明 細 書
高分子複合材料とその製造方法
技術分野
[0001] 本発明は、高分子複合材料とその製造方法に関する。
背景技術
[0002] 近年、地球環境保全や化石資源の節約、省エネルギーなどの観点から、コストパー フォーマンスに優れた汎用高分子材料 (プラスチック)の高性能化'機能化技術及び 現溶融ブレンドコンパウンド技術の代替技術の開発が望まれて 、る。このために特性 の異なる 2種類以上の高分子をブレンドし複合ィ匕すると、各成高分子の物性を超える 材料を調製することが可能であり、異種高分子を共有結合で繋いだブロック共重合 体ゃグラフト共重合体などの単一な材料を新たに開発するよりも経済的であり、効率 的であることは良く知られている。
[0003] しかし、高分子はそれぞれに凝集エネルギー密度が異なり、一般に、相溶化 (分子 オーダーで溶け合う分子分散)することが難 U、。例えば汎用プラスチック代表的な 素材であるイソタクチックポリプロピレン(PP)とポリメタクリル酸メチル(PMMA)は共 通の有機溶媒を用いた均一溶液力 再沈殿調製しブレンドしてもマクロ相分離 (マイ クロメーターオーダーの海島構造形成:相溶化)してしまうという根本的な問題があつ た。
発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0004] 本発明は、新規な高分子複合材料、特に非相溶結晶性高分子 Z非結晶性高分子 のナノ分散系を提供することを目的とする。さらにその製造方法を提供することを目 的とする。
課題を解決するための手段
[0005] 本発明者等は力かる問題を解決すべく鋭意研究し、結晶高分子の結晶構造が崩 壊しない条件下で、通常熱力学的に混じり合わない非晶性高分子のモノマーを結晶 性高分子基質に含浸し、その含浸させたモノマーを基質内で重合することにより全く
新しい物性を発現する高分子複合材料である非相溶結晶性高分子 z非結晶性高 分子のナノ分散系を得ることができることを見出し、力かる知見に基づいて本発明を 兀成し 7こ。
[0006] 本発明にかかる高分子複合材料は、熱力学的に混じり合わない非晶性高分子と結 晶性高分子とからなるコンポジットであり、非晶性高分子が結晶性高分子の非晶層( 球晶間、フィブリルのミクロボイド、及びラメラ構造間の全て)にナノメートルオーダー で分散して共連続相相互進入網目(IPN)を形成していることを特徴とするナノコンポ ジットである。
[0007] また本発明は、力かる非晶性高分子が PMMA系、アクリル系、ポリスチレン系、ポリ 塩化ビニル系、ポリ酢酸ビニル系、ポリブタジエン系ポリマーであり、結晶性高分子が 低密度及び高密度ポリエチレン (LDPE、 HDPE)、シンジオタクチックポリスチレン( sPS)、ポリプロピレン(PP)、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリカーボナー HP C)、ポリアミド (PA)、ポリイミド (PI)である高分子複合材料である。
[0008] さらに本発明は、上の新規な高分子複合体の製造方法に関するものであり、結晶 高分子の結晶構造が崩壊しない条件下で、通常熱力学的に混じり合わない非晶性 高分子のモノマーを結晶性高分子基質に含浸し、その含浸させたモノマーを基質内 で重合することを特徴とする。
[0009] また本発明は、結晶高分子が、 LDPE、 HDPE, sPS、 PP、 PET、 PCのいずれか であり、非晶性高分子が PMMA系ポリマーであり、かつ超臨界流体中で非晶性高 分子のモノマーを含浸させ重合させることを特徴とする。
[0010] さらに本発明は、超臨界流体が超臨界二酸ィ匕炭素であることを特徴とする。
発明の効果
[0011] 本発明にかかる製造方法は、結晶高分子の結晶構造が崩壊しない条件下で、通 常熱力学的に混じり合わない非晶性高分子のモノマーを結晶性高分子基質に含浸 し、その含浸させたモノマーを基質内で重合することを特徴とする。従って、本発明 にかかる高分子複合材料は、熱力学的に混じり合わない非晶性高分子と結晶性高 分子とからなるコンポジットであり、非晶性高分子が結晶性高分子の非晶層 (球晶間 、フィブリルのミクロボイド、及びラメラ構造間の全て)にナノメートルオーダーで分散し
て共連続相相互進入網目(IPN)を形成していることを特徴とするナノコンポジットで ある。
図面の簡単な説明
[図 1]図 1は、 LDPE/PMMAscCO blend, HDPE/PMMAscCO blend, LDP
2 2
E/PMMAxyleneblend、 HDPE/PMMAxyleneblendの結晶融解ェンタルピ 一及び計算値を重量分率に対してプロットしたものである。
[図 2]図 2は、 HDPE、 HDPE/PMMA8%hybrid、 HDPE/PMMA14%hybrid
、 HDPE/PMMA20%hybrid、 HDPE/PMMA27%hybrid、 HDPE/PMM
A54%hybrid、 HDPE/PMMA102%hybridの TGの結果を示す。
[図 3]図 3は、 LDPE、 LDPE/PMMAO. 7%hybrid、 LDPE/PMMA13%hybr id、 LDPE/PMMA33%hybrid、 LDPE/PMMA136%hybridの TGの結果を 示す。
[図 4]図 4は、 HDPE、 PMMA、 HDPE/PMMA50%24時間含浸、 HDPE/PM MA95%24時間含浸、 HDPE/PMMA102%1時間含浸、 HDPE/PMMA95 o/oアニーリング 170°C1分、 HDPEZPMMA有機溶媒系 blendの DMA曲線(昇温 レート 5°CZ分、周波数 10Hz)を示す。
[図 5]図 5は、 LDPE、 PMMA、 LDPEZPMMA99%24時間含浸、 LDPEZPM MA89%1時間含浸、 LDPE/PMMA有機溶媒系 blend、 LDPE/PMMA105 %24時間含浸アニーリング 170°C20分、の DMA曲線 (昇温レート 5°CZ分、周波数 10Hz)を示す。 DMA曲線を示す。
[図 6]図 6は、 HDPE、 HDPE/PMMA有機溶媒系 blendl70°C20分、 HDPEZP MMA115. 4%24時間含浸(AIBNO. lmol%)、 HDPE/PMMA123. 7% 24 時間含浸(AIBNO. lmol%) , HDPE/PMMA79. 7%24時間含浸(AIBNO. 1 mol%) , HDPE/PMMA50. 3%24時間含浸(AIBNlmol%)、 HDPE/PMM A77. 8%24時間含浸(AIBNlmol%)、 HDPE/PMMA109. 5%1時間含浸(A IBNlmol%)、の SAXS測定で得られたローレンツ補正 Iq2の qに対するプロットを示 した。
[図 7]図 7は、 HDPE/PMMA50. 3%24時間含浸(AIBNlmol%)、 HDPEZP
MMA50. 3%24時間含浸(AIBNlmol%)ァ--リング 170°C1分、 HDPEZPM MA77. 8%24時間含浸(AIBNlmol%)、 HDPEZPMMA87. 3%24時間含浸 (AIBNlmol%)ァ--リング 170°C1分、 HDPEZPMMA109. 5%1時間含浸(AI BNlmol%) , HDPE/PMMA109. 5%1時間含浸(AIBNlmol%)ァ--リング 1 70°C1分、の SAXS測定で得られたローレンツ補正 Iq2の qに対するプロットを示した
[図 8]図 8は、 HDPE/PMMA115. 4%24時間含浸(AIBNO. lmol%)、HDPE /PMMA115. 4%24時間含浸(AIBNO. lmol%)ァ二-リング 170°C40分、 HD PE/PMMA123. 7%24時間含浸(AIBNO. lmol%)、 HDPE/PMMA123. 7%24時間含浸(AIBNO. lmol%)ァ--リング 170°C5分、 HDPE/PMMA79. 7%24時間含浸(AIBNO. lmol%) , HDPE/PMMA79. 7%24時間含浸(AIB NO. lmol%)ァ--リング 170°C5分、 HDPE/PMMA79. 7%24時間含浸(AIB NO. lmol%)ァ二-リング 170°C40分、の SAXS測定で得られたローレンツ補正 Iq2 の qに対するプロットを示した。
[図 9]図 9は、 LDPE、 LDPEZPMMA有機溶媒系 blendl70°C20分、 LDPEZP MMA82. 2%24時間含浸、 LDPE/PMMA84. 4%24時間含浸、 LDPE/PM MA106. 7%1時間含浸、の SAXS測定で得られたローレンツ補正 Iq2の qに対する プロットを示した。
[図 10]図 10は、 LDPE/PMMA82. 2%24時間含浸、 LDPE/PMMA104. 7% 24時間含浸ァ二-リング 170°C20分、 LDPEZPMMA84. 4%24時間含浸、 LDP E/PMMA84. 4%24時間含浸ァ--リング 170°C5分、 LDPE/PMMA84. 4% 24時間含浸ァ二-リング 170°C40分、の SAXS測定で得られたローレンツ補正 Iq2の qに対するプロットを示した。
[図 11]図 11は、 HDPEZPMMA100%有機溶媒系 blendl70°C20分の TEM (倍 率 4, 000倍)。
[図 12]図 12は、 HDPE/PMMA77. 8%24時間含浸の TEM (倍率 4, 000倍)。
[図 13]図 13は、 HDPE/PMMA87. 3%24時間含浸ァ二-リング 170°C1分の TE M (倍率 4, 000倍)。
[図 14]図 14は、 LDPEZPMMA100%有機溶媒系 blendl70°C20分の TEM (倍 率 4, 000倍)。
[図 15]図 15は、 LDPE/PMMA82. 2%24時間含浸の TEM (倍率 4, 000倍)。
[図 16]図 16は、 HDPE/PMMA104. 7%24時間含浸ァ二-リング 170°C20分の T EM (倍率 4, 000倍)。
[図 17]図 17は、 sPS基質自体の TEM (倍率 7, 000倍)を示す。
[図 18]図 18は、 sPSZPMMA有機溶媒ブレンドの TEM (倍率 7, 000倍)結果を示 す。
[図 19]図 19は、 sPSZPMMA超臨界ブレンドの TEM写真(倍率 7, 000倍)を示す
[図 20]図 20は、 sPSZPMMA超臨界ブレンドの拡大 TEM写真(倍率 40, 000倍) を示す。
[図 21]図 21は、 sPSZPMMA超臨界ブレンドを 300°Cで 1分間アニーリングした結 果の TEMを示す。ここで (A)は倍率 7, 000倍、(B)は倍率 40, 000倍。
[図 22]図 22は、 sPS、 PMMA、 sPS/PMMA(scCOブレンド 1 : 0. 8) , sPS/P
2
MMA (有機溶媒ブレンド 1: 1)の、 TGによる分析結果を示す。
[図 23]図 23は、 sPS、 PMMA、 sPS/PMMAscCO
2ブレンド(85wt%)、 sPSZP
MMAscCOブレンド(290wt%)の、 DMA (昇温レート 5°CZ分、周波数 10Hz)に
2
よる分析結果を示す。
[図 24]図 24は、 sPS、 PMMA、 sPS/PMMAscCOブレンド(85wt%)、 sPSZP
2
MMAscCOブレンド(95wt%、アニーリング、 190。C、 lmin) , sPS/PMMAscC
2
Oブレンド(79wt%、アニーリング、 190°C、 lOmin)の、 DMA (昇温レート 5°CZ分
2
、周波数 10Hz)による分析結果を示す。
[図 25]図 25は、 sPS、 sPS/PMMAscCOブレンド(65wt%)、 sPS/PMMAscC
2
Oブレンド(330wt%)、 sPSZPMMA有機溶媒ブレンドの、 SAXS測定で得られ
2
たローレンツ補正 Iq2の qに対するプロットを示した。
[図 26]図 26は、 sPS/PMMAscCOブレンド(65wt%)、 sPSZPMMAscCOブ
2 2 レンド(65wt%、アニーリング、 190。C、 lmin)、 sPS/PMMAscCOブレンド(96
wt%、アニーリング、 190。C、 5min)、 sPSZPMMAscCOブレンド(79wt%、 Ύ二
2
一リング、 190°C、 lOmin)の SAXS測定で得られたローレンツ補正 Iq2の qに対する プロットを示した。
[図 27]図 27は、 sPS/PMMAscCOブレンド(330wt%)、 sPSZPMMAscCO
2 2 ブレンド(330wt%、アニーリング、 190°C、 lmin)の SAXS測定で得られたローレン ッ補正 Iq2の qに対するプロットを示した。
[図 28]図 28は、 sPS基質、 PMMA、 sPS/PMMAscCOブレンド(86wt%)の、引
2
張り試験 (応力 Z歪み)の結果を示す。
[図 29]図 29は、 PP、有機溶媒ブレンド、含浸条件(35°Cで 5分間)で調製した PPZ PMMAの SAXS測定で得られたローレンツ補正 Iq2の qに対するプロットを示した。
[図 30]図 30は、 PP、有機溶媒ブレンド、種々の含浸条件 (40°Cで 5分間、 1時間)で 調製した、 PPZPMMAの SAXS測定で得られたローレンツ補正 Iq2の qに対するプ ロットを示した。
発明を実施するための最良の形態
[0013] (高分子複合材料)
本発明の高分子複合材料は、 2種類以上の高分子力もなるコンポジットである。ま た、これらの高分子は熱力学的に混じり合わない高分子である。かかる高分子は従 来の方法では、溶液で混合して再沈殿させても、溶融混合ブレンドしてもいわゆるマ クロ分離した構造 (例えばミクロンオーダーの海島構造)となる。本発明の高分子材料 はこのような 2種以上の高分子がナノオーダーで混合した構造を有するコンポジット である。特に本発明の力かる高分子複合材料は結晶性高分子と非結晶性高分子か らなるコンポジットであることを特徴とする。より詳しく説明すると、本発明にかかる高 分子複合材料は、熱力学的に混じり合わない非晶性高分子と結晶性高分子とからな るコンポジットであり、非晶性高分子が結晶性高分子の非晶層(球晶間、フィブリルの ミクロボイド、及びラメラ構造間の全て)にナノメートルオーダーで分散して共連続相 相互進入網目(IPN)を形成していることを特徴とするナノコンポジットである。
[0014] ここで本発明で使用可能な非結晶性高分子としては特に制限はなぐ望まれる物 性を有する公知の非結晶性の高分子であればよい。具体的には、 PMMA系、ポリメ
チルアタリレート(PMA)系、ポリスチレン(PS)系、ポリ塩化ビュル(PVC)系、ポリ酢 酸ビュル(PVAC)系、ポリブタジエン系などの高分子が挙げられる。
[0015] また本発明で使用可能な結晶性高分子も特に制限はなく結晶化度の知られた種 々の高分子が選択可能である。具体的には、ポリエチレン系、ポリスチレン系、ポリプ ロピレン系、ポリエステル系、ポリアミノ系、ポリカーボナート系が挙げられる。特に公 知の低密度ポリエチレン(LDPE)や高密度ポリエチレン(HDPE)、シンジオタクチッ クポリスチレン、ポリプロピレン(PP)、ポリエステル(PET)、ポリアミノ(PA)、ポリイミド (PI)、ポリカーボナート (PC)が挙げられる。結晶性高分子は、結晶層と非晶層が存 在し、種々の公知の方法でその結晶度や結晶構造の構造を決めることが可能である 。また結晶性高分子はその分子鎖の折り畳たたみ結晶がナノメートルオーダーのラメ ラ構造を形成し、ラメラ構造は非晶タイ分子 (非晶層)によりラメラ繰り返し構造を形成 し、さらにそれらがフィブリルとなり、数/ z m~¾mmオーダーの球晶に成長する階層 構造をとつている。本発明にかかる高分子複合材料は、非結晶高分子がかかる結晶 性高分子の球晶間、フィブリルのミクロボイド、及びラメラ構造間にナノメートルオーダ 一で分散して、共連続相相互進入網目(IPN)構造を有する。従って本発明の高分 子複合材料は結晶性高分子のラメラ繰り返し構造が変化していることが特徴である。
[0016] さらに、非結晶高分子が結晶性高分子の球晶間、フィブリルのミクロボイド、及びラ メラ構造間にナノメートルオーダーで分散して、共連続相相互進入網目(IPN)構造 を有することから、本発明の高分子複合材料は、非結晶高分子及び結晶性高分子 自体とは全く相違するモルホロジーを示し、かつ熱力学的、さらに力学的物性を示す ことを特徴とする。具体的には結晶融解挙動、熱分解挙動、 Tg、貯蔵弾性率等にお いて独自の値を示す。
[0017] (製造方法)
以上説明した本発明の高分子複合材料は、結晶高分子の結晶構造が崩壊しない 条件下で、通常熱力学的に混じり合わない非晶性高分子のモノマーを結晶性高分 子基質に含浸し、その含浸させたモノマーを基質内で重合することを特徴とする。
[0018] ここで結晶高分子の結晶構造が崩壊しな!、条件下とは、結晶性高分子を基質とし て用い、その結晶性構造が熱的作用または溶媒との相互作用により崩壊させない条
件であれば特に制限はない。好ましくは結晶高分子基質の形状を変形することなぐ 非晶性高分子モノマーを必要量溶解し、かつそのまま (in— situ)重合させることがで きるものであればよい。
[0019] 本発明者は力かる特殊な条件を実現するものとして種々の超臨界状態の流体が使 用できることを見出した。特に超臨界二酸ィ匕炭素の使用が好ましい。この超臨界流体 中では、基質である結晶性高分子はその形状が大きく変わることなく十分な量の非 晶性高分子モノマーを含浸することができる(平衡)。また、含浸後の重合反応の際、 結晶性高分子内で非晶性高分子が生成するに従い、結晶性高分子内の非晶性高 分子モノマーの濃度が減少し平衡がずれることにより、該モノマーがさらに結晶性高 分子内に移動し重合反応が進行することが可能となる。
[0020] 具体的に本発明で使用可能な結晶高分子は、基質として使用できるものであれば 特に制限はない。所望の特性'機能を有する種々の公知の結晶性高分子が使用で き、例えば、 LDPE、 HDPE、 sPS、 PP、 PET、 PC、 PA、 PITなどが挙げられる。こ こで LDPE、 HDPE、 sPSの結晶度は公知であればその値を利用可能であり、公知 でなければ適当な測定方法 (広角 X線回折 (WAXD)、示差走査型熱量計 (DSC) 等)により結晶度を知ることができる。 LDPEや HDPEは種々の構成成分やその存在 比、分子量 (分子量分布)のものが市販されておりこれらを好ましく使用することがで きる。また sPSについても種々市販されておりこれらを使用することができる。また、例 えば特開昭 62-187708号公報、特開昭 63- 191811号公報に記載の方法に従い 製造したものを使用してもよい。具体的には、不活性炭化水素溶媒中、または溶媒 不存在下に、チタン化合物及び水とトリアルキルアルミニウムの縮合生成物を触媒と して種々のスチレン系モノマーを重合することにより得られる。
[0021] またこれらを基質として用いる場合の形状についても特に制限はない。フィルム、板 状、ペレット状、粒状、または種々の形状の成形体が挙げられる。かかる形状に成形 する方法についても特に制限はなく通常公知の方法が好ましく使用できる。
[0022] 本発明の製造方法で使用する非晶性高分子は、モノマーの状態でまず上の結晶 性高分子基質に含浸させるものである。従って超臨界流体中で基質の外側と内側で 濃度勾配が達成されるモノマーであれば特に制限されない。所望の性質'機能を発
揮させるベく種々の高分子モノマーが選択可能である。具体的には、 PMMA系、 P S系、 PMA系が挙げられる。特に本発明においては PE系、 PS系、 PP系との組み合 わせで PMMA系の使用が好ま Uヽ。
[0023] 含浸の条件には特に制限はなぐ使用する超臨界流体の中に十分なモノマーが含 浸するまでの適当な時間、適当な温度で放置することで可能である。ここで含浸温度 は超臨界条件にも依存し、続いて行う重合反応に重合開始剤が含まれている場合、 その重合開始温度より数十度程度低い温度が好ましい。具体的には臨界状態の二 酸化炭素を使用する場合、含浸圧力は 1 - 40MPa、温度は - 50 - 150°C、時間は 0 . 1 96時間の範囲である。また含浸の程度は含浸後に基質を取り出し重量増加を 測定することで容易に知ることができる。含浸条件により重量増加は数 wt% 数百 wt %までの範囲で自由に設定可能である。
[0024] 本発明において好ましくは、含浸後、含浸させたモノマーをそのまま重合反応させ る (in— situ反応)。重合反応条件は、使用した超臨界流体、非晶性高分子モノマー の種類、重合反応の種類により適宜選択することができる。好ましくは特定の温度で 開始できるラジカル重合反応である。ラジカル重合反応に使用するラジカル重合反 応開始剤は、すでに説明した含浸で使用する温度より数十 °C高い温度で開始するも のが好ましい。具体的には、 α、 α,-ァゾビスイソブチ口-トリル (ΑΙΒΝ)、過酸化べ ンゾィル (ΒΡΟ)等が挙げられる。超臨界流体が二酸化炭素であり、モノマーがメチ ルメタクリル酸 (ΜΜΑ)の場合、重合開始剤は約 80°Cで使用できる ΑΙΒΝが好まし い。重合反応時間についても特に制限はなぐ適宜選択し、必要ならば重合停止剤 の添加、反応系の冷却等で停止することができる。また反応装置から取り出した後、 基質外での重合反応により生成したポリマーを除く必要があるが、適当な溶媒により 洗浄することが好ましい。
[0025] 得られた高分子複合体は、基質の形状はほぼ保持されて 、るが増カロした非晶性高 分子により変化する場合がある。例えば方形のフィルム形状を基質とした場合得られ た複合体の形状は方形ではあるがより大きな方形を示す。
[0026] 以下実施例によりさらに詳細に説明する。
実施例 1
[0027] (PMMAと HDPE及び LDPEの複合材料)
測定装置: TG、 DMAの測定にはそれぞれ、精ェ電子工業株式会社製 EXSTA R6000シリーズ TGZDTA6200と、ァクティー計測制御株式会社製動的粘弾性 D VA-220を使用した。引っ張り試験には、 INTESCO IM-20を使用した。 SAXSの 測定は高エネルギー加速器研究機構フォトンファクトリーを使用した。
[0028] 反応装置:耐圧硝子工業 (株)製の、最高使用温度'圧力が 200°C ' 12MPaのもの と、最高使用温度'圧力 400°C '40MPaのものとの 2種類の超臨界反応装置を使用 した。
[0029] 基質の作成:市販の低密度ポリエチレン (LDPE、分子量 (Mn) 1. 4 X 104、結晶 化度 37%)ペレット、および日本ポリオレフイン社製高密度ポリエチレン (HDPE、分 子量 (Mn) 1. 5 X 105、結晶化度 71%)ペレットをそれぞれポリエチレンテレフタレー トのシートではさみ、ヒートプレス機でペレットを 10— 15分間溶解した後、 180°C、 30 MPaで 30分間ヒートプレスしてシート状にカ卩ェし、これを冷却銅板にはさみ急冷した oその後、シートは 20mm X 20mm X O. 5mmにカットして基質(約 0. 2g)とした。力 力る基質を表 1及び 2にまとめられた条件で含浸 '重合させた。
[0030] 含浸条件:メタクリル酸メチル(MMA) 5g、 α、 α, -ァゾビスイソブチ口-トリル (ΑΙ ΒΝ)を表 1、 2に示された所定量を採取し、基質と共に反応装置に仕込んだ。後反応 装置内に二酸化炭素を表 1、 2の条件で供給し、 40°C、 7MPaの条件で、 1時間及び 24時間含浸させた。
[0031] 重合条件:含浸後、表 1、 2の重合条件に示されるように、そのまま温度を 80°Cにし て所定圧力下で所定の時間反応させた。反応終了後、反応セルを急冷しセル内の 二酸ィ匕炭素を系外に除去した。基質表面に付着したポリマーを取り除くため、ァセト ン 200mlでソックスレー還流器を用いて 1時間還流させ、得られた高分子複合材料 表面に付着したポリマーを溶解、洗浄を行った。その後基質が恒量となるまで 50°C にて真空加温乾燥した。溶解したポリマーは反応セル内のポリマーと同様にへキサ ンにより再沈殿して分別回収後、 50°Cにて真空加温乾燥し回収した。
[0032] 得られた高分子複合材料の重量増加率も表 1、 2にまとめた。
[0033] [表 1]
モノマ一 AIBN (モノマ一比) 3iS宋 1 重合条件 重量増加率 ( t%)
MMA PE 3mol% 40"C7 Pa24h 80°Cl0.54MPa24h 0.2
M A PE 3mol% 40°C7MF¾24h 80°Cl0.68MPa24h 7.1
MMA PE 3rnol% 40*C7 Pa24h 80*010.25MP24h 3.8
MMA PE 3mol 40"C7 Pa24h 80°Cl0.98 F¾24h 6.8 〕〔0034
MMA PE 3mo!% 40*C 7 MPa1 h 80°Cl0.48MF¾4h 0.7
MMA PE 3mol% 40*C 7 MPa1 80'Cl0.1M¾24h -
MMA PE 3mol% 40*C7 Pa1h 80°C9.9MPa24h -
MMA HOPE 3mol% 40'C7MPa24h S0°Cl0.89MPa24 20.0
MMA HDPE 3mol% 40°C7MF¾24h 80°C10.89MPa24 10.9
MMA HOPE 3mol% 40'C7MPa24 80"Cl1.34 f¾24h 11.5
MMA 3mol% 40*C 7 MPa1 h 80eCl1.33MPa24h 27.0
MMA HOPE 3rnol% 40°C 7 Pa1 h 80,,C11,21MPa24h 21.4
MMA ΠΙ 3mol% 40aC 7 Pa1 h 80"Cl3.3MPa24h 8.4
MMA 3mol% 40"C 7 Pa1 h 80。C11 ,13MPa24h 25.3
MMA P 1mol 40'C7 Pa24h 80sClO.83MS¾i24h 86.1
MMA PE 1mol% 40aC7MPa24h B0*Cl0.9MPa2 h 104,7
MMA 1rnol% 40"C 7 Pa1 h 80"Cl1.00MPa24h 118.7
MMA PE 1mol% 40°C 7 Pa1 h 80°Cl1.03 F¾24h 13S.3
MMA HDPE 1 mol% 40"C7 Pa24 80°Cl0.9SMPa24h 10.2
MMA HOPE 1mol% 40aC7MPa24h 80eCl0.5MPa24h 94,5
MMA HDPE 1mol 40sC7MPa24h 80°Cl0.4MPa2 h 50.3
MMA HOPE 1mol% 40"C 7 MPa1 h 80°C8.4 Pa24h 43.9
MMA HDPE 1mol% 4Q'C 7 Pal h 80°Cl0.2 Pa2 h 53.9
MMA HOPE 1mol% QsC7MPa1h 80°Cl0.80MF¾24h 8.8
MMA HDPE 1mol% 40"C 7 Pa1 h 80eC10.5MI¾24h 102.6
MMA HDPE 1mol% 0aC7MPa1h 80eCl0.1 Pa2 h 36.8
MMA HDPE 1mol% 40*C7MPa1h 80°C9.8MPa24h 23.4
*«w ( ¾)ヽ屮v: aTA| -
結果:図 1および表 3には得られた高分子複合材料の示差走査型熱量分析 (DSC )の測定結果を示した。ここで図 1は LDPE HDPEの結晶融解ェンタルピーを LDP E HDPEの重量分率に対してプロットしたものである。高分子複合材料中の MMA の含量が増加すると結晶融解ェンタルピーはほぼ直線的に減少することが分かる。 また表 1には LDPEおよび HDPEの重量分率に対する高分子複合体の融点、結晶
融解ェンタルピー、結晶化度をまとめた。
[表 3] 第 1表. Crystallization determined from DSC.
HDPE
Content of PE (wt ) Tm C¾) H (j/g) crystallinity (%)
100 126.4 209.0 71.3
83.3 125.0 167,8 68.8
78.7 126.9 164.0 71.1
69.5 124.2 137,5 67.5
51.4 125.4 120.3 79.9
49.4 125.0 97.0 67.0
LDPE
Content of PE (wtX) Tm (°c) CJ/g) crystallinity (%)
100.0 99.6 107.9 36.8
96.3 97.8 105.4 37.3
93.4 93.8 91.3 33.4
50.2 95.5 61.1 41.6
48.9 89.1 57.0 39,8
45.7 99,4 44.0 32.9
42.5 93.7 52.1 41.8
Crystallinity = Ca/WPE
Ca(%) = H 7 H 0 x 100
[0037] 図 2及び図 3にはそれぞれ HDPE、 LDPEと PMMAとの複合体(それぞれ HDPE ZPMMA (数字)0 /0hybrid、 LDPEZPMMA (数字)0 /ohybridと表される。ここで複 合体に含まれる PMMAの重量%を (数字)%で示す)の熱重量分析 (TG)の結果を 示す。 PMMAの増加により熱分解開始温度は HDPE、 LDPEともに徐々に低下し、 熱分解速度は PMMA組成の増加により大きく変化することが分かる。
[0038] 図 4及び図 5にはそれぞれ HDPE、 LDPEとの複合体の DMA曲線を示す。
[0039] HDPEでは有機溶媒を用いて HDPEと PMMAとをブレンドして得られた HDPEZ PMMA有機溶媒系 blendとは明らかな違いがあることが分かる。この結果は本発明
の複合体(scCO系 hybrid)での PMMA鎖の可塑ィ匕効果によると考えられる。一方
2
、 170°Cで 1分間加熱処理すると HDPEZPMM A有機溶媒系 blendとほぼ同様の 曲線となり、本発明の複合体では可塑ィ匕効果が見られな力つた。
[0040] LDPEZPMMAhybridでは、含浸時間(lhと 24h含浸)により貯蔵弾性率 (Ε' ) に違いがあることが分かる。 LDPEZPMMAhybridの tan δにおいてもホモ ΡΜΜ Α鎖の Tgと比べ高温側へ Tgが移動することが分かる。さらにまた HDPEZPMM A 有機溶媒系 blendとも有意に相違することが分力る。
[0041] 図 6、 7、 8、 9及び 10には、 SAXS測定で得られたローレンツ補正 Iq2の q (散乱べク トル)に対するプロットを示した。ここで図 6、 7はそれぞれ、純物質 HDPE、有機溶媒 系 blend, scCO系 hvbrid、および scCO系 hvbridの加熱(アニーリング)後を比較
2 2
したものである。 scCO系 hybridは HDPEと比較して散乱ピークに違いが認められ、
2
ラメラ繰り返し構造が変化し、その長周期に違いが現れた。特に scCO系 hybrid
2
AIBNO. lmol%で調製したものについては長周期に由来するピークが減少し消失 する傾向を示した。これはラメラ結晶層間の全ての非晶相で PMMAが生成し、モノ マー MMAがより均一に含浸し'重合した結果によると考えられる。
[0042] 図 7,図 8は HDPE系での scCO系 hybridと scCO系 hybrid加熱(ァユーリン
2 2
グ)後を比較したもので、ラメラ繰り返し長周期由来のピークトップに変化が現れ、長 周期が加熱により変化し、 scCO系 hvbridは非晶層で生成した PMMAが熱により
2
幾分分離崩壊したと考えられる。
[0043] 図 9は LDPE, LDPEZPMMA有機溶媒系 blend, scCO系 hybridとの比較を
2
したものである。 scCO系 hybridはラメラ繰り返し構造長周期由来のピ-クがほぼ消
2
失しいることから、 PMMAがラメラ結晶層間の全ての非晶相で均一に生成したことを 示している。
[0044] 図 10は scCO系 hybridと scCO系 hybrid力卩熱後 5、 20、 40分で比較したもの
2 2
である。加熱の時間に応じて、ラメラ繰り返し構造長周期由来のピ-クが幾分観測でき る力 有機溶媒系 blendに比較して極めて弱いピークであり、 scCO系 hybridは L
2
DPEの結晶が融解する条件で加熱しても、その構造はほとんど分離崩壊していない と考えられる。
[0045] 図 11は HDPEZPMMA100%有機溶媒系 blendの薄片(クライオミクロトーム法) の TEM写真である。白い部分は空隙であり、その周りに黒く見えるところが PMMA ( 島)、海相は HDPEである。このように TEM写真はミクロンオーダーのマクロ相分離 をしている。
[0046] 図 12は HDPE/PMMA77. 8%hybrid 24h含浸の TEM写真(常温ミクロトーム 法)である。 白い部分と黒い部分の筋は明瞭に現れている力 これはミクロトームのチ ャタリングによる。しかし有機溶媒系 blendと比較して、マクロ相分離が全く確認できな いこと力も PMMAはナノメートルオーダーで均一に分散していると考えられる。
[0047] 図 13は HDPE/PMMA87. 3%hybrid 24h含浸ァ--リング(170°C、 1分)後 の TEM写真(常温ミクロトーム法)である。 1分間のァ二-リングよってもミクロンオーダ 一の海島構造は確認できず、マクロ相分離は起きておらず、均一な分散状態を保つ ている事が確認できる。
[0048] 図 14は LDPEZPMMA100%有機溶媒系 blendの TEM写真(クライオミクロトー ム法)である。 白い部分は空隙であり、 LDPEが比較的柔らかいため切断時に硬い P MMA抜け出て穴となってしまったことによる。モルフォロジ一はミクロンオーダーのマ クロ相分離構造(島が PMMA、海力LDPE)を形成して!/ヽることが確認できた。
[0049] 図 15は LDPE/PMMA82. 2%hybrid 24h含浸の TEM写真(常温ミクロトーム 法)である。マクロ相分離構造は全く確認できず、 PMMA力 LDPEにより均一に分散 していることを示している。
[0050] 図 16は LDPEZPMMA87. 3%hybrid 24h含浸アニーリング 170°C20分の TE M写真(常温ミクロトーム)である。加熱時間 20分においてさえもなおミクロンオーダ 一のマクロ相分離は確認されな ヽことから、形成されたナノメートルオーダーの均一 分散構造を保って!/ヽると考えられる。
実施例 2
[0051] (PMMAと sPSの複合材料)
反応に用いた試薬は以下のように精製した。
[0052] シンジォタクチックポリスチレン(sPS)は株式会社出光製のシート形状を用いた。 a
, a ' ーァゾビスイソプチ口-トリル (AIBN)は関東ィ匕学 (株)製 (鹿特級)の AIBNをメ
タノール精製したものを使用した。メタクリル酸メチル (MMA)は和光純薬工業株式 会社製 (98. 0%)を用いた。
[0053] 反応装置は実施例 1で使用したものと同じ装置を用いた Ciasco SCF— Get (超臨 界二酸化炭素流体注入ポンプ)、 SCF-Sro (空気恒温槽) )。
[0054] 基質の作成: sPSのシートを 20 X 20 X 0. 3mmにカットして使用した。
[0055] 含浸条件:メタクリル酸メチル(MMA) 2g、 α、 α, -ァゾビスイソブチ口-トリル (ΑΙ
ΒΝ)を lmol% (0. 0328g)を採取し、基質と共に反応装置に仕込んだ。後反応装 置内に二酸ィ匕炭素を表 4の条件で供給し、 40°Cで表 4に記載の圧力で 1時間含浸さ せた。
[0056] 重合条件:後温度を 80°Cにして所定圧力下で 24時間反応させた。反応終了後、 反応セルを急冷しセル内の二酸ィ匕炭素を系外に除去した。基質表面に付着したポリ マーを取り除くため、アセトン 200mlでソックスレー還流器を用いて 1時間還流させ、 得られた高分子複合材料表面に付着したポリマーを溶解、洗浄を行なった。その後 基質が恒量となるまで 50°Cにて真空加温乾燥した。溶解したポリマーは反応セル内 のポリマーと同様にへキサンにより再沈殿して分別回収後、 50°Cにて真空加温乾燥 し回収した。
[0057] 得られた高分子複合材料の重量増加率も表 4にまとめた。
[0058] [表 4]
上で製造された高分子複合体 (以下、「sPSZPMMA臨界ブレンド」とする。)と比較 する目的で有機溶媒中で sPSと PMMAを溶解させて沈殿させて得られたブレンド( 以下、「sPSZPMMA有機溶媒ブレンド」とする。)、及びそれぞれのァニール処理 して得たものの透過電子顕微鏡 (TEM)観察の結果を図 17— 21に示した。図 17〖こ
は sPS基質自体の TEM写真を示す。図 18には有機溶媒ブレンドの TEM写真を示 す力 従来知られているようにマクロ相分離を起こし、大きな海島構造のモルフォロジ 一を形成しているが分かる。これに比較して、図 19、 20で示されるように sPSZPM MA超臨界ブレンドでは観察倍率ではミクロンオーダーの海島構造のような明確なモ ルフォロジ一は見られないことが特徴である。この結果は sPSZPMMA超臨界ブレ ンドではむしろナノメートルオーダーのミクロ相分離のモルフォロジ一を形成している ことを意味する。さらに図 21は sPSZPMMA超臨界ブレンドを sPSの結晶が融解す る温度 300°Cで 1分間アニーリングした後の TEM写真を示す。確かにァニール処理 により海島構造のホモロジ一の形成が見られる力 その海島構造は有機溶媒プレン ドで見られるものより遥かに小さなサイズのものであることが分かる。この結果は、超臨 界によるブレンドの構造が有機溶媒によるブレンドに比較して熱に対して安定である ことを意味する。
[0059] 図 22には TGによる分析結果を示す。有機溶媒ブレンドでは、 PMMAが分解した 後 sPSが分解していることが分かる。一方、超臨界ブレンドは、 340°C付近で全ての PMMAが分解することが分かる。この結果は PMMAポリマー分子が sPSポリマー分 子に強く作用し合うため、それぞれ独立して熱分解反応が起こり得ないことを意味す る。これは、下の SAXSの測定結果力らも強く示唆されるように、 PMMAポリマー分 子が sPSポリマー分子の非晶質部分に強く作用していることを意味する。
[0060] 図 23、 24には DMAによる分析結果を示す。図 23に示される sPSZPMMA超臨 界ブレンドでは、 sPS自体の tan δピーク(Tg)は 110°C付近であり、 PMMA自体の t an δピークは 140°C付近にあることが分かる。一方、超臨界ブレンドでは、 tan δピ ークは全体的に低温側にシフト(PMMAの含有量により 90—120°C付近)しているこ とが分かる。
[0061] さらに E' を見ると、 sPSでは一度減少し、再び上昇する。これは、 sPSの構造にお いて再配列が起こったためと考えられる。一方超臨界ブレンドでは PMMAの含有量 が多 、ほどこの再配列が起こる温度が上昇し、戻る幅が減少して 、ることが分かる。 重量増加率 300wt%においてはほとんど戻らない。また、図 24に sPSZPMMA超 臨界ブレンドをアニーリングした結果を示す力 190°Cに加熱することで再配列が既
に進行しているので、 E' においてそのピークが観測されないが、アニーリング前と同 等の強度を保っていることがわかる。この結果は、 SAXSの測定結果からも強く示唆 されるように、 PMMAポリマー分子が sPSポリマー分子の非晶質領域に強く作用し、 sPSの再配列を阻害していると考えられる。興味深いことに、この現象は、 PMMA自 体の分解温度以上においてもその効果が認められることである。
[0062] 図 25— 27には結晶構造解析のための小角 X線散乱(SAXS)曲線を示す。 sPS自 体では、ラメラ繰り返し構造の長周期は観測されなカゝつた。また有機溶媒ブレンドで は海島構造を形成しているため小角側ほど散乱強度が増大した。一方、超臨界ブレ ンド(65wt%)では q=0. 04A— 1 (長周期 16nm)においてそのピークが観測される 1S この結果は PMMAが sPS中の特定の非晶領域に侵入 (ブレンド)した結果、ラメ ラ繰り返し構造間が広げられことによると考えられる。また PMMAの含浸量が増加し たとき、そのピークが q = 0. 018 A—1 (長周期 35nm)にシフトしている。これは、 sPS 中のラメラ繰返し構造間の非晶層に含浸した PMMAがさらに非晶領域を広げ、ラメ ラ繰り返し構造間が広げられたことによると考えられる。超臨界ブレンドをアニーリング 処理(300°C、 lmin)したものではこの長周期のピークがほぼ消失し小角側に大きな ピークが観測される。この結果は 300°Cのァニール処理によりマクロ相分離構造を形 成したものと考えられ、先に説明した TEMの観察結果と一致する。一方、図 26、 27 に示されるように、 sPSの結晶が融解しない温度 190°Cでアニーリング処理(65— 97 wt%、 lmin, 5min、 lOmin)したものでは、長周期ピークが高温側にシフトするが、 300°Cでのアニーリング処理および有機溶媒ブレンドとは全く異なっている。これは、 190°Cでアニーリング処理をしても超臨界ブレンドで形成したナノメートルオーダーの ミクロ相分離構造はほとんど崩壊せず、ミクロンオーダーの海島構造は形成しておら ず、超臨界ブレンドで形成したのモルフォロジ一を保持して ヽると考えられる。
[0063] 図 28には引張り試験の結果を示す。 sPS自体と PMMA自体は共に硬い材料であ るため超臨界ブレンドの比較が困難である力 PMMAの方がわずかに伸び率が高 いため、超臨界ブレンドでは sPSと PMMAがほぼ 1: 1のため sPSと PMMAとのちよ うど間に観測された。通常マクロ相分離を形成しているものは、その界面に応力が集 中し基質や含浸物質よりも物性が落ちると予測されるので、超臨界ブレンドではミクロ
相分離構造を形成し、強 、絡み合 、を起こして 、ると考えられる。
実施例 3
[0064] (PMMAと PPの複合材料)
基質の作成:反応に用いたイソタクチックポリプロピレン (iPP)は株式会社チッソ製 のペレットをヒートプレスにて 190°C、 15分間溶解後、 20MPa、 20分間カロ圧し、その 後冷却して PP基質(シートを 20 X 20 X 0. 5mmにカットして使用)。
[0065] 使用した試薬は実施例 1、 2と同じ物を用いた。
[0066] 反応装置は実施例 1で使用したものと同じ装置を用いた Ciasco SCF— Get (超臨 界二酸化炭素流体注入ポンプ)、 SCF-Sro (空気恒温槽) )。
[0067] 含浸条件:メタクリル酸メチル(MMA) 2g、 α、 α '—ァゾビスイソブチ口-トリル (ΑΙ ΒΝ)を lmol% (0. 0328g)を採取し、 PP基質と共に反応装置に仕込んだ。後表に 記載された条件で反応装置内に二酸化炭素を供給し含浸させた。また含浸処理の s cCOの圧力は 5分含浸、 1時間含浸でそれぞれ 6. 3MPa、 6. 8MPaであった。
2
[0068] 重合条件:後温度を 80°Cにして所定圧力下で 24時間反応させた。また重合圧力 は 5分含浸後の重合反応では 9. lMPa、 1時間含浸後の重合反応では 9. 4MPaで あった。反応終了後、反応セルを急冷しセル内の二酸ィ匕炭素を系外に除去した。基 質表面に付着したポリマーを取り除くため、熱アセトンで 2回洗浄して得られた高分子 複合材料表面に付着したポリマーを溶解、洗浄を行なった。その後基質が恒量とな るまで 50°Cにて真空加温乾燥した。溶解したポリマーは反応セル内のポリマーと同 様にへキサンにより再沈殿して分別回収後、 50°Cにて真空加温乾燥し回収した。
[0069] 図 29には scCO Blend (含浸条件 35°C、 5min)の SAXS測定で得たローレンツ
2
補正散乱強度 (I(q)q2)の q (散乱ベクトル)に対するプロットを示した。図中の数値は ブレンド中の各成分の重量比を表わす。 PP基質では第 1ピーク (q = 0. 43)、第 2ピ ーク(q = 0. 88)および第 3ピーク(q= l. 28)が観測され、 PP結晶層(PPc)— PP非 晶層(PPa)の繰り返し長周期の平均値約 14. 3nmであった。
[0070] また、 PPと PMMAの均一溶液から調製した Organic Solvent Blendでは PPc— PPa構造の散乱ピークだけが観察された力 これは PPと PMMAがマイクロメートル オーダーの海 Z島構造を形成しているためと考えられる。
[0071] 一方、 scCO Blendでは、 PMMA含量の増加に伴い、 PP単独で観察された PP
2
c PPa間の散乱ピークが広角側へシフトし、長周期はわずかに短くなり、同時に小 角側にショルダーが現われ、重量増加率 39wt%でq = 0. 20付近(長周期 31. 4nm )に新たな繰り返し構造に相当するピークとなり、その散乱の強度は徐々に大きくなつ た。
[0072] この結果は、 PMMAが結晶層間の全ての PPa層で生成したのではなぐ重合は sc COが浸透拡散した PPa層だけで重点的に起こり、 PPaZPMMA層が不均一に形
2
成した結果、 PPa層と PPaZPMMA層の 2種類の非晶領域が存在することを示して いる。
[0073] しかしながら、 scCO Blend 100Z109を結晶が融解する条件(190°C、 lmin)
2
で加熱すると Organic Solvent Blendとほぼ同じ散乱ピークとなり、形成されたナ ノ構造は熱力学的に不安定で直ちに崩壊することを示している。
[0074] また、 DMA曲線から、 OrganicSolvent Blendの PMMA鎖の Tg は PMMA単 独(130°C付近)と同程度である力 scCO Blendの PMMA鎖は 100°C付近に低下
2
した。これは PP非晶分子との絡み合いにより可塑ィ匕された力 であると考えられる。し かし、加熱(190°C、 lmin)により、このナノ構造が崩壊し、 PMMA単独と同じ 130°C 付近に再び上昇する。この再加熱によるナノ構造の分離崩壊は引っ張り試験結果か らも分力ゝる。
[0075] 表 5には種々の含浸条件 (40°C、 5min、 lhおよび 6h)で調製して得られた高分子 複合材料(scCO Blend)の重量増加率(Mass gain)、 PP含有量(Weight fracti
2
on of PP)、Tm (°C)、 scCO Blend中の PP基質の結晶融解ェンタルピー値(DS
2
C)から算出した結晶化度を示した。
o CO οο ( τϋ» ο
1
^
} v 111111 ί
• *
ο ο ο ο ο
PP基質の結晶化度は含浸'重合条件での scCO処理 (PP (scCO ) )によって増
2 2
カロすることが分かる。また scCO Blendの結晶化度は PMMA含量に対して、バラッ
2
キが認められる力 PPの結晶領域はほとんどそのまま保持されていることを示唆して いる。この結果、本実験条件下での含浸'重合は非晶領域で生起していると考えられ
る。
[0078] 図 30にこれらの含浸条件(40°C、 5minおよび lh)で調製した scCO Blendの SA
2
XSプロファイルを示す。とくに含浸時間 lhでは、 35°C、 5min含浸で調製した scCO Blend の SAXS曲線 (Fig. 1)とは全く異なり、 PP基質で観測された PPc— PPa
2
層(q = 0. 5付近)に相当するピークは著しく減少し、広い q値の範囲で極微小なピー クカ^、くつも観測され、また、散乱強度は小角側で急激に増大した。これは、含浸温 度の上昇および時間の増加によって、 MMAが溶解した scCO力PPc層を保ったま
2
ま、ほとんど全ての PPa層にだけ含浸 '重合し、生成した PMMAにより PPc— PPaZ PMMA繰り返し構造の長周期が増大したことを強く示唆している。
[0079] さらに、 scCO Blend含浸時間 lh 100Z143を加熱(190°C、 lmin)すると微小
2
なピークは僅かに増加するが、 PP基質の PPc— PPa層の長周期に相当する明瞭なピ ークは出現しな力 た。
[0080] この結果力 本含浸条件下で調製した scCO Blendは PP基質の結晶が融解する
2
温度で加熱しても、形成されたナノ構造はほとんどそのまま保持されて ヽることが分 かる。すなわち、 MMAが scCOの特性によって一つの連続相である PP基質中のほ
2
とんど全ての PPa層に含浸し、その場 (in situ)で重合して生成した PMMAは PP 基質中で新たな連続相となり、 PPZPMMA共連続構造による IPNが形成し、加熱 によるナノ構造の分離崩壊が緩和されたことを示唆している。
産業上の利用可能性
[0081] 本発明の新規な高分子複合体は、従来のいわゆるポリマーブレンドから予想される 物性とは全く異なる熱的、力学的物性を示す。すなわち本発明の高分子複合体は通 常熱力学的に分散されない高分子を相互に分子ナノオーダーで分散させたもので あることから、全く新たな利用分野を切り開く高分子材料として汎用性化、機能性ィ匕 が可能である。