明 細 書 超高配向窒化アルミ二ゥム薄膜を用いた圧電素子とその製造方法 技術分野
本発明はガラス等の安価な基板上に窒化アルミニゥムを高度に c軸配 向させた薄膜を用いた圧電素子及びその製造方法に関するものである。 背景技術
窒化アルミニウムは、 作製 · 薄膜化が容易であるなど、 圧電素子の小 型化 . 薄型化に向けて、 有望な材料である。 しかし、 窒化アルミニウム を圧電素子として利用するには、 c軸に一軸配向した窒化アルミニゥム が必要であり、 c軸配向性が強いほど圧電性も強くなる。 また、 窒化ァ ルミ二ゥム薄膜を圧電素子として利用する場合は、 その上面と下面とを 電極で挟む必要がある。
C軸配向した窒化アルミ二ゥム薄膜は、 従来からガラス基板上などへ 様々な方法で作製したものが報告 (T. Shiosaki, T. Yamamoto, T. Oda, A. Kawabata, Appl. Phys. Lett. , 36 (1980) 643) されており、 また電極膜 上に作製したものも報じられている。 しかし、 いずれも窒化アルミニゥ ム膜の c軸配向性がロッキングカーブ半価幅 (R C F WHM) で 3 . 0 ° 程度かそれ以上と大きく、 圧電特性も十分ではなかった。
また、 c軸に超高配向 (R C FWHMで 2 . 5 ° 以下) した窒化アル ミニゥム膜は、 (F. Engelmark, G. F. Iriarte, I. V. Katardjiev,
M. Ottosson, P. Muralt, S. Berg, J. Vac. Sci. Technol. A, 19 (2001) 2664
) などに報じられているが、 基板に単結晶基板を用いて、 その上に直接 窒化アルミ二ゥムの単結晶又は多結晶薄膜を作製するものであるため、 基板と窒化アルミ -ゥム薄膜との間に電極を挿入することができず、 圧 電素子と しての利用は困難である。
さらに窒化アルミニウム膜は、 成膜した際に非常に大きな内部応力を もち、 電極上に形成した場合、 電極にクラックが生じたり、 窒化アルミ 二ゥム膜が電極ごと基板から剥がれたりするなど、 圧電素子と して使用 するためには、 非常に大きな問題が生じる。
本発明は、 ガラス基板等の安価な基板上に密着層を介さずに W層で下 部電極を形成することにより、 ヒロックやクラック、 剥離がなく、 しか も c軸に超高配向した窒化アルミ二ゥム薄膜を形成させた高性能の圧電 素子を提供することを目的とする。
また本発明は、 Wの単層のみならず、 密着層を含む積層体である下部 電極を形成するに際して、 下部電極の表面層の材料を適切に選択するこ とにより、 同様に c軸に超高配向した窒化アルミニウム薄膜を形成させ た高性能の圧電素子を提供することを目的とする。 この際、 具体的な下 部電極の積層構造をも提案する。
本発明では、 上記窒化アルミニゥム薄膜を用いた圧電素子を製造する に際して、 粒子形状を制御して、 ヒロック、 クラック又は剥離を生じさ せずに、 窒化アルミニウム薄膜を c軸に超高配向させる容易且つ安価な 作製方法を提供する。
本発明は、 安価なガラス基板を使用した場合においても単結晶を基板 と した場合と同等の性能を実現することを目的とする。
さらに本発明は、 下部電極を R Fプラズマ支援スパッタリング法で成
膜することで、 窒化アルミ二ゥム薄膜をより c軸に超高配向させる製造 方法を提供することを目的とする。 発明の開示
本発明に係る超高配向窒化アルミニウム薄膜を用いた圧電素子は、 基 板上に下部電極、 圧電体薄膜、 上部電極を順次形成した積層構造を有す るヒロック、 クラック及ぴ剥離のない圧電素子であって、 前記下部電極 は基板面に対して Wの ( 1 1 1 ) 面が平行である配向性 W層で形成し、 且つ前記圧電体薄膜はロッキングカーブ半価幅 (R C FWHM) が 2. 5 ° 以下の c軸配向窒化アルミニウム薄膜で形成したこ とを特微とする また本発明に係る超高配向窒化アルミニゥム薄膜を用いた圧電素子は 、 基板上に、 該基板と密着する密着層を下層に含む下部電極、 圧電体薄 膜、 上部電極を順次形成した積層構造を有するヒロック、 クラック及び 剥離のない圧電素子であって、 前記下部電極は積層体からなり、 該積層 体の最表層は、 1 . 4付近の電気陰性度を有し且つ窒化アルミニウムの ( 0 0 1 ) 面の原子配列と同一配列でその原子間隔とほぼ同じ原子間隔 の結晶面を有する金属の前記結晶面が基板面に対して平行である配向性 の金属層で形成し、 且つ前記圧電体薄膜は R C F WHMが 2 · 5° 以下 の c軸配向窒化アルミ二ゥム薄膜で形成したことを特徴とする。
さらに本発明に係る超高配向窒化アルミニゥム薄膜を用いた圧電素子 は、 基板上に、 該基板と密着する密着層を下層に含む下部電極、 圧電体 薄膜、 上部電極を順次形成した積層構造を有するヒロック、 クラック及 び剥離のない圧電素子であって、 前記下部電極は、 基板面に対して W、
P t、 Au又は A gの ( 1 1 1 ) 面が平行である配向性 W層、 配向性 P t層、 配向性 A u層又は配向性 A g層のいずれかを最表層に形成した積 層体で形成し、 且つ前記圧電体薄膜は R C F WHMが 2. 5° 以下の。 軸配向窒化アルミニゥム薄膜で形成したことを特徴とする。
本発明に係る超高配向窒化アルミ二ゥム薄膜を用いた圧電素子の製造 方法は、 基板上に、 Wの ( 1 1 1 ) 面が基板面に対して平行となる配向 性 W層からなる下部電極を室温乃至 W粒子間の隙間が生じない程度の低 温にてスパッタ リ ングで形成し、 次いで前記下部電極上に R C F WHM が 2. 5 ° 以下の c軸配向窒化アルミニウム薄膜からなる圧電体薄膜を 形成し、 次いで前記圧電体薄膜上に上部電極を形成することを特徴とす る。
また、 本発明に係る超高配向窒化アルミニゥム薄膜を用いた圧電素子 の製造方法は、 基板上に、 該基板と密着する密着層を含めて二層以上の 積層構造の下部電極を形成するに際して、 まず前記密着層を室温乃至粒 子間に隙間が生じない程度の低温にてスパッタ リ ングで成膜し、 1 . 4 付近の電気陰性度を有し且つ窒化アルミ二ゥムの ( 0 0 1 ) 面の原子配 列と同一配列でその原子間隔とほぼ同じ原子間隔の結晶面を有する金属 を使用して、 前記下部電極の最表層に基板面に対して前記金属の前記結 晶面が平行となる金属層を室温乃至粒子間に隙間が生じない程度の低温 にてスパッタリングで配向させて成膜して下部電極を形成し、 次いで前 記下部電極上に R C F WHMが 2. 5 ° 以下の c軸配向窒化アルミユウ ム薄膜からなる圧電体薄膜を形成し、 次いで前記圧電体薄膜上に上部電 極を形成することを特徴とする。
さらに本発明に係る超高配向窒化アルミニゥム薄膜を用いた圧電素子
の製造方法は、 基板上に、 該基板と密着する密着層を含めて二層以上の 積層構造の下部電極を形成するに際して、 まず前記密着層を室温乃至粒 子間に隙間が生じない程度の低温にてスパッタ リングで成膜し、 基板面 に対して W、 P t 、 A u又は A gの ( 1 1 1 ) 面が平行である配向性 W 層、 配向性 P t層、 配向性 A u層又は配向性 A g層を最表層に室温乃至 粒子間に隙間が生じない程度の低温にてスパッタリ ングで成膜して前記 下部電極を形成し、 次いで前記下部電極上に R C F WHMが 2. 5 ° 以 下の c軸配向窒化アルミニウム薄膜からなる圧電体薄膜を形成し、 次い で前記圧電体薄膜上に上部電極を形成することを特徴とする。
本発明のさらに他の目的、 特徴、 及び優れた点は、 以下に示す記載に よって十分わかるであろう。 また、 本発明の利益は、 添付図面を参照し た次の説明で明白になるであろう。 図面の簡単な説明
図 1は、 W薄膜上の窒化アルミニウム薄膜表面の光学顕微鏡写真 (画 像) である。
図 2 ( a ) 及ぴ図 2 ( b ) は、 窒化アルミニウム薄膜表面の光学顕微 鏡写真 (画像) であり、 図 2 ( a ) は T i / A u薄膜上 ( 8 0 0倍) 、 図 2 ( b ) は A 1 — S i薄膜上 ( 5 0倍) のものである。
図 3 ( a ) 及び図 3 ( b ) は、 窒化アルミニウム薄膜表面の光学顕微 鏡写真 (画像) であり、 図 3 ( a ) は C r薄膜上 ( 5 0 0倍) 、 図 3 ( b ) は N i薄膜上 ( 5 0 0倍) のものである。
図 4は、 窒化アルミ二ゥム薄膜の配向性と下部電極薄膜の配向性との 関係を示す図である。
図 5は、 窒化アルミ二ゥム薄膜の配向性と下部電極薄膜の電気陰性度 との関係を示す図である。
図 6 ( a ) 及ぴ図 6 ( b ) は、 窒化アルミ ニウム薄膜表面の原子間力 顕微鏡 (AFM) 像を示す写真であり、 図 6 ( a ) は T i / P t薄膜上 、 図 6 (b ) は C r / P t薄膜上のものである。
図 7は、 薄膜に働く応力状態を示す概念図である。
図 8 ( a ) 及び図 8 ( b ) は、 P t薄膜表面の原子間力顕微鏡 (A F M) 像を示す写真であり、 図 8 ( a ) は T i薄膜上、 図 8 ( b ) はじ 薄膜上のものである。
図 9 ( a ) 〜図 9 ( c ) は、 作製温度を変えた T i / P t薄膜上の窒 化アルミニウム薄膜表面の原子間力顕微鏡 (AFM) 像を示す写真であ り、 図 9 ( a ) は室温、 図 9 ( b ) は 3 0 0 ° (:、 図 9 ( c ) は 4 0 0 °C である。
図 1 0 ( a ) 〜図 1 0 ( c ) は、 作製温度を変えた T i ZP t薄膜上 の P t薄膜表面の原子間力顕微鏡 (A FM) 像を示す写真であり、 図 1 0 ( a ) は室温、 図 1 0 ( b ) は 3 0 0 °C、 図 1 0 ( c ) は 4 0 0。 で ある。
図 1 1は、 荷重一出力グラフである。
図 1 2は、 スクラッチ痕の顕微鏡観察写真 (画像) である。
図 1 3は、 R C FWHMが異なるときの圧電素子の圧力と電荷量の関 係を示すグラフである。 発明'を実施するための最良の形態
以下、 本発明について実施形態及び実施例を挙げながら詳細に説明す
るが、 本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
本発明に係る圧電素子は、 基板上に下部電極、 圧電体薄膜、 上部電極 を順次形成した積層構造を有する。 ここで、 ヒロック (丘状の隆起) 、 クラック (亀裂) 又は剥離のいずれかが下部電極、 圧電体薄膜又は上部 電極に存在すると、 圧電素子と しての信頼性が著しく低下するので、 本 発明では、 ヒ ロック、 クラック又は剥離のいずれもない圧電素子とする 本発明は基板上に圧電素子を形成するので、 圧力センサ、 表面弾性波 フィルタ等と して使用することができ、 しかも高感度とすることが可能 である。
本発明で使用する基板は、 サファイア等の単結晶のみならず、 ガラス 基板、 多結晶セラミ ック基板、 金属基板、 樹脂基板等の単結晶基板以外 の基板を使用することができる。 本発明では単結晶基板を使用できるが 、 単結晶基板以外の基板においても c軸に超高配向した窒化アルミニゥ ム (A I N ) を成膜できるので、 特に圧電素子の安価化に貢献する。 下部電極は、 金属単層とするか、 或いは基板と密着させる密着層を含 む積層体と しても良い。
下部電極は、 金属単層とする場合は、 基板面に対して Wの ( 1 1 1 ) 面が平行である配向性 W層で形成することが好ましい。
また、 下部電極を、 密着層を含む積層体とする場合には、 積層体の最 表層を形成する金属を 1 . 3以上 1 . 5以下の電気陰性度を有する金属 とすることが好ましく、 1 . 4付近の電気陰性度を有する金属とするこ とがより好ましい。 さらにこの条件に加えて、 窒化アルミニウムの ( 0 0 1 ) 面の原子配列と同一配列でその原子間隔とほぼ同じ原子間隔の結
晶面を有する金属とすることがさらに好ましい。 このよ うな金属は、 窒 化アルミニウムの ( 0 0 1 ) 面と非常に相性がよいからである。 すなわ ち、 このよ うな金属の結晶面と窒化アルミニウムの ( 0 0 1 ) 面とでは 格子定数の差がないことから、 窒化アルミニウムが歪むことなく成長す ることができるからである。 また、 下部電極の最表層は、 このような金 属の前記結晶面が基板面に対して平行である配向性の金属層で形成する ことが良い。
また、 下部電極を、 密着層を含む積層体とする具体例として、 下部電 極は、 W、 P t、 A u又は A gの ( 1 1 1 ) 面が基板面に対して平行で ある配向性 W層、 配向性 P t層、 配向性 A u層又は配向性 A g層のいず れかを最表層に形成した積層体で形成してもよい。 W、 P t、 A u又は A gの ( 1 1 1 ) 面は、 窒化アルミニウムの ( 0 0 1 ) 面と非常に相性 がよいからである。 すなわち、 W、 P t 、 A u又は A gの ( 1 1 1 ) 面 と窒化アルミニウムの ( 0 0 1 ) 面とでは格子定数の差がないからであ る。
さらに、 具体例を例示すると、 下部電極は、 基板上に形成する第 1層 /第 1層上に形成する第 2層の表記に従って T i /P t又は C r ZP t の二層体に形成することが好ましい。 また、 下部電極は、 基板上に形成 する第 1層ノ第 1層上に形成する第 2層/第 2層上に形成する第 3層の 表記に従って T i / P t / A u、 T i /Ν i ZA u又は C r /N i /A uの三層体に形成しても良い。
密着層を介さずに基板上に P t 、 A u又は A gを下部電極と して形成 すると、 応力により、 剥離、 クラックの発生が生じやすい。 上記の密着 層を介することで、 剥離、 クラック或いはヒロックの発生を効果的に防
止することができる。 しかも、 上記密着層は P t、 11又は §の ( 1 1 1 ) 面の配向を促し、 結果と して、 c軸に超配向した窒化アルミ -ゥ ム薄膜を成膜することを可能とする。
本発明の圧電体薄膜は、 ロッキングカーブ半価幅 (R C FWHM) が 2. 5 ° 以下の c軸超配向窒化アルミニウム薄膜で形成する。 ロッキン グカーブ測定によ り、 結晶面方位 (配向方位) の偏り ·広がりがわかる 。 図 1 3に示すよ うに、 R C F WHMと圧電素子がためる電荷量とは相 関がある。 すなわち、 R C F WHMが小さいほど、 圧電素子は高電荷を 蓄積し高性能となる。 本発明では、 R C FWHMが 2. 5° 以下の窒化 アルミ二ゥム薄膜を c軸超配向窒化アルミ二ゥム薄膜と した。
本発明の上部電極は、 A l 、 P t 、 A u、 A g等の金属又はこれらの 金属を主体と した合金、 I TO、 二酸化イ リジウム、 二酸化ルテニウム 、 三酸化レニゥム、 L S C O (L a 。. 5 S r 。. 5 C o 03) 等の導電性 酸化物若しく は窒化タンタル等の導電性窒化物とすることができる。 上 記は例示であり、 窒化アルミニウム薄膜と密着性がよく、 応力を生じさ せにくい導電物質であれば使用することができる。
次に本発明の圧電素子の製造方法について説明する。 まず、 基板の選 択と しては、 単結晶基板、 多結晶基板或いはアモルファス基板のいずれ も選択できるが、 基板種によらず c軸超高配向窒化アルミニウム薄膜を 形成可能な本発明では、 多結晶基板或いはアモルファス基板を選択する ことが好ましい。 また、 ガラス基板、 特に石英ガラス基板を選択するこ とがよ り好ましい。
本発明において、 密着層を含まない下部電極或いは密着層を含む下部 電極のいずれにおいても金属を電極材料と して用いることから、 物理気
相成長法 (P V D法) を用いて蒸着する。 すなわち、 抵抗加熱蒸着又は 電子ビーム加熱蒸着等の真空蒸着法、 D Cスパッタ リ ング、 高周波スパ ッタ リ ング、 R Fプラズマ支援スパッタ リ ング、 マグネ トロンスパッタ リ ング、 E C Rスパッタ リ ング又はイオンビ一ムスパッタ リ ング等の各 種スパッタ リ ング法、 高周波イオンプレーティング、 活性化蒸着又はァ 一クイオンプレーティング等の各種イオンプレーティング法、 分子線ェ ピタキシ一法、 レーザアブレーシヨ ン法、 イオン化クラスタビーム蒸着 法、 並びにイオンビーム蒸着法などの成膜方法である。 このうち、 好ま しく はスパッタ リ ング法によ り、 特に好ま しく は R Fプラズマ支援スパ ッタリング法によ り、 所定の金属或いは合金からなる下部電極を形成す る。 これらの蒸着方法の選択は、 蒸着物質によって適宜選択する。
下部電極の成膜温度は、 下部電極を構成する金属粒子の粒子間に隙間 が生 ^じない程度の低温で、 好ましく は室温で行なう。 粒子間に隙間が生 じると、 クラック、 剥離が生じやすくなると ともに、 上部電極と下部電 極とのショート (短絡) が生じ易く なるためである。
なお、 粒子間の隙間が生ずる成膜温度を超えると、 成膜時に粒成長す ることがあり、 この粒成長によって下部電極の微構造が滑らかになる場 合がある。 このよ うな場合には、 ショートのおそれが少なくなるので、 粒成長により粒子間の隙間が消失し、 微構造が平坦になる成膜温度で成 膜しても良い。
成膜条件は、 例えば、 圧力は 1 . 0 X 1 0— i P a 窒素ガス分圧比 は 0 %、 基板温度は無加熱、 ターゲッ ト投入電力は 2 0 0 Wと し、 膜厚 は材料によ り変化させる。 これらの条件も適宜変更可能である。
基板上に、 基板と密着する密着層を含めて二層以上の積層構造の下部
電極を形成する場合には、 まず、 密着層を粒子間に隙間が生じない程度 の低温、 好ましくは室温にてスパッタ リングで成膜する。 次にこの密着 層の上に、 窒化アルミニウムの ( 0 0 1 ) 面とマッチングの良い電極面 を形成する。 この電極面としては、 例えば、 1. 4付近の電気陰性度を 有し且つ窒化アルミニウムの ( 0 0 1 ) 面の原子配列と同一配列でその 原子間隔とほぼ同じ原子間隔の結晶面を有する金属を使用する。 前記金 属を使用して、 下部電極の最表層に基板面に対して前記金属の前記結晶 面が平行となる金属層をスパッタ リ ングで配向させて成膜して下部電極 を形成する。 この場合の成膜温度条件は前記のとおり、 下部電極を構成 する金属粒子の粒子間に隙間が生じない程度の低温で、 好ましくは室温 で行なう。
このとき、 W、 P t; 、 A u又は A gの ( 1 1 1 ) 面が基板面に対して 平行である配向性 W層、 配向性 P t層、 配向性 A u層又は配向性 A g層 を最表層と して、 スパッタリ ングで形成しても良い。 この場合の成膜温 度条件は、 金属粒子の粒子間に隙間が生じない程度の低温で、 好ましく は室温で行なう。
密着層を含む下部電極を形成する場合においても、 下部電極は R Fプ ラズマ支援スパッタ リ ング法で成膜することが好ましい。
下部電極を低温で成膜することにより、 窒化アルミ二ゥムを配向させ るのに適した最表面を形成するとともに、 熱膨張差を無く して応力を下 げ、 クラック、 ヒ ロ ック及び剥離の防止を図ることができる。
次いで前記下部電極上に R C F WHMが 2. 5 ° 以下の c軸配向窒化 アルミ二ゥム薄膜からなる圧電体薄膜を形成する。 この工程は P VD法 、 特にスパッタリ ング法で成膜することが好ましい。 下部電極を形成し
た段階で、 下部電極の最表層を形成する電極材料である金属は、 窒化ァ ルミ二ゥムの ( 0 0 1 ) 面の原子配列と同一配列でその原子間隔とほぼ 同じ原子間隔の結晶面が基板に対して平行となる状態で配向している。 したがって、 サファイア等の単結晶と同等の下地表面を形成している。 この下部電極の最表層に P V D法によ り窒化アルミニゥムをターゲッ ト と して薄膜を形成することで c軸に超配向した窒化アルミ二ゥム薄膜が 得られる。 このときの成膜条件は、 例えば、 圧力は 1 . 3 X 1 0— a、 窒素ガス分圧比は 6 0 %、 基板温度は 3 0 0 °C、 ターゲッ ト投入電 力は 2 0 0 Wである。 膜厚は 2 0 0 0 n mと した。 これらの条件は適宜 変更可能である。
次いで圧電体薄膜上に上部電極を形成する。 前記した上部電極の材質 を P VD法或いは C VD法の蒸着方法により形成する。 ここで、 蒸着物 質によって適宜、 蒸着方法を選択する。
〔実施例〕
以下、 実施例を示しながら本発明をさらに詳細に説明する。 本発明で は元素表記は元素記号を用いた。
[高配向性薄膜の作製]
窒化アルミ二ゥム薄膜の電気機械結合係数などの電気的な特性は、 結 晶の配向性に大きく依存することが知られている。 そこで、 高配向性 A I N薄膜を得るために、 下部電極の影響及び下部電極の積層効果につい て検討した。
〔実施例 1 ; 下部電極の影響〕
これまでに A 1 N薄膜を導電体上に作製する研究は、 鉄の耐腐食性を 向上させるために行った研究及ぴ表面弾性波 ( S AW) フィルタ用の A
1電極上に作製した研究が主である。 その他の導電体上での研究は、 僅 かしか行われていない。 報告されている中で最も高配向性の A 1 N薄膜 は、 ガラス基板上の A u薄膜上に作製され、 ロッキングカープの半価幅 3° を示している。 そこで、 下部電極上で高配向性 A 1 N薄膜を得るた めに、 2 0種類の導電体薄膜上で A 1 N薄膜を作製し、 A 1 N薄膜の結 晶構造への影響を調べた。 2 0種類の導電体薄膜は主にスパッタリ ング 法で室温にて作製した。 作製した A 1 N薄膜の X R Dの測定結果を表 1 に示す。 基板にはガラスを使用した。
すなわち、 石英ガラス ( 2 0 mm X 2 0 mm X l . l mm) を基板と し、 下部電極の成膜条件は、 圧力は 1. 0 X 1 0— i P a 窒素ガス分 圧比は 0 %、 基板温度は無加熱、 ターゲッ ト投入電力は 2 0 0 Wと し、 膜厚は材料により変化させた。 また、 窒化アルミニウムの成膜条件は、 圧力は 1. 3 X 1 0— i P a 窒素ガス分圧比は 6 0 %、 基板温度は 3 0 0 °C、 ターゲッ ト投入電力は 2 0 0 Wとし、 膜厚は 2 0 0 0 n mとし た。
o
14
表 1
**強すぎて測定不可能
剥離した。
##真空蒸着で作製した。
5
A l — S i N i C rなどは半導体で良く使われる材料のため、 こ れらが電極と して使用できれば半導体と窒化アルミユウム圧電素子とを 集積する際に有利になるが、 残念ながらこれらの材料では R C F WHM が大きく、 またクラックも多数発生した。 次に、 P t A uについては 石英基板上に直接これらを形成した場合、 基板への密着性が悪く剥離が 激しく起こった。 そこで、 密着層と して T iや C rなどを揷入した。 表 1の測定結果より、 W T i /P t , T i /A u及び T i ZA g上で、 口ッキングカーブの半価幅 2 ° 前後の超高配向性を示す A 1 N薄膜が得 られた。
なお、 下部電極が複層の場合には、 左に記載した元素を基板上に形成 する第 1層と した。 例えば、 T i / P t と表記する場合には、 T i が第 1層、 P tが第 2層である。 下部電極が 3層により構成される場合には 、 第 1層/第 2層 Z第 3層と表記すること とする。
ミクロ的に優れた結晶構造を示しても、 マクロ的にクラックや剥離が 生じた場合は、 量産化は困難となる。 そこで、 光学顕微鏡を用いてそれ ぞれの A 1 N薄膜の表面観察を行った。 その結果を図 1、 図 2 ( a ) 及 び図 2 ( b ) 、 並びに図 3 ( a ) 及び図 3 ( b ) に示す。 超高配向性及 ぴ高結晶化度を示した、 W薄膜上に作製した A 1 N薄膜の表面の光学顕 微鏡写真 ( 8 0 0倍) を図 1に示す。 W及び T i /P t上の A 1 N薄膜 の表面は、 図 1に示すよ うに滑らかで、 均一であり、 クラックや剥離は まったく観察されなかつた。
一方、 T i /A uや T i ZA g上の A 1 N薄膜の表面では、 図 2 ( a ) に示すようなヒロックと大きなクラックが観察された。 既存の半導体 技術を生かすためには、 A 1 _ S i の使用が有利である力 A 1 — S i 薄膜上では高配向性の A 1 N薄膜を得られず、 図 2 ( b ) に示すように 、 激しいクラックの発生が観察された。 図 3 ( a ) 及ぴ図 3 ( b ) には 比較のために、 C r薄膜上と N i薄膜上とに作製した A 1 N薄膜表面の 光学顕微鏡写真を示す。 C r薄膜や N i薄膜などの上に作製した A 1 N 薄膜には、 図 3 ( a ) 及び図 3 ( b ) に示すように、 無数のクラックが 入り、 所々にピンホールのような部分も観察された。 これらの結果より 、 W及び T i / P t上の A 1 N薄膜は、 高配向性及び高結晶化度を示し 、 更にクラックなどを生じない。 したがって、 下部電極薄膜と しては、 W又は T i / P t薄膜が優れていることがわかった。
A 1 N薄膜が W、 T i Z P t、 T i / A u及び T i Z A g上で優れた 結晶構造を示した理由を明らかにするために、 下部電極薄膜の配向性と 下部電極薄膜上に作製した A 1 N薄膜の配向性との関係、 及び下部電極 材料の電気陰性度と下部電極薄膜上に作製した A 1 N薄膜の配向性との 関係を調べた。 その結果を図 4及び図 5に示す。 下部電極薄膜の配向性 が高いほど、 A 1 N薄膜の配向性も高くなる傾向を示した。 また、 下部 電極材料の電気陰性度が 1 . 4付近で高配向性の A 1 N薄膜が得られた 。 これより、 電気陰性度が 1 . 4付近の導電体を使用することによって 、 導電体上に優れた結晶構造を示す A 1 N薄膜を作製することができる
[実施例 2 ; 下部電極の積層効果]
A 1 N薄膜における下部電極の積層効果については、 今までに報告例 が無い。 そこで、 金属薄膜を二重、 三重に積層させ、 A 1 N薄膜の配向 性や結晶化度などの結晶構造への影響を調べた。
高配向性及び高結晶化度を示した、 T i / P t と C r / P tの P t系 について調べた。 石英ガラス ( 2 0 mm X 2 0 mm X l . l mm) を基 板と し、 下部電極の成膜条件は、 圧力は 1 . 0 X 1 0— i P a、 窒素ガ ス分圧比は 0 %、 基板温度は無加熱、 ターゲッ ト投入電力は 2 0 0 Wと し、 膜厚は材料によ り変化させた。 また、 窒化アルミ -ゥムの成膜条件 は、 圧力は 1 . 3 X 1 0 i P a、 窒素ガス分圧比は 6 0 %、 基板温度 は 3 0 0 ° ( 、 ターゲッ ト投入電力は 2 0 0 Wとし、 膜厚は 2 0 0 0 n m とした。
それぞれの薄膜上に作製した A 1 N薄膜の X R Dの結果を表 2に示す 。 最下部を T i から C rに変えることによって、 A l N薄膜の口ッキン
グカーブの半価幅は 2. 0 6 ° 力 ら 0. 4 0 ° に大きく減少した。 A 1 N ( 0 0 2 ) 面のピークの積分強度も約 2倍も向上した。 ' A 1 N ( 0 0 1 ) の面間隔 ( c軸長) は 4. 9 8 0 X 1 0— 8m ( 4. 9 8 0 A) で あり、 前記薄膜上に作製した A 1 N ( 0 0 1 ) 面の面間隔は 4. 9 8 2
X 0一 8 m ( 4. 9 8 2 A) と 4. 9 8 4 X 1 0一 8 m ( 4. 9 8 4 A
) を示しているため、 若干 c軸は伸び、 c軸の横方向から圧縮応力が発 生していると考えられる。 これらより、 この C r薄膜はわずか数十 n m しかないにもかかわらず、 その上に作製される A 1 N薄膜の結晶構造に 大きく影響することがわかった。 また、 発明者らが調べた範囲では、 口 ッキングカーブの半価幅が 0. 4 0 ° を示す、 超高配向性 A 1 N薄膜の 作製報告は、 基板に α— A 1 2 O 3単結晶 (サファイア) を用い、 基板 温度 5 0 0 °C以上で得られているのみである。 したがって、 ガラス基板 上で、 しかも 3 0 0 °Cという低温で超高配向性 A 1 N薄膜が得られたの は、 初めてのことである。
最下部層の影響による、 A 1 N薄膜の配向性及び結晶化度の違いを明 らかにするために、 極微小領域の表面観察に適している、 原子間力顕微 鏡 (A FM) を用いて、 それぞれの A 1 N薄膜の表面観察を行った。 そ の結果を図 6 ( a ) 及び図 6 ( b ) に示す。 T i / P t薄膜上では、 A I N薄膜の表面粗さ (R a ) は 2. 9 5 n mであり、 直径約 3 0〜 5 0 n mの粒から形成されていた (図 6 ( a ) ) 。 一方、 高配向性を示した
C r / P t薄膜上では、 A 1 N薄膜の表面粗さ (R a ) は 1. 6 9 n m と比較的低く、 いくつかの粒子がつながった二次粒子から形成されてい た (図 6 ( b ) ) 。 この C r _ P t試料は大きい粒子から形成されてい るにもかかわらず、 表面粗さが低く、 平らであった。 これらの結果より 、 A 1 N薄膜の配向性及び結晶化度に対する最下部金属薄膜の影響、 す なわち、 A 1 N薄膜の成長過程における最下部金属薄膜の影響は大きく 、 優れた結晶性を示す A 1 N薄膜を得るためには、 最下部金属薄膜の材 料の選択も非常に重要であることがわかった。
最下部の C r薄膜の影響を更に調べるために、 XR D法を用いて中間 の P t薄膜部分の結晶構造を調べた。 その結果を表 3に示す。 T i の代 わりに C r を最下部に使用した場合、 P t薄膜の口ッキングカーブの半 価幅は増加し、 積分強度は大きく減少した。 また、 P t ( 1 1 1 ) の面 間隔 (格子定数) は 2. 2 6 5 0 X 1 0— 8m ( 2. 2 6 5 0 A) であ るため、 P t薄膜との格子定数の差は小さくなつている。 これらの結果 より、 C r を最下部に用いることによって、 P t薄膜の配向性及ぴ結晶 化度は低下した。 したがって、 P t薄膜が高配向性及び高結晶化度を示 すので、 その上に作製した A 1 N薄膜が高配向性及び高結晶化度を示す と思われたが、 P t薄膜の配向性及び結晶化度は、 A 1 N薄膜の結晶構 造を決定する重要な因子ではなく、 別の重要な因子があると考えられる 。 また、 図 7に示すように、 格子定数の変化より A 1 N薄膜には圧縮応 力、 P tには引っ張り応力が働いていると考えられる。
表 3
A1N薄膜作製後の R薄膜の D測定結果
A 1 N薄膜の結晶構造を決定する重要な因子を明らかにするために、 両方の P t薄膜を原子間力顕微鏡 (A FM) を用いて観察を行った。 そ の結果を図 8 ( a ) 及ぴ図 8 ( b ) に示す。 T i薄膜上では、 P t薄膜 の表面粗さ (R a ) は 1. 9 9 n mであり、 直径約 5 0 n mの均一な粒 子から形成されている (図 8 ( a ) ) 。 一方、 C r薄膜上では、 P t薄 膜の表面粗さ (R a ) は 4. 0 9 n mであり、 ところどころ直径約 2 0 O n mの粒子が観察され、 表面は均一ではなかった。 また、 粒子が無い 部分は非常に平らであった (図 8 ( b ) ) 。 これより、 C rを最下部に 用いた場合、 A 1 N薄膜の配向性及ぴ結晶化度が向上したのは、 P t薄 膜の表面粗さが低下し、 平坦性が増したためと推測される。
次に、 T i /A u、 T i / P t A u、 T i /N i ZA u及ぴ C r /
N i ZA uの A u系においても積層効果を調べた。 その結果を表 4に示 す。 ロッキングカープの半価幅は、 すべてほぼ 1. 6 ° 前後であり、 大 きな差は見られなかった。 ( 0 0 2 ) ピークの積分強度にも大きな差は 観察されなかった。 これより、 A u系薄膜の場合は P t系薄膜の場合と は異なり、 積層効果の影響は観察されなかった。
表 4
A u系の電極では積層効果が観察されなかった理由を明らかにするた めに、 各試料の A u薄膜の結晶構造を X RD法を用いて調べた。 その結 果を表 5に示す。
表 5
*強度が高す て測定不可能
A uの ( 1 1 1 ) 面のピークのロッキングカーブの半価幅は、 1 . 6 2〜 6. 6 0 ° と大きな差が見られ、 積分強度においても桁違いの差が 見られた。 また、 A u ( 1 1 1 ) の面間隔は 2. 3 5 5 0 X 1 0— 8m ( 2. 3 5 5 0 A) であるが、 どの電極でも A uの格子定数は短く、 特 に C r ZN i ZAuは 2. 3 1 7 X 0 m ( 2. 3 1 7 A) と最も 短く、 A u薄膜に大きな引っ張り応力が働いていると考えられる。 これ らのことから、 A u系電極の場合も、 A uの配向性及ぴ結晶化度には関 係なく、 その上に作製した A 1 N薄膜は高配向性及び高結晶化度を示す ことがわかった。 この場合も、 薄膜表面の平坦性が重要な因子と推測さ れる。 また、 A 1 N薄膜及び A u薄膜に作用する応力も、 図 7に示した ように、 A 1 N薄膜には圧縮応力、 A u薄膜には引っ張り応力が働いて
いる
A 1及び C r / A 1 の A 1 系においても同様の比較をしてみた。 その 結果を表 6に示す。 ロッキングカーブの半価幅は、 5 . 8 8 ° から 2 . 5 7 ° に減少し、 積分強度は 6 0 0 , 0 0 0力 ら 2 , 0 9 0 , 0 0 0 ( c p s ) に増加した。 これよ り、 A 1系薄膜の場合も、 A 1 N薄膜の配 向性及び結晶化度に対する最下部薄膜の影響、 すなわち A 1 N薄膜の成 長過程における最下部薄膜の影響は大きい。 したがって、 優れた結晶性 を示す A 1 N薄膜を得るためには、 最下部金属薄膜の材料の選択を重視 する必要がある。
表 6
実施例 1及び実施例 2では超高配向性 A 1 N薄膜を作製するために、 下部電極の影響及び下部電極の積層効果について検討した。 下部電極の 種類及び下部電極の積層構造によって、 A 1 N薄膜の配向性及び結晶化 度などが大きく変化することがわかった。 すなわち、 下部電極の影響を 調べた結果、 W、 T i / A u 、 T i / A g及び T i / P t薄'膜上で高配 向性 A 1 N薄膜が得られた。 しかし、 T i / A u及び T i Z A g薄膜上 に作製した A 1 N薄膜には、 ヒロックや大きなクラックが観察され、 T i / A u及ぴ T i Z A gは下部電極材料には適していなかった。 一方、 W及び T i / P t上に作製した A 1 N薄膜の表面は、 均一であり、 クラ ックや剥離はほとんど無く、 下部電極材料と しては W又は T i / P tが 滴していることがわかった。 下部電極材料全体の傾向と しては、 下部電
極の配向性及ぴ結晶化度が高いほど、 その上に作製される A 1 N薄膜の 配向性及び結晶化度も向上する。 また、 電極材料と しては、 電気陰性度 1 . 4付近を示す材料が適している。
下部電極の積層効果を調べた結果、 P t系薄膜の場合には、 A 1 N薄 膜の配向性及び結晶化度に対する最下部薄膜の材質の影響、 すなわち、 A 1 N薄膜の成長過程における最下部薄膜の材質の影響は大きく、 優れ た結晶性を示す A 1 N薄膜を得るためには、 最下部の物質を最適化しな ければならない。 C r を最下部に用いた場合、 A 1 N薄膜の配向性及び 結晶化度が向上するのは、 P t薄膜の表面粗さが低下し、 平坦性が増加 したためと推測される。 A 1 系薄膜の場合にも C rによって大きな影響 が観察された。 しかし、 A u系薄膜の場合はほとんど変化は観察されな かった。
以上の結果より、 下部電極には W薄膜、 T i Z P t積層薄膜又は C r / P t積層薄膜を使用することによって、 超高配向性 (ロ ッキングカー ブの半価幅 : 0 . 4 ° ) を示す A 1 N薄膜が、 低温で、 ガラス基板上で も得られることが明らかとなった。
[クラック及びショート対策]
上部電極と下部電極とがショートする原因と して、 クラックやピンホ ールが考えられる。 これらのクラックやピンホールの発生を防ぐために 、 下部電極の作製温度の影響及び下部電極の作製方法の影響を調べた。 また、 A 1 N薄膜のセンサ等の圧電素子と しての信頼性を評価するため に、 A 1 N薄膜の密着強度を評価した。
[実施例 3 ; 下部電極の作製温度の影響]
クラックや剥離の原因と して、 基板及ぴ下部電極と A 1 Nとの熱膨張
係数の差が考えられる。 そこで、 熱膨張係数の差の影響を小さく し、 ク ラック及び剥離を防ぐために、 下部電極の作製温度の影響を調べた。 下 部電極には高配向性を示した T i Z P t薄膜を用いた。 室温、 3 0 0 °C 及び約 4 0 0 °Cで T i / P t下部電極を作製した。 上部電極には真空蒸 着法により作製した A 1薄膜を用いた。 作製温度が異なる試料を同時に 三個作製し、 各試料のショート状況を調べた。
室温で下部電極を作製した場合は、 すべての試料がショートしなかつ た。 一方、 3 0 0 °Cで下部電極を作製した場合は、 三分の一の試料がシ ョートしなかった。 4 0 0 °Cで下部電極を作製した場合は、 すべての試 料がショートしなかった。 これより、 ショートしない試料を作製するた めには、 T i Z P t下部電極を室温又は 4 0 0 °Cで作製すれば良いこと 力 Sわ力 つた。
下部電極の作製温度が A 1 N薄膜の結晶構造へ及ぼす影響を調べるた めに、 それぞれの試料の結晶構造を X R D法を用いて測定した。 その結 果を表 7に示す。 T i / P t下部電極薄膜の作製温度が高いほど、 A 1 N薄膜の ( 0 0 2 ) 面の口ッキングカーブの半価幅は増加し、 ( 0 0 2 ) 面のピークの積分強度は減少した。 c軸の長さには作製温度の影響は 観察されず、 すべて 4 . 9 8 0 X 1 0— 8 m ( 4 . 9 8 0 A ) 付近であ り、 内部応力は発生しなかった。 これよ り、 T i Z P t下部電極薄膜の 作製温度が高いほど、 A 1 N薄膜の配向性及び結晶化度は低下する。 し たがって、 ショートせず、 高配向性及び高結晶化度を示す A 1 N薄膜を 作製するためには、 下部電極薄膜は室温で作製すべきである。
表 7
下部電極薄膜の作製温度を変化させた場合の A1N薄膜の K 測定結果
*A1N薄膜も 400 で作製した。 下部電極の作製条件の影響を更に調べるために、 原子間力顕微鏡を用 いて、 各試料の表面形状を調べた。 その結果を図 9 ( a ) 〜図 9 ( c ) に示す。 また、 表面粗さと平均粒径の測定結果を表 8に示す。 図 9 ( a ) 〜図 9 ( c ) に示すように、 T i ZP t薄膜の作製温度が高くなるほ ど、 A 1 N薄膜を形成している粒子の大きさが増加し、 3 0 0 °Cでは粒 子間の隙間が多く観察される。 しかし、 4 0 0 °Cでは粒径は大きく なる が、 粒子間の隙間は見られなくなった。 また、 表面粗さも作製温度と と もに増加する傾向を示し、 4 0 0 °Cでは 1 7. 9 n mと大きな値を示し た。 これより、 室温と 4 0 0 °Cで作製した試料がショートしなかったの は、 隙間が無く、 緻密な膜ができていたためであることが分かった。
表 8
電極作製温度が異なる A1N薄膜の表面粗さと平均粒径
下部電極の作製温度の P t薄膜への直接の影響を調べるために、 P t 薄膜の結晶構造を XRD法を用いて測定した。 その結果を表 9に示す。 P t薄膜の ( 1 1 1 ) 面のロッキングカープの半価幅は、 作製温度が高 くなると減少し、 積分強度も減少した。 4 0 0 °Cでは P t薄膜によるピ ークが観察されなかった。 これより、 P t薄膜の配向性及び結晶化度は
、 作製温度が高くなると減少する。 したがって、 A 1 N薄膜の配向性及 ぴ結晶化度が下部電極の作製温度が増加するにつれて減少するのは、 下 部電極である P t薄膜の配向性及び結晶化度が作製温度とともに低下す るためと考えられる。
表 9
*Ptのピ一クは観察されなかつた。 各試料の P t薄膜表面形状を詳細に把握するために、 原子間力顕微鏡 を用いて観察を行った。 その結果を図 1 0 ( a ) 〜図 1 0 ( c ) に示す 。 また、 作製温度が異なる P t薄膜の表面粗さの測定結果と平均粒径の 測定結果とを表 1 0に示す。 T i / P t薄膜の作製温度が高くなるほど 、 P t薄膜を形成している粒子の大きさが増加し、 大きな結晶片に成長 していた。 また表面粗さも増加する傾向を示し、 4 0 0 °Cでは著しい増 加を示した。 これより、 下部電極薄膜の作製温度による A 1 N薄膜の表 面粗さ及ぴ平均粒径の変化は、 作製温度によって下部電極である P t薄 膜の表面粗さ及ぴ平均粒径が大きく変化していたためであることがわか つた。 したがって、 下部電極を室温で作製することによって、 ショート せず、 高配向性及び高結晶化度を示し、 表面がなめらかな A 1 N薄膜が 得られる。
表 1 0
作製温度の表面粗さと平均粒径への
他に 4つの下部電極材料 (C r ZP t、 T i ZP t /A u T i / N i / A u、 C r /N i /A u ) についても、 作製温度のショ トへの影 響について調べた。 その結果を表 1 1に示す。
表 1 1
各試料のショ一ト試験結果
◦:ショートしない、 X:ショート
C r /P t下部電極についても作製温度の影響について調べた。 室温 で C r ZP t薄膜を作製した試料は、 三分の二がショー トしなかった。 3 0 0 °Cで作製した試料はすべてショートしなかった。 これより、 C r / P tでは 3 0 0 °Cで作製することによって、 ショー ト しにくい試料が 得られ、 T i / P tの場合とは異なった結果が得られた。 表 1 2に下部 電極の作製温度が異なる A 1 N薄膜の X R Dの測定結果を示す。 C r / P tの場合も、 作製温度が 3 0 0 °Cになると配向性及ぴ結晶化度は減少 し、 T i Z P t と同様な結果が得られた。 また、 3 0 0 °Cでは P tのピ ークは観察されなかった。 これより、 〇 1: /? 1:は 3 0 0!¾ では丁 1 /
P t とは異なる粒子成長をしているために、 異なった結果が得られたと 推測される。
表 1 2
Cr/Pt下部電極の作製温度が異なる A1N薄膜の XRDの測定結果
Τ i / Ρ t /A u下部電極についても作製温度の影響について調べた 。 室温で T i /P t /A u薄膜を作製した試料はすべてショ一トせず、 3 0 0 °Cで作製した試料は三分の一がショートし、 T i t と同様な 結果が得られた。 表 1 3に下部電極の作製温度が異なる A 1 N薄膜の X R Dの測定結果を示す。 T i / P t / A uの場合も、 作製温度が 3 0 0 °Cになると配向性及び結晶化度は減少し、 T i ZP t と同様な結果が得 られた。 また、 3 0 0 °Cでは P t及び A uのピークは観察されなかった 。 これより、 3 0 0 °Cでショートする原因と しては、 T i /P t と同様 な粒成長が起こり、 粒子間に隙間ができたためと思われる。
表 1 3
Ti/Pt/Au下部電極の作製温度が異なる A1N薄膜の XRDの測定結果
T i /N i /A u下部電極についても作製温度の影響について調べた 。 室温で T i /N i /A u薄膜を作製した試料は、 三分の二がショート しなかった。 3 0 0 °Cで作製した試料は、 三分の一がショートしなかつ た。 表 1 4に下部電極の作製温度が異なる A 1 N薄膜の X R Dの測定結 果を示す。 T i ZN i / A uの場合は、 作製温度が 3 0 0 °Cになると配
向性は低下するが、 結晶化度は向上し、 T i / P tなどと異なる結果が 得られた。 また、 3 0 0 °Cでは N i及び A uのピークは観察されなかつ た。 これより、 室温や 3 0 0 °Cでショートする原因と しては、 T i /P tなどとは異なる粒成長が起こ り、 粒子間に隙間ができたためと思われ る。
表 1 4
Ti/ i/Au下部電極の作製温度が異なる A1N薄膜の XRDの測定結果
C r ZN i /A u下部電極についても作製温度の影響について調べた 。 C r ZN i ZA u薄膜では、 作製温度に関係なく、 すべての試料がシ ョートしなかった。 表 1 5に下部電極の作製温度が異なる A 1 N薄膜の XRDの測定結果を示す。 C r ZN i /A uの場合は、 作製温度が 3 0 0 °Cになると配向性及び結晶化度は向上し、 T i /P tなどと異なる結 果が得られた。 また、 3 0 0 °Cでは N i及び A uのピークは観察されな かった。 これより、 室温や 3 0 0 °Cでショート しない原因としては、 T i /P tなどとは異なる粒成長が起こ り、 緻密な膜ができたためと思わ れる。
[実施例 4 ; 下部電極の作製方法の影響]
T i ZP t下部電極薄膜を直流 (D C) スパッタ リ ング装置で作製し
、 作製方法の違いによる影響を調べた。 それぞれの薄膜上に作製した A 1 N薄膜の X R Dの測定結果を表 1 6に示す。 R Fプラズマ支援スパッ タリング (R F) で作製した場合が、 ロッキングカーブの半価幅は狭く 、 積分強度も高い。 また、 絶縁性を調べた結果、 R Fプラズマ支援スパ ッタリ ングで作製した試料は、 すべての試料がショ一トしなかったのに 対し、 D Cスパッタ リ ング装置で作製した試料は、 三分の二がショート しなかった。 これらより、 T i /P t薄膜を作製する場合は、 R Fプラ ズマ支援スパッタ リ ングを用いる方が良いことがわかった。
表 1 6
Ti/Pt薄膜上に作製した A1N薄膜の XRDの測定結果
DC直流スパッタリング RFプラズマ支援スパッタリング 違いの原因を調べるために、 P t薄膜の結晶構造を X R D法で調べた 。 その結果を表 1 7に示す。 ( 1 1 1 ) ピークの半価幅や ( 1 1 1 ) ピ ークの積分強度にはほとんど差が見られなかった。 これより、 作製方法 の違いによる P t薄膜の結晶構造への影響は確認されなかった。 おそら く、 平坦性などが影響していると考えられる。
表 1 7
DC直流スパッタリング RFプラズマ支援スパッタリング
[実施例 5 ; 薄膜の密着強度評価]
薄膜が剥離しやすい場合は、 センサ素子と して使用する場合非常に困 難となる。 そこで、 A 1 N薄膜の密着強度を測定する必要がある。 A 1 N薄膜の密着強度を走查型スクラツチ試験機 (島津 S S T— 1 0 1 ) を 用いたスクラッチ試験にて評価した。 荷重一力一トリ ッジ出力グラフを 図 1 1に示す。 また、 スクラツチ痕の顕微鏡写真 ( 1 5 0倍) を図 1 2 に示す。
スクラッチ試験の測定条件の詳細は表 1 8に示す。 スクラッチ試験は 3回行なった。 剥離荷重は平均で 1 6 9. 2 mN、 標準偏差 1. 0、 変 動係数 0. 6 %であった。 測定は再現性よく行なう事ができ、 顕微鏡視 野のスクラッチ痕像 (図 1 2 ) から、 容易に剥離荷重が得られた。 この 測定条件での剥離荷.重 1 6 9. 2 mNは、 一般的な薄膜の密着強度より 高く、 A 1 N薄膜の密着強度がセンサ素子と して十分可能であることを 示した。
表 1 8
スクラッチ試験機測定条件
実施例 3、 4及び 5では、 下部電極と上部電極とがショートする原因 として、 クラックやピンホールが考えられる。 これらのクラックやピン ホールの発生を防ぐために、 下部電極の作製温度の影響及び下部電極の 作製方法の影響について検討した。 T i ΖΡ t薄膜を下部電極に使用し た場合、 室温又は 4 0 0 °Cで作製すればショートしない試料を得ること ができた。 室温又は 4 0 0 °Cで作製した試料がショー トしなかったのは
、 粒子間の隙間が無く、 緻密な膜ができていたためであった。 また、 A 1 N薄膜の配向性及び結晶化度が下部電極の作製温度が增加するにつれ て減少したのは、 下部電極である P t薄膜の配向性及び結晶化度が作製 温度とともに低下するためと考えられる。 下部電極を室温で作製するこ とによって、 ショートせず、 高配向性及ぴ高結晶化度を示し、 表面がな めらかな A 1 N薄膜が得られることがわかった。
他に 4つの下部電極材料 (C r ZP t、 T i / P t / A u , T i N i ZA u、 C r /N i /Au) についても、 作製温度のショートへの影 響について調べた。 その結果、 作製温度の影響は電極薄膜の積層構造に よって異なり、 C r /P tは 3 0 0 °Cで、 T i /P t /A uは室温で、 C r /N i / A uはすべての温度ですベてショートしなかった。
電極の作製方法の影響を調べた結果、 R Fプラズマ支援スパッタ リ ン グ法と直流スパッタリ ング法とを比較したところ、 R Fプラズマ支援ス パッタリ ング法で作製した試料はすべてショ一トせず、 R Fプラズマ支 援スパッタリ ング法を用いることによって、 ショートしない確率を向上 させることができた。
スクラツチ試験機を用いたスクラツチ試験にて A 1 N薄膜の密着強度 を評価した結果、 剥離荷重 1 6 9. 2 mNが得られ、 A 1 N薄膜は比較 的高い密着強度を持つことが実証された。
本実施例において、 窒化アルミニウム薄膜の量産化技術を開発するた めに、 高配向性窒化アルミニウム (A 1 N) 薄膜の作製、 クラックなど によるショートへの対策、 薄膜の高感度化及び量産化成膜条件の確立に 対して検討を行なった。 その結果、 下部電極の種類、 下部電極の積層構 造を最適化することによって、 ロッキングカープの半価幅 0. 4° を示
す、 超高配向性 A 1 N薄膜をガラス基板上に作製することができた。 ま た、 ショートしない薄膜を作製するために、 電極の作製温度を最適化し 、 R Fプラズマ支援スパッタ リ ング法で下部電極を作製することによつ て、 ショートする可能性を減少させることができた。
その結果、 作製温度の影響は電極薄膜の積層構造によって異なり、 C r /P tは 3 0 0。Cで、 T i /P t ZA uは室温で、 C r /N i A u はすべての温度ですベてショ一トしなかった。 作製方法では R Fプラズ マ支援スパッタ リ ング法で作製した場合が、 ショートする可能性を減ら すことができた。 また、 A 1 N薄膜とガラス基板との密着強度を測定し た結果、 比較的高い強度を持つことが明らかとなった。
前記超高配向窒化アルミ二ゥム薄膜を用いた圧電素子において、 前記 下部電極は、 基板上に形成する第 1層 Z第 1層上に形成する第 2層の表 記に従って T i / P t又は C r / P tの二層体に形成する力 或いは基 板上に形成する第 1層/第 1層上に形成する第 2層 Z第 2層上に形成す る第 3層の表記に従って T i / P t /A u、 T i /N i /A u又は C r /N i / A uの三層体に形成することが好ましい。
前記超高配向窒化アルミニゥム薄膜を用いた圧電素子において、 前記 基板は、 ガラス基板であることが好ましい。
前記超高配向窒化アルミニゥム薄膜を用いた圧電素子の製造方法にお いて、 前記基板と して、 ガラス基板を使用することが好ましい。
前記超高配向窒化アルミ二ゥム薄膜を用いた圧電素子の製造方法にお いて、 前記下部電極は R Fプラズマ支援スパッタ リング法で成膜するこ とが好ましい。
尚、 発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実
施態様又は実施例は、 あくまでも、 本発明の技術内容を明らかにするも のであって、 そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきも のではなく、 本発明の精神と次に記載する特許請求の範囲内で、 いろい ろと変更して実施することができるものである。 産業上の利用の可能性
本発明は、 基板上に密着層を介さずに W層で下部電極を形成すること によ り、 ガラス基板等の安価な基板を用いたにもかかわらず、 高性能の 圧電素子を提供することができた。 しかも、 高性能であることと、 ヒロ ックゃクラック、 剥離がないという高品質である点を両立することがで きた。 ここで、 高性能というのは、 単結晶基板を用いた圧電素子とほぼ 同等ということである。 本発明は、 安価なガラス基板を基板と してこの ような高性能 · 高品質な窒化アルミニゥム薄膜を用いた圧電素子を提供 可能としたことに意義がある。 また本発明は、 Wの単層のみならず、 密 着層を含む積層体である下部電極を形成するに際して、 下部電極の表面 層の材料を適切に選択することにより、 安価な基板を用いて高性能 · 高 品質の圧電素子を提供することができた。 さらに、 本発明は、 粒子形状 を制御し、 さらに加えて R Fプラズマ支援スパッタ リ ング法で成膜する ことにより、 ヒロック、 クラック又は剥離を生じさせずに、 上記の高性 能 · 高品質の圧電素子の製造方法を提供することができた。
本発明は下部電極を、 窒化アルミ二ゥムの結晶構造とのマッチングを 考慮して、 適切な表面結晶構造に形成することで、 窒化アルミニウムの 配向を妨害する基板因子の排除を図り、 単結晶基板のみならず石英ガラ ス板をはじめとする安価且つ多彩な基板に c軸超高配向の窒化アルミ二
ゥム薄膜を形成することができる。 したがって、 圧電素子の形態、 設計 に自由度を付与することができ、 応用性が高い。