本発明のグルコース消費促進剤および解糖系促進剤は、例えば、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、1,3−ビス〔トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ〕プロパン、N−シクロヘキシルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、モルホリン、プロピルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、トリスヒドロキシメチルアミノメタンからなる群から選択された少なくとも1つを主成分として含む。
本発明のグルコース消費促進剤および解糖系促進剤は、例えば、さらに、経口用の添加剤を含む。
本明細書で使用する用語は、特に言及しない限り、当該技術分野で通常用いられる意味で用いることができる。
以下に、本発明について、詳細に説明する。
(グルコース消費促進剤および解糖系促進剤)
本発明のグルコース消費促進剤および解糖系促進剤は、前述のように、下記化学式(1)で表される化合物、その互変異性体および立体異性体、ならびにそれらの塩(以下、「本発明における薬剤」ともいう)からなる群から選択される少なくとも一つを含むことを特徴とする。本発明のグルコース消費促進剤および解糖系促進剤において、その他の構成及び条件は、特に制限されない。
前記化学式(1)中、R1は、水素原子、またはヒドロキシ基である。また、後述するように、R1およびR6は、一体となって、環状構造を形成してもよい。
前記化学式(1)中、R2は、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、アリール基、シクロアルキル基またはヘテロ環を含む置換基である。前記直鎖もしくは分枝アルキル基の炭素数は、特に限定されず、例えば、1〜40、1〜32、1〜24、1〜18、1〜12、1〜6、または1〜2(不飽和炭化水素基の場合は2以上)であってもよい。前記アルキル基は、具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基およびtert-ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、イコシル基等である。アルキル基から誘導される基(ヒドロキシアルキル基)においても同様である。前記アリール基は、例えば、単環芳香族炭化水素基および多環芳香族炭化水素基を含む。前記単環芳香族炭化水素基は、例えば、フェニル等が挙げられる。前記多環芳香族炭化水素基は、例えば、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントリル基、2−アントリル基、9−アントリル基、1−フェナントリル基、2−フェナントリル基、3−フェナントリル基、4−フェナントリル基、9−フェナントリル基等が挙げられる。前記シクロアルキル基は、例えば、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、およびシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基等があげられる。前記ヘテロ環を含む置換基における前記ヘテロ環において、環を構成する原子の数は、特に制限されず、例えば、3、4、5、6、7、8、9、および10である。前記ヘテロ環を含む置換基におけるヘテロ原子は、例えば、O、S、N、およびNHからなる群から選択された少なくとも1つである。前記ヘテロ環を含む置換基は、具体的には、例えば、下記化学式(R2)で表される基があげられる。下記化学式(R2)において、環を構成する原子は、Nに代えてCHでもよく、Sに代えてOでもよく、および、Oに代えてSでもよい。
置換基等に異性体が存在する場合は、特に断らない限り、どの異性体でもよい。
前記アルキル基、前記アリール基、前記シクロアルキル基および前記ヘテロ環を含む置換基の炭素原子に結合した水素原子の1以上は、さらなる置換基で置換されていてもよい。前記さらなる置換基としては、特に限定されず、例えば、カルボキシ、ハロゲン、ハロゲン化アルキル(例:CF3、CH2CF3、CH2CCl3)、ニトロ、ニトロソ、シアノ、アルキル(例:メチル、エチル、イソプロピル、tert−ブチル)、アルケニル(例:ビニル)、アルキニル(例:エチニル)、シクロアルキル(例:シクロプロピル、アダマンチル)、シクロアルキルアルキル(例:シクロヘキシルメチル、アダマンチルメチル)、シクロアルケニル(例:シクロプロペニル)、アリール(例:フェニル、ナフチル)、アリールアルキル(例:ベンジル、フェネチル)、ヘテロアリール(例:ピリジル、フリル)、ヘテロアリールアルキル(例:ピリジルメチル)、ヘテロシクリル(例:ピペリジル)、ヘテロシクリルアルキル(例:モルホリルメチル)、アルコキシ(例:メトキシ、エトキシ、プロポキシ、ブトキシ)、ペルフルオロアルキル(例:CF3)、ハロゲン化アルコキシ(例:OCF3)、アシル、アルケニルオキシ(例:ビニルオキシ、アリルオキシ)、アリールオキシ(例:フェニルオキシ)、アルキルオキシカルボニル(例:メトキシカルボニル、エトキシカルボニル、tert−ブトキシカルボニル)、アリールアルキルオキシ(例:ベンジルオキシ)、アミノ[アルキルアミノ(例:メチルアミノ、エチルアミノ、ジメチルアミノ)、アシルアミノ(例:アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ)、アリールアルキルアミノ(例:ベンジルアミノ、トリチルアミノ)、ヒドロキシアミノ]、アルキルアミノアルキル(例:ジエチルアミノメチル)、スルファモイル、オキソ等を含む。
前記化学式(1)中、R3、R4、およびR5は、それぞれ、水素原子、直鎖もしくは分枝アルキル基、または直鎖もしくは分枝ヒドロキシアルキル基である。前記直鎖もしくは分枝アルキル基、および前記直鎖もしくは分枝ヒドロキシアルキル基は、例えば、前述の通りである。R3、R4、およびR5は、それぞれ、同一でも異なっていてもよい。また、後述するように、R5およびR6は、一体となって、環状構造を形成してもよい。前記アルキル基、および前記ヒドロキシアルキル基の炭素原子に結合した水素原子の1以上は、さらなる置換基で置換されていてもよい。前記さらなる置換基は、例えば、前述の通りである。
前記化学式(1)中、R6は、水素原子、直鎖もしくは分岐アルキル基、直鎖もしくは分枝ヒドロキシアルキル基、シクロアルキル基、またはヘテロ原子を含む置換基であり、直鎖状でも分枝状でもよく、環状構造を含んでいてもいなくてもよい。前記直鎖もしくは分枝アルキル基、前記直鎖もしくは分枝ヒドロキシアルキル基、および前記シクロアルキル基は、例えば、前述の通りである。前記ヘテロ原子を含む置換基の炭素数は、特に限定されず、例えば、1〜40、1〜32、1〜24、1〜18、1〜12、1〜6、または1〜2であってもよい。前記ヘテロ原子を含む置換基におけるヘテロ原子は、例えば、O、S、N、およびNHからなる群から選択された少なくとも1つである。前記ヘテロ環を含む置換基は、具体的には、例えば、下記化学式(R6−1)および(R6−2)で表される基があげられる。下記化学式(R6−1)および(R6−2)において、m、n、o、p、q、rおよびsは、それぞれ、正の整数であり、特に制限されず、例えば、1〜10、1〜5、1〜3である。前記ヘテロ環を含む置換基は、具体的には、例えば、下記化学式(R6−1−2)および(R6−2−2)で表される基があげられる。前記アルキル基、前記ヒドロキシアルキル基、前記シクロアルキル基、および前記ヘテロ原子を含む置換基の炭素原子に結合した水素原子の1以上は、さらなる置換基で置換されていてもよい。前記さらなる置換基は、例えば、前述の通りである。
前記化学式(1)中、R1およびR6は、一体となって、環状構造を形成してもよい。前記環状構造の炭素数は、特に限定されず、例えば、1〜40、1〜32、1〜24、1〜18、1〜12、1〜6であってもよい。前記環状構造は、例えば、ヘテロ原子を有していても有していなくてもよい。前記ヘテロ原子は、例えば、前述の通りである。前記環状構造は、具体的には、例えば、下記化学式(R1R6)で表される構造があげられる。下記化学式(R1R6)において、R2、R3、R4、およびR5は、例えば、前述の通りである。前記環状構造の炭素原子に結合した水素原子の1以上は、さらなる置換基で置換されていてもよい。前記さらなる置換基は、例えば、前述の通りである。
前記化学式(1)中、R5およびR6は、一体となって、環状構造を形成してもよい。前記環状構造の炭素数は、特に限定されず、例えば、1〜40、1〜32、1〜24、1〜18、1〜12、1〜6であってもよい。前記環状構造は、例えば、ヘテロ原子を有していても有していなくてもよい。前記ヘテロ原子は、例えば、前述の通りである。前記環状構造は、具体的には、例えば、下記化学式(R5R6)で表される構造があげられる。下記化学式(R5R6)において、R1、R2、R3、およびR4は、例えば、前述の通りである。下記化学式(R5R6)において、tは、正の整数であり、特に制限されず、例えば、1〜10、1〜5、1〜3、2である。前記環状構造は、具体的には、例えば、下記化学式(R5R6−2)で表される構造があげられる。下記化学式(R5R6−2)において、R1、R2、R3、およびR4は、例えば、前述の通りである。前記環状構造の炭素原子に結合した水素原子の1以上は、さらなる置換基で置換されていてもよい。前記さらなる置換基は、例えば、前述の通りである。
前記化学式(1)で表される化合物は、具体的には、例えば、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール、2−アミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−フェニルエタノール、1,3−ビス〔トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ〕プロパン、N−シクロヘキシルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、HEPESナトリウム塩、メトプロロール酒石酸塩、モルホリン、オクトパミン、プロピルアミン、トリエタノールアミン、トリエチルアミン、チモロールマレイン酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタン等があげられる。
下記表1に、前記本発明における薬剤の構造を、前記化学式(1)におけるR
1、R
2、R
3、R
4、R
5、およびR
6の組合せで示す。表1において、「化R6−1−2」、および「化R6−2−2」は、それぞれ、前記化学式(R6−1−2)、および前記化学式(R6−2−2)で表される基であることを示す。「(化R5R6−2)」は、前記化学式(1)中、R
5およびR
6が、一体となって、前記化学式(R5R6−2)で表される環状構造を形成していることを示す。また、「(化R1R6)」は、前記化学式(1)中、R
1およびR
6が、一体となって、前記化学式(R1R6)で表される環状構造を形成していることを示す。
前記各薬剤は、いずれも既知の薬剤である。これに対して、本発明者らは、前記化学式(1)で表される化合物であるこれらの薬剤が、メカニズムは不明であるが、グルコースの消費を促進する、および解糖系を促進するとの新たな知見を得て、本発明を見出すに至った。
本発明において、「グルコースの消費」は、例えば、グルコース濃度の低下の促進でもよいし、グルコース濃度の上昇の抑制でもよい。グルコースの消費は、例えば、後述する実施例に記載の方法により、測定できる。「グルコースの消費」は、例えば、細胞によるグルコースの消費でもよい。この場合、「グルコースの消費」は、例えば、「グルコースの細胞内への取込み」ということもできる。このため、本発明のグルコース消費促進剤は、例えば、グルコースの細胞内への取込み促進剤ということもできる。また、グルコースの取込みは、例えば、細胞膜に存在するグルコーストランスポーターを介することが知られている。このことから、本発明のグルコース消費促進剤は、例えば、グルコーストランスポーターを介するシグナリングカスケードの活性化剤ということもできる。ただし、本発明は、これには制限されない。
本発明において、「解糖系」は、例えば、グルコースを起点とした代謝系である。前記解糖系の代謝産物として、例えば、乳酸があげられる。このため、例えば、後述するように、乳酸濃度を測定することで、解糖系の促進を確認できる。前記解糖系は、例えば、嫌気的解糖系ともいう。
本発明のグルコースの消費促進剤によれば、前述のように、グルコースの消費を促進できる。また、本発明の解糖系促進剤によれば、前述のように、解糖系を促進できる。このため、本発明のグルコースの消費促進剤および本発明の解糖系促進剤は、例えば、生体内のグルコース濃度に起因する疾患の治療に使用するための医薬組成物として使用できる。前記疾患は、例えば、糖尿病があげられる。本発明において、「治療」は、例えば、前記疾患の予防、前記疾患の改善、前記疾患の予後の改善の意味を含み、いずれでもよい。
本発明のグルコースの消費促進剤によれば、例えば、グルコースの消費により生成された乳酸の代謝を抑制することなく、グルコースの消費の促進、および解糖系の促進をすることができる。
本発明のグルコース消費促進剤は、有効成分として前記本発明の薬剤を、例えば、一種類のみ含んでもよいし、二種類以上を併用して含んでもよく、その数は、特に制限されない。本発明のグルコース消費促進剤は、前記本発明の薬剤を、例えば、主成分として含む。
本発明のグルコース消費促進剤は、例えば、in vivoで使用してもよいし、in vitroで使用してもよい。本発明のグルコース消費促進剤は、例えば、研究用試薬として使用することもでき、前述のように、医薬品として使用することもできる。
本発明のグルコース消費促進剤の投与対象は、特に制限されない。本発明のグルコース消費促進剤をin vivoで使用する場合、本発明のグルコース消費促進剤の投与対象は、特に制限されず、例えば、ヒト、または、ヒトを除く非ヒト動物があげられる。前記非ヒト哺乳類としては、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ヒツジ、ウマ、ネコ、ヤギ、サル、モルモット等の非ヒト動物等があげられる。前記本発明のグルコース消費促進剤をin vitroで使用する場合、前記投与対象は、例えば、細胞、組織、器官等があげられる。前記細胞は、例えば、生体から採取した細胞でもよいし、培養細胞等でもよい。前記細胞は、特に制限されず、例えば、繊維芽細胞、肝細胞、脂肪細胞等があげられる。
本発明のグルコース消費促進剤の使用条件(以下、「投与条件」ともいう。)は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類等に応じて、投与形態、投与時期、投与量等を適宜設定できる。前記投与形態は、例えば、本発明のグルコース消費促進剤をin vivoで使用する場合、経口投与、腹腔内投与、皮下投与等があげられる。
本発明のグルコース消費促進剤の剤型は、特に制限されず、例えば、前記投与形態に応じて適宜決定できる。前記剤型は、例えば、経口投与の場合、カプセル剤、エキス剤、エリキシル剤、顆粒剤、丸剤、懸濁剤、細粒剤、散剤、酒精剤、錠剤、シロップ剤、浸剤・煎剤、チンキ剤、芳香水剤、リモナーデ剤、流エキス剤等があげられる。
本発明のグルコース消費促進剤は、例えば、必要に応じて、添加剤を含んでもよく、本発明のグルコース消費促進剤を医薬として使用する場合、前記添加剤は、薬学上許容される添加剤が好ましい。前記添加剤は、例えば、賦形剤、安定剤、保存剤、緩衝剤、矯味剤、懸濁化剤、乳化剤、着香剤、溶解補助剤、着色剤、粘稠剤等があげられる。前記添加剤は、例えば、経口用の添加剤があげられる。経口用の添加剤は、例えば、虫歯予防剤、整腸剤、矯味剤等である。本発明において、前記添加剤の配合量は、前記グルコース消費促進剤の機能を妨げるものでなければ、特に制限されない。
本発明のグルコース消費促進剤の投与条件は、特に制限されず、例えば、投与対象の種類、性別、年齢、投与対象の部位等に応じて、投与時期、投与期間、投与量等を適宜設定できる。
具体例として、本発明のグルコース消費促進剤をヒトに経口投与する場合、1日あたりの投与量合計は、例えば、100〜5000mg、500〜2500mgである。1日あたりの投与回数は、例えば、1〜5回、2〜3回である。
(医薬用組成物)
本発明の糖尿病の治療に使用するための医薬組成物は、前述のように、本発明のグルコース消費促進剤または本発明の解糖系促進剤を含むことを特徴とする。本発明の医薬組成物は、前記本発明のグルコース消費促進剤または前記本発明の解糖系促進剤を含むことが特徴であって、その他の構成および条件は、特に制限されない。本発明の医薬用組成物は、前記本発明のグルコース消費促進剤および前記本発明の解糖系促進剤の記載を援用できる。本発明の医薬用組成物によれば、例えば、糖尿病を治療できる。
(グルコース消費促進方法および解糖系促進方法)
本発明のグルコース消費促進方法は、投与対象に、前記本発明のグルコース消費促進剤を投与する工程を含むことを特徴とする。また、本発明の解糖系促進方法は、投与対象に、前記本発明の解糖系促進剤を投与する工程を含むことを特徴とする。本発明は、前記本発明のグルコース消費促進剤または解糖系促進剤を投与する工程を含むことが特徴であって、その他の工程および条件は、特に制限されない。前記本発明のグルコース消費促進剤または解糖系促進剤は、前述の通りである。前記本発明のグルコース消費促進剤および解糖系促進剤の投与条件等は、特に制限されず、例えば、本発明のグルコース消費促進剤における記載と同様である。
(薬剤の使用)
本発明は、グルコースの消費促進および解糖系促進に使用するための、本発明における薬剤の使用であり、また、糖尿病の治療に使用するための前記薬剤の使用である。本発明は、グルコースの消費促進剤および解糖系促進剤の製造のための前記薬剤の使用であり、また、糖尿病の治療に使用するための医薬組成物の製造のための前記薬剤の使用である。本発明は、例えば、前記本発明のグルコース消費促進剤および解糖系促進剤、医薬用組成物、ならびにグルコース消費促進方法および解糖系促進方法の説明を援用できる。
つぎに、本発明の実施例について説明する。ただし、本発明は、下記実施例により制限されない。市販の試薬は、特に示さない限り、それらのプロトコルに基づいて使用した。
[実施例1]
本発明の薬剤が、線維芽細胞に対して、グルコース消費促進効果を奏することを確認した。
薬剤として、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール(2-Amino-1-cyclohexylethanol)(Matrix Biochemicals社製)、2−アミノエタノール(2-Aminoethanol)(東京化成工業社製)、1−アミノ−2−プロパノール(Amino-2-propanol)(和光純薬社製)、2−アミノ−1−フェニルエタノール(2-Amino-1-phenylethanol)(東京化成工業社製)、1,3−ビス〔トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ〕プロパン(1,3-Bis[tris(hydroxymethyl)-methylamino]propane)(東京化成工業社製)、N−シクロヘキシルエタノールアミン(N-Cyclohexylethanolamine)(東京化成工業社製)、ジエタノールアミン(Diethanolamine)(和光純薬社製)、ジエチルアミン(Diethylamine)(和光純薬社製)、ジプロピルアミン(Dipropylamine)(東京化成工業社製)、HEPESナトリウム塩(HEPES sodium salt)(MP Biomedicals社製)、メトプロロール酒石酸塩(Metoprolol Tartrate)(東京化成工業社製)、モルホリン(Morpholine)(和光純薬社製)、オクトパミン(Octopamine)(MP Biomedicals社製)、プロピルアミン(Propylamine)(東京化成工業社製)、トリエチルアミン(Triethylamine)(和光純薬社製)、チモロールマレイン酸塩(Timolol Maleate)(和光純薬社製)、およびトリスヒドロキシメチルアミノメタン(Tris)(和光純薬社製)を使用した。前記薬剤を蒸留水に溶解し、サンプルを調製した。
そして、ラット由来の線維芽細胞(Py−3Y1−S2、継代培養株)を、24ウェルマイクロプレートに、〜2×105細胞/mL/ウェルとなるように播種し、単層になるまで培養した。前記培養において、培地として、DMEM(日水製薬社製)を使用した。この培養液に、前記各サンプルを、前記薬剤の終濃度が、それぞれ、0.5mg/mLとなるように添加し、さらに、12〜24時間培養した。薬剤のコントロールとしては、前記サンプルに代えて、薬剤未添加の蒸留水を前記培養液に添加した以外は、同様に培養を行った。
前記薬剤添加後、前記培養の開始直後および前記培養後において、それぞれ、前記各培養液のグルコース濃度を測定した。前記グルコース濃度の測定は、グルコースアッセイキット(ワコー社製)を使用した。そして、前記培養後の前記グルコース濃度を、前記培養開始直後の前記グルコース濃度(5.6mmol/L)で除算し、グルコース消費量を算出した。さらに、コントロールにおける前記グルコース消費量を基準値100とし、各サンプルにおける前記グルコース消費量の相対値を算出した。
この結果を、図1(A)に示す。図1(A)は、0.5mg/mLの前記各薬剤を添加した場合の、線維芽細胞のグルコース消費量の相対値を示したグラフである。図1(A)において、縦軸は、グルコース消費量の相対値を示し、横軸は、薬剤を示す。図1(A)に示すように、いずれのサンプルにおいても、前記各薬剤の添加により、前記グルコース消費量の相対値が100以上となり、グルコース消費量が増加していた。中でも、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール、2−アミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−フェニルエタノール、N−シクロヘキシルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、HEPESナトリウム塩、メトプロロール酒石酸塩、モルホリン、プロピルアミン、トリエチルアミン、チモロールマレイン酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタンの添加により、コントロールと比較して有意にグルコース消費量が増加しており(t検定、p<0.05、またはp<0.1、図1(A)において「**」または「*」で表す)、強いグルコース消費促進効果を示すことが確認できた。
さらに、薬剤として、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール、2−アミノエタノール、1−アミノ−2−プロパノール、2−アミノ−1−フェニルエタノール、1,3−ビス〔トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ〕プロパン、N−シクロヘキシルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、HEPESナトリウム塩、メトプロロール酒石酸塩、モルホリン、プロピルアミン、トリエタノールアミン(Triethanolamine)(東京化成工業社製)、トリエチルアミン、チモロールマレイン酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタンを使用し、前記薬剤の終濃度を、それぞれ、1mg/mLとする以外は、前述の条件と同様にして、グルコース消費促進効果を確認した。
この結果を、図1(B)に示す。図1(B)は、1mg/mLの前記各薬剤を添加した場合の、グルコース消費量の相対値を示したグラフである。図1(B)において、縦軸は、グルコース消費量の相対値を示し、横軸は、薬剤を示す。図1(B)に示すように、いずれのサンプルにおいても、前記各薬剤の添加により、前記グルコース消費量の相対値が100以上となり、グルコース消費量が増加していた。中でも、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール、2−アミノエタノール、2−アミノ−1−フェニルエタノール、1,3−ビス〔トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ〕プロパン、N−シクロヘキシルエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、HEPESナトリウム塩、メトプロロール酒石酸塩、モルホリン、プロピルアミン、トリエチルアミン、チモロールマレイン酸塩、トリスヒドロキシメチルアミノメタンの添加により、コントロールと比較して有意にグルコース消費量が増加しており(t検定、p<0.05、またはp<0.1、図1(B)において「**」または「*」で表す)、強いグルコース消費促進効果を示すことが確認できた。
つぎに、比較例として、前記化学式(1)で表される構造を有さない薬剤である、トリシン(Tricine)、およびトリメチロールプロパン(Trimethylolpropane)を使用した以外は、前述の条件と同様にして、グルコース消費促進効果を確認した。
この結果を、図2に示す。図2は、前記比較例の各薬剤を添加した場合の、グルコース消費量の相対値を示したグラフであり、(A)は、0.5mg/mLの前記比較例の各薬剤を添加した場合の結果を示し、(B)は、1mg/mLの前記比較例の各薬剤を添加した場合の結果を示す。図2(A)および(B)において、縦軸は、グルコース消費量の相対値を示し、横軸は、薬剤を示す。図2(A)および(B)に示すように、いずれのサンプルにおいても、0.5mg/mLまたは1mg/mLの前記比較例の各薬剤の添加により、前記グルコース消費量の相対値が100未満であり、グルコース消費量が増加しなかった。
図1および図2の結果から、本発明の薬剤が、前記化学式(1)で表される構造を有することにより、グルコース消費促進効果を示すことが確認できた。
[実施例2]
本発明の薬剤について、投与量依存的に、繊維芽細胞に対して、グルコース消費促進効果を奏することを確認した。
実施例1において強いグルコース消費促進作用が確認された、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール、および2−アミノ−1−フェニルエタノールの前記サンプルを調製した。前記線維芽細胞を、実施例1と同じ条件で培養した。この培養液に、前記各サンプルを、前記薬剤の終濃度が、それぞれ、0.1、0.25、および0.5mg/mLとなるように添加した。そして、各サンプルにおける前記グルコース消費量の相対値を、実施例1と同様にして算出した。
これらの結果を、図3に示す。図3は、前記各薬剤を添加した線維芽細胞のグルコース消費量の相対値を示したグラフであり、(A)は、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノールを添加した結果を、(B)は、2−アミノ−1−フェニルエタノールを添加した結果を示す。図3(A)および(B)において、縦軸は、グルコース消費量の相対値を示し、横軸は、前記各薬剤の濃度を示す。図3(A)に示すように、線維芽細胞において、0.1、0.25、および0.5mg/mLの2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノールの添加により、それぞれ、約120、約130、および約150まで、投与量依存的にグルコース消費量が増加した。そして、いずれの濃度においても、コントロールと比較して有意にグルコース濃度が増加しており(t検定、p<0.05、図3(A)および(B)において「**」で表す)、強いグルコース消費促進効果を示すことが確認できた。また、図3(B)に示すように、0.1、0.25、および0.5mg/mLの2−アミノ−1−フェニルエタノールの添加により、それぞれ、約130、約140、および約160まで、投与量依存的にグルコース消費量が増加した。そして、コントロールと比較して有意にグルコース濃度が増加しており、強いグルコース消費促進効果を示すことが確認できた。
図3の各グラフに示すように、投与した薬剤はいずれも、投与量依存的にグルコース消費促進効果を示した。また、低用量でも効果的にグルコース消費促進効果を奏することがわかった。
[実施例3]
本発明の薬剤が、グルコース消費を抑制した線維芽細胞に対して、グルコース消費促進効果を奏することを確認した。
まず、前記実施例1と同様にして、ストレプトゾトシン(STZ)、アロキサン(Alloxan)、およびニコチンアミド(Nicotinamide)の各サンプルを調製した。また、前記線維芽細胞を培養した。この培養液に、前記各サンプルを、それぞれ、1mg/mLとなるように添加した。ストレプトゾトシン、アロキサン、およびニコチンアミドは、いずれも、生体への投与により、糖尿病の症状を呈することが知られている薬剤である。そして、前記グルコース消費量の相対値を、実施例1と同様にして算出した。
つぎに、ストレプトゾトシン、アロキサン、およびニコチンアミドに加え、さらに、2−アミノ−1−フェニルエタノール(2−A−1−P)を加えた各サンプルを、同様にして調製した。2−A−1−Pの濃度は、それぞれ、1mg/mLとした。そして、前記グルコース消費量の相対値を、同様にして算出した。
この結果を、図4に示す。図4は、前記各薬剤を添加した線維芽細胞のグルコース消費量の相対値を示したグラフである。図4において、縦軸は、グルコース消費量の相対値を示し、横軸は、薬剤を示す。図4に示すように、1mg/mLのストレプトゾトシン、アロキサン、およびニコチンアミドの添加により、前記グルコース消費量の相対値が、それぞれ、約90、約70、および約85となり、グルコース消費量が減少していた。これに対し、ストレプトゾトシン、アロキサン、およびニコチンアミドに加え、さらに、2−A−1−Pを添加した結果、いずれも、前記グルコース消費量の相対値が100以上となり、グルコース消費量が回復していた。このように、2−アミノ−1−フェニルエタノールは、グルコース消費を抑制した線維芽細胞に対しても、グルコース消費促進効果が確認できた。
[実施例4]
本発明の薬剤が、グルコース消費を促進した線維芽細胞に対して、さらに、グルコース消費促進効果を奏することを確認した。
まず、前記実施例1と同様にして、バナジウム(Vanadium)、V2O5、およびコンカナバリンA(ConA)の前記サンプルを調製した。また、前記線維芽細胞を培養した。この培養液に、前記各サンプルを、バナジウムは、1.0mg/mL、ConAは、100μg/mlとなるように添加した。バナジウム、V2O5、およびコンカナバリンAは、いずれも、繊維芽細胞への投与により、インスリン様の効果を示すことが知られている薬剤である。そして、各サンプルにおける前記グルコース消費量の相対値を、実施例1と同様にして算出した。
つぎに、バナジウム、V2O5、およびコンカナバリンAに加え、さらに、2−アミノ−1−フェニルエタノール(2−A−1−P)を加えた各サンプルを、同様にして調製した。2−A−1−Pの濃度は、それぞれ、0.5mg/mLとした。そして、前記グルコース消費量の相対値を、同様にして算出した。
この結果を、図5に示す。図5は、前記各薬剤を添加した線維芽細胞のグルコース消費量の相対値を示したグラフである。図5において、縦軸は、グルコース消費量の相対値を示し、横軸は、薬剤を示す。図5に示すように、バナジウム、V2O5、およびコンカナバリンAの添加により、前記グルコース消費量の相対値が約110、約115および約120となり、グルコース消費量が増加していた。これに対し、バナジウム、V2O5、およびコンカナバリンAに加え、さらに、2−A−1−Pを添加した結果、前記グルコース消費量の相対値が、それぞれ、約145、約140、および約150となり、グルコース消費量がさらに増加していた。このように、2−アミノ−1−フェニルエタノールは、バナジウム、V2O5、およびコンカナバリンAによりグルコース消費を促進した線維芽細胞に対しても、さらに、グルコース消費促進効果を奏することが確認できた。
[実施例5]
本発明の薬剤が、肝がん細胞に対して、グルコース消費促進効果を奏することを確認した。
まず、前記実施例1と同様にして、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノールおよび2−アミノ−1−フェニルエタノールの前記サンプルを調製した。前記ラット由来の線維芽細胞(Py−3Y1−S2、継代培養株)に代えて、ラット由来の肝がん細胞(Ry121B、継代培養株)を使用し、前記実施例1と同じ条件で培養した。この培養液に、前記各サンプルを、1mg/mLとなるように添加した。コントロールは、前記サンプルに代えて、薬剤未添加の蒸留水を前記培養液に添加した以外は、同様に培養を行った。そして、各サンプルにおける前記グルコース消費量の相対値を、前記実施例1と同様にして算出した。
これらの結果を、図6に示す。図6は、前記各薬剤を添加した肝がん細胞のグルコース消費量の相対値を示したグラフである。図6において、縦軸は、グルコース消費量の相対値を示し、横軸は、薬剤を示す。
図6に示すように、肝がん細胞においても、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノールおよび2−アミノ−1−フェニルエタノールの添加により、コントロールと比較した前記グルコース消費量の相対値が、それぞれ約145および約140となり、コントロールと比較して有意にグルコース消費量が増加していた。
図6の結果から、本発明の薬剤は、肝がん細胞に対しても、グルコース消費促進効果を奏することが確認できた。
[実施例6]
本発明の薬剤によるグルコース消費促進効果が、細胞による解糖系を促進するものであることを確認した。
まず、前記実施例1と同様にして、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノールおよび2−アミノ−1−フェニルエタノールの前記サンプルを調製した。また、前記線維芽細胞および前記肝がん細胞を、前記実施例1および5と同じ条件で培養した。これらの培養液に、前記各サンプルを、それぞれ、1mg/mLとなるように添加した。コントロールは、前記サンプルに代えて、薬剤未添加の蒸留水を前記培養液に添加した以外は、同様に培養を行った。
前記薬剤添加後、前記培養液を、重量比で培養液:蒸留水=1:19となるように希釈し、前記希釈後の培養液について、乳酸濃度を測定した。前記乳酸濃度の測定は、乳酸アッセイキット(製品名:Lactate Assay Kit-WST、同仁化学社製)を使用した。そして、コントロールにおける乳酸の濃度を基準値100とし、各サンプルにおける前記乳酸濃度の相対値を算出した。
この結果を、図7(A)および(B)に示す。図7は、前記各薬剤を添加した各細胞の乳酸濃度の相対値を示したグラフであり、(A)は、線維芽細胞における結果を、(B)は、肝がん細胞における結果を示す。図7(A)および(B)において、縦軸は、乳酸濃度の相対値を示し、横軸は、薬剤を示す。
図7(A)に示すように、線維芽細胞において、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール、2−アミノ−1−フェニルエタノールの添加により、それぞれ、約145、約185まで、乳酸濃度が上昇していた。また、図7(B)に示すように、肝がん細胞において、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール、2−アミノ−1−フェニルエタノールの添加により、それぞれ、約140、約135まで、乳酸濃度が上昇していた。
図7(A)および(B)の結果から、本発明の薬剤が、線維芽細胞および肝がん細胞において、乳酸濃度を上昇させ、解糖系促進効果を示すことが確認できた。
[実施例7]
本発明の薬剤が、マウスの血糖値を低下させることを確認した。
薬剤として、2−アミノ−1−フェニルエタノールを使用した。まず、グルコース(関東化学株式会社製)を、200mg/mLとなるように注射用水に溶解し、グルコース溶液を調製した。つぎに、前記薬剤を前記注射用水に溶解した後、この溶液に、前記グルコース溶液を、前記薬剤およびグルコースの終濃度が、それぞれ、2.5mg/mLおよび100mg/mLとなるように添加し、サンプルを調製した。前記薬剤のコントロールとしては、前記サンプルに代えて、薬剤未添加の100mg/mLのグルコース溶液を使用した。
6週齢のICR系の雄マウスを日本エスエルシー株式会社から購入し、約1週間の予備飼育を行い、一般状態に異常がないことを確認した。前記予備飼育の条件は、ポリカーボネート製ケージにマウスを各4匹収容し、室温23℃±3℃、照明時間12時間/日とした。飼料(マウス、ラット用固型飼料、日本農産工業株式会社製)および飲料水(水道水)は、自由に摂取させた。
前記予備飼育後、マウスを約21時間絶食させた後、体重および血糖値を測定した。そして、群間で血糖値にばらつきが生じないように、試験群および対照群の計2群に群分けを行った。各群の動物数は8匹とした。表2に、前記群分け時のマウスの体重(g)を示す。
前記群分け後、前記試験群および前記対照群のマウスに、前記サンプルおよび前記コントロールを、それぞれ、20mL/kgの投与容量となるように、胃ゾンデを用いて単回経口投与した。すなわち、前記試験群のマウスには、それぞれ50mg/kgおよび2000mg/kgの用量となるように前記薬剤およびグルコースを投与し、前記対照群のマウスには、2000mg/kgの用量となるようにグルコースを投与した。そして、前記投与時を0分とし、30分、60分、90分および120分において、血糖値を測定した。血糖値の測定は、アキュチェックアビバ(ロシュ・ダイアグノスティックス株式会社)を用い、尾の先端部を注射針で刺して血液を採取し、前記採取した血液について、血糖値を測定した。
0分、30分、60分、90分および120分における血糖値について、t検定により、前記試験群と前記対照群との比較を行った。有意水準は、5%および1%とした。
この結果を、表3および図8に示す。表3は、各個体における、前記投与後所定時間における血糖値の測定値(mg/dL)を示す表であり、図8は、前記試験群および前記対照群における、前記投与後所定時間における血糖値の平均値を示すグラフである。図8において、縦軸は、血糖値(mg/dL)を示し、横軸は、投与後時間(分)を示す。なお、図8(A)は、前記対照群および前記試験群における全個体(No.1〜No.8)について得られた血糖値に基づき、平均値を算出した。一方、表3に示すように、前記試験群における1個体(No.8)のグルコース投与後の血糖値は、前記試験群におけるそれ以外の7個体(No.1〜No.7)の前記算出値と比較して、異常値を示した。このため、図8(B)では、前記異常値を示した前記試験群における1個体(No.8)のデータを除外し、前記試験群におけるそれ以外の7個体(No.1〜No.7)について得られた血糖値に基づき、平均値を算出した。
図8(A)および(B)に示すように、前記試験群は、投与後時間30分、60分、90分および120分において、前記対照群と比較して、血糖値の値が低い傾向が見られた。特に、投与後時間30分において、前記試験群は、前記対照群と比較して、血糖値の値が有意に低かった(P<0.05、およびP<0.01)。
さらに、前記測定した血糖値について、AUC(area under the curve)を算出した。AUCの算出は、縦軸を測定値、横軸を時間としたグラフにおける、投与時の測定値を通り時間軸に平行な直線と、測定値曲線とに囲まれた面積を算出することにより行った。そして、血糖値についての前記比較と同様にして、AUCについて、t検定により、前記試験群と前記対照群との比較を行った。
この結果を、表4および図9に示す。表4は、各個体におけるAUCの算出値(mg/dL・h)を示す表であり、図9は、前記試験群および前記対照群におけるAUCの平均値を示すグラフである。図9において、縦軸は、AUC(mg/dL・h)を示し、横軸は、前記対照群および前記試験群を示す。なお、図9(A)は、前記対照群および前記試験群における全個体(No.1〜No.8)について得られたAUCの算出値に基づき、平均値を算出した。一方、表4に示すように、前記試験群における1個体(No.8)のAUCの算出値(258)は、前記試験群におけるそれ以外の7個体(No.1〜No.7)の前記算出値と比較して、異常値を示した。このため、図9(B)では、前記異常値を示した前記試験群における1個体(No.8)のデータを除外し、前記試験群におけるそれ以外の7個体(No.1〜No.7)について得られたAUCの算出値に基づき、平均値を算出した。
図9(A)に示すように、前記試験群は、前記対照群と比較して、AUCの値が低い傾向が見られた。また、図9(B)に示すように、前記試験群は、前記対照群と比較して、AUCの値が有意に低かった(P<0.05)。
図8および図9の結果から、本発明の薬剤が、マウスの血糖値を低下させることを確認することができた。
[実施例8]
本発明の薬剤が、長時間培養後においても、乳酸合成促進効果を示すことを確認した。
まず、前記実施例1と同様にして、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール(2-amino-1-cyclohexylEOH)の前記サンプルを調製した。前記ラット由来の線維芽細胞(Py−3Y1−S2、継代培養株)に加えて、ヒト由来の食道がん細胞(TE−13、継代培養株)、アフリカミドリザル由来の腎臓上皮細胞(VERO、継代培養株)、およびヒト由来の肝がん細胞(HepG2、継代培養株)を使用し、それぞれ、前記実施例1と同じ条件で培養した。この培養液に、前記各サンプルを、0.5mg/mLとなるように添加した。その後、さらに、24〜48時間培養した。前記サンプル添加後の培養時間は、細胞毎に同一条件とした。コントロール1は、前記サンプルに代えて、薬剤未添加の蒸留水を前記培養液に添加した以外は、同様に培養を行った。また、コントロール2として、ビグアニド(Biguanide)のサンプルを前記実施例1と同様にして調製し、前記サンプルに代えて添加した以外は、同様に培養を行った。そして、前記実施例6と同様にして、各サンプルにおける前記乳酸濃度を測定した。前記4種類の各細胞を使用し、合計5回(Py−3Y1−S2、TE−13及びHepG2については1回、VEROについては2回)の実験を行った。
この結果を、図10に示す。図10は、前記各薬剤を添加した各細胞の培養液中の乳酸濃度を示したグラフである。各グラフの値は、前記5回の実験結果の平均値を示す。図10において、縦軸は、培養液中の乳酸濃度(mmol/L)を示し、横軸は、薬剤を示す。図10に示すように、0.5mg/mLの2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノールの添加後、24〜48時間の培養を行った場合において、乳酸濃度が9.35mmol/Lであり、コントロール1(Control)と比較して増加していた(P<0.05)。コントロール2(Biguanide)においても、ビグアニドを添加した結果、乳酸濃度が増加していた(P<0.01)。このように、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノールは、長時間培養後においても、乳酸濃度を上昇させ、解糖系促進効果を示すことが確認できた。
なお、24〜48時間の培養後において、培養液中のグルコースは、ほとんどが乳酸に変化していると考えられる。例えば、1分子のグルコースから2分子の乳酸が合成されることから、前記培養開始直後の前記グルコース(5.6mmol/L)が全て乳酸に変化した場合、培養液中の乳酸濃度は11.2mmol/Lになる。そして、図10に示すように、各サンプルの添加後、前記24〜48時間の培養を行った場合の培養液中の乳酸濃度は、約8〜10mmol/Lであった。このことから、各サンプルの添加後、前記24〜48時間の培養により、例えば、それぞれ、約70〜90%のグルコースが消費され、乳酸に変化したといえる。また、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノールは、例えば、低濃度のグルコース存在下においても、グルコース消費促進効果を示すといえる。ただし、本発明はこれには制限されない。
[実施例9]
本発明の薬剤が、乳酸代謝を抑制しないことを確認した。
まず、前記実施例1と同様にして、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノール(2-amino-1-cyclohexylEOH)および2−アミノ−1−フェニルエタノール(2-amino-1-phenylEOH)の前記サンプルを調製した。また、前記実施例8と同様にして、前記4種類の各細胞を使用し、それぞれ、前記実施例1と同じ条件で培養した。この培養液に、前記各サンプルを、0.5mg/mLとなるように添加した。その後、さらに、前記実施例8よりも培養時間を長くし、2〜3日間(48〜72時間)培養した。コントロール1は、前記サンプルに代えて、薬剤未添加の蒸留水を前記培養液に添加した以外は、同様に培養を行った。また、コントロール2は、前記サンプルに代えて、前記実施例1と同様にして調製したビグアニド(Biguanide)のサンプルを前記培養液に添加した以外は、同様に培養を行った。そして、前記実施例6と同様にして、各サンプルにおける前記乳酸濃度を測定した。前記4種類の各細胞を使用し、合計4回の実験を行った。
この結果を、図11に示す。図11は、前記各薬剤を添加した各細胞の乳酸濃度を示したグラフである。各グラフの値は、前記4回の実験結果の平均値を示す。図11において、縦軸は、培養液中の乳酸濃度(mmol/L)を示し、横軸は、薬剤を示す。図11に示すように、0.5mg/mLの2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノールおよび2−アミノ−1−フェニルエタノールの添加後、2〜3日間の培養を行った場合において、それぞれ、乳酸濃度がコントロール1(Control)と同程度の値であった。一方、コントロール2(Biguanide)は、ビグアニドの添加後、2〜3日間の培養を行った場合において、乳酸濃度がコントロール1と比較して約3.5倍であった(P<0.05)。ここで、解糖系の代謝産物として産生される培養液中の乳酸は、その後、代謝されることが知られている。このことから、2−アミノ−1−シクロヘキシルエタノールおよび2−アミノ−1−フェニルエタノールは、コントロール1と同程度に乳酸が代謝されており、前記乳酸の代謝を抑制しないことが示された。一方、ビグアニドは、前記乳酸の代謝を抑制することが確認できた。
以上、実施形態および実施例を参照して本発明を説明したが、本発明は、上記実施形態および実施例に限定されるものではない。本発明の構成や詳細には、本発明のスコープ内で当業者が理解しうる様々な変更をすることができる。
この出願は、2018年7月31日に出願された日本出願特願2018−143056、2018年9月27日に出願された日本出願特願2018−181302、および国際出願PCT/JP2019/003915を基礎とする優先権を主張し、その開示の全てをここに取り込む。