WO2024122089A1 - Al合金ボンディングワイヤ - Google Patents

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哲哉 小山田
智裕 宇野
大造 小田
基稀 江藤
裕弥 須藤
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日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
日鉄マイクロメタル株式会社
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Abstract

優れた温度サイクル信頼性と良好な1st接合性を満足するAlボンディングワイヤを提供する。当該Alボンディングワイヤは、Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有し、該Al合金ボンディングワイヤのワイヤ中心軸を含む中心軸方向の断面(L断面)におけるSi相の平均径が0.8μm以上5.5μm以下である。

Description

Al合金ボンディングワイヤ
 本発明は、Al合金ボンディングワイヤに関する。さらには、該Al合金ボンディングワイヤを含む半導体装置に関する。
 半導体装置では、半導体チップ上に形成された電極と、リードフレームや基板上の電極との間をボンディングワイヤによって接続している。パワー半導体装置においては主にアルミニウム(Al)を材質とするボンディングワイヤが用いられており、その線径は主にΦ300μm~Φ600μmの範囲である。パワー半導体装置においては、半導体チップの材料としてシリコン(Si)、半導体チップ上に形成された電極の材料としてAl-Si合金やAl-Cu合金が用いられることが多い。またAlボンディングワイヤを用いたパワー半導体装置は、エアコンや太陽光発電システムなどの大電力機器、車載用の半導体装置として用いられることが多い。
 Alボンディングワイヤの接合方法について、半導体チップ上の電極との1st接合と、リードフレームや基板上の電極との2nd接合とがあり、いずれもウェッジ接合が用いられている。ウェッジ接合とは、金属製の治具を介してAlボンディングワイヤに超音波と荷重を印加し、ボンディングワイヤ材料と電極材料の表面酸化膜を破壊して新生面を露出させ、固相拡散接合を行う方法である。接合を行う際にAlボンディングワイヤが電極から剥離する等の接合不良が発生すると、製品の不具合や製造歩留低下に繋がるため、各接合部において良好な接合強度を得ることが求められる。1st接合部では良好な接合強度を得るために超音波や荷重を強く印加すると半導体チップが損傷してしまうことがある。したがって、1st接合においては良好な接合強度を得ることに加えて、半導体チップの損傷を抑制することが要求される。
 次世代パワー半導体装置においては、汎用パワー半導体装置に比べて長時間にわたって安定的に動作することが要求される。パワー半導体装置は電流のオン、オフを繰り返して動作する。Alボンディングワイヤを介してSi製の半導体チップに電流が供給されると1st接合部の温度は上昇する。一方、電流の供給が停止されると1st接合部の温度は低下する。このようにしてパワー半導体の動作時には1st接合部が昇温、降温を繰り返す。そうすると1st接合部にはAlボンディングワイヤと半導体チップとの熱膨張差に起因する熱応力が繰り返し負荷される。Alボンディングワイヤとして、高純度のAlのみからなる材料を用いた場合、熱応力によりAlボンディングワイヤが比較的短時間で破壊し、次世代パワー半導体装置に求められる性能を満足することは困難であった。したがって、次世代パワー半導体では、1st接合部の昇温、降温にともなう接合部寿命(以下、「温度サイクル信頼性」ともいう。)の向上が要求される。
 温度サイクル信頼性の要求に対して、機械的強度向上に主眼をおいたAlボンディングワイヤが提案されている。Alボンディングワイヤの機械的特性を向上させる方法として、Alに特定の元素を添加する手法が提案されている。
 特許文献1には、少なくともマグネシウム(Mg)及びシリコン(Si)を含有し、且つMg及びSiの含有量の合計が0.03質量%以上0.3質量%以下であるAl合金からなるボンディングワイヤが開示されている。本特許文献には、MgやSiの固溶強化による高強度化の効果や析出したマグネシウムシリサイド(MgSi)によるき裂進展抑制効果により、70℃から120℃の温度範囲での冷熱サイクル試験における1st接合部の接合強度の低下が遅れることが開示されている。
 特許文献2には、鉄(Fe)を0.01~0.2質量%、シリコン(Si)を1~20質量ppm含有し、残部が純度99.997質量%以上のAlである合金からなり、Feの固溶量が0.01~0.06%であり、Feの析出量がFe固溶量の7倍以下であり、かつ、平均結晶粒子径が6~12μmの微細組織であることを特徴とするボンディングワイヤが開示されている。本特許文献には、FeとAlの金属間化合物粒子をAl中に均一に分散させてマトリックスの機械的強度を向上させ、さらに再結晶粒を微細化することによって、-50℃から200℃の温度範囲での熱衝撃試験における1st接合部の接合強度の低下が抑制できることが開示されている。
 特許文献3には、シリコン(Si)を0.1~5質量%含み、残部がAl及び不純物からなるAl-Si合金を溶融して、これを噴出急冷して細線に成形してなるボンディングワイヤが開示されている。本特許文献には、溶融したAl-Si合金を急冷してSiを微細かつ均一に分散させることで、機械的強度が向上することが開示されている。
特開2014-131010号公報 特開2014-129578号公報 特開昭59-57440号公報
 次世代パワー半導体装置に使用するAlボンディングワイヤには、長時間の使用にも耐え得るために1st接合部の温度サイクル信頼性が高いこと、1st接合部において良好な接合性をもたらすことが求められる。
 次世代パワー半導体装置では、汎用パワー半導体装置に比べて、より長時間の使用に耐え得ることが求められる。上述のとおり、パワー半導体装置の動作時に1st接合部の温度は昇温、降温を繰り返す。その結果、Alボンディングワイヤは半導体チップよりも線膨張係数が大きいため、1st接合部において両者の線膨張係数差に起因する熱応力が発生し、最終的にAlボンディングワイヤが疲労破壊する課題があった。温度サイクル試験は1st接合部の昇温、降温にともなう接合部の寿命(温度サイクル信頼性)を加速評価する試験の一つである。次世代パワー半導体に使用するAlボンディングワイヤには温度サイクル試験において、優れた温度サイクル信頼性が求められる。しかしながら、特許文献1~3に開示されている高強度なAlボンディングワイヤを用いた場合、次世代パワー半導体装置での使用を想定した温度サイクル試験において、Alボンディングワイヤよりも強度が低いAl合金電極内において比較的速い速度でき裂が進展してしまい、良好な温度サイクル信頼性を安定的に得ることが困難となる課題があることを確認した。
 すなわち、Alに他元素を添加し高強度化されたAlボンディングワイヤについては温度サイクル信頼性に対する有効性が幾つか報告されているものの、その効果は不十分であった。
 本発明は、優れた温度サイクル信頼性と良好な1st接合性を満足するAlボンディングワイヤを提供することを目的とする。
 本発明者らは、上記課題につき鋭意検討した結果、Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有するAl合金ボンディングワイヤであって、前記Al合金ボンディングワイヤのワイヤ中心軸を含む中心軸方向の断面(L断面)におけるSi相の平均径が0.8~5.5μmであるAl合金ボンディングワイヤが上記課題を解決できることを見出し、斯かる知見に基づいて更に検討を重ねることによって本発明を完成した。
 すなわち、本発明は以下の内容を含む。
[1]
 Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有するAl合金ボンディングワイヤであって、前記Al合金ボンディングワイヤのワイヤ中心軸を含む中心軸方向の断面(L断面)におけるSi相の平均径が0.8μm以上5.5μm以下である、Al合金ボンディングワイヤ。
[2]
 L断面におけるSi相のワイヤ中心軸方向の長さ(a)とワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)の比(a/b)の平均値が1.3以上3.2以下である、[1]に記載のAl合金ボンディングワイヤ。
[3]
 L断面におけるα相の平均径が5μm以上50μm以下である、[1]又は[2]に記載のAl合金ボンディングワイヤ。
[4]
 L断面におけるSi相の結晶方位を測定した結果において、ワイヤ中心軸方向の結晶方位のうち、ワイヤ中心軸方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<110>の方位比率が30%以上80%以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のAl合金ボンディングワイヤ。
[5]
 さらにNi、Pd、Ptのいずれか一種以上を総計で3質量ppm以上150質量ppm以下含有する、[1]~[4]のいずれかに記載のAl合金ボンディングワイヤ。
[6]
 残部がAl及び不可避不純物からなる、[1]~[5]のいずれかに記載のAl合金ボンディングワイヤ。
[7]
 [1]~[6]のいずれかに記載のAl合金ボンディングワイヤを含む半導体装置。
 本発明によれば、優れた温度サイクル信頼性と良好な1st接合性を満足するAl合金ボンディングワイヤを提供することができる。
図1は、Al合金ボンディングワイヤについて、Si相の平均径、結晶方位を測定する際の測定対象面(検査面)を説明するための概略図である。測定対象面は、Al合金ボンディングワイヤのワイヤ中心軸を含む中心軸方向の断面(L断面)である。 図2は、L断面におけるSi相のワイヤ中心軸方向の長さ(a)とワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)を説明するための概略図である。
 以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。ただし、本発明は、下記実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施され得る。
 [Al合金ボンディングワイヤ]
 本発明のAl合金ボンディングワイヤ(以下、単に「本発明のワイヤ」、「ワイヤ」ともいう。)は、Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有するAl合金ボンディングワイヤであって、該ワイヤのワイヤ中心軸を含む中心軸方向の断面(L断面)におけるSi相の平均径が0.8μm以上5.5μm以下であることを特徴とする。本発明において、Al合金ボンディングワイヤのワイヤ中心軸、及び、該ワイヤのワイヤ中心軸を含む中心軸方向の断面(L断面)とは、後記「(Si相の平均径、Si相の形状の測定方法)」欄にて図1を参照しつつ説明するとおりである。
 温度サイクル試験において、高純度のAlのみからなるボンディングワイヤを使用した場合には、ボンディングワイヤの内部を比較的速い速度でき裂が進展して、良好な温度サイクル信頼性を得ることは困難であった。一方、元素を添加し、高強度化したAlボンディングワイヤを使用する場合は、相対的に強度が低いAl合金電極内をき裂が進展するため、次世代パワー半導体装置に要求される温度サイクル信頼性を得ることは困難であることを確認した。
 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有するAl合金ボンディングワイヤであって、そのL断面におけるSi相の平均径が0.8μm以上5.5μm以下であるAl合金ボンディングワイヤによれば、温度サイクル信頼性を向上させ得ることを見出した。斯かる本発明のワイヤは、次世代パワー半導体装置で要求される温度サイクル信頼性を実現することに著しく寄与するものである。なお、本発明のワイヤは、Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有する亜共晶組成を有し、AlにSiが固溶したα相とSi相から構成される。
 本発明のワイヤが良好な温度サイクル信頼性をもたらすことができる理由に関しては、以下のとおり推察される。まず、Si相はAlよりも線膨張係数が小さいため、Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有することによって、Al合金ボンディングワイヤの線膨張係数を低減して温度サイクル試験中に発生する熱応力を減少させる効果が得られる。さらにAl合金ボンディングワイヤのL断面におけるSi相の平均径を0.8μm以上に制御することで、Si相の析出強化によるα相の高強度化を抑制することができる。これにより、温度サイクル試験中にき裂がAl合金電極内を進展することを防ぐ効果が得られる。さらにAl合金ボンディングワイヤのL断面におけるSi相の平均径を0.8μm以上5.5μm以下の範囲に制御することで、温度サイクル試験中に進展したき裂の先端が硬質なSi相に到達したときに、それ以上のき裂の進展が抑制される効果を十分に得ることができる。以上のように、本発明のワイヤは、温度サイクル信頼性の向上に寄与する複数の因子を適切に制御することによって良好な信頼性を発現することができるものと考えられる。
 温度サイクル試験において、良好な温度サイクル信頼性を得る観点から、本発明のAl合金ボンディングワイヤにおけるSiの濃度は3.0質量%以上であり、好ましくは4.0質量%以上、更に好ましくは4.2質量%以上、4.4質量%以上、4.5質量%以上、4.6質量%以上又は4.8質量%以上である。他方、Al合金ボンディングワイヤの硬度が過大となると、一般的に用いる超音波、荷重の接合条件では1st接合時に半導体チップの損傷が発生しやすくなる。一般的な接合条件にて1st接合する場合に良好な接合強度を得る観点から、本発明のAl合金ボンディングワイヤにおけるSi濃度は10質量%以下であり、好ましくは8.0質量%以下又は7.0質量%以下、更に好ましくは6.8質量%以下、6.6質量%以下、6.5質量%以下である。
 温度サイクル試験において、良好な温度サイクル信頼性を得る観点から、本発明のワイヤのL断面におけるSi相の平均径は0.8μm以上であり、好ましくは1.2μm以上又は1.4μm以上、より好ましくは1.5μm以上、1.6μm以上又は1.8μm以上である。他方、Si相が粗大になりすぎるとSi相の数密度が減少し、Si相によるき裂の進展抑制効果を安定して得ることが困難となる。したがって、良好な温度サイクル信頼性を安定的に得る観点から、本発明のワイヤのL断面におけるSi相の平均径は5.5μm以下であり、好ましくは5.0μm以下又は4.5μm以下、より好ましくは4.0μm以下である。
 本発明のワイヤに含まれる元素の濃度分析には、例えばICP(Inductively Coupled Plasma)発光分光分析装置やICP質量分析装置を利用することができる。ワイヤの表面に酸素や炭素等の大気中からの汚染物由来の元素が吸着している場合には、分析を行う前に吸着した物質に応じて酸やアルカリにより洗浄を行うことが有効である。
 本発明のワイヤのL断面におけるSi相の径を測定する方法について説明する。L断面におけるSi相の径を測定する手法としては、例えば電解放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM: Field Emission Scanning Electron Microscope)による反射電子像を用いる手法が挙げられる。以下、具体的な測定手法を説明する。まず、FE-SEMを使用して、ワイヤのL断面の反射電子像を取得する。反射電子像ではα相とSi相は異なるコントラストで観察され、このコントラストを利用した二値化処理によってSi相を抽出する。二値化処理に際しては、取得したL断面の反射電子像の輝度値を0から1の範囲に正規化し、閾値を0.45~0.95の範囲で決定して二値化する。このとき、閾値は、Si相とα相を区別できるように適宜決定する。なお、L断面にはサンプル調製時に付着した異物や傷などが存在する場合があり、Si相と近いコントラストで観察されることがある。これらの異物や傷と、Si相とを区別して、異物や傷の影響を除外するために、FE-SEMに備え付けたエネルギー分散型X線分光装置(EDS: Energy Dispersive X-ray Spectrometer)を用いてSi濃度を測定してSi相を特定することが有効である。このように、必要に応じてSi濃度の情報をもとにSi相を特定した上で、反射電子像をもとに二値化処理によってSi相を抽出する。そして、抽出した各Si相について画像解析ソフト(Bruker社製 Esprit等)を用いて円相当直径を算出する。本発明においては該円相当直径をSi相の径とし、各Si相の径の算術平均値を平均径と定義する。したがって一実施形態において、本発明のワイヤのL断面におけるSi相の平均径は、以下の(1)乃至(3)の手順により算出される。
(1)FE-SEMを用いてワイヤのL断面の反射電子像を取得する。
(2)取得した反射電子像のコントラストを利用した二値化処理によってSi相を抽出する。
(3)抽出した各Si相について画像解析し円相当直径を求め、それらを算術平均してSi相の平均径を算出する。
 ここで、上記(2)において、閾値の設定指針や、必要に応じて、異物や傷とSi相とを区別するために、EDSを用いてSi濃度を測定してSi相を特定してよいことは先述のとおりである。
 本発明において、Si相の平均径を算出する際には径が0.5μm以上のSi相のみを対象とした。これにより、次世代パワー半導体装置に要求される温度サイクル信頼性を満足するのに好適なSi相の平均径に係る要件の成否を精度良く判定することができる。
 本発明において、Si相の平均径の測定領域は、ワイヤ中心軸方向の長さが100μm以上400μm未満であり、ワイヤ中心軸と垂直な方向にはワイヤ全体が入るように決定した。
 -Si相の形状-
 パワー半導体装置の1st接合部の昇温、降温にともなう接合部の寿命を評価する方法として、温度サイクル試験よりも短時間で昇温、降温を繰り返す試験(以下、「高速温度サイクル試験」ともいう。)を用いることがある。次世代のパワー半導体装置では高速温度サイクル試験においても、従来のパワー半導体装置に比べて優れた接合部寿命(以下、「高速温度サイクル信頼性」ともいう。)が得られることが望ましい。
 本発明者らは、Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有し、そのL断面におけるSi相の平均径が0.8μm以上5.5μm以下であるAl合金ボンディングワイヤについて検討を進める過程で、さらにL断面におけるSi相の形状が高速温度サイクル信頼性に影響を及ぼすことを見出した。詳細には、L断面におけるSi相のワイヤ中心軸方向の長さ(a)とワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)の比(a/b)の平均値が1.3以上3.2以下であることにより、高速温度サイクル信頼性が向上し得ることを見出した。図2を参照してさらに説明する。図2は、ワイヤのL断面におけるSi相を模試的に示した図であり、ワイヤ中心軸方向が図2の水平方向(左右方向)に、また、ワイヤ中心軸に垂直な方向が図2の垂直方向(上下方向)にそれぞれ対応するように示している。L断面におけるSi相について、上記の「ワイヤ中心軸方向の長さ(a)」は、ワイヤ中心軸方向におけるSi相の最大寸法をいい、図2において符号aで示した寸法に該当する。またL断面におけるSi相について、上記の「ワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)」は、ワイヤ中心軸に垂直な方向におけるSi相の最大寸法をいい、図2において符号bで示した寸法に該当する。以下、L断面におけるSi相のワイヤ中心軸方向の長さ(a)とワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)の比(a/b)を、単に「L断面におけるSi相の比(a/b)」ともいう。
 本発明のワイヤにおいて、L断面におけるSi相の比(a/b)の平均値を制御することにより高速温度サイクル信頼性が向上する理由に関しては、以下のとおり推察される。高速温度サイクル試験中はAl合金ボンディングワイヤの内部をき裂が進展し破壊に至る。き裂はワイヤ中心軸方向、あるいはそれに近い方向に沿って進展する傾向があり、ワイヤ中心軸方向の熱応力を低減することが有効と考えられる。すなわち、L断面におけるSi相のワイヤ中心軸方向の長さがワイヤ中心軸に垂直な方向の長さよりも一定以上大きくなるようにSi相の形状を制御することで、ワイヤ中心軸方向の線膨張係数を低減することができ、その結果としてAl合金ボンディングワイヤにかかるワイヤ中心軸方向の熱応力を低減できると考えられる。具体的には、Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有し、かつL断面におけるSi相の平均径が0.8μm以上5.5μm以下であることに加えて、さらにL断面におけるSi相の比(a/b)の平均値を1.3以上3.2以下に制御することにより、Al合金ボンディングワイヤの疲労破壊の原因となる熱応力を低減する効果が相乗的に高められたと考えられる。なお、高速温度サイクル試験では温度サイクル試験に比べて高温にさらされる時間が短いため、回復や再結晶が起こりづらく、き裂進展の駆動力となる塑性ひずみが蓄積されやすい。高速温度サイクル試験中にAl合金ワイヤに導入される塑性ひずみ量は熱応力が小さくなるほど減少するため、上述したSi相の形状制御が高速温度サイクル信頼性の向上に寄与したと推定される。なお、高速温度サイクル信頼性の向上効果を達成するにあたっては、L断面におけるSi相の比(a/b)の平均値が上記好適範囲にあればよく、全てのSi相について比(a/b)が1.3以上3.2以下の範囲にある必要はない。例えば、a<bやa=bとなるSi相のように、比(a/b)が1.3未満であるSi相を含んでいてもよいし、比(a/b)が3.2超であるSi相を含んでいてもよい。
 高速温度サイクル試験中に発生するワイヤ中心軸方向の熱応力を低減し、高速温度サイクル信頼性を向上させる観点から、本発明のワイヤのL断面におけるSi相の比(a/b)の平均値は、より好ましくは1.4以上である。他方、比(a/b)の平均値が過大であるとSi相の端部が鋭角になり、Si相の端部とα相の界面に沿ってき裂が発生し易くなるため、高速温度サイクル信頼性の向上効果が得られない。したがって、本発明のワイヤのL断面におけるSi相の比(a/b)の平均値は、好ましくは3.2以下であり、より好ましくは2.8以下である。
 本発明のワイヤのL断面におけるSi相のワイヤ中心軸方向の長さ(a)とワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)を測定する方法について説明する。まず、ワイヤのL断面におけるSi相の径の測定方法につき上述した方法と同様に、FE-SEMによりL断面の反射電子像を取得し、取得した反射電子像のコントラストを利用した二値化処理によってSi相を抽出する。ここで、二値化処理のための閾値の設定指針や、必要に応じて、異物や傷とSi相とを区別するために、EDSを用いてSi濃度を測定してSi相を特定してよいことも、Si相の径の測定方法につき上述したとおりである。続いて、抽出した各Si相について、画像解析ソフト(Bruker社製 Esprit等)を用いて、ワイヤ中心軸方向の長さ(a)とワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)を算出する。L断面におけるSi相の比(a/b)の平均値は、各Si相について算出した比(a/b)の値の算術平均値とする。したがって一実施形態において、本発明のワイヤのL断面におけるSi相の比(a/b)の平均値は、以下の(1)乃至(3)の手順により算出される。
(1)FE-SEMを用いてワイヤのL断面の反射電子像を取得する。
(2)取得した反射電子像のコントラストを利用した二値化処理によってSi相を抽出する。
(3)抽出した各Si相について画像解析しワイヤ中心軸方向の長さ(a)とワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)を測定して比(a/b)を求め、それらを算術平均してSi相の比(a/b)の平均値を算出する。
 本発明において、L断面におけるSi相の比(a/b)を算出する際には径(円相当直径)が0.5μm以上のSi相のみを対象とした。これにより、高速温度サイクル信頼性を向上させるために好適なL断面におけるSi相の比(a/b)に係る要件の成否を精度良く判定することができる。
 また、L断面におけるSi相のワイヤ中心軸方向の長さ(a)とワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)を測定するに際しても、測定領域は、ワイヤ中心軸方向の長さが100μm以上400μm未満であり、ワイヤ中心軸と垂直な方向にはワイヤ全体が入るように決定した。
 -α相の平均径-
 本発明のワイヤは、そのL断面におけるα相の平均径が5μm以上50μm以下であることが好ましい。
 L断面におけるα相の平均径が5μm以上50μm以下の範囲であることにより、2nd接合における接合強度のばらつきが低減できることを本発明者らは見出した。この理由は、Siを所定濃度含有し、かつL断面におけるSi相の平均径を所定の範囲に制御することによりワイヤの均一な変形を促進する効果と、L断面におけるα相の平均径を5μm以上50μm以下とすることによりワイヤ中心軸と垂直な方向の機械的強度のばらつきを低減する効果とが相乗的に作用するためと考えられる。
 2nd接合における接合強度のばらつきをさらに低減して、より良好な接合強度の安定性を実現する観点から、本発明のワイヤのL断面におけるα相の平均径は、より好ましくは10μm以上、更に好ましくは12μm以上、14μm以上又は15μm以上である。また、L断面におけるα相の平均径の上限は、より好ましくは45μm以下、更に好ましくは40μm以下、38μm以下、36μm以下又は35μm以下である。
 本発明のワイヤのL断面におけるα相の径を測定する方法について説明する。L断面におけるα相の径の測定には、SEM-EDSによって得られたAl濃度の情報と後方散乱電子線回折法(EBSD:Electron BackScattered Diffraction)によって得られた結晶方位の情報を組み合わせる手法を用いることができる。詳細には、ワイヤのL断面を検査面とし、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位解析を同時に行う。続いて、EDSの測定結果からα相と特定された領域について、装置に付属している解析ソフトを利用することにより結晶方位を解析することができる。測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して円相当直径を算出する。各α相の円相当直径の算術平均値をα相の平均径と定義する。α相の径を求める過程では、結晶方位が測定できない部位、あるいは測定できても方位解析の信頼度が低い部位は除外して計算した。したがって一実施形態において、本発明のワイヤのL断面におけるα相の平均径は、以下の(1)乃至(3)の手順により算出される。
(1)ワイヤのL断面を検査面とし、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位解析を同時に行う。
(2)EDSの測定結果からα相と特定された領域について、結晶方位を解析し、測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して各結晶粒の円相当直径を求める。
(3)各結晶粒の円相当直径を算術平均してα相の平均径を算出する。
 本発明において、L断面におけるα相の平均径を算出する際には径(円相当直径)が0.5μm以上のα相のみを対象とした。これにより、2nd接合における接合強度の安定性を向上させるために好適なL断面におけるα相の平均径に係る要件の成否を精度良く判定することができる。
 また、L断面におけるα相の平均径を測定するに際して、測定領域は、ワイヤ中心軸方向の長さが100μm以上400μm未満であり、ワイヤ中心軸と垂直な方向にはワイヤ全体が入るように決定した。
 -Si相の結晶方位-
 本発明のワイヤは、さらにL断面におけるSi相の結晶方位を測定した結果において、ワイヤ中心軸方向の結晶方位のうち、ワイヤ中心軸方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<110>の方位比率が30%以上80%以下であることが好ましい。以下、斯かる結晶方位<110>の方位比率を、「L断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率」ともいう。
 L断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率が30%以上80%以下であることにより、ループ直進性が向上することを本発明者らは見出した。この理由は、Siを所定濃度含有し、かつL断面におけるSi相の平均径を所定の範囲に制御することによりワイヤの均一な変形を促進する効果と、L断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率を30%以上80%とすることによりワイヤ中心軸方向の機械的強度のばらつきを低減する効果とが相乗的に作用するためと考えられる。
 ループ直進性をさらに向上させる観点から、本発明のワイヤのL断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率は、より好ましくは35%以上、更に好ましくは40%以上、45%以上又は50%以上である。他方、理由は明らかではないがL断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率が80%を超えるとループ直進性向上の効果は得られない傾向にある。L断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率の上限は、好ましくは80%以下であり、より好ましくは78%以下、76%以下又は75%以下である。
 本発明のワイヤのL断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率を測定するに際しては、SEM-EDSによって得られるAlとSiの濃度の情報とEBSDによって得られる結晶方位の情報を組み合わせる手法を用いることができる。詳細には、ワイヤのL断面を検査面とし、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位解析を同時に行う。続いて、EDSの測定結果からSi相と特定された領域について、装置に付属している解析ソフトを利用することにより、Si相の結晶方位<110>の方位比率を算出することができる。その方位比率を算出するにあたって、測定エリア内で、ある信頼度を基準に同定できた結晶方位のみの面積を母集団として算出した結晶方位<110>の面積割合を、結晶方位<110>の方位比率とした。方位比率を求める過程では、結晶方位が測定できない部位、あるいは測定できても方位解析の信頼度が低い部位は除外して計算した。したがって一実施形態において、本発明のワイヤのL断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率は、以下の(1)、(2)の手順により算出される。
(1)ワイヤのL断面を検査面とし、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位解析を同時に行う。
(2)EDSの測定結果からSi相と特定された領域について、結晶方位を解析し、Si相の結晶方位<110>の方位比率を算出する。
 本発明において、L断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率は、3箇所以上を測定して得られた方位比率の各値の算術平均値とした。測定領域の選択にあたっては、測定データの客観性を確保する観点から、測定対象のボンディングワイヤから、測定用の試料を、ワイヤ中心軸方向に対し1m以上の間隔で取得し、測定に供することが好ましい。また本発明において、EBSD法による結晶方位の測定領域は、ワイヤ中心軸方向の長さが100μm以上400μm未満であり、ワイヤ中心軸と垂直な方向にはワイヤ全体が入るように決定した。
 -Ni、Pd、Ptの添加-
 本発明のワイヤは、さらにNi、Pd、Ptのいずれか一種以上を総計で3質量ppm以上150質量ppm以下含有してもよい。
 さらにNi、Pd、Ptのいずれか一種以上を総計で3質量ppm以上150質量ppm以下含有することにより、高温高湿環境における耐食性を改善できることを本発明者らは見出した。この理由は明らかではないが、Siを所定濃度含有することにより高温高湿環境における耐食性を改善する効果が、Ni、Pd、Ptのいずれか一種以上を総計で3質量ppm以上150質量ppm以下含有することで相乗的に高められるためと考えられる。
 高温高湿環境における耐食性を改善する観点から、本発明のワイヤにおけるNi、Pd、Ptの総計濃度は、好ましくは3質量ppm以上、より好ましくは5質量ppm以上、6質量ppm以上、8質量ppm以上又は10質量ppm以上であり、その上限は、好ましくは150質量ppm以下、より好ましくは145質量ppm以下又は140質量ppm以下である。
 本発明のワイヤを製造する際のアルミニウム原料としては、純度が4N(Al:99.99質量%以上)のAlを用いることが好適であり、さらに不純物量の少ない5N(Al:99.999質量%以上)以上のAlを用いることがより好適である。本発明の効果を阻害しない範囲において、本発明のワイヤの残部は、Al以外の元素を含有してよい。本発明のワイヤにおいて、Alの含有量は、本発明の効果を阻害しない限りにおいて特に限定されないが、好ましくは90質量%以上、より好ましくは92質量%以上、92.5質量%以上又は93質量%以上、更に好ましくは93.5質量%以上、94質量%以上、94.5質量%以上、94.6質量%以上、94.8質量%以上又は95質量%以上である。一実施形態において、本発明のワイヤの残部はAl及び不可避不純物からなる。したがって好適な一実施形態において、本発明のワイヤは、Al、Si及び不可避不純物からなる。他の好適一実施形態において、本発明のワイヤは、Alと、Siと、Ni、Pd、Ptのいずれか一種以上と、不可避不純物とからなる。
 好適な一実施形態において、本発明のワイヤは、該ワイヤの外周に、Al以外の金属を主成分とする被覆を有していない。ここで、「Al以外の金属を主成分とする被覆」とは、Al以外の金属の含有量が50質量%以上である被覆をいう。
 本発明のワイヤは、良好な温度サイクル信頼性と1st接合部における良好な接合性を共に満足したうえで、良好な高速温度サイクル信頼性、2nd接合部における良好な接合強度、ループ直進性、高温高湿環境における高い耐食性をもたらすことができる。したがって本発明のボンディングワイヤは、半導体装置用のAl合金ボンディングワイヤ、特にパワー半導体装置用のAl合金ボンディングワイヤとして好適に使用することができる。
 本発明のワイヤの線径は、特に限定されず具体的な目的に応じて適宜決定してよいが、好ましくは50μm以上、60μm以上、80μm以上、100μm以上、120μm以上、140μm以上又は150μm以上などとし得る。該線径の上限は、特に限定されず、例えば、600μm以下、550μm以下、500μm以下などとし得る。
 (Al合金ボンディングワイヤの製造方法)
 本発明のAl合金ボンディングワイヤの製造方法の一例を説明する。原材料となるAlおよび合金元素は純度が高い方が好ましい。Alは純度が99.99質量%以上で残部が不可避不純物から構成されるものが好ましい。合金元素として使用するSi、Ni、Pd、Ptは、純度が99.9質量%以上で残部が不可避不純物から構成されるものが好ましい。ボンディングワイヤに用いるAl合金は、円柱形状のインゴットが得られるように加工した黒鉛やアルミナ製のるつぼに、Al原料と合金元素の原料を装填し、電気炉や高周波加熱炉を用いて溶解することにより製造できる。円柱状のインゴットの直径はその後の加工工程における加工性を考慮してΦ6mm以上8mm未満とすることが好ましい。溶解時の炉内の雰囲気は、ワイヤを構成するAlやその他の元素が過剰に酸化されることを防ぐため、不活性雰囲気あるいは還元雰囲気とすることが好ましい。溶解時の溶湯の最高到達温度は、溶湯の流動性を確保しつつ、るつぼから溶湯中への不純物元素の混入を防ぐために700℃以上1050℃未満の範囲とすることが好ましい。溶解後の冷却方法は水冷、炉冷、空冷などを用いることができる。
 溶解によって得られた円柱状のインゴットに対し、均質化処理を行った後、ダイスを用いた伸線加工と中間熱処理を繰り返し行うことで、目的とする線径のワイヤを製造することができる。伸線加工後のワイヤは電気炉を用いて最終熱処理を行うことでAl合金ボンディングワイヤとして使用することができる。
 L断面におけるSi相の平均径を0.8μm以上5.5μm以下の範囲に制御するためには、均質化処理条件、伸線加工条件、中間熱処理条件、最終熱処理条件などの製造条件を制御することが有効である。伸線加工時には、ワイヤとダイスの接触界面における潤滑性を確保するため、潤滑液を用いることが有効である。以下、L断面におけるSi相の平均径を0.8μm以上5.5μm以下の範囲に制御するための製造条件の一例を示す。
 均質化処理の温度範囲は500℃以上560℃未満、時間は3時間以上5時間未満とすることが有効である。この均質化処理により、凝固過程で晶出するα相に含まれるSiの濃度ばらつきを低減することができ、かつ微細なSi相を成長させてワイヤを軟質化させることにより、その後の伸線加工によるSi相の変形挙動が制御可能となる。その後、伸線加工と中間熱処理を繰り返すことによってSi相の径を制御することができる。伸線加工を行うとSi相はワイヤ中心軸方向に変形し、Si相の一部は破断して微細化する。一方、中間熱処理を行うとSi相は成長する。したがって、Si相を目的とする径に制御するためには、伸線加工の条件、中間熱処理の温度と時間、中間熱処理を行う回数と線径の適正化が重要となる。伸線加工条件については、伸線加工時に使用するダイス1個あたりのワイヤ減面率を10.5%以上12.5%未満の範囲とすることが有効である。ここで、ダイス1個あたりのワイヤ減面率をP1とすると、P1は以下の式で表される。
 P1={(R -R )/R }×100
 式中、Rは加工前のワイヤの直径(mm)、Rは加工後のワイヤの直径(mm)を表す。
 これにより、ワイヤ全体でSi相を概ね均一に変形させることができる。中間熱処理の温度範囲は400℃以上440℃未満、中間熱処理の時間は1時間以上2時間未満とすることが有効である。中間熱処理の回数は2回とし、1回目の中間熱処理を行う線径は最終線径の2.6~3.0倍、2回目の中間熱処理を行う線径は最終線径の1.6~2.0倍の線径で実施することが有効である。最終熱処理の温度範囲は250℃以上360℃未満、最終熱処理の時間は20時間以上24時間未満とすることが有効である。なお、中間熱処理を行わず最終熱処理を行った場合にはAl合金ボンディングワイヤに必要な破断伸びと目的とするSi相の径を同時に得ることができない。そこで、上述した条件のように、中間熱処理はSi相の径の制御、最終熱処理は破断伸びの制御に主眼を置いた条件とすることが有効である。すなわち、所定の条件で中間熱処理を行い、予めSi相を成長させておくことで、最終熱処理後にSi相を目的の径に容易に制御することができる。これにより、ワイヤを再結晶させてAl合金ボンディングワイヤに必要な破断伸びを確保しつつ、Si相を成長させて目的とする径に制御し易い。
 中間熱処理および最終熱処理は電気炉で一定時間加熱する方法で実施することができる。熱処理中の雰囲気はAlやSiの過剰な酸化を抑制するため、不活性雰囲気あるいは還元雰囲気とすることが好ましい。
 ワイヤのL断面におけるSi相の比(a/b)の平均値を1.3以上3.2以下の範囲に制御するためには、伸線加工を行う線径に応じて伸線加工時のワイヤ送り速度を制御することが有効である。上記比(a/b)の平均値を目的とする範囲に制御するためのワイヤ送り速度の条件の好適な例を以下に示す。
 溶解によって得られたインゴットから1回目の中間熱処理を行うまでの伸線加工工程を「伸線加工1」とする。1回目の中間熱処理から2回目の中間熱処理までの伸線加工工程を「伸線加工2」とする。2回目の中間熱処理から最終線径までの伸線加工工程を「伸線加工3」とする。伸線加工1におけるワイヤ送り速度を15m/分以上25m/分未満、伸線加工2におけるワイヤ送り速度を30m/分以上55m/分未満、伸線加工3におけるワイヤ送り速度を70m/分以上90m/分未満とすることが有効である。これはワイヤ送り速度を所定の範囲に設定することによって、伸線加工時にワイヤ中心軸方向にかかる応力を制御することができ、ワイヤのL断面におけるSi相の比(a/b)の平均値を目的とする範囲に制御できるためと考えられる。
 ワイヤのL断面におけるα相の平均径を5μm以上50μm以下の範囲に制御するためには、最終線径での最終熱処理前に追加熱処理を行うことが有効である。L断面におけるα相の平均径を5μm以上50μm以下の範囲に制御するための追加熱処理方法とその条件の一例を以下に示す。追加熱処理は、加熱した管状炉内にワイヤを連続的に掃引する方法を用いることができる。また追加熱処理の温度範囲は540℃以上560℃未満の温度範囲、追加熱処理の時間は1.5秒以上3.0秒未満とすることが有効である。熱処理中のAlやSiの過剰な酸化を抑制するため、管状炉内には不活性ガスを還流させることが好ましい。これは最終熱処理前に追加熱処理を最終熱処理よりも高温かつ短時間とした上記の条件で行うことにより、Si相の成長を抑制しつつ、α相を再結晶させてα相の径を目的とする範囲に制御できるためと考えられる。
 ワイヤのL断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率を30%以上80%以下の範囲に制御するためには、ダイスのリダクション角度(以下、「ダイス角度」ともいう。)を制御することが有効である。L断面におけるSi相の結晶方位<110>の方位比率を30~80%の範囲に制御するためのダイス角度は14°以上18°未満にすることが有効である。これはワイヤがダイスに入るときにワイヤとダイスが接触する面積が変化してワイヤ表面にかかる圧縮応力が変化することにより、Si相の結晶方位を目的とする範囲に制御できるためと考えられる。
 [半導体装置]
 本発明のワイヤを用いて、半導体チップ上の電極と、リードフレームや基板上の外部電極とを接続することによって、半導体装置を製造することができる。
 一実施形態において、本発明の半導体装置は、回路基板、半導体チップ、及び回路基板と半導体チップとを導通させるためのボンディングワイヤを含み、該ボンディングワイヤが本発明のワイヤであることを特徴とする。
 本発明の半導体装置において、回路基板及び半導体チップは特に限定されず、半導体装置を構成するために使用し得る公知の回路基板及び半導体チップを用いてよい。あるいはまた、回路基板に代えてリードフレームを用いてもよい。例えば、特開2020-150116号公報に記載される半導体装置のように、リードフレームと、該リードフレームに実装された半導体チップとを含む半導体装置の構成としてよい。
 半導体装置としては、電気製品(例えば、コンピューター、携帯電話、デジタルカメラ、テレビ、エアコン、太陽光発電システム等)及び乗物(例えば、自動二輪車、自動車、電車、船舶及び航空機等)等に供される各種半導体装置が挙げられ、中でも電力用半導体装置(パワー半導体装置)が好適である。
 以下、本発明について、実施例を示して具体的に説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に限定されるものではない。
 (サンプル)
 サンプルの作製方法について説明する。原材料となるAlは純度が4N(99.99質量%以上)で、残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。合金元素として用いるSi、Ni、Pd、Ptは、純度が99.99質量%以上で残部が不可避不純物から構成されるものを用いた。ボンディングワイヤに用いるAl合金は、アルミナるつぼにAl原料と合金元素の原料を装填し、高周波加熱炉を用いて溶解することにより製造した。溶解時の炉内の雰囲気はAr雰囲気とし、溶解時の溶湯の最高到達温度は800℃とした。溶解後の冷却方法は炉冷とした。
 溶解によりΦ6mmの円柱状のインゴットを得、該インゴットに対し、均質化処理を行った後、ダイスを用いた伸線加工と中間熱処理を行いΦ300μmのワイヤを作製した。均質化処理の温度範囲は500℃以上560℃未満、時間は3時間以上5時間未満とした。伸線加工時には市販の潤滑液を用い、伸線加工時のダイス1個あたりのワイヤ減面率は10.5%以上12.5%未満とした。中間熱処理の温度範囲は400℃以上440℃未満で、中間熱処理の時間は1時間以上2時間未満とした。中間熱処理の回数は2回とし、1回目の中間熱処理を行う線径は最終線径の2.6~3.0倍、2回目の中間熱処理を行う線径は最終線径の1.6~2.0倍の線径で実施した。最終熱処理の温度範囲は250℃以上360℃未満、最終熱処理の時間は20時間以上24時間未満とした。
 一部の実施例では、伸線加工1におけるワイヤ送り速度を15m/分以上25m/分未満、伸線加工2におけるワイヤ送り速度を30m/分以上55m/分未満、伸線加工3におけるワイヤ送り速度を70m/分以上90m/分未満とした。一部の実施例では、最終線径での最終熱処理前に追加熱処理を行い、追加熱処理の条件は540℃以上560℃未満の温度範囲で、時間は1.5秒以上3.0秒未満とした。一部の実施例では、ダイス角度が14°以上18°未満のダイスを用いて伸線加工した。
 (元素含有量の測定方法)
 ボンディングワイヤに含まれる元素の濃度分析は、分析装置として、ICP-OES((株)日立ハイテクサイエンス製「PS3520UVDDII」)又はICP-MS(アジレント・テクノロジーズ(株)製「Agilent 7700x ICP-MS」)を用いて測定した。
 (Si相の平均径、Si相の形状の測定方法)
 Al合金ボンディングワイヤのL断面を検査面とし、Si相の平均径、Si相の形状を測定した。本発明において、ワイヤ中心軸、ワイヤ中心軸を含むワイヤ中心軸方向の断面(L断面)は、図1に示すとおりである。測定にはFE-SEMとEDSを用い、前述の手順でSi相の平均径、Si相のワイヤ中心軸方向の長さ(a)、ワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)を算出した。測定領域はワイヤ中心軸方向に200μm、ワイヤ中心軸と垂直な方向にはワイヤ全体が入るように決定した。Al合金ボンディングワイヤのL断面を露出させるために断面加工する際は、ワイヤ中心軸からずれることがある。このときL断面のワイヤ中心軸に垂直な方向の長さが、ワイヤ線径の90%以上であれば、ワイヤ中心軸を含んだ断面と見なすことができる。これは、L断面の垂直な方向の長さが90%以上であればワイヤ中心軸からのずれがSi相の平均径やSi相の形状の測定結果に及ぼす影響が無視できるほど小さいためである。
 (Si相の結晶方位<110>の方位比率の測定方法)
 Al合金ボンディングワイヤのL断面を検査面とし、Si相のワイヤ中心軸方向の結晶方位のうち、ワイヤ中心軸方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<110>の方位比率を測定した。結晶方位<110>の方位比率の測定には、SEM-EDSによって得られるSi濃度の情報とEBSDによって得られる結晶方位の情報を組み合わせる手法を用いた。詳細には、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位解析を同時に行った。続いて、EDSの測定結果からSi相と特定された領域について、装置に付属している解析ソフトを利用することにより、結晶方位<110>の方位比率を算出した。ワイヤ中心軸方向に対して1m以上の間隔で3箇所の測定領域を無作為に選択し、3箇所の測定領域から得られたSi相の結晶方位<110>の方位比率の算術平均値を、測定サンプルのSi相の結晶方位<110>の方位比率とした。測定領域はワイヤ中心軸方向に200μm、ワイヤ中心軸と垂直な方向にはワイヤ全体が入るように決定した。
 (α相の平均径の測定方法)
 Al合金ボンディングワイヤのワイヤのL断面を検査面とし、EDSを用いたAlとSiの濃度測定と、EBSDを用いた結晶方位解析を同時に行った。続いて、EDSの測定結果からα相と同定された領域について、装置に付属している解析ソフトを利用して、測定点間の方位差が15°以上であれば結晶粒界と判断して円相当直径を算出した。各α相の円相当直径の算術平均値をα相の平均径とした。測定領域はワイヤ中心軸方向に200μm、ワイヤ中心軸と垂直な方向にはワイヤ全体が入るようにした。
 (Al合金ボンディングワイヤの評価方法)
 Al合金ボンディングワイヤの評価方法について説明する。評価に用いたAl合金ボンディングワイヤの線径はΦ300μmとした。半導体チップはSi製のものを用い、半導体チップ上の電極には、組成がAl-0.5%Cuの合金を厚さ5μmで成膜したものを用いた。基板にはAl合金にNiを15μm成膜したものを用いた。Al合金ボンディングワイヤの接合には市販のワイヤボンダー(超音波工業社製)を用いた。
 (温度サイクル信頼性の評価方法)
 温度サイクル試験の評価には市販の冷熱衝撃試験装置を用いた。温度サイクル試験では低温槽と高温槽の間を試料室が移動することにより昇温、降温を繰り返す。低温槽の温度を-40℃、高温槽の温度を175℃とした。試料室が高温槽にある状態から試験を開始し、低温槽に移動して高温槽に戻ってくるまでを1サイクルとした。低温槽および高温槽に試料室が滞在する時間は各々20分間とした。温度サイクル試験を行うサンプルは基板に半導体チップを搭載した構造とし、半導体チップ上の電極と基板上の電極間をAl合金ボンディングワイヤで接続した。試験開始後は100サイクル毎にサンプルを取り出し、1st接合部のせん断試験を行った。温度サイクル信頼性の評価に用いる1st接合部のせん断強度の値には、無作為に抽出した5箇所の1st接合部のせん断強度の算術平均値を用いた。せん断強度が温度サイクル試験前の値に対して70%以下に低下した時点のサイクル数を接合部寿命とし、接合部寿命が500サイクル未満であれば実用上問題があると判断し「0」、接合部寿命が500サイクル以上750サイクル未満であれば実用上問題ないと判断し「1」、接合部寿命が750サイクル以上1000サイクル未満であれば優れていると判断し「2」、接合部寿命が1000サイクル以上であれば特に優れていると判断し「3」とした。「0」が不合格であり、「1」、「2」、「3」が合格である。評価結果は表中の「温度サイクル信頼性」の欄に記載した。
 (高速温度サイクル信頼性の評価方法)
 高速温度サイクル試験の評価には市販の高速冷熱衝撃試験装置を用いた。高速温度サイクル試験を行うサンプルは温度サイクル信頼性の評価に用いるサンプルと同様とした。高速冷熱衝撃試験装置の試料室内に設置したサンプルに対して加熱と冷却を1サイクルとして熱的負荷を繰り返し与えた。最低温度は-50℃、最高温度は175℃とした。昇温時間を含む加熱時間は20秒、降温時間を含む冷却時間は40秒とした。試験開始後は500サイクル毎にサンプルを取り出し、1st接合部のせん断試験を行った。温度サイクル信頼性の評価に用いる1st接合部のせん断強度の値には、無作為に抽出した5箇所の1st接合部のせん断強度の算術平均値を用いた。せん断強度が温度サイクル試験前の値に対して70%以下に低下した時点のサイクル数を接合部寿命とし、接合部寿命が4000サイクル未満であれば実用上問題があると判断し「0」、接合部寿命が4000サイクル以上6000サイクル未満であれば実用上問題ないと判断し「1」、接合部寿命が6000サイクル以上8000サイクル未満であれば優れていると判断し「2」、接合部寿命が8000サイクル以上であれば特に優れていると判断し「3」とした。「0」が不合格であり、「1」、「2」、「3」が合格である。評価結果は表中の「高速温度サイクル信頼性」の欄に記載した。
 (1st接合性の評価方法)
 1st接合性の評価方法について説明する。1st接合性はせん断強度試験により評価した。一般的な接合条件で10箇所の1st接合を行い、1st接合部のせん断強度を測定した。せん断強度の測定には、市販の微小せん断強度試験機を用いた。せん断速度は200μm/秒、せん断ツールの高さは電極表面から10μmとした。せん断強度の測定は、ワイヤを接合した基板を治具で固定して行った。10箇所の1st接合部のうち、せん断強度が800gf未満となる箇所が1箇所でもあれば不合格と判断し「0」、10箇所ともせん断強度が800gf以上1100gf未満である場合は実用上問題ないと判断し「1」と評価した。さらに、10箇所のうちせん断強度が800gf未満の箇所がなく、1100gf以上の箇所が含まれる場合は優れていると判断し「2」と評価した。また、せん断強度試験後に半導体チップ上の電極をアルカリ等で除去して、半導体チップを光学顕微鏡で観察したときに半導体チップにき裂が認められた場合は、1st接合部のせん断強度が800gf以上であっても実用上問題があると判断し「0」と評価した。「0」が不合格であり、「1」、「2」が合格である。評価結果は表中の「1st接合性」の欄に記載した。
 (2nd接合部の接合強度安定性の評価方法)
 無作為に選択した50か所の2nd接合部に対してせん断強度試験を行い、接合強度を取得して母標準偏差(σ)を算出した。σが80gf以上の場合は実用上問題があると判断し「0」、σが40gf以上80gf未満であれば良好と判断し「1」、σが40gf未満であれば優れていると判断し「2」と評価した。「0」が不合格であり、「1」、「2」が合格である。評価結果は表中の「2nd接合部の接合強度安定性」の欄に記載した。
 (ループ直進性の評価方法)
 ループ直進性の評価方法について説明する。ループの形成条件は、ループ長さを35.0mm、ループ高さ8mmとした。ワイヤ接合部間の距離をX、基板を真上から光学顕微鏡で観察した際のワイヤ中心軸を通る線の長さをYとしたとき、接合した10本のボンディングワイヤについてYをXで除した値(すなわち、Y/X)の算術平均値が1.04≦Y/Xであれば不良と判定し「0」、1.02≦Y/X<1.04であれば良好と判定し「1」、Y/X<1.02であれば優れていると判定し「2」と評価した。「0」が不合格であり、「1」、「2」が合格である。評価結果は表中の「ループ直進性」の欄に記載した。
 (高温高湿環境における耐食性の評価方法)
 一般的な接合条件でAl合金ボンディングワイヤを10本接合し、エポキシ樹脂で封止した後、高温高湿炉内に放置した。高温高湿試験の試験条件は温度を130℃、相対湿度を85%とし、高温高湿炉内の雰囲気は大気雰囲気とした。高温高湿試験後のサンプルについて、ワイヤループ部分についてワイヤ中心軸を含むワイヤ中心軸方向の断面を機械研磨によって露出させ、500時間毎にAl合金ボンディングワイヤに腐食が発生しているかどうかを調べた。腐食発生有無の確認にはFE-SEMを用いた。観察する視野は、線径の99%以上、ワイヤ中心軸方向の長さは1mm以上とした。腐食の有無を確認する箇所は観察する視野内全体とした。2500時間経過後に200倍の倍率で10本のワイヤの表面を観察し、ワイヤの表面からワイヤ中心軸に向かって15μmの位置に腐食が認められた場合は実用上問題があると判断し「0」、10本ともワイヤの表面からワイヤ中心軸に向かって15μmの位置に腐食が認められない場合は実用上問題ないと判断し「1」と評価した。さらに、3500時間経過した時点で10本ともワイヤの表面からワイヤ中心軸に向かって15μmの位置に腐食が認められない場合は、優れていると判断し「2」と評価した。ワイヤの腐食の中でワイヤの円周方向に向かって腐食が進んでいる場合であっても、ワイヤの表面からワイヤ中心軸に向かって15μm以上の位置に腐食が認められない場合であれば実用上問題ないと判断した。「0」が不合格であり、「1」、「2」が合格である。評価結果は表中の「高温高湿環境における耐食性」の欄に記載した。
 実施例及び比較例の評価結果を表1~表5に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000002
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000003
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000004
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000005
 実施例No.1~80のボンディングワイヤはいずれも、Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有すると共に、そのL断面におけるSi相の平均径が0.8μm以上5.5μm以下であり、優れた温度サイクル信頼性と良好な1st接合性を呈することを確認した。
 加えて、L断面におけるSi相のワイヤ中心軸方向の長さ(a)とワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)の比(a/b)の平均値が1.3以上3.2以下である実施例No.2、3、5~8、10、11、13~22、24、25、27~30、32~38、40~42、44、46、48、50、51、54、55、58~60、62~64、66~72、74~76、78~80のボンディングワイヤは、高速温度サイクル信頼性においてより良好な結果を呈することを確認した。
 また、L断面におけるα相の平均径が5μm以上50μm以下である実施例No.9~22、31~48、57~64、73~80のボンディングワイヤは、2nd接合部の接合強度安定性においてより良好な結果を呈することを確認した。
 L断面におけるSi相の結晶方位を測定した結果において、結晶方位<110>の方位比率が30%以上80%以下である実施例No.35~48、61~64、77~80のボンディングワイヤは、ループ直進性においてより良好な結果を呈することを確認した。
 さらに、Ni、Pd、Ptの一種以上を総計で3質量ppm以上150質量ppm以下含む実施例No.17~22、43~48のボンディングワイヤは、高温高湿環境における耐食性においてより良好な結果を呈することを確認した。
 他方、比較例No.1~6のボンディングワイヤは、Si濃度、L断面におけるSi相の平均径の少なくとも一方が本発明範囲外であり、温度サイクル信頼性および1st接合性のいずれかが十分に得られないことを確認した。

Claims (7)

  1.  Siを3.0質量%以上10.0質量%以下含有するAl合金ボンディングワイヤであって、前記Al合金ボンディングワイヤのワイヤ中心軸を含むワイヤ中心軸方向の断面(L断面)におけるSi相の平均径が0.8μm以上5.5μm以下である、Al合金ボンディングワイヤ。
  2.  L断面におけるSi相のワイヤ中心軸方向の長さ(a)とワイヤ中心軸に垂直な方向の長さ(b)の比(a/b)の平均値が1.3以上3.2以下である、請求項1に記載のAl合金ボンディングワイヤ。
  3.  L断面におけるα相の平均径が5μm以上50μm以下である、請求項1又は2に記載のAl合金ボンディングワイヤ。
  4.  L断面におけるSi相の結晶方位を測定した結果において、ワイヤ中心軸方向の結晶方位のうち、ワイヤ中心軸方向に対して角度差が15°以下である結晶方位<110>の方位比率が30%以上80%以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のAl合金ボンディングワイヤ。
  5.  さらにNi、Pd、Ptのいずれか一種以上を総計で3質量ppm以上150質量ppm以下含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のAl合金ボンディングワイヤ。
  6.  残部がAl及び不可避不純物からなる、請求項1~5のいずれか1項に記載のAl合金ボンディングワイヤ。
  7.  請求項1~6のいずれか1項に記載のAl合金ボンディングワイヤを含む半導体装置。
PCT/JP2023/024324 2022-12-05 2023-06-30 Al合金ボンディングワイヤ WO2024122089A1 (ja)

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