WO2019058744A1 - 印刷装置及び印刷方法 - Google Patents

Abstract

浮きが発生した媒体と記録ヘッドとの接触を防止しつつ、印刷再開までの時間を短縮して生産性の低下を抑制し、かつ、バリアブル印刷にて両面印刷を行う場合の表裏画像の整合を可能とする印刷装置及び印刷方法を提供する。本発明の一態様に係る印刷装置は、媒体浮き検出部によって媒体の浮きが検出された場合に、記録ヘッドを媒体搬送部の媒体支持面と対向する位置において印刷位置から退避位置に退避させ、かつ、媒体搬送を継続して印刷を一時中断し、媒体の浮きが解消した後に、記録ヘッドを印刷位置に戻して印刷を再開する。バリアブル印刷の後刷り面の印刷において媒体浮き回避制御を実行した際の印刷再開時に媒体の後刷り面に印刷される画像を、印刷再開時の媒体の先刷り面に印刷済みの先刷り画像に応じて変更する。

Description

印刷装置及び印刷方法

　本発明は印刷装置及び印刷方法に係り、特に、バリアブル印刷が可能なデジタル印刷装置及びその印刷制御技術に関する。

　デジタル印刷装置の一例であるインクジェット印刷装置は、インクの液滴を吐出する記録ヘッドと、用紙を搬送する用紙搬送機構とを備え、用紙を一定の方向に搬送し、かつ、記録ヘッドからインクを吐出することにより用紙上に画像を形成する。用紙搬送機構を用いて搬送される用紙には、皺や折れ曲がりなどの用紙浮きが発生する場合がある。用紙の浮き量が許容範囲を超えると、浮いた用紙が記録ヘッドに衝突して、記録ヘッドを故障させるおそれがある。

　特許文献１に開示されたインクジェット印刷装置は、用紙搬送経路における記録ヘッドの上流側に、用紙浮きを検出する用紙浮きセンサを備え、用紙浮きセンサにより許容範囲を超える用紙浮きを検出した場合に、用紙搬送用のドラムを緊急停止させ、記録ヘッドをドラム外のメンテナンス位置に退避させることにより、用紙が記録ヘッドに衝突することを防止している。

　特許文献２に開示されたインクジェット印刷装置は、用紙の浮き量が軽度である場合に、用紙搬送を停止させずに、記録ヘッドを用紙搬送面から離れる方向へ一時的に退避させ、浮きが発生した用紙を通過させた後に、記録ヘッドの位置を元の印刷位置に戻して、印刷を再開するよう構成されている。

　特許文献３には、実行中のジョブの途中でエラーにより印刷処理を中断した後に、印刷を再開する場合に、中断時点で印刷が完了しているページの重複印刷を回避し、中断されたページから印刷を再開するように印刷再開ページを特定する印刷制御装置が開示されている。

特開２０１０－１１１４７４号公報 国際公開第２０１６／００９９４１号 特開平１０－１７７４６４号公報

　特許文献１に記載のように、用紙浮きが発生した場合に、一律に用紙搬送を停止させて用紙と記録ヘッドの衝突を回避する制御を行うと、印刷再開までに時間がかかり、生産性が低下する。

　この点、特許文献２に記載のように、用紙の浮き量が軽度な場合は、用紙搬送を止めずに、記録ヘッドを一時上方へ退避して、浮きが発生した用紙を記録ヘッドの下を通過させた後に、自動で印刷に復帰する構成を採用することにより、印刷復帰までの時間を短縮することができる。

　特許文献１－３は、印刷を中断した後の印刷再開の処理について言及している。しかし、特許文献１－３には、デジタル印刷装置の強みの一つであるバリアブル印刷について記載がなく、また、両面印刷時に印刷を中断した状態から印刷を再開する場合の処理などについて言及されていない。

　インクジェット印刷装置に代表されるデジタル印刷装置は、同じ画像を繰り返し印刷し続ける非バリアブル印刷と、１枚ごとに異なる画像を印刷するバリアブル印刷とが可能である。

　特許文献２及び３では、印刷中断後に印刷を再開する場合、印刷を中断した画像から一律に印刷再開することになっている。しかし、両面印刷における裏面の画像は、表面の画像とセットになっているため、バリアブル印刷の場合、特に、後刷り面の印刷において中断した画像から一律に印刷を再開すると、表面と裏面の画像セットの整合性が崩れてしまうという問題がある。特許文献２及び３は、バリアブル印刷による両面印刷の表面と裏面の画像セットの整合性を考慮していない。

　上記の課題は、インクジェット印刷装置に限らず、記録ヘッドを用いて、様々な媒体に対して非接触で画像を形成するデジタル印刷装置に共通する課題である。なお、本明細書において「用紙」という用語は、材質や形態を問わず、画像が形成される「媒体」の意味を含む。

　本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、上記の課題を解決し、浮きが発生した媒体と記録ヘッドとの接触を防止しつつ、印刷再開までの時間を短縮して生産性の低下を抑制することができ、かつ、バリアブル印刷にて両面印刷を行う場合の表裏画像の整合を可能とする印刷装置及び印刷方法を提供することを目的とする。

　課題を解決するために、次の発明態様を提供する。

　態様１に係る印刷装置は、媒体を支持する媒体支持面を有し、媒体支持面に支持した媒体を搬送する媒体搬送部と、媒体搬送部を用いて搬送される媒体に画像を形成する記録ヘッドと、媒体搬送部の媒体支持面と対向する位置において記録ヘッドを媒体支持面に対して移動させて媒体支持面と記録ヘッドとの間の距離を変化させるヘッド昇降部と、記録ヘッドに対して媒体の搬送方向の上流側の位置に配置され、媒体搬送部を用いて搬送される媒体の浮きを検出する媒体浮き検出部と、媒体浮き検出部によって媒体の浮きが検出された場合に、ヘッド昇降部を用いて記録ヘッドを媒体搬送部の媒体支持面と対向する印刷位置から、印刷位置よりも媒体支持面との間の距離が遠い退避位置に退避させ、かつ、媒体搬送部を用いた媒体の搬送を継続して印刷を一時中断し、媒体の浮きが解消した後に、ヘッド昇降部を用いて記録ヘッドを退避位置から印刷位置に戻して印刷を再開する媒体浮き回避制御を行う制御部と、を備え、制御部は、バリアブル印刷の後刷り面の印刷において媒体浮き回避制御を実行して印刷を再開する場合の印刷再開時に媒体の後刷り面に印刷される画像を、印刷再開時の媒体の先刷り面に印刷済みの先刷り画像に応じて、印刷済みの先刷り画像に対応した画像に変更する。

　態様１に係る印刷装置によれば、搬送される媒体に浮きが発生した際に、媒体の搬送を継続しつつ、記録ヘッドを印刷位置から一時的に退避位置に移動させ、一時印刷を中断した状態で、浮きが発生した媒体を通過させる。そして、浮きが発生した媒体が記録ヘッドの位置を通過して媒体の浮きが解消した後に、記録ヘッドを退避位置から元の印刷位置に戻して印刷を再開する媒体浮き回避制御を行う。このような媒体浮き回避制御を実行することにより、浮きが発生した媒体と記録ヘッドとの接触を防止しつつ、生産性の低下を抑制できる。

　また、態様１に係る印刷装置によれば、バリアブル印刷の後刷り面の印刷において媒体浮き回避制御を実行して印刷を再開する場合には、印刷再開時の媒体の先刷り面に印刷済みの先刷り画像に合わせて、印刷再開時の媒体の後刷り面に印刷する画像が変更される。両面印刷の場合、表面の画像と裏面の画像とがペア（対）のセットになっており、印刷済みの先刷り画像に合わせて後刷り面の画像を印刷する必要がある。「印刷済みの先刷り画像に対応した画像」とは、両面印刷における先刷り面の画像とペア（対）になる画像セットとして定められた後刷り面の画像を指す。

　態様１に係る印刷装置によれば、バリアブル印刷によって両面印刷を行う場合に媒体浮き回避制御を実行して一時的に印刷が中断されても、媒体浮きの解消後に自動的に表裏画像の整合を実現して印刷を再開することができる。

　態様２は、態様１の印刷装置において、制御部は、実行中のジョブの印刷種類に応じて、媒体浮き回避制御の印刷再開時に印刷される画像を切り替える印刷装置である。

　ジョブの印刷種類によって、表裏画像の整合性が問題になるケースと、問題にならないケースとがある。例えば、バリアブル印刷の先刷り面の印刷を行うジョブの場合、先刷り面の印刷を実施する時点で後刷り面は未印刷であるため、先刷り面の印刷の際における媒体浮き回避制御の印刷再開時に、後刷り面の画像との整合が崩れるという問題は発生しない。また、非バリアブル印刷では、同じ画像を連続的に印刷するため、先刷り面及び後刷り面を問わず、媒体浮き回避制御の印刷再開時に表裏画像の整合が崩れるという問題は発生しない。

　態様２に係る印刷装置によれば、例えば、バリアブル印刷の先刷り面の印刷中に、媒体浮きが発生して媒体浮き回避制御が実行された場合の印刷再開時に印刷する画像は、浮きが発生した媒体に印刷するはずであった画像、つまり、浮きの発生によって印刷に失敗した画像とすることができる。その一方で、バリアブル印刷の後刷り面の印刷中に、媒体浮きが発生して媒体浮き回避制御が実行された場合の印刷再開時に印刷する画像は、印刷再開時の媒体の先刷り面に印刷済みの先刷り画像に対応した画像とする。このように、実行中のジョブの印刷種類に応じて、媒体浮き回避制御の印刷再開時に印刷される画像を切り替えることが好ましい。

　態様３は、態様２の印刷装置において、印刷種類には、非バリアブル印刷とバリアブル印刷の先刷り面の印刷のうち少なくとも１種と、バリアブル印刷の後刷り面の印刷と、の少なくとも２種類が含まれる印刷装置である。

　非バリアブル印刷又はバリアブル印刷の先刷り面の印刷の場合、媒体浮き回避制御の印刷再開時に印刷される画像は、媒体浮きが発生した媒体に印刷するはずであった画像と同じ画像とすることができる。一方、バリアブル印刷の後刷り面の印刷の場合、媒体浮き回避制御の印刷再開時に印刷される画像は、印刷再開時の媒体に印刷済みの先刷り画像に対応した画像に変更される。

　態様４は、態様３の印刷装置において、印刷種類には、非バリアブル印刷と、バリアブル印刷の先刷り面の印刷と、バリアブル印刷の後刷り面の印刷と、の３種類が含まれる印刷装置である。

　態様５は、態様３又は態様４の印刷装置において、制御部は、実行中のジョブの印刷種類が、非バリアブル印刷、若しくは、バリアブル印刷の先刷り面の印刷である場合の媒体浮き回避制御の印刷再開の際に、媒体浮きが発生した媒体に印刷されるべき画像を印刷する処理を行う印刷装置である。

　非バリアブル印刷、若しくは、バリアブル印刷の先刷り面の印刷については、印刷中に、媒体浮きが発生して媒体浮き回避制御が実行された場合の印刷再開時に印刷される画像について表裏画像の整合が問題とならないため、印刷再開時に印刷される画像は、浮きが発生した媒体に印刷するべき画像とすることができる。

　態様６は、態様２から態様５のいずれか一態様の印刷装置において、記録ヘッドを用いて媒体に印刷される画像の画像データが格納される記憶部を備え、制御部は、媒体の浮きが発生した場合に、印刷種類に応じて、記憶部に格納されている画像データを保持する処理と、記憶部に格納されている画像データを、媒体の搬送と同期して媒体の印刷領域ごとに更新する処理と、を切り替える印刷装置である。

　媒体は、枚葉の媒体であってもよいし、連続媒体であってもよい。「媒体の印刷領域ごと」は、枚葉の媒体を用いる場合には、「媒体ごと」の意味を含んでいる。

　態様７は、態様６の印刷装置において、実行中のジョブの印刷種類が、非バリアブル印刷、若しくは、バリアブル印刷の先刷り面の印刷である場合は、媒体浮き回避制御の際に、記憶部に格納されている画像データを保持する印刷装置である。

　態様７に係る印刷装置によれば、媒体浮きが発生した媒体に印刷されるはずであった画像の画像データが記憶部に保持されるため、媒体浮きが解消した後に、速やかに、記憶部から画像データを読み出して印刷を再開することができる。

　態様８は、態様６又は態様７の印刷装置において、実行中のジョブの印刷種類が、バリアブル印刷の後刷り面の印刷である場合は、媒体浮き回避制御の際に、記憶部に格納されている画像データを、媒体の印刷領域ごとに更新することにより、印刷再開時の媒体の後刷り面に印刷する画像を、印刷済みの先刷り画像に対応した画像に変更する印刷装置である。

　態様８に係る印刷装置によれば、バリアブル印刷の後刷り面の印刷を実行中に媒体浮きが発生した場合に、媒体浮き回避制御により媒体の搬送を継続しつつ、記憶部に格納されている印刷用の画像データを、媒体の搬送に同期して媒体の印刷領域ごとに更新することで、印刷済みの先刷り画像に対応した後刷り面の画像が記憶部に準備される。これにより、媒体浮きが解消した後に、速やかに、記憶部から画像データを読み出して印刷を再開することができる。態様８に係る印刷装置によれば、印刷再開までに必要な損紙の量を低減することができ、生産性を向上させることができる。印刷再開までに必要な損紙の量とは、印刷できなかった媒体の数量を指す。

　態様９は、態様３から態様８のいずれか一態様の印刷装置において、媒体搬送部による媒体の搬送に同期して、媒体の印刷領域に対応した印刷タイミング信号を生成する印刷タイミング信号生成部を備え、印刷タイミング信号生成部は、非バリアブル印刷、若しくは、バリアブル印刷の先刷り面の印刷である場合の媒体浮き回避制御による印刷中断期間に、媒体の搬送と同期する媒体の印刷領域ごとの印刷タイミング信号の出力を休止する印刷装置である。

　態様９に係る印刷装置によれば、印刷タイミング信号の出力を休止している期間に、媒体の搬送に同期した画像データの処理、及び更新を止め、浮きが発生した媒体に印刷されるはずであった画像の画像データを記憶部に保持することができる。印刷タイミング信号生成部は、媒体浮きが解消した後に、媒体の印刷領域に対応した印刷タイミング信号の出力を再開する。

　態様１０は、態様９の印刷装置において、印刷タイミング信号生成部は、バリアブル印刷の後刷り面の印刷である場合の媒体浮き回避制御による印刷中断期間に、媒体の搬送と同期する媒体の印刷領域ごとの印刷タイミング信号の出力を継続する印刷装置である。

　態様１０に係る印刷装置によれば、媒体浮き回避制御による印刷中断期間において印刷タイミング信号の出力を継続することで、媒体の搬送に同期した画像データの処理、及び更新を継続することができ、印刷再開時に印刷される画像の画像データを記憶部に準備することができる。

　態様１１は、態様１の印刷装置において、記録ヘッドを用いて媒体に印刷される画像の画像データが格納される記憶部を備え、制御部は、バリアブル印刷の後刷り面の印刷において媒体浮き回避制御を実行する際に、記憶部に格納されている画像データを、媒体の搬送と同期して媒体の印刷領域ごとに更新する印刷装置である。

　態様１１によれば、媒体浮き解消後の印刷再開時に印刷される画像を、印刷済みの先刷り画像に対応した画像に変更することができる。

　態様１２は、態様１又は態様１１の印刷装置において、媒体搬送部による媒体の搬送に同期して、媒体の印刷領域に対応した印刷タイミング信号を生成する印刷タイミング信号生成部を備え、印刷タイミング信号生成部は、バリアブル印刷の後刷り面の印刷である場合の媒体浮き回避制御による印刷中断期間に、媒体の搬送と同期する媒体の印刷領域ごとの印刷タイミング信号の出力を継続する印刷装置である。

　態様１３は、態様１から態様１２のいずれか一態様の印刷装置において、制御部は、媒体浮き回避制御を実行したことによって印刷できなかった画像を、ジョブに従う一連の印刷が終了した後に、印刷する処理を行う印刷装置である。

　態様１３に係る印刷装置によれば、媒体浮きが発生したことによって印刷できなかった画像を、一連の印刷が終了した後にまとめて、再印刷することが可能である。

　態様１４は、態様１から態様１３のいずれか一態様の印刷装置において、媒体の先刷り面に印刷された先刷り画像を識別するために媒体に付された画像識別情報を読み取る識別情報読取部を備え、制御部は、識別情報読取部を用いて読み取られた画像識別情報を基に、媒体の後刷り面に印刷する画像を決定する印刷装置である。

　態様１５は、態様１から態様１４のいずれか一態様の印刷装置において、記録ヘッドは、インクジェットヘッドである印刷装置である。

　態様１６は、態様１から態様１５のいずれか一態様の印刷装置において、媒体浮き検出部は、予め設定された許容浮き量を超え、かつ、規定量以下である浮き量の媒体の浮きを検出し、制御部は、許容浮き量を超え、かつ、規定量以下である浮き量の媒体の浮きが検出された場合に、媒体浮き回避制御を実行する印刷装置である。

　態様１７は、態様１６の印刷装置において、規定量を超える浮き量の浮きが発生した場合に、媒体搬送部を用いた媒体の搬送を停止する印刷装置である。

　態様１８に係る印刷方法は、バリアブル印刷が可能な印刷装置を用いて両面印刷を行う印刷方法であって、媒体を支持する媒体支持面を有する媒体搬送部を用いて、媒体支持面に支持した媒体を搬送する媒体搬送ステップと、媒体搬送部を用いて搬送される媒体の浮きを検出する媒体浮き検出ステップと、媒体浮き検出ステップによって媒体の浮きが検出された場合に、印刷装置の記録ヘッドを媒体搬送部の媒体支持面と対向する位置において媒体支持面に対して移動させて媒体支持面と記録ヘッドとの間の距離を変化させるヘッド昇降部を用いて、記録ヘッドを印刷位置から、印刷位置よりも媒体支持面との間の距離が遠い退避位置に退避させ、かつ、媒体搬送部を用いた媒体の搬送を継続して印刷を一時中断し、媒体の浮きが解消した後に、記録ヘッドを退避位置から印刷位置に戻して印刷を再開する媒体浮き回避制御を行うステップと、バリアブル印刷の後刷り面の印刷において媒体浮き回避制御を実行して印刷を再開する場合の印刷再開時に媒体の後刷り面に印刷される画像を、印刷再開時の媒体の先刷り面に印刷済みの先刷り画像に応じて、印刷済みの先刷り画像に対応した画像に変更するステップと、を含む。

　態様１８の印刷方法において、態様２から態様１７によって特定した印刷装置の特定事項と同様の事項を適宜組み合わせることができる。その場合、印刷装置において特定される処理や動作を担う手段としての処理部や機能部の要素は、これに対応する処理や動作のステップ（工程）の要素として把握することができる。

　態様１８の印刷方法を実施することにより、表裏画像が整合した印刷物を得ることができる。態様１８の印刷方法は、媒体の両面に画像が印刷された印刷物の製造方法と理解することができる。

　本発明によれば、搬送される媒体に浮きが発生した場合に、記録ヘッドと媒体との接触を防止しつつ、印刷再開までの時間を短縮して生産性の低下を抑制することができる。また、本発明によれば、バリアブル印刷にて両面印刷を行う場合の表裏画像の整合を実現できる。

図１は、本発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置の全体構成図である。 図２は、インクジェット印刷装置の制御系の概略構成を示すブロック図である。 図３は、インクジェット印刷装置における描画部の要部を概略的に示した模式図である。 図４は、用紙浮きが発生した用紙と記録ヘッドの接触を回避する方策例１の説明図である。 図５は、用紙浮きが発生した用紙と記録ヘッドの接触を回避する方策例２の説明図である。 図６は、用紙浮きがない正常印刷時において各用紙に印刷される画像の例を印刷種類ごとに示した図表である。 図７は、用紙浮きが発生した場合の各用紙に印刷される画像の例を印刷種類ごとに示した図表である。 図８は、バリアブル印刷の場合の復帰画像を決定する処理のフローチャートである。 図９は、丁合印刷の印刷順の例を示す説明図である。 図１０は、画像識別パターンの印刷を含む先刷り工程の概念図である。 図１１は、図１０で説明した先刷り工程の後に実施される後刷り工程の概念図である。 図１２は、インクジェット印刷装置の構成の要部を示すブロック図である。 図１３は、インクジェット印刷装置において実施される画像データのハンドリングの例を示すブロック図である。 図１４は、バリアブル印刷による先刷り面の印刷のタイミングチャートの例である。 図１５は、バリアブル印刷かつ後刷り面の印刷のタイミングチャートの例である。

　以下、添付図面に従って本発明の好ましい実施の形態について詳説する。

　《インクジェット印刷装置の構成例》
　図１は、本発明の実施形態に係るインクジェット印刷装置１Ａの全体構成図である。インクジェット印刷装置１Ａは、描画部４０の記録ヘッドとしてライン型のインクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙを備え、枚葉紙である用紙Ｐにブラック（Ｋ）、シアン（Ｃ）、マゼンタ（Ｍ）、及びイエロー（Ｙ）の４色のインクを使用して、所望の画像をシングルパス方式で印刷するシングルパスインクジェット方式のカラーデジタル印刷装置である。

　本例では描画用のインクとして水性インクが用いられる。水性インクは、水及び／又は水に可溶な溶媒に顔料や染料などの色材を溶解又は分散させたインクをいう。なお、水性インクに代えて、紫外線硬化型インクを用いてもよい。

　インクジェット印刷装置１Ａは、給紙部１０と、処理液付与部２０と、処理液乾燥部３０と、描画部４０と、インク乾燥部５０と、集積部６０と、を備える。

　給紙部１０は、給紙装置１２と、フィーダボード１４と、給紙ドラム１６と、を備える。用紙Ｐは、多数枚が積み重ねられた束の状態で給紙台１２Ａに載置される。用紙Ｐの種類は、特に限定されないが、例えば、上質紙、コート紙、アート紙などのセルロースを主体とする印刷用紙を用いることができる。

　給紙装置１２は、給紙台１２Ａにセットされた束の状態の用紙Ｐを上から順に１枚ずつ取り出して、フィーダボード１４に給紙する。フィーダボード１４は、給紙装置１２から受け取った用紙Ｐを給紙ドラム１６へと搬送する。

　給紙ドラム１６は、フィーダボード１４から給紙される用紙Ｐを受け取り、受け取った用紙Ｐを処理液付与部２０へと搬送する。

　処理液付与部２０は、用紙Ｐに処理液を塗布する。処理液は、インク中の色材成分を凝集、若しくは不溶化又は増粘させる機能を備えた液体である。処理液付与部２０は、処理液塗布ドラム２２と、処理液塗布装置２４と、を備える。

　処理液塗布ドラム２２は、給紙ドラム１６から用紙Ｐを受け取り、受け取った用紙Ｐを処理液乾燥部３０へと搬送する。処理液塗布ドラム２２は、周面にグリッパ２３を備え、グリッパ２３で用紙Ｐの先端部を把持して回転することにより、用紙Ｐを周面に巻き付けて搬送する。

　処理液塗布装置２４は、処理液塗布ドラム２２によって搬送される用紙Ｐに処理液を塗布する。処理液はローラによって塗布される。処理液を塗布する方式は、ローラ塗布方式に限らない。処理液塗布装置２４には他の方式が適用されてもよい。処理液塗布装置２４の他の方式の例として、ブレードを用いた塗布、インクジェット方式による吐出、又はスプレー方式による噴霧などが挙げられる。

　処理液乾燥部３０は、処理液が塗布された用紙Ｐを乾燥処理する。処理液乾燥部３０は、処理液乾燥ドラム３２と、温風送風機３４と、を備える。処理液乾燥ドラム３２は、処理液塗布ドラム２２から用紙Ｐを受け取り、受け取った用紙Ｐを描画部４０へと搬送する。処理液乾燥ドラム３２は、周面にグリッパ３３を備える。処理液乾燥ドラム３２は、グリッパ３３で用紙Ｐの先端部を把持して回転することにより、用紙Ｐを搬送する。

　温風送風機３４は、処理液乾燥ドラム３２の内部に設置される。温風送風機３４は、処理液乾燥ドラム３２によって搬送される用紙Ｐに温風を吹き当てて、処理液を乾燥させる。

　描画部４０は、描画ドラム４２と、ヘッドユニット４４と、用紙浮きセンサ４５と、画像読取装置４８と、を備える。描画ドラム４２は、処理液乾燥ドラム３２から用紙Ｐを受け取り、受け取った用紙Ｐをインク乾燥部５０へと搬送する。描画ドラム４２は、ドラム周面にグリッパ４３を備え、グリッパ４３を用いて用紙Ｐの先端を把持して回転することにより、用紙Ｐを周面に巻き付けて搬送する。描画ドラム４２は、図示しない吸着機構を備え、周面に巻き付けられた用紙Ｐをドラム周面に吸着させて搬送する。吸着には、負圧が利用される。描画ドラム４２は、周面に多数の吸着孔を備え、この吸着孔を介して描画ドラム４２の内部から吸引することにより、用紙Ｐを描画ドラム４２の周面に吸着させる。用紙Ｐが吸着支持される描画ドラム４２の周面は、用紙を支持する用紙支持面に相当し、「媒体支持面」の一例である。また、描画ドラム４２の周面は、用紙搬送面に相当する。描画ドラム４２は「媒体搬送部」の一例である。描画ドラム４２を用いて用紙を搬送するステップは「媒体搬送ステップ」の一例である。

　用紙浮きセンサ４５は、描画ドラム４２によって搬送される用紙Ｐの用紙浮きを検出する手段である。用紙浮きは、用紙の皺及び／又は用紙の折れ曲がりなどによる浮き上がりである。用紙浮きの浮き量は、描画ドラム４２の用紙支持面からの高さで評価してもよいし、用紙支持面に支持された用紙Ｐの表面である基準印刷面からの高さで評価してもよい。

　用紙浮きセンサ４５は、描画ドラム４２における用紙搬送経路のヘッドユニット４４の上流側に配置され、ヘッドユニット４４の手前の位置で用紙浮きを検出する。用紙浮きセンサ４５は、用紙Ｐに対して非接触で用紙浮きを検出する非接触センサであることが好ましい。

　用紙浮きセンサ４５は、例えば、投光器と受光器の対から構成される。用紙浮きセンサ４５の詳細な構成は図示しないが、一例として、投光器と受光器は、描画ドラム４２の軸線方向に描画ドラム４２の両側に分かれて、互いに対向して配置される。描画ドラム４２の軸線方向とは、描画ドラム４２の回転軸に平行な方向である。

　投光器には、発光ダイオード、又は、レーザダイオードなど各種の発光素子を用いることができる。受光器には、受光量に応じた電気信号を出力する光電変換素子を用いることができる。

　投光器から出射される検査光の光軸は、描画ドラム４２の軸線方向と略平行であり、検査光の光束が描画ドラム４２の表面近くを通過する。

　用紙Ｐが描画ドラム４２から規定量を超えて浮き上がることによって、検査光の一部が遮られ、受光器に入射する光量（受光量）が減少するため、受光器から得られる信号によって用紙Ｐの浮きを検出することができる。描画ドラム４２の周面からの検査光の高さを調整することにより、検出する用紙浮き量を設定することができる。

　なお、用紙浮きセンサ４５は、描画ドラム４２の用紙支持面の幅方向の一端から光を照射し、他端に配置した反射面からの反射光を受光して用紙Ｐの浮きを検出する構成としてもよい。用紙支持面の幅方向とは、描画ドラム４２の軸線方向と平行な方向である。

　ヘッドユニット４４は、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙを含んで構成される。インクジェットヘッド４６Ｋは、ブラック（Ｋ）のインクの液滴を吐出する記録ヘッドである。インクジェットヘッド４６Ｃは、シアン（Ｃ）のインクの液滴を吐出する記録ヘッドである。インクジェットヘッド４６Ｍは、マゼンタ（Ｍ）のインクの液滴を吐出する記録ヘッドである。インクジェットヘッド４６Ｙは、イエロー（Ｙ）のインクの液滴を吐出する記録ヘッドである。なお、本明細書において「インクジェットヘッド」又は「記録ヘッド」を示す用語として、単に「ヘッド」と記載する場合がある。

　インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙのそれぞれには、対応する色のインク供給源である不図示のインクタンクから不図示の配管経路を介して、インクが供給される。

　インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々は、描画ドラム４２によって搬送される用紙Ｐに対して１回の走査によって、つまりシングルパス方式によって、印刷可能なラインヘッドで構成される。インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙは、各々のノズル面が描画ドラム４２の周面に対向して配置される。インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙは、描画ドラム４２による用紙Ｐの搬送経路に沿って一定の間隔をもって配置される。

　図１には示さないが、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々のノズル面には、インクの吐出口である複数個のノズルが二次元配列されている。「ノズル面」とは、ノズルが形成されている吐出面をいい、「インク吐出面」或いは「ノズル形成面」などの用語と同義である。二次元配列された複数個のノズルのノズル配列を「二次元ノズル配列」という。インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々のノズル面には、撥水膜が形成されている。

　インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々は、複数個のヘッドモジュールを用紙幅方向に繋ぎ合わせて構成することができる。ここでいう用紙幅は、用紙Ｐの搬送方向と直交する方向の用紙幅を指す。インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々は、用紙Ｐの搬送方向と直交する用紙幅方向に関して、用紙Ｐの全記録領域を、１回の走査で規定の記録解像度による画像記録が可能なノズル列を有するライン型の記録ヘッドである。このような記録ヘッドは「フルライン型の記録ヘッド」或いは「ページワイドヘッド」とも呼ばれる。なお、本明細書において、規定の記録解像度とは、インクジェット印刷装置１Ａによって予め定められた記録解像度であってもよいし、ユーザの選択により、若しくは、印刷モードに応じたプログラムによる自動選択により設定される記録解像度であってもよい。記録解像度として、例えば、１２００ｄｐｉとすることができる。「ｄｐｉ」は、dot per inch を意味し、１インチあたりのドット（点）の数を表す単位表記である。１インチは２５．４ミリメートル[ｍｍ]である。

　用紙Ｐの搬送方向と直交する用紙幅方向をラインヘッドのノズル列方向と呼び、用紙Ｐの搬送方向をノズル列垂直方向と呼ぶ場合がある。

　二次元ノズル配列を有するインクジェットヘッドの場合、二次元ノズル配列における各ノズルをノズル列方向に沿って並ぶように投影（正射影）した投影ノズル列は、ノズル列方向について、最大の記録解像度を達成するノズル密度で各ノズルが概ね等間隔で並ぶ一列のノズル列と等価なものと考えることができる。「概ね等間隔」とは、インクジェット印刷装置で記録可能な打滴点として実質的に等間隔であることを意味している。例えば、製造上の誤差及び／又は着弾干渉による媒体上での液滴の移動を考慮して僅かに間隔を異ならせたものなどが含まれている場合も「等間隔」の概念に含まれる。投影ノズル列は実質的なノズル列に相当する。投影ノズル列を考慮すると、ノズル列方向に沿って並ぶ投影ノズルの並び順に、各ノズルにノズル位置を表すノズル番号を対応付けることができる。

　インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々におけるノズルの配列形態は限定されず、様々なノズル配列の形態を採用することができる。例えば、マトリクス状の二次元配列の形態に代えて、一列の直線配列、Ｖ字状のノズル配列、Ｖ字状配列を繰り返し単位とするＷ字状などのような折れ線状のノズル配列なども可能である。

　描画ドラム４２によって搬送される用紙Ｐに向けて、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙのうち少なくとも１つのヘッドからインクの液滴が吐出され、吐出された液滴が用紙Ｐに付着することにより、用紙Ｐに画像が形成される。

　描画ドラム４２は、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙと用紙Ｐとを相対移動させる手段として機能している。描画ドラム４２は、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙに対して、用紙Ｐを搬送する媒体搬送機構の一形態に相当する。インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙのそれぞれの吐出タイミングは、描画ドラム４２に設置されたエンコーダから得られるエンコーダ信号に同期させる。図１においてエンコーダの図示は省略されている。吐出タイミングとは、インクの液滴を吐出するタイミングであり、打滴タイミングと同義である。

　なお、本例では、ＣＭＹＫの４色のインクを用いる構成を例示したが、インク色及び色数の組み合わせについては本実施形態に限定されず、必要に応じて淡インク、濃インク、特色インクなどを追加してもよい。例えば、ライトシアン、ライトマゼンタなどのライト系インクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成、又は、緑色若しくはオレンジ色などの特色のインクを吐出するインクジェットヘッドを追加する構成なども可能である。また、各色のインクジェットヘッドの配置順序も特に限定はない。

　画像読取装置４８は、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙによって用紙Ｐに記録された画像を光学的に読み取り、その読取画像を示す電子画像データを生成する装置である。画像読取装置４８は、用紙Ｐ上に記録された画像を撮像して画像情報を示す電気信号に変換する撮像デバイスを含む。画像読取装置４８は、撮像デバイスの他、読み取り対象を照明する照明光学系及び撮像デバイスから得られる信号を処理してデジタル画像データを生成する信号処理回路を含んでよい。

　画像読取装置４８は、カラー画像の読み取りが可能な構成であることが好ましい。本例の画像読取装置４８は、例えば、撮像デバイスとしてカラーＣＣＤ（Charge-Coupled Device）リニアイメージセンサが用いられる。カラーＣＣＤリニアイメージセンサはＲ（赤），Ｇ（緑），Ｂ（青）各色のカラーフィルタを備えた受光素子が直線状に配列したイメージセンサである。なお、カラーＣＣＤリニアイメージセンサに代えて、カラーＣＭＯＳ（Complementary Metal Oxide Semiconductor）リニアイメージセンサを用いることもできる。

　画像読取装置４８は、描画ドラム４２による用紙Ｐの搬送中に用紙Ｐ上の画像の読み取りを行う。このように用紙搬送経路に設置される画像読取装置は「インラインスキャナ」又は「インラインセンサ」と呼ばれる場合がある。また、画像読取装置４８はカメラであってもよい。

　インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの少なくとも１つを用いて画像が記録された用紙Ｐは、画像読取装置４８の読取領域を通過する際に、用紙Ｐ上の画像が読み取られる。用紙Ｐに記録される画像としては、ジョブで指定される印刷対象のユーザ画像の他、ノズルごとの吐出状態を検査するための不良ノズル検知パターン、印刷濃度補正用テストパターン、その他の各種のテストパターンが含まれ得る。

　画像読取装置４８によって読み取られた読取画像のデータを基に、印刷画像の検査が行われ、画質異常の有無が判断される。また、画像読取装置４８によって読み取られた読取画像のデータを基に、画像の濃度やインクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの吐出不良などの情報が得られる。

　インク乾燥部５０は、描画部４０によって画像が形成された用紙Ｐを乾燥処理する。インク乾燥部５０は、チェーングリッパ７０と、用紙ガイド８０と、加熱乾燥処理部９０と、を備える。

　チェーングリッパ７０は、描画ドラム４２から用紙Ｐを受け取り、受け取った用紙Ｐを集積部６０へと搬送する。チェーングリッパ７０は、規定の走行経路を走行する一対の無端状のチェーン７２を備え、その一対のチェーン７２に備えられたグリッパ７４によって用紙Ｐの先端部を把持した状態で用紙Ｐを規定の搬送経路に沿って搬送する。グリッパ７４は、チェーン７２に一定の間隔で複数備えられる。

　本例のチェーングリッパ７０は、第１スプロケット７１Ａと、第２スプロケット７１Ｂと、チェーン７２と、複数のグリッパ７４と、を含んで構成され、一対の第１スプロケット７１Ａ及び第２スプロケット７１Ｂに、一対の無端状のチェーン７２が巻き掛けられた構造を有している。図１には、一対の第１スプロケット７１Ａ及び第２スプロケット７１Ｂ並びに一対のチェーン７２のうち、一方のみが図示されている。

　チェーングリッパ７０は、チェーン７２の送り方向（長さ方向）における複数の位置に複数のグリッパ７４が配置される構造を有している。また、チェーングリッパ７０は、一対のチェーン７２の間に、用紙幅方向の幅方向に沿って複数のグリッパ７４が配置される構造を有している。図１には、一対のチェーン７２の間に配置される複数のグリッパ７４のうち、一つのグリッパ７４のみが図示されている。

　チェーングリッパ７０による用紙Ｐの搬送経路は、用紙Ｐを水平方向に沿って搬送する水平搬送領域と、水平搬送領域の終端から用紙Ｐを斜め上方向に搬送する傾斜搬送領域とを含んでいる。水平搬送領域を第１搬送区間といい、傾斜搬送領域を第２搬送区間という。

　用紙ガイド８０は、チェーングリッパ７０による用紙Ｐの搬送をガイドする機構である。用紙ガイド８０は、第１用紙ガイド８２と第２用紙ガイド８４を含んで構成される。第１用紙ガイド８２は、チェーングリッパ７０の第１搬送区間を搬送される用紙Ｐをガイドする。第２用紙ガイド８４は、第１搬送区間の後段の第２搬送区間を搬送される用紙をガイドする。

　第１用紙ガイド８２の詳細な構造は、図１に示されていないが、第１用紙ガイド８２として、吸着ベルト搬送装置が用いられている。吸着ベルト搬送装置は、無端状の搬送ベルトに用紙Ｐを吸着させた状態で、搬送ベルトを送ることにより用紙Ｐを搬送する装置である。

　加熱乾燥処理部９０は、描画部４０によって画像が形成された用紙Ｐに熱を加えてインクの溶媒を蒸発させ、用紙Ｐを乾燥させる。加熱乾燥処理部９０は、例えば、温風送風ユニットであり、第１用紙ガイド８２と対向して配置され、チェーングリッパ７０によって搬送される用紙Ｐに温風を吹き当てる。

　吸着ベルト搬送装置を用いた第１用紙ガイド８２と、加熱乾燥処理部９０と、を含む乾燥装置の構成について詳細な説明は後述する。

　集積部６０は、チェーングリッパ７０によってインク乾燥部５０から搬送されてくる用紙Ｐを受け取り、集積する集積装置６２を備える。チェーングリッパ７０は、所定の集積位置で用紙Ｐをリリースする。集積装置６２は集積トレイ６２Ａを備え、チェーングリッパ７０からリリースされた用紙Ｐを受け取り、集積トレイ６２Ａの上に束状に集積する。集積部６０は排紙部に相当する。

　上述した構成の他、図１には示されていないが、インクジェット印刷装置１Ａは、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々を個別に、それぞれのノズル面の法線方向に移動可能なヘッド昇降部を備える。ヘッド昇降部は、図２において符号２００として記載した。ヘッド昇降部２００を用いて、各ヘッドのノズル面と描画ドラム４２の外周面との間の距離（ギャップ）を変化させることができる。

　インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々は、ヘッド昇降部２００によって印刷位置から上方の退避位置に移動させることができ、また、退避位置から印刷位置に戻すことができる。ここでいう「上方」とは、用紙支持面としての描画ドラム４２の周面から、描画ドラム４２の外側に離れる方向を指す。印刷位置は、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々が用紙Ｐに対して画像を形成する際のヘッド位置である。退避位置は、印刷位置よりも上方の描画ドラム４２の用紙支持面からの距離が遠い位置であり、用紙浮きが発生した場合に、用紙Ｐとの接触を回避するために各ヘッドを退避させる位置である。

　また、図１には示されていないが、描画部４０における各色のインクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙは共通のヘッド支持フレームに支持されている。インクジェット印刷装置１Ａは、ヘッド支持フレームに取り付けられているインクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙを含むヘッドユニット４４の全体をヘッド支持フレームと共に描画ドラム４２の上方に移動可能な図示せぬヘッドユニット昇降部を備える。

　更に、インクジェット印刷装置１Ａは、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙを含むヘッドユニット４４全体をヘッド支持フレームと共に描画ドラム４２の軸線方向に水平移動可能なヘッド水平移動部を備える。図１に示されていないヘッド水平移動部は、図２において符号２０２として記載した。

　また、図１では図示が省略されるが、インクジェット印刷装置１Ａは、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙのメンテナンス処理を行うメンテナンス部を備える。メンテナンス部は、描画ドラム４２の軸方向に描画ドラム４２と並んで設置される。メンテナンス部は、図２において符号２４０として記載した。

　《インクジェット印刷装置の制御系の説明》
　図２は、インクジェット印刷装置１Ａの制御系の概略構成を示すブロック図である。インクジェット印刷装置１Ａは、システムコントローラ１００を備える。システムコントローラ１００は、ＣＰＵ（Central Processing Unit）１００Ａ、ＲＯＭ（Read Only Memory）１００Ｂ、及びＲＡＭ（Random Access Memory）１００Ｃを含んで構成される。ＲＯＭ１００Ｂ、ＲＡＭ１００Ｃ等の記憶部は、システムコントローラ１００の外部に設けられていてもよい。

　システムコントローラ１００は、インクジェット印刷装置１Ａの各部を統括的に制御する全体制御部として機能する。また、システムコントローラ１００は、各種演算処理を行う演算部として機能する。更に、システムコントローラ１００は、ＲＯＭ１００Ｂ、及びＲＡＭ１００Ｃなどのメモリにおけるデータの読み出し、及びデータの書き込みを制御するメモリコントローラとして機能する。

　インクジェット印刷装置１Ａは、通信部１０２、画像メモリ１０４、画像処理部１０６、搬送制御部１１０、給紙制御部１１２、処理液付与制御部１１４、処理液乾燥制御部１１６、描画制御部１１８、ヘッド昇降制御部１２０、ヘッド水平移動制御部１２２、インク乾燥制御部１２４、排紙制御部１２６、及びメンテナンス制御部１２８を備えている。これらの各部の要素は、１台又は複数台のコンピュータによって実現することが可能である。つまり、システムコントローラ１００を含む制御部の各要素は、コンピュータのハードウェアとソフトウェアとの組み合わせによって構成することができる。また、制御に必要な処理機能の一部又は全部は、ＤＳＰ（Digital Signal Processor）やＦＰＧＡ(Field Programmable Gate Array)に代表される集積回路を用いて実現してもよい。

　通信部１０２は、図示されない通信インターフェースを備え、通信インターフェースと接続されたホストコンピュータ３００との間でデータの送受信を行うことができる。

　画像メモリ１０４は、画像データを含む各種データの一時記憶部として機能する。通信部１０２を介してホストコンピュータ３００から取り込まれた画像データは、一旦、画像メモリ１０４に格納される。

　画像処理部１０６は、入力画像データからドットデータを生成する。画像処理部１０６は、色分解処理部、色変換処理部、補正処理部、及びハーフトーン処理部を含んで構成される。画像処理部１０６において、入力画像データに対してＲＧＢの各色に分解する色分解処理、ＲＧＢデータをＣＭＹＫデータに変換する色変換処理、ガンマ補正、ムラ補正等の各種補正処理、並びに、各色の画素ごとの階調値を元の階調値未満の階調値に変換するハーフトーン処理が施される。画像処理部１０６が実施する補正処理には、不良ノズルに起因する画像欠陥を抑制する不良補正の処理が含まれる。

　入力画像データは連続階調の画像データである。入力画像データの一例として、０から２５５のデジタル値で表されるラスターデータが挙げられる。ハーフトーン処理の結果として得られるドットデータは、二値でもよいし、三値以上ハーフトーン処理前の階調値未満の多値でもよい。画像処理部１０６の処理機能の一部又は全部は、システムコントローラ１００若しくは描画制御部１１８に含まれていてもよい。

　搬送制御部１１０は、インクジェット印刷装置１Ａにおける用紙Ｐの搬送系１１の動作を制御する。搬送系１１には、図１に示された給紙ドラム１６、処理液塗布ドラム２２、処理液乾燥ドラム３２、描画ドラム４２などの用紙搬送機構が含まれる。また、搬送系１１には、図示せぬ動力源としてのモータ及びモータ駆動回路などの駆動部が含まれる。

　図２に示された給紙制御部１１２は、システムコントローラ１００からの指令に応じて給紙部１０を動作させる。給紙制御部１１２は、用紙Ｐの供給開始動作、及び用紙Ｐの供給停止動作などを制御する。

　処理液付与制御部１１４は、システムコントローラ１００からの指令に応じて処理液付与部２０を動作させる。処理液付与制御部１１４は、処理液の付与量、及び付与タイミングなどを制御する。

　描画制御部１１８は、システムコントローラ１００からの指令に応じて、ヘッドユニット４４の描画動作を制御する。描画制御部１１８は、波形生成部、波形記憶部、及び駆動回路を含んで構成される。波形生成部、波形記憶部、及び駆動回路の図示は省略される。波形生成部は、ヘッドユニット４４の各インクジェッドヘッドを吐出動作させる駆動電圧の波形を生成する。波形記憶部には駆動電圧の波形が記憶される。駆動回路はドットデータに応じた駆動波形を有する駆動電圧を生成する。駆動回路は駆動電圧をヘッドユニット４４のインクジェッドヘッドに供給する。

　インクジェット印刷装置１Ａは、搬送系１１における描画ドラム４２の回転角度を検出する手段としてのエンコーダ２０６を備えている。エンコーダ２０６は、は、描画ドラム４２に備えられ、描画ドラム４２による用紙Ｐの搬送量に応じた信号を出力する。ここでは、描画ドラム４２の回転軸の単位回転角度毎にパルス信号を出力するロータリエンコーダを用いている。インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々は、エンコーダ２０６が出力するエンコーダ信号から生成される吐出タイミング信号に従って吐出タイミングが制御される。

　画像処理部１０６による処理を経て生成されたドットデータに基づいて、各画素位置の吐出タイミング、インク吐出量が決められ、各画素位置の吐出タイミング、インク吐出量に応じた駆動電圧、及び各画素の吐出タイミングを決める制御信号が生成される。描画制御部１１８にて生成された駆動電圧がインクジェットヘッドへ供給され、インクジェットヘッドから吐出させたインクによってドットが形成される。

　ヘッド昇降制御部１２０は、システムコントローラ１００からの指令に応じてヘッド昇降部２００を動作させる。ヘッド昇降部２００は、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々を、ノズル面の法線方向に昇降移動させる機構とその動力源となるモータを含む。

　インクジェット印刷装置１Ａは、用紙浮き検出部２０８を備える。用紙浮き検出部２０８は、図１で説明した用紙浮きセンサ４５を含む。用紙浮き検出部２０８は、用紙浮きセンサ４５の出力信号に基づいて、用紙浮きセンサ４５の検出領域を通過した用紙Ｐの浮きの有無を判定する回路を含んでもよい。

　用紙浮き検出部２０８は、浮きが発生している用紙Ｐの検出情報をシステムコントローラ１００へ送出する。用紙Ｐの検出情報には、用紙Ｐの浮き量の情報が含まれる。用紙浮き検出部２０８を用いて用紙Ｐの浮きを検出するステップは「媒体浮き検出ステップ」の一例である。

　システムコントローラ１００は、浮きが発生している用紙Ｐの検出情報を取得すると、ヘッド昇降制御部１２０に対して、各インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙを退避位置へ移動させる指令を送出する。用紙浮き検出部２０８は、媒体浮き検出部の一例である。

　用紙浮き検出部２０８によって用紙浮きが検出されると、ヘッド昇降部２００が駆動され、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙが印刷位置から上方の退避位置に移動される。また、用紙浮きが発生した用紙Ｐがインクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの下を通過すると、各インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙは、退避位置から印刷位置へと戻される。

　ヘッド水平移動制御部１２２は、システムコントローラ１００からの指令に応じてヘッド水平移動部２０２を動作させる。ヘッド水平移動部２０２は、ヘッドユニット４４を描画ドラム４２の軸線方向に水平移動させる機構とその動力源となるモータを含む。ヘッド水平移動部２０２は、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙを、描画部４０とメンテナンス部２４０との間で移動させる。

　インク乾燥制御部１２４は、システムコントローラ１００からの指令に応じてインク乾燥部５０を動作させる。インク乾燥制御部１２４は、乾燥気体温度、乾燥気体の流量、又は乾燥気体の噴射タイミングなどを制御する。

　排紙制御部１２６は、システムコントローラ１００からの指令に応じて集積部６０を動作させる。図１に示された集積装置６２が昇降機構を含む場合に、排紙制御部１２６は、用紙Ｐの増減に応じて昇降機構の動作を制御する。集積部６０は、正常に印刷がなされた用紙Ｐと、印刷に失敗した用紙Ｐとを区別せずに用紙搬送順にそのままスタックしてもよいし、印刷に失敗した用紙Ｐとを選別して、正常に印刷された用紙Ｐと、印刷に失敗した用紙Ｐとを別々にスタックしてよい。排紙制御部１２６は、正常に印刷がなされた用紙Ｐと、印刷に失敗した損紙と判断された用紙Ｐとの仕分けを制御してもよい。

　メンテナンス制御部１２８は、システムコントローラ１００からの指令に応じてメンテナンス部２４０の動作を制御する。メンテナンス部２４０は、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙのそれぞれのノズル面のクリーニング及び／又は保湿のためのキャッピングなどのメンテナンス処理を行う処理部である。メンテナンス処理の例として、加圧パージ、ダミージェット、ノズル吸引、若しくは、ノズル面の払拭、又は、これらの適宜の組み合わせがなどを挙げることができる。「ダミージェット」は、予備吐出と同義である。メンテナンス部２４０には、例えば、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々のノズル面を覆うキャップ、及び、ノズル面を払拭するウェブなどの払拭部材が配置される。

　インクジェット印刷装置１Ａは、操作部１３０、表示部１３２、パラメータ記憶部１３４、及びプログラム格納部１３６を備えている。

　操作部１３０は、操作ボタン、キーボード、マウス、タッチパネル等の操作部材、若しくは音声入力装置、又はこれらの適宜の組み合わせ等からなる入力装置を含んで構成される。操作部１３０を介して入力された情報は、システムコントローラ１００に送られる。システムコントローラ１００は、操作部１３０から入力された情報に応じて各種処理を実行させる。操作部１３０は、複数の種類の操作部材が含まれていてもよい。操作部材の図示は省略される。操作部１３０を介して入力された情報は、システムコントローラ１００に送られる。システムコントローラ１００は、操作部１３０から送出された情報に応じて各種処理を実行させる。

　表示部１３２は、液晶パネル等の表示装置（ディスプレイ）を含んで構成される。表示部１３２は、システムコントローラ１００からの指令に応じて、装置の各種設定情報、又は異常情報などの各種情報を表示し得る。操作部１３０と表示部１３２とによってユーザインターフェースが構成される。ユーザは、表示部１３２の画面に表示される内容を見ながら操作部１３０を使って各種パラメータの設定及び各種情報の入力並びに編集が可能である。

　パラメータ記憶部１３４は、インクジェット印刷装置１Ａに使用される各種パラメータが記憶される。パラメータ記憶部１３４に記憶されている各種パラメータは、システムコントローラ１００を介して読み出され、装置各部に設定される。

　プログラム格納部１３６は、インクジェット印刷装置１Ａの各部に使用されるプログラムが格納される。プログラム格納部１３６に格納されている各種プログラムは、システムコントローラ１００を介して読み出され、装置各部において実行される。パラメータ記憶部１３４及びプログラム格納部１３６は、ハードディスク装置及び／又は半導体メモリ等の記憶デバイスを用いて構成される。

　《用紙浮きが発生した用紙と記録ヘッドの接触を回避する方策例１》
　図３は、インクジェット印刷装置１Ａにおける描画部４０の要部を概略的に示した模式図である。図３において、図１で説明した要素と同一の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。図３では、用紙浮きが発生しておらず、印刷が正常に行われている様子が示されている。インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々は、印刷中に、描画ドラム４２と対向する印刷位置に配置される。

　図４は、印刷中に用紙浮きが発生して、描画ドラム４２の回転を停止させた場合の様子を示した模式図である。図４において、発生している用紙浮きの凸部２１０は、例えば、図２で説明したヘッド昇降部２００を用いたヘッド退避動作では接触を回避できないレベルに浮き量が大きいものである。図４に示したように、浮き量が大きい用紙浮きが発生し、用紙浮きセンサ４５によってこの用紙浮きが検出された場合に、描画ドラム４２の回転を緊急停止させ、かつ、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙをメンテナンス位置へ退避させる。メンテナンス位置は、図２で説明したメンテナンス部２４０の位置であり、描画ドラム４２の軸線方向に描画ドラム４２から離れた位置である。メンテナンス位置は、描画ドラム４２の周面と非対面の位置である。

　図４を用いて説明した方策例１による接触回避策は、印刷再開までに時間を要するため、用紙Ｐの浮き量が軽度な場合は、図５に示す方策例２のような接触回避策が実行される。

　《用紙浮きが発生した用紙と記録ヘッドの接触を回避する方策例２》
　図５は、用紙浮きが発生した場合に実行される接触防止策の方策例２の概要を模式的に示した説明図である。図５中の（ａ）は、図３の状態を示している。図５中の（ｂ）は、浮き量が軽度な用紙浮きが発生した状態で描画ドラム４２の回転を継続し、用紙浮きの凸部２１０がヘッドに接触しないよう、各ヘッドを上方へ退避させる様子を示している。

　印刷中に発生した用紙の浮き量が軽度な場合は、用紙搬送を停止させずに、各ヘッドを描画ドラム４２と対面する位置で一時的に上方へ退避させ、浮きが発生した用紙をやり過ごす。

　すなわち、用紙浮きが検出された場合に、ヘッドからのインク吐出を中止して印刷の動作は一時中断させるものの、描画ドラム４２の回転による用紙搬送を継続し、図５中の（ｂ）に示すように、描画ドラム４２の回転に伴う用紙浮きの凸部２１０の移動に合わせて、用紙搬送方向の上流側のインクジェットヘッド４６Ｋから順番に、ヘッドを上方に退避させる。そして、用紙浮きが発生した用紙Ｐがヘッドの下を通過した後に、自動でヘッドを退避位置から印刷位置に戻す。図５中の（ｃ）は、インクジェットヘッド４６Ｋ及びインクジェットヘッド４６Ｋが印刷位置に戻り、インクジェットヘッド４６Ｍが印刷位置へ戻る動作の途中であることを示している。

　こうして、用紙浮きが発生した用紙Ｐを通過させた後、自動で印刷を再開する。図５において（ｃ）から（ａ）に戻る矢印は、ヘッドを印刷位置に戻した後に印刷が再開されることを表している。ヘッドを退避位置から印刷位置に戻し、自動で印刷を再開する動作を「自動復帰」という。本明細書において「復帰」という用語は、一時中断していた印刷を再開すること、つまり、印刷の動作に復帰する意味で用いる場合がある。

　方策例２の接触回避策が採用される場合の「軽度な浮き量」とは、ヘッド昇降部２００を用いたヘッド退避動作によって接触を回避できるレベルに浮き量が比較的小さいものであることを意味する。例えば、用紙浮きセンサ４５が「用紙浮き」として検出しないレベルの許容浮き量の上限値を第１基準浮き量ｈ１として予め設定しておき、かつ、ヘッド昇降部２００を用いたヘッド退避動作によって接触を回避できるレベルの浮き量の上限値を第２基準浮き量ｈ２として定めておく。この場合、用紙の浮き量が、第１基準浮き量ｈ１を超え、かつ、第２基準浮き量ｈ２以下である場合が「軽度」な用紙浮きに該当する。第１基準浮き量ｈ１は、「許容浮き量」に相当する。第２基準浮き量ｈ２は「規定量」に相当する。

　用紙浮きセンサ４５によって、第２基準浮き量ｈ２を超える浮き量が検出された場合には、図４で説明した方策例１による接触防止策が実行され、第１基準浮き量ｈ１以上第２基準浮き量ｈ２以下の浮き量が検出された場合には、図５で説明した方策例２による接触回避策が実行される。

　用紙浮きセンサ４５は、第１基準浮き量ｈ１を超える用紙浮きを検出する第１センサと、第２基準浮き量ｈ２を超える用紙浮きを検出する第２センサとを含んで構成されてよいし、１つのセンサを用いて第１センサ及び第２センサの機能を果たす構成であってもよい。

　方策例２は、方策例１に比べて印刷復帰までの時間を短縮することができ、生産性を高めることができる。図５に例示したように、用紙搬送方向に複数の記録ヘッドが並んで配置され、搬送される用紙に対して、各記録ヘッドが順々にインクを打滴する装置構成の場合は、用紙浮きが検出された際に、それぞれの記録ヘッドが用紙上の用紙搬送方向の同位置（それぞれの印刷位置）で上方に退避し、かつ、それぞれの記録ヘッドが用紙上の用紙搬送方向の同位置で印刷位置に復帰することにより、更に生産性を上げることが可能である。方策例２による用紙浮きの回避動作の制御を「用紙浮き回避制御」と呼ぶ。用紙浮き回避制御は「媒体浮き回避制御」の一例である。システムコントローラ１００が、方策例２の用紙浮き回避制御を行うステップが「媒体浮き回避制御を行うステップ」の一例である。

　《印刷再開時に印刷される画像を決定する処理》
　本実施形態では、用紙浮きが発生して方策例２による用紙浮き回避制御を実行した場合の用紙浮き解消後に自動で印刷を再開するときに用紙に対して印刷される画像を、印刷種類に応じて、適切な画像に切り替える制御が行われる。この制御には、バリアブル印刷の後刷り面の印刷において用紙浮き回避制御を実行して印刷を再開する場合の印刷再開時に用紙に印刷される画像を、印刷再開時の用紙の先刷り面に印刷済みの先刷り画像に応じて、印刷済みの先刷り画像と対応した画像に変更する処理が含まれる。

　インクジェット印刷装置１Ａは、バリアブル印刷と非バリアブル印刷が可能である。バリアブル印刷は１枚ごとに異なる画像を印刷する印刷態様である。非バリアブル印刷は、同じ画像を規定数印刷し続ける印刷態様である。なお、規定数は、ユーザが印刷枚数として指定することができる。図１に例示したインクジェット印刷装置１Ａは、用紙Ｐの片面を印刷する片面印刷装置であるが、第１面を印刷した用紙を給紙部１０に戻して、第１面の裏面である第２面に追加の印刷を行うことにより、両面印刷が可能である。なお、片面印刷装置に代えて、両面印刷装置を用いてもよい。

　両面印刷を行う場合には、用紙の第１面及び第２面の両面のうち、最初に印刷される先刷り面と、先刷り面が印刷された用紙の裏面に印刷する後刷り面が存在する。

　そのため、印刷種類の分類として、バリアブル印刷であるか非バリアブル印刷であるかという観点と、先刷り面か後刷り面かという観点の組み合わせから、全部で４種類に分類することができる。すなわち、印刷種類には、非バリアブル印刷の先刷り面の印刷、非バリアブル印刷の後刷り面の印刷、バリアブル印刷の先刷り面の印刷、及び、バリアブル印刷の後刷り面の印刷を含む４種類の印刷種類が含まれる。なお、非バリアブル印刷の片面印刷は、非バリアブル印刷の先刷り面の印刷態様と見做すことができる。バリアブル印刷の片面印刷は、バリアブル印刷の先刷り面の印刷態様と見做すことができる。

　図６には、用紙浮きがない正常印刷時に各用紙に印刷される画像の例が示されている。図６に示す図表は、非バリアブル印刷の先刷り面、非バリアブルの後刷り面、バリアブル印刷の先刷り面、及び、バリアブル印刷の後刷り面の４種類について、それぞれどのような絵柄の画像が印刷されるかを記号で表示したものである。図６では、複数枚の連続印刷の一部として１枚目から７枚目まで画像について示している。

　非バリアブル印刷の先刷り面については、１枚目から７枚目まで、全て同じ先刷り画像Ａが印刷される。

　非バリアブル印刷の後刷り面については、１枚目から７枚目まで、全て同じ後刷り画像ａが印刷される。

　バリアブル印刷の先刷り面の場合、１枚目に先刷り画像Ａが印刷され、２枚目に先刷り画像Ｂ、３枚目に先刷り画像Ｃ、４枚目に先刷り画像Ｄ、５枚目に先刷り画像Ｅ、６枚目に先刷り画像Ｆ、７枚目に先刷り画像Ｇがそれぞれ印刷される。

　バリアブル印刷の後刷り面の場合、１枚目に画像ａが印刷され、２枚目に画像ｂ、３枚目に画像ｃ、４枚目に画像ｄ、５枚目に画像ｅ、６枚目に画像ｆ、７枚目に画像ｇがそれぞれ印刷される。画像ａは、先刷り画像Ａとセットになっている後刷り画像である。画像ｂは、先刷り画像Ｂとセットになっている後刷り画像である。画像ｃは、先刷り画像Ｃとセットになっている後刷り画像である。画像ｄは、先刷り画像Ｄとセットになっている後刷り画像である。画像ｅは、先刷り画像Ｅとセットになっている後刷り画像である。画像ｆは、先刷り画像Ｆとセットになっている後刷り画像である。画像ｇは、先刷り画像Ｇとセットになっている後刷り画像である。

　図７には、用紙浮きが発生した場合の各用紙に印刷される画像の例が示されている。ここでは、３枚目で用紙浮きが発生し、５枚目で印刷再開する例が示されている。図７に示す図表の表記方法は、図６と同様である。

　図７において、非バリアブル印刷の先刷り面の場合、印刷再開の５枚目に印刷する画像は、用紙浮きの発生によって印刷に失敗した３枚目と同じ画像Ａである。５枚目以降は同じ先刷り画像Ａが印刷される。

　非バリアブル印刷の後刷り面の場合、印刷再開の５枚目に印刷する画像は、用紙浮きの発生によって印刷に失敗した３枚目と同じ画像ａである。５枚目以降は同じ画像ａが印刷される。

　バリアブル印刷の先刷り面の場合、１枚目に先刷り画像Ａが印刷され、２枚目に先刷り画像Ｂが印刷される。３枚目で用紙浮きが発生して先刷り画像Ｃの印刷に失敗して５枚目から印刷を再開する際に、印刷再開の５枚目に印刷する画像は、用紙浮きの発生によって印刷に失敗した３枚目と同じ先刷り画像Ｃである。その後の６枚目に先刷り画像Ｄが印刷され、７枚目に先刷り画像Ｅが印刷される。

　バリアブル印刷の後刷り面の場合、１枚目に画像ａが印刷され、２枚目に画像ｂが印刷される。３枚目で用紙浮が発生して画像ｃの印刷に失敗して５枚目から印刷を再開する際に、印刷再開の５枚目に印刷する画像は、５枚目の先刷り画像Ｅに対応している画像ｅである。その後の６枚目に画像ｆが印刷され、７枚目に画像ｇが印刷される。

　《バリアブル印刷時における復帰画像を決定する処理の説明》
　用紙浮き回避制御を実行して用紙浮きが解消した後の印刷再開時（復帰時）に印刷される画像を「復帰画像」と呼ぶ。図７の例における復帰画像は５枚目に印刷される画像を指す。

　図７に示したとおり、本実施形態のインクジェット印刷装置１Ａでは、以下に示す３パターンで、印刷再開時に印刷される画像（復帰画像）を準備する。

　［パターン１］非バリアブル印刷の場合は、先刷り面であるか後刷り面であるかにかかわらず、全ての用紙に同じ画像を印刷するように画像を準備する。

　［パターン２］バリアブル印刷かつ先刷り面の場合、用紙浮きが発生したことによって印刷し損ねた画像が、印刷再開時に印刷されるように画像データを準備する。

　［パターン３］バリアブル印刷かつ後刷り面の場合、先刷り面に印刷されている印刷済みの画像に合わせて、対応する画像が印刷再開時に印刷されるように画像データを準備する。

　つまり、本実施形態に係るインクジェット印刷装置１Ａでは、上記の３パターンに分類される印刷種類に応じて、印刷再開時の復帰画像としてどのような画像を印刷するか切り替えられる。

　図８は、バリアブル印刷の場合の復帰画像を決定する処理のフローチャートである。図８に示すフローチャートは、用紙浮きの発生に伴い、ヘッドを退避位置に移動させた後に、ヘッドを印刷位置に戻して印刷を再開する際にどのような画像を印刷するかを定める処理である。用紙浮きが発生して用紙浮きセンサ４５によって用紙浮きが検出されると、図８に示す復帰画像決定処理が開始される。

　ステップＳ１２において、システムコントローラ１００は、印刷復帰したか否かを判定する。印刷復帰しない場合は、ステップＳ１２の判定がＮＯ判定となり、ステップＳ１４に移行する。

　ステップＳ１４において、システムコントローラ１００は、用紙の印刷領域が追加されたか否かを判定する。本実施形態の場合、枚葉の用紙が用いられているため「用紙の印刷領域」の追加は、新しい用紙の供給に相当する。つまり、システムコントローラ１００は、新しい用紙が描画部４０に供給されたか否かを判定する。描画部４０に新しい用紙が到来した場合に、ステップＳ１４の判定がＹＥＳ判定となる。

　システムコントローラ１００は、ステップＳ１４の判定処理にて、新たな用紙の印刷領域が追加されていないと判定した場合は、ステップＳ１２に戻る。一方、ステップＳ１４の判定処理にて、新しい用紙に切り替わり、新たな用紙の印刷領域が追加されたと判定した場合は、ステップＳ１６に移行する。

　ステップＳ１６において、システムコントローラ１００は、現在のジョブが先刷り面の印刷であるか、後刷り面の印刷であるかを判定する。システムコントローラ１００は、ステップＳ１６の判定処理にて、先刷り面の印刷であると判定した場合に、ステップＳ１８に移行する。

　ステップＳ１８において、システムコントローラ１００は、印刷中断時の現画像を保持する。図７の例では、画像Ａを保持することに相当する。

　その一方、図８のステップＳ１６の判定処理にて、システムコントローラ１００が後刷り面の印刷であると判定した場合は、ステップＳ２０に移行する。

　ステップＳ２０において、システムコントローラ１００は、次画像に切り替える。つまり、後刷り面の場合、用紙が切り替わるごとに、順次、画像を切り替えて印刷用の画像データを準備する。図７の例では、４枚目の用紙に切り替わったタイミングで画像ｄに切り替え、５枚目の用紙に切り替わったタイミングで画像ｅに切り替えることに相当する。図８に示したステップＳ２０の処理は、「印刷再開時に媒体の後刷り面に印刷される画像を、印刷再開時の媒体の先刷り面に印刷済みの先刷り画像に応じて、印刷済みの先刷り画像に対応した画像に変更するステップ」の一例である。

　ステップＳ１８又はステップＳ２０の処理後は、ステップＳ１２に戻る。印刷が再開されるまで、上述したステップＳ１２～ステップＳ２０のループが繰り返される。

　退避位置に退避していた各ヘッドが印刷位置に戻され、印刷を再開したらステップＳ１２の判定処理にて、ＹＥＳ判定となり、図８のフローチャートを終了する。

　先刷り面の印刷の場合、印刷再開時に印刷される画像は、ステップＳ１８にて保持した現画像である。後刷り面の印刷の場合、印刷再開時に印刷される画像は、ステップＳ２０にて切り替えられて保持された次画像である。

　図８に示したフローチャートに従い、バリアブル印刷の先刷り面の印刷であるか、後刷り面の印刷であるかに応じて、復帰画像が切り替えられる。

　なお、非バリアブル印刷の場合は、印刷される画像の絵柄が１つであり、用紙浮きが発生した用紙に印刷されるはずであった画像と、印刷再開時に印刷する画像が同じ画像である。このため、非バリアブル印刷の場合、用紙浮き回避制御による印刷中断期間に、印刷用の画像データが保持され、印刷再開時に同じ画像が印刷される。

　非バリアブル印刷とバリアブル印刷の先刷り面の印刷は、用紙浮きが発生した用紙に印刷されるはずであった画像と、印刷再開時に印刷する画像が同じ画像である点で共通する。つまり、非バリアブル印刷とバリアブル印刷の先刷り面の印刷の場合は、用紙浮きが発生した用紙に印刷されるはずであった画像の画像データが、印刷中断期間に保持され、印刷再開時に印刷する画像データとして用いられる点で共通する。

　《バリアブル印刷について》
　バリアブル印刷とは、直前の用紙に印刷された画像とは異なる画像を印刷し、次の用紙にはまた別の画像を印刷する印刷形態のことである。バリアブル印刷には、印刷の最初から最後まで１枚ごとに異なる画像を印刷し続けるものや、丁合印刷のように最初のページから最後のページまで順番に画像を印刷し、その後、また、最初のページの画像から順番に印刷を繰り返すものも含む。「バリアブル印刷」の概念には丁合印刷が含まれる。

　図９は、丁合印刷の印刷順の例を示す説明図である。ここでは、４ページの画像セットを複数部印刷する場合の丁合印刷の例が示されている。画像セットの最初のページである「Page01」の画像から、「Page02」、「Page03」、「Page04」の順番に画像を印刷し、最後のページである「Page04」の画像を印刷した後に、最初の「Page01」の画像から同じ順番で各画像の印刷を繰り返す。

　なお、バリアブル印刷は、枚葉の媒体に画像を形成する態様に限らず、ロール紙のような連続媒体に画像を形成する態様もあり得る。連続媒体を用いる場合のバリアブル印刷は、媒体搬送方向に連続して並ぶ複数の印刷領域の各々に対して、直前の印刷領域に印刷された画像とは異なる画像を印刷し、次の印刷領域にはまた別の画像を印刷する印刷形態のことである。

　《バリアブル印刷の先刷り面の画像と後刷り面の画像を整合させる手段の例》
　先刷り面と後刷り面との画像の整合は、例えば、先刷り画像と共に先刷り面に印刷された画像識別パターンを基に実施される。画像識別パターンは、先刷り面に印刷した画像の絵柄を識別するための識別情報である。画像識別パターンは、例えば、バーコード、数字、文字、若しくは記号、又はこれらの適宜の組み合わせであってよい。

　バリアブル印刷の先刷り面に印刷する各画像の絵柄に合わせて画像識別パターンを定めておき、各用紙の先刷り面への先刷り画像の印刷を行う際に、対応する画像識別パターンを先刷り面に印刷する。例えば、本実施形態に係るインクジェット印刷装置１Ａは、描画部４０のインクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの少なくとも１つを用いて、用紙Ｐの印刷画像領域外の余白領域に画像識別パターンを印刷する。なお、画像識別パターンは、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの少なくとも１つを用いて印刷する構成に限らず、インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙに代えて、又はこれと組み合わせて、別の記録ヘッドその他のマーキング部を用いて、用紙Ｐに付されてもよい。インクジェット印刷装置１Ａは、用紙Ｐに画像識別パターンを付すマーキング部を備えてもよい。

　インクジェット印刷装置１Ａは、用紙Ｐに印刷された画像識別パターンを読み取る手段としての識別パターン読取部を備える。識別パターン読取部は、先刷り面の印刷後、後刷り面を印刷する前に、用紙搬送路上で、用紙Ｐから画像識別パターンを読み取る。

　インクジェット印刷装置１Ａは、識別パターン読取部を介して読み取られた画像識別パターンを基に、先刷り面の画像とセットになっている後刷り面の画像を特定し、後刷り面に対して、先刷り画像と整合した画像を印刷する。

　また、例えば、先刷り面の印刷中に用紙浮きが発生し、先刷り面の画像を印刷し損じた場合、印刷に失敗した用紙が何枚目であったかをシステムコントローラ１００が記憶し、この印刷失敗情報に基づき、後刷り面の印刷の際に、該当する印刷失敗の用紙には、画像を印刷しないよう制御を行う。そして、印刷失敗の用紙の前後の用紙に関しては、上述した画像識別パターンに基づき、先刷り面と後刷り面の画像整合を実施する。

　図１０は、画像識別パターンの印刷を含む先刷り工程の概念図である。図１０では、１枚目から６枚目までの各用紙の先刷り面の印刷結果が模式的に示されている。

　図１０において、１枚目の用紙の先刷り面には先刷り画像Ａと、画像識別パターン１が印刷される。２枚目の用紙の先刷り面には先刷り画像Ｂと、画像識別パターン２が印刷される。３枚目と４枚目は、用紙浮きの検出に伴い、印刷に失敗した用紙である。３枚目と４枚目の用紙の先刷り面は、未印刷のままとなる。

　図１０において、５枚目の用紙から印刷が再開される。５枚目の用紙の先刷り面には、３枚目の用紙に印刷するはずであった画像（先刷り画像Ｃ）と画像識別パターン３が印刷される。また、６枚目の用紙の先刷り面には、先刷り画像Ｄと画像識別パターン４が印刷される。図１０に示された画像識別パターン１～４は、画像識別情報の一例である。

　図１１は、図１０で説明した先刷り工程の後に実施される後刷り工程の概念図である。図１１では、１枚目から６枚目までの各用紙の印刷結果が模式的に示されている。図１１に示した後刷り工程は、図１０で説明した先刷り工程において印刷に失敗した３枚目及び４枚目の用紙を含んで後刷り工程に移行した場合の例である。

　図１１において、１枚目の用紙の後刷り面には、画像識別パターン１の読取結果に基づき、先刷り画像Ａと対応する後刷り画像ａが印刷される。

　２枚目の用紙の後刷り面には、画像識別パターン２の読取結果に基づき、先刷り画像Ｂと対応する後刷り画像ｂが印刷される。３枚目と４枚目は、それぞれ先刷り面にて印刷に失敗しているため、後刷り面の印刷を行わない。

　図１１において、５枚目の用紙から印刷が再開される。印刷再開時には、先刷り面に印刷されている画像識別パターンを基に、先刷り画像と対応する後刷り画像を特定し、後刷り面に後刷り画像を印刷する。すなわち、５枚目の用紙の後刷り面には、画像識別パターン３の読取結果に基づき、先刷り画像Ｃと対応する後刷り画像ｃが印刷される。６枚目の用紙の後刷り面には、画像識別パターン４の読取結果に基づき、先刷り画像Ｄと対応する後刷り画像ｄが印刷される。

　《インクジェット印刷装置１Ａの要部構成》
　図１０及び図１１で説明した印刷の動作を実施し得るインクジェット印刷装置１Ａの構成の要部を図１２に示す。図１２において、図２で説明した構成と同一の要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。図１２に示したインクジェットヘッド４６は、図１に示したヘッドユニット４４に配置されるインクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙの各々を代表して表している。

　ヘッド昇降部２００は、昇降機構２１２と昇降モータ２１４を含む。昇降機構２１２は、インクジェットヘッド４６を印刷位置と退避位置との間で昇降移動可能に支持する機構部である。昇降モータ２１４は、昇降機構２１２を動作させる動力源である。

　インクジェット印刷装置１Ａは、昇降モータ２１４を駆動するためのモータドライバ２１６を備える。ヘッド昇降制御部１２０は、モータドライバ２１６を介して昇降モータ２１４を制御する。なお、モータドライバ２１６は、ヘッド昇降制御部１２０に含まれてもよいし、ヘッド昇降部２００に含まれてもよい。

　ヘッド水平移動部２０２は、水平移動機構２２２と水平移動モータ２２４を含む。水平移動機構２２２は、インクジェットヘッド４６を描画ドラム４２と対面する位置と、メンテナンス位置との間で水平移動可能に支持する機構部である。水平移動モータ２２４は、水平移動機構２２２を動作させる動力源である。

　インクジェット印刷装置１Ａは、水平移動モータ２２４を駆動するためのモータドライバ２２６を備える。ヘッド水平移動制御部１２２は、モータドライバ２２６を介して水平移動モータ２２４を制御する。なお、モータドライバ２２６は、ヘッド水平移動制御部１２２に含まれてもよいし、ヘッド水平移動部２０２に含まれてもよい。

　インクジェット印刷装置１Ａは、用紙センサ２５０と、識別パターン読取部２５２と、印刷タイミング信号生成部２５４とを備える。

　用紙センサ２５０は、用紙Ｐの搬送経路に設けられるセンサであり、用紙Ｐの位置を検出するものである。用紙センサ２５０は、用紙Ｐが到達したことを検出し、検出信号を出力する。用紙センサ２５０から出力された検出信号は、システムコントローラ１００に送られる。システムコントローラ１００は、用紙センサ２５０の検出結果に基づいて用紙搬送経路上の用紙Ｐの位置を把握することができる。用紙センサ２５０の検出信号は、印刷タイミング信号生成部２５４に送られてもよい。

　識別パターン読取部２５２は、用紙Ｐの先刷り面に印刷された画像識別パターンを読み取る手段である。識別パターン読取部２５２は、例えば、バーコードリーダ、若しくは、撮像デバイス、又は、これらの組み合わせを用いて構成される。識別パターン読取部２５２は、「識別情報読取部」の一例である。

　印刷タイミング信号生成部２５４は、エンコーダ２０６からのエンコーダ信号に基づいて、描画ドラム４２によって搬送される用紙Ｐの搬送位置を算出し、各インクジェットヘッド４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙに対応する印刷可能位置を用紙Ｐが通過しているタイミングを表す印刷タイミング信号を生成する。例えば、印刷タイミング信号生成部２５４は、エンコーダ２０６からのエンコーダ信号に基づいて、用紙Ｐがヘッドの下を通過しているタイミングをロー（Ｌ）レベル、それ以外のタイミングをハイ（Ｈ）レベルとする印刷タイミング信号を生成し、出力する。印刷タイミング信号は、PageSync信号（ページ同期信号）とも呼ばれる。

　印刷タイミング信号生成部２５４は、用紙浮きが発生した場合に、印刷種類に応じて、印刷タイミング信号の出力形態を異ならせる。バリアブル印刷の後刷り面の印刷中に用紙浮きが発生した場合には、印刷タイミング信号生成部２５４は、通常どおり、用紙Ｐの搬送に同期したタイミングでハイ（Ｈ）とロー（Ｌ）が切り替わる印刷タイミング信号を出力する。つまり、印刷タイミング信号生成部２５４は、バリアブル印刷の後刷り面の印刷である場合の用紙浮き回避制御による印刷中断期間に、用紙Ｐの搬送と同期する用紙Ｐごとの印刷タイミング信号の出力を継続する。

　一方、非バリアブル印刷、若しくは、バリアブル印刷の先刷り面の印刷中に用紙浮きが発生した場合に、印刷タイミング信号生成部２５４は、用紙浮きが解消するまでの期間、用紙Ｐの搬送に同期したハイ（Ｈ）からロー（Ｌ）への切り替えを休止する。つまり、印刷タイミング信号生成部２５４は、非バリアブル印刷、若しくは、バリアブル印刷の先刷り面の印刷である場合の用紙浮き回避制御による印刷中断期間に、用紙の搬送と同期する用紙ごとの印刷タイミング信号の出力を休止する。用紙浮きが解消すると、印刷タイミング信号生成部２５４は、通常どおり、用紙Ｐの搬送に同期したタイミングでハイ（Ｈ）とロー（Ｌ）が切り替わる印刷タイミング信号を出力する。

　印刷タイミング信号生成部２５４にて生成された印刷タイミング信号（PageSync信号）は、描画制御部１１８と画像処理部１０６に送られる。印刷タイミング信号生成部２５４の機能は、システムコントローラ１００に含まれてもよい。

　《画像データの処理について》
　用紙浮きセンサ４５を用いて用紙浮きを検出してから実際にヘッドを退避位置に移動させて用紙浮きを回避して、印刷に復帰するまでは短期間しかない。例えば、ヘッドを退避位置に退避させて印刷復帰するまでに１秒から数秒の程度である。このため、図８のフローチャートで例示したように、印刷種類に応じて画像を切り替えるには、印刷再開時に、ホストコンピュータ３００などの上位のシステムから画像選択、再転送、及び画像処理部１０６における補正処理等を最初から行っていては、印刷再開時に印刷する画像データの処理が間に合わないケースが想定される。

　そのため、本実施形態に係るインクジェット印刷装置１Ａでは、画像データのハンドリングについては、用紙浮きが発生した際にも止めることなく、PageSync信号に同期させて画像データの処理を実施する。そして、実際に印刷に使われる補正処理等の処理が終わった印刷用の画像データを、印刷種類に応じて（つまり、復帰時の印刷画像に応じて）、用紙浮き発生の際に用紙の搬送と同期して、メモリに保持する、又は、破棄するという処理を切り替えることで、印刷復帰までの短期間内での復帰画像の準備を実現する。

　インクジェット印刷装置１Ａにおいて、用紙浮き回避制御を実行した際の印刷再開時に印刷される画像（復帰画像）を準備する態様は、既述のとおり［パターン１］～［パターン３］の３パターンがある。これら３パターンのうち、パターン１とパターン２の場合は、実際に印刷に使われる補正処理等が終わった印刷用の画像データを、用紙浮き発生の際に用紙の搬送と同期して、メモリに保持することで実現する。

　一方、パターン３の場合は、実際に印刷に使われる補正処理等が終わった印刷用の画像データを、用紙浮き発生の際に用紙の搬送と同期して、破棄し、かつ、次画像の補正処理等が終わった印刷用の画像データをメモリに格納する（画像データを更新する）ことで実現する。

　図１３は、インクジェット印刷装置１Ａにおいて実施される画像データのハンドリングの例を示すブロック図である。図１３では用紙の搬送と同期して、段階的にデータの処理が進行すること概略的に示すために、画像処理部１０６におけるデータの処理プロセスを第１補正処理、第２補正処理、及び印刷出力画像生成処理の３つの処理に単純化した例を示した。第１補正処理は、例えば、濃度補正の処理を含む。第２補正処理は、例えば、不吐ノズルによる画像欠陥を補正する不吐補正の処理を含む。印刷出力画像生成処理は、例えば、ドットデータを生成するハーフトーン処理を含む。

　画像処理部１０６は、第１補正処理部２６２と、第２補正処理部２６４と、印刷出力画像生成処理部２６６と、を含む。

　また、インクジェット印刷装置１Ａに備えられたメモリ２７０の記憶領域は、未処理データ記憶領域２７２と、第１補正処理データ記憶領域２７４と、第２補正処理データ記憶領域２７６と、印刷出力画像データ記憶領域２７８と、を含む。メモリ２７０は、図２に示した画像メモリ１０４、若しくは、ＲＡＭ１００Ｃ、又は、これらの組み合わせであってよい。また、メモリ２７０の記憶領域の一部又は全部は、画像処理部１０６に含まれていてもよい。

　未処理データ記憶領域２７２は、インクジェット印刷装置１Ａに入力された画像データを記憶する領域である。上位のシステムからインクジェット印刷装置１Ａに入力される画像データは、例えば、ＰＤＦ（Portable Document Format）のファイル形式で表された画像データであってよい。未処理データ記憶領域２７２には、画像処理部１０６による処理を行う前の未処理状態の画像データが記憶される。

　未処理データ記憶領域２７２に記憶された画像データは、第１補正処理部２６２に送られる。第１補正処理部２６２は、未処理データ記憶領域２７２から取得した画像データに対して第１補正処理を行う。第１補正処理部２６２にて生成された第１補正処理済み画像データは、第１補正処理データ記憶領域２７４に記憶される。

　第１補正処理データ記憶領域２７４に記憶された第１補正処理済み画像データは、第２補正処理部２６４に送られる。第２補正処理部２６４は、第１補正処理データ記憶領域２７４から取得した画像データに対して第２補正処理を行う。第２補正処理部２６４にて生成された第２補正処理済み画像データは、第２補正処理データ記憶領域２７６に記憶される。

　第２補正処理データ記憶領域２７６に記憶された第２補正処理済み画像データは、印刷出力画像生成処理部２６６に送られる。印刷出力画像生成処理部２６６は、第２補正処理データ記憶領域２７６から取得した画像データから、最終的な印刷出力画像データを生成する。印刷出力画像生成処理部２６６にて生成された印刷出力画像データは、印刷出力画像データ記憶領域２７８に記憶される。こうして生成された印刷出力画像データに基づき、各ヘッドのインク吐出動作が制御される。印刷出力画像データ記憶領域２７８は、補正処理等が完了した印刷用の画像データが格納される記憶領域である。印刷出力画像データ記憶領域２７８は、「記録ヘッドを用いて媒体に印刷される画像の画像データが格納される記憶部」の一例である。

　バリアブル印刷の場合、用紙の搬送に同期して、新たな画像データが順次に入力され、かつ、用紙の搬送に同期して、第１補正処理、第２補正処理、及び印刷出力画像生成処理の順に、段階的に画像データの処理が進行していく。本実施形態のインクジェット印刷装置１Ａでは、印刷タイミング信号に同期して第１補正処理、第２補正処理、及び印刷出力画像生成処理が段階的に進行していく。

　Ｎが１以上の整数を表し、Ｎ枚目に印刷する画像の絵柄を画像（Ｎ）と表記すると、印刷出力画像データ記憶領域２７８に画像（Ｎ）のデータが記憶されている場合、第２補正処理データ記憶領域２７６には、画像（Ｎ＋１）のデータが記憶され、第１補正処理データ記憶領域２７４には、画像（Ｎ＋２）のデータが記憶され、未処理データ記憶領域２７２には、画像（Ｎ＋３）のデータが記憶されることになる。

　図８のステップＳ１８で説明した現画像を保持するステップは、図１３の印刷出力画像データ記憶領域２７８に記憶している画像データを保持することに相当する。

　また、図８のステップＳ２０で説明した次画像に切り替えるステップは、ステップは、図１３の印刷出力画像データ記憶領域２７８に記憶している画像データを破棄して、印刷出力画像データ記憶領域２７８に格納する画像データを更新すること、つまり、印刷出力画像データ記憶領域２７８に次画像の画像データを格納することに相当する。

　《先刷り面の印刷のタイミングチャート》
　図１４は、バリアブル印刷かつ先刷り面の印刷のタイミングチャートの例である。図１４に示した用紙浮き発生通知信号は、用紙浮きが発生したときにロー（Ｌ）レベルからハイ（Ｈ）レベルの状態になり、用紙浮きが解除したらハイ（Ｈ）レベルからロー（Ｌ）レベルの状態になる。なお、用紙浮きが解除されるタイミングは、用紙浮きの凸部がヘッドの下を通過した後のタイミングである。

　用紙浮き発生通知信号は、用紙浮き検出部２０８から得られる信号を基にシステムコントローラ１００が生成してもよいし、印刷タイミング信号生成部２５４が生成してもよい。用紙浮きが解除されるタイミングは、用紙浮きを検出したタイミングと、用紙搬送速度と、用紙搬送方向におけるヘッドの位置と、に基づいて定めることができる。

　印刷タイミング信号（PageSync信号）は、印刷するタイミングでハイ（Ｈ）レベルからロー（Ｌ）レベルに切り替わる。通常は、用紙Ｐがヘッドの下にいるタイミングでロー（Ｌ）レベルとなる。用紙浮きが発生した場合は、非バリアブル印刷、若しくは、バリアブル印刷の先刷り面の印刷のときには、用紙浮きが解除されるまで、PageSync信号はハイ（Ｈ）レベルのままとなる。その後、用紙浮き解除後に、PageSync信号は、用紙の搬送に同期して用紙ごとにハイ（Ｈ）レベルからロー（Ｌ）レベルに切り替わる正常な出力に戻る。一方、バリアブル印刷の後刷り面の印刷において、用紙浮きが発生した場合のPageSync信号は、通常どおり、用紙の搬送に同期して用紙ごとにハイ（Ｈ）レベルからロー（Ｌ）レベルに切り替わる（図１５参照）。

　ジェッティングトリガ（Jetting Trigger）は、インクジェットヘッド４６のノズルごとの吐出動作タイミングを示す。ジェッティングトリガ（Jetting Trigger）は、吐出動作タイミングでロー（Ｌ）レベルからハイ（Ｈ）レベルになる。

　図１４に示した画像データは、補正処理等の必要な処理が完了した印刷出力画像データを示す。図１４に示したとおり、バリアブル印刷の先刷り面の印刷の場合、用紙浮き発生による用紙浮き回避制御の印刷中断期間は、用紙浮きが発生した用紙に印刷されるはずであった画像（Ｎ）の画像データが保持される。これにより、用紙浮き解除後の印刷再開時に印刷される画像は、用紙浮き発生時の画像（Ｎ）と同じ画像（Ｎ）となる。

　《後刷り面の印刷のタイミングチャート》
　図１５は、バリアブル印刷かつ後刷り面の印刷のタイミングチャートの例である。バリアブル印刷の後刷りの場合、用紙浮き発生後も印刷タイミング信号（PageSync）が通常どおりに生成され、用紙の搬送に同期して順次に画像データの処理が実施される。

　図１５に示したとおり、バリアブル印刷の後刷り面の印刷の場合、用紙浮き発生による用紙浮き回避制御の印刷中断期間も、印刷タイミング信号に同期して、順次に段階的な画像処理が進められ、メモリ２７０の印刷出力画像データ記憶領域２７８に準備される画像データが順次に更新される。このため、用紙浮き発生による印刷中断後の用紙浮き解除による印刷復帰時に印刷される画像は、既に印刷されている先刷り面の画像に対応した画像（Ｎ＋３）となる。

　《用紙浮きの発生によって印刷できなかったページの再印刷について》
　図７の最下行に示した「バリアブル印刷かつ後刷り」の場合、３枚目と４枚目に印刷するはずであった「後刷り画像ｃと先刷り画像Ｃ」の画像セットが印刷された印刷物と、「後刷り画像ｄと先刷り画像Ｄ」の画像セットが印刷された印刷物が得られていない。このため、システムコントローラ１００は、用紙浮きが発生しために印刷し損ねた（印刷できなかった）画像のページを記憶し、指定されている印刷枚数の一連の印刷が終了した最後に、印刷できなかった画像を印刷する制御を行うようにしてもよい。

　例えば、図７の最下行に示した「バリアブル印刷かつ後刷り」のケースにおいて、３枚目と４枚目の印刷に失敗しており、指定されている印刷枚数が全部で１０枚である場合、１１枚目と１２枚目に、３枚目に印刷されるはずであった画像（印刷できなかった画像）と、４枚目に印刷されるはずであった画像（印刷できなかった画像）を、それぞれ印刷する処理が行われる。

　また、例えば、図１０及び図１１で例示したケースにおいて、３枚目と４枚目の印刷に失敗しており、指定されている印刷枚数が全部で１０枚である場合、１１枚目には３枚目に印刷されるはずであった先刷り画像と後刷り画像を印刷し、１２枚目には４枚目に印刷されるはずであった先刷り画像と後刷り画像を印刷する処理が行われる。

　《インクジェット印刷装置１Ａを用いた印刷方法》
　インクジェット印刷装置１Ａを用いた印刷の動作は、印刷方法、或いは、その動作を実現する印刷制御方法として把握することができる。例えば、図５を用いて説明した方策例２の用紙浮き回避動作と、図７から図１１を用いて説明した印刷の動作とを含む印刷方法は、かかる動作を実現する印刷制御方法として把握してもよい。

　既に説明したインクジェット印刷装置１Ａの動作は、描画ドラム４２の周面に支持した用紙Ｐを搬送する媒体搬送ステップと、描画ドラム４２を用いて搬送される用紙Ｐの浮きを検出する媒体浮き検出ステップと、用紙Ｐの浮きが検出された場合に、図５で説明した媒体浮き回避制御を行うステップと、図７の図表における最下行に示した例、及び図８のステップＳ２０に示した処理、並びに図１１で説明した例のように、バリアブル印刷の後刷り面の印刷において、媒体浮き回避制御の印刷再開時に用紙Ｐの後刷り面に印刷される画像を、印刷再開時の用紙Ｐに印刷済みの先刷り画像に応じて、印刷済みの先刷り画像に対応した画像に変更するステップと、を含む印刷方法として把握することができる。

　《各処理部及び制御部のハードウェア構成について》
　図２で説明したシステムコントローラ１００、画像処理部１０６、搬送制御部１１０、給紙制御部１１２、処理液付与制御部１１４、処理液乾燥制御部１１６、描画制御部１１８、ヘッド昇降制御部１２０、ヘッド水平移動制御部１２２、インク乾燥制御部１２４、排紙制御部１２６、メンテナンス制御部１２８、図１２で説明した印刷タイミング信号生成部２５４、並びに、図１３で説明した第１補正処理部２６２、第２補正処理部２６４、及び印刷出力画像生成処理部２６６などの各種の制御部並びに処理を実行する処理部（processing unit）のハードウェア的な構造は、例えば、次に示すような各種のプロセッサ（processor）である。

　各種のプロセッサには、プログラムを実行して各種の処理部として機能する汎用的なプロセッサであるＣＰＵ（Central Processing Unit）、ＦＰＧＡ（Field Programmable Gate Array）などの製造後に回路構成を変更可能なプロセッサであるプログラマブルロジックデバイス（Programmable Logic Device：ＰＬＤ）、ＡＳＩＣ（Application Specific Integrated Circuit）などの特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路などが含まれる。

　１つの処理部は、これら各種のプロセッサのうちの１つで構成されていてもよいし、同種又は異種の２つ以上のプロセッサで構成されてもよい。例えば、１つの処理部は、複数のＦＰＧＡ、或いは、ＣＰＵとＦＰＧＡの組み合わせによって構成されてもよい。また、複数の処理部を１つのプロセッサで構成してもよい。複数の処理部を１つのプロセッサで構成する例としては、第一に、クライアントやサーバなどのコンピュータに代表されるように、１つ以上のＣＰＵとソフトウェアの組み合わせで１つのプロセッサを構成し、このプロセッサが複数の処理部として機能する形態がある。第二に、システムオンチップ（System On Chip：ＳｏＣ）などに代表されるように、複数の処理部を含むシステム全体の機能を１つのＩＣ（Integrated Circuit）チップで実現するプロセッサを使用する形態がある。このように、各種の処理部は、ハードウェア的な構造として、上記各種のプロセッサを１つ以上用いて構成される。

　更に、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子などの回路素子を組み合わせた電気回路（circuitry）である。

　《インクジェットヘッドの吐出方式について》
　インクジェットヘッドのイジェクタは、液体を吐出するノズルと、ノズルに通じる圧力室と、圧力室内の液体に吐出エネルギーを与える吐出エネルギー発生素子と、を含んで構成される。イジェクタのノズルから液滴を吐出させる吐出方式に関して、吐出エネルギーを発生させる手段は、圧電素子に限らず、発熱素子や静電アクチュエータなど、様々な吐出エネルギー発生素子を適用し得る。例えば、発熱素子による液体の加熱による膜沸騰の圧力を利用して液滴を吐出させる方式を採用することができる。インクジェットヘッドの吐出方式に応じて、相応の吐出エネルギー発生素子が流路構造体に設けられる。

　《本実施形態に係るインクジェット印刷装置及びその印刷制御方法による利点》
　（１）本実施形態によれば、バリアブル印刷によって両面印刷を行う場合に用紙浮き回避制御を実行して一時的に印刷が中断されても、用紙浮きの解消後に自動的に表裏画像の整合を実現して印刷を再開することができる。

　（２）本実施形態によれば、用紙浮き回避制御の印刷中断期間に、用紙の搬送に同期して、印刷再開時に印刷する画像の画像データを準備できるため、短期間での印刷再開が可能である。

　（３）本実施形態によれば、用紙浮が発生した場合に用紙の搬送を継続印刷再開までに必要な損紙（印刷できない用紙）の数を減らすことができ、生産性を向上させることができる。

　《変形例１》
　図１で説明したインクジェット印刷装置１Ａに限らず、様々な形態の印刷装置について本発明を適用することができる。例えば、本発明は、両面印刷装置に適用することができる。両面印刷装置は、先刷り面を印刷する第１描画部と、後刷り面を印刷する第２描画部とを備え、第１描画部にて用紙の先刷り面を印刷した後に、第２描画部に用紙が送られ、第２描画部にて用紙の後刷り面の印刷が行われる。第１描画部と第２描画部の各々は、図１で説明した描画部４０と同様の構成を採用し得る。また、両面印刷装置の第１描画部と第２描画部の間には、用紙の表裏を反転させる反転機構が設けられる。

　《変形例２》
　図７において説明したとおり、両面印刷に関して印刷種類には非バリアブル印刷の先刷り面の印刷、非バリアブル印刷の後刷り面の印刷、バリアブル印刷の先刷り面の印刷、及びバリアブル印刷の後刷り面の印刷の４種類があり得る。これら４種類のうち、用紙浮き解除後の印刷再開時に表裏画像の整合が特に問題となるのは、バリアブル印刷の後刷り面の印刷の場合である。

　非バリアブル印刷と、バリアブル印刷の先刷り面の印刷は、どちらも用紙浮き解除後の印刷再開時に印刷する画像として、印刷中断時の画像（用紙浮きが発生した用紙に印刷するはずの画像）とすることができる。このため、非バリアブル印刷とバリアブル印刷の先刷り面の印刷のうち少なくとも１種と、バリアブル印刷の後刷り面の印刷と、の少なくとも２種類を含む印刷種類について、実行中のジョブの印刷種類に応じて、用紙浮き回避制御の印刷再開時に印刷される画像を切り替える制御を行えばよい。

　《変形例３》
　上述の実施形態では、バリアブル印刷可能かつ両面印刷可能な印刷装置の一例として、インクジェット印刷装置を説明したが、本発明は、様々な形態の印刷装置に適用し得る。例えば、記録ヘッドとして、サーマルプリントヘッドを用いて画像の記録を行う印刷装置、或いは、ＬＥＤ（Light Emitting Diode）プリントヘッドを用いて画像の記録を行う印刷装置などについても、本発明を適用することが可能である。

　《変形例４》
　図２及び図１２を用いて説明したシステムコントローラ１００、画像処理部１０６、印刷タイミング信号生成部２５４、及び描画制御部１１８を含んだ制御部の構成は、インクジェット印刷装置１Ａの動作を制御する印刷制御装置として把握することができる。

　《媒体について》
　「用紙」は、記録用紙、印刷用紙、記録媒体、印刷媒体、印字媒体、被印刷媒体、画像形成媒体、被画像形成媒体、受像媒体、被吐出媒体など様々な用語で呼ばれるものの総称である。媒体の材質や形状等は、特に限定されず、シール用紙、樹脂シート、フィルム、布、不織布、その他材質や形状を問わず、様々なシート体を用いることができる。媒体は枚葉の媒体に限らず、連続紙などの連続媒体であってもよい。また、枚葉の媒体は、予め規定のサイズに整えられたカット紙に限らず、連続媒体から随時、規定のサイズに裁断して得られるものであってもよい。

　連続媒体を使用する場合における「複数枚」の印刷の概念は、連続媒体の異なる領域に対する印刷が複数回行われることを意味する。また、連続媒体を使用する場合、ユーザ画像領域とユーザ画像領域との間に形成される画像間領域が余白部分に相当し、画像間領域が不良ノズル検出用のテストチャートを印刷する領域となり得る。

　《媒体の搬送機構について》
　媒体を搬送するための媒体搬送機構は、ドラム搬送方式に限らず、吸着ベルト搬送方式、ニップ搬送方式、チェーン搬送方式、パレット搬送方式など、各種形態を採用することができる。また、連続媒体を用いる場合は、ウェブ搬送方式など、いわゆるロールツーロール方式の搬送機構が用いられる。連続媒体を用いる場合の媒体支持面は、媒体を支持するプラテンの表面であってよい。

　《用語について》
　「印刷装置」という用語は、印刷機、プリンタ、印字装置、画像形成装置、画像出力装置、或いは、描画装置などの用語の概念を含む。また、「印刷装置」という用語は、複数の装置を組み合わせた印刷システムの概念を含む。「印刷」は、記録、印字、プリント、描画、又は、画像形成の意味を包括する用語として用いる。

　「画像」は広義に解釈するものとし、カラー画像、白黒画像、単一色画像、グラデーション画像、均一濃度（ベタ）画像なども含まれる。「画像」は、写真画像に限らず、図柄、文字、記号、線画、モザイクパターン、色の塗り分け模様、その他の各種パターン、若しくはこれらの適宜の組み合わせを含む包括的な用語として用いる。

　「記録ヘッド」という用語は、印刷ヘッド、印字ヘッド、プリントヘッド、描画ヘッドなどの用語と同義であり、インクジェットヘッド、インク吐出ヘッド、液体吐出ヘッド、液滴吐出ヘッド、又は、液滴噴射ヘッドの概念を含む。

　本明細書における「直交」又は「垂直」という用語には、９０°未満の角度、又は９０°を超える角度をなして交差する態様のうち、実質的に９０°の角度をなして交差する場合と同様の作用効果を発生させる態様が含まれる。本明細書における「平行」という用語には、厳密には非平行である態様のうち、平行である場合と概ね同様の作用効果が得られる実質的に平行とみなし得る態様が含まれる。

　《印刷装置の応用例》
　上記の実施形態では、グラフィック印刷用のインクジェット印刷装置を例に説明したが、本発明の適用範囲はこの例に限定されない。例えば、電子回路の配線パターンを描画する配線描画装置、各種デバイスの製造装置、吐出用の機能性液体として樹脂液を用いるレジスト印刷装置、カラーフィルタ製造装置、マテリアルデポジション用の材料を用いて微細構造物を形成する微細構造物形成装置など、液状機能性材料（液体）を用いて様々な形状やパターンを形成する画像形成装置にも本発明を広く適用できる。

　《実施形態の制御例及び形態例等の組み合わせについて》
　上述した実施形態における各種の制御例及び形態例の技術的事項は、適宜組み合わせて用いることができ、また、一部の事項を置き換えることもできる。

　［その他］
　以上説明した本発明の実施形態は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、適宜構成要件を変更、追加、又は削除することが可能である。本発明は以上説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で同等関連分野の通常の知識を有する者により、多くの変形が可能である。

１Ａ　インクジェット印刷装置
１０　給紙部
１１　搬送系
１２　給紙装置
１２Ａ　給紙台
１４　フィーダボード
１６　給紙ドラム
２０　処理液付与部
２２　処理液塗布ドラム
２３、３３、４３　グリッパ
２４　処理液塗布装置
３０　処理液乾燥部
３２　処理液乾燥ドラム
３４　温風送風機
４０　描画部
４２　描画ドラム
４４　ヘッドユニット
４５　用紙浮きセンサ
４６、４６Ｋ、４６Ｃ、４６Ｍ、４６Ｙ　インクジェットヘッド
４８　画像読取装置
５０　インク乾燥部
６０　集積部
６２　集積装置
６２Ａ　集積トレイ
７０　チェーングリッパ
７１Ａ　第１スプロケット
７１Ｂ　第２スプロケット
７２　チェーン
７４　グリッパ
８０　用紙ガイド
８２　第１用紙ガイド
８４　第２用紙ガイド
９０　加熱乾燥処理部
１００　システムコントローラ
１０２　通信部
１０４　画像メモリ
１０６　画像処理部
１１０　搬送制御部
１１２　給紙制御部
１１４　処理液付与制御部
１１６　処理液乾燥制御部
１１８　描画制御部
１２０　ヘッド昇降制御部
１２２　ヘッド水平移動制御部
１２４　インク乾燥制御部
１２６　排紙制御部
１２８　メンテナンス制御部
１３０　操作部
１３２　表示部
１３４　パラメータ記憶部
１３６　プログラム格納部
２００　ヘッド昇降部
２０２　ヘッド水平移動部
２０６　エンコーダ
２０８　用紙浮き検出部
２１０　凸部
２１２　昇降機構
２１４　昇降モータ
２１６、２２６　モータドライバ
２２２　水平移動機構
２２４　水平移動モータ
２４０　メンテナンス部
２５０　用紙センサ
２５２　識別パターン読取部
２５４　印刷タイミング信号生成部
２６２　第１補正処理部
２６４　第２補正処理部
２６６　印刷出力画像生成処理部
２７０　メモリ
２７２　未処理データ記憶領域
２７４　第１補正処理データ記憶領域
２７６　第２補正処理データ記憶領域
２７８　印刷出力画像データ記憶領域
３００　ホストコンピュータ
Ｐ　用紙
Ｓ１２～Ｓ２０　復帰画像を決定する処理のステップ

Claims (18)

1. 　媒体を支持する媒体支持面を有し、前記媒体支持面に支持した前記媒体を搬送する媒体搬送部と、
   　前記媒体搬送部を用いて搬送される前記媒体に画像を形成する記録ヘッドと、
   　前記媒体搬送部の媒体支持面と対向する位置において前記記録ヘッドを前記媒体支持面に対して移動させて前記媒体支持面と前記記録ヘッドとの間の距離を変化させるヘッド昇降部と、
   　前記記録ヘッドに対して前記媒体の搬送方向の上流側の位置に配置され、前記媒体搬送部を用いて搬送される前記媒体の浮きを検出する媒体浮き検出部と、
   　前記媒体浮き検出部によって前記媒体の浮きが検出された場合に、前記ヘッド昇降部を用いて前記記録ヘッドを前記媒体搬送部の媒体支持面と対向する印刷位置から、前記印刷位置よりも前記媒体支持面との間の距離が遠い退避位置に退避させ、かつ、前記媒体搬送部を用いた前記媒体の搬送を継続して印刷を一時中断し、前記媒体の浮きが解消した後に、前記ヘッド昇降部を用いて前記記録ヘッドを前記退避位置から前記印刷位置に戻して印刷を再開する媒体浮き回避制御を行う制御部と、
   　を備え、
   　前記制御部は、バリアブル印刷の後刷り面の印刷において前記媒体浮き回避制御を実行して印刷を再開する場合の印刷再開時に前記媒体の後刷り面に印刷される画像を、前記印刷再開時の前記媒体の先刷り面に印刷済みの先刷り画像に応じて、前記印刷済みの先刷り画像に対応した画像に変更する印刷装置。
2. 　前記制御部は、実行中のジョブの印刷種類に応じて、前記媒体浮き回避制御の印刷再開時に印刷される画像を切り替える請求項１に記載の印刷装置。
3. 　前記印刷種類には、非バリアブル印刷とバリアブル印刷の先刷り面の印刷のうち少なくとも１種と、バリアブル印刷の後刷り面の印刷と、の少なくとも２種類が含まれる請求項２に記載の印刷装置。
4. 　前記印刷種類には、非バリアブル印刷と、バリアブル印刷の先刷り面の印刷と、バリアブル印刷の後刷り面の印刷と、の３種類が含まれる請求項３に記載の印刷装置。
5. 　前記制御部は、実行中のジョブの前記印刷種類が、非バリアブル印刷、若しくは、バリアブル印刷の先刷り面の印刷である場合の前記媒体浮き回避制御の印刷再開時に、前記媒体浮きが発生した媒体に印刷されるべき画像を印刷する処理を行う請求項３又は４に記載の印刷装置。
6. 　前記記録ヘッドを用いて前記媒体に印刷される画像の画像データが格納される記憶部を備え、
   　前記制御部は、前記媒体の浮きが発生した場合に、前記印刷種類に応じて、前記記憶部に格納されている画像データを保持する処理と、前記記憶部に格納されている画像データを、前記媒体の搬送と同期して前記媒体の印刷領域ごとに更新する処理と、を切り替える請求項２から５のいずれか一項に記載の印刷装置。
7. 　実行中のジョブの前記印刷種類が、非バリアブル印刷、若しくは、バリアブル印刷の先刷り面の印刷である場合は、前記媒体浮き回避制御の際に、前記記憶部に格納されている画像データを保持する請求項６に記載の印刷装置。
8. 　実行中のジョブの前記印刷種類が、バリアブル印刷の後刷り面の印刷である場合は、前記媒体浮き回避制御の際に、前記記憶部に格納されている画像データを、前記媒体の印刷領域ごとに更新することにより、前記印刷再開時の前記媒体の後刷り面に印刷する画像を、前記印刷済みの先刷り画像に対応した画像に変更する請求項６又は７に記載の印刷装置。
9. 　前記媒体搬送部による前記媒体の搬送に同期して、前記媒体の印刷領域に対応した印刷タイミング信号を生成する印刷タイミング信号生成部を備え、
   　前記印刷タイミング信号生成部は、非バリアブル印刷、若しくは、バリアブル印刷の先刷り面の印刷である場合の前記媒体浮き回避制御による印刷中断期間に、前記媒体の搬送と同期する前記媒体の印刷領域ごとの前記印刷タイミング信号の出力を休止する請求項３から８のいずれか一項に記載の印刷装置。
10. 　前記印刷タイミング信号生成部は、バリアブル印刷の後刷り面の印刷である場合の前記媒体浮き回避制御による印刷中断期間に、前記媒体の搬送と同期する前記媒体の印刷領域ごとの前記印刷タイミング信号の出力を継続する請求項９に記載の印刷装置。
11. 　前記記録ヘッドを用いて前記媒体に印刷される画像の画像データが格納される記憶部を備え、
    　前記制御部は、バリアブル印刷の後刷り面の印刷において前記媒体浮き回避制御を実行する際に、前記記憶部に格納されている画像データを、前記媒体の搬送と同期して前記媒体の印刷領域ごとに更新する請求項１に記載の印刷装置。
12. 　前記媒体搬送部による前記媒体の搬送に同期して、前記媒体の印刷領域に対応した印刷タイミング信号を生成する印刷タイミング信号生成部を備え、
    　前記印刷タイミング信号生成部は、バリアブル印刷の後刷り面の印刷である場合の前記媒体浮き回避制御による印刷中断期間に、前記媒体の搬送と同期する前記媒体の印刷領域ごとの前記印刷タイミング信号の出力を継続する請求項１又は１１に記載の印刷装置。
13. 　前記制御部は、前記媒体浮き回避制御を実行したことによって印刷できなかった画像を、ジョブに従う一連の印刷が終了した後に、印刷する処理を行う請求項１から１２のいずれか一項に記載の印刷装置。
14. 　前記媒体の先刷り面に印刷された先刷り画像を識別するために前記媒体に付された画像識別情報を読み取る識別情報読取部を備え、
    　前記制御部は、前記識別情報読取部を用いて読み取られた画像識別情報を基に、前記媒体の後刷り面に印刷する画像を決定する請求項１から１３のいずれか一項に記載の印刷装置。
15. 　前記記録ヘッドは、インクジェットヘッドである請求項１から１４のいずれか一項に記載の印刷装置。
16. 　前記媒体浮き検出部は、
    　予め設定された許容浮き量を超え、かつ、規定量以下である浮き量の前記媒体の浮きを検出し、
    　前記制御部は、前記許容浮き量を超え、かつ、前記規定量以下である浮き量の前記媒体の浮きが検出された場合に、前記媒体浮き回避制御を実行する請求項１から１５のいずれか一項に記載の印刷装置。
17. 　前記規定量を超える浮き量の浮きが発生した場合に、前記媒体搬送部を用いた前記媒体の搬送を停止する請求項１６に記載の印刷装置。
18. 　バリアブル印刷が可能な印刷装置を用いて両面印刷を行う印刷方法であって、
    　媒体を支持する媒体支持面を有する媒体搬送部を用いて、前記媒体支持面に支持した前記媒体を搬送する媒体搬送ステップと、
    　前記媒体搬送部を用いて搬送される前記媒体の浮きを検出する媒体浮き検出ステップと、
    　前記媒体浮き検出ステップによって前記媒体の浮きが検出された場合に、前記印刷装置の記録ヘッドを前記媒体搬送部の前記媒体支持面と対向する位置において前記媒体支持面に対して移動させて前記媒体支持面と前記記録ヘッドとの間の距離を変化させるヘッド昇降部を用いて、前記記録ヘッドを印刷位置から、前記印刷位置よりも前記媒体支持面との間の距離が遠い退避位置に退避させ、かつ、前記媒体搬送部を用いた前記媒体の搬送を継続して印刷を一時中断し、前記媒体の浮きが解消した後に、前記記録ヘッドを前記退避位置から前記印刷位置に戻して印刷を再開する媒体浮き回避制御を行うステップと、
    　バリアブル印刷の後刷り面の印刷において前記媒体浮き回避制御を実行して印刷を再開する場合の印刷再開時に前記媒体の後刷り面に印刷される画像を、前記印刷再開時の前記媒体の先刷り面に印刷済みの先刷り画像に応じて、前記印刷済みの先刷り画像に対応した画像に変更するステップと、
    　を含む印刷方法。

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