WO2023120224A1

WO2023120224A1 - シート状送達物を適用するための医療機器および方法

Info

Publication number: WO2023120224A1
Application number: PCT/JP2022/045364
Authority: WO
Inventors: 早川浩一
Original assignee: テルモ株式会社
Priority date: 2021-12-22
Filing date: 2022-12-08
Publication date: 2023-06-29

Abstract

シート状送達物（Ｓ）を目的部位（Ｂ）に適用するための医療機器（Ｍ）であって、長尺なシャフト部（１１）および該シャフト部（１１）の先端に設けられたシート状送達物（Ｓ）を保持するための保持部（１２）を有する本体（１）と、保持部（１２）上を摺動する長尺な摺動体（２）とを含み、摺動体（２）で保持部（１２）上のシート状送達物（Ｓ）を押圧しながら摺動させることで、シート状送達物（Ｓ）を目的部位（Ｂ）にスライド移動できる、前記医療機器（Ｍ）。

Description

シート状送達物を適用するための医療機器および方法

　本発明は、シート状送達物を適用するための医療機器および方法に関する。

　近年、損傷した組織等の修復のために、種々の細胞を移植する試みが行われている。例えば、狭心症、心筋梗塞等の虚血性心疾患により損傷した心筋組織の修復のために、胎児心筋細胞、骨格筋芽細胞、間葉系幹細胞、心臓幹細胞、ＥＳ細胞、ｉＰＳ細胞等の利用が試みられている（Haraguchi et al., Stem Cells Transl Med. 2012 Feb;1(2):136-41）。

　このような試みの一環として、スキャフォールドを利用して形成した細胞構造物や、細胞をシート状に形成したシート状細胞培養物が開発されてきた（Sawa et al., Surg Today. 2012 Jan;42(2):181-4）。
　シート状細胞培養物の治療への応用については、火傷等による皮膚損傷に対する培養表皮シートの利用、角膜損傷に対する角膜上皮シート状細胞培養物の利用、食道がん内視鏡的切除に対する口腔粘膜シート状細胞培養物の利用等の検討が進められており、その一部は臨床応用の段階に入っている。

　シート状細胞培養物を目的部位に投与する手術方法に関して、人体に対する低侵襲な手術方法として内視鏡下手術が広く用いられており、シート状細胞培養物を目的部位に送達して投与するための様々な器具が提案されている。
　例えば、特開２００９－５１１号公報に記載された運搬投与器具は、シート支持部材を筒状にして外筒内に格納することにより、人体に対する侵襲の度合いを低くして、移植部位までシート状の治療用物質を運搬することができる。

　特開２０１６－１８７６０１号公報に記載されたシート貼付装置は、シート支持部の表面に沿って配置された棒状部材を、シート支持部の表面に沿って移動させることにより剥離させて、シート状の物質を目的部位に貼付することができる。
　特開２００８－１７３３３３号公報に記載された運搬投与器具は、シート支持体に、シート状治療用物質を吸着保持させる陰圧と、シート支持体からシート状治療用物質を離脱させる陽圧を付与可能なシート脱着手段で、シートを投与することができる。
　特開２０１２－３００４５号公報に記載された移送器具は、本体部に対して変位自在に設けられる変位体と、変位体を覆うように巻回され、本体部に接続されるベルト体とを備え、変位体を変位させることで、ベルト体に載置された生体移植片を移送することができる。

　本発明者らは、上記のようなシート状送達物の形状を保持しながら、効率よく目的部位に適用することは困難である等の問題に直面した。したがって、本発明は、このような問題を解決し、簡便な機構と、簡単な作業で、シート状送達物の形状を保持しながら目的部位に適用するための医療機器を実現することを目的とする。

　本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を進める中で、簡便な機構を採用することで、シート状送達物の形状を保持しながら、簡単な作業で効率よく目的部位に適用できることを初めて見出し、かかる知見に基づいてさらに研究を続けた結果、本発明を完成させるに至った。

　すなわち本発明は、以下に関する。
［１］シート状送達物を目的部位に適用するための医療機器であって、長尺なシャフト部および該シャフト部の先端に設けられたシート状送達物を保持するための保持部を有する本体と、保持部上を摺動する長尺な摺動体とを含み、摺動体で保持部上のシート状送達物を押圧しながら摺動させることで、シート状送達物を目的部位にスライド移動できる、前記医療機器。
［２］保持部が、シャフト部の軸方向に対して任意の角度に屈曲できるように構成されている、［１］に記載の医療機器。
［３］保持部の少なくとも一部が本体の周方向に沿って湾曲している、［１］または［２］に記載の医療機器。
［４］保持部の少なくとも一部が平らな面として構成されている、［１］または［２］に記載の医療機器。

［５］摺動体が、シート状送達物を押圧するための立体形状または平面形状の押圧部を有する、［１］～［４］のいずれか一つに記載の医療機器。
［６］シャフト部が、中空に構成されている、［１］～［５］のいずれか一つに記載の医療機器。
［７］保持部が、シャフト部先端からテーパー状に幅が広がるテーパー部と、該テーパー部から延伸する載置部とを有し、載置部の両端部が少なくとも基端側において内側に折り返されている、［１］～［６］のいずれか一つに記載の医療機器。
［８］シート状送達物を目的部位に適用するための医療機器であって、長尺なシャフト部および該シャフト部の先端に設けられたシート状送達物を保持するための保持部を有する本体を含み、シャフト部は、中空に構成されている、前記医療機器。
［９］本体に平行に保持部上を摺動する長尺な摺動体をさらに含む、［８］に記載の医療機器。
［１０］押圧部は、シート状送達物を押圧するための押圧本体と、押圧本体からアーチ状に突出する把持部と、を有する、［５］に記載の医療機器。

［１１］シート状送達物を目的部位に適用するための方法であって、［１］～［１０］のいずれか一つに記載の医療機器を提供するステップ、シート状送達物を保持部に載置するステップ、医療機器を目的部位に送達するステップ、および摺動体で保持部上のシート状送達物をスライド移動させるステップ、を含む、前記方法。
［１２］目的部位への送達が、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器を挿通することにより行われる、［１１］に記載の方法。
［１３］シート状送達物を体腔内に経腹腔的に挿入して目的部位に適用するための［１１］または［１２］に記載の方法。

［１４］シート状送達物を目的部位に適用するための医療機器であって、長尺なシャフト部および該シャフト部の先端に設けられたシート状送達物を保持するための保持部を有する本体を含み、保持部は、シャフト部先端からテーパー状に幅が広がるテーパー部と、該テーパー部から延伸する載置部とを有し、載置部の両端部が少なくとも基端側において内側に折り返されている、前記医療機器。
［１５］両端部の載置部に対する折り返し角度が、先端側から基端側にかけて大きくなるように構成されている、［１４］に記載の医療機器。
［１６］載置部の少なくともシート状送達物を載置する先端側が平らな面になるように構成されている、［１４］または［１５］に記載の医療機器。
［１７］両端部の載置部に対する折り返し角度が、６０～１８０度、好ましくは９０～１８０度になるように構成されている、［１４］～［１６］のいずれか一つに記載の医療機器。

［１８］保持部が、シャフト部の軸方向に対して任意の角度に屈曲できるように構成されている、［１４］～［１７］のいずれか一つに記載の医療機器。
［１９］シャフト部が中空に構成されている、［１４］～［１８］のいずれか一つに記載の医療機器。
［２０］保持部上を摺動する長尺な摺動体、および／または筒状体をさらに含む、［１４］～［１９］のいずれか一つに記載の医療機器。
［２１］シート状送達物を目的部位に適用するための医療機器であって、長尺なシャフト部および該シャフト部の先端に設けられたシート状送達物を保持するための保持部を有する本体を含み、保持部は、シャフト部先端からテーパー状に幅が広がるテーパー部とテーパー部から延伸する載置部とを有し、本体を進退可能に収容できる筒状体内に収容したときに、載置部の両端部がその裏面同士が押し合うようにして巻回されるように構成されている、前記医療機器。
［２２］シャフト部が中空に構成されている、［２１］に記載の医療機器。

［２３］シート状送達物を目的部位に適用するための方法であって、［１４］～［２２］のいずれか一つに記載の医療機器を提供するステップ、シート状送達物を支持部に載置するステップ、医療機器を筒状体内に収容するステップ、医療機器を目的部位に送達するステップ、およびシート状送達物を目的部位に適用するステップを含む、前記方法。
［２４］目的部位への送達が、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に医療機器を挿通することにより行われる、［２３］に記載の方法。
［２５］シート状送達物を体腔内に経腹腔的に挿入して目的部位に適用するための［２３］または［２４］に記載の方法。

　本発明によれば、簡便な機構と、簡単な作業で、シート状送達物の形状を保持しながら、効率よく目的部位に適用することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。

図１Ａは、本発明の第１実施態様に係る医療機器を示す概念図である。図１Ｂは、図１Ａの医療機器に摺動体を含ませた構成を示す図である。図２は、本発明の第１実施態様に係る医療機器の使用例を示す図である。図３は、本発明の第２実施態様に係る医療機器を示す概念図である。図４は、本発明の第２実施態様に係る医療機器の使用例を示す図である。図５は、本発明の第３実施態様に係る医療機器を示す概念図である。図６Ａは、本発明の第３実施態様に係る医療機器の使用例を示す図である。図６Ｂは、図６ＡのＶＩＢ－ＶＩＢ線に沿った断面図である。図６Ｃは、図６ＡのＶＩＣ－ＶＩＣ線に沿った断面図である。図７Ａは、本発明の第３実施態様に係る医療機器の変形例を示す図である。図７Ｂは、本発明の第３実施態様に係る医療機器に摺動体を含ませた構成を示す図である。図７Ｃは、図７Ｂの摺動体の第１変形例を示す図である。図７Ｄは、図７Ｂの摺動体の第２変形例を示す図である。図７Ｅは、図７Ｂの摺動体の第３変形例を示す図である。図８Ａは、本発明の第３実施態様に係る医療機器の第４変形例を示す図である。図８Ｂは、図８Ａに示す摺動体の先端部の斜視図である。図８Ｃは、図８Ｂの摺動体を先端方向から見た正面図である。図９Ａは、本発明の第３実施態様に係る折り返し部の第１概念説明図である。図９Ｂは、本発明の第３実施態様に係る折り返し部の第２概念説明図である。図９Ｃは、本発明の第３実施態様に係る折り返し部の第３概念説明図である。図１０は、本発明の医療機器に内視鏡を使用した場合の断面図である。図１１Ａは、本発明の医療機器の別の変形例を示す概念図である。図１１Ｂは、本発明の医療機器のさらに別の変形例を示す概念図である。図１１Ｃは、本発明の医療機器のさらに別の変形例を示す概念図である。

　本発明において、「シート状送達物」とは、生体に送達されて治療等に用いられるシート状の医薬品や再生医療等製品、医療機器等を意味する。シート状は、フィルム状、膜状（高粘度の物体）を含む。シート状の医薬品は、組織接着剤、局所麻酔剤等を含む。シート状の再生医療等製品は、移植片、細胞培養物等を含む。シート状の医療機器は、癒着防止材、止血材、創傷被覆材等を含む。
　本発明において、「移植片」とは、生体内へ移植するための構造物を意味し、特に生細胞を構成成分として含む移植用構造物を意味する。本発明の移植片としては、これに限定するものではないが、例えばシート状細胞培養物、スフェロイド、細胞凝集塊等が挙げられ、好ましくはシート状細胞培養物またはスフェロイド、より好ましくはシート状細胞培養物である。

　本発明において「シート状細胞培養物」とは、細胞が互いに連結してシート状になったものをいう。細胞同士は、直接（接着分子等の細胞要素を介するものを含む）および／または介在物質を介して、互いに連結していてもよい。介在物質としては、細胞同士を少なくとも物理的（機械的）に連結し得る物質であれば特に限定されないが、例えば、細胞外マトリックス等が挙げられる。介在物質は、好ましくは細胞由来のもの、特に、細胞培養物を構成する細胞に由来するものである。細胞は少なくとも物理的（機械的）に連結されるが、さらに機能的、例えば、化学的、電気的に連結されてもよい。シート状細胞培養物は、１の細胞層から構成されるもの（単層）であっても、２以上の細胞層から構成されるもの（積層（多層）体、例えば、２層、３層、４層、５層、６層等）であってもよい。また、シート状細胞培養物は、細胞が明確な層構造を示すことなく、細胞１個分の厚みを超える厚みを有する３次元構造を有してもよい。例えば、シート状細胞培養物の垂直断面において、細胞が水平方向に均一に整列することなく、不均一に（例えば、モザイク状に）配置された状態で存在していてもよい。

　シート状細胞培養物は、好ましくはスキャフォールド（支持体）を含まない。スキャフォールドは、その表面上および／またはその内部に細胞を付着させ、シート状細胞培養物の物理的一体性を維持するために当該技術分野において用いられることがある。本発明のシート状細胞培養物は、かかるスキャフォールドがなくともその物理的一体性を維持することができる。また、本発明のシート状細胞培養物は、フィブリン等を塗布することで、その物理的強度を補強することもできる。

　シート状細胞培養物を構成する細胞は、シート状細胞培養物を形成し得るものであれば特に限定されず、例えば、接着細胞（付着性細胞）が挙げられる。接着細胞は、例えば、接着性の体細胞等を含む。体細胞の例としては、例えば、筋芽細胞（例えば、骨格筋芽細胞等）、筋衛星細胞、間葉系幹細胞（例えば、骨髄、脂肪組織、末梢血、皮膚、毛根、筋組織、子宮内膜、胎盤、臍帯血由来のもの等）、心筋細胞、線維芽細胞、心臓幹細胞等の組織幹細胞、胚性幹細胞、ｉＰＳ（induced pluripotent stem）細胞等の多能性幹細胞、滑膜細胞、軟骨細胞、上皮細胞（例えば、口腔粘膜上皮細胞、網膜色素上皮細胞、鼻粘膜上皮細胞等）、内皮細胞（例えば、血管内皮細胞等）、肝細胞（例えば、肝実質細胞等）、膵細胞（例えば、膵島細胞等）、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞等が挙げられる。体細胞は、ｉＰＳ細胞から分化させたもの（ｉＰＳ細胞由来細胞）であってよく、ｉＰＳ細胞由来の心筋細胞、線維芽細胞、筋芽細胞、上皮細胞、内皮細胞、肝細胞、膵細胞、腎細胞、副腎細胞、歯根膜細胞、歯肉細胞、骨膜細胞、皮膚細胞、滑膜細胞、軟骨細胞等が挙げられる。細胞としては、細胞内に核を有する有核細胞が好ましい。

　本発明において、「医療機器」とは、ヒトもしくは動物の疾病の診断、治療もしくは予防に使用されること、またはヒトもしくは動物の身体の構造もしくは機能に影響を及ぼすことが目的とされている機械器具等を指す。

　本発明において、「目的部位」とは、シート状送達物を適用（貼付）する部分を指す。目的部位としては、例えば、臓器の表面、臓器の損傷部位、臓器の吻合部位等が挙げられる。目的部位は、典型的には、心臓、心臓の表面、心臓の損傷部位、心臓の吻合部位等である。また、目的部位は、管腔臓器における損傷（創傷）が存在する部位、例えば管腔壁内側の損傷部位や、損傷が存在する部位に対応する管腔壁の反対側等が挙げられる。「管腔臓器」は、体腔に収納されている内腔を有する臓器、すなわち管状または袋状の構造を有する臓器を意味し、例えば消化管系、循環器系、尿路系、呼吸器系、生殖器系の臓器等が挙げられる。

　消化管系の臓器としては、食道、胃、十二指腸、膵臓、胆のう、胆管、小腸、大腸、直腸等が挙げられる。中でも管腔壁が薄く、穿孔発生のリスクが高いことや、種々の消化液に曝露される厳しい環境にあるために損傷の悪化が進行し易いこと等から、十二指腸が最も好ましい。

　一態様において、シート状送達物は、保護液に浸漬されている。保護液は、移植片の形状および機能を維持することができる液体であれば特に限定されず、例えば、生理食塩水、リン酸緩衝液（ＰＢＳ）、ハンクス平衡塩液、細胞培養液、水等の液体またはそれらの混合物である。

　本発明において、「シート状送達物を目的部位に適用する」とは、シート状送達物を目的部位に適用するために、シート状送達物を本体の保持部上に載置すること、シート状送達物を載置した本体を目的部位に送達すること、保持部上のシート状送達物を（ピンセットや摺動体を使用して）基端側から先端側に移動すること等をいう。本体の基端側とは、医療機器を操作する操作者側であり、本体の先端側とは、基端側の反対側であり、目的部位により近接する側である。

　本発明において、「本体」は、長尺なシャフト部および該シャフト部の先端に設けられたシート状送達物を保持するための保持部を有する。「シャフト部」は、保持部を適切に支持しながらシート状送達物を目的部位に近接させるための剛性と長さを有する。シャフト部は、中実や中空（筒状、略管状等）に構成することができ、中空に構成した場合は、シャフト部内に別の長尺な部材（摺動体や内視鏡等）を進退可能に収容することができる。

　「保持部」は、シート状送達物をその形状を維持した状態で保持することができる面を有する。保持部は、可撓性を有する材料で構成することが好ましい。この場合、シート状送達物を保持した状態で保持部を湾曲させて、筒状体の内側等に沿って収納することで、筒状体の内径より大きな幅のシート状送達物を外力から保護しながら送達することができる。そして、筒状体から露出させるとその復元性で保持部を平面状に展開されるように構成することができる。一態様として、保持部は、本体の周方向に沿って湾曲させた状態に成型することで、筒状体内に収容することなく、シート状送達物を外力から保護できるように構成することもできる。

　本体のシャフト部および保持部は、別々の材料で作製することもできるし、同じ材料で作製することもできる。同じ材料で作製する場合は、例えば、本体を可撓性の材料（合成樹脂等）で作製することができる。この場合、本体の先端側はシート状送達物を保持する平らな面を備えた可撓性を有する保持部として、本体の基端側は筒状や略管状に丸めることで剛性を有するシャフト部として成型することができる。可撓性の先端側は、本体の周方向に沿って湾曲させて成型することで、シート状送達物を外力から保護し、保持部を平坦面に押し付けて平らな面に変形させることで、シート状送達物の載置や移動を適切に行うことができる。本体の先端側に剛性の材料（例えば、金属等）を使用し、本体の先端側を周方向に沿って湾曲して成型した場合は、シート状送達物を外力からより強固に保護することができる。

　保持部は、シャーレや作業台等平坦面の上にあるシート状送達物をすくい上げるために、また、すくい上げたシート状送達物を、平坦面を有する目的部位の上に移動するために、ヘラ（ターナー、スパチュラ）のようにシャフト部の軸方向に対して屈曲できることが好ましい。例えば、本体を剛性の材料（例えば、金属等）で作製した場合は、保持部とシャフト部との境界部分（屈曲部）を任意の角度に屈曲させることで、かかる角度を維持することができる。例えば、保持部を可撓性の材料で構成した場合は、保持部を平坦面の上に押し付けることで任意の角度に屈曲できると同時に、保持部を平坦面から離間させることで、その復元性でシャフト部と平行な元の状態に戻すことができる。保持部とシャフト部とが平行（水平）の場合を０度と定義すると、任意の角度は、例えば、１０～１００度、好ましくは４５～９０度とすることができる。

　一態様において、保持部は、シャフト部の先端からテーパー状に広がるテーパー部と、該テーパー部から延伸する載置部とを有するよう構成することができる。テーパー部は、本体（シャフト部）を筒状体の先端から基端方向に引き込んだ際に、筒状体の開口部に押し付けられ、テーパー部のカーブにより引っ掛かることなくスムーズに湾曲する。これにより、筒状体の内径より大きな幅の保持部上にシート状送達物を載置し、筒状体の内周に沿って湾曲させて収納することができる。また、本体（保持部）を筒状体の基端から先端方向にスムーズに押し込むことができるように、保持部の先端側の角が丸みを有するように面取りしておくことが好ましい。

　また、一態様において、保持部は、筒状体の内周より大きな幅のシート状送達物を収納できるように構成することもできる。すなわち、載置部の幅を筒状体の内周より大きく構成した場合、筒状体内で湾曲した載置部の両端部同士が筒状体の上部で接触し、裏面同士が押し合うように巻回されることで、筒状体の内周より大きな幅の保持部を収容することができる。一態様において、載置部の両端部が少なくとも基端側において折り返されるように構成することもでき、これにより、筒状体内で湾曲した載置部の両端部は、折り返された裏面同士が接触することになるため、裏面同士が押し合うようにして、よりスムーズに巻回される。

　載置部の基端側で巻回が起こると、載置部の先端側も連携して基端側の巻回方向に巻回されるため、両端部の基端側の折り返しは巻芯のような役割を果たすことができる。折り返しは、載置部の両端を内側に折る、載置部の両端を内側にロール状に巻く等して実現できる。載置部の両端を内側に折った際にできる載置部表面側の溝を埋めて強度を出すこともできる。載置部の両端部は、少なくとも基端側において折り返されていればよく、シート状送達物を載置する部分は、平らな面として構成することができる。両端部の載置部に対する折り返し角度が、先端側から基端側にかけて大きくなるように構成することで、先端側はシート状送達物を載置する機能を、基端側は巻芯部分としての機能を持たせることができる。本発明において、載置部の両端部の折り返された部分を「折り返し部」という場合がある。

　本発明において、「摺動体」とは、保持部上を摺動する長尺な部材をいう。摺動体は、保持部に平行に動かして、保持部上のシート状送達物を押圧しながら摺動させることで、シート状送達物を目的部位にスライド移動できるように構成されている。摺動体は、本体に平行に、好ましくは、本体の少なくとも一部に、さらに好ましくは、保持部に平行に配置することができる。例えば、体腔内に経腹腔的に挿入された１本の筒状体等に、本体と摺動体とを共に収容して目的部位へ送達した場合、腹部に設ける孔を１つにできるため、低侵襲である。そして、本体のシャフト部の基端を一方の手で把持し、他方の手で摺動体の基端を把持することで、同じ方向から本体と摺動体とを共に操作できるため、操作性に優れている。

　上記のように、本体のシャフト部を中空に構成し、かかるシャフト部に摺動体を挿通することで、摺動体を本体に対して正確に位置決めできるように構成することもできる。すなわち、中空のシャフト部内で摺動体を進退させた場合は、摺動体の本体に対する摺動方向や、摺動体の本体に対する半径方向位置を固定できるため、摺動体を保持部に対して正確に位置決めすることができる。これにより、摺動体で保持部上のシート状送達物を押圧しながら摺動させる際に、押圧位置（摺動体が保持部に当接する位置）を正確に設定することができるため有利である。摺動体の本体に対する位置決めは、摺動体と（中実または中空のシャフト部を有する）本体とを共に筒状体に進退可能に収容することで実現することもできる。

　本発明において、「中空」とは、筒状、略管状等をいい、略管状とは、短冊状の材料の両端を長軸の周方向に沿って湾曲させたときに、両端同士が接続されていない形状（筒状体に縦スリットが入った形状）も含む。中空のシャフト部は、摺動体に加えて内視鏡等を挿入できるように構成することで、シート状送達物が摺動体で適切に押圧されているか、目的部位に正確に移動しているか等を観察することができる。シャフト部の外径は、特に限定されないが、例えば、２～２４ｍｍ、好ましくは、４～１８ｍｍとすることができる。シャフト部の内径は、特に限定されないが、例えば、１～２２ｍｍ、好ましくは、２～１６ｍｍとすることができる。

　一態様において、摺動体の先端部は、シート状送達物を押圧するための立体形状または平面形状を有する押圧部として構成することができる。立体形状とは、シート状送達物と接する点（頂点）を少なくとも１つ備えた形状をいい、例えば、球体、楕円体、多面体（四面体、六面体、八面体等）等を含む。平面形状とは、シート状送達物の表面を覆う平らな面を備えた板形状をいい、例えば、シート状送達物が円形である場合は円盤状、四角形である場合は四角板状とすることができる。保持部上のシート状送達物を立体形状の押圧部で押圧する場合は、押圧部の頂点がシート状送達物に対して力点として作用するため、保持部との間の摩擦を最小限に抑えながら、容易にスライド移動させることができる。

　また、保持部上のシート状送達物を平面形状の押圧部で押圧する場合は、破損したり、形が崩れたりしたシート状送達物でも、面で覆って押圧することで適切な形にしてスライド移動させることができる。立体形状の押圧部の材料は、シート状送達物に過度な力が加わらないように、弾性体で構成することが好ましい。押圧部の形状は、シート状送達物を押圧する頂点が丸みを帯びている立体形状（球体や楕円体等）が好ましく、シャフト部や筒状体に出し入れする観点から先端側と基端側の両方が面取りされている立体形状（球体や楕円体）が好ましい。一態様において、本体や摺動体にフィブリン等を吐出できる吐出口を設け、保持部上のシート状送達物をフィブリン補強する、吐出口から生理食塩水を流すことでシート状送達物の湿潤や保持部との滑り性を維持向上できるように構成することもできる。

　上記のように、保持部をシャフト部の軸方向に対して任意の角度に屈曲できるように構成した場合、この保持部の屈曲に合わせて摺動体が撓むように構成することが好ましい。例えば、保持部を目的部位に押し付けてシャフト部に対して屈曲させた場合、シャフト部に平行に摺動する摺動体は、屈曲した保持部に突き当たることになる。この際に、摺動体が保持部の屈曲カーブに合わせて撓むことで、保持部上のシート状送達物を押圧しながら目的部位上に水平にスライド移動させることができる。摺動体は、例えば内部に金属コイルを入れる等して撓む構造を実現することができるが、当業者であれば種々の材料や構造を適宜採用することで容易に実現することができる。

　本体および摺動体の材料としては、特に限定されず、各種公知の材料を単独でまたは複数組み合わせて用いることができる。このような材料としては、例えば、金属、軟質塩化ビニル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリウレタンエラストマー、シリコーンゴム、天然ゴム、合成ゴム、スチレンーエチレンーブチレンースチレン共重合体（ＳＥＢＳ）、スチレンーエチレンープロピレンースチレン共重合体（ＳＥＰＳ）、エチレン酢酸ビニル共重合体（ＥＶＡ）、ナイロン等のポリアミド樹脂およびポリアミドエラストマー、ポリエチレンテレフタレート（ＰＥＴ）等のポリエステル樹脂およびポリエステルエラストマー、ポリエチレン等のオレフィン系樹脂、フッ素ゴム、フッ素樹脂等が挙げられ、これらのうち１種または２種以上を組み合わせて用いることができる。

　本発明において、「スライド移動」とは、保持部上のシート状送達物を摺動体で押圧しながら、摺動体を目的部位の方向に進出させることで、シート状送達物を保持部上で横滑りさせることをいう。一般的にシート状送達物は、ピンセット等で挟んだ上で、持ち上げて移動することが多いが、この際にシート状送達物の破損が生じる場合がある。これに対して、本発明の医療機器は、シート状送達物を摺動体でスライド移動させるという簡単な機構を利用することで、シート状送達物の破損を最小限に抑えることができる。したがって、かかる横滑りが好適に起こるように、保持部の少なくともシート状送達物を載置する部分が低摩擦性であることが好ましい。本発明においては、シート状送達物を保持部の先端まで押圧でき、さらに保持部から目的部位へ適用する際も一つの作業で連続的に押圧できる。

　本発明において、「低摩擦性」とは、シート状送達物と保持部との間の摩擦性が低いことをいう。保持部の低摩擦性部分は、低摩擦性材料で作成するか、表面に低摩擦性材料を塗布する（親水性コート、フッ素コート等）ことにより実現することができる。当業者であれば、様々な材料を使用してシート状送達物と保持部との摩擦性を調べることで、最適な低摩擦性材料を見つけ出すことができる。

　本発明において、「液体」は、少なくとも１種の成分から構成され、その成分としてはとくに限定されないが、例えば、水、水溶液、非水溶液、懸濁液、乳液等の液体から構成される。液体を構成する成分は、シート状送達物に与える影響が少ないものであればとくに限定されない。シート状送達物が生体由来材料からなる膜である場合、液体を構成する成分は、生体適合性のもの、すなわち、生体組織や細胞に対して炎症反応、免疫反応、中毒反応等の望まない作用を起こさないか、少なくともかかる作用が小さいものが好ましい。

　本発明において、「筒状体」とは、内部に空間を有するパイプ状（中空）の長尺物をいう。筒状体は、その両端に開口部を有し、シート状送達物を載置した本体を、内部空間を通して先端側の目的部位に移動することができる。筒状体としては、シート状送達物、本体、摺動体等を外力から保護できる程度の剛性を有するものであればとくに限定されず、市販の筒状体（ルーメンチューブ等）を含む任意のものを用いることができる。筒状体の材料としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、フッ素樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート、ポリアミド樹脂、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ガラス、金属（例えば、鉄、ステンレス、アルミニウム、銅、真鍮）等が挙げられるがこれに限定されない。

　筒状体は、可撓性を有する材料で構成してもよく、その場合は、腹腔鏡下手術や胸腔鏡下手術等に際して体内に挿入するための通路が湾曲していても、その通路の形態に合わせて湾曲させたり、筒状体と目的部位との相対的な角度を調節するために屈曲させたりすることができる。筒状体は、本体および／または摺動体に加えて内視鏡等を挿入できるように構成することで、シート状送達物が筒状体内で適切に湾曲しているか、巻回されているか、摺動体で適切に押圧されているか、目的部位に正確に移動しているか等を観察することができる。本発明の医療機器は、かかる筒状体をさらに含んでもよい。筒状体の外径は、特に限定されないが、例えば、４～２６ｍｍ、好ましくは、６～２０ｍｍとすることができる。筒状体の内径は、特に限定されないが、例えば、３～２５ｍｍ、好ましくは、５～１９ｍｍとすることができる。

　以下、本発明の好適な実施態様に係る医療機器について、図面を参照しつつ詳細に説明する。
　図１は、本発明の第１実施態様に係る医療機器を示す概念図である。図２は、本発明の第１実施態様に係る医療機器の使用例を示す図である。図３は、本発明の第２実施態様に係る医療機器を示す概念図である。図４は、本発明の第２実施態様に係る医療機器の使用例を示す図である。図５は、本発明の第３実施態様に係る医療機器を示す概念図である。図６Ａ～図６Ｃは、本発明の第３実施態様に係る医療機器の使用例を示す図である。図７Ａ～図７Ｅおよび図８Ａ～図８Ｃは、本発明の第３実施態様に係る医療機器の変形例を示す図である。
　なお本願における各図において、説明を容易とするため、各部材の大きさは、適宜強調されており、図示の各部材は、実際の大きさを示すものではない。

（第１実施態様）
　まず、本発明の第１実施態様について説明する。図１Ａに示されるように、本発明の第１実施態様に係る医療機器Ｍは、長尺なシャフト部１１および該シャフト部１１の先端に設けられたシート状送達物Ｓを保持するための保持部１２を有する本体１を含む。本体１は、金属等の可塑性を有する材料で構成されている。

　本体１の基端側を構成するシャフト部１１は、中空に丸められた状態に成型されている。すなわち、シャフト部１１は、円筒状に形成されている。シャフト部１１は、ユーザが把持し易い大きさおよび形状に形成されている。シャフト部１１は、持ち手（柄）部分として機能する。

　本体１の先端側を構成する保持部１２は、本体１の周方向に沿って湾曲させた状態に成型されている。保持部１２は、シート状送達物Ｓを外力から保護する湾曲したヘラ部分として機能する。保持部１２は、シート状送達物Ｓを指示する載置部１４と、載置部１４とシャフト部１１とを繋ぐ連結部１６とを有する。

　載置部１４は、先端方向から見てＵ字状に形成されている。載置部１４は、シャフト部１１の周方向に沿って半円状に湾曲した中央支持部１８と、中央支持部１８の幅方向の両端部に設けられた一対の側方支持部２０とを含む。中央支持部１８の基端部は、連結部１６に繋がっている。

　側方支持部２０は、中央支持部１８の内面が向く方向に突出している。一対の側方支持部２０は、互いに向かい合うように配置されている。載置部１４の内面は、シート状送達物Ｓが載置される載置面を形成する。載置面は、先端方向から見てＵ字状に湾曲している。

　連結部１６は、先端方向から見て円弧状に形成されている。連結部１６の内面は、シャフト部１１の内面と載置部１４の内面（載置面）とを段差なく繋いでいる。連結部１６は、シャフト部１１に対する載置部１４の向きを変更できるように屈曲可能である（図２参照）。

　図１Ｂに示されるように、医療機器Ｍは、任意選択的に、本体１に平行に保持部１２上を摺動する長尺な摺動体２を含むことができる。摺動体２は、長尺な摺動シャフト２２と、摺動シャフト２２の先端部に設けられた押圧部２１とを有する。

　押圧部２１は、楕円体形状を有していてもよく、保持部１２上のシート状送達物Ｓを押圧部２１の頂点で押圧してシート状送達物Ｓの保持部１２からの滑落を防止することができる。摺動体２は、中空のシャフト部１１内に進退可能に収容することができる。そして、押圧部２１をシャフト部１１から進出させることで、シート状送達物Ｓを押圧しながら先端方向にスライド移動させることができる。任意に、押圧部２１をシャフト部１１内に後退させることで、シート状送達物Ｓをシャフト部１１内に引き込んで収容することもできる。

　本体１のシャフト部１１内を進退する摺動体２は、本体１に対する摺動方向や、本体１に対する半径方向位置を固定できるため、押圧部２１を保持部１２（および、その上のシート状送達物Ｓ）に対して正確に位置決めすることができる。押圧部２１は、先端側も基端側もドーム形の楕円体形状であるため、シャフト部１１から進出させるとき、シャフト部１１内に後退させるとき、目的部位上から保持部１２上に引き戻すとき等に、シャフト部１１や保持部１２に引っ掛かることなくスムーズに動かすことができる。また、押圧部２１に接触する楕円体形状の頂点は丸みを帯びているため、シート状送達物Ｓに過度な力が掛かりにくい。過度な力が掛からないように、押圧部２１を弾性体で構成することもできる。

　図２に示されるように、医療機器Ｍを使用する際は、シート状送達物Ｓを保持部１２に載置し、例えば、腹部Ａを切開した上で、医療機器Ｍを体腔内に経腹腔的に挿入して目的部位Ｂに送達する。この際に、シート状送達物Ｓは湾曲された保持部１２の内側で保護されるため、挿入時にシート状送達物Ｓが他の部分に接触して脱離する等の問題を最小限に抑えることができる。また、シート状送達物Ｓの滑落防止のために、体腔内に挿入する前にシート状送達物Ｓと目的部位Ｂとの間に糸掛けを施すこともできる。シート状送達物Ｓを押圧部２１で保持部１２上に押さえ付けることで、滑落を防止することもできる。シート状送達物Ｓを押圧部２１でシャフト部１１内に引き込んだ状態で体腔内に挿入することもできる。

　図２に示されるように、保持部１２は、その可塑性により、目的部位Ｂに押し付けてシャフト部１１の軸方向に対して任意の角度に屈曲できる。これにより、保持部１２と目的部位Ｂとを水平にできる。さらに、かかる保持部１２の屈曲のカーブに合わせて摺動体２が撓むように構成することで、屈曲した保持部１２と、撓んだ摺動体２の押圧部２１とを水平に保つことができる（同じ平面上に位置づけることができる）。これにより、保持部１２上のシート状送達物Ｓを押圧部２１で押圧しながら摺動体２を進出させることで、目的部位Ｂ上に水平にスライド移動することができる。そして、目的部位Ｂ上の押圧部２１を保持部１２上に引き戻す際も、押圧部２１のドーム形の基端側が保持部１２に引っ掛からない。

　シャーレ等の平坦面の上にあるシート状送達物Ｓを保持部１２上にすくい上げる（載置する）際にも、同様に、載置部１４を平坦面に押し付けて連結部１６を屈曲させることで、平坦面に対して載置部１４を水平にし、シート状送達物Ｓを載置部１４上に簡単に移動させることができる。保持部１２を剛性の材料で成型することで、保持部１２の湾曲形状や、シャフト部１１に対する屈曲角度が維持されるように構成することもできる。シャフト部１１は必ずしも中空である必要はなく、中実に成型することもできる。任意選択的に、中実または中空のシャフト部１１と摺動体２とを共に筒状体（図示せず）に収納することで、摺動体２の本体１に対する摺動方向や、本体１に対する半径方向位置を固定することもできる。保持部１２を可撓性の材料で湾曲形状に成型することもできる。

　以上のように、本発明によれば、簡便な機構と、簡単な作業で、シート状送達物の形状を保持しながら、効率よく目的部位に適用することができるため、作業性や製造コストの点において大きなメリットがある。

（第２実施態様）
　以下、本発明の好適な第２実施態様に係る医療機器Ｍ１について、図面を参照しつつ詳細に説明する。

　図３に示されるように、本発明の第２実施態様に係る医療機器Ｍ１は、長尺なシャフト部１１および該シャフト部１１の先端に設けられたシート状送達物Ｓを保持するための保持部１２ａを有する本体１ａを含む。本実施態様において、本体１ａは、可撓性の材料で構成されており、先端側（保持部１２ａ）は平らな面として成型されており、本体１ａを筒状体Ｔに進退可能に収容して使用するものとして説明する。

　本体１ａは、シャフト部１１の内側に摺動体２を収容した状態で、本体１ａ自体も筒状体Ｔの内側に進退可能に収容できるように寸法決めされている。これにより、例えば、体腔内に経腹腔的に挿入された１本の筒状体（内腔を有する管状体（チューブ））に、本体１ａと摺動体２とを共に挿通して目的部位（図示せず）へ送達できるため、低侵襲である。また、これにより、本体１ａと摺動体２の相対的な位置関係を維持しつつ、体外の同じ方向から、シャフト部１１の基端を一方の手で把持し、他方の手で摺動体２の基端を把持して操作できるため、操作性に優れている。シャフト部１１または筒状体Ｔ内に内視鏡を挿入できるように寸法決めすることで、同じ方向からさらに内視鏡を操作することもできる。

　保持部１２ａのシート状送達物Ｓを載置する先端側（載置部）の幅は、筒状体Ｔの内径より大きく、筒状体Ｔの内周より小さくなるように構成されている。これにより、保持部１２ａ（および、その上のシート状送達物Ｓ）を湾曲させた状態で、筒状体Ｔの内周に沿って収納することができる。保持部１２ａの湾曲がスムーズに起こるように、保持部１２ａの基端側は、シャフト部１１の先端からテーパー状に幅が広がるように構成されている。図示されるように、保持部１２ａは平坦面に押し付けられることで、シャフト部１１の軸方向に対して屈曲でき、保持部１２ａを平坦面に対して水平にすることができる。

　図４に示されるように、医療機器Ｍ１を使用する際は、シート状送達物Ｓを保持部１２ａに載置し、押圧部２１を進出させて保持部１２ａ上のシート状送達物Ｓを押圧する。そして、本体１ａを筒状体Ｔの先端から内側に引き込んで、保持部１２ａのテーパー状の基端側を筒状体Ｔの先端開口部に押し付けて湾曲させる。本体１ａをさらに引き込むと、保持部１２ａの基端側の湾曲に連携してシート状送達物Ｓを載置する先端側の湾曲が始まる。そして、保持部１２ａは、筒状体Ｔの内周に沿って湾曲されるため、筒状体Ｔの内径より大きく、筒状体Ｔの内周より小さい幅のシート状送達物Ｓを収容することができる。

　シート状送達物Ｓは、摺動体２の押圧部２１で保持部１２ａ上に押さえ付けられ、湾曲した保持部１２ａの内側で保護され、筒状体Ｔの内側でさらに二重に保護される。この状態で体腔内に経腹腔的に挿入することで、シート状送達物Ｓの二重の保護と滑落防止とを同時に達成しながら目的部位に送達することができる。そして、図３に示すように、本体１ａを筒状体Ｔに挿通して先端から進出させ、保持部１２ａをその復元性で平らな面に展開させることができる。例えば、平らな面に展開された保持部１２ａをシャーレ内の液体中に浮遊しているシート状送達物Ｓの下に入れ込んで、ヘラのようにすくい上げることもできる。保持部１２ａは、第１実施態様のように、本体１の周方向に沿って湾曲させて成型してもよい。押圧部２１は、保持部１２ａの先端から突出させ、シャーレ内のシート状送達物Ｓを引っ掛けた上で、保持部１２ａ上に引き込むために使用してもよい。

（第３実施態様）
　以下、本発明の好適な第３実施態様に係る医療機器Ｍ２について、図面を参照しつつ詳細に説明する。

　図５に示されるように、本発明の第３実施態様に係る医療機器Ｍ２は、長尺なシャフト部１１および該シャフト部１１の先端に設けられたシート状送達物Ｓを保持するための保持部１２ｂを有する本体１ｂを含む。保持部１２ｂは、シャフト部１１の先端からテーパー状に幅が広がるテーパー部１２１と、該テーパー部１２１から延伸する載置部１２２とを有する。本実施態様において、保持部１２ｂのシート状送達物Ｓを載置する先端側（載置部１２２）の幅は、筒状体Ｔの内周より大きくなるように構成されており、載置部１２２の幅方向の両端部は、基端側において内側に折り返されている（折り返し部１２３）。

　図６Ａに示されるように、保持部１２ｂは、基端側がテーパー部１２１、先端側が載置部１２２として構成されており、載置部１２２の先端側は、シート状送達物Ｓを載置できる平らな面として構成され、載置部１２２の基端側は、両端部が内側に折り返されている（折り返し部１２３）。一態様として、両端部の最も基端側は、載置部１２２に対して１８０度に（両端部の裏面が表面に水平になるように）折り返されており、両端部の最も先端側は、載置部１２２に対して折り返されていない（０度である）。すなわち、両端部の載置部１２２に対する折り返し角度は、載置部１２２の先端側から基端側にかけて大きくなるように構成できる。

　図６Ｂは、図６Ａの載置部１２２が筒状体Ｔ内に収容された際のＶＩＢ－ＶＩＢ線に沿った断面図、図６Ｃは、ＶＩＣ－ＶＩＣに沿った断面図を示す。図６Ｂに示されるように、載置部１２２を筒状体Ｔ内に引き込むと、まずは載置部１２２の基端側がテーパー部１２１の湾曲に連携して湾曲し、湾曲した折り返し部１２３の両端部は筒状体Ｔの上部において接触する。この際に、両端部は折り返されているため、折り返された裏面同士が押し合う形になる。そして、さらに載置部１２２を筒状体Ｔ内に引き込むと、図６Ｃに示されるように、載置部１２２の裏面同士が押し合うようにして巻回される。

　このように、載置部１２２の基端側で巻回が起こると、折り返されていない先端側も連携してその巻回方向に巻回されるため、折り返し部１２３は載置部１２２を巻き込む巻芯の役割を果たすことができる。両端部に折り返しのない先端側は、シート状送達物Ｓを両端ギリギリまで載置でき、裏面同士が押し合いながら巻回されて垂直下方に延伸するため（図６Ｃ）、筒状体Ｔの内周より大きな幅のシート状送達物Ｓを収容することができる。図６Ｃに示されるように、筒状体Ｔの上部から下部にシート状送達物Ｓを延伸させた場合、筒状体Ｔの内周の１．６倍迄を上限とした直径のシート状送達物Ｓを収容することができる。折り返し部１２３を別部材で準備し、接着や溶着により保持部１２ｂに取り付ける、または、固定することもできる。

　図７Ａに示されるように、シート状送達物Ｓを筒状体Ｔの中央まで延伸させてもよい。図７Ｂに示すように、筒状体Ｔの内部のシート状送達物Ｓの下部空間には、摺動体２ａの押圧部２１ａが収容されてもよい。押圧部２１ａは、断面が半円形状に形成されている。本実施態様に係る医療機器Ｍ２は、摺動体２ａに代えて第１～第４変形例に係る摺動体２ｂ～２ｅを有してもよい。

　図７Ｃに示すように、第１変形例に係る摺動体２ｂの押圧部２１ｂは、断面が円形で上側に溝３０が形成されている。溝３０には、シート状送達物Ｓを筒状体Ｔ内に収納した状態で、シート状送達物Ｓの端部が挿入される。

　図７Ｄに示すように、第２変形例に係る摺動体２ｃの押圧部２１ｃは、断面が半円形状の上に２つの突条部３２が互いに間隔を空けて突設されている。２つの突条部３２の間には、シート状送達物Ｓを筒状体Ｔ内に収納した状態で、シート状送達物Ｓの端部が挿入される。

　図７Ｅに示すように、第３変形例に係る摺動体２ｄの押圧部２１ｄは、載置部１２２の湾曲に即した形態であり、かつ、折り返された載置部１２２の障害にならない構造を有する。

　図８Ａ～図８Ｃに示すように、第４変形例に係る摺動体２ｅの押圧部２１ｅは、シート状送達物Ｓを押圧するための押圧本体３４と、押圧本体３４に設けられた把持部３６とを有する。押圧本体３４は、摺動シャフト２２の先端から先端方向に延出している。押圧本体３４の先端面３５は、半球状に形成されている。押圧本体３４には、中空の摺動シャフト２２の内腔に連通するプライミング用の第１孔３８と第２孔３９とが形成されている。

　第１孔３８は、押圧本体３４の基端から先端側まで延在している。第１孔３８は、摺動シャフト２２の内腔に連通している。第２孔３９は、第１孔３８の先端に連通している。第２孔３９は、Ｔ字状に形成されている。第２孔３９は、押圧本体３４の先端部の外面に複数方向（例えば、３方向）に開口している。具体的に、第２孔３９は、例えば、押圧本体３４の両側方に向けて開口すると共に下方（シート状送達物Ｓ）に向けて開口する。

　把持部３６は、押圧本体３４の延在方向の中間部分から上方に向けてアーチ状に突出している。把持部３６は、円弧状（半円状）に延在している。把持部３６と押圧本体３４との間には、押圧本体３４の延出方向の両側に開口した孔４０が設けられている。これにより、図示しないピンセット等によって把持部３６を把持して押圧部２１ｅを保持部１２ｂに対して移動させることができる。把持部３６は、軟質な樹脂材料によって構成されている。図８Ａに示すように、把持部３６は、折り返された載置部１２２の接触によって変形する柔軟な突起物である。

　このような押圧部２１ｅを有する摺動体２ｅを有する場合、シャーレから保持部１２ｂにシート状送達物Ｓを載せた後、ピンセット等で把持部３６を摘まみ押圧部２１ｅをシート状送達物Ｓの上に簡単に配置できる。これにより、押圧部２１ｅによってシート状送達物Ｓを保持部１２ｂに保持できる。

　これら変形例において、シート状送達物Ｓは筒状体Ｔ内で押圧部２１ａ～２１ｅによって必ずしも押圧されている必要はなく、例えば、押圧部２１ａ～２１ｅは、保持部１２ｂが筒状体Ｔ内にあるときはテーパー部１２１上に後退させ、シート状送達物Ｓをスライド移動させるときに、保持部１２ｂ上に移動させればよい。また、載置部１２２の内側に巻回されたシート状送達物Ｓは滑落しにくいため、下部空間は、必須の構成ではない。

　両端部の折り返し角度は、筒状体Ｔの上部において裏面同士が接触すれば特に限定されず、載置部１２２と平行（水平）の場合を０度と定義すると、例えば、６０～１８０度、好ましくは９０～１８０度とすることができる。当業者であれば、両端部の折り返し角度は、筒状体Ｔの内径、内周、載置部１２２の幅等に合わせて適宜設定することができる。折り返しは、ロール状に折り返すこと、折り返された内側を中実に（尾根状に）すること等を含む。保持部１２ｂは、第１実施態様のように、本体１の周方向に沿って湾曲させて成型してもよい。本実施態様において、医療機器Ｍは、本体１ｂを少なくとも含んでいればよく、任意選択的に、摺動体２ａ～２ｅ、および／または筒状体Ｔをさらに含んでもよい。シャフト部１１は、中実、中空、どちらに構成してもよい。

　図９Ａ～図９Ｃは、折り返し部１２３の概念図である。図９Ａ～図９Ｃに示されるように、折り返し角度とは、折り返し部１２３と載置部１２２との成す角度をいう。図９Ａに示されるように、載置部１２２が折り返されていないときは、折り返し部１２３と載置部１２２との成す角度は０度である。図９Ｂに示されるように、折り返し部１２３が載置部１２２に対して垂直に折り返されている場合は、折り返し部１２３と載置部１２２との成す角度は９０度である。図９Ｃに示されるように、折り返し部１２３が載置部１２２に対して水平に折り返されている場合は、折り返し部１２３と載置部１２２との成す角度は１８０度である。折り返し角度を折り返し部１２３の外角という場合もある。

　図１０は、筒状体Ｔ内にシャフト部１１、摺動体２、内視鏡Ｅを挿入した場合の概念図を示す。図１０に示されるように、内視鏡ＥのルーメンＬ、およびシャフト部１１は、それぞれ筒状体Ｔ内の上側と下側に接着剤Ｇ等で固定されており、内視鏡ＥのルーメンＬにおける進退と、摺動体２のシャフト部１１における進退とが干渉せずに独立して起こるように構成することができる。

　以上、本発明に係る医療機器を好適な実施態様に基づいて説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、さらに種々の変形例を有することができる。例えば、中空の摺動体の基端部に、シリンジ等が接続できるルアーテーパー付きハブを設けることもできる。また、押圧部からシャフト部（中空）先端側にシート状送達物を潤すための開口部を設けることもできる。さらに、摺動体と筒状体の隙間に摺動体の位置を固定可能な弁体を設け、本体を傾けただけで摺動体が進行することを防止することもできる。さらにまた、押圧部の頂点はシート状送達物の中心～前方の位置を押圧することでシート移送時にシートが撓んでしわが寄ったり破損したりすることを抑制できる。

　図１１Ａ～図１１Ｃは、本発明の医療機器の変形例を示す概念図である。図１１Ａに示されるように、摺動体２は、円盤状の押圧部２１ｆを有してもよい。図１１Ｂに示されるように、本体１は、可撓性のある材料で短冊状に成型することができる。そして、本体１を使用するときは、図１１Ｃに示されるように、基端側を指等で管状に丸めることでシャフト部１１としての剛性を持たせることができる。そして、基端側を丸めることで先端側は自然に湾曲し、可撓性を有する湾曲した保持部１２としての機能を果たすことができる。

　本発明の医療機器の使用は、以下の工程によって順次行うことができる。
（１）医療機器を提供する
（２）シート状送達物を保持部に載置する
（３）本体を目的部位に送達する
（４）シート状送達物を目的部位に適用する

　工程（１）～（４）により、シート状送達物を目的部位に適用することができる。（２）において、シート状送達物を収容しているシャーレに保持部を押し付けて、シャーレに対して水平に屈曲させる、および／またはシャーレに対して平らな面に変形させることで、保持部への載置が容易に行えるようにしてもよい。（３）において、保持部上のシート状送達物を摺動体で押さえて滑落防止してもよい。（３）において、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に本体および／または摺動体を挿通して目的部位へ送達してもよい。

　（３）において、保持部を筒状体内で湾曲させることで、筒状体の内径より大きな幅のシート状送達物を収容してもよい。（３）において、載置部を筒状体内で巻回することで、筒状体の内周より大きな幅のシート状送達物を収容してもよい。（４）において、目的部位に保持部を押し付けて、目的部位に対して水平に屈曲させる、および／または目的部位に対して平らな面に変形させることで、目的部位への適用が容易に行えるようにしてもよい。

　（４）において、保持部上のシート状送達物を摺動体でスライド移動してもよい。（４）において、保持部上のシート状送達物をピンセットや鉗子等で移動してもよい。（３）および／または（４）において、シャフト部および／または筒状体内に内視鏡を挿入して、シート状送達物が摺動体で適切に押圧されているか、筒状体内で湾曲や巻回が適切に行われているか、目的部位に適切にスライド移動しているか等を観察することもできる。

　以上、本発明を図示の実施態様について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。第１～第３実施態様の構成は、適宜組み合わせることができる。
　本発明においては、各構成は、同様の機能を発揮し得る任意のものと置換することができ、あるいは、任意の構成を付加することもできる。

１、１ａ、１ｂ…本体
２、２ａ～２ｅ…摺動体
１１…シャフト部
１２、１２ａ、１２ｂ…保持部
１４、１２２…載置部
２１、２１ａ～２１ｆ…押圧部
１２１…テーパー部
１２３…折り返し部
Ａ…腹部
Ｂ…目的部位
Ｅ…内視鏡
Ｇ…接着剤
Ｌ…ルーメン
Ｍ、Ｍ１、Ｍ２…医療機器
Ｓ…シート状送達物
Ｔ…筒状体

Claims

　シート状送達物を目的部位に適用するための医療機器であって、
　長尺なシャフト部および該シャフト部の先端に設けられた前記シート状送達物を保持するための保持部を有する本体と、
　前記保持部上を摺動する長尺な摺動体と、を含み、
　前記摺動体で前記保持部上の前記シート状送達物を押圧しながら摺動させることで、前記シート状送達物を前記目的部位にスライド移動できる、前記医療機器。
　前記保持部が、前記シャフト部の軸方向に対して任意の角度に屈曲できるように構成されている、請求項１に記載の医療機器。
　前記保持部の少なくとも一部が前記本体の周方向に沿って湾曲している、請求項１または２に記載の医療機器。
　前記保持部の少なくとも一部が平らな面として構成されている、請求項１または２に記載の医療機器。
　前記摺動体が、前記シート状送達物を押圧するための立体形状または平面形状の押圧部を有する、請求項１～４のいずれか一項に記載の医療機器。
　前記シャフト部が、中空に構成されている、請求項１～５のいずれか一項に記載の医療機器。
　前記保持部は、
　前記シャフト部の先端からテーパー状に幅が広がるテーパー部と、
　該テーパー部から延伸する載置部と、を有し、
　前記載置部の両端部が少なくとも基端側において内側に折り返されている、請求項１～６のいずれか一項に記載の医療機器。
　シート状送達物を目的部位に適用するための医療機器であって、
　長尺なシャフト部および該シャフト部の先端に設けられたシート状送達物を保持するための保持部を有する本体を含み、
　前記シャフト部は、中空に構成されている、前記医療機器。
　前記本体に平行に前記保持部上を摺動する長尺な摺動体をさらに含む、請求項８に記載の医療機器。
　前記押圧部は、
　前記シート状送達物を押圧するための押圧本体と、
　前記押圧本体からアーチ状に突出する把持部と、を有する、請求項５に記載の医療機器。
　シート状送達物を目的部位に適用するための方法であって、
　請求項１～１０のいずれか一項に記載の医療機器を提供するステップと、
　前記シート状送達物を前記保持部に載置するステップと、
　前記医療機器を目的部位に送達するステップと、
　摺動体で前記保持部上の前記シート状送達物をスライド移動させるステップと、を含む、前記方法。
　前記目的部位への送達が、体腔内に経腹腔的に挿入された筒状体に前記医療機器を挿通することにより行われる、請求項１１に記載の方法。
　前記シート状送達物を体腔内に経腹腔的に挿入して前記目的部位に適用するための請求項１１または１２に記載の方法。