本発明は、電磁波を制御する電磁波制御装置および空間電磁界制御システムに関する。
無線ルータやアクセスポイント(AP)の設置により端末等が無線通信できる。IoT(Internet Of Things)技術を用いたセンサや端末は、異なる無線通信システムが同じエリアに混在して配置されることがある。例えば、2.4GHz帯や5GHz帯の通信周波数のWiFi(登録商標)は、工場、病院、飲食店等で用いられ、混在した環境においても、各通信システム別に無線通信システムの構築の容易性や、セキュリティの確保が求められている。
無線ルータやAPに主に用いられるダイポールアンテナは、通信エリアに向かって電波が円状に広がるため、所望するエリア外に余分な電波の漏れや、隣接するAPの電波や壁、金属面からの反射波との干渉により、電波が弱くなるヌルスポットが生じている。
従来技術として、アンテナから放射された空間の電磁界を制御する電磁波制御装置がある。例えば、アンテナの放射方向上に複数のスリットを有する金属スリット板を配置し、サイドローブの反射波を低減した車載用レーダの技術がある(例えば、下記特許文献1参照。)。また、一次放射器のV,H偏波を、スリットを有する反射器によりスリットに直交する偏波のみ通過させてビーム幅を可変する技術がある(例えば、下記特許文献2参照。)。また、放射素子の小反射板を、間隙を空けて複数配置し、小反射板の交換が容易で大きな反射板のアンテナと等価にした技術がある(例えば、下記特許文献3参照。)。また、基板上にミリ波用の多数のアンテナの開口面を大きくアレイ化して配置することでビームを絞り、ゲート等の所定エリアで一定の電界値(フレネルゾーン)を形成する技術がある(例えば、下記非特許文献1参照。)。
特開2006−029834号公報
特開平11−214920号公報
特開昭63−026006号公報
Miao Zhang、外5名、「A 60−GHz Band Compact−Range Gigabit Wireless Access System Using Large Array Antennas」、IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION,VOL.63,NO.8、Aug.2015
しかしながら、上記従来の技術では、汎用の無線ルータやAPを用いた無線通信において、所望の通信エリア単位で電波の閉空間を構築することができなかった。特許文献1,2のようにアンテナ前方にスリットを有する金属板(反射器)を配置しただけでは偏波制御しか行えず電波のエリア制御が行えない。また、特許文献3、非特許文献1は、アレイ化した反射板を用いる必要がある。加えて、汎用の無線ルータやAPが放射する電波を用いることができない。
一つの側面では、本発明は、所望の通信エリア単位で電波の閉空間を構築できることを目的とする。
一つの案では、電磁波制御装置は、無指向性のアンテナが放射する電磁波の電界分布を制御する電磁波制御装置であって、導電体からなり、アンテナの背面に前記アンテナから所定の距離を隔てて配置され、前記電磁波の放射パターンを変化させる一つまたは複数の突起部を有し、所定の通信エリア内を一定な電界とし、前記通信エリア外で電界を弱くする反射板を有する、ことを要件とする。
一つの実施形態によれば、所望の通信エリア単位で電波の閉空間を構築できるという効果を奏する。
図1は、実施の形態1にかかる電磁波制御装置による通信エリアの説明図である。
図2は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を密に配置した特性例を説明する図である。(その1)
図3は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を密に配置した特性例を説明する図である。(その2〉
図4は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。(その1)
図5は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。(その2)
図6は、実施の形態1にかかる反射板として1個の凹状の突起部を配置した特性例を説明する図である。(その1)
図7は、実施の形態1にかかる反射板として1個の凹状の突起部を配置した特性例を説明する図である。(その2)
図8は、実施の形態1にかかる反射板として複数の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。(その1)
図9は、実施の形態1にかかる反射板として複数の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。(その2)
図10Aは、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの構成例を示す図である。(その1)
図10Bは、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの構成例を示す図である。(その2)
図11は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの送信機のハードウェア構成例を示す図である。
図12は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの端末のハードウェア構成例を示す図である。
図13は、実施の形態1にかかる電磁界制御装置により構築される電波の閉空間を説明する図である。
図14は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの適用例を示す図である。
図15は、実施の形態2にかかる電磁波制御装置の電磁波フィルタを示す斜視図である。
図16は、実施の形態2にかかる電磁波制御装置を説明する図である。
図17は、実施の形態2にかかる空間電磁界制御システムの構成例を示す分解斜視図である。
(実施の形態)
以下、本発明の電磁波制御装置および空間電磁界制御システムの実施の形態を説明する。実施の形態にかかる電磁波制御装置は、無線通信のルータやアクセスポイント(AP)からなる送信器のアンテナが出射する電波を特定の通信エリアに閉じ込める。アンテナは、無指向性の線状アンテナであり、例えば、ダイポールアンテナである。電磁波制御装置は、通信エリア内ではほぼ一定な電波強度(電界)とし、通信エリア外では急激に電波強度(電界)が弱くなるように電磁波を制御することで、所望の通信エリア単位で電波の閉空間を構築する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる電磁波制御装置による通信エリアの説明図である。実施の形態1で説明する電磁波制御装置は、反射板100である。反射板100は、APのアンテナ150から所定距離離れた位置に配置される。
図1は、ある部屋を横から見た側面図であり、この場合、天井等に反射板100が設置され、反射板100から所定距離離れた下方(Z軸方向)にアンテナ150が配置される。アンテナ150の長さは通信周波数の半波長(λ/2)である。また、反射板100は、アンテナ150の長さ方向(Y軸方向)に沿った幅が通信波長の1波長(λ)程度である。反射板100が有する長さ(X軸方向)と幅(Y軸方向)は、構築する通信エリアの大きさに応じた長さおよび幅を有する。
図1には、空間電磁界制御システムの各構成が示されている。空間電磁界制御システムは、反射板100と、無線電波を送信する送信機と、特定の通信エリア内に位置したときに送信機が送信する電波を受信する受信機とを含む。送信機は、ルータやアクセスポイント(AP)であり、アンテナ150を備える。ここで、アンテナ150の配置位置には、アンテナ150を内蔵したAPの装置(筐体)、あるいはAPから引き出したアンテナ150だけを配置してもよい。受信機は、特定の通信エリアに移動自在なユーザが保持するスマートフォン、携帯型パーソナルコンピュータ(PC)等の端末(MS)170である。
反射板100は、長さ(X軸方向)および幅(Y軸方向)にそれぞれ所定の大きさを有する板状のものである。反射板100は、例えば、銅、アルミニウム、鉄等の導電体の金属板のほか、例えば、ガラスエポキシ等の誘電体基材(例えば、厚さ1mm)の高周波基板の片面または両面に銅等の金属層(例えば厚さ18ミクロン)を設けたものを用いることができる。
実施の形態1では、反射板100には、アンテナ150側に向いた面に複数の突起部110を設ける。突起部110は、反射板100の面に対し凸あるいは凹状に形成されている。図1の例では、突起部110は、アンテナ150側に対し反射板100から3角形状の凸部が突出して形成されている。複数の突起部110の寸法や間隔は後述する。突起部110は、平面状の反射板100に接着するなどして容易に製造することができる。また、反射板100の一部を折り曲げることで突起部110を容易に形成することもできる。
アンテナ150は、図1の奥行方向(Y方向)に向けて所定長さ(偏波方向)を有する汎用のダイポールアンテナである。
そして、突起部110を設けた反射板100をAPのアンテナ150の背面に配置することにより、部屋内に通信エリアCと、通信不能エリアXを形成できる。図1の例では、アンテナ150を反射板100の複数(2個)の突起部110の中心位置上に設ける。通信エリアCは、アンテナ150の正面に近い所定エリアであり、通信不能エリアXは、通信エリアCの周囲のエリアであり、通信エリアCよりアンテナ150から遠いエリアである。
ここで、アンテナ150は、全方向に向けて電波を放射する。図1のように、反射板100は、アンテナ150が放射する電波のうち、2個の突起部110の間の電波E1に対しては、横方向(例えば、X軸方向)の逆相成分を相殺し、正面(Z軸方向)に対する電波は電界強度を弱める。
また、反射板100は、アンテナ150が放射する電波のうち、2個の突起部110それぞれの外方(X軸方向で突起部110より外側)の電波E2に対しては、同じ方向に向く電波の同相成分を強め合わせる。
これにより、端末170は、通信エリアCでは、ほぼ一定な強度の電波を受信できる。また、通信不能エリアXでは、急激に強度が低下し、通信できないエリアとなる。そして、突起部110を設けた反射板100は、背面側への無駄な電波の放射を低減させる。このような実施の形態1の電磁波制御装置(反射板100)によれば、通信エリアC内にユーザの端末(MS)170が位置しているときには、端末170は、一定な電波強度でアンテナ150の電波を受信できる。
また、通信不能エリアX内にユーザの端末(MS)170が位置しているときには、端末170は、受信電波の強度が急激に弱まり、アンテナ150からの電波を受信できなくなるようにすることができる。すなわち、実施の形態1の電磁波制御装置(反射板100)は、汎用のAP(アンテナ150)から放射された電波を所定の通信エリアC内でのみ一定な電波強度にし、AP(アンテナ150)単位で所望する通信エリアCによる電波の閉空間を構築する。
次に、図2〜図9を用いて、反射板100上に各種の突起部110を設けた際の特性例について説明する。以下の説明では、電磁界シミュレータを使用して、アンテナ150の背面に各種の突起部110毎の反射板100を設けた場合の電波の電界状態(放射パターン)を説明する。
図2および図3は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を密に配置した特性例を説明する図である。図2(a)は反射板100の上面図である。図示の例では、反射板100上に2個の突起部110を互いの配置間隔(ギャップ)を無くして密に設けている。反射板100は、長さ(X軸方向)が222.2mm、幅(Y軸方向)が55.6mm(不図示)である。突起部110は、3辺が60度の傾斜を有する正三角形であり、反射板100の面から突起部110の高さ(突出量)は12.3mm、隣接する一対の突起部110の頂点間の距離は14.2mmである。これら突起部110の突出量、頂点間の距離、アンテナ150との距離は、それぞれ通信波長λを基準に設定される。
アンテナ150は、中央の隣接する2つの突起部110間の中心位置において、突起部110の頂点からZ軸方向に所定距離(20.5mm)離れた位置に配置している。アンテナ150は、所定長さ(24.6mm)の長さ方向をY軸方向に沿って設け、φ1mmの直径を有する(不図示)。
そして、アンテナ150から放射される電波の中心周波数f0=5.4GHz(波長λ≒55.56mm)である。図2(b)は、ダイポールアンテナであるアンテナ150単体のSパラメータ特性であり、5.4GHzの中心周波数を有している。これに対し、図2(c)は、アンテナ150に反射板100を加えたSパラメータ特性であり、中心周波数は5.5GHzとなっている。
そして、図3に示す電波の電界状態(放射パターン)のシミュレーションでは、表示範囲を20dBとした。この場合、正面側(Z軸方向)で弱まり、左斜め下側P1、および右斜め下側P2の電界強度が強くなっており(最大7.7dBiのゲイン)、アンテナ側から見た平面で矩形に近い放射パターンが得られる。図3に示す放射パターンは、図1に示したような一定な電波強度の通信エリアCとし、かつ、通信エリアCに隣接する外側では急激に受信電力を弱める通信不能エリアXの形成に有効となる。
図4および図5は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。図4(a)は反射板100の上面図、図4(b)は斜視図である。この例では、反射板100上に2個の突起部110を互いの配置間隔(ギャップ)を有して設けている。反射板100は、長さ(X軸方向)が222.2mm、幅(Y軸方向)が55.6mmである。突起部110は、3辺が60度の傾斜を有する正三角形であり、反射板100の面から突起部110の高さ(突出量)は12.3mm、隣接する一対の突起部110の頂点間の距離は31.6mmである。
アンテナ150は、中央の隣接する2つの突起部110間の中心位置において、突起部110の頂点からZ軸方向に所定距離(20.5mm)離れた位置に配置している。アンテナ150は、所定長さ(24.6mm)の長さ方向をY軸方向に沿って設け、φ1mmの直径を有する。ここで、アンテナ150のY軸方向の長さは通信周波数の半波長(λ/2)である。また、反射板100のY軸方向の幅は、通信波長の1波長(λ)程度である。
そして、アンテナ150から放射される電波の中心周波数f0=5.4GHz(波長λ≒55.56mm)である。図5に示す電波の電界状態(放射パターン)のシミュレーションでは、表示範囲を20dBとした。この場合、正面側(Z軸方向)で弱まり、左斜め下側P1、および右斜め下側P2の電界強度が強くなっており(最大6.8dBiのゲイン)、矩形に近い放射パターンが得られる。図5に示す放射パターンは、図3と比較してP1,P2の上部位置のX1,X2がより外方に広がった形であり、矩形に近い形となっている。図5に示す放射パターンによれば、図2,図3の構成例よりもさらに、図1に示したような通信エリアC内で一定な電波強度とすることができる。また、通信エリアCに隣接する外側では急激に受信電力をさらに弱める通信不能エリアXを形成できる。
図6および図7は、実施の形態1にかかる反射板として1個の凹状の突起部を配置した特性例を説明する図である。図6(a)は反射板100の上面図、図6(b)は斜視図である。この例では、反射板100上に1個の凹状の突起部120を設けている。反射板100は、長さ(X軸方向)が222.2mm、幅(Y軸方向)が55.6mmである。突起部120は、反射板100の一部を背面側(Z軸方向)に折り曲げて形成している。折り曲げ部分は、反射板100の面に対して角度θ(例えば60°)を有し、反射板100の面と平行な凹部が長さ方向(X軸方向)に17.4mm形成されている。反射板100の面から突起部110の凹み量は12.3mmである。
アンテナ150は、1つの突起部110間の中心位置において反射板100の面からZ軸方向に所定距離(21.5mm)離れた位置に配置している。アンテナ150は、所定長さ(24.6mm)をY軸方向に沿って設け、φ1mmの直径を有する。
そして、アンテナ150から放射される電波の中心周波数f0=5.4GHz(波長λ≒55.56mm)である。図6(c)は、アンテナ150に反射板100を加えたSパラメータ特性であり、中心周波数は5.7GHzとなっている。
また、図7に示す電波の電界状態(放射パターン)のシミュレーションでは、表示範囲を20dBとした。この場合、正面側(Z軸方向)で弱まり、左斜め下側P1、および右斜め下側P2の電界強度が強くなっており(最大6.3dBiのゲイン)、矩形に近い放射パターンが得られる。図7に示す放射パターンは、図5と比較してP1,P2の上部位置のX1,X2がより外方に広がった形であり、さらに矩形に近い形となっている。図7に示す放射パターンによれば、図4,図5の構成例よりもさらに、図1に示したような通信エリアC内で一定な電波強度とすることができる。また、通信エリアCに隣接する外側では急激に受信電力をさらに弱める通信不能エリアXを形成できる。
図8および図9は、実施の形態1にかかる反射板として複数の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。図8(a)は反射板100の上面図、図8(b)は正面図、図8(c)は斜視図である。この例では、反射板100上に複数個(6個)の突起部110を互いの配置間隔(ギャップ)を有して設けている。反射板100は、長さ(X軸方向)が222.2mm、幅(Y軸方向)が55.6mmである。突起部110は、3辺が60度の傾斜を有する正三角形であり、反射板100の面から突起部110の高さ(突出量)は12.3mm、隣接する一対の突起部110の頂点間の距離は31.6mmである。
アンテナ150は、中央の隣接する2つの突起部110間の中心位置において反射板100の面からZ軸方向に所定距離(28.8mm)離れた位置に配置している。アンテナ150は、所定長さ(24.6mm)の長さ方向をY軸方向に沿って設け、φ1mmの直径を有する。
そして、アンテナ150から放射される電波の中心周波数f0=5.4GHz(波長λ≒55.56mm)である。図9(a)は、アンテナ150に反射板100を加えたSパラメータ特性であり、中心周波数は5.6GHzとなっている。
図9(b)に示す電波の電界状態(放射パターン)のシミュレーションでは、表示範囲を20dBとした。この場合、正面側(Z軸方向)で弱まり、左斜め下側P1、および右斜め下側P2の電界強度が強くなっており(最大6.93dBiのゲイン)、矩形に近い放射パターンが得られる。図9(b)に示す放射パターンは、図5と比較してP1,P2の上部位置のX1,X2がより外方に広がった形であり、矩形に近い形となっている。図9(b)に示す放射パターンによれば、図4,図5の構成例よりもさらに、図1に示したような通信エリアC内で一定な電波強度とすることができる。また、通信エリアCに隣接する外側では急激に受信電力をさらに弱める通信不能エリアXを形成できる。
図10A,図10Bは、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの構成例を示す図である。図10Aは空間電磁界制御システム1000の分解斜視図、図10Bは取り付け状態を示す斜視図である。
図10Aに示すように、空間電磁界制御システム1000は、送信機(AP)1010と、反射板100と、カバー1020を含む。AP1010は、アンテナ150からλ/4の縦偏波の電波を放射する。反射板100は、上述したように、AP1010(アンテナ150)の背面に所定距離離して配置され、カバー1020内に収容される。カバー1020は、電波を透過させる材質、例えば、ABS樹脂により反射板100とAP1010を覆うボックス形状に成形される。なお、実施の形態1では、AP1010を送信機として説明しているが、AP1010は、端末170との間でデータを送受信し、受信機の機能も有している。
そして、図10Bに示すように、カバー1020内に反射板100とAP1010を収容した状態で、カバー1020を所望する天井や壁1030の設置個所にボルト1021を介して簡単に取り付けることができる。
この空間電磁界制御システム1000は、汎用のAP1010と、上述した反射板100をカバー1020に収容して構成でき、簡単かつ低コストに製造できる。そして、所望の設置個所にカバー1020を取り付けることで、AP1010が放射する電波を、所定の通信エリアC内に位置する端末(MS)170との間でのみ通信することができるようになる。
図11は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの送信機のハードウェア構成例を示す図である。送信機(AP)1010は、汎用のハードウェア構成であり、CPU1101、RAM1102、RF−フロントエンド1103、信号処理部1104、操作部インタフェース(IF)1105、LANポート1106、電源ポート1107、アンテナ150を含む。
CPU1101は、ROMやRAM1102等に格納された制御プログラムを実行し、AP1010の全体を制御し、この際、RAM1102を作業領域として使用する。RF−フロントエンド1103は、信号処理部1104の無線送受信にかかる制御により、データをアンテナ150を介して送受信する。操作部インタフェース(IF)1105は、ユーザによる操作設定を行うためのインタフェースである。送受信するデータは、LANポート1106を介して入出力される。AP1010は、電源ポート1107から供給される電源に基づき動作する。
図12は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの端末のハードウェア構成例を示す図である。端末(MS)170は、CPU1201、RAM1202、RF−フロントエンド1203、信号処理部1204、操作部インタフェース(IF)1205を含む。さらに、センサ1206、スピーカ1207、マイク1208、カメラ1209、キーボード1210、ディスプレイ1211、パワーソース1212、アンテナ1213を含む。端末(MS)170は、例えば、スマートフォン等の汎用の各ハードウェア構成を有する。
CPU1201は、ROMやRAM1202等に格納された制御プログラムを実行し、端末(MS)170の全体を制御し、この際、RAM1202を作業領域として使用する。RF−フロントエンド1203は、信号処理部1204の無線送受信にかかる制御により、データをアンテナ1213を介して送受信する。操作部インタフェース(IF)1205は、ユーザによる操作設定を行うためのインタフェースである。
端末(MS)170は、CPU1201の制御により、センサ1206やマイク1208、カメラ1209、キーボード1210から入力されたデータを送信し、受信したデータをディスプレイ1211に表示する。端末(MS)170は、例えば、内蔵バッテリ等のパワーソース1212から供給される電源に基づき動作する。図12の例では、端末170としてスマートフォン等の構成例を説明したが、端末170としては、IoTセンサ等のセンサ、CPU、メモリ、RFID等を含む簡素なものも含む。
図13は、実施の形態1にかかる電磁界制御装置により構築される電波の閉空間を説明する図である。図13(a)は、従来の通信エリアを示す平面図である。例えば、室内の天井にAPのアンテナ150を配置したときフロア部分での通信エリアをAP側からみた図に相当する。従来は、AP(アンテナ150)毎にアンテナ150を中心として同心円状の通信エリアC1〜C4が形成されている。そして、従来は、大きな通信エリアを構築するためには、複数の通信エリアC1〜C4の一部を重ねており、重合エリアD1〜D4が形成されている。
このような従来の同心円状の通信エリアC1〜C4では、重合エリアD1〜D4でそれぞれ電波が干渉する問題を有している。例えば、通信エリアC1内には、隣接する他の通信エリアC2,C4との間で重合エリアD1,D4を有するため、この重合エリアD1,D4でのAP(アンテナ150)と端末170との間の通信データのセキュリティを確保できない。従来は、例えば、AP(アンテナ150)と端末170との間で特別な暗号化等のセキュリティ対策が必要であった。
図13(b)および図13(c)は、実施の形態1にかかる通信エリアを示す平面図である。実施の形態1によれば、図13(b)に示すように、AP(アンテナ150)毎にアンテナ150を中心としてアンテナ側から見た平面で矩形状の通信エリアC1〜C4を形成することができる。
矩形状の通信エリアC1〜C4は、境界が直線状であり、異なる通信エリアが重合することなく密に隣接させて配置できる。また、各通信エリアC1〜C4が平面でみて矩形状であるため、複数の通信エリアC1〜C4で大きな通信エリアを構築する場合、隣接する通信エリアC同士の境界の直線部分を接して構築できるようになる。そして、通信エリアC1〜C4を重ねることなく、AP(アンテナ150)毎に個別の通信エリアC1〜C4を構築することができる。
また、実施の形態1によれば、図13(c)に示すように、複数の通信エリアC1〜C4の一部を重ねた場合でも、重合エリアD1〜D4の大きさを極力小さくすることができ、干渉が発生する重合エリアD1〜D4をできるだけ小さくできる。また、不図示であるが、隣接する通信エリアC同士の境界を所定距離離して、それぞれが独立した通信エリアを構築することもできる。
図14は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの適用例を示す図である。実施の形態1の空間電磁界制御システム1000は、例えば、下記1.〜3.に適用できる。
1.隣接する所望の通信エリア毎に電波的な閉空間を構築することができる。
2.所望エリア外へ不要放射を防ぎ、公共の場での傍受リスクを低減できる。
3.電磁波が懸念される空間への無線環境の提供が行える。
上記1.については、例えば、図14(a)に示すように、工場の各製造ライン(レーン)L1〜L3毎に、レーンL1〜L3上で搬送されるIoTセンサ(端末170に相当)を搭載した部品や資材の管理を行うことができる。
レーンL1〜L3毎に上述した空間電磁界制御システム1000(AP1010と反射板100を収容するカバー1020)を配置する。これにより、レーンL1〜L3でそれぞれ独立した通信エリアC1〜C3を構築できる。例えば、レーンL1上で搬送されるIoTセンサ(端末170に相当)は、通信エリアC1に位置した際にレーンL1上のAP1010と通信を行うことができる。この際、IoTセンサ(端末170に相当)は、他のレーンL2,L3のAP1010の通信エリアC2,C3には位置しておらず、これら他のレーンL2,L3のAP1010とは通信を行わない。レーンL1の通信エリアC1内での電波は、隣接する他のレーンL2,L3の通信エリアC2,C3に漏れないため、レーンL1でのAP1010とIoTセンサ(端末170に相当)との間の通信データのセキュリティを確保できる。さらに、特別な暗号化等のセキュリティ対策も不要にできる。
また、レーンへの適用例に限らず、展示場や水族館等での隣接する各ブース毎の情報提供、同一事務所内で隣接する異部門(机の島)でのセキュリティ確保にも適用できる。また、同一ビル内で隣接する異店舗でのセキュリティ確保、展示会やフェスタの混雑した入場ゲートでチェック対象者だけの読取管理、にも適用できる。
上記2.については、例えば、駅や空港の待合室、電車や航空機のシート、飲食店等の座席に適用することができる。例えば、図14(b)に示すように、電車の各シートN1〜N3毎に天井あるいは床面に、上述した空間電磁界制御システム1000(AP1010と反射板100を収容する図10Bのカバー1020)を配置する。これにより、シートN1〜N3でそれぞれ独立した通信エリアC1〜C3を構築できる。そして、シートN1の通信エリアC1内での電波は、隣接する他のシートN2,N3の通信エリアC2,C3に漏れないため、シートN1でのAP1010とユーザの端末170(MS)との間の通信データのセキュリティを確保できる。さらに、特別な暗号化等のセキュリティ対策も不要にできる。
上記3.については、例えば、病院やサーバルーム等に適用できる。実施の形態によれば、所定のエリアのみ通信エリアCを構築できるため、病院内の診療用の機器や、サーバに対して不要な電磁波を与えない。すなわち、実施の形態によれば、病院やサーバルーム内においても、電波を閉じ込めた通信エリアCを構築することができる。
以上説明した実施の形態1の電磁波制御装置は、アンテナの背面の反射板に突起部を設けることで電波の電界分布を制御し、所定の通信エリア内をほぼ一定な電界にする。また、通信エリア外で急激に電界を弱くする。これにより、所望する通信エリアCによる電波の閉空間を構築できるようになる。
また、空間電磁界制御システムは、汎用のAPと、上述した反射板をカバーに収容して構成でき、簡単かつ低コストに製造できる。そして、所望の設置個所にカバーを取り付けることで、APのアンテナが放射する電波を、所定の通信エリア内に位置する端末(MS)との間でのみ通信することができるようになる。
このように、実施の形態1によれば、電磁波制御装置を汎用の無線ルータやAPと組み合わせることで、通信エリア外への電波の漏れを簡単な構成で防ぐことができ、また、セキュリティ性を向上できるようになる。実施の形態1の電磁波制御装置は、突起部を有する反射板であり、この反射板を汎用の無線ルータやAPの背面に設置するだけで、所望する通信エリアによる電波の閉空間を構築できる。なお、無線ルータやAPからアンテナだけを引き出して配置し、このアンテナの背面に反射板を配置しても同様の作用効果を得ることができる。そして、実施の形態1によれば、無線ルータやAP毎の通信エリア外への電波の漏れを簡単な構成で防ぐことができるため、セキュリティ性を向上できるようになる。例えば、異なる無線通信システムの端末やセンサが互いに干渉しないよう通信エリアを分けて配置できるようになる。
(実施の形態2)
実施の形態2では、電磁波制御装置の他の構成例を説明する。実施の形態1で説明した電磁波制御装置は、反射板100を備えた構成とした。実施の形態2の電磁波制御装置では、実施の形態1で説明した反射板100のほかに電磁波フィルタ1500を含む。
図15は、実施の形態2にかかる電磁波制御装置の電磁波フィルタを示す斜視図である。図15に示すように、電磁波フィルタ1500は、金属板等の導電体を折り曲げることで、略波状に形成されている。導電体は、例えば、銅、アルミニウム、鉄等の金属板や、高周波基板(例えば、ガラスエポキシ等の誘電体基材(例えば、厚さ1mm))の片面または両面に設けた銅等の金属層(例えば厚さ18ミクロン)の部分を指す。
図15に示すように、折曲面1501は、長さが27.7mmで、Z軸方向に対する角度θが30度である。折曲面1501は、隣接する折曲面1501との間で略三角形のうち2辺によるV字形を形成し、電磁波フィルタ1500は、V字形がX軸方向に連続する略波状に形成されている。
折曲面1501には、電磁波の入射方向と直交する方向に沿って所定の幅Wおよび長さLを有するスロット1502が開口形成されている。すなわち、スロット1502は、アンテナ150の偏波方向(長さ方向、Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)に開口されている。
スロット1502の幅Wは、電波を透過させる微小な幅(例えば2mm)程度である。スロット1502の長さLは、例えば、電波(電磁波)の波長λに対し、L=λa/2の関係を有する(例えば、25mm)。ここでλaは、基板による波長短縮効果やその他の微調整を考慮した波長を意味する。このスロット1502は、折曲面1501のY軸方向に所定間隔(例えば、25mm)を有して複数形成されている。
図16は、実施の形態2にかかる電磁波制御装置を説明する図である。図16(a)の上面図に示すように、電磁波制御装置は、中央にルータやAPが配置され、これらルータやAPの送信機のアンテナ150の前面に所定距離(例えば、21.7mm)離して電磁波フィルタ150を配置する。またアンテナ150の背面には実施の形態1で説明した反射板100を所定距離(例えば、上記20.5mm)離して配置する。
反射板100は、実施の形態1で説明した各種形状のものを用いることができるが、図16では、2個の突起部110が所定間隔を有して配置されているものを示した。アンテナ150から放射された電波(電磁波)は、反射板100で反射され、電磁波フィルタ150を介して前面側(Z軸方向)に放射される。
電磁波フィルタ1500は、波型に形成されており、正面方向(X軸方向)から入射される波長λa/2の電波(電磁波)については、スロット1502はLsinθで傾いた状態で位置することとなり、電磁波を反射させる割合が大きくなる。これにより透過(pass)させる割合が小さくなり、入力される電磁波のパワーを多く減衰させる。
また、電磁波の入射角度がX軸方向に対しθ(30°)、すなわち電磁波の波長λa/2に対し、電磁波フィルタ1500のスロット1502の長さLがほぼ同じ大きさで斜め方向から電磁波が入射する場合を考える。この場合、スロット1502の長さLがほぼ同じ大きさで位置することとなる。この場合、電磁波を反射(ref.)させる割合が小さくなり、これにより透過(pass)させる割合が大きくなり、入力される電磁波のパワーを多く通過させる。
さらに、X軸方向に対し電磁波の入射角度θが、さらにX軸方向に傾いている場合(例えば、15°程度)、電磁波フィルタ1500は、斜め方向から入射する電磁波を反射(ref.)させる割合が大きくなる。これにより透過(pass)させる割合が小さくなり、入力される電磁波のパワーを多く減衰させる。
このように、電磁波フィルタ1500は、正面方向(X軸に対し90°)から入射される電磁波に対し反射の割合が高い。また、所定角度(例えばX軸に対しθ=30°)から入射される電磁波に対し透過の割合が高い。さらに、角度が斜めの場合(例えばX軸に対しθ=15°)から入射される電磁波に対しては反射の割合が高い。
図16(b)は、実施の形態2に示すアンテナ150に反射板100および電磁波フィルタ1500を加えたSパラメータ特性であり、中心周波数は5.65GHzとなっている(アンテナ150単体は5.4GHzの中心周波数)。
図17は、実施の形態2にかかる空間電磁界制御システムの構成例を示す分解斜視図である。図17に示すように、実施の形態2の空間電磁界制御システム1000は、送信機(AP)1010と、反射板100と、電磁波フィルタ1500と、カバー1020を含む。カバー1020内に反射板100とAP1010と電磁波フィルタ1500を収容した状態で、カバー1020を所望する天井や壁1030の設置個所にボルト1021を介して簡単に取り付けることができる。
この空間電磁界制御システム1000は、汎用のAP1010と、上述した反射板100と電磁波フィルタ1500とをカバー1020に収容して構成でき、簡単かつ低コストに製造できる。そして、所望の設置個所にカバー1020を取り付けることで、AP1010が放射する電波を、所定の通信エリアC内に位置する端末(MS)170との間でのみ通信することができるようになる。
このように、実施の形態2の電磁波制御装置として、反射板100に加え、電磁波フィルタ1500を設けた構成によれば、実施の形態1(図1参照)同様に、通信エリアCでは、ほぼ一定な強度の電波を受信できる。加えて、通信不能エリアXでは、急激に強度が低下し、通信できない状態となる。これにより、実施の形態2の電磁波制御装置の構成によっても、通信エリアC内にユーザの端末(MS)170が位置しているときには、一定な電波強度で電波を受信できる。また、通信不能エリアX内にユーザの端末(MS)170が位置しているときには、受信電波の強度が急激に弱まり、受信できなくなるようにすることができる。すなわち、実施の形態2の電磁波制御装置は、汎用のAP(アンテナ150)から放射された電波を所定の通信エリアC内でのみ一定な電波強度となるように放射(透過)できる。そして、実施の形態2においても、所望する通信エリアCによる電波の閉空間を構築できるようになる。
以上説明した実施の形態2の電磁波制御装置は、アンテナの背面に突起部を有する反射板を設け、アンテナの前面に電磁波フィルタを設けてなる。この実施の形態2によっても、電波の電界分布を制御し、所定の通信エリア内をほぼ一定な電界にすることができる。また、通信エリア外で急激に電界を弱くする。これにより、所望する通信エリアによる電波の閉空間を構築できるようになる。
また、実施の形態2の空間電磁界制御システムは、汎用のAPと、反射板と、電磁波フィルタとをカバーに収容して構成でき、簡単かつ低コストに製造できる。そして、所望の設置個所にカバーを取り付けることで、APのアンテナが放射する電波を、所定の通信エリア内に位置する端末との間でのみ通信することができるようになる。
このように、実施の形態2によれば、電磁波制御装置を汎用の無線ルータやAPと組み合わせることで、通信エリア外への電波の漏れを簡単な構成で防ぐことができ、また、セキュリティ性を向上できるようになる。実施の形態2の電磁波制御装置は、突起部を有する反射板と、電磁波フィルタからなり、反射板を汎用の無線ルータやAPの背面に設置し、電磁波フィルタを無線ルータやAPの前面に配置するだけで、所望する通信エリアによる電波の閉空間を構築できる。なお、無線ルータやAPからアンテナだけを引き出して配置し、このアンテナの背面に反射板を配置し、前面に電磁波フィルタを配置しても同様の作用効果を得ることができる。そして、実施の形態2によれば、無線ルータやAP毎の通信エリア外への電波の漏れを簡単な構成で防ぐことができるため、セキュリティ性を向上できるようになる。例えば、異なる無線通信システムの端末やセンサが互いに干渉しないよう通信エリアを分けて配置できるようになる。
以上説明した各実施の形態の電磁波制御装置は、アンテナが放射する電波の電界分布を制御する。電磁波制御装置は、例えば、無指向性のアンテナの背面に配置された反射板に突起部を設けて構成できる。この反射板は、導電体からなり、アンテナの背面にアンテナから所定の距離を隔てて配置され、電磁波の放射パターンを変化させる一つまたは複数の突起部を有する。この電磁波制御装置は、所定の通信エリア内を一定な電界とし、通信エリア外で急激に電界を弱くする。これにより、所望する通信エリアによる電波の閉空間を構築できるようになる。
また、アンテナは、所定長を有するダイポールアンテナであり、突起部は、反射板の前面に向けてアンテナの長さ方向に沿って所定長さで突出し、アンテナの長さ方向と直交する方向に沿って複数設けられる。また突起部は、アンテナと反射板との距離に応じた突出量と形状を有する。これにより、アンテナが放射する電磁波のうち、正面方向に向かう電磁波同士で電磁波の強さを弱め、斜め方向に向かう電磁波同士で電磁波を強め、通信エリアをアンテナ側から見た平面で略矩形状にすることができる。
また、突起部は、アンテナの長さ方向と直交する方向に所定間隔を有して複数設けられる。これにより、通信エリアをより略矩形状にすることができる。
また、突起部は、反射板の背面に向けてアンテナの長さ方向に沿って所定長さで突出して設けられ、アンテナと反射板との距離に応じた突出量と形状を有する。これにより、アンテナが放射する電磁波のうち、正面方向の電磁波を弱め、斜め方向の電磁波を強め、通信エリアを略矩形状にすることができる。
また、突起部は、反射板の面に対し60度の傾斜角度を有して突出して設けることができる。これにより、アンテナが放射する電磁波に対し、正面方向の電磁波を弱め、斜め方向の電磁波を強め、通信エリアを略矩形状にすることができる。
また、反射板は、通信エリアの大きさに応じた所定の幅および長さを有する。これにより、通信エリアの大きさに対応してこの通信エリアを略矩形状にすることができる。
また、アンテナの前面に所定距離を隔てて設けられ、導電体からなり、複数の折曲面と、折曲面に開口形成されたスロットとを有し、所定の通信エリア内をほぼ一定な電界とし、通信エリア外で急激に電界を弱くする電磁波フィルタを配置してもよい。これにより、アンテナの背面に配置した反射板と、アンテナの正面に配置した電磁波フィルタによって、アンテナが放射する電磁波のうち、正面方向の電磁波を弱め、斜め方向の電磁波を強め、通信エリアを略矩形状にすることができる。そして、所望する通信エリアによる電波の閉空間を構築できるようになる。
また、電磁波フィルタの折曲面は、前面に対し所定の角度をなし、スロットは、アンテナの偏波方向と直交する方向に所定の長さで開口され、長さは、電波の波長のおよそ1/2としてもよい。折曲面の角度は、例えば、通信エリア内の電界分布と電界強度に基づく所定角度にしてもよい。これにより、例えば、略矩形状の通信エリアを構築できるようになる。ここで、所定角度を有する折曲面のスロットに対し正面に位置するアンテナから入射した電波は、透過率が小さく、反射率が大きくなる。さらに、所定角度を有する部分の折曲面のスロットは、アンテナから斜めに入射される電波の透過率が大きく、反射率は小さい。アンテナからさらに斜めに入射される電波は透過率が小さく、反射率が大きくなる。これにより、固定位置のアンテナから出射される電波が各スロット別に異なる角度で透過あるいは反射して各スロット部分を透過後の電波の強さを制御でき、矩形状等の所望する形状の通信エリアを構築できるようになる。
上記電磁波制御装置は、汎用の無線ルータやAP、および端末と組み合わせて、空間電磁界制御システムを構成できる。アクセスポイントは、無指向性のアンテナを備えて通信エリアに位置する端末との間で電波を送受信する。例えば、上記の突起部を有する反射板を設けることで、突起部がアンテナの電磁波をアンテナの背面側において、アンテナの正面方向の電磁波を弱め、かつ、アンテナの斜め方向の電磁波を強める。これにより、アンテナが放射する同心円状の電磁波の放射パターンを、アンテナから所定距離離れた所定の通信エリアで矩形状に変更する。端末は、矩形状の通信エリア内に位置している間のみ、アクセスポイントと通信可能になる。加えて、矩形状の通信エリアから外れると端末は、直ちにアクセスポイントと通信不能となる。
また、空間電磁界制御システムは、上記の電磁波制御装置である反射板、あるいは反射板および電磁波フィルタ、アンテナを備えたアクセスポイントと、アクセスポイントおよび電磁波制御装置を収容するカバーで構成できる。カバーは、所定の通信エリアを構築する箇所に簡単に取り付けることができる。
また、アンテナ毎の矩形状の複数の通信エリアの境界を隣接、または境界間に所定の間隔を有して配置することで、各通信エリアに位置する端末は、位置している通信エリアのアクセスポイントのみと通信を行うことができる。各通信エリアは隣接する通信エリアに対して干渉しないため、通信エリアごとに異なる暗号化等の手段を不要にしてもセキュリティを維持できる。矩形状の通信エリアは、境界が直線状であり、異なる通信エリアが重合することなく密に隣接配置できる。
100 反射板
110 突起部(凸状)
120 突起部(凹状)
150 アンテナ(ダイポールアンテナ)
170 端末
1000 空間電磁界制御システム
1010 AP(アクセスポイント)
1020 カバー
1101,1201 CPU
1102,1202 RAM
1103,1203 RF−フロントエンド
1104,1204 信号処理部
1500 電磁波フィルタ
1502 スロット
C 通信エリア
X 通信不能エリア
本発明は、電磁波を制御する電磁波制御装置および空間電磁界制御システムに関する。
無線ルータやアクセスポイント(AP)の設置により端末等が無線通信できる。IoT(Internet Of Things)技術を用いたセンサや端末は、異なる無線通信システムが同じエリアに混在して配置されることがある。例えば、2.4GHz帯や5GHz帯の通信周波数のWiFi(登録商標)は、工場、病院、飲食店等で用いられ、混在した環境においても、各通信システム別に無線通信システムの構築の容易性や、セキュリティの確保が求められている。
無線ルータやAPに主に用いられるダイポールアンテナは、通信エリアに向かって電波が円状に広がるため、所望するエリア外に余分な電波の漏れや、隣接するAPの電波や壁、金属面からの反射波との干渉により、電波が弱くなるヌルスポットが生じている。
従来技術として、アンテナから放射された空間の電磁界を制御する電磁波制御装置がある。例えば、アンテナの放射方向上に複数のスリットを有する金属スリット板を配置し、サイドローブの反射波を低減した車載用レーダの技術がある(例えば、下記特許文献1参照。)。また、一次放射器のV,H偏波を、スリットを有する反射器によりスリットに直交する偏波のみ通過させてビーム幅を可変する技術がある(例えば、下記特許文献2参照。)。また、放射素子の小反射板を、間隙を空けて複数配置し、小反射板の交換が容易で大きな反射板のアンテナと等価にした技術がある(例えば、下記特許文献3参照。)。また、基板上にミリ波用の多数のアンテナの開口面を大きくアレイ化して配置することでビームを絞り、ゲート等の所定エリアで一定の電界値(フレネルゾーン)を形成する技術がある(例えば、下記非特許文献1参照。)。
特開2006−029834号公報
特開平11−214920号公報
特開昭63−026006号公報
Miao Zhang、外5名、「A 60−GHz Band Compact−Range Gigabit Wireless Access System Using Large Array Antennas」、IEEE TRANSACTIONS ON ANTENNAS AND PROPAGATION,VOL.63,NO.8、Aug.2015
しかしながら、上記従来の技術では、汎用の無線ルータやAPを用いた無線通信において、所望の通信エリア単位で電波の閉空間を構築することができなかった。特許文献1,2のようにアンテナ前方にスリットを有する金属板(反射器)を配置しただけでは偏波制御しか行えず電波のエリア制御が行えない。また、特許文献3、非特許文献1は、アレイ化した反射板を用いる必要がある。加えて、汎用の無線ルータやAPが放射する電波を用いることができない。
一つの側面では、本発明は、所望の通信エリア単位で電波の閉空間を構築できることを目的とする。
一つの案では、電磁波制御装置は、無指向性のアンテナが放射する電磁波の電界分布を制御する電磁波制御装置であって、導電体からなり、アンテナの背面に前記アンテナから所定の距離を隔てて配置され、前記電磁波の放射パターンを変化させる一つまたは複数の突起部を有し、所定の通信エリア内を一定な電界とし、前記通信エリア外で電界を弱くする反射板を有する、ことを要件とする。
一つの実施形態によれば、所望の通信エリア単位で電波の閉空間を構築できるという効果を奏する。
図1は、実施の形態1にかかる電磁波制御装置による通信エリアの説明図である。
図2は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を密に配置した特性例を説明する図である。(その1)
図3は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を密に配置した特性例を説明する図である。(その2〉
図4は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。(その1)
図5は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。(その2)
図6は、実施の形態1にかかる反射板として1個の凹状の突起部を配置した特性例を説明する図である。(その1)
図7は、実施の形態1にかかる反射板として1個の凹状の突起部を配置した特性例を説明する図である。(その2)
図8は、実施の形態1にかかる反射板として複数の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。(その1)
図9は、実施の形態1にかかる反射板として複数の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。(その2)
図10Aは、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの構成例を示す図である。(その1)
図10Bは、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの構成例を示す図である。(その2)
図11は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの送信機のハードウェア構成例を示す図である。
図12は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの端末のハードウェア構成例を示す図である。
図13は、実施の形態1にかかる電磁界制御装置により構築される電波の閉空間を説明する図である。
図14は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの適用例を示す図である。
図15は、実施の形態2にかかる電磁波制御装置の電磁波フィルタを示す斜視図である。
図16は、実施の形態2にかかる電磁波制御装置を説明する図である。
図17は、実施の形態2にかかる空間電磁界制御システムの構成例を示す分解斜視図である。
(実施の形態)
以下、本発明の電磁波制御装置および空間電磁界制御システムの実施の形態を説明する。実施の形態にかかる電磁波制御装置は、無線通信のルータやアクセスポイント(AP)からなる送信器のアンテナが出射する電波を特定の通信エリアに閉じ込める。アンテナは、無指向性の線状アンテナであり、例えば、ダイポールアンテナである。電磁波制御装置は、通信エリア内ではほぼ一定な電波強度(電界)とし、通信エリア外では急激に電波強度(電界)が弱くなるように電磁波を制御することで、所望の通信エリア単位で電波の閉空間を構築する。
(実施の形態1)
図1は、実施の形態1にかかる電磁波制御装置による通信エリアの説明図である。実施の形態1で説明する電磁波制御装置は、反射板100である。反射板100は、APのアンテナ150から所定距離離れた位置に配置される。
図1は、ある部屋を横から見た側面図であり、この場合、天井等に反射板100が設置され、反射板100から所定距離離れた下方(Z軸方向)にアンテナ150が配置される。アンテナ150の長さは通信周波数の半波長(λ/2)である。また、反射板100は、アンテナ150の長さ方向(Y軸方向)に沿った幅が通信波長の1波長(λ)程度である。反射板100が有する長さ(X軸方向)と幅(Y軸方向)は、構築する通信エリアの大きさに応じた長さおよび幅を有する。
図1には、空間電磁界制御システムの各構成が示されている。空間電磁界制御システムは、反射板100と、無線電波を送信する送信機と、特定の通信エリア内に位置したときに送信機が送信する電波を受信する受信機とを含む。送信機は、ルータやアクセスポイント(AP)であり、アンテナ150を備える。ここで、アンテナ150の配置位置には、アンテナ150を内蔵したAPの装置(筐体)、あるいはAPから引き出したアンテナ150だけを配置してもよい。受信機は、特定の通信エリアに移動自在なユーザが保持するスマートフォン、携帯型パーソナルコンピュータ(PC)等の端末(MS)170である。
反射板100は、長さ(X軸方向)および幅(Y軸方向)にそれぞれ所定の大きさを有する板状のものである。反射板100は、例えば、銅、アルミニウム、鉄等の導電体の金属板のほか、例えば、ガラスエポキシ等の誘電体基材(例えば、厚さ1mm)の高周波基板の片面または両面に銅等の金属層(例えば厚さ18ミクロン)を設けたものを用いることができる。
実施の形態1では、反射板100には、アンテナ150側に向いた面に複数の突起部110を設ける。突起部110は、反射板100の面に対し凸あるいは凹状に形成されている。図1の例では、突起部110は、アンテナ150側に対し反射板100から3角形状の凸部が突出して形成されている。複数の突起部110の寸法や間隔は後述する。突起部110は、平面状の反射板100に接着するなどして容易に製造することができる。また、反射板100の一部を折り曲げることで突起部110を容易に形成することもできる。
アンテナ150は、図1の奥行方向(Y方向)に向けて所定長さ(偏波方向)を有する汎用のダイポールアンテナである。
そして、突起部110を設けた反射板100をAPのアンテナ150の背面に配置することにより、部屋内に通信エリアCと、通信不能エリアXを形成できる。図1の例では、アンテナ150を反射板100の複数(2個)の突起部110の中心位置上に設ける。通信エリアCは、アンテナ150の正面に近い所定エリアであり、通信不能エリアXは、通信エリアCの周囲のエリアであり、通信エリアCよりアンテナ150から遠いエリアである。
ここで、アンテナ150は、全方向に向けて電波を放射する。図1のように、反射板100は、アンテナ150が放射する電波のうち、2個の突起部110の間の電波E1に対しては、横方向(例えば、X軸方向)の逆相成分を相殺し、正面(Z軸方向)に対する電波は電界強度を弱める。
また、反射板100は、アンテナ150が放射する電波のうち、2個の突起部110それぞれの外方(X軸方向で突起部110より外側)の電波E2に対しては、同じ方向に向く電波の同相成分を強め合わせる。
これにより、端末170は、通信エリアCでは、ほぼ一定な強度の電波を受信できる。また、通信不能エリアXでは、急激に強度が低下し、通信できないエリアとなる。そして、突起部110を設けた反射板100は、背面側への無駄な電波の放射を低減させる。このような実施の形態1の電磁波制御装置(反射板100)によれば、通信エリアC内にユーザの端末(MS)170が位置しているときには、端末170は、一定な電波強度でアンテナ150の電波を受信できる。
また、通信不能エリアX内にユーザの端末(MS)170が位置しているときには、端末170は、受信電波の強度が急激に弱まり、アンテナ150からの電波を受信できなくなるようにすることができる。すなわち、実施の形態1の電磁波制御装置(反射板100)は、汎用のAP(アンテナ150)から放射された電波を所定の通信エリアC内でのみ一定な電波強度にし、AP(アンテナ150)単位で所望する通信エリアCによる電波の閉空間を構築する。
次に、図2〜図9を用いて、反射板100上に各種の突起部110を設けた際の特性例について説明する。以下の説明では、電磁界シミュレータを使用して、アンテナ150の背面に各種の突起部110毎の反射板100を設けた場合の電波の電界状態(放射パターン)を説明する。
図2および図3は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を密に配置した特性例を説明する図である。図2(a)は反射板100の上面図である。図示の例では、反射板100上に2個の突起部110を互いの配置間隔(ギャップ)を無くして密に設けている。反射板100は、長さ(X軸方向)が222.2mm、幅(Y軸方向)が55.6mm(不図示)である。突起部110は、3辺が60度の傾斜を有する正三角形であり、反射板100の面から突起部110の高さ(突出量)は12.3mm、隣接する一対の突起部110の頂点間の距離は14.2mmである。これら突起部110の突出量、頂点間の距離、アンテナ150との距離は、それぞれ通信波長λを基準に設定される。
アンテナ150は、中央の隣接する2つの突起部110間の中心位置において、突起部110の頂点からZ軸方向に所定距離(20.5mm)離れた位置に配置している。アンテナ150は、所定長さ(24.6mm)の長さ方向をY軸方向に沿って設け、φ1mmの直径を有する(不図示)。
そして、アンテナ150から放射される電波の中心周波数f0=5.4GHz(波長λ≒55.56mm)である。図2(b)は、ダイポールアンテナであるアンテナ150単体のSパラメータ特性であり、5.4GHzの中心周波数を有している。これに対し、図2(c)は、アンテナ150に反射板100を加えたSパラメータ特性であり、中心周波数は5.5GHzとなっている。
そして、図3に示す電波の電界状態(放射パターン)のシミュレーションでは、表示範囲を20dBとした。この場合、正面側(Z軸方向)で弱まり、左斜め下側P1、および右斜め下側P2の電界強度が強くなっており(最大7.7dBiのゲイン)、アンテナ側から見た平面で矩形に近い放射パターンが得られる。図3に示す放射パターンは、図1に示したような一定な電波強度の通信エリアCとし、かつ、通信エリアCに隣接する外側では急激に受信電力を弱める通信不能エリアXの形成に有効となる。
図4および図5は、実施の形態1にかかる反射板として2個の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。図4(a)は反射板100の上面図、図4(b)は斜視図である。この例では、反射板100上に2個の突起部110を互いの配置間隔(ギャップ)を有して設けている。反射板100は、長さ(X軸方向)が222.2mm、幅(Y軸方向)が55.6mmである。突起部110は、3辺が60度の傾斜を有する正三角形であり、反射板100の面から突起部110の高さ(突出量)は12.3mm、隣接する一対の突起部110の頂点間の距離は31.6mmである。
アンテナ150は、中央の隣接する2つの突起部110間の中心位置において、突起部110の頂点からZ軸方向に所定距離(20.5mm)離れた位置に配置している。アンテナ150は、所定長さ(24.6mm)の長さ方向をY軸方向に沿って設け、φ1mmの直径を有する。ここで、アンテナ150のY軸方向の長さは通信周波数の半波長(λ/2)である。また、反射板100のY軸方向の幅は、通信波長の1波長(λ)程度である。
そして、アンテナ150から放射される電波の中心周波数f0=5.4GHz(波長λ≒55.56mm)である。図5に示す電波の電界状態(放射パターン)のシミュレーションでは、表示範囲を20dBとした。この場合、正面側(Z軸方向)で弱まり、左斜め下側P1、および右斜め下側P2の電界強度が強くなっており(最大6.8dBiのゲイン)、矩形に近い放射パターンが得られる。図5に示す放射パターンは、図3と比較してP1,P2の上部位置のX1,X2がより外方に広がった形であり、矩形に近い形となっている。図5に示す放射パターンによれば、図2,図3の構成例よりもさらに、図1に示したような通信エリアC内で一定な電波強度とすることができる。また、通信エリアCに隣接する外側では急激に受信電力をさらに弱める通信不能エリアXを形成できる。
図6および図7は、実施の形態1にかかる反射板として1個の凹状の突起部を配置した特性例を説明する図である。図6(a)は反射板100の上面図、図6(b)は斜視図である。この例では、反射板100上に1個の凹状の突起部120を設けている。反射板100は、長さ(X軸方向)が222.2mm、幅(Y軸方向)が55.6mmである。突起部120は、反射板100の一部を背面側(Z軸方向)に折り曲げて形成している。折り曲げ部分は、反射板100の面に対して角度θ(例えば60°)を有し、反射板100の面と平行な凹部が長さ方向(X軸方向)に17.4mm形成されている。反射板100の面から突起部110の凹み量は12.3mmである。
アンテナ150は、1つの突起部110間の中心位置において反射板100の面からZ軸方向に所定距離(21.5mm)離れた位置に配置している。アンテナ150は、所定長さ(24.6mm)をY軸方向に沿って設け、φ1mmの直径を有する。
そして、アンテナ150から放射される電波の中心周波数f0=5.4GHz(波長λ≒55.56mm)である。図6(c)は、アンテナ150に反射板100を加えたSパラメータ特性であり、中心周波数は5.7GHzとなっている。
また、図7に示す電波の電界状態(放射パターン)のシミュレーションでは、表示範囲を20dBとした。この場合、正面側(Z軸方向)で弱まり、左斜め下側P1、および右斜め下側P2の電界強度が強くなっており(最大6.3dBiのゲイン)、矩形に近い放射パターンが得られる。図7に示す放射パターンは、図5と比較してP1,P2の上部位置のX1,X2がより外方に広がった形であり、さらに矩形に近い形となっている。図7に示す放射パターンによれば、図4,図5の構成例よりもさらに、図1に示したような通信エリアC内で一定な電波強度とすることができる。また、通信エリアCに隣接する外側では急激に受信電力をさらに弱める通信不能エリアXを形成できる。
図8および図9は、実施の形態1にかかる反射板として複数の突起部を所定間隔で配置した特性例を説明する図である。図8(a)は反射板100の上面図、図8(b)は正面図、図8(c)は斜視図である。この例では、反射板100上に複数個(6個)の突起部110を互いの配置間隔(ギャップ)を有して設けている。反射板100は、長さ(X軸方向)が222.2mm、幅(Y軸方向)が55.6mmである。突起部110は、3辺が60度の傾斜を有する正三角形であり、反射板100の面から突起部110の高さ(突出量)は12.3mm、隣接する一対の突起部110の頂点間の距離は31.6mmである。
アンテナ150は、中央の隣接する2つの突起部110間の中心位置において反射板100の面からZ軸方向に所定距離(28.8mm)離れた位置に配置している。アンテナ150は、所定長さ(24.6mm)の長さ方向をY軸方向に沿って設け、φ1mmの直径を有する。
そして、アンテナ150から放射される電波の中心周波数f0=5.4GHz(波長λ≒55.56mm)である。図9(a)は、アンテナ150に反射板100を加えたSパラメータ特性であり、中心周波数は5.6GHzとなっている。
図9(b)に示す電波の電界状態(放射パターン)のシミュレーションでは、表示範囲を20dBとした。この場合、正面側(Z軸方向)で弱まり、左斜め下側P1、および右斜め下側P2の電界強度が強くなっており(最大6.93dBiのゲイン)、矩形に近い放射パターンが得られる。図9(b)に示す放射パターンは、図5と比較してP1,P2の上部位置のX1,X2がより外方に広がった形であり、矩形に近い形となっている。図9(b)に示す放射パターンによれば、図4,図5の構成例よりもさらに、図1に示したような通信エリアC内で一定な電波強度とすることができる。また、通信エリアCに隣接する外側では急激に受信電力をさらに弱める通信不能エリアXを形成できる。
図10A,図10Bは、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの構成例を示す図である。図10Aは空間電磁界制御システム1000の分解斜視図、図10Bは取り付け状態を示す斜視図である。
図10Aに示すように、空間電磁界制御システム1000は、送信機(AP)1010と、反射板100と、カバー1020を含む。AP1010は、アンテナ150からλ/4の縦偏波の電波を放射する。反射板100は、上述したように、AP1010(アンテナ150)の背面に所定距離離して配置され、カバー1020内に収容される。カバー1020は、電波を透過させる材質、例えば、ABS樹脂により反射板100とAP1010を覆うボックス形状に成形される。なお、実施の形態1では、AP1010を送信機として説明しているが、AP1010は、端末170との間でデータを送受信し、受信機の機能も有している。
そして、図10Bに示すように、カバー1020内に反射板100とAP1010を収容した状態で、カバー1020を所望する天井や壁1030の設置個所にボルト1021を介して簡単に取り付けることができる。
この空間電磁界制御システム1000は、汎用のAP1010と、上述した反射板100をカバー1020に収容して構成でき、簡単かつ低コストに製造できる。そして、所望の設置個所にカバー1020を取り付けることで、AP1010が放射する電波を、所定の通信エリアC内に位置する端末(MS)170との間でのみ通信することができるようになる。
図11は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの送信機のハードウェア構成例を示す図である。送信機(AP)1010は、汎用のハードウェア構成であり、CPU1101、RAM1102、RF−フロントエンド1103、信号処理部1104、操作部インタフェース(IF)1105、LANポート1106、電源ポート1107、アンテナ150を含む。
CPU1101は、ROMやRAM1102等に格納された制御プログラムを実行し、AP1010の全体を制御し、この際、RAM1102を作業領域として使用する。RF−フロントエンド1103は、信号処理部1104の無線送受信にかかる制御により、データをアンテナ150を介して送受信する。操作部インタフェース(IF)1105は、ユーザによる操作設定を行うためのインタフェースである。送受信するデータは、LANポート1106を介して入出力される。AP1010は、電源ポート1107から供給される電源に基づき動作する。
図12は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの端末のハードウェア構成例を示す図である。端末(MS)170は、CPU1201、RAM1202、RF−フロントエンド1203、信号処理部1204、操作部インタフェース(IF)1205を含む。さらに、センサ1206、スピーカ1207、マイク1208、カメラ1209、キーボード1210、ディスプレイ1211、パワーソース1212、アンテナ1213を含む。端末(MS)170は、例えば、スマートフォン等の汎用の各ハードウェア構成を有する。
CPU1201は、ROMやRAM1202等に格納された制御プログラムを実行し、端末(MS)170の全体を制御し、この際、RAM1202を作業領域として使用する。RF−フロントエンド1203は、信号処理部1204の無線送受信にかかる制御により、データをアンテナ1213を介して送受信する。操作部インタフェース(IF)1205は、ユーザによる操作設定を行うためのインタフェースである。
端末(MS)170は、CPU1201の制御により、センサ1206やマイク1208、カメラ1209、キーボード1210から入力されたデータを送信し、受信したデータをディスプレイ1211に表示する。端末(MS)170は、例えば、内蔵バッテリ等のパワーソース1212から供給される電源に基づき動作する。図12の例では、端末170としてスマートフォン等の構成例を説明したが、端末170としては、IoTセンサ等のセンサ、CPU、メモリ、RFID等を含む簡素なものも含む。
図13は、実施の形態1にかかる電磁界制御装置により構築される電波の閉空間を説明する図である。図13(a)は、従来の通信エリアを示す平面図である。例えば、室内の天井にAPのアンテナ150を配置したときフロア部分での通信エリアをAP側からみた図に相当する。従来は、AP(アンテナ150)毎にアンテナ150を中心として同心円状の通信エリアC1〜C4が形成されている。そして、従来は、大きな通信エリアを構築するためには、複数の通信エリアC1〜C4の一部を重ねており、重合エリアD1〜D4が形成されている。
このような従来の同心円状の通信エリアC1〜C4では、重合エリアD1〜D4でそれぞれ電波が干渉する問題を有している。例えば、通信エリアC1内には、隣接する他の通信エリアC2,C4との間で重合エリアD1,D4を有するため、この重合エリアD1,D4でのAP(アンテナ150)と端末170との間の通信データのセキュリティを確保できない。従来は、例えば、AP(アンテナ150)と端末170との間で特別な暗号化等のセキュリティ対策が必要であった。
図13(b)および図13(c)は、実施の形態1にかかる通信エリアを示す平面図である。実施の形態1によれば、図13(b)に示すように、AP(アンテナ150)毎にアンテナ150を中心としてアンテナ側から見た平面で矩形状の通信エリアC1〜C4を形成することができる。
矩形状の通信エリアC1〜C4は、境界が直線状であり、異なる通信エリアが重合することなく密に隣接させて配置できる。また、各通信エリアC1〜C4が平面でみて矩形状であるため、複数の通信エリアC1〜C4で大きな通信エリアを構築する場合、隣接する通信エリアC同士の境界の直線部分を接して構築できるようになる。そして、通信エリアC1〜C4を重ねることなく、AP(アンテナ150)毎に個別の通信エリアC1〜C4を構築することができる。
また、実施の形態1によれば、図13(c)に示すように、複数の通信エリアC1〜C4の一部を重ねた場合でも、重合エリアD1〜D4の大きさを極力小さくすることができ、干渉が発生する重合エリアD1〜D4をできるだけ小さくできる。また、不図示であるが、隣接する通信エリアC同士の境界を所定距離離して、それぞれが独立した通信エリアを構築することもできる。
図14は、実施の形態1にかかる空間電磁界制御システムの適用例を示す図である。実施の形態1の空間電磁界制御システム1000は、例えば、下記1.〜3.に適用できる。
1.隣接する所望の通信エリア毎に電波的な閉空間を構築することができる。
2.所望エリア外へ不要放射を防ぎ、公共の場での傍受リスクを低減できる。
3.電磁波が懸念される空間への無線環境の提供が行える。
上記1.については、例えば、図14(a)に示すように、工場の各製造ライン(レーン)L1〜L3毎に、レーンL1〜L3上で搬送されるIoTセンサ(端末170に相当)を搭載した部品や資材の管理を行うことができる。
レーンL1〜L3毎に上述した空間電磁界制御システム1000(AP1010と反射板100を収容するカバー1020)を配置する。これにより、レーンL1〜L3でそれぞれ独立した通信エリアC1〜C3を構築できる。例えば、レーンL1上で搬送されるIoTセンサ(端末170に相当)は、通信エリアC1に位置した際にレーンL1上のAP1010と通信を行うことができる。この際、IoTセンサ(端末170に相当)は、他のレーンL2,L3のAP1010の通信エリアC2,C3には位置しておらず、これら他のレーンL2,L3のAP1010とは通信を行わない。レーンL1の通信エリアC1内での電波は、隣接する他のレーンL2,L3の通信エリアC2,C3に漏れないため、レーンL1でのAP1010とIoTセンサ(端末170に相当)との間の通信データのセキュリティを確保できる。さらに、特別な暗号化等のセキュリティ対策も不要にできる。
また、レーンへの適用例に限らず、展示場や水族館等での隣接する各ブース毎の情報提供、同一事務所内で隣接する異部門(机の島)でのセキュリティ確保にも適用できる。また、同一ビル内で隣接する異店舗でのセキュリティ確保、展示会やフェスタの混雑した入場ゲートでチェック対象者だけの読取管理、にも適用できる。
上記2.については、例えば、駅や空港の待合室、電車や航空機のシート、飲食店等の座席に適用することができる。例えば、図14(b)に示すように、電車の各シートN1〜N3毎に天井あるいは床面に、上述した空間電磁界制御システム1000(AP1010と反射板100を収容する図10Bのカバー1020)を配置する。これにより、シートN1〜N3でそれぞれ独立した通信エリアC1〜C3を構築できる。そして、シートN1の通信エリアC1内での電波は、隣接する他のシートN2,N3の通信エリアC2,C3に漏れないため、シートN1でのAP1010とユーザの端末170(MS)との間の通信データのセキュリティを確保できる。さらに、特別な暗号化等のセキュリティ対策も不要にできる。
上記3.については、例えば、病院やサーバルーム等に適用できる。実施の形態によれば、所定のエリアのみ通信エリアCを構築できるため、病院内の診療用の機器や、サーバに対して不要な電磁波を与えない。すなわち、実施の形態によれば、病院やサーバルーム内においても、電波を閉じ込めた通信エリアCを構築することができる。
以上説明した実施の形態1の電磁波制御装置は、アンテナの背面の反射板に突起部を設けることで電波の電界分布を制御し、所定の通信エリア内をほぼ一定な電界にする。また、通信エリア外で急激に電界を弱くする。これにより、所望する通信エリアCによる電波の閉空間を構築できるようになる。
また、空間電磁界制御システムは、汎用のAPと、上述した反射板をカバーに収容して構成でき、簡単かつ低コストに製造できる。そして、所望の設置個所にカバーを取り付けることで、APのアンテナが放射する電波を、所定の通信エリア内に位置する端末(MS)との間でのみ通信することができるようになる。
このように、実施の形態1によれば、電磁波制御装置を汎用の無線ルータやAPと組み合わせることで、通信エリア外への電波の漏れを簡単な構成で防ぐことができ、また、セキュリティ性を向上できるようになる。実施の形態1の電磁波制御装置は、突起部を有する反射板であり、この反射板を汎用の無線ルータやAPの背面に設置するだけで、所望する通信エリアによる電波の閉空間を構築できる。なお、無線ルータやAPからアンテナだけを引き出して配置し、このアンテナの背面に反射板を配置しても同様の作用効果を得ることができる。そして、実施の形態1によれば、無線ルータやAP毎の通信エリア外への電波の漏れを簡単な構成で防ぐことができるため、セキュリティ性を向上できるようになる。例えば、異なる無線通信システムの端末やセンサが互いに干渉しないよう通信エリアを分けて配置できるようになる。
(実施の形態2)
実施の形態2では、電磁波制御装置の他の構成例を説明する。実施の形態1で説明した電磁波制御装置は、反射板100を備えた構成とした。実施の形態2の電磁波制御装置では、実施の形態1で説明した反射板100のほかに電磁波フィルタ1500を含む。
図15は、実施の形態2にかかる電磁波制御装置の電磁波フィルタを示す斜視図である。図15に示すように、電磁波フィルタ1500は、金属板等の導電体を折り曲げることで、略波状に形成されている。導電体は、例えば、銅、アルミニウム、鉄等の金属板や、高周波基板(例えば、ガラスエポキシ等の誘電体基材(例えば、厚さ1mm))の片面または両面に設けた銅等の金属層(例えば厚さ18ミクロン)の部分を指す。
図15に示すように、折曲面1501は、長さが27.7mmで、Z軸方向に対する角度θが30度である。折曲面1501は、隣接する折曲面1501との間で略三角形のうち2辺によるV字形を形成し、電磁波フィルタ1500は、V字形がX軸方向に連続する略波状に形成されている。
折曲面1501には、電磁波の入射方向と直交する方向に沿って所定の幅Wおよび長さLを有するスロット1502が開口形成されている。すなわち、スロット1502は、アンテナ150の偏波方向(長さ方向、Y軸方向)と直交する方向(X軸方向)に開口されている。
スロット1502の幅Wは、電波を透過させる微小な幅(例えば2mm)程度である。スロット1502の長さLは、例えば、電波(電磁波)の波長λに対し、L=λa/2の関係を有する(例えば、25mm)。ここでλaは、基板による波長短縮効果やその他の微調整を考慮した波長を意味する。このスロット1502は、折曲面1501のY軸方向に所定間隔(例えば、25mm)を有して複数形成されている。
図16は、実施の形態2にかかる電磁波制御装置を説明する図である。図16(a)の上面図に示すように、電磁波制御装置は、中央にルータやAPが配置され、これらルータやAPの送信機のアンテナ150の前面に所定距離(例えば、21.7mm)離して電磁波フィルタ150を配置する。またアンテナ150の背面には実施の形態1で説明した反射板100を所定距離(例えば、上記20.5mm)離して配置する。
反射板100は、実施の形態1で説明した各種形状のものを用いることができるが、図16では、2個の突起部110が所定間隔を有して配置されているものを示した。アンテナ150から放射された電波(電磁波)は、反射板100で反射され、電磁波フィルタ150を介して前面側(Z軸方向)に放射される。
電磁波フィルタ1500は、波型に形成されており、正面方向(X軸方向)から入射される波長λa/2の電波(電磁波)については、スロット1502はLsinθで傾いた状態で位置することとなり、電磁波を反射させる割合が大きくなる。これにより透過(pass)させる割合が小さくなり、入力される電磁波のパワーを多く減衰させる。
また、電磁波の入射角度がX軸方向に対しθ(30°)、すなわち電磁波の波長λa/2に対し、電磁波フィルタ1500のスロット1502の長さLがほぼ同じ大きさで斜め方向から電磁波が入射する場合を考える。この場合、スロット1502の長さLがほぼ同じ大きさで位置することとなる。この場合、電磁波を反射(ref.)させる割合が小さくなり、これにより透過(pass)させる割合が大きくなり、入力される電磁波のパワーを多く通過させる。
さらに、X軸方向に対し電磁波の入射角度θが、さらにX軸方向に傾いている場合(例えば、15°程度)、電磁波フィルタ1500は、斜め方向から入射する電磁波を反射(ref.)させる割合が大きくなる。これにより透過(pass)させる割合が小さくなり、入力される電磁波のパワーを多く減衰させる。
このように、電磁波フィルタ1500は、正面方向(X軸に対し90°)から入射される電磁波に対し反射の割合が高い。また、所定角度(例えばX軸に対しθ=30°)から入射される電磁波に対し透過の割合が高い。さらに、角度が斜めの場合(例えばX軸に対しθ=15°)から入射される電磁波に対しては反射の割合が高い。
図16(b)は、実施の形態2に示すアンテナ150に反射板100および電磁波フィルタ1500を加えたSパラメータ特性であり、中心周波数は5.65GHzとなっている(アンテナ150単体は5.4GHzの中心周波数)。
図17は、実施の形態2にかかる空間電磁界制御システムの構成例を示す分解斜視図である。図17に示すように、実施の形態2の空間電磁界制御システム1000は、送信機(AP)1010と、反射板100と、電磁波フィルタ1500と、カバー1020を含む。カバー1020内に反射板100とAP1010と電磁波フィルタ1500を収容した状態で、カバー1020を所望する天井や壁1030の設置個所にボルト1021を介して簡単に取り付けることができる。
この空間電磁界制御システム1000は、汎用のAP1010と、上述した反射板100と電磁波フィルタ1500とをカバー1020に収容して構成でき、簡単かつ低コストに製造できる。そして、所望の設置個所にカバー1020を取り付けることで、AP1010が放射する電波を、所定の通信エリアC内に位置する端末(MS)170との間でのみ通信することができるようになる。
このように、実施の形態2の電磁波制御装置として、反射板100に加え、電磁波フィルタ1500を設けた構成によれば、実施の形態1(図1参照)同様に、通信エリアCでは、ほぼ一定な強度の電波を受信できる。加えて、通信不能エリアXでは、急激に強度が低下し、通信できない状態となる。これにより、実施の形態2の電磁波制御装置の構成によっても、通信エリアC内にユーザの端末(MS)170が位置しているときには、一定な電波強度で電波を受信できる。また、通信不能エリアX内にユーザの端末(MS)170が位置しているときには、受信電波の強度が急激に弱まり、受信できなくなるようにすることができる。すなわち、実施の形態2の電磁波制御装置は、汎用のAP(アンテナ150)から放射された電波を所定の通信エリアC内でのみ一定な電波強度となるように放射(透過)できる。そして、実施の形態2においても、所望する通信エリアCによる電波の閉空間を構築できるようになる。
以上説明した実施の形態2の電磁波制御装置は、アンテナの背面に突起部を有する反射板を設け、アンテナの前面に電磁波フィルタを設けてなる。この実施の形態2によっても、電波の電界分布を制御し、所定の通信エリア内をほぼ一定な電界にすることができる。また、通信エリア外で急激に電界を弱くする。これにより、所望する通信エリアによる電波の閉空間を構築できるようになる。
また、実施の形態2の空間電磁界制御システムは、汎用のAPと、反射板と、電磁波フィルタとをカバーに収容して構成でき、簡単かつ低コストに製造できる。そして、所望の設置個所にカバーを取り付けることで、APのアンテナが放射する電波を、所定の通信エリア内に位置する端末との間でのみ通信することができるようになる。
このように、実施の形態2によれば、電磁波制御装置を汎用の無線ルータやAPと組み合わせることで、通信エリア外への電波の漏れを簡単な構成で防ぐことができ、また、セキュリティ性を向上できるようになる。実施の形態2の電磁波制御装置は、突起部を有する反射板と、電磁波フィルタからなり、反射板を汎用の無線ルータやAPの背面に設置し、電磁波フィルタを無線ルータやAPの前面に配置するだけで、所望する通信エリアによる電波の閉空間を構築できる。なお、無線ルータやAPからアンテナだけを引き出して配置し、このアンテナの背面に反射板を配置し、前面に電磁波フィルタを配置しても同様の作用効果を得ることができる。そして、実施の形態2によれば、無線ルータやAP毎の通信エリア外への電波の漏れを簡単な構成で防ぐことができるため、セキュリティ性を向上できるようになる。例えば、異なる無線通信システムの端末やセンサが互いに干渉しないよう通信エリアを分けて配置できるようになる。
以上説明した各実施の形態の電磁波制御装置は、アンテナが放射する電波の電界分布を制御する。電磁波制御装置は、例えば、無指向性のアンテナの背面に配置された反射板に突起部を設けて構成できる。この反射板は、導電体からなり、アンテナの背面にアンテナから所定の距離を隔てて配置され、電磁波の放射パターンを変化させる一つまたは複数の突起部を有する。この電磁波制御装置は、所定の通信エリア内を一定な電界とし、通信エリア外で急激に電界を弱くする。これにより、所望する通信エリアによる電波の閉空間を構築できるようになる。
また、アンテナは、所定長を有するダイポールアンテナであり、突起部は、反射板の前面に向けてアンテナの長さ方向に沿って所定長さで突出し、アンテナの長さ方向と直交する方向に沿って複数設けられる。また突起部は、アンテナと反射板との距離に応じた突出量と形状を有する。これにより、アンテナが放射する電磁波のうち、正面方向に向かう電磁波同士で電磁波の強さを弱め、斜め方向に向かう電磁波同士で電磁波を強め、通信エリアをアンテナ側から見た平面で略矩形状にすることができる。
また、突起部は、アンテナの長さ方向と直交する方向に所定間隔を有して複数設けられる。これにより、通信エリアをより略矩形状にすることができる。
また、突起部は、反射板の背面に向けてアンテナの長さ方向に沿って所定長さで突出して設けられ、アンテナと反射板との距離に応じた突出量と形状を有する。これにより、アンテナが放射する電磁波のうち、正面方向の電磁波を弱め、斜め方向の電磁波を強め、通信エリアを略矩形状にすることができる。
また、突起部は、反射板の面に対し60度の傾斜角度を有して突出して設けることができる。これにより、アンテナが放射する電磁波に対し、正面方向の電磁波を弱め、斜め方向の電磁波を強め、通信エリアを略矩形状にすることができる。
また、反射板は、通信エリアの大きさに応じた所定の幅および長さを有する。これにより、通信エリアの大きさに対応してこの通信エリアを略矩形状にすることができる。
また、アンテナの前面に所定距離を隔てて設けられ、導電体からなり、複数の折曲面と、折曲面に開口形成されたスロットとを有し、所定の通信エリア内をほぼ一定な電界とし、通信エリア外で急激に電界を弱くする電磁波フィルタを配置してもよい。これにより、アンテナの背面に配置した反射板と、アンテナの正面に配置した電磁波フィルタによって、アンテナが放射する電磁波のうち、正面方向の電磁波を弱め、斜め方向の電磁波を強め、通信エリアを略矩形状にすることができる。そして、所望する通信エリアによる電波の閉空間を構築できるようになる。
また、電磁波フィルタの折曲面は、前面に対し所定の角度をなし、スロットは、アンテナの偏波方向と直交する方向に所定の長さで開口され、長さは、電波の波長のおよそ1/2としてもよい。折曲面の角度は、例えば、通信エリア内の電界分布と電界強度に基づく所定角度にしてもよい。これにより、例えば、略矩形状の通信エリアを構築できるようになる。ここで、所定角度を有する折曲面のスロットに対し正面に位置するアンテナから入射した電波は、透過率が小さく、反射率が大きくなる。さらに、所定角度を有する部分の折曲面のスロットは、アンテナから斜めに入射される電波の透過率が大きく、反射率は小さい。アンテナからさらに斜めに入射される電波は透過率が小さく、反射率が大きくなる。これにより、固定位置のアンテナから出射される電波が各スロット別に異なる角度で透過あるいは反射して各スロット部分を透過後の電波の強さを制御でき、矩形状等の所望する形状の通信エリアを構築できるようになる。
上記電磁波制御装置は、汎用の無線ルータやAP、および端末と組み合わせて、空間電磁界制御システムを構成できる。アクセスポイントは、無指向性のアンテナを備えて通信エリアに位置する端末との間で電波を送受信する。例えば、上記の突起部を有する反射板を設けることで、突起部がアンテナの電磁波をアンテナの背面側において、アンテナの正面方向の電磁波を弱め、かつ、アンテナの斜め方向の電磁波を強める。これにより、アンテナが放射する同心円状の電磁波の放射パターンを、アンテナから所定距離離れた所定の通信エリアで矩形状に変更する。端末は、矩形状の通信エリア内に位置している間のみ、アクセスポイントと通信可能になる。加えて、矩形状の通信エリアから外れると端末は、直ちにアクセスポイントと通信不能となる。
また、空間電磁界制御システムは、上記の電磁波制御装置である反射板、あるいは反射板および電磁波フィルタ、アンテナを備えたアクセスポイントと、アクセスポイントおよび電磁波制御装置を収容するカバーで構成できる。カバーは、所定の通信エリアを構築する箇所に簡単に取り付けることができる。
また、アンテナ毎の矩形状の複数の通信エリアの境界を隣接、または境界間に所定の間隔を有して配置することで、各通信エリアに位置する端末は、位置している通信エリアのアクセスポイントのみと通信を行うことができる。各通信エリアは隣接する通信エリアに対して干渉しないため、通信エリアごとに異なる暗号化等の手段を不要にしてもセキュリティを維持できる。矩形状の通信エリアは、境界が直線状であり、異なる通信エリアが重合することなく密に隣接配置できる。
上述した実施の形態に関し、さらに以下の付記を開示する。
(付記1)無指向性のアンテナが放射する電磁波の電界分布を制御する電磁波制御装置であって、
導電体からなり、アンテナの背面に前記アンテナから所定の距離を隔てて配置され、前記電磁波の放射パターンを変化させる一つまたは複数の突起部を有し、所定の通信エリア内を一定な電界とし、前記通信エリア外で電界を弱くする反射板を有する、
ことを特徴とする電磁波制御装置。
(付記2)前記アンテナは、所定長を有する線状アンテナであり、
前記突起部は、前記反射板の前面に向けて前記アンテナの長さ方向に沿って所定長さで突出し、前記アンテナの長さ方向と直交する方向に複数設けられ、
前記アンテナと前記反射板との距離に応じた突出量と形状を有し、前記アンテナが放射する前記電磁波のうち、正面方向に向かう前記電磁波同士で前記電磁波の強さを弱め、斜め方向に向かう前記電磁波同士で前記電磁波を強め、前記通信エリアを略矩形状にする、
ことを特徴とする付記1に記載の電磁波制御装置。
(付記3)前記突起部は、前記アンテナの長さ方向と直交する方向に所定間隔を有して複数設けられた、
ことを特徴とする付記2に記載の電磁波制御装置。
(付記4)前記突起部は、前記反射板の背面に向けて前記アンテナの長さ方向に沿って所定長さで突出して設けられ、
前記アンテナと前記反射板との距離に応じた突出量と形状を有し、前記アンテナが放射する前記電磁波のうち、正面方向の前記電磁波を弱め、斜め方向の前記電磁波を強め、前記通信エリアを略矩形状にする、
ことを特徴とする付記1に記載の電磁波制御装置。
(付記5)前記突起部は、前記反射板の面に対し60度の傾斜角度を有して突出していることを特徴とする付記1に記載の電磁波制御装置。
(付記6)前記反射板は、前記通信エリアの大きさに応じた所定の幅および長さを有することを特徴とする付記1に記載の電磁波制御装置。
(付記7)さらに、前記アンテナの前面に所定距離を隔てて設けられ、導電体からなり、複数の折曲面と、前記折曲面に開口形成されたスロットとを有し、所定の通信エリア内を一定な電界とし、前記通信エリア外で急激に電界を弱くする電磁波フィルタを配置した、
ことを特徴とする付記1〜6のいずれか一つに記載の電磁波制御装置。
(付記8)前記電磁波フィルタの前記折曲面は、前記出射方向に対し所定の角度をなし、
前記スロットは、前記アンテナの偏波方向と直交する方向に所定の長さで開口され、前記長さは、電波の波長のおよそ1/2であることを特徴とする付記7に記載の電磁波制御装置。
(付記9)アクセスポイントと、電磁波制御装置と、端末とを含む空間電磁界制御システムにおいて、
前記アクセスポイントは、無指向性のアンテナを備えて前記端末との間で電波を送受信し、
前記電磁波制御装置は、導電体からなり、前記アンテナの背面に所定の距離を隔てて配置された反射板と、前記反射板の面から突出して設けられ、前記電磁波の放射パターンを変化させる突起部とを有し、前記突起部が前記アンテナの前記電磁波を前記アンテナの背面側において、前記アンテナの正面方向に向かう前記電磁波同士で前記電磁波の強さを弱め、斜め方向に向かう前記電磁波同士で前記電磁波を強め、前記アンテナが放射する同心円状の電磁波の放射パターンを、前記アンテナから所定距離離れた所定の通信エリアで矩形状に変更し、かつ、所定の通信エリア内を一定な電界とし、前記通信エリア外で電界を弱くし、
前記端末は、前記通信エリア内に位置している間のみ前記アクセスポイントと通信可能で、前記通信エリアから外れると直ちに通信不能となる、
ことを特徴とする空間電磁界制御システム。
(付記10)前記アンテナあるいは前記アンテナを内蔵したアクセスポイントと、前記反射板と、を収容し、前記通信エリアを構築する箇所に取り付けられるカバー、
を有することを特徴とする付記9に記載の空間電磁界制御システム。
(付記11)前記アンテナ毎の前記矩形状の複数の前記通信エリアの境界を隣接、または前記境界間に所定の間隔を有して配置したことを特徴とする付記9に記載の空間電磁界制御システム。
(付記12)前記電磁波制御装置は、さらに、前記アンテナの前面に所定距離を隔てて設けられ、導電体からなり、複数の折曲面と、前記折曲面に開口形成されたスロットとを有し、所定の通信エリア内を一定な電界とし、前記通信エリア外で電界を弱くする電磁波フィルタを有する、
ことを特徴とする付記9〜11のいずれか一つに記載の空間電磁界制御システム。
100 反射板
110 突起部(凸状)
120 突起部(凹状)
150 アンテナ(ダイポールアンテナ)
170 端末
1000 空間電磁界制御システム
1010 AP(アクセスポイント)
1020 カバー
1101,1201 CPU
1102,1202 RAM
1103,1203 RF−フロントエンド
1104,1204 信号処理部
1500 電磁波フィルタ
1502 スロット
C 通信エリア
X 通信不能エリア