明 細 書
タンパク質の分泌産生システム 技術分野
[0001] 本発明は、遺伝子工学の分野において組換体微生物により組換えタンパク質を調 製するために有用な分泌産生システムに関する。
背景技術
[0002] 従来、宿主として大腸菌を用いた外来の異種タンパク質 (以下、 目的タンパク質とい う)の生産方法には、菌体内発現法と分泌発現法とがある。
[0003] 前者の菌体内発現法は、 目的タンパク質の構造遺伝子を挿入した組換え発現べク ターをバクテリア等の宿主細胞内に導入し、 目的タンパク質を発現、蓄積させ、その 後菌体を回収、溶解し、得られた菌体の粗抽出液から目的タンパク質を精製する方 法である。この菌体内発現法では、一般的に目的タンパク質の生産効率は高いが、 発現させたタンパク質が凝集して菌体内で不溶化しやすい為に、 目的タンパク質の 回収後に可溶化してリホールディングさせる操作や、菌体内の他のタンパク質 (プロ テアーゼゃ他の夾雑物)を分離する操作を必要とし、天然における正しい立体構造 をもった目的タンパク質、即ち本来の活性を有するネイティブな構造を持った目的タ ンパク質を得るためには、大変な手間がかかる。また、可溶化操作などの精製処理に おいて、発現した目的タンパク質を 100パーセントの確率でネイティブな構造にリホ 一ルディングさせる事は通常、不可能である。そのため、菌体内における目的タンパ ク質の発現量に比べ、精製等の処理によって最終的に回収されるネイティブ構造の 目的タンパク質量がかなり少ない場合も多々ある。時には、 目的タンパク質の生産効 率が低いと云われている分泌発現法と対比して、最終的な回収効率が同等か、それ 以下という場合もある。
[0004] また、当該菌体内発現法は、成熟型タンパク質の N末端にメチォニン残基が付加さ れる場合が多々ある。この場合、前記 N末端にメチォニン残基が無いタンパク質を得 るためには、 N末端のメチォニン残基を人為的にぺプチダーゼで切断する操作が要 求されることちある。
[0005] このように菌体内発現法は、一連の処理操作が煩雑で時間が掛る割には、ネィティ ブな構造の目的タンパク質の回収率が悪ぐ近年、 目的タンパク質の大量生産には 向かないとされている。
[0006] そこで、近年、これら菌体内発現法の問題解決手段として、分泌発現法が注目され ている。この分泌発現法においては、発現された目的タンパク質がペリブラズム層又 は菌体外へ分泌されるので、上記した菌体内発現法に比べて目的タンパク質の精製 が簡便であるという利点がある。特に、菌体外へ分泌される系では、培養液のみを回 収し濃縮することによって、 目的タンパク質を比較的簡単に回収することができるの で、 目的タンパクの精製がより簡便になっている。
[0007] この分泌発現法は、更に、 目的タンパク質をネイティブな構造で生産できる可能性 が高い点、及び培養上清中にプロテアーゼゃ他の夾雑物が少なく精製が容易であ る点におレ、て、目的タンパク質の生産方法として注目されてレ、る。
[0008] この分泌発現法は、菌体外又はペリプラズム層へ分泌させるために、「シグナル配 歹 |J」を目的タンパク質と融合させて発現させるベクターを用いることを特徴とする。前 記シグナル配列としては、例えば、溶血毒素 α -へモリシン (HlyA)の C末端配列(以 下、 HlyAシグナル配列という場合もある)、ェンテロトキシン(Enterotoxin)の発現に関 与している Aサブユニットと Bサブユニットの N末端配歹 IJ、 OmpAシグナル配歹 IJ、 OmpF シグナル配歹 lj、 PhoAシグナル配列等が挙げられる(非特許文献 1)。因みに、組換え ベクターとしては、 ColElオリジンをもつ pBR322誘導体等の一般的に用いられるプラ スミド由来の組換え発現ベクター等が用いられている。
[0009] 先に列挙したシグナル配列の中でも、特に HlyAシグナル配列を用いた分泌生産方 法は、基本的に HlyAシグナル配列に結合する目的タンパク質の大きさに依存せず、 分泌の過程で適切な S-S結合を形成させることができることから、 目的タンパク質をネ ィティブな構造で可溶性画分中に発現することが出来る分泌発現系として非常に有 用と考えられている。
[0010] この HlyAシグナル配列を用いた分泌生産方法は、元々、尿路病原性大腸菌が産 生する溶血毒素ひ-へモリシン(HlyA)の分泌に使われるグラム陰性菌 Type I分泌シ ステム(非特許文献 2参照)を利用したものであり、シグナル配列を含む HlyA、 HlyA
の菌体外輸送に関わるアデノシントリホスタファーゼ (ATPase)活性を有するタンパク 質 HlyB、ペリプラズムタンパク質 HlyD、および外膜タンパク質 TolCを必要とするが、 グラム陰性菌における一般的なペリブラズムタンパク質の分泌に関わる Sec経路は必 要としなレ、。 HlyAの C末端の約 60位力、ら 218位までのアミノ酸は分泌シグナルを形成 しており、それ自体の毒性がないことから、外来タンパク質と融合させ菌体外へ分泌 させる例力 Sいくつか報告されている (非特許文献 3、 4参照)。
ところで、分泌発現法においては、より効率的な分泌生産が可能な宿主株の検討も 盛んに行われており、中でもグラム陽性菌の枯草菌は、タンパク質の分泌能が高ぐ 各種産業用酵素の供給源として利用されている。しかしながら、枯草菌は多種多様 なプロテアーゼを有するという問題がある。このため、宿主株自体の改良が必要であ り、種々研究 ·開発が行われている。し力 ながら問題が十分に解消した宿主株は未 だ得られていないのが現状である。
非特許文献 1 :ステーダー 'ジエイ'エーら(Stader J.A. et al.,) Engineering
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非特許文献 10 :ィマイら(Imai Y. et al,) Nucleic Acids Res. 19: 2785, 1991 発明の開示
発明が解決しょうとする課題
[0012] 上記した大腸菌を用いた分泌発現法では、最適培養温度である 37°Cで菌体を培 養することにより、菌体が持つ目的タンパク質の発現能及び分泌能を最大限引き出 し、 目的タンパク質を分泌生産させる。し力 ながら、およそ 30°C以下の低温で菌体 を培養した場合、 目的タンパク質の発現能は低下し、分泌能の効率も著しく悪ぐ菌 体内発現法で生産させる場合に比べて著しく生産効率が低い。従って、既存の分泌 発現系は、低温下でのタンパク質の大量生産に適切であるとは言えない。
[0013] 即ち、既存の分泌発現法は、たとえ菌体を最適な培養温度(大腸菌においては 37 °C)で培養しても、菌体内発現法に比べて遺伝子の発現効率が悪ぐ生産効率が低 いことが多い。従って、場合によっては、 目的タンパク質の大量生産に適切な手法で あるとは言えず、例えば、へモリシンの発現に機能している HlyAを用いた分泌発現系
でも、これまでの報告ではペリプラズム分泌系と同等の産生レベル(総蛋白の 2-5%) であり、菌体内発現系と比較して発現量が絶対的に少なかった (非特許文献 5)。
[0014] また、例え発現効率自体は低くても、発現させた目的タンパク質が可溶性画分に回 収できればメリットはある力 従来の方法ではおよそ 30°C以下の低温で培養した場合 には、 37°Cで培養した場合に比べ、更に分泌の効率が低下する。つまり、 目的タン パク質を可溶性画分中に回収する目的で、菌体をおよそ 30°C以下の低温で培養し 分泌発現を促す場合、発現及び分泌レベルは共に著しく低下する。
[0015] 一方で、タンパク質の調製法として、 30°C以下の低温で発現させる方法も一般的 に行われている。この理由の 1つとしては、菌体内における目的タンパク質の発現効 率を敢えて下げることにより、 目的タンパク質を含む封入体(inclusion body)の発生を 抑制することが出来るからである。即ち、ネイティブな構造の目的タンパク質を、可溶 ィ匕区分において回収できる。また他の理由としては、低温で発現させることにより、宿 主由来のタンパク質の生合成も抑制され、プロテアーゼ活性も低下するため、 目的タ ンパク質を高効率で得ることが期待できるからである。このような理由から、およそ 30 °C以下の低温でも高効率で目的タンパク質を産生可能な分泌生産システムが求めら れている。
[0016] 本願発明の目的は、既存の分泌発現法と対比して、低温の培養温度でも目的タン パク質を高レ、効率で産生させることができる、タンパク質の分泌系生産システムを提 供することにある。
[0017] 本発明の他の目的は、宿主としてグラム陰性菌、特に大腸菌を用いた HlyA分泌シ ステムにおいて、低温で分泌能が向上する新規の変異タンパク質 HlyB'を用いること により、低温培養において目的タンパク質の分泌を高効率にて実現するシステムを 提供することにある。
課題を解決するための手段
[0018] 本発明者らは、上述のような課題を解決するために、鋭意研究を行った結果、尿路 病原性大腸菌が産生する溶血毒素 α _へモリシン(HlyA)の分泌に使われるグラム陰 性菌 Type I分泌システム(非特許文献 6)を改変することにより、低温培養において目 的タンパク質の分泌を高効率に実現するシステムが得られることを見出し、本願発明
を完成した。
[0019] 即ち、本発明は、以下に挙げる技術を提供する:
(1)配列番号 1若しくは配列番号 2に示されるアミノ酸配列;又は
配列番号 1若しくは配列番号 2に示されるアミノ酸配列において 1乃至数個のアミノ酸 が欠失、揷入、置換若しくは付加され尚且つアデノシントリホスファターゼ (ATPase) 活性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質。
[0020] (2)前記の ATPase活性が、 ひ モリシン (HlyA)の蛋白輸送に関わるアデノシントリ ホスファターゼ活性である(1)に記載のタンパク質。
[0021] (3)前記欠失、揷入、置換若しくは付加が、配列番号 50に示されるアミノ酸配列の、 アミノ酸番号 448位、 604位、 654位、 682位、及び 705位力らなる群より選択される 少なくとも 1の部位における欠失、揷入、置換又は付加である、(1)に記載のタンパク 質。
[0022] (4) (1)乃至(3)の何れか一つに記載のタンパク質をコードする遺伝子。
[0023] (5)配列番号 4若しくは配列番号 5に示される塩基配歹 lj、又はこれらの塩基配列がコ ードするアミノ酸配列と同一のアミノ酸をコードする塩基配列を含む遺伝子。
[0024] (6) (4)又は(5)に記載の遺伝子が、所定の宿主において発現可能に挿入された発 現ベクター。
[0025] (7)プロモーター配列;及び当該プロモーター配列の制御下に、 目的タンパク質及 び HlyAシグナル配列を同一の読み取り枠にコードする塩基配列を含む、(6)に記 載の発現ベクター。
[0026] (8)前記プロモーターと同一又は別種類のプロモーター制御下の領域であって、前 記の目的タンパク質及び HlyAシグナル配列をコードする塩基配列の揷入部位とは 別個の部位に、(4)に記載の遺伝子を発現可能なように揷入した、(7)に記載の発 現ベクター。。
[0027] (9)更に、配列番号 19に記載の塩基配列、又は配列番号 18のアミノ酸配列をコード する塩基配列を有する遺伝子 HlyDを発現可能なように含む、 (6)— (8)の何れか一 つに記載の発現ベクター。
[0028] (10)配列番号 18のアミノ酸配列において 1乃至数個のアミノ酸が欠失、揷入、置換
、又は付加され、尚且つ宿主内で発現後ペリブラズムに移行して、変異タンパク質 HlyB'、タンパク質 TolC又は TolC様タンパク質とともに、 HlyAシグナル配列が融合し た目的タンパク質を菌体外に輸送する輸送孔を形成するタンパク質(当該輸送孔を 形成する機能を有するアミノ酸配列)をコードする塩基配列を有する遺伝子 HlyDを発 現可能なように含む、(6)—(8)の何れか一つに記載の発現ベクター。
[0029] (11)前記プロモーターが、トリプトファンプロモーター、 lacプロモーター、トリプトファ ンプロモーターと lacプロモーターとの雑種プロモーター、 T7プロモーター、 T5プロモ 一ター、 T3プロモーター、 SP6プロモーター、ァラビノース誘導プロモーター、コーノレ ドショックプロモーター、テトラサイクリン誘導性プロモーターからなる群より選択される いずれ力 4種のプロモーターである、(7)—(10)の何れか一つに記載の発現べクタ
[0030] (12)前記 HlyAシグナル配列をコードする DNA断片力 配列番号 3に示されるァミノ 酸配列の 60— 218番目のアミノ酸をコードする塩基配列を含み、尚且つ目的タンパ ク質をコードする塩基配列の 3'側に付加されている、 (7)—(11)の何れか一つ記載 の発現ベクター。
[0031] (13)前記の発現ベクター力 S、プラスミドベクター、又はファージベクターである、 (6) 一(12)の何れか一つに記載の発現ベクター。
[0032] (14) (6)に記載の発現ベクターと、 目的タンパク質及び HlyAシグナル配列を同一 の読み取り枠にコードする塩基配列を含む発現ベクターとの組合わせ;
(6)に記載の発現ベクターと、 目的タンパク質及び HlyAシグナル配列を同一の読 み取り枠にコードする塩基配列並びにタンパク質 HlyDをコードする塩基配列を含む 発現ベクターとの組合わせ;
(6)に記載の発現ベクターと、 目的タンパク質及び HlyAシグナル配列を同一の読 み取り枠にコードする塩基配列を含む発現ベクターと、タンパク質 HlyDをコードする 塩基配列を含む発現ベクターとの組合わせ;
(6)乃至(13)の何れか一項に記載の発現ベクターの群から選択されるレ、ずれか一 つの発現ベクター又は発現ベクターの組合わせ
を宿主に導入してなる、形質転換体。
[0033] (15)前記宿主がグラム陰性菌である、 (14)に記載の形質転換体。
[0034] (16) (14)に記載の形質転換体を所定の条件で培養する工程を含む、タンパク質の 生産方法。
[0035] (17)更に、前記培養工程後の培養液より宿主細胞を除去する工程;及び適宜、宿 主細胞除去後の培養液からタンパク質を精製する工程;を有する、 (16)に記載のタ ンパク質の生産方法。
[0036] (18)前記形質転換体を培養する温度が、 30°C以下である、(16)又は(17)に記載 のタンパク質の生産方法。
[0037] (19)前記形質転換体を培養する温度が、 19°C以上、 30°C以下である、(16)又は(
17)に記載のタンパク質の生産方法。
発明の効果
[0038] 本願発明によれば、既存の分泌発現法と対比して、低温の培養温度でもネイティブ な構造のタンパク質を効率良く産生する分泌系生産システムを実現することができる
[0039] 更に、グラム陰性菌、特に大腸菌を用いた HlyA分泌システムにおいて、低温で分 泌能が向上する新規の変異タンパク質 HlyB'を用いることにより、低温培養において 、 目的タンパク質を高効率に分泌可能な分泌系生産システムを実現することができる 図面の簡単な説明
[0040] [図 l]pSTV_HlyBDを示す図である。
[図 2]pSub-HlyA を示す図である。
218
[図 3]Error-prone PCRに用いた各プライマーの位置関係を示す図である。
[図 4]サチライシン Eによるスキムミルク分解を示す図である。
[図 5]各変異株における変異箇所を示す図である。
[図 6]各変異体における HSA14-lscFvの分泌量を示す図である。
[図 7]各変異株における変異箇所を示す図である。
[図 8]pGEM_NdE52の作成を示す図である。
[図 9]各変異体における HSA14_lscFvの分泌活性を示す図である。
[図 10]各温度における HSA14-lscFvの分泌量を示す図である。
[図 1 l]c_myc及び PTENの分泌を示す図である。
発明を実施するための最良の形態
[0041] 本発明は、 HlyAの分泌に使われるグラム陰性菌 Type I分泌システム(HlyA分泌シ ステム)を構成するタンパク質 HlyBの変異タンパク質(以下、本願においては、タンパ ク質 HlyBについての変異タンパク質を総称して「変異タンパク質 HlyB'」と呼び、これ をコードする遺伝子を総称して「変異遺伝子 HlyB'」と呼び、そしてこの変異タンパク 質 HlyB'を発現する菌株を総称して「変異体 HlyB'」と呼ぶ)、及び変異タンパク質 HlyB'を用いた HlyA分泌システムによる目的タンパク質の産生方法である。
[0042] 変異タンパク質 HlyB'は、配列番号 1若しくは配列番号 2に示されるアミノ酸配列; 又は配列番号 1若しくは配列番号 2に示されるアミノ酸配列において 1乃至数個のァ ミノ酸が欠失、挿入、置換若しくは付加され尚且つアデノシントリホスファタ一ゼ( ATPase)活性を有するアミノ酸配列を含むタンパク質である。
[0043] 配列番号 1に示したアミノ酸配列からなる変異タンパク質 HlyB'は、野生型タンパク 質 HlyB (配列番号 50にアミノ酸配列を示す)の N末端から 448番目のアミノ酸が口イシ ン(Leu)からフヱニルァラニン(Phe)に置換されたタンパク質である(図 7 ; 104F参照)
[0044] 配列番号 2に示したアミノ酸配列からなる変異タンパク質 HlyB'は、野生型タンパク 質 HlyBの 654番目のアミノ酸がグリシン(Gly)カもセリン(Ser)に置換されたタンパク 質である(図 5;129、表 2参照)。
[0045] また、配列番号 1に示したアミノ酸配列において 1乃至数個のアミノ酸が欠失、揷入 、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる変異タンパク質 HlyB 'とは、配列番号 1に示したアミノ酸配列における 448位のフエ二ルァラニン (Phe)以外のアミノ酸が欠 失、揷入、置換又は付加され、且つアデノシントリホスファターゼ (ATPase)活性を有 しているタンパク質である。例えば、複数個のアミノ酸が置換された例としては、図 7に 示した AE104 (配列番号 6)及び AE104B— 104D (配列番号 8— 10)が挙げられる。こ れらの変異タンパク質は、後述する HlyA分泌システムによる目的タンパク質の生産方 法において好適に使用することができる。これら具体例の変異タンパク質においては
、タンパク質 HlyBのアミノ酸配列において 1一 4個のアミノ酸残基が置換されているが 、上記した ATPase活性を有している限り、 ATPase活性部位以外の部位における変異 (欠失、挿入、置換又は付加)、及び ATPase活性部位の変異であって ATPase活性を 保持している変異 (欠失、揷入、置換又は付加)の双方が含まれる。また、これらの変 異においては、 ATPase活性を保持する限り、 5個以上のアミノ酸残基の変異 (欠失、 揷入、置換又は付加)であってもよい。
[0046] 更に、配列番号 2に示したアミノ酸配列において 1乃至数個のアミノ酸が欠失、揷入 、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなる変異タンパク質 HlyB 'とは、配列番号 2に示したアミノ酸配列における 654位のセリン(Ser)以外のアミノ酸が欠失、揷入、 置換又は付加され、且つアデノシントリホスファターゼ (ATPase)活性を有してレ、るぺ プチドである。この変異タンパク質 HlyB'は、上記した ATPase活性を有している限り、 ATPase活性部位以外の部位における変異 (欠失、揷入、置換又は付加)、及び
ATPase活性部位の変異であって ATPase活性を保持している変異 (欠失、挿入、置 換又は付加)の双方が含まれる。
[0047] このような変異タンパク質 HlyB'としては、上記の ATPase活性が α—へモリシン( HlyA)の蛋白輸送に関わるアデノシントリホスファターゼ活性である変異タンパク質 HlyB'が挙げられる。具体的には野生型遺伝子 HlyBのアミノ酸 448位、 604位、 654 位、 682位、及び 705位からなる群より選択される少なくとも 1の部位における欠失、 挿入、置換又は付カ卩を有するものを挙げることができる。より好ましくは、野生型遺伝 子 HlyBのアミノ酸 448位、 604位、 654位、 682位、及び 705位力らなる群より選択さ れる少なくとも 1の部位における置換を有するものである。
[0048] 本発明は、上記した変異タンパク質 HlyB'のアミノ酸配列をコードする、変異遺伝子 HlyB'をも提供する。これら本願発明の変異遺伝子 HlyB'の具体的配列は、本発明 者らが溶血毒素ひ -へモリシン(HlyA)の分泌産生する尿路病原性大腸菌から採取し た WyB-hlyDオペロン遺伝子に変異を導入して得た変異体の一部をなすものである( 例えば配列番号 4、 12— 17)。
[0049] 本発明の変異タンパク質 HlyB'のアミノ酸配列をコードする本発明の変異遺伝子
HlyB'の具体的な配列としては例えば配列番号 4及び配列番号 5に示されるものであ
る力 これら以外にも、本発明の変異タンパク質 HlyB'のアミノ酸配列をコードする、 その他の塩基配列を有するものも含まれる。
[0050] 本発明は、本発明の変異遺伝子 HlyB'が、所定の宿主において発現可能に挿入さ れた発現ベクターをも提供する。
[0051] 上記した発現ベクターは、 目的のタンパク質を HlyAシグナルと連結したものを発現 する別個のベクターと、同一の宿主に共形質転換することにより、当該所定タンパク 質の効率的な分泌に利用することが可能である。
[0052] さらに、本発明の分泌システムは、上記のような共形質転換により構築される分泌シ ステムに限定されるものではなレ、。本願発明の変異遺伝子 HlyB'と HlyAシグナル配 列に目的タンパク質を結合した融合タンパク質をコードする塩基配列とを同一発現べ クタ一に組込み、同発現ベクターを宿主に導入することによつても、 目的タンパク質の 分泌システムを構築することが可能である。この場合、同一の発現ベクターに組込ま れた変異遺伝子 HlyB'と HlyAシグナル配列に目的タンパク質を結合した融合タンパ ク質をコードする塩基配列とは、同一プロモーター制御下の領域に組込んでもよいし
、又は、前記変異遺伝子 HlyB'と前記融合タンパク質をコードする塩基配列とをそれ ぞれ別のプロモーター制御下の領域に組込んでもよい。
[0053] ここでプロモーターとしては、グラム陰性菌、特に大腸菌内で外来タンパク質の発 現に利用される種々のものを挙げることができる。具体例としてはトリプトフアンプロモ 一ター、 lacプロモーター、トリプトファンプロモーターと lacプロモーターとの雑種プロ モーター、 T7プロモーター、 T5プロモーター、 T3プロモーター、 SP6プロモーター、ァ ラビノース誘導プロモーター、コールドショックプロモーター、テトラサイクリン誘導性 プロモーターを挙げることができる。
[0054] 本発明のタンパク質分泌産生システムの一態様においては、上記した本発明の発 現ベクターに、更に、配列番号 19に記載の塩基配列、又は配列番号 18のアミノ酸配 歹 IJをコードする塩基配列を有する遺伝子 HlyDを発現可能なように含めることができる 。遺伝子 HlyDとしては、これらの配列番号 19に記載の塩基配列、及び配列番号 18 のアミノ酸配列をコードする塩基配列を有するもの以外にも、配列番号 18のアミノ酸 配列において 1乃至数個のアミノ酸が欠失、揷入、置換、又は付加され、尚且つダラ
ム陰性菌のペリプラズムに移行して、更に変異タンパク質 HlyB'、 タンパク質 TolC又 は TolC様タンパク質とともに、 HlyAシグナル配列が融合した目的タンパク質を輸送 する輸送孔を形成する機能を有するアミノ酸配列をコードしているものを利用すること ができる。このような変異としては、例えばタンパク質 HlyDの 41位のアミノ酸力 フエ 二ルァラニンからチロシンに置換されたものを挙げることができる。
[0055] タンパク質 HlyDを変異タンパク質 HlyB'と同一プロモーターにより発現する場合に は、変異遺伝子 HlyB'と遺伝子 HlyDとを同一コドン読取り枠で結合した hlyB ' -hlyDォ ペロンを作成し、同 hlyB' -hlyDオペロンを発現ベクターのプロモーター制御下に導 入する。変異遺伝子 HlyB'と遺伝子 HlyDとを同一の発現ベクターのそれぞれ異つた プロモーター制御下の領域に組込み、変異タンパク質 HlyB 'とタンパク質 HlyDとをそ れぞれ異なるプロモーターの制御下で発現させることもできる。また、別々のオリジン をもつ発現ベクター上に変異遺伝子 HlyB'と遺伝子 HlyDを別々組み込み、別々に発 現させることもできる。更に、変異遺伝子 HlyB'と遺伝子 HlyDとをそれぞれ菌体内の ゲノム DNAに挿入 (インテグレート)させ、変異タンパク質 HlyB'とタンパク質 HlyDとをそ れぞれ発現せることも可能である。勿論、上記した hlyB' -hlyDオペロンを菌体内のゲ ノム DNAに挿入 (インテグレート)させ、変異タンパク質 HlyB'とタンパク質 HlyDとを発 現させてもよい。
[0056] 本発明の発現ベクターにおいては、上記 HlyAシグナル配列をコードする DNA断 片は、配列番号 3に示されるアミノ酸配列の C末端 60— 218番目のアミノ酸をコード する塩基配列を含み、尚且つ目的タンパク質をコードする塩基配列の 3 '側に付加す ること力 Sできる。
[0057] 上記(6)— (8)に記載の発現ベクターとしては、大腸菌、サルモネラ菌、赤痢菌、ビ プリォ菌、セラチア菌、緑膿菌などのグラム陰性菌の内から選択される菌体内で発現 可能なものが使用される。例えば、大腸菌においては PBR322誘導体に代表される ColE系プラスミド、 pl5Aオリジンを持つ pACYC系プラスミド、 pSC系プラスミド、 Bac系 等の F因子由来ミニ Fプラスミドが挙げられる。その他サルモネラ菌、赤痢菌、ビブリオ 菌、セラチア菌および緑膿菌については、組換えベクター pGD4が代表的に挙げられ る(非特許文献 7)。これら組換え発現ベクターのプロモーターとしては、 trcや tac等の
トリプトファンプロモーターと lacプロモーターの雑種プロモーターや、天然もしくは変 異型(lacUV5)の lacプロモーター、 T7プロモーター、 T5プロモーター、 T3プロモータ 一、 SP6プロモーター、ァラビノース誘導プロモーター、その他、常に転写活性の高い 恒常的に発現しているプロモーターも使用可能である。更に、低温下で発現が誘導 されるコールドショックプロモーターや、テトラサイクリン誘導性プロモーター等も好適 に利用することができる。
[0058] 以上に説明した、変異タンパク質 HlyB 'の発現ベクターを導入した宿主であるダラ ム陰性菌、特に大腸菌においては、少なくともおよそ 30°C以下の低温下で高い膜輸 送能が可能となり、 HlyAシグナル配列と目的タンパク質との融合タンパク質を菌体内 力、ら菌体外へ分泌することができる。
[0059] 本発明においては、発現 ·分泌された HlyAシグナル配列と目的タンパク質との融合 タンパク質を、その精製後において、 HlyAシグナル配列と目的タンパク質とに切断で きるように、 HlyAシグナル配列をコードする DNA断片の、例えば 5 '末端と目的タン パク質をコードする構造遺伝子の、例えば 3 '末端との間にプロテアーゼの認識配列 をコードする DNA断片を介しておくことも可能である。前記認識配列とプロテアーゼ は、公知のものを利用すればよい。例えば、認識配列として Ile-Glu-Gly-Arg (配列番 号 42)を付加した場合にはファクター Xaで切断すればょレ、し、ェンテロキナーゼとそ の認識配列として Asp-Asp-Asp-Asp-Lys-Ser (配列番号 43)を付加した場合にはェ ンテロキナーゼにより切断すればよレ、。因みに、 HlyAシグナル配列は、他のシグナル 配歹 IJ、例えば OmpAシグナル配列などと同様にタグ配列を付カ卩することもできる。
[0060] 本発明の発現ベクターを導入する宿主には、上述したようにタンパク質 TolC又は TolC様タンパク質を外膜に有するグラム陰性菌を使用することができる。例えば、大 腸菌、サルモネラ菌 (Salmonella typhimurium SL7207, Salmonella typhi 541Ty)、赤 痢菌(Shigella flexneri)、ビブリオ菌(Vivrio cholerae)、セラチア菌 (Serratia marcescens) ^緑 |g菌 (Pseudomonas aeruginosa)力好; ι に使用でさる。因みに、上己 サルモネラ菌、赤痢菌、ビブリオ菌、セラチア菌及び緑膿菌に関しては、大腸菌の HlyA分泌システムが機能することが確認されている(非特許文献 8)。更に、より好ま しくはおよそ 30°C以下の低温で生育可能なグラム陰性菌を用いる。
[0061] なお、上記した宿主への発現ベクターの導入は、種々の公知の方法により実施さ れる。例えば、カルシウム処理された菌体を用いるコンビテント細胞法や、エレクト口 ポレーシヨン法などが挙げられる。また、プラスミドベクター以外にもファージベクター を用いて、菌体内に感染させ導入する方法によってもょレ、。
[0062] 本発明は、上記した HlyB' (変異タンパク質、変異遺伝子、形質転換体)を利用した HlyA分泌システムによるタンパク質生産方法をも提供する。
[0063] 本発明のタンパク質生産方法においては、 HlyAシグナル配列をコードする DNA断 片の、例えば 5 '末端に所望の目的タンパク質をコードする構造遺伝子の 3 '末端を 結合した DNA断片と、変異タンパク質 HlyB'をコードする構造遺伝子と、適宜タンパ ク質 HlyDをコードする構造遺伝子とを、発現ベクターを介して、タンパク質 TolC又は TolC様タンパク質を外膜に有するグラム陰性菌へ導入することにより、例えばおよそ 30°C以下の低温培養時においても、培地への目的タンパク質の高い分泌能を発揮 させ、高い生産効率で目的タンパク質を生産することができる。
[0064] 本発明のタンパク質の生産方法に於いては、例えば、 HlyAシグナル配列をコード する DNA断片の 5 '末端に所望の目的タンパク質をコードする構造遺伝子をインフレ ーム且つ発現可能に挿入した組換え発現ベクターと、変異タンパク質 HlyB'をコード する構造遺伝子及びタンパク質 HlyDをコードする構造遺伝子とを挿入された組換え 発現ベクターとを、タンパク質 TolC又は TolC様タンパク質を外膜に有する宿主細胞 へ導入し、これを所定の条件で培養することにより行う。
[0065] 本発明のタンパク質生産方法においては、変異遺伝子 HlyB'が宿主内で発現する ことにより、 19°C一 30°C、より好適には 23°C— 30°Cの温度領域において、高いタン パク質の分泌生産能を示す。また、 目的タンパク質の種類によっては、当該宿主の 通常の培養温度(例えば 37°C)においても、高いタンパク質分泌能を有するものもあ る(図 11 (B)参照)。
[0066] 次に発現させた目的タンパク質と HlyAシグナル配列との融合タンパクの抽出.精製 法に関しては、既存のタンパク質抽出'精製法を適応することができる。抽出法として は、培養液を限外ろ過することによって該融合タンパク質を濃縮し、その濃縮液から 通常の塩析法ゃ各種クロマトグラフィーを用いた方法を適応することができる。精製
法としては、上述の塩析法、溶媒沈殿法、透析法、ゲル電気泳動法、ゲルろ過クロマ トグラフィ一法、イオン交換クロマトグラフィー法などの手法を組み合わせて行うことが できる。特に該融合タンパクに含まれる HlyAシグナル配列の一部を認識する抗体を 結合させたァフィ二ティーカラムによって効率的に精製することも可能である。
[0067] なお、融合タンパクの形状で精製された該融合タンパク質は、先に述べたように目 的タンパク質と HlyAシグナル配列との間(融合部分)にプロテアーゼの認識配列の部 分を予め挿入した場合には、前記認識配列に特異的なプロテアーゼを用いて切断 でき、よりネイティブな構造を有する目的タンパク質を得ることが可能である。切断の 結果得られる目的タンパク質は、上記の各種クロマトグラフィー法を用いて HlyAシグ ナル配列と分離し、さらに精製することが可能である。
[0068] なお、上述した本発明に力、かるタンパク質の分泌生産システムによれば、既存の分 泌発現法と対比して、 30°C以下の培養温度でもネイティブな構造の蛋白質を高い効 率で産生させることができる。
[0069] 宿主細胞として特に、大腸菌等のグラム陰性菌を用いた HlyA分泌システムによる分 泌発現法においては、 HlyB' (変異タンパク質、変異遺伝子、形質転換体)を用いる ことにより、およそ 30°C以下の温度で培養した場合にネイティブな構造の目的タンパ ク質を、既存の HlyA分泌システムと比べて数倍一数十倍の高レ、効率で産生すること ができる。
[0070] また、本発明のタンパク質生産システムによれば、可溶性のタンパク質のみならず、 後述する PTENのような不溶性のタンパク質もネイティブな構造で生産することができ る。
[0071] 以上には、本発明の好適な実施形態を示したが、本発明の要旨を逸脱することなく 、種々の変形変更が可能である。
例えば、宿主であるグラム陰性菌に導入する発現ベクターに、上記 HlyAシグナル 配列を融合した目的タンパク質の発現に力、かる発現ベクターと、上記変異タンパク質 HlyB'及びタンパク質 HlyDの発現に力、かる発現ベクターとの 2種類の発現ベクターに 代えて、前記目的タンパク質の発現系と変異タンパク質 HlyB'及びタンパク質 HlyDの 発現系とを同時に保持する発現ベクターを作成し導入したグラム陰性菌を使用しても
、本発明を好適に実施することができる。
[0072] また、例えば大腸菌 J96株のゲノム DNA中における hlyA及び hlyB遺伝子をノックァゥ トした大腸菌株を作成し、該大腸菌株を宿主として使用した場合、上記 HlyAシグナ ル配列を融合した目的タンパク質に力かる発現ベクターと、変異タンパク質 HlyB'の みを発現可能な発現ベクターとを前記大腸菌株へ導入することにより、本発明を好 適に実施できる。勿論、前記目的タンパク質の発現系と変異タンパク質 HlyB'の発現 系とを同時に保持する発現ベクターを作成し、前記大腸菌株へ導入しても好適に実 施すること力 Sできる。
実施例 1
[0073] 以下に、本発明の実施例を示して具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに 限定されるものではない。
遺伝子のクローニング
HlyAのシグナル配列(C末端 218アミノ酸、以下 HlyA と記す)、サチライシン E、
218
HlyBおよび HlyDをコードする遺伝子断片は全て後述するプライマーを用いて PCRに よって増幅した。反応系は全て 50 /i lとし、 PCRのポリメラーゼは PfliTurbo Hotstart DNA Polymerase (STRATAGENE社)を用いた。 PCR反応後、増幅断片を 1.0%ァガロ ースゲル電気泳動に供し、ゲルから切り出し後、 MinElute Gel Extraction Kit ( QIAGEN社)を用いて精製した。精製した DNA断片を該当する制限酵素で消化後、 DNA Clean & Concentrator- 5 (ZYMO RESEARCH社)を用い精製した。これを同様 に制限酵素処理したプラスミドベクターと Quick Ligation Kit (New England Biolab社) を用レ、、室温にて 5分間ライゲーシヨンさせた後、大腸菌(Escherichia coli) DH5ひの コンビテントセルに導入し、アンピシリンもしくはクロラムフエ二コールを含む LB寒天培 地にプレーティングした。揷入遺伝子の確認は、各コロニーから培養し調製した組換 えプラスミドの一部をそれぞれの組換えに用いた制限酵素で消化し、電気泳動をす ることで行った。また、クローニングした遺伝子断片は全て BigDye Terminator Cycle Sequencing Ready Reaction Kit (Applied Biosystems社)を用レヽ、 ABI3100シークェン サ(Applied Biosystems社)により塩基配列を確認した。以下、クローニングの手順を 個別に示す。
[0074] hlyB-hlyD遺伝子断片は hlyBの開始コドンを除いた 5'末端に BamHI部位、 hlyDの 3 '末端に Sphl部位を持つように HBBaFlプライマー(配列番号 20)および HDSpRプライ マー(配列番号 21)を用いて、大腸菌 J96株から抽出した染色体 DNAを铸型として PCRを行って増幅した。 PCR反応は、 95°C2分ののち、 95°C30秒、 56°C30秒、 72°C4 分を 25サイクル行った。増幅した遺伝子断片を pSTV28 (TAKARA社)の BamHI— Sphl 部位にクローユングし、プラスミド pSTV-HlyBDを得た(図 1)。
[0075] サチライシン Eと HlyA の融合タンパクの発現ベクターは以下のように構築した。す
218
なわち、サチライシン Eはシグナル配列を含まない 26 381番目のアミノ酸をコードす る遺伝子断片を、 5'末端(開始コドン GTGから 74番目の T)に Ncol部位、 3'末端に Sad部位を持つようにプライマー SubNcF (配列番号 22)およびプライマー SubXhR (配 列番号 23)を用いて枯草菌(Bacillus subtilis) 168; EMG 51の染色体 DNAを抽出し、 該染色体 DNAを铸型にして PCRにより増幅した。 PCR反応は 95°C2分ののち、 95°C 30秒、 55°C30秒、 72°C1分を 25サイクル行った。一方、 5'末端に Sad部位、 3'末端に Sail部位を持つ HlyA 遺伝子断片をプライマー HlyA218_ScF (配列番号 24)および
218
プライマー HASLR (配列番号 25)を用いて大腸菌 J96株の染色体 DNAを抽出し、該 染色体 DNAを铸型として PCRを行レ、増幅した。 PCR反応はサチライシン Eの場合と 同様に行った。これらサチライシン Eおよび HlyA の遺伝子断片を TrcHis2C (
218
Invitrogen社)の Ncol— Sad— Sail部位にクローユングし、プラスミド pSub-HlyA を得た
218
(図 2)。 PCRに使用したプライマーの配列を以下に示す。
[0076] プライマ一一覧 号 20)
HDSpR: 5, -TGTAAGCATGCTTAACGCTCATGTAAACTTTCTG-3 ' (配列番号 2 1)
SubNcF: 5, -CATGCCATGGTGTCTGTGCAGGCTGCCGGA-3 ' (酉己歹 IJ番号 22) SubXhR: 5, -ACCGCTCGAGCTCTTGTGCAGCTGCTTGTACGT-3, (配列番号 2
(配列番号 24) 列番号 25)
実施例 2
[0077] ランダム栾異の導入
WyBおよび hlyD遺伝子へのランダム変異の導入は、 Mutazyme DNA polymeraseを 用いた error-prone PCR法によってランダム変異を導入する GeneMo卬 h PCR Mutagenesis Kit (STRATAGENE社)を用レ、、付属のマニュアルに従い行った。すな わち、 0.5 ngから 50 ngの pSTV-HlyBDを铸型にして順方向プライマー Bam-F (配列番 号 26)および逆方向プライマー Bsp-R (配列番号 27)、順方向プライマー Bsp-F (配 列番号 28)および逆方向プライマー Sph-R (配列番号 29)、もしくは順方向プライマー AL-F (配列番号 30)および逆方向プライマー E52-R (配列番号 31)の組み合わせで、 error-prone PCRを行った。 PCR反応は、 95。C1分ののち、 95。C30秒、 55。C30秒、 72°C2分を 30サイクル行った。これらの PCR産物をそれぞれ pSTV-HlyBD内のそれ ぞれ BamHI— BspHI、 BspHI— Sphl、もしくは ApaLI— Eco52I断片と組換えた遺伝子ライ ブラリーを作製した。使用したプライマーの配列を以下に示す。各プライマーと遺伝 子の位置関係を図 3に示した。
[0078] プライマ 覧
Bam- F: 5 ' - AGCTCGGTACCCGGGGATCC-3, (配列番号 26)
Bsp-R: 5 ' -CACGCAATTCAGAAATAAAATCATGA-3 ' (配列番号 27)
Bsp-F: 5 ' - GCGAAATTAGCAGGTGCTCATGA- 3 ' (配列番号 28)
Sph-R: 5, -CCAGTGCCAAGCTTGCATGC-3,(配列番号 29)
AL-F: 5, -CAACCTGTGGTTGGGTGCAC-3,(配列番号 30)
E52-R: 5, -TAAGCAACCAGACGCGGCCG-3,(配列番号 31)
実施例 3
[0079] 変異体のスクリーニングと変異体の同定
上記実施例 2で作成した各遺伝子ライブラリーをそれぞれ pSub-HlyA であらかじ
218 め形質転換した大腸菌 JM109に導入し、 2% スキムミルク、 100 g/mL アンピシリン
、 30 μ g/mL クロラムフエ二コールおよび 0.4 mM IPTGを含む LB寒天培地にて 23 °Cで 5— 7日培養し、サチライシンのプロテアーゼ活性によってコロニーの周囲に現れ るスキムミルク分解を示すクリア一ゾーンの大きさから分泌能を測定した。
[0080] 上記スクリーニングの結果、プライマー AL-Fおよび E52-Rの組み合わせによって作 製した約 4,500クローンの中から野生型に比べ分泌活性の高い変異株を 2株 (AE104 株, AE129株)取得した。これら変異株におけるサチライシンの分泌の様子を図 4に示 した。
[0081] 続いて、これら変異株におけるサチライシン Eの分泌活性を定量化する試験を行つ た。すなわち、 AE104株および AE129株を 100 μ g/mL アンピシリンおよび 30 μ g/mL クロラムフエ二コールを含む LB培地で 37°Cにて培養した。波長 660 nmにおけ る吸光度が 0.2— 0.3となったときに IPTGを終濃度 0.4 mMとなるように添カ卩し、 23°Cに て 48時間培養した後、上清を回収した。培養上清を LB培地で適宜希釈し、その 100 Lと基質である 0.13 mMの N-succiny卜 Ala-Ala-Pro-Phe p-nitroanilide (AAPF; SIGMA社)を含む 50 mM Tris-HCl, 1 mM CaCl (ρΗ8·5)の溶液とを混合し、 37°Cにて
2
2— 6時間静置した後、波長 410 nmにおける吸光度を測定した。吸光度を元に野生 株のサチライシン酵素活性を 1とした場合のこれら変異株の酵素活性を下記表 1に示 した。
[0082] [表 1]
次に、 AE104株および AE129株が有する変異型 hlyB-Dの発現プラスミドを抽出し、 PAE104, pAE129とした。これら変異型プラスミドについて変異箇所を確かめるため、 ApaLI— Eco52I断片の塩基配列を決定した。その結果、 pAE104では 7つの点変異が 確認され、うち 5箇所でアミノ酸置換が起こっていた。一方、 pAE129では 1箇所の点変 異によつてアミノ酸置換が起こっていた。これらの変異部位を図 5および表 2に示した
[0084] [表 2]
[0085] 一本鎖杭体の分泌試験
AE104株、 AE129株において任意の融合タンパクの分泌能が向上するかどうかを 確かめるため、ヒト血清アルブミン (以下 HSAと略す)に対する一本鎖抗体(非特許文 献 9) (HSA14-1 scFv)をモデルタンパク質として分泌能を調べた。
[0086] HSA14-1 scFv遺伝子は抗 HSA抗体を産生するハイブリドーマから mRNAを
ISOGEN (二ツボンジーン社)を用いて精製し、リコンビナント抗体発現システムキット( Amersham Bioscience社)を用いてマ二ユアノレに従い pCANTAB 5Eベクター(
Amersham Bioscience社)の Sfi Notl部位に Notl部位の下流に位置する E tagとインフ レームになるようクローニングした。これを PCRの铸型とし、 Ncol部位を含むセンスプラ イマ一
HSA-NcFl: 5 ' -CCGGCCATGGCCCAGGTGCAG-3 ' (配列番号 32)
および Sad部位を含むアンチセンスプライマー
HSA-ScRl: 5 ' -AACGAGCTCTGCGGCACGCGGTTCCAGCGG-3 ' (配列番号 3 3)
を用いて scFv-E tag融合遺伝子を増幅した。これを Ncolおよび Saclで切断後、 pSub-HlyA のサチライシン Eをコードする Ncol- Sacl断片と組み換え、
^ 18
pHSA14-l-HlyA とした。
[0087] pSTV-HlyBD, pAE104、もしくは pAE129をそれぞれ pHSA14_l_HlyA とともに大腸
218
菌 JM109に導入した。これら形質転換体をそれぞれ野生型、 AE104株、 AE129株とし
、以下に記す HSA14-1 scFvの分泌活性の測定を行った。
[0088] 上記大腸菌の各クローン (野生型、 AE104株、 AE129株)をそれぞれ培養し、波長
660 nmにおける吸光度力 S0.2 0.3となったときに IPTGを終濃度 0.4 mMとなるように添 加し、 37°Cまたは 30°Cで 5時間、もしくは 23°Cにて 24時間培養した後、上清を回収し、 以下に示す ELISAを行った。
[0089] ヒト血清アルブミン(SIGMA社)を 10 μ g/mLとなるよう 0.1 N NaHCOに溶解し、 96ゥ
3
エルのマキシソーププレート(NalgeNunc International社)に 100 μ L/ゥエルで添加し 、 4°Cで一晩吸着させた。プレートを逆さにし溶液を除いた後、 2%スキムミルクを含む Tris-buffered Saline (TBS)を 200 μ L/ウエノレ添カロし、室温で 1時間ブロッキングを行つ た。 0.05% Tween20を含む TBS (以下 TBS-Tとする)でプレートを 3回洗浄した後、 LB 培地で適宜希釈した培養上清を 100 / L/ゥェルカ卩ぇ、室温で 1時間静置した。
TBS-Tで 3回洗浄したのち、マレイミド法(Cuatrecasas P and Parikh I. Adsorbents for affinity chromatography. Use of N-hydroxysuccmimide esters of agarose.
Biochemistry. 11, 2291-2299, 1972)によりアルカリフォスファターゼ標識した抗 E tag 抗体(Amersham Bioscience社)の 2000倍希釈液を 100 /i L/ウエノレ添カロし、室温で 1 時間静置した。 TBS-Tで 3回洗浄後、アルカリフォスファタ一ゼ基質キット(BIO-RAD 社)を用いて基質液を 100 し/ゥエル加え、室温で 5分間発色反応を行った。最後に 0.4 N NaOHを 100 μ L/ゥヱルカ卩ぇ反応を停止させた後、波長 405 nmにおける吸光 度を測定した。なお、濃度測定のスタンダードとしては大腸菌により発現、精製した HSA14-1 scFv抗体を用いた。
[0090] ELISAの結果を図 6に示す。野生型は温度の低下と共に scFvの分泌量が著しく低 下した。 AE129株も同様に温度の低下と共に分泌量が低下した力 野生型と比べて 23°Cおよび 30°Cでの分泌活性はそれぞれ 7倍および 3.5倍高かった。一方、 AE104株 は 37°Cでは野生型に比べ分泌活性が低いものの、 23°Cおよび 30°Cでの分泌活性は それぞれ 40倍および 4.1倍高レ、ことが確認された。
[0091] 以上より、 AE104株および AE129株が有する変異は少なくとも 23°Cから 30°Cの範囲
において任意の HlyA融合タンパクの発現を向上させるものであると言える。
実施例 5
[0092] 他の大腸菌株における一本鎖抗体の分泌試験
上記変異が示す表現型が大腸菌 JM109のみならず他の菌株においても普遍的に 見られるかどうかを確かめるため、例として大腸菌 HB2151 (Amersham Biosciences社
)を用いて一本鎖抗体の分泌試験を行った。
[0093] pSTV-HlyBD, pAE104、もしくは pAE129をそれぞれ pHSA14-ト HlyA とともに大腸
218 菌 HB2151に導入し、上記〔実施例 4〕と同様に HSA14-1 scFvの分泌を行った。その 結果、下記 [表 3]に示すように 23°Cにおいて野生型に比べ AE104株では 25倍、 AE129株では 11倍、 30°Cにおいて AE104株は野生型の 3.7倍、 AE129株は 2.3倍分泌 活性が高いことが確認された。したがって、 AE104株および AE129株が有する変異は 任意の大腸菌において HlyA融合タンパクの発現を向上させるものであると言える。
[0094] [表 3]
[0095] AE 104株における分泌向卜.に必要な栾異都位の決定
AE104株において分泌能の向上に関わるアミノ酸残基を同定するため、組換えによ り PAE104Aを、後述する部位特異的変異法により変異型プラスミド pAE104B, PAE104C, pAE104Dおよび pAE104Eを作製した。これら変異型プラスミドの変異箇所 を図 7に示した。
PAE104Aについては pAE104の BspHI-Sphl断片(1829 bp)を pSTV-HlyBDの同部 位に組み込み、作製した。
[0096] 部位特異的変異は Imaiらの方法 (非特許文献 10)に従い PCRにより行った。 PCRの
铸型には pSTV-HlyBDの NdeI_Eco52I断片(1247 bp)を pGEM5Z_f(+) (Promega)の同 部位に組み込んだプラスミド pGEM-NdE52 (図 8)を 2 ng用いた。 pAE104B,
PAE104C, pAE104Dおよび pAE104Eの作製に用いたプライマーの組み合わせはそ れぞれ BD1814-37 (配列番号 34) - BD1813-1791 (配列番号 35), BD2050-75 (配列 番号 36) - BD2049-20 (配列番号 37), BD2119-49 (配列番号 38) - BD2118-084 (配 列番号 39)および BD2268-42 (配列番号 40) - BD2269-94 (配列番号 41)である。以 下に配列を示す。
[0097] プライマ 覧
BD 1814- 37: 5 ' - GCAGGATTATCCGGAGGTCAACGT- 3 ' (配列番号 34)
BD1813-1791 : 5' -CCCCTGTTCCCCGACAATGGTGT-3' (酉己歹 lj番号 35) BD2050-75: 5 ' -TGAACAGGGTAAACATAAGGAGCTGC-3 ' (配列番号 36) BD2049-20: 5 ' -ACAATTTTCCCTTTTTCCATGACAATAATG-3 ' (配列番号 37) BD2119- 49 : 5,- GTCAGACTAACAGAAAGAACAGAAGAATATG-3' (配列番号 3 8) 番号 39)
BD2268- 42 : 5,- AATTCATTTTCGTCCTTTTCACGTACC-3' (配列番号 40) BD2269- 94 : 5,- CTTACCCGCTCATCTGGAATTAATTG- 3, (配列番号 41)
[0098] PCR反応は 95°C2分ののち、 95°C30秒、 57°C30秒、 72°C4分 30秒を 25サイクル行つ た。 PCR産物を 1%ァガロースゲル電気泳動に供し MinElute Gel Extraction Kit ( QIAGEN社)を用いて精製後、付属の溶出バッファ(EB) 45 μ ΐで溶出した。このうち 1 μ 1を用いて Quick Ligation Kit (New England Biolab社)に付属の 2xバッファ 5 μ 1と Τ4 DNA ligase 0.5 μ 1、さらに T4 Polynucleotide Kinase (New England Biolab社) 0.5 μ 1 の存在下、反応系 10 μ ΐで 37°C、 30分間カイネーシヨンとライゲーシヨンを同時に行つ た。反応液を用いて大腸菌 DH5ひを形質転換し、プラスミドを回収したのち、変異箇 所を含む NdeI-Eco52I断片の塩基配列を確認した。続レ、て NdeI_Eco52I断片を切り出 し精製したのち、 pAE104の NdeI_Eco52I部位に移し替え、変異型プラスミドを作製し た。
[0099] pAE104A, pAE104B, pAE104C, pAE104Dおよび pAE104Eをそれぞれ
PHSA14-ト HlyA218とともに大腸菌 JM109に導入した。これら形質転換体をそれぞれ AE104A, AE104B, AE104C, AE104Dならびに AE129株とし、上記〔実施例 4〕と同様 に HSA14-1 scFvの分泌活性を測定した。図 9は AE104株における分泌活性を 100%と した場合の各変異体における相対値を示したものである。図 9に示すように AE104A 株のみ野生型と同レベルまで活性が下がり、 AE104B株, AE104C株, AE104D株およ び AE104E株は AE104株と同等の活性を保っていることが確認された。以上のことから 、 HlyBの N末端から 448番目のロイシンのフヱニルァラニンへの置換が高分泌活性に 重要であることが示唆された。
[0100] 次に、 AE104株における変異型 HlyBの N末端から 448番目のフエ二ルァラニンが高 分泌活性に重要であることを確認するため、このフヱニルァラニンが唯一の変異アミノ 酸である変異型プラスミド PAE104Fを、 pSTV-HlyBDの BspHI- Sphl断片(1829 bp)を pAE104の同部位に組み込むことによって作製した。
[0101] pAE104Fを pHSA14-l-HlyA218とともに大腸菌 JM109に導入した。この形質転換体 を AE104Fとし、上記実施例 4と同様に HSA14-1 scFvの分泌活性を測定した。その結 果、図 9に示すように AE104F株における HSA14-1 scFvの分泌活性は AE104株と同 等レベルであったことから、 AE104株においては変異型 HlyBの N末端から 448番目の フエ二ルァラニンが分泌活性に重要なアミノ酸残基であることが確かめられた。
実施例 7
[0102] AE104F株における至谪培着温度の検討
AE104F株についてタンパク質発現の至適温度を確かめるため、 19°C、 23°Cおよび 27°Cにおける HSA14-1 scFvの分泌量を上記〔実施例 4〕と同様に測定した。比較コン トロールとして、 AE104株を用いた。波長 660 nmにおける吸光度から 19°Cでは 41時間 、 23°Cでは 24時間、 27°Cでは 17時間後において増殖は定常期の状態であった。図 1 0に示すように、 AE104株, AE104F株ともに 23°Cと 27°Cでは同等の発現レベルを示 した一方、 19°Cでは発現レベルは明らかに低下した。これらの結果と上記〔実施例 4〕 に示した結果から、 AE104F株を用いた HSA14-1 scFvの発現の至適温度帯は 23°C 力 27°Cであると言える。
実施例 8
[0103] AE104Fを用いた細朐内蛋白の発現効果
細胞外蛋白のみならず細胞内蛋白質力 SAE104Fにおいて効率的に分泌されるかど うかを確かめるため、例としてヒト由来のがん遺伝子 c-Myc (配列番号 48/GeneBank Accession No.: V00568)およびがん抑制遺伝子 PTEN (配列番号 49/
GeneBankAccession Νο·:ΝΜ000314)について pAE104Fを用いて低温での分泌試験 を行った。 HlyAシグナルを付加した c-Mycおよび PTENの発現ベクターについては以 下に示すように構築を行った。すなわち、 c-Mycについては当該遺伝子を有する cDNA断片を用いて Ncol部位を含むセンスプライマー 号 44)
番号 45)
を用いて PCRを行レ、、 Ncolおよび Notlで切断後、 E tagを挟んだ融合遺伝子となるよう pHSA14-l-HlyA の HSA14-1 scFvをコードする Ncoト Notl断片と組み換え、
218
pMyc-HlyA を作製した。 pMyc-HlyA において、発現するタンパク質は c-Myc—E
218 218
tag— HlyA の融合タンパク質である。 PTENに関しても c_Mycと同様に当該遺伝子を
218
有する cDNA断片を用いて Ncol部位を含むセンスプライマー 列番号 46)
および Notl部位を含むアンチセンスプライマー
PTEN_NtR: 5,_ 号 47)
を用いて PCRを行レ、、 Ncolおよび Notlで切断後、 pHSA14-l_HlyA の HSA14-1
218
scFvをコードする Ncol-Notl断片と組み換え、 pPTEN-HlyA を作製した。
218
[0104] pSTV—HlyBDもしくは pAE104Fを pMyc— HlyA もしくは pPTEN—HlyA とともに大月昜
菌 JM109に導入した。これら形質転換体を 37°Cで培養し、波長 660醒における吸光 度力 — 0.3となったときに IPTGを終濃度 0.4 mMとなるよう添加し、 37°Cで 5時間、も しくは 23°Cで 24時間培養した後、 4/1000 OD ユニット相当の上清を用いて常法に
660
従いウェスタンブロッテイングを行った。ウェスタンブロッテイングの 1次抗体には抗 E tag抗体(Amersham Bioscience社)の 2000倍希釈液を、 2次抗体には Alkaline Phosphatase-Rabbit Anti-Mouse IgG (H+L) (ZYMED社)の 1000倍希釈液を使用した 。検出には CDP- Star Ready-To Use (Roche社)を使用した。
結果を図 11 (A)及び図 11 (B)に示す。 c_Mycに関しては野生型では 23°Cおよび 37°Cともに検出できず、可溶性蛋白として培地中に分泌されていないことが示唆され た。一方、 AE104Fでは 23°Cにおいて培地中に検出できたことから、 AE104Fを用いた c-Mycの低温での発現が有効であることが確認された。 PTENに関しては野生型では 37°Cにおいてのみ検出されたが、分泌レベルは低かった。 AE104Fでは 23°Cにおい て 37°Cにおける野生型の発現レベルと同等以上であった力 S、 37°Cにおいて僅かに分 解物が見られるものの多量の分泌が確認された。したがって、 PTENの場合は 37°Cで 発現させることで分泌効率を高めることができる。以上の結果から、細胞内蛋白も AE104Fによって効率的に分泌できることがわ力 た。また、蛋白質の種類によっては 37°Cでより効率的な分泌発現を行えることが確認された。