以下、実施形態による鉄道車両用制振装置を、電車、気動車、客車等の鉄道車両に搭載した場合を例に挙げ、添付図面を参照しつつ説明する。なお、図4,5,8−16に示す流れ図の各ステップは、それぞれ「S」という表記を用いる(例えば、ステップ1=「S1」とする)。また、図1−3,6,7では、図面の左側(車両の長さ方向の一側)を鉄道車両の進行方向の前側とし、図面の右側(車両の長さ方向の他側)を鉄道車両の進行方向の後側として説明するが、図面の右側を前側とし、図面の左側を後側としてもよい。
図1ないし図5は、第1の実施形態を示している。図1において、鉄道車両1(以下、車両1という)は、例えば乗客、乗務員等の乗員が乗車する車体2と、車体2の下側に設けられた前側の台車3Aおよび後側の台車3Bとを備えている。これら2つの台車3A,3Bは、車体2の前側(車体2の長さ方向の一側で図1ないし図3の左側)と後側(車体2の長さ方向の他側で図1ないし図3の右側)とに離間して配置されている。
これにより、車両1の車体2は、一対の台車3A,3B上に設置されている。なお、図1ないし図3(および後述する図6および図7)では、図面が複雑になることを避けるため、1両の車両1、即ち、1両編成の列車を示している。しかし、運行される列車は、複数の車両1を連結した列車、即ち、複数の車両1により編成された列車が大多数を占めている。
台車3A,3Bは、台車枠4A,4Bと、複数の車輪5A−5Hと、複数の軸ばね8,8と、複数のダンパ9A−9Hとを備えている。各車輪5A−5Hは、支持構造体となる台車枠4A,4Bに回転可能に支持されることにより、台車3A,3Bに取り付けられている。即ち、各台車3A,3B(台車枠4A,4B)には、車軸6A−6D(図2)の長さ方向の両端(即ち、車体2の幅方向の両端)にそれぞれ車輪5A−5Hを設けてなる輪軸7A−7Dが、前後方向に離間してそれぞれ2個ずつ取付けられている。これにより、各台車3A,3Bには、それぞれ4個の車輪5A−5D,5E−5Hが設けられている。
即ち、車輪5A−5Hは、1台車当たり4個、1車両当り8個設けられている。車両1は、各車輪5A−5Hが左右のレールR(図1に一方のみ図示)上を回転することにより、レールRに沿って走行する。なお、左右方向は、進行方向に対面した状態を基準としている。即ち、左右方向は、車体2の幅方向(車軸6A−6Dの軸方向)に対応し、例えば、図1では紙面に直交する表裏方向の表側を左とし、裏側を右としている。
台車3A,3Bの台車枠4A,4Bと各車輪5A−5H(より具体的には、車軸6A−6Dを回転可能に支持する軸受箱)との間には、車輪5A−5Hからの振動や衝撃を緩和する軸ばね8,8と、軸ばね8,8と並列関係をなすように配置された緩衝器としてのダンパ9A−9Hとが設けられている。軸ばね8,8は、「ばね下質量」となる車輪5A−5H等と「ばね間質量」となる台車枠4A,4B等との間に設けられる一次ばねである。軸ばね8,8は、例えば、コイルばねにより構成され、車軸6A−6Dの両側にそれぞれ2個ずつ設けられている。即ち、軸ばね8,8は、1台車当たり8個、1車両当り16個設けられている。
ダンパ9A−9Hは、例えば、各台車3A,3Bの左右両側にそれぞれ2個ずつ(車軸6A−6Dの軸方向両側にそれぞれ1個ずつ)設けられている。即ち、ダンパ9A−9Hは、1台車当たり4個、1車両当り8個設けられている。ダンパ9A−9Hは、台車3A,3B(より具体的には、台車枠4A,4B)と各車輪5A−5H(より具体的には、軸受箱)との間に設けられ、台車3A,3Bの振動を抑制する。即ち、ダンパ9A−9Hは、「ばね間質量」となる台車枠4A,4B等と「ばね下質量」となる車輪5A−5H等との間に介装(配置)されている。ダンパ9A−9Hは、車輪5A−5Hに対する台車3A,3B(台車枠4A,4B)の上下方向の振動(車輪5A−5Hと台車枠4A,4Bとの相対変位)に対して、振動(相対変位)を低減させるような力、即ち、減衰力を発生する油圧緩衝器である。これにより、各ダンパ9A−9Hは、台車3A,3Bの上下方向の振動を低減する。なお、第1の実施形態では、緩衝器としてのダンパ9A−9Hは、ストローク速度によって減衰力が変化するコンベンショナルダンパ(パッシブダンパ)として構成されている。
一方、車体2と各台車3A,3Bとの間には、それぞれの台車3A,3B上で車体2を弾性的に支持する複数の空気ばね10A−10Dと、各空気ばね10A−10Dと並列関係をなすように配置された複数のアクチュエータ11A−11Dとが設けられている。空気ばね10A−10Dは、「枕ばね」または「懸架ばね」とも呼ばれ、「ばね上質量」となる車体2等と「ばね間質量」となる台車枠4A,4B等との間に設けられる二次ばねである。空気ばね10A−10Dは、各台車3A,3Bの左右両側にそれぞれ1個ずつ設けられている。即ち、空気ばね10A−10Dは、1台車当たり2個、1車両当り4個設けられている。
アクチュエータ11A−11Dは、車両1の車体2と台車3A,3B(台車枠4A,4B)との間に設けられた車体台車間アクチュエータであり、上下方向に加振をする。この場合、アクチュエータ11A−11Dは、リニアアクチュエータ、例えば、三相リニアモータ等の電動リニアモータ(電磁アクチュエータ)により構成されている。アクチュエータ11A−11Dは、空気ばね10A−10Dと共に、車体2と台車3A,3Bとの間で上下方向の振動を緩衝(減衰)する電動サスペンション(電磁サスペンション)を構成している。アクチュエータ11A−11Dは、上下方向に調整可能な力を発生する。アクチュエータ11A−11Dは、1つの台車3A,3B毎に左右方向に離間して2つ、1車両当たり4個設けられている。
即ち、図3に示すように、アクチュエータ11A−11Dは、1つの台車3A,3Bに対して2軸配置され、1台の車両(2つの台車3A,3B)に対して4軸配置される。具体的には、車体2の前部側と前側の台車3Aとの間には、左右方向に離間してFL側の第1アクチュエータ11AとFR側の第2アクチュエータ11Bとが配置されている。車体2の後部側と後側の台車3Bとの間には、左右方向に離間してRL側の第3アクチュエータ11CとRR側の第4アクチュエータ11Dとが配置されている。
アクチュエータ11A−11Dは、車両1に対して上下方向に取付けられている。第1アクチュエータ11Aと第2アクチュエータ11B、第3アクチュエータ11Cと第4アクチュエータ11Dは、車両1の進行方向に対して各台車3A,3Bの左右方向(幅方向)に離間してそれぞれ配置されている。アクチュエータ11A−11Dは、前側の台車3Aおよび後側の台車3Bに対する車体2の振動を、台車3A,3B毎に左右方向でそれぞれ個別に緩衝して低減させるように、制御装置15から個別に出力される指令信号に従って力を発生する。この場合、アクチュエータ11A−11Dは、インバータ12A−12Dを介して供給される電力によって力を発生する。
FL側の第1インバータ12Aは、FL側の第1アクチュエータ11Aに対応して設けられている。FR側の第2インバータ12Bは、FR側の第2アクチュエータ11Bに対応して設けられている。RL側の第3インバータ12Cは、RL側の第3アクチュエータ11Cに対応して設けられている。RR側の第4インバータ12Dは、RR側の第4アクチュエータ11Dに対応して設けられている。インバータ12A−12Dは、アクチュエータ11A−11Dの電源回路である。
インバータ12A−12Dは、電力線側が図示しない車両電力源(例えば、架線、発電機等からの電力供給源)に接続されると共に、動力線側がアクチュエータ11A−11Dに接続されている。インバータ12A−12Dは、例えばトランジスタ、電界効果トランジスタ(FET)、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(IGBT)等からなる複数のスイッチング素子を含んで構成され、各スイッチング素子は、制御装置15からの指令信号に基づいて制御される。
インバータ12A−12Dは、制御装置15からの指令信号と車両電力源からの電力とに基づいて、アクチュエータ11A−11Dを駆動する。即ち、アクチュエータ11A−11Dの力行時は、車両電力源からインバータ12A−12Dを経由して、アクチュエータ11A−11Dに電力が供給される。このとき、インバータ12A−12Dは、車両電力源から電力線を介して供給される電力から三相(u相、v相、w相)の交流電力を生成し、動力線を介して各アクチュエータ11A−11Dの各コイル(図示せず)に電力を供給する。
図2に示すように、台車3A,3Bには、前後方向に離間した2個所位置に、それぞれの位置で台車3A,3Bの上下方向の加速度をばね下加速度として検出する合計2個(1車両当り4個)の台車側加速度センサ13A−13Dが設けられている。台車側加速度センサ13A−13Dは、車両1の異なる複数個所にそれぞれ搭載されて車両1の挙動(より具体的には、台車3A,3Bの振動状態)を検出するセンサ(挙動センサ)である。台車側加速度センサ13A−13Dとしては、例えば圧電式、サーボ式、ピエゾ抵抗式等のアナログ式加速度センサ等、各種の加速度センサを用いることができ、特に、耐水性、耐熱性に優れた加速度センサを用いることが好ましい。
ここで、第1の台車側加速度センサ13Aと第2の台車側加速度センサ13Bは、前側の台車3Aに配置されている。この場合、第1の台車側加速度センサ13Aは、前側の車軸6Aに近い位置に配置され、第2の台車側加速度センサ13Bは、後側の車軸6Bに近い位置に配置されている。第3の台車側加速度センサ13Cと第4の台車側加速度センサ13Dは、後側の台車3Bに配置されている。この場合、第3の台車側加速度センサ13Cは、前側の車軸6Cに近い位置に配置され、第4の台車側加速度センサ13Dは、後側の車軸6Dに近い位置に配置されている。
各台車側加速度センサ13A−13Dは、制御装置15に接続されている。各台車側加速度センサ13A−13Dは、それぞれの位置で検出した台車3A,3Bの加速度の検出信号を制御装置15に互いに異なる信号(車両挙動である台車3A,3Bの振動の検出信号)として出力する。なお、台車側加速度センサ13A−13Dは、台車3A,3Bの前側と後側に限らず、例えば台車3A,3Bの左側と右側に配置する等、台車3A,3B上のセンサ配置はいかなる形をとっても良い。また、台車側加速度センサ13A−13Dの個数も1台車当たり2個に限らず、測定・制御の目的に合わせて自由に選んでよい。例えば、台車3A,3B毎に1個ずつ設けてもよいし、3個以上ずつ設けてもよい。さらに、前側の台車3Aと後側の台車3Bとでセンサの数を異ならせてもよい。
図3に示すように、車体2には、前後方向と左右方向に離間した4隅側の位置に、それぞれの位置で車体2の上下方向の加速度をばね上加速度として検出する合計4個の車体側加速度センサ14A−14Dが設けられている。車体側加速度センサ14A−14Dは、車両1の異なる複数個所にそれぞれ搭載されて車両1の挙動(より具体的には、車体2の振動状態)を検出するセンサ(挙動センサ)である。車体側加速度センサ14A−14Dも、台車側加速度センサ13A−13Dと同様に、例えば圧電式、サーボ式、ピエゾ抵抗式等のアナログ式加速度センサ等、各種の加速度センサを用いることができる。
ここで、第1の車体側加速度センサ14Aは、車体2の前部左側(FL)で第1アクチュエータ11Aに近い位置に配置され、第2の車体側加速度センサ14Bは、車体2の前部右側(FR)で第2アクチュエータ11Bに近い位置に配置されている。第3の車体側加速度センサ14Cは、車体2の後部左側(RL)で第3アクチュエータ11Cに近い位置に配置され、第4の車体側加速度センサ14Dは、車体2の後部右側(RR)で第4アクチュエータ11Dに近い位置に配置されている。
各車体側加速度センサ14A−14Dは、制御装置15に接続されている。各車体側加速度センサ14A−14Dは、それぞれの位置で検出した車体2の加速度の検出信号を制御装置15に互いに異なる信号(車両挙動である車体2の振動の検出信号)として出力する。なお、車体側加速度センサ14A−14Dは、車体2の前部左側、前部右側、後部左側、後部右側に限らず、例えば車体2の前部中央、中央部左側、中央部右側、後部中央に配置する等、車体2上のセンサ配置はいかなる形をとっても良い。また、車体側加速度センサ14A−14Dの個数も4個に限らず、測定・制御の目的に合わせて自由に選んでよい。例えば、車体2に2個、3個、または5個以上設けてもよい。
次に、各アクチュエータ11A−11Dの発生力を可変に制御することに加えて、各アクチュエータ11A−11Dの正常・異常の判定、ダンパ9A−9Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dの正常・異常の判定を行う制御装置15について説明する。
制御装置15は、車両1の予め決められた位置(例えば、車体2のほぼ中央となる位置等)に設置されている。制御装置15は、例えばマイクロコンピュータ等を含んで構成されている。制御装置15の入力側は、インバータ12A−12D、加速度センサ13A−13D,14A−14D等に接続されている。制御装置15の出力側は、インバータ12A−12Dを介してアクチュエータ11A−11Dに接続されている。制御装置15は、例えばROM,RAM,不揮発性メモリ等からなる記憶部としてのメモリ15Aを有している。メモリ15A内には、例えば、アクチュエータ11A−11Dの制御処理を行うためのプログラム、図4および図5に示す異常検知の処理を行うためのプログラム、異常検知の処理に用いる判定値(判定基準)等が記憶されている。
制御装置15は、例えば通信回線16を介して別の制御装置、例えば、上位の制御装置(図示せず)と接続されている。制御装置15には、上位の制御装置から通信回線16を介して車両1の車両情報(例えば、車両の走行位置、走行速度等)が上位信号として入力される。制御装置15からは、例えば、車両1の挙動情報(車体2の振動情報、台車3A,3Bの振動情報)、各アクチュエータ11A−11Dの異常情報、ダンパ9A−9Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dの異常情報が上位の制御装置に出力される。制御装置15は、例えば、1台の車体2に1個配置されている。
制御装置15は、例えば、加速度センサ13A−13D,14A−14Dから得られるセンサ信号と通信回線16を介して得られる信号とに基づいて内部で演算を行い、各アクチュエータ11A−11D(より具体的には、インバータ12A−12D)に指令信号を出力する。即ち、制御装置15は、アクチュエータ11A−11Dの制御装置である。この場合、制御装置15は、アクチュエータ11A−11Dの発生力をインバータ12A−12Dを介して可変に制御するアクチュエータ制御部を備えている。
アクチュエータ制御部は、車体2のロール(横揺れ)、ピッチ(前後方向の揺れ)等の振動を低減し乗り心地を向上すべく、サンプリング時間毎に加速度センサ13A−13D,14A−14Dからの検出信号等を読込みつつ、例えばスカイフック理論(スカイフック制御則)に従って指令信号(制御指令の電流値)を演算する。この上で、アクチュエータ制御部は、指令信号をインバータ12A−12Dに個別に出力し、アクチュエータ11A−11D毎の発生力を可変に制御する。なお、アクチュエータ11A−11Dの制御則としては、スカイフック制御則に限るものではなく、例えばLQG制御則またはH∞制御則等を用いる構成でもよい。制御装置15(のアクチュエータ制御部)は、アクチュエータ11A−11Dを制御するアクチュエータ制御手段に相当する。
ところで、鉄道車両の乗り心地向上のため、台車と車体との間に制振装置が配置された車両が多くある。制振装置は、上下方向または左右方向の振動抑制を狙ったものであり、例えば、振動状況に応じて減衰力を切換えるものから能動的に制御力を発生して振動を抑えるものまである。このような制振装置は、乗務員・乗客の乗り心地向上に寄与するため、運転中の異常(故障)の診断(健全性診断)以外にも、例えば、運転前に制振装置の異常の診断ができることが好ましい。運転前に異常の診断を適切に行うことができれば、例えば、運転前に異常がある車両または編成を除くことにより、正常な車両または編成のみで運行することができる。これにより、乗務員・乗客への乗り心地に対する不満を事前に解消することができ、制振装置の信頼性の向上に寄与することができる。
ここで、特許文献1には、車両停止中に、車体と台車との間に設けられたアクチュエータを上下方向に加振させることにより、制御系の各機器(アクチュエータ、各センサ)の診断を行う技術が記載されている。しかし、この従来技術は、台車と車体との間に配置される機器を対象とした診断方法であり、台車と車輪との間に配置された緩衝器の異常を検知するものではない。即ち、台車と車輪との間に配置された緩衝器の異常は診断しない。また、車体または台車の振動状態を検知する各種センサの異常も診断しない。このため、これらの緩衝器、各種センサの異常は、例えば、目視による実機確認となる。
しかし、このような目視による確認は、外観から判断できる異常を判定できても、例えば緩衝器の実際の減衰力が正常に発生可能か否かの診断は困難である。また、例えば、センサであれば、外観が正常であるか否かは判定できても、センサ筐体内部の異常を確認することは困難である。このため、従来技術によれば、正常・異常の判定の精度、迅速性を十分に確保できない可能性がある。
そこで、第1の実施形態では、台車3A,3Bと車輪5A−5Hとの間のダンパ9A−9Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dの異常を検知できるように構成している。このために、制御装置15は、ダンパ9A−9Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dの異常検知を行う異常検出部を備えている。制御装置15(の異常検出部)は、制御装置15(のアクチュエータ制御部)によりアクチュエータ11A−11Dを所定の周波数で加振させることによって台車3A,3Bを加振させ、ダンパ9A−9Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dの異常を判定する。
なお、第1の実施形態では、ダンパ9A−9Hおよびセンサ13A−13D,14A−14Dが正常であるか否かを判定する。即ち、第1の実施形態では、「ダンパ9A−9Hとセンサ13A−13D,14A−14Dとのうちの少なくとも何れかが異常である」ことを判定するが、「ダンパ9A−9Hの異常」であるか「センサ13A−13D,14A−14Dの異常」であるかの切り分けは行わない。換言すれば、異常と判定されたときに、その異常がダンパ9A−9Hの異常であるかセンサ13A−13D,14A−14Dの異常であるかを特定しない。これに対して、後述する第4の実施形態では、ダンパの異常であるかセンサの異常であるかを切り分け(特定)する。
第1の実施形態では、制御装置15は、異常検知を開始するか否かを判定する。制御装置15は、異常検知を開始すると判定したとき、例えば、異常検知の開始の指令を受け、かつ、車両1が停止していると判定したときに、判定を開始する。制御装置15は、アクチュエータ11A−11Dの加振に先立って、アクチュエータ11A−11Dの自己診断を行う。アクチュエータ11A−11Dの自己診断は、例えば断線・短絡検知、アクチュエータ11A−11Dの現在温度と過去の異常温度履歴の有無、インバータ12A−12Dへの電源電圧等に基づいて、アクチュエータ11A−11Dが正常に動作可能か否かを判定する。制御装置15は、例えばアクチュエータ11A−11Dが過去に異常な温度履歴を示し、アクチュエータ11A−11Dの性能が劣化されていると判断した場合、アクチュエータ11A−11Dが異常であるとし、ダンパ9A−9Hおよびセンサ13A−13D,14A−14Dの異常の検知は行わない。即ち、異常の検知は終了する。
これに対して、アクチュエータ11A−11Dが正常であると判定した場合は、ダンパ9A−9Hおよびセンサ13A−13D,14A−14Dの異常の検知を行う。具体的には、制御装置15は、アクチュエータ11A−11Dを用いて所定の周波数で台車3A,3Bを加振する。即ち、アクチュエータ11A−11Dの加振に基づいて、台車3A,3Bを振動させる。例えば、アクチュエータ11A−11Dは、台車3A,3Bは振動するが車体2は振動しない周波数で振動させる。所定の周波数は、例えば、台車3A,3Bを振動させることができ、かつ、異常の判定を行うことができる(例えば、異常と正常とでセンサ値の差が顕著となる)周波数として設定することができる。
アクチュエータ11A−11Dは、台車3A,3B毎に加振する。即ち、制御装置15は、例えば、前側となる一方のアクチュエータ11A,11B(または後側となる他方のアクチュエータ11C,11D)を用いて一方の台車3A(または他方の台車3B)を加振し、正常・異常の判定を行う。次いで、制御装置15は、他方のアクチュエータ11C,11D(または一方のアクチュエータ11A,11Bを用いて他方の台車3B(または一方の台車3A)を加振し、正常・異常の判定を行う。このとき、台車3A(3B)が上下に動くように、台車3A(3B)の左右に取り付けられているアクチュエータ11A,11B(11C,11D)を同位相で加振することができる。また、台車3A(3B)がロールするように、台車3A(3B)の左右に取り付けられているアクチュエータ11A,11B(11C,11D)を逆位相で加振してもよい。
制御装置15は、アクチュエータ11A,11B(11C,11D)を加振しつつ、センサ13A−13D,14A−14Dのセンサ値に基づいて振動状態を検出する。制御装置15は、アクチュエータ11A,11B(11C,11D)の加振に伴うセンサ13A−13D,14A−14Dのセンサ値の変化が正常であるか否かを判定することにより、正常・異常の判定を行う。正常・異常の判定を行ったら、即ち、センサ値の変化が正常であるか否かを判定したら、アクチュエータ11A,11B(11C,11D)の加振を停止し、異常検知を終了する。
ここで、アクチュエータ11A−11Dの加振に伴うセンサ値の変化が正常か否かを判定する際の判定基準は、例えば、車両1の構造を模擬した演算、シミュレーション結果、実車実験等から決めることができる。また、例えば、該当する車両1が営業運転に投入される前に、複数回の動作試験を行い、そのときのセンサ値により判定基準を設定してもよい。例えば、新車時に予め複数回の動作試験を行い、このときのセンサ値の平均値を判定基準とし、その後は、営業運転前に行った試験結果が正常(判定基準からのずれが許容範囲)と判定される度に、その試験結果を判定基準として更新するようにしてもよい。そして、制御装置15は、加振中のセンサ値と判定基準とを比較し、センサ値が判定基準に対して予め設定した規定値(許容値)の範囲内のときは正常と判定し、センサ値が判定基準に対して予め設定した規定値(許容値)の範囲から外れたときは異常と判定する。この場合、規定値(許容値)は、正常であるか異常であるかを適正に判定できる値として設定することができる。
また、判定基準(および規定値)は、車両1または台車3A,3B毎に分けて記憶させることが好ましい。この理由は、車両1毎に搭載される機器が異なるため、車両1毎の重量が異なり、台車3A,3Bも同様に付帯物が異なり、重量も異なるためである。即ち、加振条件を同一とした場合、加振対象の重量が異なると、センサ値の変化量も変わるため、車両1または台車3A,3B毎に分けて判定基準をメモリ15Aに記憶させることが好ましい。
なお、第1の実施形態では、台車3A,3B毎に診断を行う。即ち、判定基準は、台車3A,3B毎に分けてメモリ15Aに記憶させる。この理由は、1車両の2つの台車3A,3Bを同時に実施する場合、または、複数の車両を連結してなる列車(1編成)の各車両の台車を同時に実施する場合は、「車体2」または「車体と車体との連結部」を通じて、相互に振動が影響し合う可能性があるためである。即ち、1車両2台車を同時に加振して正常・異常の判定を行う場合、または、複数の車両からなる1編成の各台車を同時に加振して正常・異常の判定を行う場合は、1台車を単独で加振して正常・異常の判定を行う場合に比べて、検出精度が低下する可能性がある。
そこで、第1の実施形態では、台車3A,3B毎に診断を行う。これに対して、複数の台車を同時に加振して正常・異常の判定を行うとき(即ち、1車両同時実施するとき、または、1編成同時実施するとき)は、制御装置15内に試験条件に合わせて複数の判定基準を記憶させて対応することができる。例えば、以前の試験時や通常の営業運転前の加振に伴うセンサ値のデータ(記憶させたもの)に基づいて、試験条件毎に閾値を設定することができる。この場合、試験条件(加振の仕方)としては、例えば、それぞれの台車を同位相で加振する(2台揃って上下に動かす)、それぞれの台車を左右逆位相で加振する(2台揃ってロールするように動かす)、一方の台車の右と他方の台車の左を同位相で加振すると共に一方の台車の左と他方の台車の右が同位相で加振する(対角線で動かす)、一方の台車と他方の台車とで逆位相で加振する(一方が上側のとき他方が下側となるように動かす)ことが挙げられる。
このように、第1の実施形態では、制御装置15(の異常検出部)は、台車3A,3Bと車輪5A−5Hとの間に配置されたダンパ9A−9Hの異常と、台車3A,3Bまたは車体2の振動状態を検知するセンサ13A−13D,14A−14Dの異常とを判定する。即ち、第1の実施形態では、台車3A,3Bと車体2との間に取り付けられたアクチュエータ11A−11Dを所定の周波数で加振し、台車3A,3Bまたは車体2に取り付けられた振動状態を検知するセンサ13A−13D,14A−14Dのセンサ値を検出する。そして、検出されたセンサ値に基づいて、台車3A,3Bと車輪5A−5Hとの間に配置されたダンパ9A−9Hの異常と、台車3A,3Bまたは車体2に取り付けられたセンサ13A−13D,14A−14Dの異常とを検出する。
この場合、台車3A,3Bまたは車体2に取り付けられたセンサ13A−13D,14A−14Dを、加速度センサとしている。即ち、アクチュエータ11A−11Dを加振したときの加速度センサ13A−13D,14A−14Dの加速度信号(加速度センサ値)に基づいて、ダンパ9A−9Hまたは加速度センサ13A−13D,14A−14Dの異常を判定する。なお、制御装置15(の異常検出部)による異常検知の処理、即ち、図4および図5に示す制御処理については、後で詳しく述べる。
実施形態による鉄道車両用制振装置は、上述の如き構成を有するもので、次に、その作動について説明する。
車両1は、レールRに沿って、例えば図1ないし図3中の左側に向けて走行する。車両1が走行しているときに、例えばロール(横揺れ)またはピッチ(前,後方向の揺れ)等の振動が発生すると、このときの上,下方向の振動を各加速度センサ13A−13D,14A−14Dによって検出する。制御装置15は、各加速度センサ13A−13D,14A−14Dで検出した信号をそれぞれ個別な車両挙動(加速度)の検出信号として判別しつつ、車両1の振動を抑えるために、例えばFL,FR,RL,RR側の各アクチュエータ11A−11Dで発生すべき目標減衰力を演算する。そして、各アクチュエータ11A−11Dは、制御装置15から個別に出力される指令信号に従って、それぞれの発生減衰力が目標減衰力に沿った特性となるように可変に制御される。
また、実施形態では、車両1が停止しているとき(例えば、営業運転前の車両基地、車両整備場に停車しているとき、または、営業運転後に車両基地や車両整備場に戻ってきたとき)に、ダンパ9A−9Hおよびセンサ13A−13D,14A−14Dが正常であるか否かの判定を行う。そこで、この判定、即ち、制御装置15(の異常検出部)で行われる異常検知の制御処理について、図4および図5を参照しつつ説明する。なお、図4は、異常検知の制御処理の全体を示しており、図5は、図4中のS5の「ダンパの異常検知」の処理を示している。また、図5を含む図4の制御処理は、例えば、制御装置15(の異常検出部)に通電しており、かつ所定の信号受信で実施される。
制御装置15(の異常検出部)が起動すると、図4の制御処理が開始される。制御装置15(の異常検出部)は、S1で、異常検知モードへの移行信号を受信したか否かを判定する。例えば、制御装置15(の異常検出部)は、上位の制御装置から異常検知モードへの移行信号を受信したか否かを判定する。これは、制御装置15が自らの判断で異常検知を行った場合、例えば、走行中や駅での停車時に行う可能性があり、それを回避するためである。上位の制御装置は、例えば、営業運転を開始する前等の車両1を起動したとき、または、車両1の運転室に設けられた診断開始スイッチが操作されたときに、制御装置15に対して異常検知モードへの移行信号を送信する。制御装置15は、移行信号を受信すると、異常検知を行ってもよい状況か否かを判定する。例えば、上位の制御装置から送信される車両1の位置情報またはキロ程情報と走行速度情報から、異常検知を行ってもよい状況であるか否かを判定する。例えば、位置情報またはキロ程情報から車両1の位置が車両基地(車両整備場)であるか否かを判定し、走行速度情報から車両1が停止しているか否かを判定する。異常検知が可能な位置情報またはキロ程情報と走行速度情報である場合には、例えば、車両1の位置が車両基地であり、かつ、車両1が停止していると判定された場合には、S2以降の処理、即ち、具体的な異常の検知の処理に進む。
S1で「YES」、即ち、移行信号を受信したと判定された場合(より具体的には、異常検知を行ってもよい状況であると判定された場合)は、S2に進む。一方、S1で「NO」、即ち、移行信号を受信していない場合(より具体的には、異常検知を行ってもよい状況でないと判定された場合)は、S1の前に戻り、S1以降の処理を繰り返す。
S2では、アクチュエータ11A−11Dの自己診断を行う。アクチュエータ11A−11Dの自己診断は、例えば断線・短絡検知、アクチュエータ11A−11Dの現在温度と過去の異常温度履歴の有無、インバータ12A−12Dへの電源電圧等に基づいて、アクチュエータ11A−11Dが正常に動作可能か否かを判定する。例えば、アクチュエータ11A−11Dが過去に異常な温度履歴を示した場合は、アクチュエータ11A−11Dの性能が劣化していると考えられる。そこで、この場合には、アクチュエータ異常と診断する。
続くS3では、アクチュエータが正常であるか否か、即ち、S2の自己診断結果が正常であるか否かを判定する。S3で「NO」、即ち、アクチュエータ11A−11Dが正常でない(異常である)と判定された場合は、S4に進む。即ち、この場合は、S5以降のダンパの異常検知は行わず、S4で制限制御モードに移行し、S9に進む。制限制御モードは、例えば、アクチュエータ11A−11Dによる力の発生を制限する制御モードに対応する。制限制御モードでは、その旨が通知されるため、この通知に基づいて、車両1を運行せずに修理等を行うことができる。
これに対して、S3で「YES」、即ち、アクチュエータ11A−11Dが正常であると判定された場合は、S5に進み、ダンパの異常検知を開始する。S5のダンパの異常件の処理は、後述の図5に示す処理である。この図5の処理では、ダンパ9A−9Hおよび加速度センサ13A−13D,14A−14Dが正常であるか否かが判定される。
S5に続くS6では、S5の異常検知の結果が正常であるか否かが判定される。即ち、S6では、ダンパが正常か否か(より具体的には、ダンパおよびセンサが正常か否か)が判定される。S6で「YES」、即ち、正常であると判定された場合は、S7に進む。この場合は、S7で通常制御モードに移行する。これに対して、S6で「NO」、即ち、正常でない(異常あり)と判定された場合は、S8で制限制御モードに移行する。
S3ないしS8の異常検知が終了すると、続くS9では、S4,S7,S8の検知結果(移行結果)が送信される。即ち、S9では、S4,S7,S8の検知結果(移行結果)が上位の制御装置に送信され、ダンパ9A−9Hおよび加速度センサ13A−13D,14A−14Dが正常であるか否かが通知される。例えば、S4,S7,S8の検知結果が正常でない、即ち、異常あり(制限制御モードに移行)の場合は、正常でない旨(異常ありの旨)が通知され、この通知に基づいて、車両1を運行せずに修理等を行うことができる。
次に、S5のダンパの異常検知の処理、即ち、図5に示す処理について説明する。なお、S5の処理(図5の処理)では、台車3A,3B毎に、当該台車3A(3B)を加振させて診断を行う。また、複数の車両1を連結した列車の場合は、全ての台車について台車毎に順番に診断を行う。即ち、図5の処理は、台車毎に繰り返すことにより、当該台車および車体に関連するダンパおよびセンサが正常であるか否かをそれぞれ判定する。
図4のS3で「YES」と判定されると、図5のS11に進む。S11では、アクチュエータの加振を開始する。即ち、S11では、アクチュエータ11A,11B(またはアクチュエータ11C,11D)を用いて所定の周波数で台車3A(または台車3B)を加振させることにより、台車3A(または台車3B)を加振させる。続くS12では、加速度センサ13A−13D,14A−14Dのセンサ値を読込む。
即ち、S12では、センサ値に基づいて振動状態を検出する。続く、S13では、加速度センサ値が正常範囲か否かを判定する。即ち、S13では、加速度センサ13A−13D,14A−14Dのセンサ値が判定基準に対して予め設定した規定値(許容値、閾値)の範囲内であるか否かを判定する。換言すれば、アクチュエータ11A,11B(またはアクチュエータ11C,11D)の加振に伴うセンサ値の変化が正常か否かを判定する。
S13で「YES」、即ち、センサ値が正常範囲と判定された場合は、S15に進む。この場合は、S15でダンパ9A−9Hおよび加速度センサ13A−13D,14A−14Dが正常であると判定する。続くS16では、アクチュエータ11A,11B(またはアクチュエータ11C,11D)の加振を停止し、図5の処理を終了する。即ち、図5のエンドを介して図4のS6に進む。これに対して、S13で「NO」、即ち、センサ値が正常範囲でないと判定された場合は、S14に進む。この場合は、S14でダンパ9A−9Hおよび加速度センサ13A−13D,14A−14Dが正常でない、即ち、ダンパ9A−9Hまたは加速度センサ13A−13D,14A−14Dが異常である(異常あり)と判定する。続くS16では、アクチュエータ11A,11B(またはアクチュエータ11C,11D)の加振を停止し、図5の処理を終了する。即ち、図5のエンドを介して図4のS6に進む。なお、台車毎に図5の処理(S5の処理)を繰り返している途中で異常と判定された場合、それ以降の診断は継続せずに図5の処理を終了し、図4のS6の処理に進んでもよい。
以上のように、第1の実施形態では、アクチュエータ11A−11Dを用いて所定の周波数で台車3A,3Bを加振する。この場合に、ダンパ9A−9Hおよびセンサ13A−13D,14A−14Dが正常である場合は、センサ13A−13D,14A−14Dのセンサ値の変化量が規定値(許容値)の範囲内に収まる。即ち、加振中のセンサ値が判定基準に対して予め設定した規定値(許容値)の範囲内のときは、ダンパ9A−9Hおよびセンサ13A−13D,14A−14Dが正常であると判定することができる。これに対して、加振中のセンサ値が判定基準に対して予め設定した規定値(許容値)の範囲から外れたときは、ダンパ9A−9Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dが異常であると判定することができる。これにより、ダンパ9A−9Hおよびセンサ13A−13D,14A−14Dが正常であるか否かの異常検知を精度よく行うことができる。これにより、従来は目視確認でしかできなかったダンパ9A−9Hの異常検知に対し、目視確認せずとも異常検知ができる。また、目視確認では困難であったダンパ9A−9Hの減衰力異常、センサ13A−13D,14A−14Dの異常も検知可能となる。
即ち、第1の態様によれば、制御装置15(の異常検出部)により、「台車3A,3Bと各車輪5A−5Hとの間に設けられるダンパ9A−9H」、または、「台車3A,3Bまたは車体2に設けられるセンサ13A−13D,14A−14D」の異常を判定することができる。この場合、アクチュエータ11A−11Dにより台車3A,3Bを直接的に加振して異常を判定することができるため、ダンパ9A−9Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dの異常を、目視による確認と比較して迅速かつ精度よく判定することができる。これにより、ダンパ9A−9Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dの正常・異常の判定の精度、迅速性を向上できる。
次に、図6ないし図8は、第2の実施形態を示している。第2の実施形態の特徴は、台車と車輪との間の緩衝器を減衰力調整式ダンパとすると共に、この減衰力調整式ダンパの減衰力を制御する減衰力制御手段を有する構成としたことにある。なお、第2の実施形態では、第1の実施形態と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
台車3A,3B(より具体的には、台車枠4A,4B)と各車輪5A−5H(より具体的には、軸受箱)との間には、緩衝器としての減衰力調整式ダンパ21A−21H(以下、ダンパ21A−21Hという)が設けられている。ダンパ21A−21Hは、減衰力が調整可能なダンパであり、台車3A,3Bの振動を抑制する。即ち、各ダンパ21A−21Hは、それぞれの減衰力を個別に調整可能な減衰力調整式の緩衝器(減衰力を制御可能な減衰力調整式ダンパ)として構成されている。この場合、ダンパ21A−21Hは、例えば、制御装置23から電力(駆動電流)が供給されることにより、ソレノイドバルブ等の制御バルブ22A−22Hの開弁圧が調整される。これにより、ダンパ21A−21Hは、減衰特性をハードな特性(硬特性)からソフトな特性(軟特性)へと連続的に調整することができる。
なお、ダンパ21A−21Hは、減衰特性を連続的に調整するものに限らず、2段階または複数段階に調整可能なものであってもよい。また、ダンパ21A−21Hは、電圧や電流に応じて減衰力を調整する減衰力調整式緩衝器であってもよい。さらに、ダンパ21A−21Hは、外部動力により能動的に力(減衰力)を発生するアクティブダンパでもよい。
いずれにしても、ダンパ21A−21Hは、車両電力源(例えば、架線、発電機等からの電力を貯えるバッテリ)から供給される電力により、発生する力(減衰力)を制御可能な台車車輪間アクチュエータとなるものである。この場合、ダンパ21A−21H(の制御バルブ22A−22H)は、制御装置23に接続されており、制御装置23を介して電力が供給されることにより、発生減衰力が可変に調整される。即ち、制御装置23は、ダンパ21A−21Hの減衰力を制御する減衰力制御手段としての減衰力制御部を備えている。減衰力制御部は、例えば、加速度センサ13A−13D,14A−14Dからの検出信号等を読込みつつ、所定の制御則に従って各ダンパ21A−21Hで発生すべき減衰力に対応する駆動電流を演算する。この上で、減衰力制御部は、駆動電流を制御バルブ22A−22Hに個別に出力し、ダンパ21A−21H毎の発生力を可変に制御する。なお、各ダンパ21A−21Hの制御則としては、例えば、スカイフック制御則、LQG制御則またはH∞制御則等を用いることができる。
第2の実施形態も、第1の実施形態と同様に、制御装置23は、ダンパ21A−21Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dの異常検知を行う異常検出部を備えている。このために、制御装置23のメモリ23A内には、アクチュエータ11A−11Dの制御処理を行うためのプログラム、ダンパ21A−21Hの制御処理を行うためのプログラムに加えて、図4および図8に示す異常検知の処理を行うためのプログラム、異常検知の処理に用いる判定値(判定基準)等が記憶されている。
制御装置23(の異常検出部)は、制御装置23(のアクチュエータ制御部)によりアクチュエータ11A−11Dを所定の周波数で加振させることによって台車3A,3Bを加振させ、ダンパ21A−21Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dの異常を判定する。
次に、制御装置23(の異常検出部)で行われる異常検知の制御処理、より具体的には、第2の実施形態での図4中のS5の「ダンパの異常検知」の処理について、図8を参照しつつ説明する。なお、図8中の各処理で、前述の図5に示した処理と同様の処理については、同じステップ番号を付して、その説明を省略する。
図4のS3で「YES」と判定されると、図8のS21に進む。S21では、ダンパ21A−21Hの減衰力をハードに固定する。具体的には、制御装置23の減衰力制御部によりダンパ21A−21Hの減衰力をハードに固定する。S21でハードに固定したら、S11以降の処理に進む。S13の処理では、ダンパ21A−21Hがハードの状態での判定値(判定基準)に基づいて加速度センサ値が正常範囲か否かを判定する。なお、図9に示す第1の変形例のように、制御装置23(の減衰力制御部)によりダンパ21A−21Hの減衰力をソフトに固定した状態で、アクチュエータ11A−11Dを加振させ、異常を判定してもよい。
この場合は、制御装置23のメモリ23A内には、図8に示す処理を行うためのプログラムに代えて、図9に示す処理を行うためのプログラム、異常検知の処理に用いる判定値(判定基準)を記憶させる。このような第1の変形例では、図4のS3で「YES」と判定されると、図9のS31に進み、ダンパ21A−21Hの減衰力をソフトに固定する。図9のS31でソフトに固定したら、S11以降の処理に進む。S13の処理では、ダンパ21A−21Hがソフトの状態での判定値(判定基準)に基づいて加速度センサ値が正常範囲か否かを判定する。
このように、第2の実施形態および第1の変形例では、さらなる乗り心地の向上を目的として、台車3A,3Bと車輪5A−5Hとの間のダンパ21A−21Hを、減衰力が調整可能な減衰力調整式ダンパとしている。さらに、制御装置23は、ダンパ21A−21Hを制御する制御手段としての減衰力制御部を有している。そして、制御装置23の異常検出部は、台車3A,3Bと車体2間に取り付けたアクチュエータ11A−11Dを所定の周波数で加振し、ダンパ21A−21Hおよびセンサ13A−13D,14A−14Dが異常であるか否かを判定する。
このとき、ダンパ21A−21Hの減衰力がハード(またはソフト)での規定値内にあり、かつ、センサ13A−13D,14A−14Dが正常動作している場合に限り、センサ13A−13D,14A−14Dのセンサ値が正常に出力される。この場合は、正常状態と判断することができる。これに対して、ダンパ21A−21Hの減衰力がハード側(またはソフト側)で異常がある場合、または、センサ13A−13D,14A−14Dに異常がある場合は、判定基準(正常なときのセンサ値)から外れたセンサ値が出力される。この場合は、異常と判断することができる。
これにより、第2の実施形態および第1の変形例では、従来の外観目視からは困難であった減衰力調整式ダンパであるダンパ21A−21Hの減衰力までを考慮したダンパ異常を検知可能となる。この場合、ダンパ21A−21Hが正常の場合には、ダンパ21A−21Hを制御する制御装置23も正常となり、ダンパ21A−21Hが異常の場合には、ダンパ21A−21Hまたは制御装置23の少なくとも一方が異常と判定することができる。
第2の実施形態および第1の変形例は、上述の如き制御装置23の処理により、制御装置23とダンパ21A−21Hとセンサ13A−13D,14A−14Dとが正常であるか否かを判定するもので、その基本的作用については、第1の実施形態によるものと格別差異はない。即ち、第2の実施形態および第1の変形例も、第1の実施形態と同様に、ダンパ21A−21H(および制御装置23)またはセンサ13A−13D,14A−14Dの正常・異常の判定の精度、迅速性を向上できる。なお、アクチュエータ11A−11Dを加振して正常・異常の判定を行うときに、ダンパ21A−21Hの減衰力は、ハードまたはソフトに限らない。即ち、正常・異常の判定を行うときのダンパ21A−21Hの減衰力は、例えば、正常のときと異常のときとでセンサ値の差が顕著になる減衰力を採用することが好ましい。
次に、図10は、第3の実施形態を示している。第3の実施形態の特徴は、台車と車輪との間に設けられた減衰力調整式ダンパの減衰力をハードにした状態とソフトにした状態との両方で正常・異常の判定を行う構成としたことにある。なお、第3の実施形態では、第1の実施形態、第2の実施形態および第1の変形例と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第3の実施形態も、第2の実施形態および第1の変形例と同様に、ダンパ21A−21Hと、制御装置23と、アクチュエータ11A−11D(いずれも図6および図7参照)とを備えている。第3の実施形態では、制御装置23のメモリ23A内に、第2の実施形態の図8に示す処理プログラム(または第1の変形例の図9に示す処理プログラム)に代えて、図10に示す処理プログラムが記憶されている。
制御装置23(の異常検出部)は、制御装置23(の減衰力制御部)によりダンパ21A−21Hの減衰力をハードに固定した状態で、アクチュエータ11A−11Dを加振させ、異常を判定する。次いで、制御装置23(の異常検出部)は、制御装置23(の減衰力制御部)によりダンパ21A−21Hの減衰力をソフトに固定した状態で、アクチュエータ11A−11Dを加振させ、異常を判定する。なお、このようなハードでの判定に次いでソフトでの判定を行う構成に限らず、ソフトでの判定に次いでハードでの判定を行う構成としてもよい。
制御装置23(の異常検出部)で行われる異常検知の制御処理、より具体的には、第3の実施形態での図4中のS5の「ダンパの異常検知」の処理について、図10を参照しつつ説明する。なお、図10中の各処理で、前述の図5,8,9に示した処理と同様の処理については、同じステップ番号を付して、その説明を省略する。
図4のS3で「YES」と判定されると、図10のS21に進む。S21でダンパ21A−21Hの減衰力をハードに固定すると、S11、S12、S13−1の処理に進む。S13−1では、ダンパ21A−21Hがハードの状態での判定値(判定基準)に基づいて、加速度センサ値が正常範囲か否かを判定する。S13−1で「YES」、即ち、正常範囲であると判定されると、S41を介することなく、S31に進む。これに対して、S13−1で「NO」、即ち、正常範囲でないと判定されると、S41に進む。この場合は、センサまたはダンパハードの異常であるため、S41では、その旨を異常候補として記録する。例えば、S41では、異常ありに対応する異常フラグをONにし、これをメモリ23Aに記憶してからS31に進む。
S31では、ダンパ21A−21Hの減衰力をソフトに固定し、S31に続くS12、S13−2の処理に進む。S13−2では、ダンパ21A−21Hがソフトの状態での判定値(判定基準)に基づいて、加速度センサ値が正常範囲か否かを判定する。S13−2で「YES」、即ち、正常範囲であると判定されると、S42を介することなく、S16に進む。これに対して、S13−2で「NO」、即ち、正常範囲でないと判定されると、S42に進む。この場合は、センサまたはダンパソフトの異常であるため、S42では、その旨を異常候補として記録する。例えば、S42では、異常ありに対応する異常フラグをONにし、これを記憶してからS16に進む。
S16に続くS43では、異常候補記録があるか否かを判定する。即ち、異常フラグがONになっているか否かを判定する。S43で「NO」、即ち、異常候補記録なしと判定された場合は、S15に進み正常と判定する。これに対して、S43で「YES」、即ち、異常候補記録ありと判定された場合は、S14に進み異常ありと判定する。
第3の実施形態は、上述の如き異常判定の処理により、制御装置23とダンパ21A−21Hとセンサ13A−13D,14A−14Dとが正常であるか否かを判定するもので、その基本的作用については、第1の実施形態、第2の実施形態、第1の変形例によるものと格別差異はない。即ち、第3の実施形態も、ダンパ21A−21H(および制御装置23)またはセンサ13A−13D,14A−14Dの正常・異常の判定の精度、迅速性を向上できる。
なお、第3の実施形態は、台車3A,3Bまたは車体2の振動状態を検知するセンサを加速度センサ13A−13D,14A−14Dとしている。これに対して、図11に示す第2の変形例のように、車体または台車の振動状態を検知するセンサとしてストロークセンサ(図示せず)を用いてもよい。ストロークセンサとしては、例えば、アクチュエータ11A−11Dと並列に配置され台車3A,3Bと車体2との間のストローク(変位)を検出するもの、および/または、ダンパ21A−21Hと並列に配置され台車3A,3Bと車輪5A−5Hとの間のストローク(変位)を検出するものを採用することができる。
ストロークセンサは、光学式のストロークセンサ、直動回転変換を用いたストロークセンサ等、各種のストロークセンサ(変位センサ)を採用することができる。このようなストロークセンサを備えた第2の変形例では、図4中のS5の「ダンパの異常検知」の処理として、第3の実施形態で用いた図10の処理に代えて、図11に示す処理を行う。この場合、図11に示す処理では、S51でストロークセンサ値の読取りを行い、S52−1、S52−2でストロークセンサ値が正常範囲であるか否かを判定する。S52−1では、ダンパ21A−21Hがハードの状態での判定値(判定基準)に基づいてストロークセンサ値が正常範囲であるか否かを判定する。S52−2では、ダンパ21A−21Hがソフトの状態での判定値(判定基準)に基づいてストロークセンサ値が正常範囲であるか否かを判定する。
このように、第2の変形例では、台車3A,3Bまたは車体2に取り付けられたセンサを、ストロークセンサとしている。即ち、アクチュエータ11A−11Dを加振したときのストロークセンサのストローク信号(ストロークセンサ値)に基づいて、ダンパ21A−21Hまたはストロークセンサの異常を判定する。このような第2の変形例も、第3の実施形態等と同様に、緩衝器またはセンサの正常・異常の判定の精度、迅速性を向上できる。
次に、図12および図13は、第4の実施形態を示している。第4の実施形態の特徴は、加速度センサとストロークセンサとの両方を用いて緩衝器の異常であるかセンサの異常であるかを切り分け(特定)できるように構成したことにある。なお、第4の実施形態では、第1の実施形態ないし第3の実施形態、第1の変形例および第2の変形例と同一の構成要素に同一の符号を付し、その説明を省略する。
第4の実施形態も、例えば第2の実施形態、第3の実施形態、第1の変形例と同様に、ダンパ21A−21Hと、制御装置23と、アクチュエータ11A−11D(いずれも図6および図7参照)とを備えている。さらに、第4の実施形態では、加速度センサ13A−13D,14A−14Dに加えて、ストロークセンサ(図示せず)も備えている。ストロークセンサとしては、例えば、第2の変形例と同様に、アクチュエータ11A−11Dと並列に配置され台車3A,3Bと車体2との間のストローク(変位)を検出するもの、および/または、ダンパ21A−21Hと並列に配置され台車3A,3Bと車輪5A−5Hとの間のストローク(変位)を検出するものを採用することができる。
第4の実施形態では、制御装置23のメモリ23A内に、第3の実施形態の図10に示す処理プログラム(または第2の変形例の図11に示す処理プログラム)に代えて、図12に示す処理プログラムが記憶されている。なお、図12中の各処理で、前述の図5,8,9,10,11に示した処理と同様の処理については、同じステップ番号を付して、その説明を省略する。
図4のS3で「YES」と判定されると、図12のS21に進む。S21でダンパ21A−21Hの減衰力をハードに固定すると、S11、S61の処理に進む。S61では、加速度センサ値、ストロークセンサ値を読込む。S61に続くS13−1で「NO」と判定されると、S52−1Aに進む。これに対して、S13−1で「YES」と判定されると、S52−1Bに進む。S52−1AおよびS52−1Bは、図11のS52−1と同様に、ダンパ21A−21Hがハードの状態での判定値(判定基準)に基づいてストロークセンサ値が正常範囲であるか否かを判定する。S52−1Aで「NO」と判定されると、S62に進み、ダンパ21A,21B(またはダンパ21C,21D)の異常と判定する。この場合は、S16に進んでから、図12および図13の処理を終了する。一方、S52−1Aで「YES」と判定された場合は、S63に進み、加速度センサ13A,13B(または13C,13D)の異常と判定する。この場合も、S16に進んでから、図12および図13の処理を終了する。一方、S52−1Bで「NO」と判定されると、S64に進み、ストロークセンサの異常と判定する。この場合も、S16に進んでから、図12および図13の処理を終了する。
これに対して、S52−1Bで「YES」と判定された場合は、S65に進み、正常判定と記録する。そして、図12および図13の符号「A」を介して図13のS31に進む。S31でダンパ21A−21Hの減衰力をソフトに固定すると、S61、S13−2に進む。S13−2で「NO」と判定されると、S52−2Aに進む。これに対して、S13−2で「YES」と判定されると、S52−2Bに進む。S52−2AおよびS52−2Bは、図11のS52−2と同様に、ダンパ21A−21Hがソフトの状態での判定値(判定基準)に基づいてストロークセンサ値が正常範囲であるか否かを判定する。S52−2Aで「NO」と判定されると、S62に進み、ダンパ21A,21B(またはダンパ21C,21D)の異常と判定する。一方、S52−2Aで「YES」と判定された場合は、S63に進み、加速度センサ13A,13B(または13C,13D)の異常と判定する。一方、S52−2Bで「NO」と判定されると、S64に進み、ストロークセンサの異常と判定する。S52−2Bで「YES」と判定されると、S65に進み、正常判定と記録する。図13のS62、S63、S64、S65でそれぞれ判定すると、S16に進んでから、図12および図13の処理を終了する。
このように第4の実施形態では、アクチュエータ11A−11Dによる台車3A,3Bの加振を、加速度センサ13A−13Dとストロークセンサとの異なる2種類のセンサを用いる。このため、加速度センサ13A−13Dとストロークセンサとの同時故障を考慮しなければ、加速度センサ13A−13Dとストロークセンサの両方が異常値を出力した場合は、ダンパ21A−21Hの異常と判定できる。加速度センサ13A−13Dのみが異常となった場合は、加速度センサ異常と判定できる。ストロークセンサのみが異常となった場合は、ストロークセンサ異常と断定できる。即ち、第4の実施形態では、加速度センサ13A−13Dとストロークセンサとの両方を用いることで、一度の異常検知診断で異常要因の特定が可能となる。なお、図12および図13の処理では、ダンパ21A−21Hの減衰力の設定をハードで判定してからソフトで判定するが、ソフトで判定してからハードで判定してもよい。また、ハードのみ、または、ソフトのみで判定してもよい。
第4の実施形態は、上述の如き異常判定の処理により、制御装置23とダンパ21A−21Hとセンサ13A−13D,14A−14Dとが正常であるか否かを判定するもので、その基本的作用については、第1の実施形態、第2の実施形態、第3の実施形態、第1の変形例、第2の変形例によるものと格別差異はない。特に、第4の実施形態では、台車3A,3Bまたは車体2に取り付けられたセンサを、加速度センサ13A−13D,14A−14Dおよびストロークセンサとしている。
このため、アクチュエータ11A−11Dを加振したときの加速度センサ13A−13D,14A−14Dの加速度信号(加速度センサ値)とストロークセンサのストローク信号(ストロークセンサ値)との両方に基づいて、ダンパ21A−21H、加速度センサ13A−13D,14A−14D、または、ストロークセンサの異常を判定することができる。即ち、加速度センサ13A−13D,14A−14Dの加速度信号(加速度センサ値)とストロークセンサのストローク信号(ストロークセンサ値)との両方を用いることができるため、一度の加振で異常要因を迅速に特定することができる。
なお、上述した各実施形態および各変形例では、アクチュエータ11A−11Dを用いて台車3A,3Bを加振するときに、所定の周波数で加振する。この場合、条件によっては台車3A,3Bの加振が不十分となり、正常にも拘わらず異常と検知される、即ち、誤検知に繋がる可能性がある。そこで、図14に示す第3の変形例のように、アクチュエータ11A−11Dで台車3A,3Bを加振するときに、その加振の周波数を台車振動系の共振周波数としてもよい。これにより、台車3A,3Bを大きく振動させることができ、異常の検知に十分な加振を行うことができる。
即ち、図14の処理は、第2の実施形態の図8の処理に代えて、第3の変形例で用いるものである。S21に続くS71では、アクチュエータ11A−11Dの振動を開始する。この場合、アクチュエータ11A−11Dを台車振動系の共振周波数で振動させる。このような第3の変形例では、台車を多く振動させることができ、センサの出力変化(例えば、加速度センサの出力変化、ストロークセンサの出力変化)を顕著にできる。即ち、第3の変形例では、アクチュエータ11A−11Dで台車3A,3Bを加振するときに、制御装置15(のアクチュエータ制御部)または制御装置23(のアクチュエータ制御部)は、アクチュエータ11A−11Dを台車3A,3Bの共振周波数で加振させる。このため、少ない制御力(加振力)で台車3A,3Bを大きく加振させることができ、センサ出力を大きくできる。これにより、より精度よく異常を検出することができる。
各実施形態および各変形例では、アクチュエータ11A−11Dを用いて、ダンパ21A−21Hまたはセンサ13A−13D,14A−14Dの異常を検知した。しかし、例えば、ダンパ21A−21Hで用いるオイルの粘度は、温度依存があり、夏季と冬季で相違する可能性がある。即ち、ダンパ21A−21Hの減衰力は、そのときの温度(例えば、夏季と冬季、寒冷地と温暖地)で異なるため、ダンパ21A−21Hが正常にも拘わらずダンパ異常と検知される、即ち、誤検知に繋がる可能性がある。そこで、図15に示す第4の変形例では、温度による減衰力変化も考慮して異常検知を行う。
即ち、図15の処理は、第3の変形例の図14の処理に代えて、第4の変形例で用いるものである。図15の処理では、アクチュエータ11A−11Dを加振する前に、温度情報を取得する。即ち、S21に続くS81で温度情報(ダンパ温度情報)を取得する。温度情報は、例えば、上位の制御装置から出力される上位信号からの外部温度(外気温度)、または、制御装置15,23で得られるアクチュエータ温度を用いることができる。この理由は、鉄道車両の始業前に異常検知を行うことを想定しているためである。
即ち、異常検知は、始業前の車両基地(車両整備場)での確認(判定)であり、運転開始前のアクチュエータ温度は、外気温度と略同一と考えることができる。そこで、S81では、ダンパの温度は、アクチュエータ温度または外気温度と同一と仮定し、温度情報(ダンパの温度情報)を取得する。S81で温度情報を取得したら、続くS82では、そのときの温度に合わせたセンサ値の正常範囲(判定基準)を決定する。そして、この温度に応じた正常範囲(判定基準)に基づいて、S71以降の処理(S13の異常検知)を行う。このような第4の変形例では、温度による減衰力変化を考慮でき、この面からも、より高い精度で異常検知が可能となる。
各実施形態および各変形例では、異常検知を行う鉄道車両は、始業点検前に車両基地(車両整備場)にいることを前提としていた。しかし、軌道と車輪の接触点を考慮した場合、常に軌道に対して車輪が同じ位置にいるとは限らない。この理由は、車輪踏面やレール断面は、走行距離や列車の通過数によって摩耗するためである。そこで、例えば、図16に示す第5の変形例では、車輪やレールの摩耗も考慮して異常検知を行う例を挙げる。
即ち、図16の処理は、第4の変形例の図15の処理に代えて、第5の変形例で用いるものである。図16の処理では、アクチュエータ11A−11Dを加振する前に、車両状態を取得する。即ち、S82に続くS91で車両状態を取得する。そして、S91では、例えば、台車と車体間に取り付けられたストロークセンサ値より車体の傾きを、車体と台車に設けた加速度センサのオフセット値から台車と車体の傾きを推定し、標準の試験状態に対しどれくらい変更しているのかを演算する。
S91に続くS92では、S91の演算の結果に基づいてセンサ値の正常範囲(判定基準)を決定する。この場合、S82の温度に合せた正常範囲を加味して最終的な正常範囲(判定基準)を決定することが好ましい、そして、この正常範囲(判定基準)に基づいて、S71以降の処理(S13の異常検知)を行う。このような第4の変形例では、軌道と車輪までも考慮でき、この面からも、より高い精度で異常検知が可能となる。
第1の実施形態では、アクチュエータ制御手段と異常検出部と1つの制御装置15に備える構成とした場合を例に挙げて説明した。また、第3の実施形態では、アクチュエータ制御手段と減衰力制御手段と異常検出部とを1つの制御装置23に備える構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、アクチュエータ制御手段と異常検出部とをそれぞれ別々の制御装置に備える構成としてもよい。また、例えば、アクチュエータ制御手段と減衰力制御手段と異常検出部とをそれぞれ別々の制御装置に備える構成としてもよい。また、例えば、アクチュエータ制御手段を一の制御装置に備えると共に、これとは別の制御装置となる他の制御装置に、減衰力制御手段と異常検出部とを備える構成としてもよい。このことは、その他の各実施形態および変形例についても同様である。
各実施形態および各変形例では、加速度センサ13A−13D,14A−14Dを台車3A,3Bと車体2との両方に設ける構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、センサを台車と車体とのいずれか一方に設ける構成としてもよい。このことは、ストロークセンサについても同様である。さらに、センサは、加速度センサ、ストロークセンサに限らず、ひずみセンサ等、車体または台車の振動状態を検知(推定も含む)できる各種のセンサを用いることができる。
各実施形態および各変形例では、アクチュエータ11A−11Dを上下方向に設けると共に上下方向に加振する構成とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、アクチュエータを左右方向に設けると共に左右方向に加振する構成としてもよい。
各実施形態および各変形例では、台車3A,3Bを加振させるアクチュエータ11A−11Dを電動リニアモータ(電動アクチュエータ)とした場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、アクチュエータとして、回転直動機構(例えばボールネジ機構)と回転式の電動モータ(電動アクチュエータ)、油圧シリンダ(油圧アクチュエータ)、エアシリンダ(気圧アクチュエータ)、空気ばね(気圧アクチュエータ)を用いてもよい。即ち、アクチュエータは、モータ式、油圧式、空気圧式等、各種のアクチュエータを用いることができる。この場合、例えば、空気ばねを含む車体傾斜装置をアクチュエータとして用いてもよい。
各実施形態(第1の実施形態を除く)および各変形例では、ダンパ21A−21Hを、減衰力特性を連続的(無段的)に変化させることが可能な減衰力調整式ダンパにより構成した場合を例に挙げて説明した。しかし、これに限らず、例えば、ダンパ(緩衝器)を、2段階(例えば、ONとOFF)または3段階、さらには、それ以上(4段階以上)で断続的(多段的)に減衰力特性を変化させることが可能な減衰力調整式の油圧緩衝器により構成してもよい。さらに、緩衝器は、セミアクティブ制御が可能な緩衝器に限らず、フルアクティブ制御が可能な緩衝器としてもよい。
さらに、各実施の形態および各変形例は例示であり、異なる実施形態および変形例で示した構成の部分的な置換または組み合わせが可能であることは言うまでもない。
以上説明した実施形態および変形例に基づく鉄道車両用制振装置として、例えば下記に述べる態様のものが考えられる。
(1).第1の態様としては、鉄道車両の車体と台車との間に設けられ、上下方向に加振をするアクチュエータと、前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段と、前記台車と前記台車に取り付けられる各車輪との間に設けられ、前記台車の振動を抑制する緩衝器と、前記車体または前記台車に設けられ、前記車体または前記台車の振動状態を検知するセンサと、を有する鉄道車両用制振装置であって、前記アクチュエータ制御手段により前記アクチュエータを所定の周波数で加振させることによって前記台車を加振させ、前記緩衝器または前記センサの異常を判定する異常検出部を有する。
この第1の態様によれば、異常検出部により、「台車とこの台車に取り付けられる各車輪との間に設けられる緩衝器」、または、「車体または台車に設けられるセンサ」の異常を判定することができる。この場合、アクチュエータにより台車を直接的に加振して異常を判定することができるため、緩衝器またはセンサの異常を、目視による確認と比較して迅速かつ精度よく判定することができる。これにより、緩衝器またはセンサの正常・異常の判定の精度、迅速性を向上できる。
(2).第2の態様としては、第1の態様において、前記緩衝器は、減衰力が調整可能な減衰力調整式ダンパであって、前記減衰力調整式ダンパの減衰力を制御する減衰力制御手段を有し、前記異常検出部は、前記減衰力調整式ダンパまたは前記センサの異常を判定する。この第2の態様によれば、減衰力調整式ダンパまたはセンサの正常・異常の判定の精度、迅速性を向上できる。
(3).第3の態様としては、第1の態様または第2の態様において、前記センサは、加速度センサまたはストロークセンサである。この第3の態様によれば、アクチュエータを加振したときの加速度センサの加速度信号(加速度センサ値)またはストロークセンサのストローク信号(ストロークセンサ値)に基づいて、緩衝器、加速度センサ、または、ストロークセンサの異常を判定することができる。しかも、加速度センサとストロークセンサとの両方を用いる場合、即ち、加速度信号(加速度センサ値)とストローク信号(ストロークセンサ値)との両方を用いる場合には、一度の加振で異常要因を迅速に特定することができる。
(4).第4の態様としては、第1の態様ないしは第3の態様のいずれかにおいて、前記アクチュエータ制御手段は、前記アクチュエータを前記台車の共振周波数で加振させる。この第4の態様によれば、少ない制御力(加振力)で台車を大きく加振させることができる。即ち、少ない制御力(加振力)でセンサの出力を大きくできる。これにより、正常・異常の判定をより精度よく行うことができる。
尚、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施形態は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
本願は、2018年11月28日付出願の日本国特許出願第2018−222252号に基づく優先権を主張する。2018年11月28日付出願の日本国特許出願第2018−222252号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書を含む全開示内容は、参照により本願に全体として組み込まれる。
本発明の一実施形態による鉄道車両用制振装置は、鉄道車両の車体と台車との間に設けられ、上下方向に加振をするアクチュエータと、前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段と、前記台車と前記台車に取り付けられる各車輪との間に設けられ、前記台車の振動を抑制する緩衝器と、前記車体または前記台車に設けられ、前記車体または前記台車の振動状態を検知するセンサと、を有する鉄道車両用制振装置であって、前記アクチュエータ制御手段は、前記アクチュエータの異常を判定すると共に前記アクチュエータを所定の周波数で加振させることによって前記台車を加振させ、前記緩衝器または前記センサの異常を判定する異常検出部を有する。
また、本発明の一実施形態による鉄道車両用制振装置による異常検出方法は、該鉄道車両用制振装置は、鉄道車両の車体と台車との間に設けられ、上下方向に加振をするアクチュエータと、前記アクチュエータを制御するアクチュエータ制御手段と、前記台車と前記台車に取り付けられる各車輪との間に設けられ、前記台車の振動を抑制する緩衝器と、前記車体または前記台車に設けられ、前記車体または前記台車の振動状態を検知するセンサと、を有し、前記アクチュエータ制御手段により、前記アクチュエータの異常を判定する工程と、前記アクチュエータ制御手段により、前記アクチュエータを所定の周波数で加振させることによって前記台車を加振する工程と、前記センサにより前記台車の振動状態を検出する工程と、前記センサにより検出した前記台車の振動状態が所定の範囲であるかを判定する工程と、を有する。