明細書
タンパク質合成法、 固相固定化 m R N A及びタンパク質合成装置 技術分野
本発明は、 所望のタンパク質をその機能が発揮されるように正しくフォールデ イングされた状態となるように合成するタンパク質合成法、 この合成法に用レヽる 固相固定化 m R N A及ぴタンパク質合成装置等に関する。 背景技術
1 9 8 8年の Spirinらによる無細胞翻訳系の連続合成 (A. S. Spirin et al. (1988) , Science, 242, 1162- 1164参照) 、 それに続く遠藤らの小麦胚芽系の改 良 (特開 2 0 0 2— 3 3 8 5 9 7号公報等参照) 等により無細胞翻訳系はタンパ ク質を大量に合成する実用的手段になってきた。 最近、 大手製薬企業やベンチヤ 一企業もこの分野に参入し、 様々な応用に向けて研究開発がなされている。
一方、 タンパク質は合成されただけでは機能せず、 正しく畳み込まれる (フォ 一ルディング) ことが不可欠である。 これに関する研究も精力的に行われている 、 技術的にはシャペロンと呼ばれるフォールデイングを促進するタンパク質を 加えるなどでフォールディングの効率を高める方法が一般的である。 無細胞翻訳 系で用いられる材料、 条件等の研究は種々行われているものの (特開平 6— 9 8 7 9 0号公報、 特開平 6— 2 2 5 7 8 3号公報、 特開平 7— 1 9 4号公報、 特開 平 9— 2 9 1号公報、 特開平 7— 1 4 7 9 9 2号公報等参照) 、 現在のところフ オールデイング効率を高める技術的手法は開発されていない。 このため、 現在で は、 所望のタンパク質を合成する場合は、 従来の無細胞翻訳系にてそのタンパク 質を正しくフォールデイングしているものとそうでないものを大量に合成し、 結 果として正しくフォールデイングしたタンパク質を含むタンパク質混合物として 所望のタンパク質を得ている。 つまり、 従来法による場合は、 無駄なタンパク質 を大量に合成しているのが現状である。
上記したように、 無細胞翻訳系は、 各種実験材料として用いるタンパク質の合 成法として画期的なものであつたが、 さらに効率良く、 その機能を発揮するよう にフォールディングされたタンパク質を効率良く合成する方法の開発が望まれて いた。
本発明者らは、 上記課題を解決するために鋭意研究した結果、 mRNAを固相 に固定ィ匕した後に翻訳系を加え合成した場合に、 合成されるタンパク質が効率良 く正しくフォールデイングされ、 合成されたタンパク質の活性が全体として顕著 に上昇することを見出し、 本発明を完成させたものである。 したがって、 本発明 は、 次のようなタンパク質合成方法、 これに用いる固相固定化 mRNA、 タンパ ク質合成装置等を提供する。
(1) 所望のタンパク質をその機能が発揮されるように正しくフォールディン グされた状態となるように合成するタンパク質合成法であって、 そのタンパク質 をコードしている mRNAの 3, 末端をピオチン等で固相に固定してなる固相固 定化 mRNAと、 翻訳系とを接触させることを含む、 タンパク質合成法。
(l a) 所望のタンパク質をその機能が発揮されるように正しくフォールディ ングされた状態となるように合成するタンパク質合成法であって、 そのタンパク 質をコードしている mRNAを固相に固定してなる固相固定化 mRNAと、 翻訳 系とを接触させることを含む、 タンパク質合成法。
(2) 前記翻訳系が無細胞翻訳系である前記請求項 1記載のタンパク質合成法。 (3) 前記固相固定化 mRNAが、 mRNAの 3, 末端にリンカ一を介して固 相に固定ィヒされたものである前記 (1) 又は (2) に記載のタンパク質合成法。
(4) 前記固相固定化 mRNAが、 前記リンカ一に設けた固相結合部位を介し て固相に結合されている、 前記 (1) 〜 (3) のいずれかに記載のタンパク質合 成方法。
(5) 前記リンカ一が、 ポリヌクレオチド、 ポリエチレン、 ポリエチレングリ コール、 ポリスチレン、 ペプチド核酸又はこれらの組合せを主骨格として含むも のである、 前記 (3) 又は (4) に記載のタンパク質合成方法。
(6) 前記固相固定化 mRNAの終止コドンと mRNA固定化位置の距離が 1 Onm以下である、 前記 (1) 〜 (5) のいずれかに記載のタンパク質合成方法。
(7) 前記固相が、 スチレンビーズ、 ガラスビーズ、 ァガロースビーズ、 セフ ァロースビーズ、 磁性体ビーズ、 ガラス基板、 シリコン基板、 プラスチック基板、 金属基板、 ガラス容器、 プラスチック容器及びメンブレンから選択される、 前記 (1) 〜 (6) のいずれかに記載のタンパク質合成方法。
(8) 前記固相の表面が親水性である、 前記 (1) 〜 (7) のいずれかに記載 のタンパク質合成方法。
(9) 所望のタンパク質をその機能が発揮されるように正しくフォールディン グされた状態となるように合成するための固相固定ィ匕 mRNAであって、 所望の タンパク質をコードしている mRNAをリンカーを介して固相に固定してなるこ とを特徴とする、 固相固定化 mRNA。
(10) 前記固相固定化 mRNAが、 mRNAの 3, 末端にリンカ一を介して 固相に固定化されたものである前記 (9) に記載の固相固定化 mRNA。
(11) 前記固相固定化 mRNAが、 前記リンカ一に設けた固相結合部位を介 して固相に結合されている、 前記 (9) 又は (10) に記載の固相固定化 mRN A。
(12) 前記リンカ一が、 ポリヌクレオチド、 ポリエチレン、 ポリエチレング リコール、 ポリスチレン、 ペプチド核酸又はこれらの組合せを主骨格として含む ものである、 前記 (9) 〜 (11) のいずれかに記載の固相固定化 mRNA。
(13) 前記固相固定化 mRNAの終止コドンと mRNA固定化位置の距離が 10nm以下である、 前記 (9) 〜 (12) のいずれかに記載の固相固定化 mR
NA。
(14) 前記固相が、 スチレンビーズ、 ガラスビーズ、 ァガロースビーズ、 セ ファロースビーズ、 磁性体ビーズ、 ガラス基板、 シリコン基板、 プラスチック基 板、 金属基板、 ガラス容器、 プラスチック容器及ぴメンブレンから選択される、 前記 (9) 〜 (13) のいずれかに記載の固相固定ィ匕 mRNA。
(15) 前記固相の表面が親水性である、 前記 (9) 〜 (14) のいずれかに 記載の固相固定ィ匕 m R N A。
(16) 所望のタンパク質をその機能が発揮されるように正しくフォールディ ングされた状態となるように合成するタンパク質合成装置であって、 所望のタン
パク質をコードしている mRNAをリンカーを介して固相に固定してなる、 固相 固定ィヒ mRN Aを含むことを特徴とする、 タンパク質合成装置。 上記構成からなる本発明のタンパク質合成法等は、 例えば、 次のような効果を 奏する。
(1) mRNAの 3'末端を固定化するだけで、 特に高価なシャペロン等のタン パク質を加えずに機能性タンパク質を取得できる。
(2) 原核細胞と真核細胞では利用できるシャペロンが異なるが、 本発明の方法 では翻訳系の種類を問わないという利点がある。
(3) mRNAの 3'末端を固定化するためにエタソヌクレアーゼに対して耐性 を向上させることができる。 図面の簡単な説明
図 1は、 実施例 1で得られたアルデヒド還元酵素 (ALR) の SDS— PAG Eの結果を示す図である。
図 2は、 実施例 1で得られたアルデヒド還元酵素 (ALR) の酵素活性を示す グラフである。
図 3は、 従来の液相タンパク質合成法と本発明の固相タンパク質合成を比較す る概略図である。
図 4、 実施例 2で合成された GFPの DNAコンストラクトの構造を示す概略 図である。
図 5は、 実施例 2で行われた液相合成と固相合成によって得られた G F Pの合 成量を示すグラフである。
図 6は、 実施例 2で行われた液相合成と固相合成によって得られた G F Pの活 性 (蛍光強度) を示すグラフである。
図 7は、 実施例 2で行われた液相合成と固相合成によって得られた G F Pのフ オールディング効率を示すグラフである。
図 8は、 実施例 3で行われた親水性および疎水性の固相を用いた固相合成によ つて得られた GFPの活性 (蛍光強度) を示すグラフである。
図 9は、 実施例 3で行われた親水性おょぴ疎水性の固相を用いた固相合成によ つて得られた A K Rおよぴ液相合成で得られた A K Rの活性を示すグラフである。 図 1 0は、 実施例 4で用いられた、 固定化 G F P— mR NAの終止コドンと固 定化位置の距離 dの関係を示す図である。
図 1 1は、 実施例 4で行われた mR NAの固定化位置と終止コドン間の距離 ( d ) が異なる固定化 mR NAを用いた固相合成で得られた G F Pの活性 (蛍光 強度) を示すグラフである。 発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明をその実施態様に基づいて詳細に説明する。
本発明は、 所望のタンパク質をその機能が発揮されるように正しくフォールデ イングされた状態となるように合成するタンパク質合成法に関する。 本発明のタ ンパク質合成法においては、 所望のタンパク質をコードしている mR NAを固相 に固定してなる固相固定化 mRNAと、 翻訳系とを接触させる^とを含むことを 特徴としている。 本発明は、 所望のタンパク質を翻訳する際にそれをコードする mRNAの一端が固相に固定していた場合に、 合成されるタンパク質のフォール デイングが効率良く行われるという着想に基づいている。 ここで、 「所望のタン パク質」 とは、 合成の対象とする特定のタンパク質のことをいう。 所望のタンパ ク質としては、 特に限定されるものではないが、 例えば、 その機能解析が必要な タンパク質、 その立体構造を解析するためのタンパク質など実験材料として必要 なタンパク質も含むし、 また、 機能が確認済みの有用タンパク質 (例えば、 医薬 として用いられるタンパク質) も含む。
本発明の対象となる有用タンパク質としては、 例えば、 インターフヱロン、 ィ ンターロイキン等のサイ ト力イン;インスリン、 グルカゴン、 セクレチン、 ガス トリン、 コレシストキニン、 ォキシトシン、 バソプレツシン、 成長ホルモン、 甲 状腺刺激ホルモン、 プロラタチン、 黄体形成ホルモン、 濾胞刺激ホルモン、 副腎 . 皮質刺激ホルモン、 甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン、 黄体形成ホルモン放出ホ ルモン、 副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン、 成長ホルモン放出ホルモン、 ソマ トスタチン等のホノレモン;ェンドノレフイン、 エンケフアリン、 ダイノルフィン等
のオビオイドペプチド;フイブリノーゲン、 プロトロンビン等の血液凝固因子; ジヒ ドロ葉酸還元酵素、 アミログリコシダーゼ、 アミラーゼ、 インベルターゼ、 イソアミラーゼ、 プロテアーゼ、 パパイン、 ペプシン、 レンニン、 セルラーゼ、 ぺクチナーゼ、 リパーゼ、 ラクターゼ、 グルコースォキシダーゼ、 リゾチーム、 グルコースイソメラーゼ、 キモトリブシン、 トリプシン、 チトクローム、 セァプ ローゼ、 セラチオペプチダーゼ、 ヒアノレ口ニダーゼ、 ブロメライン、 ゥロキナー ゼ、 へモコアグラーゼ、 サーモライシン、 ゥレアーゼ等の酵素; SSI等のプロテ ァーゼインヒビター; さらに、 ァノレブミン、 グロブリン、 グロビン、 ケラチン、 コラーゲン等のタンパク質や各種ペプチドが挙げられる。 このように、 本発明に よれば、 医薬として有用なタンパク質や、 実験材料として有用なタンパク質を、 そのタンパク質が本来の機能を果たすように正しくフォールデイングされた状態 で効率良く合成することができるという利点がある。 このため、 医薬として用い るタンパク質であれば、 その後に必要な単離、 精製工程を省略あるいは簡略化す ることができるという利点もある。
なお、 本明細書中、 「その機能が発揮されるように正しくフォールデイングさ れた状態」 とは、 例えば、 そのタンパク質が酵素であれば、 その酵素活性を発揮 するような立体構造をとるように折り畳まれた状態を意味する。
(固相固定化 mR NA)
本発明の第 2の態様は、 所望のタンパク質をその機能が発揮されるように正し くフォールデイングされた状態となるように固相タンパク質合成を達成するため に用いられる固相固定化 mR NA (mR NA—固相連結体) に関する。 本発明の 固相固定化 mR NAは、 所望のタンパク質をコードしている mRNAをリンカー を介して固相に固定してなることを特徴とする。 本発明で用いられる固相固定化 mR NAは、 通常、 mRNAの 3, 末端にリンカ一を介して固相に固定されてい る。
本努明の固相固定化 mRNAは、 通常、 このリンカ一に設けられた固相結合部 位を介して固相に固定ィヒざれる。 ここで、 「リンカ一」 とは、 翻訳がされ易いよ うに、 固相と mR NAとに所定の距離を設けるためにあり、 そのような機能を達 成する限り特に限定されないが、 柔軟性があり、 親水性で、 側鎖の少ない単純な
構造を有する骨格を有するものが好ましい。 具体的には、 ここで用いられるリン カーとして、 これらに限定されないが、 ポリヌクレオチド (1本鎖もしくは 2本 鎖 DNA又は RNA含む) 、 ポリエチレンなどのポリアルキレン、 ポリエチレン グリコールなどのポリアルキレングリコール、 ペプチド核酸 (PNA) 、 ポリス チレン等の直鎖状物質又はこれらの組合せを主骨格として含むものが好ましぐ用 いられる。 なお、 本明細書で、 「主骨格として含む」 とは、 例えば、 リンカ一の 骨格全長に対して、 その骨格を 60%以上、 好ましくは 70%以上、 さらに好ま しくは 80 %以上、 最も好ましくは 90 %以上含むことをいう。 上記直鎖上物質 を組み合わせて用いる際は、 適宜、 それらを適当な連結基 (一 NH—、 一CO—、 —0—、 一 NHCO—、 一 CONH—、 一 NHNH―、 一 (CH2) n— [nは例 えば 1〜10、 好ましくは 1〜3] 、 — S—、 一SO—など) で化学的に連結す ることができる。 本発明で用いるリンカ一は、 翻訳効率などを考慮して、 好まし くは 2〜: 100me r、 より好ましくは 5〜50m e r、 さらに好ましくは 10〜30m e rの長さを有する。 なお、 本発明のリンカ一は、 公知の化学合成の手法を用い て作成することができる。
mRNAとリンカ一との連結は、 公知の手法を用いて直接的又は間接的に、 化 学的又は物理的に行うことができる。 例えば、 DNAをリンカ一として用いる場 合は、 mRNAの 3, 末端にその DNAリンカ一の末端と'相補的な配列を設けて おくことにより、 両者を連結することができる。
タンパク質を、 そのタンパク質が本来の機能を果たすように正しくフォールデ イングされた状態で合成するためには、 固相固定化 mRNAの終止コドンと固相 表面への固定化位置の距離は、 好ましくは 20 nm以下、 より好ましぐは 15 η m以下、 さらに好ましくは 10 nm以下、 特に好ましくは 5 n m以下である。
(mRNAの固相固定化) ,
本発明で用いられる固相としては、 生体分子を固定する担体となるものを用い ることができ、 例えば、 スチレンビーズ、 ガラスビーズ、 ァガロースビーズ、 セ ファロースビーズ、 磁性体ビーズ等のビーズ;ガラス基板、 シリコン (石英) 基 板、 プラスチック基板、 金属基板 (例えば、 金箔基板) 等の基板;ガラス容器、 プラスチック容器等の容器;ニトロセルロース、 ポリビニリデンフルオリ ド (P
V D F ) 等の材料からなるメンブレンなどが挙げられる。 本発明において好まし く用いられる固相はビーズである。
固相表面は親水性であるのが、 タンパク質をその機能が発揮されるように正し くフォールディングされた状態で合成するために好ましい。 親水性の固相表面と しては、 その固相に mR NAを固定化してタンパク質を固相合成した場合に、 タ ンパク質が正しくフォールデイングされるも.のであればよく、 例えば、 固相表面 に親水基を有するものが挙げられる。 親水基としては、 例えば、 水酸基、 ァミノ 基、 カルボキシル基、 エポキシ基、 アミ ド基、 スルホン酸ナトリウム、 糖鎖、 な どが挙げられる。 表面が親水性である固相としては、 例えば、 表面に水酸基、 ァ ミノ基、 力ルポキシル基、 エポキシ基などの親水基を有するポリマービーズ (例 えば、 スチレンビーズ、 ァガロースビーズ、 セファロースビーズなど) ;ガラス ビーズなどが挙げられる。
本発明の固相固定ィヒ mR NAは、 mR NAが翻訳系と接触する際に、 その翻訳 の障害とならないように固相に固定されれば、 その固定化手段は特に限定されな い。 通常は、 mR NAに連結するリンカ一に固相結合部位を設け、 その固相結合 部位を、 固相に結合させた 「固相結合部位認識部位」 を介して、 mR NAを固相 に固定する。 固相結合部位は、 mRNAを所望の固相に結合し得るものであれば 特に限定されない。 例えば、 このような固相結合部位として、 特定のポリべプチ ドに特異的に結合する分子 (例えば、 リガンド、 抗体など) が用いられ、 この場 合は、 固相表面には固相結合部位認識部位として、 その分子と結合する特定のポ リぺプチドを結合させておく。 固相結合部位認識部位/固相結合部位の組合せの 例としては、 例えば、 ァビジン及びストレプトァビジン等のビォチン結合タンパ ク質 Zピオチン、 マルトース結合タンパク質 Zマルトース、 Gタンパク質 Zグァ ニンヌクレオチド、 ポリヒスチジンペプチド ニッケルあるいはコバルト等の金 属イオン、 グルタチオン一 S—トランスフェラーゼノグ タチオン、 D NA結合 タンパク質/ D NA、 抗体 抗原分子 (ェピトープ) 、 カルモジユリンノカルモ ジュリン結合ペプチド、 AT P結合タンパク質/ AT P、 あるいはェストラジオ ール受容体タンパク質/エストラジオールなどの、 各種受容体タンパク質 その リガンドなどが挙げられる。 これらの中で、 固相結合部位認識部位/固相結合部
位の組合せとしては、 ァビジン及ぴストレプトァビジンなどのピオチン結合タン パク質/ピオチン、 マルトース結合タンパク質/マルトース、 ポリ ヒスチジンべ プチド/ニッケルあるいはコバルト等の金属イオン、 ダルタチオン一 S—トラン スフヱラーゼ/グルタチオン、 抗体 z抗原分子 (ェピトープ) などが好ましく、 特にストレプトアビジン Zビォチンの組合せが最も好ましい。
上記タンパク質の固相表面への結合は、 公知の方法を用いることができる。 そ のような公知の方法としては、 例えば、 タンニン酸、 ホルマリン、 グノレタルアル デヒ ド、 ピルビックアルデヒ ド、 ビス一ジァゾ化べンジゾン、 トルエン一 2, 4 —ジイソシァネート、 アミノ基、 カルボキシル基、 又は水酸基あるいはアミノ基 などを利用する方法を挙げることができる (P. M. Abdella, P. K. Smith, G. P. Royer, A New Cleavable Reagent for Cross-Linking and Reversible
Immobilization of Proteins, Biochem. Biopnys. Res. Commun. , 87,
734 (1979)等参照) 。 .
なお、 上記組合せは、 固相結合部位と固相結合部位認識部位とを逆転させて用 いることもできる。 上記の固定化手段は、 2つの相互に親和性を有する物質を利 用した固定化方法であるが、 固相がスチレンビース、 スチレン基板などのプラス チック材料であれば、 必要に応じて、 公知の手法を用いてリンカ一の一部を直接 それらの固相に共有結合させることもできる (Qiagen社、 LiquiCMp
Applications Handbook等参照) 。 なお、 本発明においては、 固定手段について は上記の方法に限定されることなく、 当業者に公知である如何なる固定手段をも 利用することができる。
(タンパク質の固相合成)
本発明の方法によれば、 上記のようにして作製された固相固定化 m R NAと、 翻訳系とを接触させることにより (例えば、 該固相固定ィ匕 mR NAに翻訳系を投 入、 あるいは該固相固定ィ匕 mRNAを翻訳系に投入) 、 タンパク質を合成する。 ここで用いることができる翻訳系としては、 無細胞翻訳系又は生細胞翻訳系など が挙げられる。 無細胞翻訳系としては、 原核又は真核生物の抽出物により構成さ れる無細胞翻訳系、 例えば大腸菌、 ゥサギ網状赤血球、 小麦胚芽抽出物などが使 用できる (Lamfrom H, Grunberg-Manago M. Ambiguities of translation of
poly U in the rabbit reticulocyte system. Biochem Biophys Res Co讓 un. 1967 27(1) :1-6等参照) 。 生細胞翻訳系としては、 原核又は真核生物、 例えば 大腸菌の細胞などが使用できる。
本努明においては、 取り扱いの容易さから、 無細胞翻訳系を使用することが好 ましい。 ここで、 「無細胞翻訳系」 とは、 宿主生物の細胞の構造を機械的に破壊 して得た懸濁液に、 翻訳に必要なアミノ酸などの材料を加え、 生細胞を用いない in vitro翻訳系のことをいう。 無細胞翻訳系としては、 既に使用可能なキット が市販されている。 例えば、 小麦胚芽抽出物を含む無細胞翻訳系キットがプロメ ガ社から市販されている。 そのようなキットを用いる場合は、 そのキットに添付 のマニュアルにしたがって、 効率良くタンパク質合成を行うことができる。 また、 無細胞翻訳系については、 種々の文献が発行されており、 本発明の実施に際して もそのような文献を参照することができる (例えば、 上述の文献、 特開平 6— 9 8790号公報、 特開平 6— 225783号公報、 特開平 7— 194号公報、 特 開平 9一 291号公報、 特開平 7— 147992号公報、 特開平 7— 20398 4号公報、 特開 2000— 236896号公報、 特開 2002— 338597号 公報等参照) 。
無細胞翻訳系を用いるタンパク質合成は、 公知のバッチ法であってもよいし、 アミノ酸、 エネルギー源等が連続供給される連続法 (A. S. Spirin et al.
(1988), Science, 242, 1162- 1164参照) であってもよい、 アミノ酸としては、 例えば、 20種類の L型アミノ酸が挙げられ、 エネルギー源としては、 例えば、 アデノシン 5,一三リン酸 (ATP) 、 グアノシン 5, _三リン酸 (GTP) 、 ク レアチンリン酸等が挙げられる。 有用タンパク質を大量合成する場合は、 連続法 が好ましい。 また、 連続法の場合には、 透析法を使用することもできる。 透析法 においては、 透析膜を介してエネルギー源やアミノ酸などの合成基質が透析内液 に供給され、 反応副生物等を透析外液へ排除する。
本発明の方法により製造されたタンパク質は、 タンパク質の単離精製に用いら れる一般的な生化学的方法、 例えば硫酸アンモニゥム沈殿、 ゲルクロマトグラフ ィー、 イオン交換クロマトグラフィー、 ァフィ二ティークロマトグラフィー等を 単独で又は適宜組み合わせて用いることにより、 培養物中 (細胞破砕液、 培養液、
又はそれらの上清中) あるいは無細胞翻訳系の溶液中から単離精製することがで さる。
なお、 本発明の第 3の態様によれば、 所望のタンパク質をその機能が発揮され るように正しくフォールディングされた状態となるように合成するタンパク質合 成装置であって、 所望のタンパク質をコードしている mR NAをリンカ一を介し て固相に固定してなる固相固定化 mR N Aを含むことを特徴とする、 タンパク質 合成装置が提供される。 このような装置は、 例えば、 複数の固相固定化 mR NA を固定した固定基盤と、 その固定化基盤を収容し、 上記のような無細胞翻訳系を 導入して、 翻訳を行う翻訳部、 その翻訳部を所定の温度にコントロールする温度 コント口ール部、 その翻訳部に上記のようなエネルギー源ゃァミノ酸源を供給す るエネルギー源 ·アミノ酸源供給部、 そのエネルギー源 ·ァミノ酸源供給部から 翻訳部にエネルギー源 ·アミノ酸源を供給する供給路、 合成されたタンパク質を 導出するタンパク質導出路などを備えることができる。 実施例
以下、 本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。 なお、 本発明はこれ らの実施例に限定されるものではない。
実験例 1 : mRNA固定化ビーズを用いたアルデヒド還元酵素 (ALR) の合成
( 1 ) In vitro virus (IVV) 用リンカ一 Long- Biotin-ピューロマイシン リン カー (LBPリンカー)の合成
まず、 次の D N Aを BEX社から入手した。
(i) Puro-F-S [5, - (S) -TC (F) - (Spacerl8) - (Spacerl8) - (Spacerl8) - (Spacerl8) - CC-(Puro) -3' ]
ここで、 (S) は 5' -Thiol - Modifier C6、 (Puro) はピューロマイシン CPG、 (Spacerl 8 ) は商品名 「Spacer Phosphoramidite 18」 でィ匕学名は (18—0—
Dimethoxytritylhexaethyleneglycol, 1- [ (2-cyanoethyl) - (N, N-diisopropyl) ] - TDhosphoramidite) で次の化学構造を有する (以上すベて Glen Research社製) 。
DMTO-(CH2)2 - 0-[(CH2)2-O]4_(CH2)2-0
(Pr)2N-P-OCH2CH2CN
(ii) Biotin - loop [ (56mer; 配列番号 1 ) 5' - CCCGG TGCAG CTGTT TCATC (T- B) CGGA AACAG CTGCA CCCCC CGCCG CCCCC CG(T) CCT— 3,]
なお、 (T)は Amino- Modifier C6 dT、 (T_B)は Biotin- dTで、 すべて Glen
Research Search社製である。 アンダーライン部分は制限酵素 PvuIIのサイトを 示す。
L B Pリンカ一は(i) Puro- F- Sと(ii) Biotin- loopを以下の方法に従って架橋 し、 その後精製した。
Puro-F-S lOnmolを、 100 μ 1の 50raMリン酸バッファー (ρΗ7· 0) に溶かし、 lOOmM Tris [2-carboxyethyl] phosphine (TCEP、 Pierce社)を 1 1カロえ (final ImM) 、 室温で 6時間放置し、 Puro-F- S の Thiolを還元する。 架橋反応を行う直 前に 50mMリン酸バッファー (pH7. 0) で平衡化した NAP5 (アマシャム、 17- 0853-02) を用いて TCEPを除いた。
0. 2Mリン酸バッファー (pH7. 0) 100 ^ 1に、 500pmol/ ju l の Biotin— loop 20 μ 1、 lOOmM架橋剤 EMCS (344-05051; 6-Maleimidohexanoic acid N - hydroxysuccinide ester) 、 Dojindo社製) 20 μ 1、 を加え、 良く攪拌した後、 37°Cで 30分放置した後に、 未反応の EMCSを取り除いた。 沈殿を減圧下で乾燥さ せた後、 0. 2Mリン酸バッファー (pH7. 0) 10 μ 1に溶力 し、 上記の還元した Puro-F-S (:〜 lOnmol) を加えて 4°Cでー晚放置した。 サンプルに最終で ½Μにな るように TCEPを加え室温で 15分放置した後、 未反応の Puro- F-Sをェタノール 沈殿で取り除き、 未反応の Biotin- loopを取り除くために以下の条件で HPLC精 製を行った。
カラム; nacalai tesque CS0M0SIL 37918-31 10x250mm C18-AR- 300 (Waters) BufferA; 0. 1M TEM、 Buffer B; 80%ァセトニ リル(超純水で希釈したもの) 流速: 0. 5ml/min (B%: 15-35% 33min)
HPLCの分画は 18%アクリルアミ ドゲル (8M尿素、 62°C) で解析し、 目的の分 画を減圧下で乾燥させた後、 DEPC処理水で溶かして、 lOpmol/At lにした。
(2) T4 RNAリガーゼを用いたライゲーシヨン酵素反応
ライゲーシヨン反応はアルデヒド還元酵素 (ALR) mRNA 1 0 pmol に対し リン カー 1 5 pmolを力 Bえ 2 0 μ 1の Τ4 腿 Ligase buffer (50 mM Tris— HC1, pH7.5; 10 mM MgCl2; 10 raM DTT; 1 mM ATP) でおこなった。 酵素を加える前に ァニーリングするため、 70°Cで 5分間ヒートブロックで温めた後、 1 0分間室温 で冷やし氷上に置いた。 ここに 1 μ 1の T4 Polynucleotide Kinase (10 \/ μ 1 ; Takara) , 1.5μ 1の Τ4 RNA Ligase (40 U/μ 1 ; Takara)と 2 μ 1の
SUPERase R ase inhibitor (20 U/μ 1 ; Ambion)を加え 25°Cで 2時間インキュ ベーションした。
(3) mRNA—リンカ一の精製
上記 (2) において連結されなかったリンカ一を除去するために QIAGEN社の R easyキットを用いて添付のプロトコールに従い、 上記 (2) の最終産物を精 製した。 さらにこの精製した mRNA-リンカ一 (30-50 1) は核酸共沈剤 Edge Biosystemによって添付のプロトコールに従い、 翻訳の铸型に適した濃度に濃縮 した。
(4) mRNA—リンカ一のストレプトアビジン (S t AV) ビーズへの固定 1 pmolの A L R mRNAに対し 4 μ 1の Takara社ストレプトァビジンビーズ
(Magnotex-SA) を 1.5mlのエツペンドルフチューブに取り、 マグネチックスタ ンドで 1分間静置した後、 上清を捨てた。 残ったビーズを添付の 1 XBinding bufferで最初の体積の 1 0倍容量 ( 40 μ 1)で洗浄後、 さらに 0.01% B S Α溶 液で洗浄した。 この際、 マグネチックスタンドを用いてビーズを保持して注意深 く上清を分取した。 ALR mRNA-リンカーと同体積の 2 XBinding buffer を混合し、 ビーズの入ったチューブに加えた。 ビーズを懸濁し、 室温で 1 5分間ゆつく りチ ユーブを回転させてインキュベーションした。 結合後、 ビーズを 1 0倍容の
IX binding bufferで 2回洗浄後、 0.01% BSA溶液で 1回洗浄した。 これを固定 化 mRNAとして翻訳用に用いた。
(5) 翻訳による mRNA—ピューロマイシン一タンパク質連結体 (I VV) の 合成
すべての試薬を混合攪拌し、 遠心後、 氷上に静置した。 ΙΟΟμΙ反応スケール の場合、 以下のように調整した。
一メチォニン Master Mix 2.5μ 1, 一口イシン Master Mix 2.5 1, 1Μ
Potassium acetate 5 1, SUPERase RNase inhibitor 8 μ 1を混合し、 こ Reticlysate 68 μ Iを泡が出ないようにゆつくりピペッティングした (試薬はす ベて Arabion社製) 。
このように混合したものを ALRmRNA固定化ビーズの入ったチューブに移 し、 混合後、 30°Cで 30分間ィンキュベートした。 その後、 1 0 0 mMの MgCl2 と 70 OmMの KC 1を加えて 37°C、 9 0分インキュベートした。 次に、 マグ ネティックスタンドで磁性ビーズをチューブ側面に集め、 注意深く上清を捨てた。 次に 1 X binding bufferで 2回ほど洗浄し、 0.01% BSA溶液で 1回洗浄した。 さ らに、 IX PvuIIバッファーで洗浄した。
(6) IWの S t AVビーズからの切り離しと IWの mRNA部分の切り離し 上記 ( 5 ) で合成したビーズ上で合成された I V Vをビーズから切り離すため に、 ビーズの入ったチューブに最終体積が 2 0 1になるように PvuII 20ュニ ット (東洋紡) と反応バッファー (5 OmM Tris-HCl, pH 7.5) を加え、 37°C で 1時間、 チューブをゆっくり回転させながら反応させた。 次にマグネッグスタ ンドでビーズを側面に集めて、 上清を採取し新しいチューブに移した。
合成されたタンパク質を確認するために mRNA部分を切り離した。 残された 部分である ALRタンパク質一リンカ一は、 リンカ一に F I TC (蛍光分子) 力 S 付加されているため、 SD S— PAGEによって確認できる。 具体的には、 リン カーと mRNAの連結部分に DNA/R Aのハイブリダイズ領域があることから、 上述 の上清に Tth- RNase- H (東洋紡)を 1 0ュニットカ卩え、 40°Cで 20分ィンキュベー
トした。 これを 10% SD S— P AGEで解析し、 その結果を図 1に示す。 図 1中、 レーン 1は、 通常の mRNAを用いて合成した ALR (F I T C蛍光で標 識) 、 レーン 2は mRNA—リンカ一を液相中で合成した場合、 レーン 3は mR NA-リンカーを固相上で合成した場合のタンパク質を示す。
(7) 酵素活性アツセィ
アルデヒド還元酵素 (ALR) は NADPH依存酵素でアルデヒドを含む基質を還元 する際に NADPHを NADPに変換する。 この変化を吸光度や蛍光強度で定量 的に測定した。
今回の ALRの酵素活性は、 360nmの励起波長と 465nmの放射波長を持つ NA DPHの酵素依存的な減少を指標に蛍光分光的に解析した。 蛍光は蛍光プレート リーダー (FluPolo microplate reader, Takara) を用いて 30°Cで測定した。 上 記.(6) の ALR— I VVの S t AVビーズから切り離した上清、 及び、 ビーズ に固定化した ALRmRNA—リンカ一と等量のものをビーズに固定せずに液相 中で合成した。 その後、 これを S t AVビーズに結合し、 上記 (6) に従い切り 離した上清に基質として 10 mMグルクロネート (glucuronate) を加え、 50 mM力リウムリン酸バッファー (pH 6.5) で 100 μ 1にした。 次に 0.2 mM NADPHを加え、 30°Cで 10分間ィンキュベートした後、 マイクロプレートリーダ 一によつて NAD PHの蛍光強度の減少を測定した。 具体的には、 ALRによる NAD PHの減少を 44 Onm の蛍光強度で測定した。 この結果を、 図 2に示す。
(実験結果及び考察)
図 1において、 レーン 2 (mRNA—リンカ一を液相中で合成した場合) と、 レーン 3 (mRNA-リンカ一を固相上で合成した場合) を比較すると、 固相上 で合成した場合より液相中で合成した場合の方が合成効率が高いことが確認され た。 しかし、 酵素活性を検討すると、 図 2に示されるように、 固定化されていな い場合より固定化した場合の方が、 NADPHの減少が大きいことから酵素活性 が高いことがわかった。
実施例 2 : 固定化 mRN Aを用いた緑色蛍光蛋白質 (GFP) の合成
(1) 実験の概要
m R N Aを固相に固定化して合成した場合と液相で合成した場合では、 合成し たタンパク質のフォールデイングまたは機能にどのような違いがあるかを確かめ るために以下のような実験をした。 GFPはフォールデイングの程度が蛍光強度 に比例すると考えられる。 このため GFPをコードした mRNAを準備し、 図 3 のように mRN Aを固相に固定ィ匕した場合と従来通り液相中で合成した場合で合 成されたタンパク質の合成量、 及び蛍光強度による機能発現量を比較した。 (2) DNAコンストラク トの作製
GFPを発現するために、 図 4に示すように、 T7プロモーター領域、 翻訳に 必要な 5' UTR (Omega) 、 また、 3' 側においてはリンカ一領域 (S p c) mRNA固定化のためにピオチン付 DNAと相捕な配列 (Lin- tag) を有するコンス トラタトを合成した。 このために、 下記に示す铸型 DN A (a)、 プライマー (b)及 ぴ (c)を DN A合成機を用いて合成した。
AACAACAACAACATTACATTTTACATTCTACAACTACAAGCCACCATG (配列番号 2 : 117mer)
(b) GATCCCGCGAMTTAATACGACTCACTATAGGG (配列番号 3 : 33mer)
(c) GTTCTTCTCCTTTACTCATGGTGGCTTGTAGTTGTA (配列番号 4 : 36mer) 次いで、 上記铸型 DN A (a)を铸型として、 プライマー(b)及ぴ (c)を用いて、 (1)アニーリング温度 69°C 30秒、 (2)伸長温度 72°C 40秒、 (3)変性温度 95°C 30秒を 30回繰り返し、 という条件で PCRを行った。
また、 GFPの変異体 GFPwt5 (阪大工学部 伊藤洋一郎氏より許可を得て 使用) をコードしたプラスミド pET—2 la (+) (配列番号 5) を铸型とし て下記をプライマー(d)及ぴ(e)を用いて PC Rを行った。
(d) TACAACTACAAGCCACCATGAGTAAAGGAGAAGAACTTTTC (配列番号 6 : 41 mer)
(e) GTCGACGGAGCTCGAATTCTTATTTGTAGAGCTCATCCATGC (配列番号 7 : 42 mer)
PCRは、 (1)アニーリング温度 69°C 30秒、 (2)伸長温度 72°C 40秒、 (3)変性温度 95°C 30秒を 30回繰り返し、 という条件で行つた。
次に、 これによつてできた PCR産物に、 さらに Lin- tag部分の配列をつなげ た。 このため、 上記工程で得た PC R産物を铸型として上記プライマー(d)及び 下記プライマー(f)を用いて PC Rを行った。
(f) TTTCCCCGCCgCCCCccGTCCTGTCGACGGAGCTCGAATTC (配列番号 8 : 41 mer)
PCRは、 (1)アニーリング温度 69°C 30秒、 (2)伸長温度 72°C 40秒、 (3)変性温度 95°C 30秒を 30回繰り返し、 という条件で行つた。
このようにして得られた P C R産物と上記(a)〜(c)を用いて合成した P C R産 物をプライマーなしで 10サイクルほど、 アニーリング温度 55°Cで PCRを行 つた後に、 (b)と (f) を用いてアニーリング温度 69°C 30秒、 伸長温度
72°C 40秒、 変性温度 95°C 30秒を 30回繰り返した。 (3) 転写
上記 (2) で調整した PC R産物をフエノール抽出、 エタノール沈殿で精製し たのち、 RiboMax転写キット(プロメガ社)を用いて添付のプロトコールに従い R N Aを合成した。 + (4) mRNA固定化のためのリンカ一 DNA
上記 (3) で合成した mRNAを 3'末端で固相に結合するために下記のよう にビォチンを含む塩基を導入した DN Aを合成した。
(g) 5' -CCGC (T-B) CGACCCCGCCGCCCCCCGTCCT- 3' (配列番号 9)
ここで、 (T— B) はビォチン付きチミン塩基である。
マイクロチューブに 2 pmolの上記 (2) で調整した G F P-mRNAと 3 pmolの (g) の DNAを加え、 さらにタカラ社の T4腿 リガーゼ添付バッファー 1 0 XT4 RNA リガーゼ バッファー 2μ 1、 0. 1 % B SA 1. 2 μ 1を加え、 さらに滅菌水を加えて 20 μ 1にした。 よく混合後、 80°Cで 5分ィンキュベート してから 30分かけて 10°Cになるまでゆっくり冷却した。 次に T4 ポリヌク
レオチドキ^ "一ゼ (NEB社) 1 μ 1 (10 unit/μ 1 ) と Τ4 R A リガ一 ゼ (40U/ 1) を 1.5 1と 2 μ 1の SUPERRase R ase inhibitor (20 W μ 1 )加え、 25°Cで 1時間ィンキュベートした。 (5) mRNAのストレプトアビジン (S t AV) ビーズへの固定化
翻訳の前に上記 (4) のリンカ一付 mRNAをピオチン一アビジンの結合によ りストレプトアビジン付磁性体ビーズに以下に示すように結合させた。
(i) タカラ社の Magnotex- SAビーズ 20μ 1を 1. 5mlに加えた。
(ii) マグネティックスタンドで 1分間静置させた後、 上清を捨てた。
(iii) 元の体積の 10倍容の 1 Xbinding バッファ一でビーズを洗浄後、 マグ ネティックスタンドを用いて注意深くバッファーを取り除いた。
(iv) 上記(iii)で洗浄したビーズの入ったチューブに上記 (4) の連結物とこ れと同量の 2 Xbindingバッファーを混合して加えた。
(v) ビーズを懸濁させ、 室温で 15分間、 ローターを用いてインキュベーショ ンした。
(vi) マグネティックスタンドで上清を捨てた後、 0. 01 % B S Aを加え た 10倍容の 1 Xbindingバッファーで 2回洗浄。 これを翻訳の铸型として用 いた。 (6) 小麦胚芽無細胞翻訳系を用いた翻訳
無細胞翻訳系として小麦胚芽無細胞翻訳系 (製品番号 L4380; Promega社製) を用いた。 添付のプロトコールに従い以下の要領で翻訳を行った。 尚、 比較のた めに(a)固定化 mRNAで翻訳をした場合、 (b)液相で翻訳した場合の二通りで行つ た。
(a)固定ィ匕 mRNAで翻訳をした場合
アミノ酸 Mixture 4 /ζ 1、 1 M Potassium acetate 5 1、 SUPERase RNase inhibitor 3 μ 1に 25 μ 1の Wheat germ lysateを加えよく混合した上で、 上 記 (5) で調整した mRNA付ビーズに加えた。 最終体積が 50 μ 1になるよう
に滅菌水を加えた。 次に 25°Cで 15分、 ローターで常にビーズが懸濁するよう にして反応させた。
(b)液相で翻訳した場合
組成は上記(a)と同じであるが、 ビーズに固定化した mRNAではなく、 GF Pをコードしたリンカ一なしの mRNAを 2 pmol加え、 ローターを用いずに通 常のインキュベーターで 25°C、 15分反応させた。
(7) GFPの合成量の比較
発現量を調べるために、 上記 (6) の組成に無細胞翻訳系中で合成されたタン パク質の蛍光ラベル剤として 0. 5 1 の FluoroTect (プロメガ社) を加えた。 合成されたサンプル 6 μ 1に 2 X SDSサンプルバッファー (4% SDS, 8Μ尿 素) を 10 μ 1カロえた。 次に GF Ρタンパク質を完全に変性させるために 70°C、 5分インキュベートした。 10%の SDS— PAGEで泳動後、 ラベル化された GFPタンパク質のバンド強度を測定するために、 蛍光ゲルイメージヤー
(Tyohoon, Amersham社) によって読み取り、 添付の画像解析ソフトを用いて強 度を求めた。 その結果を図 5に示す。
図 5に示されるように、 蛍光強度の強度から、 固相上での GFPの合成量は、 液相に比べ 0. 15 (土 0. 05) であることがわかった。 また、 固定ィ匕された mR Aではビーズ同士が非特異的に集合してしまい、 うまく懸濁されないことか ら効率よく翻訳されないことがわかった。 ただし、 これは今回、 GFPの蛍光強 度を測定するために (透明な) 小麦胚芽系の無細胞翻訳系を用いているためで、 ゥサギ網状赤血球を用いるとこのようなことは起こりにくいと考えられる。
(8) GFPの機能発現量の比較
GFPのフォールデイングを確認するために、 上記 (6) で合成したそれぞれ の合成産物の蛍光を蛍光マイクロリーダ一で測定した。 それぞれの G F P翻訳産 物 40 μ 1に対し 1 OmMの Tris - HC1 (pH 8.0) 60 1を加え、 485nmで励 起し、 535nmの放出波長をマイクロプレートリーダーで測定した。 ネガティ
ブコントロールとして mRNAを加えないで反応させたものも測定した。 それら の結果を図 6に示す。
図 6に示されるように、 固相上の GFPの相対強度は、 液相で合成した GFP の 0. 52倍であることが分かった。
(9) GF Pのフォールデイング効率の比較
上記 (7) 及び (8) の結果に基づいて GFPのフォールデイング効率を計算 し、 その結果を図 7に示す。 この結果、 固相上でのタンパク質のフォールディン グ効率は液相に比べ 3. 47倍高いことが分かった。 実施例 3 : 固定ィ匕 mRNAを用いた翻訳におけるビーズ表面の効果
固定化した mRNAを用いて無細胞翻訳系を行う際に合成されたタンパク質の 機能が mRNAを固定化したビーズ表面の性質 (疎水性、 親水性) によって異な るかどうかを調べた。 mRNAの調整、 翻訳、 等の実験条件は実施例 1と同条件 で行った。
(1) 固定ィ匕 mRNAによる固相表面での GFP発現
終止コドンをもった GFPをコードする mRNA 2pmolを 3pmolの mRNA固定 化リンカーと連結した後にリンカ一についたピオチンを介してストレプトァビジ ンコートした磁性体ビーズ (親水性: M- 270、 疎水性: M-280、 いずれも Dynal社 ) に固定化した。 これらを 25°Cで 10分、 40 μΐの小麦胚芽の無細胞翻訳系を 用いて合成する際に、 ローターで回してビーズが沈殿しないように注意した。 反 応後、 5分間、 氷上に静置して反応を停止させる。 次に測定のためサンプルと等 量の R ase-free水を加え、 マイクロプレートリーダー (FluPolo, Takara) で G FPの蛍光強度を測定した。 それらの結果を図 8に示す。
(結果)
図 8に示されるように、 親水性のビーズ上で合成した G F Pの方が疎水性ビーズ に比べ約 1.5倍 G F Pの強度が高まった。 固相上での合成において親水性ビーズ の方が GF Pのフォールディング、 等において有利であることがわかった。
(2) アルデヒ ド還元酵素 (AKR) の固相表面での In vitro virus合成 実施例 1に従い 10 pmolの AKR mRNA (終止コドンなし) を 15 pmolピュ 一口マイシン . リンカ一と連結した後、 磁性体ビーズ (親水性: M - 270, 疎水 性: M-280、 いずれも Dynal社) 1 mg に固定ィ匕した。 次に小麦胚芽無細胞翻訳 系を 2 5分、 30°Cで 80 1の反応系でローターを用いてビーズが沈殿しないよう に反応させた。 次にこの反応液に最終濃度 90 raM MgCl2, 630 πιΜ KC1になるよう にを加え、 さらに 2時間、 37°Cで反応させ mRNA-タンパク質形成を促進させた。 ビーズ上に固定された AKRを R ase T1 によってビーズより切り離し、 実施例 1と同じようにマイクロプレートリーダ一で未反応の NAD P Hの濃度を測定す ることで AKRの酵素活性を測定した (AKRの活性が高いほど NADPH量が 少ない) 。 それらの結果を図 9に示す。
(結果) 図 9に示されるように、 液相合成した場合に比べビーズ上で合成した A KRの方が活性は高いものの、 疎水性ビーズと親水性ビーズで活性を比較したと ころ、 疎水性ビーズ上で合成した AK Rの活性は液相合成に比べ約 2.5倍、 親水 性ビーズ上で合成した AKRの活性は液相合成に比べ約 3.5倍活性が高かった。 実施例 4 :固定化 mRNAの固定化位置と終止コドン間の距離の違いによる合成 タンパク質の活性への影響
表 1に示されるように終止コドンと mRNA固定化位置 (ビーズ表面) からの 長さ (d) が異なるようにデザインした DNAリンカ一を用意した。 固定化 mRN A (GPF-mRNA) の終止コドンと固定化位置の距離 (d) の関係を図 1 0 に示す。
表 1. DNAリンカ一の配列とそれを用いた際の実際の距離 (d.)
距離 id)
配列番号 配列 (5' から 3')
塩 nm
配列番号 10 13 4.1 TAATAAGGGGGCGGCGGGGAAA
配列番号 1 1 32 10.5 GAATTCGAGCTCCGTCGACAGGACGGGGGGCGGCGGGGAAA 配列番号 1 2 70 23.5 GAATTCGAGCTCCGTCGACAAGCTTGCGGCCGCACTCGAGCATTATT
ATTATTATTAAGGACGGGGGGCGGCGGGGAAA
GFPをコードした mR N A 5 pmol と表 1に示される 3種類の DNA リンカーそ れぞれ 7. 5 pmol を実施例 1に従つて連結し、 ストレブトァビジン ·磁性体ビー ズ (Dynal- 270、 Dynal 社) 400 g に固定化した。 そして小麦胚芽無細胞翻訳系 (40 μ 1 ) で 25°C、 9 0分ローターで回転させながら反応させた。 反応液を 5 分間、 氷上に静置させて反応を止めて、 滅菌水で 2倍に希釈し、 マイクロプレー トリーダ一で GFPの蛍光を測定した。 それらの結果を図 1 1に示す。
(結果)
図 1 1に示されるように mR N Aの固定化位置と終止コ ドン間の距離 ( d ) は 短いほど GFPの蛍光強度が強いことがわかる。 具体的には、 dの長さが 23. 5 nm の場合に比べ、 4. 1 nm と短くした場合、 活性が 2倍程度向上することがわかつ た。
このことより、 mRNA の終止コドンは親水性の固相表面近傍に存在した方がタン パク質のホールディングに効果的であることを見出した。 産業上の利用可能性
以上述べたように、 本発明のタンパク質合成法によれば、 所望のタンパク質を その機能が発揮されるように正しくフォールデイングされた状態となるように効 率良く合成することができる。 このような本発明のタンパク質合成法は、 バイオ 医薬品を始めとする有用タンパク質の大量合成に有効である。