JPWO2020017607A1 - 鋼板 - Google Patents

鋼板 Download PDF

Info

Publication number
JPWO2020017607A1
JPWO2020017607A1 JP2019563300A JP2019563300A JPWO2020017607A1 JP WO2020017607 A1 JPWO2020017607 A1 JP WO2020017607A1 JP 2019563300 A JP2019563300 A JP 2019563300A JP 2019563300 A JP2019563300 A JP 2019563300A JP WO2020017607 A1 JPWO2020017607 A1 JP WO2020017607A1
Authority
JP
Japan
Prior art keywords
less
steel sheet
content
area ratio
mass
Prior art date
Legal status (The legal status is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the status listed.)
Granted
Application number
JP2019563300A
Other languages
English (en)
Other versions
JP6669325B1 (ja
Inventor
林 宏太郎
宏太郎 林
宏志 海藤
宏志 海藤
上西 朗弘
朗弘 上西
力 岡本
力 岡本
Current Assignee (The listed assignees may be inaccurate. Google has not performed a legal analysis and makes no representation or warranty as to the accuracy of the list.)
Nippon Steel Corp
Original Assignee
Nippon Steel Corp
Priority date (The priority date is an assumption and is not a legal conclusion. Google has not performed a legal analysis and makes no representation as to the accuracy of the date listed.)
Filing date
Publication date
Application filed by Nippon Steel Corp filed Critical Nippon Steel Corp
Application granted granted Critical
Publication of JP6669325B1 publication Critical patent/JP6669325B1/ja
Publication of JPWO2020017607A1 publication Critical patent/JPWO2020017607A1/ja
Active legal-status Critical Current
Anticipated expiration legal-status Critical

Links

Classifications

    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C21METALLURGY OF IRON
    • C21DMODIFYING THE PHYSICAL STRUCTURE OF FERROUS METALS; GENERAL DEVICES FOR HEAT TREATMENT OF FERROUS OR NON-FERROUS METALS OR ALLOYS; MAKING METAL MALLEABLE, e.g. BY DECARBURISATION OR TEMPERING
    • C21D9/00Heat treatment, e.g. annealing, hardening, quenching or tempering, adapted for particular articles; Furnaces therefor
    • C21D9/46Heat treatment, e.g. annealing, hardening, quenching or tempering, adapted for particular articles; Furnaces therefor for sheet metals
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C22METALLURGY; FERROUS OR NON-FERROUS ALLOYS; TREATMENT OF ALLOYS OR NON-FERROUS METALS
    • C22CALLOYS
    • C22C38/00Ferrous alloys, e.g. steel alloys
    • CCHEMISTRY; METALLURGY
    • C22METALLURGY; FERROUS OR NON-FERROUS ALLOYS; TREATMENT OF ALLOYS OR NON-FERROUS METALS
    • C22CALLOYS
    • C22C38/00Ferrous alloys, e.g. steel alloys
    • C22C38/60Ferrous alloys, e.g. steel alloys containing lead, selenium, tellurium, or antimony, or more than 0.04% by weight of sulfur

Abstract

優れた伸び特性及び高強度を有し、さらに、くびれを伴う延性破壊が生じる含有Mn濃度の高い鋼板を提供する。C、Si、sol.Al及びMoを所定量含み、さらに質量%でMn:4.00%超9.00%未満及びB:0.0003%以上0.010%以下、P:0.023%以下、S:0.010%以下、N:0.050%未満、O:0.020%未満、及び任意に選択される元素を含有し、Mn及びMoを、25≦[Mn]/[Mo]≦150を満たす範囲に制限し、式中[Mn]及び[Mo]はMn及びMoの含有量(質量%)であり、残部が鉄および不純物であり、L断面において表面から厚みの1/4位置における金属組織が、面積率で40%以上90%以下の焼き戻しマルテンサイトを含み、焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度が、鋼板の平均Mo含有量の1.03倍以上1.15倍以下であること特徴とする鋼板。

Description

本開示は、優れた延性を有する鋼板に関係し、具体的には優れた伸び特性及び高強度を有し、さらに、引張り時にくびれを伴う延性破壊が生じる含有Mn濃度の高い鋼板に関係する。
自動車の車体及び部品等の、軽量化と安全性との両方を達成するために、これらの素材である鋼板の高強度化が進められている。一般に、鋼板を高強度化すると、伸びが低下し、鋼板の成形性が損なわれる。したがって、自動車用の部材として高強度鋼板を使用するためには、相反する特性である強度と成形性との両方を高める必要がある。
引張強度と伸びとを向上させるために、これまでに、残留オーステナイトの変態誘起塑性を利用した、いわゆるTRIP鋼が提案されている(例えば、特許文献1)。
残留オーステナイトは、Cをオーステナイト中に濃化させることによって、オーステナイトが室温でも他の組織に変態しないようにすることによって得られる。オーステナイトを安定化させる技術として、Si及びAl等の炭化物析出抑制元素を鋼板に含有させて、鋼板の製造段階において鋼板に生じるベイナイト変態の間にオーステナイト中にCを濃化させることが提案されている。この技術では、鋼板に含有させるC含有量が多ければ、オーステナイトがさらに安定化し、残留オーステナイト量を増やすことができ、その結果、強度と伸びとの両方が優れた鋼板を造ることができる。しかしながら、鋼板が構造部材に使用される場合、鋼板に溶接が行われることが多いが、鋼板中のC含有量が多いと溶接性を十分確保することが困難となり、構造部材として使用することに制限がかかる。したがって、より少ないC含有量で、鋼板の強度と伸びとの両方を向上することが望まれている。
C含有量が上記TRIP鋼よりも少なく、さらに、残留オーステナイト量が上記TRIP鋼よりも多く、強度と延性とが上記TRIP鋼を超える鋼板として、4.0質量%超のMnを添加した鋼が提案されている(例えば、非特許文献1)。
特許文献2には、3.5質量%以上のMnを添加した鋼板であって、フェライトを面積率(面積%)で30〜80%に制御することによって引張強度及び伸び性が優れる鋼板が開示されている。
特開平5−59429号公報 特開2012−237054号公報
古川敬、松村理、熱処理、日本国、日本熱処理協会、平成9年、第37号巻、第4号、p.204
自動車用の部材として高強度鋼板を使用するためには、溶接性を低下させずに、相反する特性である強度と成形性とを確保することが望まれる。具体的には、優れた伸び特性及び高強度を有することが望まれる。
しかしながら、例えば上述した特許文献1及び特許文献2並びに非特許文献1に開示されているような4.0%超のMnを含有する鋼においては、粒界及び異相界面が脆弱になると考えられ、引張り時にくびれがほとんど生じずに、脆性的に破壊しやすくなる。そのため、引張強度及び伸びが良好でも、実質的な引張特性については改善の余地が残る。
したがって、優れた伸び特性及び高強度を有し、さらに、引張り時にくびれを伴う延性破壊が生じる含有Mn濃度の高い鋼板が望まれている。
含有Mn濃度の高い鋼板において、優れた伸び特性及び高強度を確保し、さらに、くびれを伴う延性破壊を生じさせるために、本発明者らは、含有Mn濃度の高い鋼板のP含有量を0.023質量%以下、Mо含有量を0.030質量%以上0.500質量%以下、及びB含有量を0.0003質量%以上0.010質量%以下の範囲に制御し、さらに、Mn含有量とMo含有量との比を特定範囲に制御することが有効であると知見した。
本開示の鋼板は上記知見に基づいてなされたものであり、その要旨は以下のとおりである。
(1)質量%で、
C:0.18%超0.45%未満、
Si:0.001%以上3.50%未満、
Mn:4.00%超9.00%未満、
sol.Al:0.001%以上2.00%未満、
Mo:0.030%以上0.500%以下、
B:0.0003%以上0.010%以下、
P:0.023%以下、
S:0.010%以下、
N:0.050%未満、
O:0.020%未満、
Cr:0.00%以上2.00%未満、
W:0.00%以上2.00%以下、
Cu:0.00%以上2.00%以下、
Ni:0.00%以上2.00%以下、
Ti:0.000%以上0.300%以下、
Nb:0.000%以上0.300%以下、
V:0.000%以上0.300%以下、
Ca:0.000%以上0.010%以下、
Mg:0.000%以上0.010%以下、
Zr:0.000%以上0.010%以下、
REM:0.000%以上0.010%以下、
Sb:0.000%以上0.050%以下、
Sn:0.000%以上0.050%以下、及び
Bi:0.000%以上0.050%以下を含有し、
さらに、Mn及びMoを式(1):
25≦[Mn]/[Mo]≦150 (1)
を満たす範囲に制限し、式中、[Mn]及び[Mo]はそれぞれ、Mn及びMoの含有量(質量%)であり、
残部が鉄および不純物であり、
L断面において表面から厚みの1/4位置における金属組織が、面積率で、40%以上90%以下の焼き戻しマルテンサイトを含み、
前記焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度が、鋼板の平均Mo含有量の1.03倍以上1.15倍以下である
こと特徴とする鋼板。
(2)質量%で、
Cr:0.01%以上2.00%未満、
W:0.01%以上2.00%以下、
Cu:0.01%以上2.00%以下、及び
Ni:0.01%以上2.00%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)に記載の鋼板。
(3)質量%で、
Ti:0.005%以上0.300%以下、
Nb:0.005%以上0.300%以下、及び
V:0.005%以上0.300%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の鋼板。
(4)質量%で、
Ca:0.0001%以上0.0100%以下、
Mg:0.0001%以上0.0100%以下、
Zr:0.0001%以上0.0100%以下、及び
REM:0.0001%以上0.0100%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の鋼板。
(5)質量%で、
Sb:0.0005%以上0.0500%以下、
Sn:0.0005%以上0.0500%以下、及び
Bi:0.0005%以上0.0500%以下
の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の鋼板。
(6)前記鋼板のL断面において表面から厚みの1/4位置における金属組織が、面積率で、15%以上75%以下の残留オーステナイトを含むことを特徴とする、上記(1)〜(5)のいずれかに記載の鋼板。
(7)前記鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の鋼板。
(8)前記鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする、上記(1)〜(6)のいずれかに記載の鋼板。
本開示によれば、優れた伸び特性及び高強度を有し、さらに、くびれを伴う延性破壊が生じる含有Mn濃度の高い鋼板を提供することができる。
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、含有Mn濃度の高い鋼板のP含有量を0.023質量%以下、Mо含有量を0.030質量%以上0.500質量%以下、及びB含有量を0.0003質量%以上0.010質量%以下の範囲に制御し、さらに、Mn含有量とMo含有量との比を特定範囲に制御することが有効であると知見した。
P含有量を上記範囲に制限し、Mo含有量及びB含有量を上記範囲とし、Mn含有量とMo含有量との比を特定範囲に制御することで、焼き戻しマルテンサイト粒内にMoが拡散及び濃化しつつ、BがPよりも先に粒界偏析することでPが粒界に偏析することを防ぐ。さらにはMoによる強度向上効果が得られ、粒界脆化が抑制され、破断特性も改善する。これにより、優れた伸び特性及び高強度を有し、さらに、引張り時にくびれを伴う延性破壊が生じる含有Mn濃度の高い鋼板を得ることができる。このような鋼板は、上述した先行技術文献には何ら開示及び示唆がされておらず、従来よりも優れた自動車構造部材用の鋼板を得ることができる。
以下、本開示の鋼板の実施形態の例を説明する。
1.化学組成
本開示の鋼板の化学組成を上述のように規定した理由を説明する。以下の説明において、各元素の含有量を表す「%」は特に断りがない限り質量%を意味する。
(C:0.18%超0.45%未満)
Cは、鋼の強度と伸び特性とを高めるために、極めて重要な元素である。十分な引張強度を得るためには、0.18%超のC含有量が必要となる。一方、Cを過剰に含有すると鋼板の溶接性を損なうので、C含有量の上限を0.45%未満とした。引張強度と全伸びとを高める点から、C含有量の下限値は、好ましくは0.20%以上、より好ましくは0.24%以上である。また、C含有量の下限値を0.24%以上にすると、面積率で、残留オーステナイトが20%以上となる。さらに、C含有量の下限値を0.24%以上にし、かつ、後述するB含有量を0.0005%以上0.0040%以下に制御することで、引張強度と全伸びとの積をさらに向上させることができる。C含有量の上限値は、好ましくは0.40%以下、より好ましくは0.35%以下であり、C含有量の上限値を上記範囲にすることによって、鋼板の溶接性をより高めることができる。
(Si:0.001%以上3.50%未満)
Siは、セメンタイトの析出と粗大化とを抑制し、焼鈍中に生成するオーステナイトを制御しやすくする作用も有する。上記効果を得るために、0.001%以上のSi含有量が必要となる。Si含有量の下限値は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.40%以上である。また、Siの含有量が1.00%以上になると、強度−延性バランスを保ちつつ疲労特性を向上させることができるので、Si含有量の下限値は、さらに好ましくは1.00%以上である。一方、Siを過剰に含有すると鋼板のメッキ性や化成処理性を損なうので、Si含有量の上限値を3.50%未満とした。さらに、Si含有量の上限値は、好ましくは3.00%以下、より好ましくは2.50%以下である。
(Mn:4.00%超9.00%未満)
Mnは、引張強度と全伸びとを高める元素である。4.00%超のMnを含有させることで、引張強度及び引張強度と全伸びとの積を向上することができる。また、本開示の鋼板においては、Mnをオーステナイト中に分配させ、よりオーステナイトを安定化させる。Mn含有量の下限値は、好ましくは4.30%以上、より好ましくは4.80%以上である。Mnの含有量が5.40%以上になると、面積率で、残留オーステナイトが20%以上になるので、Mn含有量の下限値は、さらに好ましくは5.40%以上となる。すなわち、Cが0.24%以上、および/またはMnが5.40%以上含有されていれば、面積率で、残留オーステナイトが20%以上となる。Mnの含有量は、さらにより好ましくは6.00%以上である。Mnの含有量が6.00%以上であれば、面積率で、残留オーステナイトが30%以上となり、機械特性がさらに向上する。一方、鋼板がMnを過剰に含有すると延性を損なわれ、脆性的に破壊するので、Mn含有量の上限を9.00%未満とした。Mn含有量の上限値は、好ましくは8.50%以下、より好ましくは8.20%以下である。Mn含有量の下限値及び上限値を上記範囲にすることによって、さらにオーステナイトを安定化させることができる。
(sol.Al:0.001%以上2.00%未満)
Alは、脱酸剤であり、0.001%以上含有させる必要がある。また、Alは、焼鈍時の二相温度域を広げるため、材質安定性を高める作用も有する。Alの含有量が多いほどその効果は大きくなるが、Alを過剰に含有させると、鋳造性などの劣化を招くので、sol.Alの上限を2.00%未満とした。sol.Al含有量の下限値は、好ましくは0.005%以上、より好ましくは0.010%以上、さらに好ましくは0.020%以上である。sol.Al含有量の上限値は、好ましくは1.20%以下、より好ましくは0.60%以下である。sol.Al含有量の下限値及び上限値を上記範囲にすることによって、脱酸効果及び材質安定向上効果と、鋳造性とのバランスがより良好になる。本明細書にいう「sol.Al」は、「酸可溶性Al」を意味する。
(Mo:0.030%以上0.500%以下)
Moは、脆性的な破壊を抑制するために、極めて重要な元素である。脆性的な破壊を抑制するために、0.030%以上のMo含有量が必要となり、さらに、後述するように、Mn含有量とMo含有量との比を制御することが必要になる。一方、Mo含有量が0.500%を超えると、その効果が飽和するので、コストの点から、Mo含有量の上限を0.500%以下とした。
(B:0.0003%以上0.010%以下)
Bは、優れた伸び特性を発現させるために、極めて重要な元素である。Bによる粒界強化の効果を発揮させるためには、0.0003%以上のB含有量が必要となる。一方、Bを過剰に含有すると靭性を損なうので、B含有量の上限を0.010%以下とした。B含有量の下限値は、好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0008%以上である。C含有量が0.24%以上である場合、B含有量の下限値を、好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.0008%以上とすることで、引張強度と全伸びとの積をさらに向上させることができる。B含有量の上限値は、好ましくは0.0040%以下、より好ましくは0.0030%以下である。
本開示の鋼板は、Mo及びBの両方を上記所定範囲で含むので、高強度を有し且つ優れた強度延性バランスを備える。Mo及びBの両方を含むことにより、旧オーステナイト粒界のB偏析を促進し且つ旧オーステナイト粒界のP偏析を抑制して、粒界の破壊強度を著しく高める相互作用を有する。
(P:0.023%以下)
Pは不純物であり、鋼板がPを過剰に含有すると、靭性や溶接性を損なうだけでなく、Bの添加による粒界脆化抑制効果を阻害する。したがって、P含有量の上限を0.023%以下とする。P含有量の上限値は、好ましくは0.020%以下、より好ましくは0.015%以下、さらに好ましくは0.012%以下である。本実施形態に係る鋼板はPを必要としないので、Pを実質的に含有しなくてもよく、P含有量の下限値は0.000%である。P含有量の下限値は0.000%超または0.001%以上でもよいが、P含有量は少ないほど好ましい。
(S:0.010%以下)
Sは不純物であり、鋼板がSを過剰に含有すると、熱間圧延によって伸張したMnSが生成し、曲げ性及び穴広げ性などの成形性の劣化を招く。したがって、S含有量の上限を0.010%以下とする。S含有量の上限値は、好ましくは0.007%以下、より好ましくは0.003%以下である。本実施形態に係る鋼板はSを必要としないので、Sを実質的に含有しなくてもよく、S含有量の下限値は0.000%である。S含有量の下限値を0.000%超または0.001%以上としてもよいが、S含有量は少ないほど好ましい。
(N:0.050%未満)
Nは不純物であり、鋼板が0.050%以上のNを含有すると靭性を損なう。したがって、N含有量の上限を0.050%未満とする。N含有量の上限値は、好ましくは0.010%以下、より好ましくは0.006%以下である。本実施形態に係る鋼板はNを必要としないので、Nを実質的に含有しなくてもよく、N含有量の下限値は0.000%である。N含有量の下限値を0.000%超または0.001%以上としてもよいが、N含有量は少ないほど好ましい。
(O:0.020%未満)
Oは不純物であり、鋼板が0.020%以上のOを含有すると延性の劣化を招く。したがって、O含有量の上限を0.020%未満とする。O含有量の上限値は、好ましくは0.010%以下、より好ましくは0.005%以下、さらに好ましくは0.003%以下である。本実施形態に係る鋼板はOを必要としないので、Oを実質的に含有しなくてもよく、O含有量の下限値は0.000%である。O含有量の下限値を0.000%超または0.001%以上としてもよいが、O含有量は少ないほど好ましい。
「不純物」とは、鋼材を工業的に製造する際に、鉱石、スクラップ等の原料、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
Mn含有量をMo含有量で除したMn含有量とMo含有量との比[Mn]/[Mo]は、前述したように、引張強度が1320MPa以上において、伸び特性を損なうことなく、脆性的な破壊を抑制するために、極めて重要である。
Mn及びMoを式(1):
25≦[Mn]/[Mo]≦150 (1)
を満たす範囲に制限する。式(1)において、[Mn]及び[Mo]はそれぞれ、Mn及びMoの含有量(質量%)である。
十分な引張強度と全伸びを得るためには、[Mn]/[Mo]を25以上に制御することが必要になる。一方、過剰なMnの偏析、または、Pの偏析による脆性的な破壊を抑制するために、[Mn]/[Mo]を150以下に制御することが必要になる。
本実施形態の鋼板は、更に、Cr、W、Cu、Ni、Ti、Nb、V、Ca、Mg、Zr、REM、Sb、Sn及びBiからなる群から選択される1種又は2種以上を含有してもよい。しかしながら、本実施形態に係る鋼板はCr、W、Cu、Ni、Ti、Nb、V、Ca、Mg、Zr、REM、Sb、Sn及びBiを必要としないので、Cr、W、Cu、Ni、Ti、Nb、V、Ca、Mg、Zr、REM、Sb、Sn及びBiを含有しなくてもよい、すなわち含有量の下限値は0%であってもよい。本明細書にいうREMとは、Sc、Y、およびランタノイドの合計17元素を指し、REM含有量とは、REMが1種の場合はその含有量、2種以上の場合はそれらの合計含有量を指す。また、REMは一般的には複数種のREMの合金であるミッシュメタルとしても供給されている。このため、個別の元素を1種または2種以上添加してREM含有量が上記の範囲となるように含有させてもよいし、例えば、ミッシュメタルの形で添加して、REM含有量が上記の範囲となるように含有させてもよい。
(Cr:0.00%以上2.00%未満)
(W:0.00%以上2.00%以下)
(Cu:0.00%以上2.00%以下)
(Ni:0.00%以上2.00%以下)
Cr、W、Cu、及びNiはそれぞれ、本実施形態に係る鋼板に必須の元素ではないので含まれなくてもよく、それぞれの含有量は0.00%以上である。しかしながら、Cr、W、Cu、及びNiは、鋼板の強度を向上させる元素であるので、含有されてもよい。鋼板の強度向上効果を得るために、鋼板は、Cr、W、Cu、及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素それぞれを0.01%以上含有してもよい。しかしながら、鋼板がこれらの元素を過剰に含有すると、熱延時の表面傷が生成しやすくなり、さらには、熱延鋼板の強度が高くなりすぎて、冷間圧延性が低下する場合がある。したがって、Cr、W、Cu、及びNiからなる群から選択された1種又は2種以上の元素それぞれの含有量の上限値を2.00%以下とする。
(Ti:0.000%以上0.300%以下)
(Nb:0.000%以上0.300%以下)
(V:0.000%以上0.300%以下)
Ti、Nb、及びVは、本実施形態に係る鋼板に必須の元素ではないので含まれなくてもよく、それぞれの含有量は0.000%以上である。しかし、Ti、Nb、及びVは、微細な炭化物、窒化物または炭窒化物を生成する元素であるので、鋼板の強度向上に有効である。したがって、鋼板は、Ti、Nb、及びVからなる群から選択される1種または2種以上の元素を含有してもよい。鋼板の強度向上効果を得るためには、Ti、Nb、及びVからなる群から選択される1種または2種以上の元素それぞれの含有量の下限値を0.005%以上とすることが好ましい。一方で、これらの元素を過剰に含有させると、熱延鋼板の強度が上昇しすぎて、冷間圧延性が低下する場合がある。したがって、Ti、Nb、及びVからなる群から選択される1種または2種以上の元素それぞれの含有量の上限値を0.300%以下とする。
(Ca:0.000%以上0.010%以下)
(Mg:0.000%以上0.010%以下)
(Zr:0.000%以上0.010%以下)
(REM:0.000%以上0.010%以下)
Ca、Mg、Zr、及びREM(希土類金属)は、本開示の鋼板に必須の元素ではないので含まれなくてもよく、それぞれの含有量は0.000%以上である。しかしながら、Ca、Mg、Zr、及びREMは、鋼板の局部延性及び穴広げ性を向上させる。この効果を得るためには、Ca、Mg、Zr、及びREMからなる群から選択される1種または2種以上の元素それぞれの含有量の下限値を好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.001%以上とする。しかし、過剰量のこれら元素は、鋼板の加工性を劣化させるので、これら元素それぞれの含有量の上限を0.010%以下とし、Ca、Mg、Zr、及びREMからなる群から選択される1種または2種以上の元素の含有量の合計を0.030%以下とすることが好ましい。
(Sb:0.000%以上0.050%以下)
(Sn:0.000%以上0.050%以下)
(Bi:0.000%以上0.050%以下)
Sb、Sn、及びBiは、本開示の鋼板に必須の元素ではないので含まれなくてもよく、それぞれの含有量は0.000%以上である。しかしながら、Sb、Sn、及びBiは、鋼板中のMn、Si、及び/又はAl等の易酸化性元素が鋼板表面に拡散され酸化物を形成することを抑え、鋼板の表面性状やめっき性を高める。この効果を得るために、Sb、Sn、及びBiからなる群から選択される1種又は2種以上の元素それぞれの含有量の下限値を好ましくは0.0005%以上、より好ましくは0.001%以上とする。一方、これら元素それぞれの含有量が0.050%を超えると、その効果が飽和するので、これら元素それぞれの含有量の上限値を0.050%以下とした。
2.金属組織
次に、本実施形態に係る鋼板の金属組織について説明する。
(鋼板の1/4t部の金属組織中の焼き戻しマルテンサイトの面積率:40%以上90%以下)
本実施形態に係る鋼板のL断面において表面から厚みの1/4位置(1/4t部ともいう)における金属組織は、面積率で、40%以上90%以下の焼き戻しマルテンサイトを含む。焼き戻しマルテンサイトの面積率は、焼鈍の条件によって変化し、強度、均一伸び特性、穴広げ性などの材質に影響を与える。L断面とは、板厚方向と圧延方向に平行に鋼板の圧延方向の中心軸を通るように切断した面をいう。
焼き戻しマルテンサイトは、鋼板の強度を高め、靭性を向上させる組織である。強度と靭性との両方を好ましく保つために、焼き戻しマルテンサイトの面積率を40〜90%とする。焼き戻しマルテンサイトの面積率が40%未満だと、十分な強度−延性バランスを確保できない。一方、焼き戻しマルテンサイトの面積率が90%を超えると、所望の引張強度を得ることが困難となる。焼き戻しマルテンサイトの含有量の下限値は好ましくは50%以上である。焼き戻しマルテンサイトの含有量の上限値は、好ましくは85%以下である。
(鋼板の1/4t部の金属組織中の残留オーステナイトの面積率:15%以上75%以下)
本実施形態に係る鋼板のL断面において表面から厚みの1/4位置における金属組織は、面積率で、15%以上75%以下の残留オーステナイトを含むことが好ましい。残留オーステナイトの面積率は、焼鈍の条件によって変化し、強度、均一伸び特性、穴広げ性などの材質に影響を与える。
残留オーステナイトは、変態誘起塑性によって鋼板の延性、特に鋼板の均一伸び特性を高める組織である。残留オーステナイトは、引張変形を伴う張出し、絞り、伸びフランジ、または曲げ加工によってマルテンサイトに変態し得るので、鋼板の各種加工性だけでなく、鋼板の強度の向上にも寄与する。これら効果を得るために、残留オーステナイトの面積率の下限値は、好ましくは15%以上、より好ましくは20%以上、さらに好ましくは30%以上とする。残留オーステナイトの面積率を高めれば、より優れた伸び特性がより高強度でも維持されるようになる。
残留オーステナイトの面積率は高いほど好ましい。しかしながら、上述した化学成分を有する鋼板では、面積率で75%が残留オーステナイトの含有量の上限となる。9.0%超のMnを含有させれば、残留オーステナイトを面積率で75%超にすることができるが、この場合、鋼板の延性や鋳造性が損なわれる。また、残留オーステナイトの面積率は、水素脆性の観点を考慮すると、60%以下が好ましく、50%以下がより好ましく、45%以下がさらに好ましい。
焼き戻しマルテンサイトの面積率は、走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察から算出される。鋼板のL断面を鏡面研磨した後に、3%ナイタール(3%硝酸―エタノール溶液)で腐食し、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡で、表面から1/4位置における金属組織を観察する。
残留オーステナイトの面積率はX線回折法により測定される。フレッシュマルテンサイト(即ち、焼き戻しされていないマルテンサイト)の面積率も算出する場合は、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察において、残留オーステナイトとフレッシュマルテンサイトとの区別が難しいので、残留オーステナイトとフレッシュマルテンサイトの面積率は、次の方法で測定する。鋼板のL断面を鏡面研磨した後に、3%ナイタール(3%硝酸―エタノール溶液)で腐食し、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡で、鋼板の表面から厚みの1/4位置のミクロ組織を観察して、残留オーステナイト及びフレッシュマルテンサイトの合計の面積率を測定する。次いで、残留オーステナイト及びフレッシュマルテンサイトの合計の面積率からX線回折法で測定された残留オーステナイトの面積率を差し引いて、フレッシュマルテンサイトの面積率を算出する。
本実施形態に係る鋼板の金属組織は、焼き戻しマルテンサイト及び残留オーステナイト以外に、フェライト、ベイナイト、及びフレッシュマルテンサイトを含んでいてもよい。フレッシュマルテンサイトは硬質の組織であるので、フレッシュマルテンサイトの含有量が少ないほど、鋼板の曲げ性や靭性が高くなる。したがって、フレッシュマルテンサイトの含有量の上限値は、曲げ性と靭性を確保する観点から、面積率で好ましくは30%以下、より好ましくは20%以下である。
(焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度が、鋼板の平均Mo含有量の1.03倍以上1.15倍以下)
本実施形態に係る鋼板においては、焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度は、鋼板の平均Mo含有量の1.03倍以上1.15倍以下である。焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度の測定は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察される10点の焼き戻しマルテンサイトの組織のそれぞれに対して電子線プローブマイクロアナライザー(EPMA)による元素分布に基づいて行い、各点におけるMo濃度の測定結果の平均値を焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度とした。鋼板の平均Mo含有量は、鋼板の表面から厚みの1/4位置において、10μmの線長において0.1μm間隔で各点のMo濃度を測定し、その平均値とした。破断特性を高め、さらに、延性を高めるためには、焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度が、鋼板のMo含有量の1.03倍以上である必要がある。1.03倍未満である場合、脆性破壊しやすくなり、延性も著しく劣化する。鋼板のMo含有量に対して、焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度は高いほど好ましい。焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度は、好ましくは鋼板のMo含有量の1.04倍以上であり、より好ましくは鋼板のMo含有量の1.05倍以上である。しかしながら、上述した化学成分を有する鋼板では、焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度がMo含有量の1.15倍が実質的に上限となる。このため、焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度がMo含有量の1.15倍を上限とする。
3.機械特性
次に、本実施形態に係る鋼板の機械特性について説明する。
本実施形態に係る鋼板の引張強度は、好ましくは1320MPa以上、より好ましくは1470MPaである。これは、鋼板を自動車の素材として使用する際、高強度化によって板厚を減少させ、軽量化に寄与するためである。鋼板の引張強度の上限は特に規定されないが、例えば1600MPaであってもよい。また、本実施形態に係る鋼板をプレス成形に供するためには、全伸びが優れることが望ましい。その場合、引張強度と全伸びの積は好ましくは26000MPa%以上、より好ましくは28000MPa%以上、さらに好ましくは30000MPa%である。引張強度と全伸びとの積の上限は特に規定されないが、例えば45000MPa%以下であってもよい。さらに、引張試験において、くびれが発生し、試験片が延性破面を呈している。本開示の鋼板は上記のように、高強度及び良好な伸び特性も有し、さらには延性にも優れているので、ピラーやフロントサイドメンバーなどの自動車部品用途に最適である。
4.製造方法
次に、本実施形態に係る鋼板の製造方法について説明する。
本実施形態に係る鋼板は、上述の化学組成を有する鋼を常法で溶製し、鋳造してスラブまたは鋼塊を作製し、これを加熱して熱間圧延し、得られた熱延鋼板を酸洗した後、冷間圧延し、焼鈍を施して製造する。
熱間圧延は、通常の連続熱間圧延ラインで行えばよい。焼鈍は、後述する条件を満たせば、焼鈍炉及び連続焼鈍ラインのどちらで行ってもよいが、好ましくは、後述する1回目の焼鈍及び2回目の焼鈍はいずれも、連続焼鈍ラインを用いて行うことができるので、生産性を向上することができる。1回目の焼鈍及び2回目の焼鈍は、好ましくは還元雰囲気で行われ、例えば窒素98%及び水素2%の還元雰囲気で行ってもよい。還元雰囲気で熱処理することにより、鋼板の表面にスケールが付着するのを防ぐことができ、酸洗浄を要せずにめっき工程にそのまま送ることができる。更に、冷延圧延後の鋼板に、スキンパス圧延を行ってもよい。
本開示の鋼板の組織を得るためには、熱処理条件、特に焼鈍条件を、以下に示す範囲内で行うことが好ましい。
本実施形態に係る鋼板が上述の化学組成を有する限り、溶鋼は、通常の高炉法で溶製されたものであってもよく、電炉法で作成された鋼のように、原材料がスクラップを多量に含むものでもよい。スラブは、通常の連続鋳造プロセスで製造されたものでもよいし、薄スラブ鋳造で製造されたものでもよい。
上述のスラブまたは鋼塊を加熱し、熱間圧延を行う。熱間圧延に供する鋼材の温度は、1100℃以上1300℃以下とすることが好ましい。熱間圧延に供する鋼材の温度を1100℃以上にすることにより、熱間圧延時の変形抵抗をより小さくすることができる。一方、熱間圧延に供する鋼材の温度を1300℃以下にすることにより、スケールロス増加による歩留まりの低下を抑制することができる。本明細書において、温度は、鋼板表面の中央位置で測定される温度である。
熱間圧延前に1100℃以上1300℃以下の温度域に保持する時間は特に規定しないが、曲げ性を向上させるためには、30分間以上とすることが好ましく、1時間以上にすることがさらに好ましい。また、過度のスケールロスを抑制するために、1100℃以上1300℃以下の温度域に保持する時間は、10時間以下とすることが好ましく、5時間以下とすることがさらに好ましい。なお、直送圧延または直接圧延を行う場合には、加熱処理を施さずにそのまま熱間圧延に供してもよい。
仕上圧延開始温度は700℃以上1000℃以下とすることが好ましい。仕上圧延開始温度を700℃以上とすることにより、圧延時の変形抵抗を小さくすることができる。一方、仕上圧延開始温度を1000℃以下にすることにより、粒界酸化による鋼板の表面性状の劣化を抑制することができる。
仕上圧延を行って得られる熱延鋼板を冷却し、巻取り、コイルにする。焼鈍後の鋼板における脆化元素であるPの粒界偏析を抑制するために、仕上圧延を行った熱延鋼板を10℃/秒以上で700℃以下に冷却することが好ましい。冷却後の巻取温度は700℃以下とすることが好ましい。巻取温度を700℃以下にすることによって、内部酸化が抑制され、その後の酸洗が容易になる。巻取温度は、より好ましくは650℃以下であり、さらに好ましくは600℃以下である。巻取温度の下限は特に規定しないが、例えば室温でもよい。冷間圧延時の破断をより抑制するために、室温まで冷却された後、冷間圧延前に300℃以上700℃以下で熱延板を焼き戻してもよい。
熱延鋼板は、常法により酸洗を施された後に、冷間圧延が行われ、冷延鋼板とされる。
冷間圧延の前であって酸洗の前または後に0%超〜5%程度の軽度の圧延を行って形状を修正すると、平坦確保の点で有利となるので好ましい。また、酸洗前に軽度の圧延を行うことより酸洗性が向上し、表面濃化元素の除去が促進され、化成処理性やめっき処理性を向上させる効果がある。
焼鈍後の鋼板の組織を微細化する観点から、冷間圧延の圧下率は20%以上とすることが好ましい。冷間圧延中の破断を抑制する観点から、冷間圧延の圧下率は70%以下とすることが好ましい。
上記熱間圧延工程及び冷間圧延工程を経て得られた冷延鋼板をAc3点以上に加熱して1回目の焼鈍を行う。Ac3点以上に加熱することにより、焼き戻しマルテンサイトの面積率を所望の値に制御することができる。ここで、C:0.05%〜0.5%、Si:0%〜3.5%、Mn:0〜9.0%、及びAl:0〜2.0%を含有する複数種類の冷延鋼板について加熱速度0.5〜50℃/秒においてAc3点を計測し検討した結果、Ac3点として以下の式:
Ac3=910−200√C+44Si−25Mn+44Al
が得られ、この式を用いてAc3点を算出することができる。
Ac3点以上に加熱するときに、640℃〜740℃の温度範囲を2〜10℃/秒の平均加熱速度で昇温する。平均加熱速度を2℃/秒以上にすることにより、粒界酸化による鋼板の表面性状の劣化を抑制することができる。一方、平均加熱速度を10℃/秒以下にすることにより、焼き戻しマルテンサイト中へのMo濃化を促進することができる。
焼き戻しマルテンサイトを適正に確保しつつ、残留オーステナイトを生成するためには、上記熱間圧延工程及び冷間圧延工程を経て得られた冷延鋼板を、Ac3点以上で10秒以上240秒以下保持し、その後に、平均冷却速度2℃/秒以上200℃/秒以下で450℃以下の温度域まで冷却する均質化処理することが好ましい。
1回目の焼鈍を行った鋼板を加熱して、600℃以上Ac3点未満の温度域で5秒以上100000秒以下保持して2回目の焼鈍を行う。
2回目の焼鈍温度を600℃以上Ac3点未満にすることにより、焼き戻しマルテンサイトを所望の面積率にすることができ、引張強度を高め、伸び特性を向上することができる。一方、セメンタイトを溶解させ、引張強度を安定して確保する観点から、焼鈍時間(保持時間)を5秒以上とすることが好ましい。なお、600℃以上Ac3点未満の温度域での保持時間を10000秒以上とする加熱によって、伸び特性は著しく向上し、より優れた伸び特性が得られやすくなり、1400MPa以上の引張強度(TS)を有しつつ、好ましくは31900MPa%以上の引張強度と全伸びとの積(TS×EL)を安定して得ることができ、より好ましくは34000MPa%以上の引張強度と全伸びとの積(TS×EL)を得ることができる。しかし、焼鈍時間(保持時間)が100000秒を超えると、その効果が飽和するので、焼鈍時間(保持時間)を100000秒以下にすることが好ましい。このように、焼鈍時間(保持時間)は5秒以上100000秒以下にすることが好ましい。
2回目の焼鈍において鋼板を600℃以上に加熱するときに、好ましくは500℃〜600℃の温度範囲を2〜15℃/秒の平均加熱速度で昇温する。このような平均加熱速度で昇温することにより、焼き戻しマルテンサイト中へのMo濃化を促進することができる。平均加熱速度を2℃/秒以上にすることにより、セメンタイト中へのMn濃化を抑制することができる。生産性の観点から、500℃〜600℃の温度範囲の平均加熱速度は、より好ましくは3℃/秒以上である。一方、平均加熱速度を15℃/秒以下にすることにより、焼き戻しマルテンサイト中へのMo濃化を促進することができる。Mo濃化をより一層促進させるために、平均加熱速度は、より好ましくは12℃/秒以下である。
上記焼鈍後の冷却は、鋼板にめっきしない場合には、そのまま室温まで行われればよい。また、鋼板にめっきする場合には、以下のようにする。
鋼板の表面に溶融亜鉛めっきを施して溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合には、上記焼鈍後の冷却を430〜500℃の温度範囲で停止し、次いで冷延鋼板を溶融亜鉛のめっき浴に浸漬して溶融亜鉛めっき処理を行う。めっき浴の条件は通常の範囲内とすればよい。めっき処理後は室温まで冷却すればよい。
鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっきを施して合金化溶融亜鉛めっき鋼板を製造する場合には、鋼板に溶融亜鉛めっき処理を施した後、鋼板を室温まで冷却する前に、450〜620℃の温度で溶融亜鉛めっきの合金化処理を行う。合金化処理条件は、通常の範囲内とすればよい。
以上のように鋼板を製造することによって、本実施形態に係る鋼板を得ることができる。
本開示の鋼板を、例を参照しながらより具体的に説明する。ただし、以下の例は本開示の鋼板の例であり、本開示の鋼板は以下の例の態様に限定されるものではない。
1.評価用鋼板の製造
表1に示す化学成分を有する鋼を転炉で溶製し、連続鋳造により245mm厚のスラブを得た。
Figure 2020017607
得られたスラブを表2に示す条件にて熱間圧延し、2.6mm厚の熱延鋼板を製板し、次いで、得られた熱延鋼板を酸洗し、冷間圧延して、1.2mm厚の冷延鋼板を製板した。
Figure 2020017607
得られた冷延鋼板について、表3に示す条件の熱処理を施して焼鈍冷延鋼板を作製した。冷延鋼板の熱処理は、窒素98%及び水素2%の還元雰囲気で行った。なお、例番号12については、2回目の焼鈍温度が580℃であるが、「2回目の焼鈍における600℃以上Ac3点未満での保持時間」に記載されている数値は、かかる温度での保持時間を示す。
Figure 2020017607
一部の焼鈍冷延鋼板例については、最終の焼鈍を行った後、焼鈍後の冷却を460℃で停止し、冷延鋼板を460℃の溶融亜鉛のめっき浴に2秒間浸漬して、溶融亜鉛めっき処理を行った。めっき浴の条件は従来のものと同じである。後述する合金化処理を施さない場合、460℃の保持後に、平均冷却速度10℃/秒で室温まで冷却した。
一部の焼鈍冷延鋼板例については、溶融亜鉛めっき処理を行った後に、室温に冷却せずに、続いて合金化処理を施した。520℃まで加熱し、520℃で5秒間保持して合金化処理を行い、その後、平均冷却速度10℃/秒で室温まで冷却した。
このようにして得られた焼鈍冷延鋼板を伸び率0.1%で調質圧延し、各種評価用鋼板を準備した。
2.評価方法
各例で得られた焼鈍冷延鋼板について、焼き戻しマルテンサイト、残留オーステナイト、及びフレッシュマルテンサイトの面積率、Mo濃度に対するMn濃度の比率[Mn]/[Mo]、引張強度、並びに全伸びを評価した。各評価の方法は次のとおりである。
焼き戻しマルテンサイトの面積率は、先述した観察方法に基づき、走査型電子顕微鏡(SEM)による組織観察から算出した。残留オーステナイト及びフレッシュマルテンサイトの面積率は、走査型電子顕微鏡による組織観察及びX線回折測定から算出した。鋼板を圧延方向に平行に切断したL断面について、鏡面研磨を行い、次いで3%ナイタールによりミクロ組織を現出させて、倍率5000倍の走査型電子顕微鏡で、表面から1/4位置におけるミクロ組織を観察し、0.1mm×0.3mmの範囲について画像解析(Photoshоp(登録商標))により、焼き戻しマルテンサイトの面積率及び残留オーステナイトとフレッシュマルテンサイトとの合計の面積率を算出した。さらに、得られた鋼板から幅25mm、長さ25mmの試験片を切り出し、この試験片に化学研磨を施して板厚1/4分を減厚し、化学研磨後の試験片の表面に対して、Co管球を用いたX線回折分析を3回実施し、得られたプロファイルを解析し、それぞれを平均して残留オーステナイトの面積率を算出した。残留オーステナイトとフレッシュマルテンサイトとの合計の面積率から残留オーステナイトの面積率を差し引いて、フレッシュマルテンサイトの面積率を算出した。
焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度を平均Mo濃度で除した値は、電界放出型電子線マイクロアナライザ(FE−EPMA)による分析から算出した。鋼板を圧延方向に平行に切断したL断面について、ダイヤモンドバフによる鏡面研磨後、アルミナ研磨を行い、FE−EPMAにより、加速電圧15kVとし、20μm×20μmの範囲について、測定間隔を0.2μmとし、各測定点のMo濃度を測定し、その範囲における平均Mo濃度を算出した。さらに、その範囲の焼き戻しマルテンサイトを10点選択し、10点の平均値を焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度とした。
(機械的性質)
鋼板の圧延方向に直角方向からJIS5号引張試験片3枚を採取し、それぞれの試験片から引張強度(TS)及び全伸び(EL)を測定した。引張試験は、JIS5号引張試験片を用いて、JIS Z2241:2011に規定される方法で行った。全伸びの測定は、JIS5号試験片を用いて、JIS Z2241:2011に規定される方法で行った。引張強度、及び引張強度と全伸びとの積(TS×EL)は引張試験三回の平均値とした。引張試験後の試料破面を電子顕微鏡で観察し、へき開破面、あるいは、粒界破面を含む脆性破面が認められる鋼板を不良、脆性破面が認められない試料を良好と評価した。また、別途V曲げ試験を行った。曲げ試験は、幅15mm(曲げ稜線となる方向)、長さ50mmの試験片を、先端角度90度、先端Rが板厚の5倍のV型ポンチでVブロックに押し込んだ。その後、曲げ稜線を観察し、稜線に割れがない場合を曲げ性が良好とした。
3.評価結果
上記の評価の結果を表4に示す。1320MPa以上の引張強度(TS)及び26000MPa%以上の引張強度と全伸びとの積(TS×EL)を示し、破面様相が良好な鋼板を、優れた伸び特性及び高強度を有し且つ引張り時にくびれを伴う延性破壊が生じる鋼板として評価した。なお、例番号14及び例番号18については、焼き戻しマルテンサイト、残留オーステナイトおよびフレッシュマルテンサイト以外に、フェライトおよび未再結晶フェライトが観察された。また、実施例の鋼板のうち、フレッシュマルテンサイトの面積率が30%以下の例番号はV曲げ試験時に割れが発生せず、曲げ性が良好であった。
Figure 2020017607

Claims (8)

  1. 質量%で、
    C:0.18%超0.45%未満、
    Si:0.001%以上3.50%未満、
    Mn:4.00%超9.00%未満、
    sol.Al:0.001%以上2.00%未満、
    Mo:0.030%以上0.500%以下、
    B:0.0003%以上0.010%以下、
    P:0.023%以下、
    S:0.010%以下、
    N:0.050%未満、
    O:0.020%未満、
    Cr:0.00%以上2.00%未満、
    W:0.00%以上2.00%以下、
    Cu:0.00%以上2.00%以下、
    Ni:0.00%以上2.00%以下、
    Ti:0.000%以上0.300%以下、
    Nb:0.000%以上0.300%以下、
    V:0.000%以上0.300%以下、
    Ca:0.000%以上0.010%以下、
    Mg:0.000%以上0.010%以下、
    Zr:0.000%以上0.010%以下、
    REM:0.000%以上0.010%以下、
    Sb:0.000%以上0.050%以下、
    Sn:0.000%以上0.050%以下、及び
    Bi:0.000%以上0.050%以下を含有し、
    さらに、Mn及びMoを式(1):
    25≦[Mn]/[Mo]≦150 (1)
    を満たす範囲に制限し、式中、[Mn]及び[Mo]はそれぞれ、Mn及びMoの含有量(質量%)であり、
    残部が鉄および不純物であり、
    L断面において表面から厚みの1/4位置における金属組織が、面積率で、40%以上90%以下の焼き戻しマルテンサイトを含み、
    前記焼き戻しマルテンサイト中のMo濃度が、鋼板の平均Mo含有量の1.03倍以上1.15倍以下である
    こと特徴とする鋼板。
  2. 質量%で、
    Cr:0.01%以上2.00%未満、
    W:0.01%以上2.00%以下、
    Cu:0.01%以上2.00%以下、及び
    Ni:0.01%以上2.00%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1に記載の鋼板。
  3. 質量%で、
    Ti:0.005%以上0.300%以下、
    Nb:0.005%以上0.300%以下、及び
    V:0.005%以上0.300%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の鋼板。
  4. 質量%で、
    Ca:0.0001%以上0.0100%以下、
    Mg:0.0001%以上0.0100%以下、
    Zr:0.0001%以上0.0100%以下、及び
    REM:0.0001%以上0.0100%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の鋼板。
  5. 質量%で、
    Sb:0.0005%以上0.0500%以下、
    Sn:0.0005%以上0.0500%以下、及び
    Bi:0.0005%以上0.0500%以下
    の1種又は2種以上を含有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の鋼板。
  6. 前記鋼板のL断面において表面から厚みの1/4位置における金属組織が、面積率で、15%以上75%以下の残留オーステナイトを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の鋼板。
  7. 前記鋼板の表面に溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の鋼板。
  8. 前記鋼板の表面に合金化溶融亜鉛めっき層を有することを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の鋼板。
JP2019563300A 2018-07-18 2019-07-18 鋼板 Active JP6669325B1 (ja)

Applications Claiming Priority (3)

Application Number Priority Date Filing Date Title
JP2018135140 2018-07-18
JP2018135140 2018-07-18
PCT/JP2019/028355 WO2020017607A1 (ja) 2018-07-18 2019-07-18 鋼板

Publications (2)

Publication Number Publication Date
JP6669325B1 JP6669325B1 (ja) 2020-03-18
JPWO2020017607A1 true JPWO2020017607A1 (ja) 2020-07-30

Family

ID=69164886

Family Applications (1)

Application Number Title Priority Date Filing Date
JP2019563300A Active JP6669325B1 (ja) 2018-07-18 2019-07-18 鋼板

Country Status (4)

Country Link
JP (1) JP6669325B1 (ja)
CN (1) CN111868283B (ja)
TW (1) TW202006155A (ja)
WO (1) WO2020017607A1 (ja)

Families Citing this family (1)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
CN115485405B (zh) * 2020-09-11 2024-01-05 日本制铁株式会社 钢板及其制造方法

Family Cites Families (6)

* Cited by examiner, † Cited by third party
Publication number Priority date Publication date Assignee Title
JP5257233B2 (ja) * 2008-05-19 2013-08-07 新日鐵住金株式会社 低降伏比高強度電縫鋼管及びその製造方法
WO2010026672A1 (ja) * 2008-09-04 2010-03-11 Jfeスチール株式会社 油井管用マルテンサイト系ステンレス継目無鋼管およびその製造方法
JP6314520B2 (ja) * 2014-02-13 2018-04-25 新日鐵住金株式会社 引張最大強度1300MPa以上を有する成形性に優れた高強度鋼板、高強度溶融亜鉛めっき鋼板、及び、高強度合金化溶融亜鉛めっき鋼板とそれらの製造方法
WO2016001699A1 (en) * 2014-07-03 2016-01-07 Arcelormittal Method for manufacturing a high strength steel sheet having improved formability and sheet obtained
JP6213696B1 (ja) * 2016-12-05 2017-10-18 新日鐵住金株式会社 高強度鋼板
CN107747063B (zh) * 2017-11-29 2019-08-23 郑州永通特钢有限公司 一种高强韧马氏体不锈钢

Also Published As

Publication number Publication date
CN111868283A (zh) 2020-10-30
WO2020017607A1 (ja) 2020-01-23
CN111868283B (zh) 2022-01-07
JP6669325B1 (ja) 2020-03-18
TW202006155A (zh) 2020-02-01

Similar Documents

Publication Publication Date Title
EP3309273B1 (en) Galvannealed steel sheet and method for manufacturing same
CN110177896B (zh) 钢板及其制造方法
JP5636727B2 (ja) 溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法
JP2017048412A (ja) 溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、およびそれらの製造方法
WO2016013145A1 (ja) 高強度溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法
KR20190040018A (ko) 도금 강판, 용융 아연 도금 강판의 제조 방법 및 합금화 용융 아연 도금 강판의 제조 방법
JP2013221198A (ja) 冷延鋼板およびその製造方法
CN111868282B (zh) 钢板
JP6744003B1 (ja) 鋼板
JP7036274B2 (ja) 鋼板
JP6683291B2 (ja) 鋼板及び鋼板の製造方法
JP2018003114A (ja) 高強度鋼板およびその製造方法
JP6669325B1 (ja) 鋼板
JPWO2019194250A1 (ja) 鋼板及び鋼板の製造方法
JP6760543B1 (ja) 鋼板及び鋼板の製造方法
JP2018003115A (ja) 高強度鋼板およびその製造方法
JP6687171B1 (ja) 鋼板
CN115485405B (zh) 钢板及其制造方法
JP7364963B2 (ja) 鋼板およびその製造方法
WO2021200169A1 (ja) 鋼板
JP5682357B2 (ja) 合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法
WO2020195279A1 (ja) 鋼板

Legal Events

Date Code Title Description
A621 Written request for application examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A621

Effective date: 20191114

A871 Explanation of circumstances concerning accelerated examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A871

Effective date: 20191114

A975 Report on accelerated examination

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A971005

Effective date: 20191206

TRDD Decision of grant or rejection written
A01 Written decision to grant a patent or to grant a registration (utility model)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A01

Effective date: 20200128

A61 First payment of annual fees (during grant procedure)

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: A61

Effective date: 20200210

R151 Written notification of patent or utility model registration

Ref document number: 6669325

Country of ref document: JP

Free format text: JAPANESE INTERMEDIATE CODE: R151