一 N—ァセチルダルコサミニル結合単糖誘導体を含有するピロリ菌増 殖抑制剤
技術分野
本発明は、 消化性潰瘍や胃癌等の原因となるピロリ菌の増殖を抑制す 明
る α— N—ァセチルダルコサミニル結合単糖誘導体を含有する増殖抑制 田
剤に関するものである。
背景技術
へリ コパクターピロリ菌(Hel i cobacter pylori)は、慢性胃炎患者の胃 粘膜から分離培養されたグラム陰性のらせん菌である (Marshal l BJ, Warren JR. Lancet 1984; 1 : 1311-1315. )。 このようなピロリ菌は、 慢性 胃炎や消化性潰瘍だけでなく、 胃癌や胃悪性リンパ腫等の重篤な胃疾患 の発症にも密接に関連していることが明らかとなっている (Peek RM Jr, Blaser MJ. Nature. Rev. Cancer 2002; 2 : 28-37. )。
ピロリ菌感染者は世界人口の半数にも達すると言われているが、 全て の感染者が重篤な胃疾患に進展するわけではない。 この事実は、 ピロリ 菌感染から防御する機構が胃粘膜自体に備わることを、 示唆している。
ピロリ菌は、 胃粘膜の表層から分泌される表層粘液内に棲息するが、 粘膜中ないし粘膜深層から分泌される腺粘液中に棲息していない。 この 腺粘液は、 a— N—ァセチルダルコサミニル残基 (a Gl cNAc残基) を末 端に有する 0 -ダリカンの糖鎖を特徴的に含んでいる。 そのため、 この糖 鎖は、 胃粘膜をピロリ菌感染から防御しているという可能性が、 示唆さ れている。
Kawakubo M, et al. Sc i ence 2004; 305: 1003-1006. には、 ピロリ菌 増殖に対する a GlcNAc残基の影響について記載されている。 a GlcNAc 結合を非還元末端に持つコア 2分岐型 0-グリカン (GlcNAc a 1- 4Gal β l-4GlcNAc ]3 l-6 (GlcNAc a 1- 4Gal ]3 1-3) GalNAc-R)が結合した糖タンパク 質類は、 ピロリ菌の増殖や運動能を著しく抑制し、 同時に菌体の伸長や 輪郭の不整 · 断片化等の著しい変化を起こす旨、 記載されている。 これ ら一連の変化は、(x Gl cNAc残基を持たない 0-グリ力ンでは認められない。 また、前記の a GlcNAc残基を有する糖鎖が存在している時のピロリ菌の 形態観察から推察したとおり、 菌体の細胞表層にあるグ!)コシルコレス テロール成分(CGL)が有意に減少しているとも記載されている。
ピロリ菌は、 CGLを必須とするが、 自ら CGLを合成できない (Hirai Y, et al , J. Bacteriol . 1995; 177: 5327 - 5333. )。 このためピロジ菌は、 外界からコレステロールを摂取し、 菌の細胞膜付近でグルコースを付加 して細胞壁を構築すると、 考えられている。 前記の a Gl cNAc残基を有す る糖鎖には、 この細胞壁の構築を阻害する性質があると推察される。 し かし、前記の a GlcNAc結合を非還元末端に持つコア 2分岐型 0 -ダリカン の化学合成や酵素合成は、 多工程を要するうえ、 コス トがかかり実用的 ではない。
また、 特表 2 0 0 3— 5 1 7 0 1 5号公報には、 より小さな
Gal 3GlcNAcまたは Gal /3 3GalNAcを包含する糖鎖のピロリ結合性物質 が開示されているが、 この調製手法は、 煩雑であるため、 大量に調製で きる手法でない。
一方、 現在のピロリ菌感染の治療法は、 これらの糠鎖を用いたもので はなく、 1種類のプロ トンポンプ阻害薬と 2種類の抗生物質との 3剤併 用による除菌が中心である。 3剤併用療法では、 耐性菌が出現して再発 したり、 副作用が発現したりするという問題がある。
そこで、 人体に副作用等の悪影響を与えず、 大量に製造でき、 しかも 調製し易い a Gl cNAc残基を含む糖鎖誘導体を含有するピロリ菌増殖抑 制剤が求められていた。 発明の開示
本発明は前記の課題を解決するためになされたもので、 非常に簡便に かつ大量に製造でき、 特異的にピロリ菌増殖を抑制する化合物を含み安 全で、 耐性菌を生じさせないピロリ菌増殖抑制剤、 この増殖抑制剤を含 む飲食品及び医薬製剤を提供することを目的とする。 '
前記の目的を達成するためになされたピロリ菌増殖抑制剤は、 下記化 学式 ( 1 )
GlcNAcl- α -0-Y · · · ( 1 )
(式 (1 ) 中、 Yは、 炭素数 1〜 2 7の直鎖状、 分岐鎖状又は環状の脂 肪族炭化水素基、 若しくは炭素数 1〜 2 7の直鎖状、 分岐鎖状又は環状 のァシル基を示す)
で表される a— N—ァセチルダルコサミ -ル結合単糖誘導体を含有して いる。 - また、 前記の目的を達成するためになされた飲食品は、 前記のピロリ 菌増殖抑制剤を含んでいる。
また、 前記の目的を達成するためになされた医薬製剤は、 前記のピロ リ菌増殖抑制剤を含んでいる。
このひ一 N—ァセチルダルコサミニル結合単糖誘導体は、 ピロリ菌の 増殖を抑制して、抗菌的に作用するというものである。この糖誘導体は、 抗生物質投与時のような耐性菌出現の恐れがない。 この糖誘導体は、 簡 便に製造でき、 太量の工業的生産に適している。
この糖誘導体を含有するピロリ菌増殖抑制剤は、 その糖誘導体がピロ
リ菌の細胞壁構築を阻害してピロリ菌の増殖を特異的に抑制するので、 抗ピロリ菌の薬効を示す。 また、 ピロリ菌増殖抑制剤は、 この糖誘導体 を単独で使用し、 または抗生物質等と併用することにより、 ピロリ菌を 胃内から完全に除去したり、 慢性胃炎 ·消化性潰瘍 · 胃癌 · 胃悪性リン パ腫等の胃疾患の再発を防止したりすることができる。 さらに、 この糖 誘導体の構造は、 ァグリコン部位が低級乃至高級の飽和又は不飽和のァ ルキル基やコレスタニル基で例示される脂肪族炭化水素基、 ァシル基の ような非毒性の基で構成されるものであるので、ピロリ菌増殖抑制剤は、 人体に対する安全性が極めて高いというものである。
ピロリ菌増殖抑制剤を含有する飲食品は、 胃疾患の症状緩和や予防の ために有用である。 この糠誘導体が強いピロリ菌増殖抑制作用を発現す るので、 飲食品に少量添加するだけで優れた抗ピロリ菌作用を奏する。 また、 ピロリ菌増殖抑制剤を含有する医薬製剤は、 ピロリ菌に由来す る慢性胃炎や胃潰瘍等の胃疾患の治癒のために有用である。 この糖誘導 体が強いピロリ菌増殖抑制作用を発現するので、 この医薬製剤を少量服 用するだけで優れた抗ピロリ菌作用を奏し、 胃疾患の治療 ·症状緩和 · 予防のために有用である。 図面の簡単な説明
図 1は、 本発明を適用する α—N—ァセチルダルコサミニル結合単糖 誘導体 (化合物 1 ) からなるピロリ菌増殖抑制剤の抗ピロリ菌作用を示 すグラフである。
図 2は、 本発明を適用するひ 一 N—ァセチルダルコサミニル結合単糖 誘導体 (化合物 2 ) からなるピロリ菌増殖抑制剤の抗ピロリ菌作用を示 すグラフである。.
発明の実施の形態
以下、 本発明の実施例を詳細に説明するが、 本発明の範囲はこれらの 実施例に限定されるものではない。
本発明のピロリ菌増殖抑制剤に含有される α— Ν—ァセチルダルコサ ミニル結合単糖誘導体は、 前記化学式 ( 1 ) のとおり Gl cNAc l- 0 - Υ で示され、 Yがアルキル基のような脂肪族炭化水素基で示されるもので、 N—ァセ^ルダルコサミニル(Gl cNAc)基が aで結合した構造を持ってい る。
ひ 一N—ァセチルダルコサミニル結合単糖誘導体は、 ピロリ菌に対し て優れた増殖抑制効果を有している。 例えば、 ェチル基を持つ単糖誘導 体(GlcNAc- a -OEt)の 1 . 8 m M以上の濃度の培養液がピロリ菌と共存し ている場合、 ピロリ菌の増殖を 5 0 %以下に抑える。 特に 7 . 2 m M以 上の濃度の培養液では、 増殖を完全に抑える。 この単糖誘導体は、 培養 液中でも、 また胃内でも、 分解しない。 この ct—N—ァセチルダルコサ ミニル結合単糖誘導体(Gl cNAc- - OEt)は、 単糖であることに加えて、 1 段階の合成方法で簡便に得ることができるので、 その大規模な製造が可 能である。 さらにこの単糖誘導体は、 N—ァセチルダルコサミンの脂肪 族炭化水素基置換体であって、その置換部位がエーテル結合であるので、 安定である。 また、 アルキル基のようなこの脂肪族炭化水素基は極めて 安全な残基である。 この単糠誘導体は、 芳香族残基のような人体に有害 な残基がないために、 その安全性が高く飲食品や医薬製剤に含ませるこ とが可能である。
なお、 化学式 ( 1 ) 中の α— N—ァセチルダルコサミニル結合単糖誘 導体の Υ基は、 炭素数 1 〜 2 7の基で、 ェチル基のような直鎖アルキル 基の他、 分岐鎖アルキル基、 ステリン由来基 . ステロイ ド環含有基例え ばコレスタニル基で例示される脂環アルキル基のような脂肪族炭化水素
ό 基であってもよい。 同じく Υ基は、 炭素数 1〜 2 7の基、 例えば炭素数 3の基で、 直鎖ァシル基、 分岐鎖ァシル基、 ステリン由来基含有ァシル 基 . ステロイ ド環含有ァシル基例えばコレスタニル含有ァシル基のよう な脂環ァシル基であってもよい。
コレスタ二ル基を有する単糖誘導体(GlcNAc- α - 0- cholestanol)は、上 記と同様の実験において、 少なく とも 1 8 0 u M以下の濃度で 4 0〜 5 0 %のピロリ菌の増殖抑制効果がある。 この単糖誘導体も、 GlcNAc- o; -OEt と同様の性質を持ち、 GlcNAc- a - OEtよりは多少低いが優れた安全 性が期待できる。
これらの α—N—ァセチルダルコサミエル結合単糖誘導体は、 ピロリ 菌増殖抑制剤として用いられる。 これらの糖誘導体は、 単独で用いられ てもよく、 複数を混合して用いてもよく、 またランソプラゾールゃオメ プラゾールのようなプロ トンポンプ阻害薬の 1種とァモキシシリンおよ ぴクライリス トマイシンのような抗生物質の 2種とを併用してもよい。 このピロリ菌増殖抑制剤は、 飲食品に添加する飲食品添加剤として用 いられる。 飲食品は、 ヨーグルト等の乳製品のような食品、 水やココア やジュースのような飲料品が挙げられる。 飲食品には、 ピロリ菌増殖抑 制剤が 0 . 0 2〜 0 . 2 %添加されることが好ましい。 これら飲食品は、 継続して摂取するものであると、 ピロリ菌増殖抑制効果が高まり、 慢性 胃炎のような胃疾患等の消化性疾患の予防をすることができるので、 一 層好ましい。
このピロリ菌増殖抑制剤は、 医薬製剤に含有させる薬効成分として用 いられる。 医薬製剤は、 錠剤、 カプセル剤、 顆粒剤、 丸剤、 乳剤、 散剤、 シ口ップ剤、液剤、又は注射剤であってもよい。 このような医薬製剤は、 賦形剤、 蒸留水、. 生理食塩水等の製剤成分や、 別な医薬成分を含んでい てもよい。 これら医薬製剤を単回服用、 又は継続服用すると、 ピロリ菌
増殖抑制効果が高まり、 慢性胃炎のような胃疾患等の消化性疾患を治癒 又は症状軽減をすることができるので、 一層好ましい。
以下に、 ひ— N—ァセチルダルコサミニル結合糖誘導体を調製し、 本 発明のピロリ菌増殖抑制剤を調製した例を示す。
(調製例 1 :化学合成による GlcNAco;-◦- Et(l )の調製)
本発明を適用する前記化学式(1) の α— Ν—ァセチルダルコサミニル 結合単糖誘導体の一例であるエトキシ 2- ァセトアミ ド- 2-デォキシ- Ν—ァセチノレー α— D—グノレコサミニド (GICNACCK— 0— Et ( 1 )) につい て詳細に説明する。 この誘導体は、 下記化学反応式のようにして合成さ れる。
N-ァセチル- D -ダルコサミン 3.2864g (14.86mmol)を 200mlナス型フ ラスコに入れ、 HC1ガスを吹き込んだ EtOH (50. Oral)に溶解させ、 塩化力 ルシゥム管を取り付け室温で攪拌させた。 反応の確認は、 薄層クロマト グラフ(TLC) (展開溶媒 クロ口ホルム/メタノール (3:1))で行った。 85 時間後、 濃縮しピンク色の結晶が析出した。 これを少量取り、 薄層クロ マトグラフ(展開溶媒 クロ口ホルム/メタノール (3:1))を行い、ヨウ素 で 12時間呈色させた。 この結晶をカラムクロマトグラフ (展開溶媒 ク ロロホルム/メタノール(3:1)) で精製することにより、 白色結晶状の生 成物(0;体)を収率 75%で得た。生成物の確認は 600MHz-核磁気共鳴スぺク トノレ法(NMR)にて.行った。
Ή-NMR (600 MHz, CDC13); δ 1.06 (3Η, t, J= 7.6 Hz, - CH2CH。), 1.90
(3H, s, CH3CO) , 3.34 (1H, t, J= 9.6 Hz, H-4) , 3.35—3.41 (1H, m, H-5) , 3.57-3.66 (4H, m, H-2, H— 3, Ha— 6, -CHaCHbH3) , 3.72 (1H, dd, J= 1.4 Hz, J= 8.3 Hz, -CHaCHbH3), 3.77 (1H, dd, J= 2.5 Hz, J= 10.3 Hz, Hb-6), 4.73 (1H, d, J= 4.2 Hz, H— 1
13C- NMR (150 MHz, CDC13) ; δ 14.67 (-CH2CH3) , 22.51 (CH3CO) , 54.29 (C-2), 61.21 (-CH2CH3) , 64.58 (C - 6) , 70.69 (C - 5) , 71.77 (C - 3), 72.39 (C— 4), 97.29 (C— 1), 175.08 (CH3CO)
この分光学的データは、 この生成物が GlcNAc a - 0-Et ( 1 )であること を支持する。
(化合物 1 (GlcNAc a - 0- Et( 1 )) の抗ピロリ菌作用の確認)
GlcNAca-0-Etのピロリ菌への効果を以下の手順で確認した。一 8 0 °C でブルセラブロス培養液中に凍結保存されているピロリ菌(ATCC 43504) を、 ゥマ血清 1 0 %入り同培養液中 (3 m L) で 3 5 °C、 C O 2 1 5 % で 4 0時間震盪培養し、 顕微鏡下で菌の動きを観察した後、 非コッコィ ド型であるピロリ菌を得た。 O D 6 0 0を測定し、 ゥマ血清 5 . 5 %入 りミューラーヒントン培養液に菌数 4 X 1 0 7になるように希釈し、 計 3 m Lを 3 5 °C、 C O 2 1 5 %で 2 4時間震盪培養した後顕微鏡で確認 し、 上記化合物の効果を確認するための試験に用いるピロリ菌含有培養 液 (菌濃度; 2 X 1 0 7/m L) とした。 一方、 上記の GlcNAca- 0- Etの 9 0 2. 6 μ Μ〜1 4. 4 mMのゥマ血清 5 %入り ミューラーヒントン 培養液 (ピロリ菌を含有しない) をそれぞれ作製し、 これらをそれぞれ のピロリ菌含有培養液に体積比 1 : 1 (全容積 1 0 0 ;u L、 9 6 w e 1 1プレート上) で添加、 混和した後、 3 5 ° ( 、 C〇2 1 5 %で、 9 6時 間培養した。 一定時間培養後、 増殖した菌の濃度を O D 6 0 0 n mで測 定し、 化合物を添加したものと、 添加していないネガティブコントロー ル (図 1中のコントロール) とを比較し、 増殖抑制効果を見積もった。
尚、 1 Uは 2. 9 ;u m o 1 /m Lである。
GlcNAca-O-Etを用いた結果を図 1に示す。
図 1から明らかな通り、 GlcNAca- 0- Etを 6 2 5 mU/m L (1.8mM) 以上添加した場合、 ピロリ菌の増殖が 5 0 %以上阻害されることが示さ れた。
(調製例 2 :化学合成による GlcNAcひ - 0 - cholestanol(2)の調製) 本発明.を適用する前記化学式(1) の α— N—ァセチルダルコサミニル 結合単糖誘導体の一例である 3- -コレスタニル 2-ァセトアミ ド- 3, 4, 6 トリ—0—ベンジル— 2—デォキシ— _ D _ダルコサミニド (GlcNAc a
-0-cholestanol(2 )) について詳細に説明する。 この誘導体は、 下記化 学反応式のようにして合成される。
(2-1. GlcNAc a - 0- cholestanol中間体(3- —コレスタニル 2-ァセ トアミ ド- 3, 4, 6 トリ -0-ベンジル- 2-デォキシ- α— D—ダルコサミニド (3)の合成)
オイルバス 185°Cで 6時間減圧乾燥させた Yb(0Tf)3(129mg,
0.2080mmol)を 20ml二口フラスコに入れ、 Ar存在下で CH2C12を 0.5ml加 えた。 CH2C12で溶解させたグリコシルァセテ一ト(4) (133.2mg,
0.2496mmol) 3- β -Cholestanol (80.8mg, 0.2080mmol)をカロえ、 メスフ ラスコで 0.1Mに調製した BF3 · Εΐ20(62μ 1、 6· 24 μ mol)を加えた。 室温 で 21時間攪拌し薄層ク口マトグラフ(展開溶媒 Hexane:AcOEt=l:2)で 反応の進行を確認し、 飽和 NaHC03溶液で反応を停止させた。 CH。C12と
AcOEtの混合溶媒で抽出を行い、 得られた有機層を食塩水で洗い Na2S04 で乾燥した。 濾過、 濃縮を行い未精製の結晶を得た。 分取薄層クロマト グラフ(展開溶媒 Benzene: AcOEt=5:l)で精製を行い、 グリコシド体混 合物が収率 70%で得られた(α / 比 = 23/77, α体 ( 3 )の収率 16.1%))。
この分離した α体の 1 Η-丽 Rと 13 C -匪 R (日本電子社製) とによる分光 学的データは、 下記に示すとおりであり、 化合物 3で示した構造である ことを支持している。
'H-NMR (600 MHz, CDC13); δ 1.86 (3H, s, Η- 8), 0.57-1.97 (47Η, m, 3-,8 -cholestanyl), 3.50 (1Η, tt, J= 5.4 Hz, J=10.9Hz, H— ), 3.68 (1H, t, J= 9.5 Hz, H-3), 3.67 (1H, dd, J= 1.9 Hz, J= 10.9 Hz, H - 6a) , 3.72 (1H, t, J= 9.3 Hz, H— 4 ), 3.76 (1H, dd, J= 4.3 Hz, J= 8.8 Hz, H-6b )., 3.89 (1H, ddd, J= 1.9 Hz, J= 4. 1 Hz, J= 9.4Hz, H_5 ), 4.24 (1H, td, J= 3.8 Hz, J= 9.8 Hz, H-2) , 4.91 (1H, d, J= 3.8 Hz, H— 1), 5.32 (1H, d, J= 9.3 Hz, -NHAc ) , 4.50-4.85 (6H, m, -0CH2Ph), 7. 16-7.35 (15H, m, -0CH2Ph ); 13C-NMR (150 MHz, CDC13); δ 23.48 (C— 8 ) ,
12.07-56.44 (3- j3 -cholestanyl) , 52.54 (C - 2 ), 68.74 (C_6 ) , 70.93 (C-5), 76.98 (C - 1, ), 78.50 (C— 4), 80, 82 (C - 3), 96.16 (C- ), 169.62 (C- 7), 70.40-75.03 (~0CH2Ph) , 127.59-128.51
(-0CH2C (CHCH) 2CH) , 138.1Q- 138.57 (-0CH2C (CHCH) 2CH)
(2-2. 3_]3コレスタニル 2 - ァセトアミ ド- 2-デォキシ- N—ァセチ ノレ一 ο;一: Dーグノレコサミニド (GlcNAca— 0一 cholestanol ( 2 )) の合成)
( 3 )の 32. lrag (0.037ramol) を 20ml二又ナス型フラスコに入れ、 THF3ml に溶解し、 水酸化パラジウム 54.7mg (0.39mmol) を加え、 室温にて水素 ガスでパプリングしながら攪拌した。 反応の確認は薄層クロマトグラフ (展開溶媒 クロ.口ホルム/メタノール (5:1))にて行った。 1 5時間後、 水酸化パラジウムを濾別し、シリ力ゲルカラムク口マトグラフ(展開溶媒
クロ口ホルム/メタノール (5:1))により精製し、 白色結晶状の生成物が 得られた。 この生成物を iH-NMRにより解析した結果、 化合物 2で示され る構造を持つことが支持された。
!H-NMR (600 MHz, CDC13); δ 0.68-1.85 (3- ;3 - cholestanyl), 2.15 (3 - β -cholestanyl) , 3.52-3.57 (3- j3 -cholestanyl) , 1.97 (3H, s, CH3C0) ,
3.63-3.68 (4H, m, H - 3, H - 4, H - 5, Ha-6) , 3.78-3.84 (2H, m, H - 2, Hb-6) ,
4.93 (1H, d, J=3.4Hz, H— 1)
(化合物 2 (GlcNAca- 0- cholestanol (2)) の抗ピロリ菌作用の確認) GlcNAca- cholestanolのピロリ菌への効果を以下の手順で確認した。 一 8 0°Cでブルセラプロス培養液中に凍結保存されているピロリ菌
(ATCC 43504)を、 ゥマ血清 1 0 %入り同培養液中 ( 3 mL) で 3 5 °C、 C 02.1 5 %で 4 0時間震盪培養し、 顕微鏡下で菌の動きを観察した後、 非コッコイ ド型であるピロリ菌を得た。 OD 6 0 0を測定し、 ゥマ血清
5. 5 %入り ミ ューラーヒ ントン培養液に菌数 4 X I 0 7になるように 希釈し、 計 3 m Lを 3 5 °C、 C O 2 1 5 %で 2 4時間震盪培養した後顕 微鏡で確認し、 上記化合物の効果を確認するための試験に用いるピロリ 菌含有培養液 (菌濃度 ; 2 X 1 07/mL) とした。 一方、 上記の
GlcNAca- cholestanol の 4 5 μ Μ〜 3 6 0 μ Μのゥマ血清 5 %入り ミュ 一ラーヒン トン培養液 (ピロリ菌を含有しない) をそれぞれ作製し、 こ れらをそれぞれのピロリ菌含有培養液に体積比 1 : 1 (全容積 1 0 0 μ L、 9 6 w e 1 1 プレート上) で添加、 混和した後、 3 5 °C、 C 02 1 5 %で、 9 6時間培養した。 一定時間培養後、 増殖した菌の濃度を OD
6 0 0 n mで測定し、 化合物を添加したものと、 添加していないネガテ イブコン トロール (図 2中のコントロール) とを比較し、 増殖抑制効果 を見積もった。 尚、 1 Uは 2. 9 m o l ZmLである。 尚、
GlcNAca- cholestanolは、培養液に上記の濃度では溶解しにくいために、
溶解しないものについてはあらかじめフィルターで除去してある。 従つ て、 上記の濃度はすべて溶解したものとして表記してあるために、 実際 の濃度は表記の濃度以下である。
GlcNAca-cholestanolを用いた結果を図 2に示す。 最大限溶解した濃 度を Aと記した。 従って、 少なく とも 6 2 . 5 m U / m L ( 1 8 0 μ M ) 以上添加した場合、 ピロリ菌の増殖が約 4 0〜 5 0 %程度(1. 5 日〜 2 日)阻害されることが示された。 産業上の利用可能性
α _ Ν—ァセチルダルコサミニル結合単糖誘導体は、 従来の抗生物質 とは全く異なり、 あらゆるピロリ菌の生育に必須の増殖活動を抑制する という.機序でピロリ菌に対する抗菌作用を示すから、 抗ピロリ菌剤の有 効成分として有用である。
これらの糖誘導体を含有するピロリ菌増殖抑制剤は、 医薬成分やサブ リメントゃ飲食品添加物として有用である。
またピロリ菌増殖抑制剤を含む飲食品は、 機能性飲食品や健康飲食品 として有用である。 ピロリ菌増殖抑制剤を含む医薬製剤は、 ピロリ菌に 由来する慢性胃炎や胃潰瘍等の胃疾患、 消化性疾患の治癒や症状緩和や 予防のために有用である。