JPWO2020031804A1 - 無機顔料 - Google Patents

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Abstract

本発明の無機顔料、下記式(1)で示されることを特徴とする。Ba3W1.5(V1−xMnx)0.5O8.75(1)(式(1)中、0.01≦x≦0.50の関係を満足する。)本発明の無機顔料は、層状型の結晶構造を有するのが好ましい。また、本発明の無機顔料は、三方晶系の単位格子を有するのが好ましい。本発明によれば、毒性が低く、発色性および熱安定性に優れる緑色系の色彩の無機顔料を提供することができる。

Description

本発明は、無機顔料に関する。
顔料は、塗料やインク等の着色剤として用いられている。
例えば、有機系の緑色系顔料としては、鮮明で着色力が非常に強いフタロシアニン(例えば、特許文献1参照)、マラカイトグリーン等が挙げられるが、これらの顔料は有機物であることから、耐熱性に劣り、高温での使用には向いていない。例えば、これらの有機系の緑色系顔料を、セラミックや陶器等の焼き物の着色に用いた場合、焼き付け時の高温により色が劣化してしまう。
無機顔料は、有機顔料に比べて高い耐熱性と高い鮮明度とを有することから、インクやペンキ、化粧品等に用いられている。
緑色系の無機顔料には、カドミウム(Cd)やコバルト(Co)、クロム(Cr)等の元素を含有しているものが多い。このような顔料は、色彩が鮮やかであるという利点を持つが、人体や環境に対して強い毒性を示すことが知られている。
また、マラカイト(CuCO・Cu(OH))は、最も古くから知られた鮮明な緑色系無機顔料であるが、高温安定性に乏しい。
コバルトは、鮮やかな色調を出すことから、コバルトグリーン(CoTiO、CoO・ZnO)等、顔料に多く用いられているが、毒性の問題点に加えて、供給が不安定であるという問題も有している。
化学的に安定した無機顔料としては、酸化クロム緑(Cr)、クロムグリーン((AlCr))等が挙げられるが、六価のクロムは毒性が極めて強いことから、クロム自体の使用を制限する方向にある。
すなわち、良好な発色性、高温安定性、および低毒性を兼ね備えている緑色系顔料は、今まで存在していなかった。
特開2001−261995号公報
本発明の目的は、毒性が低く、発色性および熱安定性に優れる緑色系の無機顔料を提供することにある。
このような目的は、下記の本発明により達成される。
本発明の無機顔料は、下記式(1)で示されることを特徴とする。
Ba1.5(V1−xMn0.58.75 (1)
(式(1)中、0.01≦x≦0.50の関係を満足する。)
本発明の無機顔料は、下記式(2)、下記式(3)または下記式(4)で示されることを特徴とする。
Ba1.5(V1−x−yMn0.58.75 (2)
(式(2)中、Aは、Al、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、Mo、P、LiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種であり、0.01≦x≦0.50、および0≦y≦0.30の関係を満足する。)
(Ba1−z1.5(V1−xMn0.58.75 (3)
(式(3)中、Aは、Al、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、Mo、P、LiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種であり、0.01≦x≦0.50、および0≦z≦0.30の関係を満足する。)
Ba(W1−q1.5(V1−xMn0.58.75 (4)
(式(4)中、Aは、Al、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、Mo、P、LiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種であり、0.01≦x≦0.50、および0≦q≦0.30の関係を満足する。)
本発明の無機顔料は、層状型の結晶構造を有することが好ましい。
本発明の無機顔料は、三方晶系の単位格子を有することが好ましい。
本発明によれば、毒性が低く、発色性および熱安定性に優れる緑色系の無機顔料を提供することができる。
図1は、Ba1.50.58.75の結晶構造を模式的に示す図である。 図2は、実施例1〜6の無機顔料についてのX線回折パターンを示す図である。 図3は、実施例1〜6の無機顔料について、紫外可視分光法による拡散反射スペクトルを示す図である。 図4は、実施例7、10、11、13、14、16および17の無機顔料について、紫外可視分光法による拡散反射スペクトルを示す図である。 図5は、実施例7〜17の無機顔料を示す写真である。
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
[無機顔料]
まず、本発明の無機顔料について説明する。
ところで、従来においては、良好な発色性、高温安定性、および低毒性を兼ね備えている緑色系顔料は存在しなかった。そこで、本発明者は、これらの優れた特性を兼ね備えている緑色系顔料を得る目的で鋭意研究を行った。その結果、4配位のバナジウムイオンサイトを持つ安定なBa1.50.58.75を基本構造(母体)とし、その構成元素の一部を毒性の低いマンガンで置換することにより、上記のような目的が達成された新規の無機顔料を単結晶で得ることができた。
すなわち、本発明の無機顔料は、下記式(1)で示される。
Ba1.5(V1−xMn0.58.75 (1)
(式(1)中、0.01≦x≦0.50の関係を満足する。)
このような無機顔料は、毒性が低く、鮮やかな緑色系の色彩を呈し、かつ優れた耐熱性を有している。特に、本発明の無機顔料の構成元素は、従来の無機顔料で用いられてきたカドミウム(Cd)、コバルト(Co)およびクロム(Cr)等に比べて、毒性が特に低い。さらに、マンガンは、比較的安価(例えば、コバルトの約1/30)で、かつ、供給も安定しており、入手が容易であるため、無機顔料用の材料として好適である。
また、下記式(2)、下記式(3)および下記式(4)で示される本発明の無機顔料についても、上記式(1)で示される本発明の無機顔料と同様に、毒性が低く、鮮やかな緑色系の色彩を呈し、かつ優れた耐熱性を有している。また、元素Aを含むことにより、発色性や耐熱性のさらなる向上や、無機顔料の製造コストのさらなる低減等を図ることができる。また、元素Aで一部置換することにより、色調制御を好適に行うことができる。
Ba1.5(V1−x−yMn0.58.75 (2)
(式(2)中、Aは、Al、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、Mo、P、LiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種であり、0.01≦x≦0.50、および0≦y≦0.30の関係を満足する。)
(Ba1−z1.5(V1−xMn0.58.75 (3)
(式(3)中、Aは、Al、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、Mo、P、LiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種であり、0.01≦x≦0.50、および0≦z≦0.30の関係を満足する。)
Ba(W1−q1.5(V1−xMn0.58.75 (4)
(式(4)中、Aは、Al、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、Mo、P、LiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種であり、0.01≦x≦0.50、および0≦q≦0.30の関係を満足する。)
特に、本発明の無機顔料が、前記Aのうち、Niを含んでいると、無機顔料の明度をより高いものとすることができる。
また、本発明の無機顔料が、前記Aのうち、Znを含んでいると、無機顔料の色調をより鮮やかなものととすることができる。
また、本発明の無機顔料が、前記Aのうち、Tiを含んでいると、青味が比較的強い色調(例えば、ターコイズブルーの色調)が得られる。
また、本発明の無機顔料が、前記Aのうち、Pを含んでいると、より深みのある色調が得られる。
これに対し、上記のような条件を満たさない場合には、満足のいく結果が得られない。
例えば、上記式において、xの値が小さすぎると、全体的に白っぽい緑色系の色彩を呈し、鮮やかな緑色系の色彩が得られなくなる。
また、上記式において、xの値が大きすぎると、茶色味を帯びた濃い緑色系の色彩を呈し、鮮やかな緑色系の色彩が得られなくなる。
上記式(1)〜式(4)中におけるxは、0.01≦x≦0.50の条件を満足すればよいが、0.02≦x≦0.40の条件を満足するのが好ましく、0.03≦x≦0.30の条件を満足するのがより好ましく、0.05≦x≦0.20の条件を満足するのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
また、上記式(2)におけるyは、0≦y≦0.30の条件を満足すればよいが、0≦y≦0.20の条件を満足するのが好ましく、0≦y≦0.15の条件を満足するのがより好ましく、0.01≦y≦0.10の条件を満足するのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
これに対し、yの値が大きすぎると、元素Aの種類により、鮮やかな緑色系の色彩を表現することが困難になったり、熱安定性が低下したりする等の問題を生じる。
また、上記式(2)においては、0.01≦x+y≦0.70の条件を満足するのが好ましく、0.03≦x+y≦0.45の条件を満足するのが好ましく、0.05≦x+y≦0.25の条件を満足するのが好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
また、上記式(3)におけるzは、0≦z≦0.30の条件を満足すればよいが、0≦z≦0.20の条件を満足するのが好ましく、0≦z≦0.15の条件を満足するのがより好ましく、0.01≦z≦0.10の条件を満足するのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
これに対し、zの値が大きすぎると、元素Aの種類により、鮮やかな緑色系の色彩を表現することが困難になったり、熱安定性が低下したりする等の問題を生じる。
また、上記式(4)におけるqは、0≦q≦0.30の条件を満足すればよいが、0≦q≦0.20の条件を満足するのが好ましく、0≦q≦0.15の条件を満足するのがより好ましく、0.01≦q≦0.10の条件を満足するのがさらに好ましい。
これにより、前述した効果がより顕著に発揮される。
これに対し、qの値が大きすぎると、元素Aの種類により、鮮やかな緑色系の色彩を表現することが困難になったり、熱安定性が低下したりする等の問題を生じる。
本発明の無機顔料の母体となる結晶のBa1.50.58.75は、図1に示すように、Baと八面体のW/VOユニット(W:V=3:1)とを有し、層状型の結晶構造を有する。そして、W/VOユニットは、Oの占有度が1未満のものが存在するため、4配位のW/VOユニットも部分的に存在しうる。構造中の酸化物イオンの量は母体における代表的な組成8.75で示しているが、マンガンの価数、元素A、置き換えるサイトおよび合成条件により変化する。
そして、上記式(1)〜式(4)で示される無機顔料は、通常、層状構造型の結晶構造を有する。
Ba1.50.58.75は三方晶系の単位格子を有する。
そして、上記式(1)〜式(4)で示される無機顔料は、通常、三方晶系の単位格子を有する。すなわち、本発明の無機顔料において、a=b≠c,α=β=γ≠90°<120°である。
マンガン(Mn)は、いくつかの酸化状態(2価〜7価)で存在し得る。そして、Mnイオンは、Ba1.50.58.75のW/Vサイトを置換することができる。本発明において、W/Vサイトの一部を置換するMnイオンは、5価(Mn5+)であるのが好ましい。
Vの電荷は5+である。これに対し、Mnの電荷は4+であり、Vの電荷と異なっていることから、Mn4+はBa1.50.58.75ホスト格子のW/Vサイトに入り込むことは困難である。一方、Mnの電荷が5+のとき、Vの電荷と等しくなることから、Ba1.50.58.75ホスト格子のW/Vサイトに好適に入り込んで置換することができる。
Ba1.50.58.75 において、Vの一部をマンガン、特に、5価のマンガン(Mn5+)で置換することにより、発色性が良く、耐熱性にも優れた無機顔料を実現することができる。
本発明の無機顔料は、以下に述べるような色度についての条件を満足するのが好ましい。
すなわち、本発明の無機顔料は、JIS Z8518に規定されている、カラースケールCIE1976のL表色系で規定する色度座標において、L(明度)が、45.0以上であるのが好ましく、50.0以上であるのがより好ましく、60.0以上であるのがさらに好ましい。
また、本発明の無機顔料は、JIS Z8518に規定されている、カラースケールCIE1976のL表色系で規定する色度座標において、aが、−20.0以下であるのが好ましく、−25.0以下であるのがより好ましく、−30.0以下であるのがさらに好ましい。
また、本発明の無機顔料は、JIS Z8518に規定されている、カラースケールCIE1976のL表色系で規定する色度座標において、bが、−10.0以上であるのが好ましく、−5.00以上であるのがより好ましく、−2.00以上であるのがさらに好ましい。
上記のような条件を満足することにより、より好適な色調、より具体的には、鮮やかな濃い緑色系の色彩を呈するものとなる。
例えば、上記式(1)においてx=0.1の場合、Ba1.5(V0.9Mn0.10.58.75で示される無機顔料は、L(明度)=54.2、a(赤緑軸)=−30.5、b(黄青軸)=0.55である色度座標を有し、純粋で鮮やかな濃い緑色系の色彩を呈するものとなる。
本発明の無機顔料は、熱安定性に優れているが、具体的には以下の条件を満足するのが好ましい。
すなわち、本発明の無機顔料を、300℃で6時間加熱した際の、色差(ΔE)の値は、2以下であるのが好ましく、1以下であるのがより好ましい。
これにより、本発明の無機顔料は、焼き物の色付け等、特に高い温度での熱処理に供されるものであっても、当該熱処理後においても優れた色調を好適に維持することができる。
なお、ここで、色差(ΔE)とは、無機顔料についての前記条件での加熱処理の前後での色度座標におけるL、aおよびbの値のそれぞれの差を、ΔL、ΔaおよびΔbとしたときに、以下の式により求められる値を表す。
ΔE={(ΔL+(Δb+(Δa1/2
また、本発明の無機顔料は、いかなる形態のものであってもよいが、複数個の粒子を含む粉末状であるのが好ましい。
これにより、各種塗料、インク等、無機顔料を含む組成物の調製に好適に用いることができる。
前記粒子の形状としては、例えば、略球状、多面体状、紡錘状、不定形、板状、針状が挙げられるが、無機顔料自体の流動性、各種塗料、インク等の組成物としたときの流動性等の観点や、無機顔料としての色相の安定性の観点等から、板状、針状以外の形状であるのが好ましい。
また、本発明の複数個の粒子を含むものである場合、その平均粒径は、0.03μm以上100μm以下であるのが好ましく、0.05μm以上50μm以下であるのがより好ましい。
これにより、無機顔料自体の色味をより好適なものとしつつ、例えば、無機顔料を各種塗料、インク等、無機顔料を含む組成物に適用した場合における無機顔料の分散安定性をより優れたものとすることができる。
なお、本明細書において、平均粒径とは、特に断りのない限り、体積基準の平均粒径のことを指す。平均粒径は、例えば、マイクロトラックUPA(日機装社製)を用いた測定により求めることができる。
本発明の無機顔料は、上記式で示される成分を含んでいればよく、それに加えて他の成分を含んでいてもよい。このような成分としては、例えば、未反応の原料、Vの一部がMnで置換されていない結晶性成分、上記式で示される成分の分解生成物、不可避的不純物等が挙げられる。
他の成分を含む場合、他の成分の含有量は、本発明の無機顔料全体に対して、10質量%以下であるのが好ましく、5質量%以下であるのがより好ましく、1質量%以下であるのがさらに好ましい。
本発明の無機顔料は、鮮やかな濃い緑色系の色彩を呈するため、各種の部材の着色に用いることができる。
また、本発明の無機顔料は、各種塗料やインクの原料としても好適に用いることができる。
また、本発明の無機顔料は、各種樹脂やガラスと混合して、成形体の製造に用いてもよい。
また、本発明の無機顔料は、他の色材と併用してもよい。例えば、他の色調の色材とともに所定のパターンで基材に付与することにより、カラー画像を形成してもよいし、他の色材と混合して、本発明の無機顔料単独での色調とは異なる色調を表現するのに用いてもよい。
特に、本発明の無機顔料は、耐熱性(高温安定性)、色耐久性に優れ、所定の色調を長期間にわたって好適に維持することができるため、例えば、陶器、セラミックスのような焼き物の色つけ、その他窯業用の着色剤等、加熱される環境において用いられる場合に特に好適である。
また、本発明の無機顔料は、色あせを生じにくく、鮮やかで濃い色調を長期間にわたって好適に維持することができるため、各種インク、例えば、インクジェットインクの着色剤としても好適に用いられる。
[無機顔料の製造方法]
次に、本発明の無機顔料の製造方法について説明する。
本発明の無機顔料は、原料としてのBa源、W源、V源およびMn源、さらには、必要に応じてA源の混合物を加圧成形して成形体を得る成形工程と、成形体を焼成する焼成工程とを有する方法により好適に製造することができる。
<成形工程>
成形工程では、原料としてのBa源、W源、V源およびMn源を混合し、その混合物を加圧成形して成形体を得る。
Ba源、W源、V源およびMn源としては、例えば、炭酸金属塩および金属酸化物のうちの少なくとも一方を用いることができる。
Ba源としては、BaCO、BaO等が挙げられ、BaCOが好ましい。
W源としては、WO等が挙げられる。
V源としては、V等が挙げられる。
Mn源としては、MnO、MnCO等が挙げられ、MnOが好ましい。
また、A源としては、Aの炭酸塩、Aの酸化物等を好適に用いることができる。
本発明の無機顔料の原料は、いかなる形状のものであってもよいが、粒子状であるのが好ましい。これにより、複数種の原料を好適に混合することができ、製造される無機顔料において、不本意な組成のばらつきが生じたり、未反応の原料が不本意に残存したりすることをより効果的に防止することができる。
原料の平均粒径は、0.1μm以上50μm以下であるのが好ましい。
これにより、原料の取り扱いがより容易になるとともに、前述したような問題の発生をより効果的に防止することができる。また、焼成工程での固相反応をより好適に進行させることができ、無機顔料の生産性の向上を図ることができる。
本工程では、通常、まず、前記の各原料を、化学量論比に従い秤量し、混合する。
混合方法としては、乳鉢やボールミル等による一般的な方法でよい。また、混合方法としては、乾式混合を採用してもよいし、湿式混合(より具体的には、例えば、アルコール、アセトン等の揮発性の高い溶媒を用いた湿式混合)を採用してもよいが、湿式混合が好ましい。湿式混合によれば、原料粉末はまとまり易くなり、粉体として飛散することをより効果的に防止することができる。
その後、通常、混合した原料粉末を、ペレット状に成形する。原料粉末をペレット状に成形することにより、後述する焼成工程において、緻密な焼成品となり、特性に優れた無機顔料が得られる。また、ペレット状に成形して焼成することで、原料効率もより高くなる。
成形工程での成形圧力は、5MPa以上20Mpa以下であるのが好ましい。
<焼成工程>
成形体では、上記成形工程で得られた成形体を焼成する。
焼成工程での雰囲気は、特に限定されず、焼成工程は、例えば、大気中で行ってもよいし、不活性ガス雰囲気下で行ってもよい。
焼成工程での加熱温度は、800℃以上1500℃以下であるのが好ましい。
焼成工程での加熱時間は、5時間以上24時間以下であるのが好ましい。
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。
以下、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明するが、本発明はこれに限定されない。なお、以下の説明において、特に温度条件を示していない処理は、室温(23℃)、相対湿度50%において行ったものである。また、各種測定条件についても特に温度条件を示していないものは、室温(23℃)、相対湿度50%における数値である。
[無機顔料の製造]
(実施例1)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、およびMnO粉末を用意し、これら各原料を、上記式(1)中のxが0.01となるように化学量論比に従い秤量した。各原料としては、いずれも、平均粒径が0.1μm以上50μm以下の粉末を用いた。
次に、メノウ乳鉢を用いて、上記粉末原料を混合した。このとき、アセトンを溶媒として用いて湿式混合を行った。
その後、混合した原料粉末を、10MPaの圧力でペレット状に成形した。
その後、ペレット状の原料をPtからなるプレートに載置してアルミナボートに入れ、大気中、1200℃で12時間焼成した。
以上のようにして、Ba1.5(V0.99Mn0.010.58.75で表される無機顔料を製造した。
(実施例2)
式(1)中のxが0.03となるように、各原料の使用量を調整した以外は、前記実施例1と同様にして無機顔料を製造した。
(実施例3)
式(1)中のxが0.05となるように、各原料の使用量を調整した以外は、前記実施例1と同様にして無機顔料を製造した。
(実施例4)
式(1)中のxが0.10となるように、各原料の使用量を調整した以外は、前記実施例1と同様にして無機顔料を製造した。
(実施例5)
式(1)中のxが0.30となるように、各原料の使用量を調整した以外は、前記実施例1と同様にして無機顔料を製造した。
(実施例6)
式(1)中のxが0.50となるように、各原料の使用量を調整した以外は、前記実施例1と同様にして無機顔料を製造した。
(比較例1)
原料としてMnOを用いず、各原料をBa1.50.58.75の化学量論比に従い秤量して用いた以外は、前記実施例1と同様にして無機顔料を製造した。
[評価]
以上のようにして得られた無機顔料について、粉末X線回折測定、拡散反射スペクトル測定、色度測定および耐熱性試験を行った。
<粉末X線回折測定>
前記各実施例および比較例の無機顔料について、粉末X線回折装置(XRD:X-ray diffraction)によりX線回折パターン(XRDパターン)を測定した。
粉末X線回折装置(Mac science社製、MX−Labo)を用いて、下記に示す条件で粉末X線回折測定を行った。
(測定条件)
X線:Cu/40kV/25mA
発散スリット:1°
散乱スリット:1°
受光スリット:0.15nm
検出器:シンチレーションカウンター
スキャンスピード:0.02°/sec
走査範囲:10°〜50°
前記各実施例の無機顔料についてのXRDパターンを、比較例1のBa1.50.58.75のパターンと併せて図2に示す。
図2から、いずれの実施例においても、2θが30.5〜31.0°の間にピークが存在することが確認される。このピークは比較例1のBa1.50.58.75の相に相当する。
実施例4(x=0.10)のXRDパターンは三方晶系Ba1.50.58.75構造の単相とほぼ一致し、不純物相は観測されなかった。一方、実施例5(x=0.3)および実施例6(x=0.5)においては、未知のピークが観測された。このピークは不純物相によるものと考えられる。
2θが30.5〜31.0°近辺の範囲についての拡大図に示すように、Ba1.5(V1−xMn0.58.75におけるMn濃度(x)が大きくなるにつれて、Ba1.50.58.75の相に相当するピークは、回折角が大きくなる方向への僅かなピークシフトが見られる。
この結果は、Ba1.5(V1−xMn0.58.75(0.1≦x≦0.50)において、Mnイオンの酸化状態が5価(Mn5+)であること、および、Ba1.50.58.75ホスト格子のV5+サイト(4配位で35.5pm)は、より小さいMn5+イオン(イオン半径:4配位で33pm)で置換されていることを示している。
<拡散反射スペクトル測定>
前記各実施例の無機顔料について、紫外可視分光光度計(UV−vis分光計)を用いて、拡散反射スペクトルの測定を行った。
測定には、積分球ユニット(日本分光社製、ISV−722)を装着した、紫外可視分光光度計(日本分光社製、V−630DS)を用いた。
ベースライン測定には、成形された硫酸バリウムを用いた。その上で、微量粉末セル(日本分光社製、PSH−003)の窓部(φ5mm)に、充填率が50%以上となるように、無機顔料30mgを詰めた際の、波長300nm〜800nmの範囲で正反射光を含む拡散反射光の分光反射率をそれぞれ測定した。
図3は、前記各実施例の無機顔料について、紫外可視分光法(UV−vis)による拡散反射スペクトルを示す図である。クベルカとムンクによって導かれたK−M関数で強度を示しており、数字が大きいほど吸収が強くなる。
図3から、いずれの実施例においても、370nm近辺と680nm近辺に2つの広い光吸収バンドと、770nmに鋭いシングル吸収ピークが確認される。また、強い反射が400nmから650nmの間に確認される。
このうち、370nm近辺にピークを有する、高いエネルギーの広いバンドは、Mn5+P)遷移に由来するものと考えられる。また、低エネルギーの中心波長680nm近辺の広い吸収バンドは、Mn5+F)スピン許容遷移に由来するものと考えられる。そして、770nm近辺の鋭いピークは、Mn5+スピン禁制遷移に由来するものと考えられる。
このように、Ba1.50.58.75(0.01≦x≦0.50)において、Mn5+が4配位をとる場合に見られるピークが確認された。
<色度評価>
前記各実施例の無機顔料について、JIS Z8518に規定されている、カラースケールCIE1976のL表色系で規定する色度座標において、L(明度)、a(正方向:赤、負方向:緑)、b(正方向:黄、負方向:青)を評価した。
色度座標は、それぞれの無機顔料を圧縮成形し、ペレット化した試料を、測色計(コニカミノルタ社製、CR−300)を用いて測定した。
前記各実施例で製造した無機顔料について、L値を表1にまとめて示す。また、比較例として、従来用いられている無機顔料であるCoTiO(比較例2)およびCoO・ZnO(比較例3)についてのL値も併せて示す。
Figure 2020031804
色度座標のa(赤緑軸)において、負のa(−a)は緑成分を示し、−aが大きいことが好ましい。また、b(黄青軸)において、負のb(−b)は青成分を示す。
表1から明らかなように、無機顔料の色度座標は組成に依存することが分かり、実施例4(x=0.1)で特に優れた結果が得られた。
また、前記各実施例の無機顔料について、色味を目視により比較した。
実施例1(x=0.01)や実施例2(x=0.03)に比べ、Mn5+での置換比率が高い実施例では、より鮮やかで濃い緑色を呈するようになった。
中でも、実施例4(x=0.1)では、500nmから550nmの範囲の反射バンドとそれ以外の範囲のバンドとの強度差が大きく、特に鮮やかな濃い緑色を呈するものとなった。
これに対し、比較例1では求められる鮮やかな濃い緑色が得られなかった。
なお、比較例2、3の無機顔料も、鮮やかな濃い緑色を呈したが、これらは毒性の高いコバルト(Co)を含有するため、人体や環境への影響が大きい。
前記各実施例では、Coを用いなくても、従来の緑色系無機顔料と比べても遜色ない鮮やかな濃い緑色を実現することができた。
<耐熱性試験>
実施例4で製造したBa1.5(V0.90Mn0.100.58.75 (x=0.10)について、以下のようにして、異なる温度での熱処理を施し、耐熱性試験を行った。
まず、3つのアルミナボートを用意し、これらに、それぞれ、実施例4で製造したBa1.5(V0.90Mn0.100.58.75(x=0.10)を入れた。
その後、大気中、6時間の熱処理を施した。加熱温度は、300℃、600℃および1000℃とした。
(X線回折パターンの評価)
各温度で加熱したサンプルについて、上記と同様の条件によりX線回折パターン(XRDパターン)を測定した。
XRDパターンは、いずれも三方晶系Ba1.50.58.75構造の単相とほぼ一致した。これは、Ba1.5(V0.90Mn0.100.58.75は、上記各温度で加熱した場合であっても、相転移(変化)および結晶構造の分解が起こっていないことを示す。すなわち、高温でも安定であることがわかる。
(色差の評価)
また、各温度で加熱したサンプルについて、上記等同様の条件により、色度座標におけるL値の変化、および色差(ΔE)を評価した。
その結果、本発明(特に実施例4)の無機顔料は、優れた熱安定性を有していることが確認された。
なお、有機緑色顔料であるマラカイトグリーンを、同様にそれぞれ300℃、600℃および1000℃で加熱して、上記と同様の評価を行ったところ、熱安定性に劣ることが確認された。すなわち、色味を目視で観察したところ、加熱後のマラカイトグリーンは、いずれも、加熱前と比べて色味が大きく変化してしまった。色差ΔEは、いずれも2よりも大きかった。また、加熱前のサンプルと、300℃、600℃および1000℃でそれぞれ加熱したサンプルについて、拡散反射スペクトルを測定したところ、いずれも、加熱前と比べて加熱後では吸収ピークが大きく変化してしまった。
[無機顔料の製造]
(実施例7)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、およびγ-Al粉末を用意し、これら各原料を、上記式(2)中のxが0.10、yが0.30となるように化学量論比に従い秤量した。各原料としては、いずれも、平均粒径が0.1μm以上50μm以下の粉末を用いた。
次に、メノウ乳鉢を用いて、上記粉末原料を混合した。このとき、アセトンを溶媒として用いて湿式混合を行った。
その後、混合した原料粉末を、10MPaの圧力でペレット状に成形した。
その後、ペレット状の原料をPtからなるプレートに載置してアルミナボートに入れ、大気中、1200℃で12時間焼成した。
以上のようにして、Ba1.5(V0.60Mn0.10Al0.300.58.75で表される無機顔料を製造した。
(実施例8)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、およびNiO粉末を用意し、これら各原料を、上記式(4)中のxが0.10、yが0.30となるように化学量論比に従い秤量した。それ以外は、前記実施例7と同様にして、無機顔料を製造した。
このようにして製造された無機顔料は、Ba(W0.70Ni0.301.5(V0.90Mn0.100.58.75で表されるものであった。
(実施例9)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、およびZnO粉末を用いた以外は、前記実施例8と同様にして、無機顔料を製造した。
このようにして製造された無機顔料は、Ba(W0.70Zn0.301.5(V0.90Mn0.100.58.75で表されるものであった。
(実施例10)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、およびCu(CHCOO)・HO粉末を用いた以外は、前記実施例8と同様にして、無機顔料を製造した。
このようにして製造された無機顔料は、Ba(W0.70Cu0.301.5(V0.90Mn0.100.58.75で表されるものであった。
(実施例11)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、およびMgO粉末を用いた以外は、前記実施例8と同様にして、無機顔料を製造した。
このようにして製造された無機顔料は、Ba(W0.70Mg0.301.5(V0.90Mn0.100.58.75で表されるものであった。
(実施例12)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、およびTiO粉末を用いた以外は、前記実施例8と同様にして、無機顔料を製造した。
このようにして製造された無機顔料は、Ba(W0.70Ti0.301.5(V0.90Mn0.10)で表されるものであった。
(実施例13)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、およびZrO粉末を用いた以外は、前記実施例8と同様にして、無機顔料を製造した。
このようにして製造された無機顔料は、Ba(W0.70Zr0.301.5(V0.90Mn0.10)で表されるものであった。
(実施例14)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、およびMoO粉末を用いた以外は、前記実施例8と同様にして、無機顔料を製造した。
このようにして製造された無機顔料は、Ba(W0.70Mo0.301.5(V0.90Mn0.10)で表されるものであった。
(実施例15)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、および(NHHPO粉末を用いた以外は、前記実施例7と同様にして、無機顔料を製造した。
このようにして製造された無機顔料は、Ba1.5(V0.60Mn0.100.300.58.75で表されるものであった。
(実施例16)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、およびLiCO粉末を用意し、これら各原料を、上記式(3)中のxが0.10、yが0.30となるように化学量論比に従い秤量した。それ以外は、前記実施例7と同様にして、無機顔料を製造した。
このようにして製造された無機顔料は、(Ba0.7Li0.31.5(V0.90Mn0.100.58.75で表されるものであった。
(実施例17)
原料として、BaCO粉末、WO粉末、V粉末、MnO粉末、およびNaCO粉末を用いた以外は、前記実施例16と同様にして、無機顔料を製造した。
このようにして製造された無機顔料は、(Ba0.7Na0.31.5(V0.90Mn0.100.58.75で表されるものであった。
[評価]
以上のようにして得られた実施例7〜17の無機顔料について、前記実施例1〜6および比較例1〜3の無機顔料に対して行ったのと同様にして、拡散反射スペクトル測定、色度測定および耐熱性試験を行った。
図4は、実施例7、10、11、13、14、16および17の無機顔料について、紫外可視分光法(UV−vis)による拡散反射スペクトルを示す図であり、図5は、実施例7〜17の無機顔料を示す写真である。
図4から、実施例7、10、11、13、14、16および17についても、370nm近辺と680nm近辺に2つの広い光吸収バンドと、770nmに鋭いシングル吸収ピークが確認される。また、強い反射が400nmから650nmの間に確認される。
実施例8、9、12、15で製造した無機顔料について、L値を表2にまとめて示す。
Figure 2020031804
また、耐熱性試験の結果から、実施例7〜17で製造した無機顔料は、いずれも、優れた熱安定性を有していることが確認された。
以上の結果より、本発明の無機顔料は、発色性が良く鮮やかな濃い緑色系の色彩を呈するものとなり、熱安定性にも優れるため、無機顔料として好適に用いることができることが確認された。
本発明の無機顔料は、下記式(1)で示される。
Ba1.5(V1−xMn0.58.75 (1)
(式(1)中、0.01≦x≦0.50の関係を満足する。)
このような無機顔料は、毒性が低く、発色性および熱安定性に優れる緑色系の色彩の無機顔料である。したがって、本発明の無機顔料は、産業上の利用可能性を有する。

Claims (4)

  1. 下記式(1)で示されることを特徴とする無機顔料。
    Ba1.5(V1−xMn0.58.75 (1)
    (式(1)中、0.01≦x≦0.50の関係を満足する。)
  2. 下記式(2)、下記式(3)または下記式(4)で示されることを特徴とする無機顔料。
    Ba1.5(V1−x−yMn0.58.75 (2)
    (式(2)中、Aは、Al、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、Mo、P、LiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種であり、0.01≦x≦0.50、および0≦y≦0.30の関係を満足する。)
    (Ba1−z1.5(V1−xMn0.58.75 (3)
    (式(3)中、Aは、Al、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、Mo、P、LiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種であり、0.01≦x≦0.50、および0≦z≦0.30の関係を満足する。)
    Ba(W1−q1.5(V1−xMn0.58.75 (4)
    (式(4)中、Aは、Al、Ni、Zn、Cu、Mg、Ti、Zr、Mo、P、LiおよびNaよりなる群から選択される少なくとも1種であり、0.01≦x≦0.50、および0≦q≦0.30の関係を満足する。)
  3. 層状型の結晶構造を有する請求項1または2に記載の無機顔料。
  4. 三方晶系の単位格子を有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の無機顔料。
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