ブライン循環型海水淡水化装置のアル力リスケール析出防止方法
技術分野
[0001] 本発明は、ブライン循環型海水淡水化装置におけるアルカリスケールの析出防止 方法に関するものである。
背景技術
[0002] 蒸発法を用いる海水淡水化装置に共通する問題として、蒸発室におけるスケール の発生がある。蒸発室で発生するスケールの最も代表的なものは CaSOを主成分と
4 するスケールであり、その発生を抑制するためには運転温度や塩濃度を一定範囲以 下に保つ等の対策が講じられてきた。
[0003] この CaSOを主成分とするスケールとは別に、アルカリスケールとして総称されるも
4
のがある。カルシウムやマグネシウムの炭酸塩や、水酸ィ匕マグネシウム等を主成分と するスケールであって、液がアルカリ性になると析出すること力もこの呼称がある。
[0004] 蒸発法による海水淡水化装置においては、海水あるいはブライン中に少量含まれ る遊離炭酸 CO力 フラッシュ蒸発による水蒸気の発生に伴って脱ガスされるので、
2
残った液はアルカリ性となり、これらのアルカリスケールが析出して伝熱面などに沈殿 してそれを汚染させる。
[0005] 特に、ブライン循環型海水淡水化装置、たとえば、従来から最も一般的に大容量海 水淡水化装置として使用されてきた多段フラッシュ蒸発法造水装置 (以下「MSF]と 言う。)では濃縮倍率が高いので、後述するように COの脱ガス率が高くなり、この問
2
題が生じやすい。
従来、 MSFではこのアルカリスケールによる伝熱面の汚染を防止するために、重合 リン酸塩などのスケールインヒビターを添加して析出を防止していた。
[0006] 一方、本出願人は、先に出願した PCTZJP2004Z013086において、大気圧付 近にぉ 、て運転しても CaSOを主成分とする硬質スケールの析出を抑制することが
4
でき、ブラインの循環に必要な動力が少なぐかつ、蒸発室が小型で経済性の高い、 単段フラッシュ蒸発法(Single Stage Flash Evaporator)と組み合わせた機械
的蒸気圧縮法(Mechanical Vapor Compression)造水装置(以下「MVC」と言 う。 )に係る発明を提示した。 PCTZJP2004Z013086の内容は、参考として本明 細書に含まれることとする。
[0007] COの脱ガスは高温になるほど激しくなることは、従来より知られているので、たとえ
2
ば、上記の出願で提示した MVCのように、大気圧付近、すなわち、 100° C付近で 全ての蒸発を行なうブライン循環式海水淡水化装置においては、従来の MSFの場 合に比べて、より多量の COが脱ガスされてブラインは大きくアルカリ性に移行し、そ
2
の条件下では、従来 MSFにお!/、て実証されてきたスケールインヒビターのアルカリス ケール抑制効果は期待できな 、。
[0008] 特許文献 1 : PCTZ2004Z013086
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0009] 以上に述べたように、ブライン循環型海水淡水化装置にお!、て、特に、それを従来 より高温域で運転するときに問題となるアルカリスケールの析出を、簡単で、経済的、 かつ、適用容易な手段を用いて、防止することが本発明の課題である。
課題を解決するための手段
[0010] 本発明は、ブライン循環型海水淡水化装置において、フラッシュ蒸発による蒸気の 発生に伴いブラインからの脱ガスにより発生した COの一部を、蒸発室に再循環する
2
アルカリスケールの析出防止方法である。
[0011] この本出願に係るアルカリスケールの析出防止方法の作用 ·効果を説明するに先 立ち、蒸発法を用いる海水淡水化装置における COの脱ガスと、それに伴うアルカリ
2
スケールの析出について説明する。
[0012] 海水中には COが溶解しており、大気中の CO濃度 350ppm (容積)とほぼ平衡の
2 2
状態にある。この空気を仮に水蒸気と置き換え、その水の重量当たり濃度を計算する と 19. 4m mol I kgとなる。一方、海水中の全 COは約 115ppm as CaCOであり、こ
2 3 の COを水の重量当たり濃度に換算すると、 2. 3m mol
2 I kgである。
[0013] 海水中で、 COは下記の数式 1のように解離している力 海水の pHが 8. 2付近で
2
あるので、ほとんどが HCO—として存在する。
[0014] [数 1]
C 02 + H 20 = H 2 C 03 = H + + H C 03-= 2 H + + C 0 3 2 -
[0015] 海水を 100° Cまで加熱すると、気相の平衡濃度は上昇し、 129m mol I kgとなる。
このため、液を蒸発濃縮していくと COは発生する蒸気と共に気相側に移行し、液中
2
の CO (酸)が減少するので pHは上昇する。この pHの上昇は、 COの気相平衡濃
2 2 度を下げる方向に作用する。
[0016] 今、 100° Cでフラッシュ蒸発により海水を 1. 5倍に濃縮する。言い換えれば、最 初にあった海水の 3分の 1が蒸発して気相 (蒸気)となり、 3分の 2が液相 (ブライン)とな るまで濃縮する。その状態で、液相と気相が平衡になるとして各々の CO濃度を求め
2 ると、液相では 1. 22m mol I kgまで低下し、気相でも 4. 45m mol I kgとなる。すな わち、最初に液相に存在した COのうち 64. 7%が発生する蒸気により気相側に脱
2
ガスされ、液中には残りの 35. 3%が残留している。このため、液の pHは上昇し、 25 ° C値 (pHは液の温度により測定値が変化するので、通常 25° Cでの測定値を表 示する。以下「pH(25° C)」と言う。)で約 10. 2となる。
[0017] 下記の数式 2のように、最初液中に存在した CO量に対する気相中に脱ガスされた
2
COの量の比を、 COの脱ガス率 a (%)と定義する。式の中で λは、供給された海
2 2
水が蒸発により濃縮された度合い、すなわち、海水の濃縮倍率である。
前記のケースでは、液中の水の重量当たり CO濃度 1. 22m mol、最初の液中の
2
水の重量当たり CO濃度 2. 3m mol、濃縮倍率え = 1. 5を、数式 2に代入して計算
2
すると脱ガス率 a =64. 7%が得られる。
[0018] [数 2]
気相中に脱ガスされた C〇2 (m mol)
脱ガス率 α (ο/0) = Χ 100
最初液中に存在した C O 2 (m mol)
[0019] CO脱ガス率 αは蒸発温度の影響を受けて図 1に示すように変化する。
2
図に示されたように、温度が 60° 力 110° Cの範囲で、かつ、濃縮倍率えが 1.2 から 2.0の範囲では、いかなる条件下でも脱ガス率 αは 0.4以上であり、従来 MS Fで実測されている 0.3前後の値と大きく異なる。
また、供給する海水量に対する蒸発量の割合を増加させる、すなわち、濃縮倍率 λを上げると、脱ガス率 aも上昇するが、 λ=1.4以上ではあまり変化せず、 aの値 は 0.7程度で飽和している。
[0020] 図 2には、蒸発温度 100° C、濃縮倍率え =1.5の場合における、 CO脱ガス率
2 aと液の pH(25° C)の関係を示す。従来の MSFの循環ブラインの pH (25° C)は 9 .0付近である。
[0021] COの脱ガスによる液のアルカリ性への移行は、炭酸イオン CO 2+や水酸イオン O
2 3
H一の増加によるもので、この増加は、カルシウム塩やマグネシウム塩の沈殿を生じさ せる。これがアルカリスケールで、下記の数式 3にその代表的なものを示す。これらス ケールは伝熱管や器壁に附着して、伝熱や流れの障害になる。
[0022] [数 3]
C a2 + +C03 2 C a C03 炭酸カルシウム
Mg2 + +CO 32 ^Mg C03 炭酸マグネシウム
Mg2 + +OH" =^=^ Mg (OH)2 水酸化マグネシウム
[0023] これらのスケールの析出は、その溶解度に支配される。以下にその様子を Mg(OH)
2を例として説明する。
Mg(OH)の溶解度は、下記の数式 4のイオン積 Kにより支配される。
2
[0024] [数 4] イオン積 K=[Mg2+][OH- ]2
[0025] このイオン積 Kが、温度によって定まる溶解度積 Ksを越えると、過飽和状態になり、 スケールが析出する可能性がある。そこで過飽和度 βを下記の数式 5に定義する。
[0026] [数 5]
過飽和度 )3 = KZK s
[0027] 各スケール成分の過飽和度 を 40° 力 100° Cで計算したものを下記の表 1に 示した。この計算はスケール成分が析出しなレ、と仮定して行なった。
[0028] [表 1] アルカリスケールの過飽和度 β
(*)は他スケール成分との関係も考慮した上で析出する可能性のあるもの。
[0029] この表を見るに当たり注意すべきは、この表に上げたスケール成分はいずれも Ca2 や Mg2+をその構成要素としているので、それぞれのスケール成分の析出は相互に 複雑に関係しており、個々のスケール成分としては過飽和であっても、他のスケール 成分が析出すると、 Ca2+や Mg2+の濃度が変化するので析出しなくなることがある。
[0030] 先に述べた CaSOを主成分とするスケールでは、過飽和度で考えると 100° じに
4
おいて石膏 CaSOが析出する計算になる力 実際に 100° Cでの固相は半水石膏 CaSO - 1/2H Oであり、このために 100° Cでは CaSOが析出しないことは良く
4
知られている。これは、スケールが析出するか否力が、個々のスケールの過飽和度だ けでは説明ができない難解な問題であることを示す一例である。
そこで、表 1では、他のスケール成分との関係も考慮したうえで、スケールとして析 出する可能性があるものに( * )印を付して!/、る。
[0031] 以上に、蒸発法を用いる海水淡水化装置における COの脱ガスと、それに伴うアル
2
カリスケールの析出について説明した。
[0032] さて、数多くの運転実績がある MSFにおいて、その蒸発室の高温段が 100° C付 近で運転されるものがあり、上述したように平衡力も考えるとアルカリスケールの析出 が予想されるが、実際には析出していない。
これは MSFではスケールインヒビターを添カ卩して運転していること、および、蒸発室 に入ったブラインが高温段だけで蒸発するのではなぐ低温段まで循環しつつ順次 濃縮されるので、低温での脱ガス速度が低い分だけ全体としての脱ガス率 αが低く 抑えられ、平衡の半分以下の 30%程度であることのためであると考えられる。
[0033] したがって、蒸発室を 100° Cで運転する場合であっても、脱ガス率 aを従来の M SFと同様に 30%以下にして、スケールインヒビターを使用すればスケールの析出を 防止できると考えられる。
[0034] 次に、スケールの過飽和度 βの面力 この問題を考察する。
前述したように、スケールの析出は過飽和度 j8に支配される。
Mg(OH)の過飽和度 j8の計算式の分子は、数式 4に示したように、 Mg2+イオン濃
2
度と、 OH—イオン濃度の 2乗の積である。このうち、 Mg2+イオン濃度は濃縮倍率えに より支配され、 OH—イオン濃度は CO脱ガス率 αに支配される。 100° Cにおけるこ
2
れらの関係を図 3に示した。
図 3から分力るように、脱ガス率 ocが増加すると、過飽和度 βは急激に増加する。
[0035] 図 4は、図 3に示した Mg(OH)の過飽和度 β、脱ガス率 、および、濃縮倍率 λの
2
関係を、形を変えて示したものである。
従来の MSFの運転条件は、脱ガス率 α = 30%、濃縮倍率え = 1. 5であり、図中 の◎印で表される。この時の過飽和度 j8は 7. 3である。
一方、大気圧付近で運転される MVCの運転条件は、脱ガス率 α = 67. 4%、濃縮 倍率え = 1. 5であるから、図中の X印で表され、過飽和度 j8は 30を大きく越えてい る。
[0036] この過飽和度 βの大きな差力も考えても、脱ガス率 ex = 67. 4%、濃縮倍率 λ = 1 . 5の条件下では、スケールインヒビターを使用してもスケールの析出を防止すること が困難であることが推測される。
また、これを逆に考えれば、脱ガス率 α = 67. 4%、濃縮倍率え = 1. 5となるような
条件下においても、脱ガス率 aを 30%程度に押さえることができれば、過飽和度 j8 も 10以下に収まり、従来同様の方法を使用して、すなわち、スケールインヒビターを 使用して、アルカリスケールの析出を防止できることになる。
[0037] 以上の考察により、従来より高温域で運転するブライン循環型海水淡水化装置に おいてアルカリスケールの析出を防止するには、従来の MSFと同じ条件にする、す なわち、脱ガス率 aを 30%まで下げるのが有力な方法である。
脱ガス率 αを下げる一つの手段として、気相側の CO濃度を増やす方法がある。
2
[0038] 図 5は、温度 100° C、濃縮倍率え = 1. 5における気相中の CO濃度と脱ガス率
2
αの関係を示したものである。図から明らかなように、気相中の CO濃度を増加すれ
2
ば、脱ガス率 αを低くすることができる。
[0039] 一方、ブライン循環型海水淡水化装置の蒸発室の中では、フラッシュ蒸発による蒸 気の発生に伴い脱ガスされた COが常に発生しており、発生した COは外部に排出
2 2
されている。この COを蒸発室に戻して、その気相側の CO濃度を、脱ガス率 α = 3
2 2
0%に相当する平衡濃度まで増やしてやれば、アルカリスケールの析出を防止するこ とがでさる。
すなわち、これが本発明に係る、フラッシュ蒸発による蒸気の発生に伴いブラインか らの脱ガスにより発生した COの一部を蒸発室に再循環するアルカリスケールの析
2
出防止方法である。
[0040] なお、以上の議論は、従来の MFSと同様な条件、すなわち、脱ガス率を 30%相当 にして、従来とほぼ同量のスケールインヒビターを添カ卩してアルカリスケールを防止す ると 、う前提で行なってきた。
しかし、従来の MFSと同じ条件にこだわらずに、本発明を用いて脱ガス率 αを 30
%相当よりもさらに下げてやれば、アルカリスケールの析出防止に必要とするスケー ルインヒビターの添加量を従来より節減することもできる。
[0041] 脱ガスにより発生した COの一部を蒸発室に再循環するには、蒸発室力 排出さ
2
れるベントガスを蒸発室に還流してやればょ 、。
海水淡水化装置の蒸発室では、運転を長時間続けていると脱ガスされた COを主
2 成分とする不活性ガスが次第に堆積して、蒸発室の性能を低下させたり、腐食の原
因になったりするので、ベントラインを設けて不活性ガスと蒸気の混合物を、常に蒸 発室から外部に取り出して 、る。
[0042] ベントラインにはベントコンデンサが設けられ、蒸発室から取り出された混合物に含 まれる蒸気の大半は、そこで凝縮して回収される。 COは凝縮しないので、凝縮しな
2
力つた一部の蒸気と共にベントガスとして排出される。
この COを主成分とするベントガスの一部を蒸発室に戻して再循環させれば、蒸発
2
室内の気相中の CO濃度を増加させることができる。
2
[0043] 後に数字を上げて詳述するように、 COを再循環させる必要量を試算してみると、こ
2
の COを主成分とするベントガスの一部を蒸発室に戻して、従来の MSFと同様にス
2
ケールインヒビターを使用してアルカリスケールの析出を防止できるところまで、蒸発 室内の気相中の CO濃度を増加させることが、設備的な面力 考えても実用上問題
2
なく実施できる。
[0044] なお、以上の説明は、大気圧付近で運転される MVCを例として、温度 100° C、 濃縮倍率え = 1. 5の場合について説明した力 温度が 80° Cや 150° Cになっても 、あるいは、濃縮倍率えが 1. 2や 1. 7になっても、本発明を適用することができること は言うまでもない。その場合には、脱ガスにより発生した COの再循環量がそれら条
2
件に応じて変化するのみである。
[0045] また、以上の説明やそれに用いた図は、塩濃度が標準的な値である 34. 5g I kg の海水をベースとして 、る。中近東諸国の沿岸で多く観察される塩濃度が 42から 45 g / kgの場合や、さらに高い塩濃度、例えば、 60g I kgの場合にも、それぞれの場 合に応じて、スケールインヒビターを用いてアルカリスケールの析出を防止するに必 要な脱ガス率 αを求め、その脱ガス率 αになるように気相中の CO濃度を増加する
2
ことにより、本発明を適用することができる。
[0046] さらに、ここまでは、蒸発室の気相側、すなわち、蒸気側に再循環 COを導入した
2
場合について説明した。しかし、以上に述べたスケールの析出およびその防止方法 は、温度と濃縮倍率えにより変化する COの平衡濃度に係る問題であるから、同量
2
の再循環 COを液相側に導入しても、その脱ガス率 αに対する効果に変わりはなぐ
2
アルカリスケールの析出防止効果にも変わりはない。
[0047] しかも、蒸気室の液相側、あるいは、その液相側にノズル等を通って導びかれる蒸 気室に入る前のブラインの中に再循環 COを導入した場合には、蒸気室内で液相を
2
攪拌する効果をもたらし、それによつて蒸発室内のフラッシュ蒸発をさらに活性化さ せるという付カ卩的な効果をも生み出すことができる。
[0048] なお、 COを再循環するに当たり、再循環される COの圧力が、蒸気室の気相側
2 2
等、それを受け入れる側の圧力に対して十分に高い場合には、単に配管やダクトを 用いて接続すればよいし、十分に高い圧力を有していない場合には、小規模なプロ ァを設ける等して昇圧をはかればよい。いずれの場合も、本発明の範囲内である。 発明の効果
[0049] 以上に述べたように、本発明により、 COの脱ガス率を従来力 MSFで実績がある
2
30%程度に押さえることができるので、ブライン循環型海水淡水化装置において、特 に、それを従来より高温域で運転するときに問題となるアルカリスケールの析出を、従 来同様にスケールインヒビターを使用することにより確実に防止することができる。ま た、脱ガス率をさらに下げてスケールインヒビターの添加量を節減することも可能であ る。
[0050] 一方、海水淡水化装置の蒸気室の中で発生する COを再循環させるだけなので、
2
別途 CO源を準備する必要が無ぐ造水装置の内部で再循環すればよいので極め
2
て容易に実行でき、再循環のための特別な装置や機器など大型の追加設備を必要 としないので簡易、かつ、経済的である。
発明を実施するための最良の形態
[0051] 図 6は、本発明を実施するための最良の形態の一つとして、 MVCへの適用例を示 す。
ここに示された MVCは、上述の出願 PCTZJP2004Z013086〖こ係る、蒸発室と 熱交換手段を別置きにして両者の高さ方向の差 Hを充分採ることにより、 CaSOを主
4 成分とするスケールの発生を防止し、蒸発室を従来のものより高温高圧で、例えば、 大気圧付近で運転可能とした MVCである。
[0052] すなわち、熱交換手段 1で加熱されたブライン 2は、ノズル 3で減圧されて蒸発室 4 に入り、フラッシュ蒸発をして蒸気 5を発生させる。蒸気 5は、ミストセパレータ 6を通過
して含有するミストを減少させた後、機械的蒸気圧縮手段 7に至り、圧縮されて高温 高圧の蒸気 8となって熱交換手段 1に送られ、そこで凝縮伝熱によりブラインを加熱 する。
[0053] 熱交換手段で蒸気 8は凝縮して凝縮水 9となり、排出されるブライン 10と共に、海水 予熱器 11において補給される海水 12を予熱した後、それぞれ系外に移送される。 補給された海水 12は、蒸発室 4でフラッシュ蒸発を終えたブライン 13に混入され、 ブライン循環手段 14により熱交換手段 1に送られ、蒸発室 5の圧力の飽和温度より 3 . 5から 5° C高い温度まで加熱される。したがって、蒸発室 4の圧力が大気圧の場合 には約 105° Cまで加熱されたブライン 2がノズル 3を通って蒸発室に送り込まれる。
[0054] 熱交換手段 1に停滞し蓄積される CO等蒸気以外の気体を外部に排出するために
2
、排出ダクト 15とベントコンデンサ 16が設けられる。ベントコンデンサ 16では、冷却水 17により CO等に搬送される蒸気を凝縮して水 18として分離し、残った COを主体と
2 2 する気体 19を外部に排出する。
排出される気体 19の流れるダクト 20から分岐するダクト 21を設けて、それを蒸発室 4の蒸気側に結び、 CO 22を蒸発室 4の蒸気側に再循環させる。
2
[0055] 機械的蒸気圧縮手段 7では、蒸発室 4で発生した lbar、 100° Cの蒸気 5を圧縮し て昇温し、熱交換手段 1において凝縮伝熱によりブラインを約 105° Cまで加熱する 。そのために機械的蒸気圧縮手段 7の出口では、蒸気 8は約 1. 5barまで昇圧され ており、 lbarの蒸発室内とは 0. 5barの圧力差がある。したがって、ダクト 21の形状 やサイズを適切に選定すれば、この圧力差を利用して、ベントコンデンサ 16出口の ダクト 20と蒸発室 4の蒸気側をダクト 21で結ぶだけで COの再循環を行なうことがで
2
きる。
[0056] 循環する CO量を制御するために、ダクト 21には流量調整弁 23a (または、それに
2
替えて 23b)を設けるのが望ましい。 CO量の制御は、蒸発室 4においてフラッシュ蒸
2
発を終えたブライン 13の CO濃度あるいはアルカリ度を一定に保つように行なわれる
2
[0057] なお、ダクト 20から排出される COを主体とする気体 19は単に廃棄されるのではな
2
ぐ従来の海水淡水化装置と同様に、海水淡水化装置やその関連装置において必
要とされる用途、たとえば、凝縮水 9に添加して飲用に適する味にするなどの用途に 使用される。
[0058] 図 6に示される大気圧付近で運転される MVCの蒸発室と熱交換手段の部分を取り 出して、その部分の COの動きに焦点を当てて簡素化した物量バランスを図 7に示
2
す。
[0059] 図 7において、まず海水 Qf= 100kgを蒸発室に入れ、濃縮倍率え = 1. 5まで濃縮 すると、ブライン 66. 7kgと蒸気 33, 3kgが得られる。その蒸気は熱交換手段 (コンデ ンサ)で凝縮されて生産水 33. 3kgとなる。
[0060] 前述した通り、 COは海水中に 2. 3m mol
2 I kgあるので、 100kgの海水中には 230 m mol存在する。これを脱ガス率 α = 30%で配分すると、蒸気中には 69m mol、ブラ イン中には 162m mol存在することとなる。
[0061] 一方、脱ガス率 α = 30%を保っために蒸気中に必要な C02濃度は、図 5から 23.
9m mol I kgであり、 33. 3kgの蒸気中に 796m mol存在すればよい。
したがって、 796-69 = 727m molの COを蒸気側に加えてやることにより、すなわ
2
ち、これだけの量の COを含むベントガスを蒸発室に再循環することにより、脱ガス率
2
α = 30%を達成できる。
[0062] この再循環すべき COの量を生産水 t当たりに換算してみると、 7. 27m mol
2 1 1=0
. 163Nm3 11となる。この量は、全体の蒸気の流れから見て極めてわずかな量であつ て、容量的に 0. 0126%である。したがって、その再循環のための特別な装置や機 器など大型の追加設備を必要とすることはなぐまた、海水淡水化装置の本来の主 要機器である蒸気圧縮手段 (ブロア等)や熱交換手段 (コンデンサ等)の性能に与える 影響も無視できるものであり、実用上問題なく適用可能な手段であることが分力る。
[0063] 図 8には、本発明を実施するための別の最良の形態として、同じく MVCへの適用 例を示す。図 6との違いのみを説明するために、図 8においては、前述の海水予熱器 など COの再循環に関係のない部分は表示を省略している。また、図 6に示した機器
2
と形状や用途があまり変わらないものは、同じ付番で示した。
[0064] この形態では、ベントコンデンサ 16から排出される気体 19の流れるダクト 20から分 岐するダクト 24を設けて、それを蒸発室 4の液相側、すなわち、ブライン側に再循環
させている。再循環すべき CO量をダクト 24を通して流すのに十分な圧力差がない
2
場合には、ここに示すようにブロア等の昇圧手段 25を設けてやればょ 、。
循環する CO量を制御するために、昇圧手段 25に流量調整用のベーンゃ回転数
2
制御機構を持たせても良いし、図 6の場合と同様に、ダクト 24の途中に流量調整弁を 設けて
ちょい。
[0065] なお、以上の二つの最良の形態は、いずれも蒸発室と熱交換手段を別にした MV Cを基に説明したが、本発明のアルカリスケールの析出抑制方法は、 MVCに限らず 各種のブライン循環型海水淡水化装置において適用可能であることは言うまでもな い。
また、 COを再循環させるのに必要な設備は大が力りなものではなぐまた、新たに
2
CO源を必要としないことから、新設されるプラントのみでなぐアルカリスケールの析
2
出の問題に直面している既設のプラントにも、僅かな改造工事を行なうことにより容易 に適用が可能である。
産業上の利用可能性
[0066] 今後も数多く建設されるブライン循環型海水淡水化装置において、特に、それを従 来より高温域で運転するときに問題となるアルカリスケールの析出を防止することが できることから、装置の安定した運用を確実にすると共に、装置の大容量化や経済性 の向上に寄与することができる。
また、アルカリスケールの析出の問題に直面している既設のブライン循環型海水淡 水化装置にも、改造工事により適用して、問題の解決を図ることができる。
図面の簡単な説明
[0067] [図 l]CO脱ガス率 と温度との関係を示す図である。
2
[図 2]温度 100° C、濃縮倍率え = 1. 5における CO脱ガス率 αと液の pH(25° C)
2
との関係を示す図である。
[図 3]CO脱ガス率 αと Mg(OH)の過飽和度 j8の関係を示す図である。
2 2
[図 4]濃縮倍率 λ、 CO脱ガス率 a、および、 Mg(OH)の過飽和度 βの関係を示す
2 2
図である。
[図 5]温度 100° C、濃縮倍率え = 1. 5における気相中の CO濃度と CO脱ガス率
2 2 αの関係を示す図である。
[図 6]本発明の最良の形態の一つを示す説明図である。
[図 7]図 6の形態において、再循環される COの動きに焦点を当てて簡素化した物量
2
バランスを示す図である。
[図 8]本発明の他の最良の形態を示す説明図である。
符号の説明
1 熱交換手段
2、 10、 13 ブライン
3 ノズル
4 蒸発室
5、 8 蒸気
6 ミストセパレータ
7 機械的蒸気圧縮手段
9、 18 凝縮水
11 海水予熱器
12 海水
14 ブライン循環手段
15、 20、 21、 24 ダクト
16 ベントコンデンサ
17 冷却水
19 ベントされる気体
22 再循環される CO
2
23a, 23b 流量調整弁
25 昇圧手段