JPWO2020184728A1 - 溶接継手の製造方法、溶接継手、焼き戻し装置及び溶接装置 - Google Patents

溶接継手の製造方法、溶接継手、焼き戻し装置及び溶接装置 Download PDF

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Abstract

溶接継手の製造方法は、溶接継手の第1の鋼板に平行な面内でナゲットの板面方向における外側の部分であるA部の第1の鋼板に第1の電極をあてること、溶接継手の第1の鋼板に平行な面内でナゲットの板面方向における外側の部分でありかつナゲットを挟んでA部と反対側に位置するB部の第2の鋼板に第2の電極をあてること、第1の電極と第2の電極との間の溶接継手に電流を流すこと、を含む。

Description

本開示は、溶接継手の製造方法、溶接継手、焼き戻し装置及び溶接装置に関する。
例えば、高強度鋼板のスポット溶接では、継手強度の不足により溶接部が破断し、部材の設計性能が得られない場合がある。高強度鋼板としては、例えば、比較的多量のカーボン(C)が含まれ、引張強度が440MPa以上のような鋼板が挙げられる。
溶接部を改質する接合プロセスの一つとして、後通電法、或いは、2段通電法が、種々検討されている。例えば、特許第5714537号公報(特許文献1)には、重ね合わせた2枚以上の高強度鋼板をスポット溶接するにあたり、溶接後に適切な休止時間と短時間の後通電を行う技術が開示されている。特許文献1の技術によれば、テンパー効果と冷却速度を遅くする効果(いわゆる、オートテンパー効果)とにより、ナゲット部及び熱影響部を改質し、継手強度を向上できるとされている。ここで、ナゲット又はナゲット部とは、溶融金属部である。
しかし、特許文献1に提案されているような後通電法又は2段通電法は、所期の効果が得られる条件の範囲が狭く、実際の生産現場で発生する様々な外乱に対して影響を受けやすいことから、実際の生産現場への適用が困難であるのが実情である。以降、生産現場で発生する様々な外乱に対して挙動が安定していることをロバスト性が高い、逆に不安定なことをロバスト性が低いという。
すなわち、従来の後通電法又は2段通電法は、一対の電極により板組を加圧してから溶接後に電極を開放するまでの1回のサイクルの間に、2回以上の通電を行って、溶接部(ナゲット)を焼戻す手法である場合が多い。しかし、かかる手法は、所期の効果が得られる条件(例えば、温度条件など)の適正範囲が狭い。加えて、実際の生産現場においては、チリの発生や電極の摩耗、電極の芯ずれ、鋼板間の板隙などの様々な外乱が発生する。
このような外乱の影響により、後通電時の電流密度が変化するため、電流密度にムラが生じ易いと共に電流密度の制御が困難であるという問題が生じる。このため、所期の効果が得られる諸条件の中でも、特に、溶接部に流れる電流が適正範囲から外れ易くなるという点でロバスト性が低下し、特許文献1のような後通電法又は2段通電法は、実際の生産現場への適用が困難になる。具体的には、例えば、製品の歩留まりが低下してしまう。結果、スポット溶接継手において、所期の改質効果(焼戻し効果)が得られ難くなる恐れがあった。
そこで、本開示は、後通電工程において外乱の影響を受け難く、ロバスト性に優れた、溶接継手の製造方法、溶接継手、焼き戻し装置及び溶接装置を提供することを目的とする。
本開示の具体的な態様は、以下のとおりである。
本開示に係る溶接継手の製造方法は、第1の鋼板と、第1の鋼板に重ねられた第2の鋼板と、第1の鋼板と第2の鋼板とを接合している焼き入れされたナゲットと、を含む溶接継手を用意すること、溶接継手の第1の鋼板に平行な面内でナゲットの板面方向における外側の部分であるA部の第1の鋼板に第1の電極をあてること、溶接継手の第1の鋼板に平行な面内でナゲットの板面方向における外側の部分でありかつナゲットを挟んでA部と反対側に位置するB部の第2の鋼板に第2の電極をあてること、第1の電極と第2の電極との間の溶接継手に電流を流すこと、を含む。
また、本開示に係る焼き戻し装置は、第1の電極と、第2の電極と、を備え、第1の電極の進退方向と第2の電極の進退方向とは、互いに逆方向であり、第1の電極と第2の電極との電極間距離は、進退方向に対して直交する平面内で、6mm以上である。
また、本開示に係る溶接装置は、上記の本開示に係る焼き戻し装置と、焼き戻し装置が取り付けられたロボットアームと、ナゲットを形成する溶接機と、ロボットアームを制御して、第1の電極の先端と第2の電極の先端との中間点を、溶接機によってナゲットとして溶接された箇所に移動させて、溶接された箇所の外側に、第1の電極と第2の電極とをそれぞれ配置する位置コントローラと、を備える。
また、本開示に係る溶接継手は、第1の鋼板と、第1の鋼板に重ねられた第2の鋼板と、第1の鋼板と第2の鋼板とを接合している焼き入れされたナゲットと、を含む溶接継手であって、第1の鋼板と第2の鋼板の引張強さは1180MPa以上であり、溶接継手の第1の鋼板に平行な面内でナゲットの板面方向における外側の部分であるA部の第1の鋼板に、第1の電極の接触痕が形成され、溶接継手の第1の鋼板に平行な面内でナゲットの板面方向における外側の部分でありかつナゲットを挟んでA部と反対側に位置するB部の第2の鋼板に、第2の電極の接触痕が形成され、第1の電極の接触痕と第2の電極の接触痕との間に、第1の鋼板と第2の鋼板よりビッカース硬さが10HV以上低い軟化組織が連続して存在している。
本開示によれば、後通電工程において外乱の影響を受け難く、ロバスト性に優れた、溶接継手の製造方法、溶接継手、焼き戻し装置及び溶接装置を提供できる。
図1は、本開示の一実施形態に係る溶接継手の製造方法の焼戻し工程に用いられる、ナゲットを形成するための溶接機の電極周辺部の断面図である。 図2は、本開示の一実施形態に係る溶接継手の製造方法の焼戻し工程に用いられる、スポット溶接機に含まれる焼き戻し装置の電極周辺部の断面図である。 図3は、本開示の一実施形態に係る溶接継手の製造方法の焼戻し工程に用いられる、他の例のスポット溶接機に含まれる焼き戻し装置の電極周辺部の断面図である。 図4は、本開示の一実施形態に係る溶接継手の平面図である。 図5は、溶接継手の硬さ分布の測定位置を示す断面図である。 図6Aは、従来の焼戻し工程を実施した溶接継手の硬さ分布を示す図である。 図6Bは、従来の焼戻し工程を実施した溶接継手の硬さ分布を示す図である。 図6Cは、従来の焼戻し工程を実施した溶接継手の硬さ分布を示す図である。 図6Dは、本開示の焼戻し工程を実施した溶接継手の硬さ分布を示す図である。 図6Eは、本開示の焼戻し工程を実施した溶接継手の硬さ分布を示す図である。 図7は、本開示の一実施形態に係る溶接継手の製造方法の焼戻し工程における溶接継手に対する加熱時間と温度との関係を説明するグラフである。 図8は、本開示の一実施形態に係る溶接継手の製造方法で得られた溶接継手を説明する斜視図である。 図9は、第1変形例に係る溶接継手の製造方法の焼戻し工程に用いられる、スポット溶接機の電極周辺部の断面図である。 図10は、第2変形例に係る溶接継手の製造方法の焼戻し工程に用いられる、スポット溶接機に含まれる焼き戻し装置の電極周辺部の断面図である。 図11は、本開示の他の溶接継手の断面図である。
以下、本開示の溶接継手の製造方法の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。また、本開示の溶接継手を「スポット溶接継手」とも称する。また、以下の図面の記載において、同一の部分及び類似の部分には、同一の符号又は類似の符号を付している。但し、図面における厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なる。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。
<スポット溶接継手の製造方法>
本開示のスポット溶接継手の製造方法は、重ね合わせた複数枚の鋼板を通電して、ナゲットを形成する溶接工程と、少なくとも上記ナゲットを冷却する冷却工程と、複数枚の鋼板を板厚方向に対して傾斜する方向に通電して、少なくとも上記ナゲットを焼戻す焼戻し工程と、を有する製造方法である。
なお、本明細書においては、「板厚方向に対して傾斜する方向」を単に「傾斜方向」と称することがある。
本開示の製造方法では、ナゲットを形成する溶接工程とは別の焼戻し工程である後通電工程において、複数枚の鋼板を傾斜方向に通電してナゲットを焼戻す。換言すると、ナゲットを焼戻す際、複数枚の鋼板を挟む一対の電極が板厚方向において重ならないように、一対の電極をナゲットの外側に配置して、通電経路の長さを長くする。このため、ナゲットだけでなく、ナゲットの周辺の熱影響部(HAZ)を含む広範囲の領域を緩やかに昇温して、焼戻すことができる。結果、焼戻し効果(すなわち、靭性が向上する効果)が得られる電流の条件の適正範囲を広く確保することができる。
これにより、本開示の製造方法は、後通電工程において外乱の影響を受け難く、優れたロバスト性を確保することができる。
以下、本開示の製造方法における各工程について、図面を参照しながら詳説する。本開示では、溶接装置を「スポット溶接機」と称する。図1に示すように、溶接装置としてのスポット溶接機1は、溶接工程において、ナゲットを形成するための溶接機101を備える。また、図2に示すように、溶接装置としてのスポット溶接機1は、焼戻し工程において、形成されたナゲットNを焼き戻す焼き戻し装置102を備える。なお、焼き戻し装置102はスポット溶接機1とは別の独立した装置にしてもよい。次に、それぞれの工程について説明する。
[溶接工程]
本開示において溶接工程は、重ね合わせた複数枚の鋼板を通電して、ナゲットを形成する工程である。
この溶接工程は、重ね合わせた複数枚の鋼板の重ね合わせ面及び重ね合わせ面の近傍領域にナゲットを形成し得るものであれば、通常のスポット溶接で行われている工程と同様の工程を採用することができる。そのような工程としては、例えば、重ね合わせた複数枚の鋼板を一対の電極によって挟持した後、加圧力を付与しながら所定の通電電流及び通電時間で板厚方向に通電することにより、複数枚の鋼板の重ね合わせ面及び重ね合わせ面の近傍領域を溶融させてナゲットを形成する工程が挙げられる。
図1中には、上板8と下板9とが重ね合わせられた板組が、ナゲットを形成するための溶接機101の内側に配置された状態で例示されている。板組の上板8には、上側保持部材6Aに設けられた上側電極2Aが接触している。また、板組の下板9には、下側保持部材7Aに設けられた下側電極3Aが接触している。なお、説明中の上下は図中の上下を示すものであり、実施における鉛直方向の位置関係を特定するものではない。同様に、説明中の左右は図中の左右を示すものであり、実施における水平方向の位置関係を特定するものではない。以降の説明も同様である。
上側電極2A及び下側電極3Aは、いずれもほぼ円筒状であり、それぞれの寸法は、ほぼ同じである。上側電極2A及び下側電極3Aのそれぞれの板組側の先端は、縮径していると共に、板厚方向に沿って見たそれぞれの先端の外縁は、ほぼ円形状である。溶接工程では、上側電極2Aと下側電極3Aとの間で、板組の内部にナゲットが形成される。
なお、溶接工程における通電条件は、所望のナゲットの径等に応じた所定の通電条件を採用することができる。通電条件としては、例えば、通電電流、通電時間、電極による加圧力等が採用できる。
溶接工程に用いる一対の電極は、複数枚の鋼板の重ね合わせ面及び重ね合わせ面の近傍領域に所定サイズのナゲットを形成し得るものであれば、通常のスポット溶接に用いられている一対の電極を採用することができる。
[冷却工程]
本開示において冷却工程は、少なくとも上記溶接工程で形成されたナゲットを冷却する工程である。
この冷却工程は、溶接工程で形成されたナゲットがマルテンサイト変態し得るものであれば、通常のスポット溶接で行われている冷却工程と同様の工程を採用することができる。そのような工程としては、例えば、溶接工程後に一対の電極を開放せず、そのまま一対の電極により複数枚の鋼板を無通電状態で保持しながら鋼板の熱を電極へ放熱させる工程が挙げられる。また、そのような工程として、溶接工程後に一対の電極を開放し、複数枚の鋼板を焼戻し工程用のスポット溶接機へ搬送しながら鋼板の熱を空中へ放熱させる工程などが挙げられる。
なお、後者の工程は、一対の電極を開放した状態でナゲットを冷却するため、電極による加圧がないことでナゲットの肉厚減少を抑制することができ、高い継手強度が安定して得られるという利点がある。さらに、この、一対の電極を開放する工程は、溶接工程後の複数枚の鋼板又は溶接継手を搬送しながら冷却することで、溶接工程と、別の溶接箇所における焼戻し工程とを並行して行うことができるため、生産効率の点でも有利である。
冷却工程における冷却条件としては、例えば、冷却時間或いは保持時間、冷却温度などが挙げられる。この冷却条件としては、溶接工程後のナゲットがマルテンサイト変態する、M点以下の温度となる冷却条件、好ましくは、M点以下の温度となる冷却条件を採用することができる。
[焼戻し工程]
本開示において焼戻し工程は、冷却後の複数枚の鋼板を板厚方向に対して傾斜する方向(すなわち、傾斜方向)に通電して、少なくともナゲットを焼戻す工程である。
この焼戻し工程は、冷却後の複数枚の鋼板を傾斜方向に通電することにより、少なくとも上記ナゲットにおけるマルテンサイト組織、特に上記ナゲット及び熱影響部におけるマルテンサイト組織を焼戻す工程である。この焼戻し工程は、傾斜方向に通電すること以外は、通常の後通電法又は2段通電法で行われている、後通電工程又はテンパー通電工程と同様に行うことができる。
なお、このような後通電法又は2段通電法によりナゲットが焼戻されたかどうかは、ナゲットの硬さ分布を測定し、後通電法後又は2段通電法後に、硬さの一部または全部が軟化していることで確認できる。また、図示を省略するが、焼戻し工程において、上側電極2、下側電極3、上側固定部材4及び下側固定部材5の一部又は全部を用いて、板組を加圧してもよい。加圧によって、上側電極2及び下側電極3を、板組に、より確実に接触させることができる。
以下、この焼戻し工程について、本開示の一実施形態を用いて具体的に説明する。
本開示の一実施形態に係る製造方法においては、焼戻し工程は、図2に示すスポット溶接機1に含まれる焼き戻し装置102が用いられる。なお、図2においては、スポット溶接機1の焼き戻し装置102の電極周辺部のみが図示されている。図2に示すように、第1の鋼板としての上板8、及び、第2の鋼板としての下板9の2枚の鋼板が板組として重ね合わされ、重ね合わされた板組が、スポット溶接機1によって、板厚方向Dに沿って挟持され得る。
スポット溶接機1の焼き戻し装置102は、上側電極2と、下側電極3と、上側固定部材4と、下側固定部材5と、上側保持部材6と、下側保持部材7と、を主な構成部材として備えている。上側電極2は、当該板組の上方側に配置されると共に、下側電極3は、当該板組の下方側に配置されている。
上側電極2は、本開示の第1の電極である。下側電極3は、本開示の第2の電極である。また、上側固定部材4は、本開示の第1の固定部材である。下側固定部材5は、本開示の第2の固定部材である。なお、図2中では、下側固定部材5が、上側電極2と対応するように、上下方向に沿って上側電極2とほぼ同軸で配置された場合が例示されている。また、図2中では、下側固定部材5が、下側電極3と対応するように、上下方向に沿って下側電極3とほぼ同軸で配置された場合が例示されている。しかし、本開示では、これに限定されず、第1の固定部材及び第2の固定部材は、それぞれ、板組を挟んで電極と同軸で配置される必要はない。第1の固定部材及び第2の固定部材は、対応する電極より、図2中でナゲットN側となる内側に配置されてもよいし、或いは、図2中でナゲットNの反対側となる外側に配置されてもよい。
上側固定部材4及び下側固定部材5は、いずれも固定部材である。上側固定部材4は、当該板組の上方側に配置されると共に、下側固定部材5は、当該板組の下方側に配置されている。上側固定部材4及び下側固定部材5によって、上記板組が挟持され得る。上側保持部材6は、上側電極2及び上側固定部材4を保持し、上下方向に移動可能である。下側保持部材7は、下側電極3及び下側固定部材5を保持する。
さらに、このスポット溶接機1の焼き戻し装置102においては、上側電極2及び下側電極3が、図2に示すように、板厚方向Dと直交する板面方向Dにおいて、溶接工程で形成されたナゲットNを挟んで互いに反対側に位置するように配置されている。そのため、スポット溶接機1の焼き戻し装置102は、冷却後の2枚の鋼板を傾斜方向に通電することを、容易に実現することができる。
なお、図2に示す上側電極2及び下側電極3は、丸棒状の導電性部材によって構成されている。導電性部材は、例えば、Cu−Cr合金製の丸棒である。導電性部材は、板厚方向Dと、両電極が並ぶ板面方向の各々と直交する方向、すなわち、2枚の鋼板の長手方向と直交する方向に延びている。上側電極2及び下側電極3は、それぞれ対応する鋼板(すなわち、上板8及び下板9)の表面と線接触する。
また、このスポット溶接機1の焼き戻し装置102においては、上側固定部材4及び下側固定部材5が、図3に示すように、板面方向Dにおいて、上記溶接工程で形成されるナゲットNを挟んで互いに反対側に位置するように配置されている。結果、上側固定部材4が、板面方向Dにおいて上記ナゲットNを挟んで、上側電極2と反対側に位置する。また、下側固定部材5が、板面方向Dにおいて上記ナゲットNを挟んで、下側電極3と反対側に位置する。そのため、スポット溶接機1の焼き戻し装置102は、冷却後の2枚の鋼板を傾斜方向に通電する際に、当該2枚の鋼板をより確実に固定することができる。よって、鋼板の位置ずれや鋼板−電極間のクリアランスなどの外乱を生じ難くすることができる。
なお、図2中に例示された板組の場合、図2中の左右方向の両端に、上板8と下板9との間にシートセパレーション(隙間)が形成されていたが、これに限定されない。本開示では、図3に示すように、シートセパレーションが形成されなくてもよい。
また、図4に示すように、本実施形態では、上側電極2及び下側電極3は、それぞれ、平面視で、すなわち板厚方向に沿って見た場合、図4中の上下方向に延びる一定の幅Wを有している。上側電極2及び下側電極3のそれぞれの幅Wは、ほぼ同じであり、ナゲットNのインデンテーション(圧痕)Hの、板面方向に沿って測った径Φ以上である。また、図4中の上板8の左側には、上側電極2の接触領域M1の形状が、矩形状の実線で例示されている。また、図4中の上板8の右側には、下側電極3の接触領域M2の形状が、矩形状の破線で例示されている。また、本実施形態では、上側電極2の接触領域M1と、下側電極3の接触領域M2とは、平面視で、ナゲットNを挟んで対称的に形成されている。
なお、図4中の左上側には、上下方向に一定の幅Wを有する上側電極2が上板8から離間した状態が例示されている。また、図4中の右下側には、上下方向に一定の幅Wを有する下側電極3が下板9から離間した状態が例示されている。例示されている。焼き戻し装置における上側電極2及び下側電極3以外の構成については、見易さのため、図示を省略する。
図4に示すように、本実施形態では、図1中の上側電極2Aによって形成された圧痕であるインデンテーションの外縁の円Hを、平面視におけるナゲットNの円の外縁と見做すことができる。上側電極2Aのインデンテーションの外縁の円Hは、溶接継手10の外観上から確認できる。なお、上側電極2A及び下側電極3Aの先端の形状はほぼ同じであるため、下側電極3Aのインデンテーションの外縁の円を、平面視におけるナゲットNの円の外縁と見做してもよい。
また、平面視でのインデンテーションの外縁の「円」又はナゲットNの「円」は、真円のような完全な円形に限定されず、細部において、多少の歪みを有していても、全体的に円形と見做せる限り、円として採用できる。また、平面視でのインデンテーションの外縁の形状又はナゲットNの形状は、円形状に限定されず、例えば楕円形状等、他の幾何学形状を適宜採用できる。
なお、図2に示す上側固定部材4及び下側固定部材5は、上側電極2及び下側電極3と同じ方向に延びる丸棒状の絶縁性部材によって構成されている。絶縁性部材は、例えば、セラミックス製の丸棒である。上側固定部材4及び下側固定部材5は、上側電極2及び下側電極3とともに板組を挟持する際に、それぞれ対応する鋼板(すなわち、上板8及び下板9)の表面と線接触する。固定部材がこのような絶縁性部材によって構成されることによって、上側電極及び下側電極による傾斜方向の通電に対して影響が及ぶことを防止できる。
本開示においては、焼戻し工程に用いるスポット溶接機の焼き戻し装置は、冷却後の複数枚の鋼板を傾斜方向に通電し得るものであれば、図3に示すスポット溶接機1の焼き戻し装置102のような構成のものに限定されない。すなわち、焼戻し工程に用いるスポット溶接機の焼き戻し装置は、冷却後の複数枚の鋼板を傾斜方向に通電し得るように配置された3個以上の電極を有していてもよい。また、スポット溶接機の焼き戻し装置は、通電時に複数枚の鋼板を固定し得るように配置された1個または3個以上の固定部材を有していてもよい。
なお、電極の配置形態等により、複数枚の鋼板が通電時に動いたり、ずれたりする恐れが少ない場合には、スポット溶接機は、上記のような固定部材を備えていなくてもよい。
そして、本実施形態の製造方法においては、焼戻し工程は、上述のスポット溶接機1の焼き戻し装置102を用いて、具体的には、次のように行われる。
まず、上記[溶接工程]及び上記[冷却工程]によって、図2に示すように、上板8と、上板8に重ねられた下板9と、上板8と下板9とを接合している焼き入れされたナゲットNと、を含む溶接継手10を用意する。そして、溶接継手10の上板8に平行な全ての面内でナゲットNの外側の部分であるA部の上板8に上側電極2をあてる。通電を安定させるため、上板8側に設けられた上側電極2と下板9側に設けられた上側固定部材4とで挟むことが望ましい。A部について換言すると、A部は、上板8と下板9とを上板8に垂直方向に貫通して存在し、かつ溶接継手10を上板8に垂直な方向に投影して見たときに、ナゲットNとA部とは重ならない。
また、溶接継手10の上板8に平行な全ての面内でナゲットNの外側の部分であり、かつナゲットNを挟んでA部と反対側に位置するB部の下板9に下側電極3をあてる。通電を安定させるために、下板9側に設けられた下側電極3と上板8側に設けられた下側固定部材5とで挟むことが望ましい。B部について換言すると、B部は、上板8と下板9とを上板8に垂直方向に貫通して存在し、かつ溶接継手10を上板8に垂直な方向に投影して見たときに、ナゲットNとB部とは重ならない。A部とB部は、ナゲットNの中心Eを通り上板8に垂直な中心軸を中心に軸対称の位置に存在する。
すなわち、冷却工程後の2枚の鋼板を、図2に示すようにスポット溶接機1の焼き戻し装置102の上側電極2を溶接継手10のA部の上板8側にあて、下側電極3を溶接継手10のB部の下板9側にあて、上側電極2と下側電極3との間の溶接継手10に電流を流し、上記2枚の鋼板を傾斜方向に通電する。望ましくは、上側電極2及び上側固定部材4と、下側電極3及び下側固定部材5とによって板厚方向Dに沿って溶接継手10を挟持し、加圧力を付与しながら、上側電極2及び下側電極3によって、上側電極2と下側電極3との間の溶接継手10に電流を流し、上記2枚の鋼板を傾斜方向に通電する。
また、溶接継手10に電流を流すとき、図4に示したように、上側電極2は、上板8に平行な面内で、一定の幅Wを有していると共に、上側電極2の幅Wは、上板8に平行な面内でのナゲットNの最大径Φ以上である。同様に、下側電極3は、下板9に平行な面内で、一定の幅Wを有していると共に、下側電極3の幅Wは、下板9に平行な面内でのナゲットNの最大径Φ以上である。
このとき、2枚の鋼板内においては、図2に示すように、通電経路CがナゲットN及びナゲットNの周辺部分を含む広範囲の領域にわたって存在する。通電経路Cが広範囲の領域にわたって存在することによって、電流密度が低くなる。このため、ナゲットNだけでなく、ナゲットNの周辺の熱影響部を含む広範囲の領域を、緩やかに昇温して、焼戻すことができる。これにより、焼戻し効果が得られる、電流の条件の適正範囲を広く確保することができる。
ここで、図6は、従来の焼戻し工程を実施した溶接継手と本開示の焼戻し工程を実施した溶接継手とにおいて、それぞれの硬さ(ビッカース硬さ:HV)分布を示す図である。
なお、図6において、分布図6Aは、溶接工程及び冷却工程のみを実施し、焼戻し工程を実施していない溶接継手の硬さ分布を示す図である。また、分布図6Bは、溶接工程後の休止時間(冷却時間)を99cycと設定し、焼戻し工程を従来のテンパー通電条件(通電電流:3.9kA、通電時間:99cyc、通電方向:板厚方向)で実施した溶接継手の硬さ分布を示す図である。なお、本実施形態では、1秒は、60cycに相当する。
また、分布図6Cは、焼戻し工程の通電電流を4.3kAに設定したこと以外は、上記分布図6Bの溶接継手と同じ従来のテンパー通電条件で焼戻し工程を実施した溶接継手の硬さ分布を示す図である。そして、分布図6D及び分布図6Eは、それぞれ本開示の焼戻し工程を通電電流7.0kA及び8.0kAで実施した溶接継手の硬さ分布を示す図である。なお、分布図6D及び分布図3Eでは、焼戻し工程の通電時間は、いずれも99cycと設定した。また、図6中では、ナゲット部は、左右方向の中央に配置された双方向矢印及び「N」で例示されている。
図6に示すように、焼戻し工程を実施していない分布図6Aの溶接継手は、ナゲット部の硬さと熱影響部のナゲット近傍部分の硬さとが硬く(すなわち、靭性が低く)なっている。以下、このように硬さが硬くなった熱影響部のナゲット近傍部分を「HAZ硬化部」と称する。図6A中のHAZ硬化部では、ナゲット内破断(すなわち、界面破断もしくは部分プラグ破断)が生じ易くなっている。
一方、従来のテンパー通電条件で焼戻し工程を実施した分布図6Bの溶接継手は、焼戻しによって、ナゲット内の硬さが低下している(すなわち、靭性が向上している)。しかし、ナゲットNの端部付近の硬さとHAZ硬化部の硬さとは、十分に低下していない。そのため、軟化位置がわずかでもずれると、溶接継手に、はく離方向の応力が掛かったとき、き裂が進展し易い箇所であるナゲット端と硬さの高い部位とが一致し、ナゲット内破断が生じ易くなる。なお、本実施形態では、ナゲット端は、図6B中のナゲットNの両端を意味する。
さらに、分布図6Cの溶接継手の場合、少し高めの電流値を採用したこと以外は従来のテンパー通電条件で焼戻し工程を実施した。分布図6Cの溶接継手では、焼戻しによって、ナゲットの端部付近の硬さとHAZ硬化部の硬さとが低下している。しかし、ナゲットNの中央部分は、A点以上の温度に到達したことにより再びマルテンサイトになって、硬さが硬くなっている。そのため、軟化位置がわずかでもずれると、ナゲット端と硬さの高い部位とが一致して、ナゲット内破断が生じ易くなる。
このようなスポット溶接を量産で実施した場合、電極先端が摩耗したり、電極と鋼板のめっきとの合金化で電極の熱伝導率が変化したりした際に、硬さの高い部位がナゲット端と一致する可能性が増えてくる。また、鋼板間の板隙が変化したり、電極と鋼板との打角のばらつきなどが変化したりした際に、硬さの高い部位がナゲット端と一致する可能性が増えてくる。特に、板隙の広さは、鋼板の強度が高くなる程、広くなり易い。つまり、溶接部に流れる電流が適正範囲から外れ易くなるという点で、ロバスト性が低くなる。
このように、従来のテンパー通電条件による焼戻しでは、ナゲット中心から急速に昇温されるため、ナゲットから熱影響部にわたる広範囲の領域を均一に軟化させることは、非常に困難である。
これに対し、本開示の焼戻し工程は、上述のとおり、ナゲットだけでなく、ナゲットの周辺の熱影響部を含む広範囲の領域を緩やかに昇温させることができるため、分布図6D及び分布図6Eの硬さ分布が示すように、ナゲットから熱影響部にわたる広範囲の領域を均一に軟化させることが可能となっている。なお、分布図6Dにおいて、硬さが低下している熱影響部のナゲット近傍部分は、溶接工程で形成されたHAZ軟化部である。
なお、図6に示す各種溶接継手の硬さ測定位置は、以下のとおりである。
まず、図5に示すように、上板8と下板9の重ね合わせ面を基準として、板厚tの1/4の深さの上板の板面方向位置Pにおいて、ナゲットNの一方側端部と交わる点を基点Pとして設定した。そして、基点Pから板面方向の+方向に10mmの範囲、及び、基点Pから−方向に5mmの範囲のそれぞれにおいて、溶接継手10の硬さを、所定のピッチ間隔で測定した。なお、図6の硬さ分布図における横軸は、上記基点Pからの板面方向の距離d(mm)である。
また、この溶接継手10に使用した2枚の鋼板は、いずれも引張強度1.8GPa級のホットスタンプ材である。ホットスタンプ材の板厚tは、1.6mmである。
なお、本開示においては、焼戻し工程における通電方向以外の通電条件(例えば、通電電流、通電時間、電極の加圧力等)は、少なくともナゲットを焼戻すことができる条件であれば、所望の継手強度等に応じた所定の通電条件を採用することができる。そのような通電条件としては、例えば、焼戻し温度が500℃〜Ac3点の範囲内となる温度条件が挙げられ、好ましくは600℃〜Ac1点の範囲内となる温度条件が挙げられる。焼戻し温度がこのような範囲内にあると、十分な入熱により硬さが低下し易く(すなわち、靭性が向上し易く)、また、再焼入れによる再硬化も生じ難くなる。
また、焼戻し工程に用いる電極は、上述の上側電極2及び下側電極3のような丸棒状の導電性部材に限定されず、複数枚の鋼板を傾斜方向に通電して、少なくとも上記ナゲットを焼戻すことができるものであれば、通常のスポット溶接で使用されている電極を用いてもよい。通常のスポット溶接で使用されている電極としては、例えば、鋼板と点接触するDR型電極などが挙げられる。
ただし、焼戻し工程に用いる電極として、上述の上側電極2及び下側電極3のような丸棒状の導電性部材を採用した場合は、より広範囲の領域を緩やかに焼戻すことができるので、本開示の効果が、より一層得られ易くなる。
また、焼戻し工程に用いる上側電極及び下側電極は、これら両電極の板面方向における電極間距離dがナゲットの径Φの2倍以上であることが好ましい。図2中のA部とB部とは、それぞれ、ナゲットNの中心EからナゲットNの径Φ以上離れている。ナゲットNの径Φは、上板8に平行な面内で測った長さ(図2中の左右方向の長さ)である。
なお、例えば、ナゲットNの形状が真円である場合、ナゲットNの径Φとして、直径を採用できる。また、ナゲットNの形状が、真円でなく、図2に示すような楕円形状や、例えば多少の歪みを有する円形状である場合、ナゲットNの径Φとして、最大径の値を採用できる。
また、図2中で楕円形状を有するナゲットNの場合、上側電極2と下側電極3との左右方向に沿って測った電極間距離dが、ナゲットNの径Φの2倍以上である。このように上側電極及び下側電極の電極間距離dがナゲットの径Φの2倍以上であると、ナゲット及び熱影響部を含む更に広範囲の領域を緩やかに焼戻すことができ、本開示の効果が、より確実に得られ易くなる。
なお、上側電極及び下側電極の板面方向における電極間距離dは、図2に示すように、各電極の上下方向に延びる中心軸間の板面方向距離を意味する。上側電極2の進退方向と下側電極3の進退方向とは、互いに逆方向であり、上側電極2と下側電極3との間隔である電極間距離dは、進退方向に対して直交する平面内で、6mm以上である。
なお、上側電極2の板組に対する前進方向は、図2中の上側から下側に向かう方向であると共に、後退方向は、図2中の下側から上側に向かう方向である。また、下側電極3の板組に対する前進方向は、図2中の下側から上側に向かう方向であると共に、後退方向は、図2中の上側から下側に向かう方向である。また、図2中では、上板8と下板9との境界に表れている水平面によって、進退方向に対して直交する平面が例示されている。
さらに、上側電極及び下側電極は、上側電極とナゲットの板面方向板面方向における距離と、下側電極とナゲットの板面方向における距離とが、等しい距離であることが好ましい。すなわち、図2中で、A部とナゲットNの中心Eとの間の距離と、B部とナゲットNの中心Eとの間の距離とは、等しい。このように上側電極及び下側電極の各々とナゲットとの間の距離が等しい関係にあると、ナゲットを含む広範囲の領域を、より均一に昇温して焼戻すことができるので、本開示の効果が、より確実に得られ易くなる。
なお、上側電極及び下側電極の各々とナゲットとの間の距離は、各電極の上下方向に延びる中心軸とナゲット中心との間の板面方向距離を意味する。
また、焼戻し工程に用いる固定部材は、上述の上側固定部材4及び下側固定部材5のような丸棒状の絶縁性部材に限定されない。例えば、複数枚の鋼板を傾斜方向に通電する際に、複数枚の鋼板が動いたり、ずれたりしないように固定できるものであれば、所望の固定形態や固定のしやすさ等に応じた所定形状の絶縁性部材が用いられてもよい。
ただし、焼戻し工程に用いる固定部材として、上述の上側固定部材4及び下側固定部材5のような丸棒状の絶縁性部材を採用した場合は、複数枚の鋼板をより安定して固定することができる。このため、本開示の効果が、より確実に得られ易くなる。
また、本開示においては、1つの板組に対して複数の溶接対象箇所がある場合は、1つの溶接対象箇所において冷却工程を行っているときに、他の溶接対象箇所において溶接工程及び焼戻し工程のうちの少なくとも一方の工程を並行して行うことが好ましい。このように複数の溶接対象箇所において上記の溶接工程ないし焼戻し工程を並行して行うことで、溶接継手の生産効率をより一層向上させることができる。なお、複数の板組を搬送しながら連続的にスポット溶接する場合も同様である。
なお、本開示においては、溶接工程ないし焼戻し工程の各工程の前後に、所定の処理工程などを有していてもよい。
次に、本開示の製造方法に用いられる鋼板について説明する。
<鋼板>
本開示において、溶接対象となる複数枚の鋼板は、所望の継手強度や継手の用途(例えば、自動車部品としての用途)などに応じた所定の引張強度及び板厚を有する鋼板を用いることができる。そのような鋼板としては、例えば、引張強度が270MPa〜3000MPa級の鋼板などが挙げられ、かかる鋼板は、亜鉛等のめっき処理が施された鋼板(すなわち、めっき鋼板)であってもよい。
そのような鋼板の中でも、引張強度が780MPa以上となる高強度鋼板は、溶接後の溶接部が脆化して破断し易い。このため、本開示は、少なくとも1枚の鋼板が780MPa以上の引張強度を有する高強度鋼板である板組を用いる場合に、特に有利である。本実施形態では、上板8及び下板9は、自動車用の高強度鋼板である。
なお、本開示において、複数枚の鋼板は、すべての鋼板が同一種類の鋼板であってもよいし、一部の鋼板のみが同一種類の鋼板であってもよい。また、すべての鋼板がそれぞれ異なる種類の鋼板であってもよい。
さらに、鋼板の枚数も特に限定されず、溶接継手の用途などに応じた2枚以上の枚数を採用することができる。また、鋼板の板厚も特に限定されないが、好ましくは1枚の厚さが、0.5mm以上3.2mm以下である。
また、本開示において、鋼板の形状は、少なくとも溶接対象箇所が、他の鋼板の溶接対象箇所と板厚方向に沿って重ね合わせられるような所定の板状構造を有するものであれば、特に限定されない。すなわち、本開示に用いられる鋼板は、例えば、平板状の鋼板など、鋼板全体が平坦な板状構造を有するものであってよい。また、例えば、L字形鋼板、ハット型鋼板など、本開示に用いられる鋼板は、溶接対象箇所を含む一部の部分において板状構造を有し、且つ、板状構造以外の他の部分において屈曲構造等を有するものであってもよい。
また、本開示の製造方法は、上記実施形態や後述の実施例等に制限されることなく、本開示の目的、趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜組み合わせや代替、変更等が可能である。
以下、実施例及び比較例を例示して本開示を更に具体的に説明するが、本開示はこのような実施例のみに限定されるものではない。
<実施例>
(溶接工程)
上板及び下板として重ね合わせた2枚の鋼板の板組を、スポット溶接機の一対の電極で挟持した。2枚の鋼板は、いずれも引張強度が1.5GPa級のホットスタンプ非めっき鋼板、板厚1.2mmである。また、一対の電極は、いずれもDR型40−16、Φ6mmである。
その後、当該板組に400kgf(約3923N)の加圧力を付与しながら、5.5kAの通電電流及び16cycの通電時間で板厚方向に沿って通電することにより、2枚の鋼板の重ね合わせ面及び重ね合わせ面の近傍領域にナゲットを形成した。次いで、電極の通電を停止し、10cycの保持時間の間、電極により板組に加圧力を付与した状態を維持した。
(冷却工程)
さらに、溶接後の板組を室温(すなわち、M点以下)まで空冷した。
(焼戻し工程)
その後、上記板組を図2に示すスポット溶接機1の焼き戻し装置102と同様の構成のスポット溶接機の焼き戻し装置に移し、当該板組を、上側電極及び上側固定部材と、下側電極及び下側固定部材とによって板厚方向に沿って挟持した。その後、300kgf(約2942N)の加圧力を付与しながら、下記の表1に示す5.0〜10.0kAの各通電電流及び60cycの通電時間で、傾斜方向に通電することにより、ナゲット及び熱影響部を含む領域を焼戻した。
次いで、電極の通電を停止し、10cycの保持時間の間、板組を挟持した状態を維持することにより、上記2枚の鋼板が接合された溶接継手を得た。なお、実施例の溶接継手は、表1に示す焼戻し工程の通電電流値ごとに、計11個作製した。
なお、焼戻し工程で用いたスポット溶接機の焼き戻し装置は、上側電極及び下側電極として、それぞれCu−Cr合金製の丸棒を備える。上側電極及び下側電極は、それぞれ、長さ50mm、直径Φ10mmである。また、上側電極及び下側電極の板面方向における電極間距離dは、50mmである。また、焼戻し工程で用いたスポット溶接機は、上側固定部材及び下側固定部材として、セラミックス製の丸棒を備える。上側固定部材及び下側固定部材は、それぞれ、長さ50mm、直径Φ10mmである。
<比較例1>
焼戻し工程を行わなかったこと以外は、実施例と同様にして、比較例1の溶接継手を作製した。
<比較例2>
冷却工程を60cycの休止時間としたこと、及び、焼戻し工程を溶接工程で使用したスポット溶接機の一対の電極で行ったこと以外は、実施例と同様にして、比較例2の溶接継手を作製した。すなわち、比較例では、傾斜方向ではなく、板厚方向に沿って通電が行われた。
このようにして作製した実施例、比較例1及び比較例2の溶接継手を、タガネ試験により破断し、その破断形態を確認した。破断形態の確認結果については、下記の表1に示す。
なお、実施例、比較例1及び比較例2の溶接継手のナゲットの径Φは、いずれも等しく、約4√tであり、具体的には、約4.4mmであった。
Figure 2020184728
表1中の実施例の欄の太枠内に示すように、実施例の溶接継手は、「プラグ破断」の破断形態を示す焼戻し工程の条件範囲(すなわち、通電電流の範囲)が、6.5kA〜10.0kAという広い範囲であることがわかった。「プラグ破断」の破断形態は、高い継手強度であることを示す。このため、実施例は、優れたロバスト性を有していることがわかった。
これに対し、表1に示すように、比較例1の溶接継手は、「界面破断」の破断形態を示した。「界面破断」の破断形態は、低い継手強度を示す。また、表1中の比較例2の欄の太枠内に示すように、比較例2の溶接継手は、「プラグ破断」の破断形態を示したが、「プラグ破断」である焼戻し工程の条件範囲が、4.5kA〜5.5kAという極めて狭い範囲であった。すなわち、比較例1及び比較例2は、ロバスト性が低いことがわかった。
なお、実施例で焼戻し工程の条件範囲が広いのは、電流に対して温度上昇の変化が緩やかであるためと考えられる。具体的には、図7に示すように、実施例で後通電工程の開始時刻T0から終了時刻T1までの間で、温度が、比較例1に比べ緩やかに上昇する。
つまり、実施例の焼戻し工程は、比較例2のような従来のテンパー通電に比べて、通電経路が広くなっている、すなわち、電流密度が低くなっているためと考えらえる。これは、比較例2に比べて実施例の方が、プラグ破断の破断形態が得られる電流値が高いことからも推察される。
(作用効果)
本実施形態に係る溶接継手10の製造方法では、鋼板を挟む一対の電極同士が、厚み方向に沿って重ならないように、一対の電極同士を互いに離間させる。このため、一対の電極間に焼戻し用の電流を流す際、通電経路Cの長さが、電極同士が重なる場合に比べて長くなる。換言すると、傾斜方向に通電されることによって、ナゲットが焼き戻される。
なお、「通電経路Cの長さが長くなる」とは、平面視における通電経路Cの面積が拡大する状態も含む。すなわち、一対の電極の鋼板におけるそれぞれの接触領域の形状が、平面視で点状でなく、面状である場合も、本開示に含まれる。
通電経路Cの長さが長くなるため、通電経路Cにおける単位領域あたりの電流密度を低減することができる。このため、過剰な電流が流れることを抑制できるので、例えば、既存の電流制御機構を有する溶接設備であっても、新規の電流制御機構を導入することなく、後通電工程において焼戻しを行う際の電流制御が容易になる。よって、後通電工程において外乱の影響を受け難く、ロバスト性に優れた溶接継手の製造方法を提供できる。
また、本実施形態に係る溶接継手10の製造方法では、A部とB部とが、それぞれ、ナゲットNの中心EからナゲットNの最大径以上離れている。このため、ナゲットNだけに留まらず、ナゲットN及び熱影響部を含む更に広範囲の領域を、緩やかに焼戻すことができる。
また、本実施形態に係る溶接継手10の製造方法では、A部とナゲットNの中心Eとの間の距離と、B部とナゲットNの中心Eとの間の距離とが等しいため、ナゲットNを含む広範囲の領域を、より均一に昇温して焼戻すことができる。
また、本実施形態に係る溶接継手10の製造方法では、上側電極2と上側固定部材4とでA部を挟むことによって、A部の位置で上板8と下板9との間の隙間を消失させる。また、下側電極3と下側固定部材5とでB部を挟むことによって、B部の位置で上板8と下板9との間の隙間を消失させる。このため、ナゲットNの周囲の領域の隙間が消失して、鋼板同士が密着する。結果、ナゲットNだけでなく、ナゲットNの周辺の熱影響部を含む広範囲の領域を緩やかに昇温させることができる。よって、ナゲットNから熱影響部にわたる広範囲の領域を均一に軟化させることが可能になる。
また、本実施形態に係る溶接継手10の製造方法では、上側電極2及び下側電極3の幅Wが、ナゲットNの最大径Φ以上であることによって、より確実にナゲットNに通電できる。ここで、上側電極2及び下側電極3の幅Wは、ナゲットNの最大径Φと同じであってもよいが、最大径Φ以上であることによって、通電経路Cが、より長くなる。このため、例えば焼き切れ等を防止でき、ロバスト性を高める点で有利である。
また、本実施形態に係る溶接継手10の製造方法では、上側電極2と下側電極3との間の溶接継手10に電流を流す際、溶接継手10の内部でナゲットN以外の領域に電流を流すことによって、通電経路Cが長くなる。このため、通電経路Cにおける単位領域あたりの電流密度をより低減できる。
また、本実施形態に係る溶接継手10の製造方法によって、後通電工程において外乱の影響を受け難く、ロバスト性に優れた溶接継手10を実現できる。なお、図8中に例示した溶接継手10では、上板8上に平行な面内でナゲットNの外側の部分であるA部に、通電のために接触した上側電極2の接触痕Xが形成されている。また、下板9上に平行な面内でナゲットNの外側の部分であり、かつ、ナゲットNを挟んでA部と反対側に位置するB部に、通電のために接触した下側電極3の接触痕Yが形成されている。なお、接触痕X及び接触痕Yでは、通電により、周囲の領域と異なる色味が生じ得る。
また、図8中には、接触痕Xと接触痕Yとの間には、点状のパターンが付された軟化組織Zが連続して存在している場合が例示されている。例えば、溶接継手の破断の問題が顕著にあらわれる引張強さが1180MPa以上の鋼板は、組織が制御され、結果、高強度になっている。通電により高強度の組織が軟化する。例えば、マルテンサイト組織が、焼き戻しマルテンサイト組織になる。例えば、加工硬化した組織は、通電により転移が減少する。軟化組織Zは、ビッカース硬さ(HV)が軟化組織Zの外側の母材部の硬さよりも10HV以上低いことにより確認できる。例えば、軟化組織Zのビッカース硬さ(HV)を測定した場合、図6D及び図6Eに示したように、焼き戻されていない他の組織と比べて低い値が得られることによって、軟化組織の存在を判別できる。
また、本実施形態に係る焼き戻し装置102では、上側電極2と下側電極3との電極間距離dが6mm以上に設定されているため、例えば、溶接継手10において多用される6mmの幅のナゲットNを形成する際、有利である。
また、本実施形態に係る焼き戻し装置102では、上側固定部材4は、上側電極2の進退方向の軸上に設けられている。また、下側固定部材5は、下側電極3の進退方向の軸上に設けられている。このため、後通電工程をより安定的に実施できる。
また、本実施形態では、上板8の引張強度、及び、下板9の引張強度は、いずれも440MPa以上である。このため、上板8及び下板9を、自動車用の高強度鋼板として使用した場合、好適な自動車用の溶接継手10を提供できる。なお、本開示では、引張強度が440MPa以上の鋼板としては、上板8であってもよいし、下板9であってもよい。また、3枚以上の鋼板からなる溶接継手の場合、少なくとも1枚以上の鋼板の引張強度が440MPa以上であればよい。
また、本実施形態では、焼き戻しの際、上側電極2及び下側電極3が、ナゲットNのインデンテーションから離間している。すなわち、インデンテーションによって上板8上に段差が形成されても、上側電極2が段差に接触しない。同様に、下側電極3が、下板9上の段差に接触しない。このため、上側電極2を上板8へ円滑に接触できると共に、下側電極3を下板9へ円滑に接触できる。
<第1変形例>
図9中に例示された第1変形例に係る焼き戻し装置102Aでは、上側固定部材4は、第3電極である。また、下側固定部材5は、第4の電極である。すなわち、上側固定部材4及び下側固定部材5が、いずれも通電機能を有し、焼き戻し装置として機能する。なお、本開示では、反対に、電極を用いて溶接継手10を固定してもよい。
また、第1変形例に係る焼き戻し装置102Aは、上側電極2と下側電極3との間の通電と、第3の電極としての上側固定部材4と第4の電極としての下側固定部材5との間の通電とを、交互に実行する通電コントローラ20を備えている。このため、後通電工程では、上側電極2、下側電極3、上側固定部材4及び下側固定部材5からなる4個の電極によって、通電経路をX字型にして通電を実行できる。
(作用効果)
第1変形例に係る焼き戻し装置102Aによれば、上側電極2と下側電極3との間の通電と、第3の電極と第4の電極との間の通電とが、交互に実行されるため、後通電工程をより効率的に実施できる。
<第2変形例>
また、図10中に例示された第2変形例に係る溶接装置は、焼き戻し装置102と、焼き戻し装置102に設けられた一対のロボットアーム12、13と、ロボットアーム12、13の動作を制御する位置コントローラ14とを備える。また、一つのロボットアームの先端に取り付けられたグリッパーの指12、13と、ロボットアームとグリッパーの動作を制御する位置コントローラ14との構成でもよい。ナゲットが鋼板の端部に設けられる場合は、一つのロボットアームの先端にグリッパーを備える構成を採用すればよい。ナゲットが鋼板の中央部に設けられる場合は、2つのロボットアームを備える構成を採用すればよい。
図10中の上側のロボットアーム12によって、上側電極2は、上板8に対して自在に近接及び離間可能である。また、図10中の下側のロボットアーム13によって、下側電極3は、下板9に対して自在に近接及び離間可能である。一対のロボットアーム12、13に取り付けられた電極2、3あるいは一つのロボットアームの先端に取り付けられたグリッパーの指12、13に取り付けられた電極2、3は、位置コントローラ14により、位置と姿勢が制御される。
ロボットアーム12、13あるいは、ロボットアームの先端に取り付けられたグリッパーの指12、13は、ナゲットを形成する溶接機101によって溶接された箇所に上側電極2の先端と下側電極3の先端との中間点を移動させて、溶接された箇所の外側に、上側電極2と下側電極3とをそれぞれ配置する。なお、第2変形例におけるナゲットを形成する溶接機は、図1中に例示した溶接機101と同様である。また、図10中では、溶接機の図示は省略する。
(作用効果)
第2変形例に係る溶接装置によれば、本実施形態の場合と同様に、後通電工程において外乱の影響を受け難く、ロバスト性に優れた溶接継手10を製造可能な溶接装置を提供できる。
<他の実施形態>
本開示では、溶接継手は、3枚以上の鋼板が重ね合わせられて構成されてもよい。図11中には、上板8と下板9Aとの間に、中板21が挟まれた溶接継手が例示されている。なお、上板8及び中板21の厚みは、ほぼ同じである一方、下板9Aの厚みは、上板8及び中板21より薄い。図11中に例示した溶接継手のように、本開示では、複数枚の鋼板の厚みは、それぞれ異なってよい。
例えば、自動車用の溶接継手の場合、外側の鋼板の厚みが内側の鋼板の厚みより薄い場合がある。このため、互いに厚みが異なる鋼板を含む本開示に係る溶接継手は、例えば、自動車用の溶接継手として有利である。また、自動車用の溶接継手においては、高強度鋼板が使用される場合があるが、本開示では、溶接継手に含まれる複数枚の鋼板のうち、少なくとも1枚の鋼板が、高強度鋼板であればよい。
また、図1〜図11中に示したそれぞれの構成を部分的に組み合わせて、本開示を構成してもよい。本開示は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むと共に、本開示の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によってのみ定められるものである。
本開示の製造方法によれば、後通電工程において、外乱の影響を受け難く、優れたロバスト性を確保することができるので、例えば、自動車用鋼板などの高強度鋼板を用いたスポット溶接に好適に用いることができる。
したがって、本開示は、産業上の利用可能性が高いものである。
1 スポット溶接機(溶接装置)
2 上側電極(第1の電極)
3 下側電極(第2の電極)
4 上側固定部材(第1の固定部材)
5 下側固定部材(第2の固定部材)
6 上側保持部材
7 下側保持部材
8 上板(第1の鋼板)
9,9A 下板(第2の鋼板)
10 スポット溶接継手(溶接継手)
12,13 ロボットアーム、又は、グリッパーの指
14 位置コントローラ
20 通電コントローラ
101 溶接機
102,102A 焼き戻し装置
N ナゲット
通電経路
X,Y 接触痕
Z 軟化組織
Φ 最大径
≪付記≫
本明細書からは、以下の態様が概念化される。
すなわち、態様1は、
第1の鋼板と、前記第1の鋼板に重ねられた第2の鋼板と、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とを接合している焼き入れされたナゲットと、を含む溶接継手を用意すること、
前記溶接継手の前記第1の鋼板に平行な面内で前記ナゲットの板面方向における外側の部分であるA部の前記第1の鋼板に第1の電極をあてること、
前記溶接継手の前記第1の鋼板に平行な面内で前記ナゲットの板面方向における外側の部分でありかつ前記ナゲットを挟んで前記A部と反対側に位置するB部の前記第2の鋼板に第2の電極をあてること、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記溶接継手に電流を流すこと、を含む、
溶接継手の製造方法。
態様2は、
前記A部と前記B部とは、それぞれ、前記第1の鋼板に平行な面内で前記ナゲットの中心から、前記ナゲットの最大径以上離れている、
態様1に記載の溶接継手の製造方法。
態様3は、
前記A部と前記ナゲットの中心との間の距離と、前記B部と前記ナゲットの中心との間の距離とは、等しい、
態様2に記載の溶接継手の製造方法。
態様4は、
前記第1の電極と前記第2の鋼板側に設けられた第1の固定部材とで前記A部を挟んで前記第1の鋼板に前記第1の電極をあてること、
前記第2の電極と前記第1の鋼板側に設けられた第2の固定部材とで前記B部を挟んで前記第2の鋼板に前記第2の電極をあてること、を含む、
態様1〜3のいずれかに記載の溶接継手の製造方法。
態様5は、
前記第1の電極と前記第1の固定部材とで前記A部を挟むことによって前記A部の位置で前記第1の鋼板と前記第2の鋼板との間の隙間を消失させ、
前記第2の電極と前記第2の固定部材とで前記B部を挟むことによって前記B部の位置で前記第1の鋼板と前記第2の鋼板との間の隙間を消失させる、
態様1〜4のいずれかに記載の溶接継手の製造方法。
態様6は、
前記第1の電極及び第2の電極は、それぞれ、前記溶接継手に電流を流すとき、前記第1の鋼板に平行な面内で、一定の幅を有し、
それぞれの前記幅は、前記第1の鋼板に平行な面内での前記ナゲットの最大径以上である、
態様1〜5のいずれかに記載の溶接継手の製造方法。
態様7は、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記溶接継手に電流を流す際、前記溶接継手の内部で前記ナゲット以外の領域に前記電流を流すことによって通電経路を長くする、
態様1〜6のいずれかに記載の溶接継手の製造方法。
態様8は、
第1の電極と、
第2の電極と、を備え、
前記第1の電極の進退方向と前記第2の電極の進退方向とは、互いに逆方向であり、
前記第1の電極と前記第2の電極との電極間距離は、前記進退方向に対して直交する平面内で、6mm以上である、
焼き戻し装置。
態様9は、
前記第1の電極の進退方向の軸上に設けられた第1の固定部材と、
前記第2の電極の進退方向の軸上に設けられた第2の固定部材と、を備える、
態様8に記載の焼き戻し装置。
態様10は、
前記第1の固定部材は、第3の電極であり、
前記第2の固定部材は、第4の電極であり、
前記第1の電極と前記第2の電極との間の通電と、前記第3の電極と前記第4の電極との間の通電とを、交互に実行する通電コントローラを備える、
態様9に記載の焼き戻し装置。
態様11は、
態様8〜10のいずれかに記載の焼き戻し装置と、
前記焼き戻し装置が取り付けられたロボットアームと、
ナゲットを形成する溶接機と、
前記ロボットアームを制御して、前記第1の電極の先端と前記第2の電極の先端との中間点を、前記溶接機によって前記ナゲットとして溶接された箇所に移動させて、溶接された前記箇所の外側に、前記第1の電極と前記第2の電極とをそれぞれ配置する位置コントローラと、
を備える溶接装置。
態様12は、
第1の鋼板と、前記第1の鋼板に重ねられた第2の鋼板と、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とを接合している焼き入れされたナゲットと、を含む溶接継手であって、
前記第1の鋼板と前記第2の鋼板の引張強さは1180MPa以上であり、
前記溶接継手の前記第1の鋼板に平行な面内で前記ナゲットの板面方向における外側の部分であるA部の前記第1の鋼板に、第1の電極の接触痕が形成され、
前記溶接継手の前記第1の鋼板に平行な面内で前記ナゲットの板面方向における外側の部分でありかつ前記ナゲットを挟んで前記A部と反対側に位置するB部の前記第2の鋼板に、第2の電極の接触痕が形成され、
前記第1の電極の接触痕と前記第2の電極の接触痕との間に、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板よりビッカース硬さが10HV以上低い軟化組織が連続して存在している、
溶接継手。
≪他の態様≫
また、本明細書からは、以下の他の態様が概念化される。
すなわち、他の態様1は、
複数枚の鋼板がスポット溶接で接合されたスポット溶接継手の製造方法であって、
重ね合わせた前記複数枚の鋼板を通電して、ナゲットを形成する溶接工程と、
少なくとも前記ナゲットを冷却する冷却工程と、
前記複数枚の鋼板を板厚方向に対して傾斜する方向に通電して、少なくとも前記ナゲットを焼戻す焼戻し工程と、を有することを特徴とする、スポット溶接継手の製造方法。
他の態様2は、
前記焼戻し工程は、前記複数枚の鋼板を挟むように配置された上側電極及び下側電極であって、前記板厚方向と直交する水平方向において前記ナゲットを挟んで互いに反対側の位置に配置された前記上側電極及び前記下側電極を用いて、前記複数枚の鋼板を前記傾斜する方向に通電することを特徴とする、他の態様1に記載のスポット溶接継手の製造方法。
他の態様3は、
前記上側電極及び前記下側電極の前記水平方向における電極間距離が、ナゲットの径の2倍以上であることを特徴とする、他の態様2に記載のスポット溶接継手の製造方法。
他の態様4は、
前記上側電極と前記ナゲットの前記水平方向における距離と、前記下側電極と前記ナゲットの前記水平方向における距離とが、等しい距離であることを特徴とする、他の態様2または他の態様3に記載のスポット溶接継手の製造方法。
他の態様5は、
前記焼戻し工程において、通電時に前記複数枚の鋼板を固定するための固定部材を用いることを特徴とする、他の態様2〜他の態様4のいずれかに記載のスポット溶接継手の製造方法。
他の態様6は、
前記固定部材は、前記複数枚の鋼板を挟むように配置された上側固定部材及び下側固定部材を含み、
前記上側固定部材は、前記水平方向において前記ナゲットを挟んで前記上側電極と反対側に位置し、
前記下側固定部材は、前記水平方向において前記ナゲットを挟んで前記下側電極と反対側に位置することを特徴とする、他の態様5に記載のスポット溶接継手の製造方法。
上記の他の態様においては、以下の作用効果を奏する。
他の態様に係るスポット溶接継手の製造方法によれば、ナゲットを形成する溶接工程とは別の焼戻し工程において、複数枚の鋼板を板厚方向に対して傾斜する方向に通電してナゲットを焼戻すことで、外乱の影響を受け難く、優れたロバスト性を確保することができる。
2019年3月14日に出願した日本国特許出願2019−047020号の開示は、その全体が参照により本明細書に取り込まれる。
また、本明細書に記載されたすべての文献、特許出願及び技術規格は、個々の文献、特許出願及び技術規格が参照により取り込まれることが具体的かつ個々に記された場合と同程度に、本明細書中に参照により取り込まれる。

Claims (12)

  1. 第1の鋼板と、前記第1の鋼板に重ねられた第2の鋼板と、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とを接合している焼き入れされたナゲットと、を含む溶接継手を用意すること、
    前記溶接継手の前記第1の鋼板に平行な面内で前記ナゲットの板面方向における外側の部分であるA部の前記第1の鋼板に第1の電極をあてること、
    前記溶接継手の前記第1の鋼板に平行な面内で前記ナゲットの板面方向における外側の部分でありかつ前記ナゲットを挟んで前記A部と反対側に位置するB部の前記第2の鋼板に第2の電極をあてること、
    前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記溶接継手に電流を流すこと、を含む、
    溶接継手の製造方法。
  2. 前記A部と前記B部とは、それぞれ、前記第1の鋼板に平行な面内で前記ナゲットの中心から、前記ナゲットの最大径以上離れている、
    請求項1に記載の溶接継手の製造方法。
  3. 前記A部と前記ナゲットの中心との間の距離と、前記B部と前記ナゲットの中心との間の距離とは、等しい、
    請求項2に記載の溶接継手の製造方法。
  4. 前記第1の電極と前記第2の鋼板側に設けられた第1の固定部材とで前記A部を挟んで前記第1の鋼板に前記第1の電極をあてること、
    前記第2の電極と前記第1の鋼板側に設けられた第2の固定部材とで前記B部を挟んで前記第2の鋼板に前記第2の電極をあてること、を含む、
    請求項1〜3のいずれか一項に記載の溶接継手の製造方法。
  5. 前記第1の電極と前記第1の固定部材とで前記A部を挟むことによって前記A部の位置で前記第1の鋼板と前記第2の鋼板との間の隙間を消失させ、
    前記第2の電極と前記第2の固定部材とで前記B部を挟むことによって前記B部の位置で前記第1の鋼板と前記第2の鋼板との間の隙間を消失させる、
    請求項4に記載の溶接継手の製造方法。
  6. 前記第1の電極及び第2の電極は、それぞれ、前記溶接継手に電流を流すとき、前記第1の鋼板に平行な面内で、一定の幅を有し、
    それぞれの前記幅は、前記第1の鋼板に平行な面内での前記ナゲットの最大径以上である、
    請求項1〜5のいずれか一項に記載の溶接継手の製造方法。
  7. 前記第1の電極と前記第2の電極との間の前記溶接継手に電流を流す際、前記溶接継手の内部で前記ナゲット以外の領域に前記電流を流すことによって通電経路を長くする、
    請求項1〜6のいずれか一項に記載の溶接継手の製造方法。
  8. 第1の電極と、
    第2の電極と、を備え、
    前記第1の電極の進退方向と前記第2の電極の進退方向とは、互いに逆方向であり、
    前記第1の電極と前記第2の電極との電極間距離は、前記進退方向に対して直交する平面内で、6mm以上である、
    焼き戻し装置。
  9. 前記第1の電極の進退方向の軸上に設けられた第1の固定部材と、
    前記第2の電極の進退方向の軸上に設けられた第2の固定部材と、を備える、
    請求項8に記載の焼き戻し装置。
  10. 前記第1の固定部材は、第3の電極であり、
    前記第2の固定部材は、第4の電極であり、
    前記第1の電極と前記第2の電極との間の通電と、前記第3の電極と前記第4の電極との間の通電とを、交互に実行する通電コントローラを備える、
    請求項9に記載の焼き戻し装置。
  11. 請求項8〜10のいずれか一項に記載の焼き戻し装置と、
    前記焼き戻し装置が取り付けられたロボットアームと、
    ナゲットを形成する溶接機と、
    前記ロボットアームを制御して前記第1の電極の先端と前記第2の電極の先端との中間点を、前記溶接機によって前記ナゲットとして溶接された箇所に移動させて、溶接された前記箇所の外側に、前記第1の電極と前記第2の電極とをそれぞれ配置する位置コントローラと、
    を備える溶接装置。
  12. 第1の鋼板と、前記第1の鋼板に重ねられた第2の鋼板と、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板とを接合している焼き入れされたナゲットと、を含む溶接継手であって、
    前記第1の鋼板と前記第2の鋼板の引張強さは1180MPa以上であり、
    前記溶接継手の前記第1の鋼板に平行な面内で前記ナゲットの板面方向における外側の部分であるA部の前記第1の鋼板に、第1の電極の接触痕が形成され、
    前記溶接継手の前記第1の鋼板に平行な面内で前記ナゲットの板面方向における外側の部分でありかつ前記ナゲットを挟んで前記A部と反対側に位置するB部の前記第2の鋼板に、第2の電極の接触痕が形成され、
    前記第1の電極の接触痕と前記第2の電極の接触痕との間に、前記第1の鋼板と前記第2の鋼板よりビッカース硬さが10HV以上低い軟化組織が連続して存在している、
    溶接継手。
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