JPWO2020032228A1 - 前立腺がんの検出のためのキット、デバイス及び方法 - Google Patents

前立腺がんの検出のためのキット、デバイス及び方法 Download PDF

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Abstract

本発明は、前立腺がんの検出用キット又はデバイス、並びに、検出方法を提供することを課題とする。本発明によれば、被験体の検体中のmiRNA又はその相補鎖と特異的に結合可能な核酸を含む、前立腺がん検出用キット又はデバイス、並びに、該miRNAをin vitroで測定することを含む、前立腺がんを検出する方法が提供される。

Description

本発明は、被験体において前立腺がんへの罹患の有無の検査のために使用される、特定のmiRNA又はその相補鎖と特異的に結合可能な核酸を含む前立腺がんの検出用キット又はデバイス、及び当該miRNAの発現量を測定することを含む前立腺がんの検出方法に関する。
前立腺は男性の精液の一部を作る臓器で、膀胱の下、直腸の前に位置する。前立腺がんは、この前立腺の細胞が無秩序に増殖を繰り返す疾患である。国立研究開発法人国立がん研究センターがん対策情報センターが開示する2013年の日本国内における部位別のがんの統計によると、前立腺がんの罹患者数は74,861人、つまり日本人男性の11人に1人が罹患するとされ、男性における罹患数が第4位のがん部位である。前立腺がんによる死亡者数は11,803人にのぼり、男性における死亡者数が第7位のがん部位である。また米国がん協会によると、米国では7人に1人の割合で男性が前立腺がんを発症すると言われており、特に高齢者で多く、65歳以上では10人に6人の男性が前立腺がんと診断される。米国の2014年の推定前立腺がん罹患者数は233,000人にも上り、そのうち約29,480人が死亡するとされる。
前立腺がんは、前立腺がんの前がん病変である前立腺肥大や前立腺炎などの良性疾患を経て一部ががんへ進行すると言われている。前立腺がんの進行度は「TNM Classification of Malignant Tumours 第7版」(Sobin、 L.ら、2010年、p.230〜234)に定められており、腫瘍の広がり(T1a〜c、T2a〜c、T3a〜b、T4)、リンパ節転移無し(N0)、リンパ節転移有り(N1)、遠隔転移無し(M0)、遠隔転位有り(M1)などによって、ステージI(T1〜T2a/N0/M0)、ステージII(T2b〜c/N0/M0)、ステージIII(T3/N0/M0)、ステージIV(T4/N0/M0及びN1及びcM1)に分類される。
更に前立腺がんの悪性度を示す指標としてグリーソン分類が定められている。米国がん協会によると、グリーソン分類値は、前立腺がん組織の病変の悪性度を1〜5の段階で評価し、前立腺がん組織の量的に最も多い病変と2番目に多い病変の評価値の合計である2〜10をグリーソン分離値と設定している。グリーソン分類値6以下は低悪性度、グリーソン分類値7は中悪性度、グリーソン分類値8以上は高悪性度とみなされる。
前立腺がんの多くは進行が比較的ゆっくりであることから、5年相対生存率はほぼ100%と最も予後が良いがんの一つである。しかしながら前立腺がんの中には比較的早く進行し、様々な障害や症状を引き起こすものもあり、ステージ4で遠隔転移が認められる前立腺がんは、5年相対生存率が28%と格段に低い。
前立腺がんの診断には、1次検査として血中腫瘍マーカーであるPSA検査が広く用いられている。PSA測定値が高い場合に、直腸診や経直腸的前立腺超音波検査が実施され、さらに前立腺がんが疑われる場合に確定診断として生体組織検査が実施される。また、遠隔転移が疑われる場合には、CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィ検査などの画像検査も行われる。
前立腺特異的抗原であるPSAは、前立腺で生成され精液に含まれるが、血中にも僅かながら存在する。一般男性の通常血中PSA濃度は4ng/mL以下とされており、この基準値を超えた場合、前立腺がんが疑われる。血中PSA濃度は、無症状のうちの早期の前立腺がんでも上昇すること、がんの進行度にも相関すること、などから有用であるとされ広く普及している。また、米国がん協会は前立腺がんの早期検出を推奨し、前立腺がんのスクリーニングを望む被験者はPSA検査を受診すべき、と進言している。
前立腺がんの治療は原則的には外科治療、放射線治療、内分泌療法(ホルモン療法)、更には特別な治療を実施せず、腫瘍マーカーであるPSAを監視しながら経過観察を続ける待機療法がある。特に、早期の前立腺がんの治療には幾つか選択肢があり、待機療法の他に、放射線外照射療法、内部放射線療法(小線源治療)、根治的前立腺摘除術、凍結手術などがある。
このように、前立腺がんの腫瘍マーカー検査としてPSA検査が広く普及しているが、PSA検査は血中濃度基準値である4ng/mL以下の男性の15%でも生体組織検査で前立腺がん陽性と判定されることが知られており、また一方で、がんが無くとも良性の前立腺肥大や前立腺炎を患っている男性、及び一般男性高齢者であれば血中PSA濃度は上昇することから、偽陽性が高いことでも知られる。また、前立腺がん以外のがんを誤って検出してしまう場合も偽陽性につながる。このようなPSA検査における高い偽陽性は過剰診断、過剰治療へと繋がり、不要な前立腺がん治療による様々な後遺症が近年問題視されている。具体的なPSA検査の性能は、5000名以上の被験者をリクルートした大規模研究(Wolf、 AM.ら、2010年、A Cancer Journal for Clinicians、第60(2)巻、p.70−98)によると、前立腺がん全体で感度は20.5%と低く、悪性度が高い前立腺がんに限っても51%に留まっており、術前検査としての腫瘍マーカー測定の意義は乏しいとされている。
一方、研究段階ではあるが、特許文献1〜2及び非特許文献1〜2に示されるように、血液をはじめとする生体サンプル中のマイクロRNA(miRNA)の発現量、又はmiRNAの発現量と他のマーカーの発現量とを組み合わせることによって、前立腺がんを検出するという報告がある。
特許文献1には前立腺がん由来の血液中miR−1275を用いて前立腺がんを検出する方法が示されているが、対象症例数が2〜9症例と極端に少なく信頼性が低い。
特許文献2には血液中のmiR−6819−5pやmiR−1228−5pなどから1〜4種類のmiRNAを組み合わせて、前立腺がんを健康人又は乳がん患者から判別する方法が示されている。しかしながら、前立腺がん診断における最重要課題の一つは前立腺がんと前立腺良性疾患を見分けることであるが、本法ではこの期待に応えておらず、臨床実用の価値を満たしていない。
非特許文献1には、血清中のmiR−320a/−b/−cの発現量が、健康人、前立腺肥大、前立腺がんの判別に有用であることが記載されている。この文献では、miR−320a/−b/−cの発現量はいずれも健康人より前立腺肥大患者で有意に高く、更に前立腺がん患者では前立腺肥大患者より有意に低く一方で健康人よりは有意に高い、といった、発現量の順番として、健康人<前立腺がん<前立腺肥大、という関係が成り立っている。しかしながら、この関係において例えば健康人と前立腺がん患者の間に判別閾値を設けてしまうと、前立腺肥大患者もがん側に判定されてしまい、陽性群は前立腺がん又は前立腺肥大であることを示し、がんの有無を判定することはできない。前立腺肥大は、前立腺がんの前がん病変の一つと言われる状態であることから、本来であれば、健康人<前立腺肥大<前立腺がん(又は健康人>前立腺肥大>前立腺がん)という段階的な関係が成立することが必要である。本文献では、臨床現場で求められる、健康人と前立腺肥大を陰性群、前立腺がんを陽性群とした判別はできておらず、実用できない。
非特許文献2では、手術時に得られた組織検体中のmiR−17−3pを含むmiR−17−92クラスターが前立腺がんと前立腺肥大の判別に有用である可能性が示されている。しかしながら、前立腺がんと肥大を含む前立腺良性疾患との判別は手術をすれば分かることであり、言い換えれば手術前に判別が可能になることで臨床有用性が存在する。本文献のように手術後に前立腺がんの有無が判明したとしても産業的価値は極めて低い。
特開2015−039365号公報 国際公開2015/190584号
Lieb, B.ら、2018年、Oncotarget、第9(12)巻、p.10402−10416 Feng,S.ら、2017年、Oncology Letters、第14(6)巻、p.6943−6949
上記のとおり、研究段階ではあるが血液をはじめとする生体サンプル中のマイクロRNA(miRNA)の発現量を用いて前立腺がんを判別するという幾つかの報告があるが、いずれも実用化に至っていない。実際に、特許文献1の発明内容を検証したところ、後記比較例1に示すように、前立腺がん患者検体と前立腺良性疾患患者検体においてmiR−1275の発現量に差は無く、例えば発現量7.8を閾値とすると感度55%、特異度47%であり、この性能は前立腺がんの判別に充分であるとは言えず、検査として臨床で実用することはできない。
従って、本発明は、臨床現場で求められる前立腺がんと肥大を含む前立腺良性疾患との判別が可能で、信頼性及び実用性の高い新規な前立腺がん腫瘍マーカーを見出し、当該マーカーに特異的に結合可能な核酸を用いて、非侵襲的かつ少ない検体量での前立腺がんの診断及び治療に有用な疾患診断用キット又はデバイス、及び前立腺がんの判定(又は検出)方法を提供することを目的とする。
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討の結果、低侵襲に採取できる血液から、前立腺がん検出マーカーに使用可能な遺伝子を見出し、これを用いて前立腺がんを有意に検出できることを見いだし、本発明を完成するに至った。
<発明の概要>
すなわち、本発明は、以下の態様を含む。
(1)前立腺がんマーカーである、miR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、及びmiR−6076からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を含む、前立腺がんの検出用キット。
(2)前記核酸が、下記の(a)〜(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(1)に記載のキット。
(3)前記キットが、別の前立腺がんマーカーである、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、及びmiR−1228−5pからなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸をさらに含む、(1)又は(2)に記載のキット。
(4)前記核酸が、下記の(f)〜(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(f)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)〜(i)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(3)に記載のキット。
(5)前立腺がんマーカーである、miR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、及びmiR−6076からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を含む、前立腺がんの検出用デバイス。
(6)前記核酸が、下記の(a)〜(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(5)に記載のデバイス。
(7)前記デバイスが、別の前立腺がんマーカーである、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、及びmiR−1228−5pからなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸をさらに含む、(5)又は(6)に記載のデバイス。
(8)前記核酸が、下記の(f)〜(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(f)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)〜(i)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(7)に記載のデバイス。
(9)前記デバイスが、ハイブリダイゼーション技術による測定のためのデバイスである、(5)〜(8)のいずれかに記載のデバイス。
(10)前記ハイブリダイゼーション技術が、核酸アレイ技術である、(9)に記載のデバイス。
(11)被験体の検体において、前立腺がんマーカーである、miR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、及びmiR−6076からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドの発現量を測定し、該測定された発現量を用いて被験体が前立腺がんに罹患しているか否かをin vitroで評価することを含む、前立腺がんの検出方法。
(12)前立腺がんを有することが既知である被験体由来の検体の遺伝子発現量と前立腺がんに罹患していない被験体由来の検体の遺伝子発現量を教師サンプルとして作成された、かつ前立腺がんの存在又は不存在を区別的に判別することが可能である判別式に、上記被験体由来の検体中の前記少なくとも1つのポリヌクレオチドの発現量を代入し、それによって、前立腺がんの存在又は不存在をin vitroで評価することを含む、(11)に記載の方法。
(13)前記ポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を用いて前記ポリヌクレオチドの発現量の測定を行い、前記核酸が、下記の(a)〜(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(11)又は(12)に記載の方法。
(14)別の前立腺がんマーカーである、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、及びmiR−1228−5pからなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドの発現量を測定することをさらに含む、(11)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)前記ポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を用いて前記ポリヌクレオチドの発現量の測定を行い、前記核酸が、下記の(f)〜(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(f)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)〜(i)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、(14)に記載の方法。
(16)前記ポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を含む、(1)〜(4)のいずれかに記載のキット又は(5)〜(10)のいずれかに記載のデバイスを用いて、被験体の検体における標的遺伝子の発現量を測定する、(11)〜(15)のいずれかに記載の方法。
(17)前記被験体が、ヒトである、(11)〜(16)のいずれかに記載の方法。
(18)前記検体が、血液、血清又は血漿である、(11)〜(17)のいずれかに記載の方法。
(19)miR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、及びmiR−6076からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドを含む、前立腺がん検出用マーカー。
(20)前記ポリヌクレオチドが、下記の(a)及び(b)のポリヌクレオチド:
(a)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(b)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドである、(19)に記載のマーカー。
(21)前記マーカーが、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、及びmiR−1228−5pからなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドをさらに含む、(19)または(20)に記載の前立腺がん検出用マーカー。
(22)前記ポリヌクレオチドが、下記の(f)及び(g)のポリヌクレオチド:
(f)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列からなるポリヌクレオチド、
(g)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドである、(21)に記載のマーカー。
<用語の定義>
本明細書中で使用する用語は、以下の定義を有する。
ヌクレオチド、ポリヌクレオチド、DNA、RNAなどの略号による表示は、「塩基配列又はアミノ酸配列を含む明細書等の作成のためのガイドライン」(日本国特許庁編)及び当技術分野における慣用に従うものとする。
本明細書において「ポリヌクレオチド」とは、RNA、DNA、及びRNA/DNA(キメラ)のいずれも包含する核酸に対して用いられる。なお、上記DNAには、cDNA、ゲノムDNA、及び合成DNAのいずれもが含まれる。また上記RNAには、total RNA、mRNA、rRNA、miRNA、siRNA、snoRNA、snRNA、non−coding RNA及び合成RNAのいずれもが含まれる。本明細書において「合成DNA」及び「合成RNA」は、所定の塩基配列(天然型配列又は非天然型配列のいずれでもよい。)に基づいて、例えば自動核酸合成機を用いて、人工的に作製されたDNA及びRNAをいう。本明細書において「非天然型配列」は、広義の意味に用いることを意図しており、天然型配列と異なる、例えば1以上のヌクレオチドの置換、欠失、挿入及び/又は付加を含む配列(すなわち、変異配列)、1以上の修飾ヌクレオチドを含む配列(すなわち、修飾配列)、などを包含する。また、本明細書では、ポリヌクレオチドは核酸と互換的に使用される。
本明細書において「断片」とは、ポリヌクレオチドの連続した一部分の塩基配列を有するポリヌクレオチドであり、15塩基以上、好ましくは17塩基以上、より好ましくは19塩基以上の長さを有することが望ましい。
本明細書において「遺伝子」とは、RNA、及び2本鎖DNAのみならず、それを構成する正鎖(又はセンス鎖)又は相補鎖(又はアンチセンス鎖)などの各1本鎖DNAを包含することを意図して用いられる。またその長さによって特に制限されるものではない。
従って、本明細書において「遺伝子」は、特に言及しない限り、ヒトゲノムDNAを含む2本鎖DNA、1本鎖DNA(正鎖)、当該正鎖と相補的な配列を有する1本鎖DNA(相補鎖)、cDNA、マイクロRNA(miRNA)、及びこれらの断片、ヒトゲノム、及びそれらの転写産物のいずれも含む。また当該「遺伝子」は特定の塩基配列(又は配列番号)で表される「遺伝子」だけではなく、これらによってコードされるRNAと生物学的機能が同等であるRNA、例えば同族体(すなわち、ホモログもしくはオーソログ)、遺伝子多型などの変異体、及び誘導体をコードする「核酸」が包含される。かかる同族体、変異体又は誘導体をコードする「核酸」としては、具体的には、後に記載したストリンジェントな条件下で、配列番号1〜33のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「核酸」を挙げることができる。なお、「遺伝子」は、機能領域の別を問うものではなく、例えば発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンを含むことができる。また、「遺伝子」は細胞に含まれていてもよく、細胞外に放出されて単独で存在していてもよく、またエキソソームと呼ばれる小胞に内包された状態にあってもよい。
本明細書において「エキソソーム」(別称「エクソソーム」)とは、細胞から分泌される脂質二重膜に包まれた小胞である。エキソソームは多胞エンドソームに由来し、細胞外環境に放出される際にRNA、DNA等の「遺伝子」やタンパク質などの生体物質を内部に含むことがある。エキソソームは血液、血清、血漿、リンパ液等の体液に含まれることが知られている。
本明細書において「転写産物」とは、遺伝子のDNA配列を鋳型にして合成されたRNAのことをいう。RNAポリメラーゼが遺伝子の上流にあるプロモーターと呼ばれる部位に結合し、DNAの塩基配列に相補的になるように3’末端にリボヌクレオチドを結合させていく形でRNAが合成される。このRNAには遺伝子そのもののみならず、発現制御領域、コード領域、エキソン又はイントロンをはじめとする転写開始点からポリA配列の末端にいたるまでの全配列が含まれる。
また、本明細書において「マイクロRNA(miRNA)」は、特に言及しない限り、ヘアピン様構造のRNA前駆体として転写され、RNase III切断活性を有するdsRNA切断酵素により切断され、RISCと称するタンパク質複合体に取り込まれ、mRNAの翻訳抑制に関与する15〜25塩基の非コーディングRNAを意図して用いられる。また本明細書で使用する「miRNA」は特定の塩基配列(又は配列番号)で表される「miRNA」だけではなく、当該「miRNA」の前駆体(pre−miRNA、pri−miRNA)を含有し、これらによってコードされるmiRNAと生物学的機能が同等であるmiRNA、例えば同族体(すなわち、ホモログもしくはオーソログ)、遺伝子多型などの変異体、及び誘導体をコードする「miRNA」も包含する。かかる前駆体、同族体、変異体又は誘導体をコードする「miRNA」としては、具体的には、miRBase release 21(http://www.mirbase.org/)により同定することができ、後に記載したストリンジェントな条件下で、配列番号1〜33のいずれかで表されるいずれかの特定塩基配列の相補配列とハイブリダイズする塩基配列を有する「miRNA」を挙げることができる。さらにまた、本明細書で使用する「miRNA」は、miR遺伝子の遺伝子産物であってもよく、そのような遺伝子産物は、成熟型miRNA(例えば、上記のようなmRNAの翻訳抑制に関与する15〜25塩基、又は19〜25塩基、の非コーディングRNA)又はmiRNA前駆体(例えば、前記のようなpre−miRNA又はpri−miRNA)を包含する。
本明細書において「プローブ」とは、遺伝子の発現によって生じたRNA又はそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に検出するために使用されるポリヌクレオチド及び/又はそれに相補的なポリヌクレオチドを包含する。
本明細書において「プライマー」とは、遺伝子の発現によって生じたRNA又はそれに由来するポリヌクレオチドを特異的に認識し、増幅する、連続するポリヌクレオチド及び/又はそれに相補的なポリヌクレオチドを包含する。
ここで相補的なポリヌクレオチド(相補鎖、逆鎖)とは、配列番号1〜33のいずれかによって定義される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチドの全長配列、又はその部分配列(ここでは便宜上、これを正鎖と呼ぶ)に対してA:T(U)、G:Cといった塩基対関係に基づいて、塩基的に相補的な関係にあるポリヌクレオチドを意味する。ただし、かかる相補鎖は、対象とする正鎖の塩基配列と完全に相補配列を形成する場合に限らず、対象とする正鎖とストリンジェントな条件でハイブリダイズできる程度の相補関係を有するものであってもよい。
本明細書において「ストリンジェントな条件」とは、核酸プローブが他の配列に対するよりも、検出可能により大きな程度(例えばバックグラウンド測定値の平均+バックグラウンド測定値の標準誤差×2以上の測定値)で、その標的配列に対してハイブリダイズする条件をいう。ストリンジェントな条件は配列依存性であり、ハイブリダイゼーションが行われる環境によって異なる。ハイブリダイゼーション及び/又は洗浄条件のストリンジェンシーを制御することにより、核酸プローブに対して100%相補的である標的配列が同定され得る。「ストリンジェントな条件」の具体例は、後述する。
本明細書において「Tm値」とは、ポリヌクレオチドの二本鎖部分が一本鎖へと変性し、二本鎖と一本鎖が1:1の比で存在する温度を意味する。
本明細書において「変異体」とは、核酸の場合、多型性、突然変異などに起因した天然の変異体、あるいは配列番号1〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列又はその部分配列において1、2もしくは3又はそれ以上(例えば1〜数個)の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含む変異体、あるいは配列番号1〜8のいずれかの配列の前駆体RNA(premature miRNA)の塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列又はその部分配列において1又は2以上の塩基の欠失、置換、付加又は挿入を含む変異体、あるいは当該塩基配列の各々又はその部分配列と約90%以上、約95%以上、約97%以上、約98%以上、約99%以上の%同一性を示す変異体、あるいは当該塩基配列又はその部分配列を含むポリヌクレオチド又はオリゴヌクレオチドと上記定義のストリンジェントな条件でハイブリダイズする核酸を意味する。
本明細書において「数個」とは、約10、9、8、7、6、5、4、3又は2個の整数を意味する。
本明細書において、変異体は、部位特異的突然変異誘発法、PCR法を利用した突然変異導入法などの周知の技術を用いて作製可能である。
本明細書において「%同一性」は、BLAST(https://blast.ncbi.nlm.nih.gov/Blast.cgi)やFASTA(http://www.genome.jp/tools/fasta/)によるタンパク質又は遺伝子の検索システムを用いて、ギャップを導入して、又はギャップを導入しないで、決定することができる(Zheng Zhangら、2000年、J.Comput.Biol.、7巻、p203−214;Altschul、S.F.ら、1990年、Journal of Molecular Biology、第215巻、p403−410;Pearson、W.R.ら、1988年、Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.、第85巻、p2444−2448)。
本明細書において「誘導体」とは、修飾核酸、非限定的に例えば、蛍光団などによるラベル化誘導体、修飾ヌクレオチド(例えばハロゲン、メチルなどのアルキル、メトキシなどのアルコキシ、チオ、カルボキシメチルなどの基を含むヌクレオチド及び塩基の再構成、二重結合の飽和、脱アミノ化、酸素分子の硫黄分子への置換などを受けたヌクレオチドなど)を含む誘導体、PNA(peptide nucleic acid;Nielsen、P.E.ら、1991年、Science、254巻、p1497−500)、LNA(locked nucleic acid;Obika、S.ら、1998年、Tetrahedron Lett.、39巻、p5401−5404)などを含むことを意味する。
本明細書において上記の前立腺がんマーカーであるmiRNAから選択されるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドの相補鎖と特異的に結合可能な「核酸」は、合成又は調製された核酸であり、具体的には「核酸プローブ」又は「プライマー」を含み、被験体中の前立腺がんの存在の有無を検出するために、又は前立腺がんの罹患の有無、罹患の程度、前立腺がんの改善の有無や改善の程度、前立腺がんの治療に対する感受性を診断するために、あるいは前立腺がんの予防、改善又は治療に有用な候補物質をスクリーニングするために、直接又は間接的に利用される。これらには前立腺がんの罹患に関連して生体内、特に血液、尿等の体液等の検体において配列番号1〜33のいずれかで表される転写産物又はそのcDNA合成核酸、又はこれらの相補鎖を特異的に認識し結合することのできるヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドを包含する。これらのヌクレオチド、オリゴヌクレオチド及びポリヌクレオチドは、上記性質に基づいて生体内、組織や細胞内などで発現した上記遺伝子を検出するためのプローブとして、また生体内で発現した上記遺伝子を増幅するためのプライマーとして有効に利用することができる。
本明細書で使用する「検出」という用語は、検査、測定、検出又は判定支援という用語で置換しうる。また、本明細書において「評価」という用語は、検査結果又は測定結果に基づいて診断又は評価を支援することを含む意味で使用される。
本明細書で使用される「被験体」は、ヒト、チンパンジーを含む霊長類、イヌ、ネコなどのペット動物、ウシ、ウマ、ヒツジ、ヤギなどの家畜動物、マウス、ラットなどの齧歯類、動物園で飼育される動物などの哺乳動物を意味する。好ましい被験体は、ヒトである。また、「健常者」もまた、このような哺乳動物であって、検出しようとするがんに罹患していない動物を意味する。好ましい健常者は、ヒトである。
本明細書で使用される「前立腺がん」は、前立腺に発生する悪性腫瘍であり、腎盂、尿管を含む尿路上皮がんも含まれる。
本明細書で使用される「前立腺良性疾患」とは、前立腺肥大、前立腺炎、または尿失禁や感染症、血中PSAの高濃度などのその他の臨床所見の総合判断により前立腺疾患であると診断された疾患のうち非悪性腫瘍(良性)であると診断された疾患を意味する。本疾患が良性であることは、生検などによる病理検査の結果、がん陰性であると確定診断されることで証明される。
本明細書で使用される「P」又は「P値」とは、統計学的検定において、帰無仮説の下で実際にデータから計算された統計量よりも極端な統計量が観測される確率を示す。したがって「P」又は「P値」が小さいほど、比較対象間に有意差があるとみなせる。
本明細書において、「感度」は、(真陽性の数)/(真陽性の数+偽陰性の数)の値を意味する。感度が高ければ前立腺がんを早期に発見することが可能となり、完全ながん部の切除や再発率の低下につながる。
本明細書において、「特異度」は、(真陰性の数)/(真陰性の数+偽陽性の数)を意味する。特異度が高ければ健常者を前立腺がん患者と誤判別することによる無駄な追加検査の実施を防ぎ、患者の負担の軽減や医療費の削減につながる。
本明細書において、「精度」は(真陽性の数+真陰性の数)/(全症例数)の値を意味する。精度は全検体に対しての判別結果が正しかった割合を示しており、検出性能を評価する第一の指標となる。
本明細書において、AUC(Area under the curve)とは、ある判別結果において、縦軸を感度、横軸を偽陽性率または[1−特異度]として判別閾値を媒介変数として大から小へと変化させた時に得られるROC(Receiver Operatorating Characteristic、受信者動作特性)曲線の下部面積を示す。AUCは0.5から1の値を取り、1に近いほど判別能が高いことを示す。
本明細書において判定、検出又は診断の対象となる「検体」とは、前立腺がんの発生、前立腺がんの進行、及び前立腺がんに対する治療効果の発揮にともない本発明の遺伝子が発現変化する組織及び生体材料を指す。具体的には前立腺組織及び腎盂、尿管、リンパ節及びその周辺臓器、また転移が疑われる臓器、皮膚、及び血液、尿、唾液、汗、組織浸出液などの体液、血液から調製された血清、血漿、その他、便、毛髪などを指す。さらにこれらから抽出された生体試料、具体的にはRNAやmiRNAなどの遺伝子を指す。
本明細書で使用される「hsa−miR−1185−2−3p遺伝子」又は「hsa−miR−1185−2−3p」という用語は、配列番号1に記載のhsa−miR−1185−2−3p遺伝子(miRBaseAccessionNo.MIMAT0022713)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa−miR−1185−2−3p遺伝子は、BerezikovEら、2006年、GenomeRes、16巻、p1289−1298に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa−miR−1185−2−3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa−mir−1185−2」(miRBaseAccessionNo.MI0003821、配列番号9)が知られている。
本明細書で使用される「hsa−miR−1185−1−3p遺伝子」又は「hsa−miR−1185−1−3p」という用語は、配列番号2に記載のhsa−miR−1185−1−3p遺伝子(miRBaseAccessionNo.MIMAT0022838)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa−miR−1185−1−3p遺伝子は、BerezikovEら、2006年、GenomeRes、16巻、p1289−1298に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa−miR−1185−1−3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa−mir−1185−1」(miRBaseAccessionNo.MI0003844、配列番号10)が知られている。
本明細書で使用される「hsa−miR−197−5p遺伝子」又は「hsa−miR−197−5p」という用語は、配列番号3に記載のhsa−miR−197−5p遺伝子(miRBaseAccessionNo.MIMAT0022691)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa−miR−197−5p遺伝子は、Lagos−QuintanaMら、2003年、RNA、9巻、p175−179に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa−miR−197−5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa−mir−197」(miRBaseAccessionNo.MI0000239、配列番号11)が知られている。
本明細書で使用される「hsa−miR−6076遺伝子」又は「hsa−miR−6076」という用語は、配列番号4に記載のhsa−miR−6076遺伝子(miRBaseAccessionNo.MIMAT0023701)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa−miR−6076遺伝子は、VoellenkleCら、2012年、RNA、18巻、p472−484に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa−miR−6076」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa−mir−6076」(miRBaseAccessionNo.MI0020353、配列番号12)が知られている。
本明細書で使用される「hsa−miR−17−3p遺伝子」又は「hsa−miR−17−3p」という用語は、配列番号5に記載のhsa−miR−17−3p遺伝子(miRBaseAccessionNo.MIMAT0000071)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa−miR−17−3p遺伝子は、Lagos−QuintanaMら、2001年、Science.、294巻、p853−858に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa−miR−17−3p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa−mir−17」(miRBaseAccessionNo.MI0000071、配列番号13)が知られている。
本明細書で使用される「hsa−miR−320b遺伝子」又は「hsa−miR−320b」という用語は、配列番号6に記載のhsa−miR−320b遺伝子(miRBaseAccessionNo.MIMAT0005792)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa−miR−320b遺伝子は、BerezikovEら、2006年、GenomeRes、16巻、p1289−1298に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa−miR−320b」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa−mir−320b−1、hsa−mir−320b−2」(miRBaseAccessionNo.MI0003776、MI0003839、配列番号14、15)が知られている。
本明細書で使用される「hsa−miR−6819−5p遺伝子」又は「hsa−miR−6819−5p」という用語は、配列番号7に記載のhsa−miR−6819−5p遺伝子(miRBaseAccessionNo.MIMAT0027538)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa−miR−6819−5p遺伝子は、LadewigEら、2012年、GenomeRes、22巻、p1634−1645に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa−miR−6819−5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa−mir−6819」(miRBaseAccessionNo.MI0022664、配列番号16)が知られている。
本明細書で使用される「hsa−miR−1228−5p遺伝子」又は「hsa−miR−1228−5p」という用語は、配列番号8に記載のhsa−miR−1228−5p遺伝子(miRBaseAccessionNo.MIMAT0005582)やその他生物種ホモログもしくはオーソログなどが包含される。hsa−miR−1228−5p遺伝子は、BerezikovEら、2007年、MolCell、28巻、p328−336に記載される方法によって得ることができる。また、「hsa−miR−1228−5p」は、その前駆体としてヘアピン様構造をとる「hsa−mir−1228」(miRBaseAccessionNo.MI0006318、配列番号17)が知られている。
また、成熟型のmiRNAは、ヘアピン様構造をとるRNA前駆体から成熟型miRNAとして切出されるときに、配列の前後1〜数塩基が短く、又は長く切出されることや、塩基の置換が生じて変異体となることがあり、isomiRと称される(Morin RD.ら、2008年、Genome Res.、第18巻、p.610−621)。miRBase Release21では、配列番号1〜8のいずれかで表される塩基配列のほかに、数々のisomiRと呼ばれる配列番号18〜33のいずれかで表される塩基配列の変異体及び断片も示されている。これらの変異体もまた、配列番号1〜8のいずれかで表される塩基配列のmiRNAとして得ることができる。すなわち、本発明の配列番号1〜8で表される塩基配列もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチドの変異体のうち、例えばmiRBase Release 21に登録されている最も長い変異体として、それぞれ配列番号18、20、22、24、26、28、30、32で表されるポリヌクレオチドが挙げられる。また、本発明の配列番号1〜8で表される塩基配列もしくは該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、の変異体のうち、例えばmiRBase Release 21に登録されている最も短い変異体として、それぞれ配列番号19、21、23、25、27、29、31、33で表される配列のポリヌクレオチドが挙げられる。また、これらの変異体及び断片以外にも、miRBaseに登録された、配列番号1〜8の数々のisomiRであるポリヌクレオチドが挙げられる。さらに、配列番号1〜8のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチドの例としては、それぞれ前駆体である配列番号9〜17のいずれかで表されるポリヌクレオチドが挙げられる。
配列番号1〜33で表される遺伝子の名称とmiRBase Accession No.(登録番号)を表1に記載した。
本明細書において「特異的に結合可能な」とは、本発明で使用する核酸プローブ又はプライマーが、特定の標的核酸と結合し、他の核酸と実質的に結合できないことを意味する。
Figure 2020032228
本願は、2018年8月10日に出願された日本国特許出願2018−151952号の優先権を主張するものであり、該特許出願の明細書に記載される内容を包含する。
本発明により、前立腺がんを容易にかつ高い精度で検出することが可能となる。例えば、低侵襲的に採取できる患者の血液、血清及び又は血漿中の1個乃至数個のmiRNAの発現量の測定値を指標とし、容易に患者が前立腺がんであるか否かを検出することができる。
図1は、前駆体である配列番号9で表されるhsa−mir−1185−2から生成される配列番号1で表されるhsa−miR−1185−2−3pの塩基配列の関係を示す。 図2は、ヒトの血中マイクロRNA全2,588種から前立腺がんマーカー候補を選定した工程スキームを示す。 図3は、学習検体群及び検証検体群の各々において、miR−1185−2−3pを用いて前立腺がんを判別した場合のROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)と、ROC曲線下の面積(Area under the curve,AUC)が最高時の感度、特異度をそれぞれ示す。 図4は、学習検体群及び検証検体群の各々において、PSAを用いて前立腺がんを判別した場合のROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)と、ROC曲線下の面積(Area under the curve,AUC)が最高時の感度、特異度をそれぞれ示す。 図5は、学習検体群及び検証検体群の各々において、miR−17−3pとmiR−1185−2−3pを組み合わせて用いて前立腺がんの判別をした場合のROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve、受信者動作特性曲線)と、ROC曲線下の面積(Area under the curve,AUC)が最高時の感度、特異度をそれぞれ示す。 図6は、miR−17−3pとmiR−1185−2−3pを組み合わせて作成した判別式を用いて前立腺がんを判別した際の、前立腺がんの悪性度を評価する指標の一つであるグリーソン分類で分けられた前立腺がん症例毎の判別得点分布を示す。判別得点が正の値であれば前立腺がん陽性、負の値であれば前立腺がん陰性の判定を示す。各分類毎の数字%は、本判別式で判別できた割合(感度)を示す。また、判別得点は、悪性度の低い症例(グリーソン分類6)から悪性度のより高い症例(グリーソン分類7,≧8)において有意に向上することを示す。箱ひげ図は、中央の太い線が中央値、箱の下部が第1四分位点、箱の上部が第3四分位点、ひげ線(エラーバー)は外れ値を除いた最小値、最大値の範囲を示す。 図7は、miR−17−3pとmiR−1185−2−3pを組み合わせて作成した判別式を用いて前立腺がんを判別した際の、前立腺がんの大きさを評価する指標の一つであるT分類で分けられた前立腺がん症例毎の判別得点分布を示す。判別得点が正の値であれば前立腺がん陽性、負の値であれば前立腺がん陰性の判定を示す。各分類毎の数字%は、本判別式で判別できた割合(感度)を示す。箱ひげ図は、中央の太い線が中央値、箱の下部が第1四分位点、箱の上部が第3四分位点、ひげ線(エラーバー)は外れ値を除いた最小値、最大値の範囲を示す。 図8は、miR−17−3pとmiR−1185−2−3pを組み合わせて作成した判別式を用いて前立腺がんを判別した際の、前立腺がんのリンパ節転移の状態を評価する指標の一つであるN分類で分けられた前立腺がん症例毎の判別得点分布を示す。判別得点が正の値であれば前立腺がん陽性、負の値であれば前立腺がん陰性の判定を示す。各分類毎の数字%は、本判別式で判別できた割合(感度)を示す。箱ひげ図は、中央の太い線が中央値、箱の下部が第1四分位点、箱の上部が第3四分位点、ひげ線(エラーバー)は外れ値を除いた最小値、最大値の範囲を示す。 図9は、miR−17−3pとmiR−1185−2−3pを組み合わせて作成した判別式を用いて前立腺がんを判別した際の、前立腺がんの遠隔転移の状態を評価する指標の一つであるM分類で分けられた前立腺がん症例毎の判別得点分布を示す。判別得点が正の値であれば前立腺がん陽性、負の値であれば前立腺がん陰性の判定を示す。各分類毎の数字%は、本判別式で判別できた割合(感度)を示す。箱ひげ図は、中央の太い線が中央値、箱の下部が第1四分位点、箱の上部が第3四分位点、ひげ線(エラーバー)は外れ値を除いた最小値、最大値の範囲を示す。 図10は、前立腺がん(陽性)検体と前立腺がん疑い(陰性)検体のmiR−1275の発現量の散布図を示す。横軸にmiR−1275の発現量をlogスケールに変換した値を示す。
以下に本発明をさらに具体的に説明する。
1.前立腺がんの標的核酸
本発明の上記定義の前立腺がん検出用の核酸プローブ又はプライマーを使用して、前立腺がん又は前立腺がん細胞の存在及び/又は不存在を検出するための、前立腺がんマーカーとしての主要な標的核酸には、miR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、miR−6076、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、及びmiR−1228−5pからなる群から選択される少なくとも1つのmiRNAも標的核酸として好ましく用いることができる。
上記のmiRNAには、例えば、配列番号1〜8のいずれかで表される塩基配列を含むヒト遺伝子(すなわち、それぞれ、hsa−miR−1185−2−3p、hsa−miR−1185−1−3p、hsa−miR−197−5p、hsa−miR−6076、hsa−miR−17−3p、hsa−miR−320b、hsa−miR−6819−5p、hsa−miR−1228−5p)、その同族体、その転写産物、及びその変異体又は誘導体が含まれる。ここで、遺伝子、同族体、転写産物、変異体及び誘導体は、上記定義のとおりである。
好ましい標的核酸は、配列番号1〜8のいずれかで表される塩基配列を含むヒト遺伝子、その転写産物、より好ましくは当該転写産物、すなわちmiRNA、その前駆体RNAであるpri−miRNA又はpre−miRNAである。
第1の標的遺伝子は、hsa−miR−1185−2−3p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでに遺伝子又はその転写産物の発現の変化が前立腺がんのマーカーになりうるという報告は知られていない。
第2の標的遺伝子は、hsa−miR−1185−1−3p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでに遺伝子又はその転写産物の発現の変化が前立腺がんのマーカーになりうるという報告は知られていない。
第3の標的遺伝は、hsa−miR−197−5p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでに遺伝子又はその転写産物の発現の変化が前立腺がんのマーカーになりうるという報告は知られていない。
第4の標的遺伝子は、hsa−miR−6076遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでに遺伝子又はその転写産物の発現の変化が前立腺がんのマーカーになりうるという報告は知られていない。
第5の標的遺伝子は、hsa−miR−17−3p遺伝子、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでに遺伝子又はその転写産物の発現の変化が前立腺がんのマーカーになりうるという報告は知られている(非特許文献2)。
第6の標的遺伝子は、hsa−miR−320b遺伝子それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでに遺伝子又はその転写産物の発現の変化が前立腺がんのマーカーになりうるという報告は知られている(非特許文献1)。
第7の標的遺伝子は、hsa−miR−6819−5p遺伝子それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでに遺伝子又はその転写産物の発現の変化が前立腺がんのマーカーになりうるという報告は知られている(特許文献2)。
第8の標的遺伝子は、hsa−miR−1228−5p遺伝子それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体である。これまでに遺伝子又はその転写産物の発現の変化が前立腺がんのマーカーになりうるという報告は知られている(特許文献2)。
一態様において、本発明は、上記標的核酸の少なくとも1つを含む、前立腺がんを検出するための、又は前立腺がんを診断するためのマーカーに関する。
一態様において、本発明は、前立腺がんを検出するための、又は前立腺がんを診断するための上記標的核酸の少なくとも1つの使用に関する。
2.前立腺がんの検出用の核酸プローブ又はプライマー
本発明において、前立腺がんを検出するための、あるいは前立腺がんを診断するために使用可能な核酸プローブ又はプライマーは、前立腺がんの標的核酸としての、ヒト由来のmiR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、miR−6076、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、miR−1228−5pあるいはそれらの組み合わせ、それらの同族体、それらの転写産物、あるいはそれらの変異体又は誘導体の存在、発現量又は存在量を定性的及び/又は定量的に測定することを可能にする。
上記の標的核酸は、健常者、良性疾患患者及び前立腺がん以外のがんに罹患した被験体と比べ前立腺がんに罹患した被験体において、該標的核酸の種類に応じてそれらの発現量が増加するものもあれば、又は低下するものもある(以下、「増加/低下」と称する。)。それゆえ、本発明のキット又はデバイスは、前立腺がんの罹患が疑われる被験体(例えばヒト)由来の体液と健常者、良性疾患患者及び前立腺がん以外のがん患者由来の体液について上記標的核酸の発現量を測定し、それらを比較して、前立腺がんを検出するために有効に使用することができる。
本発明で使用可能な核酸プローブ又はプライマーは、配列番号1〜4の少なくとも1つで表される塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸プローブ、あるいは、配列番号1〜4の少なくとも1つで表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーである。
本発明で使用可能な核酸プローブ又はプライマーはさらに、配列番号5〜8の少なくとも1つで表される塩基配列からなるポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸プローブ、あるいは、配列番号5〜8の少なくとも1つで表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを増幅するためのプライマーを含むことができる。
本発明の方法の好ましい実施形態において、上記の核酸プローブ又はプライマーは、配列番号1〜33のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列を含むポリヌクレオチド群及びその相補的ポリヌクレオチド群、当該塩基配列に相補的な塩基配列からなるDNAとストリンジェントな条件(後述)でそれぞれハイブリダイズするポリヌクレオチド群及びその相補的ポリヌクレオチド群、並びにそれらのポリヌクレオチド群の塩基配列において15以上、好ましくは17以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチド群から選ばれた1又は複数のポリヌクレオチドの組み合わせを含む。
また、これらのポリヌクレオチドの塩基配列の長さの上限に特に制限は無いが、標的核酸が成熟型miRNAである場合は、例えば、30塩基以下、28塩基以下、25塩基以下であり、標的核酸がmiRNA前駆体である場合は、例えば200塩基以下、150塩基以下、120塩基以下であり、標的核酸がisomiRである場合は、例えば、40塩基以下、35塩基以下、30塩基以下である。
これらのポリヌクレオチドは、標的核酸である上記前立腺がんマーカーを検出するための核酸プローブ及びプライマーとして使用できる。
さらに具体的には、本発明で使用可能な核酸プローブ又はプライマーの例は、以下のポリヌクレオチド(a)〜(e)のいずれかからなる群から選択される1又は複数のポリヌクレオチドである。
(a)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、並びに、
(e)前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
本発明で使用可能な核酸プローブ又はプライマーはさらに、上記のポリヌクレオチド(a)〜(e)のいずれかから選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドの他に、下記の(f)〜(j)のいずれかに示すポリヌクレオチドを含むことができる。
(f)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、並びに、
(j)前記(f)〜(i)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド。
本発明で使用される上記ポリヌクレオチド類又はその断片類はいずれもDNAでもよいしRNAでもよい。
本発明で使用可能な上記のポリヌクレオチドは、DNA組換え技術、PCR法、DNA/RNA自動合成機による方法などの一般的な技術を用いて作製することができる。
DNA組換え技術及びPCR法は、例えばAusubelら、Current Protocols in Molecular Biology、John Willey&Sons、US(1993);Sambrookら、Molecular Cloning A Laboratory Manual、Cold Spring Harbor Laboratory Press、US(1989)などに記載される技術を使用することができる。
配列番号1〜8で表されるヒト由来のmiR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、miR−6076、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、miR−1228−5pは公知であり、前述のようにその取得方法も知られている。このため、この遺伝子をクローニングすることによって、本発明で使用可能な核酸プローブ又はプライマーとしてのポリヌクレオチドを作製することができる。
そのような核酸プローブ又はプライマーは、DNA自動合成装置を用いて化学的に合成することができる。この合成には一般にホスホアミダイト法が使用され、この方法によって約100塩基までの一本鎖DNAを自動合成することができる。DNA自動合成装置は、例えばPolygen社、ABI社、Applied BioSystems社などから市販されている。
あるいは、本発明のポリヌクレオチドは、cDNAクローニング法によって作製することもできる。cDNAクローニング技術は、例えばmicroRNA Cloning Kit Wakoなどを利用できる。
ここで、配列番号1〜8のいずれかで表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを検出するための核酸プローブ及びプライマーの配列は、miRNA又はその前駆体としては生体内に存在していない。例えば、配列番号1で表される塩基配列は、配列番号9で表される前駆体から生成されるが、この前駆体は図1に示すようなヘアピン様構造を有しているが、配列番号1で表される塩基配列部分ではミスマッチ配列を有している。このため、配列番号1で表される塩基配列に対する、完全に相補的な塩基配列が生体内で自然に生成されることはない。このため、配列番号1〜8のいずれかで表される塩基配列を検出するための核酸プローブ及びプライマーは生体内に存在しない人工的な塩基配列を有し得る。
3.前立腺がん検出用キット又はデバイス
本発明はまた、前立腺がんマーカーである標的核酸を測定するための、本発明において核酸プローブ又はプライマーとして使用可能なポリヌクレオチド(これには、変異体、断片、又は誘導体を含みうる。)の1つ又は複数を含む前立腺がん検出用キット又はデバイスを提供する。
本発明における前立腺がんマーカーである標的核酸は、好ましくは、以下の群Aから選択される。
群A:
miR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、miR−6076。
場合により測定に使用しうる追加の標的核酸は、好ましくは、以下の群Bから選択される。
群B:
miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、miR−1228−5p。
本発明のキット又はデバイスは、上記の前立腺がんマーカーである標的核酸と特異的に結合可能な核酸、好ましくは、上記2に記載したポリヌクレオチド類から選択される1又は複数のポリヌクレオチド又はその変異体を含む。
具体的には、本発明のキット又はデバイスは、配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列を含む(もしくは、からなる)ポリヌクレオチド、その相補的配列を含む(もしくは、からなる)ポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらのポリヌクレオチド配列の15以上の連続した塩基を含む変異体又は断片を少なくとも1つ含むことができる。
本発明のキット又はデバイスはさらに、配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列を含む(もしくは、からなる)ポリヌクレオチド、その相補的配列を含む(もしくは、からなる)ポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらのポリヌクレオチド配列の15以上の連続した塩基を含む変異体又は断片を1つ以上含むことができる。
本発明のキット又はデバイスに含むことができる断片は、例えば下記の(1)及び(2)からなる群より選択される1つ以上、好ましくは2つ以上のポリヌクレオチドである:
(1)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列においてuがtである塩基配列又はその相補的配列において、15以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチド。
(2)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列においてuがtである塩基配列又はその相補的配列において、15以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチド。
好ましい実施形態では、前記ポリヌクレオチドが、配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その相補的配列からなるポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらの15以上、好ましくは17以上、より好ましくは19以上の連続した塩基を含む変異体である。
また、好ましい実施形態では、前記ポリヌクレオチドが、配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その相補的配列からなるポリヌクレオチド、それらのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、又はそれらの15以上、好ましくは17以上、より好ましくは19以上の連続した塩基を含む変異体である。
好ましい実施形態では、前記断片は、15以上、好ましくは17以上、より好ましくは19以上の連続した塩基を含むポリヌクレオチドであることができる。
本発明において、ポリヌクレオチドの断片のサイズは、各ポリヌクレオチドの塩基配列において、例えば、連続する15から配列の全塩基数未満、17から配列の全塩基数未満、19から配列の全塩基数未満などの範囲の塩基数である。
また、これらのポリヌクレオチドの塩基配列の長さの上限に特に制限は無いが、標的核酸が成熟型miRNAである場合は、例えば、30塩基以下、28塩基以下、25塩基以下であり、標的核酸がmiRNA前駆体である場合は、例えば200塩基以下、150塩基以下、120塩基以下であり、標的核酸がisomiRである場合は、例えば、40塩基以下、35塩基以下、30塩基以下である。
本発明のキット又はデバイスにおける標的核酸としての上記ポリヌクレオチドは、具体的には前記表1に示される配列番号1〜33に表される塩基配列からなる上記のポリヌクレオチド1個、又は2個、3個、4個、5個、6個、7個、8個、9個、10個又はそれ以上の個数を組み合わせたものを挙げることができるが、それらはあくまでも例示であり、他の種々の可能な組み合わせのすべてが本発明に包含されるものとする。
例えば、本発明において前立腺がん患者を健常者、良性骨軟部腫及び乳良性疾患患者、前立腺がん以外のがん患者などの前立腺がんに罹患していない被験者と判別するためのキット又はデバイスにおける標的核酸の組合せとしては、表1に示される配列番号に表される塩基配列からなる上記のポリヌクレオチド2個以上の組み合わせが挙げられる。具体的には、配列番号1〜8に表される塩基配列からなる上記のポリヌクレオチドのいずれか2個以上を組み合わせればよい。このうち、新規に見出された配列番号1〜4で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを少なくとも1つ選択することが好ましい。このうち特に、配列番号1からなるポリヌクレオチドを含む組み合わせ、さらに望ましくは配列番号1及び5からなるポリヌクレオチドを含む組み合わせ、さらに望ましくは配列番号1、3及び5からなるポリヌクレオチドを含む組み合わせ、または配列番号2、5及び7からなるポリヌクレオチドを含む組み合わせ、さらに望ましくは配列番号2、3、4及び5からなるポリヌクレオチドを含む組み合わせ、さらに望ましくは配列番号2、3、4、5及び8からなるポリヌクレオチドを含む組み合わせ、または配列番号2、3、4、5及び6からなるポリヌクレオチドを含む組み合わせがより好ましい。
本発明のキット又はデバイスには、上で説明した本発明におけるポリヌクレオチド(これには、変異体、断片又は誘導体を包含しうる。)に加えて、前立腺がん検出を可能とする既知のポリヌクレオチド又は将来見出されるであろうポリヌクレオチドも包含させることができる。
本発明のキット又はデバイスには、上で説明した本発明におけるポリヌクレオチドに加えて、PSA検査などの公知の前立腺がん検査用マーカーを測定するための抗体も含めることができる。
本発明のキットに含まれるポリヌクレオチド、及びその変異体又はその断片は、個別に又は任意に組み合わせて異なる容器に包装されうる。
本発明のキットには、体液、細胞又は組織から核酸(例えばtotal RNA)を抽出するためのキット、標識用蛍光物質、核酸増幅用酵素及び培地、使用説明書などを含めることができる。
本発明のデバイスは、上で説明した本発明におけるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又はその断片などの核酸が、例えば、固相に結合もしくは付着されたがんマーカー測定のためのデバイスである。固相の材質の例は、プラスチック、紙、ガラスシリコンなどであり、加工のしやすさから、好ましい固相の材質はプラスチックである。固相の形状は、任意であり、例えば方形、丸形、短冊形、フィルム形などである。本発明のデバイスは、例えば、ハイブリダイゼーション技術による測定のためのデバイスが含まれ、具体的にはブロッティングデバイス、核酸アレイ(例えばマイクロアレイ、DNAチップ、RNAチップなど)などが例示される。
核酸アレイ技術は、必要に応じてLリジンコートやアミノ基、カルボキシル基などの官能基導入などの表面処理が施された固相の表面に、スポッター又はアレイヤーと呼ばれる高密度分注機を用いて核酸をスポットする方法、ノズルより微少な液滴を圧電素子などにより噴射するインクジェットを用いて核酸を固相に吹き付ける方法、固相上で順次ヌクレオチド合成を行う方法などの方法を用いて、上記の核酸を1つずつ結合もしくは付着させることによりチップなどのアレイを作製し、このアレイを用いてハイブリダイゼーションを利用して標的核酸を測定する技術である。
本発明のキット又はデバイスは、上記の群Aの前立腺がんマーカーであるmiRNAの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、さらに好ましくは少なくとも3つ、最も好ましくは全部のポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドのそれぞれと特異的に結合可能な核酸を含む。本発明のキット又はデバイスはさらに、場合により、上記の群Bの前立腺がんマーカーであるmiRNAの少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、さらに好ましくは少なくとも3つ、最も好ましくは全部のポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドのそれぞれと特異的に結合可能な核酸を含むことができる。
本発明のキット又はデバイスは、下記4の前立腺がんの検出のために使用することができる。
4.前立腺がんの検出方法
本発明はさらに、検体中のmiR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、miR−6076で表される前立腺がん由来の遺伝子の発現量、並びに場合により、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、miR−1228−5pで表される前立腺がん由来の遺伝子の発現量の1つ以上(例えば発現プロフィール)をin vitroで測定し、該測定された発現量(及び任意に同様に測定された健常者の対照発現量)を用いて被験体が前立腺がんに罹患しているか否かをin vitroで評価することを含む、前立腺がんの検出方法に関する。本方法において、例えば、前立腺がんの罹患が疑われる被験体と、前立腺がんに罹患していない被験者とから採取した血液、血清、血漿等の検体について、検体中の上記遺伝子の発現量と、前立腺がんに罹患していない被験者の対照発現量とを用いて、(例えば両発現量を比較して)、当該検体中の標的核酸の発現量に差がある場合、被験体が、前立腺がんに罹患していると評価することができる。
本発明の上記方法は、低侵襲的に、感度及び特異度の高い、前立腺がんの早期診断を可能とし、これにより、早期の治療及び予後の改善をもたらし、さらに、疾病憎悪のモニターや外科的、放射線療法的、及び化学療法的な治療の有効性のモニターを可能にする。
本発明の血液、血清、血漿等の検体から前立腺がん由来の遺伝子を抽出する方法としては、3D−Gene(登録商標)RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ株式会社)中のRNA抽出用試薬を加えて調整するのが特に好ましいが、一般的な酸性フェノール法(Acid Guanidinium−Phenol−Chloroform(AGPC)法)を用いてもよいし、Trizol(登録商標)(Life Technologies社)用いてもよいし、Trizol(life technologies社)やIsogen(ニッポンジーン社)などの酸性フェノールを含むRNA抽出用試薬を加えて調製してもよい。さらに、miRNeasy(登録商標)Mini Kit(Qiagen社)などのキットを利用できるが、これらの方法に限定されない。
本発明はまた、被験体由来の検体中の前立腺がん由来のmiRNA遺伝子の発現産物のin vitroでの検出のための使用を提供する。
本発明の方法を実施する方法は限定されないが、例えば上記3.で説明した本発明のキット又はデバイス(本発明で使用可能な上記の核酸を含む。)を用いて行うことができる。この方法において、上記キット又はデバイスは、上で説明したような、本発明で使用可能なポリヌクレオチドを単一であるいはあらゆる可能な組み合わせで含むものが使用される。
本発明の前立腺がんの検出又は(遺伝子)診断において、本発明のキット又はデバイスに含まれるポリヌクレオチドは、プローブ又はプライマーとして用いることができる。プライマーとして用いる場合には、Life Technologies社のTaqMan(登録商標)MicroRNA Assays、Qiagen社のmiScript PCR Systemなどを利用できるが、これらの方法に限定されない。
本発明の方法において、遺伝子発現量の測定は、ノーザンブロット法、サザンブロット法、in situ ハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法などのハイブリダイゼーション技術、定量RT−PCR法などの定量増幅技術、及び次世代シークエンサーによる方法などの、特定遺伝子を特異的に検出する公知の方法において、定法に従って行うことができる。測定対象検体としては、使用する検出方法の種類に応じて、被験体の血液、血清、血漿、尿等の体液を採取する。あるいは、そのような体液から上記の方法によって調製したtotal RNAを用いてもよいし、さらに当該RNAをもとにして調製される、cDNAを含む各種のポリヌクレオチドを用いてもよい。
本発明の方法は、前立腺がんの診断又は罹患の有無の検出のために有用である。具体的には、本発明の前立腺がんの検出は、前立腺がんの罹患が疑われる被験体から、血液、血清、血漿、尿等の検体を用いて、例えば本発明のキット又はデバイスに含まれる核酸プローブ又はプライマーで検出される遺伝子の発現量をin vitroで検出することによって行うことができる。前立腺がんの罹患が疑われる被験体の血液、血清、血漿、尿等の検体中の、配列番号1〜4の少なくとも1つで表される塩基配列、並びに場合により配列番号5〜8の1つ以上で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドの発現量が、前立腺がんに罹患していない被験者の血液、血清、又は血漿、尿等の検体中のそれらの発現量と比べて統計学的に有意に高い場合、当該被験体は前立腺がんに罹患していると評価することができる。
本発明の方法において、被験体由来の検体について前立腺がんが含まれないこと、或いは前立腺がんが含まれることの検出方法は、被験体の血液、血清、血漿、尿等の体液を採取して、そこに含まれる標的遺伝子(もしくは、標的核酸)の発現量を、本発明のポリヌクレオチド群から選ばれた単数又は複数のポリヌクレオチド(変異体、断片又は誘導体を包含する。)を用いて測定することにより、前立腺がんの有無を評価する又は前立腺がんを検出することを含む。
また本発明の前立腺がんの検出方法は、例えば前立腺がん患者において、該疾患のより精密な診断を目的として、別の前立腺がん関連検査、例えば、直腸診や経直腸的前立腺超音波検査、生体組織検査、CT検査、MRI検査、骨シンチグラフィ検査などの画像検査と組み合わせて用いることができる。更に、これらの前立腺がん関連検査の実施の必要性を判断するために、これらの検査の実施前に本発明の方法を利用することもできる。
また本発明の前立腺がんの検出方法は、例えば前立腺がん患者において、該疾患の治療又は改善を目的として、既知の又は開発段階の前立腺がん関連治療法(非限定的な例として、放射線療法では、X線、陽子線及び重量子線療法や放射線療法のうち高線量率組織内照射、永久挿入密封小線源療法。ホルモン療法では、ゴセレリン酢酸塩やリュープロレリン酢酸塩などのLH−RH(黄体形成ホルモン放出ホルモン)アゴニストや、クロルマジノン酢酸エステル、フルタミド、ビカルタミド、エンザルタミド、アビラテロン酢酸エステルなどの抗アンドロゲン薬、デガレリクス酢酸塩などのLH−RHアンタゴニスト 、エチニルエストラジオールなどのエストロゲン。更に化学製剤としては、ドセタキセル水和物、カバジタキセル、エストラムスチンリン酸エステルナトリウム水和物など。更にこれらの併用などを含む。)を処方した場合における当該疾患の改善の有無又は改善の程度を評価又は診断するために使用することもできる。
よって、本発明の別の側面によれば、前立腺がんの治療方法も提供される。本発明の前立腺がんの治療方法は、具体的には、上記の検出方法を行った結果、前立腺がんに罹患していると評価された被験体に対し、前立腺がんに対して行われる上記の治療(放射線療法、ホルモン療法、化学製剤投与、これらの併用)を施すステップを含む。
本発明の方法は、例えば以下の(a)、(b)及び(c)のステップ:
(a)被験体由来の検体を、in vitroで、本発明のキット又はデバイスのポリヌクレオチドと接触させるステップ、
(b)検体中の標的核酸の発現量を、上記ポリヌクレオチドを核酸プローブ又はプライマーとして用いて測定するステップ、
(c)(b)の結果をもとに、当該被験体中の前立腺がん(細胞)の存在又は不存在を評価するステップ、
を含むことができる。
一実施形態において、本発明は、miR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、及びmiR−6076からなる群から選択される少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つのポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を用いて、被験体の検体における標的核酸の発現量を測定し、該測定された発現量と、同様に測定された前立腺がんに罹患していない被験者の対照発現量とを用いて被験体が前立腺がんに罹患しているか否かをin vitroで評価することを含む、前立腺がんの検出方法を提供する。
本明細書において「評価」するとは、医師による判定ではないin vitroでの検査による結果に基づいた評価支援である。
上記のとおり、本発明の方法において、具体的には、miR−1185−2−3pがhsa−miR−1185−2−3pであり、miR−1185−1−3pがhsa−miR−1185−1−3pであり、miR−197−5pがhsa−miR−197−5pであり、miR−6076がhsa−miR−6076である。
また、一実施形態において、本発明の方法における核酸(具体的には、プローブ又はプライマー)は、下記の(a)〜(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(a)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(b)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(c)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(d)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(e)前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択される。
本発明の方法において、さらに、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、及びmiR−1228−5pからなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドの発現量を測定することができる。
具体的には、miR−17−3pがhsa−miR−17−3pであり、miR−320bがhsa−miR−320bであり、miR−6819−5pがhsa−miR−6819−5pであり、miR−1228−5pがhsa−miR−1228−5pである。
さらに、一実施形態において、前記ポリヌクレオチド又は該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を用いて前記ポリヌクレオチドの発現量の測定を行い、核酸は、下記の(f)〜(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
(f)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(g)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
(h)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
(i)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
(j)前記(f)〜(i)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
からなる群から選択される。
また、これらのポリヌクレオチドの塩基配列の長さの上限に特に制限は無いが、標的核酸が成熟型miRNAである場合は、例えば、30塩基以下、28塩基以下、25塩基以下であり、標的核酸がmiRNA前駆体である場合は、例えば200塩基以下、150塩基以下、120塩基以下であり、標的核酸がisomiRである場合は、例えば、40塩基以下、35塩基以下、30塩基以下である。
本発明の方法で用いられる検体は、被験体の生体組織(好ましくは、前立腺組織又は腎盂、尿管組織)、血液、血清、血漿、尿等の体液などから調製される検体を挙げることができる。具体的には、当該組織から調製されるRNA含有検体、それからさらに調製されるポリヌクレオチドを含む検体、血液、血清、血漿、尿等の体液、被験体の生体組織の一部又は全部をバイオプシーなどで採取するか、手術によって摘出した生体組織などであり、これらから、測定のための検体を調製することができる。
本明細書で被験体とは、哺乳動物、例えば非限定的にヒト、サル、マウス、ラットなどを指し、好ましくはヒトである。
本発明の方法は、測定対象として用いる検体の種類に応じてステップを変更することができる。
測定対象物としてRNAを利用する場合、前立腺がん(細胞)の検出方法は、例えば下記のステップ(a)、(b)及び(c):
(a)被験体の検体から調製されたRNA(ここで、ステップ(b)の定量RT−PCRのために、例えばRNAの3’末端はポリアデニル化されていてもよい、又はいずれか若しくは両方の末端に任意の配列がライゲーション法などで付加されていてもよい)又はそれから転写された相補的ポリヌクレオチド(cDNA)を、本発明のキットのポリヌクレオチドと結合させるステップ、
(b)当該ポリヌクレオチドに結合した検体由来のRNA又は当該RNAから合成されたcDNAを、上記ポリヌクレオチドを核酸プローブとして用いるハイブリダイゼーションによって、あるいは、上記ポリヌクレオチドをプライマーとして用いる定量RT−PCRによって測定するステップ、
(c)上記(b)の測定結果に基づいて、前立腺がん(又は前立腺がん由来の遺伝子)の存在又は不存在を評価するステップ、
を含むことができる。
本発明によって標的遺伝子の発現量を測定するために、例えば種々のハイブリダイゼーション法を使用することができる。このようなハイブリダイゼーション法には、例えばノーザンブロット法、サザンブロット法、DNAチップ解析法、in situハイブリダイゼーション法、ノーザンハイブリダイゼーション法、サザンハイブリダイゼーション法などを使用することができる。また、ハイブリダイゼーション法と組み合わせて、又はその代替法として、定量RT−PCRなどのPCR法、又は次世代シークエンス法を使用することができる。
ノーザンブロット法を利用する場合は、例えば本発明で使用可能な上記核酸プローブを用いることによって、RNA中の各遺伝子発現の有無やその発現量を検出、測定することができる。具体的には、核酸プローブ(相補鎖)を放射性同位元素(32P、33P、35Sなど)や蛍光物質などで標識し、それを常法にしたがってナイロンメンブレンなどにトランスファーした被検者の生体組織由来のRNAとハイブリダイズさせたのち、形成されたDNA/RNA二重鎖の標識物(放射性同位元素又は蛍光物質)に由来するシグナルを放射線検出器(BAS−1800II(富士フィルム株式会社)、などを例示できる)又は蛍光検出器(STORM 865(GEヘルスケア社)、などを例示できる)で検出、測定する方法を例示することができる。
定量RT−PCR法を利用する場合には、例えば本発明で使用可能な上記プライマーを用いることによって、RNA中の遺伝子発現の有無やその発現量を検出、測定することができる。例えば、被験体の生体組織由来のRNAを回収し、3’末端をポリアデニル化し、ポリアデニル化RNAから常法にしたがってcDNAを調製して、これを鋳型として標的の各遺伝子マーカーの領域が増幅できるように、本発明の検出用キット又はデバイスに含まれ得る1対のプライマー(上記cDNAに結合する正鎖と逆鎖からなる)をcDNAとハイブリダイズさせて常法によりPCR法を行い、得られた一本鎖もしくは二本鎖DNAを検出する方法を例示することができる。なお、一本鎖もしくは二本鎖DNAの検出法としては、上記PCRをあらかじめ放射性同位元素や蛍光物質で標識しておいたプライマーを用いて行う方法、PCR産物をアガロースゲルで電気泳動し、エチジウムブロマイドなどで二本鎖DNAを染色して検出する方法、産生された一本鎖もしくは二本鎖DNAを常法にしたがってナイロンメンブレンなどにトランスファーさせ、標識した核酸プローブとハイブリダイズさせて検出する方法を含むことができる。
また、定量RT−PCR法を用いる場合には、TaqMan(登録商標)MicroRNA Assays(Life Technologies社):LNA(登録商標)−based MicroRNA PCR(Exiqon社):Ncode(登録商標)miRNA qRT−PCT キット(invitrogen社)などの、miRNAを定量的に測定するために特別に工夫された市販の測定用キットを用いてもよい。
核酸アレイ解析を利用する場合は、例えば本発明の上記検出用キット又はデバイスを核酸プローブ(一本鎖又は二本鎖)として基板(固相)に貼り付けたRNAチップ又はDNAチップを用いる。核酸プローブを貼り付けた領域をプローブスポット、核酸プローブを貼り付けていない領域をブランクスポットと称する。遺伝子群を基板に固相化したものには、一般に核酸チップ、核酸アレイ、マイクロアレイなどという名称があり、DNAもしくはRNAアレイにはDNAもしくはRNAマクロアレイとDNAもしくはRNAマイクロアレイが包含されるが、本明細書ではチップといった場合、当該アレイを含むものとする。DNAチップとしては3D−Gene(登録商標)Human miRNA Oligo chip(東レ株式会社)を用いることができるが、これに限られない。
DNAチップの測定は、限定されないが、例えば検出用キット又はデバイスの標識物に由来するシグナルを画像検出器(Typhoon 9410(GEヘルスケア社)、3D−Gene(登録商標)スキャナー(東レ株式会社)などを例示できる)で検出、測定する方法を例示することができる。
本明細書中で使用する「ストリンジェントな条件」とは、上述のように核酸プローブが他の配列に対するよりも、検出可能により大きな程度(例えばバックグラウンド測定値の平均+バックグラウンド測定値の標準誤差×2以上の測定値)で、その標的配列に対してハイブリダイズする条件である。
ストリンジェントな条件はハイブリダイゼーションとその後の洗浄によって、規定される。そのハイブリダイゼーションの条件は、限定されないが、例えば30℃〜60℃で、SSC、界面活性剤、ホルムアミド、デキストラン硫酸塩、ブロッキング剤などを含む溶液中で1〜24時間の条件とする。ここで、1×SSCは、150mM塩化ナトリウム及び15mMクエン酸ナトリウムを含む水溶液(pH7.0)であり、界面活性剤はSDS(ドデシル硫酸ナトリウム)、Triton、もしくはTweenなどを含む。ハイブリダイゼーション条件としては、より好ましくは3〜10×SSC、0.1〜1%SDSを含む。ストリンジェントな条件を規定するもうひとつの条件である、ハイブリダイゼーション後の洗浄条件としては、例えば、30℃の0.5×SSCと0.1%SDSを含む溶液、及び30℃の0.2×SSCと0.1%SDSを含む溶液、及び30℃の0.05×SSC溶液による連続した洗浄などの条件を挙げることができる。相補鎖はかかる条件で洗浄しても対象とする正鎖とハイブリダイズ状態を維持するものであることが望ましい。具体的にはこのような相補鎖として、対象の正鎖の塩基配列と完全に相補的な関係にある塩基配列からなる鎖、並びに当該鎖と少なくとも80%、好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%又は少なくとも95%の相同性(同一性)を有する塩基配列からなる鎖を例示することができる。
これらのハイブリダイゼーションにおける「ストリンジェントな条件」の他の例については、例えばSambrook、J.&Russel、D.著、Molecular Cloning、A LABORATORY MANUAL、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2001年1月15日発行、の第1巻7.42〜7.45、第2巻8.9〜8.17などに記載されており、本発明において利用できる。
本発明のキットのポリヌクレオチド断片をプライマーとしてPCRを実施する際の条件の例としては、例えば10mM Tris−HCL(pH8.3)、50mM KCL、1〜2mM MgClなどの組成のPCRバッファーを用い、当該プライマーの配列から計算されたTm値+5〜10℃において15秒から1分程度処理することなどが挙げられる。かかるTm値の計算方法としてTm値=2×(アデニン残基数+チミン残基数)+4×(グアニン残基数+シトシン残基数)などが挙げられる。
本発明の方法において、標的遺伝子の発現量の測定は、上記ハイブリダイゼーション法に加えて、シークエンサーを用いて行ってもよい。シークエンサーを用いる場合には、サンガー法に基づいた第1世代とするDNAシークエンサー、リードサイズの短い第2世代、リードサイズの長い第3世代のいずれも利用することができる(第2世代及び第3世代のシークエンサーを含めて、本明細書では「次世代シークエンサー」とも称する)。例えばMiseq・Hiseq・NexSeq(イルミナ社)、Ion Proton・Ion PGM・Ion S5/S5 XL(サーモフィッシャーサイエンティフィック社)、PacBio RS II・Sequel(Pacific Bioscience社)、ナノポアシークエンサーを用いる場合には、例えばMinION(Oxford Nanopore Technologies社)などを利用して、miRNAを測定するために特別に工夫された市販の測定用キットを用いてもよい。
次世代シークエンスとは、次世代シークエンサーを用いた配列情報の取得法であり、Sanger法に比べて膨大な数のシークエンス反応を同時並行して実行できることを特徴とする(例えば、Rick Kamps et al.,Int.J.Mol.Sci.,2017,18(2),p.308及びInt.Neurourol.J.,2016,20(Suppl.2),S76−83を参照されたい)。限定するものではないが、miRNAに対する次世代シークエンスの工程例としては、まず、所定の塩基配列を有するアダプター配列を付加し、配列付加の前又は後に、全RNAをcDNAに逆転写する。逆転写後、シークエンス工程の前に、標的miRNAを解析するために、特定の標的miRNA由来のcDNAをPCR等により、又はプローブ等を用いて増幅又は濃縮してもよい。続いて行われるシークエンス工程の詳細は、次世代シークエンサーの種類により異なるが、典型的にはアダプター配列を介して基板に連結させ、またアダプター配列をプライミング部位としてシークエンス反応が行われる。シークエンス反応の詳細については、例えばRick Kamps et al.(上掲)を参照されたい。最後に、データ出力が行われる。この工程では、シークエンス反応により得られた配列情報(リード)を集めたものが得られる。例えば、次世代シークエンスでは、配列情報に基づいて標的miRNAを特定し、標的miRNAの配列を有するリードの数に基づいてその発現量を測定することができる。
遺伝子発現量の算出としては、限定されないが、例えばStatistical analysis of gene expression microarray data(Speed T.著、Chapman and Hall/CRC)、及びA beginner’s guide Microarray gene expression data analysis(Causton H.C.ら著、Blackwell publishing)などに記載された統計学的処理を、本発明において利用できる。例えばDNAチップ上のブランクスポットの測定値の平均値に、ブランクスポットの測定値の標準偏差の2倍、好ましくは3倍、より好ましくは6倍を加算し、その値以上のシグナル値を有するプローブスポットを検出スポットとみなすことができる。さらに、ブランクスポットの測定値の平均値をバックグラウンドとみなし、プローブスポットの測定値から減算し、遺伝子発現量とすることができる。遺伝子発現量の欠損値については、解析対象から除外するか、好ましくは各DNAチップにおける遺伝子発現量の最小値で置換するか、より好ましくは遺伝子発現量の最小値の対数値から0.1を減算した値で置換することができる。さらに、低シグナルの遺伝子を除去するために、測定サンプル数の20%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上において2の6乗、好ましくは2の8乗、より好ましくは2の10乗以上の遺伝子発現量を有する遺伝子のみを解析対象として選択することができる。遺伝子発現量の正規化(ノーマライゼーション)としては、限定されないが、例えばglobal normalizationやquantile normalization(Bolstad、B.M.ら、2003年、Bioinformatics、19巻、p185−193)などが挙げられる。また発現量がサンプルに依存せず恒久的な値を示す内因性遺伝子をコントロールとして特定し正規化に用いる方法や、外部から特定の核酸を一定量追加しその量を正規化に用いる方法などが挙げられる。
本発明はまた、被験体由来の検体中の標的遺伝子の発現量を測定し、前立腺がんを有することが既知である被験体(もしくは、患者)由来の検体と前立腺がんに罹患していない被験者由来の検体の遺伝子発現量を教師サンプルとして作成された、かつ前立腺がんの存在又は不存在を区別的に判別することが可能である判別式(判別関数)に、上記被験体由来の検体中の標的遺伝子の発現量を代入し、それによって、前立腺がんの存在又は不存在を評価することを含む、被験体における前立腺がんを検出する(又は、検出を補助する)方法を提供する。
すなわち、本発明はさらに、被験体が前立腺がんを含むこと、及び/又は、前立腺がんを含まないことが既知の複数の検体中の標的遺伝子の発現量をin vitroで測定する第1のステップ、前記第1のステップで得られた当該標的遺伝子の発現量の測定値を教師サンプルとした判別式を作成する第2のステップ、被験体由来の検体中の当該標的遺伝子の発現量を第1のステップと同様にin vitroで測定する第3のステップ、前記第2のステップで得られた判別式に第3のステップで得られた当該標的遺伝子の発現量の測定値を代入し、当該判別式から得られた結果に基づいて、被験体が前立腺がんを含むこと、或いは、前立腺がんを含まないことを決定又は評価する第4のステップを含む、前記方法が提供される。ここで、当該標的遺伝子は、当該ポリヌクレオチド、キット又はチップに含まれるポリヌクレオチド、及びその変異体又はその断片によって検出可能なものであってもよい。
本明細書中、判別式は、前立腺がんの存在又は不存在を区別的に判別する判別式を作成することができる任意の判別分析法、例えばフィッシャーの判別分析、マハラノビス距離による非線形判別分析、ニューラルネットワーク、Support Vector Machine(SVM)、ロジスティック回帰分析(特に、LASSO(Least AbsoluteShrinkage and Selection Operator)法を用いたロジスティック回帰分析)、k−近傍法、決定木などを用いて判別式を作成できるが、これらの具体例に限定されない。
線形判別分析は群分けの境界が直線あるいは超平面である場合、式1を判別式として用いて群の所属を判別する方法である。ここで、xは説明変数、wは説明変数の係数、w0は定数項とする。
Figure 2020032228
判別式で得られた値を判別得点と呼び、新たに与えられたデータセットの測定値を説明変数として当該判別式に代入し、判別得点の符号で群分けを判別することができる。
線形判別分析の一種であるフィッシャーの判別分析はクラス判別を行うのに適した次元を選択するための次元削減法であり、合成変数の分散(variance)に着目して、同じラベルを持つデータの分散を最小化することで識別力の高い合成変数を構成する(Venables、W.N.ら著 Modern Applied Statistics with S.Fourth edition.Springer.、2002年)。フィッシャーの判別分析では式2を最大にするような射影方向wを求める。ここで、μは入力の平均、ngはクラスgに属するデータ数、μgはクラスgに属するデータの入力の平均とする。分子・分母はそれぞれデータをベクトルwの方向に射影したときのクラス間分散、クラス内分散となっており、この比を最大化することで判別式係数wiを求める(金森敬文ら著、「パターン認識」、共立出版(東京、日本)(2009年)、Richard O.ら著、Pattern Classification Second Edition.、Wiley−Interscience、2000年)。
Figure 2020032228
マハラノビス距離はデータの相関を考慮した式3で算出され、各群からのマハラノビス距離の近い群を所属群として判別する非線形判別分析として用いることができる。ここで、μは各群の中心ベクトル、S−1はその群の分散共分散行列の逆行列である。中心ベクトルは説明変数xから算出され、平均ベクトルや中央値ベクトルなどを用いることができる。
Figure 2020032228
SVMとはV.Vapnikが考案した判別分析法である(The Nature of Statistical Leaning Theory、Springer、1995年)。分類すべき群分けが既知のデータセットの特定のデータ項目を説明変数、分類すべき群分けを目的変数として、当該データセットを既知の群分けに正しく分類するための超平面と呼ばれる境界面を決定し、当該境界面を用いてデータを分類する判別式を決定する。そして当該判別式は、新たに与えられるデータセットの測定値を説明変数として当該判別式に代入することにより、群分けを判別することができる。また、このときの判別結果は分類すべき群でも良く、分類すべき群に分類されうる確率でも良く、超平面からの距離でも良い。SVMでは非線形な問題に対応するための方法として、特徴ベクトルを高次元へ非線形変換し、その空間で線形の識別を行う方法が知られている。非線形に写像した空間での二つの要素の内積がそれぞれのもとの空間での入力のみで表現されるような式のことをカーネルと呼び、カーネルの一例としてリニアカーネル、RBF(Radial Basis Function)カーネル、ガウシアンカーネルを挙げることができる。カーネルによって高次元に写像しながら、実際には写像された空間での特徴の計算を避けてカーネルの計算のみで最適な判別式、すなわち判別式を構成することができる(例えば、麻生英樹ら著、統計科学のフロンテイア6「パターン認識と学習の統計学 新しい概念と手法」、岩波書店(東京、日本)(2004年)、Nello Cristianiniら著、SVM入門、共立出版(東京、日本)(2008年))。
SVM法の一種であるC−support vector classification(C−SVC)は、2群の説明変数で学習を行って超平面を作成し、未知のデータセットがどちらの群に分類されるかを判別する(C.Cortesら、1995年、Machine Learning、20巻、p273−297)。
本発明の方法で使用可能なC−SVCの判別式の算出例を以下に示す。まず全被験体を前立腺がん患者と前立腺がんに罹患していない被験者の2群に群分けする。被験体が前立腺がん患者に罹患している、もしくは前立腺がんに罹患していないと判断する基準としては、例えば前立腺組織検査を用いることができる。
次に、分けられた2群の血清由来の検体の網羅的遺伝子発現量からなるデータセット(以下、学習検体群)を用意し、当該2群の間で遺伝子発現量に明確な差が見られる遺伝子を説明変数、当該群分けを目的変数(例えば−1と+1)としたC−SVCによる判別式を決定する。式4は最適化する目的関数であり、ここで、eは全ての入力ベクトル、yは目的変数、aはLagrange未定乗数ベクトル、Qは正定値行列、Cは制約条件を調整するパラメータを表す。
Figure 2020032228
式5は最終的に得られた判別式であり、判別式によって得られた値の符号で所属する群を決定できる。ここで、xはサポートベクトル、yは群の所属を示すラベル、aは対応する係数、bは定数項、Kはカーネル関数である。
Figure 2020032228
カーネル関数としては例えば式6で定義されるRBFカーネルを用いることができる。ここで、xはサポートベクトル、γは超平面の複雑さを調整するカーネルパラメータを表す。
Figure 2020032228
ロジスティック回帰は、一つのカテゴリ変数(二値変数)を目的変数として、その発生確率を複数の説明変数を用いて予測する多変量解析法であり、下記の式7で表される。
Figure 2020032228
LASSO(Least AbsoluteShrinkage and Selection Operator)法とは、観測された変数が多数存在する場合の変数選択及び調整の手法の1つで、Tibshiraniにより提案された(Tibshirani R.、1996年、J R Stat Soc Ser B、58巻、p267−88)。LASSO法は回帰係数の推定の際に罰則項を導入することで,モデルへの過剰適合を抑制し、いくつかの回帰係数を0に推定するという特徴がある。LASSO法を用いたロジスティック回帰では、式8で表される対数尤度関数を最大化するように回帰係数の推定を行う。
Figure 2020032228
LASSO法による解析で得られた判別式の値yを、下記の式9で表されるロジスティック関数に代入して得られた値で所属する群を決定できる。
Figure 2020032228
本発明の方法は、例えば下記のステップ(a)、(b)及び(c):
(a)前立腺がん患者由来であること及び前立腺がんを含まない被験体であることが既に知られている検体中の標的遺伝子の発現量を、本発明による検出用ポリヌクレオチド、キット又はDNAチップを用いて測定するステップ、
(b)(a)で測定された発現量の測定値から、上記の式1〜3、5、6及び9の判別式を作成するステップ、
(c)被験体由来の検体中の当該標的遺伝子の発現量を、本発明による診断(検出)用ポリヌクレオチド、キット又はデバイス(例えばDNAチップ)を用いて測定し、(b)で作成した判別式に測定値を代入して、得られた結果に基づいて被験体が前立腺がんを含むこと又は前立腺がんを含まないことを決定又は評価する、或いは前立腺がん患者由来発現量を前立腺がんに罹患していない被験者由来の対照と比較し評価する、ステップ、
を含むことができる。ここで、式1〜3、5、6及び9の式中のxは説明変数であり、上記2節に記載したポリヌクレオチド類から選択されるポリヌクレオチド又はその断片を測定することによって得られる値を含み、具体的には本発明の前立腺がん患者と前立腺がんに罹患していない被験者を判別するための説明変数は、例えば下記の(1)又は(2)より選択される遺伝子発現量である:
(1)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列又はその相補的配列において、15以上の連続した塩基を含むDNAのいずれかによって測定される前立腺がん患者及び前立腺がんに罹患していない被験者の血清における遺伝子発現量;又は
(2)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列又はその相補的配列において、15以上の連続した塩基を含むDNAのいずれかによって測定される前立腺がん患者及び前立腺がんに罹患していない被験者の血清における遺伝子発現量。
以上に示すように、被験体由来の検体について、該被験体が前立腺がんを有するか否かを決定又は評価する方法として、1つ以上の遺伝子発現量を説明変数として用いた判別式が必要である。特に、1つの遺伝子発現量のみを用いた判別式の判別精度を上げるためには、前立腺がん患者群と前立腺がんに罹患していない被験者からなる2群間の発現量に明確な差がある遺伝子を判別式に用いることが必要である。
すなわち、判別式の説明変数に用いる遺伝子の決定は、次のように行うことが好ましい。まず、学習群とする前立腺がん患者群の網羅的遺伝子発現量と前立腺がんに罹患していない被験者群の網羅的遺伝子発現量をデータセットとし、パラメトリック解析であるt検定のP値、ノンパラメトリック解析であるMann−WhitneyのU検定のP値、又はWilcoxon検定のP値などを利用して、当該2群間における各遺伝子の発現量の差の大きさを求める。
検定によって得られたP値の危険率(有意水準)が例えば5%、1%又は0.01%より小さい場合に統計学的に有意とみなすことができる。
検定を繰り返し行うことに起因する第一種の過誤の確率の増大を補正するために公知の方法、例えばボンフェローニ、ホルムなどの方法によって補正することができる(例えば、永田靖ら著、「統計的多重比較法の基礎」、サイエンティスト社(東京、日本)(2007年))。ボンフェローニ補正を例示すると、例えば検定によって得られたP値を検定の繰り返し回数、即ち、解析に用いる遺伝子数で乗じ、所望の有意水準と比較することにより検定全体での第一種の過誤を生じる確率を抑制できる。
また、検定ではなく前立腺がん患者群の遺伝子発現量と前立腺がんに罹患していない被験者群の遺伝子発現量の間で、各々の遺伝子発現量の中央値の発現比の絶対値(Fold change)を算出し、判別式の説明変数に用いる遺伝子を選択してもよい。また、前立腺がん患者群と前立腺がんに罹患していない被験者群の遺伝子発現量を用いてROC曲線を作成し、AUROC値を基準にして判別式の説明変数に用いる遺伝子を選択してもよい。
次に、ここで求めた遺伝子発現量の差が大きい任意の数の遺伝子を用いて、上記の種々の方法で算出することができる判別式を作成する。最大の判別精度を得る判別式を構築する方法として、例えばP値の有意水準を満たした遺伝子のあらゆる組み合わせで判別式を構築する方法や、判別式を作成するために使用する遺伝子を、遺伝子発現量の差の大きい順に一つずつ増やしながら繰り返して評価する方法などがある(Furey TS.ら、2000年、Bioinformatics.、16巻、p906−14)。この判別式に対し、別の独立の前立腺がん患者もしくは前立腺がんに罹患していない被験者の遺伝子発現量を説明変数に代入して、この独立の前立腺がん患者もしくは前立腺がんに罹患していない被験者について所属する群の判別結果を算出する。すなわち、見出した診断用遺伝子セット及び診断用遺伝子セットを用いて構築した判別式を、独立の検体群で評価することにより、より不偏的な前立腺がんを検出することができる診断用遺伝子セット及び前立腺がんを判別する方法を見出すことができる。
また、複数の遺伝子発現量を説明変数として用いる判別式を作成する際には、上記のように前立腺がん患者群及び前立腺がんに罹患していない被験者群の間で発現量に明確な差がある遺伝子を選択する必要はない。すなわち、単独の遺伝子発現量に明確な差がなくとも、複数の遺伝子発現量を組み合わせることで、判別性能が高い判別式を得られる場合がある。そのため、判別式に用いる遺伝子の選択を事前に行わずに、判別性能が高い判別式の探索を直接行う方法も活用できる。
また、当該判別式の判別性能(汎化性)の評価には、Split−sample法を用いることが好ましい。すなわち、データセットを学習検体群と検証検体群に分割し、学習検体群で統計学的検定による遺伝子の選択と判別式作成を行い、該判別式で検証検体群を判別した結果と検証検体群が所属する真の群を用いて精度、感度、及び特異度を算出し、判別性能を評価する。一方、データセットを分割せずに、全検体を用いて統計学的検定による遺伝子の選択と判別式作成を行い、新規に用意した検体を該判別式で判別して精度、感度、及び特異度を算出し、判別性能を評価することもできる。
本発明は、前立腺がんの診断及び治療に有用な検出用又は疾患診断用ポリヌクレオチド、当該ポリヌクレオチドを用いた前立腺がんの検出方法、並びに当該ポリヌクレオチドを含む前立腺がんの検出キット及びデバイスを提供する。特に、現行の診断では非前立腺がん患者を前立腺がん患者と誤判別することによる無駄な追加検査の実施や、前立腺がん患者を見落とすことによる治療機会の逸失がおこる可能性がある。これに対し、本発明は、非侵襲的かつ少ない検体量でステージ、浸潤度、組織学的異型度、初発/再発によらず前立腺がんを正しく判別できる、すなわちaccuracy精度の高い前立腺がんマーカーから前立腺がんの診断及び治療に有用な疾患診断用キット又はデバイス、前立腺がんの判定(又は検出)方法を提供する。
例えば、上に記載したような配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列若しくはその相補的配列に基づく1又は2以上の上記ポリヌクレオチド、並びに場合により、配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列若しくはその相補的配列に基づく1又は2以上の上記ポリヌクレオチド、からの任意の組み合わせを診断用遺伝子セットとする。さらに、組織診断の結果前立腺がんと判断された患者由来の検体と、前立腺がんに罹患していない被験者由来の検体における該診断用遺伝子セットの発現量を用いて判別式を構築する。その結果、未知の検体の該診断用遺伝子セットの発現量を測定することにより、未知の検体の由来する被験体が前立腺がんを含むこと又は前立腺がんを含まないことを最高で96%の精度で見分けることができる。
本発明のキット及び方法等によれば、前立腺がんを感度よく検出できるので、前立腺がんを早期に発見することが可能となる。その結果、早期の治療が可能となり、生存率の大幅な向上に繋がり得る。また、尿細胞診の観察者間で見られる高い変動性や、前立腺内視鏡検査の術者の主観による結果の違いにより、前立腺がん患者を見落とすことによる治療機会の逸失や、非前立腺がん患者を前立腺がん患者と誤判別することによる無駄な追加検査の実施を避けることが可能となる。
本発明を以下の実施例によってさらに具体的に説明する。しかし、本発明の範囲は、この実施例によって制限されないものとする。
[参考例]
<検体の採取>
前立腺組織針生検により陽性と確認された前立腺がん患者1,044人、前立腺がんが疑われたが前立腺組織針生検では陰性と確認された前立腺良性疾患患者241人、及びがんの既往歴が無く且つ3カ月以内の入院歴がない健康な男性41人からインフォームドコンセントを得て、ベノジェクトII真空採血管VP−AS109K63(テルモ株式会社(日本))を用いてそれぞれ血清を採取した。このうち、41人は臨床情報の不足により、3人は他のがん種の併発により、181人は採血前の治療の影響により、また13人は下記する遺伝子発現量測定における品質基準未達により、解析対象から除外した。従って、計809人の前立腺がん患者、241人の前立腺良性疾患患者、41人の健康人の血清サンプルを使用した。
これらの症例における年齢分布は、前立腺がんで平均67歳(最小62歳〜最高73歳)、前立腺良性で平均66歳(最小61歳〜最高70歳)、健康人で平均70歳(最小48歳最高77歳)であった。
前立腺がん症例におけるがんの悪性度を示すグリーソン分類値の分布は、分類値6が86例、分類値3+4が244例、分類値4+3は159例、分類値8以上は320例であった。
前立腺がん症例におけるがんの大きさを示すT分類の分布は、T1cが256例、T2a〜T2cが354例、T3a〜T3bが183例、T4が16例であった。
前立腺がん症例におけるリンパ節転移の有無を示すN分類の分布は、N1が54例、N0が755例であった。
前立腺がん症例における遠隔転移の有無を示すM分類の分布は、M1が64例、M0が745例であった。以上の症例情報をまとめて表2に示す。
Figure 2020032228
<totalRNAの抽出>
検体として上記の合計1,091人からそれぞれ得られた血清300μLから、3D−Gene(登録商標)RNA extraction reagent from liquid sample kit(東レ株式会社(日本))中のRNA抽出用試薬を用いて、同社の定めるプロトコールに従ってtotal RNAを得た。
<遺伝子発現量の測定>
検体として上記の合計1,091人の血清から得たtotal RNAに対して、3D−Gene(登録商標)miRNA Labeling kit(東レ株式会社)を用いて同社が定めるプロトコールに基づいてmiRNAを蛍光標識した。オリゴDNAチップとして、miRBase release 21に登録されているmiRNAの中で、2,588種のmiRNAと相補的な配列を有するプローブを搭載した3D−Gene(登録商標)Human miRNA Oligo chip(東レ株式会社)を用い、同社が定めるプロトコールに基づいてストリンジェントな条件でハイブリダイゼーション及びハイブリダイゼーション後の洗浄を行った。DNAチップを3D−Gene(登録商標)スキャナー(東レ株式会社)を用いてスキャンし、画像を取得して3D−Gene(登録商標)Extraction(東レ株式会社)にて蛍光強度を数値化した。
数値化された蛍光強度を用いて以下のように検出された遺伝子の発現量を計算した。まず、複数あるネガティブコントロールスポットのシグナル強度の最大順位と最小順位各々5%を除き、その[平均値+2×標準偏差]を計算し、この値より大きいシグナル強度を示した遺伝子は検出されたとみなした。検出された遺伝子のシグナル強度からは、最大順位と最小順位各々5%を除いたネガティブコントロールスポットのシグナル強度の平均値を減算後、底が2の対数値に変換して遺伝子発現量とした。データの正規化は、内因性コントロールとして報告がある3種類のmiRNA:miR−149−3p、miR−2861、miR−4463(下村、ら、Cancer Science、2016年、第107巻、ページ326−34)の平均値を用いて異なる検体のデータを正規化した。上記において検出されなかった遺伝子については、正規化後のデータにおいて底が2の対数値00.1に置換した。このようにして、上記の1,091人の血清に対する、網羅的なmiRNAの遺伝子発現量のシグナル値を得た。
前立腺がんを判別する方法を構築するには以下のような段階的手順を踏んだ。すなわち、まず症例を探索検体群、学習検体群、検証検体群に3分割し、探索検体群でマーカー候補の抽出、学習検体群で判別式の構築、検証検体群で判別式の検証を実施した。症例の分け方は、探索検体群に前立腺がん、前立腺良性疾患、健康人を41症例ずつの計123症例、学習検体群と検証検体群は残りの症例を半分ずつ、すなわち前立腺がん384症例と前立腺良性疾患100症例の計484症例に分割した。これらの症例分割においては、年齢、グリーソン分類、T分類、N分類、M分類が均等に割り付けられるよう分割した。
数値化されたmiRNAの遺伝子発現量を用いた計算及び統計解析は、R言語3.3.1(R Core Team(2016).R:A language and environment for statistical computing.R Foundation for Statistical Computing、Vienna、Austria.URL https://www.R−project.org/.)及びMASSパッケージ7.3.45(Venables、W.N.&Ripley、B.D.(2002)Modern Applied Statistics with S.Fourth Edition.Springer、New York.ISBN 0−387−95457−0)を用いて実施した。
[実施例1]
<1種のmiRNAを用いた判別式による前立腺がん判別分析>
本実施例では、探索検体群でマーカー候補として抽出したmiRNAの各1種を用いて学習検体群で判別式を作成し、検証検体群で作成した判別式の性能を検証した。
具体的には、まず探索検体群において、ヒトに存在する全2,588種のmiRNA(測定対象)からより信頼性の高い診断マーカーを獲得するため、図2に示すスキームに従いマーカー候補を絞り込んだ。始めに、陽性検体群(前立腺がん患者)又は陰性検体群(前立腺良性疾患患者及び健康人)のいずれかにおいて、50%以上の検体数で2の6乗以上の遺伝子発現量を有しない2,180種のmiRNAはシグナル強度が低く信頼性が無いとして除外し、残り408種のmiRNAを次の工程対象とした。次に、交差検証を実施して精度が0.7に満たなかった370種を除外し、最後に残った38種のmiRNAについて、平均発現量が、健康人<前立腺良性疾患患者<前立腺がん患者、の順番、または、前立腺がん患者<前立腺良性疾患患者<健康人、の順番にならない20種類のmiRNAはがん特異性が低いとして除外し、最後に残った18種類のmiRNAをマーカー候補として特定した。
次に学習検体群において、得られた18種類のmiRNA発現量の各々についてフィッシャーの線形判別分析を行い、交差検証も実施しつつ、前立腺がんの存在の有無を判別する判別式を構築した。
その結果、配列番号1〜8で表される塩基配列からなる8種類のポリヌクレオチドは、学習検体群で得られた判別能が検証検体群でも検証された。例えば、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドのAUCは、学習検体群において0.921であり、検証検体群において0.917であった(図3)。同様に、配列番号2〜8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドのAUCは、学習検体群においてそれぞれ0.921、0.568、0.936、0.971、0.836、0.843、0.707であり、検証検体群においてそれぞれ0.913、0.607、0.940、0.913、0.815、0.822、0.733であった(表3)。
Figure 2020032228
一方、同じ検体群から測定された既存の前立腺がんマーカーであるPSAのAUCは、学習検体群で0.63、検証検体群では0.60であった(図4)。
すなわち、配列番号1、2、4、5、6、7、8で表される塩基配列からなる7種類のポリヌクレオチドは、単独でPSAを上回る判別能で前立腺がんを判別できた。
更に、具体的な判別閾値を設けて判別式を特定し、感度、特異度を評価基準としてこれらのマーカーを評価した。例えば、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドの発現量を用いて作成した判別式(0.903*[hsa−miR−1185−2−3p]−6.870)の値が正の値であれば前立腺がん陽性判定、負の値であれば前立腺がん陰性判定、との結果が得られる。このようにして配列番号1〜8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドの発現量を用いて作成した判別式により得られた感度と特異度を表4に示す。
Figure 2020032228
例えば、配列番号1を用いた判別式では学習検体群における感度は0.891、特異度は0.810、検証検体群における感度は0.857、特異度は0.790であった。配列番号2を用いた判別式では学習検体群における感度は0.807、特異度は0.880、検証検体群における感度は0.763、特異度は0.910であった。配列番号3を用いた判別式では学習検体群における感度は0.497、特異度は0.680、検証検体群における感度は0.523、特異度は0.660であった。配列番号4を用いた判別式では学習検体群における感度は0.839、特異度は0.930、検証検体群における感度は0.844、特異度は0.900であった。配列番号5を用いた判別式では学習検体群における感度は0.883、特異度は0.930、検証検体群における感度は0.870、特異度は0.830であった。配列番号6を用いた判別式では学習検体群における感度は0.711、特異度は0.820、検証検体群における感度は0.688、特異度は0.770であった。配列番号7を用いた判別式では学習検体群における感度は0.708、特異度は0.830、検証検体群における感度は0.721、特異度は0.800であった。配列番号8を用いた判別式では学習検体群における感度は0.552、特異度は0.810、検証検体群における感度は0.537、特異度は0.840であった。
一方、同じ検体群から測定された既存の前立腺がんマーカーであるPSAについて一般的な閾値である4ng/mLを用いた時には、学習検体群における感度は0.55、特異度は0.64、検証検体群における感度は0.47、特異度は0.72であった。
すなわち、配列番号1、2、4、5、6、7、8で表される塩基配列からなる7種類のポリヌクレオチドは、単独でPSAを上回る感度及び特異度で前立腺がん疑いのある良性疾患患者から前立腺がんを判別できた。
[実施例2]
<2種以上のmiRNAを用いた判別式による前立腺がん判別分析>
本実施例では、探索検体群でマーカー候補として抽出した18種類のmiRNAを複数組み合わせて学習検体群で判別式を作成し、検証検体群で作成した判別式の性能を検証した。具体的には、学習検体群において、得られた18種類のmiRNA発現量の各々についてフィッシャーの線形判別分析を行い、交差検証も実施しつつ、前立腺がんの存在の有無を判別する判別式を構築した。
その結果、配列番号1〜8で表される塩基配列からなる8種類のポリヌクレオチドを組み合わせた判別式の学習検体群における判別能は、実施例1で示した単独の塩基配列からなるポリヌクレオチドによる判別よりも向上し、その高性能は検証検体群でも検証された。
例えば、実施例1より、配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドのAUCは、学習検体群において0.921であり、検証検体群において0.917であった(図3)が、配列番号1と5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式のAUCは、学習検体群において0.986であり、検証検体群において0.953であった(図5)。更に、例えば配列番号1、3、5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式のAUCは、学習検体群において0.986であり、検証検体群において0.953であった。同様に、例えば配列番号2、5、7で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式のAUCは、学習検体群において0.985であり、検証検体群において0.954であった。更に、例えば配列番号2、3、4、5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式のAUCは、学習検体群において0.989であり、検証検体群において0.974であった。更に、例えば配列番号2、3、4、5、8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式のAUCは、学習検体群において0.990であり、検証検体群において0.975であった。同様に、例えば配列番号2、3、4、5、6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式のAUCは、学習検体群において0.990であり、検証検体群において0.976であった。
これらの結果をまとめて表5に示す。これらの性能は検証検体群においても検証された。
Figure 2020032228
一方、同じ検体群から測定された既存の前立腺がんマーカーであるPSAのAUCは、学習検体群で0.63、検証検体群では0.60であった(図4)。
以上のとおり、配列番号1〜8で表される塩基配列からなる8種類のポリヌクレオチドを複数の組み合わせ全ての判別式は、PSAを上回る判別能で前立腺がんを判別できた。
更に、具体的な判別閾値を設けて判別式を特定し、感度、特異度を評価基準としてこれらのマーカーを評価した。その結果、配列番号1〜8で表される塩基配列からなる8種類のポリヌクレオチドを組み合わせた判別式の学習検体群における感度及び特異度は、実施例1で示した単独の塩基配列からなるポリヌクレオチドによる判別の感度及び特異度よりも向上し、その高性能は検証検体群でも検証された。
例えば、実施例1より配列番号1で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを用いた判別式では学習検体群における感度は0.891、特異度は0.810、検証検体群における感度は0.857、特異度は0.790であったが(図3)、配列番号1と5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式の学習検体群における感度は0.909、特異度は0.970、検証検体群における感度は0.901、特異度は0.900であった。更に、配列番号1、3、5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式の学習検体群における感度は0.909、特異度は0.970であり、検証検体群における感度は0.888、特異度は0.900であった。同様に、配列番号2、5、7で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式の学習検体群における感度は0.945、特異度は0.920であり、検証検体群における感度は0.956、特異度は0.850であった。更に、配列番号2、3、4、5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式の学習検体群における感度は0.935、特異度は0.950であり、検証検体群における感度は0.927、特異度は0.890であった。更に、配列番号2、3、4、5、8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式の学習検体群における感度は0.909、特異度は0.970であり、検証検体群における感度は0.906、特異度は0.900であった。更に、配列番号2、3、4、5、6で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式の学習検体群における感度は0.943、特異度は0.950であり、検証検体群における感度は0.935、特異度は0.900であった。
これらの結果をまとめて表6に示す。これらの性能は検証検体群においても検証された。
Figure 2020032228
一方、同じ検体群から測定された既存の前立腺がんマーカーであるPSAについて一般的な閾値である4ng/mLを用いた時には、学習検体群における感度は0.55、特異度は0.64、検証検体群における感度は0.47、特異度は0.72であった。
以上のことから、配列番号1〜8で表される塩基配列からなる8種類のポリヌクレオチドを複数組み合わせた全ての判別式は、PSAを上回る感度及び特異度で前立腺がん疑いのある良性疾患患者から前立腺がんを判別できた。
[実施例3]
<miRNAを用いた判別式による病態分類別の前立腺がんの判別>
本実施例では、実施例1及び2で作成及び検証されたmiRNAの判別式を用いて前立腺がんの病態別特徴に焦点を当てて判別性能を評価した。具体的には、前立腺がんの悪性度を示すグリーソン分類、がんの大きさを示すT分類、がんのリンパ節転移の状態を示すN分類、及び遠隔転移の状態を示すM分類の違いにより、miRNAを用いた判別式の判別性能が変化するかを検証検体群を用いて検討した。
その結果、例えば、配列番号1と5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式は、図6に示すとおり、グリーソン分類値3+3(=6)の前立腺がんを89%判別、グリーソン分類値3+4(=7)の前立腺がんを91%判別、グリーソン分類値4+3(=7)の前立腺がんを92%判別、グリーソン分類値8以上の前立腺がんを89%判別した。また、グリーソン分類値6の判別得点と比較すると、グリーソン分類値7以上の判別得点は有意に増加しており(ANOVA判定)、前立腺がんの悪性度を反映していた。すなわち、本判別式は、悪性度の低い、早期の前立腺がんも進行した前立腺がんと同等に高い性能で判別することができた。
また、例えば、配列番号1と5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式の判別性能を、がんの大きさの指標であるT分類の観点から評価した場合、図7に示すとおり、T1cの前立腺がんを93%判別、T2の前立腺がんを87%判別、T3以上の前立腺がんを92%判別できた。すなわち、本判別式は、がんが小さい、早期の前立腺がんも進行した前立腺がんと同等に高い性能で判別することができた。
また、例えば、配列番号1と5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式の判別性能を、がんのリンパ節転移の状態を示すN分類の観点から評価した場合、図8に示すとおり、リンパ節転移の無いN0の前立腺がんを90%判別、リンパ節転移の有るN1の前立腺がんを89%判別できた。すなわち、本判別式は、リンパ節転移が無い、早期の前立腺がんも進行した前立腺がんと同等に高い性能で判別することができた。
また、例えば、配列番号1と5で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式の判別性能を、がんの遠隔転移の状態を示すM分類の観点から評価した場合、図9に示すとおり、遠隔転移の無いM0の前立腺がんを91%判別、遠隔転移のあるM1の前立腺がんを85%判別できた。すなわち、本判別式は、遠隔転移が無い、比較的早期の前立腺がんも進行した前立腺がんと同等に高い性能で判別することができた。
同様に、前記表6に示す、配列番号1〜8で表される塩基配列からなるポリヌクレオチドを組み合わせて作成した判別式においても同様に、グリーソン分類、T分類、N分類、M分類に依存せず前立腺がんを高性能で判別することができた。
[比較例1]
<miR−1275による前立腺がんの判別>
特許文献1を参考に、miR−1275による前立腺がんの判別を試みた。すなわち本発明で用いた検体であって参考例に記載した計809人の前立腺がん患者、241人の前立腺良性疾患患者の血清中miR−1275の発現量をもとに、前立腺がんの有無を判定できるか検討した。
その結果、両検体群のmiR−1275の発現量の分布は大部分で重なっており(図10)、例えば発現量7.3を閾値とすると、感度89%、特異度10%であり、発現量7.5を閾値とすると感度81%、特異度23%であり、発現量7.8を閾値とすると感度55%、特異度47%であった。これらの性能は前立腺がんの判別に充分であるとは言えず、検査として臨床で実用することはできない結果であった。
本発明により、簡易かつ安価な方法で、様々な進行度、悪性度の前立腺がんを効果的に検出することができるため、前立腺がんの早期発見、診断及び治療が可能になる。また、本発明の方法により、患者血液を用いて前立腺がんを低侵襲的に検出できるため、前立腺がんを簡便かつ迅速に検出することが可能になる。
本明細書で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願はそのまま引用により本明細書に組み入れられるものとする。

Claims (18)

  1. 前立腺がんマーカーである、miR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、及びmiR−6076からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を含む、前立腺がんの検出用キット。
  2. 前記核酸が、下記の(a)〜(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
    (a)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (b)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
    (c)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (d)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
    (e)前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
    からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項1に記載のキット。
  3. 前記キットが、別の前立腺がんマーカーである、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、及びmiR−1228−5pからなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸をさらに含む、請求項1又は2に記載のキット。
  4. 前記核酸が、下記の(f)〜(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
    (f)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (g)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
    (h)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (i)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
    (j)前記(f)〜(i)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
    からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項3に記載のキット。
  5. 前立腺がんマーカーである、miR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、及びmiR−6076からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を含む、前立腺がんの検出用デバイス。
  6. 前記核酸が、下記の(a)〜(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
    (a)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (b)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
    (c)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (d)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
    (e)前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
    からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項5に記載のデバイス。
  7. 前記デバイスが、別の前立腺がんマーカーである、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、及びmiR−1228−5pからなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸をさらに含む、請求項5又は6に記載のデバイス。
  8. 前記核酸が、下記の(f)〜(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
    (f)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (g)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
    (h)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (i)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
    (j)前記(f)〜(i)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
    からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項7に記載のデバイス。
  9. 前記デバイスが、ハイブリダイゼーション技術による測定のためのデバイスである、請求項5〜8のいずれか1項に記載のデバイス。
  10. 前記ハイブリダイゼーション技術が、核酸アレイ技術である、請求項9に記載のデバイス。
  11. 被験体の検体において、前立腺がんマーカーである、miR−1185−2−3p、miR−1185−1−3p、miR−197−5p、及びmiR−6076からなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドの発現量を測定し、該測定された発現量を用いて被験体が前立腺がんに罹患しているか否かをin vitroで評価することを含む、前立腺がんの検出方法。
  12. 前立腺がんを有することが既知である被験体由来の検体の遺伝子発現量と前立腺がんに罹患していない被験体由来の検体の遺伝子発現量を教師サンプルとして作成された、かつ前立腺がんの存在又は不存在を区別的に判別することが可能である判別式に、上記被験体由来の検体中の前記少なくとも1つのポリヌクレオチドの発現量を代入し、それによって、前立腺がんの存在又は不存在をin vitroで評価することを含む、請求項11に記載の方法。
  13. 前記ポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を用いて前記ポリヌクレオチドの発現量の測定を行い、前記核酸が、下記の(a)〜(e)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
    (a)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (b)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
    (c)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (d)配列番号1〜4のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
    (e)前記(a)〜(d)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
    からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項11又は12に記載の方法。
  14. 別の前立腺がんマーカーである、miR−17−3p、miR−320b、miR−6819−5p、及びmiR−1228−5pからなる群から選択される少なくとも1つのポリヌクレオチドの発現量を測定することをさらに含む、請求項11〜13のいずれか1項に記載の方法。
  15. 前記ポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を用いて前記ポリヌクレオチドの発現量の測定を行い、前記核酸が、下記の(f)〜(j)のいずれかに示すポリヌクレオチド:
    (f)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (g)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列を含むポリヌクレオチド、
    (h)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチド、その変異体、その誘導体、又は15以上の連続した塩基を含むその断片、
    (i)配列番号5〜8のいずれかで表される塩基配列もしくは当該塩基配列においてuがtである塩基配列に相補的な塩基配列を含むポリヌクレオチド、及び
    (j)前記(f)〜(i)のいずれかのポリヌクレオチドとストリンジェントな条件でハイブリダイズするポリヌクレオチド、
    からなる群から選択されるポリヌクレオチドである、請求項14に記載の方法。
  16. 前記ポリヌクレオチド又は当該ポリヌクレオチドに相補的な塩基配列からなるポリヌクレオチドと特異的に結合可能な核酸を含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載のキット又は請求項5〜10のいずれか1項に記載のデバイスを用いて、被験体の検体における標的遺伝子の発現量を測定する、請求項11〜15のいずれか1項に記載の方法。
  17. 前記被験体が、ヒトである、請求項11〜16のいずれか1項に記載の方法。
  18. 前記検体が、血液、血清又は血漿である、請求項11〜17のいずれか1項に記載の方法。
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