WO2012128006A1

WO2012128006A1 - 脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法、並びに成形品

Info

Publication number: WO2012128006A1
Application number: PCT/JP2012/055073
Authority: WO
Inventors: 幸浩木内; 修吉田中
Original assignee: 日本電気株式会社
Priority date: 2011-03-22
Filing date: 2012-02-29
Publication date: 2012-09-27

Abstract

本発明は、脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）１００質量部に対して、反応性モノマー（Ｂ）０．５～２質量部及び脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）２～４質量部を含む脂肪族ポリエステル樹脂組成物であって、該脂肪族ポリエステル樹脂組成物から作製したプレス板（３．２ｍｍ厚）の表面にｐＨ１２のアルカリ性水溶液を塗布乾燥し、得られたアルカリ性水溶液塗布プレス板を６０℃、８５％ＲＨで７２時間置く前後の色差ΔＥ^＊ _ａｂが３未満である、耐加水分解性が改善され、かつ大幅に優れた耐変色性を有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物およびその製造方法並びに該脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなる成形品に関する。

Description

脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法、並びに成形品

　本発明は、耐変色性が大幅に改善された脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその製造方法、並びに該脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなる成形品に関する。

　石油を原料とする樹脂の代替として、近年、植物由来樹脂が注目され、実用化が盛んに検討されている。この植物由来樹脂として、特に脂肪族ポリエステル樹脂が注目され、各種用途で製品化されている。

　この脂肪族ポリエステル樹脂は、主に容器包装、農業用フィルム等の使用期間が短く、使用後に廃棄することを前提とした用途に使用されている。しかし、最近では、脂肪族ポリエステル樹脂は、家電製品やＯＡ機器の筐体、自動車用部品などの、初期の特性を長期間保持することが必要な耐久消費材にまで、使用範囲が広がりつつある。最近、特に積極的に研究開発されている植物由来の脂肪族ポリエステル樹脂は、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリグリコール酸、ポリヒドロキシアルカン酸などである。

　しかし、脂肪族ポリエステル樹脂は、従来の汎用樹脂に比べ容易に加水分解されるので、耐久性に劣るという問題がある。初期の物性を長期間保持するためには、脂肪族ポリエステル樹脂は耐加水分解性を向上させる必要がある。

　そこで、脂肪族ポリエステル樹脂の耐加水分解性を改善するため、カルボジイミド化合物のような、カルボキシ基と容易に反応する官能基を有する化合物を脂肪族ポリエステル樹脂に添加して、脂肪族ポリエステル樹脂の末端カルボキシ基を封鎖することが行なわれている（例えば、特許文献１参照）。

　なお、カルボジイミド化合物とは、分子中にカルボジイミド（－Ｎ＝Ｃ＝Ｎ－）基を有する化合物のことである。そして、カルボジイミド化合物は、公知の製造方法で製造可能であり（例えば、特許文献２、非特許文献１、非特許文献２等参照）、また、市販もされている。

　脂肪族ポリエステル樹脂に耐熱性、安定性に優れたポリカルボジイミド化合物を１質量％程度添加することも提案されている（例えば、特許文献３参照）。このポリカルボジイミド化合物が添加された脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、カルボジイミド基が脂肪族ポリエステル樹脂の遊離の末端カルボキシ基と反応して封鎖することにより、耐加水分解性が向上している。

　本発明者等は、脂肪族ポリエステル樹脂の耐熱性の向上に、反応性モノマーと反応性ポリマーを併用すること、そして、反応性モノマーとしてモノカルボジイミド化合物を、反応性ポリマーとしてポリカルボジイミド化合物を用いるとよいことを提案した（特許文献４）。

　しかしながら、ポリカルボジイミド化合物として、分子構造中に複数個の芳香環とカルボジイミド基を含有する高分子量の芳香族ポリカルボジイミド化合物を用いた、耐加水分解性を強化した脂肪族ポリエステル樹脂組成物では、メカニズムの詳細は明らかではないが、アルカリ性の液体と接触すると経時的に変色する問題がある。例えば、芳香族ポリカルボジイミド化合物を含む脂肪族ポリエステル樹脂組成物で作成したパソコンの筐体の表面を、市販のアルカリ性の家庭用洗剤、例えばマジックリン（登録商標）（商品名、花王株式会社製）、ルック（登録商標）（商品名、ライオン株式会社製）等で拭い、そのままでおくと、数日後に大きく変色してしまう。

特開２００１－２６１７９７号公報特公昭４７－３３２７９号公報特開平１１－８０５２２号公報ＷＯ２００８／０１０３５５号パンフレット

ジャーナル・オブ・オーガニック・ケミストリ（Ｊ．０ｒｇ．Ｃｈｅｍ．）２８，２０６９－２０７５（１９６３）ケミカル・レビュー（Ｃｈｅｍｉｃａｌ　Ｒｅｖｉｅｗ），８１（４），６１９－６２１（１９８１）

　したがって、本発明の第一の課題は、耐加水分解性を改善するためにポリカルボジイミド化合物を含んでいるのに、大幅に優れた耐変色性を有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物を提供することである。さらに、本発明の第二の課題は、その製造方法を提供することであり、本発明の第三の課題は、該脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなる成形品を提供することである。

　本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）に対し、反応性モノマー（Ｂ）と脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）を特定量で組合せると、耐変色性を大幅に向上させることができることを見出した。

　具体的には、脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）の末端カルボキシ基濃度を、カルボキシ基と反応する反応性モノマー（Ｂ）によって低減し、さらに脂肪族及び脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）を添加することによって得られる脂肪族ポリエステル樹脂組成物が、芳香族ポリカルボジイミド化合物を使用する場合よりも格段に優れた耐変色性を示す。

　本発明は、これらの知見に基づいて完成に至ったものである。

　すなわち、本発明は、下記［１］～［１２］の構成を有する。

［１］脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）１００質量部に対して、反応性モノマー（Ｂ）０．５～２質量部及び脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）２～４質量部を含む耐変色性に優れた脂脂肪族ポリエステル樹脂組成物であって、
　該脂肪族ポリエステル樹脂組成物から作成したプレス板（３．２ｍｍ厚）の表面にｐＨ１２のアルカリ性水溶液を塗布乾燥し、得られたアルカリ性水溶液塗布プレス板を６０℃、８５％ＲＨの雰囲気に７２時間置く前後で光源Ｄ６５／２を用い測定した色差ΔＥ^＊ _ａｂが３未満である
ことを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。

［２］前記脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）が、ポリ乳酸樹脂である、上記［１］の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。

［３］前記反応性モノマー（Ｂ）がモノカルボジイミド化合物である、上記［１］又は［２］の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。

［４］前記モノカルボジイミド化合物が芳香族モノカルボジイミド化合物である、上記［３］の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。

［５］脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）１００質量部に対して、反応性モノマー（Ｂ）０．５～２質量部及び脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）２～４質量部を含む耐変色性に優れた脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、
　製造した脂肪族ポリエステル樹脂組成物から作成したプレス板（３．２ｍｍ厚）の表面にｐＨ１２のアルカリ性水溶液を塗布乾燥し、得られたアルカリ性水溶液塗布プレス板を６０℃、８５％ＲＨの雰囲気に７２時間置く前後で光源Ｄ６５／２を用い測定した色差ΔＥ^＊ _ａｂが３未満であり、かつ、
　該脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）に、まず、該反応性モノマー（Ｂ）を添加混合し、次いで、該脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）を添加混合する工程からなる、
脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。

［６］前記脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）がポリ乳酸樹脂である、上記［５］の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。

［７］前記反応性モノマー（Ｂ）がモノカルボジイミド化合物である、上記［５］又は［６］の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。

［８］前記モノカルボジイミド化合物が芳香族モノカルボジイミド化合物である、上記［７］の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。

［９］脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）１００質量部に対して、反応性モノマー（Ｂ）０．５～２質量部及び脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）２～４質量部を含む脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなる耐変色性に優れた成形品であって、
　原料の脂肪族ポリエステル樹脂組成物から作成したプレス板（３．２ｍｍ厚）の表面にｐＨ１２のアルカリ性水溶液を塗布乾燥し、得られたアルカリ性水溶液塗布プレス板を６０℃、８５％ＲＨの雰囲気に７２時間置く前後で光源Ｄ６５／２を用い測定した色差ΔＥ^＊ _ａｂが３未満である
成形品。

［１０］前記脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）がポリ乳酸樹脂である、上記［９］の成形品。

［１１］前記反応性モノマー（Ｂ）がモノカルボジイミド化合物である、上記［９］又は［１０］の成形品。

［１２］前記モノカルボジイミド化合物が芳香族モノカルボジイミド化合物である、上記［１１］の成形品。

　本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、耐変色性に優れている。そこで、この樹脂組成物を筐体等の成形品として使用した時には、その表面に汚れが付着しても、成形品の表面変色を心配することなく、アルカリ性の薬品や洗剤などの液体で汚れを落とすことができる。したがって、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなる成形品は、長期に渡って使用することができる。すなわち、本発明の脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、芳香族ポリカルボジイミド化合物を含有する脂肪族ポリエステル樹脂組成物に比べ、高温に長時間保管した後の耐変色性が格段に優れている。

　したがって、本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を用いて、射出成形法、フィルム成形法、ブロー成形法、発泡成形法などの各種方法により得られる成形品は、耐変色性の要求が厳しいＰＯＳ端末などを初めとする電子機器の筐体部品等、建材、自動車部品、日用品、医療機器、農業資材などの各種用途に使用できる。

　次に、本発明について、詳細に説明する。

　本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）、反応性モノマー（Ｂ）及び脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）を含むことを特徴とし、耐変色性に優れている。

１．脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）
　本発明において用いる脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）とは、生分解性が顕著であり、加水分解性がある、脂肪族系のポリエステル樹脂である。具体的には、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレン（サクシネート／アジペート）共重合体、ポリグリコール酸、ポリ（３－ヒドロキシブチレート）、ポリ（３－ヒドロキシブチレート／３－ヒドロキシバリレート）共重合体、及びこれらの混合物が挙げられる。その中でも、耐熱性が高く、力学特性などの諸特性にも優れることからポリ乳酸が好ましい。

　このポリ乳酸としては、一般的に良く知られた方法で製造されたものを支障なく使用することができる。すなわち、その製造方法として、Ｌ－乳酸、Ｄ－乳酸、ＤＬ－乳酸（ラセミ体）を溶媒中で直接脱水縮合する１段階の直接重合法及び乳酸を原料として得られる環状二量体（ラクチド）を開環重合する２段階のラクチド法が知られている。これらの製造方法で用いられる触媒として、錫、アンチモン、亜鉛、チタン、鉄、アルミニウム等の金属含有触媒を例示することができる。これらの中では錫系触媒やアルミニウム系触媒が好ましく、特にオクチル酸錫やアルミニウムアセチルアセトナートが好適である。

　なお、本発明においては、ポリ乳酸は、数平均分子量Ｍｎが高いほど好ましく、通常３万以上であり、好ましくは７万～１０万である。

　また、本発明で用いるポリ乳酸としては、エステル形成能を有するその他の単量体成分を共重合した共重合ポリ乳酸であってもよい。共重合可能な単量体成分としては、グリコール酸、３－ヒドロキシ酪酸、４－ヒドロキシ酪酸、４－ヒドロキシ吉草酸、６－ヒドロキシカプロン酸等のヒドロキシカルボン酸、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ポリエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール等の分子内に複数の水酸基を有する化合物、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、フマル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、２，６－ナフタレンジカルボン酸等の分子内に複数のカルボキシ基を有する化合物が挙げられる。

　また、ポリ乳酸の溶融粘度を低減させるため、ポリカプロラクトン、ポリ（３－ヒドロキシブチレート）、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネートのような脂肪族ポリエステルを内部可塑剤や外部可塑剤として添加することもできる。

２．反応性モノマー（Ｂ）と脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）
　脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）に、加水分解性を抑え、耐変色性をもたせるために、反応性モノマー（Ｂ）及び脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）を配合する。

（１）反応性モノマー（Ｂ）
　本発明において用いる反応性モノマー（Ｂ）は、脂肪族ポリエステル樹脂の末端に遊離しているカルボキシ基と反応する官能基を有する化合物であり、例えば、カルボジイミド化合物（ただし、脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）は除く）、エポキシ化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物、オキサジン化合物、アジリジン化合物等が挙げられる。その中でも、安定性、カルボキシ基との反応性などの面で優れるカルボジイミド化合物が好ましい。

　反応性モノマー（Ｂ）として用いられるカルボジイミド化合物としては、分子内にカルボジイミド基を１つ有するモノカルボジイミド化合物が好ましい。つまり、モノカルボジイミド化合物は、分子内に２個以上のカルボジイミド基を有するポリカルボジイミド化合物よりも反応性が高く、脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）の末端カルボキシ基に確実に付加することができる。また、ポリカルボジイミド化合物を用いた際に発生する高粘度化やゲル化が発生しないため、流動性を損なわずに、脂肪族ポリエステル樹脂のカルボキシ基濃度を効率よく低減できる。

　モノカルボジイミド化合物としては、下記一般式（Ｉ）の基本構造を有するものを挙げることができる。
　　　Ｒ^１－Ｎ＝Ｃ＝Ｎ－Ｒ^２　　　（Ｉ）
（式中、Ｒ^１及びＲ^２は、それぞれ独立に、置換基を有することのある炭素及び水素からなる脂鎖型、脂環型又は芳香族型の有機基あるいはさらにケイ素を含む有機シリル基である。）

　モノカルボジイミド化合物の具体例としては、ジシクロヘキシルカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、ジフェニルカルボジイミド、ビス（メチルフェニル）カルボジイミド、ビス（メトキシフェニル）カルボジイミド、ビス（ニトロフェニル）カルボジイミド、ビス（ジメチルフェニル）カルボジイミド、ビス（ジイソプロピルフェニル）カルボジイミド、ビス（ジ－ｔ－ブチルフェニル）カルボジイミド、Ｎ－エチル－Ｎ’－（３－ジメチルアミノプロピル）カルボジイミド、ビス（トリフェニルシリル）カルボジイミド、環状カルボジイミド化合物などが挙げられる。中では、低揮発性、耐湿性、及び難燃性の向上の観点から、例えば、下記のような芳香族モノカルボジイミド化合物が好ましい。

（式中、Ｒ^３は、水素、メチル、メトキシ、イソプロピル、ブチル又はニトロ基である。）

（式中、Ｒ^４は、メチル、イソプロピル又はｔｅｒｔ－ブチル基である。）

　なお、これらは、好ましい芳香族モノカルボジイミド化合物の例を示すことを意図したものであり、これらに限定されるものではない。

　反応性モノマー（Ｂ）は、原料脂肪族ポリエステル樹脂の末端カルボキシ基濃度を低下させるために用いるものである。したがって、その使用量は、脂肪族ポリエステル樹脂のカルボキシ基（分子量にも関連）にもよるが、配合後のカルボキシ基濃度が通常５ｍｏｌ／１０^３ｋｇ以下となる量が適当である。なお、このカルボキシ基濃度は低いほど好ましく、通常、５ｍｏｌ／１０^３ｋｇ以下が好ましく、更に好ましくは２ｍｏｌ／１０^３ｋｇ以下である。この配合後のカルボキシ基濃度が５ｍｏｌ／１０^３ｋｇよりも大きい場合、併用する脂肪族及び／又は脂環族ポリカルボジイミド化合物（Ｃ）が添加された初期の段階で、一部反応し、脂肪族ポリエステル樹脂組成物が高粘度化やゲル化し、耐加水分解性も損なわれてしまう。

　具体的には、脂肪族ポリエステル樹脂１００質量部に対して、０．５～２質量部の反応性モノマー（Ｂ）を用いる。すなわち、反応性モノマー（Ｂ）の配合量が０．５質量部未満では、脂肪族ポリエステル樹脂の末端カルボキシ基を十分に減らすことができず、２質量部超では、未反応の反応性モノマー（Ｂ）が脂肪族ポリエステル樹脂組成物中に多く残ることになり、成型中に或いは成型物からブリードしてくるので好ましくない。

（２）脂肪族及び／又は脂環族ポリカルボジイミド化合物（Ｃ）
　本発明において用いる脂肪族及び／又は脂環族ポリカルボジイミド化合物（Ｃ）とは、脂肪族ポリエステル樹脂が分解により遊離してくるカルボキシ基と容易に反応しうる官能基であるカルボジイミド基を少なくとも２個有する化合物である。

　脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）は、分子内に２個以上のカルボジイミド基を有する、芳香環を含まないポリカルボジイミド化合物である。複数あるカルボジイミド基が脂肪族ポリエステル樹脂が加水分解で切断されて生じたカルボキシ基末端に付加し、さらに、脂肪族ポリエステル樹脂の分子鎖を再結合する。なお、ポリカルボジイミド化合物はモノカルボジイミド化合物よりも安定性が高いので、脂肪族ポリエステル樹脂組成物及びその成形品に持続性のある耐加水分解性を付与することができる。

　脂肪族及び／又は脂環族ポリカルボジイミド化合物としては、下記一般式（ＩＩ）の基本構造を有している。

（式中、Ｒ^５は、それぞれ独立に、炭素及び水素からなる脂鎖型又は脂環型の２価の有機基であり、ｎは２以上の整数であり、通常２～５０である。）

　本発明で使用する脂肪族及び／又は脂環族ポリカルボジイミド化合物は、一般的に良く知られた方法で合成することができる。例えば、有機リン系化合物又は有機金属化合物を触媒として、各種有機ジイソシアネートを約７０℃以上の温度で、無溶媒又は不活性溶媒中で、脱炭酸縮合反応して合成可能である。

　脂肪族及び／又は脂環族ポリカルボジイミド化合物製造用の原料有機ジイソシアネートとして、脂肪族ジイソシアネート、脂環族ジイソシアネート及びこれらの混合物を使用する。具体的には、ヘキサメチレンジイソシアネート、シクロヘキサン－１，４－ジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタン－４，４’－ジイソシアネート、メチルシクロヘキサンジイソシアネート等を例示することができる。

　脂肪族及び／又は脂環族ポリカルボジイミド化合物（Ｃ）の使用量は、脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）１００質量部に対して、２～４質量部である。２質量部未満でも脂肪族ポリエステル樹脂組成物の耐加水分解性は改善されるが、持続的な効果を得るためには２質量部以上が適当である。また、４質量部超でもかまわないが、本発明では、４質量部以下であれば脂肪族ポリエステル樹脂との混合が容易であり、脂肪族ポリエステル樹脂組成物の耐加水分解性は十分に向上する。

（３）反応性モノマー（Ｂ）と脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）の作用機構
　本発明の反応性モノマー（Ｂ）及び脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）が脂肪族ポリエステル樹脂に配合された場合、反応性モノマー（Ｂ）は、その機能として、添加後初期の段階において、加水分解を促進させる末端カルボキシ基を封鎖して加水分解を抑制する。一方、脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）は、加水分解反応によってエステル結合が切断されて生じた脂肪族ポリエステル樹脂、特にポリ乳酸樹脂のカルボキシ基に付加し、次いで、脂肪族ポリエステルの分子鎖を再結合させて分子量を維持する。

　したがって、反応性モノマー（Ｂ）と脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）とを、脂肪族ポリエステル樹脂と混合する場合、一緒に溶融混練してもよいが、最初に反応性モノマー（Ｂ）を脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）に添加混合して、十分にこれらを反応させてから、脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）を添加混合した方が、より大きな効果が得られる。

３．その他の添加物
　本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、反応性モノマー（Ｂ）及び脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）に加えて、本発明の効果を損なわない範囲で、これら以外の添加物を含有していてもよい。そのような添加剤として、例えば、無機フィラー、補強剤、着色剤（酸化チタン等）、安定剤（ラジカル補足剤、酸化防止剤等）、難燃剤（公知の金属水和物、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤等）、公知の結晶核剤（タルク等）、抗菌剤や防かび剤等を挙げることができる。

　無機フィラーとして、シリカ、アルミナ、砂、粘土、鉱滓等が使用でき、補強材としては針状無機物等が使用可能である。また、抗菌剤として、銀イオン、銅イオン、これらを含有するゼオライト等を例示できる。

［耐変色性の測定］
　本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、成形品として、その表面をアルカリ性水溶液で拭われ、そのまま置いたときに殆ど変色しないこと、すなわち、耐変色性に優れていることが特徴である。この耐変色性は、下記する色差ΔＥ^＊ _ａｂで評価でき、その値が３未満であることである。

　本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物をプレス板（３．２ｍｍ厚）となし、その表面にｐＨ１２のアルカリ性水溶液を塗布した後、６０℃、８５％ＲＨで７２時間置く。この放置の前後でそれぞれ、ＪＩＳ　Ｋ７１０５－１９８１（プラスチックの光学的特性試験方法）に従って、光源Ｄ６５／２を用いて、色の三刺激値を測定し、色差ΔＥ^＊ _ａｂを算出する。なお、本明細書では、光電色彩計として株式会社カラーテクノシステム製のハンディ分光測色計ＪＸ７７７（商品名）を用いた。

　本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、射出成形法、フィルム成形法、ブロー成形法、発泡成形法等により、電化製品の筐体などの電気・電子機器用途、建材用途、自動車部品用途、日用品用途、医療用途、農業用途などの成形品に加工できる。

　反応性モノマー（Ｂ）と脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）の配合順を考慮すること以外、脂肪族ポリエステル樹脂組成物への各種配合成分の混合方法に、特に制限はなく、公知の混合機、例えば、タンブラー、リボンブレンダー、単軸や二軸の混練機等による混合や押出機、ロール等による溶融混合が可能である。

　本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物を成形する方法としても、特に制限はなく、公知の射出成形、射出・圧縮成形、圧縮成形法等、通常の電気・電子機器製品の製造に必要とされる成形方法を適用できる。これらの溶融混合や成形時における温度については、脂肪族ポリエステル樹脂の溶融温度以上でかつ熱劣化しない範囲で設定することが可能である。

　以下、具体例を挙げて本発明を更に詳しく説明する。なお、実施例中の物性は下記の方法で測定し、評価した。

（耐変色性の評価）
　実施例、比較例で得た樹脂組成物のペレットからプレスにて試験片（１３ｍｍ×１３０ｍｍ×３．２ｍｍ厚）を作製する。その表面に家庭用洗剤「マジックリン（登録商標）」（商品名、花王株式会社製、ｐＨ１２）を塗布する。室温で乾燥させた後、色の三刺激値を光電色彩計（ハンディ分光測色計ＪＸ７７７（商品名）、光源Ｄ６５／２）で測定する。その後試験片を、６０℃、８５％ＲＨの保管庫に７２時間置き、再び色の三刺激値を光電色彩計で測定する。得られた三刺激値より、色差ΔＥ^＊ _ａｂを算出し、下記基準で耐変色性を評価する。
◎：色差ΔＥ^＊ _ａｂが３未満であり、耐変色性に優れる（合格）。
×：色差ΔＥ^＊ _ａｂが３以上であり、耐変色性に劣る（不合格）。

［実施例１］　
　ポリ乳酸（ユニチカ株式会社製、テラマック（登録商標）（商品名）、Ｍｎ＝１０万）１００質量部、芳香族モノカルボジイミド化合物（ラインケミー社製、スタバクゾール（登録商標）Ｉ（商品名）、ビス（ジイソプロピルフェニル）カルボジイミド）１質量部、脂環族ポリカルボジイミド化合物（日清紡株式会社製、カルボジライト（登録商標）ＬＡ－１（商品名））３質量部及び水酸化アルミニウム（日本軽金属株式会社製、ＢＥ０３３（商品名））７０質量部を混合し、この混合物の温度が約１８０℃になるように設定した卓上混練機内で溶融混練し、ついで押し出し機より押し出し、径３ｍｍ長さ５ｍｍのペレットを作製した。得られたペレットから試験片を作製し、耐変色性を評価した。結果を表１に示す。　

［実施例２］
　芳香族モノカルボジイミド化合物の使用量を２質量部に増やす他は実施例１と同様にして、ペレットを作製した。このペレットから試験片を作製し、耐変色性を評価した。結果を表１に示す。

［比較例１］　
　脂環族ポリカルボジイミド化合物に替えて、芳香族ポリカルボジイミド化合物（ラインケミー社製、スタバクゾール（登録商標）Ｐ（商品名））を用いる他は実施例１と同様にして、ペレットを作製した。このペレットから試験片を作製し、耐変色性を評価した。結果を表１に示す。

　表１に示される実施例、比較例の結果から明らかなように、脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）に、反応性モノマー（Ｂ）と脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）を添加した脂肪族ポリエステル樹脂組成物（実施例１、２）は、芳香族ポリカルボジイミド化合物を使用した組成物（比較例１）よりも耐変色性が格段に優れている。

　本発明の脂肪族ポリエステル樹脂組成物は、耐変色性に優れており、射出成形法、フィルム成形法、ブロー成形法、発泡成形法などの各種方法により成形品とすることが可能であるので、耐変色性の要求が厳しいＰＯＳ端末などを初めとする電子機器の筐体部品等、建材、自動車部品、日用品、医療機器、農業資材などの各種用途に使用できる。

　本出願は、２０１１年３月２２に出願された日本出願特願２０１１－０６２３０２を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。

Claims

　脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）１００質量部に対し、反応性モノマー（Ｂ）０．５～２質量部及び脂肪族及び／又は脂環族ポリカルボジイミド化合物（Ｃ）２～４質量部を含む耐変色性に優れる脂肪族ポリエステル樹脂組成物であって、
　該脂肪族ポリエステル樹脂組成物から作成したプレス板（３．２ｍｍ厚）の表面にｐＨ１２のアルカリ性水溶液を塗布乾燥し、得られたアルカリ性水溶液塗布プレス板を６０℃、８５％ＲＨの雰囲気に７２時間置く前後で光源Ｄ６５／２を用い測定した色差ΔＥ^＊ _ａｂが３未満である
ことを特徴とする脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
　前記脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）がポリ乳酸である、請求項１記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
　前記反応性モノマー（Ｂ）がモノカルボジイミド化合物である、請求項１記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
　前記反応性モノマー（Ｂ）がモノカルボジイミド化合物である、請求項２記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
　前記モノカルボジイミド化合物が芳香族モノカルボジイミド化合物である、請求項３記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
　前記モノカルボジイミド化合物が芳香族モノカルボジイミド化合物である、請求項４記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物。
　脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）１００質量部に対し、反応性モノマー（Ｂ）０．５～２質量部及び脂肪族及び／又は脂環族ポリカルボジイミド化合物（Ｃ）２～４質量部を含む耐変色性に優れる脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法であって、
　製造した脂肪族ポリエステル樹脂組成物から作成したプレス板（３．２ｍｍ厚）の表面にｐＨ１２のアルカリ性水溶液を塗布乾燥し、得られたアルカリ性水溶液塗布プレス板を６０℃、８５％ＲＨの雰囲気に７２時間置く前後で光源Ｄ６５／２を用い測定した色差ΔＥ^＊ _ａｂが３未満であり、かつ、
　該脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）に、まず、該反応性モノマー（Ｂ）を添加混合し、次いで、該脂肪族及び／又は脂環族のポリカルボジイミド化合物（Ｃ）を添加混合する工程からなる、
脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
　前記脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）がポリ乳酸である、請求項７記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
　前記反応性モノマー（Ｂ）がモノカルボジイミド化合物である、請求項７記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
　前記反応性モノマー（Ｂ）がモノカルボジイミド化合物である、請求項８記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
　前記モノカルボジイミド化合物が芳香族モノカルボジイミド化合物である、請求項９記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
　前記モノカルボジイミド化合物が芳香族モノカルボジイミド化合物である、請求項１０記載の脂肪族ポリエステル樹脂組成物の製造方法。
　脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）１００質量部に対し、反応性モノマー（Ｂ）０．５～２質量部及び脂肪族及び／又は脂環族ポリカルボジイミド化合物（Ｃ）２～４質量部を含む脂肪族ポリエステル樹脂組成物からなる耐変色性に優れる成形品であって、
　原料脂肪族ポリエステル樹脂組成物から作成したプレス板（３．２ｍｍ厚）の表面にｐＨ１２のアルカリ性水溶液を塗布乾燥し、得られたアルカリ性水溶液塗布プレス板を６０℃、８５％ＲＨの雰囲気に７２時間置く前後で光源Ｄ６５／２を用い測定した色差ΔＥ^＊ _ａｂが３未満である
成型品。
　前記脂肪族ポリエステル樹脂（Ａ）がポリ乳酸である、請求項１３記載の成形品。
　前記反応性モノマー（Ｂ）がモノカルボジイミド化合物である、請求項１３記載の成形品。
　前記反応性モノマー（Ｂ）がモノカルボジイミド化合物である、請求項１４記載の成形品。
　前記モノカルボジイミド化合物が芳香族モノカルボジイミド化合物である、請求項１５記載の成形品。
　前記モノカルボジイミド化合物が芳香族モノカルボジイミド化合物である、請求項１６記載の成形品。