WO2024143395A1 - 溶接継手 - Google Patents

溶接継手

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卓哉 光延
将明 浦中
正寛 松葉
美奈江 西角
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日本製鉄株式会社
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【課題】止端近傍部における耐食性をより向上させること。 【解決手段】本発明に係る溶接継手は、平面視において延伸方向を長手とする溶接ビード部に接続された第1及び第2鋼板を有し、第1及び前記第2鋼板は、熱影響部と、非熱影響部とをそれぞれ有し、第1及び第2鋼板において、第1又は第2鋼板の少なくとも何れかは、非熱影響部において、所定の化学成分を有するめっき層を有している。止端近傍の特定位置を起点とし、当該起点から100μmまでの範囲の領域について、断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、めっき層において、Fe-Al金属組織の平均面積率が0~95%であり、Mg-Zn金属組織の平均面積率が5~100%であり、かつ、η-Zn相の平均面積率が3面積%以下である。

Description

溶接継手
 本発明は、溶接継手に関する。
 自動車の足回り部材をはじめとする自動車部材や各種の建材部材は、複数の鋼材を溶接した溶接継手を用いて製造されることが多い。これら自動車部材及び建材部材は、様々な環境に曝露された上で使用されることから、製造された溶接継手は、優れた耐食性を有していることが望まれる。そこで、かかる溶接継手の素材として、合金化溶融亜鉛めっき鋼板等をはじめとする各種の亜鉛系めっき鋼板が用いられている。
 ここで、亜鉛めっき鋼板を溶接して溶接継手を製造する場合に以下の特有な問題がある。JIS Z3001(2018)で規定される「止端」の近傍における、溶接時のめっき中のZn蒸発の結果形成されるブローホールに起因する、溶接継手の機械的特性の低下が懸念される。更に、めっき中のZn蒸発は犠牲防食層が損なわれるため、耐食性についても低下することとなる。
 上記のようなブローホール形成の問題を解決するために、従来、様々な提案がなされている。例えば以下の特許文献1では、鋼板と、鋼板の表面に配され、Zn-Al-Mg合金層を含むめっき層と、を有し、Zn-Al-Mg合金層の断面において、MnZn相の面積分率が45~75%、MgZn相及びAl相の合計の面積分率が70%以上、かつ、Zn-Al-MgZn三元共晶組織の面積分率が0~5%であり、めっき層が所定の化学組成を有するめっき鋼材が提案されている。
国際公開第2018/139620号
 ここで、上記特許文献1で提案されているめっき鋼材を用いることで、ブローホール形成の問題を解決することは可能である。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、上記特許文献1で提案されている技術には、未だ改良の余地がある。亜鉛めっき鋼板を素材とする溶接継手における止端近傍部の耐食性に関して、更なる改善が望まれる。
 そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、止端近傍部における耐食性をより向上させることが可能な、溶接継手を提供することにある。
 上記課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討した結果、溶接時に、地鉄の防食に有利なFe-Al相の生成を促進させることで、止端近傍部のめっき層において、地鉄の防食に有利なMg-Zn相を形成させる、というメカニズムに着想した。止端近傍部に存在するめっき層がMg-Zn相を含むことで、止端近傍部における地鉄の耐食性がより一層向上することが期待される。
 かかる知見に基づき、本発明者らが更なる検討を行った結果、溶接継手の止端近傍部におけるめっき構造を改良することで、止端近傍部における耐食性を向上させることが可能となることを見出した。
 かかる知見に基づき完成された本発明の要旨は、以下の通りである。
(1)平面視において延伸方向を長手とする溶接ビード部に接続された第1鋼板及び第2鋼板を有しており、前記第1鋼板及び前記第2鋼板は、前記溶接ビード部の周囲に位置する熱影響部と、溶接による熱影響が無い非熱影響部と、をそれぞれ有し、前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかは、前記非熱影響部において、地鉄と、前記地鉄上のめっき層と、を有しており、前記めっき層は、質量%で、Al:30.00~70.00%、Mg:7.00~20.00%、Fe:0.01~15.00%を含有し、選択的に、下記元素群A、元素群B、元素群C、元素群D、元素群E、元素群F、及び、元素群Gからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有し、残部が、5.00質量%以上のZnと、不純物と、からなる化学組成を有するめっき層であり、JIS Z3001(2018)で規定される止端から、前記延伸方向に対して直交し、かつ、前記止端から離れる方向に向かって見たときに、前記止端、前記熱影響部又は前記地鉄が露出した領域、前記めっき層を有する領域、の順に構成されており、前記止端に最も近い前記めっき層の端部を起点とし、当該起点から100μmまでの範囲の領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層において、Fe-Al金属組織の平均面積率が、0~95%であり、Mg-Zn金属組織の平均面積率が、5~100%であり、かつ、η-Zn相の平均面積率が、3面積%以下である、溶接継手。
[元素群A]:Si:0%超10.00%以下、及び、Ca:0%超4.00%以下からなる群より選択される1種又は2種
[元素群B]:Sb:0%超0.5000%以下、Pb:0%超0.5000%以下、及び、Sr:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群C]:Cu:0%超1.0000%以下、Ti:0%超1.0000%以下、Cr:0%超1.0000%以下、Nb:0%超1.0000%以下、Ni:0%超1.0000%以下、Mn:0%超1.0000%以下、Mo:0%超1.0000%以下、Co:0%超1.0000%以下、及び、V:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群D]:Sn:0%超1.0000%以下、In:0%超1.0000%以下、及び、Bi:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群E]:Zr:0%超1.0000%以下、Ag:0%超1.0000%以下、及び、Li:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群F]:La:0%超0.5000%以下、Ce:0%超0.5000%以下、及び、Y:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群G]:B:0%超0.5000%以下
(2)前記元素群Aを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(3)前記元素群Bを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(4)前記元素群Cを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(5)前記元素群Dを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(6)前記元素群Eを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(7)前記元素群Fを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(8)前記元素群Gを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(9)前記めっき層は、Mg:9.00~15.00質量%を含有し、かつ、元素群Aとして、Ca:0.05~4.00質量%を含有する、(1)~(8)の何れか1つに記載の溶接継手。
(10)前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層において、η-Zn相が含有されない、(1)~(8)の何れか1つに記載の溶接継手。
(11)前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層において、η-Zn相が含有されない、(9)に記載の溶接継手。
(12)前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層の少なくとも一部に、更に、Mg相が含有される、(1)~(8)の何れか1つに記載の溶接継手。
(13)前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層の少なくとも一部に、更に、Mg相が含有される、(9)に記載の溶接継手。
(14)前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層の少なくとも一部に、更に、Mg相が含有される、(10)に記載の溶接継手。
(15)前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層の少なくとも一部に、更に、Mg相が含有される、(11)に記載の溶接継手。
(16)前記Mg-Zn金属組織の平均面積率が、30~80%である、(1)に記載の溶接継手。
 以上説明したように本発明によれば、止端近傍部における耐食性をより向上させることが可能となる。
本発明の実施形態に係る溶接継手の構造の一例を模式的に示した説明図である。 他の実施形態に係る溶接継手の構造の一例を模式的に示した説明図である。 他の実施形態に係る溶接継手の構造の一例を模式的に示した説明図である。 図1Aに示した実施形態に係る溶接継手について説明するための説明図である。 同実施形態に係る溶接継手について説明するための説明図である。 同実施形態に係る溶接継手について説明するための説明図である。
 以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
(溶接継手について)
 まず、図1Aを参照しながら、本発明の実施形態に係る溶接継手の全体的な構成について説明する。図1Aは、本実施形態に係る溶接継手の構造の一例を模式的に示した説明図である。
 なお、以下では、便宜的に、図1Aに示したような座標系を用いて、適宜説明を行うものとする。図1Aでは、2つの鋼板をアーク溶接により溶接した溶接継手を例に挙げて図示を行っている。
 図1Aは、第1鋼板と、第2鋼板と、をアーク溶接又はレーザー溶接により重ね隅肉溶接することで得られた溶接継手の全体的な構成を、模式的に示したものであり、溶接ビード部の延伸方向に対して垂直な溶接継手の断面を示している。図1Aに模式的に示したように、本実施形態に係る溶接継手1は、第1鋼板10と、第2鋼板20と、溶接ビード部30とを有している。また、第1鋼板10及び第2鋼板20のうち溶接ビード部30近傍には、熱影響部40が形成されている。図1Aに示したように、以下では、第2鋼板20の表面に対する法線方向をZ軸方向とし、溶接ビード部30の延伸方向をY軸方向とし、Z軸方向及びY軸方向に直交する方向をX軸方向とする。
 ここで、以下では、溶接継手1を構成する第1鋼板10及び第2鋼板20の素材として、以下で詳述するようなめっき層を有する亜鉛系めっき鋼板を用いる場合を例に挙げて説明を行う。
 また、溶接ビード部30は、アーク溶接又はレーザー溶接によって形成された部位であり、溶接の際に必要に応じて用いられる溶接ワイヤと、素材としての鋼板(以下、「素材鋼板」と称する。)との間で、構成元素の相互拡散が生じる。溶接ビード部30は、かかる拡散元素が酸化されることで形成される。従って、図1Aでは、溶接ビード部30と、第1鋼板10又は第2鋼板20と、の接合界面は、図示の便宜上、滑らかな曲線や直線として示されているが、実際の接合界面は、溶接中の溶融金属がアークプラズマ等によって揺動することにより、複雑な曲面となっている。また、かかる溶接ビード部30は、図中のY軸方向に沿って延伸しており、かかる溶接ビード部30によって、第1鋼板10と第2鋼板20とが接合されている。
 なお、かかる溶接ビード部30を構成する成分は、用いられる溶接ワイヤの種別や、素材鋼板の化学組成等に応じて変化するため、全ての可能性を網羅するような成分を一義的に定めることは困難である。しかしながら、かかる溶接ビード部30は、素材鋼板の重ね合わせ部(lap)に存在しためっき層を構成する各種元素のうち、「酸化されやすい元素」の酸化物を主成分とする(「酸化されやすい元素」の酸化物の含有量が50質量%以上となる)ことが一般的である。このような酸化されやすい元素としては、例えば、AlやMgやSi等を挙げることができる。
 また、溶接継手1における溶接ビード部30を特定する場合、エッチング液を用いた、溶接ビード部30、熱影響部40、及び、非熱影響部が含まれる溶接継手1の断面のエッチング処理により、容易に可視化することができる。例えば、エッチング液としては、ナイタール(配合:エタノール95%、硫酸5%)や、水2400ccに対し、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム60gとピクリン酸36gとエタノール60ccと家庭用洗剤液(例えば、食器用洗剤等の一般的なもの)60ccとを混合したエッチング液等を用いることが可能である。
 なお、溶接時に生成する酸化物は、スケールとスラグの2種類に大別される。溶接時に、溶接ビード部30の表面に生成する酸化物であるスケールは、酸素を除外したときの質量%で、50%以上のFeを含有し、残部が、酸化されやすい元素及び不純物からなるものである。また、スラグは、酸素を除外したときの質量%で、酸化されやすい元素を50%以上含有し、残部が、50質量%未満のFeと不純物からなるものである。ここで、「酸化されやすい元素」の具体例として、Ca、In、Bi、Cr、Zr、Li、La、Ce、Sr、Y、Si、Mn、Al、Tiが挙げられる。
 なお、上記のスケールとスラグとは、電子プローブマイクロアナライザ(Electron Probe Micro Analyzer:EPMA)が設けられた走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)による成分分析を実施することで、容易に判別が可能である。より詳細には、スケール又はスラグと思われる部位の断面を、EPMAの点分析に供し、上記の「酸化されやすい元素」と、Feのどちらの含有量が50質量%以上となっているかに応じて、判断する。Feの含有量が50質量%以上となっていれば、着目する部位はスラグであると判断でき、「酸化されやすい元素」の含有量が50質量%以上となっていれば、着目する部位はスケールであると判断できる。
 ここで、JIS Z3001(2018)において、「地鉄の表面と溶接ビードの表面とが交わる点」は、「止端」と規定されている。図1Aに示したような溶接継手1においては、溶接ビード部30の表面と、第1鋼板10又は第2鋼板20における地鉄又は熱影響部の表面と、が交わる点が、かかる「止端」に対応している。本実施形態に係る溶接継手1は、かかる止端Tの近傍部における耐食性に着目したものとなっている。
 かかる「止端T」は、図1Aのような重ね隅肉溶接継手においてのみ規定されるわけではなく、図1Bに示したような突き合わせ溶接継手や、図1Cに示したようなT字溶接継手等においても、同様に規定される。
 また、アーク溶接やレーザー溶接による入熱は、通常、溶接継手1のある一方の側から行われることが一般的であり、アーク溶接やレーザー溶接の入熱側には、母材となる鋼板の表面に溶接ビード部30が露出し、アーク溶接による入熱が伝播していく方向ほど、溶接ビードの幅は狭まっていく。そのため、表面に露出している溶接ビード部30の有無や、溶接ビードが示す形状に着目することで、アーク溶接時やレーザー溶接時の入熱方向を特定することができる。なお、上記の「溶接ビード部30が露出」した態様には、溶接ビード部30上に形成されたスケールが露出した態様が含まれる。
 また、本実施形態において、図1Aに示した重ね隅肉溶接継手や、図1Cに示したT字溶接継手のように、2つの鋼板の少なくとも一部が重なり合うような継手では、上記のようなアーク溶接又はレーザー溶接の入熱側に位置している鋼板を第1鋼板10とし、アーク溶接又はレーザー溶接の入熱側とは反対側に位置している鋼板を第2鋼板20とする。
 図1A~図1Cに模式的にしめしたように、溶接ビード部30の周囲には、熱影響部40が形成される。この熱影響部40は、アーク溶接やレーザー溶接による素材鋼板への入熱の結果、素材鋼板の金属組織が変質することで生じる。かかる熱影響部40の大きさは、アーク溶接又はレーザー溶接の際の入熱量に依存し、入熱量が高いほど、熱影響部40の大きさも大きくなることが一般的である。また、素材鋼板の金属組織が変質することにより、素材鋼板の変質しなかった部位とは、目視したときの様子(見た目)が相違するようになるため、熱影響部40に対応する部位を容易に見分けることができる。
<非熱影響部について>
 続いて、図2を参照しながら、本実施形態に係る溶接継手1のうち、溶接による熱影響が無い部位の構成について、詳細に説明する。図2は、溶接ビード部30の延伸方向に対して垂直な溶接継手1の断面を模式的に示す図であり、溶接継手1をZ軸方向に切断したときのX-Z断面を示したものである。
 以下の説明において、溶接継手1のうち溶接による熱影響が無い部位(換言すれば、溶接ビード部30及び熱影響部40ではない部位)を、「非熱影響部」と称することとする。図2に示したような溶接継手1では、止端Tの近傍において、後述するめっき層103が存在する位置を起点として、溶接ビード部30の延伸方向(図2におけるY軸方向)に対して直交し、かつ、止端T及び熱影響部から離れる方向(図2におけるX軸方向)に、非熱影響部が存在していると考えることができる。例えば、図2において破線で囲った領域R1は、止端Tからある程度離隔した位置(例えば、X軸方向に止端Tから溶接ビード部30の反対側に向かって4~5mm以上離れた位置)に存在していることから、明らかに非熱影響部と考えることができる。一方、溶接ビード部30及び熱影響部40ではないものの、止端Tの近傍に位置する、ある範囲までの領域においては、先だって言及したような耐食性(特に、地鉄の耐食性)が望まれている。
 図3は、非熱影響部R1における板厚方向に平行な断面の一部を模式的に示す図である。第1鋼板10又は第2鋼板20の少なくとも何れかにおける非熱影響部R1は、図3に模式的に示したように、地鉄101と、地鉄101の表面に位置するめっき層103とを有している。なお、本実施形態に係る溶接継手1において、上記のようなめっき層103は、地鉄101のうち一方の表面上に存在していてもよいが、地鉄101の両方の表面上に存在していることがより好ましい。
 図3に示したような、非熱影響部における溶接継手1の断面構造に鑑み、本実施形態では、地鉄の耐食性が望まれている領域に関し、止端T近傍では、X軸方向において溶接ビード部から離れる方向に向かって、止端、熱影響部又は地鉄が露出した領域(めっき層がない領域ともいう。)、めっき層を有する領域、の順に構成される。このような構成において、断面視にてX軸方向において止端Tに最も近いめっき層の端部を起点として取り扱うこととする。
 上記のような領域については、以下で改めて詳細に説明するものとし、まず、非熱影響部が有している地鉄101、及び、めっき層103について、詳細に説明する。
≪地鉄101について≫
 本実施形態に係る溶接継手1において、素材鋼板の基材に対応する地鉄101の寸法、成分、組織、機械的特性は、特に限定されるものではない。例えば、溶接継手1に求められる機械的強度(例えば、引張強度)等に応じて、各種の鋼板が地鉄101として用いられ得る。このような鋼板として、例えば、各種のAlキルド鋼、Ti、Nb等を含有させた極低炭素鋼、極低炭素鋼にP、Si、Mn等の強化元素を更に含有させた高強度鋼、その他各種の成分(Cr、N、Cu、B、Ni、Mg、Ca、V、Co、Zn、As、Y、Zr、Mo、Sn、Sb、Ta、W、Pb、Bi、REM等)を含有した種々の鋼板等を挙げることができる。
 上記のような高強度鋼の中でも、例えば、引張強度が780MPa以上である高強度鋼(いわゆる、780MPa級以上の高強度鋼)を用いることで、溶接継手1としての堅牢性をより向上させることが可能となるため、特に好ましい。ここで、地鉄101の引張強度は、公知の方法で測定することができる。一例として、引張強度を測定したい溶接継手1の非熱影響部の地鉄101に対応する部位から、JIS Z 2241(2011)に規定されている試験片のうち、溶接継手1から採取可能な大きさの試験片を作製し、得られた試験片につきJIS Z 2241(2011)に規定されている方法で引張強度を測定すればよい。
 また、地鉄101の厚みについては、特に限定されるものではなく、溶接継手1に求められる機械的強度等に応じて、適宜設定される。
≪めっき層103について≫
 めっき層103は、図3に模式的に示したように、例えば、非熱影響部R1における地鉄101上に設けられている。かかるめっき層103は、溶接継手1の素材としてのめっき鋼板が有しているめっき層に由来している。
 以下では、まず、かかるめっき層103の化学組成について、詳細に説明する。
◇めっき層103の化学組成について
 本実施形態に係るめっき層103の化学組成は、ある態様によれば、質量%で、Al:30.00~70.00%、Mg:7.00~20.00%、Fe:0.01~15.00を含有し、残部が、5.0000質量%以上のZnと、不純物と、からなる化学組成を有する。つまり、本実施形態に係るめっき層103の化学組成において、Al、Mg、Feの含有量が上記の範囲内で、かつ、これら含有量の合計が95.0000質量%以下であり、残部は、5.0000質量%以上のZnと、不純物である。
 また、本実施形態に係るめっき層103の化学組成は、別の態様によれば、質量%で、Al:30.00~70.00%、Mg:7.00~20.00%、Fe:0.01~15.00%を含有し、更に、下記元素群A、元素群B、元素群C、元素群D、元素群E、元素群F、及び、元素群Gからなる群より選択される1種又は2種以上を含有し、残部が、5.0000質量%以上のZn及び不純物からなる化学組成を有する。つまり、本実施形態に係るめっき層103の化学組成において、Al、Mg、Feの含有量が上記の範囲内で、かつ、これらAl、Mg、Fe、元素群A~元素群Gの含有量の合計が95.0000質量%以下であり、残部は、5.0000質量%以上のZnと不純物である。
[元素群A]:Si:0%超10.0000%以下、及び、Ca:0%超4.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種
[元素群B]:Sb:0%超0.5000%以下、Pb:0%超0.5000%以下、及び、Sr:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群C]:Cu:0%超1.0000%以下、Ti:0%超1.0000%以下、Cr:0%超1.0000%以下、Nb:0%超1.0000%以下、Ni:0%超1.0000%以下、Mn:0%超1.0000%以下、Mo:0%超1.0000%以下、Co:0%超1.0000%以下、及び、V:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群D]:Sn:0%超1.0000%以下、In:0%超1.0000%以下、及び、Bi:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群E]:Zr:0%超1.0000%以下、Ag:0%超1.0000%以下、及び、Li:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群F]:La:0%超0.5000%以下、Ce:0%超0.5000%以下、及び、Y:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群G]:B:0%超0.5000%以下
 このように、本実施形態に係るめっき層103は、質量%で、Al:30.00~70.00%、Mg:7.00~20.00%、Fe:0.01~15.00%を含有し、選択的に、元素群A、元素群B、元素群C、元素群D、元素群E、元素群F、及び、元素群Gからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有し、残部が、5.0000質量%以上のZnと、不純物とからなる化学組成を有するめっき層である。
[Al:30.00~70.00質量%]
 Alは、本実施形態に係るめっき層103の主たる金属組織(Zn-Al-Mg系金属組織)を構成するために必要な元素であり、めっき鋼板として、熱影響部となる部位の耐食性、及び、非熱影響部となる部位の耐食性を確保するうえで、一定以上含有される。めっき層103におけるAl含有量が30.00質量%未満である場合には、上記のような熱影響部及び非熱影響部となる部位の耐食性を担保することができない。これは、Al含有量が不足すると、溶接時のめっき層と地鉄との合金化反応を制御することが不可能となり、結果として腐食しやすいη―Zn相の形成量が増加するためである。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、Al含有量は、30.00質量%以上である。Al含有量は、好ましくは34.00質量%以上であり、より好ましくは38.00質量%以上である。Al含有量が、上記のような範囲となることで、めっき鋼板としての耐食性を担保することが可能となる。
 一方、めっき層103におけるAl含有量が70.00質量%超となる場合には、腐食環境に置かれた場合にカソードとして機能するAl相が過剰に増加することで耐食性に優れるMg-Zn相の形成量が相対的に減少することで犠牲防食性が低下し、地鉄の腐食が進行しやすくなるため、めっき鋼板の耐食性を担保することができない。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、Al含有量は、70.00質量%以下である。Al含有量は、好ましくは60.00質量%以下であり、より好ましくは50.00質量%以下である。
[Mg:7.00~20.00質量%]
 Mgは、耐食性向上元素であるとともに、本実施形態に係るめっき層103の主たる金属組織(Zn-Al-Mg系金属組織)を構成するために必要な元素であり、めっき鋼板として、熱影響部となる部位の耐食性、及び、非熱影響部となる部位の耐食性を確保するうえで、一定以上含有される。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、溶接部においても十分な耐食性を得るために、Mg含有量は、7.00質量%以上である。Mg含有量は、好ましくは9.00質量%以上であり、より好ましくは10.00質量%以上である。Mg含有量が、上記のような範囲となることで、めっき鋼板としての耐食性を担保することが可能となる。
 一方、めっき層103におけるMg含有量が20.00質量%超となる場合には、腐食環境に置かれた場合にめっき層のアノード溶解が進みやすくなるため、めっき鋼板としての耐食性を担保することができない。そのため、本実施形態に係るめっき層103において、Mg含有量は、20.00質量%以下である。Mg含有量は、好ましくは15.00質量%以下であり、より好ましくは13.00質量%以下である。Mg含有量が、上記のような範囲となることで、めっき鋼板としての耐食性を担保することが可能となる。
[Fe:0.01~15.00質量%]
 めっき層103には、地鉄101から、地鉄101を構成する元素が混入することがある。特に、溶融めっき法では、地鉄101とめっき層103との間での固液反応による元素の相互拡散によって、地鉄101を構成する元素がめっき層103へ混入し易くなる。このような元素の混入により、めっき層103中には、一定量のFeが含有され、その含有量は、0.01質量%以上となることが一般的である。上記相互拡散が促進されれば、地鉄101とめっき層103との密着性が向上する。地鉄101とめっき層103との密着性の向上という観点からは、めっき層103中のFe含有量は、0.20質量%以上であることが好ましい。
 また、本発明の効果を損なわない範囲内で、めっき層103を製造する際に用いられるめっき浴中に意図的にFeを添加してもよい。ただし、めっき浴中のFe含有量が高まると、めっき浴中にFeとAlの高融点な金属間化合物が形成し、かかる高融点の金属間化合物がドロスとしてめっき層103に付着して外観品位を著しく低下させる傾向があるため、好ましくない。かかる観点から、めっき浴中のFe含有量が調整されることにより、めっき層103中のFe含有量は、15.00質量%以下である。めっき層103中のFe含有量は、より好ましくは10.00質量%以下である。
 めっき層103において、上記Al、Mg、Feの残部は、5.0000質量%以上のZnと、不純物である。
 Znは、本実施形態に係るめっき層103の主たる金属組織(Zn-Al-Mg系金属組織)を構成するために必要な元素であり、めっき鋼板としての耐食性を向上させるために重要な元素である。また、めっき層103が上記Al、Mg、Feを上記の範囲内で含有し、更に、5.0000質量%以上のZnを含有することで、めっき鋼板に求められる耐食性を確保することが可能となる。
 続いて、本実施形態の別の態様に係るめっき層103の化学組成が選択的に有しうる、元素群A~元素群Eについて、詳細に説明する。
 なお、本実施形態に係るめっき層103において、下記元素群B~元素群Eに属する元素の少なくとも何れかを含有させる場合には、下記元素群B~元素群Eに属する元素の少なくとも何れかを、下記の含有量の範囲内、かつ、合計含有量が5.0000質量%以下で含有することが好ましい。
 元素群B~元素群Eに属する元素の合計含有量を5.0000質量%以下とすることで、以下で詳述するような、各元素の添加により発現される効果を、互いに損なうことなく享受することが可能となる。元素群B~元素群Eに属する元素の合計含有量は、好ましくは1.0000質量%以下であり、より好ましくは0.2000質量%以下である。
 また、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103は、化学組成として、Mgを9.00質量%以上15.00質量%以下で含有し、かつ、元素群Aとして、Caを0.05質量%以上4.00質量%以下含有することが、より好ましい。めっき層103がこのような化学組成を有することで、より優れた耐食性を発現することが可能となる。
◇元素群A
 本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Aについて説明する。以下に示す元素群Aの少なくとも何れかの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群A]:Si:0%超10.00%以下、及び、Ca:0%超4.00%以下からなる群より選択される1種又は2種
[Si:0~10.00質量%]
 本実施形態に係るめっき層103においてSiを含有しない場合も考えうるため、その含有量の下限は、0質量%である。一方、Siは、めっき層103と地鉄101の界面に形成するFe-Al系金属組織の過剰な成長を抑制し、めっき層と地鉄101の密着性を更に向上させることが可能な元素である。めっき層103中にSiを含有させる場合、Fe-Al系金属組織の過剰な成長を抑制するために、Siの含有量は、0.05質量%以上が好ましく、0.20質量%以上がより好ましい。
 一方、Siの含有量が10.00質量%を超える場合には、Mgと高融点化の金属間化合物を過剰に形成し、Zn蒸発抑制効果を有するAl-Mg酸化物の形成を阻害する可能性がある。そのため、かかるめっき鋼板を溶接した際のZn蒸発を抑制することが困難となる。よって、めっき層103中のSiの含有量は、10.00質量%以下であることが好ましい。また、めっき層103を製造するためのめっき浴中のSi含有量が多すぎる場合、めっき浴の粘性が必要以上に増加して、めっき鋼板の製造時の操業性(以下、「めっき操業性」と称する。)が低下する可能性がある。そのため、めっき操業性の観点からめっき浴中のSi含有量が調整されることにより、めっき層103中のSi含有量は、好ましくは5.00質量%以下であり、より好ましくは2.00質量%以下である。
[Ca:0~4.00質量%]
 本実施形態に係るめっき層103においてCaを含有しない場合も考えうるため、その含有量の下限は、0質量%である。一方、Caは、めっき層103中に含有されると、Al及びZnと金属間化合物を形成する。更に、めっき層103中にCaと共にSiが含有される場合、CaはSiと金属間化合物を形成する。これらの金属間化合物は、融点が高く、安定な構造であるため、めっき鋼板の溶接時の液体金属脆化割れ(Liquid Metal Embrittlement:LME)を更に抑制することが可能となる。めっき層103中にCaを含有させる場合、かかる溶接時のLMEの抑制効果は、Ca含有量を0.01質量%以上とすることで発現される。めっき層103中におけるCa含有量は、より好ましくは0.10質量%以上である。
 一方、めっき層103中のCa含有量が4.00質量%を超える場合には、めっき鋼板としての耐食性が低下する可能性がある。かかる観点から、めっき層103中のCa含有量は、4.00質量%以下である。めっき層103中のCa含有量は、好ましくは2.50質量%以下であり、より好ましくは1.50質量%以下である。
◇元素群B
 続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Bについて説明する。以下に示す元素群Bの少なくとも何れかの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群B]:Sb:0%超0.5000%以下、Pb:0%超0.5000%以下、及び、Sr:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[Sb:0~0.5000質量%]
[Pb:0~0.5000質量%]
[Sr
:0~0.5000質量%]
 本実施形態に係るめっき層103においてSb、Pb、Srを含有しない場合も考えうるため、これら元素の含有量の下限は、0質量%である。一方、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されると、めっき層103の表面にスパングルが形成されて、金属光沢の向上を図ることが可能となる。そのため、めっき鋼板としての更なる意匠性向上という観点から、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されることが好ましい。かかる意匠性向上効果は、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかの含有量が0.0500質量%以上となった場合に発現される。そのため、Sb、Pb、Srの少なくとも何れかをめっき層103に含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.0500質量%以上とされることが好ましい。
 一方、Sb、Pb、Srの含有量の何れかが0.5000質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103を形成するために用いるめっき浴中のドロス生成量が多くなり、めっき性状の良好なめっき鋼板を製造できない。そのため、めっき層103中のSb、Pb、Srの含有量は、それぞれ独立に、0.5000質量%以下である。Sb、Pb、Srの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.2000質量%以下である。
◇元素群C
 続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Cについて説明する。以下に示す元素群Cの少なくとも何れかの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群C]:Cu:0%超1.0000%以下、Ti:0%超1.0000%以下、Cr:0%超1.0000%以下、Nb:0%超1.0000%以下、Ni:0%超1.0000%以下、Mn:0%超1.0000%以下、Mo:0%超1.0000%以下、Co:0%超1.0000%以下、及び、V:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[Cu:0~1.0000質量%]
[Ti:0~1.0000質量%]
[Cr:0~1.0000質量%]
[Nb:0~1.0000質量%]
[Ni:0~1.0000質量%]
[Mn:0~1.0000質量%]
[Co:0~1.0000質量%]
[V :0~1.0000質量%]
 本実施形態に係るめっき層103においてCu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vを含有しない場合も考えうるため、これら元素の含有量の下限は、0質量%である。一方、Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されると、かかるめっき鋼板を溶接した際に、これら元素が、溶接によって生成されるFe-Al系金属組織に取り込まれ、形成される溶接部の耐食性を更に向上させることが可能となる。かかる溶接部耐食性の向上効果は、めっき層103中のCu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの少なくとも何れかの含有量が0.0050質量%以上となった場合に発現される。そのため、Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの少なくとも何れかをめっき層103中に含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.0050質量%以上とされることが好ましい。
 一方、Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの含有量の何れかが1.0000質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103を形成するためのめっき浴中でこれら元素が様々な金属間化合物相を形成し、めっき浴の粘性の上昇を招いて、めっき性状の良好なめっき鋼板を製造できない。よって、めっき層103中のCu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの含有量は、それぞれ独立に、1.0000質量%以下とされる。Cu、Ti、Cr、Nb、Ni、Mn、Co、Vの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.2000質量%以下である。
[Mo:0~1.0000質量%]
 本実施形態に係るめっき層103においてMoを含有しない場合も考えうるため、その含有量の下限は、0質量%である。一方、Moがめっき層103中に含有されると、耐食性を向上させることが可能となる。かかる耐食性の向上効果は、Moの含有量が0.0100質量%以上となった場合に発現される。そのため、Moを含有させる場合には、その含有量は、0.0100質量%以上とすることが好ましい。
 一方、Moの含有量が1.0000質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、用いるめっき浴中に多量のドロスが発生する原因となるため、好ましくない。そのため、Moの含有量は、1.0000質量%以下である。Moの含有量は、好ましくは0.0500質量%以下である。
◇元素群D
 続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Dについて説明する。以下に示す元素群Dの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群D]:Sn:0%超1.0000%以下、In:0%超1.0000%以下、及び、Bi:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[Sn:0~1.0000質量%]
[In:0~1.0000質量%]
[Bi:0~1.0000質量%]
 本実施形態に係るめっき層103においてSn、In、Biを含有しない場合も考えうるため、その含有量の下限は、0質量%である。Sn、In、Biを含むめっき層103が腐食環境に置かれた場合に、Mg溶出速度を上昇させる元素である。Mgの溶出速度が上昇すると、地鉄101が露出した部分にMgイオンが供給され、耐食性が更に向上する。かかる観点から、Sn、In、Biを含有させる場合には、Sn、In、Biの含有量を、それぞれ独立に、0.0050質量%以上とすることが好ましい。
 一方で、過剰なSn、In、Bi添加は、Mg溶出速度を過剰に促進し、めっき鋼板としての耐食性が低下する可能性がある。かかるMg溶出速度の上昇は、Sn、In、Biの含有量の何れかが1.0000質量%を超えると顕著となるため、Sn、In、Biの含有量は、それぞれ独立に、1.0000質量%以下である。Sn、In、Biの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.2000質量%以下である。
◇元素群E
 続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Eについて説明する。以下に示す元素群Eの少なくとも何れかの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群E]:Zr:0%超1.0000%以下、Ag:0%超1.0000%以下、及び、Li:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[Zr:0~1.0000質量%]
[Ag:0~1.0000質量%]
[Li:0~1.0000質量%]
 本実施形態に係るめっき層103においてZr、Ag、Liを含有しない場合も考えうるため、これら元素の含有量の下限は、0質量%である。一方、Zr、Ag、Liの少なくとも何れかがめっき層103中に含有されると、めっき操業性を更に向上させることが可能となる。かかるめっき操業性の向上効果は、めっき層103中のZr、Ag、Liの少なくとも何れかの含有量が0.0100質量%以上となった場合に発現される。そのため、Zr、Ag、Liのすくなくとも何れかを含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.0100質量%以上とされることが好ましい。
 一方、Zr、Ag、Liの含有量の何れかが1.0000質量%を超えるようなめっき層103を形成する場合には、めっき層103の形成に用いるめっき浴中に多量のドロスが発生しやすい。そのため、Zr、Ag、Liのすくなくとも何れかの含有量は、それぞれ独立に、1.0000質量%以下である。Zr、Ag、Liのすくなくとも何れかの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.1000質量%以下である。
◇元素群F
 続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Fについて説明する。以下に示す元素群Fの少なくとも何れかの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群F]:La:0%超0.5000%以下、Ce:0%超0.5000%以下、及び、Y:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[La:0~0.5000質量%]
[Ce:0~0.5000質量%]
[Y :0~0.5000質量%]
 本実施形態に係るめっき層103においてLa、Ce、Yを含有しない場合も考えうるため、これら元素の含有量の下限は、0質量%である。一方、La、Ce、Yは、Caとほぼ同等の効果を発現する元素であり、溶接時のブローホール形成をより抑制する。これは、各元素の原子半径がCaの原子半径と近いことに起因する。これらの元素がめっき層103中に含有されると、Ca位置に置換する。そのため、これらの元素は、EDS(Energy Dispersive X-ray Spectroscopy)においてCaと同位置に検出される。
 かかる溶接時のブローホール形成の抑制効果は、これら元素の含有量を、それぞれ独立に、0.0100質量%以上とすることで発現される。そのため、Zr、Ag、Liのすくなくとも何れかを含有させる場合には、これら元素の含有量は、それぞれ独立に、0.0100質量%以上とされることが好ましい。めっき層103中におけるLa、Ce、Yの含有量は、それぞれ独立に、より好ましくは0.0500質量%以上である。
 一方、めっき層103を製造するためのめっき浴中において、La、Ce、Y含有量が多すぎる場合、めっき浴の粘性が必要以上に増加してめっき操業性が低下する可能性がある。そのため、めっき操業性の観点からめっき浴中のLa、Ce、Y含有量が調整されることにより、La、Ce、Yの含有量は、それぞれ独立に、0.5000質量%以下となる。La、Ce、Yの含有量は、それぞれ独立に、好ましくは0.1000質量%以下である。
◇元素群G
 続いて、本実施形態に係るめっき層103の別の態様において、めっき層103が含有しうる元素群Gについて説明する。以下に示す元素群Gの元素は、残部のZnの一部に換えて、めっき層103中に含有されうる元素である。
[元素群G]:B:0%超0.5000%以下
[B:0~0.5000質量%]
 本実施形態に係るめっき層103においてBを含有しない場合も考えうるため、その含有量の下限は、0質量%である。一方、Bは、めっき層103中に含有されると、LMEをより抑制する効果がある。これは、Bがめっき層103中に含有されると、Zn、Al、Mg、Caの少なくとも何れかと化合して、様々な金属間化合物を形成するためと推察される。また、めっき層103中にBが存在することで、Bはめっき層103から地鉄101へと拡散し、粒界強化によって地鉄101のLMEを抑制する効果があると考えられる。更に、Bに関して形成される各種の金属間化合物は、融点が極めて高いために、溶接時におけるZn蒸発の抑制にも作用していると推察される。これらの改善効果は、Bを0.0500質量%以上含有させることで発現される。そのため、Bを含有させる場合には、Bの含有量は、好ましくは0.0500質量%以上である。
 一方、めっき層103中にBを含有させるために、めっき浴中に過剰にBを含有させると、めっき融点の急激な上昇を引き起こしてめっき操業性が低下し、めっき性状に優れるめっき鋼板を製造することができない。かかるめっき操業性の低下は、Bの含有量が0.5000質量%を超える場合に顕著となるため、Bの含有量は0.5000質量%以下である。Bの含有量は、好ましくは0.1000質量%以下である。
[化学成分の計測方法]
 上記のめっき層103の化学成分は、ICP-AES(Inductively Coupled Plasma Atomic Emission Spectrometry)又はICP-MS(lnductively Coupled Plasma Mass Spectrometry)を使用して、計測することが可能である。なお、0.1質量%単位までの化学成分の分析を行う場合には、ICP-AESを用いることとし、0.1質量%未満の微量な化学成分の分析を行う場合には、ICP-MSを用いることとする。溶接継手1の非熱影響部から切り出したサンプルを、インヒビターを加えた10%HCl水溶液に対して1分程度浸潰し、めっき層部分を剥離し、このめっき層を溶解した溶液を準備する。得られた溶液を、ICP-AES又はICP-MSによって分析して、めっき層の全体平均としての化学成分を得ることができる。
◇めっき層103の付着量について
 以上説明したようなめっき層103の付着量については、特に規定するものではないが、例えば、地鉄の片面当たり、15~250g/m程度であることが好ましい。めっき層103の付着量が上記のような範囲内となることで、本実施形態に係るめっき層103は、十分な耐食性を示すことが可能となる。
 なお、かかるめっき層103の付着量は、溶接継手1の非熱影響部から、平面視において30mm×30mmの大きさにサンプルを切り出し、予めその質量を測定しておく。なお、サンプルを切り出す際には、厚み方向は全て切り出すようにする。このサンプルの一方の面にはテープシールを貼り、当該一方の面側のめっき層は次工程で溶解しないようにする。その上で、インヒビター添加した10%HCl水溶液にかかるサンプルを浸漬してめっき層103を酸洗剥離し、酸洗後のサンプルの質量を測定する。酸洗前後のサンプルの質量変化から、片面当たりのめっき層103の付着量を決定することが可能である。
◇めっき層103の金属組織について
 続いて、以上説明したような化学組成を有するめっき層103の金属組織について、説明する。
 本実施形態に係るめっき層103は、上記のような化学組成を有し、また、以下で詳述するような製造方法を経て形成されることで、FeAl相、FeAl相、FeAl相、ηZn相、α相、MgZn相、MgZn相、MgZn相、Mg相等の金属組織を含有している。また、めっき層103が更に含有しうる元素によっては、上記のような金属組織に加えて、Al-Si-Ca相、Al-Si-Ca-Fe相、MgSi相、MgSn相等の金属組織を含有しうる。本実施形態に係るめっき層103は、上記のような金属組織を有することで、LMEの発生を抑制し、耐食性にも優れるという性質を示すようになる。
 ここで、本実施形態に係るめっき層103がどのような金属組織を有しているかについては、めっき層103の断面を、SEMにより観察することで特定可能である。すなわち、めっき層103の凝固組織をSEMにより観察し、観察視野において、SEM-EPMAによる点分析結果から、どのような金属組織を有しているかを特定することができる。
 より詳細には、観察位置は、裏面側の非熱影響部内とし、観察する領域の大きさは、40μm×40μmとする。かかる範囲を、加速電圧:15.0kV、照射電流:5.0×10-7A、照射時間:50ミリ秒として、倍率2000倍で観察する。かかる条件で、着目する範囲の反射電子像を取得した後、反射電子像のコントラストを用いて、各金属組織の点分析を3点ずつ実施する。このような測定を、任意の5視野について実施すればよい。
 本発明者らは、止端の近傍に位置する領域(以下、「止端近傍部」ともいう。後述する、図2に示した「領域R」に対応している。)での地鉄の耐食性について検討するにあたって、上記のような金属組織のうち、元素Feと元素Alとを含有する金属組織であるFeAl相、FeAl相、FeAl相と、元素Mgと元素Znとを含有する金属組織であるMgZn相、MgZn相、MgZn相に着目した。以下、FeAl相、FeAl相、FeAl相をまとめて、「Fe-Al金属組織」と略記し、MgZn相、MgZn相、MgZn相をまとめて、「Mg-Zn金属組織」と略記する。
 Al-Mg-Zn3元系めっきにおいて、上記のようなFe-Al金属組織及びMg-Zn金属組織は、地鉄の防食という観点からは有利な金属組織であると考えられる。そこで、本発明者らは、溶接ビード部30の近傍においても、Fe-Al金属組織及びMg-Zn金属組織がめっき層中に存在するような、素材としてのめっき鋼板について鋭意検討を行い、そのようなめっき鋼板を得るためのめっき層の化学組成と、めっき鋼板の製造方法とを特定するに至った。
 上記のような着想から実現されためっき鋼板を溶接継手の素材として用いることで、本実施形態に係る溶接継手1では、その止端の近傍に位置する領域(すなわち、図2に示した領域R)において、めっき層103中に、Fe-Al金属組織、又は、Mg-Zn金属組織の少なくとも何れかが、十分な面積率で存在するようになった。
 先だって説明したように、本実施形態に係る溶接継手1では、止端Tの近傍で、かつ、断面視にてX軸方向において止端Tに最も近いめっき層103の端部を、止端近傍部を考慮する際の起点として取り扱う。図2に示した例では、図2における位置Aにおいて、めっき層103の端部が存在していたとすると、位置Aが、止端近傍部を考慮する際の起点となる。
 また、本実施形態に係る溶接継手1において、溶接ビード部30の延伸方向(図2におけるY軸方向)に対して直交し、かつ、止端T及び熱影響部40から離隔する方向(図2におけるX軸方向)に向かって、上記の起点から100μmまでの範囲の領域(図2における領域R)に着目する。図2に示した例では、位置Bが、かかる領域Rを考慮する際の終点となる。
 本実施形態では、図2に例示したような領域Rにおいて、延伸方向に対して直交する方向(図2におけるZ軸方向)に切断した断面(図2におけるX-Z平面)を走査型電子顕微鏡(SEM)により観察した場合に着目する。
 かかる観察の際、本実施形態に係る溶接継手1において、めっき層103中のFe-Al金属組織の平均面積率は、0~95%であり、Mg-Zn金属組織の平均面積率は、5~100%であり、かつ、η-Zn相の平均面積率は、3%以下である。すなわち、めっき層103中において、Fe-Al金属組織、Mg-Zn金属組織、η-Zn相が、それぞれの平均面積率の合計で100%以下となるように存在し、かつ、上記の金属組織の平均面積率は、上記のような範囲内となっている。
 Fe-Al金属組織の平均面積率が95%を超える場合には、地鉄101の耐食性に有利なMg-Zn金属組織の存在割合が低くなりすぎ、止端近傍部における耐食性をより向上させることができない。Fe-Al金属組織の平均面積率が95%以下となることで、地鉄の耐食性に有利なMg-Zn金属組織をめっき層103中に残存させることができ、止端近傍部における耐食性を、より向上させることが可能となる。Fe-Al金属組織の平均面積率は、好ましくは80%以下である。
 一方、Fe-Al金属組織は、素材となるめっき鋼板におけるめっき層のFe含有量によっては、溶接後の止端近傍部において、残存しない場合もある。そのため、めっき層103中のFe-Al金属組織の平均面積率の下限は、0%となっている。ただし、止端近傍部の耐食性に関して、めっき層103中にFe-Al金属組織とMg-Zn金属組織とが共存していることが好ましく、かかる観点から、Fe-Al金属組織の平均面積率は、0%超であることが好ましい。Fe-Al金属組織の平均面積率は、より好ましくは20%以上である。
 また、Mg-Zn金属組織の平均面積率が5%未満である場合には、地鉄101の耐食性に有利なMg-Zn金属組織の存在割合が低くなりすぎ、止端近傍部における耐食性をより向上させることができない。Mg-Zn金属組織の平均面積率が5%以上となることで、止端近傍部における耐食性を、より向上させることが可能となる。Mg-Zn金属組織の平均面積率は、好ましくは30%以上である。
 一方、Mg-Zn金属組織の平均面積率は、100%であってもよい。ただし、止端近傍部の耐食性に関して、めっき層103中にFe-Al金属組織とMg-Zn金属組織とが共存していることが好ましく、かかる観点から、Mg-Zn金属組織の平均面積率は、好ましくは80%以下である。
 ここで、本実施形態において、Fe-Al金属組織とは、以下で説明するような方法に即して、断面のSEM観察を行って、SEM-EPMAを用いて元素マッピングを取得した際に、FeとAlの含有量が、それぞれ25原子%以上であり、かつ、FeとAlの合計含有量が、80原子%以上である金属組織をいう。
 また、本実施形態において、Mg-Zn金属組織とは、以下で説明するような方法に即して、断面のSEM観察を行って、SEM-EPMAを用いて元素マッピングを取得した際に、MgとZnの含有量が、それぞれ10原子%以上であり、かつ、MgとZnの合計含有量が、85原子%以上である金属組織をいう。
 他方、η-Zn相は、地鉄の防食という観点では有利に作用しない相であることから、めっき層103中において、η-Zn相の存在は、ある程度の面積率までは許容されるものの、その面積率は、小さければ小さいほど好ましい。かかる観点から、本実施形態において、η-Zn相の平均面積率は、3%以下とする。
 η-Zn相の平均面積率が3%を超える場合には、η-Zn相の割合がめっき層103中で多くなりすぎて、止端近傍部における耐食性をより向上させることができない。一方、η-Zn相の平均面積率は、上記のように小さければ小さいほど好ましく、η-Zn相が含有されないことが最も好ましい。
 なお、本実施形態において、η-Zn相とは、以下で説明するような方法に即して、断面のSEM観察を行って、SEM-EPMAを用いて元素マッピングを取得した際に、Znの含有量が98原子%以上であり、他元素の含有量が合計で2原子%以下である相をいう。
 ここで、η-Zn相が含有されないとは、以下で説明するような平均面積率の算出方法において、η-Zn相が全く存在しない場合だけでなく、用いる測定方法においてη-Zn相の存在が検出分解能未満であったり、算出した平均面積率がほぼゼロとみなし得るくらいに小さな値であったりする場合をも含むものとする。
 また、上記のような止端近傍部の領域の断面を観察した際に、めっき層103の少なくとも一部に、更に、Mg相が含有されることが好ましい。Mg相は、地鉄101の耐食性という観点において極めて有利に作用する相であり、更に、LMEの抑制についても有利に作用する相である。そのため、めっき層103の少なくとも一部に、更にMg相が含有されることで、止端近傍部における耐食性を更に向上させるとともに、LMEについても、より抑制することが可能となる。
 ここで、本実施形態において、Mg相とは、以下で説明するような方法に即して、断面のSEM観察を行って、SEM-EPMAを用いて元素マッピングを取得した際に、Mgの含有量が85原子%以上である相をいう。
 図4は、本実施形態に係る溶接継手1の止端近傍部におけるめっき層103について、金属組織の分布を模式的に示したものである。
 本実施形態に係る溶接継手1は、特定のめっき鋼板を素材として用いることで製造される。この際、以下で説明するような特定の製造方法を経てめっき鋼板が製造されることで、素材となるめっき鋼板のめっき層では、溶接時にFeとAlとの合金化が促進され、溶接時に存在する液相中にMg(場合によっては、更にCa)が濃化していく。そのため、溶接後におけるめっき層103では、図4に模式的に示したように、Fe-Al金属組織が、Mg-Zn金属組織よりも地鉄101側に、より多く偏在していることが多い。より詳細には、Fe-Al金属組織が地鉄101に近い側により多く偏在しており、かかるFe-Al金属組織の上方に、Mg-Zn金属組織が存在していることが多い。
◇めっき層103の金属組織の平均面積率の算出方法
 ここで、上記のような平均面積率は、以下のようにして測定する。
 すなわち、図2にしめした領域Rの範囲内の任意の箇所について、SEMにより観察し、SEM-EPMAを用いて元素マッピングを取得する。得られた元素マッピングについて、市販の画像解析アプリケーションの二値化機能を用いて二値化し、先だって説明したような組成を有する金属組織を特定して、各金属組織の面積率を算出する。
 より詳細には、めっき層103の平面視の任意の位置における断面視において、60μm×40μmの領域(おおよそ2000倍の倍率に相当。)を、SEMにより観察する。この際、視野中に存在する各金属組織について、SEM-EPMAにより点分析を実施する。EPMAの分析結果において、FeとAlの含有量が、それぞれ25原子%以上であり、かつ、FeとAlの合計含有量が、80原子%以上である金属組織を、Fe-Al金属組織と判断し、MgとZnの含有量が、それぞれ10原子%以上であり、かつ、MgとZnの合計含有量が、85原子%以上である金属組織を、Mg-Zn金属組織と判断する。また、Znの含有量が98原子%以上であり、他元素の含有量が合計で2原子%以下である相を、η-Zn相と判断し、Mg:85原子%以上、その他の元素:合計で15原子%以下を満足する相を、Mg相と判断する。
 より詳細には、SEMによる観察において、上記60μm×40μmの範囲を、加速電圧:15.0kV、照射電流:4.999×10-8A、照射時間:50ミリ秒として、倍率2000倍で観察する。かかる条件で、着目する範囲の反射電子像を取得した後、反射電子像のコントラストを用いて、各金属組織の点分析を3点ずつ実施すればよい。
 このようにして、視野中の各相を特定した上で、視野中における各金属組織の領域を特定し、特定された各領域の面積率を、各種の画像解析アプリケーション(例えば、ImageJ等)を用いて算出する。
 上記のような測定・算出処理を、領域Rの範囲内における5箇所の断面で実施し、各金属組織の面積率について、得られた5つの面積率の平均値を算出する。得られた平均値を、各金属組織の平均面積率とする。
 以上、図2~図4を参照しながら、本実施形態に係る溶接継手1における非熱影響部について、詳細に説明した。
 なお、本実施形態に係る溶接継手1の非熱影響部は、上記のめっき層103上に、更に1層又は2層以上の各種の皮膜を有していてもよい。このような皮膜として、例えば、クロメート皮膜、リン酸塩皮膜、クロメートフリー皮膜、有機樹脂皮膜等が挙げられる。
(素材となるめっき鋼板の製造方法について)
 次に、以上説明したような、溶接継手1の素材となるめっき鋼板の製造方法の一例を説明する。
 本実施形態に係る溶接継手1の素材となるめっき鋼板は、上記のような地鉄101を母材として、かかる地鉄101の表面に対して、重研削によりひずみを付与した後に、ひずみの付与された表面に対してめっき層を形成することで製造される。その後、地鉄101の表面に形成されためっき層に対して、特定の熱処理を施すことで、溶接継手1の素材となるめっき鋼板が製造される。
 ここで、地鉄101の表面を重研削ブラシにより研削して、表面にひずみを付与することで、素材となるめっき鋼板が溶接に供された際に、FeとAlの合金化を促進させることができる。溶接時のFeとAlの合金化が促進されることで、溶接時に存在する液相中にMg(めっき層の化学組成によっては、更にCa)が濃化する。その結果、地鉄101の耐食性に有利に作用するMg-Zn金属組織を形成させることが可能となる。
 めっき層の形成には、溶融めっき法の他、溶射法、コールドスプレー法、スパッタリング法、蒸着法、電気めっき法等を適用できる。ただし、自動車等で一般的に使われる程度の厚さのめっき層を形成するには、溶融めっき法がコスト面で最も好ましい。
 その後、得られためっき鋼板に対して、以下で説明するような特定の熱処理工程を施すことで、素材となるめっき鋼板を製造することができる。
 以下では、溶融めっき法を用いて、存在となるめっき鋼板を得る製造方法の一例について、詳細に説明する。
 かかるめっき鋼板の製造工程では、まず、母材として用いる鋼板を、ゼンジミア法により圧延して所望の板厚とした後、コイル状に巻き取って、溶融めっきラインに設置する。
 溶融めっきラインでは、鋼板をコイルから繰り出しながら連続的に通板させる。通板の際、所定位置に設けられた重研削ブラシにより、鋼板の表面にひずみが付与されるようにする。その後、ライン上に設けられた焼鈍設備により、鋼板を、例えば、酸素濃度が20ppm以下の酸化が生じづらい環境下、N-(1~10)%Hガス、露点-60~10℃の雰囲気にて、700~900℃で0秒超300秒以下加熱還元処理した後、後段のめっき浴の浴温+20℃前後までNガスで空冷して、めっき浴に浸漬させる。なお、上記の流れでは、鋼板に対して焼鈍前にひずみを付与しているが、付与したひずみの少なくとも一部が焼鈍によって開放された場合であっても、FeとAlの合金化を促進させることができる。
 ここで、めっき浴中には、前述のような化学成分を有する、溶融状態にあるめっき合金を準備しておく。めっき浴の浴温は、めっき合金の融点以上(例えば、460~660℃程度)としておく。めっき合金の材料作製の際は、合金材料として純金属(純度99%以上)を用いて調合することが好ましい。まず、上記のようなめっき層の組成となるように合金金属の所定量を混合して、真空又は不活性ガス置換状態で高周波誘導炉やアーク炉などを使用して、完全に溶解させて合金とする。更に、所定の成分(上記めっき層の組成)で混合された当該合金を大気中で溶解して、得られた溶融物をめっき浴として利用する。
 なお、以上述べたようなめっき合金の作製には、特に純金属を使用する制約はなく、既存のZn合金、Mg合金、Al合金を溶解して使用してもよい。この際、不純物が少ない所定の組成合金さえ用いれば、問題はない。
 鋼板を、上記のようなめっき浴中に浸漬させた後、所定の速度で引き上げる。この際に、形成されるめっき層が所望の厚みとなるように、例えばNワイピングガスによりめっき付着量を制御する。ここで、浴温以外の条件については、一般的なめっき操業条件を適用すればよく、特別な設備や条件は要しない。
 続いて、鋼板上に位置する溶融状態にあるめっき合金に対して、以下のような第1冷却工程及び第2冷却工程を実施して、溶融状態にあるめっき合金をめっき層103とする。以下、第1冷却工程及び第2冷却工程について、詳細に説明する。
 第1冷却工程は、めっき合金の温度が、浴温~250℃の範囲内である際に実施される冷却工程であり、上記のような温度範囲内にあるめっき鋼板を、露点-20℃以下の雰囲気下において、平均冷却速度10℃/秒以上で急冷する。浴温~250℃の温度領域は、めっき層表面に粗な酸化物が形成しやすいことから、露点を-20℃以下とし、平均冷却速度を10℃/秒以上とすることにより、高温域での酸化を防止するためである。なお、めっき工程において溶融めっき法を採用した場合、かかる第1冷却工程は、鋼板がめっき浴から出た直後から実施される。これにより、鋼板の表面に位置しているめっき合金が固化して、めっき層が形成される。
 その後、めっき合金(めっき層)の温度が250~50℃の範囲内である際に、第2冷却工程を実施する。この第2冷却工程は、250~50℃の温度範囲内にあるめっき鋼板を、露点0℃以上の雰囲気下において、平均冷却速度10℃/秒未満で徐冷する工程である。かかる第2冷却工程において、露点を0℃以上とし、平均冷却速度を10℃/秒未満とすることで、低温域で密な酸化物を形成させることができる。
 なお、第1冷却工程から第2冷却工程への平均冷却速度及び露点の切り替えについては、露点制御のために吹き付ける雰囲気ガスの配管系統を2系統以上設けておくことで、スムーズな切り替えが可能となるため、好ましい。また、温度250℃を境に、平均冷却速度と露点の双方を同時に切り替えるのが困難な場合には、平均冷却速度については250℃を境に切り替えを行うとともに、露点制御のための雰囲気ガスについては温度260~240℃の範囲内で切り替えるようにしてもよい。
 上記のように、地鉄101の表面に対して重研削ブラシによりひずみを付与した上でめっき層を形成し、更に、かかるめっき層を、浴温~250℃の温度範囲では急冷し、250~50℃の温度範囲では徐冷するという、2段階の冷却工程に供することで、めっきのMg-Zn液相の蒸発を抑制することができ、先だって説明したようなFe-Al金属組織とMg-Zn金属組織とを形成することができる。
 ここで、第1冷却工程を終了してから第2冷却工程を開始するまでの間隔は、3秒以内とすることが好ましく、第1冷却工程を終了した後、直ちに第2冷却工程を開始することが好ましい。第1冷却工程を終了してから第2冷却工程を開始するまでの間隔が3秒を超える場合には、意図しない冷却過程が生じ、上記のような本実施形態の範囲内となるめっき層103を実現することができない。
 ここで、上記第1冷却工程において、露点の下限値は特に規定するものではないが、例えば-90℃程度が実質的な下限となる。また、平均冷却速度は、より好ましくは40℃/秒以上である。なお、平均冷却速度の上限値は、特に規定するものではないが、例えば90℃/秒程度が実質的な上限となる。
 また、上記第2冷却工程において、露点の上限値は特に規定するものではないが、例えば20℃程度が実質的な上限となる。また、平均冷却速度は、より好ましくは4℃/秒以下である。
 なお、たとえ地鉄101の表面にひずみが適切に付与されていたとしても、上記のような第1冷却工程又は第2冷却工程の何れか一方を実施しない場合には、上記のような本実施形態の範囲内となるめっき層103を実現することはできない。地鉄101の表面にひずみを適切に付与した上で、更に、上記のような第1冷却工程及び第2冷却工程の双方を施すことで、本実施形態に係るめっき層103を実現することができる。
 また、上記の第2冷却工程の後に、一般的に合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造で施されることが多い合金化熱処理工程(例えば、到達板温480~550℃程度の加熱を伴う熱処理工程)を施した場合、第1冷却工程及び第2冷却工程により制御したFe-Al金属組織及びMg-Zn金属組織の状態が崩れる結果、本実施形態で着目するような止端近傍部における耐食性向上効果を得ることができない。かかる観点から、第2冷却工程後の熱処理工程を実施しないことが重要である。
 ここで、上記のような冷却処理においては、Nガス冷却といった一般的に知られた方法を適用できる。また、冷却ガスには、Nガス以外にも、Heガス、水素ガスなど抜熱効果の高いガスを使用しても良い。
 なお、めっき層の温度の実測方法としては、例えば、接触式の熱電対(K-type)を用いればよい。接触式の熱電対を母材となる地鉄101に取り付けることで、めっき層全体の平均温度を常にモニタリングできる。また、機械的に、各種速度や厚みの制御を行い、地鉄101の予熱温度やめっき浴の温度等といった各種操業条件を統一すれば、かかる製造条件におけるその時点でのめっき層全体の温度を、ほぼ正確にモニタリングすることが可能となる。これにより、第1冷却工程及び第2冷却工程での冷却処理を、精密に制御することが可能となる。なお、接触式ほど、正確ではないが、めっき層の表面温度は、非接触式の放射温度計によって測定してもよい。
 また、熱伝導解析を行うシミュレーションによって、めっき層の表面温度とめっき層全体の平均温度との関係を求めておいてもよい。具体的には、地鉄101の予熱温度やめっき浴の温度、めっき浴からの鋼板の引き上げ速度、地鉄101の板厚、めっき層の層厚、めっき層と製造設備との熱交換熱量、めっき層の放熱量等といった各種の製造条件に基づいて、めっき層の表面温度及びめっき層全体の平均温度を求める。その後、得られた結果を利用して、めっき層の表面温度とめっき層全体の平均温度との関係を求めればよい。これにより、めっき鋼板の製造時にめっき層の表面温度を実測することで、その製造条件におけるその時点でのめっき層全体の平均温度を推定することが可能となる。その結果、第1冷却工程及び第2冷却工程での冷却処理を、精密に制御することが可能となる。
 以上、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法の一例について、具体的に説明した。
 なお、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法では、上記の第2冷却工程の後に、更に1層又は2層以上の各種の皮膜を形成する処理を実施してもよい。このような処理として、例えば、クロメート処理、リン酸塩処理、クロメートフリー処理、有機樹脂皮膜形成処理等が挙げられる。
 クロメート処理には、電解によってクロメート皮膜を形成する電解クロメート処理、素材との反応を利用して皮膜を形成させ、その後余分な処理液を洗い流す反応型クロメート処理、処理液を塗布して水洗することなく乾燥させて皮膜を形成する塗布型クロメート処理等があり、いずれのクロメート処理を採用してもよい。
 電解クロメート処理としては、例えば、クロム酸、シリカゾル、樹脂(リン酸樹脂、アクリル樹脂、ビニルエステル樹脂、酢酸ビニルアクリルエマルション、カルボキシル化スチレンブタジエンラテックス、ジイソプロパノールアミン変性エポキシ樹脂等)、及び、硬質シリカを使用する電解クロメート処理を例示することができる。
 リン酸塩処理としては、例えば、リン酸亜鉛処理、リン酸亜鉛カルシウム処理、リン酸マンガン処理等を例示することができる。
 クロメートフリー処理は、特に、環境に負荷を与えることがないために、好適である。かかるクロメートフリー処理には、電解によってクロメートフリー皮膜を形成する電解クロメートフリー処理、素材との反応を利用して皮膜を形成させ、その後余分な処理液を洗い流す反応型クロメートフリー処理、処理液を塗布して水洗することなく乾燥させて皮膜を形成する塗布型クロメートフリー処理等があり、いずれのクロメートフリー処理を採用してもよい。
 また、有機樹脂皮膜形成処理に用いる有機樹脂は、特定の樹脂に限定されるものではなく、例えば、ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、ポリオレフィン樹脂、これら樹脂の変性体等、各種の樹脂を用いることが可能である。ここで、変性体とは、これら樹脂の構造中に含まれる反応性官能基に対し、かかる官能基と反応しうる官能基を構造中に含む他の化合物(例えば、モノマーや架橋剤等)を反応させた樹脂のことをいう。
 有機樹脂として、上記のようなもの1種を単独で用いてもよいし、2種以上の有機樹脂(変性していないもの)を混合して用いてもよい。また、少なくとも1種の有機樹脂の存在下で、少なくとも1種のその他の有機樹脂を変性することによって得られる有機樹脂を、1種又は2種以上混合して用いてもよい。また、水に溶解又は分散することで、水系化した有機樹脂を用いてもよい。更に、かかる有機樹脂皮膜中には、各種の着色顔料や防錆顔料を含有させてもよい。
(溶接継手の製造方法について)
 本実施形態に係る溶接継手は、上記のようにして製造しためっき鋼板を、例えば、溶接継手を製造する際の第1鋼板及び第2鋼板の素材鋼板としたうえで、かかる素材鋼板を溶接継手に求める形状となるように配置し、素材鋼板を溶接することで製造される。
 ここで、素材鋼板の溶接には、アーク溶接法、又は、レーザー溶接法を用いることが可能である。この際に、各溶接法において、以下で説明するような溶接条件で溶接を行うことで、上記のような止端近傍部の状態を実現することが可能となる。
 より詳細には、アーク溶接により溶接継手を製造する場合には、例えば以下のような溶接条件により、素材鋼板を溶接すればよい。
  溶接電流:250A、溶接電圧:26.4V、溶接速度:100cm/分
  溶接ガス:20%CO+Ar、ガス流量:20L/分
  溶接ワイヤ:YGW16 日鉄溶接工業株式会社製 φ1.2mm
  (C:0.1質量%、Si:0.80質量%、Mn:1.5質量%、P:0.015質量%、S:0.008質量%、Cu:0.36質量%)
  溶接トーチの傾斜角:45°
 また、レーザー溶接により溶接継手を製造する場合には、例えば以下のような溶接条件により、素材鋼板を溶接すればよい。
  出力:7kW、溶接速度:400cm/分、前進・後進角:0°
 以上、本実施形態に係る溶接継手の製造方法の一例について、説明した。
 なお、上記の実施形態では、第1鋼板10及び第2鋼板20の素材鋼板として、上述しためっき層103が地鉄101の両方の表面の全体にわたって設けられた亜鉛系めっき鋼板を用いる場合を例に挙げて、説明を行った。しかしながら、上述しためっき層103は、少なくとも、第1鋼板10及び第2鋼板20において、互いに重ね合わせられる部位に存在していればよい。
 以下、実施例及び比較例を示しながら、本発明に係る溶接継手について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明に係る溶接継手の一例に過ぎず、本発明に係る溶接継手が下記に示す例に限定されるものではない。
 以下に示す実施例及び比較例では、母材となる地鉄101として、板厚3.2mmの熱延鋼板(0.05質量%C-0.007質量%Si-0.25質量%Mn、日本製鉄株式会社製)を用いた。かかる熱延鋼板を用いて、試験片を複数作製した。
 準備した試験片に対して、以下の2種類の重研削ブラシを用いて、試験片の表面にひずみを付与した。なお、研削する際には、鋼板表面に対し、1.0~5.0%のNaOH水溶液を塗布しておいた。ブラシ圧下量を0.5~10.0mmの範囲内で、ブラシ回転数を100~1000rpmの範囲内で適宜調整することで、表面に付与されるひずみ量を制御した。なお、以下に示す2種類の重研削ブラシのうちブラシ種Aの方が、より研削力の強いブラシである。なお、比較のために、このような重研削を施さなかった試験片も準備した。
  ブラシ種 A:株式会社ホタニ製 D-100
  ブラシ種 B:株式会社ホタニ製 M-33
 以下の表1に示すような組成のめっき層を実現するためのめっき浴をそれぞれ準備し、自社製のバッチ式の溶融めっき試験装置にそれぞれ設置して、上記試験片にめっきを施した。ここで、試験片の中心部にスポット溶接した熱電対を用いて、試験片の温度を測定した。また、めっき浴に浸漬させる試験片に対して、めっき浴浸漬前に、酸素濃度20ppm以下の炉内において、N-5%Hガス雰囲気にて、800℃でめっき原板表面を加熱還元処理した。加熱還元処理後は試験片をNガスで空冷し、試験片の温度が浴温+20℃に到達した後に、溶融めっき試験装置のめっき浴に試験片を約3秒浸漬した。
 めっき浴浸漬後、引上速度20~200mm/秒で試験片を引上げた。引上げ時、Nワイピングガスにより、所望のめっき付着量となるように制御した。以下の実施例及び比較例では、試験片の片面あたりの乾燥後のめっき層の付着量が40~120g/mとなるように、めっき付着量を制御した。めっき浴から試験片を引上げた後、以下の表1に示す条件で、めっき浴温から室温まで試験片を冷却した。以下に示す実施例及び比較例では、第1冷却工程の終了後、第2冷却工程を直ちに開始した(すなわち、第1冷却工程終了後から、第2冷却工程開始までの間隔は、0.2秒以下にした)。
 ここで、上記のようにめっきした試験片から30mm×30mmの大きさに鋼板を切り出し、インヒビター添加した10%HCl水溶液に当該めっき鋼板を浸漬してめっき層を酸洗剥離した後、水溶液中に溶出した元素をICP分析することでめっき層の組成を測定した。
 また、得られた試験片から、150mm×50mmの大きさに切り出した鋼板を第1鋼板とし、150mm×30mmの大きさに切り出した鋼板を第2鋼板とした。これら鋼板の長辺側を重ね合わせて、アーク溶接により溶接して(重ね隅肉溶接)、溶接継手とした。
 ここで、アーク溶接における溶接条件は、以下の通りである。
  溶接電流:250A、溶接電圧:26.4V、溶接速度:100cm/分
  溶接ガス:20%CO+Ar、ガス流量:20L/分
  溶接ワイヤ:YGW16 日鉄溶接工業株式会社製 φ1.2mm
  (C:0.1質量%、Si:0.80質量%、Mn:1.5質量%、P:0.015質量%、S:0.008質量%、Cu:0.36質量%)
  溶接トーチの傾斜角:45°
  重ね代:10mm
  鋼板サイズ:上板側(第1鋼板)150×50mm、下板側(第2鋼板)150×30mm
  板隙:0mm
 また、レーザー溶接における溶接条件は、以下の通りである。
  出力:7kW、溶接速度:400cm/分、前進・後進角:0°
  鋼板サイズ:上板側(第1鋼板)150×50mm、下板側(第2鋼板)150×30mm
  重ね代:10mm
  板隙:0mm
<止端近傍部(領域R)の金属組織の評価>
 上記のようにして得られた溶接継手について、先だって説明した方法により、SEMにより止端近傍部(領域R)の断面観察を行い、Fe-Al金属組織及びMg-Zn金属組織の平均面積率を算出するとともに、Mg相及びη-Zn相の有無を確認した。
<止端近傍部の耐食性の評価>
 上記のような断面観察を行った後の溶接継手に対して、自動車用リン酸化成処理(Znリン酸処理、SD5350システム:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)、及び、電着塗装(PN110パワーニクスグレー:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)を施した。この際、電着膜厚は20μmとした。電直塗装後のサンプルをJASO(M609-91)に従った複合サイクル腐食試験(360サイクル)に供して、止端近傍部における地鉄腐食深さを評価した。評価基準は、以下の通りである。
 ≪評価基準≫
  評点「AAA」:地鉄腐食深さが、0.1mm以下
     「AA」:地鉄腐食深さが、0.1mm超0.5mm以下
      「A」:地鉄腐食深さが、0.5mm超1.5mm以下
      「B」:地鉄腐食深さが、1.5mm超
 また、上記のような地鉄腐食深さが、1.5mm以下であれば、着目する試験片の止端近傍部は、良好な耐食性を有していると評価することができる。
 得られた結果を、以下の表1にまとめて示した。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
 上記表1から明らかなように、本発明の実施例に該当する例では、止端近傍部において優れた耐食性を実現できているのに対し、本発明の比較例に該当する例では、止端近傍部における耐食性について、十分な性能を発現できていないことがわかる。
 例えば、めっき層のAl含有量が本発明の範囲外であったNo.26は、相対的にMg濃度が不足した結果η相が形成されてしまった結果、耐食性が不十分であった。めっき層のAl含有量が本発明の範囲外であったNo.27は、Alの含有量が過剰となったことでMg-Zn相が不足となり、耐食性が不十分であった。
 めっき層のMg含有量が本発明の範囲外であったNo.28は、めっき層を構成するZnが溶接時に過度に燃焼してしまった結果、耐食性が不十分であった。めっき層のMg含有量が本発明の範囲外であったNo.29は、Mgが過剰となったために耐食性が不十分であった。
 第1冷却工程の平均冷却速度が本発明の範囲外であったNo.30と、第1冷却工程の冷却媒体の流量が本発明の範囲外であったNo.31は、めっき層を構成するZnが溶接時に過度に燃焼してしまった結果、耐食性が不十分であった。
 第2冷却工程の平均冷却速度が本発明の範囲外であったNo.32と、第2冷却工程の冷却媒体の流量が本発明の範囲外であったNo.33は、めっき層を構成するZnが溶接時に過度に燃焼してしまった結果、耐食性が不十分であった。
 地鉄へのひずみ付与を実施しなかったNo.36は、合金化制御ができずにη相が形成されてしまった結果、耐食性が不十分であった。
 以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
 今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではない。上記の実施形態は、添付の特許請求の範囲、後述するような本発明の技術的範囲に属する構成及びその主旨を逸脱することなく、様々な形態で省略、置換、変更されてもよい。例えば、上記実施形態の構成要件は、その効果を損なわない範囲内で、任意に組み合わせることが可能である。また、当該任意の組み合せからは、組み合わせにかかるそれぞれの構成要件についての作用及び効果が当然に得られるとともに、本明細書の記載から当業者には明らかな他の作用及び他の効果が得られる。
 また、本明細書に記載された効果は、あくまで説明的又は例示的なものであって、限定的ではない。つまり、本発明に係る技術は、上記の効果とともに、又は、上記の効果に代えて、本明細書の記載から当業者には明らかな他の効果を奏しうる。
 なお、以下のような構成も、本発明の技術的範囲に属する。
(1)
 平面視において延伸方向を長手とする溶接ビード部に接続された第1鋼板及び第2鋼板を有しており、
 前記第1鋼板及び前記第2鋼板は、前記溶接ビード部の周囲に位置する熱影響部と、前記溶接による熱影響が無い非熱影響部と、をそれぞれ有し、
 前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかは、前記非熱影響部において、地鉄と、前記地鉄上のめっき層と、を有しており、
 前記めっき層は、質量%で、
 Al:30.00~70.00%
 Mg:7.00~20.00%
 Fe:0.01~15.00%
を含有し、選択的に、下記元素群A、元素群B、元素群C、元素群D、元素群E、元素群F、及び、元素群Gからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有し、残部が、5.00質量%以上のZnと、不純物と、からなる化学組成を有するめっき層であり、
 JIS Z3001(2018)で規定される止端から、前記延伸方向に対して直交し、かつ、前記止端から離れる方向に向かって見たときに、前記止端、前記熱影響部又は前記地鉄が露出した領域、前記めっき層を有する領域、の順に構成されており、前記止端に最も近い前記めっき層の端部を起点とし、当該起点から100μmまでの範囲の領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層において、Fe-Al金属組織の平均面積率が、0~95%であり、Mg-Zn金属組織の平均面積率が、5~100%であり、かつ、η-Zn相の平均面積率が、3面積%以下である、溶接継手。
[元素群A]:Si:0%超10.00%以下、及び、Ca:0%超4.00%以下からなる群より選択される1種又は2種
[元素群B]:Sb:0%超0.5000%以下、Pb:0%超0.5000%以下、及び、Sr:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群C]:Cu:0%超1.0000%以下、Ti:0%超1.0000%以下、Cr:0%超1.0000%以下、Nb:0%超1.0000%以下、Ni:0%超1.0000%以下、Mn:0%超1.0000%以下、Mo:0%超1.0000%以下、Co:0%超1.0000%以下、及び、V:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群D]:Sn:0%超1.0000%以下、In:0%超1.0000%以下、及び、Bi:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群E]:Zr:0%超1.0000%以下、Ag:0%超1.0000%以下、及び、Li:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群F]:La:0%超0.5000%以下、Ce:0%超0.5000%以下、及び、Y:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
[元素群G]:B:0%超0.5000%以下
(2)
 前記元素群Aを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(3)
 前記元素群Bを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(4)
 前記元素群Cを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(5)
 前記元素群Dを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(6)
 前記元素群Eを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(7)
 前記元素群Fを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(8)
 前記元素群Gを含有する化学組成を有する、(1)に記載の溶接継手。
(9)
 前記めっき層は、Mg:9.00~15.00質量%を含有し、かつ、元素群Aとして、Ca:0.05~4.00質量%を含有する、(1)~(8)の何れか1つに記載の溶接継手。
(10)
 前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層において、η-Zn相が含有されない、(1)~(9)の何れか1つに記載の溶接継手。
(11)
 前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層の少なくとも一部に、更に、Mg相が含有される、(1)~(10)の何れか1つに記載の溶接継手。
(12)
 前記Mg-Zn金属組織の平均面積率が、30~80%である、(1)~(11)の何れか1つに記載の溶接継手。
   1  溶接継手
  10  第1鋼板
  20  第2鋼板
  30  溶接ビード部
  40  熱影響部
 101  地鉄
 103  めっき層
   T  止端
 

Claims (16)

  1.  平面視において延伸方向を長手とする溶接ビード部に接続された第1鋼板及び第2鋼板を有しており、
     前記第1鋼板及び前記第2鋼板は、前記溶接ビード部の周囲に位置する熱影響部と、溶接による熱影響が無い非熱影響部と、をそれぞれ有し、
     前記第1鋼板又は前記第2鋼板の少なくとも何れかは、前記非熱影響部において、地鉄と、前記地鉄上のめっき層と、を有しており、
     前記めっき層は、質量%で、
     Al:30.00~70.00%
     Mg:7.00~20.00%
     Fe:0.01~15.00%
    を含有し、選択的に、下記元素群A、元素群B、元素群C、元素群D、元素群E、元素群F、及び、元素群Gからなる群より選択される1種又は2種以上の元素を含有し、残部が、5.00質量%以上のZnと、不純物と、からなる化学組成を有するめっき層であり、
     JIS Z3001(2018)で規定される止端から、前記延伸方向に対して直交し、かつ、前記止端から離れる方向に向かって見たときに、前記止端、前記熱影響部又は前記地鉄が露出した領域、前記めっき層を有する領域、の順に構成されており、前記止端に最も近い前記めっき層の端部を起点とし、当該起点から100μmまでの範囲の領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層において、Fe-Al金属組織の平均面積率が、0~95%であり、Mg-Zn金属組織の平均面積率が、5~100%であり、かつ、η-Zn相の平均面積率が、3面積%以下である、溶接継手。
    [元素群A]:Si:0%超10.00%以下、及び、Ca:0%超4.00%以下からなる群より選択される1種又は2種
    [元素群B]:Sb:0%超0.5000%以下、Pb:0%超0.5000%以下、及び、Sr:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    [元素群C]:Cu:0%超1.0000%以下、Ti:0%超1.0000%以下、Cr:0%超1.0000%以下、Nb:0%超1.0000%以下、Ni:0%超1.0000%以下、Mn:0%超1.0000%以下、Mo:0%超1.0000%以下、Co:0%超1.0000%以下、及び、V:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    [元素群D]:Sn:0%超1.0000%以下、In:0%超1.0000%以下、及び、Bi:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    [元素群E]:Zr:0%超1.0000%以下、Ag:0%超1.0000%以下、及び、Li:0%超1.0000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    [元素群F]:La:0%超0.5000%以下、Ce:0%超0.5000%以下、及び、Y:0%超0.5000%以下からなる群より選択される1種又は2種以上
    [元素群G]:B:0%超0.5000%以下
  2.  前記元素群Aを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  3.  前記元素群Bを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  4.  前記元素群Cを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  5.  前記元素群Dを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  6.  前記元素群Eを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  7.  前記元素群Fを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  8.  前記元素群Gを含有する化学組成を有する、請求項1に記載の溶接継手。
  9.  前記めっき層は、Mg:9.00~15.00質量%を含有し、かつ、元素群Aとして、Ca:0.05~4.00質量%を含有する、請求項1~8の何れか1項に記載の溶接継手。
  10.  前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層において、η-Zn相が含有されない、請求項1~8の何れか1項に記載の溶接継手。
  11.  前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層において、η-Zn相が含有されない、請求項9に記載の溶接継手。
  12.  前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層の少なくとも一部に、更に、Mg相が含有される、請求項1~8の何れか1項に記載の溶接継手。
  13.  前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層の少なくとも一部に、更に、Mg相が含有される、請求項9に記載の溶接継手。
  14.  前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層の少なくとも一部に、更に、Mg相が含有される、請求項10に記載の溶接継手。
  15.  前記起点から100μmまでの範囲の前記領域について、前記延伸方向に対して直交する方向に切断した断面を走査型電子顕微鏡により観察したときに、前記めっき層の少なくとも一部に、更に、Mg相が含有される、請求項11に記載の溶接継手。
  16.  前記Mg-Zn金属組織の平均面積率が、30~80%である、請求項1に記載の溶接継手。
     
     
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