以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.車両用構造部材の適用対象>
車両用構造部材の一例である車両用フレームの構成について説明する前に、当該車両用構造部材の適用対象について説明する。一般的な自動車等の車両に設けられる車体は、フロント構造(FRONT)、リア構造(REAR)、およびキャビン構造(CABIN)に分別することができる。
フロント構造およびリア構造は、車両衝突時において当該構造が自ら圧潰することにより、車両に対する衝撃を吸収して緩和する機能(衝撃吸収機能)を担っている。すなわち、車両衝突時に、キャビンに搭乗する乗員の安全を確保するために、フロント構造およびリア構造は、衝突により生じるエネルギー(衝突エネルギー)を可能な限り吸収する構造であることが要求される。したがって、フロント構造およびリア構造を構成するフレームは、衝突時に曲げや潰れが生じた際においても衝突エネルギーを多く吸収することが求められる。当該フロント構造およびリア構造に用いられるフレームは、例えばフロントサイドメンバやリアサイドメンバ等である。フロントサイドメンバは、後端部を構成するフロントサイドメンバリア、および当該後端部よりも前側の部分を構成するフロントサイドメンバフロントを含む。リアサイドメンバは、後端部を構成するリアサイドメンバリア、および当該後端部よりも前側の部分を構成するリアサイドメンバフロントを含む。
ところで、車両の衝突安全性の維持と軽量化とを両立させるために、車体構造を形成する鋼板の高強度化および薄肉化が進められている。上記のフロント構造、リア構造およびキャビン構造を構成するフレームについても、薄肉化された高強度鋼板に置き換えることが進められている。具体的には、衝突エネルギー吸収量および耐荷重性能の少なくともいずれかが、従来の鋼板により形成されるフレームと同等になるように、高強度鋼板により形成されるフレームの板厚が従来の鋼板により形成されるフレームよりも薄く設定される。これにより、高強度フレームの衝突性能を従来フレームと同等に維持しつつ、フレームの重量を低減させることができる。
<2.車両用フレームの構成>
(フレームの構成要素)
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用フレーム1と他部材とが接合された状態を示す斜視図である。図2は、その状態の平面図であり、図3は、その状態の側面図である。図1〜図3に示す例における車両用フレーム1はフロントサイドメンバであり、フロントサイドメンバの前端はクラッシュボックス30を介して、バンパービーム40に接合されている。通常、フロントサイドメンバは、キャビン部の前方に左右対称に2本配置されており、図1〜図3では、その2本の中の1本のみが図示されている。なお、車両用フレーム1は車両用構造部材の一例であり、以下単にフレーム1と記載する。フレーム1はフロント構造およびリア構造に係る部材に適用されることが好ましいが、車両用フレーム1をキャビン構造に係る部材に適用することも可能である。また、当該車両用構造部材は、自動車のみならず、他の車両および自走可能な機械にも適用可能である。他の車両および自走可能な機械には、例えば、二輪車両、バスまたは牽引車等の大型車両、トレーラー、鉄道車両、建設機械、鉱山機械、農業機械、一般機械、および船舶等が含まれる。
図4〜図8に示すように本実施形態のフレーム1は、金属製の中空部材10と、中空部材10の内方に配置された複数の補強部材20を備えている。
本実施形態の中空部材10は、長尺の構造部材の一例であり、部材長手方向(本実施形態ではX方向)に垂直な断面の形状が矩形状となった部材である。本実施形態の中空部材10は一体物として形成された角管状のものであるが、中空部材10は、例えば平板状のクロージングプレートと、断面がハット形状の部材とが接合されることで構成されていてもよい。すなわち、中空部材10は、部材長手方向Xに垂直な断面において、矩形状の閉断面空間を有するように構成されていれば、その構成は特に限定されない。但し、後述するように、中空部材10の部材長手方向Xに垂直な断面において、その外形寸法上の最小幅Wminは、当該外形寸法上の最大幅Wmaxの30%以上の長さとなるように構成される。
図6に示すように、本実施形態の中空部材10は4つの平面部11a〜11dを有している。以降の説明では、それらの4つの平面部11a〜11dのうち、図6において上側に位置する平面部を天面部11a、右側に位置する平面部を側面部11b、下側に位置する平面部を底面部11c、左側に位置する平面部を側面部11dと称す。また、天面部11aと側面部11bとの境界となる部分である両平面部11a、11bの接続部を稜線部11e、側面部11bと底面部11cとの境界となる部分である両平面部11b、11cの接続部を稜線部11f、底面部11cと側面部11dとの境界となる部分である両平面部11c、11dの接続部を稜線部11g、側面部11dと天面部11aとの境界となる部分である両平面部11d、11aの接続部を稜線部11hと称す。
中空部材10は、金属板により形成される。金属板の種類は特に限定されないが、例えば鋼板等の金属板により形成されることが好ましい。また、衝突性能の観点から中空部材10の板厚は、バス等の大型の車両で多く用いられるフレーム構造では6.0mm以下が好ましく、通常のサイズの車両で多く用いられるモノコック構造車両では3.2mm以下であることが好ましい。必要に応じて、板厚の下限を0.8mm、1.0mm又は1.2mmとしてもよい。また、中空部材10を構成する金属板の引張強さ(以下「中空部材10の引張強さ」という。)は特に限定されない。ただし、軽量化により低減し得るフレーム1の全体的な強度を補うために、中空部材10の引張強さは590MPa以上であることが好ましい。また、中空部材10の引張強さは980MPa以上であることがさらに好ましい。必要に応じて、中空部材10の引張強さの上限を、2000MPa又は1500MPaとしてもよい。
中空部材10の内方に配置された補強部材20としては、第1の補強部材20Aと、第2の補強部材20Bがある。
図5および図6に示すように、第1の補強部材20Aは、板状に形成されており、矩形状の板面20aが中空部材10の部材長手方向Xに垂直な断面の形状と略相似形をなしている。本実施形態の第1の補強部材20Aは、板面20aの長辺にフランジ21b、21dが形成され、板面20aの短辺が中空部材10の天面部11aおよび底面部11cの内面に密接する形状を有している。第1の補強部材20Aは、板面20aが中空部材10の部材長手方向Xに垂直となる向きで、フランジ21bが中空部材10の側面部11bの内面に、フランジ21dが中空部材10の側面部11dの内面にそれぞれ接合されている。なお、図6に示す部材長手方向Xに垂直な断面において、中空部材10の側面部11b、11dの長さは、天面部11aおよび底面部11cの長さよりも長くなっている。すなわち、本実施形態においては、側面部11b、11dが中空部材10の長辺に相当し、天面部11aおよび底面部11cが短辺に相当する。したがって、第1の補強部材20Aは、中空部材10の長辺と短辺のうち長辺にのみ接合されている。このように固定された第1の補強部材20Aは、部材長手方向Xに垂直な断面における中空部材10の内方空間を覆う、いわゆるバルクヘッドとして機能する。
図7および図8に示すように、第2の補強部材20Bは、板状に形成されており、矩形状の板面20aが中空部材10の部材長手方向Xに垂直な断面の形状と略相似形をなしている。本実施形態の第2の補強部材20Bは、板面20aの短辺にフランジ21a、21cが形成され、板面20aの長辺が中空部材10の側面部11b、11dの内面に密接する形状を有している。第2の補強部材20Bは、板面20aが中空部材10の部材長手方向Xに垂直となる向きで、フランジ21aが中空部材10の天面部11aの内面に、フランジ21cが中空部材10の底面部11cの内面にそれぞれ接合されている。したがって、第2の補強部材20Bは、中空部材10の長辺と短辺のうち短辺にのみ接合されている。このように固定された第2の補強部材20Bは、部材長手方向Xに垂直な断面における中空部材10の内方空間を覆う、いわゆるバルクヘッドとして機能する。
なお、補強部材20の形状は、中空部材10の形状や、中空部材10との接合方法等に応じ、補強部材20がバルクヘッドとして機能するように適宜変更されるものである。例えば、矩形状の板面20aを有する補強部材20の各辺にフランジを形成することなく、当該板面20aを直接中空部材10の内面に接合しても良い。また、接合範囲は必ずしも補強部材20の長辺あるいは短辺の全てでなくても良く、例えば、補強部材20が接着の場合には、各辺の長さの50%以上が中空部材10の内面に接合されていれば良い。補強部材20が溶接(例えば、スポット溶接など)、または機械的な接合(例えば、ボルト接合又はリベット接合など)の場合には、各辺の1箇所以上が中空部材10の内面に接合されていれば良い。
(補強部材の例)
補強部材20としてFRP部材を用いることができる。ここで、FRP部材は、マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に含有され、複合化された強化繊維材料からなる、繊維強化樹脂部材を意味する。
強化繊維材料としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維を用いることができる。他にも、強化繊維材料として、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、アラミド繊維等を用いることができる。FRP部材に用いられるFRPにおいて、強化繊維材料の基材となる強化繊維基材としては、例えば、チョップドファイバーを使用した不織布基材や連続繊維を使用したクロス材、一方向強化繊維基材(UD材)等を使用することができる。これらの強化繊維基材は、強化繊維材料の配向性の必要に応じて、適宜選択され得る。
CFRP部材は、強化繊維材料として炭素繊維を用いたFRP部材である。炭素繊維としては、例えば、PAN系またはピッチ系のものが使用できる。炭素繊維を用いることにより、重量に対する強度等を効率よく向上させることができる。
GFRP部材は、強化繊維材料としてガラス繊維を用いたFRP部材である。炭素繊維よりも機械的特性に劣るが、金属部材の電蝕を抑制することができる。
FRP部材に用いられるマトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれも使用することができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、並びにビニルエステル樹脂等があげられる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)およびその酸変性物、ナイロン6およびナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタラートおよびポリブチレンテレフタラート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、塩化ビニル、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、並びにフェノキシ樹脂等があげられる。なお、マトリックス樹脂は、複数種類の樹脂材料により形成されていてもよい。
金属部材への適用を考慮すると、加工性、生産性の観点から、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。さらに、マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を用いることで、強化繊維材料の密度を高くすることができる。また、フェノキシ樹脂は熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂と分子構造が酷似しているためエポキシ樹脂と同程度の耐熱性を有する。また、硬化成分をさらに添加することにより、高温環境への適用も可能となる。硬化成分を添加する場合、その添加量は、強化繊維材料への含浸性、FRP部材の脆性、タクトタイムおよび加工性等とを考慮し、適宜決めればよい。
(接着樹脂層)
補強部材20がFRP部材等により形成される場合、FRP部材と金属部材(上記実施形態では中空部材10)との間に接着樹脂層が設けられ、該接着樹脂層によりFRP部材と金属部材とが接合されてもよい。
接着樹脂層を形成する接着樹脂組成物の種類は特に限定されない。例えば、接着樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれかであってもよい。熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンおよびその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタラートやポリブチレンテレフタラート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、並びにポリエーテルケトンケトン等から選ばれる1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、およびウレタン樹脂から選ばれる1種以上を使用することができる。
接着樹脂組成物は、FRP部材を構成するマトリックス樹脂の特性、補強部材20の特性または金属部材の特性に応じて適宜選択され得る。例えば、接着樹脂層として極性のある官能基を有する樹脂や酸変性などを施された樹脂を用いることで、接着性が向上する。
このように、上述した接着樹脂層を用いてFRP部材を金属部材に接着させることにより、FRP部材と金属部材との密着性を向上させることができる。そうすると、金属部材に対し荷重が入力された際の、FRP部材の変形追従性を向上させることができる。この場合、金属部材の変形体に対するFRP部材の効果をより確実に発揮させることが可能となる。
なお、接着樹脂層を形成するために用いられる接着樹脂組成物の形態は、例えば、粉体、ワニス等の液体、フィルム等の固体とすることができる。
また、接着樹脂組成物に架橋硬化性樹脂および架橋剤を配合して、架橋性接着樹脂組成物を形成してもよい。これにより接着樹脂組成物の耐熱性が向上するため、高温環境下での適用が可能となる。架橋硬化性樹脂として、例えば2官能性以上のエポキシ樹脂や結晶性エポキシ樹脂を用いることができる。また、架橋剤として、アミンや酸無水物等を用いることができる。また、接着樹脂組成物には、その接着性や物性を損なわない範囲において、各種ゴム、無機フィラー、溶剤等その他添加物が配合されてもよい。
FRP部材の金属部材への複合化は、種々の方法により実現される。例えば、FRP部材となるFRPまたはその前駆体であるFRP成形用プリプレグと、金属部材とを、上述した接着樹脂組成物で接着し、該接着樹脂組成物を固化(または硬化)させることで得られる。この場合、例えば、加熱圧着を行うことにより、FRP部材と金属部材とを複合化させることができる。
上述したFRPまたはFRP成形用プリプレグの金属部材への接着は、部品の成形前、成形中または成形後に行われ得る。例えば、被加工材である金属材料を金属部材に成形した後に、FRPまたはFRP成形用プリプレグを該金属部材に接着しても良い。また、被加工材にFRPまたはFRP成形用プリプレグを加熱圧着により接着した後に、FRP部材が接着された該被加工材を成形して複合化された金属部材を得てもよい。FRP部材のマトリクス樹脂が熱可塑性樹脂であれば、FRP部材が接着された部分について曲げ加工等の成形を行うことも可能である。また、FRP部材のマトリクス樹脂が熱可塑樹脂である場合、加熱圧着工程と成形工程とが一体となった複合一括成形が行われてもよい。
なお、FRP部材と金属部材との接合方法は、上述した接着樹脂層による接着に限られない。例えば、FRP部材と金属部材とは、機械的に接合されてもよい。より具体的には、FRP部材と金属部材のそれぞれ対応する位置に締結用の孔が形成され、これらがボルトやリベット等の締結手段により当該孔を介して締結されることにより、FRP部材と金属部材とが接合されていてもよい。他にも公知の接合手段によってFRP部材と金属部材とが接合されてもよい。また、複数の接合手段により複合的にFRP部材と金属部材とが接合されてもよい。例えば、接着樹脂層による接着と、締結手段による締結とが複合的に用いられてもよい。
補強部材20としては、FRP部材のほかに、種々の材料が用いられ得る。例えば、補強部材20は、硬質ポリウレタンフォーム等により形成される発泡性樹脂等、上述した樹脂組成物以外の樹脂組成物で形成されてもよい。また、補強部材20は、鋼材やアルミニウム合金部材、マグネシウム合金部材等であってもよい。また、金属部材との接合方法は溶接に限られず、種々の適切な接合方法を用いることができる。
(金属部材およびその表面処理)
本発明に係る金属部材は、めっきされていてもよい。これにより、耐食性が向上する。特に、金属部材が鋼材である場合は、より好適である。めっきの種類は特に限定されず、公知のめっきを用いることができる。例えば、めっき鋼板(鋼材)として、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、Zn−Al−Mg系合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni系合金めっき鋼板等が用いられ得る。
また、金属部材は、表面に化成処理とよばれる皮膜が被覆されていてもよい。これにより、耐食性がより向上する。化成処理として、一般に公知の化成処理を用いることができる。例えば、化成処理として、りん酸亜鉛処理、クロメート処理、クロメートフリー処理等を用いることができる。また、上記皮膜は、公知の樹脂皮膜であってもよい。
また、金属部材は、一般に公知の塗装が施されているものであってもよい。これにより、耐食性がより向上する。塗装として、公知の樹脂を用いることができる。例えば、塗装として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはふっ素系樹脂等を主樹脂としたものを用いることができる。また、塗装には、必要に応じて、一般に公知の顔料が添加されていてもよい。また、塗装は、顔料が添加されていないクリヤー塗装であってもよい。かかる塗装は、FRP部材を複合化する前に予め金属部材に施されていてもよいし、FRP部材を複合化した後に金属部材に施されてもよい。また、予め金属部材に塗装が施されたのちにFRP部材が複合化され、さらにその後塗装が施されてもよい。塗装に用いられる塗料は、溶剤系塗料、水系塗料または紛体塗料等であってもよい。塗装の施工方法として、一般に公知の方法が適用され得る。例えば、塗装の施工方法として、電着塗装、スプレー塗装、静電塗装または浸漬塗装等が用いられ得る。電着塗装は、金属部材の端面や隙間部を被覆するのに適しているため、塗装後の耐食性に優れる。また、塗装前に金属部材の表面にりん酸亜鉛処理やジルコニア処理等の一般に公知の化成処理を施すことにより、塗膜密着性が向上する。
<3.補強部材の配置例>
図4に示すように、複数の補強部材20は、中空部材10の部材長手方向Xの端部から部材長手方向Xの全域にわたって間隔をおいて配置されている。詳述すると、本実施形態においては図9および図10に示すように、中空部材10の前端10aから後端10bにかけて、中空部材10の内方空間を隔てるようにして第1の補強部材20Aと第2の補強部材20Bが間隔Pをおいて交互に配置されている。なお、中空部材10の荷重入力側の端部(本実施形態では前端10a)に最も近い位置に配置される補強部材20は、第2の補強部材20Bであってもよいが、エネルギー吸収性能を効果的に向上させるという観点では第1の補強部材20Aであることが好ましい。
ここで、本明細書では、中空部材10の部材長手方向Xに垂直な断面における中空部材10の外形寸法上の最小幅と最大幅を基準として用いる。本実施形態の場合、図6に示す略矩形断面の短辺における外形寸法が最小幅Wminであり、略矩形断面の長辺における外形寸法幅が最大幅Wmaxとなる。本実施形態の中空部材10の断面においては、対向する一対の短辺、及び、対向する一対の長辺は互いに等しく構成されている。ここで、中空部材10の部材長手方向Xに垂直な断面において、その外形寸法上の最小幅Wminは、当該外形寸法上の最大幅Wmaxの30%以上の長さとなるように構成される。外形寸法上の最小幅Wminと該外形寸法上の最大幅Wmaxの比(即ち、断面の偏平比)に関し、最小幅Wminが最大幅Wmaxの30%以上の長さでない場合、中空部材10が安定して軸圧潰変形しない恐れがあり、衝撃吸収部材として有効でない。必要に応じて、最小幅Wminを最大幅Wmaxの35%又は40%以上としてもよい。なお、その定義から、最小幅Wminは最大幅Wmaxより大きくなることはない。
中空部材10の内方に配置された各補強部材20の間隔Pは、中空部材10の外形寸法上の最小幅Wminの0.46倍〜1.84倍の長さとなっている。すなわち、本実施形態においては、中空部材10の外形寸法上の最小幅Wminの0.46倍〜1.84倍の間隔Pで、中空部材10の部材長手方向Xに沿って第1の補強部材20Aと第2の補強部材20Bが交互に配置されている。また、部材長手方向Xにおいて変化する形状の中空部材10の場合は、部材長手方向Xに垂直な断面の面積が最も小さい位置における中空部材10の断面形状を基準として上記最小幅Wminを定義する。
図11および図12は補強部材20が設けられていない場合の中空部材10の座屈箇所における変形状態を示す図であるが、中空部材10の部材長手方向Xの端部に高荷重が入力されると、中空部材10には、図11のような変形が生じる座屈箇所と、図12のような変形が生じる座屈箇所がそれぞれ現れる。
荷重入力時においては、中空部材10の長辺と短辺のうち、長辺の方が変形しやすいことから、荷重入力側の端部に最も近い座屈箇所においては、中空部材10が図11のように変形しやすい。本実施形態の場合は、中空部材10の前端10aに最も近い座屈箇所で、図11のように中空部材10の長辺と短辺のうち長辺に相当する側面部11b、11dが内方に凹み、短辺に相当する天面部11aおよび底面部11cが外方に突出する変形が生じやすい。そして、当該座屈箇所の次の座屈箇所においては、図12のように中空部材10の長辺と短辺のうち短辺に相当する天面部11aおよび底面部11cが内方に凹み、長辺に相当する側面部11b、11dが外方に突出する変形が生じやすい。また、図12のような変形が生じる座屈箇所の次の座屈箇所においては、再度図11のような変形が生じる座屈箇所が現れる。このように、補強部材20が設けられていない中空部材10においては、図11のような変形が生じる座屈箇所と、図12のような変形が生じる座屈箇所が部材長手方向Xに沿って交互に現れる。
一方、本実施形態においては、中空部材10の長辺にのみ接合された第1の補強部材20Aと、中空部材10の短辺にのみ接合された第2の補強部材20Bが、部材長手方向Xに沿って順に配置されている。さらに、各補強部材20が配置される間隔Pが中空部材10の外形寸法上の最小幅Wminの0.46倍〜1.84倍の長さとなっている。このように各補強部材20が配置されることで、図11のような変形が生じる箇所においては、第1の補強部材20Aにより側面部11b、11dが補強され、図12のような変形が生じる箇所においては、第2の補強部材20Bにより天面部11aおよび底面部11cが補強される。これにより、図11のような変形が生じる箇所においては、中空部材10の側面部11b、11dの内方への凹みを抑えることができ、図12のような変形が生じる箇所においては、天面部11aおよび底面部11cの内方への凹みを抑えることができる。
この結果、後述の実施例でも示すように、中空部材10に安定的に軸圧潰変形を発生させることができ、エネルギー吸収性能を向上させることができる。なお、後述の実施例で示すように、中空部材10の天面部11a、側面部11b、11dおよび底面部11cを含む中空部材10の内面全周に補強部材20を接合した場合には軸圧潰変形を安定的に発生させることはできない。
一方で、各補強部材20の間隔Pが中空部材10の外形寸法上の最小幅Wminの0.46倍〜1.84倍を満たさない場合、中空部材10に安定的な軸圧潰変形は生じない恐れがある。間隔Pが中空部材10の外形寸法上の最小幅Wminの0.46倍よりも短い場合、剛性が高くなり過ぎるため、各補強部材20間で座屈が起こらない恐れがある。間隔Pが中空部材10の外形寸法上の最小幅Wminの1.84倍超である場合、各補強部材20間が長すぎるため1箇所での横折れ変形が生じ、軸圧潰変形とはならない恐れがある。必要に応じて、各補強部材20の間隔Pの下限を、中空部材10の外形寸法上の最小幅Wminの0.55倍、0.65倍又は0.80倍としてもよい。必要に応じて、各補強部材20の間隔Pの上限を、中空部材10の外形寸法上の最小幅Wminの1.60倍、1.40倍、1.20倍、1.10倍又は1.00倍としてもよい。
また、エネルギー吸収性能についての重量効率を高める観点においては、補強部材20の板厚は0.2〜3.6mmであることが好ましい。補強部材20の板厚の下限を0.4mm、0.6mm、0.7mm又は0.8mmとしてもよい。板厚の上限を3.2mm、2.8mm、2.0mm又は1.6mmとしてもよい。また、同様の観点において、補強部材20を構成する部材の引張強さ(以下「補強部材20の引張強さ」という。)は100MPa以上であることが好ましい。補強部材20の強度および軽量化をさらに高める観点から、補強部材20の引張強さは980MPa以上であることがより好ましい。必要に応じて、引張強さの上限を2500MPa又は2000MPaとしてもよい。
以上、本実施形態に係る補強部材20の配置について説明したが、補強部材20の配置は図4に示した例に限定されない。例えば図13に示すように、各補強部材20は、部材長手方向Xの全域にわたって配置されていなくてもよい。図13に示す例では、中空部材10の部材長手方向Xの中央位置を境界とした前部と後部のうち、補強部材20は、荷重入力側の端部(本実施形態では前端10a)がある前部にのみ配置されている。この場合であっても、第1の補強部材20Aと第2の補強部材20Bが交互に配置されており、各補強部材20が配置された領域においては、荷重入力時に安定的に軸圧潰変形を発生させることができる。荷重入力時に安定的に軸圧潰変形を発生させるとの観点からは、中空部材10の部材長手方向Xの前部において、荷重入力側の端部(前端10a)から間隔Pでもって3枚以上の補強部材20が配置されていれば良い。また、中空部材10の部材長手方向Xにおいて、荷重入力側の端部(前端10a)から長さ15%、20%、30%の範囲内に補強部材20が配置されることが好ましい。補強部材20の枚数を4枚以上、5枚以上又は6枚以上とすることがより好ましい。
また、前述の実施形態において、各補強部材20の間隔Pは、中空部材10の部材長手方向Xに沿って一定となっているが、間隔Pが中空部材10の外形寸法上の最小幅Wminの0.46倍〜1.84倍の範囲内にあれば、間隔Pは図14に示すように部材長手方向Xに沿って一定でなくてもよい。図14に示す例では、中空部材10の部材長手方向Xにおける前部に配置された補強部材20の間隔と、後部に配置された補強部材20の間隔が異なっている。
また、中空部材10の形状は、車両用構造部材の用途に応じて適宜変更されるものであるが、中空部材10の形状に応じて曲げ変形が生じやすい部分と、その他の部分とで、補強部材20の間隔Pや板厚、強度等を変えることによって曲げ変形が生じやすい部分を重点的に補強してもよい。これにより、従来、曲げ変形が発生し、必ずしもエネルギー吸収効率が高くなかった部位において、エネルギー吸収効率が高い軸圧潰変形を発生させることができる。本明細書においては、そのような曲げ変形が生じやすい部分を“曲げ誘起部”と称す。
曲げ誘起部に配置された補強部材20の間隔Pは、曲げ誘起部以外の部分に配置された補強部材20の間隔Pよりも狭いことが好ましい。これにより、曲げ誘起部における補強効果が高まり、より安定的に軸圧潰変形を発生させることができる。同様の理由で、曲げ誘起部に配置された補強部材20の板厚は、曲げ誘起部以外の部分に配置された補強部材20の板厚よりも厚いことが好ましい。また、同様の理由で、曲げ誘起部に配置された補強部材20の引張強さは、曲げ誘起部以外の部分に配置された補強部材20の引張強さよりも大きいことが好ましい。また、上記のような曲げ誘起部における間隔P、板厚および引張強さ等の設定方法は適宜組み合わせられていてもよい。
<4.曲げ誘起部の例>
次に、中空部材10に設けられる曲げ誘起部の例について説明する。例えば中空部材10に設けられる穴部、凹部、凸部、板厚変化部、および異強度部等が、曲げ誘起部としての機能を実現する。穴部、凹部、凸部、および板厚変化部のいずれかが設けられた部分は、中空部材10の部材長手方向Xで中空部材10の断面係数が変化する部分である。中空部材10の部材長手方向Xで断面係数が変化する部分においては、同一の曲げモーメントにより中空部材10に生じる曲げ応力が変化するので、当該部分において中空部材10の曲げが誘起される。より具体的には、部材長手方向Xで中空部材10のうち断面係数が相対的に小さい部分については、当該部分における曲げ応力が相対的に大きくなるので、当該部分において屈曲が生じる。また、部材長手方向Xで中空部材10のうち断面係数が相対的に大きい部分については、当該部分の中空部材10の部材長手方向Xの前後における領域を含む部分の断面係数が相対的に小さくなる。したがって、当該領域と上記断面係数が相対的に大きい部分との境界部分において屈曲が生じる。
また、異強度部は、中空部材10の部材長手方向Xで中空部材10の降伏強度が変化する部分である。中空部材10の部材長手方向Xで降伏強度が変化する部分においては、当該部分における中空部材10の塑性変形が誘起される。例えば、部材長手方向Xで中空部材10のうち降伏強度が相対的に小さい部分については、当該部分における塑性変形が中空部材10において最初に生じるため、当該部分において屈曲が生じる。また、部材長手方向Xで中空部材10のうち降伏強度が相対的に大きい部分については、当該部分の中空部材10の部材長手方向Xの前後における領域を含む部分の降伏強度が相対的に小さくなる。したがって、当該領域と上記降伏強度が相対的に大きい部分との境界部分において屈曲が生じる。
また、中空部材10において、前述した曲げ誘起部としての機能を実現する穴部、凹部、凸部、板厚変化部、および異強度部等を含む部分がないとしても、中空部材10に加わる荷重入力の方向がある程度特定できる場合は、中空部材10と接合する周辺部材の拘束の影響を受けて、中空部材内に曲げモーメントが最大となる領域が存在し、当該領域で屈曲が生じる。そのため中空部材10に発生する曲げモーメントを特定できる場合は、曲げモーメントが最大となる領域も曲げ誘起部としての機能を有している。
以下、中空部材10に設けられる曲げ誘起部の具体例について説明する。
(穴部)
図15は、本実施形態に係る中空部材10Aに設けられる穴部の例を説明するための中空部材10Aの断面図である。図15に示すように、側面部11bには穴部50が設けられている。穴部50が設けられた部分における中空部材10Aの断面係数は、穴部50が設けられた部分の前後における部分の中空部材10Aの断面係数よりも低い。したがって、図15に示す衝突荷重Fが中空部材10Aに入力された場合、中空部材10Aは、穴部50が設けられた部分において、穴部50が曲げ内側となるように屈曲する。すなわち、中空部材10Aの部材長手方向Xにおいて、中空部材10Aのうち穴部50が設けられた部分が、中空部材10Aに設けられる曲げ誘起部となる。
また、穴部の形状および配置については、上述した例に限られない。図16〜図19は、本実施形態に係る中空部材10Aに設けられる穴部の他の例を示す模式図である。図16に示すように、円形の穴部50aが側面部11bに設けられてもよい。また、図17に示すように、複数の穴部50bが側面部11bに設けられてもよい。この場合、例えば、複数の穴部50bが、中空部材10Aの部材長手方向Xに横切る方向に並んで設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、穴部50bが曲げの起点として、中空部材10Aが側面部11b側に曲げ変形しやすくなる。
また、図18に示すように、中空部材10Aの部材長手方向Xに横切る方向に延在する穴部50cが側面部11bに設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、穴部50cが曲げの起点として、中空部材10Aが側面部11b側に曲げ変形する。なお、穴部50cの形状は、図18に示す角丸矩形に限定されず、あらゆる形状であってもよい。なお、上述した中空部材10Aの部材長手方向Xに横切る方向は、図16〜図18に示すような、中空部材10Aの部材長手方向Xに直交する方向に限定されない。
また、穴部50の設けられる部分は側面部11bに限られない。例えば、天面部11a、底面部11c、または側面部11dに穴部50が設けられてもよい。
また、図19に示すように、穴部50dが稜線部11eに設けられてもよい。これにより、中空部材10Aのうち部材長手方向Xで穴部50dが設けられた部分の断面係数が顕著に低下するので、穴部50dが設けられた部分が曲げの起点として曲げ変形しやすくなる。
(凹部)
図20は、本実施形態に係る中空部材に設けられるビード部の例を説明するための中空部材10Bの断面図である。なお、ビード部51は、本実施形態における凹部の一例である。図20に示すように、側面部11bにはビード部51が設けられている。ビード部51が設けられた部分における中空部材10Bの断面係数は、ビード部51が設けられた部分の前後における部分の中空部材10Bの断面係数よりも低い。したがって、図20に示す衝突荷重Fが中空部材10Bに入力された場合、中空部材10Bはビード部51が設けられた部分において、ビード部51が曲げ内側となるように屈曲する。すなわち、中空部材10Bの部材長手方向Xにおいて、中空部材10Bのうちビード部51が設けられた部分が、中空部材10Bに設けられる曲げ誘起部となる。
なお、凹部の形状および配置については、上述した例に限られない。図21〜図24は、本実施形態に係る中空部材10Bに設けられる凹部の他の例を示す模式図である。ここでいう凹部とは、エンボスやビードなどの、中空部材10Bの側面部11b等に設けられる窪み部分を意味する。図21に示すように、円形の凹部51aが側面部11bに設けられてもよい。
また、図22に示すように、複数の凹部51bが側面部11bに設けられてもよい。この場合、例えば、複数の凹部51bが、中空部材10Bの部材長手方向Xに横切る方向に並んで設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、複数の凹部51bが曲げの起点として、中空部材10Bが側面部11b側に曲げ変形しやすくなる。
また、図23に示すように、中空部材10Bの部材長手方向Xに横切る方向に延在するビード部51cが側面部11bに設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、ビード部51cが曲げの起点として、中空部材10Bが側面部11b側に曲げ変形される。なお、ビード部51cの形状は、図23に示す角丸矩形に限定されず、あらゆる形状であってもよい。
なお、上述した中空部材10Bの部材長手方向Xに横切る方向は、図23に示すような、中空部材10Bの部材長手方向Xに直交する方向に限定されない。
また、凹部51の設けられる部分は側面部11bに限られない。例えば、天面部11a、底面部11c、または側面部11dに凹部51が設けられてもよい。
また、図24に示すように、凹部51dが稜線部11eに設けられてもよい。これにより、中空部材10Bのうち部材長手方向Xで凹部51dが設けられた部分の断面係数が顕著に変化するので、凹部51dが設けられた部分が曲げの起点として曲げ変形しやすくなる。
図25は、本実施形態に係る中空部材10Bに設けられる凹部の他の例を示す模式図である。図25に示すように、中空部材10Bの部材長手方向Xに延在する凹部51e、51fが、中空部材10Bの部材長手方向Xに沿って並んで設けられてもよい。この場合、中空部材10Bのうち、部材長手方向Xにおける凹部51eと凹部51fとの間の部分510で曲げが生じる。すなわち、中空部材10Bのうち、凹部51e、51fが設けられた部分と、凹部51eと凹部51fとの間の部分510とでは断面係数が異なるので、衝突荷重の入力時において、当該部分510を曲げの起点として曲げ変形が生じる。また、当該部分510には、凹部、後述する凸部、薄肉部または異強度部等が形成されていてもよい。なお、凹部51eおよび凹部51fは、図25に示すように、必ずしも直列に並んでいなくてもよい。また、凹部51eおよび凹部51fは、必ずしも中空部材10Bの部材長手方向Xに延在していなくてもよい。
(凸部)
図26は、本実施形態に係る中空部材10Cに設けられる凸部の例を説明するための中空部材10Cの断面図である。図26に示すように、側面部11bには凸部52が設けられている。凸部52が設けられた部分における中空部材10Cの断面係数は、凸部52が設けられた部分の前後における部分の中空部材10Cの断面係数よりも高い。したがって、図26に示す衝突荷重Fが中空部材10Cに入力された場合、中空部材10Cの部材長手方向Xにおける凸部52の前後の領域6aまたは領域6bのうち、最も断面係数が低くなる部分において、凸部52が曲げ内側となるように屈曲する。なお、この領域6aおよび領域6bは、Y方向における、中空部材10Cの断面係数の変化が生じる領域である。すなわち、中空部材10Cの部材長手方向Xにおいて、中空部材10Cのうち凸部52およびその前後の領域6aおよび領域6bを含む部分が、中空部材10Cに設けられる曲げ誘起部となる。
なお、図26に示した例では、側面部11bに凸部52が設けられるとしたが、例えば、凸部52は、例えば天面部11a、底面部11cまたは側面部11dに設けられてもよい。より具体的に説明すると、凸部52が、中空部材10Cの部材長手方向Xの一部における同一断面上において天面部11a、底面部11c、または側面部11dに設けられた場合、中空部材10Cの部材長手方向Xにおける断面係数は、凸部52が設けられた部分で変化するので、中空部材10Cの曲げが、凸部52が設けられた部分において生じ得る。したがって、この場合においても、凸部52は曲げ誘起部となる。
また、凸部の形状および配置については、上述した例に限られない。図27〜図30は、本実施形態に係る中空部材10Cに設けられる凸部の他の例を示す模式図である。ここでいう凸部は、例えば、中空部材10Cの加工等により実現される。すなわち、かかる凸部は、中空部材10Cを構成する鋼板の一部を変形させて設けられるものであってもよい。図27に示すように、円形の凸部52aが側面部11bに設けられてもよい。
また、図28に示すように、複数の凸部52bが側面部11bに設けられてもよい。この場合、例えば、複数の凸部52bが、中空部材10Cの部材長手方向Xに横切る方向に並んで設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、中空部材10Cの部材長手方向Xにおける複数の凸部52bの前後の領域のいずれかが曲げの起点として、中空部材10Cが側面部11b側に曲げ変形しやすくなる。
また、図29に示すように、中空部材10Cの部材長手方向Xに横切る方向に延在する凸部52cが側面部11bに設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、中空部材10Cの部材長手方向Xにおける凸部52cの前後の領域のいずれかが曲げの起点として、中空部材10Cが側面部11b側に曲げ変形される。なお、凸部52cの形状は、図29に示す角丸矩形に限定されず、あらゆる形状であってもよい。なお、上述した中空部材10Cの部材長手方向Xに横切る方向は、図29に示すような、中空部材10Cの部材長手方向Xに直交する方向に限定されない。また、凸部52の設けられる部分は側面部11bに限られない。例えば、天面部11a、底面部11c、または側面部11dに凸部52が設けられてもよい。
また、図30に示すように、凸部52dが稜線部11eに設けられてもよい。これにより、中空部材10Cのうち部材長手方向Xで凸部52dが設けられた部分の断面係数が顕著に変化するので、凸部52dが設けられた部分が曲げの起点として曲げ変形しやすくなる。
図31は、本実施形態に係る中空部材10Cに設けられる凸部の他の例を示す模式図である。図31に示すように、中空部材10Cの部材長手方向Xに延在する凸部52e、52fが、中空部材10Cの部材長手方向Xに沿って並んで設けられてもよい。この場合、中空部材10Cのうち、部材長手方向Xにおける凸部52eと凸部52fとの間の部分520で曲げが生じる。すなわち、中空部材10Cのうち、凸部52e、52fが設けられた部分と、凸部52eと凸部52fとの間の部分520とでは断面係数が異なるので、衝突荷重の入力時において、当該部分520を曲げの起点として曲げ変形が生じる。また、当該部分520には、上述した凹部、凸部または後述する薄肉部もしくは異強度部等が形成されていてもよい。なお、凸部52eおよび凸部52fは、図31に示すように、必ずしも直列に並んでいなくてもよい。また、凸部52eおよび凸部52fは、必ずしも中空部材10Cの部材長手方向Xに延在していなくてもよい。
(板厚変化部・薄肉部)
また、側面部11bには曲げ誘起部を実現する構成として板厚変化部が設けられてもよい。図32は、本実施形態に係る中空部材10Dに設けられる板厚変化部の一例を示す模式図である。ここでいう板厚変化部とは、中空部材10Dの部材長手方向Xにおいて板厚が変化する部分を意味する。図32に示すように、中空部材10Dは、第1板厚部111および第2板厚部112を備える。第1板厚部111は中空部材10Dの端部側に設けられ、第2板厚部112は、中空部材10Dの部材長手方向Xに沿って第1板厚部111と連続して設けられる。第1板厚部111と第2板厚部112との間では、鋼板の板厚が異なる。板厚の大小関係については特に限定されない。
この場合、図32に示すように、第1板厚部111と第2板厚部112との境目の部分が板厚変化部113となる。この板厚変化部113において中空部材10Dの部材長手方向Xでの断面係数が変化する。すなわち、板厚変化部113が曲げ誘起部に相当する。したがって、衝突荷重が中空部材10Dに入力された場合、中空部材10Dは板厚変化部113において屈曲する。
また、曲げ誘起部は、例えば、薄肉部により実現されてもよい。図33は、本実施形態に係る中空部材10Dに設けられる薄肉部の一例を示す模式図である。図33に示すように、側面部11bには、中空部材10Dの部材長手方向X前後において、他の部分よりも相対的に板厚が薄い薄肉部114が設けられている。薄肉部114を含む部分における中空部材10Dの断面係数は、薄肉部114が設けられた部分の前後における部分の中空部材10Dの断面係数よりも低い。すなわち、中空部材10Dのうち薄肉部114が設けられた部分が曲げ誘起部に相当する。したがって、衝突荷重が中空部材10Dに入力された場合、中空部材10Dは薄肉部114が設けられた部分において、薄肉部114が曲げ内側となるように屈曲する。
かかる板厚変化部を有する中空部材10Dは、例えば、切削、プレス、およびテーラードブランクからなる被加工板により形成されてもよい。かかる被加工板は、溶接線を有するテーラーウェルドブランク(Tailor Welded Blank;TWB)であってもよい。また、上記被加工板は、圧延ロールにより板厚を異ならせて設けられるテーラーロールドブランク(Tailor Rolled Blank;TRB)であってもよい。TWBにおいては、板厚変化部における差厚は0.2mm以上とすることが可能である。また、TRBにおいては、部材長手方向当たりの板厚変化部における板厚変化量は、0.1mm/100mm以上とすることが可能である。
(異強度部・強度変化部)
図34は、本実施形態に係る中空部材10Eに設けられる異強度部の例を説明するための中空部材10Eの断面図である。図34に示すように、側面部11bには異強度部53が設けられている。異強度部53は、例えば、中空部材10Eに対して部分的に溶接、焼き入れまたは焼き戻し等の熱処理等を行うことにより設けられる。異強度部53が設けられた部分における中空部材10Eの降伏強度は、異強度部53が設けられた部分の前後における部分の中空部材10Eの降伏強度とは異なる。したがって、図34に示す衝突荷重Fが中空部材10Eに入力された場合、異強度部53または異強度部53の近傍において、異強度部53が曲げ内側となるように屈曲する。すなわち、中空部材10Eの部材長手方向Xにおいて、中空部材10Eのうち異強度部53を含む部分が、中空部材10Eに設けられる曲げ誘起部となる。この屈曲は、異強度部53または異強度部53の近傍の領域が塑性変形することにより生じる屈曲である。
なお、図34に示した例では、側面部11bに異強度部53が設けられるとしたが、異強度部53は、例えば天面部11a、底面部11c、または側面部11dに設けられてもよい。より具体的に説明すると、異強度部53が、中空部材10の部材長手方向Xの一部における同一断面上において天面部11a、底面部11c、または側面部11dに設けられた場合、当該断面上において側面部11bの強度が最も低くなる。そうすると、側面部11bを曲げ内側とする中空部材10Eの曲げが、異強度部53において生じ得る。したがって、この場合においても、異強度部53は曲げ誘起部となる。
また、異強度部の配置については、上述した例に限られない。図35、図36は、本実施形態に係る中空部材10Eに設けられる異強度部の他の例を示す模式図である。ここでいう異強度部は、中空部材10Eを形成する被加工板に対する溶接または熱処理等により実現される。
図35に示すように、中空部材10Eの部材長手方向Xに対する断面周方向に沿って異強度部120が設けられている。この場合も、中空部材10Eのうち異強度部120が設けられた部分が曲げ誘起部に相当する。したがって、衝突荷重が中空部材10Eに入力された場合、中空部材10Eは異強度部120が設けられた部分において、異強度部120が曲げ内側となるように屈曲する。
なお、かかる異強度部は、例えば、図36に示したように、側面部11b等、中空部材10Eの断面を構成する壁部の少なくともいずれかに部分的に設けられてもよい。かかる場合においても、衝突荷重が中空部材10Eに入力された場合、中空部材10Eは異強度部121が設けられた部分において、異強度部121が曲げ内側となるように屈曲する。
また、曲げ誘起部は、例えば、強度変化部により実現されてもよい。図37は、本実施形態に係る中空部材10Eに設けられる強度変化部の一例を示す模式図である。図37に示すように、中空部材10Eは、第1強度部122および第2強度部123を備える。第1強度部122は中空部材10Eの端部側に設けられ、第2強度部123は、中空部材10Eの部材長手方向Xに沿って第1強度部122と連続して設けられる。第1強度部122と第2強度部123との間では、鋼板の降伏強度が異なる。降伏強度の大小関係については特に限定されない。
この場合、図37に示すように、第1強度部122と第2強度部123との境目の部分が強度変化部124となる。この強度変化部124において中空部材10Eの部材長手方向Xでの降伏強度が変化する。すなわち、強度変化部124が曲げ誘起部に相当する。したがって、衝突荷重が中空部材10Eに入力された場合、中空部材10Eは強度変化部124において屈曲する。
(組み合わせ)
上記に示した曲げ誘起部の例が複数組み合わせられていてもよい。例えば、上述した凹部、凸部、穴部、板厚変化部、薄肉部、異強度部および強度変化部の少なくとも2つ以上の組み合わせにより、曲げ誘起部が実現されてもよい。
(適用対象部材の例)
本実施形態の中空部材は、例えば、衝撃吸収機能が求められる車両構造部材であるフロントサイドメンバ、リアサイドメンバ、エクステンション又はクラッシュボックスなどに適用することができる。
以上、添付図面を参照しながら本発明の一実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本発明に係るフレームのエネルギー吸収性能を評価するため、衝突シミュレーションを実施した。解析モデルは図1〜図3に示すようなバンパービームとフレームで構成されており、中空部材の断面は矩形状であり、外形寸法は幅76mm、高さ200mmとなっている。また、解析モデルは下記表1に示す条件で複数作成されている。なお、表1中の軽量化率は、各構造の重量を構造1の重量で規格化したものである。
上記表1の構造1および構造2は、補強部材20が設けられていない構造であり、構造2は構造1に対して薄板化、およびハイテン化を図ったものである。構造3は、中空部材10の部材長手方向Xに沿って一定間隔で補強部材が配置された構造であり、補強部材は中空部材10の内面全周に接合されている。
構造4〜構造10は、図4に示すような第1の補強部材20Aと第2の補強部材20Bが中空部材10の部材長手方向Xに沿って交互に配置された構造である。すなわち、中空部材10の長辺にのみ補強部材20が接合された箇所と、短辺にのみ補強部材20が接合された箇所が部材長手方向Xに沿って交互に存在している。このような接合形態を表1中では“交互接合”と記載している。
構造4〜構造8においては、各補強部材20が中空部材10の部材長手方向Xの全域に配置されており、各補強部材20の間隔は一定間隔となっている。構造9においては、図13のように補強部材20が中空部材10の部材長手方向Xの前部にのみ配置されており、各補強部材20の間隔は一定間隔となっている。構造10においては、図14のように補強部材20が中空部材10の部材長手方向Xの全域に配置されているが、中空部材10の前部に配置された補強部材20の間隔と、中空部材10の後部に配置された補強部材20の間隔が異なっている。
また、構造11は、補強部材20の素材としてCFRPを用いたものであり、構造12は、補強部材20の素材としてGFRP(板厚:2.4mm)を用いたものである。構造13は、補強部材20として第2の補強部材20Bのみを用い、中空部材10の上下のみに接合を行ったものである。構造14は、補強部材20として第1の補強部材20Aのみを用い、中空部材10の左右のみに接合を行ったものである。構造15は、補強部材20が中空部材10の部材長手方向Xの前部にのみ配置されており、その枚数は2枚である。
構造3〜6、8、13〜15において補強部材20として用いられる鋼板の機械特性は、以下の通りである。
引張強さ:440MPa
破断伸び:28%
また、構造7、9〜10において補強部材20として用いられる鋼板の機械特性は、以下の通りである。
引張強さ:1180MPa
破断伸び:12%
また、構造11において補強部材20として用いられるCFRPの機械特性は、以下の通りである。
Vf(繊維含有体積率):50%
ヤング率:102GPa
破断強度:1500MPa
破断伸び:1.5%
また、構造12において補強部材20として用いられるGFRPの機械特性は、以下の通りである。
Vf(繊維含有体積率):50%
ヤング率:13GPa
破断強度:200MPa
破断伸び:3.0%
本シミュレーションは、自動車の正面衝突試験を模擬したものであり、質量200kgの剛体壁を図1〜図3に示すバンパービーム40に12m/sで衝突させることで実施された。各解析モデルにおける中空部材10の後端10bは拘束されている。以下、シミュレーション結果について説明する。
なお、上記表1には、シミュレーション結果として各解析モデルの変形モードを示している。表1に示す変形モードにおける“横折れ”とは、中空部材10の変形初期から横折れ変形が生じる変形モードである。表1に示す変形モードにおける“不安定軸圧潰”とは、中空部材10の圧潰変形の発生箇所が部材長手方向Xにおいて不規則に存在し、圧潰変形の発生箇所が中空部材10の前端10aから後端10bにかけて連続していない変形モードである。表1に示す変形モードにおける“安定軸圧潰”とは、中空部材10の軸圧潰変形が部材長手方向Xに沿って徐々に進行し、圧潰変形の発生箇所が前端10aから後端10bにかけて連続する変形モードである。
図38は衝突シミュレーションにおける構造1の解析モデルの変形途中の状態を示す平面図であり、図39は衝突シミュレーションにおける構造1の解析モデルの変形後の状態を示す平面図である。図38および図39に示すように、補強部材が設けられていない構造1においては、荷重が入力されると、中空部材に横折れが生じた。このような中空部材の変形は、構造2、構造3、構造13〜15においても生じていた。
図40は衝突シミュレーションにおける構造4の解析モデルの変形途中の状態を示す平面図であり、図41は衝突シミュレーションにおける構造4の解析モデルの変形後の状態を示す平面図である。図40に示すように、中空部材には、変形初期において、前端近傍以外に後端近傍にも圧潰変形が生じてしまい、変形モードが不安定軸圧潰となった。また、図41に示すように、中空部材の変形がさらに進行すると、中空部材の中央部に横折れが生じた。
一方、図42は衝突シミュレーションにおける構造7の解析モデルの変形途中の状態を示す平面図であり、図43は衝突シミュレーションにおける構造7の解析モデルの変形後の状態を示す平面図である。図42および図43に示すように、構造7では、中空部材の変形過程において安定的に軸圧潰変形が生じている。中空部材の変形モードが横折れ変形である場合、中空部材の横折れ部以外の部分に生じる塑性ひずみが小さいために、横折れ部以外の部分はエネルギー吸収性能の向上にほぼ寄与しないが、構造7のように変形モードが安定軸圧潰である場合には、塑性ひずみが生じる部分が多くなり、エネルギー吸収性能を向上させることが可能となる。このような中空部材の変形は構造5〜6、構造8〜12においても生じていた。
次に、剛体壁を衝突させた際の荷重‐ストローク線図から、剛体壁の700mmストローク時におけるエネルギー吸収量を算出し、各解析モデルのエネルギー吸収性能を比較した。その結果を図44に示す。なお、図44のグラフの縦軸は、各構造におけるエネルギー吸収量と構造1のエネルギー吸収量との比である。
図44に示すように、荷重入力時に安定して軸圧潰変形が生じていた構造5〜構造12においては、構造1に対してエネルギー吸収性能が向上している。また、上記表1に示すように構造5〜構造12においては、構造1に対する軽量化率も向上している。したがって、本シミュレーションの結果によれば、第1の補強部材20Aと第2の補強部材20Bを交互に配置し、各補強部材20の間隔Pが中空部材10の外形寸法上の最小幅Wminの0.46倍〜1.84倍の範囲内である場合には、軽量化を図りつつ、安定的に軸圧潰変形を発生させてエネルギー吸収性能を向上させることができる。
また、上記表1に示すように、構造13においては、中空部材に横折れが生じたことに加え、構造1に対する軽量化率が低く、エネルギー吸収性能も向上していない。即ち、本発明に係る構成において、補強部材として第2の補強部材20Bのみを用い、中空部材10の上下のみに接合を行うのは好ましくないといえる。
また、構造14においては、中空部材に横折れが生じたことに加え、構造1に対する軽量化率が低く、エネルギー吸収性能も向上していない。即ち、本発明に係る構成において、補強部材として第1の補強部材20Aのみを用い、中空部材10の左右のみに接合を行うのは好ましくないといえる。
また、構造15においては、中空部材に配置する補強部材の数を2枚としている。この場合、変形モードが横折れであり、エネルギー吸収性能も向上していない。即ち、本発明に係る構成において、配置する補強部材の数は3枚以上とすることが好ましいと言える。