるいはグルク
ロン酸 (GlcA) 、アミノ糖として N- 硫酸化グルコサミ
ン (GlcNS)あるいは N- アセチルグルコサミン(GlcNAc)
を持つ二糖の繰り返し構造を有している。しかしなが
ら、ウロン酸がそれぞれ約半数ずつ存在し、グルコサミ
ン (GlcN) の N- 硫酸含量が 50 % 前後であることから
HPに比べて構造多様性に富んでいる。HSもHPと同様に繊
維芽細胞増殖因子 (FGF)などの増殖因子に親和性を持つ
ことが知られている。しかしながら、抗血液凝固活性は
HP よりも低く、化学修飾による作用増強の試みが行わ
れている(F.A. Ofosu, G.J. Modi, M.A. Blajchman, M.
R. Buchanan and E.A. Johnson, Biochem. J., 248, 88
9-896 (1987)) 。
【0069】分子量 14800の市販の HS ( ヘパリンリア
ーゼ消化による二糖組成分析の結果を表4に示す) のト
リ-n- ブチルアミン塩を調製し、ジメチルホルムアミド
を溶媒としてピリジン・三酸化硫黄を加え 0℃、1 時間
で部分的 O- 硫酸化反応を、40℃、6 時間で完全 O- 硫
酸化反応を行った。更に、エタノール沈殿、透析、凍結
乾燥を経て部分的 O-SulHS、完全 O-SulHSを得た( 図2
参照) 。
【0070】
【表4】
【0071】部分的 O-SulHS、完全O-SulHS の構造を知
るために1H-NMRスペクトルを測定した (図12、図1
3) 。なお、図12中、AはHSについての結果、Bは
部分的O−硫酸化HS(x6 モル) についての結果、Cは部
分的O−硫酸化HS(x12モル) についての結果、「*」は
不純物を示す。また、図13中、AはHSについての結
果、Bは部分的O−硫酸化HS(x12モル) についての結
果、Cは完全O−硫酸化HSについての結果を示し、
「*」は不純物を示す。一次元1H-NMRスペクトルの帰属
は二次元1H-NMRスペクトルの DQF-COSY 、TQF-COSY、TO
CSY 、NOESY により行ったが、構造多様性のためにスペ
クトルが複雑となり、完全な帰属はできなかった。完全
O-SulHS の1H-NMRスペクトルは各プロトンのシグナルが
低磁場にシフトした他、GlcNAcのアセチル基のメチルプ
ロトン由来のシグナルの収束が観察された。また、完全
O-SulHS の硫酸化度は4.31を示し、HSの全ての水酸基が
硫酸化されたと推測されるが、HPと同様にN-硫酸基が脱
離した可能性もあるが、IRスペクトルによりHSの水酸基
に硫酸基が導入されたことが確認された。
【0072】酵素への抵抗性を調べる為に完全 O-SulHS
をヘパリンリアーゼ I、ヘパリンリアーゼ II 、及びヘ
パリンリアーゼ IIIの混合物で徹底的に消化した後、HP
LCで定量したが、不飽和二糖は全く検出されず酵素に強
い抵抗性を示すことが明らかになった。
【0073】調製した O- 硫酸化 GAGの硫酸化度と旋光
度を表5に示す。
【0074】
【表5】
【0075】II. O-硫酸化 GAGの抗血液凝固活性 DS、HA、HS、HP、及びそれらの誘導体の抗IIa 活性を図
14に示す。なお、図14において、SO3 -/ ニ糖は硫酸
基とアミノ糖の定量値から求めた。DS、HAにおいては硫
酸化度の上昇に伴う抗血液凝固活性の上昇が観察され、
完全 O- 硫酸化した DS 、HAでは HP の約 1/3に相当す
る高い活性が得られることが明らかとなった。完全 O-
硫酸化によるHAの抗 IIa活性の急激な上昇は、GlcAのコ
ンフォメーションが4C1 から1C4 に変化したことと密接
に相関するものと推察され、糖鎖のコンフォメーション
が抗 IIa活性に大きく寄与している可能性が示唆され
た。
【0076】HSにおいても O- 硫酸化による抗 IIa活性
の上昇が観察されたが、DS、HAとは異なり部分的 O- 硫
酸化の際に急激な活性の上昇が観察された。これは HS
の一部の構造が部分的 O- 硫酸化によって HP が持つ A
T III 結合部位の五糖構造に類似したためと推察され
る。
【0077】また、全ての完全 O- 硫酸化 GAGの抗 IIa
活性においてトロンビンに対する直接作用が観察されな
かったことから、AT IIIや HC IIといった血液凝固阻害
因子を介した抗血液凝固作用であることが示唆された。
【0078】完全 O- 硫酸化 GAGの抗 IIa活性の比較を
図15に示した。
【0079】完全 O- 硫酸化 GAGの合成とその抗血液凝
固活性について調べるために種々の反応条件、構造につ
いて検討を行った。その結果、DS、HA、HSにおいても硫
酸化度の上昇に伴う抗血液凝固活性の上昇がみられ、完
全 O- 硫酸化することでHPの約 1/3に相当する高い活性
が得られることが明らかとなった。
【0080】完全 O- 硫酸化による急激な抗 IIa活性の
上昇は HA においては GlcA のコンフォメーション変化
に起因するものと推測される。しかしながら、DSの構成
糖であり1C4 フォームをとっているIdoAでは、完全 O-
硫酸化によるコンフォメーションの変化は観察されなか
った。このことはウロン酸の1C4 フォームが 2位、3位
の水酸基に硫酸基が導入されても安定であることを示唆
すると共に、強い抗 IIa活性に影響しているのは1C4
コンフォメーション変化した2S0 であることを示唆して
いる。おそらく完全 O-SulDSのIdoAは硫酸基の立体障
害、あるいは電荷の反発により天然のDSのIdoAに比べて
2S0 フォームをとり易くなっているものと推測される。
【0081】HSにおいても O- 硫酸化による抗 IIa活性
の上昇が観察されたが、DS、HAとは異なり部分的 O- 硫
酸化の際に急激な活性の上昇が観察された。これは HS
の一部の構造が部分的 O- 硫酸化によって HP が持つ A
T III 結合部位の五糖構造に類似したためと推察され、
特に AT III を介した抗血液凝固活性が上昇していると
推測される。
【0082】また、HPでは完全 O- 硫酸化による活性の
低下が観察された。これは天然の HP がもつ AT III 結
合部位が壊されたことに起因すると推測されるが、AT I
II結合部位の破壊が O- 硫酸化によるものか、脱 N- 硫
酸化によるものかを調べる為に、完全 O-SulHPを再 N-
硫酸化し抗 IIa活性の変化をみる必要があると思われ
る。
【0083】III.アンチトロンビン IIIを介した抗血液
凝固活性 化学的 O- 硫酸化反応によって様々な硫酸化度を持つ G
AGを調製し、それらの抗 IIa活性を測定した。その結
果、硫酸化度の上昇に伴って抗 IIa活性が上昇し、ま
た、完全 O- 硫酸化によって HP の 1/2〜1/5 に相当す
る強い活性が得られることが明らかとなった。いずれの
完全 O- 硫酸化 GAGにおいてもトロンビンに対する直接
作用は観察されなかったことから、AT III、HC II とい
った血液凝固阻害因子を介した抗IIa 活性であることが
推察された。しかしながら、血漿にはAT III 、HC II
が共に含まれているために、これまでに行った血漿を用
いる抗IIa活性測定法ではどちらを介して発現した作用
であるかは明らかにできない。そこで、 GAGの抗血液凝
固活性が AT III 、HC II のどちらを介しているかを調
べる為に、血漿の代わりにヒト血漿から単離した市販の
AT III を用い、抗 IIa活性測定を行った。
【0084】DS、HA、HSの抗IIa 活性測定の結果をそれ
ぞれ図16、17、18に示す。なお、これらの図中、
SO3 -/二糖は、アミノ糖に対する硫酸イオンの比率で表
されている。なお、硫酸イオン及びアミノ糖は、イオン
クロマトグラフィー及び2−シアノアセタミドを用いた
ポスト−カラムHPCLにより決定した。DS、HAにおいて
は、硫酸化度の上昇に伴って血漿を介した抗IIa 活性の
上昇が観察されたが、ATIIIを介した活性は全く観察さ
れなかった。天然の HP では血漿、AT IIIのどちらを用
いた場合にも抗 IIa活性が強く観察されたが、完全 O-S
ulHPでは共にその活性が著しく低下した。特に、AT III
を介した抗 IIa活性は全く観察されなくなった。一方、
HSでは硫酸化度の上昇に伴って抗 IIa活性の上昇が観察
され、特にHS の場合は部分的 O- 硫酸化による急激な
抗 IIa活性の上昇が観察された。また、この部分的 O-
硫酸化した HS の抗 IIa活性の上昇は、AT IIIを介した
活性発現であることが実験から明らかとなった。このこ
とは、その糖鎖配列中に天然の HP に見出された AT II
I 結合部位に相当する配列が生成されたことを示唆して
いる。
【0085】GAG 及びそれらの誘導体の抗 IIa活性発現
の媒介物質を調べるために AT IIIを用いた抗 IIa活性
測定を行った。DS、HAにおいては、硫酸化度の上昇に伴
って血漿を介した抗 IIa活性の上昇が観察されたが、AT
IIIを介した活性は全く観察されなかった。このことか
ら ChS、DS、HA及びそれらの誘導体の抗 IIa活性がHCII
を介したものであることが示唆された。この結果はDSの
抗血液凝固活性が HCIIを介しているという報告と一致
した。
【0086】HSでは硫酸化度の上昇に伴う抗 IIa活性の
上昇が観察され、特に部分的O-硫酸化による著しい活性
の上昇が観察された。また、部分的O-硫酸化による抗 I
Ia活性の急激な上昇に伴い、AT IIIを介した活性の発現
が観察されたことから、HSの構造の一部に AT III 結合
部位が生成したものと推測される。また、完全O-SulHS
においてはHPの場合と同様にAT IIIを介した抗IIa 活性
は観察されなかった。
【0087】
【発明の効果】本発明により、遊離水酸基の硫酸化率が
従来よりも高められた新規なO−過硫酸化GAGが提供
された。本発明のO−過硫酸化GAGは優れた抗血液凝
固活性、特に優れたIIa 因子阻害活性を有し、副作用の
強いヘパリンの代替品として有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のO−過硫酸化GAGのO−過硫酸化前
GAGのニ糖繰り返し単位の化学構造を示す図である。
【図2】本発明のO−過硫酸化GAGの製造方法の工程
を示す図である。
【図3】不飽和二糖分析のための酵素消化方法の工程を
示す図である。
【図4】不飽和二糖分析のためのポスト−カラムHPCLシ
ステムのフローダイアグラムを示す図である。
【図5】硫酸化度測定のための酸加水分解の工程を示す
図である。
【図6】硫酸化度測定のための酸加水分解の後のイオン
クロマトグラフィー装置を模式的に示す図である。
【図7】抗IIa 因子( トロンビン) 活性測定の工程を示
す図である。
【図8】デルマタン硫酸及び部分的O−硫酸化デルマタ
ン硫酸の1H-NMRスペクトルを示す図である。
【図9】デルマタン酸及びO−硫酸化デルマタン硫酸の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【図10】ヒアルロン酸及び部分的O−硫酸化ヒアルロ
ン酸の1H-NMRスペクトルを示す図である。
【図11】ヒアルロン酸及びO−硫酸化ヒアルロン酸の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【図12】ヘパラン硫酸及び部分的O−硫酸化ヘパラン
硫酸の1H-NMRスペクトルを示す図である。
【図13】ヘパラン硫酸及びO−硫酸化ヘパラン硫酸の
1H-NMRスペクトルを示す図である。
【図14】GAG及びO−硫酸化GAGの抗IIa 活性を
示す図である。
【図15】完全O−硫酸化GAGの抗IIa 活性を示す図
である。
【図16】デルマタン硫酸及びO−硫酸化デルマタン硫
酸の抗IIa 活性を示す図である。
【図17】ヒアルロン酸及びO−硫酸化ヒアルロン酸の
抗IIa 活性を示す図である。
【図18】ヘパラン硫酸及びO−硫酸化ヘパラン硫酸の
抗IIa 活性を示す図である。
───────────────────────────────────────────────────── フロントページの続き (72)発明者 ロバート ジェイ リンハルト アメリカ合衆国アイオワ州アイオワシティ ー アイオワ大学薬学部内 Fターム(参考) 4C086 AA01 AA02 AA03 EA26 EA27 MA01 MA04 NA05 NA14 ZA54 4C090 AA01 AA02 AA09 BA66 BA67 BA68 BA97 BB63 BB95 BD36 CA38 DA09 DA23

Claims (6)

    【特許請求の範囲】
  1. 【請求項1】 デルマタン硫酸、ヘパラン硫酸及びヒア
    ルロン酸から成る群より選ばれるグリコサミノグリカン
    中の水酸基が硫酸化されたO−過硫酸化グリコサミノグ
    リカンであって、二糖繰り返し単位中の−OSO3 基の
    数が平均3.8以上である、O−過硫酸化グリコサミノ
    グリカン又は薬理学的に許容できるその塩。
  2. 【請求項2】 O−過硫酸化デルマタン硫酸又は薬理学
    的に許容できるその塩である請求項1記載のO−過硫酸
    化グリコサミノグリカン又は薬理学的に許容できるその
    塩。
  3. 【請求項3】 O−過硫酸化ヘパラン硫酸又は薬理学的
    に許容できるその塩である請求項1記載のO−過硫酸化
    グリコサミノグリカン又は薬理学的に許容できるその
    塩。
  4. 【請求項4】 O−過硫酸化ヒアルロン酸又は薬理学的
    に許容できるその塩である請求項1記載のO−過硫酸化
    グリコサミノグリカン又は薬理学的に許容できるその
    塩。
  5. 【請求項5】 二糖繰り返し単位中の−OSO3 基の数
    が平均3.9以上である、請求項1ないし4のいずれか
    1項に記載のO−過硫酸化グリコサミノグリカン又は薬
    理学的に許容できるその塩。
  6. 【請求項6】 請求項1ないし5のいずれか1項に記載
    のO−過硫酸化グリコサミノグリカン又は薬理学的に許
    容できるその塩を有効成分として含有する抗血液凝固
    剤。
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Cited By (3)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
FR2864090A1 (fr) * 2003-12-19 2005-06-24 Aventis Pharma Sa Derives carboxy-reduits de l'acide hyaluronique, leur preparation, leur application comme medicament et les compositions pharmaceutiques les renfermant
FR2864089A1 (fr) * 2003-12-19 2005-06-24 Aventis Pharma Sa Derives carboxy-reduits de la chondroitine sulfate, leur preparation, leur application comme medicament et les compositions pharmaceutiques les renfermant
FR2864087A1 (fr) * 2003-12-19 2005-06-24 Aventis Pharma Sa Derives carboxy-reduits du dermatan sulfate, leur preparation, leur application comme medicament et les compositions pharmaceutiques les renfermant

Cited By (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
FR2864090A1 (fr) * 2003-12-19 2005-06-24 Aventis Pharma Sa Derives carboxy-reduits de l'acide hyaluronique, leur preparation, leur application comme medicament et les compositions pharmaceutiques les renfermant
FR2864089A1 (fr) * 2003-12-19 2005-06-24 Aventis Pharma Sa Derives carboxy-reduits de la chondroitine sulfate, leur preparation, leur application comme medicament et les compositions pharmaceutiques les renfermant
FR2864087A1 (fr) * 2003-12-19 2005-06-24 Aventis Pharma Sa Derives carboxy-reduits du dermatan sulfate, leur preparation, leur application comme medicament et les compositions pharmaceutiques les renfermant
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