JPWO2020067055A1 - 抗神経変性疾患剤 - Google Patents

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Abstract

神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用を有し、且つ、中枢神経組織への移行性に優れる経口投与の可能な抗神経変性疾患剤を提供することを課題とし、下記一般式4で表される化合物を有効成分として含有し、神経細胞増殖促進作用、神経突起伸展作用、活性酸素種の消去作用を有する抗神経変性疾患剤を提供することにより上記課題を解決する。【化1】一般式4において、R10とR11は、炭素数2乃至8の互いに同じか異なるアルキル基を表すものとし、アルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。nは0又は1のいずれかである整数を表し、X4−は薬学的に許容される適宜の対アニオンを表す。

Description

本発明は、中枢神経系の神経細胞増殖促進作用、神経突起伸展作用及び活性酸素種消去作用を有する抗神経変性疾患剤に関する。
神経変性疾患は系統的な神経細胞の変性、脱落に基づく神経回路網の破綻により引き起こされる病態であり、神経変性疾患としては、数多くの難病、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、パーキンソン症候群、脳血管性認知症、前頭側頭葉型認知症、筋萎縮性側索硬化症、進行性核上性麻痺、ハンチントン病、脊髄小脳変性症などが知られている。
神経変性疾患の原因である神経変性死のメカニズムには多くの分子群が複雑に関与し、それらの発現、機能異常が生じているものと予想される。そのため、分子病態については鋭意研究がなされるも未だ部分的な解明に留まり、神経変性の根治的な抑制方法は確立されていない。
神経変性疾患において病因を取り除く治療に加えて重要なのが、神経回路網を再構築させることである。例えば、アミロイドβペプチドの細胞毒性がその一因と考えられているアルツハイマー病では、神経突起(軸索及び樹状突起)の萎縮とシナプスの減少が、神経機能が損なわれる発端であるが、それらの現象が生起した後でも、部分変性した神経細胞や変性を免れて生き残っている神経細胞を活性化して、神経突起を伸展させ、シナプスを回復できれば、神経機能を回復できるといわれている。
アルツハイマー病やパーキンソン病などに代表される神経変性疾患は、神経細胞に変性を来たす重大な疾患であり、これらの疾患やそれに伴う病態や神経機能障害を改善するために、種々の化合物を有効成分とする治療剤が提案されており(特許文献1乃至4参照)、神経突起伸展剤なども提案されている(特許文献5参照)。本出願人も、239種類の化合物のスクリーニングに基づき、下記一般式1乃至3で表されるシアニン系色素化合物等が、優れた神経細胞活性化作用と神経突起伸展作用を有することを見出し、新たな抗神経変性疾患剤として提案している(特許文献6)。
Figure 2020067055
(一般式1において、R乃至Rは、互いに同じか異なる脂肪族炭化水素基を表す。X は適宜の対アニオンを表し、mは力チオン部の電荷とバランスする電荷となる1又は2のいずれかである整数を表す。)
Figure 2020067055
(一般式2において、R乃至Rは互いに同じか異なる脂肪族炭化水素基を表す。X は適宜の対アニオンを表し、mは力チオン部の電荷とバランスする電荷となる1又は2のいずれかである整数を表す。)
Figure 2020067055
(一般式3において、R乃至Rは互いに同じか異なる脂肪族炭化水素基を表す。X は適宜の対アニオンを表し、mは力チオン部の電荷とバランスする電荷となる1又は2のいずれかである整数を表す。)
しかしながら、上記の色素化合物は、化学構造上の共通点として、3つの複素環(もしくは複素芳香環)がペンタメチン鎖を介して連結されているため、分子量が大きく嵩高い。そのため、中枢神経組織への移行・浸透効率や水溶性、安定性等の製剤面で未だ課題が残っており、剤として想定される使用形態は非経口的な投与に限定されている。
今なお多くの神経変性疾患に対して、効果の高い治療法が確立されていない現状に鑑み、医療・製薬業界では継続的な研究開発がおこなわれている。即ち、医療現場では、患者にとって肉体的及び精神的負担の少ない、経口投与可能な薬剤が望まれており、例え皮下や血管内などの全身投与の場合においても、より少ない用量や回数で、中枢神経系の神経細胞に作用する、より効果の高い新規抗神経変性疾患剤の開発が切望されている。
国際公開WO97/030703号パンフレット 特開平11−228417号公報 特開2006−143708号公報 特開2006−321737号公報 特開2002−234841号公報 国際公開WO2010/087306号パンフレット
本発明は、神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用を有し、且つ、本出願人が特許文献6において提案した剤よりも中枢神経組織への移行性に優れ、経口投与の可能な抗神経変性疾患剤を提供することを課題とする。
本発明者等は、上記課題を解決するために鋭意研究した結果、下記一般式4で表される化合物が優れた神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用、さらには活性酸素種の消去作用を有し、且つ、中枢神経組織への移行性に優れることを見出した。
Figure 2020067055
(一般式4において、R10とR11は、炭素数2乃至8の互いに同じか異なるアルキル基を表すものとし、アルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。nは0又は1のいずれかである整数を表し、X は薬学的に許容される適宜の対アニオンを表す。)
因みに、上記化合物は、本出願人が特許文献6で開示・提案した抗神経変性疾患剤の代表的な有効成分であるところの下記化学式1で表されるシアニン系色素(以下、「NK−4」という。)(一般式1で表される化合物でもある。)とほぼ同等かそれ以上の神経細胞増殖促進作用と神経突起伸展作用を有しながら、分子量が小さく、中枢神経組織への移行性に優れるという顕著な特徴を有する化合物である。
Figure 2020067055
上記化学式1で表される化合物NK−4は、多数の色素化合物からなるライブラリーを各種の評価系を用いてスクリーニングした結果得られた、いわば厳選された化合物であり、神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用に関し、これを上回る、乃至は、匹敵する効果を有する化合物は他に存在しないと考えられてきた。ところが、意外なことに、一般式4で表わされる化合物は、NK−4より低分子でありながら、NK−4の主要な作用である神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用をNK−4とほぼ同等もしくはそれ以上に有しており、加えて、特許文献6で開示した化合物群に見られない異質の優れた特性、即ち、脳などの中枢神経組織への移行性に優れるという特性を有するとともに、さらには、神経細胞が酸化的なストレスに曝された際に、細胞内において活性酸素種の産生を抑制するという特性を有している。一般式4で表される化合物が、このような種々の優れた特性を有しているということは本発明者らが初めて見出した知見であり、この知見に基づき、本発明者らは本発明を完成した。
本発明は、下記一般式4で表される化合物を有効成分として含有し、中枢神経系の神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用、並びに活性酸素種の消去作用とを有する抗神経変性疾患剤を提供することによって上記課題を解決するものである。
Figure 2020067055
(一般式4において、R10とR11は、炭素数2乃至8の互いに同じか異なるアルキル基を表すものとし、アルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。nは0又は1のいずれかである整数を表し、X は薬学的に許容される適宜の対アニオンを表す。)
本発明の抗神経変性疾患剤は、経口的又は非経口的に投与することにより、酸化的ストレスから神経細胞を保護すると共に、神経細胞の増殖や神経突起の伸展を促進することで、神経変性疾患の治療、緩和、予防に有利に利用できる。
1.用語の定義
本明細書において以下の用語は以下の意味を有している。
<神経突起/神経突起伸展作用>
本発明でいう神経突起とは、神経の細胞体から伸びる軸索及び樹状突起をいう。また、神経突起伸展作用とは、神経細胞を活性化して軸索及び/又は樹状突起を伸展させる作用をいい、神経突起の萎縮や減少の抑制作用、神経細胞間のシナプス形成の促進作用やシナプスの減少を抑制する作用を含む。
<神経変性>
本発明でいう神経変性とは、神経細胞、とりわけ、中枢神経系の神経細胞の機能低下、死滅や減少(脱落)をいい、神経突起の萎縮や減少、シナプスの減少、グリア細胞の機能低下、死滅や減少、網膜細胞の死滅や変性を含む。
2.本発明の抗神経変性疾患剤の有効成分と態様
本発明の抗神経変性疾患剤は、下記一般式4で表される化合物を有効成分とする。
Figure 2020067055
一般式4において、R10とR11は、炭素数2乃至8の互いに同じか異なるアルキル基を表すものとし、アルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。nは0又は1のいずれかである整数を表す。
一般式4において、X は薬学的に許容される適宜の対アニオンを表し、通常、例えば、弗素イオン、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオン、過塩素酸イオン、過沃素酸イオン、六弗化燐酸イオン、六弗化アンチモン酸イオン、六弗化錫酸イオン、燐酸イオン、硼弗化水素イオン、四弗硼素酸イオンなどの無機酸アニオンや、チオシアン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、ナフタレンスルホン酸イオン、ナフタレンジスルホン酸イオン、p−トルエンスルホン酸イオン、アルキルスルホン酸イオン、ベンゼンカルボン酸イオン、アルキルカルボン酸イオン、トリハロアルキルカルボン酸イオン、アルキル硫酸イオン、トリハロアルキル硫酸イオン、ニコチン酸イオン、アスパラギン酸イオンなどの有機酸アニオンから選択されるが、とりわけ、塩素イオン、臭素イオン、沃素イオンが有利に利用されうる。
一般式4で表される化合物としては、より具体的には、例えば、化学式2乃至11で表される化合物を例示することができる。
Figure 2020067055
上記、化学式2乃至6で表される化合物(以下、順に「NK−5」、「NK−36」、「NK−37」、「NK−44」及び「NK−45」という場合がある。)は、一般式4においてn=1に相当するトリメチン系シアニン色素であり、化学式3乃至6で表される化合物は、化学式2で表される化合物NK−5の類縁体である。例えば、化学式3(NK−36)及び化学式4(NK−37)は、NK−5の対アニオンである沃素イオンが、其々、臭素イオン及び塩素イオンに置き換わった化合物であり、化学式5(NK−44)及び化学式6(NK−45)で表される化合物は、NK−5のN−アルキル鎖が、其々、エチル基からn−ブチル基及びイソペンチル基に置き換わった化合物である。
同様に、化学式7乃至11で表される化合物(以下、順に「NK−6」、「NK−1496」、「NK−1495」、「NK−10745」及び「NK−1486」という場合がある。)は、一般式4においてn=0に相当するモノメチン系シアニン色素であり、化学式8乃至11は化学式7で表される化合物NK−6の類縁体である。上記と同様に、化学式8及び化学式9で表される化合物は、NK−6の対アニオンである沃素イオンが、其々、臭素イオン及び塩素イオンに置き換わった化合物であり、化学式10(NK−10745)及び化学式11(NK−1486)は、NK−6のN−アルキル鎖が、其々、エチル基からn−ブチル基及びイソペンチル基に置き換わった化合物である。
なお、本明細書中のNKで始まる化合物番号(以下、「NK番号」という。)に対応する化合物の構造は、例えば、『感光色素表』、感光色素研究所発行(1969年)や、『ケミカル アブストラクト インデックス ガイド(CHEMICAL ABSTRACT Index Guide)(N−Z)』、1531G乃至1536G頁(1994年)などにも記載されている。また、以降に記載する実験結果には、本明細書中の化学式番号とNK番号を併せて記した。
また、これら化合物の合成方法は、例えば『感光色素−その不思議な作用と多彩な機能−』、産業図書株式会社発行、24乃至30頁(1997年)や、『ザ ケミストリー オブ シンセティック ダイズ(The Chemistry of Synthetic Dyes)』、アカデミックプレス社発行、第2巻、1143頁(1952年)及び同書第4巻、212頁(1971年)などにも記載されている。
一般式4で表される化合物は、神経細胞に対する増殖促進作用、神経突起伸展作用を有し、酸化刺激により細胞内に誘発される活性酸素種(以下、単に「ROS」という場合がある。)から神経細胞を保護して細胞死や神経突起の萎縮を抑制する作用を有しているので、本発明の抗神経変性疾患剤の有効成分として望ましい。R10及びR11で表されるアルキル基の鎖長は、通常、炭素数が2乃至8の範囲が利用されるが、炭素数2乃至5が好ましく、2乃至4がより好ましい。
神経細胞増殖促進作用、神経突起伸展作用、及びROS消去作用の強度の点からは、NK−5(化学式2)及びその類縁体(化学式3乃至6)がより望ましい。水溶性、脳移行性、製剤化の容易性などを考慮すると、NK−5(化学式2)及びその類縁体(化学式3乃至6)並びにNK−6(化学式7)及びその類縁体(化学式8乃至11)が特に望ましい。さらに安定性や効果の持続性に重点を置く場合には、NK−6(化学式7)及びその類縁体(化学式8乃至11)がとりわけ有利に利用されうる。
上記の通り、一般式4で表される化合物群は、其々の化合物が複数の生理的及び/又は化学的作用を有し、その作用強度や化学的性質が個々に異なるため、化合物の作用スペクトラムや物性に応じて2種以上の化合物を組み合わせることで、対象疾患に合わせた、より好ましい効果を発揮させることも随意である。例えば、経口投与製剤を設計するにあたっては、其々の作用と安定性の両面を勘案し、作用強度の強い化合物と安定性の高い別の化合物を選択し、任意の濃度範囲で適宜混合することでより効果の高い剤とすることができる。例えば、一般式4においてn=1の場合に相当するNK−5(化学式2)に代表されるトリメチン系色素と一般式4においてn=0の場合に相当するNK−6(化学式7)に代表されるモノメチン系色素を混合製剤とする場合、所望の効果が得られる限りにおいて、その混合比率に特に制限は無いが、トリメチン系色素とモノメチン系色素の配合割合は、通常、モル比で1:10乃至10:1が好適に利用される。
本発明の抗神経変性疾患剤の有効成分として使用する一般式4で表される化合物は、その由来や製法に制限はない。
本発明の抗神経変性疾患剤は、有効成分として、一般式4で表される化合物、望ましくは、化学式2乃至11のいずれかで表されるトリメチン系シアニン色素及び/又はモノメチン系シアニン色素を、1種又は2種以上含有してなる。
本発明の抗神経変性疾患剤は、必要に応じて、有効成分である一般式4で表される化合物に加えて、製剤学的に許容される食品分野、化粧品分野、医薬品分野、医薬部外品分野で使用される成分の1種又は2種以上を配合した経口もしくは非経口製剤の形態で提供される。
製剤学的に許容される成分としては、例えば、添加剤、賦形剤、崩壊剤、滑沢剤、結着剤、安定化剤、界面活性剤、防腐剤(抗菌剤)、香料、増粘剤、抗酸化剤、キレート剤、ビタミン類、アミノ酸類、水性媒体、糖質、甘味剤、水溶性高分子、pH調整剤、発泡剤、医薬品・医薬部外品・化粧品・食品用の添加剤、医薬用・医薬部外品用の有効成分など例示することができ、これらの成分の1種又は2種以上を適宜組み合わせて配合し、目的とする剤型に応じて、常法により製造すればよい。
また、本発明の抗神経変性疾患剤は、一般式4で表される化合物以外の物質を有効成分とする神経突起伸展剤との併用や、神経変性疾患やそれに起因する病態や神経機能障害の治療剤との併用も有利に実施できる。これらの薬剤は、本発明の有効成分と混合剤の形態で投与してもよいし、個々の製剤を別々に投与することもできる。
本発明の抗神経変性疾患剤の投与経路に特に制限はなく、患者の肉体的及び精神的負担に配慮して、好ましくは経口製剤の形態で提供されるが、より高い効果が求められる場合には、非経口用の注射用の製剤などの形態で提供されるのも随意である。有効成分である一般式4で表される化合物は、対象とする投与製剤の組成やその使用目的を勘案して、原料の段階から製品が完成するまでの工程で配合すればよい。その方法としては、例えば、混和、撹拌、混捏、造粒、溶解、融解、分散、懸濁、乳化、逆ミセル化、ホットメルト、浸透、晶出、散布、塗布、付着、噴霧、被覆(コーティング)、注入、浸漬、固化、担持などの1種又は2種以上の方法が適宜に選ばれる。
本発明の抗神経変性疾患剤は、上述したとおり、経口摂取用の組成物の形態で提供することが可能である。その場合の剤形に特に制限はなく、固状、粉末、顆粒、錠剤、液状、シラップ、ペースト、乳液、カプセル、フィルム等の形態で摂取してもよく、通常の飲食品に混合して摂取することも随意である。
注射用製剤などの非経口用の製剤の場合、対象となる疾患や症状などに応じて、通常、パイロジェンを含まない水性媒体に溶解して、皮内、皮下、筋肉内、体腔内(胸腔内、腹腔内など)、血管内又は脳内(脊髄内を含む)へ投与されるので、製剤の形態としては、乾燥製剤であってもよく、液剤であってもよい。乾燥製剤の場合は、使用時に、注射用の精製水、生理食塩水、ブドウ糖液などの水性媒体に溶解して使用すればよい。液剤の場合は、そのまま投与してもよく、輸液、灌流液、腹膜透析液などに添加して使用してもよい。また、溶媒への溶解性や水性媒体への溶解性に問題のある場合や、徐放性の製剤を調製する場合には、両親媒性溶媒、油性基材や乳化剤などを使用して、有効成分の溶媒への溶解性を高めることも随意である。また、リポソームなどに封入して投与することも随意である。
また、本発明の抗神経変性疾患剤は、経口剤、注射剤以外にも、ハップ剤や経肺用の吸飲噴霧剤などの形態で使用することもでき、皮下などの体内に埋め込む徐放製剤の形態で使用することもできる。また、神経変性疾患を発症したペットをはじめとするヒト以外の動物の治療や、神経変性症に伴う病態や神経機能障害の予防剤乃至治療剤として使用することも随意である。
このようにして製造される本発明の抗神経変性疾患剤は、長期間連用しても、重篤な副作用もなく安全な製剤である。
本発明の抗神経変性疾患剤は、対象とする神経変性疾患、その病態や症状に応じて、毎日乃至1日以上の間隔をおいて、一日に一回乃至複数回に分けて一日あたりの所定量を摂取又は投与すればよい。一日当たりの摂取又は投与量は、所期の作用・効果が得られる量であれば特に制限はなく、通常、経口摂取の場合、一般式4で表される化合物を合計で、0.02mg/kg・体重/日以上が望ましく、0.2乃至50mg/kg・体重/日がより望ましく、1乃至10mg/kg・体重/日が特に望ましい。一方、静脈内投与(点滴を含む)、皮下乃至腹腔内投与の場合、一般式4で表される化合物を合計で、0.002mg/kg・体重/日以上が望ましく、0.02乃至5mg/kg・体重/日がより望ましく、0.1乃至1mg/kg・体重/日が特に望ましい。一日当たりの摂取又は投与量が指定量の下限値未満であると、所期の効果が発揮されず、上限値を超えても摂取量に見合う効果が発揮されない場合がある。なお、本発明の抗神経変性疾患剤の活性酸素種の除去作用を期待して投与する場合には、上記投与量よりも増量して投与することも随意である。また、本発明の抗神経変性疾患剤の投与期間は、対象とする疾患、病態乃至症状に応じて調整すればよく、急性疾患の場合には症状が改善乃至消失するまで投与すればよく、認知症などのような慢性疾患の場合には、症状の改善乃至消失が認められた場合でも、投与を継続することが望ましい。
本発明の抗神経変性疾患剤は、脳や神経細胞を傷害因子から保護して変性を抑制すると共に、神経細胞を活性化し、神経突起の伸展促進や萎縮の抑制、神経細胞の生存延長や変性を抑制することもできるので、神経変性疾患、とりわけ、中枢神経の変性に起因する疾患を治療、緩和または予防することができる。神経変性疾患とは、神経細胞の変性を伴う疾患全てを包含し、神経細胞の由来としては中枢神経(例えば、脳神経、脊髄神経など)及び/又は末梢神経(例えば、自律神経系(例えば、交感神経、副交感神経など)、運動神経系、知覚神経系)を含み、その病因によって限定されるものではない。
本発明の抗神経変性疾患剤の対象として好ましい該神経変性疾患は、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、パーキンソン症候群、ハンチントン病、老年性認知症、脊髄小脳変性症、筋萎縮性側索硬化症、脱髄性疾患(例えば、多発性硬化症など)、脳血管障害(例えば、脳卒中、脳梗塞(例えば、脳血栓、脳塞栓など)、一過性脳虚血発作、脳出血(例えば、高血圧性脳内出血、クモ膜下出血など)など)・脳腫瘍・外傷性ショック・頭部損傷及び/又は脳脊髄外傷(例えば、脳挫傷など)に伴う神経機能障害、感染症に伴う脳脊髄疾患(例えば、髄膜炎、インフルエンザ脳炎・脳症、クロイツフェルト−ヤコブ病、エイズ脳症による認知症など)、てんかんなどの中枢神経系の神経変性に由来する疾患であり、より好ましくは、例えば、アルツハイマー病、パーキンソン病、パーキンソン症候群、筋萎縮性側索硬化症に伴う神経機能障害、脳血管障害、一過性脳虚血発作などの虚血性脳疾患である。
さらに、本発明の抗神経変性疾患剤は、神経細胞を活性化し、神経突起を伸展させ、シナプスの形成を促進するなどにより、神経機能障害をも治療することができる。したがって、本発明の抗神経変性疾患剤は、神経細胞保護剤、神経細胞活性化剤、神経突起伸展剤、神経突起萎縮抑制剤、プルキンエ細胞変性・脱落抑制剤、神経変性疾患に伴う病態(例えば、振戦、固縮、無動、寡動、動作緩慢、姿勢反射障害、自律神経障害、突進現象、歩行障害、うつ、記憶障害、筋萎縮、筋力低下、上・下肢機能障害、構音障害、嚥下障害、呼吸障害、しびれ及び麻痺など)の治療剤、神経機能障害治療剤などとして有利に使用することができる。なお本発明でいう神経変性疾患や神経機能障害の治療とは、神経変性に起因する病態や機能障害を治癒の方向へ導く、いわゆる治療に加え、悪化を抑制し病態の進行をとどめる進展防止、さらには疾患の発症そのものの予防も含む。
さらに、本発明の抗神経変性疾患剤は、ヒドロキシラジカルをはじめとする生体内で発生するフリーラジカルを効果的に低減することができる。さらには、細胞内及び/又は組織中に移行することで代謝活動により産生されるROSを随時消去することができるため、細胞内器官の酸化傷害蓄積を最小限に留め、細胞体の機能を良好に保持することができ、脳内の神経や血管などの組織はいうまでもなく、脳以外の血管や臓器における、虚血後の再灌流、炎症性疾患(免疫疾患、アレルギー、腫瘍などを含む)、感染症、薬物、放射線或いは物理的な刺激などにより発生するフリーラジカルや過酸化脂質に起因するといわれている各種疾患や病態の予防剤、治療剤として有利に利用することができる。より具体的には、例えば、上記神経変性疾患の予防・治療剤としてだけでなく、脳保護剤、脳(神経細胞、血管内皮細胞)の酸化的障害抑制剤、虚血性脳障害抑制剤、脳梗塞巣進展抑制剤、脳浮腫抑制剤、遅発性神経死抑制剤、脳機能正常化剤、酸化ストレス抑制剤、抗潰瘍剤、血糖上昇抑制剤、白内障や角膜障害などの眼性疾患の予防・治療剤、移植臓器保存剤や移植組織(皮膚を含む)・臓器の壊死防止剤、急性腎不全・薬物などによる腎障害、皮膚組織障害、肺障害、肝繊維化、化学物質、エンドトキシン、熱傷などによる皮膚組織の機能の障害、虚血などによる肝障害、脊髄損傷、動脈などの血管壁障害、心筋などの筋肉障害、尿細管間質障害などの各種臓器の障害の治療・予防剤、放射線障害予防剤・治療剤、抗腫瘍剤、腫瘍転移抑制剤、細胞障害マーカー抑制剤、心筋炎、膵臓炎、腸炎、関節、アレルギーをはじめとする各種組織や臓器の炎症性疾患やそれに伴う組織障害の予防・治療剤、視細胞障害、視神経障害、網膜疾患、聴覚細胞障害、聴覚神経障害などの感覚細胞、感覚神経或いは感覚器の障害の抑制剤、農薬や有機溶媒などによる薬物中毒の予防・治療剤、カルシウム・ナトリウム交換系阻害剤、疼痛や掻痒の予防・治療剤、プロテインキナーゼ刺激剤、ミトコンドリア脳筋症予防・治療剤、動脈閉塞・狭窄予防・治療剤、血液脳関門破綻抑制剤、薬物依存症治療剤、アポトーシス抑制剤、臓器や組織における過酸化脂質生成抑制剤、スーパーオキシド、ヒドロキシラジカル、ペルオキシラジカルなどのラジカルスカベンジャーなどとしても有利に利用することができる。
以下、実験により本発明をさらに詳細に説明する。なお実験結果を示す各表においては、本明細書における化学式番号とNK番号との対応を併せて示した。
<実験1:神経細胞に対する作用>
神経細胞は、栄養飢餓や活性酸素による傷害に対して非常に脆弱なことが知られている。神経細胞の増殖や分化を促進する物質には神経変性疾患による神経細胞死を抑制する効果が期待でき、疾患の治療薬候補となり得ることから、神経系のモデル細胞であるPC12細胞に対して、増殖促進作用及び神経突起伸展作用を有する化合物の探索試験を特許文献6に開示された方法に準じて以下のように実施した。
<実験1−1:神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用を有する色素化合物の探索1>
本発明者等が特許文献6で開示している通り、化学式1で表されるNK−4をはじめとするいくつかのシアニン色素は神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用を有しているが、より生体利用率の高い有効な薬剤を開発する目的のもと、NK−4を陽性対照として探索を行った。神経細胞のモデルとしては、ヒトの神経細胞変性の研究に好適なモデルとして汎用されている、ラット副腎褐色細胞腫由来のPC12細胞のNGF(神経増殖因子)高感受性株(以下、「PC12−HS細胞」という。国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンク)を使用した。被験化合物としては、NK−5(化学式2)、NK−36(化学式3)、NK−44(化学式5)及び化学式12乃至18で表される10種類のトリメチン系シアニン色素化合物と、モノメチン系シアニン色素であるNK−6(化学式7)を選択した。また、特許文献6に開示されたスクリーニングにおいて、良好な神経細胞増殖促進作用及び/又は神経突起伸展作用が見込まれたエチレン架橋色素2種(化学式19及び20)、モノメチン系シアニン色素15種(化学式21乃至35)及びトリメチン系シアニン色素7種(化学式36乃至42)も比較対象として再評価した。化学式12乃至42を以下に示す。
Figure 2020067055
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<試験標品>
試験に供したシアニン系色素化合物(いずれも純度97質量%以上、株式会社林原製造)は、個々にDMSO(SIGMA社販売、商品番号「D8418」)に5mg/mlの濃度で溶解した後、DMSO耐性膜(Millipore社販売、商品名「Millex−LGS LLG025SS」)で濾過し、遮光して25℃で保存した。使用時には、10容積%ウシ胎仔血清(FBS)を添加したダルベッコMEM培地(日水製薬株式会社販売、以下、「D−MEM培地」と略記する。)でさらに希釈して、試験に供した。なお、DMSOに溶解した試験標品を、D−MEM培地で、試験に使用する濃度に希釈した場合、そこに含まれる濃度のDMSOは、以下の各試験系に影響しないことを予め確認した。
以下、PC12−HS細胞に対する細胞増殖促進作用とNGF存在下の神経突起伸展作用を其々評価した。
<評価法A:神経細胞増殖促進作用の評価法>
PC12−HS細胞は、凍結保存した細胞を解凍して、10容積%FBS加D−MEM培地を用いて37℃、5容積%COインキュベーター内で静置培養して試験に供した(以下、単に「培養」と表現する場合は、37℃、5容積%COインキュベーター内で静置培養することを表すものとする。)。試験に用いる細胞は、常法により、0.25質量%トリプシン溶液を用いて剥離し、10容積%FBS加D−MEM培地(以下、「培養培地」という。)で希釈して、コラーゲンコートした96ウェルプレート(ファルコン社販売、商品名「マイクロテストプレート・細胞培養用、平底」)に、5×10個/100μl/ウェルになるように播種し、24時間培養した(以下、これらの操作を「前培養」と言う。)。その後、上記試験標品を培養培地で希釈し、ウェル内の被験化合物の終濃度が50ng/mlになるように各ウェルに被験化合物の希釈溶液を100μlずつ添加してさらに3日間培養した。3日目に培養上清を除去し、10容積%のAlamar blue試薬(Trek Diagnostic社販売)を含む培養培地を200μl/ウェルずつ添加し、6時間培養ののち蛍光プレートリーダー(日本モレキュラーディバイス社販売、商品名「FlexStation 3」)で544−590nmの蛍光強度を測定した。各被験化合物の細胞増殖促進作用は細胞増殖率(%)で表し、被験化合物を含まない培養培地を100μl/ウェル添加した陰性対照の蛍光強度の値を100%とした時に、130%乃至169%の場合をNK−4と同等(「○」)、170%以上をNK−4より明確に強い作用(「◎」)と判定して表1に示した。測定は各被験化合物について3点ずつ実施し、平均値を採用した。なお、表1には、後述する評価方法Bによる神経突起伸展作用の評価結果も併せて示している。
<評価法B:神経突起伸展作用の評価法>
細胞増殖促進活性の評価(評価法A)の場合と同様に、前培養したPC12−HS細胞に、被験化合物の終濃度が500ng/mlになるように培養培地で希釈調製した被験化合物(50μl/ウェル)と、同じく培養培地で20ng/mLに調整したNGF(Chemicon社販売、マウス由来、終濃度10ng/ml)(50μl/ウェル)とを加えて、3日間培養した。培養3日目に培養培地を除去し、10容積%グルタールアルデヒドを100μl/ウェル添加して室温下20分間静置することで細胞を固定した。陰性対照として培養培地のみで3日間培養したPC12−HS細胞をグルタールアルデヒドで同様に固定した。固定した細胞は顕微鏡下で観察し、神経突起伸展の有無を評価した。なお神経突起伸展率(%)は、顕微鏡下で、一視野に約100個の細胞を含む倍率で細胞を観察し、細胞体(長径)の2倍以上の長さの神経突起を有する細胞数をカウントし、同一視野内にある全細胞数で除し100倍して求めた。測定は各被験化合物について3点ずつ実施し、神経突起伸展率の平均値が25乃至44%の場合を陽性対照としたNK−4と同等(「○」)、45%以上をNK−4よりも明確に強い作用(「◎」)と判定し、表1に併せて示した。なおこの実験系において、被験化合物を添加せずNGFを添加(終濃度10ng/ml)したときの神経突起伸展率は5%以下であった。
Figure 2020067055
表1に示すスクリーニング結果は、各化合物の至適濃度を考慮していないため、厳密な作用強度の比較はできないが、NK−528(化学式19)とNK−36(化学式3)は、特許文献6において抗神経変性疾患剤の有効成分として最も好ましいとされるNK−4と比較して、神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用の双方において、同等(「○」)と評価された。また、NK−5(化学式2)とNK−6(化学式7)は、NK−4と同等の神経細胞増殖促進作用を示しつつ、NK−4よりも強い(「◎」)と評価される神経突起伸展作用を示した。逆に、NK−4と同等の神経突起伸展作用を示しつつ、NK−4よりも強い神経細胞増殖促進作用を示す(「◎」)と評価される化合物としてNK−44(化学式5)が見出された。その他の化合物は、どちらか一方、或いは、両方の評価においてNK−4の作用強度に及ばなかったが、NK−4781(化学式14)及びNK−10214(化学式16)は、神経突起伸展作用がNK−4を上回る(「◎」)と評価された。このことより、エチレン架橋型のNK−528(化学式19)、モノメチン型のNK−6(化学式7)及びトリメチン型のNK−5(化学式2)、NK−36(化学式3)、NK−44(化学式5)が神経細胞増殖促進作用と神経突起伸展作用の両作用においてNK−4と同等かそれ以上の作用を示し、抗神経変性疾患剤の有効成分として有用である可能性が示された。なお、これら抗神経変性疾患剤の有効成分としの有用性が示された化合物は、NK−528(化学式19)を除いて、いずれも一般式4で表される化合物であった。また、化学式13乃至17で表されるトリメチン型の化合物も、神経細胞増殖促進作用又は神経突起伸展作用のいずれかにおいては、NK−4と同等(「○」)又はそれ以上(「◎」)と評価されており、抗神経変性疾患剤の有効成分として有用であると判断される。
<実験1−2:神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用を有する色素化合物の探索2>
上記の単一重量濃度でのスクリーニング結果(実験1−1)を受けて、NK−4を含む11種類の色素化合物を選択し、これらについてモル濃度と作用強度の関連を確認した。試験方法は実験1−1に準じたが、被験化合物の濃度は、評価法A(神経細胞増殖促進作用)は、40nM、200nM、1,000nMの3用量、評価法B(神経突起伸展作用)は、200nM、1,000nMの2用量とした。測定は評価法A、B共に各被験化合物の各濃度について3点ずつ実施した。評価法Aの結果は、細胞増殖率(%)として表し、被験化合物を添加しない陰性対照の値を100%とした時の相対百分率(%)を示した。評価法Bは、1視野(約100個の細胞を含む)の全細胞中で、細胞体(長径)の2倍以上の長さの神経突起を有する細胞数を相対百分率で表し神経突起伸展率(%)とした。なお本実験系において、被験化合物を添加せずNGFのみを添加(終濃度10ng/ml)したときの神経突起伸展率は5%以下であった。
Figure 2020067055
<神経細胞増殖促進作用>
表2に示す通り、NK−5(化学式2)は、低濃度(40nM)及び中濃度(200nM)においてNK−4(化学式1)と同等の神経細胞増殖促進作用を示した。一方、NK−6(化学式7)及びNK−36(化学式3)は、高濃度(1,000nM)領域においてやや強い神経細胞増殖促進活性を発揮した。このことより、神経細胞増殖促進作用はNK−4(化学式1)に比べてやや弱いものの、NK−6(化学式7)及びNK−36(化学式3)も、NK−5(化学式2)と同様に神経系の細胞株に対する増殖促進作用があることが確認された。神経細胞増殖促進作用に関し、最も強い活性を示したのはNK−44(化学式5)で、40nMの添加濃度で陰性対照の約1.9倍もの細胞増殖が認められた。NK−44(化学式5)に関しては、NK−5(化学式2)と同じく、高濃度領域で若干の増殖抑制が認められたことから、至適濃度がNK−4よりも低い、即ち、活性がNK−4よりも高いことを物語っている。その他、神経細胞増殖促進作用に関し、NK−4と同等程度の活性を有する化合物としてNK−10358(化学式17)が、NK−6やNK−36よりも若干弱い活性を有する化合物として、NK−10089(化学式15)、NK−10214(化学式16)及びNK−3134(化学式13)が、また殆ど増殖促進作用を示さない化合物として、NK−1883(化学式12)とNK−4781(化学式14)が確認された。なお、表に示すすべての化合物は、PC−12HS細胞に対して、試験を実施した濃度範囲において顕著な細胞傷害性を示すことはなかった。
<神経突起伸展作用>
表2に示す通り、NK−4(化学式1)よりも神経突起伸展作用が強いものとしてNK−5(化学式2)、NK−6(化学式7)、NK−4781(化学式14)及びNK−10214(化学式16)の4化合物が、NK−4とほぼ同等の神経突起伸展率を示した化合物として、NK−36(化学式3)、NK−44(化学式5)及びNK−3134(化学式13)が示された。NK−4781(化学式14)は、高濃度(1,000nM)において非常に強い神経突起伸展作用を示したが、神経細胞増殖促進作用はほぼ陰性対照と同じ程度であった。
NK−4(化学式1)は強力な神経細胞増殖促進作用と神経突起伸展作用を併せ持つ化合物として239種類の化合物ライブラリーの中から厳選された化合物であるが、意外にも、今回新たに探索した低分子生の色素化合物群の中からNK−4に匹敵する、もしくはNK−4の活性を顕著に上回る作用をもつ化合物の存在が明らかとなった。神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用の両作用を併せ持つ化合物としては、キノリン骨格を有するトリメチン系色素であるNK−5(化学式2)、NK−44(化学式5)、NK−36(化学式3)及びモノメチン系色素であるNK−6(化学式7)が有望であり、とりわけNK−5(化学式2)及びNK−44(化学式5)が、NK−4を上回る作用の期待できる剤として有利に利用されうることが示され、化学構造的な観点からは、2つのキノリン骨格の4位同士がメチン鎖で連結された基本構造にその可能性が高いと推察された。
<実験1−3:細胞内ROSの産生に対する作用>
前記実験1−1及び実験1−2より、NK−5(化学式2)及びNK−5類縁体(化学式3及び化学式5)、並びに、NK−6(化学式7)が強い神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用を有することが示されたことより、これら化合物は、神経細胞に対する酸化傷害に対しても有効に作用するかを以下の実験で検証した。即ち、PC12−HS細胞に過酸化水素で酸化刺激を加え、その際に発生する細胞内のROSを蛍光試薬を用いて定量化し、外的な酸化ストレスを負荷した際に細胞内で発生するROSの産生抑制作用を評価した。
実験1−1及び実験1−2と同様に前培養したPC12−HS細胞に、培養培地で希釈調製した被験化合物を終濃度が125、250、500及び1,000nMになるように添加して24時間培養した。その後、培養上清を除去し、Hank´s緩衝液(60μM
CaCl、400μM MgSO、500μM MgCl)で細胞を洗浄した後、同緩衝液で5μMに調製したROS検出試薬CM−HDCFDA(富士フィルム和光純薬工業株式会社販売)を各ウェルに100μlずつ添加した。37℃で30分間培養して細胞にCM−HDCFDAを取り込ませ、CM−HDCFDAを含んだ液を除去した後、Hank´s緩衝液で細胞を洗浄し、50μM過酸化水素(富士フィルム和光純薬工業株式会社販売)を含むHank´s緩衝液を100μl/ウェル添加してPC12−HS細胞を37℃で2時間刺激した。過酸化水素を含んだ液を除去し、Hank´s緩衝液200μl/ウェルを添加して蛍光プレートリーダーで細胞内ROS産生の指標となる492−527nmの蛍光強度を測定した。また、蛍光強度測定後に、各ウェルにグルタールアルデヒド20μlを添加して細胞を固定し、常法に従い、メチレンブルーの色素取込量を650nmの吸光度として測定し、生細胞数の指標とした。細胞当りのROS産生量は、各ウェルの蛍光強度(492−527nm)を650nmの吸光度で除した値を指標とした。陰性対照として被験化合物を含まず過酸化水素のみを添加した細胞から算出した細胞当りのROS産生量を100%とし、被験化合物を添加した際の相対値を求め、各ウェルの細胞当りのROS産生率(%)として表3に示した。測定は各被験化合物の各濃度について3点ずつ実施し、平均値を記載した。
Figure 2020067055
表3に示す通り、125乃至1,000nMの濃度範囲においてNK−4(化学式1)は細胞内ROS産生に対して何ら抑制的な作用を示さなかった。一方で、NK−5(化学式2)、NK−6(化学式7)、NK−36(化学式3)、NK−44(化学式5)は、過酸化水素刺激で誘導される細胞内ROSの産生を濃度依存的に抑制した。特にNK−5、NK−36については、その作用は強力で、NK−44やNK−6に比べても顕著であった。
NK−4(化学式1)がラジカル消去能を有することは既に公知であるが、上記の通り、同化合物は細胞内ROSの産生に影響しなかった。その詳細な理由は不明であるが、NK−5(化学式2)やNK−6(化学式7)などと異なり、活性発現に必要な量が細胞内へ移行できなかったことが一因として考えられる。これは、NK−4を含む一般式1乃至3で表されるシアニン色素の薬剤利用上の課題を示唆しており、これら化合物は、複素環もしくは複素芳香環の3核構造を有するため、必然的に分子量が大きく、嵩高くなり、細胞や組織への透過性において不利になると考えられる。逆に、実験1−3で強い活性を示した化合物群は、NK−4と比べ化学構造的に低分子であり、その実験結果はこれら化合物の細胞透過性が良好であることを物語っている。
実験1−1及び実験1−2で示されたように、NK−5及びその類縁体(NK−36、NK−44)、並びにNK−6は、NK−4と同様に細胞傷害性を示さず、ナノモルレベルの濃度範囲において強い神経細胞増殖促進作用と神経突起伸展作用を有していた。一方、実験1−3において、NK−5及びその類縁体(NK−36、NK−44)、並びにNK−6は、NK−4の具有しない作用、即ち、細胞内ROSの産生抑制作用を併せ持つことが明らかとなり、NK−5(化学式2)及びその類縁体(NK−36(化学式3)、NK−44(化学式5))並びにNK−6(化学式7)は、これまでにない新規な特性を持つ抗神経変性疾患剤になりうることが示された。
<実験2:色素化合物の脳移行性>
上記実験1において、NK−5(化学式2)及びその類縁体(NK−36(化学式3)、NK−44(化学式5))並びにNK−6(化学式7)は、強い神経細胞増殖促進作用と神経突起伸展作用を持ち、尚且つ細胞透過性が良好であると推察された。このことを検証するため、これら色素化合物の血液脳関門透過性に関連する物性指標を実験的並びに理論計算からの予測に基づいて検討した。
<実験2−1:色素化合物のLogP測定>
化合物の脳移行性を表す薬理学的な指標としては、脳組織への浸透性を表すLogBBや血液脳関門(以下、「BBB」という。)の透過速度を表すLogPSが知られる。これらのパラメーターを化学計算でシミュレーションする際には、幾つかの実測パラメーターをインプットすることにより機械学習が必要とされるが、例えば、『セラピューティック デリバリー(Therapeutic Delivery)』、6巻(第7号)961乃至971頁(2015年)に記載されているように、最も大きく影響する実測パラメーターは、LogPと呼ばれるオクタノール/水分配率であり、LogPが大きいほど脂溶性に優れ、ある一定の範囲で脳組織への浸透性が高まるといわれる。そこで、NK−5及びNK−6のLogP値を実測し、NK−4のそれと比較した。
オクタノール/水分配係数(以下、「LogP」という。)の測定は、『分析化学(BUNSEKI KAGAKU)』、53巻(9号)953頁−958頁(2004年)及び『日本工業規格』、Z7260−107(2000年)、「分配係数(1−オクタノール/水)の測定-フラスコ振とう法」に準じて実施した。即ち、適量の被験化合物を1−オクタノール(分配係数測定用、関東化学株式会社販売)に添加し、各試料の飽和1−オクタノール溶液を調製した。この溶液1mlをとり、超純水1mlと混合し、25℃にて振盪器を用いて1分間に20回転の速度で5分間振盪した。混合液を、遠心分離機を用いて、25℃、15,000rpmで15分間遠心分離し、1−オクタノール層と水層が完全に分離していることを確認した後、互いの層からの混入を防止しながら、両層を500μlずつ回収した。回収した溶液中の被検物質濃度は、以下に示すHPLC法にて定量し、1−オクタノール層中の被検物質濃度([C]o)と水層中の被検物質濃度([C]w)から、次式により分配係数を算出し、表4に示した。
Figure 2020067055
<検量線用標準溶液の調製>
各被験化合物20mgを精密に量り、50mlの移動相に溶かして400μg/mLの溶液を調製した。この溶液をさらに移動相で希釈して5,000、2,500、1,000、500、250、100、50ng/mLの標準溶液を作製した。
<試料溶液の調製>
回収した試料溶液(各500μl)に5倍容量の移動相を加えてよく混合した後、0.45μmの有機溶媒耐性フィルターで濾過したものを試料溶液とし、各試料10μlをHPLCに注入して分析した。
<HPLC分析条件(NK−4)>
HPLCシステム:HPLCプロミネンスLC−20AD(島津製作所)
検出器:紫外分光光度検出器SPD−M20A(島津製作所)
カラム(NK−4):XBridgeC8 5μm(Waters製)
カラム径×カラム長:4.6×250mm
カラム温度:40℃

移動相:60容積部 水、40容積部 メタノール、0.1容積部 酢酸
流速:0.7mL/min
検出波長:776nm
定量範囲:50−5,000ng/L
<HPLC分析条件(NK−5/NK−6)>
NK−4と異なる条件のみ以下に記載した。
カラム:COSMOSIL 5C8−AR−300(ナカライテスク社製)
移動相:70容積部 アセトニトリル、30容積部 水、0.1容積部
トリエチルアミン、0.1容積部 酢酸
検出波長:700nm(NK−5)、588nm(NK−6)
Figure 2020067055
表4に示される通り、1−オクタノール層へ分配された化合物濃度はNK−5>NK−6>NK−4の順であり、分配係数LogPも同順であった。このことより、化合物間の相対的な脂溶性、ひいては組織や細胞への浸透性もこの順序であることが推察されることから、実験1−3で示されたNK−5及びその類縁体(NK−36、NK−44)、並びにNK−6が細胞内への移行性に優れることが化学計算に基づくシミュレーションによっても裏付けられたこととなる。とりわけNK−5については、NK−4の30倍以上のP値を示していることから、これまでは困難であった経口投与が可能なレベルに到達すると考えられた。本実験の結果は、NK−5(化学式2)とNK−6(化学式7)が、組織浸透性について、NK−4(化学式1)に対して顕著な優位性を持つことを物語っている。
<実験2−2:計算化学による色素化合物の脳浸透性予測>
上記の通り、化合物の脳移行性を表す薬理学的な指標としては、脳組織への浸透性を表すLogBBやBBB透過速度を表すLogPSが知られる。これらのパラメーターは、実験動物などの、所謂、「生体」を用いて実験的に取得されるが、その実験手技は難易度が高く、非常に高価、且つ、低スループットである。近年では、計算化学の手法を用いて、これらのパラメーターをコンピューター予測することが可能となり、例えば、『ドラッグ メタボリズム アンド ディスポジション(Drug Metabolism and Disposition)』、32巻(第1号)132乃至139頁(2004年)、『ジャーナル オブ ファーマシューティカル サイエンス(Journal of Pharmaceutical Science)』、98巻(第1号)122乃至134頁(2009年)や『セラピューティック デリバリー(Therapeutic Delivery)』、6巻(第7号)961乃至971頁(2015年)などに記載されるシミュレーションでは、その予測精度も着実に向上している。そこで色素化合物の相対的な脳移行性と脳浸透性をより詳細に推測するために、化学式1、2、5乃至7、10及び11で表される7化合物を選択して計算化学的な手法によりLogP(以下、LogP実測値と区別するために「cLogP」という。)とLogBBを算出した。なおこれら7化合物は、全て、対アニオンとして沃素を持つ化合物である。
cLogPは、実測LogPと同様に、値が大きいほど脂溶性に優れ、脳組織への浸透性が高まることを示す。より具体的な数値範囲としては、例えば、『ファルマシア』、48巻(第8号)761乃至766頁(2012年)などに記載される通り、中枢神経系薬の創薬における経験則として、cLogPが1乃至3の範囲にあることが好ましく、2付近であるとき脳浸透性が最適であるといわれる。一方、LogBBは、原理的には下式で表される分配係数であって、値が大きいほど、血管から脳組織への浸透性が高いことを表す。コンピューター・シミュレーションには、『ADMEWORKS(登録商標)ソフトウエア』(株式会社富士通九州システムズ社販売)を使用した。算定された各色素化合物のcLogP及びLogBBを表5に示す。なお各物性値のシミュレーションにあたっては、対象化合物のカチオン化窒素と沃素イオンが共有結合していると仮定して構造補正を行った後に計算を実施した。
Figure 2020067055
Figure 2020067055
表5に示す通り、NK−4(化学式1)、NK−5(化学式2)、NK−6(化学式7)の3化合物を相対比較した場合、cLogP値は、NK−5>NK−6>NK−4の順で、表4に示すLogP実測値と同様の傾向を示した。これら3化合物以外では、キノリン環に付加したN-アルキル基として、n−ブチル基もしくはイソペンチル基を有する化合物(化学式5、6、10及び11)が、高いcLogP値を示した。上記の通り中枢神経系薬として好ましいcLogP値は1乃至3といわれるが、NK−4を除く被験化合物のcLogP値は概ねその範囲にあることが示された。
同じく表5に示す通り、LogBB値に関しては、化合物間の数値差がcLogPほど大きくなかったが、被験化合物の中では、NK−4(化学式1)が最も脳への浸透性が低いことが推察された。LogBBにおいて高値を示したのはcLogPの場合と同様に、側鎖アルキル基としてn−ブチル基もしくはイソペンチル基を有する化合物(化学式5、6、10及び11)であり、キノリン系2核モノメチン及びトリメチンシアニン色素において、キノリンの1位窒素原子に結合する側鎖アルキル基の炭素鎖長が、脳移行性に関連することが示された。計算化学的な代替評価手法は、創薬分野において既に汎用ツールとして利用されているため、その信頼性は高く、上記計算結果は、これら化合物に中枢系薬剤として優れた性能があることを物語っている。
<実験3:色素化合物のフリーラジカルに対する作用>
心筋梗塞や脳梗塞に代表される虚血性疾患において、虚血後の血液再灌流時の組織傷害にはROSの関与が大きい。とりわけ脳組織は、脂質含有量が多いことから、ヒドロキシラジカルやペルオキシラジカルによる酸化傷害に対して感受性が高いことが知られており、これらフリーラジカルによる直接的、及び/又は間接的な神経細胞変性によって脳機能に障害が及ぶ。そこで、本発明の抗神経変性疾患剤の有効成分である色素化合物が、効果的にフリーラジカルを消去する作用を有するか、4種類のモデルラジカルを選択し、それらの消去活性を吸光度法および電子スピン共鳴法(以下、「ESR」と略記する。)により測定した。
<試験標品>
試験には、実験1で使用した被験化合物の中からNK−4(化学式1)、NK−5(化学式2)及びNK−6(化学式7)を選択し作用強度を比較した。なお実験3−2乃至実験3−4においては、抗酸化能を有するL−アスコルビン酸を陽性対照として用いた。
<実験3−1:DPPHラジカル消去能の測定>
2,2−ジフェニル−1−ピクリルヒドラジル(以下、「DPPH」という。)は不対電子を持つラジカルで、他の物質の酸化能を持つこと、また、安定で扱いやすいことから、人工のラジカル様物質として抗酸化物質の抗酸化能測定に汎用されている。DPPHは抗酸化能を有する物質と反応すると、自身の酸化能を失い、深紫色から無色に変化する性質を持つ。そこで、DPPHの呈する深紫色の消失を吸光度法で測定することにより、色素化合物のDPPH消去能を検討した。
<試験標品>
被験化合物としてNK−4(化学式1)、NK−5(化学式2)及びNK−6(化学式7)を用い、実験1−1に記載したと同じ方法で被験標品を調製した。た。なお実験3−1(DPPHラジカル消去能の測定)のみ、色素化合物の構造と活性の相関を確認するために化学式43で表されるNKX−4076を合成し、被験化合物として追加した。
Figure 2020067055
DPPH(東京化成工業株式会社販売)をエタノールに溶解して167μMのDPPHエタノール溶液を調製し、96穴マイクロプレートに各ウェル90μlずつ添加した。ここに、エタノールで段階希釈した被験化合物を各ウェル60μlずつ添加して室温で2時間反応させた後に490nmの吸光度を測定した。被験化合物を添加していないウェルの吸光度を100%のラジカル強度として、各濃度の被験化合物を含むウェルのラジカル強度をその相対百分率(%)で示し、その値からDPPHラジカルの50%阻害濃度(以下、「IC50」と表記する。)を算定した。測定は各被験化合物の各濃度について3点ずつ実施し、平均値で表6に示した。なお、表6には、後述するスーパーオキシド消去能、ヒドロキシラジカル消去能及びペルオキシラジカル消去能の評価結果も併せて示している。
表6に示すように、NK−4(化学式1)、NK−5(化学式2)及びNK−6(化学式7)はいずれもDPPHラジカル消去能を有しており、その強度はNK−5>NK−6>NK−4の順であった。なお表6には示していないが、化学式43で表されるNKX−4076のIC50値は10,000μM以上と算定され、キノリン骨格を有する同化合物は、実質的にDPPHラジカル消去能を有さないことが示された。このことより、これら化合物のDPPHラジカル消去活性に寄与する構造単位は、複素芳香環自体ではなく、複素芳香環と繋がったメチン構造であると推察された。一方、IC50値に基づく相対活性は、NK−5がNK−4の約4倍、NK−6はNK−4の約2倍であり、DPPHラジカルの消去能は分子内にメチン鎖の存在を必須の要件とするものの、キノリン環を繋ぐメチン鎖の長さとは相関せず、分岐を有さない直鎖メチン構造が有利に働くと推察された。
<実験3−2:スーパーオキシド消去能の測定>
スーパーオキシドは酸素分子の分子軌道の2つのπ*軌道(反結合性のπ軌道)に3つの電子が入った状態のROSであり、ラジカルとしての反応性とアニオンの性質を持つ。酸素分子の一電子還元で生成するが、生体内ではミトコンドリア呼吸鎖電子伝達系、キサンチン酸化酵素、NADH酸化酵素などによって生成され、スーパーオキシドジスムターゼ(以下、「SOD」という。)により消去される。本実験では、ヒポキサンチンとキサンチンオキシダーゼを反応させて生成するスーパーオキシドをスピントラップ剤である5,5−ジメチル−4−フェニル−1−ピロリンN−オキシド(以下、「4PDMPO」という。)で捕捉し、被験化合物によるSOD様活性をESRにて測定した。
具体的には、ガラス試験管に1mMに調製したヒポキサンチン(富士フィルム和光純薬工業株式会社販売)の水溶液を50μl、DMSOを30μl、4.5Mの4PDMPO(富士フィルム和光純薬工業株式会社販売)を50μl添加・撹拌し、さらに被験化合物を50μl添加した後、0.4ユニット/mLのキサンチンオキシダーゼ溶液(Roche販売)を50μlを添加してボルテックスで10秒間混合した。キサンチンオキシダーゼの添加から40秒後に反応混合液のESRスペクトルを測定し、色素化合物を添加しない場合を100%のラジカル強度として、被験化合物のラジカル消去能をその相対パーセントで示した。測定は各被験化合物の各濃度について3点ずつ実施し、それらの平均値を用いてIC50を算出して表6に併せて示した。なお、陽性対照には抗酸化物質として知られるアスコルビン酸(富士フィルム和光純薬工業株式会社販売)を用いた。また、この時のESR測定条件は後述する。
表6に示す通り、被験化合物はいずれもスーパーオキシドラジカルの消去能を有しており、NK−6は、強力なラジカル消去剤として知られるアスコルビン酸と同等の能力を有していた。被験化合物のIC50値を比較した場合、NK−5及びNK−6は、NK−4に比べて2倍以上のスーパーオキシドラジカル消去能を示し、これら3化合物の消去活性の相対強度はDPPHラジカルに対する消去能の場合とほぼ同様であった。
<実験3−3:ヒドロキシラジカル消去能の測定>
ヒドロキシラジカルはフリーラジカルの一種で、生体内では極めて反応性が高い、即ち組織傷害性が高いことが知られている。ヒドロキシラジカルは、生体内では過酸化水素への紫外線の照射や、過酸化水素と二価の鉄化合物との反応(フェントン反応)によって生成され、ベータカロチン、ビタミンE、尿酸、リノール酸、システイン、フラボノイド、グルタチオン等の抗酸化物質により消去される。本実験では、フェントン反応によりジエチレントリアミン−N,N,N´,N´´,N´´−五酢酸(DTPA)から生じるヒドロキシラジカルを4PDMPOでトラップし、ESRにて測定した。
具体的には、DMSOに溶解した色素化合物を、各々精製水で希釈し被験化合物溶液とした。ガラス試験管に1mM過酸化水素水50μlと356mMの4PDMPO 50μlを加え、続いて被験化合物溶液50μlを添加した。そこに1mM FeSOと1mM DTPA(富士フィルム和光純薬工業株式会社販売)を含む水溶液50μlを加え、ボルテックスミキサーで10秒間混合した後、正確に40秒間反応させた反応液をESR測定に使用した。色素化合物を添加しない場合を100%のラジカル強度として、被験化合物のラジカル消去能をその相対パーセントで示した。測定は各被験化合物の各濃度について3点ずつ実施し、それらの平均値を用いてIC50を算出して表6に併せて示した。なお陽性コントロールには実験3−2の場合と同様にL−アスコルビン酸を用いた。また、この時のESR測定条件は後述する。
表6に示すように、被験化合物はいずれもヒドロキシラジカルの消去能を有し、IC50値をヒドロキシラジカル消去能の強度指標とした場合、NK−5(化学式2)が最も強い消去活性を有しており、続いてNK−4(化学式1)、NK−6(化学式7)の順であった。対照として用いたアスコルビン酸は強力な天然抗酸化物質として知られるが、NK−4及びNK−5は、L−アスコルビン酸よりも顕著に高い活性を有することが示された。またNK−6についても、アスコルビン酸には劣るものの、ヒドロキシラジカル消去能を有していた。
<実験3−4:ペルオキシラジカル消去能の測定>
フリーラジカルの一種であるペルオキシラジカルは、不飽和脂肪酸とヒドロキシラジカルの反応によって生じる生体内脂質過酸化物の一種である。脳などの脂質含有率が高い臓器は、ペルオキシラジカルに対する感受性が強いことが知られており、当該ラジカルを効果的に消去する作用は、酸化ストレスが病態形成に関与する神経変性疾患において非常に重要である。2,2´−アゾビス(2−アミノジプロパン)二塩酸塩(以下、「AAPH」という。)の加熱により生じるペルオキシラジカルは、生体由来ラジカルのモデルとされるため、本実験では、被験化合物がペルオキシラジカルを消去する能力をESRにより測定した。
具体的には、DMSOに溶解した色素化合物を、各々0.1M リン酸緩衝液で希釈して被験化合物溶液とした。0.1M リン酸緩衝液(pH7.4)50μlに、720 mM DMPO 50μl、被験化合物溶液50μl、100mM AAPH(富士フィルム和光純薬工業株式会社販売)50μlを加え、ボルテックスミキサーで10秒間混合した後、37℃の恒温槽中で2分50秒間反応させた反応液を、反応終了30秒後にESR測定に使用した。色素化合物を添加しない場合を100%のラジカル強度として、被験化合物のラジカル消去能をその相対パーセントで示した。測定は各被験化合物の各濃度について3点ずつ実施し、それらの平均値を用いてIC50を算出して表6に示した。なお陽性コントロールには実験3−2及び実験3−3と同様にL−アスコルビン酸を用いた。また、この時のESR測定条件は後述する。
Figure 2020067055
表6に示す通り、NK−4(化学式1)、NK−5(化学式2)及びNK−6(化学式7)はいずれもペルオキシラジカルの消去能を有していたが、IC50値をラジカル消去能の指標とした場合、NK−5が最も強い消去活性を有しており、続いてNK−4、NK−6の順であり、この傾向はヒドロキシラジカルの消去能と相関していた。
<ESR測定法>
上記ESR測定の詳細条件について本項に記す。各種ラジカル測定用の反応液をESR用扁平石英セルにとり、ESR装置(日本電子株式会社販売、商品名「Freeradical Monitor JES−FR30」)にてESRスペクトルを測定した。各ラジカル由来のESRスペクトルを測定する際には、被験化合物溶液に代えて、スーパーオキシド及びヒドロキシラジカル測定の場合には精製水を、ペルオキシラジカル測定の場合には0.1M リン酸緩衝液を反応液に混合して、被験化合物を測定した場合と同様に反応させた。この時の其々のラジカルに対応するESRスペクトルのピーク高を100として、溶液を加えて反応させたときの相対強度を求め、ラジカル残存率(%)として表した。この時のESR測定パラメーターは以下のように設定した。
<測定条件>
Power:4mW
Magnetic field:335.5mT
Sweep time:2min
Modulation width:0.079mT
Amplitude:79(ヒドロキシラジカルの測定の場合)
125(ペルオキシラジカルの測定の場合)
250(スーパーオキシドの測定の場合)
Time constant:0.1sec
Accum:1
上記実験3から分かる通り、NK−5(化学式2)は、ヒドロキシラジカルやペルオキシラジカルをNK−4(化学式1)よりも強力に消去するため、生体に投与することで、虚血性疾患において血液再灌流時に発生するヒドロキシラジカル及び/又はペルオキシラジカルによる酸化ストレスを顕著に抑制することが期待できる。また実験1−1及び実験1−2の結果より、NK−5(化学式2)及びNK−6(化学式7)は、NK−4(化学式1)と同等、もしくはNK−4を上回る神経細胞増殖促進作用及び神経突起伸展作用を併せ持つため、神経細胞死を抑制する作用が期待できる。さらに実験1−3において、NK−5(化学式2)とその類縁体、並びにNK−6(化学式7)が、酸化ストレスで惹起された神経細胞内のROS産生を効果的に抑制したことは、これらの化合物が、抗神経変性疾患剤としてだけではなく、脳保護剤、ラジカルスカベンジャー、酸化ストレス抑制剤、過酸化脂質生成抑制剤、脳の酸化的障害抑制剤などとして有効であることを物語っている。尚且つ、実験3で示されたNK−5(化学式2)のラジカル消去作用は顕著であり、実験に供した4種のラジカルの全てにおいて、NK−4(化学式1)よりも強力な消去能を示した。一方、NK−6(化学式7)は、DPPHラジカルやスーパーオキシドに対して強い作用を有することが示された。このことは、NK−5とNK−6のラジカル消去に関する特異性が異なることを物語っており、これら2種化合物を同時配合することで、より多種類のラジカルを含むROSを効果的に消去する剤が設計可能であることを示唆している。
<実験4:化合物の溶解性>
従来技術(特許文献6)で開示されているキノリン骨格3核ペンタメチン色素であるNK−4(化学式1;分子量789.54)は、一般的な中枢神経系薬剤と比べて分子量が大きく溶解性が低いと考えられる。そこで、NK−4と同じく神経細胞増殖促進作用、神経突起伸展作用及びラジカル消去作用を併せ持つNK−5(化学式2;分子量480.38)及びNK−6(化学式7;分子量454.34)について、水及びエタノールに対する溶解性を評価した。
<化合物の定量法(吸光度法)>
各被験化合物をDMSOに5mg/mLの濃度で溶解した試験標品を70容積%アセトニトリルで希釈して、400nmから900nmの波長領域の吸収スペクトルを吸光光度計(製品名『フレックスステーション3』、モレキュラーディバイスジャパン社製)でスキャンした。各被験化合物の最大吸収波長を求め、同波長における吸光度と濃度の相関式を算定して検量線を作成したうえで、以下の定量試験を実施した。なお各化合物の70容積%アセトニトリル溶液における最大吸収波長は、NK−4が770nm、NK−5が704nm、NK−6が588nmであり、各化合物共に、最大吸収波長における濃度依存性が確認されている。
各色素化合物の溶解性は日本薬局方に記載の方法を参考にして、次の通り測定した。即ち、各被験化合物を減圧乾燥器(商品名『バキューム・ドライ・オーブンDP41』、ヤマト科学社製)を用いて120℃で2時間減圧乾燥したものを各20mg秤量し、100mlの蒸留水を添加して、室温・遮光下でスターラー撹拌を行った。30分後に、各被験液から1mlを3点サンプリングし、18,400×gで5分間遠心分離後、上清0.3mlを採取し、アセトニトリル0.7mlを添加して合計1.0mlとした後に上述した各色素に対応する最大吸収波長にて吸光度を測定し、検量線から濃度を算定した。
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表7に示す通り、各色素化合物の蒸留水に対する溶解性は、NK−6(化学式7)が最も高く、次いでNK−5(化学式2)であり、両化合物の水溶性はNK−4(化学式1)よりも顕著に高いことが判明した。エタノールに対する溶解性では、NK−5とNK−6の順が逆転したが、いずれもNK−4よりも顕著に高い溶解性を持つことが示された。このことは、NK−5及びNK−6は、NK−4よりも、顕著に溶解性が高く、そのため、バイオアベイラビリティや薬剤利用性の点においても極めて有利に利用されうることを物語っている。
上記実験1乃至4の一連の結果より、一般式4で表される化合物であるNK−5及びNK−6、並びにそれらのアルキル側鎖が異なる類縁体(化学式2乃至11)は、従来から抗神経変性疾患剤の有効成分として提案されている色素化合物NK−4(化学式1)と比較して、その作用効果や製剤適性、さらには脳移行性に関して、顕著な優位性を有することは明らかである。
以下、本発明の抗神経変性疾患剤について、実施例により説明するが、本発明はこれら実施例に何ら限定されるものではない。
<経口用剤>
NK−5(化学式2で表される化合物)及びNK−6(化学式7で表される化合物)(いずれも株式会社林原製造)を等モル量配合し、乳鉢を用いて微粉化した混合粉末5.0質量部に対し、炭酸水素ナトリウム3.75質量部及び含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原販売、商品名『トレハロース100PH』)1.5質量部、ステアリン酸マグネシウム0.25質量部を均質に混合し、常法により0.5gずつ打錠し錠剤を調製した。本品は、効果が高く持続性に優れる経口投与用の抗神経変性疾患剤として利用できる。また、本品は、神経変性抑制剤、神経細胞保護剤、神経突起促進剤や、神経変性に伴う病態や神経機能障害の治療剤としても利用できる。また、本品は脳保護剤、脳の酸化的障害抑制剤、虚血性脳障害抑制剤、脳梗塞巣進展抑制剤、脳浮腫抑制剤、遅発性神経死抑制剤、脳機能正常化剤、酸化ストレス抑制剤、抗潰瘍剤、血糖上昇抑制剤、眼性疾患の予防・治療剤、移植臓器保存剤、移植組織・臓器の壊死防止剤、組織・臓器の障害の予防・治療剤、放射線障害予防・治療剤、抗腫瘍剤、腫瘍転移抑制剤、細胞障害マーカー抑制剤、炎症性疾患やそれに伴う組織障害の予防・治療剤、感覚細胞、感覚神経或いは感覚器の障害の抑制剤、薬物中毒の予防・治療剤、カルシウム・ナトリウム交換系阻害剤、疼痛や掻痒の予防・治療剤、プロテインキナーゼ刺激剤、ミトコンドリア脳筋症予防・治療剤、動脈閉塞・狭窄予防・治療剤、血液脳関門破綻抑制剤、薬物依存症治療剤、アポトーシス抑制剤、過酸化脂質生成抑制剤、ラジカルスカベンジャー、アミロイドβペプチド凝集阻害剤、アミロイドβペプチド傷害抑制剤として利用してもよい。さらに、本発明の抗神経変性疾患剤は、神経変性疾患を発症したペットをはじめとするヒト以外の動物の治療剤や、その予防剤として使用することもできる。
<経口用剤>
予め乳鉢を用い微粉化した、化学式2乃至6で表されるNK−5もしくはその類縁体(NK−36,NK−37,NK−44及びNK−45)、化学式7乃至11で表されるNK−6もしくはその類縁体(NK−1946、NK−1945,NK−10745及びNK−1486)(いずれも株式会社林原製造)のいずれか1種5.0質量部に対し、炭酸水素ナトリウム3.75質量部及びアスコルビン酸2−グルコシド(株式会社林原販売、商品名『L−アスコルビン酸2−グルコシド試薬』)1.5質量部、ステアリン酸マグネシウム0.25質量部を均質に混合し、常法により0.5gずつ打錠し錠剤を調製した。本品は、実施例1と同じく経口投与用の抗神経変性疾患剤として、該実施例の適用範囲において利用できる。また本品は安定型ビタミンCであるところのL−アスコルビン酸2−グルコシドの作用により保存安定性に優れ、長期間摂取しても、副作用がなく、未病者でも安心して利用できる。
<注射用液剤>
注射用精製水370gに注射用精製マルトース(株式会社林原製造)60gを溶解した溶液と、注射用精製水170gに、レシチン2gと有効成分として、化学式2乃至6で表されるNK−5もしくはその類縁体(NK−36,NK−37,NK−44及びNK−45)及び、化学式7乃至11で表されるNK−6もしくはその類縁体(NK−1946、NK−1945,NK−10745及びNK−1486)(いずれも株式会社林原製造)の其々各1種を、120mgずつ溶解した溶液とを混合し、濾過滅菌後、溶存する酸素の濃度が約0.1ppmになるまで無菌の窒素ガスをバブリングして、褐色アンプルに1mlずつ分注し、窒素気流下でアンプルを封止した。本品は、いずれもパイロジェンフリーであり、注射用の抗神経変性疾患剤として利用できる。また、本品は、神経変性抑制剤、神経細胞保護剤、神経突起促進剤や、神経変性に伴う病態や神経機能障害の治療剤としても利用できる。また、本品は脳保護剤、脳の酸化的障害抑制剤、虚血性脳障害抑制剤、脳梗塞巣進展抑制剤、脳浮腫抑制剤、遅発性神経死抑制剤、脳機能正常化剤、酸化ストレス抑制剤、抗潰瘍剤、血糖上昇抑制剤、眼性疾患の予防・治療剤、移植臓器保存剤、移植組織・臓器の壊死防止剤、組織・臓器の障害の予防・治療剤、放射線障害予防・治療剤、抗腫瘍剤、腫瘍転移抑制剤、細胞障害マーカー抑制剤、炎症性疾患やそれに伴う組織障害の予防・治療剤、感覚細胞、感覚神経或いは感覚器の障害の抑制剤、薬物中毒の予防・治療剤、カルシウム・ナトリウム交換系阻害剤、疼痛や掻痒の予防・治療剤、プロテインキナーゼ刺激剤、ミトコンドリア脳筋症予防・治療剤、動脈閉塞・狭窄予防・治療剤、血液脳関門破綻抑制剤、薬物依存症治療剤、アポトーシス抑制剤、過酸化脂質生成抑制剤、ラジカルスカベンジャー、アミロイドβペプチド凝集阻害剤、アミロイドβペプチド傷害抑制剤、コリンエステラーゼ活性阻害剤、セリン/スレオニンキナーゼ(Akt)活性化剤、ホスファチヂルイノシトール(3,4,5)3リン酸キナーゼ(PI3K)−セリン/スレオニンキナーゼ(Akt)カスケード活性化剤、サイクリックAMP濃度上昇促進剤、或いは、SAPK/JNKリン酸化抑制剤として利用してもよい。さらに、本発明の抗神経変性疾患剤は、神経変性疾患を発症したペットをはじめとするヒト以外の動物の治療剤や、その予防剤として使用することもできる。
<注射用液剤>
注射用精製水370gにパイロジェンフリーの含水結晶α,α−トレハロース(株式会社林原販売、商品名『トレハロースSG』)50g、アスコルビン酸0.5g、炭酸水素ナトリウム1.25gを溶解しpHを7.2に調整した溶液と、注射用精製水177gに、ツイーン80(日本油脂株式会社販売、商品名『ポリソルベイト80』)3gと、有効成分である化学式7乃至11で表されるNK−6もしくはその類縁体(NK−1946、NK−1945,NK−10745及びNK−1486)(いずれも株式会社林原製造)のいずれか1種を、各々120mg溶解した溶液を混合し、濾過滅菌後、溶存する酸素の濃度が約0.1ppmになるまで無菌の窒素ガスをバブリングし、褐色アンプルに1mlずつ分注し、窒素気流下でアンプルを封止した。本品は、いずれもパイロジェンフリーであり、実施例4と同じく注射用の抗神経変性疾患剤として、該実施例の適用範囲において利用できる。
<用時溶解型粉末剤>
注射用精製水370gに注射用精製マルトース(株式会社林原製造)30g、アスコルビン酸0.5g、炭酸水素ナトリウム1gを溶解しpHを7.0に調整した溶液と、注射用精製水100gに、有効成分である化学式2乃至6で表されるNK−5もしくはその類縁体(NK−36,NK−37,NK−44及びNK−45)、化学式7乃至11で表されるNK−6もしくはその類縁体(NK−1946、NK−1945,NK−10745及びNK−1486)(いずれも株式会社林原製造)のいずれか1種を200mg溶解した溶液とを、各々混合して濾過滅菌後、褐色アンプルに10mlずつ分注し、常法により凍結乾燥後、窒素気流下でアンプルを封止した。本品は、いずれもパイロジェンフリーであり、用時に、アンプルに注射用精製水乃至生理食塩水2乃至10mlを加えて溶解し、点滴静注、皮下投与、腹腔内投与などの方法で用いることができる。本品は、水溶液状態で安定性に劣る色素化合物に適した剤形であるが、実施例4と同じく注射用の抗神経変性疾患剤として、該実施例の適用範囲において利用できる。
本発明の抗神経変性疾患剤は、神経細胞の神経変性に起因する疾患の予防、治療及び/又は進展抑制、さらには、神経変性を引き起こす因子からの神経細胞保護に有用である。また、神経変性疾患に伴う種々の病態や神経機能障害の改善にも有用である。更に本発明の抗神経変性疾患剤は、溶解性が高く、脳移行性も改善されているため、経口投与が可能であり、より少量の投与で、従来の剤と同等、もしくはそれ以上の効果が期待でき、水系製剤への配合に関しても自由度が増すことから顕著な進歩性を有するものである。本発明は、斯くも顕著な作用効果を奏する発明であり、斯界に多大の貢献をする、誠に意義のある発明である。

Claims (7)

  1. 下記一般式4で表される化合物を有効成分として含有し、中枢神経系の神経細胞増殖促進作用と、神経突起伸展作用と、活性酸素種の消去作用とを有する抗神経変性疾患剤。
    Figure 2020067055
    (一般式4において、R10とR11は、炭素数2乃至8の互いに同じか異なるアルキル基を表すものとし、アルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。nは0又は1のいずれかである整数を表し、X は薬学的に許容される適宜の対アニオンを表す。)
  2. 上記抗神経変性疾患剤が経口投与剤である請求項1記載の抗神経変性疾患剤。
  3. 一般式4で表される化合物のカチオン部の分子量が500Da未満である請求項1又は2記載の抗神経変性疾患剤。
  4. 神経変性疾患がアルツハイマー病、パーキンソン病、認知症、脊髄小脳変性症、脳梗塞及び運動失調症から選ばれる神経変性疾患である請求項1乃至3のいずれかに記載の抗神経変性疾患剤。
  5. 一般式4で表される化合物の対アニオンが、沃素イオン、臭素イオン又は塩素イオンのいずれかである請求項1乃至4のいずれかに記載の抗神経変性疾患剤。
  6. 一般式4で表される化合物が、下記化学式2乃至11のいずれかで表される化合物である請求項1乃至5のいずれかに記載の抗神経変性疾患剤;
    Figure 2020067055
  7. 一般式4で表される化合物であって、nが1である化合物の1種又は2種以上と、nが0である化合物の1種又は2種以上を有効成分として含み、nが1である化合物のモル数の総和と、nが0である化合物のモル数の総和の比が、10:1乃至1:10の範囲にある請求項1乃至6のいずれかに記載の抗神経変性疾患剤。
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