JPWO2020105741A1 - 細胞培養容器、その製造方法、及びそれを用いた細胞の製造方法 - Google Patents

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Abstract

本発明は、熱可塑性樹脂で構成された細胞培養容器であって、熱可塑性樹脂が、グルタルイミドアクリル系樹脂等の特定の樹脂を含み、細胞培養容器は、細胞収容部を備えた細胞培養容器本体を含み、細胞培養容器本体の底部の平均位相差が0〜15nmである細胞培養容器に関する。前記細胞培養容器は、熱可塑性樹脂を射出成形又は射出プレス成形することで作製することができる。前記細胞培養容器の細胞収容部中に収容されている細胞を光学的に観察して得られた所定の細胞画像を、人工知能(AI)を用いて解析することができる。これにより、生物化学関連用途で細胞培養の経過観察等細胞組織を観察する用途において、サンプル損失や破損による怪我のリスクが低く、また偏光や位相差を利用した顕微鏡観察に適した、細胞培養容器、その製造方法、及びそれを用いた細胞の製造方法を提供する。

Description

本発明は、低位相差の細胞培養容器、その製造方法、及びそれを用いた細胞の製造方法に関する。
細胞やその内部器官は、その屈折率が水に近く、通常の光学観察ではほぼ透明である。そのため、従来、生物化学関連用途で細胞や組織等を観察する場合において、蛍光色素を細胞が存在する培地に添加し、代謝や結合定数を利用して細胞内に取り込ませ、観察時に励起光を照射して蛍光発光させることで、コントラストを高める手法(蛍光ラベリング法)が用いられてきた。しかし、この蛍光ラベリング法を用いて培養容器中の生細胞を経時観察する場合には、蛍光色素や容器の開閉が細胞へのストレスとなり意図しない形質発現が生じる場合や、細胞の成長や生死に影響を与える場合があった。
近年進化する細胞医療等の分野では、特に細胞分化を伴う場合等においては、細胞数や代謝物等の濃度変化を追うだけでなく、個々の細胞の外形や細胞内形態を経時的に観察し、その形態変化の有無や内容等から培養状況を評価する等の細胞観察に対する要求が高まりつつある。細胞は、その表層や内部構造は、膜や繊維等で構成されている。これら膜や繊維では、タンパク質、脂質、及び核酸等の分子が空間特異的に配列されているので、その立体構造には空間的な異方性が存在する。この異方性はそこを通過する電磁波としての光にも検知され、光の各成分(光子)はその振動面と前記分子の配列の相対関係に依存してそれぞれ異なる速度で細胞中を通過する(すなわち「位相差(Retardation)」が生じる)。その結果、細胞を通過した光には細胞内部の構造に由来した情報が含まれることになる。この現象を利用して、細胞観察には、偏光顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡といった観察手段が適用されている。これら観察手段では共通して、偏光や位相差を利用して細胞を観察することで、得られる画像にコントラストを与えて視認性を改良しており、蛍光ラベリング法等の染色技術を用いることなく、生体内環境に近い環境で生細胞の観察を容易にしている。
ここで細胞を培養するための容器に着目すると、過去には素材にガラスが多く用いられた。ガラスは複屈折がなく、ガラス製容器は位相差を生じないため、前述のような偏光や位相差を利用した顕微鏡観察において容器由来の画像の歪みが生じず、細胞画像が鮮明に得られる。一方で、重く、割れ易く、一度に多量に取扱う際にはサンプル損失や作業者の怪我の危険が伴っていた。また、培養後に、オートクレーブ等で高温処理して細胞を死滅させた後に、ガラス製容器を洗浄し再利用するか、細胞を除去してからガラス製容器を廃棄する必要が有り、ここでも怪我の危険や効率が劣る場合があり、バリデーションの手間が生じる。近年では、ガラスの割れによる怪我及びサンプル損失等のリスク低減、培養後の廃棄の容易性から、ガラス製容器に代えて、プラスチック製培養容器が多く普及している。例えば、特許文献1には、ウェルの内側面が撥水性を有し、ウェルの底面が親水性を有するウェルを有するプラスチック製容器をポリスチレン等の材料で形成することが記載されている。特許文献2には、複屈折による波長633nmの光の位相差が30nm以下の微分干渉顕微鏡観察に用いる樹脂製プレートを底面に備えた細胞培養容器が提案されている。
特開2016−67322号公報 国際公開第2007/077899号
しかしながら、特許文献1には、位相差顕微鏡等によって個々の細胞の詳しい観察や細胞内部までを形態観察した事例は示されておらず、実際のところ、該文献に記載のポリスチレン製細胞培養容器を用いた場合、バックグラウンドに対する容器由来のコントラストが強いという問題があった。特許文献2には、位相差を23nmまで低減したPMMA(ポリメチルメタクリレート)製プレートが例示されているが、位相差顕微鏡等の偏光や位相差を利用した観察手段で細胞を観察するには、容器由来の位相差をさらに低減することが求められている。また、特許文献2では樹脂製プレートの位相差を低減するために、押出シートをプレス成形して特定の形に加工しており、射出成形等の量産手法を用いて複雑な形状であってもより簡便に成形できる培養容器の製造方法が望まれている。
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、生物化学関連用途、特に細胞培養の経過観察等細胞や組織を観察する用途において、サンプル損失や破損による怪我のリスクが低く、また偏光や位相差を利用した顕微鏡観察に適した、細胞培養容器、その製造方法、及びそれを用いた細胞の製造方法を提供する。
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、素材に特定の熱可塑性樹脂を選択し、細胞培養容器の位相差を特定範囲内に制御することで、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
本発明は、1以上の実施形態において、熱可塑性樹脂で構成された細胞培養容器であって、上記熱可塑性樹脂が、グルタルイミドアクリル系樹脂、マレイミドアクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系重合体、部分水添スチレン系共重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、及びフルオレニル基含有ポリカーボネート系重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、上記細胞培養容器は、細胞収容部を備えた細胞培養容器本体を含み、前記細胞培養容器本体の底部の平均位相差が0〜15nmであることを特徴とする細胞培養容器に関する。
本発明は、また、1以上の実施形態において、上記の細胞培養容器の製造方法であって、熱可塑性樹脂を射出成形又は射出プレス成形することで細胞培養容器を得ることを特徴とする細胞培養容器の製造方法に関する。
本発明は、また、1以上の実施形態において、上記の細胞培養容器の細胞収容部中に収容されている細胞を培養する工程と、前記細胞を光学的に観察する工程を含む細胞の製造方法に関する。
本発明の1以上の実施形態に係る細胞培養容器を用いて細胞の培養を行うことで、蛍光ラベリング等による細胞への意図しないストレスを与えることなく、偏光や位相差を利用した顕微鏡観察で、細胞の構造に由来した複屈折による位相差を効率よく捉え、容器に由来した複屈折による画像の歪みを排除して、細胞内部の構造まで鮮明な画質で観察することができる。また、本発明の1以上の実施形態に係る細胞培養容器を細胞培養に用いれば、偏光や位相差を利用した顕微鏡観察で得られた画像を自動で解析するに際し、容器由来の画像の歪みやコントラストが抑えられるので、人工知能(AI)等による解析において高い精度が期待できる。本発明の1以上の実施形態に係る細胞培養容器は、γ線照射滅菌によって起こる黄変の退色が速い。
図1は本発明の1例の細胞培養容器の模式的斜視図である。 図2は本発明の他の1例の細胞培養容器の模式的斜視図である。 図3は実施例1の細胞培養容器の位相差マッピング図であり、(a)は位相差の尺度であり、(b)は細胞培養容器本体の底部の位相差マッピング図であり、(c)は蓋の頂部の位相差マッピング図である。 図4は比較例の細胞培養容器の位相差マッピング図であり、(a)は位相差の尺度であり、(b)は比較例1の細胞培養容器本体の底部の位相差マッピング図であり、(c)は比較例1の蓋の頂部の位相差マッピング図であり、(d)は比較例2の細胞培養容器本体の底部の位相差マッピング図であり、(e)は比較例2の蓋の頂部の位相差マッピング図であり、(f)は比較例3の細胞培養容器本体の底部の位相差マッピング図であり、(g)は比較例3の蓋の頂部の位相差マッピング図である。 図5は実施例1の細胞培養容器中で培養中の生細胞を位相差顕微鏡で観察して得られた画像である。 図6は実施例1、比較例1及び3の細胞培養容器をγ線照射した後の黄色度指数(透過YIとも記す。)の経時的変化を示すグラフである。
以下に、本発明の実施の形態を具体的に説明するが、本発明は以下に説明する実施形態に限定されるものではない。
本発明の1以上の実施形態において、細胞培養容器は、細胞収容部を備えた細胞培養容器本体を含み、前記細胞培養容器本体の底部の平均位相差が0〜15nmである。これにより、細胞や細胞内器官由来の位相差に対して、容器由来の位相差が相対的に小さく、偏光や位相差を用いた細胞の顕微鏡観察に際して、細胞や細胞内部構造の高コントラストで鮮明な画像を得ることができる。上記細胞培養容器本体の底部の平均位相差は好ましくは0〜10nm、より好ましくは0〜5nm、さらにより好ましくは0〜3nmである。本発明の1以上の実施形態において、平均位相差とは、該当箇所の観察対象視野における位相差の面積平均値を言う。細胞培養容器本体の底部の平均位相差は、具体的には、細胞培養容器の底部を位相差マッピングしてデジタルイメージを取得し、対象視野をピクセルに分割して、各ピクセルの位相差絶対値から数平均値を求めることで代用することができる。位相差の測定(位相差マッピング)は、例えば、波長523nm、543nm、575nmの3波長測定で行うことができる。
細胞培養容器が二つ以上の部材からなる場合、例えば、細胞培養容器が、細胞培養容器本体と細胞培養容器本体に脱着可能に装着される蓋を含む場合、細胞培養容器本体(或いは細胞収容部)の底部の平均位相差と蓋の頂部の平均位相差の合計が0〜15nmであることが好ましく、より好ましくは0〜10nm、さらに好ましくは0〜5nm、特に好ましくは0〜3nmである。これにより、細胞培養容器の細胞収容部に収容されている細胞を蓋が装着された状態のまま、顕微鏡観察することができ、細胞観察時の細胞収容部への不純物の混入(コンタミネーション)が効果的に防止される。蓋の頂部の平均位相差は、具体的には、蓋の頂部を位相差マッピングしてデジタルイメージを取得し、対象視野をピクセルに分割して、各ピクセルの位相差絶対値から数平均値を求めることで代用することができる。位相差の測定(位相差マッピング)は、例えば、波長523nm、543nm、575nmの3波長測定で行うことができる。
また、上記細胞培養容器は、観察対象視野の面積にして95%の領域内での最大位相差(以下「95%最大位相差」ともいう。)が20nm以下であることが好ましく、15nm以下がより好ましく、9nm以下がさらに好ましい。95%最大位相差は、平均位相差の場合と同様に、細胞培養容器の位相差マッピングのデジタルイメージからピクセル毎の位相差のヒストグラムを作成し、位相差の小さい方から面積比率(ピクセル数の比率)を積算して95%に達するときの位相差で代用することができる。
本発明の1以上の実施形態において、細胞培養容器を構成する熱可塑性樹脂は、グルタルイミドアクリル系樹脂、マレイミドアクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系重合体、部分水添スチレン系共重合体(スチレン単量体及びそれと共重合可能な他の単量体を重合して得られるスチレン系共重合体の芳香族環を部分水素添加して得られる)、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、及びフルオレニル基含有ポリカーボネート系重合体からなる群から選択される1種以上を含む。これらの熱可塑性樹脂を用いることで、特殊な製造工程を経ることなく、通常の射出成形又は射出プレス成形にて平均位相差が低い成形体を得ることができる。また、これらの熱可塑性樹脂はγ線や電子線に対して耐久性を有することから、該熱可塑性樹脂で構成した容器はγ線や電子線による滅菌が可能であり、細胞培養容器として好適である。また、これらの熱可塑性樹脂は、透明性を有しており、該熱可塑性樹脂で構成した細胞培養容器中の細胞を光学的に観察するのに適している。中でも、複屈折及び光弾性が小さく、γ線滅菌または電子線滅菌が可能であることからグルタルイミドアクリル樹脂が特に好ましい。
細胞培養容器を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、メルトフローレートが好ましくは5〜50g/10分であり、より好ましくは5〜40g/10分であり、さらに好ましくは10〜35g/10分である。メルトフローレートが5g/10分未満の場合、樹脂流動性が低く、射出成形、特に射出プレス成形時に樹脂充填できない場合がある。また、50g/10分を超える場合、容器の最薄肉部が割れる恐れがある。熱可塑性樹脂のメルトフローレートは、ISO 1133に従い、260℃にて、37.3N荷重で測定することができる。
細胞培養容器を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、曲げ弾性率が好ましくは1,500〜6,000MPaであり、より好ましくは2,000〜6,000MPaであり、さらに好ましくは2,500〜5,000MPaである。上記範囲内であれば、細胞培養容器の底部の厚みが200μm以下の場合においても撓むことはなく、細胞観察ができる。熱可塑性樹脂の曲げ弾性率は、ISO178に従い、試験速度2mm/分、23℃にて測定することができる。
細胞培養容器を構成する熱可塑性樹脂は、特に限定されないが、重量平均分子量が1×104〜5×105の範囲であることが好ましく、3×104〜3×105の範囲であることがより好ましく、5×104〜2×105の範囲であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性及び成形体の機械的強度が良好になる。樹脂の重量平均分子量は、ガスパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC)によってクロロホルムを溶媒として用いて測定されたポリスチレン換算重量平均分子量を意味する。
(グルタルイミドアクリル系樹脂)
グルタルイミドアクリル系樹脂としては、ガラス転移温度が120℃以上であり、下記一般式(1)で表される単位と、下記一般式(2)で表される単位とを含むものを用いることができる。
Figure 2020105741
上記一般式(1)中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1〜8のアルキル基であり、R3は、水素、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。上記一般式(1)で表される単位を、以下、「グルタルイミド単位」ともいう。
上記一般式(1)において、好ましくは、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素又はメチル基であり、R3は、水素、メチル基、ブチル基、又はシクロヘキシル基であり、より好ましくは、R1はメチル基であり、R2は水素であり、R3はメチル基である。
グルタルイミドアクリル系樹脂は、グルタルイミド単位として、1種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(1)におけるR1、R2、及びR3のいずれか1つ、2つ又は全てが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
グルタルイミド単位は、下記一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位をイミド化することにより得ることができる。
グルタルイミドアクリル系樹脂において、グルタルイミド単位の含有量は特に限定されず、例えば、R3の構造等を考慮して適宜決定することができる。例えば、グルタルイミド単位の含有量は、グルタルイミドアクリル系樹脂全量を100重量%とした場合、1.0重量%以上が好ましく、3.0〜90重量%がより好ましく、5.0〜60重量%がさらに好ましい。グルタルイミド単位の含有量が上記範囲であると、グルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性及び透明性が良好になり、成形加工性も良く、成形体の機械的強度も高まる。グルタルイミドアクリル系樹脂の複屈折を抑制しやすい観点から、グルタルイミド単位の含有量は、20重量%以下が好ましく、15重量%以下がより好ましく、10重量%以下がさらに好ましい。なお、グルタルイミドアクリル系樹脂は、特に限定されないが、イミド化率が1〜90%であることが好ましく、3〜60%であることがより好ましく、5〜20%であることがさらに好ましい。イミド化率は、後述するとおりに測定することができる。
グルタルイミド単位の含有量は以下の方法により算出することができる。
<グルタルイミド単位の含有量>
1H‐NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、樹脂の1H−NMR測定を行い、樹脂中のグルタルイミド単位及びエステル単位等の各モノマー単位それぞれの含有量(mol%)を求め、当該含有量(mol%)を、各モノマー単位の分子量を使用して含有量(重量%)に換算する。
例えば、グルタルイミドアクリル系樹脂が上記一般式(1)におけるR3がメチル基であるグルタルイミド単位とメチルメタクリレート単位からなる樹脂の場合、3.5から3.8ppm付近に現れるメタクリル酸メチルのO−CH3プロトン由来のピークの面積aと、3.0から3.3ppm付近に現れるグルタルイミドのN−CH3プロトン由来のピークの面積bから、以下の計算式によりグルタルイミド単位の含有量(重量%)を求めることができる。
[メチルメタクリレート単位の含有量A(mol%)]=100×a/(a+b)
[グルタルイミド単位の含有量B(mol%)]=100×b/(a+b)
[グルタルイミド単位の含有量(重量%)]=100×(B×(グルタルイミド単位の分子量))/(A×(メチルメタクリレート単位の分子量)+B×(グルタルイミド単位の分子量))
なお、モノマー単位として上記以外の単位を含む場合においても、樹脂中の各モノマー単位の含有量(mol%)と分子量から、同様にグルタルイミド単位の含有量(重量%)を求めることができる。
Figure 2020105741
上記一般式(2)中、R4及びR5は、それぞれ独立して、水素又は炭素数1〜8のアルキル基であり、R6は、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、又は芳香環を含む炭素数5〜15の置換基である。上記一般式(2)で表される単位を、以下、「(メタ)アクリル酸エステル単位」ともいう。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「メタクリル酸又はアクリル酸」を意味する。
上記一般式(2)において、好ましくは、R4及びR5は、それぞれ独立して水素又はメチル基であり、R6は水素又はメチル基であり、より好ましくは、R4は水素であり、R5はメチル基であり、R6はメチル基である。
グルタルイミドアクリル系樹脂は、(メタ)アクリル酸エステル単位として、1種類のみを含んでいてもよいし、上記一般式(2)におけるR4、R5及びR6のいずれか一つ、二つ又は全てが異なる複数の種類を含んでいてもよい。
グルタルイミドアクリル系樹脂において、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、グルタルイミドアクリル系樹脂全量を100重量%とした場合、10〜99重量%が好ましく、40〜97重量%がより好ましく、80〜95重量%がさらに好ましい。
グルタルイミドアクリル系樹脂は、必要に応じて、下記一般式(3)で表される単位(以下、「芳香族ビニル単位」ともいう。)をさらに含んでもよい。
Figure 2020105741
上記一般式(3)中、R7は、水素又は炭素数1〜8のアルキル基であり、R8は、炭素数6〜10のアリール基である。
上記一般式(3)で表される単位としては特に限定されないが、スチレン単位、α−メチルスチレン単位が挙げられ、スチレン単位が好ましい。
グルタルイミドアクリル系樹脂は、芳香族ビニル単位として、1種類のみを含んでいてもよいし、R7及びR8のいずれか一方又は双方が異なる複数の単位を含んでいてもよい。
グルタルイミドアクリル系樹脂において、芳香族ビニル単位の含有量は特に限定されないが、グルタルイミドアクリル系樹脂全量を100重量%とした場合、0〜50重量%が好ましく、0〜20重量%がより好ましく、0〜15重量%がさらに好ましい。芳香族ビニル単位の含有量が上記範囲であると、グルタルイミドアクリル系樹脂の耐熱性が低下しない。なお、耐折り曲げ性及び透明性の向上、フィッシュアイの低減、さらに耐溶剤性又は耐候性の向上といった観点から、グルタルイミドアクリル系樹脂は芳香族ビニル単位を含まないことが特に好ましい。
グルタルイミドアクリル系樹脂には、必要に応じ、グルタルイミド単位、(メタ)アクリル酸エステル単位、及び芳香族ビニル単位以外のその他の単位がさらに含まれてもよい。
その他の単位としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド系単位;グルタル無水物単位;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル系単位;マレイミド、N−メチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等のマレイミド系単位等が挙げられる。
その他の単位は、グルタルイミドアクリル系樹脂中に、ランダム共重合により含まれていてもよいし、グラフト共重合により含まれてもよい。
その他の単位は、その単位を構成する単量体を、グルタルイミドアクリル系樹脂を製造する際の原料となる樹脂に対し共重合することで導入したものでもよい。また、後述のイミド化反応を行う際に、その他の単位が副生してグルタルイミドアクリル系樹脂に含まれることとなったものでもよい。
グルタルイミドアクリル系樹脂は、特に限定されないが、重量平均分子量が1×104〜5×105の範囲であることが好ましく、3×104〜3×105の範囲であることがより好ましく、5×104〜2×105の範囲であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性及び成形体の機械的強度が良好になる。
グルタルイミドアクリル系樹脂のガラス転移温度は、成形体が良好な耐熱性を発揮するよう120℃以上であり、好ましくは125℃以上である。
次に、グルタルイミドアクリル系樹脂の製造方法の一例を説明する。
まず、(メタ)アクリル酸エステルを重合することにより、(メタ)アクリル酸エステル重合体を製造する。グルタルイミドアクリル系樹脂が芳香族ビニル単位を含む場合には、(メタ)アクリル酸エステルと芳香族ビニルとを共重合させ、(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体を製造する。
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸t−ブチル、(メタ)アクリル酸ベンジル、及び(メタ)アクリル酸シクロヘキシルからなる群から選ばれる1種以上を用いることが好ましく、メタクリル酸メチルを用いることがより好ましい。
(メタ)アクリル酸エステルは、1種を単独で用いてもよいし、複数種を組み合わせて用いてもよい。複数種の(メタ)アクリル酸エステルを用いることにより、最終的に得られるグルタルイミドアクリル系樹脂に複数種の(メタ)アクリル酸エステル単位を含ませることができる。
上記芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン等を用いる。
上記(メタ)アクリル酸エステル重合体又は上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体の構造は、続くイミド化反応が可能なものであれば、特に限定されない。具体的には、ランダムコポリマー、ブロックポリマー、グラフトポリマー等が挙げられ、構造としては線状ポリマー、分岐状ポリマー、ラダーポリマー、架橋ポリマー等が挙げられる。均質な成形材料を得られる観点からランダムコポリマーが好ましく、成形性の観点からは線状ポリマー、分岐状ポリマーが好ましく、ポリマーの製造時の生産性の観点からは線状ポリマーが最も好ましい。
ブロックポリマーの場合、A−B型、A−B−C型、A−B−A型、及びこれら以外のタイプのブロックポリマーのいずれであってもよい。
上記(メタ)アクリル酸エステル重合体又は上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体は、具体的には、単量体として上述したものを用いる以外は、後述するマレイミドアクリル系樹脂と同様の重合工程にて重合し、必要に応じて脱気工程にて精製することで作製することができる。
上記(メタ)アクリル酸エステル重合体又は上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体に、イミド化剤を反応させることで、イミド化反応を行う。これにより、グルタルイミドアクリル系樹脂を製造することができる。
上記イミド化剤は、特に限定されず、上記一般式(1)で表されるグルタルイミド単位を生成できるものであればよい。具体的には、アンモニア又は一級アミンを用いることができる。上記一級アミンとしては、例えば、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、i−プロピルアミン、n−ブチルアミン、i−ブチルアミン、t−ブチルアミン、n−ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有一級アミン、アニリン、ベンジルアミン、トルイジン、トリクロロアニリン等の芳香族炭化水素基含有一級アミン、シクロヘキシルアミン等の脂環式炭化水素基含有一級アミン等が挙げられる。
上記イミド化剤としては、尿素、1,3−ジメチル尿素、1,3−ジエチル尿素、1,3−ジプロピル尿素等の、加熱によりアンモニア又は一級アミンを発生する尿素系化合物を用いることもできる。
上記イミド化剤のうち、コスト及び物性の面から、アンモニア、メチルアミン、又はシクロヘキシルアミンを用いることが好ましく、メチルアミンを用いることがより好ましい。
上記イミド化の工程においては、上記イミド化剤に加えて、必要に応じて、閉環促進剤を添加してもよい。
上記イミド化の工程では、上記イミド化剤の添加割合や反応時間を調整することにより、得られるグルタルイミドアクリル系樹脂におけるグルタルイミド単位の含有量を調整することができる。上記イミド化剤の添加割合や反応時間は用いる反応設備にも依存するので、適宜調整することができる。
上記イミド化反応を実施するための方法は特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。例えば、押出機、又は、バッチ式反応槽(圧力容器)を用いることでイミド化反応を進行させることができる。
上記押出機としては特に限定されず、各種押出機を使用できるが、例えば、単軸押出機、二軸押出機又は多軸押出機等を用いることができる。中でも、二軸押出機を用いることが好ましい。二軸押出機によれば、原料ポリマーとイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤及び閉環促進剤)との混合を促進することができる。
二軸押出機としては、例えば、非噛合い型同方向回転式、噛合い型同方向回転式、非噛合い型異方向回転式、及び噛合い型異方向回転式等が挙げられる。中でも、噛合い型同方向回転式が好ましい。噛合い型同方向回転式の二軸押出機は、高速回転可能であるため、原料ポリマーとイミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤及び閉環促進剤)との混合を、より一層促進することができる。上記例示した押出機は、1種を単独で用いてもよいし、複数を直列に連結して用いてもよい。
グルタルイミドアクリル系樹脂を製造するにあたっては、上記イミド化工程に加えて、エステル化剤で処理するエステル化工程を含むことができる。このエステル化工程によって、イミド化工程にて副生した、樹脂中に含まれるカルボキシル基を、エステル基に変換することができる。これにより、グルタルイミドアクリル系樹脂の酸価を所望の範囲内に調整することができる。
グルタルイミドアクリル系樹脂の酸価は特に限定されないが、0.50mmol/g以下であることが好ましく、0.45mmol/g以下であることがより好ましい。下限は特に制限されないが、実質的に0mmol/gであること(検出限界以下であること)が特に好ましい。酸価が上記範囲内であれば、耐熱性、機械物性、及び成形加工性のバランスに優れたグルタルイミドアクリル系樹脂を得ることができる。なお、酸価は、後述するとおりに測定算出することができる。
上記エステル化剤としては特に限定されず、例えば、ジメチルカーボネート、2,2−ジメトキシプロパン、ジメチルスルホキシド、トリエチルオルトホルメート、トリメチルオルトアセテート、トリメチルオルトホルメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルサルフェート、メチルトルエンスルホネート、メチルトリフルオロメチルスルホネート、メチルアセテート、メタノール、エタノール、メチルイソシアネート、p−クロロフェニルイソシアネート、ジメチルカルボジイミド、ジメチル−t−ブチルシリルクロライド、イソプロペニルアセテート、ジメチルウレア、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、ジメチルジエトキシシラン、テトラ−N−ブトキシシラン、ジメチル(トリメチルシラン)フォスファイト、トリメチルフォスファイト、トリメチルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、ジアゾメタン、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、シクロヘキセンオキサイド、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、ベンジルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらの中でも、コスト、反応性等の観点から、ジメチルカーボネート、又はトリメチルオルトアセテートが好ましく、コストの観点から、ジメチルカーボネートが特に好ましい。
上記エステル化剤の使用量は特に限定されないが、上記(メタ)アクリル酸エステル重合体又は上記(メタ)アクリル酸エステル−芳香族ビニル共重合体100重量部に対して0〜12重量部であることが好ましく、0〜8重量部であることがより好ましい。エステル化剤の使用量が上記範囲内であれば、グルタルイミドアクリル系樹脂の酸価を適切な範囲に調整できる。
上記エステル化剤に加え、触媒を併用することもできる。触媒の種類は特に限定されないが、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等の脂肪族3級アミンが挙げられる。これらの中でもコスト、反応性等の観点からトリエチルアミンが好ましい。
上記エステル化工程は、上記イミド化工程と同様、例えば、押出機、又は、バッチ式反応槽を用いることで進行させることができる。
上記エステル化工程は、エステル化剤を使用せずに、加熱処理のみによって実施することもできる。当該加熱処理は、押出機内で溶融樹脂を混練及び分散することで達成することができる。エステル化工程として加熱処理のみを行なう場合、イミド化工程にて副生した樹脂中のカルボキシル基同士の脱水反応、及び/又は、樹脂中のカルボキシル基と樹脂中のアルキルエステル基との脱アルコール反応等により、上記カルボキシル基の一部又は全部を酸無水物基とすることができる。この時、閉環促進剤(触媒)を使用することも可能である。
エステル化剤を用いたエステル化工程においても、並行して、加熱処理による酸無水物基化を進行させることが可能である。
イミド化工程及びエステル化工程ともに、使用する押出機には、大気圧以下に減圧可能なベント口を装着することが好ましい。このような機械によれば、未反応のイミド化剤、エステル化剤、メタノール等の副生物、又は、モノマー類を除去することができる。
グルタルイミドアクリル系樹脂の製造には、押出機に代えて、例えば住友重機械(株)製のバイボラックのような横型二軸反応装置や、スーパーブレンドのような竪型二軸撹拌槽等の、高粘度対応の反応装置も好適に用いることができる。
グルタルイミドアクリル系樹脂をバッチ式反応槽(圧力容器)を用いて製造する場合、そのバッチ式反応槽の構造は特に限定されない。具体的には、原料ポリマーを加熱により溶融させ、撹拌することができ、イミド化剤(閉環促進剤を用いる場合は、イミド化剤及び閉環促進剤)を添加することができる構造を有していればよいが、撹拌効率が良好な構造を有するものであることが好ましい。このようなバッチ式反応槽によれば、反応の進行によりポリマー粘度が上昇し、撹拌が不十分となることを防止することができる。このような構造を有するバッチ式反応槽としては、例えば、住友重機械(株)製の撹拌槽マックスブレンド等が挙げられる。
上述した製造方法によれば、グルタルイミド単位の含有量を所定の範囲に制御したグルタルイミドアクリル系樹脂を容易に製造することができる。
(マレイミドアクリル系樹脂)
マレイミドアクリル系樹脂としては、具体的には、下記一般式(4)で表されるマレイミド単位と(メタ)アクリル酸エステル単位とを有する共重合体を用いることができる。
Figure 2020105741
上記一般式(4)中、R11及びR12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、又は炭素数6〜14のアリール基であり、R13は、水素原子、炭素数7〜14のアリールアルキル基、炭素数6〜14のアリール基、炭素数3〜12のシクロアルキル基、炭素数1〜18のアルキル基、A群から選ばれる一種以上の置換基を有する炭素数6〜14のアリール基、又はB群から選ばれる一種以上の置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基であり、A群はハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基からなり、B群は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基からなる。
11及びR12における炭素数1〜12のアルキル基としては、炭素数1〜6のアルキル基が好ましく、炭素数1〜4のアルキル基がより好ましい。また、R11及びR12における炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられる。これらのうち、透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、又は2−エチルヘキシル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
11及びR12における炭素数6〜14のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好ましい。
11及びR12は、水素原子、炭素数1〜4のアルキル基、又はフェニル基であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
13における炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、ベンジル基が好ましい。
13における炭素数6〜14のアリール基としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられ、これらのうち、耐熱性及び低複屈折性等の光学的特性が一層向上する点において、フェニル基が好ましい。
13は、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基、炭素数1〜12のアルコキシ基、炭素数1〜12のアルキル基及び炭素数7〜14のアリールアルキル基からなる群(A群)より選ばれる基である。
置換基としてのハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、炭素数1〜10のアルコキシ基が好ましく、炭素数1〜8のアルコキシ基がより好ましい。また、置換基としての炭素数1〜12のアルコキシ基としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、n−ブチルオキシ基、イソブチルオキシ基、t−ブチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、1−デシルオキシ基、1−ドデシルオキシ基等が挙げられる。
置換基としての炭素数1〜12のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デカニル基、ラウリル基等が挙げられ、これらのうち、透明性及び耐候性が一層向上する点において、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、又は2−エチルヘキシル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
置換基としての炭素数7〜14のアリールアルキル基としては、例えば、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、3−フェニルプロピル基、6−フェニルヘキシル基、8−フェニルオクチル基等が挙げられ、これらのうち、ベンジル基、1−フェニルエチル基、2−フェニルエチル基、又は3−フェニルプロピル基が好ましい。
13において、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、置換基を有するフェニル基、置換基を有するナフチル基が好ましい。また、置換基を有する炭素数6〜14のアリール基としては、例えば、2,4,6−トリブロモフェニル基、2−クロロフェニル基、4−クロロフェニル基、2−ブロモフェニル基、4−ブロモフェニル基、2−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、4−エチルフェニル基、2−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、2−ニトロフェニル基、4−ニトロフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基等が挙げられ、これらのうち、難燃性が付与される点において、2,4,6−トリブロモフェニル基が好ましい。
13における炭素数3〜12のシクロアルキル基としては、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、トリシクロデシル基、ビシクロオクチル基、トリシクロドデシル基、イソボルニル基、アダマンチル基、テトラシクロドデシル基等が挙げられ、これらのうち、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、又はシクロオクチル基が好ましく、耐候性及び透明性等の光学特性が一層向上するとともに、低吸水性を付与できる点からは、シクロヘキシル基がより好ましい。
13における炭素数1〜18のアルキル基としては、炭素数1〜10のアルキル基が好ましく、炭素数1〜8のアルキル基がより好ましい。また、R13における炭素数1〜18のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、n−ドデシル基、n−オクタデシル基、2−エチルヘキシル基、1−デシル基、1−ドデシル基等が挙げられ、これらのうち、耐候性及び透明性等の光学特性が一層向上することから、メチル基、エチル基、又はイソプロピル基が好ましい。
13は置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基であってもよく、ここで置換基は、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、ニトロ基及び炭素数1〜12のアルコキシ基からなる群(A群)より選ばれる基である。ハロゲン原子及び炭素数1〜12のアルコキシ基としては、置換基として上記で説明したものを用いることができる。
13において、置換基を有する炭素数1〜12のアルキル基としては、ジクロロメチル基、トリクロロメチル基、トリフルオロエチル基、ヒドロキシエチル基等が挙げられ、これらのうち、トリフルオロエチル基が好適である。
上記一般式(4)で表されるマレイミド単位の具体例としては、無置換のマレイミド単位、N−メチルマレイミド単位、N−フェニルマレイミド単位、N−シクロヘキシルマレイミド単位、N−ベンジルマレイミド単位等が挙げられる。
マレイミド単位としては1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
マレイミドアクリル系樹脂において、マレイミド単位の含有量は特に限定されず、例えば、R13の構造等を考慮して適宜決定することができる。例えば、マレイミド単位の含有量は、マレイミドアクリル系樹脂全量を100重量%とした場合、1.0重量%以上が好ましく、1〜99重量%がより好ましく、1〜80重量%がさらに好ましい。マレイミド単位の含有量が上記範囲であると、光学等方性が良好になる。
マレイミドアクリル系樹脂が有する(メタ)アクリル酸エステル単位としては、グルタルイミドアクリル系樹脂で説明した一般式(2)で表される単位と同様のものを使用することができる。当該(メタ)アクリル酸エステル単位としては、1種類を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。マレイミドアクリル系樹脂において、(メタ)アクリル酸エステル単位の含有量は、例えば、マレイミドアクリル系樹脂全量を100重量%とした場合、1重量%以上が好ましく、1〜99重量%がより好ましく、20〜99重量%がさらに好ましい。
また、マレイミドアクリル系樹脂は、光学特性を調整するため、上述した一般式(3)で表される単位、すなわち芳香族ビニル単位をさらに有することが好ましい。マレイミドアクリル系樹脂は、上記一般式(3)で表される単位として、1種類のみを含んでいてもよいし、R7及びR8のいずれか一方又は双方が異なる複数の単位を含んでいてもよい。
マレイミドアクリル系樹脂において、一般式(3)で表される単位の含有量は特に限定されないが、マレイミドアクリル系樹脂全量を100重量%とした場合、0〜40重量%が好ましく、0〜20重量%がより好ましく、0〜15重量%がさらに好ましい。
マレイミドアクリル系樹脂には、必要に応じ、以上で説明した単位以外のその他の単位がさらに含まれていてもよい。その他の単位としては、グルタルイミドアクリル系樹脂で説明したのと同様のものを用いることができる。
マレイミドアクリル系樹脂の重量平均分子量は特に限定されないが、1×104〜5×105の範囲にあることが好ましく、3×104〜3×105の範囲であることがより好ましく、5×104〜2×105の範囲であることがさらに好ましい。上記範囲内であれば、成形加工性が良好になり、成形体の機械的強度も高まる。
マレイミドアクリル系樹脂は、例えば下記重合工程により得ることができる。また、下記脱揮工程により精製することができる。
<重合工程>
マレイミドアクリル系樹脂は、上記各構成単位の単量体から選ばれた単量体群を重合することにより得ることができる。マレイミドアクリル系樹脂の重合反応においては、互いに反応性しやすい単量体、及び/又は共重合性が高い単量体を組み合わせることが、得られるマレイミドアクリル系樹脂の樹脂組成比を、反応液に仕込む原料組成比に基づいて容易に制御することが可能であることから望ましい。
マレイミドアクリル系樹脂の重合方法として、例えば、キャスト重合、塊状重合、懸濁重合、溶液重合、乳化重合等、リビングラジカル重合、アニオン重合等の一般に行われている重合方法を用いることができる。微小な異物の混入はできるだけ避ける観点から、キャスト重合、溶液重合、懸濁重合、さらには懸濁剤や乳化剤を用いないキャスト重合や溶液重合を用いることが望ましい。
重合形式として、例えば、バッチ重合法、連続重合法のいずれも用いることができる。重合操作が簡単という観点からは、バッチ重合法が望ましく、より均一組成の重合物を得るという観点では、連続重合法を用いることが望ましい。
重合反応時の温度や重合時間は、使用する単量体の種類や割合等に応じて適宜調整できるが、例えば、重合温度が0〜150℃、重合時間が0.5〜24時間であり、好ましくは、重合温度が40〜150℃、重合時間が1〜15時間である。
ラジカル重合反応時には、必要に応じて、重合開始剤を添加してもよい。重合開始剤としては、一般にラジカル重合において用いられる任意の開始剤を使用することができ、例えば、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート、t−アミルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ラウロイルパーオキサイド等の有機過酸化物;2,2'−アゾビス(イソブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサンカルボニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、ジメチル−2,2'−アゾビスイソブチレート等のアゾ化合物等を挙げることができる。これらの重合開始剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
重合開始剤の使用量は、単量体の組合せや反応条件等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されるものではないが、単量体の総量を100重量部とした場合、好ましくは0.005〜5重量部の範囲で用いられる。
重合反応に必要に応じて用いられる分子量調節剤は、一般的なラジカル重合において用いる任意のものが使用され、例えばブチルメルカプタン、オクチルメルカプタン、ドデシルメルカプタン、及びチオグリコール酸2−エチルヘキシル等のメルカプタン化合物が特に好ましいものとして挙げられる。これらの分子量調節剤は、分子量が先述の範囲内に制御されるような濃度範囲で添加される。
重合反応時に溶剤を使用する場合、溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素系溶剤;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶剤;及びテトラヒドロフラン等のエーテル系溶剤等が挙げられる。これらの溶剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。使用する溶剤の沸点が高すぎると、最終的に得られるマレイミドアクリル系樹脂の残存揮発分が多くなることから、沸点が50〜200℃である溶剤が好ましい。
重合反応時には、必要に応じて、有機リン系化合物や有機酸を添加してもよい。これらの化合物が共存することで、副反応が抑制される、及び/又は未反応N−置換マレイミド量が低減されるため、得られるマレイミドアクリル系樹脂の成形加工時の着色が低減される場合がある。
有機リン系化合物としては、例えば、アルキル(アリール)亜ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;ジアルキル(アリール)ホスフィン酸及びこれらのエステル;アルキル(アリール)ホスホン酸及びこれらのジエステル又はモノエステル;アルキル亜ホスフィン酸及びこれらのエステル;亜リン酸ジエステル、亜リン酸モノエステル、亜リン酸トリエステル;リン酸ジエステル、リン酸モノエステル、リン酸トリエステル等が挙げられる。これらの有機リン系化合物は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機リン系化合物の使用量は、単量体の総量を100重量部とした場合、好ましくは0.001〜5.0重量部である。
有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、安息香酸、シクロヘキサンカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸等及びこれらの酸無水物等が挙げられる。これらの有機酸は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。有機酸の使用量は、単量体の総量100重量部に対して好ましくは0.001〜1.0重量部である。
重合反応を行う際には、重合体濃度としては重合中の除熱の観点から、反応液の粘度を適切にするために、10〜95重量%で実施することが好ましく、75重量%以下がより好ましく、60重量%以下がさらに好ましい。10重量%以上であれば、分子量と分子量分布の調整が容易である。95重量%以下であれば、高分子量の重合体を得ることができる。
得られた重合反応液の粘度を適切に保つという観点から、重合溶剤を適宜添加することができる。反応液の粘度を適切に保つことで、除熱を制御し、反応液中のミクロゲル発生を抑制することができる。特に、粘度が上昇する重合反応後半においては重合溶剤を適宜添加して重合体濃度が50重量%以下となるように制御することが更に好ましい。
重合溶剤を重合反応液に適宜添加する形態としては、特に限定されるものではなく、例えば、連続的に重合溶剤を添加してもよいし、間欠的に重合溶剤を添加してもよい。このように重合反応液中に生成したマレイミドアクリル系樹脂の濃度を制御することによって、反応器内部の温度均一性を向上させ、反応液のゲル化をより十分に抑制することができる。添加する重合溶剤としては、例えば、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤であってもよいし、異なる種類の溶剤であってもよいが、重合反応の初期仕込み時に使用した溶剤と同じ種類の溶剤を用いることが好ましい。また、添加する重合溶剤は、1種のみの単一溶剤であっても2種以上の混合溶剤であってもよい。
マレイミドアクリル系樹脂を懸濁重合法で重合する場合には、水性媒体中で行い、懸濁剤及び必要に応じて懸濁助剤を添加して行う。
懸濁剤としては、ポリビニルアルコール、メチルセルロース、ポリオキシエチレン−ポリオキシプロピレンブロック共重合体、ポリエチレンオキサイド、ポリアクリルアミド等の水溶性高分子、リン酸カルシウム、ピロリン酸マグネシウム等の無機物質等が挙げられる。懸濁剤は、単量体の総量100重量部に対して0.01〜2重量部使用するのが好ましい。
懸濁助剤としては、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤等の低分子界面活性剤、ホウ酸、炭酸ナトリウム、リン酸水素2ナトリウム、リン酸2水素ナトリウム、又は硫酸ナトリウム等の水溶性の無機塩等で挙げられる。懸濁助剤としては、リン酸水素2ナトリウム、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムが好ましい。また、懸濁剤として無機物質を使用する場合には、懸濁助剤を使用するのが好ましい。懸濁助剤は、単量体総量100重量部に対して0.001〜2重量部使用するのが好ましい。
<脱揮工程>
脱揮工程とは、重合溶剤、残存単量体、水分等の揮発分を、必要に応じて減圧加熱条件下で、除去処理する工程を意味する。この除去処理が不充分であると、得られたマレイミドアクリル系樹脂の残存揮発分が多くなり、成形時の変質等により着色することや、泡やシルバーストリーク等の成形不良が起こることがある。残存揮発分量は、マレイミドアクリル系樹脂100重量%に対して1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.4重量%以下、更により好ましくは0.3重量%以下である。残存揮発分量とは、前述した重合反応時に反応しなかった残存単量体、重合溶媒、副反応生成物の合計量に相当する。
脱揮工程に用いる装置としては、例えば、熱交換器と脱揮槽からなる脱揮装置;ベント付き押出機;脱揮装置と押出機を直列に配置したもの等が挙げられる。ベント付き押出機を用いる場合、ベントは1個でもよく、複数個でもよいが、複数個のベントを有する方が好ましい。
脱揮工程の温度は、好ましくは150〜350℃、より好ましくは170〜330℃、さらに好ましくは200〜300℃である。脱揮工程の温度が150℃以上であると、残存揮発分を抑制することができる。脱揮工程の温度が350℃以下であると、得られたマレイミドアクリル系樹脂の着色や分解を抑えることができる。
脱揮工程における圧力は、好ましくは1.33〜931hPa(1〜700mmHg)、より好ましくは13.3〜800hPa(10〜600mmHg)、さらに好ましくは20.0〜667hPa(15〜500mmHg)である。脱揮工程における圧力が1.33hPa(1mmHg)以上であると、工業的に容易に実施することができる。脱揮工程における圧力が931hPa(700mmHg)以下であると、揮発分が残存しにくくなる。
処理時間は、残存揮発分の量により適宜選択されるが、得られたマレイミドアクリル系樹脂の着色や分解を抑えるためには短いほど好ましい。多量に未反応単量体を含む重合反応液を処理する場合には、問題となる単量体は、例えば、芳香族炭化水素系溶剤、炭化水素系溶剤、又はアルコール系溶剤等を重合溶液に添加した後、ホモジナイザー(乳化分散)処理を行い、未反応単量体について液−液抽出、固−液抽出する等の前処理を施すことで重合反応液から分離できる。前処理による単量体分離後の重合反応液を前述した脱揮工程に供すると、得られるマレイミドアクリル系樹脂100重量%中に残存する単量体の合計を1重量%以下に抑えることができる。
グルタルイミドアクリル系樹脂とマレイミドアクリル系樹脂を併用する場合、マレイミドアクリル系樹脂の含有量は、成形体の所望の物性に応じて、適宜決定することができ、例えば、マレイミドアクリル系樹脂とグルタルイミドアクリル系樹脂の合計100重量部に対して1〜99重量部であることが好ましい。より好ましくは1〜80重量部であり、さらに好ましくは5〜70重量部である。
細胞培養容器は、3次元細胞培養等を含むあらゆる細胞培養に用いることができる。培養細胞としては、特に限定されず、例えば、浮遊細胞、接着細胞等が挙げられる。脊椎動物の細胞を培養する場合には、接着細胞が適している。接着細胞としては、例えば、胚性幹細胞(ES細胞)及び誘導性多能性幹細胞(iPS細胞)等の多能性幹細胞、幹細胞、前駆細胞、体細胞、生殖細胞等が挙げられる。浮遊細胞としては、例えば、T細胞、B細胞等の血球系細胞等が挙げられる。これらの細胞は、組織を形成していてもよい。組織としては、例えば、軟骨組織、骨組織、筋組織、角膜組織、血管組織等が挙げられる。組織は、生体から分離した組織であってもよいし、幹細胞から分化させた組織であってもよい。培地は、特に限定されず、目的や用途等に応じて適宜決めればよく、通常細胞培養に用いる培地を適宜用いることができる。培養条件等も、特に限定されず、目的や用途等に応じて適宜決めればよく、細胞培養の一般的な条件等を適宜適用することができる。
細胞培養容器は、細胞培養に用いることができればよく、その構造は特に限定されないが、細胞を収容する細胞収容部を備えた細胞培養容器本体を含む。細胞収容部は、開口、側部及び底部を有する非貫通孔であってもよい。細胞収容部には、開口から、培養対象細胞及び培地が注入される。細胞培養容器は、例えば、細胞培養容器本体が細胞収容部となるシャーレ(ディッシュとも称される。)であってもよく、細胞培養容器本体が細胞収容部であるウェルを複数個有するマイクロプレート(ウェルプレートとも称される。)であってもよい。シャーレの場合、細胞収容部である細胞培養容器本体が仕切りで複数個に分割されてもよい。マイクロプレートの場合、ウェルの数は特に限定されず、例えば、4ウェル、6ウェル、12ウェル、24ウェル、48ウェル、96ウェルであってもよい。シャーレやマイクロプレートは、特に限定されず、細胞培養に用いられる一般的なシャーレやマイクロプレートと同様の形状にすることができる。細胞培養容器は、マイクロ流路を有するマイクロ流体デバイス(マイクロ流体チップとも称される。)を細胞培養容器本体としてもよい。マイクロ流路が細胞収容部となる。
本発明の1以上の実施態様において、細胞培養容器が親水性を有する熱可塑性樹脂で構成されているため、細胞収容部の内壁面全体が親水性を有することにより、培地との親和性が良好になる。本発明の1以上の実施形態において、培養対象細胞が接着性細胞の場合は、細胞や細胞外マトリックス等の足場材料等が細胞収容部の内表面へ接着しやすくなるように、必要に応じて容器の滅菌後または滅菌前に内壁面の親水性を制御する工程を適用することができる。また、培養対象細胞が浮遊細胞の場合は、疎水性相互作用による細胞等が細胞収容部の内表面へ付着することを防止することができる。親水性を制御する方法としては、細胞培養容器の内壁面に親水性を付与する方法を適宜用いることができ、特に限定されないが、例えば、2−メタクリロイルエチルフォスフォリルコリン、ポリ−D−リジン、I型コラーゲン等をコーティングする方法、IHI技報(義久久美子他,「プラズマによるプラスチックの表面改質」,IHI技報,Vol.52,No.4(2012)65−69)に記載の方法、コロナ放電を用いる方法等を用いることができる。
細胞培養容器は、さらに、脱着可能に細胞培養容器本体に装着することができる蓋を含んでもよい。前記蓋の平均位相差が0〜10nmであることが好ましく、より好ましくは0〜7nmであり、さらに好ましくは0〜5nmである。細胞培養容器本体に蓋が装着されることで、細胞収容部への不純物の混入(コンタミネーション)が防止される。特に、細胞培養容器本体及び蓋を含む細胞培養容器の平均位相差が15nm以下であることで、細胞培養容器の細胞収容部に収容されている細胞を蓋が装着された状態のまま、顕微鏡観察することができ、細胞観察時の細胞収容部への不純物の混入(コンタミネーション)が効果的に防止される。
細胞培養容器は、固定焦点式の倒立型位相差顕微鏡等を用いる場合には、焦点距離の観点から厚みが1〜200μmである薄肉部を有することが好ましく、より明瞭な画像を得る観点から薄肉部の厚みは5〜50μmがより好ましく、10〜20μmがさらに好ましい。培養細胞を顕微鏡観察し、より鮮明な画像を得やすい観点から、薄肉部は、細胞収容部の底部に配置されていることがより好ましい。細胞を観察しやすい観点から、細胞収容部の底面は平面であることが好ましい。また、細胞収容部の底面は平面であると、培養細胞が接着細胞の場合、細胞が底面に接着し単層で展開しやすくなるので、倒立型顕微鏡を用いた観察の自動化等が容易になる。
前記細胞培養容器において、薄肉部から厚肉部に変わる箇所にはRが設けられており、前記Rは0.01〜20であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10であり、さらに好ましくは0.3〜5である。Rを設けることで、細胞培養容器を運搬する時や使用する時、割れにくくなる。Rが0.01以上であると、細胞培養容器の割れを効果的に防止でき、Rが20以下であると、細胞を観察可能な視野が狭くならない。また、薄肉部から厚肉部に変わる箇所において、抜き勾配は、好ましくは0.1〜5°であり、より好ましくは0.5〜3°であり、さらに好ましくは1〜3°である。
細胞培養容器は、光学的細胞観察に好適に用いる観点から、全光線透過率が80%以上であることが好ましく、より好ましくは85%以上である。
前記細胞培養容器は、γ線照射する前(滅菌前)の透過YI値に対する照射線量10kGyのγ線照射後(滅菌後)4週間経過した後の透過YI値の変化率が8%以下であることが好ましく、7.5%以下であることがより好ましく、7.0%以下であることがさらに好ましい。また、照射線量10kGyのγ線照射後4週間経過した後の透過YIの値は1.2以下であることが好ましく、0.9以下であることがより好ましい。
図1は、本発明の1例の細胞培養容器の模式的斜視図である。該細胞培養容器10(シャーレ)は、細胞培養容器本体1と、細胞培養容器本体1に脱着化可能に装着される蓋3を含む。該細胞培養容器10は、細胞収容部2を1つ有しており、細胞培養容器本体1自体が細胞収容部2となる。
図2は、本発明の他の1例の細胞培養容器の模式的斜視図である。該細胞培養容器20(マイクロプレート)は、細胞培養容器本体21を含む。該細胞培養容器本体21は、細胞収容部22(ウェル)を4つ備えている。各細胞収容部22は、仕切り23で区分けられている。仕切り23はなくてもよく、成形加工性等を考慮し、適宜決めればよい。図示はないが、細胞培養容器20は、細胞培養容器本体21に脱着化可能に装着される蓋を含んでもよい。
本発明の1以上の実施形態において、細胞培養容器は、射出成形又は射出プレス形成で作製することができる。通常、熱可塑性樹脂を射出成形又は射出プレス形成して得られた成形体は、射出条件、金型形状、ゲート形状等によって配向や残留歪が生じ、配向複屈折が生じて位相差が高くなるが、本発明の1以上の実施形態においては、上述した熱可塑性樹脂、特にグルタルイミドアクリル系樹脂及び/又はマレイミドアクリル系樹脂を用いることで、形状や成形条件によらず、成形体における配向複屈折が小さく、位相差が小さい成形体を得ることができる。
細胞培養容器が薄肉部を有する場合は、前述のごとく固定焦点式倒立顕微鏡を用いる観点から、熱可塑性樹脂を射出成形又は射出プレス成形して成形体にする際、或いは、熱可塑性樹脂を射出成形又は射出プレス成形して成形体にした後に、上記成形体と、熱可塑性樹脂で構成され、厚みが1〜200μmのフィルムを一体化し、薄肉部を有する細胞培養容器を得ることが好ましい。
特に、射出プレス成形を用いて1工程で厚みが1〜200μmの薄肉部を有する細胞培養容器を製造することがより好ましい。
本願発明では、グルタルイミドアクリル系樹脂等の特定の熱可塑性樹脂を用いることで、射出プレス成形の1工程のみで、厚みが1〜200μmの薄肉部を有する細胞培養容器を成形することができ、インサートの工程短縮により生産効率が向上する。一方、ポリスチレン等の他の樹脂の場合、薄肉部を有する細胞培養容器を製造するには、別途作製したフィルムを金型にインサートした後、射出成形する必要があり、インサート等に時間を要し、生産効率が悪い。
射出成形は、一般的に公知の射出成形機等の装置を用いる成形方法であれば特に限定されない。射出成形機は、縦型でも横型でもよい。射出成形では、一般に公知の成形技術を用いることもできる。射出成形は、射出プレス成形であることが好ましい。
射出成形で得られた細胞培養容器は、γ線や電子線等で滅菌することができる。本発明の1以上の実施形態の細胞培養容器が上述した熱可塑性樹脂で構成されていることで、細胞培養容器はγ線や電子線等による滅菌時に、割れ、変形、劣化等のトラブルが発生することが抑制される。γ線や電子線等による滅菌は、一般的な細胞培養容器の場合と同様にして行うことができる。
細胞培養容器を用いて、細胞を製造することができる。本発明の1以上の実施形態において、細胞の製造方法は、具体的には、細胞培養容器の細胞収容部中に収容されている細胞を培養する工程と、該細胞を光学的に観察する工程を含むことができる。
本発明の1以上の実施形態の細胞培養容器が上述した熱可塑性樹脂で構成され、かつ細胞培養容器本体の底部の平均位相差が15nm以下であり、好ましくは細胞培養容器本体の底部の平均位相差及び蓋の平均位相差の合計が15nm以下であることから、該細胞培養容器で培養中の細胞をそのままの状態(好ましくは蓋をした状態)、具体的には、細胞収容部に収容された状態(好ましくは蓋をした状態)で、光学的に観察し、細胞の構造に由来した複屈折による位相差を効率よく捉え、容器に由来した複屈折による画像の歪みを排除して、細胞内部の構造まで鮮明な画質で観察することができる。特に偏光や位相差を利用した顕微鏡、具体的には、偏光顕微鏡、位相差顕微鏡、又は微分干渉顕微鏡で観察して細胞の画像を得ることが好ましい。このように、細胞に対して染色又は色素ラベリングを行わずに細胞を観察することで、細胞の意図しない形質発現を生じさせず、また、細胞の成長や生死に影響を与えることがない。また、3次元細胞培養後に、共焦点レーザー顕微鏡にて細胞を観察することができる。なお、蛍光タンパク質による蛍光ラベリングを行った細胞を、蛍光観察することも可能である。
本発明の1以上の実施形態の細胞の製造方法では、細胞内器官についても鮮明な画像を得ることができ、細胞内器官を効果的に観察することができ、容易に細胞の形態を判別することができる。また、細胞培養容器で培養中の細胞をそのままの状態で観察することができるため、生細胞を観察するのに好適である。特に、細胞培養容器で培養中の生細胞を連続的に観察することができるため、同一視野を異なる時刻に観察したときに異なるパターンの画像を得ることができ、細胞の健常性や、細胞増殖速度等をより高い精度で判別することができる。
細胞を観察して得られた細胞の画像は、画像処理等によって解析することで、細胞数、細胞密度、細胞接着面積、細胞運動性、細胞増殖速度、細胞内部形態等の情報を取得することができる。具体的には、細胞を観察して得られた複数の画像を電子化したデジタル画像データを蓄積した画像データベースを構築し、該画像データベースに基づいて、細胞を観察して得られた所定の画像を自動的に解析することができる。画像データベースには、画像とともに、該画像に対応する細胞の各種情報、例えば、種類及び培養時間等を関連付けで蓄積することができる。
本発明の1以上の実施形態において、細胞画像の自動解析は、人工知能(AI)を用いて行うことが好ましく、人工知能の深層学習である畳み込みニューラルネットワークを用いて行うことがより好ましい。画像解析のパラメータとしては、特に限定されないが、例えば、細胞数、細胞密度、細胞接着面積、細胞運動性、細胞増殖速度、細胞内部形態のパターンによる分類等が挙げられる。本発明の1以上の実施形態に係る細胞培養容器を用いることで、該細胞培養容器中で培養した細胞に対して、偏光や位相差を利用した顕微鏡観察で得られた画像を自動で解析するに際し、容器由来の画像の歪みやコントラストが抑えられるので、人工知能(AI)等による解析において微小な変化も検出できるなど、高い精度が期待できる。
本発明は、特に限定されないが、例えば以下の態様を含む。
[1] 熱可塑性樹脂で構成された細胞培養容器であって、
前記熱可塑性樹脂が、グルタルイミドアクリル系樹脂、マレイミドアクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系重合体、部分水添スチレン系共重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、及びフルオレニル基含有ポリカーボネート系重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記細胞培養容器は、細胞収容部を備えた細胞培養容器本体を含み、前記細胞培養容器本体の底部の平均位相差が0〜15nmである、ことを特徴とする細胞培養容器。
[2] 前記細胞培養容器は、さらに前記細胞培養容器本体に脱着可能に装着される蓋を含み、前記細胞培養容器本体の底部の平均位相差及び前記蓋の平均位相差の合計が0〜15nmである、[1]に記載の細胞培養容器。
[3] 前記熱可塑性樹脂は、グルタルイミドアクリル系樹脂である、[1]又は[2]に記載の細胞培養容器。
[4] 前記熱可塑性樹脂は、(1)メルトフローレート 5〜50g/10分、(2)曲げ弾性率 1,500〜6,000MPa、及び(3)重量平均分子量 1×104〜5×105のいずれか1つ以上の要件を満たす、[1]〜[3]のいずれかに記載の細胞培養容器。
[5] 前記細胞培養容器は、厚みが1〜200μmの薄肉部を有し、薄肉部から厚肉部に変わる箇所のRが0.01〜20であり、抜き勾配は0.1〜5°である、[1]〜[4]のいずれかに記載の細胞培養容器。
[6] 前記細胞培養容器は、γ線照射する前の透過YI値に対する照射線量10kGyのγ線照射後4週間経過した後の透過YI値の変化率が8%以下である、及び/又は、照射線量10kGyのγ線照射後4週間経過した後の黄色度指数が1.2以下である、[1]〜[5]のいずれかに記載の細胞培養容器。
[7] 前記細胞培養容器本体が、シャーレ、ディッシュ、マイクロプレート、ウェルプレート、及びマイクロ流体デバイスからなる群から選択される少なくとも1種である、[1]〜[6]のいずれかに記載の細胞培養容器。
[8] [1]〜[7]のいずれかに記載の細胞培養容器の製造方法であって、
熱可塑性樹脂を射出成形又は射出プレス成形することで細胞培養容器を得ることを特徴とする細胞培養容器の製造方法。
[9] 熱可塑性樹脂を射出プレス成形して、厚みが1〜200μmの薄肉部を有する細胞培養容器を得る、[8]に記載の細胞培養容器の製造方法。
[10] [1]〜[7]のいずれかに記載の細胞培養容器の細胞収容部中に収容されている細胞を培養する工程と、前記細胞を光学的に観察する工程を含む、細胞の製造方法。
[11] 前記細胞を偏光顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡又は共焦点レーザー顕微鏡で観察して細胞の画像を得る、[10]に記載の細胞の製造方法。
[12] 前記細胞に対して染色又は色素ラベリングを行わずに細胞を観察する、[10]又は[11]に記載の細胞の製造方法。
[13] 細胞内器官を観察対象とする、[10]〜[12]のいずれかに記載の細胞の製造方法。
[14] 生細胞を観察する、[10]〜[13]のいずれかに記載の細胞の製造方法。
[15] 同一視野を異なる時刻に観察したときに異なるパターンの画像が得られる、[10]〜[14]のいずれかに記載の細胞の製造方法。
[16] さらに、細胞を観察して得られた複数の画像を電子化したデジタル画像データを蓄積した画像データベースを構築する工程と、
前記画像データベースに基づいて、細胞を観察して得られた所定の画像を、人工知能(AI)を用いて解析する工程を含む、[10]〜[15]のいずれかに記載の細胞の製造方法。
[17] 前記画像解析は、前記人工知能の深層学習である畳み込みニューラルネットワークを用いる、[16]に記載の細胞の製造方法。
以下では、本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。なお、本発明は、下記の実施例に限定されない。以下で「部」及び「%」は、特記ない限り、「重量部」及び「重量%」を意味する。
(イミド化率)
イミド化率の算出は、IR(赤外分光光度計)を用いて下記の通り行った。対象物のペレットを塩化メチレンに溶解し、その溶液について、SensIR Tecnologies社製TravelIRを用いて、室温(23±2℃)にてIRスペクトルを測定した。得られたIRスペクトルより、1720cm-1のエステルカルボニル基に帰属する吸収強度(Absester)と、1660cm-1のイミドカルボニル基に帰属する吸収強度(Absimide)との比からイミド化率(Im%(IR))を求めた。ここで、「イミド化率」とは、全カルボニル基中のイミドカルボニル基の占める割合をいう。
(グルタルイミド単位の含有量)
1H−NMR BRUKER AvanceIII(400MHz)(株式会社日立ハイテクサイエンス製)を用いて、樹脂の1H−NMR測定を行い、樹脂中のグルタルイミド単位及びエステル単位等の各モノマー単位それぞれの含有量(mol%)を求め、当該含有量(mol%)を、各モノマー単位の分子量を使用して含有量(重量%)に換算した。
(酸価)
グルタルイミドアクリル系樹脂0.3gを37.5mLの塩化メチレン及び37.5mLのメタノールの混合溶媒の中で溶解した。得られた溶解液にフェノールフタレインエタノール溶液を2滴加えた後に、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を5mL加えた。過剰の塩基を0.1N塩酸で滴定し、酸価を、添加した塩基と中和に達するまでに使用した塩酸との間のミリ当量で示す差で算出した。
(ガラス転移温度)
セイコーインスツルメンツ製の示差走査熱量分析装置(DSC)SSC−5200を用い、試料を一旦200℃まで25℃/分の速度で昇温した後10分間ホールドし、25℃/分の速度で50℃まで温度を下げる予備調整を経て、10℃/分の昇温速度で200℃まで昇温する間の測定を行い、得られたDSC曲線から微分値を求め(DDSC)、その極大点からガラス転移温度を求めた。
(メルトフローレート)
ISO 1133に従い、260℃にて、37.3N荷重で測定した。測定には90℃で5時間以上乾燥したペレットを用いた。
(重量平均分子量)
樹脂試料を約20mg/10mlのクロロホルム溶液とし、その溶液をゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)分析することにより重量平均分子量を決定した。GPCシステムCBM−20A((株)島津製作所製)を用い、クロロホルムを溶出液としてセル温度40℃、流量1.0mL/分で展開し、ポリスチレン換算で解析した。
(曲げ弾性率)
ISO178に従い、試験速度2mm/分、23℃にて測定した。
(全光線透過率)
成形体(細胞培養容器本体の底部及び蓋の頂部)の全光線透過率は、日本電色工業株式会社製のヘーズメーターNDH−300Aを用い、JIS K 7105に記載の方法にて測定した。
(厚み)
成形体の各部分の厚みは、デジマティックインジケーター(株式会社ミツトヨ製)を用いて測定した。
(平均位相差)
ワイドレンジ複屈折評価システム(Photonic Lattice社製のWPA−200−L)で、細胞培養容器本体の底部及び蓋の頂部の位相差マッピングのデジタルイメージを取得した。位相差の測定は、波長523nm、543nm、575nmの3波長測定で実施した。得られたデジタルイメージにおいて、対象視野をピクセルに分割して、各ピクセルの位相差絶対値から数平均値を求めることで、細胞培養容器本体の底部及び蓋の頂部のそれぞれの平均位相差を算出した。
(透過YI)
分光測色計SC−P(スガ試験機株式会社製)を用いて、γ線照射前及び照射線量10kGyのγ線照射後所定期間経過した後の細胞培養容器の透過YIを測定した。γ線照射の照射線量は10kGyとした。
(製造例1)
<グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)の製造>
原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル(メタクリル酸メチル単独重合体)、イミド化剤としてモノメチルアミンを用いて、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を製造した。この製造においては、押出反応機を2台直列に並べたタンデム型反応押出機を用いた。タンデム型反応押出機としては、第1押出機、第2押出機共に直径が75mm、L/D(押出機の長さLと直径Dの比)が74の噛合い型同方向二軸押出機を使用し、定重量フィーダー(クボタ(株)製)を用いて、第1押出機の原料供給口に原料樹脂を供給した。
第1押出機、第2押出機における各ベントの減圧度は−0.095MPaとした。更に、直径38mm、長さ2mの配管で第1押出機と第2押出機を接続し、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力制御機構には定流圧力弁を用いた。
第2押出機から吐出された樹脂(ストランド)は、冷却コンベアで冷却した後、ペレタイザでカッティングしペレットとした。ここで、第1押出機の樹脂吐出口と第2押出機の原料供給口を接続する部品内圧力調整、又は押出変動を見極めるために、第1押出機の吐出口、第1押出機と第2押出機間の接続部品の中央部、及び、第2押出機の吐出口に樹脂圧力計を設けた。
第1押出機において、原料樹脂としてポリメタクリル酸メチル樹脂(メタクリル酸メチル単独重合体、Mw:10.5万、三菱レイヨン株式会社製「VH−001」)を使用し、イミド化剤として、モノメチルアミンを用いてイミド樹脂中間体1を製造した。この際、押出機の最高温部の温度は280℃、スクリュー回転数は55rpm、原料樹脂供給量は150kg/時間、モノメチルアミンの添加量は原料樹脂100部に対して2.0部とした。定流圧力弁は第2押出機の原料供給口直前に設置し、第1押出機のモノメチルアミン圧入部圧力を8MPaになるように調整した。
第2押出機において、リアベント及び真空ベントで残存しているイミド化剤及び副生成物を脱揮したのち、エステル化剤として炭酸ジメチルを添加しイミド樹脂中間体2を製造した。この際、押出機の各バレル温度は260℃、スクリュー回転数は55rpm、炭酸ジメチルの添加量は原料樹脂100部に対して3.2部とした。更に、ベントでエステル化剤を除去した後、ストランドダイから押し出し、水槽で冷却した後、ペレタイザでペレット化することで、グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を得た。
得られたグルタルイミドアクリル系樹脂(A1)は、一般式(1)で表されるグルタミルイミド単位と、一般式(2)で表される(メタ)アクリル酸エステル単位が共重合したグルタルイミドアクリル系樹脂であり、R1はメチル基、R2は水素、R3はメチル基、R4は水素、R5はメチル基、R6はメチル基であった。グルタルイミドアクリル系樹脂(A1)において、イミド化率は13%、グルタルイミド単位の含有量は7%、酸価は0.4mmol/g、ガラス転移温度は130℃であった。また、得られたグルタルイミドアクリル系樹脂(A1)は、メルトフローレートが14g/10分であり、重量平均分子量が1.05×105であり、曲げ弾性率が3,500MPaであった。
(実施例1)
<細胞培養容器(シャーレ)の製造>
製造例1で得られたグルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を用い、図1に示す形状の成形体が得られる金型にて細胞培養容器本体(シャーレ)及び蓋のそれぞれを下記成形条件により射出成形し、図1に示した形状の細胞培養容器10を作製した。得られた細胞培養容器10を、ポリエチレン袋に封入し、コバルト60を線源とするバッチ式移動照射型γ線照射設備で線量が10kGyとなるよう1.5時間にわたり滅菌した。
成形機:日精樹脂工業社製、80トン射出成形機「FN−1000」
成形条件:温度条件としてノズルは260℃、H2は260℃、H3は250℃、H4は240℃、ホッパー下は50℃、金型は設定80℃(実測78℃)であった。射出速度は、10mm/sec、射出圧力は160MPa、冷却時間は20秒とした。成形サイクルは40秒であった。
細胞培養容器10において、本体1は、外径86mm、高さ10mm、及び厚み1mmであり、蓋3は、外径90mm、高さ20mm、及び厚み1mmであった。
<細胞培養>
上記で得られた滅菌後の細胞培養容器を用いて下記のように細胞培養を行った。
株式会社ケー・エー・シー製細胞増殖用培地No.104(E−MEM+NEAA+10%FBS)を加えた細胞培養容器の細胞収容部に4x107個/mLの解凍したHepG2細胞10mLを播種させ、37℃、5%CO2インキュベータ内で培養を行った。細胞が安定した1日目から位相差顕微鏡(Olympus社製、型番「IX71」)で観察を開始し、1視野(450μmx300μm)に見られた細胞数を計数した。同様に培養開始から4日目、7日目においても位相差顕微鏡観察を実施し、同様に細胞数を計数した。その結果を下記表2に示した。
<位相差顕微鏡観察>
上述した細胞培養途中で、位相差顕微鏡(Olympus社製、型番「IX71」)にて生細胞の位相差顕微鏡観察を実施した。その結果を図5に示した。
(実施例2)
<細胞培養容器(マイクロプレート)の製造>
製造例1で得られたグルタルイミドアクリル系樹脂(A1)を用い、図2に示す形状の成形体が得られる金型にて下記の条件で射出プレス成形し、図2に示した細胞培養容器20(4ウェルマイクロプレート)を作製した。得られた細胞培養容器20を、5MV・30mAのバッチ式移動照射型電子線照射設備で線量が40kGyとなるよう滅菌した後、ポリエチレン袋に封入した。
成形機:東洋機械金属社製、130トン射出プレス成形機「Si−130−6/F200D」
成形条件:温度条件として、ノズルは280℃、H2は250℃、H3は245℃、H4は240(℃)、ホッパー下は50℃、金型は設定99℃(実測95℃)であった。射出速度は180mm/sec、射出圧力は110MPa、冷却時間は20秒、圧縮速度設定は100%、型締力294Nであった。厚肉部は2.5mmから1.0mmになるように、薄肉部は1.675mmから0.175mmになるように、射出遅延0.04秒、圧縮時間最大3秒設定で射出プレス成形した。成形サイクルは40秒であった。
細胞培養容器20において、細胞培養容器本体21の幅及び奥行は20mmであり、高さは7mmであり、細胞収容部22の内径は7.5mmであり、細胞収容部22の底部の厚みは0.17mm、仕切り23を含むその他の部分の厚みは1mmであった。仕切り23の幅は18mmであり、高さは2.5mmであった。
(比較例1)
ポリメタクリル酸メチル樹脂(メタクリル酸メチル単独重合体、Mw:10.5万、三菱レイヨン株式会社製「VH−001」)を用いた以外は、実施例1と同様にして、細胞培養容器(シャーレ及び蓋)を作製した。得られた細胞培養容器(シャーレ及び蓋)をポリエチレン袋に封入し、実施例1と同様にして滅菌した。
(比較例2)
ポリメチルペンテン樹脂(三井化学株式会社製「TPX(登録商標)」、グレード名:RT31)を用い、射出成形における温度条件及び射出速度を下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして、細胞培養容器(シャーレ)を作製した。得られた細胞培養容器(シャーレ及び蓋)をポリエチレン袋に封入し、実施例1と同様にして滅菌した。
温度条件:ノズル300℃、H2/H3/H4=300/280/260(℃)、金型60℃、
射出速度:7mm/sec
(比較例3)
<細胞培養容器の製造>
ポリスチレン(東洋スチレン株式会社製「トーヨースチロール」、グレード名:G200C)を用いた以外は、射出成形における温度条件を下記のように変更した以外は、実施例1と同様にして、細胞培養容器(シャーレ及び蓋)を作製した。得られた細胞培養容器(シャーレ)をポリエチレン袋に封入し、実施例1と同様にして滅菌した。
温度条件:ノズル240℃、H2/H3/H4=240/230/220(℃)、金型60℃
(参考例1)
参考例1として、市販の細胞培養容器であるサーモフィッシャー製「ペトリディッシュ」150350を用いた。該細胞培養容器を用いた以外は、実施例1の場合と同様にして、細胞培養を行った。その結果を下記表2に示した。
実施例1〜2及び比較例1〜3で得られた細胞培養容器の位相差を上述したとおりに測定し、位相差マッピングの結果を図3及び図4に示した。また、上述したとおりに細胞培養容器本体及び蓋の平均位相差を算出し、その結果を下記表1に示した。表1には、細胞培養容器本体の底部及び蓋の頂部の全光線透過率も示した。実施例1、比較例1及び3において、γ線照射前及び照射線量10kGyのγ線照射後所定期間経過した後の透過YIを測定し、その結果を下記表3及び図6に示した。なお、図6において、横軸の「0」に示した透過YIは、γ線照射前の透過YIの値である。
Figure 2020105741
Figure 2020105741
Figure 2020105741
表1、図3及び図4から分かるように、実施例の細胞培養容器は、平均位相差が低く、該細胞培養容器を細胞培養に用いた場合、蛍光ラベリング等による細胞への意図しないストレスを与えることなく、また偏光や位相差を利用した顕微鏡観察で、細胞の構造に由来した複屈折による位相差を効率よく捉え、容器に由来した複屈折による画像の歪みを排除して、細胞内部の構造まで鮮明な画質で観察することができる。一方、比較例の細胞培養容器は、平均位相差が高く、該細胞培養容器を細胞培養に用いた場合、偏光や位相差を利用した光学的な細胞観察を行うことは困難である。実際のところ、図5から明らかなように、実施例1の細胞培養容器を細胞培養に用いた場合、培養2日目のHepG2細胞の無染色での位相差顕微鏡観察により、細胞中の核や小胞体等を観察することができた。
表2から分かるように、実施例1の細胞培養容器を用いた場合、市販品の細胞培養容器を用いた参考例1の場合と同様に、細胞を培養することができた。
表3及び図6から分かるように、実施例1の場合、γ線照射する前の透過YI値に対する照射線量10kGyのγ線照射後4週間経過した後の透過YI値の変化率が8%以下であり、照射線量10kGyのγ線照射後4週間経過した後の透過YI値は1.2以下であった。一方、比較例1及び3の場合、γ線照射する前の透過YI値に対する照射線量10kGyのγ線照射後4週間経過した後の透過YI値の変化率は8%を超えており、特にポリメタクリル酸メチル樹脂を用いた比較例1の場合は、照射線量10kGyのγ線照射後4週間経過した後の透過YI値は1.2より大きく、細胞培養に使うには不適切であった。
1、21 細胞培養容器本体
2、22 細胞収容部
3 蓋
10、20 細胞培養容器
23 仕切り

Claims (17)

  1. 熱可塑性樹脂で構成された細胞培養容器であって、
    前記熱可塑性樹脂が、グルタルイミドアクリル系樹脂、マレイミドアクリル系樹脂、ラクトン環含有アクリル系重合体、部分水添スチレン系共重合体、環状酸無水物繰り返し単位を含有するアクリル系重合体、及びフルオレニル基含有ポリカーボネート系重合体からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
    前記細胞培養容器は、細胞収容部を備えた細胞培養容器本体を含み、前記細胞培養容器本体の底部の平均位相差が0〜15nmであることを特徴とする細胞培養容器。
  2. 前記細胞培養容器は、さらに前記細胞培養容器本体に脱着可能に装着される蓋を含み、前記細胞培養容器本体の底部の平均位相差及び前記蓋の平均位相差の合計が0〜15nmである請求項1に記載の細胞培養容器。
  3. 前記熱可塑性樹脂は、グルタルイミドアクリル系樹脂である請求項1又は2に記載の細胞培養容器。
  4. 前記熱可塑性樹脂は、(1)メルトフローレート 5〜50g/10分、(2)曲げ弾性率 1,500〜6,000MPa、及び(3)重量平均分子量 1×104〜5×105のいずれか1つ以上の要件を満たす請求項1〜3のいずれかに記載の細胞培養容器。
  5. 前記細胞培養容器は、厚みが1〜200μmの薄肉部を有し、薄肉部から厚肉部に変わる箇所のRが0.01〜20であり、抜き勾配は0.1〜5°である請求項1〜4のいずれかに記載の細胞培養容器。
  6. 前記細胞培養容器は、γ線照射する前の黄色度指数に対する照射線量10kGyのγ線照射後4週間経過した後の黄色度指数の変化率が8%以下である、及び/又は、照射線量10kGyのγ線照射後4週間経過した後の黄色度指数が1.2以下である、請求項1〜5のいずれかに記載の細胞培養容器。
  7. 前記細胞培養容器本体が、シャーレ、ディッシュ、マイクロプレート、ウェルプレート、及びマイクロ流体デバイスからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜6のいずれかに記載の細胞培養容器。
  8. 請求項1〜7のいずれかに記載の細胞培養容器の製造方法であって、
    熱可塑性樹脂を射出成形又は射出プレス成形することで細胞培養容器を得ることを特徴とする細胞培養容器の製造方法。
  9. 熱可塑性樹脂を射出プレス成形して、厚みが1〜200μmの薄肉部を有する細胞培養容器を得る請求項8に記載の細胞培養容器の製造方法。
  10. 請求項1〜7のいずれかに記載の細胞培養容器の細胞収容部中に収容されている細胞を培養する工程と、前記細胞を光学的に観察する工程を含む細胞の製造方法。
  11. 前記細胞を偏光顕微鏡、位相差顕微鏡、微分干渉顕微鏡又は共焦点レーザー顕微鏡で観察して細胞の画像を得る請求項10に記載の細胞の製造方法。
  12. 前記細胞に対して染色又は色素ラベリングを行わずに細胞を観察する請求項10又は11に記載の細胞の製造方法。
  13. 細胞内器官を観察対象とする請求項10〜12のいずれかに記載の細胞の製造方法。
  14. 生細胞を観察する請求項10〜13のいずれかに記載の細胞の製造方法。
  15. 同一視野を異なる時刻に観察したときに異なるパターンの画像が得られる請求項10〜14のいずれかに記載の細胞の製造方法。
  16. さらに、細胞を観察して得られた複数の画像を電子化したデジタル画像データを蓄積した画像データベースを構築する工程と、
    前記画像データベースに基づいて、細胞を観察して得られた所定の画像を、人工知能(AI)を用いて解析する工程を含む請求項9〜15のいずれかに記載の細胞の製造方法。
  17. 前記画像解析は、前記人工知能の深層学習である畳み込みニューラルネットワークを用いる請求項16に記載の細胞の製造方法。
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