多角体タンパク質複合体を用いた検出法
技術分野
本発明は、 多角体病ウィルス由来の多角体タンパク質 (外殻タンパク質) が、 目的タンパク質を結晶状態で取り込んで形成された粒子状のタンパク質複合体で あって、 目的タンパク質が外殻タンパク質で包み込まれた構造のタンパク質複合 明
体を用いた該目的タンパク質に特異的に結合する物質の検出に関する。 書
背景技術
細胞質多角体病ウィルス (cytoplasmic polyhedros i s vi rus, CPV)は、 レオウイ ルス科の Cypovi rus属に分類され、分節した 10から 12本の二本鎖 RNA (dsRNA) .セ グメントを有する球状ウィルスである。 主に昆虫の中腸皮膜組織の円筒細胞で増 殖し、 このウィルスに感染した昆虫は感染細胞の細胞質に多角体と呼ばれるウイ ルス封入体が多数形成されるため、感染後期には中腸が白濁するのが特徴である。 このウィルス封入体である多角体の中には数万個のウィルス粒子が固定されてい る。 CPVは約 200種の昆虫から見出されており、 その RNAの泳動パターンから 12 の型に分類されている。
一方、 バキュロウィルス科に分類される核多角体病ウィルス (nuc lear polyhedros is vi rus, NPV)は核に多角体を作り、 その中には多数の棒状ウィルス 粒子が固定されている。 また同科に属するウィルスで、 顆粒病ウィルス (granulos is vi rus, GV)と呼ばれるウィルスも、 細胞質にカプセルと呼ばれる封 入体を形成するが、 その中には 1つのウィルスのみが固定されている。 これらの バキュロウィルスの封入体も CPVの場合と同様に昆虫によって餌と共に食下され' ると中腸内がアルカリであるために溶解し、 封入体内に固定されていたウィルス が放出されて感染が起こる。
ウィルス封入体である多角体は、 感染後期に合成される多角体タンパク質
(poly edrin)が会合し結晶化した構造物である。 この多角体を昆虫が餌と共に食
下すると消化管の中で、 多角体が溶解し、 大量のウィルスが放出され感染が生じ る。 すなわち、 多角体はウィルスを感染細胞まで運ぶベクタ一としての機能を持 つている。 さらに、 多角体はその中に固定したウィルスを乾燥や紫外線などから 守る 「金庫」 としての役割も果たしている。 特に、 多くの溶媒や界面活性剤によ つても溶解せず、 またさらに細菌による腐敗によっても影響を受けず、 固定され ているウィルスは自身の感染力に関して全く影響を及ぼされない。
これまでの研究で、 カイコ細胞質多角体病ウィルス(Bombyx mori cytoplasmic polyhedros i s vi ruses, BmCPV)は、 10本に分節した二本鎖 RNA (セグメント 1〜10 を S1〜S10と表記する)をゲノムにもち、多角体を構成するタンパク質である多角 体タンパク質 (polyhedrin)は分子量は 27k〜30kであり、 最も小さいセグメント である S10によってコードされていることがわかっている。 また、 BmCPVのウイ ルス粒子は viral caps id prote inl:以下 VP1と表記する (151kDa)、 VP 2 (142kDa)、 VP3 (130kDa)、VP4 (67kDa)、VP5 (33kDa)の 5種類のタンパク質から構成されており、 1251を用いた BmCPVの標識実験から VP 1 と VP3がウィルスの外殻を構成している タンパク質であることが明らかになつている(非特許文献 1参照)。 また、 ゥサギ の網状赤血球を用いた in vi t ro t rans lat ion実験から、 このウィルスの外殻夕 ンパク質である VP1と VP3はそれぞれ S1と S4によってコードされていることが わかっている(非特許文献 2参照)。
—方、 ウィルス粒子が多角体に固定される現象は、 S4にコードされている VP3 と S10にコードされている多角体タンパク質の相互作用によるものであることが 明らかにされている(非特許文献 3参照)。 例えば、 VP3 と緑色蛍光タンパク質
(EGFP)からなる融合タンパク質を BmCPVのポリヘドリンとともに培養細胞中で発 現させると、多角体にこの融合タンパク質が特異的に取り込まれる(非特許文献 3 参照)。 この多角体を、 アルカリ溶液 (pHl l. O)で処理すると多角体が溶解し、 中に 固定されていた融合タンパク質が放出される。 このことは、 BmCPV の外殻タンパ ク質である VP3がウィルス粒子を多角体中に固定させるためのシグナルとしての 役割を担っていることを意味している。 つまり、 VP3 をシグナルとして機能性夕 ンパク質に導入し、 ポリヘドリンとともに培養細胞中で発現すれば、 産生された タンパク質は発現と同時に多角体中に固定される。
本発明者らは、 上述の背景技術に鑑みて、 目的タンパク質の保護、 保存、 安定 性向上に寄与するタンパク質複合体及びその製造方法に関する発明を完成し、 先 に出願した(特許文献 1参照)。上記発明は、 多角体中に高分子性の目的タンパク 質を固定し、 またその固定効率を高めることを目的としていた。 さらに、 多角体 中に目的タンパク質を固定したタンパク質複合体のプロティンチップを開発し
(特許文献 2参照)、無細胞夕ンパク質合成系を利用して多角体中に目的夕ンパク 質を固定したタンパク質複合体の製造する方法をも開発した (特許文献 3参照)。 該多角体中に目的タンパク質を固定したタンパク質複合体のプロテインチップを 用いて化合物の検出が可能であつたが、 検出に約 2時間要し、 より迅速な検出系 の開発が望まれていた。
動物ゃヒ卜が病原体に感染しているかどうかを調べる方法としては、 (1 )病原 体に対する特異的抗体の検索、 (2 )病原体の分離、 (3 )病原体の遺伝子の検出、 があげられる。 しかし現状では、 いずれの方法も大掛かりな装置や熟練した技術 を必要とし、 さらに判定までの日数がかかるなどの問題を抱えていた。 特に感染 症の場合、 どのような疾病が発生しているのか、 あるいはどの範囲にまで蔓延し ているのかを即座に判断し対応しなければならない。 2004年に日本国 京都府丹 波町で発生したようなトリインフルエンザウイルスによる 2 4万羽の鶏の処分で は膨大な経済的損失をもたらし、 現在でも土中に埋められている殺処分された鶏 と鶏ふんの最終処分費 7億 6千万円をどうするか決められていない。
この例を見ても明らかなように、 新興 ·再興感染症と呼ばれる治療方法が確立 されていない感染症のアウトブレークに対応する手段としては、 感染源をできる だけすみやかに検知し、 その移動を極力最小限に抑えることが重要である。 例え ば、 「病原体に対する特異的抗体の検索」 についてはウィルス感染症の場合、 その 多くが中和抗体価の検出によることが多い。 しかし、 中和抗体価を測定する場合 には一般に約 1週間を要していた。 一方、 「病原体の分離」 については病原体の分 離 ·培養を要しており、 この場合にも同様の時間を必要とする。 また 「病原体の 遺伝子の検出」 については、 遺伝子操作や PCR装置などを必要としており、 感染 症が発生している現場や、 病原体が持ち込まれる恐れのある場所での迅速な判定 は不可能である。 このため、 比較的大掛かりな装置を必要としないことや特殊な
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P2005/006223 技術を必要としないことなどから、 感染症の判定の多くがこの 「病原体に対する 特異的抗体の検索」 に頼っているのが現状であるが、 この方法でも判定までに時 間を要するという欠点が見られた。 しかし、 最近ではヒトのインフルエンザのよ うに患者が病院ですぐにィンフルェンザウィルスに感染しているかどうかという 判定ができるようになつてきた。 このように動物の感染症の診断も飼育現場など で迅速な判定ができれば、 上記の昨年の丹波町での大規模な鶏の殺処分などとい つたことは避けられたかも知れない。 また、 トリインフルエンザウイルスの他に も動物や昆虫によって媒介される感染症がいくつも報告されつつあり、 動物の感 染症を迅速にしかも簡便に判定するキットの開発は単に経済的損失を防ぐのみな らず、 人命を保護するということにも直結する。
特許文献 1 国際公開第 TO02/36785号パンフレツト
特許文献 2. 特開 2003-155300号公報
特許文献 3 特開 2003-319778号公報 .
非特許文献 1 Lewando ski et al., J. Vi rol. , 10, pp. 1053-1070, 1972 非特許文献 2 McCrae and Mertens, El sevier B iomed ical s, pp. 35-41, 1983 非特許文献 3 Ikeda et al. , J. Vi rol. , 75, pp. 988-995, 2001 発明の開示
本発明は、 多角体病ウィルス由来の多角体タンパク質 (外殻タンパク質) が、 結晶状態で目的タンパク質を内部または表面に取り込んで固定して形成された粒 子状のタンパク質複合体であって、 目的タンパク質が外殻タンパク質の内部また は表面に固定された構造のタンパク質複合体を用いた該目的タンパク質に特異的 に結合する物質の迅速な検出法および該タンパク質複合体を含む目的タンパク質 に特異的に結合する物質の検出キットの提供を目的とする。
目的のタンパク質を固定した多角体タンパク質複合体は、 結晶状態の目的タン パク質の入手源として、あるいはプロテインチップ等への利用が考えられていた。 本発明者らは、さらに該多角体夕ンパク質複合体の利用について鋭意検討を行い、 該多角体タンパク質複合体が多角体タンパク質中に固定されたタンパク質に特異 的に結合し得る物質の検出に利用できることを見出した。 目的のタンパク質が固
定された多角体タンパク質複合体は、 その内部および表面に目的のタンパク質が 固定されており、 大きさが IOO Iから lO m程度の粒子形状を有しており、 また 比重も水に比べて大きい。 多角体タンパク質複合体には目的のタンパク質が固定 されているので、 固定されたタンパク質に結合する物質と複合体を形成すること ができる。 さらにある程度の大きさを有しているので、 遊離の多角体タンパク質 が多数集合することにより、該集合体を容易に認識することができる。すなわち、 本発明者らは、 被検出物質と被検出物質に特異的に結合し得る物質との結合を利 用して遊離の多角体タンパク質を集合させ得ること、 多角体タンパク質の集合体 の存在を検出することにより、 被検出物質の存在を検出できることを見出した。 本発明者等は、 多角体タンパク質複合体を集合させる方法として、 多角体タンパ ク質複合体と多角体タンパク質に固定されたタンパク質に結合する物質との複合 体を遠心分離操作等により集合させる方法、適当な固相支持体に局在固定化した、 多角体タンパク質に固定されたタンパク質に特異的に結合し得る物質に多角体夕 ンパク質を結合させて、 前記局在固定化部位に多角体タンパク質を集合させる方 法、 および多角体タンパク質複合体と多角体タンパク質複合体に固定されたタン パク質と結合し得る物質を接触混合することにより、 該物質を介して多角体タン パク質複合体が凝集集合させる方法を見出した。 さらに、 適当な検出手段により 該集合体の存在を検出し、すなわち被検出物質の存在を検出しうることを見出し、 本発明を完成させるに至った。 本発明の方法によれば、 十数分以内で被検出物質 の検出が可能であり、 多角体中に目的タンパク質を固定したタンパク質複合体の プロテインチップを用いた検出よりも迅速に検出が可能である。
本発明では、 「迅速にしかも簡便に感染症を判定する」 という目的から、 ELI SA 法の他に凝集法による血清中の特異的抗体の検出法を提供する。 本発明により、 抗原抗体反応を 1 5〜3 0分程度で肉眼で判定できる。
すなわち、 本発明は以下の通りである。
[ 1 ] 検体中の被検出物質を検出する方法であって、 該被検出物質に特異的に結 合し得るタンパク質を多角体に固定化し、 この多角体タンパク質複合体を遊離の 状態で検体と接触させ、 該接触によりできた多角体タンパク質複合体と被検出物 質との複合体の存在を検出することを含む、 被検出物質を検出する方法、
[2] 被検出物質に特異的に結合し得るタンパク質を多角体に固定化し、 この多 角体タンパク質複合体を遊離の状態で検体と接触させ、 被検出物質を介して前記 多角体タンパク質複合体を凝集させ、 該凝集の存在を検出することを含む、 [1] の被検出物質を検出する方法、
[3] 被検出物質に特異的に結合し得るタンパク質を多角体に固定化し、 この多 角体タンパク質複合体を遊離の状態で検体と接触させ、多角体タンパク質複合体- 被検出物質複合体を形成させ、 該多角体タンパク質複合体-被検出物質複合体を、 前記被検出物質に結合する物質であって、 固相支持体に固定化した物質と接触さ せ、 多角体タンパク質複合体-被検出物質-被検出物質と結合する物質の複合体を 形成させ、 該多角体タンパク質複合体-被検出物質-被検出物質と結合する物質の 複合体の存在を検出することを含む、 [ 1 ]の被検出物質を検出する方法、
[4] 多角体タンパク質複合体が、 さらにシグナルを発生し得る標識タンパク質 を固定している、 [1]から [3]のいずれかの被検出物質を検出する方法、
[5] シグナルを発生し得る標識タンパク質がグリーン蛍光タンパク質(GFP)で ある、 [4]の被検出物質を検出する方法、
[ 6 ] 免疫検出法である [ 1 ]から [ 5 ]のいずれかの被検出物質を検出する方法、 [7] 多角体タンパク質複合体に固定されたタンパク質がウィルスまたは細菌に 対する抗体である、 ウィルスまたは細菌感染を検出する、 [6]の被検出物質を検 出する方法、
[8] 多角体タンパク質複合体に固定されたタンパク質がアレルゲンである、 検 体中の抗アレルゲン抗体を検出する、 [6]の被検出物質を検出する方法、
[9] 検体中の被検出物質を検出するキットであって、 該被検出物質に特異的に 結合し得るタンパク質を固定した遊離の多角体タンパク質複合体を含む検出キッ 卜、
[10] 多角体タンパク質複合体が、 さらにシグナルを発生し得る標識タンパク 質を固定している、 [9]の検出キット、
[11] 凝集法を利用した検出キットであり、 さらに凝集反応を行わせるための プレートを含む [9]または [10]の検出キット、
[12] 免疫検出キットである、 [9]から [11]のいずれかの検出キット、
[13] 多角体タンパク質複合体に固定されたタンパク質がウィルスまたは細菌 に対する抗体である、 ウィルスまたは細菌感染を検出する、 [11]または [12] の検出キット、
[14] 多角体タンパク質複合体に固定されたタンパク質がアレルゲンである、 検体中の抗アレルゲン抗体を検出する、 [11]または [12]の検出キット、
[15] 検体中の被検出物質を検出する方法であって、 該被検出物質に特異的に 結合し得るタンパク質を多角体に固定化し、 この多角体タンパク質複合体を担体 に結合させた状態で検体と接触させ、 該接触によりできた多角体タンパク質複合 体と被検出物質との複合体の存在を検出することを含む、 被検出物質を検出する 方法、
[16] 酵素結合抗体法 (EUSA) である [15]の方法、
[17] 多角体タンパク質複合体に固定されたタンパク質がウィルスまたは細菌 に対する抗体である、 ウィルスまたは細菌感染を検出する、 [15]または [16] の被検出物質を検出する方法、
[18] 多角体タンパク質複合体に固定されたタンパク質がアレルゲンである、 検体中の抗アレルゲン抗体を検出する、 [15]または [16]の被検出物質を検出 する方法、 ならびに
[19] 検体中の被検出物質を検出するキッ卜であって、 該被検出物質に特異的 に結合し得るタンパク質を固定した遊離の多角体タンパク質複合体がマイクロ夕 イタ一プレート(or担体)に結合された [9]から [14]のいずれかの検出キット。 本明細書は本願の優先権の基礎である日本国特許出願 2004-087841号の明細書 および または図面に記載される内容を包含する。 図面の簡単な説明
図 1は、 Der f 15遺伝子と VP3遺伝子を連結した転写ュニットを示す図である。 図 2は、 本発明で用いる多角体タンパク質複合体の製造方法を示す図である。 図 3は、 本発明で用いる多角体タンパク質における目的のタンパク質であるダ 二アレルゲン Der f 15タンパク質が固定される態様を示す図である。
図 4は、 ダニアレルゲン自然感作犬血清(以下、 ダニアレルギー罹患ィヌ血清)
を用いた Der f 15固定化多角体凝集反応の結果を示すマイクロ夕イタ一プレート の写真である。
図 5は、 顕微鏡で観察したダニアレルギ一罹患ィヌ血清による Der f 15固定化 多角体の凝集結果 (拡大倍率 100) を示す写真である。
図 6は、 顕微鏡で観察したダニアレルギ一罹患ィヌ血清による Der f 15固定化 多角体の凝集結果 (拡大倍率 200) を示す写真である。
図 7は、 Gateway クローニングシステムを用いた発現ベクターの構築の原理を 示す図である。 .
図 8は、. デスティネーションベクタ一 (組換えィヌジステンパーウィルス構造 タンパク質) の構造を示す図である。 図中、 VP (X)は固定化シグナルを表し、 VP (52) : 137-292bp (52aa)、 VP (Xba): 14-1364 (450aa)、 VP (A) : 14-313bp (lOOaa)、 VP (C) : 137- 292bp (52aa)がある。 VP (X)の左の斜め線の部分は、 6 XHis 配列 (塩 基配列: ATGCGGGGTTCTCATCATCATCATCATCAT (配列番号 1 1 )、アミノ酸配列: Met Arg Gly Ser Hi s Hi s His His Hi s His (配列番号 1 2 ) を表す。 また、 VP (X) の右 の 斜 め 線 部 分 は 、 PreSc iss ion Protease s i te ( 塩 基 配 列 : CTGGAAGTTCTGTTCCAGGGGCCC (配列番号 1 3 )、 アミノ酸配列: Leu Glu Val Leu P e Gin Gly Pro (配列番号 1 4 ) を表し、 横線の部分は At t配列を表し、 ドットの部 分は、 CDV- F,Hを表す。
図 9は、 組換えィヌジステンパーウィルス (CDV)構造タンパク質の発現を示す 写真である。
図 1 0は、 ィヌジステンパーウィルスのタンパク質を含む多角体タンパク質複 合体の作製方法を示す図である。
図 1 1は、 ィヌジステンパ一ウィルスのタンパク質を含む多角体タンパク質複 合体の SDS-PAGEの結果を示す写真である。
図 1 2は、 ィヌジステンパーウィルスのタンパク質を含む多角体タンパク質複 合体を用いた凝集反応の結果を示す写真である。 発明を実施するための最良の形態
以下、 本発明について詳細に説明する。
1 . タンパク質複合体の作製
本発明の検出方法においては、 多角体病ウィルス由来の多角体タンパク質 (外 殻タンパク質) が、 結晶状態で目的タンパク質を内部または表面に固定して形成 された粒子状のタンパク質複合体であって、 目的タンパク質が外殻タンパク質の 内部または表面に固定された構造のタンパク質複合体を利用する。 該タンパク質 複合体をプロテインビーズともいう。
該タンパク質複合体は、国際公開第 W002/36785号パンフレツトに記載の方法で 作製することができる。 該方法の概要は以下の通りである。
本発明の多角体病ウィルス由来の多角体タンパク質 (外殻タンパク質) は、 例 えば昆虫の細胞質多角体病ウィルスコート外殻タンパク質であり、 カイコ細胞質 多角体病ウィルス (Bombyx mori poly edros is vi rus, BmCPV)の外殻タンパク質(細 胞質多角体タンパク質) が例示される。
多角体タンパク質をコードする遺伝子を組込んだウィルスベクターは、 例えば オートグラファ ·キャルホニカ ·核多角体病ウィルス (Autographa Cal i fornia nuc leopolyhedrovirus, AcNPV) 由来のバキュロウィルスべクタ一に公知の方法、 例えば J. Gen. Vi rol. , vol. 74, pp. 99-102, 1993に記載の方法を用いてポリへド リン遺伝子を組込むことによって調製し得る。 ポリヘドリン遺伝子を組込んだ AcNPV由来のバキュロウィルスベクターとして、 AcCP_Hが例示でき、 該ベクタ一 は、 バキュロウィルスのポリへドリンプロモータ一の下流に BmCPVの H系統の多 角体タンパク質遺伝子を組込んである。
他方、 目的のタンパク質をコードする遺伝子を組込んだウィルスベクターは、 例えばカイコ細胞質多角体病ウィルス(BmCPV)の外層構成タンパク質のひとつで ある VP3の C末端または N末端に目的のタンパク質を連結した融合タンパク質を コードするキメラ遺伝子を作製し、次いで前記のオートグラファ ·キャルホニカ - 核多角体病ウィルス由来のバキュロウィルスべクタ一に導入することにより行わ れる。 この場合もバキュロウィルス由来のプロモーターを目的のタンパク質をコ 一ドする遺伝子の上流に連結すればよい。
ポリへドリン遺伝子または目的のタンパク質をコードする遺伝子を組込んだベ クタ一を構築する際には、 プロモーターとして例えば、 バキュロウィルスのポリ
へドリンプロモーターや plOプロモーターを発現させようとする遺伝子の上流に 組み込めばよい。
次に、 このように調製した 2種のウィルスベクタ一を昆虫の組織細胞に同時感 染させる。 同時感染させるには、 この 2種のウィルスベクターを液体状態で同時 に昆虫細胞に接種し、 室温で 0. 5〜3時間放置して、 ウィルスを細胞に十分に吸 着させた後、ウィルス液を除去し、ゥシ胎児血清を含む培養液を添加し、 20〜3(T で 2〜10日間培養すればよい。
次いで、 この培養液から感染細胞を分離し、 冷却しながら磨碎し、 該磨砕液か らろ過または遠心分離により多角体を含む固形分を回収することにより、 目的の タンパク質が固定されたタンパク質複合結晶体が得られる。 このようにして、 結 晶性多角体タンパク質に.対し、質量比 1ゾ10〜 1/1000の範囲で目的のタンパク質微 結晶を含むタンパク質複合結晶体が得られる。
細胞中で製造された目的のタンパク質が固定された多角体タンパク質複合体は、 培養細胞をホモジナイザ一等を用いて磨砕し、 遠心分離を行うことにより回収す ることができる。 該タンパク質複合体は培養細胞の状態で、 またはその磨碎片を 除去した状態で保存し、 被検出物質の検出に用いることができる。 さらに、 精製 が必要な場合は、多角体の比重が 1. 28であることを利用して、 ショ糖密度勾配遠 心分離によりさらに高純度で精製することができる。
なお、 目的タンパク質の固定とは、 目的タンパク質が多角体タンパク質内に完 全に包み込まれた状態と多角体タンパク質外に一部露出して埋入された状態とを 含むことを意味する。 目的タンパク質の固定は、 目的タンパク質の包囲、 包埋ま たは封入ともいう。 また、 複合体の形状としては、 立方体、 直方体、 円柱などの 定形や不定形の粒子状が含まれる。 固定される目的タンパク質の量を増加させた り、 目的タンパク質のサイズを大きくすることができる。 固定される目的タンパ ク質の量を増加させることにより、 例えば検出の際の検出感度を高めることが可 能である。
本発明のタンパク質複合体の製造において、 外殻タンパク質である VP3は、 目 的のタンパク質を多角体タンパク質に固定させる多角体固定シグナルとして作用 する。 この際、 VP3 の限定された領域を多角体固定シグナルとして有していても
よレ^ VP 3の限定された領域は、 N末端から 40までに加え、 41アミノ酸残基から 79アミノ酸残基の範囲である。 また、 N末端から 41アミノ酸残基から 79ァミノ 酸残基の領域とその領域の N末端もしくは C末端に 10アミノ酸残基付加したもの も使用することも可能である。 配列番号 1に BmCPVの S4をコードする遺伝子の DNA配列'、 配列番号 2に S4のアミノ酸配列を示す。
例えば、以下のようにして本発明のタンパク質複合体を製造することができる。 VP3をコードしている S4の 1358番目と 271 1番目に存在する制限酵素サイト Xbal 間を欠落させた W3をコ一ドする遺伝子/目的夕ンパク質(ダニァレルゲン、 Der f 15をコードする遺伝子のキメラ遺伝子(VP3 (XbaI) /Der f 15)を作製する。次に、 Autographa cal i forn icanuc l eopo lyliedrovi rus (AcNPV) 由来のノ キュロウィゾレ スベクターに導入し、 この V (Xbal)と Der f 15 の融合タンパク質を昆虫細胞 Spodop t eraf rugiperda由来の IPLB- Sf 21- AE (Sf 21)で発現させる。その際、 BmCPV の立方体の多角体を形成するために、 ポリへドリン遺伝子を組み込んだ組み換え AcNPV (AcCP-H) (J. Gen. Vi rol. 74, 99-102, 1993) も同時に Sf21細胞に接種 する。 2つのウィルスに感染した Sf 21細胞から多角体を精製することができる。 このように、 目的のタンパク質の N末端または C末端に細胞質多角体病ウィル スの外層を構成するタンパク質である VP3のアミノ酸配列を導入し、 この VP3と 目的のタンパク質の融合タンパク質をバキュロウィルスベクターで発現させるが、 この際、 細胞質多角体病ウィルスの多角体を発現するウィルスとともに、 昆虫細 胞に感染させることにより、 多角体中に融合タンパク質が固定される。 このため に、 バキュロウィルスベクターで発現させた外来タンパク質、 すなわち目的の夕 ンパク質が、 細胞質多角体病ウィルスの構成タンパク質の N末端または C末端に 挿入されるように、細胞質多角体病ウィルスの構成タンパク質をコードする cDNA と外来タンパク質遺伝子とを結合させる。 この際、 構成タンパク質と外来タンパ ク質遺伝子のタンパク質をコードする 0RF (オープンリーディングフレーム) が インフレームになるようにする。 このようにして、 細胞質多角体病ウィルスの構 成タンパク質と外来タンパク質を 1つのタンパク質複合体として発現させること のできる組換えバキュロウィルスが形成される。
ここで、 本発明でタンパク質複合体中に固定されるタンパク質は、 本発明の多
角体タンパク質複合体を用いたアツセィで検出しょうとする物質 (被検出物質) に特異的に結合し得るタンパク質である。 例えば、 検出しょうとする物質に特異 的に結合する抗体が挙げられる。 また、 検出しょうとする物質が抗体である場合 は、 該抗体が特異的に結合する抗原が挙げられる。 すなわち、 検出しょうとする 物質と多角体タンパク質複合体に固定させるタンパク質が、受容体-リガンドある いはリガンド-受容体の関係にあればよい。本発明の方法における被検出物質は限 定されず、 例えば、 HIV、 肝炎ウィルス、 インフルエンザウイルス、 ジステンパー ウィルス等のウィルス、 黄色ぶどう球菌、 肺炎双球菌、 腸管出血性大腸菌等の細 菌などが挙げられる。 また、 ダニアレルゲン (例えば Der i 15) などの各種ァレ ルゲンが挙げられる。 インフルエンザウイルスの型として、 A 型 (H2N2、 H3N2、
H1N1等)、 B型、 C型、ヒト分離型、トリ分離型(トリインフルエンザウイルス(H5N1、
H7N2、 H7N7 等))、 ブ夕分離型 (ブ夕インフルエンザウイルス)、 その他ゥマ等の 哺乳類の分離型等のインフルエンザウイルスが挙げられる。 また、 これらに対す る抗体も検出可能である。 ウィルス、 細菌、 アレルゲン等を検出する場合、 これ らの抗原に対する抗体が固定された本発明の多角体タンパク質複合体を用いれば よいし、 これらの抗原が固定された本発明の多角体タンパク質複合体を用いるこ とによりこれらの抗原に対する抗体を検出することができる。 抗アレルゲン抗体 等のアレルゲンに特異的に結合し得る物質の検出に用いることができる。さらに、 目的のタンパク質にグリーン蛍光タンパク質(GFP)等のタンパク質を融合させた 形で発現させてもよい。 目的のタンパク質を GFPと融合させてタンパク質複合体 に固定した場合、 該タンパク質複合体自体が蛍光を発生し得る。 従って、 被検出 物質と結合した多角体タンパク質複合体が発生する蛍光をトレースすることによ り、 各種物質の検出を行うことができる。 GFPには、 種々の改変型 GFPが知られ ており、 これらの改変型 GFPを本発明の GFPとして用いることもできる。 このよ うな改変型 GFP として EGFP (enhanced green f luorescent protein)、 GFPUV、
GFPmut3. 1、 BFP2 (すべて Clone tech 社か ら入手可能) 、 Venus (Nature
Bio technology January 2002 Vol. 20-1, 87-90)、 S65Tが挙げられる。 また、 GFP の蛍光色の変異体である、 EBFP (Blue) , ECFP (Cyan) , EYFP (Ye l low) (すべて
CLONTECH社から入手可能)も本発明の GFPとして使用できる。これらの改変型 GFP
は例えば、『実験医学別冊 ポストゲノム時代の実験講座 3 GFPとバイオィメー ジング』 宮脇敦史 編、 2000年 10月 25日第 1版第 1刷発行、 羊土社 に詳細 に記載されており、 この記載を参照して入手することができる。 なお、 多角体夕 ンパク質複合体に固定するタンパク質は、 全体でもよいが、 被検出物質と結合し 得る部位が存在する限り断片でもよい。 固定するタンパク質が抗体の場合は、 全 長抗体の他、 Fab、 F (ab' ) 、 Fv、 1個の Fabと完全な Fcを有する Fab/c、 また は H鎖若しくは L鎖の Fv を適当なリンカ一で連結させたシングルチェイン Fv (scFv) 等の断片を固定すればよい。 .
さらに、 複数の目的タンパク質を一つのタンパク質複合体中に固定化してもよ い。 この場合、 それぞれの目的のタンパク質をコ一ドする遺伝子を含む複数のベ クタ一を調製し、 ポリヘドリンをコードする遺伝子を含むベクタ一と同時に細胞 で発現させればよい。 例えば、 以下のように検出しょうとする物質に特異的に結 合する目的のタンパク質の固定と同時に酵素、蛍光タンパク質、色素蛋白質等の、 光などのシグナルを発生し得るタンパク質を固定すればよい。 例えば、 検出しよ うとする物質に特異的に結合するタンパク質と上述の GFPを同時に発現させれば、 タンパク質複合体中に該タンパク質と GFPの両方が固定されるので、 タンパク質 複合体は、 前記検出しょうとする物質に結合するという機能および蛍光シグナル を発生するというトレーサーとしての機能を有するので、 物質の検出に有利に用 いることができる。 また、 蛍光タンパク質ではなく、 適当な色を有する色素タン パク質を用いてもよい。 この場合も、 色素タンパク質の呈するシグナル (色) に より、 多角体タンパク質複合体をトレースすることができる。 色素タンパク質と して、 例えばヘモグロビン、 クロロフィルタンパク質等が存在する。 さらに、 多 角体タンパク質複合体に適当な色素を結合させてもよく、 該色素の呈する色によ り多角体タンパク質複合体を卜レースすることができる。 例えば、 金コロイドを 多角体タンパク質複合体に結合させればよい。
さらに、 西洋ヮサビペルォキシダーゼ、 アルカリフォスファタ一ゼ等の酵素を 目的のタンパク質と同時に多角体タンパク質に固定してもよい。 このような酵素 を固定化したタンパク質の存在は、 該酵素に特異的な基質を用いることによる発 色反応により発生するシグナル (色) を指標に検出することができるので、 後述
の被検出物質の検出に用いることができる。
さらに、 上記では目的タンパク質を含むベクターと多角体タンパク質を含むベ クタ一を別々に調製し、 それらのベクターを細胞に導入し、 タンパク質複合体を 作製する方法を例示したが、 目的タンパク質と多角体タンパク質を一つのベクタ —中に導入することもできる。 例えば、 オートグラファ 'キャルホニ力 '核多角 体病ウィルス (Autographa cal ifornica nucleopolyhedrovirus) 由来のバキュ口 ウィルスベクターに公知の方法、 例えば J. Gen. Virol., vol. 74, pp. 99-102, 1993 に記載の方法を用いてポリへドリン遺伝子を組込み、 さらにカイコ細胞質多角体 病ウィルス (BmCPV) の外層構成タンパク質のひとつである VP3 (全長または部分 長) の C末端に目的のタンパク質を連結した融合タンパク質をコードするキメラ 遺伝子をポリへドリン遺伝子を組込んだオートグラファ ·キャルホニカ ·核多角 体病ウィルス由来のバキュロウィルスべクタ一に導入すればよい。 このよ.うに、 目的タンパク質と多角体タンパク質を一つのベクタ一中に導入した場合、 多角体 タンパク質の発現量と目的タンパク質の発現量の比を調節できるので、 得られた タンパク質複合体中に固定される目的のタンパク質の量を調節することができる。 この場合、 バキュロウィルスべクタ一中に、 バキュロウィルスのポリヘドリンを コードする遺伝子がプロモータ一の下流に連結している転写ュニットおよび目的 タンパク質をコードする遺伝子がプロモーターの下流に連結している転写ュニッ 卜の少なくとも 2つの独立した転写ュニットを組込めばよい。 ここで用いるプロ モーターとしては、 例えばポリへドリンプロモー夕一や plOプロモーターが挙げ られる。 例えば、 Gateway クローニングシステムを用いることができる (図 7 )。 図 7中の左図の上は、 aUR配列を持ったデスティネーションベクタ一、下は at tL 配列を持つェントリークローンを示す。これらの 2つのベクターを用いた LR反応 によって in vi troでの組換え反応が起きる。 図 7中右図は Der f 15cDNA配列を 導入した発現べクタ一である。
タンパク質複合体を産生するために用いる細胞は、 ウィルスに感染できる細胞 であれば限定されず、 昆虫細胞も植物細胞も用いることができる。 鱗翅目
(Lepidoptera) に属するもの、 特にシャクガ科 (Geometridae)、 ャママュガ
(Salurni idae) , カイコガ科 (Bombycidae)、 ヒトリガ科 (Arct i idae) , ャガ科
(Noe tuidae) に属するものが用いられる。入手が容易で取り扱いやすい点で、 力 ィコ (Bombyxmori 、 ムガサン (Antheraea assamens i s Hei fer) , ネキリムシ
(Peridromasp. )、 ァヮョトウ (Leucania unipunc tata howorth) などが通常用い られている。 また、 昆虫体および植物体も用いることができる。 昆虫体および植 物体を用いての多角体タンパク質複合体の製造は、 公知の方法により行うことが できる。
さらに、 無細胞翻訳系を利用して、 本発明で用いるタンパク質複合体を作製す ることもできる。 無細胞翻訳系による多角体タンパク質複合体の作製は、 例えば 特開 2003- 319778号公報の記載に従い行うことができる。
このようにして得られた多角体タンパク質複合体は、 一辺が lOOmnから ΙΟ ΠΙ の立方体、 直方体または円柱上のタンパク質であり、 該立方体の中に目的のタン パク質が固定され、 一部のタンパク質は立方体内部に存在し、 一部のタンパク質 は、 タンパク質の一部を外側に露出した状態で表面に存在する。
本発明の多角体タンパク質複合体中に目的のタンパク質が固定されているかど うかは、 例えば金粒子で標識された目的のタンパク質に対する抗体を用いた免疫 電子顕微鏡による観察により評価することができる。 また、 多角体タンパク質複 合体が GFP等の蛍光夕ンパク質を含む場合は、 蛍光測定することにより評価する ことができる。
本発明の多角体タンパク質複合体において、 固定される目的のタンパク質は、 結晶状態で固定される。 タンパク質は、 アモルファス状態である乾燥標品の状態 よりも、 結晶状態の方がより安定である。 また、 目的とするタンパク質は、 多角 体タンパク質によりコ一ティングされた状態にあるので、 その点でも本発明の多 角体タンパク質複合体中の目的のタンパク質の安定性は高い。 このように、 多角 体タンパク質の安定性が高いので、 長期間保存することができる。 例えば、 前述 のようにして精製したタンパク質複合体は、 乾燥させた状態でも、 水に懸濁した 状態でも長期間保存することができる。 また、 多角体タンパク質複合体中に固定 された目的のタンパク質はその立体構造を維持したまま固定化されている。 従つ て、 抗原を固定化して該抗原に結合する抗体を検出しょうとする場合、 天然状態 の立体構造が維持され、 ェピトープも維持されている。 従って、 立体構造の喪失
による抗体との結合性の低下が起こらないので、 本発明の多角体タンパク質複合 体を利用することにより、 被検出物質を高感度に検出することができる。 また、 多角体タンパク質中に GFP等の蛍光タンパク質や酵素等が固定されている場合は、 これらのタンパク質も安定に存在し、 長期間蛍光を発するという機能、 酵素反応 を触媒するという機能を保持し得る。
さらに、 本発明で用いるタンパク質複合体は、 調製したベクターを細胞に導入 し、 該細胞を培養し、 所望の遺伝子を発現させるだけで製造でき、 培養上清から 容易に得られるので、 少ない工程で大量に製造できる。 例えば、 培養上清中の多 角体を水を用いて洗浄しつつ遠心分離等により回収するだけで、 本発明の方法に 用いることができる。 これに対して、 例えば抗原または抗体を感作したラテック ス粒子を用いる従来の凝集法を行おうとした場合、 所望の遺伝子を導入したべク ターを細胞に導入し、 該細胞を培養し、 複雑な工程で純粋なリコンビナントタン パク質を精製させる必要がある。 さらに、 ラテックス粒子を調製し、 所定の粒径 の粒子を精製し、 次いで前記のようにして調製した被検出物質に特異的に結合す る物質をラテックス粒子に結合させ、 該物質が結合したラテックス粒子と結合し ていないラテックス粒子を分離するというように、製造工程が多い。この点でも、 本発明のタンパク質複合体は有利に検出に用いることができる。
2 . 目的のタンパク質が固定された多角体タンパク質複合体を遊離の状態で利用 した被検出物質の検出
目的のタンパク質が固定された多角体タンパク質複合体を用いて以下のように して、 検体中に含まれる被検出物質の検出を行うことができる。 この場合、 目的 のタンパク質が固定された多角体タンパク質複合体は、 遊離の状態、 すなわち適 当な担体や支持体に結合していない状態で存在し、 被検出物質と結合することに より集合し得る。
用いる検体は限定されず、 例えば、 全血、 血清、 血漿、 尿、 唾液、 喀痰、 汗ま たは鼻、 咽頭もしくは鼻咽頭の分泌物等の動物由来の生体試料、 食物等の抽出液 を用いることができる。 被検出物質も限定されないが、 上記検体中の抗原または 抗体が例示できる。 被検出物質が抗原の場合は、 多角体タンパク質複合体に固定 されたタンパク質は該抗原に特異的に結合する抗体であり、 非検出物質が抗体の
場合は、 多角体タンパク質複合体に固定されたタンパク質は該抗体が特異的に結 合する抗原である。
抗原抗体反応を利用した被検出物質の免疫検出において、 抗原または抗体に結 合した被検出物質と結合していない被検出物質を分離 (B/F 分離) する必要があ る。 本発明の多角体タンパク質複合体を該分離に利用することができる。 すなわ ち、 被検出物質に特異的に結合するタンパク質を固定した多角体タンパク質複合 体を、 被検出物質を含む検体と混合し、 固定されたタンパク質と被検出物質を接 触させ結合させる。 次いで、 多角体タンパク質複合体と検体との混合物を静置す るか、 または遠心分離することにより、多角体タンパク質複合体-被検出物質の複 合体を沈殿させ、 遊離の被検出物質と分離させる。 その後、 多角体タンパク質に 結合した被検出物質を測定する。 被検出物質の測定は、 例えば被検出物質に特異 的に結合する物質を西洋ヮサビペルォキシダーゼやアルカリフォスファターゼ等 の酵素、 ι ι 等の放射性同位体、 フルォレセイン等の蛍光物質等で標識したもの (標識試薬)を多角体タンパク質-被検出物質複合体に添加し、形成された多角体 タンパク質-被検出物質-標識試薬複合体を標識物質の発するシグナルを指標に測 定する。 このような方法により検体中の被検出物質を検出することができる。 ま た、 多角体タンパク質複合体中に西洋ヮサビペルォキシダ一ゼやアルカリフォス ファターゼ等の酵素が固定されていてもよい。 この場合、 前記の多角体タンパク 質複合体-被検出物質複合体に酵素の基質を添加することにより、多角体タンパク 質複合体中に固定された酵素の触媒反応により、 発色が生じ、 多角体タンパク質 複合体-被検出物質複合体の存在を調べることができる。
また、 被検出物質に対する抗原又は抗体を、 多角体タンパク質中に固定した多 角体タンパク質複合体を被検出物質を含む可能性のある検体と接触させ、 被検出 物質を介した多角体タンパク質複合体の免疫凝集反応を検出することにより検体 中に被検出物質が含まれている否か、 あるいは被検出物質の含有量を測定するこ とができる。
凝集反応は、スライドグラス、 96ゥエル平底プレート、 96ゥエル ϋ底プレー卜、
96ゥエル V底プレート等を用いて行わせることができる。 96ゥエルプレートを利 用して凝集物の形成を目視により判定する場合、 多角体タンパク質複合体の比重
が大きいため、 ゥエル中での重量による落下速度が大きい。 従って、 重力による ゥエル底への落下集合と被検出物質を介した凝集とを区別できるよう、 平底プレ ートを用いるのが望ましい。
タンパク質複合体と検体を適当な緩衝液中で混合し、 スライドグラス上または プレートのゥエル中に添加し、 一定時間攪拌または静置し、 凝集が生じたかどう かを測定すればよい。 タンパク質複合体の量および検体の量は、 検出しようとす る被検出物質の種類や検体中の予測含有量等により、適宜決定することができる。 例えば、タンパク質複合体 07から 10lfl/mlの 0. 5 を 9. 5 Lの緩衝液と混合し、 さらに数十 z Lの生理食塩水または緩衝液を添加し、 これに I O Lから 100 Lの 検体を混合すればよい。 なお、 タンパク質の複合体の濃度 (単位体積当りの数) は、 顕微鏡下で血球計算盤を用いて計測した。 凝集反応を行う際に用いる緩衝液 も限定されないが、 例えば pH 5〜9、 好ましくは 6〜 9のリン酸緩衝液、 トリス 緩衝液、炭酸緩衝液等を用いることができる。反応温度は、限定されないが、 4 °C 〜50°C、 好ましくは 15°C〜40°C、 さらに好ましくは 30°C〜40°Cである。 また、 反 応時間も限定されないが、 好ましくは 1分〜 30分である。 また、 凝集反応を行わ せる際に、 非特異的な反応を抑制するために、 Tri tonX- 100、 Tween20、 Tween80 等の適当な界面活性剤を添加してもよい。
凝集の有無は、 肉眼で判定することができる。 また、 光学的機器を用いれば、 大量にかつ正確に判定することができる。 光学的機器を用いる場合、 最終的な凝 集像を得る必要は必ずしもなく、 凝集反応に伴う反応液系の濁度の変化を測定す ればよい。 光学的機器による測定は、 散乱光、 吸光度または透過光強度を検出す ることにより行うことができる。 また、 タンパク質複合体が GFPなどの蛍光タン パク質を含む場合は、 凝集物中の蛍光強度を測定してもよい。
さらに、 本発明のタンパク質複合体をィムノクロマトグラフィーの標識試薬と して用いることができる。 ィムノクロマトグラフィーにおいては、 ニトロセル口 ース膜等の適当な固相支持体上 ίこ抗体等の被検出物質と結合し得る物質を固定化 し、 該固相支持体に毛管現象を利用して、 金コロイド等の適当な標識物質で標識 した被検出物質 (標識試薬) と結合し得る物質と被検出物質の複合体を展開移動 させる。 この結果、 固定化した物質-被検出物質-標識試薬の複合体が固相支持体
上に形成され、 該複合体から発する標識試薬のシグナル (金コロイドの場合は、 被検出物質と結合し得る物質を固定化した固相支持体部分が赤くなる) を検出す ることにより、 被検出物質を検出することができる。
被検出物質に特異的に結合し得るタンパク質を含むタンパク質複合体をィムノ クロマトグラフィーにおける標識試薬として用いることができる。 この際、 タン パク質複合体が固相支持体上で認識し得るシグナルを発生するようにする必要が あるが、 例えば、 蛋白質複合体を適当な色素で染色すればよい。 また、 タンパク 質複合体を製造する際に、 GFP 等の蛍光タンパク質あるいは色素タンパク質等の 色を発するタンパク質を固定させればよい。
ィムノクロマトグラフィー装置の製造およびィムノクロマトグラフィーによる 検出は公知の方法で行うことができる。
本発明の目的のタンパク質を固定した多角体タンパク質複合体を用いた検出法 によれば、 被検出物質を 30分以内、 好ましくは 15分以内、 さらに好ましくは 10 分以内で検出することが可能である。
さらに、 本発明の方法は、 担体を用いた態様も包含する。 ELISA用マイクロ夕 イタ一プレートゃスライドガラス等の担体に多角体タンパク質に結合し得る物質、 例えば抗多角体タンパク質抗体または多角体タンパク質複合体に含まれる目的の タンパク質に結合し得る物質、 例えば目的のタンパク質に対する抗体をあらかじ め結合させておく。 多角体タンパク質複合体と被検出物質を含み得る検体試料と を混合し、 多角体タンパク質複合体を遊離の状態で検体と接触させ多角体タンパ ク質複合体と被検出物質との複合体を形成させる。 次いで、 多角体タンパク質複 合体と被検出物質との複合体を前記の多角体タンパク質または目的のタンパク質 に結合し得る物質を固相化させた担体と接触させ、固相化物質-多角体タンパク質 複合体-被検出物質複合体を形成させる。さらに、 ここに被検出物質に結合し得る 物質、 例えば被検物質に対する抗体をペルォキシダーゼ、 アルカリフォスファタ
—ゼ等の酵素や蛍光物質などで標識した 2次抗体を接触させ、固相化物質-多角体 タンパク質複合体-被検出物質- 2次抗体複合体を形成させる。 2次抗体による呈 色または蛍光を測定することにより、 被検出物質を測定することができる。 この 方法は、 検体中の被検出物質を検出する方法であって、 該被検出物質に特異的に
結合し得るタンパク質を多角体に固定化し、 この多角体タンパク質複合体を遊離 の状態で検体と接触させ、 該接触によりできた多角体タンパク質複合体と被検出 物質との複合体の存在を担体上で検出する方法である。
3 . 目的のタンパク質が固定された多角体タンパク質複合体を担体に結合した 状態で利用した被検出物質の酵素結合抗体法による (ELISA) 検出
本発明の多角体タンパク質を用いて酵素結合抗体法(ELISA) により、 被検出物 質を検出することができる。 この場合、 目的のタンパク質 (抗体または抗原) を 固定化した多角体タンパク質複合体をマイクロ夕イタ一プレート等の担体に吸着 等により結合させる。 この多角体タンパク質複合体を結合したマイクロ夕イタ一 プレートやスライドグラスは使用時まで、 保存しておくことができる。 多角体夕 ンパク質複合体を結合した ELISA用マイクロタイ夕一プレートゃスライドグラス 等の担体に固定化したタンパク質と結合し得る被検出物質 (抗原または抗体) を 含む試料を添加し、 被検出物質と多角体タンパク質複合体を結合させ、 さらにべ ルォキシダ一ゼゃアルカリフォスファターゼ等の酵素で標識した 2次抗体であつ て、 被検出物質と結合する抗体を添加し、 被検出物質-多角体タンパク質複合体 - 2次抗体の複合体を形成させ、 酵素酵素の基質を添加して発色させ、 発色を測定 することにより、 被検出物質を検出することができる。
ELISA において、 目的のタンパク質を固定化した多角体タンパク質複合体を固 相化することにより、 1ゥエル当りの目的のタンパク質量を多くすることができ る。 また、 多角体タンパク質複合体という、 高分子量の物質を固相化するため、 ゥエルへの固相化効率や結合の強さも大きくなり、 ゥエルの洗浄工程でも離脱し にくレ^ また、 従来の ELISAにおいては目的タンパク質を直接 ELISA用マイクロ タイ夕一プレー卜のゥエル内表面に固相化していた。 このため、 マイクロタイ夕 一プレートのゥエル内部の表面積に限りがあるため、固相化量には限度があった。 しかしながら、 本発明の多角体タンパク質複合体を用いる場合、 多角体タンパク 質複合体自体の固相化量に限りはあるが、 多角体タンパク質複合体に含ませる目 的のタンパク質量を多くすることにより、 1ゥエル当りに固相化される目的の夕 ンパク質量を増加させることができ、 従来の ELISAよりも感度を上昇させること ができる。 さらに、 抗原抗体反応において抗体は抗原の抗原決定基を認識して抗
原に結合するが、 この際抗体の認識のために抗原決定基の 3次元構造が重要にな つてくる。 従来の ELISAにおいては目的タンパク質を直接 ELISA用マイクロタイ タープレートのゥエル内表面に固相化していたため、 固相化により固相化抗原ま たは抗体の立体的構造が天然のものから変化し、 抗体が抗原決定基を認識できな くなることがあった。 本発明においては、 目的のタンパク質は多角体タンパク質 の中に埋め込まれるように天然の立体的構造を保持した状態で存在する。従って、 従来の ELISAのように固相化により抗原抗体反応の反応性が減少することがなく、 従来法に比較して感度が高い。 このように、 目的のタンパク質を固定化した多角 体タンパク質複合体を固相化した担体を用いることにより、 従来の ELISAと比較 しても高感度かつ迅速な検出が可能になる。 さらに、 従来の ELISAにおいて、 担 体に固相化した抗原または抗体は安定性が高くないので、 調製後時間が経過する につれ、 反応性が低下した。 従って、 抗原または抗体を固相化した担体は、 調製 後すぐに使用するか、 または乾燥後凍結保存しておく必要があった。 本発明の多 角体タンパク質複合体は、 安定性が高いため、 多角体タンパク質複合体を固相化 した担体を室温や 2〜 i 0 °Cで保存しておいても、反応性の低下は少ない。従って、 本発明の ELISAにおいて、 多角体タンパク質複合体を固相化した担体の保存安定 性が高いという利点もあり、 担体調製後、 長期間にわたって感度よく測定するこ とができる。
また、 従来ウィルス感染や感染細菌の診断において、 中和抗体法による測定が 主に行われていたが、該方法では測定に長時間を要し、また感度も高くなかった。 本発明の目的のタンパク質を固定化した多角体タンパク質複合体を用いた酵素結 合抗体法によれば、 従来の中和抗体法に比較してウィルスまたは細菌感染を高感 度かつ迅速に検出することができる。
また、 酵素で標識した 2次抗体の代わりに、 蛍光物質、 化学発光物質等で標識 した抗体を用いてもよい。 この場合は、 最終的に蛍光物質、 化学発光物質から発 する光を測定することにより、 被検出物質を検出することができる。
上記の説明では、抗原-抗体反応を利用する測定法について記載したが、抗原と 抗体の組合わせだけでなく、 リガンドとリガンドレセプターの組合わせ等の相互 に結合する化合物同士の組合わせを利用することにより、 一方の化合物を検出す
ることができる。
4 . 目的のタンパク質を固定した多角体タンパク質複合体を含む検出用試薬 本発明は、 目的のタンパク質を固定した多角体タンパク質複合体を含む検出用 試薬を包含する。 目的のタンパク質を固定した多角体タンパク質複合体は、 目的 のタンパク質に加えて、シグナルを発生し得るタンパク質を固定していてもよレ^ 該検出用試薬において、 目的のタンパク質を固定した多角体タンパク質複合体は 乾燥状態であってもよく、 この場合は用時に精製水、 生理食塩水、 適当な緩衝液 等で復元して用いればよい。 さらに、 該検出用試薬において、 目的のタンパク質 を固定した多角体タンパク質複合体は、 精製水、 生理食塩水、 適当な緩衝液等に 懸濁した状態で存在していてもよい。 目的のタンパク質を固定した多角体タンパ ク質複合体を含む検出用試薬は、 界面活性剤、 抗菌剤等を含んでいてもよい。 さらに、 本発明は、 目的のタンパク質を固定した多角体タンパク質複合体を含 む検出用キットをも包含する。 該キットは、 前述の目的のタンパク質を固定した 多角体タンパク質複合体を含む検出用試薬を含み、 さらに凝集反応を行わせるプ レート、 ィムノクロマトグラフィー装置ストリップ、 ブロッシャー等を含む。 ま た、 目的のタンパク質を固定した多角体タンパク質複合体はマイクロ夕イタープ レートやスライドガラス等の担体に結合されていてもよい。 本発明は、 多角体夕 ンパク質複合体を結合させたマイクロタイ夕一プレー卜等の担体をも包含する。 本発明を以下の実施例によって具体的に説明するが、 本発明はこれらの実施例 によって限定されるものではない。
〔実施例 1〕 ダニアレルゲンを含む多角体タンパク質複合体の調製
ダニのアレルゲン Der f 15を以下の方法でアレルゲンが固定された多角体タン パク質複合体を製造した。
1 . デスティネーションベクタ一の構築
( 1 ) Reading Frame Casset teの決疋
Invi rogen社の Gatewayクローニングシステムを用いて、 目的遺伝子であるダ 二アレルゲン Der f 15遺伝子をバキュロウィルスベクター系に導入するために、 まず VP3遺伝子と Der f 15遺伝子からなるキメラ遺伝子を作製するためには、 コ ドンの読み枠が連続して翻訳される必要があることから、 この読み枠を調整する
ための適切な Gatewayクローニングシステムの Reading Cassette を選択した。 Gateway クローニングシステムのデスティネーションベクターに挿入するための VP3断片は、 S4の Xbal サイト部分 (l〜1358 bp) である。 つまり、 1358 bpでコ ドンにすると 2 bp余分となるので、 この部分に 1 bpを補い、 フレームシフトが 起こらないように設計された Cassette Bを選択した。
( 2 ) バキュロウィルスベクターの改変
バキュロウィルストランスファーベクターである pVL1392 (Phar Mingen社製) のポリへドリンプロモータ一下流に、 VP3をコードする S4cDNAを Notl/BamHIサ イトでク^ーニングし、 プラスミド PAcVP3を作製した(Ikeda et al., 2001)。 次 に、 これを Xbalで消化し、 ライゲーシヨンキット(TaKaRa社製)を用いてセルフ ライゲーシヨンさせたプラスミド pAcVP3 (Xbal)を作製した
(3) Cassette Bの揷入
pAcVP3(XbaI)を Xbalで消化し、 この Xbalサイトの平滑化、 脱リン酸化処理を 行ってから CassetteBどのライゲーシヨンを行った。 ライゲーシヨン組成は以下 の通りである。
反応液組成(一試料あたり)
5XT4 DNA ligase buffer 2. Ou 1 pAcVP3 (Xbal) 2.0^1
Frame Cassette B 10. O 1
T4 DNA lipase lunit (1. O D 計 15.0 1 反応液は、室温で一時間インキュベートし、そのうち 1. O lを の DB.3.1 コンビテントセルでプロトコールに従い形質転換を行った。 形質転換した大腸菌 は 30 g/ lのクロラムフエニコ—ル含む 2XTYプレート (16.0 gTrypton, 10.0 g Yeast extract, 5.0 g NaCl/L) に接種し、 37°Cで一晩培養した。 プレートに生 じたコロニーを 50 g/ml のカナマイシンを含む 1.5 ml の 2XTY培地 (16.0 g
Try ton, 10.0 g Yeast extract, 5.0 gNaCl/L) に接種し、 37°Cで一晩培養した。 プラスミ ド DNA の抽出は Promega 社製の WizardR Plus SV Minipreps DNA
Purification System を用いてプロトコールに従って行った。 このようにしてデ スティネーシヨンベクターを構築した。
2. エントリークローンの構築
(1) att B配列で修飾された PCR産物の調製
BP反応に必要な att B1配列 (N末端側)、 attB2配列 (C末端側)で修飾された PCR産物を得るため、 プライマーを設計した (配列番号 3および 4)。 その構造を 以下に示す。
att Bl forward primer (ァミノ.末端)
Lys- Lys
5' - GG6G-ACA-AGT-TTG-TAC-AAA-AAA-GCA- att Bl
GGC-TNN- (Der f 15遺伝子の配列) -3' att B2 reverse primer (力ノレボキシノレ末端)
Lys- Tyr
5' - GGGG-AC-CAC-TTT-GTA-CAA-GAA-AGC- att B2
TGG-GTN- (Der f 15遺伝子の配列) -3' これらのプライマーを に濃度調節し、 PCR反応を行った。 その他反応に は Ampli Ex Taa (Perkin-Elmer) および、 付属の 10 X PCR buffer (100 πιΜ Tris-HCl [pH 8.3] 500 mM KC1 15 mM MgCl2) 、 dNTP Mix (dATP dCTP dGTP dTTP 濃 度 各 2.0 mM ) を用いた。 反応液量は 50 l とし、 Micro Amp reaction tube (Perkin-Elmer) に以下の反応液を調製した。
反応液組成 (一試料あたり)
淞重
template 1.0^1
10XPCR buffer 5.0^1
dNTP Mix 4.0^1 滅菌蒸留水 38.8 1 forward primer (40 n M) 0.5 1 reverse primer (40 μ. M)
Am li Ex Taa 0.2 1
50.0 xl 反応には GeneAmp PGR System2400あるいは GeneAmp PCR System9700 (いずれ も Pe rk in-E 1 me r) を用いて行った。まず 94°Cで 5分間インキュベートした後、 94で で 1分間 (変性)、 50°Cで 1分間(ァニーリング)、 72°Cで 分間(伸長)の温度調節 を 1サイクルとし、これを 35サイクル繰り返した。その後は速やかに温度を下げ、 反応を終了させた。 PCR の増幅産物は、 インサート部分を切り出すために制限酵 素処理したあと 1.0%のァガロースゲルで電気泳動を行い、 それぞれの大きさに おけるバンドの有無を確認した。
(2) att-PCR産物の純化
プライマーやプライマーダイマーを除去するため、 上記の 50 1の PCR増幅産 物に の TEを加え、 さらに 100 1の 30% PEG 8000/30 mM MgCl2を加えて よく攪拌してから、 10, 000 gで 15分間遠心し、 上清を除去した。 これを の TEに溶解し、そのうちの 10. O I,を 1%ァガロースゲルで電気泳動してバンド を確認した。
(3) BP反応
att L配列をベクターの両末端にもつェントリークローンを得るため BP反応を 行った。 反応液量は 10^1とし、 1.5mlエツペンドルフチューブに室温で以下の 組成を調製した。
反応液組成 (一試料あたり)
BP reaction buffer (5x) 2.0^1 att -PCR産物 1.0 1
PDONR201 vector 150 ng/ml 2.0^1
3.0 l
BP CL0NASE Enzyme Mix 2. O l 計 10.0 l 反応液を調製後、 25°Cで一晩インキュベートしてから proteinase K液を 1 1 加え、 37 で 10分間インキュベートした。 このうちの 1 1を 1.5mlチューブに 移して 50 1の L匪 RY EFFICI腿 DH5a コンビテントセル (東洋紡社製) でプロト コールに従い形質転換を行った。
形質転換した大腸菌は、 50 g/mlのカナマイシンを含む 2XTYプレートに接種 し、 37°Cで一晩培養した。
プレートに生じたコロニーを 50 xg/nilのカナマイシンを含む 1.5. mlの 2XTY 培地に接種し、 37°Cで一晩培養した。 プラスミド DNA の抽出は Promega 社製の
WizardRPlus SV Minipreps DNA Purification Systemを用いてプロトコールに従 い、 行った。
(4) エントリ一クローンの配列確認
(3) で得られたエントリークローンの配列を確認するため、 以下のようなプ ライマーを設計した (配列番号 5および 6)。
proximal to att LI TCG-CG T- TAA- CGC- TAG- CAT-GGA- TCT-C
proximal to att L2 GTA-AC-ATC-AG- AGA- TTT- TGA- GAC- AC
これらのプライマーを用いて、 ダイデォキシ法による PCR反応を GeneA即 PCR System 2400で行った。 PCR反応の組成は以下に示す。
反応液組成 (一試料あたり)
液量
Template (プラスミド DNA) 3.0^1
Buffer (10X) - 1.0^1
D. W. 3.6 1
プライマ— (4.0 pmol) 0.4 1 (1.6 pmol)
BigDye Terminater 2. Qu i
計 10.
反応は 96°Cで 10秒間、 50°Cで 5秒間、 60でで 4分間の温度調整を 1サイクル
とし、 これを 25サイクル繰り返した。 その後速やかに温度を下げ、 反応を終 了させた。 その後プロトコールに従って ABI PRISM™310 Genetic Analyzerに より電気泳動を行い、 塩基配列の解析を行った。
3. 発現べクタ一の構築 (LR反応)
多角体に固定されるため必要な VP3配列と、 目的遺伝子をキメラにもつ発現べ クタ一を得るため LR反応を行った (図 1)。
反応液組成 (一試料あたり)
. 液量
デスティネーションベクタ一(0.5 g/ml) 0.6 1 エントリ一クローン 0.5 l
TE 9.9 1
Topo isomerase I I. O .1
LR C画 E Enzyme Mix .Ο Ι
20.0^1
反応液を調製後、 25°Cでー晚インキュベートしてから proteinase K液を ϊμΛ 加え、 37°Cで 10分間インキュベートした。 このうちの を 1.5 mlチューブに 移して 50 lの LIBRARY EFFICIENCY DH5o! コンピテントセルを用いてプロトコールに 従い形質転換を行った。
形質転換した大腸菌は、 50 g/mlのアンピシリンを含む 2XTYプレート (16.0 g Trypton, 10.0 g Yeast extract, 5.0 g NaCl/L) に接種し、 37°Cでー晚培養し た。
プレートに生じたコロニーを 50 zg/ml のアンピシリンを含む 1.5ml の 2XTY 培地 (16.0 g Trypton, 10.0 g Yeast extract, 5.0 g NaCl/L) に接種し、 37で でー晚培養した。プラスミド DNAの抽出は Promega社の WizardKPlus SV Minipreps
DNA Purification System を用いてプロトコールに従っておこなった。 このよう にし Der f 15遺伝子発現トランスファ一ベクター pAcVP3/Der f 15を作製した。
4. 組換えウィルスの作製と Si21 細胞での組換えタンパクの発現
( 1) 組換えウィルスの作成
作製した Der f 15遺伝子発現トランスファ一ベクター pAcVP3/Der f 15 を 25 II 1 (0.2 g/ 1) と線状化されたバキュロウィルス DNA である Baculogold Baculovirus DNA (PharMingen) 2. 1 (0· 1 xg/ 1)に、 リポフエクチン (GIBC0 BRL) 14.0 をピぺットマンで混合した後、無血清培地 TC- 100に置き換えた Sf21 細胞(ixi06cells/35minシャーレ)の上に滴下し、 一日培養した。 翌日無血清培地 を抜き、 10%仔ゥシ胎児血清を含む TC-100培地と交換してさらに三日間培養し、 培養上清を回収した。その後プラーク純化を行い、組み換えウィルス AcVP3/Der f 15を得た。
(2) Sf21細胞での組換えタンパク質の発現
(1) で得られた培養上清を 3, 000 rpmで 5分間遠心し、 上清(ウィルス液) 200 111を Sf21細胞(1X106 cells/35腦シャーレ)に滴下して室温で吸着させた。 一 時間後、 ウィルス液を除去し、 2 mlの 10%仔ゥシ胎児血清を含む TC- 100培地を 加えて 27°Cで 4日間インキュベートした(ウィルス接種)。 この 4日後の培養上清 を回収し、 これを大量発現の際のウィルス液として用いた。
5. 多角体の精製
(1) Sf21細胞からの多角体の回収
AcVP3/Der f 15と AcCP-H をそれぞれ 5 p. f. u. /cell ずつ Si21 細胞 (5X107 cells per 75cm2 flask ) に接種した。 これによつて、 図 2および図 3に示す通 り、 Der f 15 が多角体に固定化される。 感染後 27 で 4日間経過した細胞をフ ラスコから回収、 遠心(3, 000 rpm lOmin) して沈殿を回収した。 PBS 溶液 (phosphate-buffered saline, 20 mM NaH2P04, 20 mM Na2HP04, 150 mMNaCl, H 7.2) で洗浄した後、 氷中でホモジナイザーを用いて磨碎した。 磨碎後、 1% Tween 20 (Bio - Rad)を加えて遠心(15, 000 rpm 5min)を繰り返し、 多角体と細胞片を分離し た。
得られた多角体複合体夕ンパク質は、 滅菌水中で保存しておいた。
〔実施例 2〕 ダニアレルゲンを含む多角体タンパク質複合体を用いた検出 実施例 1により得られた Der f 15タンパク質を固定化した多角体と目的タンパ ク質分子を固定化していない空の多角体の懸濁溶液(5X10の 8乗個の多角体 /ml)
を 0.5 1とり、 これにリン酸緩衝液 9.5 Ail加えた。
平底 96穴のマイクロタイ夕一プレート (FALCON社) の各穴に 80 1のリン酸 緩衝液を加えた。
次に、犬から採取した血清 10 を加え、 さらに上記の 10倍希釈した多角体懸 濁液 10 1を加え、 振とう機で攪拌した。
振とう開始後、 3 0分を経過すると穴の中央付近に多角体の凝集塊が確認され るようになった (図 4)。 さらに、 この凝集塊は顕微鏡下で図 5及び 6に示すとお り、 明瞭に観察された。 .
〔実施例 3〕 外来ウィルス抗原を含む多角体タンパク質複合体を用いた検出
1. ウィルスと細胞の調製
BmCPV H株は、 細胞質に立方体の多角体を形成するウィルス株であり、 この H 株の多角体夕ンパク質のみを発現するように構築された組換えバキュ 13ウィルス AcCP-H を使用した。 また、 昆虫培養細胞は Spodoptera Frugiperda 由来の IPLB-Sf21-AE (SF21) を、 10%仔ゥシ胎児血清を含む TC- 100 (GIBCO B L) 培地 で継代したものを使用した。 ·
2 · ィヌジステンパーウィルスの H及び Fタンパク質の発現のためのベクター の構築
( 1) エントリ一クローンの作製
ィヌジステンパーウィルスの H及び F夕ンパク質の N末端に固定化シグナルを 入れるために、 以下 2種類のプライマーの構築を行った。
プライマー 5, F (N) :5' -CACCCAAGCAATCCAATCTCTTAG-3 ' (配列番号 7 )
プライマー 3, F(C) :5' -TCAATTAAAGGAAGAGCGCCTAAC-3 ' (配列番号 8)
プライマー 5, Η(Ν) :5' -CACCTTTCACCAAGTATCAACTAG-3 ' (配列番号 9 )
プライマー 3, H(C):5, -TCAAGGTTTTGAACGGTTAC-3' (配列番号 10 )
ィヌジステンパーウィルス F及び H夕ンパク質の' cDNAがクローニングされてい るプラスミド CDV- F/pCRと CDV- H/pCRをテンプレートにプライマー 5' F(N)とブラ イマ一 3' F(C)で、またプライマ一 5' H(N)とプライマー.3' H(C)を用いて PCRを行 つた。 PCR産物は、 ァガロースゲル電気泳動で泳動した後、 Wizard SV Gel and PCR
Clean- Up System (Promega社製)を用いてプロトコールに従って、 精製した。 精
製した PCR産物は、 以下で示す方法により、 pENTR/D- TOPOdnvitrogen社製)べク ターにクローニングし、 それぞれ VP3- CDV- F/pENTRと VP3- CDV- H/pENTRを作製し た。 作製したェントリークローンはシークェンスにより配列の確認を行った。
(2) pENTR/D- T0P0へのクローニング
attL配列を PCR産物の両末端にもつェントリークローンを得るために、精製し た PCR産物を pENTR/D_T0P0ベクターにクローニングした。
反応液組成 (一試料あたり) は以下の通りであった。 精製 PCR産物 4 ιι\
Salt Solution 1 n 1
pENTR/D-TOPO vector 5ng/^ 1 1 H 1
計 6/ l 反応液を調整後 25°Cで 15分インキュベートした。このうち 2 lを 1.5mlチュ ーブに移して 50 1 の TOP10 Chemically Co即 etent E. coli コンビテントセル (Invitrogen社製)でプロトコールに従い形質転換を行った。
形質転換した大腸菌は、 50 g/mlのカナマイシンを含む 2XTYプレートに接種 し、 37°Cでー晚培養した。
プレートに生じたコロニーを 50 g/mlのカナマイシンを含む 1.5 mlの 2XTY 培地に接種し、 37°Cでー晚培養した。 プラスミド DNA の抽出は Promega 社製の WizardRPlus SV Minipreps DNA Purification Systemを用いてプロトコールに従 い行った。
(3) トランスファ一ベクタ一の選択
デスティネーションベクターは多角体への固定化シグナル配列を目的タンパク 質の N末側に挿入するためのベクターである pAcVP3 (A)、 pAcVP3 (C)と固定化シグ ナル配列の長さが 450 残基である pAcVP3(Xba)、 また同じく 52 残基である pAcVP3(52)の 4種類である (図 8)。
(4) 発現ベクターの構築 (LR反応)
多角体に固定されるため必要な VP3配列と、 目的遺伝子をキメラにもつ発現べ クタ一を得るため LR反応を行った。
反応液組成(一試料あたり)は以下の通りであつた。
彼量
デスティネーションベクタ一(0.5 g/ l) 0.6 l エントリークローン 0.5 1
LR Reaction Buffer . 4.0 xl
TE 9.9 /J. I
Topo isomerase I 1. O 1
LR CL0匿 Enzyme Mix 4.0 x 1 計 20. O I 反応液を調製後、 25°Cでー晚インキュベートしてから proteinase K液を 2 1 加え、 37°Cで 10分間インキュベートした。 このうちの 1 1を 1.5 mlチューブに 移して 50 1 ( lmm EFFICIENCy DH5 コンビテントセルを用いてプロトコールに従 い形質転換を行った。
形質転換した大腸菌は、 50 g/mlのアンピシリンを含む 2XTYプレート (16.0 g Trypton, 10.0 g Yeast extract, 5.0 g NaCl/L に接種し、 37°Cでー晚培養し た。
プレートに生じたコロニーを 50 g/ml のアンピシリンを含む 1.5ml の 2XTY 培地 ( 0 g Trypton, 10.0 g Yeast extract, 5.0 g NaCl/L)に接種し、 37°Cで ー晚培養した。 プラスミド DNAの抽出は Promega社の WizardRPlus SV Minipreps DNA Purification System を用いてプロトコールに従っておこなった。 このよう にしてィヌジステンパーウィルス F及び Hタンパク質発現トランスファーベクタ 一 pAcVP3 (A) - F、 pAcVP3 (0 -F, pAc 3 (Xba) - F、 pAcVP3 (52) -F と pAcVP3 (A) - H、 pAcVP3 (0 -H, pAcVP3 (Xba) -H, pAcW3 (52) - Hを作製した。
3. 組換えウィルスの作製と Si21細胞での組換えタンパクの発現
( 1) 組換えウィルスの作成
作製したそれぞれ 8種類のトランスファ一ベクタ一 25 l (0. lnz/ii l)と線状 化されたバキュロウィルス DNAである BaculogoldBaculovirusDNA (PharMingen) 2. O I (0. lug/i l)に、 リポフエクチン (GIBCOBRL) 14. ΰ ΐをピぺットマンで混 合した後、 無血清培地 TC- 100に置き換えた Si21細胞(IX 106 cells/35mmシヤー レ)の上に滴下し、 一日培養した。翌日無血清培地を抜き、 10%仔ゥシ胎児血清を 含む TC- 100培地と交換してさらに三日間培養し、培養上清を回収した。その後プ ラーク純化を行い、 組み換えウィルス AcVP3(A)-F、 AcVP3(C)_F、 AcVP3 (Xba) - F、 AcVP3 (52) -Fと AcVP3 (A) - H、 AcVP3 (0 - H、 AcVP3 (Xba) - H、 AcVP3 (52) - Hを得た。
(2) Sf21細胞での組換えタンパク質の発現
(1) で得られた培養上清を 3. OOOrpmで 5分間遠心し、 上清(ウィルス液) 200 を Sf21細胞(IX 106 cells/35匪シャーレ)に滴下して室温で吸着させた。 一 時間後、 ウィルス液を除去し、 2mlの 10%仔ゥシ胎児血清を含む TC- 100培地を加 えて 27°Cで 4日間インキュベートした(ウィルス接種)。 この 4日後の培養上清を 回収し、 これを大量発現の際のウィルス液として用いた。 なお、 目的タンパクの 発現は SDS- PAGEで確認した。
4. 多角体の精製
8種類の組み換えウィルス AcVP3(A)- F、 AcVP3 (C) -F , Ac VP 3 (Xba) - F、
AcVP3 (52) - Fと AcVP3 (A) - H、 AcVP3 (0 -H、 AcVP3 (Xba) - H、 AcVP3 (52) - Hのそれぞ れと多角体を作る組み換えウィルス AcCP- Hを両者 5 p. f. u. /cellずつ Si21細胞
(5X107 cells per 75cm2 flask )に接種した。 これによつて、 AcCP- Hが作る多角 体にィヌジステンパーウィルスの Fもしくは Hタンパク質が固定化される。 感染 後 27°Cで 4日間経過した細胞をフラスコから回収、 遠心(3, 000 rpm lOmin)して 沈殿を回収した。 PBS 溶液(phosphate- buffered saline, 20 mM NaH2P04, 20 mM
Na2HP04, 150 mM NaCl, pH 7.2)で洗浄した後、 氷中でホモジナイザ一を用いて磨 砕した。 磨砕後、 1% Tween 20 (Bio- Rad)を加えて遠心(15, 000 rpm 5min)を繰り 返し、 多角体と細胞片を分離した。
得られたィヌジステンパーウィルス F及び Hタンパク質固定化多角体は滅菌水
中で保存した。
5 · 96穴マイクロタイ夕一プレートを用いた ELISA法による抗原抗体反応定量 試験
96穴マイクロタイタープレート (FALCON社) の各ゥエルに PBSを 50 1入れ、 次に多角体懸濁液 (1 X 101Q個 /ml) を 2μΛ分注し、 1 2時間放置した。 上清を 除きゥエルを 37°Cで 12時間放置し、 乾燥させた (多角体の吸着)。 抗原抗体反応 を行うまでは、 こめ 96穴マイクロ夕イタ一プレートは室温で保管した。
抗原抗体反応を見る場合、まずゥエルを PBS(lOOml)で 2回洗浄し、次に Blocking solution (5 W/V Gelatin/PBS) 100mlを加え 37°C2時間放置した。 PBSで 2回洗 浄後、 2 倍段階希釈したィヌジステンパーウィルスで人工的に感作したィヌの血 清(中和抗体価 512倍)を 50mlずつ加え室温で 2時間反応させた。続いて、 Wash Buffer (0.1%V/V Tween20/PBS) 100ml で 4回洗浄し、 HRP-DoglgG: Bethyl社製 (10000倍希釈) を 50ml加え、 室温で 2時間反応させた。 反応後、 Wash Buffer で 4回洗浄し、 ABTS Solutionを 100 ml加え室温で 30分間反応させた。 1%SDS を 70 ml'加え反応を停止させた後、 反応液を 100mlずつ回収し 405mnで測定を行 つた。 .
Blocking solution の組成は 5% Gelatin/PBS で、 Wash Buffer は 0.1% Tween20/PBSで、 希釈 Bufferは 1% Gelatin/PBSである。
6. 凝集法による抗原抗体反応の検出
ィヌジステンパーウィルスの Fタンパク質 (VP3(C)- F) と H タンパク質 (VP3 (0 -H) を固定化した多角体と目的タンパク質分子を固定化していない空の 多角体の懸濁液(5 X108個の多角体/ ml) を 0.5^ 1とり、 これにリン酸緩衝液 9.5 l加えた。 平底 96穴のマイクロタイタープレート (FALCON社).の各穴に 80 1 のリン酸緩衝液を加えた。
次に、ィヌジステンパーウィルスで人工的に感作したィヌから採取した血清(中 和抗体価 512倍) を加え、 全量を 100^1とし、 振とう機で攪拌した。
本実施例において、 以下の結果が得られた。
1 . ィヌジステンパーウィルス F、 Hタンパク質の多角体への固定化
組み換えウィルス AcVP3 (A) -F, AcVP3 (C) - F、 Ac VP 3 (Xba) - F、 AcVP3 (52) -F と AcVP3 (A) -H, AcVP3 (C) - H、 AcVP3 (Xba) -H, AcVP3 (52) - Hのそれぞれを Si21細胞に 接種し、目的とするタンパク質が発現していることを SDS- PAGEで確認した(図 9 )。 この結果から、 多角体固定化シグナルが短い方が、 後の抗原抗体反応の検出にお いて非特異的な反応が生じないものと考え、 Fたんぱく質については AcVP3 (C) - F とまた Hタンパク質の方は AcVP3 (C) -H.を選択した。これらのウィルスをそれぞれ 多角体タンパク質を発現する組み換えウィルス AcCP- Hと共に Sf21細胞に同時に 接種し(図 1 0 )、ィヌジステンパーウィルスの F及び Hタンパク質の多角体への 固定化を試みた。 このようにして得られた多角体複合体をプロテインビーズとも いう。 なお、 多角体への F及び Hタンパク質の固定化の確認は精製して得られた 多角体の SDS- PAGEで確認した (図 1 1 )
2 . EL I S A法による抗体価の測定
ィヌジステンパーウィルスの F及び Hタンパク質を固定化した多角体を 96 穴 マイクロタイタ一プレートの各ゥエルの底に貼り付け、 十分乾燥させた後、 抗原 抗体反応を行った。 ィヌジステンパーウィルスに感作させたィヌの血清を 2倍段 階希釈し、 各ゥエルに加えて抗原抗体反応を行った。 次に、 この抗原抗体反応し たィヌの抗体を酵素標識した抗ィヌ抗体に対する二次抗体を用いて検出した。 一連の操作は以下のようにして行った。
1. 多角体懸濁液を分注し 12時間放置 (1本のチューブに作製して、 その懸濁液 を分注)
2. 上清を除きゥエルを乾燥 (多角体の吸着) 37°C 12時間放置
3. ゥエルを PBS (100ml) で 2回洗浄
4. ブロッキング溶液(5%W/Vゼラチン/ PBS) 100mlを加え 37°C 2時間放置
5. PBSで 回洗浄
6. 倍段階希釈した犬血清を 50nilずつ加え室温 2時間反応
7. Wash Buffer (0. 1 V/V Tween20/PBS) 100mlで 4回洗浄
8. HRP-DoglgG: Bethyl社製 (10000倍希釈) を 50ml加え室温 2時間反応
9. 洗浄用バッファーで 4回洗浄
10. ABTS Soln. 100 ml加え室温 30分間反応
11. 1 % SDSを 70 ml加え反応を停止
12. 100mlずつ回収し 405MIを測定
用いた希釈バッファ一は、 1 % ゼラチン/ PBSであった。
その結果、 今回用いたィヌジステンパーウィルスに感作させたィヌ血清は中和 抗体価としては 5 1 2倍のィヌ血清を用いた。 このサンプル血清を 2倍段階希釈 し反応の確認をしたところ、 16、 32、 64、 · · ·、 512倍はもとより、 さらに 1024、 2048、 4096 倍までの希釈段階までその抗体の存在を検出できなかった。 つまり:、 ィヌジステンパーウィルス抗体の測定方法としては、 中和抗体法よりも検出感度 はさらに 4〜8倍程度高いことが示唆された (表 1 )。
表 1
(倍希釈) 16 32 64 128 256 512 1024 2048 4096 8192 16384
CDV-F(CDV陽性血清) 0.336 0.284 0.251 0.196 0.132 0.083 0.046 0.016 0.005 0 0
CDV- F (正常血清) 0.116 0.104 0.065 0.033 0.009 0 0 0 0 0 0
Δ 0.17 0.18 0.186 0.163 0.123 0.083 0.046 0.016 0.005 0 0
CDV- H(CDV陽性血清) 0.253 0.2 0.169 0.125 0.083 0.046 0.015 0.003 0.001 0 0
GDV- H (正常血清) 0.136 0.072 0.04 0.017 0.001 0 0 0 0 0 0
A 0.1 17 0.128 0.129 0.108 0.082 0.046 0.015 0.003 0.001 0 0
H29S (CDV陽性血清) 0.131 0.073 0.045 0.029 0.008 0 0 0 0 0 0
H29S (正常血清) 0.091 0.05 0.026 0.013 0.003 0 0 0 0 0 0
A 0.04 0.023 0.019 0.016 0.005 0 0 0 0 0 0
表 1中、 上段は Fタンパク質固定化プロテインビーズとィヌジステンパーウイ ルス抗血清との反応を、 中段は H夕ンパク質固定化プロテインビーズとィヌジス テンパーウィルス抗血清との反応を、 下段は空のプロテインビーズとィヌジステ ンパーウィルス抗血清との反応を示す。
表 1に示すように、 従来法よりもさらに 4ないし 8倍感度を上げることに成功 した。 また、 この方法の場合、 正常血清 * CDV 陽性血清と反応、 プロテインビー ズを 96穴プレートに固定、ゼラチンを用いてブロッキング、ペルォキシダ一ゼ標 識抗体と反応、 発色および 405nmの吸光度を測定の操作を半日で完了することが でき、 約半日で血清中に含まれる抗体価を定量することが可能となる。
3 . 凝集反応による抗原抗体反応の検出
ィヌジステンパーウィルスの Fタンパク質 (VP3 (C) -F ) と H タンパク質 (VP3 (0 -H) を固定化したそれぞれの多角体及び目的夕ンパク質分子を固定化し ていない空の多角体の懸濁液 (5 X 108個の多角体 /ml ) を 0. 5 1 とり、 これにリ ン酸緩衝液 9. 5 /1 1加えた。 平底 96穴のマイクロタイタープレートの各ゥエルに 80 ^ 1 のリン酸緩衝液を加えた。 これに、 ィヌジステンパーウィルスで感作した ィヌから採取した血清 (CDV陽性血清) および正常血清を加え、 振とう機で 攪拌した。
振とう開始後、 1 5分から 3 0分程度経過するとィヌジステンパーウィルスの Fタンパク質もしくは Hタンパク質を固定化した多角体を加えたゥエルでは、 そ の中央付近に多角体の凝集塊が確認されるようになった。 さらに、 この凝集塊は 肉眼でも、 また低倍率の顕微鏡下でも明瞭に観察された (図 1 2 ) 。
本発明の多角体タンパク質複合体を用いた酵素結合抗体法(ELISA)と従来法(中 和抗体価測定法) を比較すると表 2のようになる。
表 2 従来法 多角体タンパク質 多角体タンパク質
(中和抗体価測定法) 複合体を用いた 複合体を用いた
酵素結合抗体法 (EUSA) 凝集法
培養細胞 ジステンパーウィルスと Vero細胞 不要 不要
ウィルス パルボウイルスと猫??港代細胞 判定までの S低 1週間必要 半日 15分
時間 判定 細胞変性効果による判定 発色法 感度 512倍 2048倍 ~4096倍
表 2に示すように、 本発明の多角体タンパク質複合体 (プロテインビーズ) を 用いたほうが、 短時間で、 より高感度 ·簡便に血清中の抗体の検出 (感染の有無 の判定) を行うことが出来ることが判明した。 産業上の利用可能性
本発明の検出法で用いる被検出物質に特異的に結合するタンパク質を固定させ た多角体タンパク質複合体を該被検出物質と接触させることにより、 集合させる ことができ、 形成された集合体を検出することにより被検出物質を検出すること ができる。 例えば、 本発明の多角体タンパク質複合体は、 免疫反応を利用した検 出に利用することができる。多角体タンパク質複合体に固定されたタンパク質は、 立体構造を維持しているので、 立体構造の喪失による反応性の低下も生じず、 高 感度に迅速に被検出物質を検出することが可能である。 また、 多角体タンパク質 複合体に固定されたタンパク質は、 結晶構造をとつており、 また多角体タンパク 質にコ一ティングされているので安定であるので、 本発明の検出キットは安定に 長期間保存できる。 さらに、 多角体タンパク質複合体は、 目的のタンパク質と多 角体タンパク質をコードするベクターを細胞に組込んで発現させることにより、
容易に大量に得られるので、 本発明の検出キットを容易に製造できる。
また、 被検出物質に特異的に結合するタンパク質を固定させた多角体タンパク 質複合体をマイクロ夕イタ一プレート等の担体に結合させ、 該担体を用いて酵素 抗体結合法で被検出物質を検出すること.もでき、 該方法により高感度かつ迅速に 検出することが可能である。
本明細書で引用した全ての刊行物、 特許および特許出願をそのまま参考として 本明細書にとり入れるものとする。 配列表フリーテキス卜
配列番号 3〜 6 プライマー