WO2010079819A1 - 肥満または糖尿病治療用医薬組成物 - Google Patents

肥満または糖尿病治療用医薬組成物 Download PDF

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Abstract

本発明は、肥満症またはII型糖尿病の治療・予防のための医薬組成物および治療法を提供することを目的とする。本発明のAcsl-1阻害剤を有効成分として含む医薬組成物は、肥満症またはII型糖尿病の予防・治療に有用である。

Description

肥満または糖尿病治療用医薬組成物
本発明は、Acsl-1の新規用途に関する。より詳細には、本発明は、Acsl-1を用いた肥満症またはII型糖尿病の予防・治療薬を探索するためのスクリーニング方法、肥満症またはII型糖尿病の治療方法および肥満症(肥満症における体重管理も含む)またはII型糖尿病の予防・治療用医薬組成物に関する。
肥満は脂肪組織が全身的に増加した状態をいい、長期間にわたり摂取するエネルギー量が消費するエネルギー量よりも多いときに起きる。肥満は、内臓脂肪型肥満と皮下脂肪型肥満とに分類できる。内臓脂肪型肥満は、大網、腸間膜周囲に存在する腹腔内脂肪の蓄積量が増加する肥満で、糖尿病(特に、インスリン抵抗性を伴うII型糖尿病)、動脈硬化症、肝臓病、心臓病等を引き起こす元凶の一つとされ、現代社会において大きな問題となっている。
糖尿病は、持続的高血糖状態を伴う疾患であり、多くの環境因子と遺伝的因子とが作用した結果に生じるとされている。体内における血糖の主要な調整因子はインスリンであり、高血糖は、インスリン欠乏、または、その作用を阻害する諸因子(例えば、遺伝的素因、運動不足、肥満、ストレスなど)が過剰となって生じる。糖尿病には主として2つの種類があり、自己免疫疾患などによる膵インスリン分泌機能の低下によって生じるI型糖尿病と、持続的な高インスリン分泌に伴う膵疲弊による膵インスリン分泌機能の低下が原因であるII型糖尿病とに分類される。日本人の糖尿病患者の95%以上はII型糖尿病と言われており、今日、生活様式の変化に伴う患者数の増加が問題となっている。
アシル-CoA合成酵素ファミリーに属する酵素(以下、ACSと略記する)は、長鎖脂肪酸からアシルCoAへ変換する酵素である。アシルCoAは、細胞内脂質合成および脂肪酸分解・伸長反応における基質となることから、ACSは、細胞内の脂質代謝さらには脂質による細胞内シグナル伝達において中心的な役割を担う。またACSは、脂肪外脂肪酸の取込みにも関与する(非特許文献1参照)
ACSは、現在までに基質選択性や細胞内局在の異なる5つのアイソザイム(ACS1、3、4、5、6)が同定されている(非特許文献2参照)。このファミリーに属する酵素の一つであるAcsl-1(GenBank:NM_001995)は、主に肝臓や脂肪組織で発現しており、トリグリセリド(TG)の合成を触媒する。Acsl-1は、Acs1と標記されることもある。
ACSの阻害剤としてTriacsinCが知られており、この化合物は5つのアイソザイムのうち1、3、4を阻害することが報告されている(非特許文献3参照)。この化合物については、この他にヒト肝癌細胞株であるHuH7細胞においてTG蓄積を阻害すること(非特許文献4参照)やヒト正常皮膚繊維芽細胞であるCCD細胞でジアシルグリセロール、コレステロールエステル、リン脂質合成を阻害することが報告されている(非特許文献5参照)。
Acsl-1は、各種癌との関係が報告されており(例えば、特許文献1~3参照)他に肝硬変や肝繊維性障害(特許文献4参照)、気管支喘息(特許文献5参照)のバイオマーカーになることも報告されている。
さらに、特許文献6には、Acsl-1をターゲットとしたアンチセンス化合物について開示されている。明細書中には、この化合物が糖尿病や肥満の治療に有用であることが記載されているが、これはAcsl-1が脂肪酸を細胞内へ捕捉する酵素であることから、この酵素の欠損は、脂肪酸輸送タンパク質(FATP1)と同様の表現型を有するだろうという期待に基づくものである。また、記載の実施例を参照すれば、アンチセンスの設計方法やその活性の確認方法が記載されていることに留まっており、この遺伝子をノックアウト、あるいはノックダウンすることによって、どのような薬理効果が見られるのかまでは確認されていない。
しかし、この分野の当業者においては常識であるが、ターゲットの機能とそのインビボ効果は必ず一致するわけではなく、実際には薬理評価によって初めて明らかになるものである。
例えば、SCD-1(Stearoyl-CoA Desaturase-1)は、Acsl-1と代謝マップ上において隣接した脂質代謝に関連する酵素であるが、この酵素を肝臓特異的にノックアウトさせたマウスでも、体重減少の効果が確認できなかったことが示されている(非特許文献6参照)。
さらに、マウス肝臓にAcsl-1を過剰発現させた場合、肝臓のトリグリセライド量や脂肪酸の蓄積が亢進するものの、体重、摂餌量、肝重量、脂肪重量には変化がないことが報告されていた(非特許文献7参照)。この過剰発現により体重変動が見られないという結果から、今回の知見は予想外であるといえる。 
国際公開第07/010628号パンフレット 国際公開第07/117038号パンフレット 国際公開第03/3004989号パンフレット 特開2007-252366号 特開2004-121218号 国際公開第04/016749号パンフレット
Biocheical.J、第323巻、1-12ページ、1997年 J.Nutr、第132巻、2123-2126ページ、2004年 Biochemistry、第44巻、1635-1642ページ、2005年 J.Lipid.Res第48巻、1280-1292ページ、2007年 Biochem.J、第324巻、529-534ページ、1997年 Cell Metabolism 第6巻、484-496ページ、2007年 Am J Physiol Endocrinol Metab 第291巻 737-744ページ、2006年
本発明は、肥満症またはII型糖尿病の治療・予防のための医薬組成物、肥満症またはII型糖尿病の治療方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、肝臓のAcsl-1の発現を抑制することによって体重の増加の抑制および血糖値を降下させることを初めて見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成するに至った。
すなわち本発明は、
(1)Acsl-1阻害剤を有効成分として含むことを特徴とする肥満症及び/またはII型糖尿病を予防又は治療するための医薬組成物、
(2)前記阻害剤が、Acsl-1の発現を抑制する機能性核酸である上記(1)記載の組成物、
(3)前記機能性核酸が、siRNAである上記(2)記載の組成物、
(4)前記siRNAが、脂肪滴蓄積抑制効果を有するものである上記(3)記載の組成物
(5)前記siRNAが、Acsl-1の遺伝子発現を80%以上抑制できるものである上記(3)の組成物、
(6)前記siRNAが、RNAにおいて配列番号17~49からなる群より選択されるいずれかの配列を有するsiRNAである上記(5)の組成物、
(7)哺乳類に、Acsl-1阻害剤を有効量投与することを特徴とする肥満症またはII型糖尿病の治療方法、
(8)前記阻害剤が、Acsl-1の発現を抑制する機能性核酸である上記(7)記載の治療方法、
(9)前記機能性核酸が、siRNAである上記(8)記載の治療方法、
(10)Acsl-1の発現及び/または作用を阻害することを指標とする肥満症またはII型糖尿病治療薬のスクリーニング方法、
(11)RNAが配列番号17~49からなる群より選択されるいずれかの配列を有するsiRNAもしくはその誘導体、
(12)3'末端のオーバーハングをさらに含む、上記(11)記載のsiRNA、
(13)肥満症及び/またはII型糖尿病を予防又は治療するため医薬組成物を製造するためのAcsl-1阻害剤の使用、
(14)前記阻害剤が、Acsl-1の発現を抑制する機能性核酸である上記(13)の使用、
(15)前記機能性核酸が、siRNAである上記(14)の使用、
(16)前記siRNAが、脂肪滴蓄積抑制効果を有するものである上記(15)の使用
(17)前記siRNAが、Acsl-1の遺伝子発現を80%以上抑制できるものである上記(15)の使用、および
(18)前記siRNAが、RNAにおいて配列番号17~49からなる群より選択されるいずれかの配列を有するsiRNAもしくはその誘導体である上記(17)の使用、
に関する。
本発明によれば、Acsl-1阻害剤を投与することによって高い予防・治療効果を得ることができるため本発明の医薬組成物や治療法は、肥満症またはII型糖尿病の予防・治療に極めて有用である。
マウスAcsl-1 variant 3 ORFおよびshRNAの設計のために選択した27個の配列の位置を示した。 in vitroでのAcsl-1発現抑制効果を比較(shRNAスクリーニング)した結果を示す。ネガティブコントロールを導入した場合を100%として、各shRNAを導入したときのAcsl-1発現抑制率を示した。内部コントロールレポーターとしてSEAP活性を測定することで遺伝子導入効率を補正した。横軸には、shRNAの種類を示した。 肝臓Acsl-1の発現解析をした結果を示す。HD-Adを投与したDIOマウスにおける肝臓Acsl-1発現をmRNAレベル(定量PCR)と蛋白質レベル(ウエスタンブロット)で解析した。mRNAレベルは内部標準としてGAPDHを定量して補正し、Controlを100%として算出したときの発現量を示している。実験1とはHD-Ad-U6(Control)、HD-Ad-U6-Acsl1-I12(Acsl1-I12)を投与した実験、実験2とはHD-Ad-U6(Control)HD-Ad-U6-Acsl1-I16(Acsl1-I16)を投与した実験を示す(以下、同じ)。 Acsl-1発現抑制による体重増加抑制効果を示す。HD-Adを投与したDIOマウスの体重(左図)と体重増加率(右図)の経時変化をグラフにした。グラフの縦軸に体重または体重増加率、横軸にウイルス投与後日数を示した。体重増加率はウイルス投与3日後の体重を100%として算出した。 Acsl-1発現抑制による摂餌量への影響を示す。HD-Adを投与したDIOマウス摂餌量の経時変化をグラフにした。グラフの縦軸に摂餌量を、横軸にウイルス投与後日数を示した。摂餌量とは1日に摂取した餌量をマウスの体重で除した値である。 Acsl-1発現抑制による高血糖改善効果を示す。HD-Ad投与前と投与4週間後におけるDIOマウスの血糖値をグラフにした。 Acsl-1発現抑制によるGOTへの影響を示す。HD-Ad投与前と投与4週間後におけるDIOマウスのGOT値をグラフにした。 Acsl-1発現抑制によるインスリン抵抗性改善を示す。HD-Ad投与前と投与4週間後におけるDIOマウスの血中インスリン値をグラフにした。 Acsl-1発現抑制による血中総コレステロールの低下を示す。HD-Ad投与前と投与4週間後におけるDIOマウスの血漿中総コレステロール値をグラフにした。 Acsl-1発現抑制による脂肪肝の改善を示す。HD-Ad投与4週間後におけるDIOマウス肝臓トリグリセライドの値をグラフにした。 HD-Ad投与4週間後におけるDIOマウスの肝臓遊離コレステロールの値をグラフにした。 HD-Ad投与4週間後におけるDIOマウスの肝臓遊離脂肪酸の値をグラフにした。 ヒトAcsl-1のmRNAとマウスAcsl-1のmRNAにおける共通配列リスト。 ヒトAcsl-1のmRNAとマウスAcsl-1のmRNAにおける共通配列リスト。 ヒトAcsl-1のmRNAとマウスAcsl-1のmRNAにおける共通配列リスト。 ヒトAcsl-1のmRNAとマウスAcsl-1のmRNAにおける共通配列リスト。 ヒトAcsl-1のmRNAとマウスAcsl-1のmRNAにおける共通配列リスト。 HepG2における合成Acsl-1 siRNAの抑制効果を比較した結果を示す。Acsl-1 mRNA発現が赤点線より下回る合成siRNA(#41、53、56、64、202,207)はHs_ACSL1_4_HP siRNA(Acsl-1 PC)以上の抑制効率を示し、抗肥満および高血糖治療薬として期待できると考えられる。
 以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。

(A)本発明の医薬組成物及び治療法
本発明の一つの態様としては、「Acsl-1阻害剤を有効成分として含むことを特徴とする肥満症またはII型糖尿病を予防又は治療するための医薬組成物」および「Acsl-1阻害剤を有効量投与することを特徴とする肥満症またはII型糖尿病の治療方法」が挙げられる。ここで「Acsl-1」は公知のタンパク質である(GenBank:NM_001995)。Acsl-1のDNA配列を配列表の配列番号1に、アミノ酸配列を配列番号2に記載する。本発明における「Acsl-1」は、これらの配列に限定されるものではなく、配列番号2で表されるポリペプチドの機能が保持される限り、アミノ酸やDNAの変異数や変異部位に制限はないものとする。
本発明において「Acsl-1阻害剤」とは、Acsl-1遺伝子(特にヒトAcsl-1遺伝子)の発現またはその遺伝子産物の活性を阻害しうる物質を意味する。ここで、阻害剤の例としては遺伝子の転写または翻訳に影響を及ぼす物質や遺伝子産物の活性に影響を及ぼす物質などである。Acsl-1阻害剤には、またAcsl-1プロモーター阻害剤も含まれるものとする。こうした阻害剤の例としては核酸、たとえばアンチセンス、siRNAまたはそれらを含むベクターなど; ポリペプチド、たとえば優性阻害体(dominant negative)、抗体(配列番号2において示される連続したアミノ酸配列を含むポリペプチド内のエピトープと特異的に結合する抗体など)、または酵素など; 触媒型RNA、たとえばリボザイムなど;アプタマー; 低分子量(たとえば分子量2000Da未満の)の化学分子などである。これらの阻害剤は、例えば本明細書で開示するスクリーニング方法により選別することができる。
本発明において「Acsl-1阻害剤」の好ましい形態は、「機能性核酸」である。ここで「機能性核酸」とは、細胞内のDNAやmRNAなどの内在性遺伝子の発現抑制の他、DNAやmRNAが有する転写や翻訳などタンパク質を合成する一連の過程において作用して本来有する機能を抑制できる核酸を意味する。例えば、アンチセンス、siRNA、shRNA、miRNA、リボザイムまたはこれらを含む発現ベクターなどである。本発明の機能性核酸は、Acsl-1の発現を抑制しうる核酸である。ここで、発現の抑制とは、対照群と比較した場合に、本来のmRNAやタンパク質の発現量の70%以上を、好ましくは80%以上を抑制することを意味する。
本発明において「機能性核酸」の好ましい形態は、アンチセンスである。より具体的には配列番号:1のヌクレオチド配列内の任意の部位とハイブリダイズするアンチセンスオリゴヌクレオチドであり、かつAcsl-1の発現を阻害するものである。このアンチセンスオリゴヌクレオチドは、好ましくは、配列番号:1のヌクレオチド配列の少なくとも約15個の連続したヌクレオチドに対するものである。上記の少なくとも15個の連続したヌクレオチドにおいて開始コドンを含む、上記のアンチセンスオリゴヌクレオチドが、さらにより好ましい。
本明細書で用いる「アンチセンス核酸」という用語は、標的配列に完全に相補的なヌクレオチド、およびアンチセンス核酸が標的配列に特異的にハイブリダイズし得る限り、1つまたは複数のヌクレオチドのミスマッチを有するヌクレオチドの両方を包含する。例えば、本発明のアンチセンス核酸には、少なくとも15個の連続したヌクレオチドの範囲にわたって、少なくとも約70%またはそれ以上、好ましくは少なくとも約80%またはそれ以上、より好ましくは少なくとも約90%またはそれ以上の相同性を有するポリヌクレオチドが含まれる。相同性の決定には、当技術分野において公知のアルゴリズムを使用することができる。さらに、アンチセンスオリゴヌクレオチドの誘導体または修飾産物を、本発明でアンチセンスオリゴヌクレオチドとして用いることもできる。そのような修飾産物の例には、メチル-ホスホネート型またはエチル-ホスホネート型のような低級アルキルホスホネート修飾物、ホスホロチオエート修飾物、およびホスホロアミデート修飾物が含まれるが、これらに限定されない。
本発明において「機能性核酸」の別の好ましい形態は、siRNAである。本発明のsiRNAとは、Acsl-1の遺伝子発現を抑制するsiRNAをさす。具体的には、対照群と比較してAcsl-1の遺伝子発現を70%以上抑制できるsiRNAを、好ましくは80%以上抑制できるsiRNAをいう。なぜなら、このような抑制率を有するsiRNAは、体重変動抑制効果、血糖値上昇抑制効果および脂肪滴蓄積抑制効果を有していると考えられるからである。siRNAは、RNA干渉と呼ばれる配列特異的な遺伝子発現の抑制を誘導することが知られている。siRNAは、一般的に二本鎖RNA部分と、センス鎖および/またはアンチセンス鎖の3'末端のオーバーハング部分から構成される。ただし、3'末端のオーバーハング部分については必須ではなく、オーバーハング部分をもたない二本鎖siRNA(ブラントエンド型)も本発明に含まれる。
前記3'末端のオーバーハングとは、5'末端から19merが相補的な配列である2本の21merのRNA鎖が対合して二本鎖を形成したとき19塩基対の両端から突出する3'末端の部分をいう。構成するヌクレオチドの個数は特に、限定されないが2個程度が好ましい。本発明のsiRNAの3'末端オーバーハングの2塩基の配列は、例えば、両端ともTT(チミン・チミン)が好ましい。なお、前記3'オーバーハングの2塩基の配列は、これに制限されず、遺伝子発現を抑制する効果や体重変動抑制効果、血糖値上昇抑制効果および脂肪滴蓄積抑制効果などに実質的に影響を及ぼさない範囲であれば、任意の天然核酸塩基(アデニン、グアニン、チミン、シトシン、ウラシシル)、並びに、天然及び人工の公知の修飾塩基であってもよい。また、前記3'末端オーバーハング部分のヌクレオチドは、通常、リボヌクレオチドを使用できるがこれに制限されず、遺伝子発現を抑制する効果や体重変動抑制効果、血糖値上昇抑制効果および脂肪滴蓄積抑制効果などに実質的に影響を及ぼさない範囲であれば、デオキシリボヌクレオチド、修飾リボヌクレオチド、その他の公知のヌクレオチド類似体を使用してもよい。さらに、本発明の二本鎖siRNAは、必要に応じて、前記3'末端オーバーハングに代えて、5'末端オーバーハングとしてもよい。
siRNAは、当業者にとって公知である方法によって設計することができる。例えば、選択したDNA配列(19~21塩基が望ましい)をそのままRNA配列に変換したもの(センス鎖)とそのアンチセンス鎖を組み合わせて二本鎖RNA部分とし、オーバーハング部を付加する。本発明のsiRNAは、Acsl-1、好ましくはヒトのAcsl-1のDNA配列(配列番号1)に基づいて設計され、Acsl-1の発現を抑制できるsiRNAであれば、特に限定されるものではない。発現の抑制は、Acsl-1に特異的であることが望ましい。ここで、「特異的」とは、オフターゲット効果が抑制され、好ましくはオフターゲット効果がないことをいう。すなわち、Acsl-1遺伝子以外の遺伝子にRNAi効果を好ましくは及ぼすことがない、非常に高い特異性を示すことをいう。特異的であるかどうかは、一般公開されているBLAST検索を実施することにより確認できる。
本発明の二本鎖siRNAに含まれる核酸配列としては、下記表1(又は図13~17)に記載のNo.41、53、56、64、81、98、100、101、102、111、112、117、118、119、121、125、126、137、138、139、150、153、161、163、164、165、166、178、190、195、201、202及び207(それぞれ、配列表の配列番号17~49の配列)の33種類が使用されるのが好ましく、53、100、118、119、125、165、139、及び163がより好ましい。
本発明には、siRNAの「誘導体」も包含される。siRNAの「誘導体」とは、Acsl-1遺伝子特異的な遺伝子発現を抑制できる範囲において、単一または複数、例えば少なくとも2個、少なくとも4個、または少なくとも6個、および好ましくは3個まで、4個まで、5個まで、6個まで、10個まで、15個まで、または20個までのヌクレオチド置換、欠失および/または付加が、前記核酸中に存在することを意味する。さらにまた、「誘導体」という用語には、ヌクレオチド塩基、糖またはリン酸基における核酸の化学的誘導体も含まれる。
本明細書で用いる場合、用語「RNA」は、少なくとも一つのリボヌクレオチド残基を含む分子を意味する。「リボヌクレオチド」とは、β-D-リボ-フラノース部分の2'位にヒドロキシル基を持つヌクレオチドを意味する。この用語は改変RNAも包含する。そのような改変として、例えばRNAの末端への、または内部、例えばRNAの一または二個以上のヌクレオチドに、非ヌクレオチド物質を付加することを含むことができる。本発明のRNA分子中のヌクレオチドは、非標準ヌクレオチド、例えば自然発生しないヌクレオチドまたは化学合成ヌクレオチドまたはデオキシヌクレオチドなども含むことができる。
本発明のsiRNAの製造方法は、インビトロで化学的又は酵素的に合成しても、又は、インビボで合成してもよく、その製法は特に制限されないが、なかでも、従来公知の方法により化学合成して製造することが好ましい。合成二本鎖siRNAであれば、濃度調節が容易となり臨床応用に際してインターフェロン応答の回避が容易となる。また、コンタミネーションの防止が容易であり安全性においても利点がある。例えば、本発明の21塩基オーバーハング二本鎖siRNAのNo.41を製造する場合、まず、配列表の配列番号17の配列の3'末端に2塩基のオーバーハングを加えた21merのRNA鎖、及び、前記配列番号17の配列の相補配列の3'末端に2塩基のオーバーハングを加えた21merのRNA鎖をそれぞれ化学合成する。次に、前記2本のRNA鎖が対合する条件で対合させ、本発明の21塩基の二本鎖siRNAを得る。使用に際しては、必要に応じて、従来公知の方法により適宜精製することが好ましい。
また本発明のsiRNAには、投与対象内で本発明のsiRNAと同じ効果を有する任意の分子も含まれる。このような分子としては、例えば、shRNAが挙げられる。shRNAとはショートヘアピン構造型のRNAであり、一本鎖の一部の領域が他の領域と相補鎖を形成するためにステムループ構造を有するRNA分子である。二本鎖RNA部分が、本発明のsiRNAと同一構造を有するshRNAも本発明のsiRNAに含まれる。他には、投与対象に投与することによって本発明のsiRNAを発現することができるようなDNAも本発明のsiRNAに含まれる。このようなDNAは、siRNAをコードするDNAを発現ベクター(例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルスなどのベクター)に組み込んで構築して使用される。
本発明者らは、Acsl-1阻害剤として、Acsl-1の発現を抑制できるsiRNAを哺乳類に投与して体重増加率の抑制や血糖値の降下が見られることを確認した。さらに、Acsl-1の発現を抑制できるsiRNAは、脂肪滴蓄積抑制効果があることを確認した。ここで、脂肪滴蓄積抑制とは脂肪細胞、肝臓、骨格筋において過剰な脂肪蓄積を抑制できることであり、この現象によって肥満の改善やインスリン抵抗性の改善が期待できる)。これらの知見は、Acsl-1阻害剤を有効量投与することや、Acsl-1阻害剤を有効成分として含む医薬組成物が、肥満症(特に内臓脂肪型肥満症)や糖尿病(特にII型糖尿病)の治療・予防に有効であることを示唆するものである。
本明細書において、「肥満症」とは内臓又は皮下に脂肪が蓄積する肥満をいう。本発明の阻害剤は、特に、例えば大網、腸間膜周囲等の内臓周囲に脂肪が蓄積する内臓脂肪型肥満症に対して顕著な効果を有する。内臓等の脂肪が増加すると、脂肪細胞から放出されるTNFα(腫瘍壊死因子)や遊離脂肪酸が末梢細胞におけるインスリンの作用を減弱させてインスリン抵抗性となり、血糖が上昇しII型糖尿病を誘発し得る。また、内臓脂肪型肥満症では血中の脂質も増加し、動脈硬化症を併発し得る。本発明のAcsl-1阻害剤は、肥満症の予防又は治療と同時に、肥満症における体重管理、肥満症に伴う、糖尿病(特にインスリン抵抗性を伴うII型糖尿病)や動脈硬化症に対しても有用である。
Acsl-1阻害剤の有効成分が、機能性核酸である場合については、その治療効果を改善するための修飾、あるいはリポソームなどの輸送担体に含包することが望ましい。機能性核酸の治療薬としての効果を改善するには、ヌクレオチドの修飾または類似体を導入することができる。例えば、ヌクレアーゼ耐性の向上および/または細胞透過性の向上などである。ヌクレアーゼ耐性は、アンチセンス、siRNA、shRNAおよび/またはリボザイムの生理活性を妨げないような技術上周知の任意の方法によりもたらされる。ヌクレアーゼ耐性の向上を目的にオリゴヌクレオチドに加えることができる修飾の例としては、リン酸骨格中のヘテロ原子のリンまたは酸素の修飾である。例えば、メチルリン酸、ホスホロチオエート、ホスホロジチオエート、およびモルホリノオリゴマーなどである。また、技術上周知の他の修飾により、生理活性は維持したまま、ヌクレアーゼに対する安定性を大幅高めるようにしてもよい。
Acsl-1阻害剤の有効成分が、機能性核酸である場合については、in vivo発現、特に本発明の治療を必要とする患者体内での発現に際しては、発現ベクター、特に哺乳動物発現ベクターを使用するのが望ましい。発現ベクターは技術上周知であり、好ましくはプラスミド、コスミド、ウイルス発現系を含む。好ましいウイルス発現系の例としてはアデノウイルス、レトロウイルス、レンチウイルスなどである。また細胞や組織にベクターを導入する方法は技術上周知である。好ましい例としては、トランスフェクション、リポフェクション、エレクトロポレーション、および組み換えウイルスベクターによる感染などである。
肥満症またはII型糖尿病の治療においては、上記のAcsl-1阻害剤をそのまま用いてもよいが、通常は、製剤学的に許容しうる1又は2種以上の製剤用添加物を用いて該阻害剤を有効成分として含む医薬組成物を製造して投与することが好ましい。Acsl-1阻害剤を医薬組成物として使用する場合は、通常行われる手段に従って、錠剤、カプセル剤、エリキシル剤、マイクロカプセル剤などとして、あるいは無菌性溶液、懸濁液剤、凍結乾燥製剤などの注射剤とすることができる。
Acsl-1阻害剤の投与方法は経口投与でも非経口投与でもよく、非経口投与の形態も特に限定されず、静脈投与、筋肉内投与、腹腔内投与、または皮下投与などを行うことができる。
Acsl-1阻害剤の投与量は、投与対象、投与方法等により異なるが、例えば経口投与の場合は、患者(60kg)に対して、一日約0.1~100mg、好ましくは約1.0~50mg、より好ましくは約1.0~20mgである。非経口投与する場合は、例えば、患者(60kg)に対して、一日約0.01~30mg、好ましくは約0.1~20mg、より好ましくは約0.1~10mgを静脈注射することができる。

(B)本発明のスクリーニング方法
本発明の別の態様として、Acsl-1の発現及び/または作用を阻害することを指標とする肥満症またはII型糖尿病治療薬のスクリーニング方法が挙げられる。前述したように、本発明者らは、Acsl-1遺伝子の発現の抑制が、肥満やII型糖尿病に深く関わっていることを見出した。このことから、Acsl-1が肥満またはII型糖尿病の進行に関わっており、Acsl-1遺伝子の発現(mRNA発現)を抑制してAcsl-1の産生量を低下する作用を有する物質、またはAcsl-1の作用を低下する作用を有する物質は、肥満症またはII型糖尿病の予防または治療に有効な成分として有用であると考えられる。
下記に説明する本発明のスクリーニング方法は、被験物質の中から、(B-1)Acsl-1遺伝子の発現(mRNA発現)を抑制する作用を有する物質、(B-2)Acsl-1の産生量を低下する作用を有する物質、または(B-3)Acsl-1の作用を低下する作用を有する物質、を探索することによって、肥満症またはII型糖尿病の治療・予防剤(以下、これらを総称して「抗肥満剤等」ともいう)の有効成分を取得しようとするものである。
なお、抗肥満剤等の有効成分となりえる候補物質としては、核酸、ペプチド、タンパク質、有機化合物(低分子化合物、高分子化合物を含む)、無機化合物などを挙げることができる。本発明のスクリーニング方法は、これらの候補物質を含む試料を対象として実施することができる(これらを総称して「被験物質」という)。ここで、候補物質を含む試料には、細胞抽出物、遺伝子ライブラリーの発現産物、微生物培養上清、および菌体成分などが含まれる。
 (B-1) Acsl-1遺伝子の発現を抑制する作用を有する物質のスクリーニング方法
 当該スクリーニングは、被験物質の中から、Acsl-1遺伝子の発現を抑制する作用を有する物質を、Acsl-1 mRNAの発現量を指標として探索し、抗肥満剤等の有効成分として取得する方法である。
 当該方法は、具体的には下記の工程(1)~(3)を行うことによって実施することができる。
(1)被験物質とAcsl-1遺伝子を発現可能な細胞とを接触させる工程、
(2)被験物質を接触させた細胞のAcsl-1遺伝子の発現量を測定する工程、及び
(3)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞のAcsl-1遺伝子の発現量よりも小さい被験物質を選択する工程。
 かかるスクリーニングに用いられる細胞としては、天然または組み換え体の別を問わず、Acsl-1遺伝子を発現し得る細胞であればよい。なおAcsl-1遺伝子の由来も特に制限されず、ヒト由来であっても、またヒト以外のマウスなどの哺乳類やその他の生物種に由来するものであってもよいが、好ましくはヒト由来のAcsl-1遺伝子である。
 また、定法に従って、Acsl-1遺伝子のcDNAを有する発現ベクターを導入してAcsl-1 mRNAを発現可能な状態に調製された形質転換細胞を使用することもできる。なお、スクリーニングに用いられる細胞の範疇には、細胞の集合体である組織も含まれる。
 本発明のスクリーニング方法(B-1)の工程(1)において、被験物質とAcsl-1遺伝子発現可能細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、当該細胞が死滅せず、且つAcsl-1遺伝子が発現し得る培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択することが好ましい。
 候補物質の選別は、例えば上記条件で被験物質とAcsl-1遺伝子発現可能細胞とを接触させて、Acsl-1遺伝子の発現を抑制させてそのmRNAの発現量を低下させる物質を探索することによって行うことができる。具体的には、被験物質存在下でAcsl-1遺伝子発現可能細胞を培養した場合のAcsl-1 mRNAの発現量が、被験物質非存在下で上記に対応するAcsl-1遺伝子発現可能細胞を培養した場合に得られるAcsl-1 mRNAの発現量(対照発現量)よりも小さいことを指標として、細胞と接触させた当該被験物質を候補物質として選別することができる。
 Acsl-1 mRNAの発現量の測定(検出、定量)は、Acsl-1遺伝子発現可能細胞のAcsl-1 mRNAの発現量を、当該Acsl-1 mRNAの塩基配列と相補的な配列を有するオリゴヌクレオチドなどを利用したノーザンブロット法やRT-PCR法、リアルタイム定量PCR法などの公知の方法、またはDNAアレイを利用した測定方法を実施することなどにより行うことができる。
 (B-2) Acsl-1の産生を低下させる作用を有する物質のスクリーニング方法
 当該スクリーニングは、被験物質の中から、Acsl-1の産生を低下させる作用を有する物質を、Acsl-1の産生量を指標として探索し、抗肥満剤等の有効成分として取得する方法である。
 当該方法は、具体的には下記の工程(1’)~(3’)を行うことによって実施することができる。
(1’)被験物質とAcsl-1を産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分とを接触させる工程、
(2’)被験物質を接触させた細胞または細胞画分のAcsl-1の産生量を測定する工程、及び
(3’)上記の測定量が、被験物質を接触させない対照細胞(Acsl-1を産生可能な細胞)または被験物質を接触させない細胞画分(Acsl-1を産生可能な細胞から調製)のAcsl-1の産生量よりも小さい被験物質を選択する工程。
 かかるスクリーニングに用いられる細胞(対照細胞を含む)としては、天然または組み換え体の別を問わず、Acsl-1遺伝子が発現してAcsl-1を産生し得る細胞であればよい。なおAcsl-1遺伝子の由来も特に制限されず、ヒト由来であっても、またヒト以外のマウスなどの哺乳類やその他の生物種に由来するものであってもよいが、好ましくはヒト由来のAcsl-1遺伝子である。
 また、定法に従って、Acsl-1遺伝子のcDNAを有する発現ベクターを導入してAcsl-1を産生可能な状態に調製された形質転換細胞を使用することもできる。なお、スクリーニングに用いられる細胞の範疇には、細胞の集合体である組織も含まれる。
 本発明のスクリーニング方法(B-2)の工程(1’)において、被験物質とAcsl-1産生可能細胞とを接触させる条件は、特に制限されないが、当該細胞が死滅せず、且つAcsl-1遺伝子が発現し且つAcsl-1が産生し得る培養条件(温度、pH、培地組成など)を選択することが好ましい。
 候補物質の選別は、例えば上記条件で被験物質とAcsl-1産生可能細胞またはその細胞画分とを接触させて、Acsl-1の産生量を低下させる物質を探索することによって行うことができる。具体的には、被験物質存在下でAcsl-1産生可能細胞またはその細胞画分を培養した場合のAcsl-1産生量が、被験物質非存在下で上記に対応するAcsl-1産生可能細胞またはその細胞画分を培養した場合に得られるAcsl-1の産生量(対照産生量)よりも小さいことを指標として、細胞または細胞画分と接触させた当該被験物質を候補物質として選別することができる。
 Acsl-1産生量の測定(検出、定量)は、Acsl-1産生可能細胞またはその細胞画分から得られるAcsl-1の量を、当該Acsl-1に対する抗体(抗Acsl-1抗体)を利用してウエスタンブロット法や免疫沈降法、ELISA等の公知の方法を行うことによって実施することができる。
(B-3)Acsl-1の作用を低下させる作用を有する物質のスクリーニング方法
 当該スクリーニングは、被験物質の中から、Acsl-1の作用を低下させる作用を有する物質を、Acsl-1の作用を指標として探索し、抗肥満剤等の有効成分として取得する方法である。
当該方法は、具体的には下記の工程(1”)~(3”)を行うことによって実施することができる。
(1”)被験物質とAcsl-1を産生可能な細胞またはこの細胞から調製した細胞画分を接触させる工程、
(2”)被験物質を接触させた細胞または細胞画分のAcsl-1の作用を検出する工程、及び
(3”)上記の検出した作用が、被験物質を接触させない対照細胞(Acsl-1を産生可能な細胞)または細胞画分(Acsl-1を産生可能な細胞から調製)のAcsl-1の作用よりも低い被験物質を選択する工程。
 当該スクリーニングで用いられる細胞、並びに工程(2”)において被験物質と接触させ
る方法や条件は、前述する(B-2)のスクリーニング方法にて記載したものを同様に使用することができる。
 候補物質の選別は、上記条件で被験物質とAcsl-1産生可能細胞またはその細胞画分とを接触させて、Acsl-1の作用を低下させる物質を探索することによって行うことができる。具体的には、被験物質存在下でAcsl-1産生可能細胞またはその細胞画分を培養した場合に生じるAcsl-1の作用が、被験物質非存在下で上記に対応するAcsl-1産生可能細胞または細胞画分を培養した場合に得られるAcsl-1の作用(対照作用)よりも低いことを指標として、当該被験物質を候補物質として選別することができる。
 ここで、Acsl-1の作用としては、例えば、アシル-CoA合成酵素活性が挙げられる。この測定自体は公知の方法(例えば、J.Biol.Chem、256、5702-5707、1981年)に従って測定することができる。
 上記(B-1)~(B-3)のスクリーニング方法で選別された物質は、細胞においてAcsl-1遺伝子の発現を抑制してAcsl-1の産生を低下させるか、またはAcsl-1の作用を低下させる作用を有するものであり、肥満症またはII型糖尿病やその進行を予防する組成物または肥満症またはII型糖尿病を改善する組成物の有効成分として使用することが可能である。上記のスクリーニング方法によって選別された候補物質は、さらに肥満症またはII型糖尿病を有する病態非ヒト動物を用いてスクリーニングにかけることもできる。かくして選別される候補物質は、さらに肥満症またはII型糖尿病を有する病態非ヒト動物を用いた薬効試験、安全性試験、さらに肥満症またはII型糖尿病を有する患者(ヒト)もしくはその前状態にある患者(ヒト)への臨床試験に供してもよく、これらの試験を実施することによって、より実用的な肥満症またはII型糖尿病の予防または治療用組成物の有効成分を選別取得することができる。
 このようにして選別された物質は、必要に応じて構造解析を行った後、その物質の種類に応じて、化学的合成、生物学的合成(発酵を含む)または遺伝子学的操作によって、工業的に製造することができ、肥満症またはII型糖尿病予防・治療用組成物の創製に使用することができる。
以下に実施例を挙げて本発明を説明するが、実施例は本発明をより良く理解するために例示するものであって、本発明の範囲がこれらの実施例に限定されることを意図するものではない。
shRNA設計と二本鎖オリゴDNAの作製
以下のとおり、マウスAcsl-1 variant 3 ORF(Refseq ID XM_991228)に対してshRNAを設計した。まず、センスターゲット配列として、3’末端側の7塩基のうち4塩基がアデニンまたはチミンであること、およびチミンが連続して4塩基つながっていないことを条件として、上記遺伝子に連続して19塩基が完全一致する配列を27個選択した(図1)。これらの各センスターゲット配列に対する相補配列をアンチセンスターゲット配列とする。次に、センスターゲット配列とアンチセンスターゲット配列間にループ配列(TTCAAGAGAまたはATCAAGAGA)を挿入し、アンチセンスターゲット配列の3’末端側にPol IIIターミネーター配列であるTTTTTT配列を連結させたtop strand oligo DNAを設計した。さらに5’末端側にBamHI制限酵素部位と3’末端側にNotI制限酵素部位を導入しtop strand oligo DNA-BN とした。このtop strand oligo DNA-BNと相補的な配列をbottom strand oligo DNA-NBとした。top strand oligo DNA-BNとbottom strand oligo DNA-NBを100μMとなるようにTE緩衝液〔組成:10mM Tris-HCl、1mM EDTA (pH8.0)〕に溶解し、各10μLずつをマイクロチューブへ入れ、さらに最終濃度0.1MとなるようにNaClを添加した。この混合液が入ったマイクロチューブを100度に設定したヒートブロックへ入れ、4分加熱した後、室温に戻し冷却するまで放置し、二本鎖オリゴDNAを調製した(アニーリング)。
マウスAcsl-1遺伝子のクローニングと発現ベクターの構築
C57BL/6J(日本チャールスリバー)肝臓からRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて添付マニュアルに従いDNase I処理した後、全RNAを回収した。続いてSuperScriptIII First Strand Synthesis System (invitrogen) を用いて添付マニュアルに従いcDNA合成を行った。このcDNAを鋳型DNAとしてAcsl-1クローニング用プライマー(配列番号3、4)とPhusion High-Fidelity DNAポリメラーゼ(FINNZYMES)を用いて98℃ 10秒、68℃ 10秒、72℃ 1分を10回繰り返す条件でPCRを行うことにより、5'末端側にNotI制限酵素部位を3'末端側にXhoI制限酵素部位を導入したマウスAcsl-1(variant3)遺伝子の断片を得た。得られた断片をNotIとXhoI処理した後、予めNotI、XhoI処理したpCR3.1(invitrogen)へ連結させて発現ベクター(pCR3.1-Acsl-1)を作製した。
shRNA発現ベクターの構築
pShuttleベクター(クロンテック)をXbaIとSpeI消化して、CMV promoter領域を除いた後、human U6 promoterを挿入しpShuttle-U6とした。このpShuttle-U6をBamHIとNotIで処理し、実施例1に示す方法で作製した二本鎖オリゴDNAを組み込み、shRNA発現ベクターを作製した。
in vitroでのAcsl-1発現抑制効果の検討(shRNAスクリーニング)
実施例2で作製したマウスAcsl-1発現ベクター(pCR3.1-Acsl-1)と実施例3で作製したshRNA発現ベクターまたはネガティブコントロールとしてpShuttle-U6をHEK293細胞へco-transfectionし、Acsl-1の mRNA量を測定することでshRNA配列によるAcsl-1発現抑制率を比較した。10%FCS(ウシ胎仔血清)を含有するDMEMを用い、5%CO、37℃の条件下でHEK293細胞を培養した。トランスフェクション前日にHEK293細胞を12ウェルプレートに播種し、24時間培養後、FuGene(ロシュ)を用いてshRNA発現ベクター400 ngとAcsl-1発現ベクターまたはpShuttle-U6 600 ngと内部コントロールレポーターとして分泌型アルカリフォスファターゼを発現するベクター100 ngを添付マニュアルに従い、co-transfectionした。トランスフェクションから4日後に、培地を回収してBD GreatEscApe SEAP Chemiluminescence Detection Kit(Clontech)を用いて添付マニュアルに従いSEAP活性を測定した。続いて細胞からRNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて添付マニュアルに従いDNase I処理した後、全RNAを回収し、SuperScriptIII First Strand Synthesis System (invitrogen) を用いて添付マニュアルに従いcDNA合成を行った。合成したcDNAを鋳型としてSYBR Green Iによるリアルタイム定量PCRを行ない、Acsl-1 mRNA量を定量した。リアルタイム定量PCRは反応試薬としてSYBR Green PCR Master Mix (ABI)を用い、Applied Biosystems 7500リアルタイムPCRシステム(ABI)を用いて測定を実施した。このとき使用したリアルタイム定量PCR用プライマーの配列を配列番号5、6に示す。
結果の一部を図2に示す。この実験の結果、抑制率が優れていた(例えば、50%以上)shRNA配列をHelper dependent adenovirusベクター(HD-Adベクター)に搭載して使用する。
HD-Adベクターの構築と調製
pC4HSUベクター(Microbix Biosystems Inc.)をAscI処理し、PI-SceI、I-CeuI制限酵素部位を含むリンカーを導入してpC4HSU-PISceI-ICeuIを作製した。pShuttle-U6、図1の12番目に示す塩基配列を基に作製したpShuttle-U6-Acsl1-I12、および図1の16番目に示す塩基配列を基に作製したpShuttle-U6-Acsl1I16をPI-SceI、I-CeuI処理し、U6プロモーターとshRNA配列を含む領域を切り出し、予めPI-SceI、I-CeuI処理したpC4HSU-PISceI-ICeuIベクターへ組み、pC4HSU-U6、pC4HSU-U6-Acsl1-I12、およびpC4HSU-U6-Acsl1-I16を作製した。このベクターを用いて添付マニュアルに従いHD-Ad-ベクターを調製した。HD-Ad-U6-Acsl1-I12は、肝臓内でUGCCUUGCAAUUAUGUAAA(配列番号7)の塩基配列を有する二本鎖RNAを含むsiRNAを発現することができる。一方、HD-Ad-U6-Acsl1-I16については肝臓内でAUGGCACCUUGAAGAUUAU(配列番号8)の塩基配列を有する二本鎖RNAを含むsiRNAを発現することができる。
マウス肝臓特異的なAcsl-1発現抑制の実験方法
C57BL/6J(日本チャールスリバー)7週齢・雄へ高脂肪食(60%kcal脂肪:TestDiet社製)を7週間以上与えることで食餌誘導性肥満(DIO)マウスを作製した。HD-Ad投与前のデータとしてDIOマウス(14週齢:高脂肪食負荷7週)の体重、1日あたりの摂餌量、血糖値(6時間絶食時)を測定し、血漿成分(6時間絶食時)を回収した。血糖値の測定はグルコカードダイアメーター(アークレイ)を用いて添付マニュアルに従い測定した。血漿成分は、全血50μLへ0.5M ETDAを2μL添加して9000rpm、1分遠心分離して上清を回収することで得た。続いて、投与前データをとったDIOマウス(15週齢:高脂肪食負荷8週)へHD-Ad 9X1011 vpずつマウス尾静脈内注射して投与した。投与後4週間、体重と摂餌量の測定を行った。HD-Ad投与から4週間後、6時間絶食させたDIOマウス尾静脈から採血して血糖値を測定した。その直後、心採血により血漿成分を回収し、続いて肝臓組織を回収した。肝臓からのRNA回収、Acsl-1 mRNA発現定量は実施例4の細胞からの回収・定量と同様に行った。肝臓のAcsl-1蛋白質発現はウエスタンブロットにより解析した。ウエスタンブロットにはAcsl-1抗体(SANTA CRUZ BIOTECHNOLOGY:sc-49008)とHRP-Rabbit Anti-Goat IgG (H+L) conjugate(ZYMED Laboratories)を用いた。以上の実験をAcsl-1-shRNAごとに独立して2回に分けて行った。
実験1ではAcsl-1発現抑制群としてHD-Ad-U6-Acsl1-I12(n=6)、ネガティブコントロール群としてHD-Ad-U6(n=6)を投与して評価した。実験2ではAcsl-1発現抑制群としてHD-Ad-U6-Acsl1-I16(n=7)、ネガティブコントロール群としてHD-Ad-U6(n=8)を投与して評価した。
肝臓Acsl-1発現解析した結果、mRNAレベルはHD-Ad-U6-Acsl1-I12投与群において95%、HD-Ad-U6-Acsl1-I16投与群において92%発現抑制されていた。蛋白質レベルは両Acsl-1 shRNA投与群ともに検出不可能な程度まで発現抑制されていた。以上より、肝臓Acsl-1発現抑制に成功したことが確認できた(図3)。体重と摂餌量を経時的に測定した結果を図4、5に示す。コントロール群と比較して摂餌量に差がないのにも関わらずAcsl-1抑制群で体重増加抑制が確認された(体重:実験1 p<0.005,実験2 p<0.05、体重増加率:実験1 p<0.005,実験2 p<0.05)。続いて血糖値測定結果を図6に示す。HD-Ad投与4週間後のデータが示すようにAcsl-1抑制により血糖値の低下がみられた(実験1 p<0.05,実験2 p<0.001)。以上のとおり、何れも有意差が見られることから、Acsl-1発現抑制によって抗肥満効果および高血糖改善効果が確認された。
Glutamic-Oxaloacetic Transaminase(GOT)測定
ウイルス投与による肝炎への影響を調べるために、血漿成分のGOTを測定した。GOTはトランスアミナーゼCII―テストワコー(和光純薬)を用いて添付マニュアルに従って測定した。測定結果より、コントロール群、Acsl-1発現抑制群(Acsl1I12・I16投与群)全群でウイルス投与前よりGOTの上昇が若干見られたが体重へ影響を及ぼす数値ではなく、各群でGOT値に差はなかった。従って、ウイルス投与ならびにAcsl-1発現抑制によって肝炎は生じておらず、体重増加抑制の原因が肝炎ではないことが確認できた(図7)。
血漿インスリン濃度の定量
レビスインスリン-マウス(シバヤギ)を用いて添付マニュアルに従い定量した。定量結果を図8に示す。HD-Ad投与4週間後のデータが示すように、Acsl-1発現抑制によってコントロール群と比較して血中インスリン値が低下し、インスリン抵抗性が改善された(実験1 p<0.005、実験2 p<0.001)。
肝臓から脂質成分の抽出
Folch法を基に行った。肝臓0.5gをホモジナイズしマイクロチューブへ入れ、0.1M KClを加えて1.4mLにメスアップし、よく攪拌して15mLファルコンチューブへ移す。次に、CHClとMeOH混合液(2:1)6mLを入れ、室温で1時間攪拌する。2mLの滅菌水を加えてよく攪拌し、5分間放置する。3000rpm、10分間遠心分離し、下層(有機層)を720μL回収する。20分間エバポレーションを行って有機溶媒を除去すると黄透明な脂質成分が得られる。
血漿または肝臓の脂質成分の定量
トリグリセリドはトリグリセライド E-テストワコー(GPO・DAOS法:和光純薬)を用いて添付マニュアルに従い測定した。コレステロールはコレステロール E-テストワコー(コレステロールオキシダーゼ・DAOS法:和光純薬) を用いて添付マニュアルに従い測定した。遊離脂肪酸はNEFA C-テストワコー(ACS・ACOD法:和光純薬)を用いて添付マニュアルに従い測定した。血漿総コレステロール定量結果を図9、肝臓トリグリセライド測定結果を図10、肝臓遊離コレステロール測定結果を図11、肝臓遊離脂肪酸測定結果を図12に示す。測定結果より、コントロール群と比較してAcsl-1発現抑制によって肝臓トリグリセライドの低下(実験1 p<0.001,実験2 p<0.05)、肝臓遊離脂肪酸の低下(実験1 p<0.005,実験2 p<0.005)、肝臓遊離コレステロールが低下し(実験1 p<0.05,実験2 p<0.001)、脂肪肝の改善が見られた。さらに、Acsl-1発現抑制によってコントロール群に比べ血中総コレステロールの低下(実験1 p<0.005)も見られた。以上より、Acsl-1発現抑制によってメタボリックシンドローム改善効果が確認された。
ヒト肝臓細胞株Acsl-1遺伝子発現抑制による脂肪滴蓄積への影響
方法
ヒトAcsl-1に対するsiRNAであるHs_ACSL1_4_HP siRNA(SI00291228)とHs_ACSL1_5_HP siRNA(SI04244982)をQIAGENより購入した。また、本実験のポジティブコントロールとして中性脂肪合成酵素であるジアシルグリセロール アシルトランスフェラーゼ(DGAT)を用いるため、ヒトDGAT1に対するsiRNAであるHs_DGAT1_8_HP siRNA(SI03246754)、ヒトDGAT2に対するsiRNAであるHs_DGAT2_1_HP siRNA(SI00363097)をQIAGENより購入した。ネガティブコントロール(NC)siRNAはSAMCHULLYより購入した。10%FCS(ウシ胎仔血清)を含有するDMEMを用い、5%CO、37℃の条件下でヒト肝臓由来細胞株であるHepG2細胞を培養した。トランスフェクション直前にHepG2細胞を6ウェルプレートに播種し、Lipofectamine RNAiMAX試薬(invitrogen)を用いてsiRNA(最終濃度50μM)を添付マニュアルに従いリバーストランスフェクションした。このとき使用したsiRNAはHs_ACSL1_4_HP siRNA、NC siRNA、Hs_DGAT1_8_HP siRNAとHs_DGAT2_1_HP siRNAを混合したものであった。オレイン酸とBSA(ウシ血清アルブミン)をモル比5:1で混合したコンジュゲートを調製し、siRNAをトランスフェクションした翌日に細胞へ添加した(オレイン酸最終濃度0.2 mM)。siRNAトランスフェクション3日後(オレイン酸添加2日後)、HepG2に蓄積した脂肪滴をトリグリセライド蓄積測定試薬であるAdipo Red(三光純薬)を用いて添付マニュアルに従い染色した。染色後、HepG2を培養dishから剥離して2等分し、一方はAdipo Redで染色した細胞内脂肪滴をFACS(BD)により定量し、もう一方はRNAを回収してリアルタイム定量PCRによりAcsl-1、DGAT1および2のmRNA量を定量した。このとき使用したAcsl-1とDGAT1およびに2対するリアルタイム定量PCR用プライマーの配列を配列番号11~16に示す(細胞からのRNA回収やmRNA定量方法は実施例4を参照)。
HepG2におけるAcsl-1、DGAT1および2発現を解析した結果、Acsl-1 mRNAレベルはHs_ACSL1_4_HP siRNAにより85%抑制されており、DGAT1および2のmRNAレベルはHs_DGAT1_8_HP siRNAとHs_DGAT2_1_HP siRNAによりそれぞれ67%と50%抑制されていた。このように各遺伝子が抑制された条件においてHepG2の脂肪滴量を定量してNCと比較した結果、Acsl-1抑制によって27%、DGAT1および2抑制によって33%脂肪滴蓄積が抑制されていた。以上の結果から、Acsl-1阻害剤はDGAT阻害剤と同程度の脂肪蓄積抑制が期待できると考えられる。さらに、Hs_ACSL1_5_HP siRNAを用いた解析でも同様の結果であったことから、この脂肪滴蓄積抑制効果がオフターゲット効果によるものではないことが示唆された。
Acsl-1siRNAの設計と合成
ヒトAcsl-1 mRNA(NM_001995、配列番号9)とマウスAcsl-1 mRNA(NM_007981、配列番号10)において共通の連続して19塩基完全一致した配列を選択して(図13~17)以下の試験を行った。選択した配列のセンス鎖3’オーバーハングはチミン2塩基(dTdT)、アンチセンス鎖3’オーバーハングはAcsl-1 DNA配列と一致する2塩基としてsiRNAを合成した。siRNA合成はシグマアルドリッチジャパンに委託した。ネガティブコントロールとしてAllStar Negative Control siRNAをQIAGENより購入した。
Acsl-1siRNAの抑制効果の確認
10%FCS(ウシ胎仔血清)を含有するDMEMを用い、5%CO、37℃の条件下でヒト肝臓由来細胞株であるHepG2細胞を培養した。トランスフェクション直前にHepG2細胞を96ウェルプレートに播種し、Lipofectamine RNAiMAX試薬(invitrogen)を用いて実施例12で合成したsiRNA、AllStar Negative Control siRNA、ポジティブコントロールとして実施例11で使用したHs_ACSL1_4_HP siRNAを添付マニュアルに従いリバーストランスフェクションした(siRNA最終濃度50μM)。siRNAトランスフェクション3日後、FastLane Cell SYBR Green Kit(QIGEN)とリアルタイム定量PCRを用いて添付マニュアルに従ってHepG2細胞のAcsl―1 mRNA量を定量し、各siRNAのAcsl-1遺伝子発現抑制効率を算出した。その結果の一部を図18に示した。この中でHs_ACSL1_4_HP siRNAと同等以上の抑制効率を示したもの(例えば、図13~17のNo.41、53、56、64、202、207に示す配列をもとにして作製したsiRNA)は、Acsl-1発現抑制効率に優れ、脂肪滴蓄積を抑制できると考えられる。また、これらAcsl-1発現抑制効率に優れたsiRNAを含む医薬組成物は抗肥満および高血糖治療薬として期待できると考えられる。同様にして、種々の配列のsiRNAについて抑制効果を調べた結果、以下に示す配列をRNA部分のセンス鎖に有するsiRNAは、その効果が優れていることがわかった。
(sense配列5’→3’、U:ウリジン、A:アデノシン、G:グアノシン、C:シチジンを示す)

No.41、AUUUGUUUCACAAGUGGAA (配列番号17)
No.53、AGUGGAACUACAGGCAACC(配列番号18)
No.56、GGAACUACAGGCAACCCCA(配列番号19)
No.64、AGGCAACCCCAAAGGAGCA(配列番号20)
No.81、GCCUCUCGCCCAUAUGUUU(配列番号21)
No.98、GUAAUGCUGUGUCAUGGAG(配列番号22)
No.100、AAUGCUGUGUCAUGGAGCU(配列番号23)
No.101、AUGCUGUGUCAUGGAGCUA(配列番号24)
No.102、UGCUGUGUCAUGGAGCUAA(配列番号25)
No.111、CCAAGGAGAUAUCAGGCUG(配列番号26)
No.112、CAAGGAGAUAUCAGGCUGC(配列番号27)
No.117、GAAACAACAGCCUGUGGGA(配列番号28)
No.118、GAUGUGGAAGAAAUGAAUU(配列番号29)
No.119、AUGUGGAAGAAAUGAAUUA(配列番号30)
No.121、GAAAAGAUUGAAAAUAUCU(配列番号31)
No.125、AGGUGUUUGUCCACGGAGA(配列番号32)
No.126、GGUGUUUGUCCACGGAGAA(配列番号33)
No.137、GAACUAUUUCAGGUCGCAG(配列番号34)
No.138、AACUAUUUCAGGUCGCAGA(配列番号35)
No.139、ACUAUUUCAGGUCGCAGAU(配列番号36)
No.150、UCUCCAUGCAGUCAGUGGA(配列番号37)
No.153、AAGUUAAUUUGGGAAAUUA(配列番号38)
No.161、GGGGUUUUGAAUGUUUGCU(配列番号39)
No.163、GGUUUUGAAUGUUUGCUUU(配列番号40)
No.164、AGUGUUGGCUAUUUCUAUG(配列番号41)
No.165、GUGUUGGCUAUUUCUAUGU(配列番号42)
No.166、UGUUGGCUAUUUCUAUGUU(配列番号43)
No.178、CUAUGUUUUAUAAACCAAA(配列番号44)
No.190、AAAACAAUGAAGGAAACCA(配列番号45)
No.195、AAUGAAGGAAACCAAAAUA(配列番号46)
No.201、GGAAACCAAAAUAAAUAUU(配列番号47)
No.202、GAAACCAAAAUAAAUAUUU(配列番号48)
No.207、CAAAAUAAAUAUUUCUGCA(配列番号49)
各配列の抑制効果は以下の通りである。NC siRNAのAcsl-1 mRNA発現量を100として、各siRNAを導入した際のAcsl-1 mRNA発現量を算出して表にした。

Figure JPOXMLDOC01-appb-T000001

Claims (12)

  1. Acsl-1阻害剤を有効成分として含むことを特徴とする肥満症またはII型糖尿病を予防及び/又は治療するための医薬組成物。
  2. 前記阻害剤が、Acsl-1の発現を抑制する機能性核酸である請求項1の組成物。
  3. 前記機能性核酸が、siRNAである請求項2の組成物。
  4. 前記siRNAが、脂肪滴蓄積抑制効果を有するものである請求項3の組成物。
  5. 前記siRNAが、Acsl-1の遺伝子発現を80%以上抑制できるものである請求項3の組成物。
  6. 前記siRNAが、RNAにおいて配列番号17~49からなる群より選択されるいずれかの配列を有するsiRNAである請求項5の組成物。
  7. 哺乳類に、Acsl-1阻害剤を有効量投与することを特徴とする肥満症及び/またはII型糖尿病の治療方法。
  8. 前記阻害剤が、Acsl-1の発現を抑制する機能性核酸である請求項7の治療方法。
  9. 前記機能性核酸が、siRNAである請求項8の治療方法。
  10. Acsl-1の発現及び/または作用を阻害することを指標とする肥満症またはII型糖尿病治療薬のスクリーニング方法。
  11. RNAが配列番号17~49からなる群より選択されるいずれかの配列を有するsiRNAもしくはその誘導体。
  12. 3'末端のオーバーハングをさらに含む、請求項11記載のsiRNA。
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