JP5257233B2 - 低降伏比高強度電縫鋼管及びその製造方法 - Google Patents

低降伏比高強度電縫鋼管及びその製造方法 Download PDF

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従来、例えば、油井管に使用される鋼管には、800MPa以上の降伏強度が要求される。このような高い降伏強度を得るため、焼入れを行った後、焼戻しを施し、金属組織を焼戻しマルテンサイトとした鋼管が提案されている(例えば、特許文献1〜4)。しかし、これらの鋼管においては、耐サワー性を向上させるため、降伏比を高めている。
これに対して、例えば、水圧鉄管や構造部材に使用される鋼材には、降伏強度が引張強度に対して低いこと、即ち、低降伏比であることが要求される。このような、低降伏比で高強度を得るため、マルテンサイトに析出する炭化物の生成を抑制した鋼材が提案されている(例えば、特許文献5)。しかし、この鋼材は、鋼構造物用の鋼材であり、電縫溶接性を考慮したものではなく、しかも、鋼構造物用の鋼材としての強度と靱性を確保するため、Crを必須成分として含有するものである。
特開平5−271772号公報 特開平6−322478号公報 特開2000−119798号公報 特開2007−31756号公報 特開2006−283117号公報
従来、高強度で低降伏比の鋼管を得るには、C含有量を高めることが必要であった。これは、C含有量の増加により炭化物が粗大化すると、析出強化が抑制されて、降伏強度が低下するためである。また、高強度化のためには、焼入れ性を向上させるCrの添加が有効である。
しかし、近年、鋼材に要求される靭性のレベルが非常に高くなっており、C含有量を低下させることが必要になった。更に、溶接性の観点から、Crを含有しないことも要求されており、高強度で、降伏比の低い、電縫鋼管を得ることが困難になった。
本発明は、このような実情に鑑み、溶接性や靭性を高めるために、C含有量を0.25質量%以下とし、Crを含有させずに、高強度、低降伏比を達成し、靭性に優れた電縫鋼管及びその製造方法の提供を課題とするものである。
本発明は、C含有量を0.25質量%以下とし、Crを含有させずに、VとMoを複合添加し、Ceqが0.45以上を満足する成分組成とし、金属組織を焼戻しマルテンサイトとした、800MPa以上の降伏強度と90%以下の降伏比を有する電縫鋼管であり、その要旨は、以下のとおりである。
(1) 質量%で、C:0.05〜0.25%、Mn:0.2〜2.0%、Mo:0.05〜2.0%、V:0.1%超〜1.0%、Ti:0.002〜0.05%を含有し、Si:0.5%以下、Al:0.10%以下、P:0.025%以下、S:0.010%以下、N:0.01%以下に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記(式1)によって求められるCeqが0.45以上であり、金属組織が焼戻しマルテンサイトからなることを特徴とする低降伏比高強度電縫鋼管。
Ceq=C+Mn/6+Ni/15+(Mo+V)/5 ・・・ (式1)
ここで、C、Mn、Ni、Mo、V は、各元素の含有量[質量%]である。
(2) 質量%で、B:0.0003〜0.005%を含有することを特徴とする上記(1)に記載の低降伏比高強度電縫鋼管。
(3) 質量%で、Ni:2.0%以下を含有することを特徴とする上記(1)又は(2)に記載の低降伏比高強度電縫鋼管。
(4) 質量%で、Nb:0.5%以下を含有することを特徴とする上記(1)〜(3)の何れかに記載の低降伏比高強度電縫鋼管。
(5) 降伏強度が800MPa以上、降伏比が90%以下、シャルピー吸収エネルギーが200J以上であることを特徴とする上記(1)〜(4)の何れかに記載の低降伏比高強度電縫鋼管。
(6) 上記(1)〜(4)の何れかに記載の成分組成を有する電縫鋼管を、Ac3〜Ac3+100℃に加熱し、焼入れ後、550℃以下の温度で焼戻すことを特徴とする低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法。
本発明によれば、金属組織が焼戻しマルテンサイトからなり、特に、降伏強度が800MPa以上、降伏比が90%以下という、高強度で低降伏比を有し、靭性にも優れた電縫鋼管が得られ、産業上の貢献が極めて顕著である。
降伏比に及ぼすC含有量と焼戻し温度の関係を示す図である。 降伏比に及ぼす成分と降伏強度の関係を示す図である。 Mo、Vの添加による低降伏比化の効果を、降伏強度との関係で示す図である。
本発明者は、鋼の焼入れ、焼戻し後の降伏比に及ぼすC含有量とCr含有量の影響を調査した。C含有量は0.1%と0.3%とし、C含有量が0.3%の鋼については、Crの含有の有無の影響を調べた。その結果を、図1及び2に示すが、これらの図から、以下の(a)〜(c)の知見を得た。なお、図1及び2の「○」は、C含有量が0.1%の鋼、「●」は、C含有量が0.3%の鋼、「□」は、C含有量が0.3%であり、Crを添加した鋼である。なお、ここで、また、以下においても、%は質量%を意味する。
(a)金属祖域が焼戻しマルテンサイトからなる鋼材の降伏比の最大値は、C含有量の増加によって低下する。
(b)金属祖域が焼戻しマルテンサイトからなる鋼材の降伏比の最大値は、Crの添加によってほとんど変化しないが、Crの添加によって、降伏比が最大になる焼戻し温度は上昇する。
(c)金属祖域が焼戻しマルテンサイトからなる鋼材の降伏強度と降伏比の関係は、C含有量によって変化し、Crの添加の影響は顕著ではない。
したがって、溶接性や靭性などを向上させるために、C含有量の上限値を制限すると、降伏比は上昇してしまう。また、Crの添加によって降伏比を低下させることはできない。そこで、Cr以外の合金元素の添加により、降伏比を低下させる方法を検討した。
0.10%C−0.20%Si−1.60%Mn−0.01%Tiを含有し、Niの含有量を調整して、C、Mn、Ni、Mo、Vの含有量[質量%]から、下記(式1)によって求められるCeqを0.45以上とした鋼と、0.10%C−0.20%Si−1.60%Mn−0.01%Tiを含有し、更に、0.05〜2.0%のMo、0.1%超、1.0%以下のVを含有し、必要に応じて、Ni、Bを添加し、Ceqを0.45以上とした鋼を用いて、焼入れ、焼戻し処理を行い、金属組織が焼戻しマルテンサイトからなる鋼とし、引張試験を行った。
Ceq=C+Mn/6+Ni/15+(Mo+V)/5 ・・・ (式1)
結果を図3に示す。図3の「○」は、Mo、Vを含有しない鋼であり、「●」、「黒四角」、「◆」は、Mo、Vを同時に添加した鋼である。図3に示したように、MoとVを同時に添加した、焼戻しマルテンサイトからなる鋼においては、降伏比が低下することがわかった。
更に、焼戻し前後の鋼材のマルテンサイト中の炭化物を透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。その結果、降伏比が低下した鋼においては、焼入れままのマルテンサイトに、体積率で2.0%以上、粒径で0.1μm以上の球状の合金炭化物が生成していることがわかった。
また、降伏比が低下した鋼材は、焼戻し後、微細なセメンタイトの析出が抑制されていた。したがって、焼入れままの状態で球状の合金炭化物が析出すると、焼戻し時の微細なセメンタイトの析出が抑制されると考えられる。
以下、本発明について詳細に説明する。まず、鋼の成分組成の限定理由について説明する。
Vは、本発明において、最も重要な、オーステナイト域で球状の炭化物を形成する元素である。0.1%以下では、オーステナイト域で十分な量の炭化物の形成が困難となるため、0.1%を下限とした。Vは、1.0%を超えて添加しても効果が飽和するので、上限を1.0%とする。降伏比を低下させるためには、Vを0.2%以上添加することが好ましく、0.3%以上のVの添加が、さらに好ましい。また、合金コストの観点から、V量の上限は、0.50%が好ましい。
Moは、焼入れ性を向上させる元素であり、更に、オーステナイト域でのV炭化物を安定化させる効果があり、本発明において、重要な元素である。この効果を得るには、0.05%以上の添加が必要である。一方、2.0%を超えて添加しても効果が飽和するので、上限を2.0%とする。降伏比を低下させるためには、Moを0.3%以上添加することが好ましく、0.5%以上のMoの添加が、さらに好ましい。また、合金コストの観点から、Mo量の上限は、1.0%が好ましい。
Cは、鋼の強度を高め、焼入れ性を増す効果を有する鋼の基本成分である。しかし、C量が0.05%未満では、効果が十分ではない。一方、Cが0.25%を超えると、焼き割れを誘発する原因となる。したがって、Cは、0.05〜0.25%とした。C量の好ましい上限は、0.20%であり、0.15%以下が、さらに好ましい。
Mnは、鋼の基本成分として、Sの無害化のために必須であり、焼入れ性を高める点では有効な元素であり、0.2%以上を添加する。一方、Mnを過剰に含有すると、Pの偏析などを助長するため、上限を2.0%とした。強度及び靭性を高めるには、Mn量の下限は、1.0%が好ましく、1.3%以上が、さらに好ましい。
Tiは、炭化物や窒化物を形成し、結晶粒径の微細化に寄与する元素である。その効果を発揮するためには、0.002%以上の添加が必要であるため、下限を0.002%とした。しかし、Tiが0.05%を超えると、粗大なTiNを生成し、靭性等の機械的性質が劣化する。また、析出物の凝集、粗大化を抑制し、結晶粒径を微細化させるには、上限を0.05%とする。靭性を高めるには、Ti量の下限を、0.005%とすることが好ましく、0.010%以上のTiの添加が、さらに好ましい。Ti量の上限は、0.02%が好ましい。
Siは、鋼の脱酸剤として使用される元素であるが、0.5%を超えると加工性、靱性に悪影響を及ぼすので、上限を0.5%とする。Siは、鋼の強化にも寄与する元素であるため、0.1%以上の添加が好ましい。靭性を確保するためには、Si量の上限を、0.30%にすることが好ましく、0.25%以下が、さらに好ましい。
Alは、脱酸材として使用される元素であるが、0.10%を超えると、靭性劣化等の機械的性質劣化を招くので、上限を0.10%とする。靭性を高めるためには、Al量の上限を、0.05%にすることが好ましく、0.02%以下が、さらに好ましい。
Pは、鋼中に不可避的不純物として存在する元素で、0.025%を超えると、粒界に偏析して靱性を低下させるので、上限を0.025%とする。
Sは、鋼中に不可避的不純物として存在する元素であり、鋼の靱性の劣化を抑制するために、0.01%以下とする。
Nは、不純物であり、0.01%を超えると、AlNやTiNの粗大化を招き、靭性等の機械的性質が劣化するので、上限を0.01%とする。オーステナイト域で微細なTiNを生成し、オーステナイト粒径を微細化させるためには、0.002%以上の添加が好ましい。
本発明では、C量を低下させても高強度を得るため、焼入れ性の指標であるCeqを0.45以上にする。Ceqは、C、Mn、Ni、Mo、Vの含有量[質量%]から、下記(式1)によって求められる。Ceqを0.45以上にすると、焼入れ、焼戻し処理後、金属組織が焼戻しマルテンサイトからなる鋼を得ることができる。
Ceq=C+Mn/6+Ni/15+(Mo+V)/5 ・・・ (式1)
更に、必要に応じて、B、Ni、Nbを添加してもよい。
Bは、微量の添加で、焼き入れ性を格段に向上させる元素であり、焼入れ後の組織をマルテンサイトにするために、0.0003%以上添加することが好ましい。一方、0.005%超のBを添加すると、B複合析出物が形成され、耐硫化物応力割れ性が低下することがあるので、上限は、0.005%が好ましい。
Niは、靭性の向上に寄与する元素であり、0.1%以上の添加が好ましい。一方、Niは高価な元素であり、2.0%超を添加すると、合金コストが高くなるため、2.0%以下が好ましい。
Nbは、オーステナイト中でNbCとして析出する元素である。特に、Mo、Vとの複合添加によって、球状の炭化物の生成が促進される。さらに降伏比を低下させるためには、Nbを0.05%以上添加することが好ましい。一方、0.5%を超えて添加しても効果が飽和し、合金コストが高くなるため、上限を0.5%とすることが好ましい。
次に、金属組織の限定理由について述べる。高強度と低降伏比を得るためには、焼戻しマルテンサイトが最も適している。更に、本発明では、VとMoとの複合添加により、マルテンサイト中に合金炭化物が析出し、焼戻しによるセメンタイトの析出が抑制されている。
次に、製造方法について説明する。
本発明の電縫鋼管は、常法によって製造した電縫鋼管に、焼入れ、焼戻しを施して製造される。通常、鋼を溶製、鋳造し、得られた鋼片を熱間圧延し、鋼板を造管する。造管は、電縫溶接だけでなく、UOE工程やスパイラル鋼管にも採用することができる。
焼入れ条件の限定について説明する。本発明では、焼入れ直後の金属組織を、球状の合金炭化物が析出したマルテンサイトとし、焼戻しの際の微細なセメンタイトの生成を抑制する。金属組織をオーステナイトとするため、加熱温度の下限を下記 (式2)から求められるAc3以上とすることが必要である。
Ac3=910−203×C1/2−15.2Ni+44.7Si
+104V+31.5Mo ・・・ (式2)
ここで、C、Ni、Si、V、Mo は、各元素の含有量[質量%]である。
焼入れ温度の上限が、Ac3+100℃を超えると、炭化物を安定に存在させることが難しくなる。したがって、焼入れ後、球状の炭化物を生成させて、焼戻し後の降伏比を低下させるためには、焼入れ温度の上限を、Ac3+100℃とすることが必要である。
焼戻し温度は、550℃を超えると、微細な炭化物が析出するため、二次硬化を起こし、降伏比が著しく上昇する。したがって、焼戻し温度は550℃以下とする。マルテンサイトを焼戻し、靭性を低下させるには、300℃以上で行うことが好ましい。
表1に示す化学成分を有する電縫鋼管を製造し、表2に示す条件で、焼入れ、焼戻し処理を行った。得られた鋼管の金属組織を光学顕微鏡で観察し、全ての鋼管の金属組織が焼戻しマルテンサイトからなることを確認した。
引張試験はJIS Z 2201のA2号試験片を用いて、JIS Z 2241に準拠して行った。シャルピー試験はJIS Z2242のVノッチシャルピー衝撃試験片を用いて、室温で行った。なお、引張試験片及びシャルピー試験片は鋼管の肉厚中心から、長手方向に平行に採取した。
結果を表2に示す。本発明の電縫鋼管は、降伏強度が800MPa以上であり、降伏比が90%以下であり、靭性にも優れている。
一方、Mo、Vを含有しない鋼L及びM、及び、Vを含有しない鋼Nは、焼戻し温度によって、降伏強度を800MPa以上にすると、降伏比が90%を超え、降伏比を90%以下に低下させると、降伏強度が800MPa未満に低下している。また、鋼Bは、化学成分は適正であるが、焼入れの加熱温度が高い製造No.35は、降伏比が90%を超え、焼戻し温度が高い製造No.36は、靭性が低下している。
Figure 0005257233
Figure 0005257233
本発明鋼は高い焼入れ性を有し、厚肉管でもマルテンサイト組織とすることが可能であり、強度及び靭性に優れ、降伏比が低いため、特に、大径かつ厚肉の電縫鋼管に適している。例えば、油井管の一種であるパーフォレーティングガン用電縫鋼管や自動車CNGシリンダー用電縫鋼管などに好適である。したがって、本発明は、産業機器製造産業において利用可能性が高いものである。

Claims (6)

  1. 質量%で、
    C:0.05〜0.25%、
    Mn:0.2〜2.0%、
    Mo:0.05〜2.0%、
    V:0.1%超〜1.0%、
    Ti:0.002〜0.05%
    を含有し、
    Si:0.5%以下、
    Al:0.10%以下、
    P:0.025%以下、
    S:0.010%以下、
    N:0.01%以下
    に制限し、残部がFe及び不可避的不純物からなり、下記(式1)によって求められるCeqが0.45以上であり、金属組織が焼戻しマルテンサイトからなることを特徴とする低降伏比高強度電縫鋼管。
    Ceq=C+Mn/6+Ni/15+(Mo+V)/5 ・・・ (式1)
    ここで、C、Mn、Ni、Mo、V は、各元素の含有量[質量%]である。
  2. 質量%で、
    B:0.0003〜0.005%
    を含有することを特徴とする請求項1に記載の低降伏比高強度電縫鋼管。
  3. 質量%で、
    Ni:2.0%以下
    を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の低降伏比高強度電縫鋼管。
  4. 質量%で、
    Nb:0.05〜0.5%
    を含有することを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の低降伏比高強度電縫鋼管。
  5. 降伏強度が800MPa以上、降伏比が90%以下、シャルピー吸収エネルギーが200J以上であることを特徴とする請求項1〜4の何れか1項に記載の低降伏比高強度電縫鋼管。
  6. 請求項1〜4の何れか1項に記載の成分組成を有する電縫鋼管を、Ac3〜Ac3+100℃に加熱し、焼入れ後、550℃以下の温度で焼戻すことを特徴とする低降伏比高強度電縫鋼管の製造方法。
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