癌の早期診断に有効と注目されている陽電子放射断層撮像法(PET)は、極微量の陽電子放出核種で標識した化合物を投与し、体内から放出される消滅放射線を検出することで、糖代謝等、代謝機能を画像化し、病気の有無や程度を調べる検査法であり、これを実施するためのPET装置が実用化されている。
PETの原理は次のとおりである。陽電子崩壊によって陽電子放出核種から放出された陽電子が周囲の電子と対消滅し、それによって生じる一対の511keVの消滅放射線を、対の放射線検出器で同時計数の原理によって測定する。これにより、核種の存在位置を、対の検出器同士を結ぶ1本の線分(同時計数線)上に特定することができる。患者の頭から足の方向に向かう軸を体軸と定義すると、体軸と垂直に交わる平面上の核種の分布は、その平面上において様々な方向から測定された同時計数線のデータから、2次元画像再構成によって求められる。
よって、初期のPET装置は、視野とする平面上に、視野を囲むように密に検出器をリング状に配置したシングルリング型検出器から構成されていた。その後、多数のシングルリング型検出器を体軸方向に密に配置したマルチリング型検出器の登場によって、2次元の視野が3次元化された。更に1990年代に入ると、検出器リング間においても同時計数測定を行うことによって、感度を大幅に高めた3DモードのPET装置の開発が盛んに行われ、現代に至っている。
一方、PET診断等で発見された癌に対する治療の役割も重要である。外科手術や薬物治療とは異なる方法として、X線やガンマ線などの放射線を患部に照射する放射線治療がある。特に、重粒子線や陽子線を癌の部位に絞って照射する粒子線治療は、優れた治療効果と鋭い患部集中照射特性を併せ持つ方法として、大きな注目を集めている。粒子線の照射方法としては、患部に形状を合わせるようにして照射するビームを広げる従来のボーラス照射に加えて、ペンシルビームを患部形状などに合わせて走査させるスポットスキャニング照射が研究されている。いずれも、別途撮影したX線CT画像などに基づいて綿密に計算された治療計画に従って、照射ビームの方向や線量を精密に制御して行う。
治療計画に正確に従った治療を実現するためには、患者の位置決めの精度が鍵となる。照射野の位置決めはX線画像に基づいて行われることが多いが、一般にX線画像では腫瘍と正常組織のコントラストが十分ではなく、腫瘍そのものを認識した位置あわせは困難である。このような患者セットアップ時の照射野位置ずれに加え、治療計画作成時から腫瘍の大きさが変化したり、呼吸などによって腫瘍位置が変動したりする問題も指摘されている。しかし現状は、治療計画通りの照射が行われたかどうかを正確に確認することは難しく、もし実際の照射野が治療計画からずれてしまったとしても、それを検知することは容易ではない。
上記の問題を解決するために、PETの方法を用いて、照射野をリアルタイムに画像化する方法が注目されている。これは、PET薬剤を投与するのではなく、粒子線ビーム照射やX線照射において、入射核破砕反応、標的核破砕反応や光核反応を通して生じる消滅放射線をPETの原理を用いて画像化する方法である。消滅放射線の発生位置が、照射ビームの線量分布と強い相関性を持つため、治療モニターが可能であるとされる(W. Enghardt、他、”Charged hadron tumour therapymonitoring by means of PET、” Nucl. Instrum. Methods A 525、 pp. 284-288、2004。S. Janek、他、“Development of dose delivery verification by PET imaging of photonuclear reactions following high energy photon therapy,”Phys. Med. Biol.誌、vol. 51 (2006) pp. 5769-5783)。
通常のPET装置ではリング状に検出器を配置するが、治療装置に併せて設置するためには、治療ビームを遮ることのないように、検出器を配置する必要がある。これまでに、平面型の2つのPET検出器を治療装置のベッドを挟むように設置する対向ガンマカメラ型PET装置が検討されてきたが、検出器の隙間により、画像再構成に必要な情報が欠落するために分解能が不均一になってしまうことに加え、装置感度が低下するという決定的な問題点を有していた(P.Crespo、他、“On the detector arrangement for in-beam PET for hadron therapy monitoring,”Phys.Med.Biol.誌、vol.51(2006)pp.2143-2163)。
PET装置の感度を高めるためには、図1(a)に例示する如く、検出器をトンネル状に密に配置してマルチリング型検出器10を構成し、立体角(図において感度最大エリアの中心から検出器リングの体軸方向両端を結ぶ2本の線のなす角度)を広くする必要があるが、長いトンネル状の患者ポートは、検査中の患者6の心理的ストレスを高めると共に、患者への手当ての障害にもなる。これに対して、出願人は、図1(b)に例示する如く、患者6の体軸方向に複数に分割したマルチリング型検出器11、12を離して配置し、物理的に開放された視野領域(開放視野とも称する)を有する開放型PET装置を提案している。開放領域は、図2に示す如く、残存するマルチリング型検出器11、12間の同時計数線から、画像が再構成される。図において、8はベッドである。
これまでに、図1(b)や図2に示すように、検出器を均等幅に2分割した開放型PET装置の設計が行なわれている(Taiga Yamaya,Taku Inaniwa,Shinichi Minohara,Eiji Yoshida,Naoko Inadama,Fumihiko Nishikido,Kengo Shibuya,Chih Fung Lam and Hideo Murayama,“Aproposal of an open PET geometry,”Phy.Med.Biol.,53,pp.757-773,2008.)。開放型PET装置は、検出器に干渉することなくビーム照射を行うことができるため、放射線治療のビームモニタリングに適している。
ここで、図3に示す如く、それぞれの検出器11、12の体軸方向寸法(幅とも称する)をWとして、それらの間の開放領域の体軸方向寸法(隙間とも称する)をGとすると、体軸方向視野は2W+Gとなる。図3(c)に示す如く、開放領域隙間GがWを越えると、画像化できる領域が体軸方向に断続してしまうため、体軸方向に連続した視野を得るための開放領域隙間Gの上限は、図3(b)に示す如く、Wとなる。しかし、開放領域の中央に感度が集中し、開放領域の周辺で感度が極端に低下してしまう。開放領域の両端における極端な感度低下を抑制するためには、図3(a)に示すように、GをWより小さく設定する必要があるが、開放領域隙間及び体軸方向視野が減少してしまう(上記文献参照)。
このように、出願人が先に提案した開放型PET装置では、開放領域の中央に感度が集中し、開放領域の周辺で感度が極端に低下してしまう問題があるため、この局所的な感度低下を抑制するためには、Gに対して相対的にWを拡大する必要があった。また、開放領域隙間及び体軸方向視野の最大値は、それぞれW及び3Wに制限されるため、開放領域隙間や体軸方向視野を更に拡大するためにも、W自体を拡大する必要があった。しかし、いずれにおいても、1つのマルチリング型検出器を構成する検出器数の増加により、装置が高価格化、大型化、複雑化してしまうという問題点を有していた。
開放型ではない従来のPET装置においては、限られた視野の検出器リングで、より広い視野を計測する目的で、ベッドに対しPET装置自体を相対的に移動させながら放射線計測を行う方法が用いられている(特開2007-206090号公報、Kitamura K, Takahashi S, Tanaka A et al: 3D continuous emission and spiral transmission scanning for high-throughput whole-body PET. Conf. Rec. IEEE NSS & MIC. M3-2, 2004)が、開放型PET装置の問題点を解決するものでは無かった。
開放型PET装置は、検出器に干渉することなく検出器リング間の隙間からビーム照射を行うことができるため、放射線治療のビームモニタリングに適している。しかし、ビーム照射中は、検出器の回路系がビーム自体からの影響を受けるなどして検出器の性能が低下したり故障したりする恐れがある。よって、ビーム照射中は、検出器を照射野から数十cmの安全距離以上離しておく必要がある。しかし、先に述べた通り、開放領域隙間Gを拡大するためには、検出器の体軸方向寸法W自体を拡張する必要があるが、装置を大型化することは高価格化及び設置場所の限定につながり望ましくない。立体角が減少して放射線検出感度が低下したりする点も問題である。加えて、ビーム照射中はPETの計測にとってノイズ成分となる即発性のガンマ線が多く発生することが知られており、ビーム照射中のPET計測データは画像化に適さない条件となる場合が多い。よって、照射と計測時間帯が重ならないようにして画像再構成に有効な高S/N比の計測データを得る技術が求められる。放射線照射装置とPET装置を離して同一レール上に並べておき、放射線照射後ベッドを放射線照射装置からPET装置に移動させ計測することも考えられるが、ベッドを移動するのに時間を要し、放射線照射によって生成される核種の半減期は数十秒から20分程度と非常に短いことに加え、血流などの影響によって生体内で核種が移動してしまうことから照射野に近づくのが間に合わない。そこで、他の方法により、できるだけ早く照射野に近づきPETの計測を行う技術の提供が求められる。
本発明は、前記従来の問題点を解決するべくなされたもので、放射線照射の影響による検出器の性能低下や故障を防ぐと共に、短寿命核種の分布を照射野周部まで画像化することを課題とする。
本発明は、複数の検出器リングが体軸方向に互いに対向するように配列されその貫通内部で放射線計測する開放型PET装置と、互いに隣接する前記検出器リング間の空間から放射線照射し該空間の前記内部に照射野を形成可能な放射線照射装置とを備え、前記空間を形成する二つの空間形成検出器リングの少なくとも一方が可動検出器リングで、該可動検出器リングは、放射線照射中は照射野から離れた照射による損傷を避ける待避位置にあり、照射後に待避位置より照射野側で移動しながら放射線計測することで、ビーム影響による検出器の性能低下や故障を防ぐと共に、照射野に接近して放射線計測することで照射野周辺の短寿命核種の分布を画像化する点に特徴がある。
図4に、二つの検出器リングと放射線照射装置の基本的な構成を示す。図4に於いて体軸方向に移動可能な二つの可動検出器リング11と12が対向して設けられており、二つの検出器リングの内径内を貫通する円筒空間洞部で放射線計測を行う。放射線照射装置24は、その二つの検出器リング11と12(空間形成検出器リング)に挟まれて形成される空間から、その空間部且つ体軸周辺部に設定される照射野へ放射線照射を行う。図4(A)は二つの検出器リング11と12が共に待避位置(放射線照射の影響により損傷を受けないだけ照射野から離れた位置を意味し、斜線部の外側)にある状態を示す。図4(B)は放射線照射終了後に二つの検出器リング11と12が共に図4(A)の待避位置から照射野方向に移動し、最も照射野に近づいた状態を示す。
図4における二つの空間形成検出器リングと放射線照射装置の作動順を図5(A)に示すフローチャートで説明する。各検出器リングは待避位置と照射野近傍の間を往復移動する。すなわち、放射線照射時にあらかじめ検出器リングを待避位置へ移動させておく(S1)が、この位置では開放領域の周辺で感度が極端に低下してしまったり、立体角が減少して、照射野を正確に画像化することはできない。そこで放射線照射(S2)が終了すると直ちに検出器リングを待避位置から照射野方向に移動(S3)することで開放領域周辺での感度低下を補って放射線計測を行い(S4)、待避位置に復帰する(S5)。ここで、ステップS4でのPETの計測すなわち画像再構成に有効なデータを得る放射線計測をPET計測と呼ぶ。以下同様である。
その間の各部の作動タイミングを図5(B)に示すタイムチャートで説明する。同タイムチャートは、放射線照射のONとOFF、検出器移動の方向(+:照射野方向の往路、-:照射野と反対方向の復路、0:停止)、PET計測のONとOFFと検出器リング位置を示す。放射線照射が終了すると、待避位置にあった検出器リングが直ちに照射野方向に往路を移動始めると共にPET計測が可能となる。そして、あらかじめ設定された最も照射野に近い位置(P4)まで到達すると移動方向を反転して待避位置方向に復路を移動し、待避位置に到達してPET計測を終了する。次の放射線照射の開始がある場合は上記パターンを繰り返し、その繰り返しを照射計画が終了するまで行う。
以下、検出器リングの構成及び移動パターンについて詳細に説明する。
図6に、検出器リングの構成及び移動方向について、代表的なパターンを例示する。図6(a)は、2分割した検出器リング11、12の両者を可動とし、その間を開放領域とする構成である。図6(b)は、2分割した検出器リング(21、22)、(23、24)を左右に配置し、外側の2つの検出器リング21、24を固定とし、可動とした中央の2つの検出器リング22、23で挟まれる空間を開放領域とする構成である。図6(c)は、3分割した検出器リング(31、32、33)、(34、35、36)を左右に配置し、外側の4つの検出器リング31、32、35、36を固定とし、内側の2つの検出器リング33、34を可動とする構成である。中央の可動検出器リング33、34に挟まれる空間が開放領域となる。
いずれの場合にも、可動検出器リングの移動方向については、図6に示すように、両者を近づけるように移動する方法(隙間を縮小)、一定距離を保ってシフトする方法(平行)、同じ方向に移動しつつ間隙を拡大又は縮小する方法等が考えられ、それぞれ片道または往復の移動をさせたり、片側のみを移動させたりすることができる。
図7は、可動検出器リングの数や分割数を増やした構成例である。
PET計測は、連続的に移動しながら計測する方法と、移動・静止して計測する方法がある。更に、移動速度を変化させたり、移動・静止のステップを細かく繰り返しながら計測したり、ステップ幅を変化させて計測することもできる。
本発明は、ビーム照射中は照射野から検出器を遠ざけるが、ビーム照射終了直後から検出器をできるだけ早く照射野に近づいて立体角を広げてPET計測を行い、さらに近づきながらもPET計測を行ない、より多くのPET計測データを収集することで、短寿命の核種から生じる放射線を効率よく高S/N比で計測することができる。
また、開放領域の局所的な感度低下が抑制されることで、開放空間の中央だけでなく周辺も含めて、開放空間全体の画質を高めることができる。
以下図面を参照して、本発明の実施形態を詳細に説明する。
検出器リングの構成と検出感度分布について説明する。
市販のPET装置を基にして、直径827mmの円周上に576個の検出素子(シンチレータ)が並んだ32本の検出素子リング(幅4.8mm)から構成される検出器リング11、12を、図8に示す如く、左右に離して配置した計算機シミュレーションを行なった。検出器リング幅Wは153.6mmである。
移動方向は、図8(a)に示すように開放領域隙間Gを縮小・拡大する場合(接近シフトと称する)と、図8(b)に示すように開放領域隙間Gを一定に保ったまま左右の検出器リングをSだけシフトする場合(平行シフトと称する)と、図8(c)に示すように片側だけシフトする場合(片側シフトと称する)をテストした。
図9は、接近シフトを試行した結果である。図9(a)は、AからEまでの5通りの移動方法による感度分布の結果であり、図9(b)は開放領域隙間Gの時間変化を図示したものである。AはG=153mmのまま検出器リングを移動させない従来の場合であり、感度分布に極端な低下が見られる。B及びCは、Gを153mmからそれぞれ77mm及び0mmまで一定速度で縮小させた後、再び153mmまで一定速度で拡大した場合であり、従来の場合で見られた感度低下が抑制されることが分かる。Eは、Cにおいて移動速度を2倍にすると共に、G=0mmにおける静止を追加した場合であり、検出器リングの装置中央での滞在時間を増やすことによって、感度特性が更に改善されることを示している。なおDは、Cにおいて移動速度に2次曲線状の緩急をつけた例であり、Eと同様に感度特性が改善されると共に、検出器リングを折り返す際の機械的な負担を低減することも期待できる。
図10は、同じく接近シフトを試行した結果であるが、開放領域隙間Gの初期値を307mmとしている。図10(a)は、AからDまでの4通りの移動方法による感度分布の結果であり、図10(b)は開放領域隙間Gの時間変化を図示したものである。AはG=307mmのまま検出器リングを移動させない従来の場合であり、2箇所にまとまった不感領域が生じている。BからDは、Gを307mmからそれぞれ153mm、77mm及び0mmまで一定速度で縮小させた後、再び307mmまで一定速度で拡大した場合であり、従来の場合で見られた感度低下が抑制されることが分かる。いずれの場合においても、接近シフトでは感度分布の中央のピーク値は変わらない点が特徴的である。
図11は、開放領域隙間G=307mmに固定して、平行シフトを試行した結果である。図11(a)は、AからEまでの5通りの移動方法による感度分布の結果であり、図11(b)は平行シフトのパターンを図示したものである。一定の移動速度にて、往復で検出器リングをシフトさせている。Aは検出器リングを移動させない従来の場合であり、感度分布の極端な低下及び感度ゼロの領域が見られる。BからDは、それぞれ77mm、153mm、230mmだけシフトさせた場合であり、シフト量を増やすほど感度分布のピーク値が分散され、感度分布の一様性が高まることが分かる。Eは307mmまでシフトさせた場合であるが、Dと比べ、むしろ感度のピークが新たに発生してしまうことがわかる。
図12は、片側シフトを試行した結果である。図12(a)は、AからCまでの3通りの移動方法による感度分布の結果であり、図12(b)は左右の検出器リング(検出器1及び検出器2)の検出器中心の体軸上位置の座標を図示したものである。いずれの場合も検出器1は固定、検出器2のみ可動とし、時刻0における隙間はG=153mmである。AからCは、それぞれ隙間を0mm、77mm、115mmまで縮めた場合であり、シフトさせた側(図の右側)の検出器2の感度ピークを分散させることで、開放領域の局所的な感度低下が抑制される。
図13は、片側シフトにおいて、固定する検出器リングを入れ替えて試行した結果である。図13(a)は、AからCまでの3通りの移動方法による感度分布の結果であり、図13(b)は左右の検出器リング(検出器1及び検出器2)の検出器中心の体軸上位置の座標を図示したものである。いずれの場合も、時刻0から10の間では検出器1を固定、検出器2を可動とし、時刻10から時刻20の間では検出器2を固定、検出器1を可動とした。時刻0における隙間はG=153mmとし、AからCは、それぞれ最小の隙間を0mm、77mm、115mmとした場合である。感度ピークが分散されて局所的な感度低下が抑制されており、その効果は左右対称であり、かつシフト量が大きいほど大きいことが分かる。
2分割の検出器リングによる開放型PET装置では、感度分布は、中央ピークに加えて左右に半分程度のピークを持つ。接近シフトは、中央ピークを維持したまま、左右のピークを中央よりにシフトさせることで感度の溝を埋めることから、開放領域に絞って画質を高めようとする方法である。一方、平行シフトは、それぞれの感度ピークを削って感度の溝を埋める効果があることから、開放領域だけでなく体軸視野全体において画質を高める方法である。
次に、開放型PET装置を放射線治療のビームモニタリングに適用した本発明の実施形態について述べる。図14に、リング状の2つの同一の検出器リング(空間形成検出器リング)11、12を、独立したガントリ(60a、60b)として平行に配置し、検出器リング11、12間の空間に、放射線照射装置24を挿入することによって、治療後直ちに同一部位をPETで確認する治療モニタリングを実現した第1実施形態の構成を示す。
具体的には、検出器リング11、12、それぞれを囲うガントリカバー60a、60b、患者6が横たわるベッド8で構成され、それぞれのガントリには車輪62を装着し、共通又は別々のレール64で体軸方向に移動できる機能を持つ。
放射線照射装置24から発生された治療ビーム22は、検出器リング11、12間の空間隙間領域を通り、PETのガントリ(60a、60b)と干渉することなく、患者6の照射野に向けて照射される。
図14に於いて、放射線照射装置24及びPET装置は、照射計画プログラムが入力された照射装置制御システム26及びガントリー位置制御装置68によって制御される。照射装置制御システム26は、放射線の照射位置を設定する照射位置設定手段と、前記放射線の照射位置に照射ビームを照射させる放射線照射手段を含み、ガントリー位置制御装置68は、可動検出器リング位置を設定する位置設定手段を含み、放射線照射手段の照射タイミング情報を基に位置設定手段に可動検出器リングの位置を設定する。
可動検出器リングには、図示しない、サーボモータ、ボールネジアクチュエータ、エンコーダ、前記車輪62及びレール64等で構成される移動手段を備え、移動手段は位置設定手段が設定した設定位置に可動検出器リングを移動させる。
そして、電磁石、コリメータ、散乱体、リッジフィルタ、スリットなどを制御する照射位置設定手段により照射野内の照射位置を設定し、X線やガンマ線を照射する放射線照射手段によりその設定位置に所定形状のビームを照射する。
PET装置はその照射によって患部近傍から生じる放射線を計測し、その収集データを基にPET画像を再構成する。得られたPET画像は、照射装置制御システム26にフィードバックされ、照射野の位置決め、治療効果の確認や治療計画の修正に用いられる。
次に、計測データの処理方法について述べる。患者6の体内の核種7からは、ほぼ180°の角度をなして飛行する一対の消滅放射線7a、7bが四方八方に放出される。検出器リング11及び12において、一対の消滅放射線7a、7bのうちの片側の計測データであるシングルイベントデータSDは、それぞれ共通の同時計数回路40に送られて、検出器リング11と12の間の同時計数ペアの情報であるリストモードデータLDに変換される。
このリストモードデータLDは、データ収集装置42にて記録媒体に保存された後、画像再構成装置44に送られて、画像再構成演算を行なった後、画像表示装置46にて再構成画像が表示される。
検出器リング11、12の移動は、コンソール装置66から指定されたガントリ位置情報に基づき、ガントリ位置制御装置68によって制御される。ガントリ位置情報は、同時計数回路40を通じてリストモードデータLD内に含めるか、あるいは、画像再構成装置44に直接送る等して、画像再構成演算の際に、実際の検出器の位置情報に基づいて計算が行なえるようにする。
検出器リングはビーム照射を常に計測しているが、ビーム照射中はPET計測にとってノイズ成分となる即発性のガンマ線が多く発生することが知られており、ビーム照射中の計測データは画像化に適さない。よって、データ収集システムの負荷を避けるためには、画像再構成に使うデータのみを選択するデータ選択工程を設けた後にデータ収集工程を設けることが望ましいが、データ収集システムの負荷に余裕があれば、データ収集工程の後にデータ選択工程を設けることも可能である。
次に、検出器シフト(接近シフト)を適用した本発明の実施形態について述べる。ビーム照射は、1回で十分な場合や、複数回に分けて行う場合があるが、ここでは2分間の照射を8分間の間隔を開けて実施する場合を想定する。ビーム照射によって生じる消滅放射線をPET装置で検出する際に考慮すべき点は、前述のように以下の2点である。
(1)ビーム照射の際に回路が破壊されるなど検出器が損傷を受ける点。
(2)ビーム照射によって生成される核種の半減期は数十秒から20分と非常に短い点。
そこで、図15に示すように、(a)照射ポート56からビーム照射中は検出器リング11、12を照射野から離しておき、照射が終了したら(b)検出器リング11、12を接近させながらPET計測を行う。照射終了直後から検出器リング11、12を接近させることによって早く照射野へ近づき、短寿命の核種から生じる放射線を逃さず計測することができる。図15(c)は、開放領域幅Gの時間変化として、(a)照射中は検出器リング11、12を40cmまで離すが、(b)照射後は20cmまで接近させた例を示している。上記は、ボーラス照射だけでなく、スポットスキャニング照射においても適用できる。
次に、検出器シフト(平行シフト)を、スポットスキャニング照射に適用した本発明の第2実施形態を図16に示す。図は、さらに照射野を検出器リングと平行な多層域に分割し、層間を順次移動し層毎にスポットビームを走査照射するスポットスキャニング照射を示す。腫瘍の中心など基準位置をm0とし、開放領域の中央がm0と重なるときの、左右の検出器リングの基準位置をそれぞれp0、q0とする。スポットスキャニング照射では、点状の照射野で腫瘍全体が埋まるように、ペンシルビーム照射を短時間でスキャンする。照射後スポットスキャニング照射の層移動を追跡するようにして検出器リングを体軸方向に平行シフトさせることで、短寿命核種の分布を効率よく検出し、腫瘍およびその周辺を精度よく画像化することができる。具体的には、ペンシルビームの照射野の現在位置をm(m=m0+s)とすると、左右の検出器リングをsだけシフトさせて、現在位置がそれぞれp=p0+s、q=q0+sとなるようにする。
図17は、照射全域を照射軸と垂直な多層域に分割し、その層間を順次移動し層毎にスポットビームを走査照射するスポットスキャニング方法を示す。スポットスキャニング照射の照射野の垂直方向の移動に合わせて、検出器リング11、12を照射軸方向に移動(平行シフト)する第3実施形態である。腫瘍の中心など基準垂直位置をm0とし、開放領域の中央がm0に重なるときの、検出器リング11、12の基準垂直位置をp0とする。照射後スポットスキャニング照射の層移動を追跡するように検出器リング11、12を照射軸方向に上下移動させることで、短寿命核種の分布を効率よく検出し、腫瘍およびその周辺を精度よく画像化することができる。具体的には、ペンシルビームの照射野の垂直方向の現在位置をm(m=m0+s)とすると、検出器リング11、12の垂直位置をサーボモータ65によりsだけシフトさせて、現在位置がp=p0+sとなるようにする。なお、第2実施形態及び第3実施形態共に、層毎の照射から一定の時間差となるように層移動を追跡するように検出器リングを制御ことがより好ましい。さらに、放射線照射が層移動する間に一旦照射を止めPET計測を行うと、短寿命核種の分布をより効率よく検出することができる。
また、第2実施形態及び第3実施形態共に、検出器リング11,12の両方が移動する例を示したが、いずれか一方のみが移動するようにすることもできる。
図18に、図16および図17に示した実施形態における、照射野および検出器の移動パターンの一例を示す。図18(a)は、 60秒間かけて照射野を移動させて約100mm幅の患部をカバーする例である。図18(b)は、検出器の移動パターンであり、照射野の移動を追跡するように検出器(リング)を移動させ、照射と並行して計測を行う。しかし照射中は、PET計測にとってノイズ成分となる即発性のガンマ線が多く発生するため、実際には、照射中に周期的または非周期的に存在する短時間の照射合間の計測データからのみ、PET画像を生成することになる。
これに対して図19は、一連の照射が終了した後に、照射野の移動を追跡して検出器を移動させたパターンの例である。照射終了後からPET計測を行うことによって、即発性のガンマ線の影響を受けないデータのみが収集される。照射によって生成される核種は数十秒から数分程度の半減期を持つが、局在的な照射を時間をずらして行った場合、照射終了後の時点では、さまざまな減弱度合いの核種が混在した状態になっている。そこで、一連の照射時間に相当する一定の時間差(図19の例では60秒)を置いて、照射位置を追跡するように検出器を移動させることによって、照射位置に依存した減弱のばらつきを抑制する。
なお、胸部の治療などにおいては、呼吸等による患部の移動を考慮する必要がある。具体的には、例えば呼吸サイクルの呼気状態など比較的安定的な呼吸フェーズにおいて照射する治療計画を作成し、治療においては、胸部や照射部近傍に装着したマーカーなどの動きを検出する呼吸モニタリングを行い、治療計画における呼吸フェーズと一致したときのみ、照射を行う制御を行う。
図20は、呼吸信号の呼気フェーズに応じて、照射をONにする制御を図示したものである。このとき、照射がOFFになっているタイミング(吸気フェーズ)に合わせてPET計測を行うことによって、一連の照射の最中において効率的にPET計測を行うことができる。
図20は、加速器から連続的に照射ビームを取り出せるケースを想定していたが、周期的に断続して照射ビームを取り出すケースもある。図21は後者において、呼吸同期の照射を行う場合である。呼気フェーズと照射クロックが合致したときのみ、照射を行うことができる。よって、図20のケースよりも照射可能なタイミングが限られてしまうが、一方で、PET計測が可能なタイミングは増加し、より多くのPET計測データを収集することができる。なお、治療において考慮すべき体動には、呼吸に限らず、心拍やその他の動きも含まれる。
図22(A)に示すフローチャートにおいて、まず、検出器で放射線を検出すると(S11)、既知の技術により同時計数判定を行う(S12)。同時に、放射線照射部近傍に設けたマーカーの動きを検出分析するなどして得ている呼吸モニタリングデータを参照し(S13)、呼吸フェーズ以外のフェーズを選んで(S14)、同時計数と判定したデータを収集し(S15)、照射が終了すると(S16)と、収集したデータを基に画像再構成をおこない(S17)、画像を出力する(S18)。
呼吸同期照射にPET装置による計測を適用した例はこれまでにない。図22(B)に示すフローチャートは、呼吸同期照射ではない通常の照射においてPET装置による計測を行った従来の方法である。従来の技術では呼吸モニタリングデータを参照する代わりにステップS23において加速器情報を参照していた。本発明に於いては呼吸モニタリングデータを直接参照しているので、より多くの情報が精度良く集取でき、照射システムに影響することなく簡便にPET計測のための同期データを取得できるほか、呼吸フェーズ毎にPET画像再構成を行うなどして、呼吸によるPET画像のぶれを抑制することも可能になる。
図4及び図5(B)に示した基本的な二つの検出器リングと放射線照射装置の作動の別形態である第4実施形態を説明する。
図23に示すタイムチャートは、図5(B)に示したタイムチャートでは検出器リングが往路を移動してあらかじめ設定された最も照射野に近い位置(P4)に到達すると直ちに復路を移動したが、到達後PET計測を終了するまで停止し、終了後復路を待避位置まで移動するようにしたことを示す。
次に、照射後、照射野により早く接近を可能とする図24に示す第5実施形態を説明する。
図25に示すフローチャートは、あらかじめ待避位置に移動させた検出器リング(S31)を、放射線照射(S32)が終了する前に放射線停止時間から逆算して待避位置から照射野方向に往路の移動を始めさせ(S33)、照射が終了した後に安全限界位置(放射線が照射中であればその影響により損傷を受ける最も照射野から遠い位置)を通過させ(S37)、照射野に最も近づいた後復路を移動して再び安全限界位置を通過して待避位置に復帰する(S40)プログラムを示す。
安全のため、図24に示した待避位置(P1)と安全限界位置(P3)のほぼ中間に放射線照射終了確認位置(P2)が設けられており、この放射線照射終了確認位置を検出器リングが往路で通過するときには放射線照射が終了しているようにプログラムされていて、照射終了確認位置の通過(S34)と同時に放射線照射が終了しているかを確認し、終了していると(S35/YES)そのまま通過させるが、終了していない場合(S35/NO)は異常が発生したと判断し、検出器リングを安全限界位置超える前に停止させ(S42)同時に警報(S43)を出力する。このように放射線照射(S32)が終了する前に待避位置から照射野方向に往路の移動を始めさせる(S33)ことにより、図5(B)及び図23で示したタイムチャートのプログラムより安全限界位置をより速い速度で通過できるので、より短時間で照射野に近づくことができる。
次の放射線照射が開始される場合は、検出器リングが復路で安全限界位置を超えた後に開始される。PET計測は、往路で放射線照射確認位置を超えて(S36)、復路で安全限界位置を超える(S39)前までが有効(S38)である。照射計画が終了するまでステップS32からS40までのルーチンを繰り返す(S41)。
安全限界位置は放射線照射の設定条件等により異なり、主に経験や実験により求められる位置であり、例えば放射線照射テスト時に照射野から十分離れた位置に検出器リングを位置させておき、少しずつ照射野方向に近づけながら各部の計測を行うなどして、求めることができる。
なお、ステップ35/NOにおける異常時の対応としては、検出器リングを安全限界位置を超える前に停止させ(S42)た後、所定時間後(例えば1秒後)に再び放射線照射が終了しているかを確認(S35)し、所定回数の確認内に放射線照射が終了しない場合に警報(S43)を出力するようもできる。
また、PET計測は、安全限界位置を超える(S39)前に終了する(S38)かわりに、次の照射(S32)が始まる直前まで継続するように設定してもよい。
図25のフローチャートにおける各部の作動タイミングを図26のタイムチャートに示す。
ビーム照射によって生じる消滅放射線を検出するための放射線治療のビームモニタリング装置で、ビーム照射中は検出器を照射野から遠ざけておくが、ビーム照射終了後に照射野に早く近付いて、あるいは近づけながら放射線計測を行なうことによって、ビーム影響による検出器の性能低下や故障を防ぐと共に、照射野周辺の短寿命核種の分布を精度よく画像化することが可能となる。