WO2022059801A1 - コロナウイルスに対する抗体 - Google Patents

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Abstract

コロナウイルスのスパイクタンパク質、特に細胞外領域又は受容体結合ドメインのタンパク質に対するヒト抗体を提供する。

Description

コロナウイルスに対する抗体
 本発明は、コロナウイルスに対する抗体であって、ヒト抗体産生マウスを用いて作製した抗体に関する。
 抗体は、癌、関節リウマチなどの治療薬として医療分野で使用されている。例えばトラスツズマブは、癌細胞表面のHER2(又はErbB2)に対する分子標的抗体医薬として乳癌の治療に使用されている。また、トシリズマブは、ヒト化抗IL−6受容体抗体であり、関節リウマチの治療薬に使用されている。
 抗体は、ヒトに投与する際に治療効果及び安全性を高めるために、ヒト抗体であることが望ましい。本発明者は、以前、マウス人工染色体ベクター(Mouse Articifical Chromosome:MAC)を作製し(特許第5557217号(特許文献1)、WO2019/177163号(特許文献2))、当該ベクターにヒト抗体重鎖遺伝子及びヒト抗体軽鎖遺伝子(κ遺伝子及び/又はλ遺伝子)を組み込んで、これをマウスに保持させることにより、完全ヒト抗体産生マウスの作出に成功した(WO2018/079857号(特許文献3))。
 一方、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS−CoV2)は、現在進行中の新型コロナウイルス感染症(COVID−19)によるパンデミック(世界的大流行)を引き起こした新興のコロナウイルスであり、世界中で多数の感染者と死者をもたらした。この人獣共通感染症ウイルスによるパンデミックの広がりを阻止するために、ワクチンや治療薬を見つけ出す取り組みが最優先課題となっている。
 SARS−CoV−2スパイク(S)糖タンパク質は、ウイルスの宿主細胞への侵入を促進することから、中和抗体の主な標的であり、SARS−CoV2のS糖タンパク質を標的とするモノクローナル抗体について報告がある(Wang1 C.et al.,NATURE COMMUNICATIONS(2020)11:2251(非特許文献1);Pinto D.et al.,Nature,Vol.583,290−295,2020(非特許文献2))。
 また、新型コロナウイルス感染から回復した患者から、中和活性を有する抗体を取得したことも報告されている(Wu Y.et al.,Science 10.1126,2020(非特許文献3))。
特許第5557217号 WO2019/177163号 WO2018/079857号
Wang1 C.et al.,NATURE COMMUNICATIONS(2020)11:2251 Pinto D.et al.,Nature,Vol.583,290−295,2020 Wu Y.et al.,Science 10.1126,2020
 しかしながら、コロナウイルスに対する上記の公知抗体よりも、ヒトに安全に適用することができ、さらに親和性、中和活性、血中動態、製造コスト等に優れた抗体の開発が求められる。
 本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、ヒト抗体遺伝子を人工染色体ベクターに搭載したヒト抗体産生マウスを用いることにより、所望の性質を有する抗体を取得することに成功し、本発明を完成するに至った。
 すなわち、本発明は以下の通りである。
(1)コロナウイルスのスパイクタンパク質に対する抗体。
(2)スパイクタンパク質が、細胞外領域又は受容体結合ドメインのタンパク質である(1)に記載の抗体。
(3)スパイクタンパク質のエピトープが、受容体結合ドメインの全長アミノ酸配列のうち、R403、D405、E406、R408、T415、G416、K417、D420、Y449、Y453、L455、F456、G485、Y486、N487、Y489、Q493、S494、Y495、G496、Q498、N501、G502、V503、G504及びY505からなる群から選ばれる少なくとも2個のアミノ酸残基である、(1)又は(2)に記載の抗体。
(4)2個のアミノ酸残基がR403及びK417である(3)に記載の抗体。
(5)コロナウイルスが、SARS−CoV1、SARS−CoV2又はMERS−CoVである請求項1に記載の抗体。
(6)中和活性が、ウイルスの増殖抑制の指標であるIC50として1ng/ml未満である、(1)~(5)のいずれか1項に記載の抗体。
(7)重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号14又は18で示されるものである、(1)~(6)のいずれか1項に記載の抗体。
(8)軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号16又は20で示されるものである、(1)~(6)のいずれか1項に記載の抗体。
(9)(1)~(8)のいずれか1項に記載の抗体が結合するエピトープに結合する抗体。
(10)抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である、(1)~(9)のいずれか1項に記載の抗体。
(11)(1)~(10)のいずれか1項に記載の抗体を含む医薬組成物。
(12)コロナウイルス感染症治療のための(11)に記載の医薬組成物。
(13)(1)~(10)のいずれか1項に記載の抗体を含む、コロナウイルス検出用試薬。
(14)(1)~(10)のいずれか1項に記載の抗体を採取された生体試料と接触させる工程を含む、コロナウイルスの検出方法。
 本発明により、コロナウイルスに対するヒト抗体が提供される。本発明の抗体は、完全ヒト抗体産生マウスをコロナウイルスのSタンパク質を用いて免疫することにより得られた完全ヒト抗体であり、親和性や中和活性に優れており、コロナウイルス感染症などの治療又は予防に有用である。
 [図1]ヒト抗体産生マウスをのRBDによる免疫スケジュールを示す図である。
 [図2]メモリーB細胞の分離結果を示す図である。
 [図3]各コロナウイルスに対する抗体の単離結果を示す図である。
 [図4]シュードウイルスを用いた中和活性の測定結果を示す図である。
 [図5−1]2つのRBS抗体クローンが異なるSARS交差中和活性を示す図である。
 (A)CoV2 S結合モノクローナル抗体は、ヒト抗体のみを発現する免疫マウスからの単一細胞培養アプローチによって確立された。培養液中のモノクローナル抗体の結合指示されたSおよびRBD蛋白質にELISA法で評価した。培養液中のCoV2中和活性シュードウイルスシステムを用いて評価した。2つのクローン(#108;NT−108、#193;NT−193)は中和活性を示した。
 (B)hACEコーティングプレートに結合したCoV2 RBD量を連続希釈NT‐108/NT‐193でプレインキュベーション後に評価した。hACE2−RBD結合に対する抗体媒介阻害をパーセンテージとしてプロットした。
 (C,D)CoV2に対する中和活性を、シュードウイルス(C)および真正ウイルス(D)を用いて評価した。上にIC50を示す。
 (E)RBD結合プレートを競合抗体でマスクした後、NT−108およびNT−193をロードし、マスクされていないRBDへの結合を評価した。
 (F)NT−108およびNT−193のCoV2 RBDに対する結合親和性は、SPR分析により評価する。
 (G)CoV1に対する中和活性は、シュードウイルスを用いて評価した。
 [図5−2]NT−193 Fab−S−RBD複合体の構造を示す図である。
 (A)左。2つの角度でのNT−193複合体の概要絵のモデルを示す(赤紫:NT−193重鎖、ピンク:NT−193軽鎖、オレンジ:S−RBD、番号1~3はそれぞれCDR−1、2、3で示す)。右。ACE2−S−RBC複合体の構造(PDB:6m0j)角度はNT−193複合体の右と同じである。ACE2を水色で示す。
 (B)NT−193複合体(((Aと同じ色で着色))と代表的なクラス1抗体複合体、CC12.1(濃青色および灰色、RBS−Aサブクラス)およびCOVA2−39(暗色および明褐色、RBS−Bサブクラス)サブクラスとの比較。左側のモデルは(A)のNT−193複合体の右側の1つと同じ角度で示してある。左右の角度はほぼ90度回転している。
 (C)S−RBD(灰色)の受容体結合部位(RBS)の表面モデルにCDR結合部位(絵模型、赤紫色とピンク色)を示した。(C)~(E)のRBSの角度は同じである。
 (D)RBS上のACEand NT−193結合部位間の比較。ACEのみ、NT−193のみおよび両者(重複)の結合領域をそれぞれ水色、赤紫色および黄色で示す。
 (E)SARS−CoV−1とSARS−CoV−2間のRBSの配列番号保存性保存されているもの赤紫色、類似:ピンク色、保存されていないもの:灰色。
 (F~I)NT−193のCDR−H3(F)、CDR−L1(G)、L鎖のDEループ(H)およびCDR−H3(I)の詳細な認識様式。着色は(A)と同じである。点線は極性相互作用で示す。
 [図5−3]NT−193は変異株にも中和活性を示す図である。
 (A)501Y.V1および501Y.V3ウイルスに対する抗体中和活動を、原ウイルス(WK−521)に対するものと比較した。
 [図5−4]NT−193およびNT−193+NT−108カクテルの予防および治療効果を示す図である。
 (A)NT−193およびNT−193+NT108カクテルの予防効果および治療効果を評価するための実験的デスギンの模式図。
 (B,D)指示された用量で予防的(B)または治療的(D)mAbのいずれかを投与されたCoV2負荷ハムスターの体重を毎日モニターした。
 (C,E)指示された用量で予防的(C)または治療的(E)mAbのいずれかを投与されたハムスターの肺組織における、CoV2ウイルス負荷量。
 [図6−1]メモリーB細胞の単細胞培養によるCoV2 RBD結合モノクローナル抗体(mAb)の単離方法・過程を示す図である。
 (A)TC−mAbマウスからRBD mAbを単離するための実験ワークフローの模式図。
 (B)CoV2(赤色)、SARS(青色)、MERS(灰色)由来のRBDに対する血清ヒトIgG抗体価を、示されているようにいくつかのコロナウイルス抗原によるプライミングおよび連続ブースト後に評価した。
 (C)CoV2 RBD結合記憶B細胞の単一細胞選別
 クラススイッチ記憶B細胞は、脾細胞からのMACSシステムによって濃縮され、続いて蛍光Abおよびプローブによる染色が行われた。クラススイッチ記憶B細胞中のCoV2 S/RBD結合記憶B細胞の頻度は示されたとおりであった。
 [図6−2]NT−108及びNT−193の重鎖可変領域(VH)/軽鎖可変領域(VL)使用量、変異、クローン型を示す図である。
 重鎖は上図に、軽鎖は下図に示してある。
 [図6−3]S309 mAbによるhACE2結合阻害を示す図である。
 連続希釈S309(クラス3)mAbでプレインキュベーションした後、hACE被覆プレートに結合したCoV2 RBD量を評価した。hACE2−RBD−結合に対する抗体媒介阻害をパーセンテージとしてプロットする。
 [図6−4]いくつかのコロナウイルスS−三量体抗原に対するNT−108およびNT−193 mAbの交差反応性を示す図である。
 いくつかのコロナウイルス由来のS−三量体抗原をELISAプレートにコーティングし、段階希釈したNT−108およびNT−193の結合を評価した。ヒトIgG1型を左、ヒトIgG3型を右の図に示す。
 [図6−5]NT−108およびNT−193FabのSARS−CoV RBDへの結合のSPR解析の結果を示す図である。
 NT−108またはNT−193の連続希釈Fab断片の固定化SARSCoV−1 RBDまたはSARS−CoV−2 RBDへの結合をSPR分析により評価した。
 [図6−6]NT−108およびNT−193が、IgG3サブクラスとの関連において中和活性を増加させることを示す図である。
 (A)ELISAプレートを低濃度(0.2μg/ml)および高濃度(5μg/ml)のCoV2 S‐三量体でコーティングした。各IgGサブクラスのS‐三量体に結合したNT‐108とNT‐193の量をO.D.でプロットした。
 (B,C)CoV2ウイルスに対する中和活性は、シュードウイルス(B)および真正ウイルス(C)により測定した。上にIC50を示す。
 [図6−7]S−RBD複合体の構造比較を示す図である。
 (A)クラス1抗体複合体、RBS−A(濃青色および灰色)およびRBS−B(暗色および明褐色)サブクラスとのNT−193複合体の比較絵のモデルを示した(赤紫:NT−193重鎖、ピンク:NT−193軽鎖、オレンジ:S−RBD)。左のモデルは図2(A)のNT−193複合体の右1つと同じ角度で示してある。左右の角度はほぼ90度回転している。
 (B)S−RBD上のNT193のCDRおよびDEループの位置
 (C)NT−193(左、(A)と同じ色で)、REGN10933(中央)およびREGN10987(右)とS−RBD複合体の概要。手書きによる模型の図で示した(緑色:REGN10933、青色:REGN10987)。
 [図6−8]NT−193 Fab−S−RBD複合体の結合部位を示す図である。
 (A)RBS上のACE結合部位とNT−193結合部位の比較ACEのみ、NT−193のみおよび両者(重複)の結合領域をそれぞれ水色、赤紫色および黄色で示す。
 (B~D)CDR−H1/L3(B)、CDR−H3(C)、CDR−H1/H2(D)のCDR結合部位を詳しく知る。スティックモデルを示します(赤紫:NT−193重鎖、ピンク:NT−193軽鎖、オレンジ:S−RBD)。点線は極性相互作用として示す。
 [図6−9]S−RBDの抗体結合残基のマッピングを示す図である。
 各抗体のS−RBDの結合残基を色分けする。CoV−1で保存されていないSARS−CoV−2残基は黄色で示す。報告されている突然変異(ピンク)は、SARS−CoV−1とCoV−2配列の間の欄に示されている。
 [図6−10]NT−193の重鎖(HC)及び軽鎖(LC)のアミノ酸配列を示す図である。
 結合残基は星印で示す。二次構造を示す。
 [図6−11]NT−193に対するエスケープ変異体のスクリーニングを示す図である。
(A)SARS−CoV−2ウイルスを示された抗体の存在下で3回継代し、続いてエスケープについて検証した。ウイルスRNAは、配列決定のためにCPEを用いてウェルから回収した。RBDにおける変異アミノ酸残基が示される。 (B)変異ウイルスに対する中和活性を評価した。
1.概要
 本発明は、コロナウイルスに対する抗体に関する。
 本発明者は、コロナウイルスのスパイクタンパク質に着目し、ヒト抗体遺伝子が導入された完全ヒト抗体産生マウスを用いることにより、当該スパイクタンパク質に対するヒトヒト抗体を作出することに成功した。
 本発明において対象となるコロナウイルスは、重症呼吸器症候群ウイルス(SARS−CoV1又はSARS−CoVという)、中東呼吸器症候群ウイルス(MERS−CoVという)、新型重症呼吸器症候群ウイルス(SARS−CoV2又はSARS−CoV−2という)である。
 上記抗体の中和活性、親和性、交差反応性、について鋭意検討を行った結果、SARS−CoV2に対する中和活性が既存抗体と比較して顕著であることを見出した。また、SARS−CoV2に特異的なクローン、並びにSARS−CoV1及びSARS−CoV2に交差反応性を示すクローンに加え、SARS−CoV1、MERS−CoV、SARS−CoV2に結合する抗体を見出した。
 本発明の抗体は、スパイクタンパク質の細胞外領域又は受容体結合ドメイン(RBD)に結合する。そして、コロナウイルス感染の初期段階においても、例えば、血液、唾液、鼻水等の体液中に存在する生きたウイルスを高感度に検出することができる。これにより、コロナウイルスの感染の有無(陽性か否か)を検査することが可能である。
2.コロナウイルスに対する抗体
(1)抗原タンパク質
 本発明の抗体を作製するために抗原として使用するタンパク質は、本発明においてはコロナウイルスのスパイクタンパク質(Sタンパク質)の細胞外領域及び受容体結合ドメイン(RBD)領域のタンパク質である。これらのタンパク質は、遺伝子工学的手法により調製することができる。
 ウイルスタンパク質は、マウス、ラット、ヒト等の組織や細胞から精製された天然型のタンパク質でもよいし、遺伝子工学的に生産されたタンパク質でもよい。
 また、抗原とするタンパク質(ポリペプチド)の作製方法は、化学合成でも、大腸菌などを用いる遺伝子工学的手法による合成でもよく、当業者に周知の方法を用いることができる。
 ポリペプチドの化学合成を行う場合は、周知のペプチド合成法によって合成することができる。また、その合成は、固相合成法及び液相合成法のいずれをも適用することができる。市販のペプチド合成装置(例えば、島津製作所製:PSSM−8など)を使用してもよい。
 ポリペプチドを遺伝子工学的に合成する場合は、まず、当該ポリペプチドをコードするDNAを設計及び合成し、所望のDNA領域を増幅するように設計したプライマーを用いて、PCR法により行うことができる。そして、上記DNAを適当なベクターに連結することによってタンパク質発現用組換えベクターを得て、この組換えベクターを目的遺伝子が発現し得るように宿主中に導入することによって形質転換体を得る(Sambrook J.et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(4th edition)(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))。
 例えば、SARS−CoV2、SARS−CoV1及びMERS−CoVのSタンパク質の細胞外領域、及びRBD領域タンパク質をコードする塩基配列を人工合成する。これに必要に応じてタンパク精製用タグ(例えばHistag)を挿入したベクターに挿入し、発現ベクターを作製する。
 形質転換に使用する宿主としては、目的の遺伝子を発現できるものであれば特に限定されるものではない。例えば、細菌(大腸菌、枯草菌等)、酵母、動物細胞(COS細胞、CHO細胞等)、昆虫細胞又は昆虫が挙げられる。ヤギ等の哺乳動物を宿主として使用することも可能である。宿主への組換えベクターの導入方法は公知である(Sambrook J.et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(4th edition)(Cold Spring Harbor Laboratory Press(2012))。
 タンパク質発現用の所定の細胞に上記発現ベクターを遺伝子導入し、培養上清から組換えタンパク質を精製する。精製は、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば硫酸アンモニウム沈殿、ゲル濾過、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、目的の抗原タンパク質を単離精製することができる。
 なお、本発明においては、市販の無細胞合成システム、例えばExpresswayTMシステム等を用いたin vitro翻訳により抗原タンパク質を得ることもできる。
 本発明において、抗原として用いるタンパク質としては、下記配列番号に示されるアミノ酸配列の全部でも少なくとも一部でもよく、限定はされないが、細胞外領域の少なくとも一部、あるいは受容体結合ドメインであることが好ましい。
 本発明において、各コロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列、及び当該タンパク質をコードするDNAの塩基配列を表1に示す。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001
 また、本発明において、抗原としては、(a)上記配列番号で示されるアミノ酸配列を含むタンパク質(ポリペプチド)のほか、(b)当該配列番号で示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個(例えば1~10個、1~5個、1~3個、1~2個等)のアミノ酸が、欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列を含むタンパク質、(c)当該配列番号で示されるアミノ酸配列に対して70%以上の相同性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質が挙げられる。
(2)免疫動物
 本発明において抗体を製造するに際し、免疫の対象となる動物は、特に限定されるものではなく、一般に抗体作製のために用いられるされるマウス、ラット、ウサギ、ヤギ、ウマ、ヒツジ等を使用することができるが、完全ヒト抗体産生マウス(TCマウス)であることが好ましい。
 本発明者は、トランスクロモソミック(TC)マウス作製技術により完全長のヒトIg遺伝子座を保持し完全ヒト抗体を産生するマウス作製に世界で初めて成功した(Tomizuka,K.et al.,Nature Genetics,(1997)16,133−143;Tomizuka,K.et.al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,(2000)97,722−727)。ここで使用されている人工染色体ベクターはヒト由来であるが、その後の研究により、マウス人工染色体ベクター(MAC)を用いたTCマウスの作出に成功した(WO2018/079857号)。
 ここで、マウス人工染色体ベクターとは、天然のマウス染色体から不要な遺伝子を取り除いて短くし、テロメア、セントロメア及び複製起点のみからなるミニ染色体を意味する。このマウス人工染色体ベクターには、クローニングサイトであるloxP配列を導入することができる。マウス人工染色体ベクターは、(i)新たな任意の遺伝子を搭載できる、(ii)宿主染色体に挿入されず独立して維持され、子孫伝達ができる、(iii)マウスやラットを含む哺乳類細胞において一定のコピー数で長期間安定に保持される、(iv)導入可能なDNAの長さの制限がない、等の利点を有する。
 目的遺伝子(例えばヒト抗体遺伝子)のマウス人工染色体ベクターへの搭載は、環状インサート型及び染色体転座型の二つのクローニング方法を利用できる(文献:Uno N,Abe S,Oshimura M,Kazuki Y.J Hum Genet.2018 Feb;63(2):145−156.doi:10.1038/s10038−017−0378−7.)。
 ES細胞及びiPS細胞は生殖系列に寄与することが知られているため、目的のヒト抗体遺伝子を含むマウス人工染色体ベクターを導入したこれらの細胞を、マウスの胚の胚盤胞に注入し、この胚を仮親の子宮に移植し、出産させることによって、トランスクロモソミック(Trans Chromosomic:TC)マウスを作製する。さらに、得られた雌雄のTCマウスを交配することによって、その子孫マウス(これらをTCマウスという)を作出する(WO2018/079857号)。
 本発明の一態様において、免疫の対象として、上記TCマウスを使用する。
 完全ヒト抗体産生マウスは、ヒトIg重鎖及び軽鎖(κおよび/またはλ)について、上記MACベクターをマウスへ導入し(TCマウスという)、加えてTCマウスの内因性マウスIg遺伝子群を破壊することで、作出することができる。
 ヒト抗体産生マウスは、上記公知方法に従って得ることができるが、市販品として得ることもできる(TC−mAbTMマウス:株式会社Trans Chromosomics)。
(3)マウスへのウイルス抗原の免疫
 本発明においては、作製された抗原を動物に投与して免疫を行う。免疫を行う動物として、本発明では例えば完全ヒト抗体産生マウス(TCマウス)を使用することができる。
 前記のようにして作製した抗原タンパク質をそれ自体で、あるいは担体、希釈剤と共に動物(例えばTCマウス)に投与することにより免疫する。抗原の動物1匹当たりの投与量は、アジュバントを用いるときは1μg~10mgである。アジュバントとしては、フロイント完全アジュバント(FCA)、フロイント不完全アジュバント(FIA)、水酸化アルミニウムアジュバント等が挙げられる。免疫は、主として静脈内、皮下又は腹腔内等に注入することにより行われる。また、免疫の間隔は特に限定されず、数日から数週間間隔、好ましくは1~2週間間隔で、2~20回免疫を行う。
(4)抗体単離
 免疫された動物(例えばTCマウス)から採血を行い、それぞれのウイルスのSタンパク質(細胞外領域、RBD領域)に対する血中IgG抗体価をサンドイッチELISAにより測定し、IgG抗体が誘導されたマウスの脾臓細胞を採取する。採取された脾臓細胞を抗FcγRII/III抗体で処理後、下記抗体、及びSタンパク質蛍光プローブにより染色し、Sタンパク質蛍光プローブに結合する記憶B細胞をフローサイトメトリーにより分取する。分取した記憶B細胞を培養し、培養後10日目の培養上清を回収する。培養の際には、適当なマウスCD40L,BAFFを発現させたフィーダー細胞上に1cell/wellで撒く。また、培地として、各種サイトカイン(例えばマウスIL−2,IL−4,IL−5)を添加したRPMI培地を用いることができる。
 また、本発明においては、通常のハイブリドーマ法によりモノクローナル抗体を作製することも可能である。
 ハイブリドーマを得るため、抗体産生細胞とミエローマ細胞との細胞融合を行う。融合操作は既知の方法、例えばKohlerらの方法に従い実施できる。抗体産生細胞と融合させるミエローマ細胞として、マウスなどの動物の一般に入手可能な株化細胞を使用することができる。ミエローマ細胞としては、例えばP3X63−Ag8、P3X63−Ag8U.1、SP2/O−Ag14、PAI、P3U1、NSI/1−Ag4−1、NSO/1などのマウスミエローマ細胞株などが挙げられる。
 そして、細胞融合処理後の細胞から目的とするハイブリドーマを選別する。その方法として、細胞懸濁液をで適当に希釈後、マイクロタイタープレート上に限界希釈法で計算上0.3個/well程度まき、各ウェルにHAT培地などの選択培地を加え、以後適当に選択培地を交換して培養を行う。その結果、選択培地で培養開始後生育してくる細胞をハイブリドーマとして得ることができる。
(5)遺伝子工学的手法による抗体タンパク質の作製
 抗体タンパク質を遺伝子工学的手法により作製する場合は、ELISA法によりそれぞれのSタンパク質への結合性が認められた記憶B細胞からcDNAを合成し、抗体遺伝子(重鎖、軽鎖V領域)をPCR法によりクローニングする。クローニングした重鎖V領域をヒトIgG1又はIgG3、軽鎖V領域をヒトIgκ又はIgλのC領域を含む哺乳類発現用ベクターに導入し、それぞれの抗体発現ベクターを作製する。作製した抗体発現ベクターを宿主細胞に遺伝子導入し、培養上清から組換え抗体を精製する。
 本発明の抗体は、組換え手段により調製され、発現される遺伝子組換え抗体又は抗原結合断片であってもよい。例えば、本発明の抗体は、キメラ抗体、ヒト型化抗体、又は完全ヒト抗体であってもよい。本発明の組換え抗体は、重鎖及び軽鎖の組換え発現によって製造することができる。例えば、マウス−ヒトキメラ抗体であれば、ウイルスのSタンパク質に対する抗体を産生するマウス細胞から抗体遺伝子を単離し、その重鎖(H鎖)定常領域をヒトIgGのH鎖定常領域遺伝子に組換え、マウス骨髄腫細胞に導入することにより調製できる。ヒト型化抗体は、例えば、Sタンパク質に対する抗体を産生するマウス細胞から単離した抗体の抗原結合部位の遺伝子をヒト由来の抗体分子に移植することにより調製できる。また、ヒト抗体は、免疫系をヒトと入れ換えたマウスにSタンパク質を免疫することにより調製することが可能である。
 本発明により得られた抗体タンパク質は、例えば完全ヒト抗体であり、モノクローナル抗体である。
(6)抗体断片の作製
 本発明においては、上記の通り作製された抗体から断片化することも可能である。
 抗体の断片は、本発明の抗体の一部分の領域を意味し、例えば、Fab、Fab’、F(ab’)、Fv、diabody(dibodies)、dsFv、scFv(single chain Fv)などが挙げられる。上記抗体断片は、本発明の抗体を目的に応じて各種タンパク質分解酵素で切断することにより得ることができる。
 例えば、Fabは、抗体分子をパパインで処理することにより、F(ab’)は、抗体分子をペプシンで処理することによりそれぞれ得ることができる。また、Fab’は、上記F(ab’)のヒンジ領域のジスルフィド結合を切断することで得ることができる。
 scFvの場合は、抗体の重鎖可変領域(H鎖V領域)及び軽鎖可変領域(L鎖V領域)をコードするcDNAを取得し、scFvをコードするDNAを構築する。このDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主生物に導入して発現させることにより、scFvを製造することができる。
 diabodyの場合は、抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域をコードするcDNAを取得し、ペプチドリンカーのアミノ酸配列の長さが8残基以下となるようにscFvをコードするDNAを構築する。このDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主生物に導入して発現させることにより、diabodyを製造することができる。
 dsFvの場合は、抗体のH鎖V領域及びL鎖V領域をコードするcDNAを取得し、dsFvをコードするDNAを構築する。このDNAを発現ベクターに挿入し、当該発現ベクターを宿主生物に導入して発現させることにより、dsFvを製造することができる。
 本発明のヒト抗体の重鎖可変領域及び軽鎖可変領域のアミノ酸配列及び当該領域をコードするDNAの塩基配列を以下に示す。
TC mice anti−CoV2 mAb VH sequences
NT−108(NTCOV−1)VH(配列番号13)
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000002
NT−108(NTCOV−1)VH AA seq(配列番号14)
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000003
NT−108(NTCOV−1)Vκ(配列番号15)
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000004
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000005
NT−108(NTCOV−1)Vκ アミノ酸配列(配列番号16)
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000006
NT−193(NTCOV−2)VH(配列番号17)
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000007
NT−193(NTCOV−2)VH アミノ酸配列(配列番号18)
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000008
NT−193(NTCOV−2)Vk(配列番号19)
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000009
NT−193(NTCOV−2)Vk アミノ酸配列(配列番号20)
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000010
(7)ELISAによる抗体結合性の確認
 モノクローナル抗体の、SARS−CoV2 RBD、SARS−CoV1 RBD及びMARS RBDに対する結合活性は、例えばELISA法により測定する。
(8)中和試験
 本発明においては、抗体によるSARS−CoV2ウイルス感染防御効果を評価するために、VSVシュードウイルスを用いた中和試験を行うことができる。
 中和試験は、例えば、培地にて段階希釈した抗体(モノクローナル抗体)と、培地で希釈したウイルスSタンパク質を発現したVSVシュードウイルスとを混合し、培養する。
 ところで、気道内で呼吸器ウイルスを活性化している主要なプロテアーゼの一つはTMPRSS2(II型膜貫通型セリンプロテアーゼの一種)であることが知られている(Sakai K,et al.,J Virol 88:5608−5616,2014;竹田 誠,ウイルス 69:61−72,2019)。そして、遺伝子工学的にTMPRSS2を恒常発現させたVero細胞やVeroE6細胞(Vero/TMPRSS2細胞とVeroE6/TMPRSS2細胞)が知られている(Shirogane Y,et al.,J Virol 82:8942−8946,2008;Nao N,et al.,PLoS One 14:e0215822,2019)。最近、これらの細胞株(特にVeroE6/TMPRSS2細胞)が、SARS−CoV2の分離、増殖に非常に有益であることが明らかになっている(Matsuyama S,et al.,Proc Natl Acad Sci USA 117:7001−7003,2020)。
 そこで本発明においては、上記培養後、コロナウイルス高感受性細胞(例えばVero E6/TMPRSS2細胞)に抗体とウイルスとの混合液を添加し、さらに培養する。その後、市販のアッセイシステム又はキットを用いてルシフェラーゼ活性を測定する。
(9)本発明の抗体が認識するエピトープ、及び当該に結合する抗体
 本発明の抗体のエピトープ(抗原決定基)は、抗原であるコロナウイルスSタンパク質の少なくとも一部であればよく限定はされないが、細胞外領域又は受容体結合ドメイン(RBD)の少なくとも一部が好ましく、例えば、RBDである。当該領域を認識する(当該領域と結合する)抗体は、例えば、生体試料中のコロナウイルスに対する中和活性が高く、コロナウイルス感染症の予防又は治療用途に極めて有用なものである。
 本発明の抗体のエピトープとしては、受容体結合ドメインの全長アミノ酸配列(例えば配列番号2)のうち、R403、D405、E406、R408、T415、G416、K417、D420、Y449、Y453、L455、F456、G485、Y486、N487、Y489、Q493、S494、Y495、G496、Q498、N501、G502、V503、G504及びY505からなる群から選ばれる少なくとも2個のアミノ酸残基である。
 上記アミノ酸残基のうち、アルファベットはアミノ酸の1文字表記であり、数字は受容体結合ドメインの全長アミノ酸配列のうちアミノ酸の位置である。例えば「R403」は、受容体結合ドメインの全長アミノ酸配列(例えば配列番号2)の403番目のアルギニンを意味する。他の位置及びアミノ酸残基についても同様であり、本明細書全体を通してこのように表記することができる。
 本発明の一態様において、本発明の抗体は、R403及びK417の2つのアミノ酸残基を含むエピトープに結合する。
(10)結合親和性及び中和活性
 結合親和性は、結合定数(KA)及び解離定数(KD)により決定することができる。親和性平衡定数(K)はKA/KDの比で表される。その結合親和性は、以下のようにして検出することができる。
 結合親和性は、少なくとも1×10−10Mの解離定数(KD)を有しており、この解離定数に対し、例えば2~5倍、5~10倍、10~100倍、100~1000倍又は1000~10,000倍高い親和性を有する。具体的には、本発明の抗体は、コロナウイルスのSタンパク質の結合親和性に関する解離定数(KD)が、1×10−10M、5×10−11M、1×10−11M、5×10−12M、1×10−12M、5×10−13M、1×10−13M、5×10−14M、1×10−14M、5×10−15M、又は1×10−15Mであり、1×10−12M~1×10−15Mであることがより好ましい。あるいはこれらのKDよりも低い値であり高親和性であってもよい。
 ここで、親和性の測定対象となる抗体の解離定数(KD)が、本発明の抗体のKDの約1~100倍以内であるときは、当該抗体は、本発明の抗体と実質的に同一であるとして本発明に含まれる。
 結合定数(KA)及び解離定数(KD)は、表面プラスモン共鳴(SPR)を用いて測定することができ、結合率をリアルタイムで検出し、さらにモニタリングする公知の機器及び方法を採用することができる(例えばBiacore(登録商標)T200(GE Healthcare社)、ProteON XPR36(Bio−Rad社)など)。
 本発明の抗体のコロナウイルスに対する中和活性は、ウイルスの増殖抑制の指標であるIC50として、2ng/ml未満(例えば1ng/ml未満)である。
3.医薬組成物
 本発明の医薬組成物は、本発明の抗体を有効成分として含有するものであり、SARSウイルス感染症の予防、治療に有効である。さらに、血液脳関門(BBB)を通過させるために、ペプチド化した抗体又はこれらのペプチドとBBB透過性運搬体との結合体を作製してもよい。
 本発明の抗体は、単独で、あるいは薬学的に許容される担体または希釈剤等と共に投与することができ、またその投与は1回または数回に分けて行うことができる。
 本発明の医薬組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定する
 注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD−ソルビトール、D−マンノース、D−マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO−50等)を併用してもよい。
 油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールを併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填する。
 本発明の医薬組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物とすることができる。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
 投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。抗体または抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲に設定することが可能である。または、例えば、患者あたり0.001~100000mgの投与量とすることもできるが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
 経口投与の場合、微晶質セルロース、クエン酸ナトリウム、炭酸カルシウム、リン酸ジカリウム、グリシン等の種々の賦形剤を、崩壊剤、結合剤等とともに使用することができる。崩壊剤としては、澱粉、アルギン酸、ある種のケイ酸複塩などが挙げられ、結合剤としては、例えばポリビニルピロリドン、蔗糖、ゼラチン、アラビアゴムなどが挙げられる。また、ステアリン酸マグネシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、タルク等の滑沢剤は錠剤形成に非常に有効である。経口投与用として水性懸濁液又はエリキシルにする場合は、必要により乳化剤、懸濁化剤を併用し、水、エタノール、プロピレングリコール、グリセリン等、およびそれらを組み合わせた希釈剤と共に使用することができる。
 経皮剤の場合には皮膚表面の角質層に多くの微細な孔(穴)を開け、粘着テープに薬物を加えて皮膚に貼り付けることにより従来皮膚から吸収させることができなかった抗体を吸収させることが可能になった。穴の数や大きさ、テープ製剤の組成を調整することで、注射のように短時間で投与することも、長時間かけて薬剤を放出させることも可能になってきている。
4.コロナウイルス検出用又は診断用試薬及びキット
 本発明の検出用又は診断用試薬は、本発明の抗体又はその断片を含有するものである。本発明の抗体は、コロナウイルスに対して特異的に結合することができるため、当該抗体を含む本発明の試薬はコロナウイルス感染症の検出又は診断のために使用することができる。
 本発明における検出又は診断の対象となるコロナウイルスとしては、例えばSARS−CoV2、SARS−CoV1及びMERS−CoVである。
 本発明の試薬は、本発明の抗体のほか、薬学的に許容できる担体を含むことができる。「薬学的に許容できる担体」とは、本発明の試薬に適する任意の担体(リポソーム、脂質小胞体、ミセル等)、希釈剤、賦形剤、湿潤剤、緩衝剤、懸濁剤、潤滑剤、アジュバント、乳化剤、崩壊剤、吸収剤、保存料、界面活性剤、着色料、又は着香料などを指す。
 また別の態様において、本発明は、コロナウイルス感染症の検出用又は診断用試薬の製造のためのコロナウイルスに対するヒト抗体又はその断片の使用を提供する。
5.コロナウイルス感染症の検出又は診断方法
 本発明のコロナウイルス感染症の検出又は診断方法は、本発明のヒト抗体又はその断片と、被験者から採取された生体試料(以下、単に「生体試料」ともいう)とを接触させ、前記試料におけるコロナウイルスタンパク質を検出する工程を含む方法である。この場合、コロナウイルスタンパク質の検出結果とコロナウイルス感染症(コロナウイルス感染の陽性)の可能性とを関連づけることが好ましい。
 本発明において、「被験者」としては、例えばヒト、ネコ、イヌ、ヤギ、ブタ、ヒツジ、ウシ、ウマ、サル、ハムスターなどの哺乳動物が挙げられ、好ましくはヒトである。被験者がヒトの場合、被験者には健常者、及びコロナウイルス感染の陽性患者が含まれる。
 また、生体試料としては、例えば、哺乳動物由来の組織、細胞、これらの破砕物又は抽出物、体液、排泄物そのもの又はこれらを含む試料を意味し、特に限定されるものではない。また、生体試料には、哺乳動物由来の組織、細胞、これらの破砕物又は抽出物、及び体液、排泄物に対し、任意の処理、例えば希釈、分離、タンパク質の変性等を行うことにより得られた試料も含まれる。生体試料は、体液が好ましく、特に唾液、粘膜、血液であることが好ましい。いずれの生体試料も適切な前処理を行うことによって適用可能である。
 本発明において、「接触」とは、本発明の抗体と被験者から採取された生体試料とを同一の反応系に存在させることを意味し、例えば、反応用ウェルにおいて本発明の抗体と生体試料とを混合すること、当該生体試料に本発明の抗体を添加すること、本発明の抗体又は生体試料のいずれか一方を固定した担体に他方を添加すること等が含まれる。
 本発明において、コロナウイルスの検出、発現量の測定又は評価には、例えば、酵素免疫測定法(EIA、ELISA)、蛍光免疫測定法(FIA)、放射免疫測定法(RIA)、化学発光免疫測定法(CIA)、ラテックス凝集法、ウェスタンブロット法、免疫染色、免疫沈降法、イムノクロマト法、蛍光偏光免疫測定法(FPIA)などを利用できる。
 このような検出等に用いるデバイスとしては、特に限定されないが、例えば、マイクロウェルプレート、アレイ、チップ、フローサイトメーター、表面プラズモン共鳴装置、イムノクロマトグラフィーストリップなどが利用できる。このようなデバイスを用いたときは、発色量、蛍光量、発光量などのシグナルを検出、測定及び/又は評価し、その検出、測定又は評価結果とコロナウイルス感染症の可能性等とを関連づけることができる。
 本発明においては、コロナウイルスの検出結果(発現量の測定結果)に基づいて、被験者がコロナウイルス感染症に罹患している可能性の有無(陽性の有無)を診断することができる。
 この場合、本発明の抗体を酵素や蛍光物質で標識することにより反応を蛍光シグナルとして直接検出してもよく、あるいは、本発明の抗体に結合する標識された二次抗体を用いることによりシグナルを間接的に検出してもよい。また、検出方法は、競合法、サンドイッチ法または直接吸着法など、いずれの方法を用いてもよい。そして、反応の強さや、反応させたサンプル中の全体のウイルスの中で、抗体と結合したウイルスの割合を測定し、予め設定した基準値や指標をcut−off値として定め、cut−off値と比較することによって、コロナウイルス感染症に罹患している可能性を判定又は診断することができる。
 cut−off値は、例えば、次のようにして求めることができる。まず、コロナウイルス陽性患者由来の生体試料におけるコロナウイルスの発現量、及び健常者由来の生体試料におけるコロナウイルスの発現量を測定する(この場合検出限界以下であることが予想される)。このとき対象となる患者の例数は、それぞれ2例以上であり、例えば、10例以上、100例以上である。そして、陽性患者由来の生体試料群と健常者由来の生体試料群の両方から、コロナウイルスの発現量のcut−off値を、統計処理により求める。統計処理としては、例えば、ロジスティック回帰分析法、ROC曲線を使用する方法などを用いることができる。
 本発明において、血液試料料中のコロナウイルスのSタンパク質(細胞外領域)の発現量の臨界値(cut−off値)は、血清中濃度として適宜設定することができる。
 上記条件下でコロナウイルスSタンパク質の発現量を測定した場合において、発現量が上記cut−off値以上であるときに、コロナウイルスが検出されたと判定でき、又は被験者がコロナウイルス陽性の可能性があると診断することができる。
 本発明において、コロナウイルスのSタンパク質を検出したときの当該検出結果の確からしさ(確率)は、60%以上、70%以上、80%以上、90%以上、95%以上、好ましくは99%以上である。
 上記検出結果は、例えば、コロナウイルス感染症の検査又は治療効果の確定診断を行う場合の主要資料又は補助資料とすることができる。
 すなわち、本発明は、コロナウイルスのSタンパク質に対するヒト抗体又はその断片と、被験者から採取された生体試料とを接触させ、前記試料におけるコロナウイルスのSタンパク質を検出する工程を含む、コロナウイルス感染症の検出又は診断を補助する方法も提供する。
 以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
 実施例
 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の範囲はこれらの実施例により限定されるものではない。
[実施例1]
1)リコンビナント抗原の作製
 SARS−CoV2、SRAR−CoV1及びMERS−CoVのリコンビナントSタンパク質の細胞外領域、及びRBD領域タンパク質の塩基配列を人工合成後、タンパク精製用タグ(9xHistag)を挿入した哺乳類発現用ベクター(pCMV vector)に挿入し、それぞれのリコンビナントタンパク質発現ベクターを作成した。Expi293細胞(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に作製した発現ベクターを遺伝子導入し、37℃、8%CO、125rpm振とう培養で5日間培養した。
 培養上清から、それぞれのリコンビナントタンパク質を、TALONカラム(クロンテック社)にて精製した。
2)完全ヒト抗体産生マウス(TCマウス)へのリコンビナントウイルス抗原の免疫
 SARS−CoV2リコンビナントSタンパク質(細胞外領域、RBD領域)10μgを不完全フロイントアジュバント100μl、及びPhosphorothioate化したCpG(ATAATCGACGTTCAAGCAAG(配列番号21)) 10μgと混合した溶液を、完全ヒト抗体産生マウス(TCマウス)の腹腔内へ注射した。SARS−CoV1リコンビナントSタンパク質(細胞外領域、RBD領域)、及びMERSリコンビナントSタンパク質(細胞外領域、RBD領域)を同様の方法で調製し2週間おきに追加免疫を行った。
 免疫スケジュールを図1に示す。
3)RBD抗原プローブの作製
 SARS−CoV2、SARS−CoV1及びMERS−CoVのリコンビナントSタンパク質(細胞外領域、RBD領域)に蛍光色素(PE(同仁堂)、APC(同仁堂)、AlexaFluor594(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、PerCP−Cy5.5(abcam社)を結合させ、蛍光プローブ化した。
4)TCマウスからのSタンパク結合性記憶B細胞の分取とモノクローナル抗体単離
 TCマウスから採血を行い、SARS−CoV2、SARS−CoV1及びMERS−CoVのSタンパク質(細胞外領域、RBD領域)に対する血中IgG抗体価をサンドイッチELISAにより測定し、すべてのSタンパク質へIgG抗体が誘導されたマウスの脾臓細胞を採取した。
 脾臓細胞を抗FcγRII/III抗体で処理後、下記抗体、及びSタンパク質蛍光プローブにより染色し、Sタンパク質蛍光プローブに結合する記憶B細胞をフローサイトメトリーにより分取した。
 分取した記憶B細胞をマウスCD40L,BAFFを発現させたフィーダー細胞上に1cell/wellで撒き、マウスIL−2(4ng/mL),IL−4(2ng/mL),IL−5(5ng/mL)を添加したRPMI培地を用いて37℃、5%COの条件で培養し、培養後10日目の培養上清を回収した。
5)抗体タンパクの作製
 ELISA法によりそれぞれのSタンパク質への結合性が認められた記憶B細胞からcDNAを合成し、抗体遺伝子(重鎖、軽鎖V領域)をPCR法によりクローニングした。
 cDNAの合成は以下の通り行った。
 細胞からRNeasy Plus Mini Kit(QIAGEN)を用いて調整したRNAをSuperScriptTM VILOTM Master Mix(invitrogen)を用いてcDNA合成(42℃、120分)を行った。
 PCRは,以下の試薬及びサイクル条件により行った。
PrimeSTAR(登録商標) Max DNA Polymerase(TAKARA)を用い、98℃(5秒)、55℃(5秒)、72℃(30秒)、30サイクルの条件で増幅を行った。
 クローニングした重鎖V領域をヒトIgG1、軽鎖V領域をヒトIgkappaもしくはIglambdaのC領域を含む哺乳類発現用ベクター(pIg vector)に導入し、それぞれの抗体発現ベクターを作成した。
 作製した抗体発現ベクターをExpi293細胞(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)に遺伝子導入し、培養上清からProtein Gを用いてリコンビナント抗体を精製した。
6)ELISAによる抗体結合性の確認
 ELISA法により、モノクローナル抗体の、SARS−CoV2 RBD、SARS−CoV1 RBD及びMARS−CoV RBDに対する結合を測定した。以下、ELISA法の詳細な実施例を示す。
 SARS−CoV2 RBD、SARS−CoV1 RBD又はMARS−CoV RBDをリン酸緩衝生理食塩水(pH 7.3)に溶解し、96ウェルプレートに50μLずつ添加した。4℃で一晩静置した後、リン酸緩衝生理食塩水にて各ウェルを3回洗浄し、1%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水を110μlずつ添加した。室温で1時間半静置後、リン酸緩衝生理食塩水(Tween20を0.1%含む)にて各ウェルを3回洗浄し、0.1%Tween20と1%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝液にて段階希釈したモノクローナル抗体を50μLずつ添加した。4℃で一晩静置した後、リン酸緩衝生理食塩水(Tween20を0.1%含む)にて各ウェルを3回洗浄し、0.1%Tween20と1%牛血清アルブミンを含むリン酸緩衝生理食塩水にて希釈したペルオキシダーゼ標識抗ヒトIgG抗体(Southern Biotech)を各ウェルに50μLずつ添加した。室温で1時間静置後、リン酸緩衝生理食塩水(Tween20を0.1%含む)にて各ウェルを3回洗浄し、基質としてクエン酸緩衝液(pH 5.0)20mLにo−phenylendiamine tablet(SIGMA−ALDRICH)10mgと8μLの30%過酸化水素水(和光純薬工業)を加えたものを調整し、それを各ウェルに100μLずつ添加した。発色後50μlの2N硫酸(和光純薬工業)で反応を止め、Microplate Reader 450型(Bio−rad)を用いて490nmの吸光値を測定した。
7)中和試験
 モノクローナル抗体によるSARS−CoV2ウイルス感染防御効果を評価するために、VSVシュードウイルスを用いた中和試験を行った。以下に中和試験の詳細な実施例を示す。
 DMEM培地(10%仔牛血清と0.1%ペニシリン/ストレプトマイシンを含む)にて段階希釈したモノクローナル抗体と、DMEM培地で希釈したCoV2 Sタンパク質を発現したVSVシュードウイルスを混合し、インキュベーター(5% CO、37℃)内で1時間反応させた。培養後、96ウェルプレートにて培養したVero E6/TMPRSS2細胞に抗体とウイルスの混合液を添加した。インキュベーター(5% CO、37℃)内で24時間培養した後、10μLのBright−Glo Luciferase Assay System(Promega)を各ウェルに添加し、GloMax NAVIGATOR(Promega)を用いてルシフェラーゼ活性を測定した。
 結果を図2~4に示す。
 図2は、メモリーB細胞の分離結果を示す図である。図3は、各コロナウイルスに対する抗体の単離結果を示す図である。図4は、シュードウイルスを用いた中和活性の測定結果を示す図である。
 図3において、#108(NTCOV2−1)はSARS−CoV2に特異的であり、#193(NTCOV2−2)は、SARS−CoV2/CoV1に交差反応を示す。
 図4において、各抗体のSARS−CoV2に対する中和活性のIC50は、NTCOV2−1は1.3ng/mL、NTCOV2−2は0.56ng/mL、VHH72は52ng/mL、B38は3460ng/mL、H4は426ng/mLであった。
 また、各抗体のSARS−CoVに対する中和活性のIC50は、NTCOV2−2は13ng/mLであった。
[実施例2]
中和幅及び逃避耐性を増加させるためのSARS−CoV−2抗体のバイモーダルストラテジー(二峰性戦略)
(1)概略
 SARS−CoV−2の受容体結合部位(RBS)は強力な中和抗体の重要な標的であるが、エピトープの変異性は複数のコロナウイルスの交差中和および逃避変異体に対する耐性を妨げる。今回、SARS−CoV−2ウイルスとSARS−CoVウイルスの両方を超強力に交差中和するヒトRBS抗体を同定した。交差中和は、保存部位への重鎖およびRBSへの軽鎖の二峰性結合によって達成された。ユニークな結合様式は超可変領域との最小の相互作用を通して広範なRBSマスキングを可能にし、関心のある新興変異体を含む抗体逃避変異体に対する耐性を増強した。さらに、抗体処置は、予防的および治療的設定下でハムスターモデルにおいて保護を提供した。本実施例はでは、広範に中和する治療薬およびワクチンを意味する広範かつ強力な中和活性を獲得するための新規な抗体戦略を明らかにする。
 SARS−CoV−2(CoV2)パンデミックは、2021年1月27日現在(www.who.int)、世界中で1億以上の感染症を引き起こし、200万人以上が死亡している。回復期の個体およびヒト化マウスから、400を超えるCoV2中和抗体が単離されており(参考文献1)、エピトープ構造のいくつかは、有効なワクチンおよび治療薬を導くために解決されている(参考文献2)。超強力な中和抗体の代表的な標的は、ヒト細胞のアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)と直接接触するスパイク(S)タンパク質の受容体結合部位(RBS)である(参考文献3)。CoV2とSARS−CoV(CoV1)を含む他のコロナウイルス(CoV)間のRBS配列の保存性が低いと、複数のCoVに対するRBS抗体による交差中和の可能性が低下する。さらに、既存のRBS抗体は、単剤療法の使用下でエスケープ突然変異に感受性である(参考文献4~6)。したがって、このような構造データは新規な抗体療法およびワクチン設計を進歩させるので、中和幅および逃避耐性を有するCoV2 RBS抗体が必要とされている。
(2)材料及び方法
組換えSタンパク質抗原
SARS−CoV−2分離株のスパイク(S)タンパク質をコードするヒトコドン最適化ヌクレオチド配列(GenBank:MN994467、ヌクレオチド:21563~25384(配列番号22))を商業的に合成した(Eurofinsgenomics)。RBD(アミノ酸:322~536(配列番号23))を、シグナルペプチド(アミノ酸:1~20;MIHSVFLLMFLLTPTESYVD(配列番号24))およびヒスチジンタグと共に、哺乳動物発現ベクターpCAGGSにクローニングした。T4フォールドン三量体化ドメイン、ヒスチジンタグ、およびstrep−tagを含むスパイクタンパク質の可溶性バージョン(アミノ酸:1−1201(配列番号34))を、哺乳類発現ベクターpCMVにクローニングした。タンパク質のアミノ酸配列を改変して、多塩基性切断部位(RRARからA)を除去し、2つの安定化突然変異も導入した(K986PおよびV987P;野生型番号付け)(参考文献32)。
SARS−CoV−1(GenBank:EU371563、アミノ酸:15−1195(配列番号25))、MERS−CoV(GenBank:KF192507、アミノ酸:13−1296(配列番号26))、HCoV−NL63(GenBank:NC_005831、アミノ酸:22−1293(配列番号27))、HCoV−OC43(GenBank:NC_006213、アミノ酸:12−1299(配列番号28))、HCoV−229E(GenBank:NC_002645、アミノ酸:12−1109(配列番号29))、および
HCoV−HKU1(GenBank:NC_006577、アミノ酸:13−1293(配列番号30))のスパイクタンパク質も、T4フォールドン三量体化ドメイン、ヒスチジンタグ、およびstrep−tagを含むpMTベクターにクローニングした。
ヒスチジンタグと共にSARS−CoV−1(アミノ酸:310−509)およびMERS−CoV(アミノ酸:367−606)のSタンパク質のRBDもまた、哺乳動物発現ベクターpHLsecにクローニングした。位置A475V、E484K、Q493R、R346S、N440K、およびY453FにおけるSARS−CoV−2のRBD突然変異体を、関連するヌクレオチド置換およびRBD発現ベクターに基づくGibsonアセンブリ(NEB)を導入したプライマーを用いた部位直接突然変異誘発によって作製した。組換えタンパク質を、ショウジョウバエ発現系またはExpi293F細胞(Thermo Fisher Scientific)を使用して産生した。トランスフェクション後5日目にトランスフェクション細胞からの上清を採取し、Ni−NTAアガロース(Qiagen)および/またはストレプトアクチンセファロース(Sigma aldrich)を用いて組換えタンパク質を精製した。Sタンパク質−蛍光色素プローブを作製するために、SARS−CoV−2の組換えRBDおよびSタンパク質をAPCおよびPE(Dojindo)と結合させた。
マウスと免疫
TC−mAbマウスを、以前に記載されたように確立した(参考文献7)。マウスをアジュバントAddaVax(InvivoGen)とともにSARS−CoV−2スパイクタンパク質の組換えRBD(10μg/body)でi.p.免疫化し、21日間隔でSARS−CoV−1、SARS−CoV−2およびMERS−CoVの組換えRBDまたはSタンパク質で連続的にブーストした。追加免疫後7日目に血清を採取し、抗原特異的ヒトIgG抗体価を検査した。すべてのマウスをSPF条件下で維持し、7~14週齢で使用した。全てのネズミの作業は、日本国立感染症研究所の動物実験委員会のガイドラインに従って行われた。
ELISA法
ELISAプレートを、SARS−CoV−1、SARS−CoV−2、およびMERS−CoVのSタンパク質のRBD、SARS−CoV−2のRBD、およびSARS−CoV−2のRBD突然変異体、E484K、Q493R、R346S、N440K、およびY453F、またはSARS−CoV−1、SARS−CoV−2、MERS−CoV、HCoV−NL63、HCoV−OC43、HCoV−229E、およびHCoV−HKU1の三量体Sタンパク質のいずれかで2μg/mlでコーティングした。いくつかの実験では、コーティング抗原の濃度を0.2μg/mlまたは5μg/mlに変化させた。1% BSAを含むPBSでブロッキングした後、連続希釈した血清、単一細胞の培養上清、またはmAbをプレートに適用し、次いでヤギ抗ヒトIgG−HRP(Southern Biotech,Cat#:2040−05,1:5000)と共にインキュベートした。HRP活性をOPD基質(Sigma)で可視化し、iMark Microplate Reader(Bio−Rad)を用いてOD490を測定した。
フローサイトメトリー解析
TC−mAbマウスの脾細胞を抗FcγRII/III mAbで前処理し、次いでマウスCD43、CD90、CD3、c−kit、F4/80、Gr−1、CD4、CD8、CD11b、Ter119、CD93、CD11c、CD138およびヒトIgDに対するビオチン化mAbとインキュベートした。クラススイッチ記憶B細胞を、ストレプトアビジンマイクロビーズ(Miltenyi Biotec)を用いたMACSシステムによって濃縮した。これに続いてB220−BV786,CD38−AF700,PE標識CoV2−S,APC標識CoV2−RBD,streptavidin−efluor450,DAPIで染色した。染色した細胞を分析し、FACSAria装置(BD Bioscience)を用いて単一細胞で96ウェルプレートに選別した。
単一細胞培養
フィーダー系細胞(NB21.2D9細胞)を、単一B細胞選別の1日前に、B細胞培地(BCM;10% Hyclone FBS、1mM ピルビン酸ナトリウム、10mM HEPES、MEM非必須アミノ酸、100IU/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン、および55μM 2−メルカプトエタノールを含有するRPMI−1640)中、1ウェルあたり1000NB21.2D9細胞で96ウェルプレートに播種した。翌日、BCM中のマウスIL−4(Peprotech:2ng/mL)を培養物に添加し、マウス/ヒトB細胞をウェル当たり1細胞で96ウェルプレートに直接選別し、次いでフィーダー系細胞と共培養した。培養後、培養上清を回収し、分泌されたmAbのエピトープをマッピングするためにELISAに供した。また、培養クローンB細胞を凍結し、組換えmAbを作るためのV(D)J配列解析およびV(D)J遺伝子回収を行った。
mAbsの生成
組換えモノクローナル抗体を、既報の知見に基づいて調製した(参考文献8、33)。簡潔には、単細胞培養物または公表されたmAb(REGN10933、REGN10987、S309)から選択されたB細胞サンプルのV/V遺伝子を、ヒトIgG1、IgG2、IgG3、またはIgG4重鎖およびκまたはλ軽鎖発現ベクターにクローニングした。重鎖および軽鎖ベクターの対を、製造者の指示に従ってExpi293F細胞(Thermo Fisher Scientific,Cat#:A14527)にトランスフェクトした。次いで、プロテインGカラム(Thermo Fisher Scientific)を使用して培養上清から抗体を精製し、PBSに対する透析後にさらなる分析に供した。
ACE2結合阻害
抗体によるACE2へのSARS−CoV2 RBD結合の阻害を決定するために、組換えヒトACE2(Biolegend)を96ウェルプレート(Corning)に4℃で一晩コーティングした。1% BSAを含むPBSでブロッキングした後、Avitagを有する組換えSARS−CoV2 RBDを、連続希釈抗体と共にRTで2時間予備インキュベートした。混合物をACE2被覆プレートのウェルに移し、次いで4℃で一晩インキュベートした。SARS−CoV2 RBDのACE2への結合は、ストレプトアビジン−HRP(Southern Biotech社)およびOPD−基質(Sigma−Aldrich社)を用いて開発された。490nmでの吸光度を、マイクロプレートリーダー(BioRad)を使用して読み取った。阻害百分率は(陽性対照のO.D.値試料のO.D.値)/(陽性対照のO.D.値陰性対照のO.D.値)×100として計算した。半最大有効濃度(EC50)を、非線形回帰曲線フィット(GraphPad Prism)を用いて決定した。
ウイルス中和アッセ
偽ウイルスウイルス中和アッセイのために、SARS−CoV2またはSARS−CoV1スパイクタンパク質を有するVSV psuedovirusを、連続希釈抗体と共に37℃で1時間インキュベートした。混合物に、96ウェル固体白色平底プレート(Corning)に播種したVeroE6またはVeroE6/TMPRSS2細胞を接種し、次いで、5% CO2と共に37℃で24時間インキュベートした。GroMax Navigator Microplate Liminomater(Promega)を用いて、培養した細胞におけるルシフェラーゼ活動をブライトグルシフェラーゼアッセイシステム(Promega)を用いて測定した。中和パーセンテージは、(ウイルスコントロールシグナル−サンプルシグナル)/(ウイルスコントロールシグナル−細胞のみのコントロールシグナル)×100として計算した。半最大阻害濃度(IC50)を、非線形回帰カーブフィット(グラフパッドプリズム)を用いて決定した。
真正ウイルス中和試験のために、100 TCID50のSARS−CoV−2 JPN/TY/WK−521株および連続希釈抗体を37℃で1時間インキュベートした後、96ウェル平底プレート(TPP)に播種したVeroE6/TMPRSS2細胞(JCRB1819、JCRBセルバンク)上に置いた。37℃、5% COで5日間培養後、20%ホルマリン(富士フイルム)で固定し、クリスタルバイオレット液(Sigma−Aldrich)で染色し、Epoch2(Biotek)で595nmの吸光度を測定した。中和パーセントは、(サンプルシグナル−ウイルス制御シグナル)/(細胞のみの制御シグナル−ウイルス制御シグナル)×100として計算した。
SPR
NT−108およびNT−193の全長フラグメントおよびFabフラグメントを、HBS−EP緩衝液(10mM HEPES pH7.4、150mM NaCl、3mM EDTA、0.005%界面活性剤P20)に溶解した。SPR実験は、Biacore3000またはT200(Cytiva)を用いて行った。ビオチン化したS−RBDタンパク質を、標準的なアミンカップリングキットを使用してアミンカップリングによってストレプトアビジンを固定化したCM5センサーチップあるいはCAPチップ(Cytiva)に流すことにより固定化した。陰性対照タンパク質としてβ2−ミクログロブリンを用いた。NTCOV抗体を、30μl/分の流速で、固定化S−RBDタンパク質上に注入した。データは、BIA evaluationバージョン4.1.1、T200 evaluationバージョン1.0およびORIGINバージョン2017ソフトウェアを用いて分析した。
結晶化、データ収集、および構造決定
S−RBD−NT−108錯体の結晶を、293Kで、シッティングドロップ蒸気拡散法により成長させた。最終結晶化条件は、0.1M HEPES pH 7.5、10%(w/v)PEG 8000、8%(w/v)エチレングリコールであった。結晶を液体窒素中で凍結し、X線回折実験をフォトンファクトリー(筑波、日本)のビームラインBL−17Aで行った。X線回折データセットをXDSで処理し、CCP4プログラムパッケージにおいてAimlessでスケーリングした。S−RBD構造(PDB ID:7jmp)を探索プローブとするPHENIXパッケージのPhaserプログラムを用いた分子置換法により構造を解明し、phenix.refineとCOOTを用いて構造精密化を行った。Molprobityを用いて構造の立体化学的性質を評価した。図5−2、図6−7及び図6−8は、PyMOL(http://PyMOL.sourceforge.net)を用いて調製した。分子間接触原子を、CCP4プログラムパッケージにおいてPISAおよびCONTACTを用いて分析した。
in vivo負荷試験
ハムスターモデルにおける抗体処理によるSARS−CoV2ウイルス感染に対する防御を決定するために、シリアンハムスター(i)にケタミン塩酸塩/キシラジンを腹腔内注射し、次いでSARS−CoV2ウイルスJPN/TY/WK−521/2020に80μLの容量で10 TCID50の投与量で感染させたi.n.(鼻腔内)で麻酔した。抗体を、200μLの一定体積中、5または1.25mg/kg体重のPBSで希釈し、次いで、予防的処置のためのウイルスチャレンジの2時間前または治療的処置のためのウイルスチャレンジの1日後のいずれかに、腹腔内注射によって投薬した。すべてのハムスターについて、感染後6日まで生存率および体重減少を毎日モニターした。ヒトエンドポイントを、ウイルスチャレンジ時(0日目)の初期体重に対する25%体重減少として設定した。
ウイルスRNAのqRT−PCR分析
ウイルス量は、SARS−CoV−2のヌクレオカプシドゲノムRNAを検出するqRT−PCRにより測定した。Direct−zol miniprepキット(Zymo580 research,Cat.No.R2050)を用いて肺ホモジネートから肺の全RNAを抽出した。TissueLyser LT(Qiagen)を用いて全肺ホモジネートを調製した。qRT−PCR反応は、QuantiTect Probe RT−PCRキット(Qiagen #204443)を用いて、次の周期プロトコール:30分50℃、15分95℃、次いで15秒95℃、1分60℃の45周期で複製した。qRT−PCRに使用されるプライマーおよびプローブ配列は、順方向:5’−AAATTTTGGGGACCAGGAAC−3’(配列番号31)、逆方向:5’−TGGCAGCTGTGTAGGTCAAC−3’(配列番号32)、プローブ:5’FAM−ATGTCGCGCATTGGCATGGA−BHQ−3’(配列番号33)である。検量線は、既知のコピー数(10~10コピー/μL)を有する精製PCR産物の連続10倍希釈を用いて構築する。
(3)結果及び考察等
本実施例では、マウスIgノックアウトバックグラウンド下で、全ヒトIg重鎖およびκ鎖遺伝子座を含む遺伝子操作された染色体を安定に維持するTC−mAbマウスを利用している(参考文献7)。図6−1に示すように複数の抗原で連続的に免疫化した後、CoV2受容体結合ドメイン(RBD)に結合するB細胞を、前述のように単一細胞培養のために選別した(参考文献8)。高親和性CoV2 RBDバインダーのうち、CoV2中和活性は、VSVベースの偽ウイルスアッセイに基づく2つのクローンから検出された(図5−1A)。1つのクローン(#108)はCoV2 RBDに株特異的であり、別のクローン(#193)はCoV2/CoV1 RBDに交差反応性であった。以下、#108および#193クローンをそれぞれNT−108およびNT−193と表記した。
RBS抗体はしばしば、公共のV遺伝子(参考文献9;参考文献10)によってコードされるが、NT−108およびNT−193はそれぞれ、非定型IGHV6−1およびIGHV4−34遺伝子を利用する(図6−2)。COVID−19患者(2021年1月17日現在)からの658のCoV2 RBD抗体のうち、2つのIGHV6−1コード抗体のみがCoV−AbDabデータベースに寄託されている(参考文献1)。対照的に、自己反応抗体(参考文献11)の代表的なV遺伝子であるIGHV4−34は、COVID−19患者(参考文献12)のB細胞からより頻繁に回収され、CoV−AbDabデータベース(参考文献1)の11のCoV2 RBD抗体によって利用された。注目すべきことに、CoV1交差反応性は、11のV4−34にコードされたRBD抗体(参考文献13)のうちの2つで検出され、このV遺伝子がCoV1交差反応性を促進する可能性がある。
RBSエピトープは、2つのタイプの分類;1つの分類(参考文献14)におけるクラス1および2、ならびに別の分類(参考文献2)におけるA、B、およびCによって細分され得る。さらに、スパイクRBD内には、クラス3/4またはS309−潜在性/CR3022−プロテオグリカン部位のいずれかとして示される非RBSエピトープが存在する。クラス4(CR3022−プロテオグリカン)エピトープは一般に、不十分にまたは非中和クローンによって標的化され(参考文献15)、それによって、本発明者らは、さらなる分析からこのクラスに対する抗体を除外した。組換えヒトIgG1/κ抗体を、NT−108およびNT−193 V/V配列に基づいて発現させた。比較のために、ヒト化マウス由来REGN10933およびヒト由来REGN10987抗体も調製した(参考文献4)がこれは、抗体カクテルが治療的使用のために動物モデルおよびヒトにおいて有効であるからである(参考文献16、17)。さらに、クラス3エピトープに対するS309抗体を、CoV1/CoV2交差中和抗体の代表として発現させた(参考文献15、18)。NT−108およびNT−193の両方のIgG1は、ヒトACE2へのRBD結合を阻害したが(図5−1B)、非RBS抗体であるS309は阻害しなかった(図6−3)。それらのエピトープクラスについてのさらなる洞察を得るために、RBDクラス1−3エピトープが各クラスの代表的な抗体によってマスクされた競合ELISAを実施した(図5−1C)。クラス2抗体(C002)による強力な競合は、NT−108およびNT−193の両方が実際にRBS抗体であることを強化した。クラス1抗体によるさらなる競合は、NT−193がクラス1および2を包含するエピトープを認識することを示唆する。NT−108およびNT−193は、おそらく、互いに競合する際に部分的に重複するエピトープを認識する。重要なことに、両方の抗体はCoV2偽型ウイルスおよび真正ウイルスに対して非常に強力な中和活性を示し、このIC50は、REGN抗体(一桁または二桁ng/mL)と同程度に強力である(図5−1Dおよび5−1E)。強力な中和活性は表面プラズモン共鳴(SPR)解析によって実証されるように、RBDに対する顕著な高親和性(見かけの親和性は~10−11~−12M)によって支持されるよう(図5−1F)。従って、従来のV使用ではないにもかかわらず、NT−108およびNT−193の両方は、高度に中和するRBS抗体である。
NT−108とNT−193との間の明確な特徴は、CoV1に対する交差反応性である(図5−1A)。本発明者らはさらに、MERSおよび4つの季節性CoVを含む種々のCoVS三量体に対するそれらの交差反応性を調べた(図6−4)。NT−108からはいずれのCoVに対する交差反応性も検出されず、NT−193の交差反応性はCoV1のみに限定された。注目すべきことに、NT−193はCoV1 RBDと高い親和性で結合し(図6−5)、CoV2ウイルスと同等の強さでCoV1を中和した(図5−1G)。CoV1/CoV2交差中和抗体はいくつかの群(参考文献13、18~20)から単離されているが、CoV1またはCoV2のいずれか、あるいはその両方に対する中和活性は一般にNT−193(6.1ng/mL IC50)よりも弱い(〉100ng/mL IC50)。したがって、NT−193は、CoV2およびCoV1ウイルスの両方を強力かつ同等に中和する独特のRBS抗体である。
個々のCoV2ビリオン(参考文献21)の表面には24±9Sの三量体しか提示されていない。このような低密度のSタンパク質はHIV−1(参考文献22)で以前に観察されたように、インターSタンパク質架橋に必要な抗体による二価結合を妨害する可能性がある。HIV−1では、長く柔軟なヒンジ領域をもつIgG3サブクラスに関連するEnv結合抗体によって、架橋の上昇が達成された(参考文献23)。CoV2ビリオン上の低密度のRBSエピトープを模倣するために、RBDタンパク質を非飽和濃度でELISAプレート上にコーティングした(図6−6)。その後、IgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4サブクラスのNT−108およびNT−193を、結合結合活性を評価するためにプレートに添加した。サブクラス依存性の差はRBDの飽和濃度に対する結合曲線では観察されなかったが、他のIgGサブクラスと比較して、RBDの非飽和濃度に結合したIgG3サブクラスの量が増加した。偽型および真正CoV2ウイルスを用いたウイルス中和アッセイにより、IgG3サブクラスにおける優れた活性が確認された(図6−6)。
Sタンパク質と抗体との相互作用の構造的側面を解明するために、x線結晶解析を行った。S−RBDタンパク質とNT−193のFab断片との複合体の結晶を得ることに成功した。錯体の構造を2.8Å分解能で決定した(表2−1)。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000011
NT−193は、ACE2の結合部位と広く重複するS−RBDの上部領域を認識する(図5−2A)。クラス1/RBS−A/B抗体(参考文献2、14)もまた、上部領域を認識するが、NT−193の認識様式は明らかに異なるものであり、かつ独特である(図5−2Bおよび図6−7A)。特に、NT−193抗体は、ACE2結合部位に対する認識のために、軽鎖のCDR−L1およびCDR−L3だけでなく、フレーム領域、DEループも利用する(図5−2C及び5−2D、表2−2)。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000012
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000013
一方、重鎖の突出したCDR−H3CDR−H3は、CDR−H1とCDR−H2のほんの一部と一緒になってACE2結合部位に隣接するCoV1/CoV2保存領域と結合する(図5−2E及び5−2F、並びに図6−8及び図6−9)。これらの構造的特徴は、抗体複合体の非定型的な結合様式であり(図6−7B)、おそらく、強力な中和活性およびCoV2およびCoV1に対する交差反応性に寄与するものである。。
CDR領域の結合界面について詳細に見ると(表2−3)、CDR−L3に関しては、Phe−94がS−RBDのTyr−449とπ−π相互作用を行う(図5−2G)。
Figure JPOXMLDOC01-appb-T000014
Figure JPOXMLDOC01-appb-I000015
さらに、S−RBDのTyr505は、CDR−L3のTrp97およびLeu95、ならびにCDR−H1のTyr33を含む疎水性パッチによって囲まれている(図6−8B)。一方、CDR−L1のTyr33はLeu455と疎水性相互作用を行い、Lys417およびTyr453と極性相互作用を行う(図5−2H)。興味深いことに、DEループの主鎖はS−RBDと水素結合し、Tyr−489とPhe−486の間にも挟まれている(図5−2C及び5−2I)。次に、重鎖CDR−H3では、大きな疎水性相互作用が観察され、CoV−1/2保存領域を認識する3つの連続チロシン、Tyr−103、Tyr−104、Tyr−105(図5−2F)が含まれる。特に、Tyr−104は深く突出し、S−RBDのLys−417およびArg−403とπ−カチオン相互作用をする(図6−8C)。以上により、NT−193の軽鎖のCoV2 S−RBD上のエピトープはACE2結合部位の大部分をカバーし、一方、その重鎖のCDR−H3は膜融合前三量体の形成に関連するであろうCoV−1/2保存領域を認識する(図6−8A)。他の報告されている抗体の重鎖とは対照的に、NT−193は脆弱性の部位を必要最小限のフットプリントで選択的に標的とし、強力な中和活性と交差反応性の両方を可能にしている(図6−9)。
近年、いくつかの変異株が出現し、懸念される変異株(VOC)と呼ばれる病原性、伝播性、抗原性が潜在的に交代している。次に、いくつかのVOC株(501Y.V1から3株、501Y.V3から1株)に対するNT−193の交差中和活性を評価した(図5−3A)。501Y.V3株はモノ治療用途(参考文献25)により、REGN10933やLY−CoV555を含むRBS抗体の中和活動を10−1000倍減少させるE484Kミューテーションを持っていることに注意する必要がある。さらに、501Y.V3株はREGN10933およびLY−COV016(参考文献4,26,27)からの脱出を可能にするベアK417のミューテーションを有している。これらの突然変異にもかかわらず、NT−193は、元の武漢株を中和するために必要とされるより低い濃度であっても、これらのすべてのVOCを中和した(データーは提出前にIC50に置き換えられる)。これらのデータは、従来のRBS抗体からの逃避突然変異の出現に対するNT−193の耐性の増加を強調している。
シリアンハムスターモデルを用いて、NT−193単独療法またはNT−108/NT−193のカクテルの予防的および治療的有効性を検討した。このカクテルは、in vitro逃避スクリーニング下で逃避変異体の出現を防止した(図6−8)。ハムスターにSARS−CoV−2を鼻腔内(治療的)攻撃接種する2時間前(予防的)または1日後(治療的)に2用量(5mg/kgおよび1.25mg/kg)を投与した(図5−4A)。単剤投与またはそのカクテルによる予防は、感染後6日目までハムスターの重度の体重減少を予防した(図5−4B)。その予防効果は1.25mg/kgよりも5mg/kgの抗体の方が顕著であり、その効果は感染後2日目という早期に明らかとなった。処置群と未処置群との間の体重の差は、後の時点でさらに拡大した。予防と同様に、全ての治療処置は感染後6日目までにハムスターの体重減少を予防した(図5−4C)が、その効果は予防効果と比較してわずかに減弱した。また、SARS−CoV−2による肺の病態に対する予防効果および治療効果も評価した。6日目では単剤投与またはカクテル投与にかかわらず、抗体投与ハムスターの肺は対照ハムスターの肺よりも炎症性損傷が少なかった(図5−4Dおよび図6−9)。
NT−193結合様式の明確な特徴は、ウイルス中和抗体の間でユニークである二峰性抗原認識である。交差反応性は主に保存部位の重鎖認識によって獲得され、中和はRBSの軽鎖認識によって達成される(図5−2Cおよび図6−7B)。NT−193による高親和性結合を可能にする重要な接触部位は、CoV/CoV2保存部位におけるR403およびK417である。これらのアミノ酸における非保存性は、おそらく、MERSに対するNT−193交差反応性の欠如の原因である(P403およびP417)(図5−2D及び5−2E、並びに図6−9)。対照的に、クレード1b(SARS−CoV−2など)、クレード1a(SARS−CoVなど)、クレード2 HKU3、およびクレード3(BM48−31など)ウイルスにおけるこれらのアミノ酸の相対的保存性は、複数のクレード(参考文献28)におけるこれらのSARS様ウイルスに対するNT−193の広範なカバーを意味している。
中和RBS抗体は、類似の結合様式およびフットプリントを共有する公共のV遺伝子によってしばしばコードされる(参考文献9、10)。このような集中的な抗体応答は限定された多様性のために、抗体エスケープ突然変異を生じるリスクを増加させることができる。実際、免疫不全に陥ったCOVID−19患者における持続性感染はE484Kミューテーションのあるもの(参考文献29)を含むいくつかの変種を生み出し、収束中和抗体(参考文献30)からの脱出を可能にした。新興のVOCはE484Kミューテーション(参考文献31)を保有しており、ワクチン誘発型免疫と治療用抗体からのウイルス脱出の懸念を引き起こしている。そのため、エスケープ変異に抵抗性のある対策を講じる必要がある。さらに、動物リザーバー中を循環しているパンデミックの可能性を有するSARS様CoVに対する広範な中和活性を増加させることが望ましい。本発明者らは、NT−193がユニークな結合様式を介してこのような活性を有する候補の1つと考える。結合様式に関するさらなる構造情報は、広範囲のワクチンおよび治療薬を、複数のSARS様CoVおよび出現しつつある脱出変異体に導くことができる。
(4)参考文献
 本実施例中に記載の参考文献1~33の詳細を以下に示す。
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[配列表フリーテキスト]
 配列番号21:合成DNA
 配列番号24:合成ペプチド
 配列番号31:合成DNA
 配列番号32:合成DNA
 配列番号33:合成DNA

Claims (14)

  1. コロナウイルスのスパイクタンパク質に対する抗体。
  2. スパイクタンパク質が、細胞外領域又は受容体結合ドメインのタンパク質である請求項1に記載の抗体。
  3. スパイクタンパク質のエピトープが、受容体結合ドメインの全長アミノ酸配列のうち、R403、D405、E406、R408、T415、G416、K417、D420、Y449、Y453、L455、F456、G485、Y486、N487、Y489、Q493、S494、Y495、G496、Q498、N501、G502、V503、G504及びY505からなる群から選ばれる少なくとも2個のアミノ酸残基である、請求項1又は2に記載の抗体。
  4. 2個のアミノ酸残基がR403及びK417である請求項3に記載の抗体。
  5. コロナウイルスが、SARS−CoV1、SARS−CoV2又はMERS−CoVである請求項1に記載の抗体。
  6. 中和活性が、ウイルスの増殖抑制の指標であるIC50として1ng/ml未満である、請求項1~5のいずれか1項に記載の抗体。
  7. 重鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号14又は18で示されるものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体。
  8. 軽鎖可変領域のアミノ酸配列が配列番号16又は20で示されるものである、請求項1~6のいずれか1項に記載の抗体。
  9. 請求項1~8のいずれか1項に記載の抗体が結合するエピトープに結合する抗体。
  10. 抗体が、キメラ抗体、ヒト化抗体、又はヒト抗体である、請求項1~9のいずれか1項に記載の抗体。
  11. 請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体を含む医薬組成物。
  12. コロナウイルス感染症治療のための請求項11に記載の医薬組成物。
  13. 請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体を含む、コロナウイルス検出用試薬。
  14. 請求項1~10のいずれか1項に記載の抗体を採取された生体試料と接触させる工程を含む、コロナウイルスの検出方法。
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