以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
<1.車両用構造部材の適用対象>
車両用構造部材の一例である車両用フレームの構成について説明する前に、当該車両用構造部材の適用対象について説明する。一般的な自動車等の車両に設けられる車体は、フロント構造(FRONT)、リア構造(REAR)、およびキャビン構造(CABIN)に分別することができる。
フロント構造およびリア構造は、車両衝突時において当該構造が自ら圧潰することにより、車両に対する衝撃を吸収して緩和する機能(衝撃吸収機能)を担っている。すなわち、車両衝突時に、キャビンに搭乗する乗員の安全を確保するために、フロント構造およびリア構造は、衝突により生じるエネルギ(衝突エネルギ)を可能な限り吸収する構造であることが要求される。したがって、フロント構造およびリア構造を構成するフレームは、衝突時に曲げや潰れが生じた際においても衝突エネルギを多く吸収することが求められる。当該フロント構造およびリア構造に用いられるフレームは、例えばフロントサイドメンバやリアサイドメンバ等である。フロントサイドメンバは、後端部を構成するフロントサイドメンバリア、および当該後端部よりも前側の部分を構成するフロントサイドメンバフロントを含む。リアサイドメンバは、後端部を構成するリアサイドメンバリア、および当該後端部よりも前側の部分を構成するリアサイドメンバフロントを含む。
ところで、車両の衝突安全性の維持と軽量化とを両立させるために、車体構造を形成する鋼板の高強度化および薄肉化が進められている。上記のフロント構造、リア構造およびキャビン構造を構成するフレームについても、薄肉化された高強度鋼板に置き換えることが進められている。具体的には、衝突エネルギ吸収量および耐荷重性能の少なくともいずれかが、従来の鋼板により形成されるフレームと同等になるように、高強度鋼板により形成されるフレームの板厚が従来の鋼板により形成されるフレームよりも薄く設定される。これにより、高強度フレームの衝突性能を従来フレームと同等に維持しつつ、フレームの重量を低減させることができる。
<2.車両用フレームの構成>
(フレームの構成要素)
図1は、本発明の一実施形態に係る車両用フレーム1の概略構成を示す斜視図である。なお、本明細書における車両用フレーム1は車両用構造部材の一例であり、以下単にフレーム1と記載する。フレーム1はフロント構造およびリア構造に係る部材に適用されることが好ましいが、車両用フレーム1をキャビン構造に係る部材に適用することも可能である。また、当該車両用構造部材は、自動車のみならず、他の車両および自走可能な機械にも適用可能である。他の車両および自走可能な機械には、例えば、二輪車両、バスまたは牽引車等の大型車両、トレーラー、鉄道車両、建設機械、鉱山機械、農業機械、一般機械、および船舶等が含まれる。
図1および図2に示すように本実施形態のフレーム1は、第1の構造部材2と、第2の構造部材3と、CFRPからなる補強部材4(4A~4C)を備えている。
本実施形態の第1の構造部材2は、長尺の構造部材の一例であり、ハット形の断面形状を有する。第1の構造部材2は、長手方向(X軸方向)に延びる天壁部2a、側壁部2b、2b、フランジ部2c、2c、および稜線部2d、2d、2e、2eを有する。
側壁部2bは、天壁部2aのZ軸方向(上下方向)の両端から起立して設けられている。側壁部2bは、天壁部2aと略垂直の角度を成して設けられることが衝突性能の観点から多いが、側壁部2bと天壁部2aとにより成される角度は、略垂直に限らず部材の設計に応じて適宜設定される。また、稜線部2dは、天壁部2aと側壁部2bとの境界となる部分であり、天壁部2aと側壁部2bとの接続部である。
フランジ部2cは、側壁部2bの天壁部2aに対し反対側の端部からZ軸方向に沿って外側に起立して設けられる。フランジ部2cは、側壁部2bと略垂直の角度を成して設けられることが多いが、フランジ部2cと側壁部2bとにより成される角度は、略垂直に限らず、部材の設計に応じて適宜決定される。また、稜線部2eは、側壁部2bとフランジ部2cとの境界となる部分である。
本実施形態の第2の構造部材3は、長尺の構造部材の一例であり、板状の部材である。第2の構造部材3は、底壁部3a、および接合部3c、3cを有する。
底壁部3aは、第1の構造部材2の天壁部2aに対向する部分である。また、接合部3cは、第1の構造部材2のフランジ部2cに対して当接し、フランジ部2cに接合される部分である。つまり、底壁部3aは、第2の構造部材3における一対の稜線部2eとのそれぞれの接続部分の間に存在する領域に相当する部分である。また、接合部3cは、第2の構造部材3における稜線部2eとフランジ部2cの端部とに挟まれるフランジ部2cの領域に当接する部分である。
本実施形態においては、フランジ部2cと接合部3cとが接合されることにより、第1の構造部材2と第2の構造部材3とが接合されている。これにより、天壁部2aと、一対の側壁部2b、2bと、底壁部3aとによって、長手方向に垂直な断面が閉断面となる中空部材10が構成される。以降の説明において単に“長手方向”と称す場合は中空部材10の長手方向のことを指す。なお、フランジ部2cと接合部3cとの接合方法は特に限定されない。例えば、当該接合方法は、溶接、リベットまたはボルト締結等であってもよい。本実施形態ではフランジ部2cと接合部3cはスポット溶接により接合されている。
中空部材10の有する閉断面の形状は略多角形である。ここで、略多角形とは、複数の線分で近似表現することが可能である閉じた平面図形を意味する。例えば、本実施形態の中空部材10の閉断面は、4つの線分(天壁部2a、一対の側壁部2b、底壁部3aに相当)および4つの頂点(稜線部2d、2eに相当)からなる略四角形である。この略四角形は、矩形、台形等を含む。中空部材10が有する閉断面の形状が略四角形以外の略多角形である場合であっても、本明細書において、当該中空部材10は、天壁部2a、一対の側壁部2b、2bおよび底壁部3aにより形成されるものとして説明する。なお、中空部材10は、フランジ部2cのない一体の断面、つまり角柱断面であってもよい。中空部材10の有する閉断面の形状の例については後述する。
第1の構造部材2および第2の構造部材3は、例えば鋼板等の金属板により形成されることが好ましい。また、衝突性能の観点から両構造部材の板厚はバス等の大型の車両で多く用いられるフレーム構造では、6.0mm以下が好ましく、通常のサイズの車両で多く用いられるモノコック構造車両では3.2mm以下であることが好ましい。また、第1の構造部材2および第2の構造部材3の強度は特に限定されない。ただし、軽量化により低減し得るフレームの全体的な強度を補うために、両構造部材2、3の引張強度は590MPa以上であることが好ましい。また、両構造部材2、3の引張強度は980MPa以上であることがさらに好ましい。
CFRPからなる補強部材4(4A~4C)は、FRP(繊維強化樹脂)からなる補強部材(FRP部材)の一例である。
<3.補強部材の例>
補強部材(FRP部材とも称する)に用いられ得るFRPは、マトリックス樹脂と、該マトリックス樹脂中に含有され、複合化された強化繊維材料からなる、繊維強化樹脂を意味する。
強化繊維材料としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維を用いることができる。他にも、強化繊維材料として、ボロン繊維、シリコンカーバイド繊維、アラミド繊維等を用いることができる。FRP部材に用いられるFRPにおいて、強化繊維材料の基材となる強化繊維基材としては、例えば、チョップドファイバーを使用した不織布基材や連続繊維を使用したクロス材、一方向強化繊維基材(UD材)等を使用することができる。これらの強化繊維基材は、強化繊維材料の配向性の必要に応じて、適宜選択され得る。
CFRPは、強化繊維材料として炭素繊維を用いたFRPである。炭素繊維としては、例えば、PAN系またはピッチ系のものが使用できる。炭素繊維を用いることにより、重量に対する強度等を効率よく向上させることができる。
GFRPは、強化繊維材料としてガラス繊維を用いたFRPである。炭素繊維よりも機械的特性に劣るが、金属部材の電蝕を抑制することができる。
FRPに用いられるマトリックス樹脂として、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂のいずれも使用することができる。熱硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、並びにビニルエステル樹脂等があげられる。熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)およびその酸変性物、ナイロン6およびナイロン66等のポリアミド樹脂、ポリエチレンテレフタラートおよびポリブチレンテレフタラート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、塩化ビニル、ポリスチレン等のスチレン系樹脂、並びにフェノキシ樹脂等があげられる。なお、マトリックス樹脂は、複数種類の樹脂材料により形成されていてもよい。
金属部材への適用を考慮すると、加工性、生産性の観点から、マトリックス樹脂として熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。さらに、マトリックス樹脂としてフェノキシ樹脂を用いることで、強化繊維材料の密度を高くすることができる。また、フェノキシ樹脂は熱硬化性樹脂であるエポキシ樹脂と分子構造が酷似しているためエポキシ樹脂と同程度の耐熱性を有する。また、硬化成分をさらに添加することにより、高温環境への適用も可能となる。硬化成分を添加する場合、その添加量は、強化繊維材料への含浸性、FRPの脆性、タクトタイムおよび加工性等とを考慮し、適宜決めればよい。
<接着樹脂層>
補強部材がFRP部材等により形成される場合、FRP部材と金属部材(上記実施形態では中空部材10)との間に接着樹脂層が設けられ、該接着樹脂層によりFRP部材と金属部材とが接合されてもよい。
接着樹脂層を形成する接着樹脂組成物の種類は特に限定されない。例えば、接着樹脂組成物は、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂のいずれかであってもよい。熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂の種類は特に限定されない。例えば、熱可塑性樹脂としては、ポリオレフィンおよびその酸変性物、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、AS樹脂、ABS樹脂、ポリエチレンテレフタラートやポリブチレンテレフタラート等の熱可塑性芳香族ポリエステル、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリフェニレンエーテルおよびその変性物、ポリフェニレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、並びにポリエーテルケトンケトン等から選ばれる1種以上を使用することができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ビニルエステル樹脂、フェノール樹脂、およびウレタン樹脂から選ばれる1種以上を使用することができる。
接着樹脂組成物は、FRP部材を構成するマトリックス樹脂の特性、補強部材の特性または金属部材の特性に応じて適宜選択され得る。例えば、接着樹脂層として極性のある官能基を有する樹脂や酸変性などを施された樹脂を用いることで、接着性が向上する。
このように、上述した接着樹脂層を用いてFRP部材を金属部材に接着させることにより、FRP部材と金属部材との密着性を向上させることができる。そうすると、金属部材に対し荷重が入力された際の、FRP部材の変形追従性を向上させることができる。この場合、金属部材の変形体に対するFRP部材の効果をより確実に発揮させることが可能となる。
なお、接着樹脂層を形成するために用いられる接着樹脂組成物の形態は、例えば、粉体、ワニス等の液体、フィルム等の固体とすることができる。
また、接着樹脂組成物に架橋硬化性樹脂および架橋剤を配合して、架橋性接着樹脂組成物を形成してもよい。これにより接着樹脂組成物の耐熱性が向上するため、高温環境下での適用が可能となる。架橋硬化性樹脂として、例えば2官能性以上のエポキシ樹脂や結晶性エポキシ樹脂を用いることができる。また、架橋剤として、アミンや酸無水物等を用いることができる。また、接着樹脂組成物には、その接着性や物性を損なわない範囲において、各種ゴム、無機フィラー、溶剤等その他添加物が配合されてもよい。
FRP部材の金属部材への複合化は、種々の方法により実現される。例えば、FRP部材となるFRPまたはその前駆体であるFRP成形用プリプレグと、金属部材とを、上述した接着樹脂組成物で接着し、該接着樹脂組成物を固化(または硬化)させることで得られる。この場合、例えば、加熱圧着を行うことにより、FRP部材と金属部材とを複合化させることができる。
上述したFRPまたはFRP成形用プリプレグの金属部材への接着は、部品の成形前、成形中または成形後に行われ得る。例えば、被加工材である金属材料を金属部材に成形した後に、FRPまたはFRP成形用プリプレグを該金属部材に接着しても良い。また、被加工材にFRPまたはFRP成形用プリプレグを加熱圧着により接着した後に、FRP部材が接着された該被加工材を成形して複合化された金属部材を得てもよい。FRP部材のマトリクス樹脂が熱可塑性樹脂であれば、FRP部材が接着された部分について曲げ加工等の成形を行うことも可能である。また、FRP部材のマトリクス樹脂が熱可塑樹脂である場合、加熱圧着工程と成形工程とが一体となった複合一括成形が行われてもよい。
なお、FRP部材と金属部材との接合方法は、上述した接着樹脂層による接着に限られない。例えば、FRP部材と金属部材とは、機械的に接合されてもよい。より具体的には、FRP部材と金属部材のそれぞれ対応する位置に締結用の孔が形成され、これらがボルトやリベット等の締結手段により当該孔を介して締結されることにより、FRP部材と金属部材とが接合されていてもよい。他にも公知の接合手段によってFRP部材と金属部材とが接合されてもよい。また、複数の接合手段により複合的にFRP部材と金属部材とが接合されてもよい。例えば、接着樹脂層による接着と、締結手段による締結とが複合的に用いられてもよい。
<金属部材およびその表面処理>
本発明に係る金属部材は、めっきされていてもよい。これにより、耐食性が向上する。特に、金属部材が鋼材である場合は、より好適である。めっきの種類は特に限定されず、公知のめっきを用いることができる。例えば、めっき鋼板(鋼材)として、溶融亜鉛めっき鋼板、溶融合金化亜鉛めっき鋼板、Zn-Al-Mg系合金めっき鋼板、アルミニウムめっき鋼板、電気亜鉛めっき鋼板、電気Zn-Ni系合金めっき鋼板等が用いられ得る。
また、金属部材は、表面に化成処理とよばれる皮膜が被覆されていてもよい。これにより、耐食性がより向上する。化成処理として、一般に公知の化成処理を用いることができる。例えば、化成処理として、りん酸亜鉛処理、クロメート処理、クロメートフリー処理等を用いることができる。また、上記皮膜は、公知の樹脂皮膜であってもよい。
また、金属部材は、一般に公知の塗装が施されているものであってもよい。これにより、耐食性がより向上する。塗装として、公知の樹脂を用いることができる。例えば、塗装として、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂またはふっ素系樹脂等を主樹脂としたものを用いることができる。また、塗装には、必要に応じて、一般に公知の顔料が添加されていてもよい。また、塗装は、顔料が添加されていないクリヤー塗装であってもよい。かかる塗装は、FRP部材を複合化する前に予め金属部材に施されていてもよいし、FRP部材を複合化した後に金属部材に施されてもよい。また、予め金属部材に塗装が施されたのちにFRP部材が複合化され、さらにその後塗装が施されてもよい。塗装に用いられる塗料は、溶剤系塗料、水系塗料または紛体塗料等であってもよい。塗装の施工方法として、一般に公知の方法が適用され得る。例えば、塗装の施工方法として、電着塗装、スプレー塗装、静電塗装または浸漬塗装等が用いられ得る。電着塗装は、金属部材の端面や隙間部を被覆するのに適しているため、塗装後の耐食性に優れる。また、塗装前に金属部材の表面にりん酸亜鉛処理やジルコニア処理等の一般に公知の化成処理を施すことにより、塗膜密着性が向上する。
本実施形態の補強部材4は、繊維方向が異なる複数の層を有した複層構造となっている。図3に示すように本実施形態の補強部材4は、繊維方向(図3中の破線矢印の方向)が長手方向に対して平行である層、すなわち長手方向と繊維方向とのなす角が0°である層と、長手方向に対して垂直となる層、すなわち長手方向と繊維方向とのなす角が90°である層で構成されている。補強部材4が、このように繊維方向が異なる複数の層を有していることで、エネルギ吸収性能をさらに向上させることができる。なお、補強部材4を複層構造とする場合の各層の繊維方向は特に限定されない。また、中空部材10の長手方向に対する繊維方向が90°の層を含む複層構造の場合、全ての層のうち、25%以上の層は、繊維方向が90°である層であることが好ましい。これによりエネルギ吸収性能を効果的に高めることができる。また、補強部材4は繊維方向の異なる層を3層以上有していてもよい。また、中空部材10の形状や要求されるエネルギ吸収性能、重量制限等によっては、補強部材4は単層構造であってもよい。また、補強部材4は、マトリックス樹脂中に不連続繊維を含浸させシート状に加工した、シート形成複合材料(SMC:Sheet Molding Compound)であってもよい。なお、工業的には、繊維方向を一方向にそろえた場合、実際の繊維の繊維方向の分布は、その一方向に対し、-5°~5°の範囲内に分布する。工業的にそのように分布した状態であっても、理想的に全ての繊維方向をその一方向にそろえた場合と比べて、機械的性質は実質的に同じと判断して構わない。また、補強部材内での繊維方向の分布は、マイクロフォーカスX線CT(X-ray computed tomograph)システムで観察し、得られた3次元画像をコンピュータ解析することで同定できる。
図4に示すように本実施形態の中空部材10には、長手方向の一部に屈曲部5Aおよび5Bが設けられている。屈曲部5とは、中空部材10の断面の重心により形成される中心軸C1において曲率を有している部分である。
このような屈曲部5および屈曲部5の周辺部は、曲げ誘起部7(7A、7B)の一例である。屈曲部5を備える中空部材10は、例えば第1の構造部材2および第2の構造部材3に屈曲部5が設けられるようにプレス成形を行い、これらの構造部材2、3を組み立てることにより得られる。屈曲部5は、フレーム1が適用される車両の構造に応じて適宜設けられる。中空部材10に設けられる屈曲部5の数は特に限定されず、上述したように車両の構造に応じて適宜決定される。すなわち、中空部材10に屈曲部5が設けられない場合も存在する。
中空部材10に曲げ誘起部7が形成された場合、長手方向からの衝突によって曲げ誘起部7において曲げ変形が生じる。例えば、屈曲部5Aの曲率半径RAおよび屈曲部5Bの曲率半径RBの双方、もしくは少なくともいずれか一方において、衝突荷重の入力時に曲げ変形が生じる。この曲げ変形に必要なエネルギが衝突によるエネルギから供給される。すなわち、中空部材10の曲げ変形により衝突エネルギを吸収することができる。この曲げ誘起部7を中空部材10に設けることにより、衝突により生じる中空部材10の曲げ起点を設定することができる。そのため、中空部材10の想定外の曲げによるキャビン構造への衝撃を回避することができるので、キャビンに搭乗する乗員の安全性を確保することができる。
なお、本実施形態に係る曲げ誘起部7は、図4に示した屈曲部5を含む部分に限定されない。曲げ誘起部7の具体例については後述する。
(補強部材の配置)
図4に示すように、本実施形態の中空部材10には、天壁部2aが曲げ内側となる方向に屈曲する屈曲部5A、および底壁部3aが曲げ内側となる方向に屈曲する屈曲部5Bが設けられている。前述のように、屈曲部5A、5Bおよび屈曲部5A、5Bの周辺部は、本実施形態の中空部材10の曲げ誘起部7A、7Bである。本実施形態の補強部材4は、中空部材10の長手方向における曲げ誘起部7A、7Bの前側および後側の内面に接合されている。換言すると、曲げ誘起部7に隣接する部分を隣接部8(8A~8C)と称した際に、補強部材4Aは、曲げ誘起部7Aに対し、長手方向前側の隣接部8Aの内面に接合されている。補強部材4Bは、曲げ誘起部7Aに対し、長手方向後側の隣接部8Bの内面に接合されている。本実施形態の中空部材10の場合、補強部材4Bは、曲げ誘起部7Bに対し、長手方向前側の隣接部8Bの内面に接合されているとも言える。補強部材4Cは、曲げ誘起部7Bに対し、長手方向後側の隣接部8Cの内面に接合されている。なお、補強部材4の配置は、中空部材10の内面に限定されるものではなく、外面側に配置されていても良い。以降の説明における補強部材4の配置に関しても、外面側に配置することが可能な中空部材10の形状であれば、補強部材4は外面側に配置されていても良い。また、中空部材10に対する補強部材4の接合方法は特に限定されないが、例えば接着剤を用いて両部材10、4を接合することが好ましい。
本実施形態の曲げ誘起部7の範囲は次のように定義される。図6に示すように、前述の中心軸C1は直線部と弧部で構成され、屈曲部5Aは、中心軸C1上の直線部に繋がる、曲率半径RAを有する弧部である。ここで、中心軸C1上の直線部に繋がる弧部の角の二等分線と、当該弧部との交点をPとする。この場合、屈曲部5Aの範囲は、上記の点Pを起点とした中心軸C1方向前方の長さLの位置から、上記点Pを起点とした中心軸C1方向後方の長さLの位置までの領域である。中空部材10の衝突時に生じる座屈は中空部材の断面サイズと相関があることから、本明細書における上記の長さ2Lは、曲げ方向における中空部材10の幅とするとより良い。本実施形態の中空部材10の場合、Y軸方向が曲げ方向となるため、図2に示す天壁部2aと底壁部3aとの間の距離が中空部材10の幅Wであり、上記の長さ2Lを当該幅Wとするとより良い。なお、屈曲部5Bについても同様の考え方で曲げ誘起部7の範囲が定められる。
図2に示すように、本実施形態の補強部材4は、中空部材10の内面全周に接合されている。詳述すると、中空部材10の天壁部2a、一対の側壁部2b、底壁部3a、天壁部2aと一対の側壁部2bとの間の部分であるコーナー部11a、および一対の側壁部2bと底壁部3aとの間の部分であるコーナー部11bの内面に接合されている。なお、中空部材10の長手方向における補強部材4の長さは、フレーム1の形状や要求されるエネルギ吸収性能、重量制限等に応じて適宜変更されるものであるが、長手方向における曲げ誘起部7の範囲の1/2以上であることが好ましい。換言すると、補強部材4の長さは、中空部材10の曲げ方向における幅Wの長さの1/2以上であることが好ましい。また、補強部材4の厚さは、フレーム1の形状や要求されるエネルギ吸収性能、重量制限等に応じて適宜変更されるものである。
本実施形態のフレーム1は以上のように構成されている。このようなフレーム1では、例えば長手方向前方から高荷重が入力された際に、屈曲部5に曲げ変形が生じて座屈する。そのため、屈曲部5にCFRPからなる補強部材4を接合したとしても、CFRPの延性は極めて低いことから、瞬時に破断が発生してしまい、補強部材としての効果を全く発揮しない。一方で、屈曲部5に隣接する隣接部8においては、屈曲部5の変形に追従して面外変形が生じるが、本実施形態のフレーム1においては、中空部材10に補強部材4が接合されていることにより、隣接部8の剛性が向上し、隣接部8における面外変形を抑制することが可能となる。これに伴い、隣接部8では、より高い反力を発生させながら変形が進行するため、フレーム1のエネルギ吸収性能が向上する。また、CFRPの延性は極めて低いものの、隣接部8は瞬時に大変形が発生する訳ではなく、徐々に変形が進行するため、CFRPも変形後期に渡って徐々に破断が進行しながらエネルギー吸収をすることが可能である。したがって、本実施形態のフレーム1においては、軽量化を図りつつ、エネルギ吸収性能の維持または向上を図ることができる。
<4.補強部材の配置例>
以上、本実施形態に係る補強部材4の配置について説明したが、補強部材4の配置は、図1に示した例に限定されない。以下、補強部材4の他の配置例について図7~図14を参照しながら説明する。なお、図7、図9および図12においては、補強部材4の配置に関する説明の便宜のため、第1の構造部材2の図示を省略している。
(第1の配置例)
図7および図8に示すように、本配置例においては、中空部材10の長手方向に垂直な断面において、補強部材4の形状がU字状であり、補強部材4は中空部材10の上側の側壁部2bと下側の側壁部2bの内面にそれぞれ接合されている。詳述すると、補強部材4は、側壁部2b、コーナー部11a、11b、天壁部2aの一部、および底壁部3aの一部の内面に接合されている。このような配置で補強部材4が設けられている場合でも、屈曲部5に隣接する隣接部8の面外変形を抑制することができ、エネルギ吸収性能を向上させることができる。
なお、U字状の補強部材4の先端部4aの長さは、当該先端部4aが接合される壁部(本配置例では天壁部2aまたは底壁部3a)の長さ(一方のR止まりから他方のR止まりまでの長さ)の1/5以上であることが好ましい。これにより、エネルギ吸収性能を効果的に向上させることができる。また、対向する一対の壁部にU字状の補強部材4を配置する場合、曲げ方向に平行な壁部(本配置例では側壁部2b)の内面全体を覆うことが好ましい。これにより、エネルギ吸収性能を効果的に向上させることができる。
(第2の配置例)
図9~図11に示すように、本配置例においては、補強部材4が隣接部8A~8Cの内面全周に加え、中空部材10の隣接部8A~8C以外の部分のコーナー部11a、11bに接合されている。例えば自動車の前面衝突の場合、車両の前方の部材から順に座屈が起こることで衝突エネルギが吸収されていくが、後方に耐力(初期反力)が低い部材が介在していると、前方の部材が座屈する前に後方の部材の座屈が生じ、車両全体として本来有するエネルギ吸収性能を発揮できないおそれがある。一方、本配置例においては、中空部材10における隣接部8A~8C以外の部分のコーナー部11a、11bに補強部材4が接合されていることで、フレーム1に軸方向荷重が入力された際のフレーム1の耐力(初期反力)を大きくすることができる。これにより、車両全体として本来有するエネルギ吸収性能を発揮させやすくすることができる。
(第3の配置例)
図12~図14に示すように、本配置例においては、隣接部8A~8Cに、断面がU字状の補強部材4が接合されると共に、隣接部8A~8C以外の部分においてはコーナー部11a、11bのみに補強部材4が接合されている。本配置例においても、フレーム1の耐力(初期反力)を大きくすることができる。これにより、車両全体として本来有するエネルギ吸収性能を発揮させやすくすることができると共に、質量効率に優れ、エネルギ吸収性能を向上させることができる。
以上、補強部材4の配置例について説明したが、補強部材4の配置は、フレーム1の形状や要求されるエネルギ吸収性能、重量制限等により適宜変更されるものである。
<5.曲げ誘起部の例>
次に、中空部材10に設けられる曲げ誘起部7の例について説明する。上記の実施形態では、曲げ誘起部7に屈曲部5が設けられた例について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、屈曲部を有さない中空部材(例えば、長手方向において略直線状に延びる中空部材を含む)においては、穴部、凹部、凸部、板厚変化部、および異強度部等を含む部分が、曲げ誘起部7としての機能を実現する。穴部、凹部、凸部、および板厚変化部のいずれかが設けられた部分は、中空部材10の長手方向で中空部材10の断面係数が変化する部分である。中空部材10の長手方向で断面係数が変化する部分においては、同一の曲げモーメントにより中空部材10に生じる曲げ応力が変化するので、当該部分において中空部材10の曲げが誘起される。より具体的には、長手方向で中空部材10のうち断面係数が相対的に小さい部分については、当該部分における曲げ応力が相対的に大きくなるので、当該部分において屈曲が生じる。また、長手方向で中空部材10のうち断面係数が相対的に大きい部分については、当該部分の中空部材10の長手方向の前後における領域を含む部分の断面係数が相対的に小さくなる。したがって、当該領域と上記断面係数が相対的に大きい部分との境界部分において屈曲が生じる。
また、異強度部は、中空部材10の長手方向で中空部材10の降伏強度が変化する部分である。中空部材10の長手方向で降伏強度が変化する部分においては、当該部分における中空部材10の塑性変形が誘起される。例えば、長手方向で中空部材10のうち降伏強度が相対的に小さい部分については、当該部分における塑性変形が中空部材10において最初に生じるため、当該部分において屈曲が生じる。また、長手方向で中空部材10のうち降伏強度が相対的に大きい部分については、当該部分の中空部材10の長手方向の前後における領域を含む部分の降伏強度が相対的に小さくなる。したがって、当該領域と上記降伏強度が相対的に大きい部分との境界部分において屈曲が生じる。
また、屈曲部を有さない中空部材において、前述した曲げ誘起部7としての機能を実現する穴部、凹部、凸部、板厚変化部、および異強度部等を含む部分がないとしても、中空部材に加わる荷重入力の方向がある程度特定できる場合は、中空部材と接合する周辺部材の拘束の影響を受けて、中空部材内に曲げモーメントが最大となる領域が存在し、当該領域で屈曲が生じる。そのため中空部材に発生する曲げモーメントを特定できる場合は、曲げモーメントが最大となる領域も曲げ誘起部7としての機能を有している。
以下、中空部材10に設けられる曲げ誘起部7の具体例について説明する。
(穴部)
図15および図16に示す例では、天壁部2aに穴部50が設けられている。穴部50が設けられた部分における中空部材10Aの断面係数は、中空部材10Aの穴部50が設けられた部分の前後における部分の断面係数よりも低い。したがって、衝突荷重Fが中空部材10Aに入力された場合、フレーム1は、穴部50が設けられた部分において、穴部50が曲げ内側となるように屈曲する。
この場合、曲げ誘起部7の範囲は、図15に示すように穴部50の穴中心を起点とした中空部材10Aの長手方向前方の長さLの位置から、穴部50の穴中心を起点とした中空部材10Aの長手方向後方の長さLの位置までの領域となる。長さLは図2に示す中空部材10の幅Wに等しい。補強部材4は、当該曲げ誘起部7に隣接する部分に接合されることで、衝突荷重Fの入力により穴部50の近傍において座屈が生じた際に、フレーム1の面外変形を抑制することができ、フレーム1のエネルギ吸収性能を向上させることができる。
また、穴部の形状および配置については、上述した例に限られない。例えば図17に示すように、複数の穴部50bが天壁部2aに設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、穴部50bが曲げの起点として、中空部材10Aが天壁部2a側に曲げ変形しやすくなる。
また、図18に示すように、中空部材10Aの長手方向に横切る方向に延在する穴部50cが天壁部2aに設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、穴部50cが曲げの起点として、中空部材10Aが天壁部2a側に曲げ変形する。なお、穴部50cの形状は、図18に示す角丸矩形に限定されない。
なお、上述した中空部材10Aの長手方向に横切る方向は、中空部材10Aの長手方向に直交する方向に限定されないが、穴部50が設けられた部分の面において、中空部材10Aの長手方向と当該横切る方向とのなす角が、45度以上90度以下であることが好ましい。これにより、安定した曲げ変形を誘起させることができる。
また、穴部50の設けられる部分は天壁部2aに限られない。例えば、側壁部2bや底壁部3aに穴部50が設けられてもよい。また、穴部50が設けられた部分に対向する部分には、穴部50等が設けられないことが好ましい。例えば、穴部50が天壁部2aに設けられた場合、底壁部3aには別の穴部50の曲げ変形を誘起する部分は設けられないことが好ましい。これは、衝突荷重の入力時に、穴部50が設けられた側に曲げ変形を誘起するためである。
また、図19に示すように、穴部50dが稜線部2dに設けられてもよい。これにより、中空部材10Aのうち長手方向で穴部50dが設けられた部分の断面係数が顕著に低下するので、穴部50dが設けられた部分を曲げの起点とする曲げ変形をより確実に誘起することができる。
(凹部)
図20および図21に示すように、天壁部2aにはビード部51が設けられている。ビード部51は、本実施形態における凹部の一例である。ビード部51が設けられた部分における中空部材10Bの断面係数は、中空部材10Bのビード部51が設けられた部分の前後における部分の断面係数よりも低い。したがって、図20に示す衝突荷重Fが中空部材10Bに入力された場合、フレーム1はビード部51が設けられた部分において、ビード部51が曲げ内側となるように屈曲する。
この場合、曲げ誘起部7の範囲は、図20に示すように凹部の最も深い位置を起点とした中空部材10Bの長手方向前方の長さLの位置から、凹部の最も深い位置を起点とした中空部材10Bの長手方向後方の長さLの位置までの領域となる。長さLは図2に示す中空部材10の幅Wに等しい。補強部材4は、当該曲げ誘起部7に隣接する部分に接合されることで、衝突荷重Fの入力によりビード部51の近傍において座屈が生じた際に、フレーム1の面外変形を抑制することができ、フレーム1のエネルギ吸収性能を向上させることができる。
なお、凹部の形状および配置については、上述した例に限られない。ここでいう凹部とは、エンボスやビードなどの、中空部材10Bの天壁部2a等に設けられる窪み部分を意味する。
図22に示すように、複数の凹部51bが天壁部2aに設けられてもよい。この場合、例えば、複数の凹部51bが、中空部材10Bの長手方向に横切る方向に並んで設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、複数の凹部51bが曲げの起点として、中空部材10Bが天壁部2a側に曲げ変形しやすくなる。
また、図23に示すように、中空部材10Bの長手方向に横切る方向に延在するビード部51cが天壁部2aに設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、ビード部51cが曲げの起点として、中空部材10Bが天壁部2a側に曲げ変形される。なお、ビード部51cの形状は、図23に示す角丸矩形に限定されない。
なお、上述した中空部材10Bの長手方向に横切る方向は、中空部材10Bの長手方向に直交する方向に限定されない。例えば、凹部51が設けられた部分の面において、中空部材10Bの長手方向と当該横切る方向とのなす角は、45度以上90度以下であってもよい。
また、凹部51の設けられる部分は天壁部2aに限られない。例えば、側壁部2bや底壁部3aに凹部51が設けられてもよい。また、凹部51が設けられた部分に対向する部分には、凹部51等が設けられないことが好ましい。例えば、凹部51が天壁部2aに設けられた場合、底壁部3aには別の凹部51の曲げ変形を誘起する部分は設けられないことが好ましい。これは、衝突荷重の入力時に、凹部51が設けられた側に曲げ変形を誘起するためである。
また、図24に示すように、凹部51dが稜線部2dに設けられてもよい。これにより、中空部材10Bのうち長手方向で凹部51dが設けられた部分の断面係数が顕著に変化するので、凹部51dが設けられた部分を曲げの起点とする曲げ変形をより確実に誘起することができる。
上述したような凹部51を設ける場合、凹部51の形態は特に限定されないが、凹部51は以下に示す形態を有することが好ましい。例えば、中空部材10Bが高強度鋼板により形成される場合、成型性の観点から、図25に示すように、凹部51の深さDd(凹部51が設けられた部分の面511と凹部51の底512との間における、平面に直交する方向の長さ)は、中空部材10Bの板厚の3倍以上であることが好ましい。また、中空部材10Bの長手方向における凹部51の縁513同士の距離Ldは、50mm以下であることが好ましい。
図26に示すように、中空部材10Bの長手方向に延在する凹部51e、51fが、中空部材10Bの長手方向に沿って並んで設けられてもよい。この場合、中空部材10Bのうち、長手方向における凹部51eと凹部51fとの間の部分510で曲げが生じる。すなわち、中空部材10Bのうち、凹部51e、51fが設けられた部分と、凹部51eと凹部51fとの間の部分510とでは断面係数が異なるので、衝突荷重の入力時において、当該部分510を曲げの起点として曲げ変形が生じる。この場合、曲げ誘起部7の範囲は、中空部材10Bの長手方向における上記部分510の中央位置を起点とした長手方向前方の長さLの位置から、上記部分510の中央位置を起点とした長手方向後方の長さLの位置までの領域となる。なお、この場合においても、中空部材10Bが高強度鋼板により形成される場合、成型性の観点から、凹部51e、51fの深さDdは、中空部材10Bの板厚の3倍以上であることが好ましい。また、当該部分510には、凹部、後述する凸部、薄肉部または異強度部等が形成されていてもよい。
凹部51eおよび凹部51fは、図26に示すように、必ずしも直列に並んでいなくてもよい。また、凹部51eおよび凹部51fは、必ずしも中空部材10Bの長手方向に延在していなくてもよい。例えば、凹部51eおよび凹部51fが設けられた部分の面において、中空部材10Bの長手方向と凹部51eおよび凹部51fの延在方向とのなす角は、0度以上45度以下であってもよい。
(凸部)
図27および図28に示すように、天壁部2aには凸部52が設けられている。凸部52が設けられた部分における中空部材10Cの断面係数は、中空部材10Cの凸部52が設けられた部分の長手方向前後における部分の断面係数よりも高い。したがって、衝突荷重Fが中空部材10Cに入力された場合、中空部材10Cの長手方向における凸部52の前後の領域6aまたは6bのうち、最も断面係数が低くなる部分において、凸部52が曲げ内側となるように屈曲する。なお、この領域6aおよび6bは、X軸方向における、中空部材10Cの断面係数の変化が生じる領域である。
この場合、曲げ誘起部7の範囲は、図27に示すように凸部52の頂部を起点とした中空部材10Cの長手方向前方の長さLの位置から、凸部52の頂部を起点とした中空部材10Cの長手方向後方の長さLの位置までの領域となる。長さLは図2に示す中空部材10の幅Wに等しい。補強部材4は、当該曲げ誘起部7に隣接する部分に接合されることで、衝突荷重Fの入力により凸部の近傍において座屈が生じた際に、フレーム1の面外変形を抑制することができ、フレーム1のエネルギ吸収性能を向上させることができる。
なお、図27および図28に示した例では、天壁部2aに凸部52が設けられるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、凸部52は、側壁部2bまたは底壁部3aに設けられてもよい。より具体的に説明すると、凸部52が、中空部材10の長手方向の一部における同一断面上において一対の側壁部2bおよび底壁部3aに設けられた場合、中空部材10の長手方向における断面係数は、凸部52が設けられた部分で変化するので、フレーム1の曲げが、凸部52が設けられた部分において生じ得る。したがって、この場合においても、凸部52を含む部分が曲げ誘起部7となる。
また、凸部の形状および配置については、上述した例に限られない。ここでいう凸部は、例えば、中空部材10の加工等により実現される。すなわち、かかる凸部は、中空部材10Cを構成する鋼板の一部を変形させて設けられるものであってもよい。
また、図29に示すように、複数の凸部52bが天壁部2aに設けられてもよい。この場合、例えば、複数の凸部52bが、中空部材10Cの長手方向に横切る方向に並んで設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、中空部材10Cの長手方向における複数の凸部52bの前後の領域のいずれかが曲げの起点として、中空部材10Cが天壁部2a側に曲げ変形しやすくなる。
また、図30に示すように、中空部材10Cの長手方向に横切る方向に延在する凸部52cが天壁部2aに設けられてもよい。この場合、衝突荷重の入力時において、中空部材10Cの長手方向における凸部52cの前後の領域のいずれかが曲げの起点として、中空部材10Cが天壁部2a側に曲げ変形する。なお、凸部52cの形状は、図30に示す角丸矩形に限定されない。
なお、上述した中空部材10Cの長手方向に横切る方向は、中空部材10Cの長手方向に直交する方向に限定されない。例えば、凸部52が設けられた部分の面において、中空部材10Cの長手方向と当該横切る方向とのなす角が、45度以上90度以下であればよい。
また、凸部52の設けられる部分は天壁部2aに限られない。例えば、側壁部2bや底壁部3aに凸部52が設けられてもよい。また、凸部52が設けられた部分に対向する部分には、凸部52等が設けられないことが好ましい。例えば、凸部52が天壁部2aに設けられた場合、底壁部3aには別の凸部52等の曲げ変形を誘起する部分は設けられないことが好ましい。衝突荷重の入力時に、凸部52が設けられた側に曲げ変形を誘起するためである。
また、図31に示すように、凸部52dが稜線部2dに設けられてもよい。これにより、中空部材10Cのうち長手方向で凸部52dが設けられた部分の断面係数が顕著に変化するので、凸部52dが設けられた部分を曲げの起点とする曲げ変形をより確実に誘起することができる。
上述したような凸部52を設ける場合、凸部52の形態は特に限定されないが、凸部52は以下に示す形態を有することが好ましい。例えば、中空部材10Cが高強度鋼板により形成される場合、成型性の観点から、図32に示すように、凸部52の高さHd(凸部52が設けられた部分の面521と凸部52の頂522との間における、平面に直交する方向の長さ)は、中空部材10Cの板厚の3倍以上であることが好ましい。また、中空部材10Cの長手方向における凸部52の縁523同士の距離Ldは、50mm以下であることが好ましい。
図33に示すように、中空部材10Cの長手方向に延在する凸部52e、52fが、中空部材10Cの長手方向に沿って並んで設けられてもよい。この場合、中空部材10Cのうち、長手方向における凸部52eと凸部52fとの間の部分520で曲げが生じる。すなわち、中空部材10Cのうち、凸部52e、52fが設けられた部分と、凸部52eと凸部52fとの間の部分520とでは断面係数が異なるので、衝突荷重の入力時において、当該部分520を曲げの起点として曲げ変形が生じる。この場合、曲げ誘起部7の範囲は、中空部材10Cの長手方向における上記部分520の中央位置を起点とした長手方向前方の長さLの位置から、上記部分520の中央位置を起点とした長手方向後方の長さLの位置までの領域となる。なお、この場合においても、中空部材10Cが高強度鋼板により形成される場合、成型性の観点から、凸部52e、52fの高さ(Hd)は、中空部材10Cの板厚の3倍以上であることが好ましい。また、当該部分520には、上述した凹部、凸部または後述する薄肉部もしくは異強度部等が形成されていてもよい。
なお、凸部52eおよび凸部52fは、図33に示すように、必ずしも直列に並んでいなくてもよい。また、凸部52eおよび凸部52fは、必ずしも中空部材10Cの長手方向に延在していなくてもよい。例えば、凸部52eおよび凸部52fが設けられた部分の面において、中空部材10Cの長手方向と凸部52eおよび凸部52fの延在方向とのなす角は、0度以上45度以下であればよい。
(板厚変化部・薄肉部)
また、天壁部2aには曲げ誘起部7を実現する構成として板厚変化部が設けられてもよい。ここでいう板厚変化部とは、中空部材10Dの長手方向において板厚が変化する部分を意味する。図34に示すように、中空部材10Dは、第1板厚部111および第2板厚部112を備える。第1板厚部111は中空部材10Dの端部側に設けられ、第2板厚部112は、中空部材10Dの長手方向に沿って第1板厚部111と連続して設けられる。第1板厚部111と第2板厚部112との間では、鋼板の板厚が異なる。板厚の大小関係については特に限定されないが、中空部材10D全体の曲げ剛性の確保の観点から、第2板厚部112の板厚が第1板厚部111の板厚よりも大きいことが好ましい。
この場合、図34に示すように、第1板厚部111と第2板厚部112との境目の部分が板厚変化部113となる。この板厚変化部113において中空部材10Dの長手方向での断面係数が変化する。すなわち、板厚変化部113を含む部分が曲げ誘起部7に相当する。したがって、衝突荷重が中空部材10Dに入力された場合、フレーム1は板厚変化部113において屈曲する。
この場合、曲げ誘起部7の範囲は、板厚変化部113を起点とした中空部材10Dの長手方向前方の長さLの位置から、板厚変化部113を起点とした中空部材10Dの長手方向後方の長さLの位置までの領域となる。長さLは図2に示す中空部材10の幅Wに等しい。補強部材4は、当該曲げ誘起部7に隣接する部分に接合されることで、衝突荷重Fの入力により板厚変化部113の近傍において座屈が生じた際に、フレーム1の面外変形を抑制することができ、フレーム1のエネルギ吸収性能を向上させることができる。
また、曲げ誘起部7は、例えば、薄肉部により実現されてもよい。図35に示すように、天壁部2aには、中空部材10Dの長手方向前後において、他の部分よりも相対的に板厚が薄い薄肉部114が設けられている。薄肉部114を含む部分における中空部材10の断面係数は、中空部材10の、薄肉部114が設けられた部分の長手方向前後における部分の中空部材10の断面係数よりも低い。すなわち、中空部材10Dのうち薄肉部114を含む部分が曲げ誘起部7に相当する。したがって、衝突荷重が中空部材10Dに入力された場合、フレーム1は薄肉部が設けられた部分において、薄肉部が曲げ内側となるように屈曲する。
この場合、曲げ誘起部7の範囲は、中空部材10の長手方向における薄肉部114の中央位置を起点とした長手方向前方の長さLの位置から、薄肉部114の中央位置を起点とした長手方向後方の長さLの位置までの領域となる。長さLは図2に示す中空部材10の幅Wに等しい。補強部材4は、当該曲げ誘起部7に隣接する部分に接合されることで、衝突荷重Fの入力により薄肉部114の近傍において座屈が生じた際に、フレーム1の面外変形を抑制することができ、フレーム1のエネルギ吸収性能を向上させることができる。
かかる板厚変化部を有する中空部材10Dは、例えば、切削、プレス、およびテーラードブランクからなる被加工板により形成されてもよい。かかる被加工板は、溶接線を有するテーラーウェルドブランク(Tailor Welded Blank;TWB)であってもよい。また、上記被加工板は、圧延ロールにより板厚を異ならせて設けられるテーラーロールドブランク(Tailor Rolled Blank;TRB)であってもよい。TWBにおいては、板厚変化部における差厚は0.2mm以上とすることが可能である。また、TRBにおいては、部材長手方向当たりの板厚変化部における板厚変化量は、0.1mm/100mm以上とすることが可能である。
(異強度部・強度変化部)
図36に示す例では、天壁部2aには異強度部53が設けられている。異強度部53は、例えば、中空部材10Eに対して部分的に溶接、焼き入れまたは焼き戻し等の熱処理等を行うことにより設けられる。異強度部53が設けられた部分における中空部材10Eの降伏強度は、中空部材10Eの異強度部53が設けられた部分の長手方向前後における部分の降伏強度とは異なる。したがって、図36に示す衝突荷重Fが中空部材10Eに入力された場合、異強度部53または異強度部53の近傍において、異強度部53が曲げ内側となるように屈曲する。この屈曲は、異強度部53または異強度部53の近傍の領域が塑性変形することにより生じる屈曲である。
この場合、曲げ誘起部7の範囲は、中空部材10Eの長手方向における異強度部53の中央位置を起点とした長手方向前方の長さLの位置から、中空部材10Eの長手方向における異強度部53の中央位置を起点とした長手方向後方の長さLの位置までの領域となる。長さLは図2に示す中空部材10の幅Wに等しい。補強部材4は、当該曲げ誘起部7に隣接する部分に接合されることで、衝突荷重Fの入力により異強度部53の近傍において座屈が生じた際に、フレーム1の面外変形を抑制することができ、フレーム1のエネルギ吸収性能を向上させることができる。
なお、図36に示した例では、天壁部2aに異強度部53が設けられるとしたが、本発明はかかる例に限定されない。例えば、異強度部53は、側壁部2bまたは底壁部3aに設けられてもよい。より具体的に説明すると、異強度部53が、中空部材10Eの長手方向の一部における同一断面上において一対の側壁部2bおよび底壁部3aに設けられた場合、当該断面上において天壁部2aの強度が最も低くなる。そうすると、天壁部2aを曲げ内側とするフレーム1の曲げが、異強度部53において生じ得る。したがって、この場合においても、異強度部53を含む部分が曲げ誘起部7となる。
また、異強度部の配置については、上述した例に限られない。ここでいう異強度部は、中空部材10Eを形成する被加工板に対する溶接または熱処理等により実現される。
図37に示すように、中空部材10Eの長手方向に対する断面周方向に沿って異強度部120が設けられている。この場合も、曲げ誘起部7の範囲は、中空部材10Eの長手方向における異強度部120の中央位置を起点とした長手方向前方の長さLの位置から、異強度部120の中央位置を起点とした長手方向後方の長さLの位置までの領域となる。
なお、かかる異強度部は、例えば、図38に示したように、天壁部2a等、中空部材10Eの断面を構成する壁部の少なくともいずれかに部分的に設けられてもよい。かかる場合においても、衝突荷重が中空部材10Eに入力された場合、フレーム1は異強度部121が設けられた部分において、異強度部121が曲げ内側となるように屈曲する。
また、曲げ誘起部7は、例えば、強度変化部により実現されてもよい。図39に示すように、中空部材10Eは、第1強度部122および第2強度部123を備える。第1強度部122は中空部材10Eの端部側に設けられ、第2強度部123は、中空部材10Eの長手方向に沿って第1強度部122と連続して設けられる。第1強度部122と第2強度部123との間では、鋼板の降伏強度が異なる。降伏強度の大小関係については特に限定されないが、中空部材10E全体としての曲げ剛性の確保の観点から、第2強度部123の降伏強度が第1強度部122の降伏強度よりも大きいことが好ましい。
この場合、第1強度部122と第2強度部123との境目の部分が強度変化部124となる。この強度変化部124において中空部材10Eの長手方向での降伏強度が変化する。曲げ誘起部7の範囲は、中空部材10Eの長手方向における強度変化部124の中央位置を起点とした長手方向前方の長さLの位置から、強度変化部124の中央位置を起点とした長手方向後方の長さLの位置までの領域となる。長さLは図2に示す中空部材10の幅Wに等しい。補強部材4は、当該曲げ誘起部7に隣接する部分に接合されることで、衝突荷重Fの入力により強度変化部124の近傍において座屈が生じた際に、フレーム1の面外変形を抑制することができ、フレーム1のエネルギ吸収性能を向上させることができる。
(組み合わせ)
なお、屈曲部を有する中空部材において、屈曲部の曲げ内側部分に上記の例に示した穴部等の曲げを誘起させるための部分がさらに設けられてもよい。図40に示すように、中空部材10には屈曲部5Aが設けられ、天壁部2aの曲げ内側部分には穴部54が設けられる。補強部材4は屈曲部5における側壁部2bの内面に密着して配置される。これにより、衝突荷重Fの入力により、屈曲部5において中空部材10をより確実に屈曲させることができる。
曲げ誘起部7は図40に示した例に限られず、上記に示した曲げ誘起部7の例を複数組み合わせることにより、曲げ誘起部7における中空部材10の屈曲をより確実に生じさせることができる。例えば、上述した屈曲部、凹部、凸部、穴部、板厚変化部、薄肉部、異強度部および強度変化部の少なくとも2つ以上の組み合わせにより、曲げ誘起部7が実現されてもよい。
<6.中空部材の閉断面の形状の例>
次に、中空部材10の有する閉断面の形状の例について説明する。図41に示す例では、中空部材10の閉断面は、Y軸について対称な略六角形の形状を有する。このうち、第1の構造部材2のY軸方向に略直交する部分において、4つの頂点2d、2d、2f、2fが存在する。ここで、頂点2dの内角ang1が各頂点2fのうち、各ang2より小さい場合、頂点2dが稜線部2dとして定義される。すなわち、頂点2f、2fを含む、一対の稜線部2dに挟まれる部分が、天壁部2aと定義される。
図42に示す例では、第1の構造部材2および第2の構造部材30は、ハット形の断面形状を有する。すなわち、中空部材10は、ハット形の断面形状を有する2つの構造部材により形成される。この場合、第1の構造部材2の側壁部2bおよび第2の構造部材30の側壁部30bは、第1の構造部材2の稜線部2eと第2の構造部材30の稜線部30eとを介して、稜線部2dと稜線部30dとを両端とする連続した一つの側壁部(連続側壁部)として定義される。すなわち、中空部材10の閉断面は、天壁部2aと、一対の連続側壁部と、天壁部30a(底壁部に相当)により形成される。
また、中空部材10、および中空部材10の有する閉断面の形状は、図1、図41および図42に示した例に限定されない。中空部材10の有する閉断面の形状が略多角形であり、当該閉断面を形成する天壁部、一対の側壁部および底壁部に相当する部分が定義できれば、本発明に係る技術は中空部材10に対して適用可能である。例えば、中空部材は、フランジ部2cのない一体の断面、つまり角柱断面であってもよい。また、U字形の断面形状を有する2つの構造部材を、開口部分が対向するように重ねあわせることにより得られる閉断面を有する中空部材であってもよい。また、中空部材は、円管に対してハイドロフォーミングまたは曲げ加工等を行うことにより形成される中空部材であってもよい。
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
本発明に係るフレームのエネルギ吸収性能を評価するため、衝突シミュレーションを実施した。シミュレーションに用いた解析モデルのフレームは下記表1に示す条件で作成されている。
解析モデルの第1の構造部材および第2の構造部材の形状は図1に示すものと同形状である。このため、曲げ誘起部7には屈曲部が含まれる。また、補強部材としてはCFRPからなるCFRP部材を用いている。上記表1に示される構造1、および構造2においては補強部材4が設けられていない。構造2は、構造1の中空部材10を高強度化および薄肉化したものである。構造3では、図43および図44に示すように長手方向全域にわたって中空部材10の内面全周に補強部材4が接合されている。構造4では、図45および図46に示すように長手方向全域にわたって中空部材10のコーナー部11a、11bにのみ補強部材4が接合されている。構造5では、図47および図48に示すように、曲げ誘起部7A、7Bの内面全周に補強部材4が接合されており、隣接部8A~8Cには補強部材4は接合されていない。構造6~構造13までの補強部材4の配置は上記実施形態で説明したものである。構造2は構造1に対して31%軽量化されている。構造3~構造13においては、補強部材の配置が異なるものもあるが、重量同一の条件の下でエネルギ吸収性能を比較するため、各構造ともに構造1に対して23%の軽量化となるように適宜板厚を変更した。
構造7の補強部材は中空部材の長手方向と繊維方向とのなす角が0°となる単層構造ものであり、構造8の補強部材は中空部材の長手方向と繊維方向とのなす角が90°となる単層構造ものであり、構造9の補強部材は中空部材の長手方向と繊維方向とのなす角が45°である層と、空部材の長手方向と繊維方向とのなす角が-45°である層とを有する複層構造のものである。構造10の補強部材はマトリックスの樹脂中に不連続繊維を含浸させシート状に加工した、シート形成複合材料である。構造7~10以外の構造の補強部材は、中空部材の長手方向と繊維方向とのなす角が0°である層と、空部材の長手方向と繊維方向とのなす角が90°である層とを有する複層構造のものである。
衝突シミュレーションは、質量200kgのインパクタをフレームの前端部に12m/sで衝突させることで実施された。そして、インパクタの200mmストローク時におけるエネルギ吸収量を算出し、各解析モデルのエネルギ吸収性能を比較した。
図49は構造1~構造6のエネルギ吸収性能を示す図である。なお、図49では各解析モデルのエネルギ吸収量を構造1のエネルギ吸収量で規格化している。図49に示すように、構造1に対して高強度化および薄肉化した構造2においては、構造1よりもエネルギ吸収性能が低下した。すなわち、フレームの軽量化のために大幅に板厚を薄くしており、それを補うために鋼板の強度を高めてはいるが、鋼板の強度が不足しているためエネルギ吸収性能を維持することができていない。一方、中空部材の隣接部の内面全周に補強部材が接合された構造6においては、構造1よりもエネルギ吸収性能を向上させることができた。上記表1に示すように、構造6は構造1に対して23%軽量化されているため、構造6はフレームを軽量化させつつ、エネルギ吸収性能を向上させることができる。
なお、曲げ誘起部の内面全周に補強部材が接合された構造3および構造5においては、エネルギ吸収性能を十分に向上させることができなかった。これは、補強部材として用いたCFRP部材は延性が小さいために、曲げ誘起部に補強部材が接合されていると、衝突時に生じる曲げ誘起部の座屈に伴って補強部材が早期に破断し、補強部材による面外変形の抑制効果が十分に得られないためと推察される。また、構造3に関しては、構造6の場合と同様に隣接部の内面全周に補強部材が接合されているものの、曲げ誘起部における補強部材の破断の影響が隣接部に接合されている部分の補強部材に及び、当初から隣接部にだけ補強部材が接合されている構造6に比べて面外変形の抑制効果が小さくなったと推察される。
図50は構造1、および構造6~10のエネルギ吸収性能を示す図である。なお、図50では各解析モデルのエネルギ吸収量を構造1のエネルギ吸収量で規格化している。構造6~10は、補強部材の接合箇所が全て同一であるが、繊維方向がそれぞれ異なっている。図50に示すように、繊維方向が中空部材の長手方向に平行である単層構造の構造7においては、構造1に対してエネルギ吸収性能が低下した。一方、繊維方向が中空部材の長手方向に垂直である単層構造の構造8、繊維方向が異なる層を有する複層構造の構造9、および不連続繊維の構造10においては、構造1と同等のエネルギ吸収性能を得ることができた。なお、上記表1に示すように、構造7~10の構造1に対する軽量化率は23%であるため、補強部材の厚さを厚くすることで、エネルギ吸収性能を向上させることができる。このため、構造7のフレームであっても、構造1に対して軽量化を図りつつ、エネルギ吸収性能を維持または向上させることができる。
図51は構造1、構造6、および構造11~13のエネルギ吸収性能を示す図である。なお、図51では各解析モデルのエネルギ吸収量を構造1のエネルギ吸収量で規格化している。図51に示すように、構造11~13においては、構造1よりもエネルギ吸収性能を向上させることができる。上記表1に示すように、構造11~13は構造1に対して23%軽量化されているため、構造11~13はフレームを軽量化させつつ、エネルギ吸収性能を向上させることができる。
図52は構造6、および構造11~13の初期反力の最大値と、構造1の初期反力の最大値との比を示す図である。初期反力の最大値は、衝突の初期段階、すなわち曲げ誘起部における座屈が生じる前の最大荷重に相当する。中空部材の隣接部以外の部分におけるコーナー部の内面に補強部材が接合された構造12および構造13においては、前述の図51で示したようにエネルギ吸収性能については構造6に対して大きな違いは生じなかったが、図52に示すように初期反力については構造6に対して大きくなった。したがって、中空部材の隣接部以外の部分におけるコーナー部の内面に補強部材が接合されることで、衝突時のフレームの初期反力を高めることができ、車両全体として本来有するエネルギ吸収性能を発揮させやすくすることができる。