図1Aは、有機エレクトロルミネッセンス素子(有機EL素子)の実施形態の一例である。有機EL素子は、陽極2と陰極3との間に有機層1が挟まれた構造を有している。有機層1は、複数の発光層6を有している。複数の発光層6は、青色発光ドーパントを含む青色発光層を含んで構成されている。本形態では、青色発光ドーパントを含まない非青色発光層をさらに含んで構成されている。すなわち、本形態では、複数の発光層6は、第1発光層6a、第2発光層6b、第3発光層6c及び第4発光層6dの四つの発光層6で構成されており、このうちの少なくとも一つが青色発光層であり、その他が非青色発光層である。非青色発光層は、赤色発光ドーパントを含む赤色発光層と、緑色発光ドーパントを含む緑色発光層とを有して構成することが好ましい。赤青緑の三色の発光ドーパントを有することにより、各ドーパントの光を混合させて所望の色の発光を得ることができる。また、三色を混合する(重ね合わせる)ことによって白色発光を容易に得ることができる。図1Aでは、発光層6は四つであるが、もちろん発光層6は五つ以上であってもよい。
本形態の有機EL素子では、陽極2の有機層1とは反対側の面には、基板4が設けられている。この有機EL素子は、基板4の表面に陽極2が形成され、その上に有機層1の各層が順次積層され、さらにその上に陰極3が積層されることによって形成されている。
陽極2及び基板4は、透明であってよい。透明電極及び透明基板を用いることにより、有機層1で生じた光を透過させて、基板4側から外部に取り出すことができる。すなわち、有機EL素子を、基板4側から光を取り出すいわゆるボトムエミッション構造にすることができる。また、陰極3が透明に形成されていてもよい。陰極3が透明な場合、陰極3側から光を取り出すことが可能となる。すなわち、有機EL素子を、基板4とは反対側から光を取り出すいわゆるトップエミッション構造にすることができる。この場合、基板4及び陽極2は透明でなくてもよい。また、基板4、陽極2及び陰極3を透明にすることもでき、その場合、両側から光を取り出すことが可能な構造を形成することができる。
また、基板4は陰極3側に設けられていてもよい。その場合、いわゆる逆層構造(陰極側から積み上げる構造)の有機EL素子を得ることができる。また、光取り出し側とは反対側の電極(例えば陰極3)を光反射性電極にすることも好ましい。光反射性を有することにより、光取り出し側とは反対側に進む光を反射させて光取り出し側に進む光に変換することができ、光取り出し性を高めることができる。なお、有機EL素子は、通常、封止されるものであり、有機層1を含む積層体は、基板4と対向する封止基板などで封止されていてよい。
陽極2は、有機層1に正孔(ホール)を与える電極である。また、陰極3は、有機層1に電子を与える電極である。本形態では、陽極2を透明電極とし、陰極3を光反射性電極に形成することができる。そして、一対の電極を構成する陽極2と陰極3とに挟まれた層として有機層1を設けることができる。
有機層1に設けられた発光層6は、発光ドーパントを有する層である。発光層6は、通常、いわゆるゲストである発光ドーパントが、ホストである層媒体にドープされて構成される層である。
有機層1は、通常、発光層6における発光のために、電荷を注入したり移動したりするための層を有している。そのような機能を有する層として、例えば、正孔輸送層7、電子輸送層8などが挙げられ、図1Aの形態でもこれらの層が設けられている。また、有機層1は、正孔注入層、電子注入層を含んでいてもよい。正孔注入層は陽極2と正孔輸送層7との間の層として設けることができる。また、電子注入層は陰極3と電子輸送層8との間の層として設けることができる。
複数の発光層6における各発光層6は、少なくとも一つの発光ドーパントを含んでいる。一つの発光層6は単一の発光ドーパントを含むものであってよい。また、一つの発光層6に二つ又は三つ又はそれ以上の発光ドーパントが含まれていてもよい。
発光層6全体としては、青色発光ドーパント、緑色発光ドーパント、赤色発光ドーパントの三つのドーパントを含んでいることが好ましい。例えば、有機層1が、青色発光ドーパントを含む青色発光層と、緑色発光ドーパントを含む緑色発光層と、赤色発光ドーパントを含む赤色発光層とを含むようにすれば、三色のドーパントを有する素子を構成できる。あるいは、異なる色の発光ドーパントを混合した発光層6を一つ以上設けるようにして全体として三色のドーパントを有する素子を構成してもよい。
本形態の有機EL素子は、複数の発光層6が複数の発光ユニット5として分離されたマルチユニット構造を有している。マルチユニット構造とは、一つ又は二つ以上の発光層6が積層された発光層群が、他の層を介して複数積層されている構造のことである。一つの発光層群を含む発光の構成単位が一つの発光ユニット5となる。発光ユニット5は、陽極層と陰極層とで挟んで電圧を印加することにより発光を生じる積層構造のことであってよい。このとき、隣り合う発光ユニット5の間には、中間層9を設けることが好ましい。中間層9は、電荷移動(電子及び正孔の移動)をユニット間で円滑にする層である。中間層9を設けることにより、有機EL素子の発光性を高めることができる。
図1Aの有機EL素子では、陽極2側から、第1正孔輸送層7a、第1発光層6a、第2発光層6b、第1電子輸送層8a、中間層9、第2正孔輸送層7b、第3発光層6c、第4発光層6d、第2電子輸送層8bの順で積層されて有機層1が構成されている。第1発光ユニット5aは、第1正孔輸送層7a、第1発光層6a、第2発光層6b、第1電子輸送層8a、で構成されている。第2発光ユニット5bは、第2正孔輸送層7b、第3発光層6c、第4発光層6d、第2電子輸送層8b、で構成されている。そして、第1発光ユニット5aと第2発光ユニット5bとの間に中間層9が設けられている。このようなマルチユニット構造になることにより、発光強度を高めることができ、また、複数の発光層6によって色を混合させて所望の発光色を得ることができる。なお、一つの発光ユニット5における発光層6の数は二つに限られるものではなく、一つであってもよく、あるいは三つ以上であってもよい。もちろん、第1発光ユニット5aと第2発光ユニット5bとにおいて発光層6の数が異なっていてもよい。また、発光ユニット5が三つ以上設けられていてもよい。
そして、本形態の有機EL素子では、安定状態の駆動温度で駆動したときに、CIE1931色度座標系において、使用初期の座標Aを(x1,y1)とし、使用により発光が劣化したときの座標Bを(x2,y2)としたときに、y2≧y1の関係が成り立つようにする。それにより、輝度の変化を感じにくくし、実使用における発光色の変化を抑えることができる。すなわち、使用により発光が劣化したとしてもy値が低下しない又はy値が増加するようにすれば、厳密に数値化した場合、発光色の変化が生じていても、人間工学的には発光色の変化を感じなくすることが可能である。したがって、実使用において発光色の変化をなくすことができ、有機EL素子の寿命を長期化することができるものである。座標Aと座標Bとにおけるy値の関係は、y2>y1の関係が成り立つことがさらに好ましい。それにより、発光色の変化をより一層感じなくすることができる。
本形態の有機EL素子では、座標A(x1,y1)から座標B(x2,y2)までのx値及びy値の変化量をΔx=x2-x1及びΔy=y2-y1とすると、Δy≧Δxの関係が成り立つようにする。それにより、輝度の変化をより感じにくい方向に色を変化させることができるため、発光色の変化をより感じにくくすることができる。発光色の変化を感じにくくさせるためには、Δy>Δxの関係がさらに好ましい。
また、有機EL素子では、前記の座標Aと座標Bとにおいて、x2≧x1の関係が成り立つことが好ましい。それにより、色度の変化を感じにくくし、実使用における発光色の変化を抑えることができる。すなわち、使用により発光が劣化したとしてもx値が低下しない又はx値が増加するようにすれば、厳密に数値化した場合、発光色に変化が生じていても、人間工学的には発光色の変化を感じなくすることがより可能である。したがって、実使用において発光色の変化をなくすことができ、有機EL素子の寿命を長期化することができるものである。座標Aと座標Bとにおけるx値の関係は、x2>x1の関係が成り立つことがさらに好ましい。それにより、発光色の変化をより一層感じなくすることができる。
ここで、安定状態の駆動温度とは、例えば常温(20℃又は5~35℃)のことであってよい。また、使用初期とは、素子の形成後に初めて電圧を印加して発光を生じたときのことである。また、使用により発光が劣化したときとは、測定される発光の輝度が、使用初期(100%)に対して70%になったときであってよい。輝度は輝度計により測定することができる。あるいは、使用により発光が劣化したときとは、CIE1931色度座標系において発光色の色度座標の位置が移動したとき(又は移動したことを確認したとき)であってもよい。
従来、例えば、照明の色度ができる限り変化しないようにするためには、有機EL素子における各発光色の低下の度合を同程度に調整することが考えられるが、その場合、各発光色の最大限の寿命性能(輝度の維持)を発揮させることは困難であった。また、各発光色の寿命性能(輝度の維持)を最大限まで設定する場合、劣化に伴う色度変化が起こり正確な色の表現が困難となり、人間が不愉快を感じる色になる可能性があった。そのため、不快感を配慮し、照明の色度ができるかぎり変化しないように調整が行われるのであるが、色度の維持と寿命向上との両立には問題があった。すなわち、輝度と色度は、いわばトレードオフの関係になり、これらを両立させることは難しかった。しかしながら、本形態の有機EL素子においては、初期の色度と発光が劣化したときの色度との関係を、上記のように設定することにより、人間工学的な見地から発光を制御して、まるで色が同一であるように錯覚させて、発光色の変化を感じないようにすることができる。したがって、輝度の維持と色度の変化抑制とを両立させて、有機EL素子を長寿命化することが可能になるものである。
図1Bは、CIE1931色度座標系における、使用初期の発光色の色度の座標Aと、使用により発光が劣化したときの発光色の色度の座標Bとを示している。有機EL素子では、使用により発光色が変化していくが、図1Bでは、色度変化を座標Aから座標Bに向かう矢印(ベクトル)で示している。
図4は、CIE1931色度座標を示すグラフである。CIE1931色度座標系においては、色はx値及びy値により2次元的に表され、発光色の色度もx値及びy値で規定することができる。色度座標により表される色の範囲は、通常、左斜め上に傾斜して上方に突出する曲線で形成された線分で囲まれる範囲として表すことができる(図4の着色範囲)。色度座標では、上方になるほど緑が濃くなり、左下になるほど青が濃くなり、右下になるほど赤が濃くなる。曲線の外側にこの曲線に沿って記載された数値は、光の波長(nm)である。
図4では、CIE1931色度座標に、Mac Adam楕円(マクアダム楕円)が記載されている。マクアダム楕円とは、視覚の等色実験から導き出されたもので、特定の中心色に対する識別変動の標準偏差をxy色度図に表したものである。マクアダム楕円は、標準偏差で示された場合、この楕円がそのまま視覚によって識別する色差を示しているわけではなく、その識別閾が標準偏差の約3倍(3-STEP)であることが知られている。図4では、25個のマクアダム楕円が記載されている。マクアダム楕円は、同様の手法によって、色度座標中(着色範囲内)のあらゆる点において設定することができる。そして、ある点から色がずれたとしても、このマクアダム楕円(等色楕円)の範囲内であれば、人間工学的に色度が変化したと感じないようになるのである。マクアダム楕円は、等色感度楕円といってもよい。
図4に示すように、マクアダム楕円は概ねy軸方向に延伸する縦長の楕円である。したがって、ある色においてy軸方向に色がずれたとしても、座標はマクアダム楕円の範囲内に入りやすいので、色ずれを感じにくくなる。
図5は、視感度関数を示すグラフである。視感度とは、人間が光の波長の違い(色の違い)によって感じる発光の強度の違いである。横軸は光の波長であり、縦軸は相対強度を表している。このグラフにより、550nm波長において、光に対する視感度が最も高いことが分かる。550nm付近の波長の光は緑色を呈する光である。すなわち、緑色の光は人間工学的に色の感じ方に与える影響が大きく、緑色の光の強弱の変化により、光の輝度や色度の変化を大きく感じるようになる。そして、緑色の光が強くなると、輝度の低下を感じにくくなる。本形態の有機EL素子では、座標Aのy値が座標Bのy値と同じかそれよりも小さくなっており、使用に伴って、y値が上昇するような設定になっている。すなわち、使用に伴って、CIE1931色度座標の上部の緑色域に近づくようになる。さらに、Δy≧Δxの関係が満たされており、y値の増加率はx値の増加率よりも高いため、より緑色域に近づく。そのため、輝度が低下して発光が劣化した際には、輝度が高まるように感じる方向に色が変化するので、輝度が弱くなったのを感じにくくなり、実使用における輝度低下を抑制することができるものである。
また、図4に示すように、マクアダム楕円は、多くの場合、長手方向が右斜め上に向かって傾斜した楕円である。そのため、色が変化してy値が大きくなったときには、x値も大きくなる方が、変化したときの色の座標がマクマダム楕円の範囲内に入りやすい。そして、座標A及び座標Bがともにマクマダム楕円の範囲内に入ると、色度変化を感じにくくなる。そのため、座標Aのx値が座標Bのx値と同じかそれよりも小さいことが好ましく、使用に伴って、x値が上昇するような設定になっていることが好ましいのである。
図6は、CIE1931色度座標系において、色度変動しても人間工学的に色変化を感じない範囲の一例を示すグラフである。色変化を感じない範囲は、ある色に対して、例えば、Du’v’=0.008で囲まれる範囲内(Du’v’≦0.008の範囲)であり、この範囲は上記のxy色度座標系では楕円形状となる。つまり、マクアダム楕円と同様に楕円形となる。なお、この座標系ではx軸を縦に、y軸を横に記載しているが、x軸を横に、y軸を縦にしても、長径が右斜め上方向に沿う楕円形となる。したがって、図6の楕円(等色感度楕円)を用いても、上記のようにx値及びy値を設定することが好ましいことが理解される。
図1Bに示すように、本形態では、好ましくは、使用初期の発光色の色度の座標A(x1,y1)と、使用により発光が劣化したときの発光色の色度の座標B(x2,y2)において、次の関係が成り立つようになっている。
Δx = x2-x1 ≧ 0
Δy = y2-y1 ≧ 0
(ただし、Δx=0かつΔy=0の場合を除く)
そして、座標Aと座標Bにおいては、Δy>0であることが好ましく、さらに、Δx>0かつΔy>0であることが好ましい。
すなわち、図1Bに示す座標Aから座標Bに向かう色度変化の矢印(ベクトル)が、右上方向になることが好ましいものである。このように、座標Aから座標Bに色度が右上方向に変化する場合、上記で説明したように、人間工学的に色度変化を感じにくい領域内(楕円内)に色度変化が納まり、実使用レベルでの輝度や色度の低下を感じにくくすることができる。このような、色度調整による発光色の変化の抑制は、青色発光層と非青色発光層とを有する有機EL素子において有効である。青色発光ドーパントは、一般に他の発光ドーパントよりも劣化が激しい傾向があり、青色発光ドーパントを含む有機EL素子では、色のバランスが崩れて発光色が変化しやすい。しかしながら、色度が上記のように調整された有機EL素子では、青色発光ドーパントが劣化したとしても、輝度の低下や色度の変化が感じにくくなっており、全体の発光色の変化を感じにくくすることができる。したがって、発光色の変化を抑制した長寿命の有機EL素子を得ることができるものである。
有機EL素子における色度は、発光する領域の平均値により求めることができる。例えば、面状に発光するパネル状の有機EL素子では、発光領域全体の色度を平均することにより、素子の発光色の色度を得ることができる。また、発光領域の中心の色度を用いてもよい。発光領域の中心は色度変化や輝度低下が生じやすい部分であり、また、発光色の変化を体感しやすい部分であり、この部分での色度変化を感じにくくすることにより、発光色の変化を抑制した有機EL素子を得ることができる。
また、面状の有機EL素子においては、劣化したときに、劣化した部分の色度が上記のような関係になるように設定することも好ましい。面状の有機EL素子では、面内の一部の領域で輝度が低下したり色度が変化したりして、面内で不均一な発光を生じる場合がある。特に有機EL素子を面状発光体として使用した照明パネルにおいては、発光面が比較的大きく、色度や輝度が部分的に変化すると、発光色が面内で不均一になって、全体の発光性能が低下するおそれがある。したがって、このような面状の有機EL素子においては、発光色がより均一になることが重要である。そこで、劣化した部分の色度を用いて、上記のように色度の関係を設定することによって、面内において発光色の変化を感じにくくすることができ、面内でより均一に近づいた発光を得ることができる。
マルチユニット構造の有機EL素子では、安定状態の駆動温度で駆動したときに、CIE1931色度座標系において、複数の発光ユニット5のそれぞれにおいて、色度が変化し得る。そして、マルチユニット構造の有機EL素子では、複数の発光ユニット5は、青色発光層を含む青色含有発光ユニットと、青色発光層を含まない青色非含有発光ユニットとを有して構成することができる。このような有機EL素子では、安定状態の駆動温度で駆動したときに、CIE1931色度座標系において、次の(i)及び(ii)の少なくともいずれか一方の色度変化を示すことが好ましく、(i)及び(ii)の両方の色度変化を示すことがより好ましい。
(i)青色含有発光ユニットは、使用により劣化したときのx値が使用初期のx値よりも値が大きくなる。
(ii)青色非含有発光ユニットは、使用により劣化したときのy値が使用初期のy値よりも値が大きくなる。
上記に説明したように、輝度及び色度の変化によって感じる発光色の変化は、等色感度楕円の範囲内に入ると人間工学的に感じにくくなる。ここで、青色含有発光ユニットにおいて、使用により劣化したときのx値が使用初期のx値よりも値が大きくなると、有機EL素子全体の色の座標においてx値が増大する方向(色度座標の右方向)に色度が変化しやすくなる。そして、有機EL素子においては全体の色の座標はy値が増大する方向に変化するため、x値が増大することにより座標は楕円の長径に沿った右上方向に移動することになり、より楕円の範囲に入りやすくなる。そのため、発光色の変化をより感じにくくすることができるものである。また、青色非含有発光ユニットにおいて、使用により劣化したときのy値が使用初期のy値よりも値が大きくなると、有機EL素子全体の色の座標においてy値が増大する方向(色度座標の上方向)に色度が変化しやすくなる。そして、有機EL素子において全体の色のy値が増大する方向に変化すると、輝度が高まるように感じる方向に色が変化するので、輝度が弱くなったのを感じにくくなり、実使用における輝度低下を抑制することができる。そのため、発光色の変化をより感じにくくすることができるものである。このように、特定の発光ユニット5が、上記の(i)又は(ii)の色度変化を示すことによって全体の発光色の変化を抑制することができ、(i)及び(ii)の両方の色度変化を示すことによって全体の発光色の変化をさらに抑制することができるものである。
また、マルチユニット構造の有機EL素子において、複数の発光ユニット5のうち、使用初期の座標A1から使用により発光が劣化したときの座標B1までの移動距離が最も大きい発光ユニット5を最大変色発光ユニットということとする。このとき、最大変色発光ユニットは、座標A1におけるx値及びy値が、使用初期の他の発光ユニットの座標のx値及びy値よりも、x値及びy値ともに小さいことが好ましい。上記に説明したように、輝度及び色度の変化によって感じる発光色の変化は、色のy値が大きい方(緑色によった方)が大きく感じる。したがって、移動距離の大きい発光ユニット5はy値が小さい方がより色変化を感じにくくなる。また、y値の値が小さいときには、x値も小さい方が、複数の発光ユニット5の色度の座標配置がマクアダム楕円の形状に沿った右斜め上に向う方向の配置になって、発光色の変化後の色度が楕円の範囲内に入りやすくなる。そこで、最大変色発光ユニットの使用初期における座標A1のx値及びy値を、他の発光ユニットの座標のx値及びy値よりも小さくすることが好ましいのである。
図2は、図1Aの形態のような二つの発光ユニット5を有する有機EL素子について、有機EL素子全体、及び、各発光ユニット5の色度変化を示している。使用初期において、座標A1の色度を有する発光ユニット5と、座標A2の色度を有する発光ユニット5とでは、そのx値及びy値を平均した座標Aの色の発光色が、有機EL素子において得られる。そして、使用により、有機EL素子の色度が座標Aから座標Bに移動したとき、発光ユニット5の座標も、座標A1から座標B1に、または、座標A2から座標B2に移動する。このとき、座標の移動距離を比較して、最も移動する距離の長い発光ユニット5のx値及びy値を小さくするように設定する。図2では、座標A1から座標B1までの距離は、座標A2から座標B2までの距離よりも長く、座標A1の発光ユニット5を座標A2の発光ユニット5よりも、x値及びy値がともに小さくなるように設定している。ここで、もし、移動距離の大きい座標A1の発光ユニット5が、x値及びy値のいずれか一方でも座標A2よりも大きいと、色の変化を感じやすくなってしまう。そこで、最大変色発光ユニットのx値及びy値を小さくするのである。
また、図2の形態においては、座標A1の色度を有する発光ユニット5を青色含有発光ユニットとし、座標A2の色度を有する発光ユニット5を青色非含有発光ユニットとすることができる。この場合、青色含有発光ユニットは、x値が増大する方向に座標A1から座標B1に移動している。また、青色非含有発光ユニットは、y値が増大する方向に座標A2から座標B2に移動している。そのため、発光色の変化をより感じにくくすることができる。
図2では、座標A1の色度を有する発光ユニット5と、座標A2の色度を有する発光ユニット5とは、いずれもx値及びy値が増大する方向に座標が移動しているが、座標が移動する方向は、上記の関係を満たすものであれば、この形態に限られるものではない。例えば、複数の発光ユニット5のうちの一つ又はいくつかが、x値が小さくなる方向(左方向)に座標が移動してもよい。また、複数の発光ユニット5のうちの一つ又はいくつかが、y値が小さくなる方向(下方向)に座標が移動してもよい。有機EL素子全体での色度変化や特定の発光ユニット5での色度変化が上記に説明したような関係になっていれば、発光色の変化を抑制することができるものである。ただし、図2に示す形態で座標が移動すると発光色の変化をより一層感じにくくすることができるものとなる。
なお、三つ以上の発光ユニット5を有する場合には、各発光ユニット5の座標を結んで得られる図形の重心により有機EL素子の発光色が決定される。そして、三つ以上の発光ユニット5を有する場合にも、青色含有発光ユニットを使用によってx値が大きくなるように設定したり、青色非含有発光ユニットを使用によってy値が大きくなるように設定したりすることにより、色変化を感じにくくすることができる。また、最大変色発光ユニットの使用初期における座標A1のx値及びy値を、他の発光ユニットの座標のx値及びy値よりも小さくすることにより色変化を感じにくくすることができる。
上記のようなマルチユニット構造においては、最大変色発光ユニットは、青色発光層を含むことが好ましい。すなわち、最大変色発光ユニットが青色含有発光ユニットとなるものである。青色発光ドーパントは、一般的に、緑色及び赤色の発光ドーパントよりも劣化しやすく、色の変化が生じやすい。そこで、劣化による移動距離の大きい最大変色発光ユニットに、青色発光ドーパントを含ませることによって、より発光の劣化による発光色の変化を感じにくくすることができる。また、最大変色発光ユニット以外の発光ユニット5は、非青色発光層により発光層6が構成されていることが好ましい。すなわち、最大変色発光ユニット以外の発光ユニットは、青色非含有発光ユニットとなるものである。それにより、発光色の変化をより感じにくくすることができる。
有機層1が複数の発光層6を備える場合には、複数の発光層6のうちのCIE1931色度座標系におけるy値が最も大きい発光層6の厚みは、他の発光層6の厚みよりも厚いことが好ましい。上記で説明したように、y値が大きい領域は強度の感じ方に影響をより大きく及ぼし、y値が最も大きい発光層6は、その強度変化によって、発光色の変化に与える影響が大きい。一般に、発光層6が劣化すると発光位置(発光ポイント)が厚み方向でずれる場合があるが、色変化に対する寄与度の高い発光層6の厚みが薄くなると、発光位置のずれによって、発光強度が変化して、色変化を感じやすくなる。そこで、y値の最も大きい発光層6の厚みを発光層6のなかで最も厚くすることにより、発光色の変化をより一層感じにくくすることができるものである。
有機層1が複数の発光層6を備える場合には、複数の発光層6のうちのCIE1931色度座標系におけるy値が最も大きい発光層6は、一方の層界面において他の発光層6と接するとともに、他方の層界面において他の発光層6と接していないことが好ましい。上記で説明したように、y値が大きい領域は強度の感じ方に影響をより大きく及ぼし、y値が最も大きい発光層6は、その強度変化によって、発光色の変化に与える影響が大きい。一般に、発光層6が劣化すると発光位置(発光ポイント)が厚み方向でずれる場合があるが、この発光位置のずれは、発光層6の積層された部位(発光層群)のなかでは、積層方向の端部よりも中央部の層において生じやすくなる。ここで、y値の大きい発光層6が他の発光層6に挟まれて中央部に存在していると、y値の大きい発光層6の発光位置のずれが大きくなり、色変化が感じやすくなってしまう。そこで、y値の最も大きい発光層6を、一方の層界面において他の発光層6と接するとともに、他方の層界面において他の発光層6と接していないように、発光層群の端部に配置することにより、色変化をより一層感じにくくすることができるものである。
さらに、複数の発光層6のうちのCIE1931色度座標系におけるy値が最も大きい発光層6は、他の発光層6よりも厚みが厚く、かつ、一方の層界面において他の発光層6と接するとともに、他方の層界面において他の発光層6と接していないことが好ましい。発光層群の端部(層界面)は、層が不安定になりやすく、y値が小さく厚みの薄い発光層6が端部に存在していると、このy値が小さく厚みの薄い発光層6の発光が弱くなり、色が不安定になるおそれがある。そこで、y値が最も大きい発光層6を、他の発光層6よりも厚みを厚くして端部に配置することにより、色が不安定になることを抑制し、発光色の変化を抑制することができる。
また、複数の発光ユニット5を有するマルチユニット構造の場合には、発光ユニット5内において、y値の最も高い発光層6は他の発光層6よりも厚みが厚いことが好ましい。また、複数の発光ユニット5を有するマルチにユニット構造の場合には、発光ユニット5内において、y値の最も高い発光層6が一方の層界面において他の発光層6と接するとともに、他方の層界面において他の発光層6と接していないことが好ましい。発光ユニット5内において、y値の高い発光層6がこのように設定されることにより、上記と同様の理由により、発光色の変化をより感じにくくすることができるものである。
有機EL素子では、発光色が白色であることが好ましい。白色になることにより、照明として利用しやすくなり、照明用の発光装置を得ることができる。また、白色の有機EL素子においては、発光色の変化により劣化を感じやすくなるが、そのような白色の有機EL素子において、発光色の変化を感じにくくすることができ、寿命をより長期化することができる。
白色の有機EL素子では、前記の座標Aから座標Bまでのx値及びy値の変化量であるΔx=x2-x1及びΔy=y2-y1が、Δy≧Δxの関係を満たすと、特に色の変化を感じにくくすることができる。図4に示す色度座標で示されるように、白色域の等色感度楕円では、楕円の長手方向(長径)は、x軸に対する傾斜角度が45度以上になっており、Δy≧Δxの関係を満たすことにより、発光色の変化をより感じにくくすることができるのである。
発光層6に含まれる発光ドーパントは、蛍光発光でも、リン光発光でもよい。ただし、一つの発光層6には、蛍光発光の発光ドーパントとリン光発光の発光ドーパントが混合しない方が好ましい。それにより発光を安定化することができる。また、一つの発光ユニット5内における一つ又は二つ以上の発光層6(発光層群)においては、蛍光発光の層とリン光発光の層とが積層されておらず、蛍光発光又はリン光発光のいずれかの発光層6で構成されていることが好ましい。それにより発光を安定化することができる。
また、有機EL素子は、非青色発光層として赤色発光層と緑色発光層との両方を含むときには、赤色発光層が緑色発光層よりも劣化の進行が速いことが好ましい。それにより、y値の値が大きくなるような方向に色度を変化させることができる。すなわち、発光層6や周辺の層の材料の調整で生じる経時的なキャリアバランス移動により、発光を緑方向に移動するようにすると、輝度の変化をより感じにくくなり、発光色の変化を抑制することができるものである。
色度の変化に基づく素子の設計は、例えば、コンピュータを使用した電子演算によるシミュレーションにより行うことができる。それにより、簡単に素子の設計を行うことができる。また、有機EL素子を作製し、作製された素子の光学特性を試験することによって、設計することができる。それにより、実使用レベルに近い色度変化に基づき、素子の設計を行うことができる。そして、シミュレーションと作製した素子の試験との両方を行えば、発光色の変化を抑制することのできる素子を効率よく設計することができる。なお、ユニットごとの発光の変化や発光層単層の発光の変化は、他の層を省略するなど積層状態を調整することにより、確認することができる。
次に、具体的な層構成の第1の態様として、図1Aの層構成における好ましい態様の一例を示す。第1の態様の層構成では、第1発光ユニット5aは蛍光発光を示す蛍光発光ユニットであり、第2発光ユニット5bはリン光発光を示すリン光発光ユニットである。すなわち、第1発光層6a及び第2発光層6bは蛍光発光であり、第3発光層6c及び第4発光層6dはリン光発光である。そして、第1発光層6aが青色発光層、第2発光層6bが緑色発光層、第3発光層6cが赤色発光層、第4発光層6dが緑色発光層である。青色、緑色、赤色の各発光層6は、それぞれ、青色、緑色、赤色の発光ドーパントを含んで構成されている。
蛍光発光ユニットにおいては、発光層6のなかに、青色発光層を含むことが好ましい。青色の蛍光発光を呈することにより、安定した発光色を得ることができる。例えば、蛍光発光ユニットを構成する発光層6を、青色発光層の単層で構成してもよいし、複数(例えば二つ)の青色発光層を積層させたり、青色発光層と緑色発光層とを積層さたり、青色発光層と赤色発光層とを積層させたりして複層で構成してもよい。
リン光発光ユニットにおいては、発光層6のなかに、青色発光層を含まないことが好ましい。青色のリン光発光を用いないことにより、安定した発光色を得ることができる。また、リン光発光ユニットにおいては、発光層6のなかに、緑色発光層を含むことも好ましい。リン光は蛍光よりも一般的に強度が高いため、緑色のリン光発光を呈することにより、発光強度の高い安定した発光色を得ることができる。例えば、リン光発光ユニットを構成する発光層6を、赤色発光層又は緑色発光層の単層で構成してもよいし、赤色発光層と緑色発光層とを積層した複層で構成してもよい。また、発光ドーパントとして、橙色又は黄色の発光ドーパントを用いるようにしてもよい。すなわち、橙色発光層や黄色発光層を用いるものである。それにより、色のバリエーションが増えて発光色を目的の色に調整しやすくすることができる。また、リン光発光であれば、容易に橙色又は黄色の発光ドーパントを得ることができる。
発光層6の厚みの関係は、第1発光層6aよりも第2発光層6bが厚く、第3発光層6cよりも第4発光層6dが厚いことが好ましい。発光ユニット内においてy値が高くより視感度の大きい発光層6の厚みが厚くなることにより、発光色の変化をより感じにくくすることができる。
第2の態様として、図1Aの層構成における好ましい態様の他の一例を示す。第2の態様の層構成では、第1発光ユニット5a及び第2発光ユニット5bはともにリン光発光を示すリン光発光ユニットである。すなわち、第1発光層6a、第2発光層6b、第3発光層6c及び第4発光層6dは全てリン光発光である。この態様では、蛍光発光は含まれていない。そして、第1発光層6aが赤色発光層、第2発光層6bが緑色発光層、第3発光層6cが赤色発光層、第4発光層6dが青色発光層である。青色、緑色、赤色の各発光層6は、それぞれ、青色、緑色、赤色の発光ドーパントを含んで構成されている。
本態様では、第2発光ユニット5bにおいて、発光層6のなかに、青色発光層を含んでいる。また、第1発光ユニット5aには、青色発光層が含まれていない。青色発光層を含む発光ユニット5では、発光層6を、青色発光層の単層で構成してもよいし、複数(例えば二つ)の青色発光層を積層させたり、青色発光層と緑色発光層とを積層させたり、青色発光層と赤色発光層とを積層させたりして複層で構成してもよい。
また、青色発光層を含まない発光ユニット5では、発光層6を、赤色発光層又は緑色発光層の単層で構成しもよいし、赤色発光層と緑色発光層とを積層した複層で構成してもよい。また、発光ドーパントとして、橙色又は黄色の発光ドーパントを用いるようにしてもよい。すなわち、橙色発光層や黄色発光層を用いるものである。それにより、色のバリエーションが増えて発光色を目的の色に調整しやすくすることができる。また、リン光発光であれば、容易に橙色又は黄色の発光ドーパントを得ることができる。
発光層6の厚みの関係は、第1発光層6aよりも第2発光層6bが厚く、第3発光層6cよりも第4発光層6dが厚いことが好ましい。発光ユニット内においてy値が高くより視感度の大きい発光層6の厚みが厚くなることにより、発光色の変化をより感じにくくすることができる。
図3は、有機EL素子の実施形態の他の一例である。図1Aと同様の構成には、同じ符号を付し、説明を省略する。有機EL素子は、陽極2と陰極3との間に有機層1が挟まれた構造を有している。有機層1は、複数の発光層6を有している。複数の発光層6は、青色発光ドーパントを含む青色発光層と、青色発光ドーパントを含まない非青色発光層とによって構成されている。すなわち、本形態では、複数の発光層6は、第1発光層6a及び第2発光層6bの二つの発光層6で構成されており、このうちの一方が青色発光層であり、他方が非青色発光層である。非青色発光層は、赤色発光ドーパントを含む赤色発光層であってもよいし、緑色発光ドーパントを含む緑色発光層でもあってもよい。また、非青色発光層は、赤色発光ドーパントと緑色発光ドーパントとを混合して含む層であってもよい。赤青緑の三色の発光ドーパントを有することにより、各ドーパントの光を混合させて所望の色の発光を得ることができる。また、三色を混合する(重ね合わせる)ことによって白色発光を容易に得ることができる。また、非青色発光層は、橙色発光ドーパントを含む橙色発光層であってもよい。橙色発光層を用いる場合、橙色と青色を重ね合わせて、少ない発光層6で白色の発光を得ることが可能になる。なお、もちろん発光層6は三つ以上であってもよい。
本形態の有機EL素子は、複数の発光層6が分離されずに積層された構造を有している。すなわち、発光ユニット5は一つでありシングルユニット構造である。図3の形態の有機EL素子では、陽極2側から、正孔輸送層7、第1発光層6a、第2発光層6b、電子輸送層8の順で積層されて有機層1が構成されている。シングルユニット構造の場合、層構成が簡単になって、有機EL素子の設計及び製造をしやすくすることができる。
本形態の有機EL素子では、安定状態の駆動温度で駆動したときに、CIE1931色度座標系において、使用初期の座標Aを(x1,y1)とし、使用により発光が劣化したときの座標Bを(x2,y2)としたときに、y2≧y1の関係が成り立つものである。それにより、輝度の変化を感じにくくし、実使用における発光色の変化を抑えることができる。すなわち、図1Aの形態と同様、厳密に数値化した場合、色度変化が生じていても、人間工学的には色度変化を感じなくすることが可能であり、実使用において発光色の変化をなくすことができ、有機EL素子の寿命を長期化することができるものである。座標Aと座標Bとにおけるy値の関係は、y2>y1の関係が成り立つことがさらに好ましい。それにより、発光色の変化をより一層感じなくすることができる。なお、座標A及び座標Bは、図1Bに示すものと同様の座標であってよい。
本形態の有機EL素子では、座標A(x1,y1)から座標B(x2,y2)までのx値及びy値の変化量をΔx=x2-x1及びΔy=y2-y1とすると、Δy≧Δxの関係が成り立つようにする。それにより、輝度の変化をより感じにくい方向に色を変化させることができるため、発光色の変化をより感じにくくすることができる。発光色の変化を感じにくくさせるためには、Δy>Δxの関係がさらに好ましい。
また、有機EL素子では、前記の座標Aと座標Bとにおいて、x2≧x1の関係が成り立つことが好ましい。それにより、色度の変化を感じにくくし、実使用における発光色の変化を抑えることができる。すなわち、図1Aの形態と同様、厳密に数値化した場合、色度変化が生じていても、人間工学的には色度変化を感じなくすることが可能であり、実使用において発光色の変化をなくすことができ、有機EL素子の寿命を長期化することができるものである。座標Aと座標Bとにおけるx値の関係は、x2>x1の関係が成り立つことがさらに好ましい。それにより、発光色の変化をより一層感じなくすることができる。
有機層1においては、複数の発光層6のうちのCIE1931色度座標系におけるy値が最も大きい発光層6の厚みは、他の発光層6の厚みよりも厚いことが好ましい。それにより、発光色の変化をより一層感じにくくすることができる。その理由は、図1Aの形態で説明したのと同様である。
また、複数の発光層6のうちのCIE1931色度座標系におけるy値が最も大きい発光層6は、一方の層界面において他の発光層6と接するとともに、他方の層界面において他の発光層6と接していないことが好ましい。それにより、発光色の変化をより一層感じにくくすることができる。その理由は、図1Aの形態で説明したのと同様である。
また、発光色は白色であることが好ましい。白色の有機EL素子では、Δy≧Δxの関係が成り立つことにより、発光色の変化をより感じにくくすることができる。その理由は、図1Aの形態で説明したのと同様である。
発光層6に含まれる発光ドーパントは、蛍光発光でも、リン光発光でもよい。ただし、一つの発光層6には、蛍光発光の発光ドーパントとリン光発光の発光ドーパントが混合しない方が好ましい。それにより発光を安定化することができる。また、複数の発光層6全体(発光層群)としても、蛍光発光の層とリン光発光の層とが積層されておらず、蛍光発光又はリン光発光のいずれかの発光層6により構成されていることが好ましい。それにより発光を安定化することができる。
図3の層構成における好ましい態様の一例を示す。この態様では、第1発光層6aが青色発光ドーパントを含まない非青色発光層であり、第2発光層6bが青色発光ドーパントを含む青色発光層である。第1発光層6a及び第2発光層6bは、蛍光発光及びリン光発光のいずれかのユニットとなっている。非青色発光層には、緑色発光ドーパント及び赤色発光ドーパントの一方又は両方が含まれている。あるいは、非青色発光層は、橙色発光ドーパントを含有するものであってもよい。
以下、上記で説明した各形態の有機EL素子に用いる材料、及び、有機EL素子の製造について説明する。
基板4としては、有機EL素子を形成するのに適した適宜の基板材料を用いることができる。例えば、ガラス基板、樹脂基板などを用いることができる。ガラス基板を用いれば、光取り出し性が高く強度のある透明基板を簡単に得ることができる。
電極(陽極2及び陰極3)は適宜の導電性材料を用いて、透明電極又は反射性電極として形成することができる。
陽極2としては、仕事関数の大きい金属、合金、電気伝導性化合物、あるいはこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましい。陽極2の材料としては、例えば、金などの金属、CuI、ITO(インジウム-スズ酸化物)、SnO2、ZnO、IZO(インジウム-亜鉛酸化物)等、PEDOT、ポリアニリン等の導電性高分子及び任意のアクセプタ等でドープした導電性高分子、カーボンナノチューブなどの導電性光透過性材料などを用いることができる。
また、陰極3としては、仕事関数の小さい金属、合金、電気伝導性化合物及びこれらの混合物からなる電極材料を用いることが好ましい。陰極3の材料としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属等、およびこれらと他の金属との合金、例えばナトリウム、ナトリウム-カリウム合金、リチウム、マグネシウム、マグネシウム-銀混合物、マグネシウム-インジウム混合物、アルミニウム-リチウム合金を例として挙げることができる。さらに金属等の導電材料を1層以上積層して用いてもよい。例えば、アルカリ金属/Alの積層、アルカリ土類金属/Alの積層、アルカリ土類金属/Agの積層、マグネシウム-銀合金/Agの積層などが例として挙げられる。また、ITO、IZOなどに代表される透明電極を用い、陰極3側から光を取りだす構成としても良い。
発光層6は、ドーパント化合物(発光ドーパント)であるゲスト材料と、ドーパント化合物を含有させるホスト材料を含んで形成される。
リン光発光層のホストとしては、CBP、CzTT、TCTA、mCP、CDBPなどを用いることができる。リン光緑色の発光ドーパントとしては、Ir(ppy)3、Ir(ppy)2(acac)、Ir(mppy)3などを用いることができる。リン光赤色の発光ドーパントとしては、Btp2Ir(acac)、Bt2Ir(acac)、PtOEPなどを用いることができる。リン光青色の発光ドーパントとしては、FIr(pic)などを用いることができる。リン光発光ドーパントのドープ濃度は1~40質量%にすることができる。
蛍光発光層のホストとしては、Alq3、ADN、BDAF、TBADNなどを用いることができる。蛍光緑色の発光ドーパントとしては、C545T、DMQA、coumarin6、rubreneなどを用いることができる。蛍光青色の発光ドーパントとしては、TBP、BCzVBi、peryleneなどを用いることができる。蛍光赤色の発光ドーパントとしては、DCJTBなどを用いることができる。また、蛍光発光層には、電荷移動補助ドーパントを用いることも好ましく、例えば、NPD、TPD、Spiro-TADなどを用いることができる。発光ドーパントと電荷移動補助ドーパントとを合わせた合計のドープ濃度は1~30質量%にすることができる。
青色発光ドーパントは、青色の発光色を呈するものであれば限定されるものではないが、例えば、波長400~490nm程度の範囲内、好ましくは波長430~490nm程度の範囲内に発光スペクトルの極大値を有するものである。また、緑色発光ドーパントは、緑色の発光色を呈するものであれば限定されるものではないが、例えば、波長490nmより大きく580nm以下程度の範囲内、好ましくは波長500~570nm程度の範囲内に発光スペクトルの極大値を有するものである。赤色発光ドーパントは、赤色の発光色を呈するものであれば限定されるものではないが、例えば、波長580nmより大きく750nm以下程度の範囲内、好ましくは波長590~650nm程度の範囲内に発光スペクトルの極大値を有するものである。なお、黄色発光ドーパントは、570~590nm程度の範囲内に発光スペクトルの極大値を有するものであってよく、橙色発光ドーパントは、590~620nm程度の範囲内に発光スペクトルの極大値を有するものであってよい。
中間層9としては、BCP:Li、ITO、NPD:MoO3、Liq:Alなどを用いることができる。例えば、中間層9を、BCP:Liからなる第1層を陽極2側に、ITOからなる第2層を陰極3側に配置した二層構成のものにすることができる。
正孔注入層としては、CuPc、MTDATA、TiOPC、HAT-CN6などを用いることができる。また、正孔注入層に、アクセプターをドープした正孔輸送有機材料を用いてもよい。アクセプターとしては、MoO3、V2O5、F4TCNQなどが例示される。
正孔輸送層7としては、TPD、NPD、TPAC、DTASi、トリアリールアミン系化合物などを用いることができる。
電子輸送層8としては、BCP、TAZ、BAlq、Alq3、OXD7、PBDなどを用いることができる。
電子注入層としては、LiF、Li2O、MgO、Li2CO3などのアルカリ金属やアルカリ土類金属のフッ化物や酸化物、炭酸化物の他に、有機物層にリチウム、ナトリウム、セシウム、カルシウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属をドープした層を用いることができる。
なお、上記の材料中、CBPは、4,4’-N,N’-ジカルバゾールビフェニルを表している。また、Alq3は、トリス(8-オキソキノリン)アルミニウム(III)を表している。また、TBADNは、2-t-ブチル-9,10-ジ(2-ナフチル)アントラセンを表している。また、Ir(ppy)3は、ファクトリス(2-フェニルピリジン)イリジウムを表している。また、Btp2Ir(acac)は、ビス-(3-(2-(2-ピリジル)ベンゾチエニル)モノ-アセチルアセトネート)イリジウム(III))を表している。また、C545Tは、クマリンC545Tのことであり、10-2-(ベンゾチアゾリル)-2,3,6,7-テトラヒドロ-1,1,7,7-テトラメチル-1H,5H,11H-(1)ベンゾピロピラノ(6,7,-8-ij)キノリジン-11-オンを表している。また、TBPは、1-tert-ブチル-ペリレンを表している。また、NPDは、4,4’-ビス[N-(ナフチル)-N-フェニル-アミノ]ビフェニルを表している。また、BCPは、2,9-ジメチル-4,7-ジフェニル-1,10-フェナンスロリンを表している。また、CuPcは、銅フタロシアニンを表している。また、TPDは、N,N’-ビス(3-メチルフェニル)-(1,1’-ビフェニル)-4,4’-ジアミンを表している。
そして、上記のような材料を適宜の順序で適宜の方法により順に成膜して積層することにより、図1A又は図3のような層構成の有機EL素子を製造することができる。
各電極の膜厚は、例えば、10~300nm程度にすることができる。有機層1の全体の膜厚は、例えば、60~300nm程度にすることができる。
成膜方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法、塗布法などを挙げることができる。
ここで、安定な面発光を得るために、各層の面内での厚みが均一に近づくように成膜することが好ましい。例えば、真空蒸着法においては、蒸発源角度、基板-蒸発源間の距離(高さ)や、基板回転中心-蒸発源間の距離(オフセット)などを適宜調整することにより、厚みのバラツキを小さくすることができ、所望の膜厚条件となった層を得ることができる。
ところで、図1A及び図3では、非青色発光層を有する有機EL素子を説明したが、有機EL素子においては、非青色発光層が含まれていなくてもよい。その場合、複数の発光層6は全て青色発光層で構成されていてよい。例えば、図1Aの層構成において、第2発光層6b及び第4発光層6dが省略され、複数の発光層6として、第1発光層6a及び第3発光層6cのみが設けられ、第1発光層6a及び第3発光層6cが青色発光層として構成されていてもよい。その際、第1発光層6a及び第3発光層6cのうちの一方又は両方は、緑色発光材料及び赤色発光材料の一方又は両方を含んでいてもよい。複数の発光層6全体として赤と緑と青の発光材料を含めば、白色発光がより可能になる。また、例えば、図3の層構成においては、第1発光層6a及び第2発光層6bの両方が青色発光層で構成されていてもよい。その際、第1発光層6a及び第2発光層6bのうちの一方又は両方は、緑色発光材料及び赤色発光材料の一方又は両方を含んでいてもよい。複数の発光層6全体として赤と緑と青の発光材料を含めば、白色発光がより可能になる。
照明装置は、上記の有機EL素子を備える。上記の有機EL素子を用いれば、発光色の変化を感じにくくすることによって実使用における発光色の変化を抑えることができ、寿命の長い照明装置を得ることができる。照明装置は、有機EL素子に給電するための配線構造を備えるものであってよい。照明装置は、有機EL素子を支持する筐体を備えるものであってよい。照明装置は、有機EL素子と電源とを電気的に接続するプラグを備えるものであってよい。照明装置は、パネル状に構成することができる。照明装置は、厚みを薄くすることができるため、省スペースの照明器具を提供することが可能である。
(試験例1)
図1Aの層構成のマルチユニット構造の有機EL素子について、設計条件を変化させて、発光色の変化を調べた。
第1発光ユニット5aを蛍光発光を示す蛍光発光ユニットとし、第2発光ユニット5bをリン光発光を示すリン光発光ユニットとした。そして、第1発光層6aを青色発光層、第2発光層6bを緑色発光層(非青色発光層)、第3発光層6cを赤色発光層(非青色発光層)、第4発光層6dを緑色発光層(非青色発光層)とした。青色、緑色、赤色の各発光層6は、それぞれ、青色、緑色、赤色の発光ドーパントを含んで構成するようにした。また、第1発光層6aよりも第2発光層6bの厚みを厚く、第3発光層6cよりも第4発光層6dの厚みを厚くした。発光色は白色とした。以上を基本設計として、輝度変化及び色度変化の仕方が異なる三つのデバイス(素子)を設計し、色度変化特性を調べた。
表1に結果を示す。表1において、「Device LT70比」は、輝度が70%に低下した相対時間であり、デバイス例A3を基準「1」にして相対的に記載している。初期の輝度は100%である。また、「LT100 CIE(x,y)」は初期の色度座標のx値及びy値を表し、「LT70 CIE(x,y)」は、輝度が70%に低下したときの色度座標のx値及びy値を表している。「Δx」、「Δy」は、初期から輝度が70%に低下したときまでの色度座標のx値及びy値の変化量である。「初期輝度比 A unit:B unit」は、使用初期における二つのユニットの発光輝度の相対比であり、「A unit」は青色含有ユニット(第1発光ユニット)、「B unit」は青色非含有ユニット(第2発光ユニット)である。また、「Du’v’(LT70)」は、輝度が70%に低下したときの色度座標のx値及びy値の変化に基づく色度変化量を示している。この色度変化量は、初期の色度からの変化量である。なお、「Du’v’」は、値が小さいほど、色度の変化が感じにくくなる。
表1に示すように、デバイス例A3では、経時的な色度変化が少ない素子を設計した。すると、DeviceLT70比(輝度が70%に低下した相対時間)が、他のデバイスよりも小さく、輝度が長持ちしないことが確認された。また、x値及びy値の変化はマイナス方向であった。
デバイス例A2では、色度変化が数値的に見られたものの、Du’v’が0.008のため、人間の視感度においては色変化を感じにくくなった。そして、デバイス例A2は、デバイス例A3に対して、輝度の低下する時間を1.2倍に延長した。
デバイス例A1では、色度変化が数値的に見られたものの、Du’v’が0.007のため、人間の視感度においては色変化を感じにくくなり、実使用における色度変化はないといっていいものであった。そして、デバイス例A1は、デバイス例A3に対して、輝度の低下する時間を1.7倍に延長することができ、長寿命化することができた。また、デバイス例A1は、Δy>Δxの関係となっており、色度変化がより一層感じにくく、より長寿命のデバイスとなった。
(試験例2)
図1Aの層構成のマルチユニット構造の有機EL素子について、設計条件を変化させて、発光色の変化を調べた。
第1発光ユニット5a及び第2発光ユニット5bをいずれもリン光発光を示すリン光発光ユニットとした。そして、第1発光層6aを赤色発光層(非青色発光層)、第2発光層6bを緑色発光層(非青色発光層)、第3発光層6cを赤色発光層(非青色発光層)、第4発光層6dを青色発光層とした。青色、緑色、赤色の各発光層6は、それぞれ、青色、緑色、赤色の発光ドーパントを含んで構成するようにした。また、第1発光層6aよりも第2発光層6bの厚みを厚く、第3発光層6cよりも第4発光層6dの厚みを厚くした。発光色は白色とした。以上を基本設計として、輝度変化及び色度変化の仕方が異なる三つのデバイス(素子)を設計し、色度変化特性を調べた。
表2に結果を示す。表2における、「Device LT70比」、「LT100 CIE(x,y)」、「LT70 CIE(x,y)」、「Δx」、「Δy」、「初期輝度比 A unit:B unit」、「Du’v’(LT70)」は、表1のものと同様の意味である。ただし、このデバイスでは、青色含有ユニットである「A unit」は第2発光ユニット、青色非含有ユニットである「B unit」は第1発光ユニットである。また、「Device LT70比」は、デバイス例B3を基準「1」にして相対的に記載している。
表2に示すように、デバイス例B3では、経時的な色度変化が少ない素子を設計した。すると、DeviceLT70比(輝度が70%に低下した相対時間)が、他のデバイスよりも小さく、輝度が長持ちしないことが確認された。また、x値及びy値の変化はマイナス方向であった。
デバイス例B2では、色度変化が数値的に見られたものの、Du’v’が0.007のため、人間の視感度においては色変化を感じにくくなった。そして、デバイス例B2は、デバイス例B3に対して、輝度の低下する時間を1.3倍に延長することができた。
デバイス例B1では、色度変化が数値的に見られたものの、Du’v’が0.004のため、人間の視感度においては色変化を感じにくくなり、実使用における色度変化はないといっていいものであった。そして、デバイス例B1は、デバイス例B3に対して、輝度の低下する時間を1.9倍に延長することができ、長寿命化することができた。また、デバイス例B1は、Δy>Δxの関係となっており、色度変化がより一層感じにくく、より長寿命のデバイスとなった。