WO2010038904A1 - 外来性核初期化因子またはそれをコードするdnaを含まない人工多能性幹細胞およびその作製方法 - Google Patents
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Abstract
この発明は、哺乳動物由来の体細胞から、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAを個々にまたは組み合わせて含む1つもしくは複数の発現ベクターを使用して人工多能性幹(iPS)細胞を作製する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されないベクターであり、該方法が、該発現ベクターを該体細胞に導入してiPS細胞を誘導し、該iPS細胞中の該発現ベクターの機能を消失させることを含む、外来性核初期化因子をコードするDNAを含まないかまたは該DNAを発現する能力をもたないiPS細胞の作製方法、ならびに、核初期化因子の発現が不能にされたiPS細胞に関する。
Description
本発明は、誘導後にもはや外来性核初期化因子またはそれをコードするDNAを含まない、あるいは該DNAを発現する能力をもたない、人工多能性幹細胞(以下、「iPS細胞」と称する)およびその作製方法に関する。
iPS細胞の誘導に必要な核初期化因子としてKlf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4の組み合わせ、Klf4、Sox2、Oct3/4の組合せ、Nanog、Lin28、Sox2、Oct3/4の組合せ等が知られており、これまでレトロウイルスベクター、レンチウイルスベクターを用いてiPS細胞が作製されている(特許文献1、非特許文献1~4)。
レトロウイルスベクターの場合、各トランスジーンは3~8コピーずつ宿主細胞ゲノムに組み込まれていたと報告されている(非特許文献1および8)。宿主細胞ゲノムへの組み込み効率の低い変異型レンチウイルスベクターを用いた報告もあるが、獲得できたiPS細胞のゲノムには、やはり同じようにトランスジーンが組み込まれていた(非特許文献5)。宿主細胞ゲノムへのベクターの挿入により、挿入部位周辺の遺伝子発現制御が撹乱される危険性も予想されている。事実、レトロウイルスベクターを用いたSCID−X1遺伝子治療の臨床例において、挿入部位下流の遺伝子活性化による白血病の発症が報告されている(非特許文献6)。また、宿主細胞ゲノムに挿入されたトランスジーンは、iPS細胞化の過程で宿主細胞のエピジェネティック制御機構を用いてサイレンシングされているが、不可逆的なものではなく、長期継代培養によりトランスジーンが再活性化する危険性も指摘されている(非特許文献7)。
ゲノム非挿入型ベクターの場合、プラスミド系ベクターにしろ、ウイルス系ベクターにしろ、エピソーマルに存在するため、分裂を繰り返すことにより、コピー数が減少してしまい、導入遺伝子の発現が一過性であることが、もうひとつの問題としてあげられている。この欠点のため、未だゲノム非挿入型ベクターを用いた遺伝子治療は十分な成功を収めていない。
iPS細胞作製の場合でも、2~3週間にわたりトランスジーンが高発現することが必要であることから、ゲノム挿入型ベクターを用いることがiPS細胞の作製には必要であろうと考えられている(非特許文献8および9)。
さらにまた、Klf4、c−Mycという増殖関連遺伝子は形質転換に関わっていることから、長期にわたる高発現は正常なiPS細胞に悪影響を及ぼすかもしれないし、また、最近になり、5−アザシチジン、バルプロ酸、トリコスタチンA等の阻害剤を用いることによるiPS細胞の作製効率の向上が報告されている(非特許文献10および11)が、いずれの化合物も細胞毒性が強く、例えば患者由来の細胞から作製したiPS細胞を用いた細胞再生療法やiPS細胞バンキングを考えた場合、現実的に応用できる方法ではないと予想される。
このように、iPS細胞の作製には、安全性や安定性の観点から、実際にヒトへの利用を実現するには解決すべき課題が多く存在しており、そのような課題の解消が、iPS細胞を用いた細胞再生療法を成功させるために全世界で待望されている。
レトロウイルスベクターの場合、各トランスジーンは3~8コピーずつ宿主細胞ゲノムに組み込まれていたと報告されている(非特許文献1および8)。宿主細胞ゲノムへの組み込み効率の低い変異型レンチウイルスベクターを用いた報告もあるが、獲得できたiPS細胞のゲノムには、やはり同じようにトランスジーンが組み込まれていた(非特許文献5)。宿主細胞ゲノムへのベクターの挿入により、挿入部位周辺の遺伝子発現制御が撹乱される危険性も予想されている。事実、レトロウイルスベクターを用いたSCID−X1遺伝子治療の臨床例において、挿入部位下流の遺伝子活性化による白血病の発症が報告されている(非特許文献6)。また、宿主細胞ゲノムに挿入されたトランスジーンは、iPS細胞化の過程で宿主細胞のエピジェネティック制御機構を用いてサイレンシングされているが、不可逆的なものではなく、長期継代培養によりトランスジーンが再活性化する危険性も指摘されている(非特許文献7)。
ゲノム非挿入型ベクターの場合、プラスミド系ベクターにしろ、ウイルス系ベクターにしろ、エピソーマルに存在するため、分裂を繰り返すことにより、コピー数が減少してしまい、導入遺伝子の発現が一過性であることが、もうひとつの問題としてあげられている。この欠点のため、未だゲノム非挿入型ベクターを用いた遺伝子治療は十分な成功を収めていない。
iPS細胞作製の場合でも、2~3週間にわたりトランスジーンが高発現することが必要であることから、ゲノム挿入型ベクターを用いることがiPS細胞の作製には必要であろうと考えられている(非特許文献8および9)。
さらにまた、Klf4、c−Mycという増殖関連遺伝子は形質転換に関わっていることから、長期にわたる高発現は正常なiPS細胞に悪影響を及ぼすかもしれないし、また、最近になり、5−アザシチジン、バルプロ酸、トリコスタチンA等の阻害剤を用いることによるiPS細胞の作製効率の向上が報告されている(非特許文献10および11)が、いずれの化合物も細胞毒性が強く、例えば患者由来の細胞から作製したiPS細胞を用いた細胞再生療法やiPS細胞バンキングを考えた場合、現実的に応用できる方法ではないと予想される。
このように、iPS細胞の作製には、安全性や安定性の観点から、実際にヒトへの利用を実現するには解決すべき課題が多く存在しており、そのような課題の解消が、iPS細胞を用いた細胞再生療法を成功させるために全世界で待望されている。
Takahashi,K.およびYamanaka,S.,Cell 126:663−676(2006)
Takahashi,K.ら,Cell 131:861−872(2007)
Yu,J.ら,Science 318:1917−1920(2007)
Nakagawa,M.ら,Nature Biotechnol.26:101−106(2008)
Mali,P.ら,Stem Cells 26:1998−2005(2008)
S.Hacein−Bey−Abinaら,Science 302:415−419(2003)
G.Narazakiら,Circulation 118:498−506(2008)
Okita,K.ら,Nature 448:313−7(2007)
Brambrink,T.ら,Cell Stem Cell 2:151−9(2008)
TS.Mikkelsenら,Nature 454:49−55(2008)
D.Huangfuら,Nature Biotechnol.26:795−797(2008)
本発明者らは、今回、iPS細胞の作製において、所望する時期、期間に限り複数の核初期化因子のトランスジーンを高発現させられる、そして該トランスジーンの発現を必要でなくなった時期に不能にすることができるゲノム非挿入型ベクターを構築することによって、上記課題を解決することを提案する。
本発明は、要約すると以下の特徴を含む。
第1の態様において、本発明は、哺乳動物由来の体細胞から、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAを個々にまたは組み合わせて含む1つもしくは複数の発現ベクターを使用して人工多能性幹(iPS)細胞を作製する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されないベクターであり、該方法が、該発現ベクターを該体細胞に導入してiPS細胞を誘導し、該iPS細胞中の該発現ベクターの機能を消失させることを含む、外来性核初期化因子をコードするDNAを含まないかまたは該DNAを発現する能力をもたないiPS細胞の作製方法を提供する。
本明細書で使用する「内在ゲノムに挿入されない」とは、ベクターが細胞本来(native)の内在ゲノムに組み込まれずに、内在染色体から独立して存在することを意味する。
本明細書で使用する「DNA」なる用語は、ゲノムDNA、cDNAなどのデオキシリボ核酸に対して使用される。
その実施形態において、上記内在ゲノムに挿入されないベクターは人工染色体である。人工染色体の具体例は、哺乳類人工染色体(MAC)、酵母人工染色体(YAC)または細菌人工染色体(BACまたはPAC)である。好ましい哺乳類人工染色体はヒト人工染色体(HAC)、マウス人工染色体などである。
別の実施形態において、上記1つもしくは複数の核初期化因子が少なくともOct3/4を含み、該核初期化因子はさらに、Sox2、Klf4およびc−Mycからなる群から選択される1もしくは複数の因子を含むことができる。
本明細書中、遺伝子名「Oct3/4」、「Sox2」、「Klf4」および「c−Myc」は、マウスやヒトを含めた任意の哺乳動物に対して使用する用語である。
別の実施形態において、上記ベクターの機能の消失が、該ベクター中のDNAの発現を不能にすること、該ベクターを含む細胞を破壊すること、あるいは該ベクターを脱落させることである。
別の実施形態において、上記ベクター中のDNAの発現を不能にすることが、該ベクターが体細胞特異的な発現制御領域を含み、これによって体細胞の核初期化に伴い該DNAの発現を不能にすることを含む。
本明細書で使用する「核初期化」(「初期化」とも称する)という用語は、分化した体細胞において胚性幹(ES)細胞のような分化多能性を誘導する核の再プログラム化(reprogramming)を指す。また、この再プログラム化を誘導する因子が「核初期化因子」(「初期化因子」とも称する)である。
また別の実施形態において、上記ベクターを含む細胞の破壊が、上記ベクターがチミジンキナーゼ(TK)をコードするDNAを含み、iPS細胞の誘導後、シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物の存在下で該チミジンキナーゼを発現する細胞を破壊することを含む。
さらに別の実施形態において、上記ベクターの脱落が、上記ベクターが、哺乳類セントロメアを含み、該セントロメアのCENP−B boxがDNA結合タンパク質認識配列によって置換されており、これによって、DNA結合タンパク質の存在下で染色体凝縮を阻害し、ベクターの脱落を起こすことを含む。
さらに別の実施形態において、上記ベクターの脱落が、誘導されたiPS細胞クローンのサブクローニングによって行われる。ここで好適なベクターは、人工染色体ベクター、好ましくは哺乳類人工染色体ベクター、より好ましくはヒト人工染色体ベクターである。
さらに別の実施形態において、この場合、上記ベクターがチミジンキナーゼをコードするDNAを含み、ならびに、上記サブクローンによって得られたiPS細胞サブクローンをさらに、シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物の存在下で培養し、これらの化合物に耐性なサブクローンを選択することを含む。この選択によって、ベクターが脱落した目的の細胞のみが得られる。
上記の3つの手法によって、誘導後のiPS細胞は、複数の核初期化因子をコードするDNAを発現する能力を喪失する。
別の実施形態において、上記発現ベクターに含まれる上記DNAのコピー数は、1つもしくは複数のコピー、好ましくは1~6コピー、より好ましくは2~5コピーである。
本明細書で使用する「コピー数」という用語は、発現すべき個々のDNAを含む同一発現ユニットの数を意味する。ユニット数依存的に外来DNAの発現レベルを増大させることが可能になる。
第2の態様において、本発明は、外来性(すなわち、外来的に導入された)核初期化因子またはそれをコードするDNAを含まないことを特徴とする哺乳動物由来のiPS細胞を提供する。すなわち、この細胞は、iPS細胞の誘導後に役割を終えた上記DNAが発現されないため、iPS細胞の利用に際して核初期化因子による悪影響が回避されることを特徴とする。
その実施形態において、上記iPS細胞が上記方法で作製されるものである。
別の実施形態において、上記哺乳動物が霊長類、げっ歯類、ペット動物または有蹄類である。哺乳動物は、例えばヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシなどを含み、好ましくはヒトであるが、これらに限定されない。
第3の態様において、本発明はさらに、哺乳動物由来の体細胞から、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAの複数コピーを含む発現ベクターを使用してiPS細胞を誘導する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されない人工染色体であり、該方法が、該人工染色体を該体細胞に導入してiPS細胞を誘導することを含む、該人工染色体を含むiPS細胞の誘導方法を提供する。ここで、複数コピーは、2以上のコピー、好ましくは2~5コピーである。
その実施形態において、上記人工染色体が哺乳類人工染色体である。哺乳類人工染色体の例は、ヒト人工染色体、マウス人工染色体などを含み、好ましくはヒト人工染色体である。
別の実施形態において、上記1つもしくは複数の核初期化因子が少なくともOct3/4を含み、該核初期化因子が、Sox2、Klf4およびc−Mycからなる群から選択される1もしくは複数の因子をさらに含む。
第4の態様において、本発明は、Oct3/4、Sox2、Klf4およびc−Mycを含む核初期化因子をコードするDNA、あるいはOct3/4、Sox2およびKlf4を含む核初期化因子をコードするDNA、の複数コピーを含むヒト人工染色体を提供する。
第1の態様において、本発明は、哺乳動物由来の体細胞から、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAを個々にまたは組み合わせて含む1つもしくは複数の発現ベクターを使用して人工多能性幹(iPS)細胞を作製する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されないベクターであり、該方法が、該発現ベクターを該体細胞に導入してiPS細胞を誘導し、該iPS細胞中の該発現ベクターの機能を消失させることを含む、外来性核初期化因子をコードするDNAを含まないかまたは該DNAを発現する能力をもたないiPS細胞の作製方法を提供する。
本明細書で使用する「内在ゲノムに挿入されない」とは、ベクターが細胞本来(native)の内在ゲノムに組み込まれずに、内在染色体から独立して存在することを意味する。
本明細書で使用する「DNA」なる用語は、ゲノムDNA、cDNAなどのデオキシリボ核酸に対して使用される。
その実施形態において、上記内在ゲノムに挿入されないベクターは人工染色体である。人工染色体の具体例は、哺乳類人工染色体(MAC)、酵母人工染色体(YAC)または細菌人工染色体(BACまたはPAC)である。好ましい哺乳類人工染色体はヒト人工染色体(HAC)、マウス人工染色体などである。
別の実施形態において、上記1つもしくは複数の核初期化因子が少なくともOct3/4を含み、該核初期化因子はさらに、Sox2、Klf4およびc−Mycからなる群から選択される1もしくは複数の因子を含むことができる。
本明細書中、遺伝子名「Oct3/4」、「Sox2」、「Klf4」および「c−Myc」は、マウスやヒトを含めた任意の哺乳動物に対して使用する用語である。
別の実施形態において、上記ベクターの機能の消失が、該ベクター中のDNAの発現を不能にすること、該ベクターを含む細胞を破壊すること、あるいは該ベクターを脱落させることである。
別の実施形態において、上記ベクター中のDNAの発現を不能にすることが、該ベクターが体細胞特異的な発現制御領域を含み、これによって体細胞の核初期化に伴い該DNAの発現を不能にすることを含む。
本明細書で使用する「核初期化」(「初期化」とも称する)という用語は、分化した体細胞において胚性幹(ES)細胞のような分化多能性を誘導する核の再プログラム化(reprogramming)を指す。また、この再プログラム化を誘導する因子が「核初期化因子」(「初期化因子」とも称する)である。
また別の実施形態において、上記ベクターを含む細胞の破壊が、上記ベクターがチミジンキナーゼ(TK)をコードするDNAを含み、iPS細胞の誘導後、シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物の存在下で該チミジンキナーゼを発現する細胞を破壊することを含む。
さらに別の実施形態において、上記ベクターの脱落が、上記ベクターが、哺乳類セントロメアを含み、該セントロメアのCENP−B boxがDNA結合タンパク質認識配列によって置換されており、これによって、DNA結合タンパク質の存在下で染色体凝縮を阻害し、ベクターの脱落を起こすことを含む。
さらに別の実施形態において、上記ベクターの脱落が、誘導されたiPS細胞クローンのサブクローニングによって行われる。ここで好適なベクターは、人工染色体ベクター、好ましくは哺乳類人工染色体ベクター、より好ましくはヒト人工染色体ベクターである。
さらに別の実施形態において、この場合、上記ベクターがチミジンキナーゼをコードするDNAを含み、ならびに、上記サブクローンによって得られたiPS細胞サブクローンをさらに、シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物の存在下で培養し、これらの化合物に耐性なサブクローンを選択することを含む。この選択によって、ベクターが脱落した目的の細胞のみが得られる。
上記の3つの手法によって、誘導後のiPS細胞は、複数の核初期化因子をコードするDNAを発現する能力を喪失する。
別の実施形態において、上記発現ベクターに含まれる上記DNAのコピー数は、1つもしくは複数のコピー、好ましくは1~6コピー、より好ましくは2~5コピーである。
本明細書で使用する「コピー数」という用語は、発現すべき個々のDNAを含む同一発現ユニットの数を意味する。ユニット数依存的に外来DNAの発現レベルを増大させることが可能になる。
第2の態様において、本発明は、外来性(すなわち、外来的に導入された)核初期化因子またはそれをコードするDNAを含まないことを特徴とする哺乳動物由来のiPS細胞を提供する。すなわち、この細胞は、iPS細胞の誘導後に役割を終えた上記DNAが発現されないため、iPS細胞の利用に際して核初期化因子による悪影響が回避されることを特徴とする。
その実施形態において、上記iPS細胞が上記方法で作製されるものである。
別の実施形態において、上記哺乳動物が霊長類、げっ歯類、ペット動物または有蹄類である。哺乳動物は、例えばヒト、マウス、ラット、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ブタ、ウシなどを含み、好ましくはヒトであるが、これらに限定されない。
第3の態様において、本発明はさらに、哺乳動物由来の体細胞から、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAの複数コピーを含む発現ベクターを使用してiPS細胞を誘導する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されない人工染色体であり、該方法が、該人工染色体を該体細胞に導入してiPS細胞を誘導することを含む、該人工染色体を含むiPS細胞の誘導方法を提供する。ここで、複数コピーは、2以上のコピー、好ましくは2~5コピーである。
その実施形態において、上記人工染色体が哺乳類人工染色体である。哺乳類人工染色体の例は、ヒト人工染色体、マウス人工染色体などを含み、好ましくはヒト人工染色体である。
別の実施形態において、上記1つもしくは複数の核初期化因子が少なくともOct3/4を含み、該核初期化因子が、Sox2、Klf4およびc−Mycからなる群から選択される1もしくは複数の因子をさらに含む。
第4の態様において、本発明は、Oct3/4、Sox2、Klf4およびc−Mycを含む核初期化因子をコードするDNA、あるいはOct3/4、Sox2およびKlf4を含む核初期化因子をコードするDNA、の複数コピーを含むヒト人工染色体を提供する。
本発明により、核初期化因子をコードするDNAを含む人工染色体を含むiPS細胞の誘導後に、iPS細胞の利用において外来の該DNAによる影響を実質的に排除することができる。このことは、iPS細胞から分化誘導される安全性のより高い細胞や組織を再生医療のために提供できることを意味する。さらにまた、人工染色体をiPS細胞の誘導に使用することによって、体細胞のゲノムへのランダムな組み込みによる不均質なiPS細胞の生成を避けることができる。すなわち、本発明で使用する人工染色体は、細胞ゲノムに組み込まれないため、人工染色体プロモーターが安定であり、これによりクローン間での発現レベルのバラツキが少なくなるため、バラツキの少ない、かつ内在未分化因子の発現が均一な(図16)、iPS細胞を生成することが可能になる。
図1は、マウス由来のmKlf4、mc−Myc、mSox2、mOct3/4をそれぞれ1コピーずつ持ったPAC発現ベクターを示す図(PAC−KMSO)である。このプラスミドはCAGプロモーターとウサギβ−グロビンポリA配列を持ち、それぞれのトランスジーン発現ユニットはチキンβ−グロビンHS4インスレーターに挟み込んでいる。このプラスミドは、loxP配列、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子のエクソン3~エクソン9に相当する配列も含有しており、Cre組換え酵素により21HACベクターにも挿入可能である。
図2は、21HACベクターの構造を示す図である。ここで、cenはセントロメア、telはテロメア、PGK puroはPGK(ホスホグリセロールキナーゼ)プロモーターの制御下のピューロマイシン耐性遺伝子、CAG EGFPはCAGプロモーター制御下の改変型緑色蛍光タンパク質遺伝子、CMV BsdはCMV(サイトメガロウイルス)エンハンサーの制御下のブラストシジンS耐性遺伝子、PGK hygroはPGKプロモーターの制御下のハイグロマイシン耐性遺伝子、MC1 TKはMC1プロモーターの制御下のチミジンキナーゼ遺伝子、β−アクチン hisDはβ−アクチンプロモーターの制御下のヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子をそれぞれ示す。
図3は、マウス由来のmKlf4、mc−Myc、mSox2、mOct3/4をそれぞれ1コピーずつ持ったPAC発現ベクターPAC−KMSOを挿入した21HACベクター(21HAC−KMSO)である。CAG−PはCAGプロモーター、HS4はチキンβ−グロビンHS4インスレーター、pAはウサギβ−グロビンポリA配列、HPRT3−9はHPRT遺伝子のエクソン3~エクソン9、HPRT1−2はHPRT遺伝子のエクソン1~エクソン2、TKはチミジンキナーゼ遺伝子、EGFPは改変型緑色蛍光タンパク質遺伝子をそれぞれ示す。
図4は、Cre組換え酵素によりPAC−KMSOが挿入された21HACベクター(21HAC−KMSO)を持つCHO細胞クローンKMSO10のFISH像である。
図5は、Cre組換え酵素によりPAC−KMSOを挿入した21HACベクター(21HAC−KMSO)を持つCHO細胞クローンKMSO10、KMSO13におけるトランスジーンの発現様式を示す図である。ここでGAPDHは、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を表す。
図6は、PAC−KMSOをリポフェクション法によりマウス胎児線維芽細胞(MEF)に導入後、得られたiPSクローンの形態(クローン#1)(20日目、34日目)を示す図である。1ヶ月以上にわたり、継代可能であり、マウスES細胞様の形態を維持した。
図7は、21HAC−KMSOを微小核細胞融合法によりMEFに導入後、得られたiPSクローンの形態(クローンKM10−1、KM10−2)(36日目)を示す図である。また、1ヶ月以上にわたり、継代可能であり、マウスES細胞様の形態を維持した。21HACベクター上にはEGFP遺伝子が組み込んであり、21HAC保持細胞は緑色蛍光を発している。
図8は、21HAC−KMSO導入クローンKM10−1のFISH解析の図である。ヒト特異的繰り返し配列cotIにより21HACベクターを赤色蛍光で、PAC−KMSOを緑色蛍光で検出している。
図9は、獲得したクローン#1、KM10−1、KM10−2、ならびに、それらの継代細胞の未分化マーカーの発現状態を示す図である。
図10は、獲得したクローン#1、KM10−1、KM10−2、ならびに、それらの継代細胞のトランスジーンの発現状態を示す図である。
図11は、獲得したクローン#1により形成された奇形腫の図である。
図12は、マウス由来のmKlf4、mc−Myc、mSox2、mOct3/4をそれぞれ2コピーずつ持ったPAC発現ベクターPAC−2CAG−KMSOを挿入した21HACベクターの図(21HAC−2CAG−KMSO)である。CAG−PはCAGプロモーター、HS4はチキンβ−グロビンHS4インスレーター、pAはウサギβ−グロビンポリA配列、Hygはハイグロマイシン耐性遺伝子、EGFPは改変型緑色蛍光タンパク質遺伝子、HPRT3−9はHPRT遺伝子のエクソン3~エクソン9、HPRT1−2はHPRT遺伝子のエクソン1~エクソン2、TKはチミジンキナーゼ遺伝子をそれぞれ示す。
図13は、Cre組換え酵素によりPAC−2CAG−KMSOが挿入された21HACベクター(21HAC−2CAG−KMSO)を持つCHO細胞クローン2CAGE05、2CAGE07、2CAGE15、2CAGE16、2CAGE17、2CAGE19におけるトランスジーンの発現様式を示す。ここでMilliQは純水を表す。
図14は、21HAC−2CAG−KMSOを微小核細胞融合法によりMEFに導入後、得られたiPSクローンの形態(サブクローン2CAG7−1s1、2CAG7−4s1、2CAG7−6s1)を示す図である。
図15は、21HAC−2CAG−KMSO導入iPSクローンのサブクローンである2CAG7−6s1、2CAG7−4s1および2CAG5−6s3のFISH像である。矢印は21HACベクターを示す。2CAG7−4s1は21HACベクターを保持した細胞と脱落した細胞が混在していたが、2CAG7−6s1、2CAG5−6s3では21HACベクターを全く検出できなかった。これらのことは、21HAC−2CAG−KMSO導入iPSクローンのサブクローニングの間に21HACベクターが自然に脱落する細胞が得られることを示している。
図16は、獲得したクローン2CAG7−1s1~s6、2CAG7−4s1、2CAG7−6s1の未分化マーカーの発現状態を示す図である。ここで、m−iPS20D17およびmESTT2−Fは陽性対照であり、MEFは陰性対照である。また、Nat1はN−アセチルトランスフェラーゼ1遺伝子を表す。
図17は、2CAG7−4s1をガンシクロビル存在下で培養後、得られたガンシクロビル耐性iPSクローンの形態(7日目)を示す図である。このクローンは、マウスES細胞様の形態を維持していた。
図2は、21HACベクターの構造を示す図である。ここで、cenはセントロメア、telはテロメア、PGK puroはPGK(ホスホグリセロールキナーゼ)プロモーターの制御下のピューロマイシン耐性遺伝子、CAG EGFPはCAGプロモーター制御下の改変型緑色蛍光タンパク質遺伝子、CMV BsdはCMV(サイトメガロウイルス)エンハンサーの制御下のブラストシジンS耐性遺伝子、PGK hygroはPGKプロモーターの制御下のハイグロマイシン耐性遺伝子、MC1 TKはMC1プロモーターの制御下のチミジンキナーゼ遺伝子、β−アクチン hisDはβ−アクチンプロモーターの制御下のヒスチジノールデヒドロゲナーゼ遺伝子をそれぞれ示す。
図3は、マウス由来のmKlf4、mc−Myc、mSox2、mOct3/4をそれぞれ1コピーずつ持ったPAC発現ベクターPAC−KMSOを挿入した21HACベクター(21HAC−KMSO)である。CAG−PはCAGプロモーター、HS4はチキンβ−グロビンHS4インスレーター、pAはウサギβ−グロビンポリA配列、HPRT3−9はHPRT遺伝子のエクソン3~エクソン9、HPRT1−2はHPRT遺伝子のエクソン1~エクソン2、TKはチミジンキナーゼ遺伝子、EGFPは改変型緑色蛍光タンパク質遺伝子をそれぞれ示す。
図4は、Cre組換え酵素によりPAC−KMSOが挿入された21HACベクター(21HAC−KMSO)を持つCHO細胞クローンKMSO10のFISH像である。
図5は、Cre組換え酵素によりPAC−KMSOを挿入した21HACベクター(21HAC−KMSO)を持つCHO細胞クローンKMSO10、KMSO13におけるトランスジーンの発現様式を示す図である。ここでGAPDHは、グリセルアルデヒド3−リン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子を表す。
図6は、PAC−KMSOをリポフェクション法によりマウス胎児線維芽細胞(MEF)に導入後、得られたiPSクローンの形態(クローン#1)(20日目、34日目)を示す図である。1ヶ月以上にわたり、継代可能であり、マウスES細胞様の形態を維持した。
図7は、21HAC−KMSOを微小核細胞融合法によりMEFに導入後、得られたiPSクローンの形態(クローンKM10−1、KM10−2)(36日目)を示す図である。また、1ヶ月以上にわたり、継代可能であり、マウスES細胞様の形態を維持した。21HACベクター上にはEGFP遺伝子が組み込んであり、21HAC保持細胞は緑色蛍光を発している。
図8は、21HAC−KMSO導入クローンKM10−1のFISH解析の図である。ヒト特異的繰り返し配列cotIにより21HACベクターを赤色蛍光で、PAC−KMSOを緑色蛍光で検出している。
図9は、獲得したクローン#1、KM10−1、KM10−2、ならびに、それらの継代細胞の未分化マーカーの発現状態を示す図である。
図10は、獲得したクローン#1、KM10−1、KM10−2、ならびに、それらの継代細胞のトランスジーンの発現状態を示す図である。
図11は、獲得したクローン#1により形成された奇形腫の図である。
図12は、マウス由来のmKlf4、mc−Myc、mSox2、mOct3/4をそれぞれ2コピーずつ持ったPAC発現ベクターPAC−2CAG−KMSOを挿入した21HACベクターの図(21HAC−2CAG−KMSO)である。CAG−PはCAGプロモーター、HS4はチキンβ−グロビンHS4インスレーター、pAはウサギβ−グロビンポリA配列、Hygはハイグロマイシン耐性遺伝子、EGFPは改変型緑色蛍光タンパク質遺伝子、HPRT3−9はHPRT遺伝子のエクソン3~エクソン9、HPRT1−2はHPRT遺伝子のエクソン1~エクソン2、TKはチミジンキナーゼ遺伝子をそれぞれ示す。
図13は、Cre組換え酵素によりPAC−2CAG−KMSOが挿入された21HACベクター(21HAC−2CAG−KMSO)を持つCHO細胞クローン2CAGE05、2CAGE07、2CAGE15、2CAGE16、2CAGE17、2CAGE19におけるトランスジーンの発現様式を示す。ここでMilliQは純水を表す。
図14は、21HAC−2CAG−KMSOを微小核細胞融合法によりMEFに導入後、得られたiPSクローンの形態(サブクローン2CAG7−1s1、2CAG7−4s1、2CAG7−6s1)を示す図である。
図15は、21HAC−2CAG−KMSO導入iPSクローンのサブクローンである2CAG7−6s1、2CAG7−4s1および2CAG5−6s3のFISH像である。矢印は21HACベクターを示す。2CAG7−4s1は21HACベクターを保持した細胞と脱落した細胞が混在していたが、2CAG7−6s1、2CAG5−6s3では21HACベクターを全く検出できなかった。これらのことは、21HAC−2CAG−KMSO導入iPSクローンのサブクローニングの間に21HACベクターが自然に脱落する細胞が得られることを示している。
図16は、獲得したクローン2CAG7−1s1~s6、2CAG7−4s1、2CAG7−6s1の未分化マーカーの発現状態を示す図である。ここで、m−iPS20D17およびmESTT2−Fは陽性対照であり、MEFは陰性対照である。また、Nat1はN−アセチルトランスフェラーゼ1遺伝子を表す。
図17は、2CAG7−4s1をガンシクロビル存在下で培養後、得られたガンシクロビル耐性iPSクローンの形態(7日目)を示す図である。このクローンは、マウスES細胞様の形態を維持していた。
以下で、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明は、上記のとおり、哺乳動物由来の体細胞から、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAを個々にまたは組み合わせて含む1つもしくは複数の発現ベクターを使用してiPS細胞を作製する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されないベクターであり、該方法が、該発現ベクターを該体細胞に導入してiPS細胞を誘導し、該iPS細胞中の該発現ベクターの機能を消失させることを含む、外来性核初期化因子をコードするDNAを含まないかまたは該DNAを発現する能力をもたないiPS細胞の作製方法を提供する。
本発明の特徴は、第1に、核初期化因子をコードするDNAを含む発現ベクターとして、核初期化される体細胞の内在ゲノムに挿入されないベクターであること、ならびに、第2に、iPS細胞の誘導後に発現ベクターの機能を消失させること、これによって核初期化因子をコードするDNAが非存在となるかまたは該DNAの発現が不能になることである。
本明細書で使用する「発現ベクターの機能を消失させる」という用語は、iPS細胞内で、iPS細胞の誘導のために仕えた核初期化因子をコードするDNAの発現が不能にされるか、または、ベクターを含む細胞のみが破壊されるか、あるいは、ベクターを脱落させる(言い換えれば、ベクターを含む細胞を脱落させる)ことを意味する。また、「脱落」とは、内在性染色体から独立して存在する上記ベクターが、染色体分配の過程で取り残されて該ベクターの全体が娘細胞に受け継がれない(しかし、細胞本来の内在性染色体は維持される)ことを意味する。
1.ベクター
本発明方法で使用されるベクターは、宿主細胞ゲノムに組み込まれないゲノム非挿入型ベクターである。そのようなベクターとしては、非限定的に、プラスミド、例えば2Aプラスミド(Okita,Kら,Science 322:949,2008;Addgene社)、人工染色体、例えば哺乳類人工染色体(MAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BACまたはPAC)などがあげられる。哺乳類人工染色体の例は、ヒト人工染色体(HAC)、マウス人工染色体などである。本発明の実施形態では、ベクターは線状または環状のいずれの形態であってもよい。好ましいベクターは、人工染色体であり、より好ましくはMACであり、最も好ましくはHACである。人工染色体は、体細胞からiPS細胞を誘導可能であるかぎり、その構造および構成エレメントは制限されないものとする。
本発明では、上記ベクターは、体細胞からiPS細胞を誘導するための核初期化因子をコードするDNAを含む。核初期化因子は哺乳動物由来のものであり、好ましくは体細胞と同じ哺乳動物由来の核初期化因子である。すなわち、体細胞がヒト由来であれば、核初期化因子もヒト由来のものが好ましい。核初期化因子としては、以下のものに限定されないが、例えばOct3/4(Oct3もしくはOct4とも呼ばれる)、Sox2、Klf4およびc−Mycからなる組み合わせ;Oct3/4、Sox2およびKlf4からなる組み合わせ;Oct4、Sox2、NanogおよびLin28からなる組み合わせ;あるいは、Oct3/4、Sox2、Klf4、c−Myc、NanogおよびLin28からなる組み合わせなどが知られている(K.TakahashiおよびS.Yamanaka,Cell 126:663−676(2006);国際公開WO2007/069666;M.Nakagawaら,Nat.Biotechnol.26:101−106(2008);K.Takahashiら,Cell 131:861−872(2007);J.Yuら.Science 318:1917−1920(2007);J.Liaoら,Cell Res.18,600−603(2008))。もし体細胞が上記因子の少なくとも1つを発現しうる細胞であれば、その因子を、因子の組み合わせから省くことができる。例えば、神経幹細胞はSox2を発現しているため、Oct3/4とKlf4のみでiPS細胞を誘導することができるし(J.B.Kimら,Nature 454:646−650(2008))、あるいは、Oct3/4のみでiPS細胞を誘導することができるという報告もある(JBKim ら,Nature 08436(2009))。上記核初期化因子は、GenBank(米国NCBI)にアクセスすることによって、それらのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を得ることができる。例えばヒトおよびマウス由来の核初期化因子に関する登録番号は以下のとおりである。
Oct3/4(POU class 5 homeobox 1):ヒト NM_203289 またはNM_002701;マウスNM_013633
Sox2(SRY(sex determining region Y)−box 2):ヒトNM_003106;マウスNM_011443
Klf4(Kruppel−like factor 4):ヒトNM_004235;マウスNM_010637
c−Myc(myelocytomatosis oncogene):ヒトNM_010849;マウスNM_002467
Nanog(Nanog homeobox):ヒトNM_024865;マウスNM_028016
Lin28(lin−28 homolog):ヒトNM_024674;マウスNM_145833
本発明ではさらに、iPS細胞の誘導効率を高めるために、核初期化因子をコードするDNAと同じベクターかまたはそれと異なるベクター(例えば人工染色体、プラスミドなど)に、miR−294,miR−295,miR−291−3pなどのmiRNA、p53(ヒトでTP53、マウスでTrp53とも称する。)のsiRNA,shRNAもしくはmiRNAなどのRNAをコードするDNAを挿入し、体細胞の初期化の際に、該初期化と実質的に同時に該RNAを生成するようにすることができる(R.L.Judsonら,Nature Biotechnol.27:459−461,2009;H.Hongら,Nature 460:1132−1135,2009)。
BACベクターは、大腸菌Fプラスミドの複製系を利用した環状DNAベクターであり、挿入可能なインサートのサイズは100~350kbである。BACベクターとしては、例えばpBeloBAC11、pECBAC1、pCLD04501、pBiBAClac1、BiBAC2、V41、pBAC108L(ATCC U511140)、pBeloBAC11(ATCC U51113)などが挙げられる(特開2003−274961)。外来DNAの挿入位置は特に制限されず任意であるが、例えば種々の制限酵素部位から構成されるマルチクローニングサイトをあらかじめベクターに配置しておくことによってその位置に外来DNAを挿入することができる。
PACベクターは、バクテリオファージP1由来人工染色体であり、挿入可能なインサートのサイズは、最高300kb程度である。P1プラスミドとも称される。PACベクターとしては、例えばpCYPAC2、pPAC4などが挙げられる(特開2003−274961)。外来DNAの挿入位置については、BACベクターと同様である。
YACベクターは、酵母由来の、テロメア、セントロメアおよび自律複製配列または複製起点を含むベクターであり、挿入可能なインサートのサイズは100~3000kbである(DT Burkeら,Science 236:806−812(1987))。テロメアは、染色体末端の安定化と完全な複製のために必要であり、セントロメアは、染色体の均等な分配のために必要であり、自律複製配列および複製開始点はDNAの複製のために必要である。YACベクターとしては 、例えばpYAC2、pYAC3、pYAC4、pYACNeoなどが挙げられる(特開2003−274961)。
MACベクターは、哺乳類由来のテロメアおよびセントロメアもしくはその機能性断片を含むベクターである。このベクターは、哺乳動物由来の染色体から長腕遠位および短腕遠位を削除し、その両端に哺乳動物由来のテロメアを結合することによって作製することができる。得られたベクターは、哺乳動物細胞の内因性染色体を破壊することなく外来DNAを導入することができる。ここで、遠位とは、長腕または短腕においてセントロメアから遠い領域、すなわちテロメア側をいい、一方、近位とは、長腕または短腕においてセントロメアに近い領域、すなわちセントロメア側をいう。本発明では、染色体上の切断点は、好ましくは、内在遺伝子を含まないようにセントロメア側に存在するべきである。
機能性セントロメア断片には、セントロメアサテライト(アルフォイド)に存在する17bpの塩基配列(CENP−B box;共通配列5’−NTTCGNNNNANNCGGGN−3’(ここで、Nは、A、T、CおよびGのいずれかである。)(配列番号16))を含むことが好ましい(特開2007−306928;特開2008−54501;Masumotoら,J.Cell.Biol.109:1963−1973(1989);Muroら,J.Cell.Biol.116:585−596(1992);Kiplingら,Mol.Cell.Biol.15:4009−4020(1995);Yodaら,Mol.Cell.Biol.16:5169−5177(1996))。また、テロメア配列は、哺乳類、酵母等の染色体の末端に位置し、繰り返し配列(テロメアの繰り返し単位は、ヒトを含む哺乳動物の場合5’−TTAGGG−3’、酵母の場合例えば5’−TG1−3−3’である。)からなる。テロメア配列の長さは、例えば約0.5~約25kbである。
HACベクターは、本発明で好ましく使用可能な哺乳類人工染色体であり、その特徴はMACベクターに記載したとおりであるがテロメアおよびセントロメアもしくはその機能性断片はヒト1~22番染色体(例えば21番染色体、14番染色体など)由来のものである。本発明では、好ましくは、HACは内在遺伝子を含まない。そのためには、ヒト染色体の長腕(q)および短腕(p)においてセントロメアに近い領域で切断されるべきである。そのようなHACベクターの例は、ヒト21番染色体由来のベクター(「21HAC」ベクター)(図2)であり、該染色体の長腕遠位がGenBank登録番号AP001657において、また、短腕遠位がGenBank登録番号AL163201において削除されたヒト21番染色体断片に同種または異種染色体由来のテロメア配列を結合して得られたベクターである(特開2007−295860)。ここで異種染色体由来のテロメア配列は、ヒト21番染色体由来のHACと、21番染色体以外の他のヒト染色体由来のHACとの間でのテロメアトランケーション(例えば、国際公開WO00/10383号)によって作製されうる。21HACベクターは、ヒト、マウス、ハムスターを初めとする哺乳動物細胞に移入可能なこと、移入した宿主細胞内で独立した染色体として自律複製、分配されること、一定のコピー数で維持されること、外来遺伝子をヒト正常細胞に導入した場合、長期間にわたり該遺伝子が持続発現されることなどの特徴を有する。
HACベクターは、例えば次の(a)~(c)の工程によって作製しうる。
(a)ヒト染色体を保持する細胞を得る工程
(b)ヒト染色体の長腕遠位および/または短腕遠位を削除する工程
(c)長腕近位および/または短腕近位似1つ以上のDNA配列挿入部位を挿入する工程
工程(a)では、ヒト染色体は、ヒト染色体を保持するA9雑種細胞(JCRB(Japanese Collection of Research Bioresourses)での登録番号JCRB2221)から入手しうる。この雑種細胞ライブラリーから目的の染色体を含むクローンを選択し、比較的相同組換え率の高い細胞、例えばニワトリDT40細胞(Diekenら,Nat.Genetics,12:174−182,1996)に目的染色体を移入し、該染色体を保持する細胞を得る。
工程(b)では、ヒト染色体を保持する上記細胞において、該染色体の長腕遠位および/または短腕遠位を削除する。このとき、テロメアトランケーションを利用して人工テロメア配列を相同組換えにより置換挿入し、染色体の長腕遠位または短腕遠位を削除する。このとき、上述したように、染色体の内在遺伝子がすべて除去されるように長腕遠位または短腕遠位を削除することが好ましい。
工程(c)では、工程(b)で得られた人工染色体にDNA配列挿入部位を挿入する。DNA配列挿入部位として、組換え酵素認識配列が好ましく使用される。この特定の認識部位をある種の酵素が特異的に認識し外来DNAの組換えを起こす。
組換え酵素認識配列の例は、loxP配列、FRT(F1p Recombination Target)配列、attB/attP配列などを含み、これらの配列を特異的に認識する組換え酵素はそれぞれCre酵素、FLP酵素、φC31インテグラーゼである。組換え酵素認識配列は外来DNAを挿入するために使用することができる。人工染色体における組換え酵素認識配列の組込み位置は、通常、長腕側のセントロメアとテロメアの間の任意の位置である。一般に、Cre−loxP系、またはFLP−FRT系を利用することができる。
HACベクターはまた、YACベクターをベースに、そのセントロメアおよびテロメア配列をヒト由来のものに置換することによっても作製可能である。
本発明の上記ベクターはさらに、選択マーカー、必要であればレポーター遺伝子、を含むことができる。選択マーカーの例は、薬剤耐性遺伝子、例えばネオマイシン耐性遺伝子もしくはG418耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子など、ネガティブ選択遺伝子、例えば単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ(HSDV−TK)遺伝子、ジフテリアトキシンAフラグメント(DT−A)遺伝子などを含む。また、レポーター遺伝子の例は、蛍光タンパク質遺伝子、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするDNA、改変型GFP(EGFP)をコードするDNA、などを含む。
本発明の上記ベクターはさらに、外来遺伝子間にインスレーター配列を含むことができる。インスレーター配列は、隣接する遺伝子の発現が互いに影響されないようにする役割をもつ。インスレーター配列の例は、ヒトβ−グロビンHS1~5、ニワトリβ−グロビンHS4、ヒトT細胞受容体α/δの阻害因子α/δなどを含む。
本発明の上記ベクターはさらに、プロモーター、エンハンサー、ポリA配列、外来DNA挿入部位(例えば組換え酵素認識配列)などを適宜含むことができる。
プロモーターおよびエンハンサーの例は、サイトメガロウイルスエンハンサーニワトリβ−アクチンプロモーター、これらのエンハンサーおよびプロモーターとウサギβ−グロビンのスプライシングアクセプターとからなるハイブリットプロモーター(CAGプロモーター)などを含む。
ポリA配列の例は、哺乳動物由来の遺伝子のポリA配列、例えばウサギβ−グロビンポリA配列、ウシ成長因子ポリA配列などを含む。
本発明のベクターは、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAを個々にまたは組み合わせて含むことができる。その組み合わせの例は、上記のとおりであり、例えば図3に示すように、5’側から順番に、インスレーター配列、エンハンサー/プロモーター配列、第1核初期化因子をコードするDNA配列およびポリA配列からなる第1配列、インスレーター配列、エンハンサー/プロモーター配列、第2核初期化因子をコードするDNA配列およびポリA配列からなる第2配列、インスレーター配列、エンハンサー/プロモーター配列、第3核初期化因子をコードするDNA配列およびポリA配列からなる第3配列、インスレーター配列、エンハンサー/プロモーター配列、第4核初期化因子をコードするDNA配列およびポリA配列からなる第4配列、というように各配列を配置してなるカセットを作製し、このカセットを外来DNA挿入部位(例えば組換え酵素認識配列部位)に組み込むことができる。この場合、複数の核初期化因子をコードするDNA配列はいかなる順番であってもよい。また、核初期化因子をコードする各DNAのコピー数は単一コピーでもよいし、複数コピー、例えば2~3コピーまたはそれ以上、2~4コピーまたはそれ以上、2~5コピーまたはそれ以上、または2~6コピーまたはそれ以上でもよい(図13)。核初期化因子をコードする各DNAのコピー数が複数、すなわち2以上であるときには、体細胞の未分化性が高まる、すなわち未分化マーカー(すなわちES細胞マーカー)の発現レベルが増大する。
本発明の方法では、iPS細胞の誘導後に、細胞においてベクターの機能が消失される。ベクターの機能の消失には、例えば、該ベクター中の上記複数の核初期化因子をコードするDNAの発現を不能にすること、該ベクターを含む細胞を破壊すること、あるいは該ベクターを脱落させることが含まれる。
ベクター中の上記DNAの発現を不能にするために、該ベクターは体細胞特異的な発現制御領域を含むことができる。これによって体細胞の核初期化に伴い上記核初期化因子をコードするDNAを発現する能力を喪失させることが可能になる。体細胞特異的な発現制御領域は、例えば、プロテオグリカン遺伝子(例えばルミカンおよびデコリン)の各エンハンサー/プロモーター領域、インスリン成長因子結合タンパク質3および7遺伝子の各エンハンサー/プロモーター領域、コラーゲンファミリータイプIα2、IIIα1およびVIα3遺伝子の各エンハンサー/プロモーター領域などである(S.Assouら,Stem Cells,25:961−973(2007))。上記例示の発現制御領域は、線維芽細胞特異的であり、胚性幹(ES)細胞では機能しないことが知られている。そのため、ベクター中の核初期化因子をコードするDNAの発現制御領域を体細胞特異的とすることによって、iPS細胞への変換後には、それが未分化細胞であるために、該DNAの発現が不能になる。
あるいは、ベクターを含む細胞の破壊のために、該ベクターはチミジンキナーゼをコードするDNAを含むことができる。これによってiPS細胞の誘導後、シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物の存在下で該チミジンキナーゼを発現する細胞を破壊することができる。チミジンキナーゼの好適例は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TK)である。シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物は、発現されたチミジンキナーゼによって細胞傷害性物質に変換されるため、チミジンキナーゼ発現細胞が破壊される。しかし、本発明の方法では、0.01%~0.001%の割合(概ね齧歯類細胞で0.01%、霊長類細胞で0.001%)でベクターが脱落した細胞が生成する。そのため、ベクターを含む細胞のみを破壊することによって、ベクター不含有の高増殖性iPS細胞のみを残すことができる。ここで、「同等の機能」とは、本来細胞傷害性でない化合物が、チミジンキナーゼ酵素の作用によって細胞傷害性物質に変換されることを意味する。
あるいは、ベクターの脱落のために、該ベクターは、哺乳類セントロメアを含み、該セントロメアのCENP−B boxがDNA結合タンパク質認識配列によって置換されている。これによって、DNA結合タンパク質の存在下で染色体凝縮が阻害され、人工染色体の脱落が起こる。これは、セントロメア上のDNA結合タンパク質認識配列にDNA結合タンパク質が結合し、これによって染色体凝縮が阻害されることによる。DNA結合タンパク質認識配列の例は、テトラサイクリンオペレーター(tetO)(M.Nakanoら,Dev.Cell 14(4):507−522(2008))、エクジソン応答配列(D.Noら,PNAS 93:3346−3351(1996)、タモキシフェン特異的エストロゲンレセプター変異体応答配列(PS.Danielianら,Mol.Endocrinol.7:232−240(1993))などである。
2.iPS細胞の作製
最初に、上記ベクターを哺乳動物由来の体細胞に作用することによってiPS細胞を誘導する。このとき、該ベクターは、宿主細胞のゲノムに組み込まれないことを特徴とする。従来、体細胞からiPS細胞を誘導するとき、核初期化因子をコードするDNAを発現するためにレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターが主に使用されてきたが、該DNAがゲノムに組み込まれることが指摘されてきた。そのため、iPS細胞において核初期化因子がサイレンシングされる割合が低い(例えば4因子で誘導する場合、iPSコロニー数は全コロニー数の10%未満である。非iPS細胞群の約50%はサイレンシングが不十分であると考えられる(M.Nakagawaら,Nat.Biotechnol.26:101−106(2008);M.Stadtfeldら,Cell Stem Cell,2:230−240(2008)))こと、腫瘍形成などの危険性があることなどが問題となっている。本発明のベクターは、少なくとも細胞ゲノムに組み込まれることがないという点で上記の問題を回避できる可能性をもたらす。実際、本発明の方法によってiPS細胞中のベクターの機能を消失させるときには、後述の実施例2で例証されるように、4因子HAC上の核初期化因子がサイレンシングされた割合は2クローン中、2クローン(すなわち、100%)であった。
本発明の方法で使用される体細胞は、成体および胎児性体細胞のいずれでもよいが、例えば核初期化因子がOct3/4、Sox2、c−MycおよびKlf4の組み合わせ、Oct3/4、Sox2およびKlf4の組み合わせ、Oct3/4およびKlf4の組み合わせ、などの場合には成体の体細胞であっても初期化されうる。成体の体細胞で使用可能な核初期化因子は、その適用範囲が広いため、本発明では特に好ましい。本発明で使用可能な核初期化因子の組み合わせは上で例示したとおりである。
体細胞は、哺乳動物において生殖細胞およびES細胞以外の細胞を指し、以下のものに制限されないが、ヒトを含む哺乳動物由来のあらゆる組織や器官由来の細胞を含み、例えば皮膚細胞、臓器細胞(例えば肝細胞、胃細胞、腎細胞、膵細胞、脳細胞、肺細胞、脾細胞、腸細胞など)、上皮細胞、内皮細胞、神経細胞、筋細胞、線維芽細胞、リンパ球、骨細胞などが挙げられる。細胞はまた、初代培養細胞、継代細胞、株化細胞、前駆細胞、幹細胞などを例示的に含む。これらの細胞の培養条件は、文献等に記載された公知の条件を利用できる。
体細胞からiPS細胞を誘導するときには、体細胞へのベクターの導入は、当業界で公知のいずれの方法でも可能であり、そのような方法の例は、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、微小核細胞融合法などである。
リポフェクション法は、リポフェクタミンなどのカチオン性リポソーム内に上記ベクターを封入し、得られたリポソームを体細胞と融合させ、これによって上記ベクターを体細胞内に導入することを含む。細胞は、通常、その表面がアニオン性となっているため、カチオン性リポソームを引き寄せる。リポソームとして、糖、ポリエチレングリコール(PEG)などの分子で修飾したリポソームも知られており、本発明の方法で利用しうる。
エレクトロポレーション法は、上記ベクターおよび体細胞を含む懸濁液に電気パルスをかけることによって細胞膜に微小な孔を開け、ベクターを細胞の中に導入することを含む。
微小核細胞融合法は、上記ベクターを含みかつ微小核形成能を有する哺乳動物細胞(例えばマウスA9細胞(ATCC VA20110−2209))を倍数体誘発剤(例えばコルセミド、コルヒチンなど)で処理して微小核多核細胞を形成し、次いで、サイトカラシン処理により微小核体を形成し、遠心分離等で回収し、得られた微小核体を体細胞と融合させ、これによって上記ベクターを体細胞内に導入することを含む。
上記ベクターを導入した体細胞を、iPS細胞に誘導可能な培養条件を用いる培養にかける。例示的には、マイトマイシンC処理したマウス胎仔線維芽細胞株(例えばSTO)をフィーダー細胞とし、このフィーダー細胞層上でES細胞用培地を用いて、ベクター導入体細胞(約104~105細胞/cm2)を約37℃の温度で培養する。フィーダー細胞は必ずしも必要ではない(Takahashi,K.ら,Cell 131:861−872(2007))。基本培地は、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF−12培地、それらの混合培地などである。ES細胞用培地は、マウスES細胞用培地、霊長類ES細胞用培地などを使用することができる(特開2003−116527;リプロセル社製(日本))。特にヒトiPS細胞の誘導および継代の場合には、霊長類ES細胞用培地が好ましく使用できる。培養培地は、例えば、DMEM/F−12(1:1)混合培地に2−メルカプトエタノール、ESGRO(白血球阻害因子)、10~15%FCS(牛胎仔血清)、FGF(線維芽細胞増殖因子)などを任意に組み合わせて補充した培地であり、継代用培地は、例えば、20%KSR(ノックアウト血清リプレースメント;GIBCO社製)、1mMCaCl2、0.25%トリプシンを含むPBS、または1mg/mlIV型コラゲナーゼを含むDMEMなどである(特開2003−116527)。
培養の間に培地交換、トリプシン剥離、フィーダー細胞層上での継代培養を行いながら、培養開始後約3~4週間又はそれ以上でiPS細胞コロニーが出現する。本発明の方法で作製された細胞は、未分化マーカーであるOct3/4、Sox2、Nanog、アルカリフォスファターゼ遺伝子などを発現すること、奇形腫を形成することなどから、目的のiPS細胞としての特徴を有する。この細胞はさらに、導入したベクターが宿主染色体と独立して存在するという特徴を有する。
上記方法によって中間段階で得られる、人工染色体を含むiPS細胞、およびその誘導方法も本発明の範囲に包含されるものとする。すなわち、本発明はさらに、哺乳動物由来の体細胞から、1もしくは複数の核初期化因子をコードするDNAの複数コピーを含む発現ベクターを使用してiPS細胞を誘導する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されない人工染色体であり、該方法が、該人工染色体を該体細胞に導入してiPS細胞を誘導することを含む、該人工染色体を含むiPS細胞の誘導方法を提供する。
上記誘導方法で使用される人工染色体は、上記例示のものであるが、好ましくは哺乳類人工染色体、より好ましくはヒト人工染色体である。また、核初期化因子は少なくともOct3/4を含み、該核初期化因子はさらに、Sox2、Klf4およびc−Mycからなる群から選択される1もしくは複数の因子、NanogとLin28からなる因子などを含むことができる。
本発明はさらに、Oct3/4、Sox2、Klf4およびc−Mycを含む核初期化因子をコードするDNA、あるいはOct3/4、Sox2およびKlf4を含む核初期化因子をコードするDNA、の複数コピーを含むヒト人工染色体を提供する。
ヒト人工染色体上の核初期化因子をコードするDNAの順序は任意であり、適切な発現制御配列を含み、適切なインスレーター配列を配置することによって互いのDNAの発現を妨害しないようにすべきである。また、人工染色体には、上記のような選択マーカーを含むことが望ましいし、さらには、iPS細胞の誘導後に該DNAの発現を不能にするための、(a)体細胞特異的な発現制御配列の挿入、(b)チミジンキナーゼをコードするDNAの挿入、および/または(c)セントロメア上のCENP−B boxのDNA結合タンパク質認識配列による置換を含むことができる。そのようなヒト人工染色体の例は、図3に記載のような構造を有する人工染色体(ここで、マウス由来の核初期化因子をコードするDNAは、ヒトなどの他の哺乳動物由来のものに置き換えることができる。)であり、これは21HACベクターをベースにしたiPS細胞誘導用の新規の人工染色体であり、本発明に含まれるものとする。
3.iPS細胞における核初期化因子をコードするDNAの発現の不能化
本発明方法はさらに、上記のように誘導されたiPS細胞からベクターを除去するか、または該ベクターの機能を不能にする工程を含む。これによって核初期化因子をコードするDNAの発現が不能にされたiPS細胞が得られる。
第1の手法では、核初期化因子をコードするDNAの発現を制御する配列を、体細胞特異的な発現制御配列とすることによって、iPS細胞の誘導後には、核初期化因子をコードするDNAの発現が不能になる。上記のとおり、体細胞特異的な発現制御領域は知られているので、この領域(エンハンサー/プロモーター領域)を本発明に応用することによって、目的の発現制御が可能になる。
この手法で核初期化因子の機能を消失させることができるが、iPS細胞から作製されうる種々の分化細胞や組織では、体細胞特異的な発現制御が目覚めて、核初期化因子による影響が生じる可能性が全くないという保証はないかもしれない。そこで、好ましくは、iPS細胞からベクターを完全に除去することが望ましい。そのための手法の例が、以下の第2および第3の手法である。
第2の手法では、シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物の存在下でチミジンキナーゼを発現させると、これらの物質がチミジンキナーゼによって細胞傷害性物質に変換されるため、これによってベクターを含む細胞が破壊される。この手法が本発明で有用であるのは、誘導されたiPS細胞のうち0.01%~0.001%の割合でベクターが脱落した細胞が生成することに基づく。この現象を利用して、誘導されたiPS細胞クローンのサブクローニングによってベクターの脱落を生じさせ、さらに、ベクター含有iPS細胞とベクター不含有iPS細胞が混在する場合、例えば、チミジンキナーゼ/シクロビルもしくはガンシクロビル系でベクターを含む細胞のみを破壊すると、ベクター不含有iPS細胞のみが選択的に残存するため、iPS細胞の高増殖能を利用して目的の細胞のみを増殖することが可能である。このようにベクターを含まない生きたiPS細胞を増殖し、必要であれば破壊した細胞から遠心分離等により目的の細胞を分離し精製することができる。
第3の手法は、ベクター、特にヒト人工染色体においてセントロメアのCENP−B boxをDNA結合タンパク質認識配列によって置換することによって、DNA結合タンパク質の存在下で染色体凝縮を阻害し、人工染色体を脱落させることを含む。DNA結合タンパク質認識配列は、具体的には転写活性化因子又は転写抑制因子の標的配列であり、DNA結合タンパク質はそれぞれに特異的なリガンド依存的に標的配列に結合する。セントロメアの特定の部位、すなわちCENP−B boxをこのような因子で置換することによってセントロメアが不活性化され、その機能が消失する((M.Nakanoら,Dev.Cell 14(4):507−522(2008))。染色体凝縮、すなわち染色体の正常な分配が阻害された人工染色体は、娘細胞に受け継がれないため、娘細胞には人工染色体が含まれない。このような細胞を脱落した細胞という。すなわち、iPS細胞誘導後、DNA結合タンパク質認識配列と結合可能なDNA結合タンパク質を活性化するリガンドを培地に添加することによって、セントロメアを不活性化し、人工染色体を脱落させる。DNA結合タンパク質認識配列の例は、tetO、エクジソン応答配列、エストロジェンレセプター変異体応答配列などであり、それらに対応するDNA結合タンパク質の例はそれぞれ、テトラサイクリンリプレッサー/VP16複合体、エクジソン/グルココルチコイド・キメラ受容体、エストロジェンレセプター変異体などである。
このように、本発明によれば、外来的に導入された核初期化因子の発現が不能にされた哺乳動物由来のiPS細胞の作製のために、体細胞の中では高発現を持続し初期化に伴い外来遺伝子発現を不能にするゲノム非挿入型ベクターの発現制御系、ならびに、初期化に伴いゲノム非挿入型ベクターを除去するベクター消失系を利用することによって達成可能である。
作製されたiPS細胞は、体細胞の初期化のために使用された核初期化因子の発現が不能にされている、好ましくは、該核初期化因子を全く含まないが、iPS細胞本来の染色体は無傷で維持されていることを特徴とする。
このようなiPS細胞は、哺乳動物の体細胞から誘導されるが、哺乳動物は、iPS細胞を誘導することができる限り限定されないものとし、例えば霊長類(例えばヒト、サル、チンパンジーなど)、げっ歯類(例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスターなど)、ペット動物(例えばイヌ、ネコなど)、有蹄類(例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなど)などを含み、好ましい哺乳動物はヒトである。
上記の方法で作製されたiPS細胞は、ES細胞と同様に、あらゆる体細胞やその前駆細胞へ分化誘導する性質を有しているため、再生医療に応用可能であるし、あるいは、遺伝子改変した、または未改変の、iPS細胞を胚盤胞(もしくは8細胞期胚)に導入し、仮親非ヒト哺乳動物の子宮や卵管に移植してトランスジェニック動物を作出し、疾患モデル動物として病因の解明、治療法の発見など医学分野のために、また、家畜などの有用クローン動物の作出、品種改良などの農業分野のためなどに、使用可能である。
本発明は、上記のとおり、哺乳動物由来の体細胞から、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAを個々にまたは組み合わせて含む1つもしくは複数の発現ベクターを使用してiPS細胞を作製する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されないベクターであり、該方法が、該発現ベクターを該体細胞に導入してiPS細胞を誘導し、該iPS細胞中の該発現ベクターの機能を消失させることを含む、外来性核初期化因子をコードするDNAを含まないかまたは該DNAを発現する能力をもたないiPS細胞の作製方法を提供する。
本発明の特徴は、第1に、核初期化因子をコードするDNAを含む発現ベクターとして、核初期化される体細胞の内在ゲノムに挿入されないベクターであること、ならびに、第2に、iPS細胞の誘導後に発現ベクターの機能を消失させること、これによって核初期化因子をコードするDNAが非存在となるかまたは該DNAの発現が不能になることである。
本明細書で使用する「発現ベクターの機能を消失させる」という用語は、iPS細胞内で、iPS細胞の誘導のために仕えた核初期化因子をコードするDNAの発現が不能にされるか、または、ベクターを含む細胞のみが破壊されるか、あるいは、ベクターを脱落させる(言い換えれば、ベクターを含む細胞を脱落させる)ことを意味する。また、「脱落」とは、内在性染色体から独立して存在する上記ベクターが、染色体分配の過程で取り残されて該ベクターの全体が娘細胞に受け継がれない(しかし、細胞本来の内在性染色体は維持される)ことを意味する。
1.ベクター
本発明方法で使用されるベクターは、宿主細胞ゲノムに組み込まれないゲノム非挿入型ベクターである。そのようなベクターとしては、非限定的に、プラスミド、例えば2Aプラスミド(Okita,Kら,Science 322:949,2008;Addgene社)、人工染色体、例えば哺乳類人工染色体(MAC)、酵母人工染色体(YAC)、細菌人工染色体(BACまたはPAC)などがあげられる。哺乳類人工染色体の例は、ヒト人工染色体(HAC)、マウス人工染色体などである。本発明の実施形態では、ベクターは線状または環状のいずれの形態であってもよい。好ましいベクターは、人工染色体であり、より好ましくはMACであり、最も好ましくはHACである。人工染色体は、体細胞からiPS細胞を誘導可能であるかぎり、その構造および構成エレメントは制限されないものとする。
本発明では、上記ベクターは、体細胞からiPS細胞を誘導するための核初期化因子をコードするDNAを含む。核初期化因子は哺乳動物由来のものであり、好ましくは体細胞と同じ哺乳動物由来の核初期化因子である。すなわち、体細胞がヒト由来であれば、核初期化因子もヒト由来のものが好ましい。核初期化因子としては、以下のものに限定されないが、例えばOct3/4(Oct3もしくはOct4とも呼ばれる)、Sox2、Klf4およびc−Mycからなる組み合わせ;Oct3/4、Sox2およびKlf4からなる組み合わせ;Oct4、Sox2、NanogおよびLin28からなる組み合わせ;あるいは、Oct3/4、Sox2、Klf4、c−Myc、NanogおよびLin28からなる組み合わせなどが知られている(K.TakahashiおよびS.Yamanaka,Cell 126:663−676(2006);国際公開WO2007/069666;M.Nakagawaら,Nat.Biotechnol.26:101−106(2008);K.Takahashiら,Cell 131:861−872(2007);J.Yuら.Science 318:1917−1920(2007);J.Liaoら,Cell Res.18,600−603(2008))。もし体細胞が上記因子の少なくとも1つを発現しうる細胞であれば、その因子を、因子の組み合わせから省くことができる。例えば、神経幹細胞はSox2を発現しているため、Oct3/4とKlf4のみでiPS細胞を誘導することができるし(J.B.Kimら,Nature 454:646−650(2008))、あるいは、Oct3/4のみでiPS細胞を誘導することができるという報告もある(JBKim ら,Nature 08436(2009))。上記核初期化因子は、GenBank(米国NCBI)にアクセスすることによって、それらのアミノ酸配列およびヌクレオチド配列を得ることができる。例えばヒトおよびマウス由来の核初期化因子に関する登録番号は以下のとおりである。
Oct3/4(POU class 5 homeobox 1):ヒト NM_203289 またはNM_002701;マウスNM_013633
Sox2(SRY(sex determining region Y)−box 2):ヒトNM_003106;マウスNM_011443
Klf4(Kruppel−like factor 4):ヒトNM_004235;マウスNM_010637
c−Myc(myelocytomatosis oncogene):ヒトNM_010849;マウスNM_002467
Nanog(Nanog homeobox):ヒトNM_024865;マウスNM_028016
Lin28(lin−28 homolog):ヒトNM_024674;マウスNM_145833
本発明ではさらに、iPS細胞の誘導効率を高めるために、核初期化因子をコードするDNAと同じベクターかまたはそれと異なるベクター(例えば人工染色体、プラスミドなど)に、miR−294,miR−295,miR−291−3pなどのmiRNA、p53(ヒトでTP53、マウスでTrp53とも称する。)のsiRNA,shRNAもしくはmiRNAなどのRNAをコードするDNAを挿入し、体細胞の初期化の際に、該初期化と実質的に同時に該RNAを生成するようにすることができる(R.L.Judsonら,Nature Biotechnol.27:459−461,2009;H.Hongら,Nature 460:1132−1135,2009)。
BACベクターは、大腸菌Fプラスミドの複製系を利用した環状DNAベクターであり、挿入可能なインサートのサイズは100~350kbである。BACベクターとしては、例えばpBeloBAC11、pECBAC1、pCLD04501、pBiBAClac1、BiBAC2、V41、pBAC108L(ATCC U511140)、pBeloBAC11(ATCC U51113)などが挙げられる(特開2003−274961)。外来DNAの挿入位置は特に制限されず任意であるが、例えば種々の制限酵素部位から構成されるマルチクローニングサイトをあらかじめベクターに配置しておくことによってその位置に外来DNAを挿入することができる。
PACベクターは、バクテリオファージP1由来人工染色体であり、挿入可能なインサートのサイズは、最高300kb程度である。P1プラスミドとも称される。PACベクターとしては、例えばpCYPAC2、pPAC4などが挙げられる(特開2003−274961)。外来DNAの挿入位置については、BACベクターと同様である。
YACベクターは、酵母由来の、テロメア、セントロメアおよび自律複製配列または複製起点を含むベクターであり、挿入可能なインサートのサイズは100~3000kbである(DT Burkeら,Science 236:806−812(1987))。テロメアは、染色体末端の安定化と完全な複製のために必要であり、セントロメアは、染色体の均等な分配のために必要であり、自律複製配列および複製開始点はDNAの複製のために必要である。YACベクターとしては 、例えばpYAC2、pYAC3、pYAC4、pYACNeoなどが挙げられる(特開2003−274961)。
MACベクターは、哺乳類由来のテロメアおよびセントロメアもしくはその機能性断片を含むベクターである。このベクターは、哺乳動物由来の染色体から長腕遠位および短腕遠位を削除し、その両端に哺乳動物由来のテロメアを結合することによって作製することができる。得られたベクターは、哺乳動物細胞の内因性染色体を破壊することなく外来DNAを導入することができる。ここで、遠位とは、長腕または短腕においてセントロメアから遠い領域、すなわちテロメア側をいい、一方、近位とは、長腕または短腕においてセントロメアに近い領域、すなわちセントロメア側をいう。本発明では、染色体上の切断点は、好ましくは、内在遺伝子を含まないようにセントロメア側に存在するべきである。
機能性セントロメア断片には、セントロメアサテライト(アルフォイド)に存在する17bpの塩基配列(CENP−B box;共通配列5’−NTTCGNNNNANNCGGGN−3’(ここで、Nは、A、T、CおよびGのいずれかである。)(配列番号16))を含むことが好ましい(特開2007−306928;特開2008−54501;Masumotoら,J.Cell.Biol.109:1963−1973(1989);Muroら,J.Cell.Biol.116:585−596(1992);Kiplingら,Mol.Cell.Biol.15:4009−4020(1995);Yodaら,Mol.Cell.Biol.16:5169−5177(1996))。また、テロメア配列は、哺乳類、酵母等の染色体の末端に位置し、繰り返し配列(テロメアの繰り返し単位は、ヒトを含む哺乳動物の場合5’−TTAGGG−3’、酵母の場合例えば5’−TG1−3−3’である。)からなる。テロメア配列の長さは、例えば約0.5~約25kbである。
HACベクターは、本発明で好ましく使用可能な哺乳類人工染色体であり、その特徴はMACベクターに記載したとおりであるがテロメアおよびセントロメアもしくはその機能性断片はヒト1~22番染色体(例えば21番染色体、14番染色体など)由来のものである。本発明では、好ましくは、HACは内在遺伝子を含まない。そのためには、ヒト染色体の長腕(q)および短腕(p)においてセントロメアに近い領域で切断されるべきである。そのようなHACベクターの例は、ヒト21番染色体由来のベクター(「21HAC」ベクター)(図2)であり、該染色体の長腕遠位がGenBank登録番号AP001657において、また、短腕遠位がGenBank登録番号AL163201において削除されたヒト21番染色体断片に同種または異種染色体由来のテロメア配列を結合して得られたベクターである(特開2007−295860)。ここで異種染色体由来のテロメア配列は、ヒト21番染色体由来のHACと、21番染色体以外の他のヒト染色体由来のHACとの間でのテロメアトランケーション(例えば、国際公開WO00/10383号)によって作製されうる。21HACベクターは、ヒト、マウス、ハムスターを初めとする哺乳動物細胞に移入可能なこと、移入した宿主細胞内で独立した染色体として自律複製、分配されること、一定のコピー数で維持されること、外来遺伝子をヒト正常細胞に導入した場合、長期間にわたり該遺伝子が持続発現されることなどの特徴を有する。
HACベクターは、例えば次の(a)~(c)の工程によって作製しうる。
(a)ヒト染色体を保持する細胞を得る工程
(b)ヒト染色体の長腕遠位および/または短腕遠位を削除する工程
(c)長腕近位および/または短腕近位似1つ以上のDNA配列挿入部位を挿入する工程
工程(a)では、ヒト染色体は、ヒト染色体を保持するA9雑種細胞(JCRB(Japanese Collection of Research Bioresourses)での登録番号JCRB2221)から入手しうる。この雑種細胞ライブラリーから目的の染色体を含むクローンを選択し、比較的相同組換え率の高い細胞、例えばニワトリDT40細胞(Diekenら,Nat.Genetics,12:174−182,1996)に目的染色体を移入し、該染色体を保持する細胞を得る。
工程(b)では、ヒト染色体を保持する上記細胞において、該染色体の長腕遠位および/または短腕遠位を削除する。このとき、テロメアトランケーションを利用して人工テロメア配列を相同組換えにより置換挿入し、染色体の長腕遠位または短腕遠位を削除する。このとき、上述したように、染色体の内在遺伝子がすべて除去されるように長腕遠位または短腕遠位を削除することが好ましい。
工程(c)では、工程(b)で得られた人工染色体にDNA配列挿入部位を挿入する。DNA配列挿入部位として、組換え酵素認識配列が好ましく使用される。この特定の認識部位をある種の酵素が特異的に認識し外来DNAの組換えを起こす。
組換え酵素認識配列の例は、loxP配列、FRT(F1p Recombination Target)配列、attB/attP配列などを含み、これらの配列を特異的に認識する組換え酵素はそれぞれCre酵素、FLP酵素、φC31インテグラーゼである。組換え酵素認識配列は外来DNAを挿入するために使用することができる。人工染色体における組換え酵素認識配列の組込み位置は、通常、長腕側のセントロメアとテロメアの間の任意の位置である。一般に、Cre−loxP系、またはFLP−FRT系を利用することができる。
HACベクターはまた、YACベクターをベースに、そのセントロメアおよびテロメア配列をヒト由来のものに置換することによっても作製可能である。
本発明の上記ベクターはさらに、選択マーカー、必要であればレポーター遺伝子、を含むことができる。選択マーカーの例は、薬剤耐性遺伝子、例えばネオマイシン耐性遺伝子もしくはG418耐性遺伝子、ハイグロマイシン耐性遺伝子、ピューロマイシン耐性遺伝子、カナマイシン耐性遺伝子、アンピシリン耐性遺伝子、ヒポキサンチンホスホリボシルトランスフェラーゼ(HPRT)遺伝子など、ネガティブ選択遺伝子、例えば単純ヘルペスウイルス由来チミジンキナーゼ(HSDV−TK)遺伝子、ジフテリアトキシンAフラグメント(DT−A)遺伝子などを含む。また、レポーター遺伝子の例は、蛍光タンパク質遺伝子、例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードするDNA、改変型GFP(EGFP)をコードするDNA、などを含む。
本発明の上記ベクターはさらに、外来遺伝子間にインスレーター配列を含むことができる。インスレーター配列は、隣接する遺伝子の発現が互いに影響されないようにする役割をもつ。インスレーター配列の例は、ヒトβ−グロビンHS1~5、ニワトリβ−グロビンHS4、ヒトT細胞受容体α/δの阻害因子α/δなどを含む。
本発明の上記ベクターはさらに、プロモーター、エンハンサー、ポリA配列、外来DNA挿入部位(例えば組換え酵素認識配列)などを適宜含むことができる。
プロモーターおよびエンハンサーの例は、サイトメガロウイルスエンハンサーニワトリβ−アクチンプロモーター、これらのエンハンサーおよびプロモーターとウサギβ−グロビンのスプライシングアクセプターとからなるハイブリットプロモーター(CAGプロモーター)などを含む。
ポリA配列の例は、哺乳動物由来の遺伝子のポリA配列、例えばウサギβ−グロビンポリA配列、ウシ成長因子ポリA配列などを含む。
本発明のベクターは、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAを個々にまたは組み合わせて含むことができる。その組み合わせの例は、上記のとおりであり、例えば図3に示すように、5’側から順番に、インスレーター配列、エンハンサー/プロモーター配列、第1核初期化因子をコードするDNA配列およびポリA配列からなる第1配列、インスレーター配列、エンハンサー/プロモーター配列、第2核初期化因子をコードするDNA配列およびポリA配列からなる第2配列、インスレーター配列、エンハンサー/プロモーター配列、第3核初期化因子をコードするDNA配列およびポリA配列からなる第3配列、インスレーター配列、エンハンサー/プロモーター配列、第4核初期化因子をコードするDNA配列およびポリA配列からなる第4配列、というように各配列を配置してなるカセットを作製し、このカセットを外来DNA挿入部位(例えば組換え酵素認識配列部位)に組み込むことができる。この場合、複数の核初期化因子をコードするDNA配列はいかなる順番であってもよい。また、核初期化因子をコードする各DNAのコピー数は単一コピーでもよいし、複数コピー、例えば2~3コピーまたはそれ以上、2~4コピーまたはそれ以上、2~5コピーまたはそれ以上、または2~6コピーまたはそれ以上でもよい(図13)。核初期化因子をコードする各DNAのコピー数が複数、すなわち2以上であるときには、体細胞の未分化性が高まる、すなわち未分化マーカー(すなわちES細胞マーカー)の発現レベルが増大する。
本発明の方法では、iPS細胞の誘導後に、細胞においてベクターの機能が消失される。ベクターの機能の消失には、例えば、該ベクター中の上記複数の核初期化因子をコードするDNAの発現を不能にすること、該ベクターを含む細胞を破壊すること、あるいは該ベクターを脱落させることが含まれる。
ベクター中の上記DNAの発現を不能にするために、該ベクターは体細胞特異的な発現制御領域を含むことができる。これによって体細胞の核初期化に伴い上記核初期化因子をコードするDNAを発現する能力を喪失させることが可能になる。体細胞特異的な発現制御領域は、例えば、プロテオグリカン遺伝子(例えばルミカンおよびデコリン)の各エンハンサー/プロモーター領域、インスリン成長因子結合タンパク質3および7遺伝子の各エンハンサー/プロモーター領域、コラーゲンファミリータイプIα2、IIIα1およびVIα3遺伝子の各エンハンサー/プロモーター領域などである(S.Assouら,Stem Cells,25:961−973(2007))。上記例示の発現制御領域は、線維芽細胞特異的であり、胚性幹(ES)細胞では機能しないことが知られている。そのため、ベクター中の核初期化因子をコードするDNAの発現制御領域を体細胞特異的とすることによって、iPS細胞への変換後には、それが未分化細胞であるために、該DNAの発現が不能になる。
あるいは、ベクターを含む細胞の破壊のために、該ベクターはチミジンキナーゼをコードするDNAを含むことができる。これによってiPS細胞の誘導後、シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物の存在下で該チミジンキナーゼを発現する細胞を破壊することができる。チミジンキナーゼの好適例は、単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ(HSV−TK)である。シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物は、発現されたチミジンキナーゼによって細胞傷害性物質に変換されるため、チミジンキナーゼ発現細胞が破壊される。しかし、本発明の方法では、0.01%~0.001%の割合(概ね齧歯類細胞で0.01%、霊長類細胞で0.001%)でベクターが脱落した細胞が生成する。そのため、ベクターを含む細胞のみを破壊することによって、ベクター不含有の高増殖性iPS細胞のみを残すことができる。ここで、「同等の機能」とは、本来細胞傷害性でない化合物が、チミジンキナーゼ酵素の作用によって細胞傷害性物質に変換されることを意味する。
あるいは、ベクターの脱落のために、該ベクターは、哺乳類セントロメアを含み、該セントロメアのCENP−B boxがDNA結合タンパク質認識配列によって置換されている。これによって、DNA結合タンパク質の存在下で染色体凝縮が阻害され、人工染色体の脱落が起こる。これは、セントロメア上のDNA結合タンパク質認識配列にDNA結合タンパク質が結合し、これによって染色体凝縮が阻害されることによる。DNA結合タンパク質認識配列の例は、テトラサイクリンオペレーター(tetO)(M.Nakanoら,Dev.Cell 14(4):507−522(2008))、エクジソン応答配列(D.Noら,PNAS 93:3346−3351(1996)、タモキシフェン特異的エストロゲンレセプター変異体応答配列(PS.Danielianら,Mol.Endocrinol.7:232−240(1993))などである。
2.iPS細胞の作製
最初に、上記ベクターを哺乳動物由来の体細胞に作用することによってiPS細胞を誘導する。このとき、該ベクターは、宿主細胞のゲノムに組み込まれないことを特徴とする。従来、体細胞からiPS細胞を誘導するとき、核初期化因子をコードするDNAを発現するためにレトロウイルスベクターまたはレンチウイルスベクターが主に使用されてきたが、該DNAがゲノムに組み込まれることが指摘されてきた。そのため、iPS細胞において核初期化因子がサイレンシングされる割合が低い(例えば4因子で誘導する場合、iPSコロニー数は全コロニー数の10%未満である。非iPS細胞群の約50%はサイレンシングが不十分であると考えられる(M.Nakagawaら,Nat.Biotechnol.26:101−106(2008);M.Stadtfeldら,Cell Stem Cell,2:230−240(2008)))こと、腫瘍形成などの危険性があることなどが問題となっている。本発明のベクターは、少なくとも細胞ゲノムに組み込まれることがないという点で上記の問題を回避できる可能性をもたらす。実際、本発明の方法によってiPS細胞中のベクターの機能を消失させるときには、後述の実施例2で例証されるように、4因子HAC上の核初期化因子がサイレンシングされた割合は2クローン中、2クローン(すなわち、100%)であった。
本発明の方法で使用される体細胞は、成体および胎児性体細胞のいずれでもよいが、例えば核初期化因子がOct3/4、Sox2、c−MycおよびKlf4の組み合わせ、Oct3/4、Sox2およびKlf4の組み合わせ、Oct3/4およびKlf4の組み合わせ、などの場合には成体の体細胞であっても初期化されうる。成体の体細胞で使用可能な核初期化因子は、その適用範囲が広いため、本発明では特に好ましい。本発明で使用可能な核初期化因子の組み合わせは上で例示したとおりである。
体細胞は、哺乳動物において生殖細胞およびES細胞以外の細胞を指し、以下のものに制限されないが、ヒトを含む哺乳動物由来のあらゆる組織や器官由来の細胞を含み、例えば皮膚細胞、臓器細胞(例えば肝細胞、胃細胞、腎細胞、膵細胞、脳細胞、肺細胞、脾細胞、腸細胞など)、上皮細胞、内皮細胞、神経細胞、筋細胞、線維芽細胞、リンパ球、骨細胞などが挙げられる。細胞はまた、初代培養細胞、継代細胞、株化細胞、前駆細胞、幹細胞などを例示的に含む。これらの細胞の培養条件は、文献等に記載された公知の条件を利用できる。
体細胞からiPS細胞を誘導するときには、体細胞へのベクターの導入は、当業界で公知のいずれの方法でも可能であり、そのような方法の例は、リポフェクション法、エレクトロポレーション法、微小核細胞融合法などである。
リポフェクション法は、リポフェクタミンなどのカチオン性リポソーム内に上記ベクターを封入し、得られたリポソームを体細胞と融合させ、これによって上記ベクターを体細胞内に導入することを含む。細胞は、通常、その表面がアニオン性となっているため、カチオン性リポソームを引き寄せる。リポソームとして、糖、ポリエチレングリコール(PEG)などの分子で修飾したリポソームも知られており、本発明の方法で利用しうる。
エレクトロポレーション法は、上記ベクターおよび体細胞を含む懸濁液に電気パルスをかけることによって細胞膜に微小な孔を開け、ベクターを細胞の中に導入することを含む。
微小核細胞融合法は、上記ベクターを含みかつ微小核形成能を有する哺乳動物細胞(例えばマウスA9細胞(ATCC VA20110−2209))を倍数体誘発剤(例えばコルセミド、コルヒチンなど)で処理して微小核多核細胞を形成し、次いで、サイトカラシン処理により微小核体を形成し、遠心分離等で回収し、得られた微小核体を体細胞と融合させ、これによって上記ベクターを体細胞内に導入することを含む。
上記ベクターを導入した体細胞を、iPS細胞に誘導可能な培養条件を用いる培養にかける。例示的には、マイトマイシンC処理したマウス胎仔線維芽細胞株(例えばSTO)をフィーダー細胞とし、このフィーダー細胞層上でES細胞用培地を用いて、ベクター導入体細胞(約104~105細胞/cm2)を約37℃の温度で培養する。フィーダー細胞は必ずしも必要ではない(Takahashi,K.ら,Cell 131:861−872(2007))。基本培地は、例えばダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、ハムF−12培地、それらの混合培地などである。ES細胞用培地は、マウスES細胞用培地、霊長類ES細胞用培地などを使用することができる(特開2003−116527;リプロセル社製(日本))。特にヒトiPS細胞の誘導および継代の場合には、霊長類ES細胞用培地が好ましく使用できる。培養培地は、例えば、DMEM/F−12(1:1)混合培地に2−メルカプトエタノール、ESGRO(白血球阻害因子)、10~15%FCS(牛胎仔血清)、FGF(線維芽細胞増殖因子)などを任意に組み合わせて補充した培地であり、継代用培地は、例えば、20%KSR(ノックアウト血清リプレースメント;GIBCO社製)、1mMCaCl2、0.25%トリプシンを含むPBS、または1mg/mlIV型コラゲナーゼを含むDMEMなどである(特開2003−116527)。
培養の間に培地交換、トリプシン剥離、フィーダー細胞層上での継代培養を行いながら、培養開始後約3~4週間又はそれ以上でiPS細胞コロニーが出現する。本発明の方法で作製された細胞は、未分化マーカーであるOct3/4、Sox2、Nanog、アルカリフォスファターゼ遺伝子などを発現すること、奇形腫を形成することなどから、目的のiPS細胞としての特徴を有する。この細胞はさらに、導入したベクターが宿主染色体と独立して存在するという特徴を有する。
上記方法によって中間段階で得られる、人工染色体を含むiPS細胞、およびその誘導方法も本発明の範囲に包含されるものとする。すなわち、本発明はさらに、哺乳動物由来の体細胞から、1もしくは複数の核初期化因子をコードするDNAの複数コピーを含む発現ベクターを使用してiPS細胞を誘導する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されない人工染色体であり、該方法が、該人工染色体を該体細胞に導入してiPS細胞を誘導することを含む、該人工染色体を含むiPS細胞の誘導方法を提供する。
上記誘導方法で使用される人工染色体は、上記例示のものであるが、好ましくは哺乳類人工染色体、より好ましくはヒト人工染色体である。また、核初期化因子は少なくともOct3/4を含み、該核初期化因子はさらに、Sox2、Klf4およびc−Mycからなる群から選択される1もしくは複数の因子、NanogとLin28からなる因子などを含むことができる。
本発明はさらに、Oct3/4、Sox2、Klf4およびc−Mycを含む核初期化因子をコードするDNA、あるいはOct3/4、Sox2およびKlf4を含む核初期化因子をコードするDNA、の複数コピーを含むヒト人工染色体を提供する。
ヒト人工染色体上の核初期化因子をコードするDNAの順序は任意であり、適切な発現制御配列を含み、適切なインスレーター配列を配置することによって互いのDNAの発現を妨害しないようにすべきである。また、人工染色体には、上記のような選択マーカーを含むことが望ましいし、さらには、iPS細胞の誘導後に該DNAの発現を不能にするための、(a)体細胞特異的な発現制御配列の挿入、(b)チミジンキナーゼをコードするDNAの挿入、および/または(c)セントロメア上のCENP−B boxのDNA結合タンパク質認識配列による置換を含むことができる。そのようなヒト人工染色体の例は、図3に記載のような構造を有する人工染色体(ここで、マウス由来の核初期化因子をコードするDNAは、ヒトなどの他の哺乳動物由来のものに置き換えることができる。)であり、これは21HACベクターをベースにしたiPS細胞誘導用の新規の人工染色体であり、本発明に含まれるものとする。
3.iPS細胞における核初期化因子をコードするDNAの発現の不能化
本発明方法はさらに、上記のように誘導されたiPS細胞からベクターを除去するか、または該ベクターの機能を不能にする工程を含む。これによって核初期化因子をコードするDNAの発現が不能にされたiPS細胞が得られる。
第1の手法では、核初期化因子をコードするDNAの発現を制御する配列を、体細胞特異的な発現制御配列とすることによって、iPS細胞の誘導後には、核初期化因子をコードするDNAの発現が不能になる。上記のとおり、体細胞特異的な発現制御領域は知られているので、この領域(エンハンサー/プロモーター領域)を本発明に応用することによって、目的の発現制御が可能になる。
この手法で核初期化因子の機能を消失させることができるが、iPS細胞から作製されうる種々の分化細胞や組織では、体細胞特異的な発現制御が目覚めて、核初期化因子による影響が生じる可能性が全くないという保証はないかもしれない。そこで、好ましくは、iPS細胞からベクターを完全に除去することが望ましい。そのための手法の例が、以下の第2および第3の手法である。
第2の手法では、シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物の存在下でチミジンキナーゼを発現させると、これらの物質がチミジンキナーゼによって細胞傷害性物質に変換されるため、これによってベクターを含む細胞が破壊される。この手法が本発明で有用であるのは、誘導されたiPS細胞のうち0.01%~0.001%の割合でベクターが脱落した細胞が生成することに基づく。この現象を利用して、誘導されたiPS細胞クローンのサブクローニングによってベクターの脱落を生じさせ、さらに、ベクター含有iPS細胞とベクター不含有iPS細胞が混在する場合、例えば、チミジンキナーゼ/シクロビルもしくはガンシクロビル系でベクターを含む細胞のみを破壊すると、ベクター不含有iPS細胞のみが選択的に残存するため、iPS細胞の高増殖能を利用して目的の細胞のみを増殖することが可能である。このようにベクターを含まない生きたiPS細胞を増殖し、必要であれば破壊した細胞から遠心分離等により目的の細胞を分離し精製することができる。
第3の手法は、ベクター、特にヒト人工染色体においてセントロメアのCENP−B boxをDNA結合タンパク質認識配列によって置換することによって、DNA結合タンパク質の存在下で染色体凝縮を阻害し、人工染色体を脱落させることを含む。DNA結合タンパク質認識配列は、具体的には転写活性化因子又は転写抑制因子の標的配列であり、DNA結合タンパク質はそれぞれに特異的なリガンド依存的に標的配列に結合する。セントロメアの特定の部位、すなわちCENP−B boxをこのような因子で置換することによってセントロメアが不活性化され、その機能が消失する((M.Nakanoら,Dev.Cell 14(4):507−522(2008))。染色体凝縮、すなわち染色体の正常な分配が阻害された人工染色体は、娘細胞に受け継がれないため、娘細胞には人工染色体が含まれない。このような細胞を脱落した細胞という。すなわち、iPS細胞誘導後、DNA結合タンパク質認識配列と結合可能なDNA結合タンパク質を活性化するリガンドを培地に添加することによって、セントロメアを不活性化し、人工染色体を脱落させる。DNA結合タンパク質認識配列の例は、tetO、エクジソン応答配列、エストロジェンレセプター変異体応答配列などであり、それらに対応するDNA結合タンパク質の例はそれぞれ、テトラサイクリンリプレッサー/VP16複合体、エクジソン/グルココルチコイド・キメラ受容体、エストロジェンレセプター変異体などである。
このように、本発明によれば、外来的に導入された核初期化因子の発現が不能にされた哺乳動物由来のiPS細胞の作製のために、体細胞の中では高発現を持続し初期化に伴い外来遺伝子発現を不能にするゲノム非挿入型ベクターの発現制御系、ならびに、初期化に伴いゲノム非挿入型ベクターを除去するベクター消失系を利用することによって達成可能である。
作製されたiPS細胞は、体細胞の初期化のために使用された核初期化因子の発現が不能にされている、好ましくは、該核初期化因子を全く含まないが、iPS細胞本来の染色体は無傷で維持されていることを特徴とする。
このようなiPS細胞は、哺乳動物の体細胞から誘導されるが、哺乳動物は、iPS細胞を誘導することができる限り限定されないものとし、例えば霊長類(例えばヒト、サル、チンパンジーなど)、げっ歯類(例えばマウス、ラット、モルモット、ハムスターなど)、ペット動物(例えばイヌ、ネコなど)、有蹄類(例えばウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギ、ブタなど)などを含み、好ましい哺乳動物はヒトである。
上記の方法で作製されたiPS細胞は、ES細胞と同様に、あらゆる体細胞やその前駆細胞へ分化誘導する性質を有しているため、再生医療に応用可能であるし、あるいは、遺伝子改変した、または未改変の、iPS細胞を胚盤胞(もしくは8細胞期胚)に導入し、仮親非ヒト哺乳動物の子宮や卵管に移植してトランスジェニック動物を作出し、疾患モデル動物として病因の解明、治療法の発見など医学分野のために、また、家畜などの有用クローン動物の作出、品種改良などの農業分野のためなどに、使用可能である。
以下に実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲は、これらの実施例によって制限されないものとする。
実施例1
(初期化因子発現ベクター(PAC−KMSO)の作製)
PAC−KMSOの作製は大別して2つのステップに別れる。即ち、pUC系プラスミドへ各因子(マウス由来の、Klf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4)の発現ユニット(1コピーまたは2コピー初期化因子含有)を挿入するステップと、こうして作製した各々の発現ユニットをインスレーターで挟みPACベクターへ挿入・連結するステップである。以下に各ステップについて説明する。
pUC系プラスミドへの発現ユニットの挿入
pBluescriptII(スタラタジーン)にチキンβグロビンHS4由来インスレーター断片1.2kb(JH.Chungら Cell 74:505−514(1993))を2コピータンデムに挿入し、その下流に更に発現ユニットを挿入した。この際、発現ユニットとしては、サイトメガロウイルスエンハンサー、ニワトリβ−アクチンプロモーター、およびウサギβ−グロビンのスプライシングアクセプターからなるハイブリットプロモーター(CAGプロモーター)(特開平3−168087)、ウサギβ−グロビンポリA配列のセット、あるいはモロニー白血病ウイルスのLTR配列のセット、いずれかを用いた。4種の初期化因子(Oct3/4、Sox2、c−MycおよびKlf4)の組み合わせ(但し、本実施例では、これらの因子の組み合わせは単に例示を目的としたものであり、実施例に記載された手法は、他の初期化因子の組み合わせ、例えばOct3/4、Sox2およびKlf4の組み合わせ、Oct3/4およびKlf4の組み合わせ、その他の初期化因子の組み合わせなどにも同様に適用可能である。)については、それぞれ個別に発現ユニットに挿入するか、ピコルナウイルス由来IRES配列や2A配列を用いてシストロニックに発現ユニットに挿入した。PACベクターへの挿入の為にAscI、NheI、SpeI、AvrII、FseIなどの制限酵素サイトを付加した。
1コピー初期化因子発現ユニットのPACベクターへの挿入および連結
PACベクターはpPAC4を用いた。BstII制限酵素サイトを平滑化し、新たにloxP配列、HPRTエクソン3~エクソン9までの断片を挿入した。その際に、発現ユニットを挿入するためのサイトとしてFseIサイトを付加した。PAC−KMSO構築(図1)の場合は、まずOct3/4発現ユニットのポリA配列の下流のAvrIIサイト、FseIサイトに(1)で述べたチキンHS4断片2コピーを再度導入し、発現ユニットをAscI、FseIで切り出した後、改変したPACベクターのAscI、FseI断片とライゲーションすることにより、PACベクターにOct3/4発現ユニットを組み込んだ。このベクター中のAscIサイト、NheIサイトに、次のSox2発現ユニットのAscI、AvrII切断断片を挿入した。NheI切断端とAvrII切断端は相補性があるためライゲーション可能であった。これを繰り返すことにより、このPACベクターに、HS4インスレーターに挟まれたKlf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4の各発現ユニットをタンデムに構築した。
2コピー初期化因子発現ユニットをもつPACベクターの作製
PAC−KMSOベクターのAscI、AvrII切断断片を、PAC−KMSOベクターのAscIサイト、NheIサイトに挿入することにより、上記と同様に作製された初期化因子(Oct3/4、Sox2、c−MycおよびKlf4)の発現ユニットをそれぞれ2コピーずつもつ(すなわち、2つの該発現ユニットがタンデムに連結された)PACベクター2CAG−KMSO(図12中の挿入体)を作製した。
実施例2
(初期化因子HACベクターの作製)
ヒト人工染色体(HAC)ベクターとしてはヒト21番染色体由来の内在遺伝子を含まないヒト人工染色体ベクター(特開2007−295860)を用いた。この21HACベクターには外来遺伝子挿入部位としてのloxP配列と組換え挿入体選別の為のHPRTエクソン1~エクソン2までのゲノム断片の他にEGFP遺伝子が組み込んであり、21HACベクターを保持する細胞を緑色蛍光でモニター出来るように工夫してある(図2)。21HACベクターのloxP配列部位に上記のPAC−KMSOまたは2CAG−KMSOベクター由来の初期化因子発現ユニットを挿入した(図3および図12)。このとき、loxP配列での部位特異的組換え挿入体の選別はHPRT遺伝子の再構築によるHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)耐性の獲得を指標とした。また、HPRT遺伝子を欠損したCHO細胞CHO/HGPRT株(JCRB0218)を21HACベクターの供与細胞として用いた。
PAC−KMSOのトランスフェクションと組換え挿入体の単離
21HACベクターを保持するCHO/HGPRT株(以下CHO−21HAC)をトリプシン処理し、5×106細胞を0.8mlの生理食塩水含有リン酸バッファー(PBS)に懸濁した。30μgの実施例1で作製した初期化4因子発現ベクターPAC−KMSOと2μgのCre組換え酵素発現ベクターPBS185(ライフテック)存在下でジーンパルサー(バイオラッド社)を用いてエレクトロポレーションを行った。容量500μFのコンデンサに450Vで印加し、電極間距離4mmのエレクロポレーションキュベットを用いて放電した。エレクトロポレーションした細胞を10%FCS添加したF12培地に懸濁し、φ100mmディッシュ5枚に播種した。2日後に1×HATを含む培地に置き換え、以後週2回HAT培地で培地交換した。2~3週間後には耐性コロニーが出現し、その頻度はCHO−21HAC細胞5×106個あたり15個であった。クローニングシリンジを用いて耐性コロニーを単離して増殖させ、以後の解析を行った。
組換え挿入体の確認
loxP配列部位特異的組換え挿入体を確認するため、loxP配列部位を挟むように21HACベクター上及びPAC−KMSOベクター上にプライマーを設計し、ゲノムPCR増幅を行った。以下にPCR増幅に用いたオリゴヌクレオチドプライマーの配列を示す。
これらのプライマーはプラスミドベクターpKO SelectHPRT(タカラバイオ)の塩基配列を基にして設計した。
loxP配列部位特異的組換え挿入体においてのみ約400bpの増幅産物が得られる。その結果、15クローン全てにおいて予想される増幅が検出され、全てがloxP配列への部位特異的組換え挿入体であることが確認された。
次に、これら15クローンの中からランダムに6クローンを選出し、FISH解析を行った。ヒト特異的反復配列からなるcot1 DNA(hcot1、ロシュ社)をローダミン標識プローブとして用いて上記組換え挿入体を解析することにより、ヒト21番染色体由来の21HACベクターの存在を確認した。解析した6クローン全てで、21HACベクターが検出され、各クローンにおける21HACベクターの保持率は82~99%であった。結果を表1に示す。
図4にクローンKMSO10のFISH像を示した。ローダミン標識hcotIに加えて、FITC標識PAC−KMSOをプローブとした2カラーFISHを行った。その結果、CHO細胞の染色体とは独立した1コピーの21HACベクターが検出された。さらに緑色蛍光像は21HACベクターに由来する赤色蛍光像の上のみに観察され、PAC−KMSOはloxP配列を介して21HACベクターにのみ挿入されていることが確認された。
21HACベクターに挿入された初期化因子の発現
単離したHAT耐性クローンのうちFISH解析で1コピーの21HACベクター保持率が高かったKMSO10、KMSO13について、挿入した4因子すなわちKlf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4遺伝子の発現をRT−PCR法により確認した。対照としてCHO−21HAC細胞を用いた。その結果を図5に示したが、2クローンとも全ての導入遺伝子の発現が確認されたのに対して、4因子が挿入されていないCHO−21HAC細胞ではいずれの遺伝子の発現も認められなかった。
以上の結果から、loxP配列を介して初期化4因子が挿入された21HACベクター(以下21HAC−KMSO)を保持するCHO細胞において、挿入された4因子の発現が確認された。
2CAG−KMSOのトランスフェクションと組換え体の単離
上記の方法と同様にして、21HAC−2CAG−KMSOベクター(図12)によるCHO細胞の組換え体クローンの単離と、組換え挿入体の、上記と同様のFISH法による確認を行った。
FISH解析の結果を表2に示す。
21HACベクターに挿入された初期化因子の発現
単離したHAT耐性クローンは全て、FISH解析では1コピーの21HACベクター保持率が高かった。そこで、挿入した4因子すなわちKlf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4遺伝子の発現をRT−PCR法により比較した。対照としてKMSO10細胞を用いた。その結果を図13に示したが、2CAG07、2CAG15においてKMSO10に比べて導入遺伝子の高い発現が確認された。
以上の結果から、各々2コピーの初期化4因子が挿入された21HACベクター(21HAC−2CAG−KMSO)(図12)を保持するCHO細胞においては、各々1コピーの初期化4因子が挿入された21HAC−KMSOを保持するCHO細胞に比べて、挿入された4因子の発現が高いことが確認された。
実施例3
(PAC−KMSOによるMEFの初期化)
PAC−KMSOを環状プラスミドの状態で21HACベクターを保持するMEFに導入し、MEFが初期化されるか検討した。
微小核細胞融合法による21HACベクターのMEFへの導入
染色体供与細胞として、21HACベクターを保持するCHO細胞kkpq2−12株を用いた。ここで用いた21HACベクターは実施例2で用いたベクターと同じ構造であるが、EGFP遺伝子は挿入されていない。25cm2遠心用培養フラスコ(ヌンク社)24本にkkpq2−12細胞を播種し、50~60%細胞密度まで培養した後、0.1μg/mlコルセミドを含む20%FCS添加F12培地で3日間培養することにより微小核を形成させた。微小核を回収するために、コルセミド含有培地を吸引除去後、10μg/mlのサイトカラシンを含むF12培地をフラスコ一杯に充填し、34℃、8000rpm、1時間の遠心分離を行った。微小核の沈殿を血清無添加のDMEMに縣濁し、ポアサイズ8μm、5μm、3μmのフィルター(ワットマン社)を用いて濾過精製した。精製した微小核の縣濁液に、最終濃度100μg/mlになるようにフィトヘムアグルチニンPを加えた。予めφ100mmディッシュに90%細胞密度まで培養したMEF(ネオマイシン耐性)を染色体受容細胞とした。培養液を除いた後、微小核縣濁液を加え、37℃にて15分間静置した。MEFに吸着しなかった微小核を吸引除去した後、45%PEG1500(ロシュ社)/10%DMSOの混液を細胞表面に静かに加え、1分間反応させ、微小核とMEFを融合させた。PEG/DMSOの混液を洗浄除去した後、10%FCS添加DMEM培地で1日間培養した。
PAC−KMSOのトランスフェクション
微小核細胞融合の翌日、50μgのPAC−KMSOと10μgのCre発現ベクターを混合し、Lipofectamine2000(インビトロジェン社)を用いて、リポフェクション法でトランスフェクションを行った。
iPS様細胞のクローニング
トランスフェクションして一晩培養後、MEFをトリプシン処理し、10%FCS添加したDMEM培地に懸濁した後、マイトマイシンC処理したSTO細胞をフィーダー細胞とするφ100mmディッシュ5枚に播き直した。2日後、標準的なES細胞用培地に交換し、以後2日に一回の割合で同培地で培地交換した。トランスフェクション23日後に、ES細胞様の形態を示すコロニー1つを実体顕微鏡を用いて単離し、増殖させ、クローンとして樹立した(クローン#1)。図6にクローン#1の形態を示した。
クローン#1はES細胞と同様の形態を示し、長期継代が可能であった。
以上の実験より、21HACベクターを保持するMEFにプラスミドPAC−KAMSOをトランスフェクションすることによりiPS細胞の誘導が可能なことが確かめられた。
実施例4
(HAC−KMSOによるMEFの初期化)
微小核細胞融合及びiPS様細胞のクローニング
染色体供与細胞として、実施例2で得られたクローンKMSO10細胞を用いた。KMSO10細胞をHAT培地からアミノプテリンを除いたHT培地に交換して継代培養後、最終的に8μg/mlのブラシトシジンを含む10%FCS添加F12培地で培養した。25cm2遠心用培養フラスコ(ヌンク)24本にKMSO10細胞を播種し、50~60%細胞密度まで培養した後、0.1μg/mlコルセミドを含む20%FCS添加F12培地で3日間培養することにより微小核を形成させた。微小核を回収するために、コルセミド含有培地を吸引除去後、10μg/mlのサイトカラシンを含むF12培地をフラスコ一杯に充填し、34℃、8000rpm、1時間の遠心分離を行った。微小核の沈殿を血清無添加のDMEMに懸濁し、ポアサイズ8μm、5μm、3μmのフィルター(ワットマン)を用いて濾過精製した。精製した微小核の懸濁液に、最終濃度100μg/mlになるようにフィトヘムアグルチニンPを加えた。予めφ100mmディッシュに90%細胞密度まで培養したMEF(ネオマイシン耐性)を染色体受容細胞とした。培養液を除いた後、微小核懸濁液を加え、37℃にて15分間静置した。MEFに吸着しなかった微小核を吸引除去した後、45%PEG1500(ロシュ)/10%DMSOの混液を細胞表面に静かに加え、1分間反応させ、微小核とMEFを融合させた。PEG/DMSOの混液を洗浄除去した後、10%FCS添加DMEM培地で2日間培養した。その後、800μg/mlのG418(インビトロジェン)を含む培地に交換し、12日後にトリプシン処理により剥離し、マイトマイシンC処理したSTO細胞をフィーダー細胞とするφ100mmディッシュ3枚に播き直した。翌日、標準的なES細胞用培地に交換し、以後2日に一回の割合で同培地で培地交換した。微小核融合後26日目に、ES細胞様の形態を示すコロニー2つを実体顕微鏡を用いて単離し、増殖させ、クローンハして樹立した(クローンKM10−1、KM10−2)。図7にクローンの形態(初期化因子導入後36日)を示した。21HAC−KMSO上にはEGFP遺伝子が組込んであるので、21HAC−KMSOを保持する細胞は緑色蛍光を示すが、実際、KM10−1、KM10−2は緑色蛍光を発していた。
KM10−1、KM10−2はES細胞と同様に長期継代が可能であった。継代の過程で、ES細胞様の形態を維持している細胞をさらにサブクローニングし、KM10−1s、KM10−1s3、KM10−2s、KM10−2s3を獲得した。
移入染色体の確認
得られた2クローンについて、実施例2に示したローダミン標識hcotIプローブを用いてFISH解析を行った。結果を表2に示す。KM10−1、KM10−2とも21HACベクターの移入が確認され、21HACベクターの保持率は間期核においてそれぞれ96%、87%であった。また、いずれのクローンにおいても2コピーの21HACベクターを保持する細胞が半数以上であった。分裂像の観察の結果、KM10−1では21HACベクターは宿主染色体に独立して維持されていた(図8)。一方、KM10−2では多くの細胞で、宿主染色体に転座していた。
実施例2と同様に、ローダミン標識hcotIプローブとFITC標識PAC−KMSOプローブを用いた2カラーFISHの代表的な分裂像を図8に示した。KM10−1ではPAC−KMSOが挿入された21HACベクターが2コピー、宿主染色体に独立して存在することが確認された。
以上の実験より、MEFより得られたiPS様クローンには、21HAC−KMSOが保持されていることが確かめられた。
実施例5
(iPS様細胞クローンの遺伝子発現パターン)
外来遺伝子の発現
実施例3及び実施例4で得られたiPS様クローン#1、KM10−1,KM10−2のサブクローンについて、PAC−KMSOベクターあるいは21HAC−KMSOベクターを介して導入された外来遺伝子(Klf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4)の発現をRT−PCR法により調べた。外来遺伝子のポリA配列は全てウシ成長因子ポリA配列由来であるので、PCR用プライマーの片側にはこの配列を用いた。以下に用いたプライマーの配列を示す。
外来遺伝子のうち、Oct3/4の発現は全てのクローン、c−Mycの発現はKM10−1s1を除いたクローンにおいて発現が認められたが、Klf4,Sox2の発現は逆にKM10−1s1を除いたクローンで検出限界レベルまで発現は低下していた(図10)。完全ではないが、外来遺伝子のサイレンシングが確認された。
次に内在性未分化マーカーであるNanog、Oct3/4、Sox2、Rex1の発現を調べた。以下に用いたプライマーの配列を示す。
陽性対照として山中らのグループ(Okita,K.ら,Nature 448:313−7(2007))が樹立したマウスiPS細胞クローン20D−17(m−iPS 20D−17)、陰性対照としてMEFを用いた。クローン#1は全ての未分化マーカーが20D−17細胞と同程度発現していた。KM10−1、KM10−2については、サブクローンも含めて、Sox2は全てのクローンで発現誘導が認められ、Nanog、Oct3/4、Rex1についても弱いながら一部のクローンで発現誘導が認められた(図9)。
以上の結果からES細胞様形態に変化したクローン#1、KM10−1、KM10−2では、導入した外来遺伝子がサイレンシングされ、内在性の未分化性マーカーの発現が誘導されており、iPS細胞の特徴を有していることが確かめられた。
実施例6
(奇形腫形成)
実施例3で得られたクローン#1をヌードマウスに移植し、分化多能性の指標である奇形腫を形成するか検証した。φ100mmディッシュに培養したクローン#1をトリプシン処理により剥離後、ES細胞用培地に懸濁し、単一細胞懸濁液とした。1×107個/mlになるように10%FCS添加DMEM培地で調整し、0.5mlをヌードマウス下腿部に皮下移植した。1ヶ月後、形成された腫瘍槐を外科的に摘出し、10%ホルマリン/PBS中で固定した。切片作製後、ヘマトキシレンエオシン染色により腫瘍の組織型を解析した。結果を図11に示す。外胚葉に由来する神経様細胞、内胚葉に由来する上皮性細胞からなる腺管構造、などが検出された。
以上の実験により、クローン#1は分化多能性をもつことが示された。
上記の実験は、本発明方法を利用した、マウス由来の4つの核初期化因子(Oct3/4、Sox2、Klf4およびc−Myc)によるマウス体細胞からのマウスiPS細胞の誘導例を示したが、ヒト体細胞からのヒトiPS細胞の誘導も、ヒト由来の3つおよび4つの核初期化因子(例えばOct3/4、Sox2およびKlf4;ならびにOct3/4、Sox2、Klf4およびc−Myc)を用いて同様に行うことができる。
以下の実施例7、ならびに、参考実施例1および2には、上記の実施例に記載の方法で作製されたiPS細胞における核初期化因子の発現の不能化の例を示す。
実施例7
(21HACベクターが脱落したiPS細胞クローンの作製)
21HAC−2CAG−KMSOによるMEFの初期化
染色体供与細胞として、2CAGE05、2CAGE07、2CAGE15、2CAGE17細胞を用いた。染色体供与細胞をHAT培地からアミノプテリンを除いたHT培地に交換して継代培養後、最終的に8μg/mlのブラシトシジンを含む10%FCS添加F12培地で培養した。25cm2遠心用培養フラスコ(ヌンク社)24本に供与細胞を播種し、50~60%細胞密度まで培養した後、0.1μg/mlコルセミドを含む20%FCS添加F12培地で3日間培養することにより微小核を形成させた。微小核を回収するために、コルセミド含有培地を吸引除去後、10μg/mlのサイトカラシンを含むF12培地をフラスコ一杯に充填し、34℃、8000rpm、1時間の遠心分離を行った。微小核の沈殿を血清無添加のDMEMに縣濁し、ポアサイズ8μm、5μm、3μmのフィルター(ワットマン社)を用いて濾過精製した。精製した微小核の縣濁液に、最終濃度100μg/mlになるようにフィトヘムアグルチニンPを加えた。予めφ60mmディッシュ2枚に90%細胞密度まで培養したMEFを染色体受容細胞とした。培養液を除いた後、微小核縣濁液を加え、37℃にて15分間静置した。MEFに吸着しなかった微小核を吸引除去した後、45%PEG1500(ロシュ社)/10%DMSOの混液を細胞表面に静かに加え、1分間反応させ、微小核とMEFを融合させた。PEG/DMSOの混液を洗浄除去した後、10%FCS添加DMEM培地で培養した。翌日、トリプシン処理により剥離し、マイトマイシンC処理したSTO細胞をフィーダー細胞とするφ60mmディッシュ6枚に播き直した。4日後、標準的なES細胞用培地に交換し、以後2日に一回の割合で同培地で培地交換した。微小核融合後14日目以降に、ES細胞様の形態を示すコロニー5つを実体顕微鏡を用いて単離し、増殖させ、クローンとして樹立した(クローン2CAG7−1、2CAG7−3、2CAG7−4、2CAG7−6、2CAG5−6)。全てのクローンはES細胞と同様に長期継代が可能であった。継代の過程で、ES細胞様の形態を維持している細胞をさらにサブクローニングした。図14にサブクローンの形態(初期化因子導入後18日から24日)を示した。
移入染色体脱落の確認
得られた各々のサブクローンについて、実施例2に示したローダミン標識hcotIプローブを用いてFISH解析を行った。2CAG7−3および2CAG7−4のサブクローン(2CAG7−3s2、2CAG7−4s1)では21HACベクターの移入が確認された。一方、2CAG7−1、2CAG7−6、2CAG5−6のサブクローン(2CAG7−1s1~s6、2CAG7−6s1、2CAG5−6s3)については21HACベクターに由来するhcotIプローブのシグナルは検出されなかった。サブクローニングの過程を通して、21HACベクターが脱落したクローンを獲得することができた。2CAG7−4s1、2CAG7−6s1および2CAG5−6s3のFISH像を図15に示す。2CAG7−4s1および2CAG7−6s1は、細胞分裂の間期の状態であり、核は丸い形をしており、CAG7−4s1には21HACベクター(矢印)が残っているが、2CAG7−6s1には該ベクターが存在しない。21HACベクターをもつCAG7−4s1は、後述のようにガンシクロビルで処理することによって選択的に除去される。2CAG5−6s3は、中期(メタフェーズ)の染色体像を示しており、分裂期であっても21HACベクターは存在していない。
iPS様細胞クローンの遺伝子発現パターン
iPS様細胞クローン2CAG7−1、2CAG7−4、2CAG7−6について内在性未分化マーカーであるNanog、Oct3/4、Sox2、Rex1の発現を実施例5と同様の方法で調べた。陽性対照として山中らのグループ(Okita,K.ら,Nature 448:313−7(2007))が樹立したマウスiPS細胞クローン20D−17(m−iPS 20D−17)およびマウスES細胞TT2−F、陰性対照としてMEFを用いた。2CAG7−1s1、s2、s3、s4、s5、s6および2CAG7−4s1では全ての未分化マーカーが20D−17細胞、TT2−F細胞と同じレベルで発現していた。2CAG7−6s1についてもNanogの発現は陽性対照と同じレベルであった。初期化因子の発現ユニット数を2倍に増やし、初期化因子の発現量を増強することにより、より完全な未分化状態をもたらすことに成功した(図16)。
ガンシクロビルによる21HACベクター保持細胞の選択的除去
iPS様クローンのうち21HACベクターを保持していた2CAG7−4s1を6μg/mlガンシクロビル存在下で培養したところ、1週間後にガンシクロビル耐性コロニーを得た。耐性コロニーはES細胞様の形態を維持していた(図17)。また、この処理により、たとえ21HACベクターが存在していても、21HACベクターが脱落した細胞を選択することができた。
参考実施例1
(ガンシクロビルによる21HACベクター保持細胞の選択的除去)
実施例4で得られたiPS様クローンを用いて、6μg/mlでガンシクロビルを添加し(例えば、実施例4に記載のiPS細胞培養条件で)培養すると、約1週間後にはガンシクロビル耐性コロニーが得られる。耐性コロニー出現頻度は約1×105~106個の細胞あたり1つの割合である。これらのコロニーを単離し増殖させ、以後の解析を行う。
FISH解析
実施例2で用いたヒトcotI DNAをプローブとしてFISH解析を行う。単離したコロニーでは全て21HACベクターは検出されない。また、導入したホスト細胞の染色体にも異常は観察されない。
サザン解析
単離したコロニーからゲノムDNAを抽出し、5μgのゲノムDNAを制限酵素消化する。アガロースゲルを用いて電気泳動後、サザントランファーによりナイロン膜に転写する。PACベクター断片あるいはトランスジーン断片をランダムプライム法により32P−dCTPラベルし、ハイブリダイズする。単離コロニーでは、PACベクター断片からはシグナルが検出されず、トランスジーン断片からは、相当する内在性遺伝子ゲノムのシグナルのみが検出される。
このようにして、iPS様クローンから21HACベクターが完全に除去されたことを確認する。
参考実施例2
(染色体凝縮阻害による21HACベクター保持細胞の選択的除去)
染色体凝縮を阻害し、21HACベクターを選択的に細胞から除去するため、CENP−B box配列をエクジソン応答配列に置換した21HACベクターを作製する。エクジソンによる制御はテトラサイクリン制御に比較して、反応バックグラウンドが低く、迅速に応答することから、より効率よく21HACベクターが除去されるだろう。
21アルフォイドDNAベクターの改変
ヒト21番染色体由来アルファサテライトI配列を11個含む21アルフォイドDNAベクターp11−4(GenBank D29750)を制限酵素EcoRI消化し、アルファサテライトI配列2個を含む断片をpBluescriptIIベクター(ストラタジーン)のマルチクローニングサイトを改変したpB6ベクターにサブクローニングする。アルファサテライトI配列2個のうち片方にはCENP−B box配列が存在する。CENP−B box配列のないアルファサテライトI配列の一部をinverse PCRによりエクジソン応答配列(ストラタジーン、pEGSH)に置換する。
pB6ベクターのマルチクローニングサイトにあるAscI、NheI、AvrIIの制限酵素を用いて、断片を切り出し、コンカテマーを作製する。pB6ベクターを用いて64merまで作製した後、pPH−BSベクターを用いて、512merまで作製する。続いてゼオシン耐性遺伝子と約3kbの21HACベクターとの相同配列(21HACベクターのセントロメア近傍の配列、例えばAL163201またはAP001657)を連結させ、相同組換え用のベクターとする。AscI、FseIで切断し、512merの改変アルファサテライトI断片を調製する。
21HACベクターの改変
21HACベクターを保持するDT40細胞に、上記512merの改変アルファサテライトI断片を導入する。1×107個のDT40細胞を0.5mlのRPMI培地に懸濁し、30μgのDNA存在下でジーンパルサーを用いてエレクトロポレーションを行う。容量25μFのコンデンサに550Vで印加、電極間距離4mmのエレクトロポレーションキュベットを用いて放電する。エレクトロポレーションした細胞を10%FCS、1%トリ血清、0.1mM 2−MEを添加したRPMI1640培地に懸濁し、96穴プレート20枚に播種する。24時間後に最終濃度500μg/mlとなるようにゼオシンを加え、2~3週間後に耐性コロニーが出現する。薬剤耐性コロニーを単離して増殖させ、以下の解析を行う。
(1)FISH解析
pB6ベクターにクローニングされた改変アルファサテライトIをプローブとしてFISH解析を行う。アルファサテライトIの一部が改変された21HACベクターが特異的に検出される。
(2)サザン解析
耐性コロニーよりゲノムDNAを抽出し、DNA5μgを制限酵素XbaIで消化し、パルスフィールドゲル電気泳動を行った後、ナイロン膜に転写する。pB3ベクターにクローニングされた改変アルファサテライトIをプローブとして32Pラベルする。耐性クローンでは約80kbのシグナルが検出される。
以上の解析により、セントロメア領域のCENP−B box近傍にエクジソン応答配列が挿入された21HACベクターが完成する。このようにして得られる改変21HACベクターを21HAC−Ecdベクターという。
CHO細胞への21HAC−Ecdベクター移入
21HAC−Ecdベクターを保持するDT40細胞を染色体供与細胞として、微小核細胞融合法により、CHO/HGPRT細胞に21HAC−Ecdベクターを移入する。約109個のDT40細胞をコルセミド(0.05μg/ml)を含む培養液で13~18時間培養して微小核を誘導する。遠心分離により細胞を回収して無血清DMEMに再懸濁し、予めポリL−リジンでコーティングした25cm2遠心用培養フラスコ12本に播種する。37℃、1時間静置し細胞が付着した後培養液を除去し、10μg/mlのサイトカラシンを含むDMEM培地をフラスコ一抔に充填する。以後、実施例4と同様の操作で微小核細胞を精製し、CHO/HGPRT細胞と融合させる。翌日、トリプシン処理により細胞を剥離し、φ100mmディッシュ5枚に播き直す。24時間後にゼオシンを含む選択培地(10%FCS、F12)で培養する。約2週間の選択培養の後、出現した薬剤耐性コロニーを単離する(CHO−21HAC−Ecd)。FISH解析(ローダミン標識hcotIプローブ)により21HAC−Ecdベクターの存在を確認する。
21HAC−Ecdベクターの選択的除去の確認
CHO−21HAC−Ecd細胞に、合成エクジソン受容体発現ベクター(pERV3、ストラタジーン)をリポフェクタミン2000(インビトロジェン)により一過性に導入する。翌日、最終濃度10μMのエクジソン誘導体ポナステロンA(Ponasterone A)を添加し、1週間培養する。更に6μg/mlのガンシクロビルを添加した培地で1週間培養することにより、21HAC−Ecdベクターの脱落したクローンのみを選択的に得る。
21HAC−Ecd−初期化因子ベクターの作製及びiPS細胞の作製
CHO細胞においてポナステロンA添加により選択的な脱落が確認された21HAC−Ecdベクターに初期化4因子あるいは3因子を、実施例2と同様の方法で挿入する。作製できた21HAC−Ecd−初期化因子ベクターを実施例3と同様に微小核細胞融合法により、MEFおよびヒト線維芽細胞に導入し、マウスiPS細胞、ヒトiPS細胞を作製する。iPS細胞として単離できたクローンには、CHO−21HAC−Ecd細胞と同様に、合成エクジソン受容体発現ベクターをリポフェクションにより一過性に導入し、翌日より最終濃度10μMのエクジソン誘導体ポナステロンA(Ponasterone A)で1週間培養する。更に6μg/mlのガンシクロビルを添加した培地で1週間培養することにより、21HAC−Ecdベクターが脱落する、すなわち外来性遺伝子を全く持たないiPS細胞を同定する。
実施例1
(初期化因子発現ベクター(PAC−KMSO)の作製)
PAC−KMSOの作製は大別して2つのステップに別れる。即ち、pUC系プラスミドへ各因子(マウス由来の、Klf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4)の発現ユニット(1コピーまたは2コピー初期化因子含有)を挿入するステップと、こうして作製した各々の発現ユニットをインスレーターで挟みPACベクターへ挿入・連結するステップである。以下に各ステップについて説明する。
pUC系プラスミドへの発現ユニットの挿入
pBluescriptII(スタラタジーン)にチキンβグロビンHS4由来インスレーター断片1.2kb(JH.Chungら Cell 74:505−514(1993))を2コピータンデムに挿入し、その下流に更に発現ユニットを挿入した。この際、発現ユニットとしては、サイトメガロウイルスエンハンサー、ニワトリβ−アクチンプロモーター、およびウサギβ−グロビンのスプライシングアクセプターからなるハイブリットプロモーター(CAGプロモーター)(特開平3−168087)、ウサギβ−グロビンポリA配列のセット、あるいはモロニー白血病ウイルスのLTR配列のセット、いずれかを用いた。4種の初期化因子(Oct3/4、Sox2、c−MycおよびKlf4)の組み合わせ(但し、本実施例では、これらの因子の組み合わせは単に例示を目的としたものであり、実施例に記載された手法は、他の初期化因子の組み合わせ、例えばOct3/4、Sox2およびKlf4の組み合わせ、Oct3/4およびKlf4の組み合わせ、その他の初期化因子の組み合わせなどにも同様に適用可能である。)については、それぞれ個別に発現ユニットに挿入するか、ピコルナウイルス由来IRES配列や2A配列を用いてシストロニックに発現ユニットに挿入した。PACベクターへの挿入の為にAscI、NheI、SpeI、AvrII、FseIなどの制限酵素サイトを付加した。
1コピー初期化因子発現ユニットのPACベクターへの挿入および連結
PACベクターはpPAC4を用いた。BstII制限酵素サイトを平滑化し、新たにloxP配列、HPRTエクソン3~エクソン9までの断片を挿入した。その際に、発現ユニットを挿入するためのサイトとしてFseIサイトを付加した。PAC−KMSO構築(図1)の場合は、まずOct3/4発現ユニットのポリA配列の下流のAvrIIサイト、FseIサイトに(1)で述べたチキンHS4断片2コピーを再度導入し、発現ユニットをAscI、FseIで切り出した後、改変したPACベクターのAscI、FseI断片とライゲーションすることにより、PACベクターにOct3/4発現ユニットを組み込んだ。このベクター中のAscIサイト、NheIサイトに、次のSox2発現ユニットのAscI、AvrII切断断片を挿入した。NheI切断端とAvrII切断端は相補性があるためライゲーション可能であった。これを繰り返すことにより、このPACベクターに、HS4インスレーターに挟まれたKlf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4の各発現ユニットをタンデムに構築した。
2コピー初期化因子発現ユニットをもつPACベクターの作製
PAC−KMSOベクターのAscI、AvrII切断断片を、PAC−KMSOベクターのAscIサイト、NheIサイトに挿入することにより、上記と同様に作製された初期化因子(Oct3/4、Sox2、c−MycおよびKlf4)の発現ユニットをそれぞれ2コピーずつもつ(すなわち、2つの該発現ユニットがタンデムに連結された)PACベクター2CAG−KMSO(図12中の挿入体)を作製した。
実施例2
(初期化因子HACベクターの作製)
ヒト人工染色体(HAC)ベクターとしてはヒト21番染色体由来の内在遺伝子を含まないヒト人工染色体ベクター(特開2007−295860)を用いた。この21HACベクターには外来遺伝子挿入部位としてのloxP配列と組換え挿入体選別の為のHPRTエクソン1~エクソン2までのゲノム断片の他にEGFP遺伝子が組み込んであり、21HACベクターを保持する細胞を緑色蛍光でモニター出来るように工夫してある(図2)。21HACベクターのloxP配列部位に上記のPAC−KMSOまたは2CAG−KMSOベクター由来の初期化因子発現ユニットを挿入した(図3および図12)。このとき、loxP配列での部位特異的組換え挿入体の選別はHPRT遺伝子の再構築によるHAT(ヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジン)耐性の獲得を指標とした。また、HPRT遺伝子を欠損したCHO細胞CHO/HGPRT株(JCRB0218)を21HACベクターの供与細胞として用いた。
PAC−KMSOのトランスフェクションと組換え挿入体の単離
21HACベクターを保持するCHO/HGPRT株(以下CHO−21HAC)をトリプシン処理し、5×106細胞を0.8mlの生理食塩水含有リン酸バッファー(PBS)に懸濁した。30μgの実施例1で作製した初期化4因子発現ベクターPAC−KMSOと2μgのCre組換え酵素発現ベクターPBS185(ライフテック)存在下でジーンパルサー(バイオラッド社)を用いてエレクトロポレーションを行った。容量500μFのコンデンサに450Vで印加し、電極間距離4mmのエレクロポレーションキュベットを用いて放電した。エレクトロポレーションした細胞を10%FCS添加したF12培地に懸濁し、φ100mmディッシュ5枚に播種した。2日後に1×HATを含む培地に置き換え、以後週2回HAT培地で培地交換した。2~3週間後には耐性コロニーが出現し、その頻度はCHO−21HAC細胞5×106個あたり15個であった。クローニングシリンジを用いて耐性コロニーを単離して増殖させ、以後の解析を行った。
組換え挿入体の確認
loxP配列部位特異的組換え挿入体を確認するため、loxP配列部位を挟むように21HACベクター上及びPAC−KMSOベクター上にプライマーを設計し、ゲノムPCR増幅を行った。以下にPCR増幅に用いたオリゴヌクレオチドプライマーの配列を示す。
これらのプライマーはプラスミドベクターpKO SelectHPRT(タカラバイオ)の塩基配列を基にして設計した。
loxP配列部位特異的組換え挿入体においてのみ約400bpの増幅産物が得られる。その結果、15クローン全てにおいて予想される増幅が検出され、全てがloxP配列への部位特異的組換え挿入体であることが確認された。
次に、これら15クローンの中からランダムに6クローンを選出し、FISH解析を行った。ヒト特異的反復配列からなるcot1 DNA(hcot1、ロシュ社)をローダミン標識プローブとして用いて上記組換え挿入体を解析することにより、ヒト21番染色体由来の21HACベクターの存在を確認した。解析した6クローン全てで、21HACベクターが検出され、各クローンにおける21HACベクターの保持率は82~99%であった。結果を表1に示す。
21HACベクターに挿入された初期化因子の発現
単離したHAT耐性クローンのうちFISH解析で1コピーの21HACベクター保持率が高かったKMSO10、KMSO13について、挿入した4因子すなわちKlf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4遺伝子の発現をRT−PCR法により確認した。対照としてCHO−21HAC細胞を用いた。その結果を図5に示したが、2クローンとも全ての導入遺伝子の発現が確認されたのに対して、4因子が挿入されていないCHO−21HAC細胞ではいずれの遺伝子の発現も認められなかった。
以上の結果から、loxP配列を介して初期化4因子が挿入された21HACベクター(以下21HAC−KMSO)を保持するCHO細胞において、挿入された4因子の発現が確認された。
2CAG−KMSOのトランスフェクションと組換え体の単離
上記の方法と同様にして、21HAC−2CAG−KMSOベクター(図12)によるCHO細胞の組換え体クローンの単離と、組換え挿入体の、上記と同様のFISH法による確認を行った。
FISH解析の結果を表2に示す。
単離したHAT耐性クローンは全て、FISH解析では1コピーの21HACベクター保持率が高かった。そこで、挿入した4因子すなわちKlf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4遺伝子の発現をRT−PCR法により比較した。対照としてKMSO10細胞を用いた。その結果を図13に示したが、2CAG07、2CAG15においてKMSO10に比べて導入遺伝子の高い発現が確認された。
以上の結果から、各々2コピーの初期化4因子が挿入された21HACベクター(21HAC−2CAG−KMSO)(図12)を保持するCHO細胞においては、各々1コピーの初期化4因子が挿入された21HAC−KMSOを保持するCHO細胞に比べて、挿入された4因子の発現が高いことが確認された。
実施例3
(PAC−KMSOによるMEFの初期化)
PAC−KMSOを環状プラスミドの状態で21HACベクターを保持するMEFに導入し、MEFが初期化されるか検討した。
微小核細胞融合法による21HACベクターのMEFへの導入
染色体供与細胞として、21HACベクターを保持するCHO細胞kkpq2−12株を用いた。ここで用いた21HACベクターは実施例2で用いたベクターと同じ構造であるが、EGFP遺伝子は挿入されていない。25cm2遠心用培養フラスコ(ヌンク社)24本にkkpq2−12細胞を播種し、50~60%細胞密度まで培養した後、0.1μg/mlコルセミドを含む20%FCS添加F12培地で3日間培養することにより微小核を形成させた。微小核を回収するために、コルセミド含有培地を吸引除去後、10μg/mlのサイトカラシンを含むF12培地をフラスコ一杯に充填し、34℃、8000rpm、1時間の遠心分離を行った。微小核の沈殿を血清無添加のDMEMに縣濁し、ポアサイズ8μm、5μm、3μmのフィルター(ワットマン社)を用いて濾過精製した。精製した微小核の縣濁液に、最終濃度100μg/mlになるようにフィトヘムアグルチニンPを加えた。予めφ100mmディッシュに90%細胞密度まで培養したMEF(ネオマイシン耐性)を染色体受容細胞とした。培養液を除いた後、微小核縣濁液を加え、37℃にて15分間静置した。MEFに吸着しなかった微小核を吸引除去した後、45%PEG1500(ロシュ社)/10%DMSOの混液を細胞表面に静かに加え、1分間反応させ、微小核とMEFを融合させた。PEG/DMSOの混液を洗浄除去した後、10%FCS添加DMEM培地で1日間培養した。
PAC−KMSOのトランスフェクション
微小核細胞融合の翌日、50μgのPAC−KMSOと10μgのCre発現ベクターを混合し、Lipofectamine2000(インビトロジェン社)を用いて、リポフェクション法でトランスフェクションを行った。
iPS様細胞のクローニング
トランスフェクションして一晩培養後、MEFをトリプシン処理し、10%FCS添加したDMEM培地に懸濁した後、マイトマイシンC処理したSTO細胞をフィーダー細胞とするφ100mmディッシュ5枚に播き直した。2日後、標準的なES細胞用培地に交換し、以後2日に一回の割合で同培地で培地交換した。トランスフェクション23日後に、ES細胞様の形態を示すコロニー1つを実体顕微鏡を用いて単離し、増殖させ、クローンとして樹立した(クローン#1)。図6にクローン#1の形態を示した。
クローン#1はES細胞と同様の形態を示し、長期継代が可能であった。
以上の実験より、21HACベクターを保持するMEFにプラスミドPAC−KAMSOをトランスフェクションすることによりiPS細胞の誘導が可能なことが確かめられた。
実施例4
(HAC−KMSOによるMEFの初期化)
微小核細胞融合及びiPS様細胞のクローニング
染色体供与細胞として、実施例2で得られたクローンKMSO10細胞を用いた。KMSO10細胞をHAT培地からアミノプテリンを除いたHT培地に交換して継代培養後、最終的に8μg/mlのブラシトシジンを含む10%FCS添加F12培地で培養した。25cm2遠心用培養フラスコ(ヌンク)24本にKMSO10細胞を播種し、50~60%細胞密度まで培養した後、0.1μg/mlコルセミドを含む20%FCS添加F12培地で3日間培養することにより微小核を形成させた。微小核を回収するために、コルセミド含有培地を吸引除去後、10μg/mlのサイトカラシンを含むF12培地をフラスコ一杯に充填し、34℃、8000rpm、1時間の遠心分離を行った。微小核の沈殿を血清無添加のDMEMに懸濁し、ポアサイズ8μm、5μm、3μmのフィルター(ワットマン)を用いて濾過精製した。精製した微小核の懸濁液に、最終濃度100μg/mlになるようにフィトヘムアグルチニンPを加えた。予めφ100mmディッシュに90%細胞密度まで培養したMEF(ネオマイシン耐性)を染色体受容細胞とした。培養液を除いた後、微小核懸濁液を加え、37℃にて15分間静置した。MEFに吸着しなかった微小核を吸引除去した後、45%PEG1500(ロシュ)/10%DMSOの混液を細胞表面に静かに加え、1分間反応させ、微小核とMEFを融合させた。PEG/DMSOの混液を洗浄除去した後、10%FCS添加DMEM培地で2日間培養した。その後、800μg/mlのG418(インビトロジェン)を含む培地に交換し、12日後にトリプシン処理により剥離し、マイトマイシンC処理したSTO細胞をフィーダー細胞とするφ100mmディッシュ3枚に播き直した。翌日、標準的なES細胞用培地に交換し、以後2日に一回の割合で同培地で培地交換した。微小核融合後26日目に、ES細胞様の形態を示すコロニー2つを実体顕微鏡を用いて単離し、増殖させ、クローンハして樹立した(クローンKM10−1、KM10−2)。図7にクローンの形態(初期化因子導入後36日)を示した。21HAC−KMSO上にはEGFP遺伝子が組込んであるので、21HAC−KMSOを保持する細胞は緑色蛍光を示すが、実際、KM10−1、KM10−2は緑色蛍光を発していた。
KM10−1、KM10−2はES細胞と同様に長期継代が可能であった。継代の過程で、ES細胞様の形態を維持している細胞をさらにサブクローニングし、KM10−1s、KM10−1s3、KM10−2s、KM10−2s3を獲得した。
移入染色体の確認
得られた2クローンについて、実施例2に示したローダミン標識hcotIプローブを用いてFISH解析を行った。結果を表2に示す。KM10−1、KM10−2とも21HACベクターの移入が確認され、21HACベクターの保持率は間期核においてそれぞれ96%、87%であった。また、いずれのクローンにおいても2コピーの21HACベクターを保持する細胞が半数以上であった。分裂像の観察の結果、KM10−1では21HACベクターは宿主染色体に独立して維持されていた(図8)。一方、KM10−2では多くの細胞で、宿主染色体に転座していた。
以上の実験より、MEFより得られたiPS様クローンには、21HAC−KMSOが保持されていることが確かめられた。
実施例5
(iPS様細胞クローンの遺伝子発現パターン)
外来遺伝子の発現
実施例3及び実施例4で得られたiPS様クローン#1、KM10−1,KM10−2のサブクローンについて、PAC−KMSOベクターあるいは21HAC−KMSOベクターを介して導入された外来遺伝子(Klf4、c−Myc、Sox2、Oct3/4)の発現をRT−PCR法により調べた。外来遺伝子のポリA配列は全てウシ成長因子ポリA配列由来であるので、PCR用プライマーの片側にはこの配列を用いた。以下に用いたプライマーの配列を示す。
外来遺伝子のうち、Oct3/4の発現は全てのクローン、c−Mycの発現はKM10−1s1を除いたクローンにおいて発現が認められたが、Klf4,Sox2の発現は逆にKM10−1s1を除いたクローンで検出限界レベルまで発現は低下していた(図10)。完全ではないが、外来遺伝子のサイレンシングが確認された。
次に内在性未分化マーカーであるNanog、Oct3/4、Sox2、Rex1の発現を調べた。以下に用いたプライマーの配列を示す。
陽性対照として山中らのグループ(Okita,K.ら,Nature 448:313−7(2007))が樹立したマウスiPS細胞クローン20D−17(m−iPS 20D−17)、陰性対照としてMEFを用いた。クローン#1は全ての未分化マーカーが20D−17細胞と同程度発現していた。KM10−1、KM10−2については、サブクローンも含めて、Sox2は全てのクローンで発現誘導が認められ、Nanog、Oct3/4、Rex1についても弱いながら一部のクローンで発現誘導が認められた(図9)。
以上の結果からES細胞様形態に変化したクローン#1、KM10−1、KM10−2では、導入した外来遺伝子がサイレンシングされ、内在性の未分化性マーカーの発現が誘導されており、iPS細胞の特徴を有していることが確かめられた。
実施例6
(奇形腫形成)
実施例3で得られたクローン#1をヌードマウスに移植し、分化多能性の指標である奇形腫を形成するか検証した。φ100mmディッシュに培養したクローン#1をトリプシン処理により剥離後、ES細胞用培地に懸濁し、単一細胞懸濁液とした。1×107個/mlになるように10%FCS添加DMEM培地で調整し、0.5mlをヌードマウス下腿部に皮下移植した。1ヶ月後、形成された腫瘍槐を外科的に摘出し、10%ホルマリン/PBS中で固定した。切片作製後、ヘマトキシレンエオシン染色により腫瘍の組織型を解析した。結果を図11に示す。外胚葉に由来する神経様細胞、内胚葉に由来する上皮性細胞からなる腺管構造、などが検出された。
以上の実験により、クローン#1は分化多能性をもつことが示された。
上記の実験は、本発明方法を利用した、マウス由来の4つの核初期化因子(Oct3/4、Sox2、Klf4およびc−Myc)によるマウス体細胞からのマウスiPS細胞の誘導例を示したが、ヒト体細胞からのヒトiPS細胞の誘導も、ヒト由来の3つおよび4つの核初期化因子(例えばOct3/4、Sox2およびKlf4;ならびにOct3/4、Sox2、Klf4およびc−Myc)を用いて同様に行うことができる。
以下の実施例7、ならびに、参考実施例1および2には、上記の実施例に記載の方法で作製されたiPS細胞における核初期化因子の発現の不能化の例を示す。
実施例7
(21HACベクターが脱落したiPS細胞クローンの作製)
21HAC−2CAG−KMSOによるMEFの初期化
染色体供与細胞として、2CAGE05、2CAGE07、2CAGE15、2CAGE17細胞を用いた。染色体供与細胞をHAT培地からアミノプテリンを除いたHT培地に交換して継代培養後、最終的に8μg/mlのブラシトシジンを含む10%FCS添加F12培地で培養した。25cm2遠心用培養フラスコ(ヌンク社)24本に供与細胞を播種し、50~60%細胞密度まで培養した後、0.1μg/mlコルセミドを含む20%FCS添加F12培地で3日間培養することにより微小核を形成させた。微小核を回収するために、コルセミド含有培地を吸引除去後、10μg/mlのサイトカラシンを含むF12培地をフラスコ一杯に充填し、34℃、8000rpm、1時間の遠心分離を行った。微小核の沈殿を血清無添加のDMEMに縣濁し、ポアサイズ8μm、5μm、3μmのフィルター(ワットマン社)を用いて濾過精製した。精製した微小核の縣濁液に、最終濃度100μg/mlになるようにフィトヘムアグルチニンPを加えた。予めφ60mmディッシュ2枚に90%細胞密度まで培養したMEFを染色体受容細胞とした。培養液を除いた後、微小核縣濁液を加え、37℃にて15分間静置した。MEFに吸着しなかった微小核を吸引除去した後、45%PEG1500(ロシュ社)/10%DMSOの混液を細胞表面に静かに加え、1分間反応させ、微小核とMEFを融合させた。PEG/DMSOの混液を洗浄除去した後、10%FCS添加DMEM培地で培養した。翌日、トリプシン処理により剥離し、マイトマイシンC処理したSTO細胞をフィーダー細胞とするφ60mmディッシュ6枚に播き直した。4日後、標準的なES細胞用培地に交換し、以後2日に一回の割合で同培地で培地交換した。微小核融合後14日目以降に、ES細胞様の形態を示すコロニー5つを実体顕微鏡を用いて単離し、増殖させ、クローンとして樹立した(クローン2CAG7−1、2CAG7−3、2CAG7−4、2CAG7−6、2CAG5−6)。全てのクローンはES細胞と同様に長期継代が可能であった。継代の過程で、ES細胞様の形態を維持している細胞をさらにサブクローニングした。図14にサブクローンの形態(初期化因子導入後18日から24日)を示した。
移入染色体脱落の確認
得られた各々のサブクローンについて、実施例2に示したローダミン標識hcotIプローブを用いてFISH解析を行った。2CAG7−3および2CAG7−4のサブクローン(2CAG7−3s2、2CAG7−4s1)では21HACベクターの移入が確認された。一方、2CAG7−1、2CAG7−6、2CAG5−6のサブクローン(2CAG7−1s1~s6、2CAG7−6s1、2CAG5−6s3)については21HACベクターに由来するhcotIプローブのシグナルは検出されなかった。サブクローニングの過程を通して、21HACベクターが脱落したクローンを獲得することができた。2CAG7−4s1、2CAG7−6s1および2CAG5−6s3のFISH像を図15に示す。2CAG7−4s1および2CAG7−6s1は、細胞分裂の間期の状態であり、核は丸い形をしており、CAG7−4s1には21HACベクター(矢印)が残っているが、2CAG7−6s1には該ベクターが存在しない。21HACベクターをもつCAG7−4s1は、後述のようにガンシクロビルで処理することによって選択的に除去される。2CAG5−6s3は、中期(メタフェーズ)の染色体像を示しており、分裂期であっても21HACベクターは存在していない。
iPS様細胞クローンの遺伝子発現パターン
iPS様細胞クローン2CAG7−1、2CAG7−4、2CAG7−6について内在性未分化マーカーであるNanog、Oct3/4、Sox2、Rex1の発現を実施例5と同様の方法で調べた。陽性対照として山中らのグループ(Okita,K.ら,Nature 448:313−7(2007))が樹立したマウスiPS細胞クローン20D−17(m−iPS 20D−17)およびマウスES細胞TT2−F、陰性対照としてMEFを用いた。2CAG7−1s1、s2、s3、s4、s5、s6および2CAG7−4s1では全ての未分化マーカーが20D−17細胞、TT2−F細胞と同じレベルで発現していた。2CAG7−6s1についてもNanogの発現は陽性対照と同じレベルであった。初期化因子の発現ユニット数を2倍に増やし、初期化因子の発現量を増強することにより、より完全な未分化状態をもたらすことに成功した(図16)。
ガンシクロビルによる21HACベクター保持細胞の選択的除去
iPS様クローンのうち21HACベクターを保持していた2CAG7−4s1を6μg/mlガンシクロビル存在下で培養したところ、1週間後にガンシクロビル耐性コロニーを得た。耐性コロニーはES細胞様の形態を維持していた(図17)。また、この処理により、たとえ21HACベクターが存在していても、21HACベクターが脱落した細胞を選択することができた。
参考実施例1
(ガンシクロビルによる21HACベクター保持細胞の選択的除去)
実施例4で得られたiPS様クローンを用いて、6μg/mlでガンシクロビルを添加し(例えば、実施例4に記載のiPS細胞培養条件で)培養すると、約1週間後にはガンシクロビル耐性コロニーが得られる。耐性コロニー出現頻度は約1×105~106個の細胞あたり1つの割合である。これらのコロニーを単離し増殖させ、以後の解析を行う。
FISH解析
実施例2で用いたヒトcotI DNAをプローブとしてFISH解析を行う。単離したコロニーでは全て21HACベクターは検出されない。また、導入したホスト細胞の染色体にも異常は観察されない。
サザン解析
単離したコロニーからゲノムDNAを抽出し、5μgのゲノムDNAを制限酵素消化する。アガロースゲルを用いて電気泳動後、サザントランファーによりナイロン膜に転写する。PACベクター断片あるいはトランスジーン断片をランダムプライム法により32P−dCTPラベルし、ハイブリダイズする。単離コロニーでは、PACベクター断片からはシグナルが検出されず、トランスジーン断片からは、相当する内在性遺伝子ゲノムのシグナルのみが検出される。
このようにして、iPS様クローンから21HACベクターが完全に除去されたことを確認する。
参考実施例2
(染色体凝縮阻害による21HACベクター保持細胞の選択的除去)
染色体凝縮を阻害し、21HACベクターを選択的に細胞から除去するため、CENP−B box配列をエクジソン応答配列に置換した21HACベクターを作製する。エクジソンによる制御はテトラサイクリン制御に比較して、反応バックグラウンドが低く、迅速に応答することから、より効率よく21HACベクターが除去されるだろう。
21アルフォイドDNAベクターの改変
ヒト21番染色体由来アルファサテライトI配列を11個含む21アルフォイドDNAベクターp11−4(GenBank D29750)を制限酵素EcoRI消化し、アルファサテライトI配列2個を含む断片をpBluescriptIIベクター(ストラタジーン)のマルチクローニングサイトを改変したpB6ベクターにサブクローニングする。アルファサテライトI配列2個のうち片方にはCENP−B box配列が存在する。CENP−B box配列のないアルファサテライトI配列の一部をinverse PCRによりエクジソン応答配列(ストラタジーン、pEGSH)に置換する。
pB6ベクターのマルチクローニングサイトにあるAscI、NheI、AvrIIの制限酵素を用いて、断片を切り出し、コンカテマーを作製する。pB6ベクターを用いて64merまで作製した後、pPH−BSベクターを用いて、512merまで作製する。続いてゼオシン耐性遺伝子と約3kbの21HACベクターとの相同配列(21HACベクターのセントロメア近傍の配列、例えばAL163201またはAP001657)を連結させ、相同組換え用のベクターとする。AscI、FseIで切断し、512merの改変アルファサテライトI断片を調製する。
21HACベクターの改変
21HACベクターを保持するDT40細胞に、上記512merの改変アルファサテライトI断片を導入する。1×107個のDT40細胞を0.5mlのRPMI培地に懸濁し、30μgのDNA存在下でジーンパルサーを用いてエレクトロポレーションを行う。容量25μFのコンデンサに550Vで印加、電極間距離4mmのエレクトロポレーションキュベットを用いて放電する。エレクトロポレーションした細胞を10%FCS、1%トリ血清、0.1mM 2−MEを添加したRPMI1640培地に懸濁し、96穴プレート20枚に播種する。24時間後に最終濃度500μg/mlとなるようにゼオシンを加え、2~3週間後に耐性コロニーが出現する。薬剤耐性コロニーを単離して増殖させ、以下の解析を行う。
(1)FISH解析
pB6ベクターにクローニングされた改変アルファサテライトIをプローブとしてFISH解析を行う。アルファサテライトIの一部が改変された21HACベクターが特異的に検出される。
(2)サザン解析
耐性コロニーよりゲノムDNAを抽出し、DNA5μgを制限酵素XbaIで消化し、パルスフィールドゲル電気泳動を行った後、ナイロン膜に転写する。pB3ベクターにクローニングされた改変アルファサテライトIをプローブとして32Pラベルする。耐性クローンでは約80kbのシグナルが検出される。
以上の解析により、セントロメア領域のCENP−B box近傍にエクジソン応答配列が挿入された21HACベクターが完成する。このようにして得られる改変21HACベクターを21HAC−Ecdベクターという。
CHO細胞への21HAC−Ecdベクター移入
21HAC−Ecdベクターを保持するDT40細胞を染色体供与細胞として、微小核細胞融合法により、CHO/HGPRT細胞に21HAC−Ecdベクターを移入する。約109個のDT40細胞をコルセミド(0.05μg/ml)を含む培養液で13~18時間培養して微小核を誘導する。遠心分離により細胞を回収して無血清DMEMに再懸濁し、予めポリL−リジンでコーティングした25cm2遠心用培養フラスコ12本に播種する。37℃、1時間静置し細胞が付着した後培養液を除去し、10μg/mlのサイトカラシンを含むDMEM培地をフラスコ一抔に充填する。以後、実施例4と同様の操作で微小核細胞を精製し、CHO/HGPRT細胞と融合させる。翌日、トリプシン処理により細胞を剥離し、φ100mmディッシュ5枚に播き直す。24時間後にゼオシンを含む選択培地(10%FCS、F12)で培養する。約2週間の選択培養の後、出現した薬剤耐性コロニーを単離する(CHO−21HAC−Ecd)。FISH解析(ローダミン標識hcotIプローブ)により21HAC−Ecdベクターの存在を確認する。
21HAC−Ecdベクターの選択的除去の確認
CHO−21HAC−Ecd細胞に、合成エクジソン受容体発現ベクター(pERV3、ストラタジーン)をリポフェクタミン2000(インビトロジェン)により一過性に導入する。翌日、最終濃度10μMのエクジソン誘導体ポナステロンA(Ponasterone A)を添加し、1週間培養する。更に6μg/mlのガンシクロビルを添加した培地で1週間培養することにより、21HAC−Ecdベクターの脱落したクローンのみを選択的に得る。
21HAC−Ecd−初期化因子ベクターの作製及びiPS細胞の作製
CHO細胞においてポナステロンA添加により選択的な脱落が確認された21HAC−Ecdベクターに初期化4因子あるいは3因子を、実施例2と同様の方法で挿入する。作製できた21HAC−Ecd−初期化因子ベクターを実施例3と同様に微小核細胞融合法により、MEFおよびヒト線維芽細胞に導入し、マウスiPS細胞、ヒトiPS細胞を作製する。iPS細胞として単離できたクローンには、CHO−21HAC−Ecd細胞と同様に、合成エクジソン受容体発現ベクターをリポフェクションにより一過性に導入し、翌日より最終濃度10μMのエクジソン誘導体ポナステロンA(Ponasterone A)で1週間培養する。更に6μg/mlのガンシクロビルを添加した培地で1週間培養することにより、21HAC−Ecdベクターが脱落する、すなわち外来性遺伝子を全く持たないiPS細胞を同定する。
本発明は、体細胞からiPS細胞を誘導するとき使用された核初期化因子の影響が排除された、好ましくは外来の核初期化因子を含まない、iPS細胞を提供するものであり、iPS細胞を再生医療に応用する際に格別にその安全性を向上させることに導くことができる。
配列番号1~15 プライマー
配列番号16 CENP−Bボックス
配列番号16 CENP−Bボックス
Claims (23)
- 哺乳動物由来の体細胞から、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAを個々にまたは組み合わせて含む1つもしくは複数の発現ベクターを使用して人工多能性幹(iPS)細胞を作製する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されないベクターであり、該方法が、該発現ベクターを該体細胞に導入してiPS細胞を誘導し、該iPS細胞中の該発現ベクターの機能を消失させることを含む、外来性核初期化因子をコードするDNAを含まないかまたは該DNAを発現する能力をもたないiPS細胞の作製方法。
- 前記内在ゲノムに挿入されないベクターが人工染色体である、請求項1に記載の方法。
- 前記人工染色体が哺乳類人工染色体、酵母人工染色体または細菌人工染色体である、請求項2に記載の方法。
- 前記哺乳類人工染色体がヒト人工染色体である、請求項3に記載の方法。
- 前記哺乳類人工染色体がマウス人工染色体である、請求項3に記載の方法。
- 前記1つもしくは複数の核初期化因子が少なくともOct3/4を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
- 前記複数の核初期化因子が、Sox2、Klf4およびc−Mycからなる群から選択される1もしくは複数の因子をさらに含む、請求項6に記載の方法。
- 前記ベクターの機能の消失が、該ベクター中のDNAの発現を不能にすること、該ベクターを含む細胞を破壊すること、あるいは該ベクターを脱落させることである、請求項1~7のいずれか1項に記載の方法。
- 前記ベクター中のDNAの発現を不能にすることが、該ベクターが体細胞特異的な発現制御領域を含み、これによって体細胞の核初期化に伴い該DNAの発現を不能にすることを含む、請求項8に記載の方法。
- 前記ベクターを含む細胞の破壊が、該ベクターがチミジンキナーゼをコードするDNAを含み、iPS細胞の誘導後、シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物の存在下で該チミジンキナーゼを発現する細胞を破壊することを含む、請求項8に記載の方法。
- 前記ベクターの脱落が、前記ベクターが哺乳類セントロメアを含み、該セントロメアのCENP−B boxがDNA結合タンパク質認識配列によって置換されており、これによって、DNA結合タンパク質の存在下で染色体凝縮を阻害し、人工染色体の脱落を起こすことを含む、請求項8に記載の方法。
- 前記ベクターの脱落が、前記の誘導されたiPS細胞クローンのサブクローニングによって行われることを含む、請求項8に記載の方法。
- 前記ベクターがチミジンキナーゼをコードするDNAを含み、ならびに、前記サブクローンによって得られたiPS細胞サブクローンをさらに、シクロビル、ガンシクロビル、またはそれらと同等の機能をもつ化合物の存在下で培養し、これらの化合物に耐性なサブクローンを選択することを含む、請求項12に記載の方法。
- 前記ベクターに含まれる前記核初期化因子をコードする各DNAのコピー数が1もしくは複数コピーである、請求項1~11のいずれか1項に記載の方法。
- 外来性核初期化因子またはそれをコードするDNAを含まないことを特徴とする哺乳動物由来のiPS細胞。
- 請求項1~14のいずれか1項に記載の方法で作製された、請求項13に記載のiPS細胞。
- 前記哺乳動物が霊長類、げっ歯類、ペット動物または有蹄類である、請求項15または16に記載のiPS細胞。
- 前記哺乳動物がヒト、マウスまたはラットである、請求項17に記載のiPS細胞。
- 哺乳動物由来の体細胞から、1つもしくは複数の核初期化因子をコードするDNAの複数コピーを含む発現ベクターを使用してiPS細胞を誘導する方法において、該発現ベクターが該体細胞の内在ゲノムに挿入されない人工染色体であり、該方法が、該人工染色体を該体細胞に導入してiPS細胞を誘導することを含む、該人工染色体を含むiPS細胞の誘導方法。
- 前記人工染色体が哺乳類人工染色体である、請求項19に記載の方法。
- 前記1つもしくは複数の核初期化因子が少なくともOct3/4を含む、請求項19または20に記載の方法。
- 前記複数の核初期化因子が、Sox2、Klf4およびc−Mycからなる群から選択される1もしくは複数の因子をさらに含む、請求項21に記載の方法。
- Oct3/4、Sox2、Klf4およびc−Mycを含む核初期化因子をコードするDNA、あるいはOct3/4、Sox2およびKlf4を含む核初期化因子をコードするDNA、の複数コピーを含むヒト人工染色体。
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